【目次へ】
  続折々の記へ

続折々の記 2018⑨
【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】09/14~     【 02 】09/15~     【 03 】09/16~
【 04 】09/17~     【 05 】09/19~     【 06 】09/21~
【 07 】09/22~     【 08 】09/23~     【 09 】09/26~

【 01 】の内容一覧へ戻る

            安倍首相 自民総裁三選  石破氏善戦、地方票の45% 1面
              ・ 「圧勝」できず、政権運営に影
              ・ 「1強」のおごりの芽をつめ
              ・ (天声人語)お前ではなし
              ・ 首相、崩れた「圧勝」
              ・ 石破氏「イスから落ちるほど驚いた」首相の改憲案発言に
              ・ 安倍1強の限界明らかだ  (社説)3選はしたものの
              ・ 認知症とともに
              ・ (耕論)かくも長き安倍時代
              ・ 党員の声、政界とズレ 政治姿勢に不満・地方軽視感じる
            石破氏「善戦」に、麻生氏「どこが?」 総裁選巡り舌戦
              ・ (社説)文科次官辞職 規律と信頼を取り戻せ

【 06 】09/17~

 09 21 (金) 安倍首相 自民総裁三選     石破氏善戦、地方票の45%

安倍「一強」が崩れはじめた。 あちこちにそのほころびが、隠すこともできぬまま残されている。 マスコミがそれを指摘し続けてきたのに、平然と横車を押しとおしてきたからだ。

「一強」の崩れは、国民の心情を集約した氷山の一部と考えていい。

自民党総裁選で自民党員と自認している人たち、国会議員でなく国民の中の総裁選出資格を持っている人たちの動向は、朝日には2面と35面に表示されている。

 安倍氏の得票が都道府県平均55.4%以上の県 23県
   青森、宮城、東京、神奈川、山梨、静岡、石川、福井、滋賀、京都
   大阪、奈良、和歌山、岡山、広島、山口、香川、愛媛、福岡、大分
   長崎、鹿児島、沖縄
 安倍氏の得票が都道府県平均50%以上55.4%未満の県 14県
   北海道、岩手、秋田、福島、栃木、埼玉、千葉、長野、新潟、愛知
   岐阜、兵庫、熊本、佐賀 (長野県 アベ:イシバ=5406票:5391票)
 石破氏が上回った県 10県
   山形、茨木、群馬、富山、三重、鳥取、島根、徳島、高知、宮崎

安倍派は喜んで手をあげていたが、自民党自体の国民の動向を見ても、半数は不評を表明していたわけである。

国民全体の動向は、明らかに、安倍政権の行く手に賛成はしていない。

これが日本の政治の評価であり、世界の政治家が日本のニュースをどう受け止めたのか推察してみると、あまりにも哀れな話である。





安倍首相 自民総裁三選    石破氏善戦、地方票の45%  1面

 自民党総裁選は20日投開票され、安倍晋三首相(63)が石破茂・元幹事長(61)を破って連続3選を果たした。計810票のうち、首相は553票を獲得。全体の7割に迫った首相の大勝に見えるが、石破氏が獲得した254票は予想を大きく上回り、石破氏の善戦との見方が党内で広がっている。

 安倍首相の総裁3期目の任期は2021年9月までの3年間。19年11月まで首相を続ければ、首相としての通算在任期間は歴代最長の桂太郎(2886日)を抜くことになる。

 総裁選は1人1票の投票権を持つ国会議員票405票と、同数の地方票の計810票で争われた。党員・党友による地方票の投票総数は64万3681票、投票率は61・74%だった。

 議員票では、党内7派閥のうち細田、麻生、二階、岸田、石原の5派閥の支持を得た首相が8割を超える329票を獲得。しかし、朝日新聞が11日現在でまとめた事前取材で「首相支持」と答えた337人を下回った。逆に事前取材で50票にとどまっていた石破氏は73票に伸ばした。3票が白票で無効票となった

 焦点の地方票でも石破氏が健闘。首相の224票に対し、石破氏も45%にあたる181票を奪った。首相は37都道府県で石破氏を上回ったが、13道県で得票率10ポイント以内の接戦に。山形、茨城、群馬、富山、三重、鳥取、島根、徳島、高知、宮崎の10県は石破氏が上回った。この結果、石破陣営が目標とした計200票を大きく超えた。首相の獲得票は議員票82%に対し、地方票は55%。永田町と地方の意識のズレが浮き彫りになった

「圧勝」できず、政権運営に影      1面

 自民党総裁選は安倍晋三首相が狙った「圧勝戦略」に狂いが生じ、3選後の政権運営に影を落とす結果となった。首相は来月1日に内閣改造・党役員人事を行う考えだ。麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長を続投させ、政権の骨格は変えない方針。だが、石破茂元幹事長に善戦を許したことで、来夏の参院選の結果次第では求心力の維持が難しくなる可能性がある。

 首相は20日の記者会見で、米・ニューヨークでの国連総会に出席後に党役員人事と内閣改造を行う方針を表明。「しっかりとした土台の上に、できるだけ幅広い人材を登用したい」と語った。

 総裁選では、国会議員票の8割超を固めた首相陣営が当初、党員票でも7割を獲得して圧勝し、石破氏をはじめ党内の異論を封じる筋書きを描いていた。ところが、地方票の獲得は55%にとどまり、議員票も当初見込みより減らした。人事で政権の骨格を維持することは当初からの方針ではあるが、総裁選の結果を踏まえ、麻生、二階両氏らを頼みとする主流派体制をこれまで以上に固めなければならない事情が重なった。

 首相は会見で秋の臨時国会を召集し、北海道胆振(いぶり)地方を震源とする地震など一連の災害に対応する補正予算案を提出する方針を示した。憲法改正については「総裁選の最大の争点だった」として、自衛隊を明記する9条改正などを含む自民党案について公明党と調整する考えを表明。次期国会への提出を掲げた上で勝利したことを強調して、「結果が出た以上、大きな方針に向かって一致結束して進んでいかなければならない」とした。

 しかし、総裁選で首相の政権運営に疑問を呈した石破氏が予想に反して得票を伸ばしたことで、森友・加計(かけ)学園問題への対応を含めて首相への不信や不満が地方を中心に根強く残っていることが鮮明になった。野党各党が反対する中、憲法改正を強引に進められる政治環境ではなくなっている。党内からは早くも、参院選での苦戦を予想する声が出始めた。

