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続折々の記 2018⑨
【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】09/14~     【 02 】09/15~     【 03 】09/16~
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          教えて!憲法 9条と安全保障:8~1
           (8)サイバー攻撃に反撃できる?(2018/09/22)
           (7)自衛隊は空母やミサイルも持てるの?(2018/09/21)
           (6)政府の解釈変更で何が変わったの?(2018/09/20)
           (5)自衛隊は海外で何ができるの?(2018/09/19)
           (4)在日米軍は「戦力」にあたらない?(2018/09/15)
           (3)自衛隊、どう位置づけられてきた?(2018/09/14)
           (2)どのように制定されたの?(2018/09/13)
           (1)自民総裁選でも焦点(2018/09/12)

【 07 】09/17~

 09 22 (土) 教えて!憲法 9条と安全保障:1~8     断面認識

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(8)サイバー攻撃に反撃できる?  2018/09/22
   https://digital.asahi.com/articles/DA3S13690245.html

写真・図版  【図版・解説】サイバー攻撃と自衛権をめぐる政府見解と主な論点

 サイバー空間が安全保障の新たな論点になっている。

 昨年1年間に確認されたサイバー攻撃は約1504億件にのぼり、過去最多を記録した(国立研究開発法人・情報通信研究機構まとめ)。攻撃対象は個人や企業、政府機関など多岐にわたる。情報の不正取得のような警察権の範囲の話にとどまらず、「国防」の領域に及びつつあるとされる。

 政府は今年7月、電力や金融など、国民生活や社会経済活動に欠かせない重要インフラが攻撃を受けた際の深刻度を「レベル0(影響なし)」から「レベル4(著しく深刻な影響が発生)」の5段階で評価することを決めた。事業者や国民に共通認識を持ってもらい、対応力を高めるのが目的で、今後、評価の方法をつめる。この先10年程度の防衛力のあり方を示す「防衛計画の大綱(防衛大綱)」の見直し作業でも、サイバー攻撃への対応指針が焦点になっている。

 ただ、サイバー攻撃と9条をめぐる議論が十分に積み上がっているとは言いがたい。

 自衛権を行使できる場合について、政府は「武力攻撃の一環としてサイバー攻撃が行われた場合」との見解を示す。個人や組織による攻撃もあり得るが、あくまでも攻撃主体は国家で、攻撃が「組織的、計画的な武力の行使」にあたり、一定の規模と影響をもたらす場合に限られる、と考えられている。だが、個別事例には言及していない。

 どんな場合に「サイバー反撃」ができるかについても、「他に適当な手段がない」「必要最小限度の実力の行使」などと定めた「武力行使の新3要件」に当てはまればできるという9条解釈の一般的な説明にとどまっている。

 サイバー攻撃という概念は広く、その内実は複雑だ。たとえば、原子力発電所などの重要インフラがサイバー攻撃を受けた場合、攻撃がシステムの弱点を探るための諜報(ちょうほう)活動にとどまるのか、破壊活動に発展するのか、はっきりしないことがある。東京海上日動リスクコンサルティング戦略・政治リスク研究所の川口貴久・主任研究員は「武力攻撃とも犯罪ともいえないグレーゾーンの議論や法整備を進めることが必要だ」と指摘する。

 また、攻撃者を知り、防御力を高める目的で攻撃をしかけることもあり、サイバーセキュリティーの世界では、攻撃と防御の概念自体があいまいだ。水島朝穂・早稲田大学教授(憲法学)は「現実空間の武力攻撃の議論を、そのままサイバー空間に移して議論するのは抑制すべきだ。9条のもとでは、攻撃をはね返す防御のしくみを開発することに時間と労力を割くことが重要だ」と言う。(二階堂勇)

     ◇

 「教えて!憲法 9条と安全保障」は今回で終わります。次の「教えて!」は「日本の科学力」を取り上げる予定です。

(7)自衛隊は空母やミサイルも持てるの?  2018/09/21

   https://digital.asahi.com/articles/DA3S13688538.html?iref=pc_ss_date

写真・図版  【解説】憲法9条のもとで、自衛隊が持てる装備と持てない装備

 安倍政権が2015年に成立させた安全保障関連法で、自衛隊の任務は広がった。安倍政権は、これにあわせて自衛隊が持つ能力そのものも変質させようとしている。その表れが空母や長距離巡航ミサイルによる敵基地攻撃能力の検討だ。

