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続折々の記 2018⑩
【心に浮かぶよしなしごと】

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                    心の奥底の物語
                    トランプ氏の不機嫌な朝朝、「ほら始まった」と質問遮った

【 07 】11/09~

 11 09 (金) 心の奥底の物語     インタビュー 米中間選挙2018

多くの人々の心の中のもやもやしたものをスッキリさせてくれる考え方であった。 人の集団帰属感情は無意識下の本能的なものだということは、生物の生態を見ていて分かってきたことだった。 さらに、自分を取り巻く小集団どうしの中でも、意識階層とか利害階層とか優劣階層とか人の微妙な意識の現われが人の感情を左右することに気づかされた。

こうした角度からの諸事態掌握法に、はじめて出会った。 社会学の領分にはこんな理解の仕方があるのだ。 確かに間違いのない事態掌握法といえる。

心の中のもやもや、その整理の仕方がわかると、トランプ氏の極度ともいえる環境順応原則、いわゆるプロパガンダの利用であって戸惑うことはない。 何を目指しての誇張宣伝なのか、不可解である。 彼のために世界各国はギシガタしている。 安定の方向に進んでいるとは見えないからだ。

世界の人々が手を取り合って平安な生活ができるようにとは思えない。 日本は本来の「おもてなしの心」を大事にし、「ひかえめ」の心情を堅持し、「平和な世界を構築する」ためにエネルギーを発揮すべきときにきている。

どんな場合でも、嘘はあってはいけないのだ。 嘘であることを自分で知っているからだ。 世界平和ということも、自分の平和ということも、一つの心から出てくる考えだからだ。 適当なゴマカシも許されない、それがあるべき姿でありたい。


プロパガンダ(羅: propaganda)は、特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為である。

通常情報戦、心理戦もしくは宣伝戦、世論戦と和訳され、しばしば大きな政治的意味を持つ。最初にプロパガンダと言う言葉を用いたのは、1622年に設置されたカトリック教会の布教聖省 (Congregatio de Propaganda Fide、現在の福音宣教省) の名称である。ラテン語の propagare(繁殖させる、種をまく)に由来する。 検索より


日本人の特性を愛でて帰化した人
    「私は日本という女性と結婚」 ドナルド・キーン氏、
    永住へ帰化手続き

    http://blog.livedoor.jp/oydtss/archives/3023135.html

 日本文学研究で知られる米コロンビア大名誉教授のドナルド・キーンさん(88)が日本に永住する意思を固め、日本に帰化する手続きを始めたことが15日分かった。関係者が明らかにした。関係者は「東日本大震災で大変心を痛め、被災者との連帯を示すために永住への思いが固くなったようだ」と話している。

 キーンさんは1922年、ニューヨーク生まれ。学生時代に「源氏物語」の英訳を読み、日本文化に興味を抱いた。日米開戦後は海軍情報士官として、玉砕した日本兵の遺書を翻訳したり捕虜を尋問。復員後、英ケンブリッジ大、米コロンビア大、京都大で日本文学を学んだ。「日本文学の歴史」「百代の過客」「明治天皇」などの著作で知られる。

 三島由紀夫とは京大留学中の54(昭和29)年に知り合って以来の友人で、三島作品の翻訳も行った。2008(平成20)年に文化勲章を受章した。

 松尾芭蕉の「おくのほそ道」をたどる旅をし、英訳も出版。東北大(仙台市)で半年間、講義したこともある。それだけに、被災地の状況を心配している。平泉の中尊寺は難を逃れたが、何度も訪れた松島や多賀城など芭蕉ゆかりの地は大きな打撃を受けた…。

 キーンさんはこれまで1年の半分ほどを東京都北区の自宅で過ごしてきたが、26日にコロンビア大で最終講義を迎えることもあり、日本に永住することを決めた。周囲に「日本が大好きだから」などと説明しているという。

「危機だからこそ」

 法務省は15日、震災直後の3月12日から4月8日までの4週間に日本から出国した外国人は延べ53万1000人で、このうち発生後1週間では24万4000人だったと発表した。震災発生前の1週間は14万人だった。

 震災と福島第1原発事故を受けて、各国が一時的な出国検討を勧告したり、被災地からの帰国支援を実施したことが影響した。

 NHKのインタビューに応じたキーンさんは「日本は危ないからと、(外資系の)会社が日本にいる社員を呼び戻したり、野球の外国人選手が辞めたりしているが、そういうときに、私の日本に対する信念を見せるのは意味がある」と語った。

