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続折々の記 ④
【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】04/01~     外務省SDGs     肝臓のケア
森友の終末     【 05 】04/08~     【 06 】04/22~
【 07 】04/24~     【 08 】04/26~     【 09 】04/27~

【 06 】04/22

    04/22 国民を鉛の兵隊にしたのは誰だ その罪は重い
         (1) 70年で核兵器の破壊力がどれほど大きくなったか
         (2) トランプ大統領の「マッドマン」心理戦略
         (3) 「外交指南役」はキッシンジャー氏 トランプ氏の「親ロシア」への転換を実現へ
    04/23 田中宇の国際ニュース解説 世界はどう動いているか
         (1) 中国に北朝鮮核を抑止させるトランプの好戦策
         (2) トランプの見事な米中協調の北朝鮮抑止策
         (3) トランプの東アジア新秩序と日本
         (4) 混乱と転換が激しくなる世界



04/01 森友学園問題  01
04/01 敵基地攻撃能力「検討」(変わる安全保障) 01
04 02 世界の幸せな国ランキング 日本53位  01
04 01 持続可能な開発のための2030アジェンダ  02
04/05 科学研究費の削減 : 肝臓ケア  03
04 18 森友紛糾の終末 安倍政権の国民ダマシの暗黒  04
04/08 砂上の楼閣・世界の金融システム その罪は重い  05
04/06 トランプ大統領 海のものか山のものか  05
04/22 国民を鉛の兵隊にしたのは誰だ その罪は重い  06
04/23 田中宇の国際ニュース解説 世界はどう動いているか
 【01】中国に北朝鮮核を抑止させるトランプの好戦策  06
 【02】トランプの見事な米中協調の北朝鮮抑止策  06
 【03】トランプの東アジア新秩序と日本  06
 【04】混乱と転換が激しくなる世界  06
04/24 田中宇の国際ニュース解説 世界はどう動いているか
 【01】見えてきた日本の新たな姿  07
 【02】フィリピンの対米自立  07
 【03】台湾に接近し日豪亜同盟を指向する日本  07
 【04】潜水艦とともに消えた日豪亜同盟  07
 【05】日豪は太平洋の第3極になるか  07
 【06】No ceremony for Japan office in Taipei renaming  07
 【07】米国債利払い停止危機再び  07
 【08】米大統領選挙の異様さ  07
 【09】英国より国際金融システムが危機  07
 【10】欧州極右の本質  07
 【11】米大統領選と濡れ衣戦争  07
 【12】英国が火をつけた「欧米の春」  07
 【13】テロと難民でEUを困らせるトルコ  07
 【14】欧州の自立と分裂  07
 【15】欧米からロシアに寝返るトルコ  07
 【16】トランプの見事な米中協調の北朝鮮抑止策  07
 【17】トランプの東アジア新秩序と日本  07
04/26 キッシンジャー どんな人か
 【検索結果】  08
 【01】ヘンリー・キッシンジャー - Wikipedia  08
 【02】93歳の「キッシンジャー」がトランプ政権の黒幕なの?  08
 【03】「外交指南役」はキッシンジャー氏:トランプ氏の「親ロシア」への転換を実現  08
04/27 キッシンジャー どんな人か
 【04】キッシンジャー - 世界史の窓  09
 【05】ヘンリー・キッシンジャーは一体何をたくらんでいるのか?  09
 【06】悪魔を育てたキッシンジャー博士:中韓を知りすぎた男  09
 【07】世界交友録 ヘンリー・A・キッシンジャー氏|池田名誉会長の足跡  09
 【08】Amazon.co.jp: ヘンリー・キッシンジャー: 本  09
 【09】93歳のキッシンジャー氏、再び米中間の橋渡し-北京で中国要人と会談  09
 【10】米国「親中派」キッシンジャーの習近平への助言|雨のち晴れの記  09


 04 22 (土) 国民を鉛の兵隊にしたのは誰だ     その罪は重い

国という集団の権力者が電話一本で砲弾を撃ち込んで人々を死滅させ建物を破壊している。

地域や国という集団の人と人の殺し合いは大昔からあったと思われる。 それでも家族間や小さい集団の中ではそれはなかったと思う。

人の意識の中に動物が持っている集団帰属という本能に似た意識があるから、それを自己権勢を高めるためにうまく利用して闘争を繰り返したのだろう。

歴史に繰り返されてきた殺戮は、個人としては拒否されてきたのに集団帰属という集団存続の意識が殺戮を繰り返してきた。そう考えて間違いない。

ダイナマイトを発明したノーベルに始まり、核の破壊に到っては生物の壊滅を意味することになってしまった。

試みに次のデータを見れば誰でも戦慄のほかはない。


70年で核兵器の破壊力がどれほど大きくなったか  ここをクリックすると、ハフィングトンポストのURLが詳細に表示されている


広島に人類史上初めて核兵器が落とされてから、8月6日で70年。街を焼き払い、大勢の犠牲者をだした原子爆弾の威力は今も語り継がれているが、70年の間に核兵器は信じられないほどの進化を遂げている。

理由の一つは冷戦だ。アメリカとロシアの間で激しい核兵器開発競争が起こって、様々な核兵器や核爆弾が作られた。しかしそれらは強力すぎてもはや現実の戦争では使えず、兵器というよりも力を誇示するための手段として使われた。

70年で核兵器の破壊力がどれほど大きくなったかを、アーティストのマクシミリアン・ボーデ氏が作ったインフォグラフィックが、私たちに一目で理解させてくれる。

広島に投下された原子爆弾の破壊力は15キロトンだった。これに対して、アメリカ海軍の原子力潜水艦に搭載されているトライデント・ミサイルが運べる核弾頭は、平均で100キロトン前後と言われている。ちなみに、1970年代に旧ソビエト連邦が作った史上最大の水素爆弾「ツァーリ・ボンバ」の破壊力は5万キロトンだ。

インフォグラフィックは、1キロトンの爆発力を「赤い四角1つ」で表している。終わりに到達するには根気づよくスクロールし続けなければいけない。(広島原爆の3000倍余)


こんなになっているのに、人類はいまだに闘争拒否の意見をまとめることができないでいるのです。 誰のせいにすることはない、一人一人が動かなければこの姿は変わらない。




トランプ大統領の「マッドマン」心理戦略

     from 「ハフィントン・ポスト」

新潮社の会員制国際情報サイト。
投稿日: 2017年04月21日 10時34分 JST 更新: 2017年04月21日 10時34分 JST

「常軌を逸していて、予測不可能」と中国側からも恐れられていたトランプ大統領(米紙『ニューヨーク・タイムズ』)。しかし、その大統領がいま「狂気の戦略がかえって、世界に安定をもたらしたかもしれない」(米ウェブ誌『スレート』)とも評価されている。

一体、何が起きたのだろうか。

狂気の戦略とは英語でmadman theoryだが、ここでは意訳して「戦略」とした。ちなみにマティス米国防長官はmad dogと呼ばれ、日本メディアは「狂犬」と訳したが、正しくない。狂犬はrabid dogが正しい。

この戦略、トランプ大統領自身が尊敬していた故ニクソン大統領が元祖の発案者だ。トランプ氏はニクソン氏からもらった1987年当時の手紙を額に入れて大統領執務室に飾るほどのニクソン・ファン。手紙は、本文わずか5行で、「妻はあなたが選挙出馬を決めたら勝つと予想している」という他愛ない内容だった。

長文の文書を読むのが嫌いな現大統領。国家情報長官(DNI)事務所が毎日行う「大統領日報」ブリーフィングは1テーマ1ページ以内を原則に、大統領が好む写真や図表などビジュアル資料を増やす方向といわれる。

ニクソンの造語

狂気の戦略という言葉自体、ニクソン氏の造語だった。

彼が1968年の大統領選挙中、信頼する部下で、大統領就任後に首席補佐官に任命したH.R.ハルデマン氏に次のように伝えたことを記した文書が残されている。筆者の友人で米民間調査機関「国家安全保障文書館」上級アナリスト、ウィリアム・バー氏が発見した。

「彼ら(ベトナム)はニクソンが行使する軍事力の脅威を信用するだろう......私はそれを狂気の戦略と呼んでいる。私がある段階に達したら、戦争を終わらせるためになんでもするかもしれない、と北ベトナムに信じてもらいたい。......『ニクソンは怒ったら抑えられなくなる。彼はその手を核のボタンに掛けている』とね」

このように、ニクソンは何をしでかすか分からない人物だとする情報を、ベトナム側に意図的に流した。

また、ニクソン大統領とキッシンジャー補佐官はベトナム和平交渉中には、ソ連が北ベトナム側に譲歩を働きかけてくれることを期待して、核戦争が切迫しているかのように偽装して「核戦争警報」を出したこともあった。

しかし、冷静なニクソンを「マッドマン」と信じさせることはできず、こうした策略は失敗したという。

孫子の兵法も「兵とは詭道なり」と、戦争とはだます行為であるとしている。また、マキャベリも「気違いじみたふりをするのは非常に賢いことだ」と述べている。

トランプ氏の直観

だが、トランプ氏自身がニクソン氏や孫子、マキャベリから学んで狂気の戦略を実行したとは考えにくい。

恐らく彼は、テレビ番組の司会者として、人気を集める方法を身につけたとみていい。米週刊誌『タイム』3月23日号のインタビューで、彼は「私は非常に直観的な人間だが、私の直観は当たる」と述べている。自分自身で「常軌を逸していて、予測不可能」な行動を楽しんでいるようにも見える。

シリア政府軍が化学兵器を使用したとのニュース映像を見て、長女イヴァンカさんの指摘を待つまでもなく、こうした残虐行為に対して懲罰攻撃を加えれば国民の支持を得られるし、北朝鮮のような国は恐怖感を持つと、直観的に考えた可能性は十分ある。

フロリダの別荘での習近平中国国家主席との夕食会中、デザートの「これまで見たこともないきれいなチョコレートケーキ」を口にした際、シリアに59発のトマホーク・ミサイルで懲罰攻撃を加えたことを伝えた。習主席は「もう一度通訳を」と求めて事実を再確認した上で、「OK」と返答、トランプ氏は首脳会談の成功を確信したという。

この会談の直前まで、トランプ氏は中国を「為替操作国」に認定するとしていたが、会談後は為替操作国とは認めない、と180度変わった。


中国抱き込みに成功

中国もトランプ氏のペースに乗せられた感がある。

4月12日付の中国紙『環球時報』社説からそんな様子がうかがえる。「北朝鮮が近く6回目の核実験を行えば、米国の軍事行動の可能性は以前より高くなる」「核実験やICBM発射は米政府の顔をひっぱたくことになる」「北朝鮮が今月挑発的な動きをすれば、国連安保理が北朝鮮への石油輸出制限などのかつてない厳しい措置を採択することを中国社会は賛成するだろう」

環球時報は中国共産党機関紙『人民日報』傘下の新聞で、論調は党の立場と同じだ。『ロイター通信』や『ハフィントン・ポスト』は環球時報を転電し、「中国が北朝鮮への石油供給停止の用意」などと伝えた。トランプ氏は『ウォールストリート・ジャーナル』紙とのインタビューで、中国が北朝鮮問題を解決するなら、米国は貿易赤字を受け入れる価値があるとまで述べた。


軍人が大統領利用か

北朝鮮をにらんだ狂気の戦略はそれにとどまらなかった。原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島近くに移動させ、さらに通常爆弾では最大の爆発力といわれる大型爆風爆弾(MOAB)「GBU-43」をアフガニスタンのイスラム国(IS)軍事拠点に投下した。