「1強」のおごりの芽をつめ    朝日 政治部長・栗原健太郎  1面

 問われたのは、「1強」がもたらした政権のゆるみとおごりだった。しかし、歴代最長の通算在任期間をうかがうのにふさわしい信頼を、安倍晋三首相が勝ち得たようには見えない。

 首相の得票率は国会議員票82%に対し、地方票は55%。この差をどう読むか。首相支持陣営の強烈な締め付けにもかかわらず、地方議員や党員には、政権への不信が根強いとみるのが自然だろう。

 財務省公文書改ざんの政治責任は誰もとらず、強引な国会運営も際だった。この総裁選では人事を絡めた「圧力」も見え隠れした。相も変わらぬおごりぶりに、来夏の参院選で痛い目にあうのではないかと心配する自民党議員は、国会、地方を問わず少なくない。

 次の任期が最後だけに、党内は「ポスト安倍」を意識しながら動く。石破茂元幹事長も、おおかたの予想を上回る存在感を示した。社会保障の将来像や財政健全化の道筋を描くのも、激変する安全保障情勢をふまえた外交も、一筋縄ではいかない。

 多くのハードルが待ち受けるなか、首相が憲法改正を改めて前面に掲げたのは、求心力を保とうとしてのことだろう。だが与党内にもある慎重論を押し切って改憲手続きを強行すれば、国論は二分される。

 「謙虚に丁寧に政権運営にあたりたい」と首相は繰り返すが、批判されると激しく攻撃する言動がこれまでも目立った。

 首相がいま自覚すべきなのは、「1強」が強力になりすぎ、議員や官僚による忖度(そんたく)やおもねりを生んだことだ。ここでたださなければ弊害は広がるだろう。

 内閣改造と秋の臨時国会が控える。本気で「謙虚、丁寧な政権運営」をするなら、まずは人事や国会運営で、ゆるみやおごりの芽をつむ。そして異なる意見をすくい取り、可能な限り反映させる。合意形成の政治に踏み出すべきだ。

 逆に対立をあおれば、熱心な支持層には歓迎されても、行き着く先は国民の分断だ。そんな手法で、政権のエネルギーを得てはならない。

(天声人語)お前ではなし      2面

 作家の内田百けん(ひゃっけん)を訪問した客は、どきっとしたことだろう。玄関にこんな貼り紙があるのだから。〈世の中に人の来るこそうれしけれ とはいふもののお前ではなし〉。来客はうれしくも煩わしくもある。古い狂歌をもじった百けん一流のユーモアである

▼広い世には冗談のかけらもない「お前ではなし」もある。自民党総裁選の最終日、安倍晋三首相が東京・秋葉原の駅前で演説した。前の方には支持者たちが陣取り、それ以外の人が行こうとすると遮られたという

▼安倍氏は昨年、街頭で自分に抗議する人たちを指さして「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫んだことがある。国民を敵味方に分けるような姿勢は批判を浴びた。教訓を踏まえ、味方以外を遠ざける策に出たか

▼安倍氏が石破茂氏を破り、自民党総裁に3選された。総裁選は党員や議員のみならず、すべての国民に語りかける好機だったはずだ。しかし伝わってきたのは、こんな本音ではないか。「相手にしたいのは、お前ではなし」

▼討論や演説の機会が減る一方、議員への圧力が明るみに出た。「石破氏を応援するなら辞表を書け」。安倍応援団の一人からそう言われたと、農水相が告発していた。なるほど「1強」とはこういうことか。情けない舞台裏を見せられた

▼森友・加計問題も満足のいく説明はなかった。終盤で石破氏がこう訴えていた。「真実を語らない政治家は、国民を信じていない」。盛り上がりを欠いた選挙の悲しい総括かもしれない。

首相、崩れた「圧勝」   

 自民党総裁選で安倍晋三首相が連続3選し、新たに3年間の総裁任期を手にした。しかし、陣営が狙った「圧勝」にはほど遠く、対立候補の石破茂・元幹事長の存在感を高める結果となった。来夏に参院選を控え、悲願とする憲法改正への道筋も不透明さを増す。

 ■目標下回る地方票「反乱だ」 森友・加計や「圧力」問題、響く

 20日午前、安倍陣営に衝撃が走った。この日早朝から始まった各都道府県連での開票結果が続々と伝わったのだ。

 「(票差が)拮抗(きっこう)している。どうなってんだ」「予想以上に石破が取っている。ショックだ」。国会議員たちからはそんな声が上がり、自民党幹部は「地方の反乱だ」とうなだれた。

 午後に発表された票数は、首相553票に対し、石破氏254票。党員・党友からなる地方票では、首相224票に対し、石破氏181票。首相が国会議員票で8割を超えた一方、地方票では5割半ばにとどまり、議員と党員らの意識の乖離(かいり)が目立つ結果となった。

 3選を果たしたばかりの首相に、自民党本部で伊吹文明・元衆院議長が「石破さんが善戦したね」と声をかけると、首相はこう答えたという。「気を引き締めて頑張ります」

 発表から約4時間後の記者会見。首相は、現職首相が戦った過去の総裁選のデータを次々に挙げ、「今回は過去の例を上回る、全体で7割近い得票を頂くことができた。これは私にとって大きな力だ」と述べ、自らの勝利を強調した。

 とはいえ、「圧倒的勝利を次の3年に与えて欲しい」(甘利明・元経済再生相)と訴えてきた首相側にとっては、誤算とも言える結果だった。

 出身派閥の細田派幹部は、石破氏との一騎打ちの構図が固まった際、「現職だし、地方票の目標は7割だ」と掲げたが、結果は55%止まり。投開票直前に安倍陣営が開いた「必勝出陣の会」で、議員用に振る舞った験担ぎのカツカレー333食分は完食されたが、国会議員票は329票。少なくとも4人がカレーを食べながら、首相には投票しなかった計算になる。陣営幹部は「一体誰なんだ」と嘆いた。

 二階俊博幹事長は20日の記者会見で、「結果は結果として謙虚に受け止めなきゃいけない」と語り、石破派の処遇についても「すべての問題にオール自民党で戦っていきたい」と述べ、石破氏側への配慮をにじませた。

 今回の総裁選で目立ったのは、首相側による「圧勝」を意識するあまりの締め付けだ。そのことがかえって議員や地方での反発を呼んだ。また、日本記者クラブ主催の討論会やテレビ出演では森友・加計学園問題を厳しく問われる場面が続き、首相の説明の不十分さが際だった。