 空母は、広い甲板を備え、複数の戦闘機が発着できることから「動く航空基地」と呼ばれる。自衛隊が持てば、日本から遠く離れた海から戦闘機を飛ばすことができる。長距離巡航ミサイルは、海を越えて敵国のミサイル基地などを直接たたくことができる。

 戦力を持たず、武力による威嚇を禁じる9条のもと、「専守防衛」を安全保障の基本方針に掲げてきた日本政府は、これまでこうした兵器を持つことを慎んできた。

 もっとも、政府は9条があるから空母も巡航ミサイルも絶対に持てないと考えてきたわけではない。

 1988年4月、瓦力(かわらつとむ)防衛庁長官(当時)は「憲法上、保有し得る空母はある」と答弁した。政府は敵基地攻撃についても、攻撃を防ぐためにやむを得ず行う場合は「自衛の範囲に含まれる」と説明してきた。

 それでも、歴代内閣が自制してきたのは、9条の理念や国民感情に配慮した政治判断があったからだ。

 安倍政権はいま、これまでとは異なる判断により、保有に向けた検討を進めつつある。

 今年6月、自民党の防衛関係議員が安倍晋三首相に手渡した防衛力整備についての提言書は、柱のひとつが空母の保有だった。国内の航空基地が攻撃されたときに空母が肩代わりできるというのが提言の趣旨だ。海洋進出を強め、国産空母の建造を急ぐ中国を牽制(けんせい)する狙いもある。

 政府内では、これに沿う形で海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」に空母機能をもたせる構想が浮上している。全長248メートルでヘリコプター5機が同時に発着できるいずもの甲板を改修し、戦闘機も発着できるようにするとの案だ。

 提言書は、ミサイルによる敵基地攻撃能力の検討も促した。すでに政権は射程が最大900キロに及ぶ長距離巡航ミサイルの関連経費を予算に盛り込み、外国の基地攻撃に使える兵器をととのえ始めている。

 安倍政権は空母も長距離巡航ミサイルも専守防衛の装備だと位置づけ、もっぱら他国の国土を破壊するために使われる「攻撃的兵器」は持てないというところで一線は引いている。

 ただ、いずれも使い方次第ではいつでも「攻撃的兵器」に転じることができる。実際に保有すれば、これまでの専守防衛との境目がいっそうぼやけてしまうおそれがある。(藤原慎一)

(6)政府の解釈変更で何が変わったの?  2018/09/20

   https://digital.asahi.com/articles/DA3S13686710.html?iref=pc_ss_date

写真・図版  【解説】安全保障関連法の成立で何が変わったか

 安全保障関連法が3年前の9月19日、安倍政権のもとで自民、公明などの賛成多数で成立したことは、安全保障政策の歴史的転換だった。

 何が変わったのか。

 9条について、歴代内閣は日本に対する直接攻撃に反撃する「個別的自衛権」しか行使できないと解釈してきた。他国への攻撃に対して反撃する「集団的自衛権」は国連憲章で認められているものの、9条で許された「必要最小限度の自衛の措置」を超え、行使できないとの立場だった。国会でも「改憲しない限り、集団的自衛権は行使できない」と答弁してきた。

 ところが、安倍内閣は2014年、改憲の手続きを踏むことなく、閣議決定で政府解釈を変更。他国への攻撃であっても「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」(存立危機事態)などと政府が判断すれば、集団的自衛権を行使して反撃に加われるようにした。野党や憲法学者の多くは「憲法違反だ」と批判した。

 安保関連法は、集団的自衛権に関する新見解を具体化しただけではなかった。

 自衛隊が海外で他国軍を輸送したり、燃料などを補給したりする「後方支援活動」を広げた。自衛隊の派遣先を「日本周辺」から「地球規模」に、支援する対象を「米軍」からオーストラリアなどを含む「他国軍」に拡大。派遣期間を通じて戦闘が起きないと考えられる「非戦闘地域」に限っていた自衛隊の活動場所を、その時点で戦闘が起きていない「戦闘現場以外」にした。