米軍事専門家の間では、MOABより旧式で少しだけ爆発力が弱い「デイジーカッター」はベトナム戦争やイラク、アフガンでも使われている。なぜ今回MOABを使用したか、その目的は不明とされている。恐らく心理的に敵に「衝撃と畏怖(shock and awe)を与える狙い」(ジェフリー・ルイス・ミドルベリー国際問題研究所研究員)とみられている。

明らかに北朝鮮に対して狂気の戦略で圧力を加える作戦の一環のようだ。ベトナム戦争の歴史的研究で博士号を取得したH.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)や学究肌のジム・マティス国防長官ら政権内の一大勢力となっている軍人の俊英が、大統領の性格や特性を利用して狂気の戦略を意識的に展開しているのかもしれない。


北朝鮮の体制変更せず

だが、こうした圧力を受けて、北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を自制するかどうかがポイントだ。既にトランプ大統領の成果として「称賛に値する」(『ワシントン・ポスト』紙電子版4月12日付)との報道もあるが、まだ危機は回避されていない。

そんな中、米メディアが14日一斉に、国家安全保障会議(NSC)が新しい北朝鮮戦略を決定したと伝えた。その内容は、(1)北朝鮮が核廃棄に向けて交渉に戻るよう、最大限の圧力を加えるが、(2)体制変更を目指さない――ことを骨子としているという。

恐らく、過去2カ月間にわたったNSCの議論を「国家安全保障大統領メモ(NSPM)」の形でまとめ、主要メディアを招いてブリーフィングした、とみられる。北朝鮮は体制維持が最重要課題なので、NSC決定のこの部分は評価するだろう。しかし、核廃棄には抵抗する。従ってこの戦略遂行には巧みな外交が必要となる。さらに、北朝鮮に関するインテリジェンスも不足している。

トランプ政権が政権発足1週間後の1月27日付で発表したNSPM1は、「力を通じた平和の追求」としている。トランプ政権は軍備増強はするが、国務省予算は30%以上カットする構え。しかしこれで、未だ人員が揃わない国務省の外交力に頼ることができるだろうか。

春名幹男
1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。

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  (2017年4月20日フォーサイトより転載)


   「外交指南役」はキッシンジャー氏
      トランプ氏の「親ロシア」への転換を実現へ


     from 「ハフィントン・ポスト」

投稿日: 2017年01月21日 12時45分 JST 更新: 2017年01月21日 12時45分 JST

   角栄以降舞台裏のキッシンジャーの動き(下平記)


安倍晋三首相がトランプタワーにドナルド・トランプ次期大統領(70)を訪ねた昨年11月17日。まさにその日その場所で、外交の大御所、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官(93)がトランプ氏と会談していたことはあまり知られていない。

実は、キッシンジャー氏はトランプ政権の外交指南役として、旧知の次期大統領に外交の基本戦略を説いていたのだった。

それだけではない。キッシンジャー氏は別に、マイケル・フリン次期大統領補佐官(国家安全保障問題担当=58=)と、合計数時間にわたって外交論議を重ねてきた。

さらに、自分のスタッフだったK・T・マクファーランド氏(65)を副補佐官(同)としてホワイトハウスに送り込んだ。またトランプ氏に対して、レックス・ティラーソン前エクソンモービル会長(64)を国務長官に、と推薦していた。まさに、キッシンジャー氏が次期政権の外交の後ろ盾となっていたのだ。



   ニクソン訪中時の真意


トランプ氏が外交の素人だけに、キッシンジャー氏は90代の高齢ながら、持論を実現させる好機だとにらんだようだ。

その持論とは、アメリカ外交の軸を親ロへと転換すること。つまり、トランプ氏自身の親ロ路線を実現する処方箋をキッシンジャー氏が授けるということのようだ。

親中派とされたキッシンジャー氏が? と怪訝に思われるかもしれない。しかし、45年前の1972年2月、キッシンジャー氏がニクソン大統領と訪中して米国の親中路線を演出し、毛沢東主席や周恩来首相の前で見せた笑顔は、実は仮面だった。

あの訪中の1週間前、2月14日にホワイトハウスでキッシンジャー氏はニクソン氏にこう説いた。

ある歴史的期間、中国人はロシア人よりも恐ろしい、と私は思う。20年以内に、あなたの後継大統領があなたほど賢明であれば、ロシア(ソ連)寄りとなって中国と対立することになる。向こう15年間はわれわれは中国寄りとなりロシア(ソ連)と対立する。われわれはこの力の均衡のゲームを全く感情を交えず演じなければならない。今は中国人にロシア人をしつけさせる必要がある

  公開された国務省文書にはこんなキッシンジャー氏の真意が記されていた。

キッシンジャー氏はその後も中国を弁護し続けてきたかのように見えた。しかし、冷戦終結後のクリントン、ブッシュ(子)、オバマの3大統領の24年間で、米国は中ロ両大国を同時に敵に回す事態に陥った。中ロは手を組み米国の地位を揺るがすに至った。特に中国は南シナ海を「聖域化」し、内海のように扱うほど乱暴になったのである。

他方、核大国ロシアの経済は低迷し、その国内総生産(GDP)は韓国より下の12位に転落、中国の「ジュニアパートナー」のような存在になった。今こそ、45年前に誓った転換を実現すべき時だ、とキッシンジャー氏は考えたのではないか。



   トランプ氏をかばうキッシンジャー氏


トランプ氏が次期国務長官に親ロ派のティラーソン氏を指名し、批判されたが、キッシンジャー氏はCBSテレビで「トランプ氏は何か非凡なことを成し遂げる」と期待感を示した。さらに、トランプ氏が台湾の蔡英文総統と電話会談したときも、トランプ氏は中国は1つとの原則を維持することには「楽観的だ」と不安感の一掃に努めた。

しかし、中国と手を結ぶロシアを切り離すため、米国はロシアに何を与えるのだろうか。

ドイツ紙「ビルト」は昨年末に、ウクライナ問題が米ロ接近のカギになると報じている。それによると、「ロシアは特殊部隊が展開していると伝えられるウクライナ東部の安全を保障し、その代わりに西側はクリミア問題に干渉しない」という解決方式が検討されている、というのだ。

キッシンジャー氏のコンサルタント事務所「キッシンジャー・アソシエイツ」の常務理事、トーマス・グレアム元国家安全保障会議(NSC)ロシア担当上級部長はこうした妥協策を「クリミア・コンセンサス」と呼んでいる。

キッシンジャー氏自身、ウクライナは「架け橋」だとして、東西両陣営が互いにウクライナへの干渉を避けるよう提案してきた。

トランプ政権がロシア側に対して、どんな具体的提案をするにしても、ロシアのクリミア併合に伴う対ロ制裁の解除が必要になるだろう。また、中国がトランプ政権の新外交戦略を強く警戒するのは必至だ。


   「インテリジェンス」で意気投合


しかし、キッシンジャー氏なら、中国の習近平国家主席ともロシアのプーチン大統領とも腹を割った会談ができる。 プーチン氏がキッシンジャー氏と最初に会った際、「私はインテリジェンスで働いてきた」とプーチン氏が言うと、キッシンジャー氏は自分が欧州戦線で情報兵として参戦したことを挙げ、「立派な人間はみんなインテリジェンスから始める」と答えて、意気投合したという。このコンビの助力でトランプ政権は外交で事態を打開できるだろうか。


春名幹男
1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授を経て、現在、早稲田大学客員教授。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『スパイはなんでも知っている』(新潮社)などがある。

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【2017年4月23日】
田中宇の国際ニュース解説
世界はどう動いているか


     ① ◆中国に北朝鮮核を抑止させるトランプの好戦策 4/14
     ② ◇トランプの見事な米中協調の北朝鮮抑止策 4/16
     ③ ◆トランプの東アジア新秩序と日本 4/18
     ④ ◆混乱と転換が激しくなる世界 4/22

◆中国に北朝鮮核を抑止させるトランプの好戦策
 【2017年4月14日】
 トランプは北朝鮮に対し、非現実的に好戦的な態度をとっている。それは、中国に北を抑止させるためだ。トランプは習近平に対し、北核問題の解決策として馬鹿げた軍事的な好戦策しか示さず、その好戦策が北の核開発に拍車をかけている。習近平は、米国に頼れず、中国主導で北を威圧・制裁・説得して核開発をやめさせるしかない。

◇トランプの見事な米中協調の北朝鮮抑止策
 【2017年4月16日】
 今回初めて米国は、中国を誘い、米中協調で北に最大の圧力をかけ、北に言うことを聞かせる策をとった。4月6の米中首脳会談の意味は、トランプがその策を一緒にやろうと習近平を説得することだった。習近平はトランプの誘いに乗り、米中が協調して北に圧力をかける初の作戦が展開され、その結果、北は4月15日の核実験を見送った。

◆トランプの東アジア新秩序と日本
 【2017年4月18日】
 北核問題を好機としてトランプが作った米中協調体制は、アジアの多極化を加速する。日本や豪州が何もしなければ、中国は「日豪亜同盟」の予定海域をすべて影響圏として併呑し、米国圏と中国圏が隣接する世界構造にする。その場合、日本や豪州は国際的に窒息させられ、影響力が低下し、今よりもっと台頭する中国に、好き勝手にしてやられる。対米従属一本槍は、日本や豪州にとって、自滅的、売国奴的な戦略になっている。中国と敵対するのでなく、こちら側も海洋アジア諸国で結束したうえで、中国と仲良くするのがよい。

◆混乱と転換が激しくなる世界
 【2017年4月22日】
 4月23-29日には、世界的に3つの大事件が起こるかもしれない。一つは4月23日、フランス大統領選挙の一回目の投票。2つ目は、北朝鮮が4月25日に核実験するかもしれないこと。3つ目は、4月28日までに米国政府の暫定予算が連邦議会を通過できない場合、29日から米政府の一部が閉鎖されることだ。3つの問題はいずれも、米国の覇権失墜と多極化を加速する。

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◆中国に北朝鮮核を抑止させるトランプの好戦策


2017年4月14日   田中 宇

 北朝鮮と米国が一触即発風の軍事対立を演じている。北は、金日成生誕105周年の4月15日に6回目の核実験をやりそうだという。衛星写真解析によると、核実験場で忙しく準備が進んでいる。一方、米トランプ大統領は、北朝鮮沖に空母を差し向け、オサマビンラディンを「殺害」した米海軍特殊部隊(SEAL6部隊)に韓国で金正恩殺害の訓練をさせていると報じられている。今にも米朝が戦争しそうな感じが醸成されている。 (N. Korea Nuclear Test Could Come Saturday or Sooner, Sources Say) (US Delta Force, SEAL Team 6 Prepare To Take Out Kim Jong-Un, Practice Tactical North Korea "Infiltration") (U.S. Navy SEALs to take part in joint drills in S. Korea)

 だが、これまでの事態の推移をよく見ていくと、この一触即発感は、米朝双方が別々の意図に基づいて演じているもので、米朝間の実際の戦闘になりにくい。北は軍事が米国よりずっと弱いので、自分の方から手を出さない。戦闘になるなら、米国の先制攻撃で始まる。だが、先制攻撃の前に韓国政府の了承が必要だ。米国が北を攻撃すると、北が報復としてソウルを攻撃し、下手をするとソウルが壊滅する(日本の嫌韓屋は大喜び)。韓国政府は、米国の先制攻撃案に猛反対する。5月9日の韓国の大統領選挙で反米左翼・容共的な文在寅(ムンジェイン)が勝った場合は、その傾向に拍車がかかる。だから米朝は開戦しにくい。 (South Korea Reacts to Trump’s North Korea Moves) (No war will break out unless US strikes North Korea: Analyst)