 衆院竹下派の首相支持派の会議に出席しながら、白票を投じた船田元氏は記者団に「安倍1強で党内でなかなか物を言うことが難しくなっている」と、首相支持を見送った理由を説明した。細田派中堅の一人は「昨年の衆院選の時も支持者の半分くらいは首相を信用できないという感じだった。これが党の現状」と突き放し、派閥の意向に従って首相に投じた岸田派の衆院議員は「次の衆院選を安倍首相で戦いたい人はいない。かなりしんどいと思う」と語った。(南彰)

 ■石破氏254票、次へ存在感

 地方票で健闘を見せた石破氏は、冗舌だった。

 「これ以上ないほどのお力をいただいた」「いい形で(自身がポスト安倍となる)次の政権につなげる努力をしたい」――。総裁選後に記者団に囲まれた石破氏は、20分近くにわたって得票の評価や、これからの政治活動への思いを語った。

 8月の立候補表明時は孤立していた。主要派閥が早々と首相支持を打ち出し、「ポスト安倍」候補に名前の挙がった岸田文雄政調会長も立候補を断念して首相支持に回った。政権幹部らから「石破は終わりだ」「石破派ごと離党すればいい」との声が上がり、包囲網が築かれていた。国会議員票は50票台にとどまるとみられ、「首相とは7倍ぐらいの開きがあった」(石破氏)。

 風向きが変わったのは、今月7日の告示以降のことだ。舞台裏で、青木幹雄・元参院議員会長の要請で石破氏支持に回った吉田博美・参院幹事長ら参院竹下派の面々が動いた。

 参院議員側には安倍首相一色という自民党の現状では来夏の参院選は戦えないという危機感があった。吉田氏らは態度未定の議員に「我々は反安倍ではない。安倍首相によりよい政治をしてもらうためにも石破に入れてほしい」などと働きかけ、上積みを図った。

 さらに追い風となったのは、石破派所属の斎藤健農林水産相が明らかにした首相陣営から閣僚辞任を迫られたという「圧力」問題だった。「モリカケの反省が生かされていない」。オセロゲームのように、首相支持の議員たちが石破氏支持に変わるとの情報が陣営に寄せられた。

 20日の投開票で石破氏の国会議員票が「73票」と発表されると会場からどよめきが起き、石破氏自身も驚いたような表情を見せた。

 党内で将来的な首相候補と目されている小泉進次郎・筆頭副幹事長も、石破氏に投票したことを記者団に表明。「違う意見を抑えつけるのではなくて、違う声を強みに変えていく自民党でなければならない。そんな思いから(石破氏に)投票した」と語った。

 地方票でも首相に40票差近くに肉薄し、陣営内では「最高の結果」との受け止めが広がる。石破氏を支持した竹下派の一部と石破派の合流論を唱える声もあり、石破陣営の選対本部長を務めた竹下派重鎮の尾辻秀久・元参院副議長は20日の陣営の会合で、「今後とも同志として互いに切磋琢磨(せっさたくま)していこう」と呼びかけた。

 陣営からは強気の発言が飛び出す。石破氏は記者団に、「私を支持してくれた方の中に有能な方がいっぱいいる」と述べ、内閣改造や党人事での処遇を求めた。石破氏を支持した竹下派会長の竹下亘総務会長も記者会見で、参院選に向けて石破氏の存在感が「重要だ」と述べ、石破氏登用の必要性を訴えた。(岩尾真宏)

 ■憲法改正、さらに視界不良

 首相は総裁選で憲法改正に向けた機運を再び盛り上げることを目指してきたが、3選を経てなお、来夏の参院選前に発議を押し切れるほどの状況にはない。

 首相は投開票終了後、党本部7階に集まった陣営の国会議員らを前に「憲法論争について、私の考え方を提示してきた。一つの方向の結果が出たと思っている」と強調。記者会見では、「憲法改正は総裁選挙の最大の争点だった」と前置きしたうえで、「選挙で結果が出た以上、一致結束して進んでいく。全党の皆さんにご理解いただけると思う」とした。自衛隊を明記する自身の改憲案が信任を得たという主張だ。

 しかし、石破氏は、敗戦が決まった後も首相の前のめりな姿勢を厳しく批判した。「憲法の向き合い方を粗略にするのは、国を真剣に考えていないということだ」

 石破氏は選挙期間中の討論会で、「9条改正は、本質をきちんと改正しないままに(自衛隊を)書けばいいというわけではない」と主張。党内でも改憲論議は丁寧に進めるべきだとの意見は根強い。

 首相は記者会見で、「公明党とも調整を行いたい」と述べたが、その公明幹部は「元々、憲法改正は厳しい。それがより厳しくなった」と指摘。山口那津男代表も会見で「自民党自身が判断されること。我々はそれを注視したい」と述べるにとどめた。来年は統一地方選、皇位継承、大阪市での主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)など、ただでさえ日程が目白押し。自民党案を国会に提出できたとしても、衆参3分の2を維持する参院選までの間に発議ができる環境にはないのが実情だ。

 ■今後の主な政治日程

  <2018年9月23日> 首相、訪米
  <30日> 沖縄県知事選投開票
  <10月1日?> 内閣改造
  <23日?> 首相、訪中
  <19年1月> 通常国会召集
  <春> 統一地方選
  <4月30日> 天皇陛下が退位
  <5月1日> 皇太子さまが新天皇に即位
  <6月> 大阪でG20サミット
  <夏> 参院選
  <10月> 消費税率10%引き上げ

石破氏「イスから落ちるほど驚いた」首相の改憲案発言に   

この記事は、朝日デジタル版に「こんなニュースも」としてあったものです。
(BS日テレの番組収録、記者団の取材に)2018年8月16日21時00分

 ■自民党の石破茂元幹事長(発言録)

 (安倍晋三首相が自衛隊明記などを盛りこんだ党の憲法改正案を秋の臨時国会か来年の通常国会への提出を目指す考えを示したことについて)

総裁(安倍)が9条1項、2項をそのままに自衛隊を明記したいとおっしゃった時、イスから転げ落ちるほど驚いた。1回もそんな議論出たことがない。どういうことか尋ねたら、「新聞を読め」と。党員に向かって真剣に語ってもらいたかった。優先順位は何か。何も変わらない9条に自衛隊を追加することか。9条は国民の理解なくして、改正することがあっちゃいかん。