 これらの変更によって、自衛隊の活動範囲は戦闘地域に近くなり、隊員が戦闘に巻き込まれる危険性も高くなった。9条が禁じてきた他国軍と一体となった海外での武力行使と受け止められる可能性も強まった。

 さらに、国連平和維持活動(PKO)では、自衛隊の武器使用基準を緩め、自分を守るためだけでなく、離れた民間人を助けに行く駆けつけ警護や住民保護といった任務遂行のために必要な武器使用を認めた。また、自衛隊は米軍との運用の一体化を進める訓練に力を入れている。17年5月には平時に自衛隊が米艦を守る「武器等防護」の新任務を始めた。

 これに対して、安保関連法の違憲性を問う裁判が全国各地で起こされた。現役自衛官が起こした裁判では、国が存立危機事態について、「国際情勢に鑑みても具体的に想定しうる状況にない」と説明。法案審議では、安倍晋三首相が北朝鮮の脅威に言及し、存立危機事態と想定される状況を説明していたのにもかかわらず、裁判では違う説明をした形で、政府の姿勢に対する批判はいまも収まっていない。(石松恒)

(5)自衛隊は海外で何ができるの?  2018/09/19

   https://digital.asahi.com/articles/DA3S13684871.html?iref=pc_ss_date

写真・図版 【解説】PKO参加5原則/海外派遣をめぐる主な出来事

 我が国への急迫不正の侵害があり、他に手段がなく、必要最小限度であること――。これ以外では武力の行使はできないと政府は説明してきた。では、なぜ武装した自衛隊が外国で活動できるのか。自衛隊の海外派遣は、9条との整合性を常に問われてきた。

 訓練や親善をのぞいた初の海外派遣は湾岸戦争後の1991年。ペルシャ湾にまかれた機雷を取り除くためだった。

 「専守防衛の枠組みを越える」という野党からの批判に、政府は「停戦後に放置されている機雷。武力行使が目的ではない」と説明。自衛隊法に定められた機雷除去の任務を根拠に、閣議決定で押し切った。

 政府が派遣を急いだ背景には「湾岸戦争のトラウマ」があった。90年のイラクによるクウェート侵攻後にも派遣を模索したが、世論や野党の反発は強く、頓挫。代わりに総額135億ドル(1・8兆円)を払ったものの、「小切手外交」と揶揄(やゆ)された。

 92年にはPKO(国連平和維持活動)協力法を成立させ、カンボジアに陸上自衛隊を派遣した。自分や周囲の人が襲われた際の「武器の使用」は武力の行使とは違うとし、紛争の当事者にならないための「参加5原則」を法に明記して9条との整合性を図った。

 「ショー・ザ・フラッグ(旗を見せてほしい)」。2001年に米同時多発テロが起きると、今度は米国からテロとの戦いへの貢献を求められる。国連が指揮を執るPKOとは異なる、米国の「自衛戦争」。9条の枠内に収めようと政府は説明に腐心する。

 多国籍軍への参加は憲法9条に照らして許されない。ただ、他国の武力行使と「一体化」しなければ参加は可能。「非戦闘地域」で、武器・弾薬を含まない物資の補給・輸送の「後方支援」に限定すれば、一体化は避けられる――。

 こうした説明は03年のイラク派遣へつながるが、名古屋高裁は08年、航空自衛隊が多国籍軍の武装兵員をバグダッドに空輸したのは「他国による武力行使と一体化した行動」とし、憲法9条に反すると判断した。

 07年に防衛庁が防衛省に昇格すると、国際活動は本来任務に格上げされ、15年の安全保障関連法がさらに本格化させる。

 PKO派遣時の武器使用の範囲を広げ、離れた場所で襲われた他国軍や民間人を助けに向かう「駆けつけ警護」も可能になった。だが、この間、海外派遣をめぐる環境は変質した。PKOは武力を使ってでも市民を守る方針へ転換し、国連はいまや積極的に戦闘の当事者となる。