 トランプは、軍人出身の側近らに命じて、北朝鮮に核開発をやめさせるための3つの作戦案を作った。(1)80年代に撤去した米軍の核兵器を韓国に戻し、北を威嚇する。(2)米軍特殊部隊を北に潜入させ金正恩を殺す。(3)特殊部隊を潜入させ核兵器や核開発施設を破壊する、の3つだ。このうち(1)は無意味だ。米軍の輸送力が向上したため、核兵器は、韓国に戻さずグアムやハワイに置いたままでも抑止力としての機能が同じだ(だから80年代に韓国から撤去した)。北は米国の核の存在など無視して(むしろ米国の核があるから対抗して)核兵器を開発している。米国が核を韓国に移すと、北は対抗して核開発を急ぐので逆効果だ。 (White House Options on North Korea Include Use of Military Force) (Want to Open the Ultimate Pandora's Box? Bomb North Korea)

 (2)(3)は実行不可能だ。強度な監視社会である北朝鮮は、潜入してきた米特殊部隊をすぐに見つけ、殺害する。オサマビンラディンは、米軍が自由に出入りできるパキスタンにいた。防御が堅い北の金正恩と全く状況が違う(11年5月のオサマ殺害話そのものが人違い・歪曲話だった可能性が高いが)。3つの案は、報じられる「話」としての好戦性が非常に高いだけで、現実的には馬鹿げた与太話ばかりだ。米国がこんな馬鹿話を発表するので、北は「好戦的な米国の脅威に対抗するため、核兵器や弾道ミサイルの開発が必要だ」と言い、核やミサイルの開発に拍車をかけている。トランプは、北の核の脅威をあおっている。 (Trump Puts Bombing North Korea On The ‘Back Burner') (North Korea Says "Loud-Mouthed" Trump's "Reckless" Syria Bombings Justify Their Nuclear Program) (ビンラディン殺害の意味)

 トランプが北に対して非現実的に好戦的な態度をとっているのは、中国に北を抑止させるためだ。上記のトランプの3点の対北戦略は「中国が外交的なやり方で北にいうことを聞かせるのに失敗した場合、米国はこれらをやる」というものだ。トランプは4月6日の米中首脳会談で、習近平にそう提示している。トランプが、北核問題の解決策として馬鹿げた軍事的な好戦策しか示さず、その好戦策が北の核開発に拍車をかけているのだから、習近平は、米国に頼れず、中国主導で北を威圧・制裁・説得して核開発をやめさせるしかない。 (Trump Issues New Warning to North Korea) (US carrier’s Korea mission: a message to the world)

▼融和と敵対という両極端の間で突然の転換をするトランプと北朝鮮は、似た者同士の好敵手

 北の核の脅威を軍事的なやり方で除去するのはもう無理だ。北の核の脅威を除去したければ、北と対話し、条件交渉によって核開発をやめさせるしかない。軍産も昨年来、それを認めている。トランプは、中国に、この交渉を主導させたい(オバマやブッシュもそうだった)。米国自身は、できるだけ北と交渉したくない。だが、北は、中国でなく米国と交渉したい。米国が北を許さない限り、北は国際社会で容認されないからだ。中国も、米国が北と対話して核開発を抑止してほしい。中国が北を抑止しても、米国が北に敵視したままでは、むしろ軍事的に中国にマイナスになる。 (いずれ始まる米朝対話) (US Sends Aircraft Carrier Toward North Korea "In Response to Recent Provocations")

 北は、米国が北を敵視するのをやめ、米韓軍事演習など北敵視の策を全部やめ、作った核兵器の(一部)保有を黙認してくれるなら、核開発をやめてもいいと考えている。この和平策だと、米朝、南北が和解するので、朝鮮戦争が65年ぶりに終結し、在韓米軍の撤退が必要になる。軍産は、それがいやなので、この和平策の進展を拒んできた。この和平策の案はオバマ政権下で出されたが、何も具体化しなかった。 (北朝鮮に核保有を許す米中)

 トランプも当初、選挙戦中に「金正恩と話し合いたい」と表明し、米朝対話に前向きだった。だが、大統領に就任してまもなく、ロシアとの和解策をスキャンダルや歪曲報道で潰され、軍産の抵抗が異様に強いことを思い知った。そのためトランプは、2月末に予定されていた米朝の非公式対話をドタキャンし、それ以降、それまでと正反対に、軍産も尻込みするほどの過激な好戦策を北に対してとり始め「中国が早く北に影響力を行使して核開発をやめさせないと、米国が北を先制攻撃するぞ。韓国に核兵器や迎撃ミサイル(THAAD)を配備するぞ」と言い出した。 (軍産に勝てないが粘り腰のトランプ)

 韓国では5月9日の大統領選挙で反米左翼の文在寅が当選しそうだ。文在寅政権は、中国が北に核開発をやめさせる策に協力し、北が核開発をやめるなら、韓国が北に融和的な姿勢をとり、南北和解や経済支援(北を儲けさす開城工業団地や、韓国から北朝鮮への観光などの再開、太陽政策の復活)をやり始めるだろう。今後、中国と韓国は協調して、北に対して飴と鞭の政策をとり、中国が北に「核施設を廃棄しろ」と迫り、韓国が「核廃棄したら仲良くしてあげます」と提案する展開になりそうだ。今は好戦姿勢一辺倒の北朝鮮も、文在寅政権ができたら、南北対話の姿勢に転換しそうだという予測をロイター通信が紹介している。トランプは、融和と敵対という両極端の戦略の間で突然の転換をする人だが、北の独裁政府も、突然の戦略転換が建国以来の伝統芸能だ。トランプと北朝鮮は、似た者同士の好敵手だ。 (Is North Korea putting a nuclear-tipped bargaining chip on the table?) (Four Ways President Trump Could Take Charge of the North Korea Debacle)

 トランプと北の好敵手ぶりは、ミサイル発射で驚かせようとする点でも似ている。北は、2月の日本の安倍首相の訪米時と、4月の習近平の訪米直前に「我が国を潰そうとする談合をする奴らは、これでもくらえ」とばかり、ミサイルを発射している。一方、トランプは4月6日、習近平との会談の最中に、シリアをミサイル攻撃した。トランプは、習近平との晩餐会に入る直前にミサイル発射の命令に署名し、デザートを食べている時に習近平にシリアを攻撃したと話した。その意図は「オレは今後、シリアだけでなく北に対しても、軍事攻撃による強硬策しかやらない。オレに北をミサイル攻撃してほしくなければ、近平よ、お前が北にいうことを聞かせるしかないぞ。お前が努力しないと、米朝が戦争になるぞ」と示唆し、北を抑止することに向け、習近平の尻をたたくことだ。 (US Intel Chiefs Urge Trump to Assassinate Kim, Other North Korea Leaders) (Trump told Xi of Syria strikes over 'beautiful piece of chocolate cake')

▼北の危機を利用して米中協調。人間関係をテレビドラマに仕立ててきたトランプならではの見事さ

 ティラーソン国務長官によると、習近平はトランプとの首脳会談で、米国が北朝鮮沖に空母を派遣して威嚇することに同意した。中国は、それまでの米国の好戦策や米韓軍事演習を批判して北を擁護する立場から、米国の好戦策に同調して北を批判する立場に転換したことになる。これは画期的だ。2月中旬、北が金正男を暗殺した直後に、中国が、国連の北制裁決議にそって、初めて北からの石炭輸入を禁止したことと並ぶ、中国の画期的転換だ。 (Tillerson: China agrees on 'action' on North Korea as navy strike group sails)

 トランプは「中国が北に核開発をやめさせられないなら米国が北を先制攻撃する」と言い続ける一方で「もし中国がうまいこと北に核開発をやめさせられたら、米国は中国が喜ぶ、貿易赤字を問題にしない貿易関係を結んでやる」と言っている。トランプは、習近平が訪米から帰国した後、選挙公約だった「中国に対し、人民元の対ドル為替を不正操作しているというレッテルを貼る」政策を放棄し「中国は為替を不正操作していない」と宣言した。 (Trump just announced he’s betraying his biggest campaign promise on China)

 トランプは「習近平と、とても良い友人関係を作った。私たちは互いに大好きになった。15分の予定だった会談が、気づいたら3時間になっていた」とも(演技で)言っている(加えて、対称性を示すかのように「プーチンとは仲良くない。会ったことがないので、どんな人かよく知らない」と述べ、軍産マスゴミからかけられている「トランプはロシアのスパイだ」という濡れ衣を解こうとした)。トランプは表向き、中国が嫌う好戦策を最大限にとりながら、その一方で、実質的に、72年のニクソン訪中以来の劇的さで、米中の首脳どうしの関係を好転させている。人間関係をドラマにしてテレビ番組を作ってきたトランプならではの見事さだ。 (Trump and Xi: Tensions Turn to Friendship)

 トランプに尻をたたかれた習近平は、北に対する圧力を強めている。2月に中国政府が北からの石炭輸入を止める制裁を発令した後も、北は、中国の民間商人と組み、船を仕立てて石炭を密輸出し続けているが、米中首脳会談の後、中国政府は北からの石炭密輸入への取り締まりを強化した。中国への石炭輸出は、北の最大の現金収入だ。 (中国の協力で北朝鮮との交渉に入るトランプ)

 4月7日には、中国共産党の機関紙である人民日報傘下の環球時報が「北が核兵器開発をやめないので、米国が北と戦争しそうで、それが中国北部の安定を脅かしている。北の核開発は、中国の脅威になっている。しかも北は、核開発をやめろと求める中国を敵視している。北は、中国が容認できる一線を越えている。中国は、北を制裁せざるを得ない。中国は、鴨緑江(中朝国境)の対岸に敵対的な国ができるのを容認できない」と、北に対する経済制裁や政権転覆を示唆する記事(社説)を掲載した。この記事は数時間後にネット上から削除されたが、北への警告となっている。 (Commentary: China’s bottom line on DPRK nuclear issue - Google cache) (China Warns North Korea Situation Has Hit "Tipping Point", Threatens "Never Before Seen" Measures) (China Threatens To Bomb North Korea's Nuclear Facilities If It Crosses Beijing's "Bottom Line")

 これと前後して、中国軍が15万人の兵力を中朝国境沿いに展開していると報じられている。また中国政府は、朝鮮半島問題の特使を韓国に派遣し、北が核兵器やミサイルの開発をやめない場合、中韓が連携して北を制裁していくことを話し合っている。 (China, South Korea discuss more sanctions on North Korea amid talk of Trump action) (South Korean Paper Reports China Has Deployed 150,000 Troops To North Korea Border)

▼文在寅政権ができた後、北核問題が進展すると性懲りもなく予測

 北の貿易の9割は、中国との売買だ。特に、北は食料と燃料(石油)の多くを中国からの輸入に依存している。中国が北を本気で経済制裁したら、北の経済は破綻する。中国は、北の生殺与奪の権を握っている。「北の手綱を握るのは中国だから、北の核開発をやめさせるのは中国にやらせるしかない」というトランプの見方は、半分当たっている。しかし、残りの半分は当たっていない。中国が北を経済制裁して北が国家崩壊していくと、北の政権は持っている兵器を使って韓国や中国を脅し始めるし、大量の難民が北から中国に流入し、中国北部が不安定化する。この展開は、中国にとって非常に危険だ。 (Trump and Xi have joint responsibility in N Korea)