(秋の臨時国会での提出は)ありっこない。あり得ない。(9条改正を)戦争の惨禍を体験した方がいらっしゃるうちにやりたいという思いはある。戦争を全く知らない人間だけで改正していいと思わない。その説得の努力をしたか。「新聞読め」ってのが努力か。

 秋に出すというのは、先にスケジュールありきで、民主主義の現場を理解していないとしか思えない。党の憲法改正草案を熟読してから言ってもらいたい。きちんと読んで、どれならば国民の理解、他党の理解が得られるかを考えるのがトップの責任でしょ。

安倍1強の限界明らかだ    (社説)3選はしたものの  14面

 1強の弊害に真剣に向き合わず、異論を排除し、世論の分かれる政策も数の力で強引に押し通す。そんな安倍政治はすでに限界と言わざるを得ない。さらに3年の任期に臨むのであれば、真摯(しんし)な反省と政治姿勢の抜本的な転換が不可欠である。

 自民党総裁選は7割近い得票を得た安倍首相が、石破茂・元幹事長の挑戦を退けて3選を決めた。しかし、国会議員票では8割を得ながら、党員・党友による地方票は55%にとどまった。石破氏に投じられた45%は、首相に対する批判票と受けとめるのが自然だろう。

 ■「品格」なき締めつけ

 6年ぶりの選挙戦となった今回の総裁選では、開かれた政策論争に後ろ向きな首相と政権党の姿勢が際立った。

 石破氏が8月上旬に立候補を表明したのに対し、首相は西日本豪雨への対応などを理由に態度表明を遅らせ、結局、告示前の討論会は実現しなかった。告示後も北海道での大地震や外交日程を理由に、実質の運動期間はほぼ1週間に短縮された。

 表の論戦を極力避けようとする一方で、水面下では首相を支持するよう強烈な締めつけが行われた。「『石破さんを応援するなら辞表を書いてやれ』と言われた」。石破派の斎藤健農水相は首相陣営から、そんな圧力をかけられたと明かした。「官邸の幹部でもある国会議員から露骨な恫喝(どうかつ)、脅迫を受けた」と、フェイスブックに書き込んだ地方議員もいた。

 ところが、「品格ある希望にあふれた総裁選」を掲げた首相が、陣営をたしなめた形跡はない。斎藤氏に対し、そう言った相手の名前を明らかにするよう求めるなど、「告発」を封じるかのような対応を見せた。

 論戦そっちのけで票の積み上げに奔走する首相陣営の世論との乖離(かいり)を象徴的に示したのが、選挙戦最後の首相の東京・秋葉原での街頭演説だった。公の空間であるにもかかわらず、周辺を支持者で固め、首相に批判的な聴衆を遠ざけた。

 ■「権力」への自省欠く

 森友・加計問題など、1強政治がもたらしたおごりやゆがみに加え、総裁選での安倍陣営のふるまいが、一般の世論により近いとされる党員・党友の投票行動に影響を与えた可能性は否定できない。党内7派閥のうち5派閥が競うように首相支持で動くなど、1強になびいた国会議員の姿とは対照的だ。

 「権力は腐敗する」というのが歴史の教訓だ。それだけに、強い力を持った長期政権においては、謙虚に批判に耳を傾け、自省を重ねる姿勢が欠かせない。危惧するのは、首相にその自覚がうかがえないことだ。

 引き続き政権を担う以上、その前提として求められるのが、問題発覚後1年半がたった今も、真相解明にほど遠い森友・加計問題に正面から取り組むことだ。

 政治や行政への信頼は、あらゆる政策遂行の基礎である。にもかかわらず、首相は3選後のきのうの記者会見でも、「一度できあがったイメージを払拭(ふっしょく)することは、そう簡単ではない」と、問題の本質をすり替えた。

 首相に近い人物が特別扱いを受けたのではないかという疑惑。そして、公文書を改ざんしてまで事実を隠蔽(いんぺい)する官僚。国会は巨大与党が首相をかばい、行政監視の責任を果たせない。

 こんな政治をたださねば、悪(あ)しき忖度(そんたく)もモラルの低下も歯止めが利かなくなる。その悪影響は社会の規範意識をもむしばみかねない。問題のたなざらしは許されない。

 ■国民に向き合う覚悟

 安倍政権の前には、内政・外交とも重い課題が山積する。

 アベノミクスの成果を、どうやって地方や中小企業に広げるのか。首相は金融緩和の「出口」に触れたが、デフレ脱却の見通しが立たない中、任期中に道筋をつけるのは容易ではない。社会保障制度の立て直しや財政再建も先送りはできない。

 首相が重ねて意欲を示した自衛隊明記の憲法改正は、明らかに喫緊の課題ではなかろう。本紙の9月の世論調査でも、総裁選の争点で改憲を上げたのは8%と、6項目のなかで最低だった。長期政権の持てる力は、少子高齢化や年金・医療・介護など、国民生活に深くかかわる課題にこそ集中すべきだ。

 いずれも、幅広い国民の理解と支持を得ながら進めなければうまくいくまい。政権与党の方針を推し進めるだけでは、国民の分断を招きかねない。野党を敵視し、対立をあおるようなこれまでの手法を、首相は改める必要がある。

 問われているのは、国民に向き合う覚悟である。まずは臨時国会を速やかに開き、所信でその決意を表明する。そのうえで具体的な行動を通して、1強の弊害をただしていく。

 この3選を出直しの機会にできなければ、次は来年の統一地方選や参院選で、国民全体の審判を受けることになる。

認知症とともに  オピニオン&フォーラム

(声)認知症とともに 妻87歳、いま後悔すること 2018年9月21日

 無職 伊藤新次郎(愛知県 85)

 認知症と診断された2カ月後。妻は家の重要書類を全部出し、明日より金の管理と家事をお願いしますと私に差し出した。家のことは心配しなくてよいと説き、私が一切の家事をやることにした。

 私は、妻の負担をなくせば病の進行を遅らせることができると信じていた。朝夕の着替えもベッド横に着る順番で並べていたが、本人が一人で着用できたのは2年ほど。パンツに頭を通すなど、次第に着方もわからなくなった。3度にわたり行方不明にもなった。妻は病のことを友人らに知らせており、パトカーを呼んでくれたり送り届けてくれたりした。