 また、アフガニスタンやイラクのように特別措置法を作らなくても、政府の判断と国会の承認があれば、いつでも派遣することが可能となった。だが、同盟国に重い負担を求める米国の姿勢は一層強まっている。(古城博隆)

(4)在日米軍は「戦力」にあたらない?  2018/09/15

   https://digital.asahi.com/articles/DA3S13679464.html?iref=pc_ss_date

写真・図版 【解説】2017年の朝日新聞世論調査

 憲法9条は「戦力を持たない」と定めている。しかし政府の要請にもとづいて、国内には米軍が4万数千人いるといわれる。

 憲法9条と、米軍の関係はどうなっているのか。

 米軍が日本に駐留し始めたのは、73年前に日本が戦争に敗れ、占領されたのがきっかけだ。翌年には日本国憲法が制定され、日本の安全保障は国連に委ねると想定されていた。

 しかし東西冷戦が始まると、米国は日本を西側陣営の最前線に位置づけた。一方、日本側は経済復興を優先させ、安保は米国に任せようと判断。1952年の講和条約で占領は終わったが、日本は基地を米国に提供する代わりに、米軍に守ってもらうという日米安保条約を結ぶことになった。条約は60年に改定されたが、この関係はいまも基本的に変わっていない。

 米軍という戦力が日本にいることは、憲法9条に違反しないのか。この点が司法の場で問われたのが、歴史教科書にもでてくる「砂川事件」だった。

 57年、東京・立川にあった米軍基地の拡張に反対する学生らが基地内に入り、安保条約にもとづく刑事特別法違反の罪で起訴された。一審・東京地裁は59年3月、学生らに無罪判決を言い渡すなかで、米軍駐留は「戦力」にあたり憲法9条に違反すると判断した。これが米軍駐留を違憲とした唯一の司法判断だ。

 その後、検察側が二審を飛び越えて最高裁に上告。安保条約の改定交渉さなかの59年12月、最高裁は「外国の軍隊は憲法が禁じる戦力にあたらない」として一審判決を破棄、差し戻し。のちに有罪が確定した。

 日米安保条約のような高度に政治的な問題に司法判断はしない。その判断は、終局的には、主権をもつ国民の政治的批判に委ねられる――。これが最高裁の出した結論だった。

 最高裁長官が米側と密会し、判決の見通しなどを伝えていたとする米公文書がのちに発見されている。

 9条と安保――。コインの裏表のような関係ともいえる二つの定めは、いずれも各種の世論調査で多数支持が定着し、セットで日本の安全保障の骨格をなすようになった。ただ、そのあり方にいまも疑問を投げかけているのが沖縄だ。

 沖縄には在日米軍基地(専用施設)の7割が集中している。所属部隊はベトナムやイラクなど、米国の戦争に送り込まれてきた。

 もともと全国にあった基地が、反基地運動の広がりなどを背景に、米軍統治下の沖縄に集約された。沖縄国際大の野添文彬・准教授は「多くの国民は『9条と安保』という体制を享受するが、安保は沖縄に押し込められ、本土からは見えにくいものとなった」と語る。(木村司)

(3)自衛隊、どう位置づけられてきた?  2018/09/14

   https://digital.asahi.com/articles/DA3S13677716.html?iref=pc_ss_date

写真・図版 【解説】憲法9条と「戦力」をめぐるイメージ

 安倍晋三首相は、憲法への自衛隊明記を改憲論の柱にしている。しかし憲法に照らした様々な疑問に対して、自衛隊は合憲の存在であると創設当時から一貫して主張してきたのは、ほかならぬ政府であった。

 発端は1950年。朝鮮戦争の勃発にともない、連合国軍総司令部(GHQ)の要請で、警察予備隊が発足した。保安隊への改編を経て、54年に自衛隊となった。

 警察予備隊は、国内の治安維持を目的としながら、米軍から貸与されたカービン銃や迫撃砲などを装備していた。保安隊には戦車や重火器なども配備された。

 しかし政府は、憲法9条2項が保持を禁じる「戦力」とは「陸海空軍、これに匹敵するような戦争遂行手段としての力を意味する」(51年10月、参院本会議での当時の大橋武夫法務総裁)のであって、警察予備隊も保安隊も近代戦争遂行能力はなく、合憲の存在であると説明した。