 だから、中国はこれまで、米国が望むような一線を越えた北制裁をやってこなかった。北も中国のジレンマを見透かし、中国の反対や警告を無視して核開発を進めてきた。だが今回、トランプの策により、中国は一線を越えた北制裁をやりそうな感じになっている。中国が、どこまで北制裁をやれるか、北に対してどんな警告と説得を裏でやっているのか、中国と北との外交は昔から全く非公開な対話ルートで行われているのでわからない。今後、いつまでたっても北は核開発をやめないかもしれない。5月に韓国に新政権ができ、新たな対北政策を始めた後も、北の挙動が変わらないなら、トランプがけしかけた中国の北に対する手綱の引き締めは失敗した感じが強まる。 (北朝鮮の政権維持と核廃棄)

 トランプは4月12日、米WSJ紙に対し「私は、中国が北に対して決定的な影響力を持っていると思っていたが、習近平と話して、それが間違いだとわかった。北に核開発をやめさせるのは簡単でないとわかった」と述べている。この発言は「だから、私は中国が短期間で北を抑止できなくても、中国は失敗したと言って北を軍事攻撃したりしない」という意味なのか、それとも「中国に任せるのは無理だから、早めに北を軍事攻撃する」という示唆なのかわからない、という議論を呼んでいる。私は、前者だろうと考えている。トランプの好戦策は、軍産を黙らせつつ中国に任せるための策であり、米軍が直接に北に対する軍事行動をやることはない。 (Trump Says He Offered China Better Trade Terms in Exchange for Help on North Korea) (Trump Admits China-North Korea Relations More Complicated Than He Thought)

 4月9日、テレビ出演したティラーソン国務長官が「北朝鮮の政権転覆は、米国の目標でない」と発言した。この発言も、北を宥和して中国の言うことを聞かせようとする策に見える。(ティラーソンは3月中旬に中国訪問した際、米中共同記者会見で「北に核開発をやめさせるには、武力による政権転覆をやるしかない」と宣言し、中国側と対立したのだが) (Tillerson Dismisses North Korea `Regime Change' as Warships Move) (KRN China Pushes Back on U.S. Talk of ‘All Options’ Over North Korea)

 北朝鮮情勢に対する私の予測は、楽観的すぎるので、昔からよく外れる。私は、軍産の力を過小評価してきた。だが私は今回も、性懲りもなく、5月に韓国で文在寅政権ができた後、北核問題が進展するのでないかと予測している。北は最近、韓国の民衆や労組に対し、一緒に好戦的な米国と戦おうと呼びかけている。文在寅ら韓国の反米左翼は容共的で、米国によるTHAADや核兵器の韓国配備に強く反対している。事態は、北にとってかなり有利だ。北は、核開発をやめると言えば、韓国をもっと反米容共(親北、親中)の方向に引っ張れる。中国と北と、韓国の左翼が手を組んで、在韓米軍や軍産を韓国から追い出す好機だ。 (North Korea Implores South Koreans to Join ‘Anti-War’ Campaign Against US) (Tillerson’s Asia Visit: Could US Change Stance on N. Korea Even If It Wanted To?) (東アジアの脅威移転と在日米軍撤収)

 トランプは、軍産の傀儡に転じたふりをした隠れ多極主義者(米覇権放棄主義者)だから、韓国に左翼政権ができ、米国に出て行けと要求したら、表向きは馬鹿野郎と叫びつつ、内心やったぜと思って、在韓米軍を表向きしぶしぶ、内心嬉々として撤退させる。北は、今後の核兵器開発を放棄するだけで、すでに作った核兵器の大半を隠し持ったまま、在韓米軍の撤退と、国際社会への復帰と、韓国に対する政治影響力の行使を実現できる。北は、このおいしい話に乗るだろうというのが私の予測だ。 (How To End the Korean War by Justin Raimondo)

 この話には、おいしくない面や不確定要素もある。北は、米韓と和解して国際緊張が解けると、国内の戦時体制が終わり、国民の不満が政府に向き始め、政権の維持が難しくなる。この点を重視するなら、北は、トランプと中国と文在寅が織りなす今後の話に乗ってこないかもしれない。また、韓国では日本同様、対米従属的な軍産傀儡の影響力が非常に強く、文在寅が大統領になっても、思ったような政策をやれないかもしれない。逮捕された前大統領の朴槿恵も、対北和解をやりたかったのに、全くやれなかった。これらの要素が大きいと、私の予測は今回も外れる。




◇トランプの見事な米中協調の北朝鮮抑止策


2017年4月16日   田中 宇

 この記事は「中国に北朝鮮核を抑止させるトランプの好戦策」(有料記事)の続きです。

 北朝鮮が6回目の核実験をやると予測されていた、金日成生誕105周年記念日の4月15日が、ほとんど何事もなく終わった。北はこの日、誕生日の祝賀にミサイル発射実験をしたが失敗した。米国と中国は、北が核実験をしたら軍事制裁も辞さずとの姿勢を表明していた。北が挙行したのは、核実験よりもずっと世界から黙認されやすいミサイル試射だけだった。北は、事前に核実験をする準備を進めたが、最もやりそうな15日に実行しなかった。これから実行する可能性もあるが、このまま核実験をやらない場合、北は、前代未聞な米中協調による強い中止要請に従ったことになる。 (North Korean Missile Launch Fails 'Almost Immediately') (N.Korea 'Finishes Preparations for Another Nuke Test')

 北が15日の核実験を見送るのとほぼ同時に、米トランプ政権が「米国の目標は、北の政権転覆でない。目標は、北の最大の貿易相手国である中国の助けを借り、北に最大の圧力をかけることで、6か国協議に北が参加するように仕向け、核開発をやめさせることだ」と表明(リーク)した。米国の世界戦略を決める大統領配下のNSC(安保会議)が4月に入り、軍事攻撃や政権転覆から核保有国として容認までの、強硬策から融和策までのさまざまな対北戦略の実現性を検討した結果、政権転覆にこだわらず、圧力は最大限にかけるものの、北が核兵器開発をやめる気になった場合は、融和策をとることに決めたという。 (Trump’s North Korea policy is ‘maximum pressure’ but not ‘regime change’) (Trump strategy on NKorea: 'Maximum pressure and engagement')

 1月末のトランプ政権誕生以来、NSCでは、米国第一主義(反覇権主義)のスティーブ・バノンと、国際主義(米単独覇権主義、軍産複合体)のハーバート・マクマスターらが対立を深め、4月5日にバノンがNSCから外されて軍産が勝ったことになっている。軍産はイラク侵攻以来「軍事解決」を好み、北に対しても先制攻撃や政権転覆をやりたいはずだ。だが、実際に彼らがバノンを追い出した後に策定した対北戦略からは、先制攻撃や政権転覆が外されていた。 (軍産複合体と正攻法で戦うのをやめたトランプのシリア攻撃) (Let's stop calling North Korea 'crazy' and understand their moties)

 米軍の上層部は「北が核実験やミサイル発射をしても、それに対する報復として軍事攻撃をやるつもりはない」と述べている。つい数日前まで、米政府は「北核問題の解決は、先制攻撃か政権転覆しかない」と言っていた。マスコミもここ数日、トランプが北の政権や核施設を軍事で潰すに違いないと喧伝した(日本の対米従属論者たちは、いよいよかと喜んだ)が、緊張が山場を越えたとたん、トランプ政権は、好戦性と正反対の融和的な戦略を発し始めた。これは、北に対する提案にもなっている。今後、北が再び強硬姿勢をとるなら、米国側も強硬姿勢に戻るが、米国が実際に北にミサイルを撃ち込んだり、キムジョンウンを暗殺するための米軍特殊部隊を北に潜入させることはなさそうだ。 (Trump strategy on North Korea: 'Maximum pressure and engagement') (Why a Limited Strike on North Korea Could Escalate)

▼史上初めて米中協調で北朝鮮に圧力をかけた

 トランプの新たな対北戦略のもうひとつの特長は、初の「米中協調」になっていることだ。北核問題に対する米国戦略は、90年代のビルクリントン時代が、米日韓で北を融和する(北が核兵器開発をやめたら日韓が軽水炉を作ってやる)策で、911後に大転換し、01年以降は「米国は北を軍事威嚇するだけ。北核問題の外交的な解決は中国にやらせる」という戦略をとり続けてきた。中国は、この戦略に乗って失敗すると北とぐるとみなされ米国に敵視されかねないので消極的だった。 (The US & China: Why The Sudden Conergence On North Korea?)

 今回初めて米国は、中国を誘い、米中協調で北に最大の圧力をかけ、北に言うことを聞かせようとする策をとった。4月6日にフロリダで行われた米中首脳会談の意味は、トランプがその策を一緒にやろうと習近平を説得することだった。トランプは、晩餐会で習近平と一緒に夕食をとっている最中に、米軍に命じてシリアにミサイルを撃ち込ませ、中国が協力しないなら米国だけで北を攻撃する策に転じるぞと示唆した。習近平はトランプの誘いに乗り、史上初めての、米中が協調して北に圧力をかける作戦が展開され、その結果、北は4月15日の核実験を見送った。 (China is suddenly leaning on North Korea) (North Korea Threat Heats Up, but South Koreans Keep Their Cool)

 4月7日には、中国共産党機関紙人民日報の傘下にある環球時報のウェブサイトが「北朝鮮が核実験するつもりなら、中国軍が米国より先に、北の核施設を先制攻撃することがありうる。北と米国が戦争すると、中国北部が一線を越えて不安定になる。中国はそれを容認できない。北の核兵器は、米中と渡り合うためのカードであり、中国が北の核施設を先制攻撃で破壊すると、北はカードを失い、反撃すらしてこないだろう。北は、核施設の破壊を自国民に知られたくないので、破壊されたこと自体を隠すかもしれない(だから、中国による北核施設の先制攻撃は、見た目より簡単に成功する。やっちまえ)」という趣旨の論文を掲載した。この論文は数時間後に削除されたが、中国政府筋が北核施設の先制攻撃を過激に提唱したのは、これがほとんど初めてだった。 (China’s bottom line on DPRK nuclear issue - Google cache) (Beijing warns a ‘storm is about to break’ as tensions mount oer N Korea)

 これまで中国は、米朝戦争の再発や北の国家崩壊、難民流出、北政権の暴走を恐れ、北との関係を悪化させる軍事強硬策や経済制裁の発動を避けてきた。だが、そうした中国の自制は最近、急速に薄れている。中国は、北への経済制裁を少しずつ強めている。その一方で中国は、北が核兵器開発を中止し、米韓が合同軍事演習(北敵視)をやめる交換条件で和解策を提案し続けている。 (Why North Korea Needs Nukes - And How To End That)

 トランプ政権が最近策定した前出の対北融和策も、実現するなら中国提案と矛盾しないものになる。トランプと習近平は、北が核開発をやめない場合の強硬姿勢と、やめた場合の融和策の両面で協調している。これに加えて5月9日の韓国大統領選挙でムンジェインが勝つと、米中韓の対北戦略が初めて共振(シンクロ)していきそうだ。あとは北が共振してくるかどうかになる。