 5年間の老老介護も一人では手に負えなくなり、妻に施設に入ってくれるか尋ねたら、父さんが楽になるなら行くと言ってくれた。

 入所して4年。妻はもう会話もできず、私の顔はわからないようだ。名を呼ぶとハイと返事する以外、言葉は返ってこない。病気になった時点で妻の家事を見守るだけの度量が私になかった故に一切の仕事を取り上げるようになり、病の進行を早めたように思う。

 妻八十七歳、夫八十五歳。

(声)認知症とともに 老いた母から授かったもの

 介護職 新井よし子(千葉県 49)

 母が認知症と診断されてから7年。否定、怒り、諦め、受容、そしてまた否定。老老介護の父。さらっと言える7年ではない。私がある日、母に靴下をはかせていると、「ありがとうございます」と言われた。頭では病気を理解しているつもりでも悲しかった。

 お母さん、私だよ、姉ちゃんだよと言いたかったが、認知症のケアでは相手の思いを否定したら混乱させる。父は「お母さんがどうにかなっちゃった」と涙ながらに訴えてくる。外出して転び、血だらけで搬送されたこともあった。

 母の病気に向き合い、正しい介護がしたくて私はヘルパーの資格を取った。父も近所の認知症カフェで相談できる人とつながれた。在宅で介護を続ける78歳の父の頑張りには頭が上がらない。

 母は18歳で東北から上京し、和裁一筋で働いてきた。歌いながら料理をするような陽気で勤勉な母だった。もう会話もほとんど成り立たない母だが、老いてなお、ヘルパーという仕事を私に授けてくれた。ありがとう、お母さん。仕事と家庭と両親の世話と、三刀流で細く長く頑張るね。

(声)認知症とともに 妻の小さな歌声、私の癒やしに

 無職 二宮剛(東京都 81)

 84歳になる要介護度5の妻は、近くの特別養護老人ホームに入所しています。毎日、夕食の介助に通っていますが、進行がとても早いと感じています。昨日出来たことが今日は出来ないことにガックリし、悲しく、寂しくなります。

 10月で入所して2年。当初は持参した新聞の記事について質問すると答えを返してくれましたが、今は新聞を読めなくなりました。唯一、小さな声ですが、スマホで流すカラオケの懐メロや童謡を口ずさむ程度で、その姿に癒やされています。小さな声ながら妻が口ずさんでくれる歌声を聞くと、私の疲れた心の片すみに小さな「癒やしの花」が見え隠れするのです。そして認知症家族の心の苦しみが、わずかばかりですが軽くなったような心地になるのです。

 妻の日々の症状を見ていると「薬で認知症の進行を遅らせる」という言葉には何だか物足りなさを感じるこのごろです。懐メロの曲名ではないが、「時の流れに身をまかせ」るが、医療や介護の関係者、家族の率直な思いなのではないでしょうか。願うは国を挙げての特効薬の開発です。

(声)認知症とともに 寄り添い学ぶことは人間磨き

 非常勤国家公務員 田添京子(長崎県 67)

 地域の「オレンジカフェよかとこ」が毎月開かれ、お年寄りや地域包括支援センター職員、私たち認知症サポートリーダーが集う。今回は精神科医に認知症の予防や介護を学んだが、聴くたびに再確認につながる。

 認知症は環境や人間関係に左右されることがある。不安や戸惑い、悲哀、絶望、様々な感情が当人を支配する。その人が何に困っているか、何を望んでいるか、周りの人は懸命に考えないといけない。何よりも気持ちの安定が最優先だ。

 ゆっくり優しい言葉で声かける。声かけは簡潔に。非難しない。プライドを傷つけない。恥をかかせない。認知症の人への対応は究極の人間磨きだ。夫が私より先に認知症になったら私は自信がない。でも学んだことを思い出し、気持ちに少しでも寄り添おうと努力できるかもしれない。

 若い頃には想像だにしなかった世界が、自分たちに訪れている。私は、認知症予備軍の気持ちでボランティア活動に参加している。

(声)認知症とともに 義母の言葉そのまま受け入れ

 主婦 北郷瑞恵(埼玉県 71)

 転んでから義母はベッドで過ごす時間が多くなった。私はスプーンを無理に口元へ運んだ。「私をどうする気!」と義母が怒鳴った。口惜しくて涙が出た。

 夜中2時、お客様にお茶をとガスの前に義母が立っていた。はっとした。認知症が相当進んでいる。私は義母の言葉をそのまま受け入れてみようと決意した。

 散歩は車いす。「今度はあなたが座りなさい」と言われ、従う。義母のぬくもりが残っている。細い体の義母は懸命に押す。私は座ったまま片足で地面を数回けった。動き始めた。

 ベッド脇の便座で用を足していた義母が言った。「あなたお国は?」「九州です」「お名前は?」「北郷です」「あら私と同じ名字ね」「実は私、あなたの息子さんのお嫁さんになったんです」。マアー、と満面の笑みで、義母は私の両手をギューと握りしめた。

 義母は90歳で逝った。笑いが絶えなかった。何とかしなければと力んで介護していたら、ため息ばかりの日々になっていただろう。

(声)認知症とともに 夫を迎え入れてくれたご近所

 主婦 石田晶子(埼玉県 78)

 夫はアルツハイマー型認知症である。まだ初期だが、同じことを何度も聞きに来たり今までできていたことができなくなったり、これから症状がどう進むのか、不安を抱えた毎日だ。

 発症するまでは国際交流ボランティアで活動し、英語やダンスのサークルで忙しくしていた。物忘れが多くなり、自分から活動をやめたりやめさせられたり、本人も家族もつらい思いをしている。

 その中で、私たちの住む団地のボランティアグループは今も温かく迎えてくれている。このグループは、団地内の木々の手入れや花壇の管理をしていて、毎週日曜日に2時間の作業をする。「来たい気持ちのある間はいつまでも来て下さい」「みんな仲間です。できることをやってもらいますから」と言ってくれる。近所の仲間の方々が受け入れてくれるのをありがたいと思う。

 認知症を身近な問題として偏見なく受け入れてくれる社会がもっと広がることを切に願っている。

(声)認知症とともに 同居の家族は落ち着けません

 自営業 花村隆(岐阜県 60)

 87歳で認知症の母と同居しています。週6回、デイサービスに通っていますが、本人はボランティアをするために行っていると思っています。認知症だと自覚がないので、時々、家庭内でいざこざが起きます。