 自衛隊が発足すると、任務は大きく変わる。「我が国を防衛すること」(自衛隊法3条)と初めて防衛目的が掲げられた。

 これによって、国会では「自衛隊は軍隊ではないか」と激しい議論が起こった。

 政府は54年12月、自衛隊を合憲とする現在の解釈の土台となる統一見解を出す。「憲法9条は独立国としてわが国が自衛権を持つことを認めている」「自衛隊のような自衛のための任務を有し、かつその目的のため必要相当な範囲の実力部隊を設けることは何ら憲法に違反しない」(衆院予算委員会で当時の大村清一・防衛庁長官)

(2)どのように制定されたの?  2018/09/13

   https://digital.asahi.com/articles/DA3S13676100.html?iref=pc_ss_date

写真・図版 【解説】憲法制定の経緯

 9条は、どのように制定されたのだろうか。

 日本は1945年8月14日、日本の占領や日本軍の完全な武装解除などを求めるポツダム宣言を受諾して降伏した。これを受け、マッカーサーを最高司令官とする連合国軍総司令部(GHQ)が日本に進駐し、占領行政にあたった。

 マッカーサーが46年2月3日に示した「憲法改正3原則」(マッカーサー・ノート)が、9条の源流だ。

 その前々日、日本政府が準備していた憲法改正案のひとつを毎日新聞が報道した。明治憲法をわずかに手直ししただけの内容を見たマッカーサーは、日本側に改正案づくりを任せておけないと判断。3原則を改正の必須要件として、GHQ民政局長のホイットニーに示し、GHQは翌4日から憲法改正草案の起草に乗り出した。

 3原則は、(1)天皇制の存続(2)戦争放棄(3)封建制の廃止。戦争放棄では、紛争解決と自己の安全を保持する手段としての戦争を放棄する▽日本は防衛と保護を世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる▽陸海空軍をもつ権能は将来も与えられることはない――とした。

 ここでは、自衛戦争も放棄するとしていたが、GHQ内でも「あまりに理想主義的」との意見が出て、同月13日にGHQが日本政府に示した改憲草案(マッカーサー草案)からは、この部分をなくした。

 日本政府は同年6月、GHQの草案をもとにした「帝国憲法改正案」を帝国議会に提出。議会では、「9条は自衛権まで否定しているのか」がさっそく大きな議論になった。

 6月26日の衆院本会議で、首相の吉田茂が「自衛権の発動としての戦争も放棄した」と答弁。28日に共産党の野坂参三が侵略戦争に限って放棄すべきではないのかとただすと、吉田は「国家正当防衛権による戦争は正当なりと認むることは、私は有害であると思う」と答えた。

 一連の答弁は、9条によって日本は自衛戦争まで放棄したと受け止められた。しかし、憲法担当相の金森徳次郎はその後、「首相がいくぶん錯覚を起こしやすい説明」をしたと釈明。政府が当時から9条のもとでも自衛権はあると認識していたことを明らかにした。

 憲法改正案は、後に首相となる芦田均が委員長を務めた憲法改正案特別委の小委員会で修正され、1項の冒頭に「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」との一節が加わった。これによって、9条は単なる武装解除にとどまらず、「国際平和」という価値を積極的に掲げる条項に変わったとも評価された。帝国議会による一連の修正をへた現憲法は、47年5月3日に施行された。だが、50年に朝鮮戦争が起きるとGHQは自衛隊創設へとかじを切っていく。(編集委員・国分高史)

(1)自民総裁選でも焦点  2018/09/12

   https://digital.asahi.com/articles/DA3S13674283.html?iref=pc_ss_date

写真・図版 【解説】憲法9条と改正をめぐる安倍首相と石破氏の主張

 安倍晋三首相と石破茂・元防衛相が立候補した自民党総裁選をきっかけに、9条改正の是非が再び注目を集めています。「戦争の放棄」と「戦力の不保持」を定めた9条は、日本の安全保障政策の根本となる一方で、戦後の改憲論議の中心でありつづけました。9条をめぐる政府や司法の対応、そして安全保障の環境はどう変わってきたのでしょうか。全8回で紹介します。