▼トランプの過激にやって軍産を振り落とす策に協力する中国

 トランプが北核問題を融和的に解決するには、今回のようにいったん思い切り強硬姿勢をとらず、単に「北が核開発をやめたら、米韓が軍事演習をやめる」という中国の提案に乗ればいいだけだった。北も中国提案に対して乗り気だった。トランプが中国提案に乗らなかったのは、米政権を911以来ずっと牛耳ってきた軍産が、在韓米軍の撤退・アジアでの米覇権低下につながる北との和解に猛反対してきたからだ。軍産は北朝鮮に対してだけでなく、ロシアやシリアやイランに対しても和解策を全力で阻止してきた(だからオバマは平和主義者なのに好戦策をやらされた)。 (軍産複合体と闘うオバマ) (中国の協力で北朝鮮との交渉に入るトランプ)

 トランプは、選挙戦中から、NATO廃止や在日在韓米軍撤収など、軍産に楯突くことばかり言っていた。トランプの軍産敵視戦略を中心的に練ってきたのがバノンだった。大統領就任後、トランプは正攻法で軍産を潰そうとしたが、人類を洗脳するマスコミから、世界情勢把握のために必須な諜報機関、米国の軍部、米議会の上下院まで握っている軍産は非常に手強く、トランプ政権はロシアのスパイの濡れ衣を着せられ、次々と出す政策がマスコミに酷評中傷され、財政政策も議会を通過できず、四苦八苦させられている。 (軍産に勝てないが粘り腰のトランプ)

 そのためトランプは、4月に入って新たな大芝居を演じ始めた。有力な側近であるジャレット・クシュナー(シオニストのユダヤ人)を、米国第一主義のバノンと激しく対立する国際主義者としてでっち上げ、バノンとクシュナーの戦いが激化し、軍産がクシュナーに加勢してバノンがNSCから外されて無力化され、トランプもバノンの戦略を捨てて軍産の傀儡へと大転換したことにして、4月6日にミサイルをシリアに撃ち込み、プーチンと和解する試みも放棄してロシア敵視を加速し、北朝鮮に対しても先制攻撃や政権転覆に言及し、融和策を捨てたかのように振る舞い始めた。 (Trump's turnaround - real, or optics?)

 軍産の目標は、軍事を活用した覇権維持だ。ロシア中国イランといった非米反米諸国とのとろ火の恒久対立を希求する半面、勝敗を決してしまう本格的な世界大戦を望んでいない。トランプが突然やりだした過激策は、軍産のとろ火の戦争から一線を越えてしまうもので、トランプの過激策に対し、好戦策を扇動するマスコミはこぞってトランプを賞賛し始めた。しかし、軍産はむしろトランプを止めに入った。トランプが対北過激策へと動き出したのは、バノンがNSCから外される前の3月中ごろからだが、このころから米マスコミに、トランプは北に融和策をやった方がいいと主張する論文がよく載るようになった。 (核ミサイルで米国を狙う北朝鮮をテコに政治するトランプ)

 トランプは、異様な好戦策をやり出し、軍産が止めに入ると、それではという感じで習近平を米国に呼び、米中協調で北を威嚇しつつ、北が核開発をやめたら融和してやる策を開始した。トランプは、米国の戦略をいったん好戦策の方に思い切り引っ張った後、当初やりたかった米中協調の融和策を実現しようとしている。 (Trump Walks Into Syria Trap Via Fake ‘Intelligence’. by Justin Raimondo)

 同様のことは、シリアをめぐっても起きている。シリアに関しては、軍産の諜報機関がトランプに「北シリアのイドリブ近郊で、アサドの政府軍が化学兵器で村人を殺した」というウソの諜報を提示した(実際の犯人はアルカイダ)。トランプは、ウソと知りつつその諜報を信じる演技をやり、アサドには頭にきたと言って本気で怒るふりをして、ミサイルでシリアの基地を攻撃した。しかし、いずれ攻撃の根拠になったイドリブでの化学兵器攻撃の犯人がアサドの軍でなくアルカイダであることが露呈していく。軍産がウソの諜報を故意に流してトランプを信じこませたことがバレていき、軍産が無力化されていく・・・。 (New Reelations Belie Trump Claims on Syria Chemical Attack by Gareth Porter) (Russia claims there is 'growing eidence' that Syria sarin gas attack was staged as they blast weapons watchdog for not sending experts to the site)

・・・と、このように展開するかどうか、まだわからないが、トランプが軍産の傀儡になったふりをして軍産を潰そうとしている可能性は高い。バノンを倒した軍産傀儡のシオニスト、のはずのクシュナーが最近、NSCの議論に口を挟みすぎて、NSCに巣食う本物の軍産傀儡から煙たがられている、という指摘が出てきている。クシュナーは軍産傀儡でなくトランプの代理人で、バノンとクシュナーの対立も演技である疑いが強くなっている。バノンはトランプ側近から外されておらず、今後も目立たないようにトランプの戦略を立案し続けると予測される。FTやWSJにも親バノン的な分析が出ている。 (New Front In White House Ciil War as Kushner Asserts Authority at NSC) (Why Donald Trump still needs Stephen Bannon) (Does Steve Bannon Have Something to Offer?)

 私は最近「トランプ革命の始動」という本を出版した。これは3月中旬までの事態しか分析しておらず、その後に起きた最近の出来事に対する分析が載っていない。バノンがトランプのために作った、正攻法で軍産を潰そうとする戦略についての分析が中心になっている。その意味で、私の新刊本は、本屋に届いた時点ですでに古くさい内容になっている。だが昨今の「トランプ革命の第2段階」と呼ぶべき、シリアミサイル攻撃以来のトランプの劇的な転換の「演技」としての本質をとらえるには、まず「トランプ革命の始動」(もしくは、この本のもとになった私の有料無料の配信記事の数々)を読んで「これまでの筋書き」を踏まえておくことに意味がある。 (「トランプ革命の始動 覇権の再編」)

 以下本音。近年の出版界は、中身がないのに読者の気を引く題名をつけた本を出す詐欺商法がまかり通っている。本屋に並ぶ本のかなりの部分がゴミであり、金と時間の無駄だ。私自身、もう本を買わない。必要な時は図書館で読む。出版界はマスゴミの一部だ。それでも私が本を出すのは、事態を俯瞰的にまとめることに意味があると思うからだ。読者は私の本を買わなくてよい。「立ち読み」か図書館で読んでください。




◆トランプの東アジア新秩序と日本


2017年4月18日   田中 宇

 この記事は「トランプの見事な米中協調の北朝鮮抑止策」の続きです。

 前回の記事で、4月6日の米中首脳会談以来の、米中協調で北朝鮮に核兵器開発をやめろと圧力をかける戦略が、史上初の画期的なものであることを書いた。北朝鮮に対する米国と中国の姿勢は、終戦直後の北朝鮮建国から冷戦終結まで、米国が北の敵、中国が北の同盟国という敵対関係だった。冷戦後、米国はまず90年代に北を宥和し(軽水炉を与える代わりに核開発をやめさせ)ようとして失敗(米側の軍産が反対)した。01年以降は、米国が北敵視一辺倒で、中国に「北に圧力をかけろ」と要求したが、中国が消極的で事態が進展しない状態が続いてきた。 (McMaster Warns North Korea’s Behavior ‘Can’t Continue’)

 北の核保有は、中国にとっても大きな迷惑だ。それなのに、中国が、米国の要求を容れて北に圧力をかけることをいやがった大きな理由は、米国が北朝鮮の核兵器と開発施設に関して「CVID」(完全かつ検証可能、不可逆的な撤去、complete, varifiable and irreversible dismantlement)を要求していたからだ。CVIDは厳密にやると、実現不能な要求だ。CVIDは、03年のイラク侵攻の前にイラクのフセイン政権が米英(国連、国際社会)から仕掛けられた罠でもある。

 当時のイラクは、米英から求められるままに大量破壊兵器を差し出したり兵器製造設備を破棄したりしたが、そのたびに「まだ持っているはずだ。完全かつ検証可能になってない。今後の開発が可能なので不可逆的じゃない」と言いがかりをつけられ、最後には軍事的にほとんど丸裸にされた上で米軍に侵攻され、簡単に政権転覆され、内戦状態のなか50万人以上の市民が殺された。リビアのカダフィ政権も、核開発施設を放棄した挙句、政権転覆され国家崩壊している。イランも、オバマに許されるまで、ずっと米国から「こっそり核兵器開発しているはずだ。許さない」と言われ続けた。

 CVIDは、米英が敵視する国につける因縁、濡れ衣だ。正直に応じるとイラクやリビアのように国を潰され、大勢の人々が無意味に殺される。CVIDを使った国家潰しは、戦争犯罪を捏造する、より大きな戦争犯罪だ。これまでの米英は、暴力団やヤクザと同質の、極悪で巧妙な「ならずもの覇権国」だった(昨年来の英国のEU離脱と米国のトランプ化で、今後しだいに事態が変質していきそうだが)。


 中国は、経済(貿易)面で北の手綱を握っている。だが、米国が中国を敵視している限り、中国が米国の要求に応じて北に圧力をかけて核開発をやめさせても、米国はCVIDを適用し「北はまだ核を隠し持っているはずだ」「中国は北の核隠匿を黙認している」と言い続け、北に圧力をかけた中国が、逆に悪者扱いされかねない。米国が中国敵視とCVIDへのこだわりをやめない限り、中国は北核問題をめぐる米国提案の解決策に乗れない。

 米国が掲げたCVIDは、北の核に対する中国の姿勢を消極的なものにしたが、半面、北自身はCVIDに対し、逆方向に積極的になることで対応した。米国のCVID要求に従ってしまうと国を潰されるが、「CVIDを受け入れると不当に潰されるので断固拒否する」「極悪の米国に対する自衛力が必要だ」と言って核兵器や長距離ミサイルを全力で開発し、米本土に核弾頭を撃ち込む軍事力をつければ、米国に対する核抑止力が生まれ、米国は何も言えなくなる。この論理で、北は、米国から転覆すべき「悪の枢軸」に指定された後、核兵器と長距離ミサイルの開発を急ぎ、5回の核実験を実施した。今や米国自身が、北が米本土に届く核ミサイルを持つのは時間の問題だと認めている。

(02年にブッシュ政権から「悪の枢軸」に指定されたイラク、北朝鮮、イランの3か国は、米国のCVIDに対し、それぞれ異なる対応をしている。イランは、核兵器開発をしないが似て非なる民生用原子力開発を旺盛に進めるやり方で反抗的な態度をとり続け、最終的にオバマの米国と核協定を結んだ)

 北朝鮮の核ミサイル開発の進展を見て、米政界では昨年来、CVIDへのこだわりを捨て、現実的に北の核に対処すべきだという議論が出ている。米国がCVIDを条件とせず、中国敵視もやめて、米中が協調的な信頼関係を築いた上で、米中が一緒に北に圧力をかければ、北が核ミサイル開発をやめる可能性がぐんと増す。中国は、米国がCVIDと中国敵視をやめれば、北に圧力をかけても良いと考えてきた。4月6日に米中首脳が会談で何を話したかわからないが、その後の展開から推測して、トランプは習近平に、一緒に北に圧力をかけようと提案したはずだ。この提案に対し、習近平はCVIDをどうするか尋ね、トランプはCVIDにこだわらないと答えたはずだ。トランプは、もう中国を敵視しないとも言ったはずだ。それらの言質を与えなければ、中国は提案に乗ってこないからだ。 (Trump’s Art of the China Deal)