 30年前に結婚して家を出た私の妹が、まだ家に帰らないと言って、夜に騒ぎ出すことがあります。「迎えに行かないかん」と言い、無視をしていると怒りだします。常に自分が正しいと思っているので、何を言っても納得しません。

 認知症の母にとって、家族が同居するということは良いことだと思います。母の身に何かあってもすぐ対応できるからです。しかし、母とコミュニケーションをとることはできません。同居する家族は、母が何か言うたびにひやひやして落ち着けません。同居している家族はストレスがたまります。

 自分が将来、認知症になったら、グループホームに入って、家族とは離れて暮らした方が良いのかなと思っています。

(耕論)かくも長き安倍時代    竹中治堅さん、丹羽宇一郎さん、小島毅さん

 安倍晋三首相が自民党総裁選で3選を果たした。「1年ごとに首相が代わる」と揶揄(やゆ)された日本になぜこれほどの長期政権が出現したのか。長い「安倍時代」を考えてみた。

 ■強い官邸、戦略を総合判断 竹中治堅さん(政策研究大学院大学教授)

 安倍一強、と言われる長期政権が出現した理由は、一連の改革によって首相の権限、首相官邸の役割が劇的に強大化してきた構造変化をうまくいかし、政権を運営してきたことが大きいと思います。

 かつての自民党政権は派閥による疑似連立政権でした。中選挙区制のもと1970年代に成立した5大派閥体制では、一つか二つの派閥が反旗を翻せば大きく動揺し、政権は短命になりがちで不安定でした。

 小選挙区を柱とする選挙制度にした94年の政治改革が状況を変えました。政党トップの力が候補者の公認を含めた人事でも、お金の面でも非常に強くなり、派閥は弱くなりました。トップを引きずり下ろしにくくなったのです。

 その後も2001年の省庁再編、14年の公務員制度改革と、三段跳びのように、首相の力は構造的に強くなっていきました。もともと橋本龍太郎政権が手がけた省庁再編は中央官庁の数や看板だけでなく、戦前から続いた、独立性の高い省庁による相互調整が軸だった日本の統治機構を変えたのです。さらに公務員制度改革で、官僚の幹部人事に対する首相官邸の影響力が大きく高まりました。

 政策は各省庁、各大臣がつくるものでした。しかし01年に、首相が直轄で政策を立案し閣議に提案できるように内閣法を改正しました。内閣官房が企画立案を行うことも、正面から認められたのです。

 例えば、トランプ米政権の出現で米国が離脱し、11カ国となった環太平洋経済連携協定(TPP11)は、日本主導でとりまとめました。これだけ重要な多国間の外交交渉を日本がリードしたことは画期的で、戦後の歴史の中で前例がないでしょう。

 成功の要因は安倍首相個人の力量だけではありません。交渉全体を通して、日本として何を譲歩し、何を獲得すべきかといった戦略について、首相官邸が総合的に判断できたことが大きいのです。以前の日本であれば、通商交渉のたびに、農産物の市場開放をめぐって農水省や農林族議員が反対し、ギリギリまで国としての方針すらまとめることができなかったでしょう。

 いくら強化されたといっても大統領制ではないので、内閣不信任案による議会からの牽制(けんせい)を受け、辞めさせられるリスクは常にあります。しかし、自民党総裁として3選されたいま、こうした力をどう使うかが問われています。

 やはり最大の課題は、少子高齢化でしょう。大きな課題解決に向けて、持てる力を発揮して実績を積み重ねることができれば、東京オリンピック閉幕後、安倍4選を求める声があがることも、あり得ると思います。3選もそうでしたが、政党内部のルールを変えればできることですから。(聞き手 池田伸壹)

     *

 たけなかはるかた 1971年生まれ。旧大蔵省を経て政策研究大学院大学助教授、2010年から現職。著書に「首相支配」編著書「二つの政権交代」など。

 ■国民信じ、「不都合」直視を 丹羽宇一郎さん(元中国大使、元伊藤忠商事会長)

 政権が長期なのか短期なのかは、本質的な問題ではありません。「山高きが故に貴からず」、長ければいいというわけではない。「樹あるをもって貴しとなす」、樹、つまり成果が重要なんです。

 アベノミクスがもたらしたものは、一言でいえば円安です。円安を背景にした輸出、特に自動車の輸出増加で成長を引っ張っていますが、設備投資も個人消費も伸び悩んでいる。輸出は非常に大事ですが、円安効果だけで輸出が増えても、日本企業の実力にはつながりません。

 経済財政諮問会議は、毎年「骨太の方針」を出しますが、今の安倍政権では、骨太どころか小骨しかやっていない。人口減少への対策、財政再建、社会保障改革といった根幹への切り込み不足です。

 外交でもそうです。普通、政権が長く続いたほうが外交はやりやすい。中国の指導者は10年務めるし、米国大統領も8年が多い。G7に長く出ていれば先輩格になり、個人的な関係もできます。

 しかし、安倍さんは長期政権のメリットを生かせていない。貿易摩擦で米中関係が悪化している中で、中国も本音では、日本との関係を良くしたいはずです。両首脳は、この6年間に様々なルートを使い、動くべきだったのです。

 外交には裏表があって当然です。日ロもそうですが、表だけの外交は心もとない。水面下で本音を探り合うことで、外交は成り立つのです。

 日米関係でも、トランプ氏との親密さを強調して、「北朝鮮には最大限の圧力をかけることで完全に一致した」と言っていたけれど、米国は裏では金正恩(キムジョンウン)氏との対話を準備していたわけです。本当のパイプがないから、完全に蚊帳の外に置かれてしまった。

 企業経営でもそうですが、6年、7年と続けて、誰も文句が言えないような体制になってしまうと、権力は腐る、との教訓が現実のものとなりかねません。

 計9年の任期の3分の2、6年間はすでに過ぎました。森友・加計問題など様々な「宿題」に誠実に取り組んできていないという、国民の圧倒的多数の声にほおかむりを続けるわけにはいきません。最後の3分の1、いわば「終わりの始まり」にあたり、その解答が問われています。

 もっと国民を信頼し、「不都合な真実」を直視して、誠実に、丁寧に話すべきです。長期政権を担う以上、「皆さんに負担をかけるかもしれないが、日本の将来のためにがまんしてほしい。必ず課題を解決します」と胸を張って言ってほしい。企業経営の根幹は社員を信じることです。社員を信頼できない社長に、企業を立て直すことはできません。政治でいえば、首相と国民の関係も同じです。信なくして国立たず、です。(聞き手 編集委員・尾沢智史)