 多くの国民に支持されている自衛隊を9条に書き込み、自衛隊違憲論に終止符を打つ――。これが安倍首相が昨年から唱えている「自衛隊明記論」だ。

 党の憲法改正推進本部は首相の意向を受け、今年3月、9条の条文を残して、新たに「首相を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」などと付け加える改正案をまとめた。

 首相はこの改正案について、「自衛隊の任務や権限に変更が生じるものではない」と繰り返し答弁し、改正が実現しても「何も変わらない」と強調している。

 本当にそうか。

 改正案は、自衛隊を「必要な自衛の措置」をとるための実力組織と定義した。この文言だと、「他国が攻撃された場合に共同して防衛に当たる権利」(集団的自衛権)を制約なく認めたように解釈できると多くの専門家が指摘する。

 そうなれば、専守防衛に徹してきた自衛隊は限りなく「軍」に近づき、「戦力(軍)を持たない」と定めた9条の歯止めがなくなってしまう。日本国憲法の3大原理のひとつである「平和主義」の根拠が失われかねない。

 一方の石破氏が主張するのが、「戦力を持たない」との規定を削除し、自衛隊を他国の陸海空軍と同じように「戦力」と位置づける案だ。自衛隊がどこまで集団的自衛権を行使できるかは、新たに安全保障基本法を制定して定めるという。

 自民党内での長年の議論に沿った内容であり、党が2012年にまとめた改憲草案とほぼ同じだ。

 首相は10日、自衛隊明記案の提出について「秋の臨時国会を目指して議論を進めてほしい」と語った。これに対して、石破氏は、参院の合区解消と緊急事態条項の創設を急ぐべきだと主張。自らの9条改正案については「国民の理解がないまま国民投票にかけてはいけない」と述べ、時間をかけて理解を得ていくとの考えを示している。

 ■政府解釈で「自衛権」保持

 そもそも9条は何を定めているのか。

 9条は1項で「戦争の放棄」をうたう。国どうしの戦争は、日本も調印した1928年のパリ不戦条約で国際的に禁じられた。1項はその精神を受け継いだもので、こうした条項は他国の憲法にも見られる。

 日本の憲法が「平和憲法」と呼ばれるゆえんは「戦力の不保持・交戦権の否認」を定めた2項にある。戦争ばかりでなく、そのための「戦力」を持つこと自体を否定する。他国の憲法にほとんど例はない。

 2項を文字通りに読めば、戦闘機や潜水艦を備える自衛隊は持てないはずだ。自衛隊違憲論の大きな論拠はここにある。

 9条の字面と自衛隊の現実のありようとのズレを埋めたのが、歴代内閣による条文解釈だった。

 まず、9条のもとでも「自衛のための必要最小限度の実力」を持てると解釈した。外国の武力攻撃から自国を守る権利(自衛権)は国家がもともと持っているもので、9条はそのこと自体は否定していないとの立場に立った。

 ただし、行使できるのは、外国から直接攻撃を受けた場合に反撃する権利(個別的自衛権)だけで、集団的自衛権の行使を認めなかった。さらに個別的自衛権も、わが国への急迫不正の侵害があること▽他に手段がないこと▽必要最小限度の実力行使にとどめること――の条件を満たす場合にしか、発動できないとした。これらは「武力行使の3要件」と呼ばれた。

 これに対し、自民党内には「どの国にも認められている集団的自衛権が行使できないのはおかしい」などの批判が常にあった。それでも歴代内閣が9条解釈を変えてこなかったのは、「平和憲法」に対する世論の強い支持があったからだ。

 ところが、安倍内閣は14年7月の閣議決定で集団的自衛権の限定的な行使を認めた。米軍などへの攻撃が、日本の存立を脅かす事態にあたると政府が判断すれば反撃できると9条の政府解釈を改めた。(石松恒、編集委員・国分高史)