 4月6日の米中首脳会談後、米中間の貿易紛争の火種も消された。トランプは中国に為替不正操作のレッテルを貼るのをやめたと発表し、中国は米国牛肉の狂牛病絡みの03年からの輸入禁止令を解き、米国の金融機関に対して中国市場をもっと開放する方針も打ち出した。牛肉と金融の開放は、中国にとって対米譲歩しやすい分野だ。米中は、貿易分野で相互に目に見える歩み寄りをやってみせた。 (China Offers "Concessions" To Avoid Trade War As Trump Readies Anti-Dumping Probe) (China to lift 13-year beef ban)

 4月6日の首脳会談で構築され、4月15日の北核実験延期で最初の成果を上げた今回の米中協調体制が、今後もずっと続くとは限らない。マスコミは、今回の米中協調体制を、画期的なものとして喧伝していない。トランプ政権も、新たな米中協調について多くを語らないようにしている。軍産から批判されて潰されたくないからだろう。トランプはCVIDを放棄したようだが、好戦派が席巻する米議会は、今後話が具体的になっていくと、CVIDの放棄に強く抵抗するだろう。「CVIDの放棄は、北が核兵器を隠し持つのを黙認することになる。それはダメだ」という主張と、「非現実的なCVIDにこだわると、北が米本土に核ミサイルを撃ち込むまで事態が放置される。それはダメだ」という主張がぶつかる。 (Donald Trump says China is working with the US over North Korea)

 米国だけでは、この堂々めぐりの議論になるが、そこに中国が絡むと「北が米本土に核ミサイルを撃ち込まないよう、経済面で北の手綱を握っている中国に抑止してもらう」という案が出てくる。これに「中国が北を抑止しきれない場合、米国が北の核施設を先制攻撃する」という話が付け加わると、すでにトランプが宣言している今の戦略になる。トランプが大統領である限り、今回確立した米中協調体制が続く。トランプの任期内に北が核開発をやめると宣言し、米朝や南北が敵対を緩和するところまで行けば、米中協調は確定的なものになる。うまくいけば、今回の米中新体制は、東アジアの国際秩序を大転換していく。 (Pentagon Denies Reports US May Attack North Korea Over Nuclear Test Plans)

 今回の米中新体制は、習近平にとっても都合が良い。彼は、5年に一度の中国共産党の政権見直しの時期に入っており、党内からの信任を高めておかねばならない。中国経済は難渋している。そんな中で、習近平がトランプとの協力関係を固め、米中協調で朝鮮半島問題が解決でき、米中貿易紛争も回避できるなら、習近平は党内での権威を維持もしくは拡大できる。トウ小平が2期10年と定めた主席の任期(習近平は23年まで)を延長し、習近平がトウ小平を超えることすら射程に入ってくる。今回構築されたトランプとの良い関係を、習近平の方から壊すことはない。


▼いずれ中国の影響圏が対馬海峡まで南下してくる

   いずれ中国の影響圏が対馬海峡まで南下してくる

     枠組み作成…下平

 もし米国が中国敵視やCVIDに戻らず、北が核兵器を(一部は隠しつつ)放棄し、それを米中が問題解決とみなすと、米朝、南北が敵対をやめ、朝鮮戦争が60年ぶりに正式に終戦し、在韓米軍が撤退する。そこまでうまく進むのか、どこかで途中で頓挫するのか、短期的にはわからないが、長期的にはいずれそこまで進む。在韓米軍の撤退によって、韓国の安保における米国の重要度が下がり、中国の重要性が高まる。 (How to Structure a Deal With North Korea)

   (How to Structure a Deal With North Korea)自動翻訳→このままでは意味がとりにくい。
北朝鮮との取引をどう構築するか 

 2011年4月17日 @Tolump #North Koreaに 2017 @ 6:06が 掲載され ました 

私がビジネススクールで学んだ最も有益なことの一つは、関与する当事者が同じ限られたリソースを完全にコントロ
ールしたくないときはいつも取引をすることができるということでした。 イスラエルの平和取引は不可能です。
なぜなら、双方が同じ土地を望んでいるからです。 しかしそれはまれな状況です(幸いにも)。 より正常な状況は、北朝鮮と米国に見られるものです。 米国は、北朝鮮と同じ限られた資源を望んでいない。 そし
て中国にはそれぞれの利益がある。 そのような状況は、ほとんどの場合、あなたが十分に頑張っていれば、契約
を結ぶことができます。 現時点では、我々は北朝鮮との核取引に必要なものの約75%を持っている。 米国と中国は、これまでにないほどの
経済的、軍事的圧力をかけて北朝鮮に弾みをつけようとしている。 しかし、取引に必要なものの残りの25%がな
ければ、ブレークスルーは不可能です。 北朝鮮は、米国からの圧力に屈したかのように見せかけるものには、同
意することはまずありません。 あなたはそれを解決するために取引を取得する必要があります。 それは25%の
欠落です。 それで、どうやってそれをするか教えてください。 私はちょうど取引がどのように作られるかについてのポイントを作るために幾分非実用的なアイデアを提案しようと
しています。 これは私が「良いアイデア」と呼ぶもので、より良いアイデアに向けて創造性を生み出すことを意
図しています。 だからここには悪い考え方がある。 1.北朝鮮は核兵器プログラムを放棄し、国際検査に同意する。 2.その代わりに、中国は現在の北朝鮮政府の継続を確保するための軍事的保護を提供することに同意する。 3.韓国は、非武装地帯を放棄し、北朝鮮の領土と宣言し、中国軍によって永久に占領されている。 中国が韓国からのフェンスの反対側の軍事作戦家であれば、DMZバッファーゾーンは必要ありません。 北朝鮮の首脳
は、この取り引き体制で、帝国を拡大し、永遠に国を安全に維持する方法を見つけたと言える。 4.契約締結時に貿易協定と援助が利用可能となる。 5.米国は、DMZを引き継ぐと不必要な費用になるので、韓国からの軍事力を取り除くことに同意する。 私は、中国の防衛軍だけで占領されているという条件で、DMZの韓国側を北朝鮮に与える理由はたくさんあると思いま
す。 しかし、私はあなたが取引フォーマットを見ると思う。 私の例では、韓国はDMZの側を北朝鮮に贈ることで何もあきらめない。 その土地は役に立たなかった。 かつて中国の
占領があった場合、緊張はほぼゼロに落ちるはずです。 中国は今やこれまでに韓国を攻撃する理由はない。 韓国は現実価値をあきらめているものの、領土や永続的な中国の軍事支援を得るため、北朝鮮にとって大きな勝利の
ように見えるだろう。 そしてそれは彼らに顔を救うための物語を与えます。 説得力のある言葉では、北朝鮮に「偽のもの」を与える必要があります。彼らはおそらく既に平和を望んでいるでし
ょうが、彼らが圧力をかけてそれを解決しようとする理由についての良い言い訳はありません。 小さな価値を持
っているが、大きな価値を持っているように見えるように誇張することができるものを与えることは、「偽造」
になります。 私は、DMZの土地所有権を含む取引が見られるとは予想していません。 しかし、北朝鮮との実現可能な取引は、設計
上、「偽物」なのである。 あなたがそれを見るまで、多くの進歩を期待しないでください。


How to Structure a Deal With North Korea
Posted April 17th, 2017 @ 6:06am in #Trump #North Korea
One of the most useful things I learned in business school was that you can usually make a deal whenever the parties involved don’t want full control of the same limited resources. That’s why a peace deal in Israel is impossible – because both sides want the same land. But that’s a rare situation (fortunately).
The more normal situation is the one we see with North Korea and the United States. The United States doesn’t want the same limited resource that North Korea wants. And China has their own interests. That kind of situation almost always means you can reach a deal if you look hard enough.
At the moment, we have about 75% of what we need for a nuclear deal with North Korea. Both the United States and China are putting unprecedented economic and military pressure on North Korea, and that means North Korea will start to get flexible. But without the remaining 25% of what is needed for a deal, no breakthrough is possible. North Korea is unlikely to agree to anything that makes it seem as if it caved to pressure from the United States. You have to solve for that to get a deal. That is the missing 25%.
So let me tell you how to do that.
I’m about to suggest a somewhat impractical idea just to make the point about how deals get made. This is what I call the “bad idea” that is intended to generate some creativity toward a better idea.
So here’s the bad-idea form of the deal:
1. North Korea abandons its Nuclear Weapons program and agrees to international inspections.
2. In return, China agrees to provide military protection to ensure the continuation of the current North Korean government.
3. South Korea gives up its side of the Demilitarized Zone and declares it North Korean territory but permanently occupied by Chinese forces.
You don’t need a DMZ buffer zone if China is the military player on the other side of the fence from South Korea. And with this deal structure, the leader of North Korea gets to say he expanded his empire and found a way to keep the country safe from invasion forever.
4. Trade deals and aid would become available to North Korea upon signing the deal.
5. The United States agrees to remove forces from South Korea, as they would be an unnecessary expense once China takes over the DMZ.
I’m guessing there are plenty of reasons why giving South Korea’s side of the DMZ to North Korea, on the condition that it is occupied only by Chinese defensive forces, is a bad idea. But I think you see the deal format.
In my example, South Korea really gives up nothing by gifting its side of the DMZ to North Korea. That land was useless. And once occupied by Chinese forces, tensions should drop to nearly zero. China has no reason to attack South Korea, now or ever.
While South Korea would be giving up nothing of actual value, it would look like a big win for North Korea because they would be gaining territory and permanent Chinese military assistance. And that gives them a story to save face.
In persuasion language, you need to give North Korea a “fake because.” They probably already want peace, but they don’t have a good public excuse for why they would cave to pressure and settle for it. Giving them something that has little value but can be exaggerated to seem like it has great value becomes the “fake because.”
I’m not predicting we’ll see a deal that involves the DMZ land ownership. But any workable deal with North Korea would have a “fake because” in the design. Until you see that, don’t expect much progress.