     *

 にわういちろう 1939年生まれ。伊藤忠商事の社長、会長を務める。2010~12年に駐中国大使。現在は日中友好協会会長。

 ■不可解な“禅譲”、非民主的 小島毅さん(東京大学教授)

 日本の政治で、「禅譲」という言葉が普通に使われるのは不可解ですね。今回の自民党総裁選でも、岸田文雄さんが将来の禅譲を期待して出馬を断念したとか言われましたが、禅譲の本来の意味からすると違和感があります。

 禅譲はどちらの字も「ゆずる」という意味で、君主が自分の子ではなく、賢者に位を譲ることをいいます。「孟子」にある、尭が舜に位を譲ったという話などが典拠です。儒教では、これが理想的な王位継承の姿で、世襲より望ましいとされてきました。

 ただ、実際は単なる形式として使われました。最初の例は、1世紀の前漢から新への王朝交代。新を建国した王莽(おうもう)は王権を簒奪(さんだつ)したのですが、尭・舜の禅譲伝承を利用してそれを正当化した。以後10世紀の宋まで、王朝交代はほとんど禅譲の形式をとります。

 禅譲という形式が使われた結果、流血の抗争はある程度抑制されます。前の王家の人々は殺される場合が多いものの、宮廷の高官たちはそのまま権力を温存したからです。

 儒教の教義では、禅譲と放伐、すなわち武力による政権奪取が対になっています。君主が暴虐であれば、殷の湯王や周の武王のような聖人が武力で取って代わるのは正当だとされました。

 日本に王朝交代はありませんでしたから、禅譲は儒教の教養として知られてはいたけれど、現実政治に影響したことはなかった。影響があったのは放伐で、それもその否定論です。17世紀の儒者の山崎闇斎は、殷や周の放伐ですら批判し、王朝交代のない日本の優越性を主張しました。

 日本の国体は天皇を君主にもつことだという見解は、明治維新の原動力でした。薩長は事実上の放伐を行ったわけですが、天皇の錦の御旗を掲げることで、賊軍討伐の形式で幕府を倒したわけです。

 総裁選でも、2012年の石原伸晃さんのように幹事長が現任総裁の対抗馬になろうとすると、「君に弓を引く」的な言い方をされる。本質は権力闘争なのに、放伐を嫌い禅譲をよしとする風潮がある。

 だから、安倍さんを力で倒すよりも、禅譲を待つといった話が正論として幅をきかせる。本来の禅譲とは全く違うわけですが、聞こえのいい言葉だから流通してしまう。

 尭は舜に禅譲して政界から引退しました。その意味で、今の永田町で使われる禅譲は、むしろ中世の院政における譲位にあたります。前任者とその取り巻きの権力温存を保障するしくみだからです。

 民主主義の理念では、政権の正統性は自由な選挙によって多数の支持を獲得することにもとづいています。現職に対抗する人物をつぶしにかかり、禅譲という美名での交代をはかるのは、自由・民主に反する行為に他なりません。(聞き手 編集委員・尾沢智史)

     *

 こじまつよし 1962年生まれ。専門は中国思想史。著書に「儒教の歴史」「靖国史観」「儒教が支えた明治維新」など。

党員の声、政界とズレ
政治姿勢に不満・地方軽視感じる
   安倍首相、自民総裁3選

 安倍晋三首相が連続3選を果たした自民党総裁選。国会議員票では石破茂・元幹事長に大差を付けたが、地方票では石破氏が善戦した。投票した党員らからは、首相の強引な政治手法や、「1強」になびく国会議員への不満が漏れた。

 「演説で安倍さんの政策はすべて具体的だった」。千葉県の男性県議は安倍氏に投票した。千葉県内の地方票は安倍氏が9131票で、石破氏の8238票を上回った。別の県議も「経済や外交でリーダーシップを発揮している。来年の選挙を指揮してもらいたい」と喜んだ。

 ただ、地方票は予想以上に石破氏と票を分け合った。党員らにどんな思いがあったのか。

 石破氏に投じた東京都内の30代男性は「政治の世界と、国民の認識に差があることがはっきりした」と思った。東京都狛江市の市議は「与党の中でもモノを言えるのが健全な姿」と、自民党のあるべき姿を考え、石破氏に投じた。来春の統一地方選で、市議選がある。「あと半年間、安倍政権で上積みできるものはあまりないだろう。(市議選は)やりにくい」と感じている。

 茨城県では、梶山弘志・地方創生相が安倍氏を推す方針を打ち出して県議団が従ったが、約6割の党員票が石破氏に流れた。自営業の60代男性は、安倍氏の森友・加計問題に関する説明に不満を感じた。「『丁寧な説明』と言いながら逃げていると感じる。知らなかったという言葉を信じる人は、どれくらいいるだろう」。「地方からの改革」という石破氏の主張に期待したという。

 山梨県大月市の70代の男性は6年前、若さに期待して安倍氏に投票したが、今回は、石破氏を選んだという。安倍氏には「地方や中小零細企業の現場を知らず、切り捨てている感じがした。憲法改正よりも、経済優先で国政のかじ取りをしてほしい」と求める。

 一方、今回の総裁選は「議論が低調」と指摘され、党の活力をアピールする場にはならなかった。石破氏が上回った群馬県の県議は、「森友・加計問題の影響は少なからずあったと思うが、そもそも結果が見えていて、あまり関心は高くなかった」と話した。

 ■話法・透明性…安倍氏に注文

 3選が決まった安倍氏。ただ、総裁選の期間中も、利害関係者とのゴルフの是非を問われ、「将棋はいいのか」と言ったりして、「論点をずらしている」などと指摘された。

 論理の欠点をごまかしつつ、自分を正当化するエリートの論法を分析して「東大話法」と名付けた安冨歩・東大東洋文化研究所教授は「もはやトンチンカンな答えしかできなくなっている。首相が日本語の根底を破壊してしまった。誰もが自分に都合のいいことしか言わない。役人ですら議事録があるのに国会で『そんな発言はない』と言い張る」と話す。

 国内では高齢化が進み、国の借金も膨らみ続けるが、「現実を直視せず、『本当のことを言ってくれるな』と世間が期待し、政治家もそれに応えている状態」と指摘する。

 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、森友・加計学園問題では、記録がないことが問題になったと指摘。「総裁として強いリーダーシップで引っ張るのなら、政治プロセスや自らの行動の記録を残し、公開させること。できなければリーダーとして不十分だ」と透明性を求めた。

 安倍政権の前には、消費増税や憲法改正といったテーマが横たわる。

 経済アナリストの森永卓郎さんは「究極の目標である憲法改正のためにも、消費増税は凍結させる可能性が高い」とみる。「実際に米中貿易戦争や景気循環など口実はあるだろう。そうやって支持率を上げ、憲法改正の国民投票に打って出るのではないか」と話す。

 ■「永田町を叱った」 石破氏地元

 「党員が永田町を叱ってくれたんだろう」

 石破氏の地元・鳥取県。自民県連の安田優子幹事長は地方票で石破氏が善戦した理由をこう分析し、一定の受け皿になれたとの認識を示した。そのうえで森友・加計問題を挙げ、「(石破氏が)言わないといけないことを言ったことが国民や党員に響いた」と語った。

 鳥取市内の事務所には支援者ら約40人が集まり、投開票の様子を見守った。三木教立(のりたつ)事務局長が「次につなげるステップになった」とあいさつすると、支援者から大きな拍手が起きた。

 当初から劣勢が伝えられた総裁選。京都市などであった候補者演説会には、地元からバスを連ねて駆けつけた。

 石破氏を支える鳥取県議の一人はこう語り、胸をなで下ろした。「負け方によっては『過去の人』になりかねないと感じていた」(横山翼、楢崎貴司)

 09 22 (土) 石破氏「善戦」     

今(2019/12/13)HPを整理していて、まだ処理していない資料を読み直していた。 読んでいて驚いた。 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」 この忠告が薄れてきている。

温故知新と思っていても、過ぎ去った事実は薄れてきて故事の再現を目にしたときハッと気づく。 総裁選の前後今も大事にチェックしなければならない。

次の記事を見よう。 いまでも検索すると、記事が出てきます。

石破氏「善戦」に、麻生氏「どこが?」 総裁選巡り舌戦
   岩尾真宏
   2018年9月22日09時16分
   https://digital.asahi.com/articles/ASL9P5F8CL9PUTFK017.html

 20日に投開票された自民党総裁選で、安倍晋三首相に敗れた石破茂元幹事長の戦いぶりをめぐって、舌戦が起きている。「善戦」との評価が広がる石破氏は21日、「党員の45%が私に入れている」と述べ、憲法改正を急ぐ構えの首相を牽制(けんせい)した。一方、安倍首相を支持した麻生太郎財務相は首相の「圧勝」を強調した。

特集「安倍×石破 二人が見る日本―自民党総裁選2018」

 石破氏はこの日、総裁選のお礼参りで、衆参の国会議員の事務所を訪問。首相が自衛隊を明記する自身の9条改憲案が信任を得たとの認識を示したことを記者団に問われ、「憲法の考えが(首相と)違うことが明らかになったうえで、党員票の45%が私に入ったことをどう考えるかだ」と反発。地方票での「善戦」を自ら強調した。

 一方、麻生氏は同日午後に開いた麻生派の会合のあいさつで、2012年の総裁選での決選投票と比べ、国会議員の数が増えたにもかかわらず石破氏の国会議員票が減ったことに触れ、「どこが善戦なんだ」と指摘。閣議後の記者会見でも「国会議員の方が本人をよく見ている」と話した。

 石破氏は同日夜、収録のため訪れたテレビ局で、記者団から麻生氏の発言の受け止めを問われ、「半数近くの支持の評価を善戦ではないとおっしゃるのは、党員の気持ちとズレが起きているのではないか」と答えた。

 総裁選は、1人1票の投票権を持つ国会議員票405票と同数の地方票の計810票で争われ、安倍首相は553票を獲得。石破氏は254票にとどまったが、事前の予想を大きく上回り、党内では善戦と受け止められている。(岩尾真宏)

(社説)文科次官辞職 規律と信頼を取り戻せ
   2018年9月22日05時00分

 文部科学省の戸谷(とだに)一夫事務次官が、業者から不適切な接待を受けていたとして減給処分となり、きのう辞職した。

 前任の前川喜平氏も天下りあっせん問題で辞職している。事務方トップが不祥事で続けて役所を去る。異常な事態だ。

 次官だけではない。小中高や大学の教育をつかさどる局長2人と、官房の総務課長も同じ業者から接待を受けていた。省庁や政界にパイプを築き、情報がほしい大学や企業と行政をつないで利益を得る、ブローカーのような存在とみられている。

 この業者との関係をめぐっては、別の幹部2人がすでに収賄の罪で起訴されている。

 典型的な癒着の構造に驚く。旧大蔵省の接待汚職などを受けて国家公務員倫理規程が作られたが、いつしか緊張感が薄れ、この醜態を招いたのか。

 4人は、政治家も同席すると聞いて、飲食の場に加わったなどと説明しているようだが、教育を担い、子どもたちに道徳を学ぶように指導する文科省である。その役所の幹部が軒並み「倫理」を問われる。恥ずべき話と言うほかない。

 利害関係者との接触に関するルールを徹底するとともに、行政の公正公平を傷つける問題が潜んでいないか、各部局の業務を再点検する必要がある。

 文科省もまた、安倍1強政権下で官邸や政治の動きに振りまわされ、揺れ続けてきた。

 加計学園の問題では、「総理のご意向」などと記した内部文書が省内に残っていたことで、政権から逆に攻撃を受けた。

 この問題で政権を批判した前川氏がことし2月、名古屋市の中学で講演した際には、自民党議員の「問い合わせ」に文科省側が過剰に反応。地元市教委に講演内容をしつこく問いただすなど、異様な振る舞いに走って厳しい批判を浴びた。

 こうした事実が積み重なり、さらに今回のようなスキャンダルによって国民の信頼を失えば、発言力は弱まり、省内の士気が低下し、政策の推進力も鈍っていく。

 憲法が定める「教育を受ける権利」や「思想・学問の自由」と密接な関係をもつ役所が、そんなありさまでは、この国の将来が思いやられる。

 目の前の課題だけでも、少子化・グローバル化を見すえた授業方法や大学入試のあり方の検討、貧しい家庭への学習支援などが山積している。

 規律と信頼の回復に全力を尽くす。それができなければ、被害を受けるのは、現在の、そして未来の子どもたちである。