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 北朝鮮は、経済的に自活できないくせに突っ張って「自主独立」を掲げ、中国の傘下に入る印象がつくのを拒み続けるだろう。そうしないと国内的に、独裁政権の権威を維持しにくくなるからだ。中国も、北の政権崩壊を好まないので、北のわがままな突っ張りをあるていど黙認し続けるだろう。朝鮮半島は、南北ともに中国の影響圏に入る。この地域の中国の影響圏の端は、38度線から対馬海峡へと移動する。 (It's time for America to cut South Korea loose: Washington Post opinion By Doug Bandow)

 朝鮮半島は、近代の始まり(アヘン戦争、明治維新)まで中国の属国(冊封下)だったが、その後日本に占領され、戦後は北が中国、南が米国の影響圏になり、冷戦後はいったん北が中国の影響圏からも出て「ならず者」的に自活しようとして、その結果、今の北核問題が起きている。今後、北核問題がトランプ式に解決されると、南北朝鮮は、全体的に中国の傘下に入り、前近代の状態に戻る。

(トランプ式でなく、90年代末のビルクリントン式が実現していたら、日韓が北の面倒を見つつ、朝鮮半島全体が米国の傘下に入る展開になっていただろうが、歴史はそうならなかった)

 これまで日本と韓国は、米国の同盟国という点で国際政治的に一応の仲間だったが、それはいずれ終わる。韓国は中国圏(対中従属)に移行する。日本は、米国が強い間は対米従属を続けられるが、今回トランプが北核危機を口実に始めた地政学的な米中協調(=多極化)が進み、きたるべき金融危機などを経て米国覇権が失墜すると、日本は米国の影響圏から切り離され、多極型世界において、中国圏にも米国圏にも属さない存在になる。

 この状態は、どこかで見たことがある。そう。90年代後半に騒がれた、米国際政治学者サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」で描かれた未来の世界地図において、日本が、中華文明にも欧米文明にも属さない「孤立文明」として描かれていたことだ(韓国はすでに中華圏に入れられていた)。永遠の対米従属しか眼中になかった日本の官僚や知識人たちは、江戸時代の鎖国さながらの孤立文明のレッテルを見て驚き、欧米文明に入れてくれとわめき、ハンチントンに修正を要求した。 (文明の衝突の世界地図)


▼中国を台頭させるトランプは同時に、日本に日豪亜をけしかけている

   中国を台頭させるトランプは同時に、日本に日豪亜をけしかけている

     枠組み作成…下平

 当時は、日本が世界の中で、自国だけで文明圏を形成する構図など想像できなかった。今も、多くの人にとっては想像外だろう。しかし、私の記事の精読者は、ある構図が思い当たるはずだ。それは「日豪亜」である。(これを全否定する人は、かつての私の「隠れ多極主義」と同様、また田中宇が妄想していると思うだろうが) (見えてきた日本の新たな姿)⇒2016/1/23.momo747掲載

 日豪亜は、戦前の日本が自国の影響圏として設定した地域のうち「南方(南洋)」の部分である。今回、北の問題を解決していくことで中国の影響圏がいずれ対馬海峡まで南下し、いずれ実現する日露和解による北方領土(国後・択捉)の喪失の確定と合わせ、かつての「北方」部分は、二度と日本の影響圏にならないことが確定する(中国が自滅しない限り)。しかし、南方は残っている。今後の日豪亜は、日本の露骨な支配地域として設定された戦前の南方戦略と異なり、域内の諸国が対等な関係を標榜するものになる(それしかありえない)。

 ハンチントンの世界地図において「日豪亜」の領域は、フィリピンが欧米文明(キリスト教、元米国植民地)と中華文明(フィリピン人の3割は祖先が中国人)、イスラム圏(ミンダナオ)の3つのまだらになっている。インドネシアやマレーシアはイスラム圏、ベトナムは中華圏、タイやラオス、カンボジア、ミャンマーは仏教圏、豪州とNZは欧米文明に入っている。このうちいくつかは、現在の実際の政治的な影響圏区分と大きく異なっている。 (文明の衝突の世界地図)

 東南アジアで中国の影響が最も強いのは、ベトナムでなく、ラオス、カンボジア、ミャンマーだ。これらの3か国は中国の属国と呼んでよい状態にある(本人たちは否定するだろうが)。半面、ベトナムは、中国からの影響力の増大に対抗したいので、むしろ日豪亜を希求する存在だ。インドネシアとマレーシアは、イスラム圏だが、中東のイスラム諸国と政治風土が大きく異なる。両国は、経済を華人が握る傾向が強く、今後米国が衰退し、中国の影響が大きくなることを両国の民族系上層部が懸念している。彼らは「中国以外の影響力」の存在を望んでいる。日豪亜は、まさにその需要を満たせる。 (フィリピンの対米自立)⇒2016/10/5.momo747掲載

 フィリピンは、ドテルテ政権になって、それまでの対米従属を荒っぽく捨てて、中国にすり寄る大転向をした。だがその後、南シナ海のサンゴ礁や経済水域をめぐり、ドテルテがナショナリズムを扇動する動きをして、中国との対立に逆戻りしている。しかし、トランプの米国は、米中協調の北核問題解決を最優先にしており、米国がフィリピンを再度傘下に入れて中国と敵対するようなことをしたくない。ドテルテは、親中国だが、領海紛争や経済開発では、中国以外の勢力の助けがあった方が良い感じだ。ここにも、日豪亜の存在が求められる政治的需要がある。 (Philippines Duterte reassures China over sea order) (Rodrigo Duterte Orders Fortification of All Philippine-Held South China Sea Islands) (Duterte Is Under Pressure to End the Philippines-China Honeymoon)

 日本は昨年末、安倍首相が外国首脳として初めてドテルテのもとを訪問し、経済軍事支援を拡大している。すでに日本は「日豪亜」的な動きをフィリピンに対してやっており、ドテルテも日本などの隠然とした後ろ盾があるので、心おきなく領海問題で中国に楯突ける。フィリピンと同じ構図が、台湾にもあてはまる。日本が最近、台湾を外交面で目立たないように後押しを強め、どうやら軍事的にも潜水艦開発などで台湾へのテコ入れを隠然と強めそうな感じを出しているのは、日豪亜的な動きである。 (台湾に接近し日豪亜同盟を指向する日本)⇒2017/3/29.momo747掲載 (Taiwan Needs Submarines)

 豪州とNZは、米英の同盟国であるが、経済的な理由から、中国と敵対したくないとも考えている。トランプ政権ができて自由貿易体制を否定した後、豪NZは、米国から離れるそぶりも見せている。英国やEUは、自分たちの将来像を固めるのが先決で世界戦略が二の次になっており、欧米としての団結力が低下している。長期的に米国覇権が衰退し、中国がさらに台頭してくると、豪NZは、中国と渡り合うために、既存の旧英連邦とか欧米の世界的な枠組みでない、新たな地域的な国際連携が必要になる。ここにも日豪亜のニーズが転がっている。 (潜水艦とともに消えた日豪亜同盟)⇒2016/5/6.momo747掲載

 もしかすると、ハンチントン(や米国の覇権運営者たち)は90年代から、冷戦後の覇権の多極化傾向を見据え、きたるべき多極型世界における米国圏(軍産NATOの横やりで、欧州や豪NZを含む欧米文明圏として設定)と中国圏の間に、日本の影響圏を設定したかったのかもしれない。だが、日本を支配する官僚機構は、対米従属に固執できるようにするため、日本が地理的な国際影響力を持つことを断固拒否してきた。その結果「文明の衝突」における日本の影響圏は、日本一国だけの孤立文明として制定されたと考えられる。どうせ中国圏でも米国圏でもない地域として孤立させられるなら、日本一国だけで孤立するのでなく、似た境遇の東南アジア諸国や豪州なども誘って「日豪亜」にした方が、はるかに良い。AIIBは中国主導、ADBは日豪亜主導の開発銀行になり、相互に協力できる。 (日豪は太平洋の第3極になるか)⇒2015/11/29.momo747掲載

 トランプは、今回、北核問題を使って米中協調体制を構築する前に、日本に対し、台湾やフィリピンのめんどうをもっと見るよう、けしかけたふしがある。そうでなければ、対米従属一本槍の日本が、台湾との外交関係を格上げしたり、反米親中な変人ドテルテに接近したりしない。 (No ceremony for Japan office in Taipei renaming)⇒2017/4/17.momo747掲載

 米中協調体制は、アジアの多極化を加速する。日本や豪州が何もしなければ、中国は、日豪亜の予定海域をすべて併呑し、米国圏と中国圏が隣接する世界構造にする。その場合、日本や豪州は国際的に窒息させられ、今よりさらに影響力が低下し、今よりもっと台頭する中国に、好き勝手にしてやられるようになる。対米従属一本槍は、日本や豪州にとって、自滅的、売国奴的な戦略になっている。中国と敵対するのでなく、こちら側も海洋アジア諸国で結束したうえで、中国と仲良くするのがよい。




◆混乱と転換が激しくなる世界


2017年4月22日   田中 宇


混乱と転換が激しくなる世界  あらまし

     枠組み作成…下平

 来週、4月23-29日には、世界的に3つの大事件が起こるかもしれない。一つは4月23日、フランス大統領選挙の一回目の投票。4人の主要候補がいるこの投票で、事前のマスコミ予想の通り、極右のマリーヌ・ルペンと、中道左派のエマニュエル・マクロンが1、2位の得票をした場合、5月7日の決選投票で、極右政権を嫌う左右中道派の票を集めてマクロンが勝ち、ルペンは落選するというのが権威筋の分析だ。この場合、フランスは従来通りのエリート支配が維持され、ユーロ離脱やEUとの関係悪化が防げる。だが、一回戦で極右のルペンと、極左のジャンリュック・メランションが1、2位を占めた場合、決選投票でどちらが勝ってもエリート支配が崩れ、ユーロ離脱や、仏とEU(独仏)の関係悪化が起こり、EUは一気に崩壊に近づく。 (Why Marine Le Pen is the choice of ‘unhappy France’) (Analyst Who Predicted Trump's Rise Bets On Le Pen Victory)

 来週おこりうる2つ目の大事件は、北朝鮮が4月25日に核実験(もしくはミサイル発射)を挙行するかもしれないことだ。中国政府がそのように指摘している。衛星写真解析によると、北の北部にある豊渓里の核実験場で、実験準備とおぼしき活動が再開されている。4月25日は、北朝鮮軍の創設85周年の記念日で、祝賀行事の一つとして核実験する可能性がある。韓国では5月9日に大統領選挙があり、選挙に影響を及ぼす意味でも、北が25日に何かやるかもしれない。米国と組んで北の核実験を抑止する姿勢を強めている中国は、北が核実験した場合、制裁措置として、北への原油を止めることを検討している。北は原油の9割を中国からの輸入に頼っている。 (North Korea’s Punggye-ri Nuclear Test Site: Back to Work We Go) (April 25 Is "Highest Probability" Day For North Korean Nuclear Test China Warns)

 来週の3つ目のあり得る大事件は、4月28日までに米国政府の暫定予算が連邦議会を通過できない場合、29日から米政府の一部が閉鎖されることだ。米議会は、以前から上下院とも2大政党の議席数が拮抗しており、意見が対立して政府予算を組めず、窮余の策として数か月分の暫定予算を組み続けて何とか回している。暫定予算すら2大政党で合意できない場合、政府の予算が切れ、2党が再び合意して暫定予算を組むまで、軍など最低限必要な部門以外の政府機能が停止する。近年は2013年10月に2週間停止した。 (White House is ‘gearing up’ for a government shutdown fight) (米国債利払い停止危機再び)⇒2013/9/28.momo747掲載

 4月29日はトランプ政権の就任百日目にあたる。トランプは、政府閉鎖も辞さない強い態度で、議会が民主党を中心に強く反対している、メキシコ国境の壁の建設費や違法入国取り締まり官増員の予算計上や、オバマケアの制度改定、軍事費の増額などを通したい。与党の共和党でも、小さな政府主義者(茶会派)の反対が強い。茶会派は、強制的な政府縮小策として政府閉鎖をむしろ歓迎している。トランプと議会が対立したまま、政府閉鎖に突入する可能性がかなり高まっている。トランプ政権は、すでに米政府の閉鎖を準備する動きを開始している。 (Trump Administration Begins Quiet Preparations For Government Shutdown) (Five hurdles to avoiding a government shutdown)

▼ルペンはトランプと似ている。英EU離脱以来の覇権逆流

ルペンはトランプと似ている。英EU離脱以来の覇権逆流

     枠組み作成…下平

 フランスでは、投票日3日前の4月20日にパリで、イスラム過激派のIS支持者が警察官を銃殺するテロ事件があり、イスラム過激派の温床になっている中東からの移民に厳しい政策をとるべきだと以前から主張していたルペンが優勢になっている。トランプ米大統領は、すでに最も優勢なルペンが、銃撃によってさらに優勢になると語っている。銃撃事件直後の世論調査(Odaxa)では、ルペンの支持率が22%から23%へと1%しか上がっておらず、24・5%のマクロンより劣勢とされている(極左メランションと中道右派のフィヨンはいずれも19%)。 (Trump: Paris attack will 'probably help' Le Pen in France) (rench Election Latest Polls: Marine Le Pen Gaining Support After Paris Shooting)

 だが、仏有権者の55%は、マスコミがルペンに不利な報道をしていると考えている。4人の主要候補のうち、中道左派のマクロンと、中道右派のフィヨンはエリート系で、極右のルペンと極左のメランションは反エリート系だ。エリート(エスタブリッシュメント)の一角として洗脳機能を担うマスコミや世論調査機関が、実際よりルペンに不利、マクロンに有利な報道や世論調査結果を出しても不思議でない。有権者の4割は、誰に投票するか決めておらず、これらの票の動きで結果は大きく変わる。 (THE majority of French people think the media is against Front National leader Marine Le Pen, according to a new poll) (Le Pen loses ground to Macron in French election race: poll)

 こうした状況は、昨年の米国の大統領選挙の時と同じだ。マスコミや世論調査は最後まで、エリート(軍産複合体)が好むクリントンが優勢だし有能で、反エリート・反軍産な姿勢を打ち出すトランプが劣勢で無能(差別主義者)だと言い続ける歪曲策をやっていた。昨年6月の英国のEU離脱を問う国民投票に際しても、エスタブ層が支援するEU残留が勝つと投票直前まで報じていた。これらの英米の動きと、今回の仏選挙は、国際情勢としてみると、ひと続きの同じ流れの中にある。ルペンが次期大統領になる可能性はかなりある。 (米大統領選挙の異様さ)⇒2016/8/28.momo747掲載 (英国より国際金融システムが危機)⇒2016/6/29.momo747掲載

 フランスは近年、経済力や国際影響力の低下が続き、国内にあった産業が東欧など他のEU諸国に転出し、失業や賃金低下、中産階級の貧困層への転落が起きている。多くの人々が、経済不審や失業増加はEUの経済統合のせいだと考えるようになり、EU統合を推進してきたエリート層への不満増加と、ルペンやメランションへの支持拡大につながっている。EUの移民歓迎策のせいで、貧困層に転落した人々は移民と仕事の奪い合いとなり、イスラム過激派によるテロも増えた。移民への寛容策に反対するルペンの支持が増えている。 (Le Pen Rise Before French Election Fueled by Industrial Decline) (欧州極右の本質)⇒2014/6/4.momo747掲載

 こうした現象は、米英と同じだ。米国では、製造業が破綻して貧困層に転落したラストベルトの有権者が、エリートで自由貿易派のクリントンを見限り、製造業復権や移民規制を掲げたトランプを支持した。英国では、移民反対がEU離脱派の原動力だった。 (米大統領選と濡れ衣戦争)⇒2016/8/4.momo747掲載

(英国が火をつけた「欧米の春」)⇒2016/6/27.momo747掲載

 シリアなど中東から欧州に大量の難民が流入して一昨年から起きている移民危機は、自然に起きたものでない。エルドアン政権のトルコは、国内にいるシリア難民を意図的にギリシャ東欧に流出させ、欧州の危機を醸成してきた。今回のパリの銃撃テロ事件も、選挙で既存のエリート層を敗北させ、EU統合やユーロに反対する極右極左を勝たせることで、EUを弱体化しようとするトルコ当局が、傘下のISに手を貸した可能性がある。トルコにとってEUは地政学的なライバルだ。これまでは、EUの方がずっと強く、米英イスラエルの策略で分断され混乱する中東イスラム世界を後背地とするトルコは弱かった。だが今後、覇権が多極化していくと、中東イスラム世界は米欧の覇権下から外れて安定し、長期的にトルコも今より強い存在になりうる。(他にジョージソロスも欧州の難民危機を煽ってきた。それは改めて書く) (テロと難民でEUを困らせるトルコ)⇒2016/3/29.momo747掲載 (A nerve-racking test of France’s political class) (George Soros Created the European Refugee Crisis?)

 半面、EUは、極右極左の台頭による分裂、欧州中央銀行の超緩和策の破綻によるユーロの崩壊、英国の離脱、米国のトランプによる覇権放棄、ロシアの台頭などを受け、以前のような欧米覇権として世界の中心に位置していた状態から転落しうる。ルペンが勝つと、EUの中核である独仏が分裂し、EUが弱くなり、相対的にトルコが有利になる。エルドアンは、3月15日のオランダ総選挙でも、トルコとオランダの外交対立を煽り、極右を優勢にしようとした(が、極右は負けた)。エルドアンは、自らの権力を強化する4月16日の国民投票を可決させた直後、EUがトルコ加盟の絶対の条件としていた死刑廃止をやめて死刑を復活することを決め、EU加盟への道との決別を事実上宣言している。 (欧州の自立と分裂)⇒2017/3/16.momo747掲載 (欧米からロシアに寝返るトルコ)⇒2016/7/4.momo747掲載 (Erdogan’s Referendum Victory Puts Turkey on Collision Course With Europe)

 仏大統領選挙に外国から影響を与えようとしている人がもう一人いる。米国のオバマ前大統領だ。彼は4月20日、マクロンに電話を入れた。おそらく支持を表明したのだろう。だがオバマは、昨今の欧米各国の選挙における「死神」だ。オバマから支持される勢力(エリート層)は劣勢になる。彼は昨年、まだ大統領だった時に、英国のEU離脱投票で残留派を応援したが、内政干渉だと残留派からも非難された。米大統領選挙ではクリントンを支持して負けさせた。昨年末にはドイツを訪問してメルケルを応援したが、今秋の選挙に向けてメルケルは苦戦している。そして今回、オバマはマクロンを支持。オバマは各国のエスタブ層の選挙運動に加勢しているが、いずれも逆効果になっている。 (In "Apparent Sign Of Support" Obama Has Phone Call With Macron Days Ahead Of Election) (French intellectuals lament loss of influence as populism surges)

 フランスの有力な銀行家らは、選挙に勝ちそうなルペンに接近し、頼まれて当選後の国家戦略を練っている。ルペンは、当選した場合、公約に掲げた通りの政策をやっていくのか疑問がある。ユーロやシェンゲン体制(国境検問廃止)からの離脱は、議会や司法界、マスコミなどエリート層から多くの妨害策を受けそうだ。先に大統領になったトランプは、議会や裁判所に阻まれたり、側近に反逆されたという口実で、経済再建のためのインフラ整備事業や、自由貿易体制の放棄などの策が進んでいない。ルペンも同様になるかもしれない。 (Can France's Marine Le Pen Win the Presidential Election?)

 ただしトランプは、戦略が阻まれて右往左往することによって、米国の単独覇権の失墜を加速させることに成功している。ルペンも、EUを壊すことはできるだろう。メルケルやNATOがやっている対米従属やロシア敵視の策を潰す動きが拡大する。ルペンによるEU破壊は、単なる破壊でなく、長期的に見ると、EUが現実的な規模まで縮小し、より強い国家統合勢力として再生することに道を開く。ルペンが負けても、エリート層やEU統合に対する仏有権者の不満は残り、次の選挙に引き継がれていく。 (Win or lose, Le Pen could change the political landscape)

▼中国はがんばると朝鮮半島の覇権をもらえる

中国はがんばると朝鮮半島の覇権をもらえる

     枠組み作成…下平

 次の問題は、4月25日に核実験をしそうだといわれる北朝鮮だ。北朝鮮が核実験を挙行するかどうかを決めるカギは、米国が軍事で報復攻撃してくるかどうかであると喧伝されているが、それはおそらく間違いだ。米軍は、以前も今後も、北が核実験しても報復攻撃してこない。軍事的な報復合戦は、朝鮮戦争の再発となり、ソウルが破壊されてしまう。北が核実験するかどうかは、中国がどの程度の経済制裁をちらつかせて北に圧力をかけているかによる。 (South Korea On Heightened Alert As North Prepares For Major Army Event) (How to Structure a Deal With North Korea)

 中国が本気で北を経済制裁する姿勢を示すと、北は核実験を延期する。中国は、北に対し、核実験を挙行したら経済制裁する姿勢を見せるだけでなく、核実験をやめると宣言したら北が喜ぶご褒美をあげることも提案しているはずだ。そうしないと、米朝関係が回復不能に悪くなり、長期的に良くない。このような中朝の駆け引きが展開しているので、トランプ政権は、空母を朝鮮の沖合に出したと、あとでバレるウソを言い、実は軍事攻撃などする気がないことを北に示してやっている。 (As Trump warned North Korea, his 'armada' was headed toward Australia) (China admits it is ‘seriously concerned’ noisy neighbour North Korea will spark nuclear war)

 トランプは4月20日、中国が努力してうまく北に圧力をかけているので満足していると語っている。この発言が誇張でなく、現実の中朝関係を示しているのなら、4月15日の核実験を見送った北は、4月25日のも見送るだろう。 (Trump Confident China Working `Very Hard' to Rein in North Korea) (トランプの見事な米中協調の北朝鮮抑止策)⇒2017/4/16.momo747掲載

 北の世話を中国に押しつけるトランプの戦略は、成功すると、朝鮮半島の覇権を中国に譲渡することになる。韓国の地政学的な米国離れが進む。空母の派遣についてウソを言ったことも、韓国の対米不信感を煽っている。豪州で、米国の隠れ多極主義的な傾向を以前から指摘している研究者のヒュー・ホワイトは、米国が北を先制攻撃することはない(韓国が破壊されるので)と断定し、トランプの策が米韓や日米の同盟関係を壊していると批判的に書いている。対照的に、米国覇権低下と多極化を望む米国の研究者ダグ・バンドウは、トランプの策を称賛している。 (Trump is not serious about CNimp2 dealing with North Korea. BY Hugh White) (CNimp2 Time for a Better U.S.-China Grand Bargain on North Korea Doug Bandow)

 3つ目の、米政府の閉鎖の問題については、長くなるので、4月28日までの間に改めて書く。来週起こりうる3つの問題は、いずれも、米国の覇権失墜と多極化を加速する。4月23日の仏選挙で、極右と極左のどちらかが大統領になることが決まると、それは現状のEUとユーロ、そしてNATOに象徴される欧米覇権体制がいったん解体していくことになる。決選投票がマクロンとルペンになり、5月7日決選投票でマクロンが当選すると、EUの崩壊は当面回避される。 (Is A Le Pen - Melenchon Second Round Possible: A Concerned Deutsche Bank Answers) (Worst nightmare for EU as French election could be between TWO candidates wanting Frexit)

 4月25日に北朝鮮が核実験を挙行した場合、米国が北に軍事反撃できない・しないことが露呈し、中国に頼るしかないことが示される。北が核実験を見送った場合、中国が外交術でうまいこと北を抑止できたことが示され、これまた中国の影響力拡大を示すことになる。いずれも、東アジアにおける米覇権の衰退と中国覇権の台頭が示される。4月29日に米政府の一部機能が閉鎖に入ることは、トランプ登場によって米国の上層部が混乱していることを示し、世界が米国に頼れず、米国の信用失墜につながる。 (トランプの東アジア新秩序と日本)⇒2017/4/18.momo747掲載 (How Trump's First 100 Days Could End in a Government Shutdown)