 「私は自分の感謝のしるしとして、日本の国籍をいただきたいと思う」とし、夏までに日本国籍を取得する考えだ。

 独身を通してきたキーンさんは「私は『日本』という女性と結婚した。日本人は大変優秀な国民だ。現在は一瞬打撃を受けたが、未来は以前よりも立派になると私は信じる」と、新たな祖国になる日本の復活を信じている。

心の奥底の物語
    (インタビュー 米中間選挙2018)心の奥底の物語
    米社会学者、アーリー・ホックシールドさん

    2018年11月9日05時00分
    https://digital.asahi.com/articles/DA3S13761007.html?ref=pcviewer

 民意のねじれを生んだ米中間選挙だが、トランプ大統領を熱心に支持する層は健在だ。米中西部のラストベルト(さび付いた工業地帯)に3年ほど通い、アパートにも暮らし、彼らの思いを聞いてきた。同じように米南部に通い、右派の心象風景を描いた著書が全米ベストセラーになった、社会学者アーリー・ホックシールドさん(78)に話を聞きたくなった。(聞き手 ニューヨーク支局・金成隆一)

 《白人男性らがトランプ氏を熱心に支持する理由は、経済か、人種か――。日本人記者である私(金成)が米中西部のラストベルトで支持者らを2015年から取材してきたと知ると、米国人を含め、多くの人々が私にこんな問いを発する。

 経済的な停滞への不満か、それとも、米国で存在感を増す非白人への差別心なのか。そんな二者択一だ。私は、アジア人の私を自宅に泊まらせ、交際相手についての相談までしてくる彼らの顔を思い浮かべ、当初は「私の取材先は人種差別者ではない。このままでは貧困層に転落しそうだというミドルクラスの不安と不満だと思う」と答えていた。

 ところが、人種の要素が全くないわけでもないだろうな、二者択一の問いの立て方に無理があるのではないか、とも感じていた。そんな時に読んだホックシールドさんの著書は、経済と人種の要因が絡み合う物語を示していた。これは「移民」政策の議論が活発になっている日本にとっても、もはやひとごとではない、と感じている。》

 ――米南部で暮らす右派の人々を理解したい。そんな思いでルイジアナ州に通ったそうですね。

 「熱心なキリスト教徒と白人が圧倒的に多く、超保守的な土地です。貧困率が高く、薬物汚染や環境汚染が広がっている。交通事故も多い。平均寿命も短い。州政府予算の44%を連邦政府に依存しているのに、政府の役割の縮小を求める保守運動ティーパーティー(茶会)への支持が強かった。理解できませんでした。彼らが自分の利益にならないことに投票しているように見えた。恐らく、経済的な理由ではなく、感情的なものだろうと想像しました」

 ――トランプ大統領の支持者とも重なる人々の「感情」が見えましたか。

 「私の著作は右派についての『報告』ではなく、彼らの感情を言葉にした『翻訳』。翻訳することで、彼らの感情が当事者以外にも認識可能になります。右派の人々の感情に興味を持ちました。多くの声に耳を傾け、心の奥底に横たわる物語、『ディープストーリー』を見つけました。妊娠中絶や銃、地球温暖化への考え方。彼らの心の奥底に共通する感情を抽出し、どんな比喩を使えばうまく表現できるかを考えました」

 ――どのようなものですか。

 「あなたは山の上へと続く長い行列に並んでいます。遠くの山頂にアメリカンドリームがある。でも、なかなか列は前に動かず、夢を達成できない。行く手を妨げているものが何かも見えない。グローバル化(による製造業の海外流出)なのか、オートメーション化(による雇用の喪失)なのか、わからない。それでもあなたはじっと待つ。勤勉に働いてきたし、ルールにも従ってきた。誰かをうらやんだり、誰かにひどいことをしたりもしてこなかった。あなたは自分にもアメリカンドリーム達成の資格があると感じている」

 「そんな時に、誰かが前方で行列に割り込んだのが見えた気がしました。物語の第2幕です。おかしなことが前方で起きているように感じました。きちんと順番を待ちなさいと幼少期に教わったのに、それに反したことが起きた気がした。黒人や女性に対し、差別是正措置(アファーマティブアクション)などで、歴史的に阻まれていた雇用や教育への機会が用意されました。その結果、白人や男性はしわ寄せを受けた。続いて移民が行列への割り込みを始め、難民も加わり、公務員も横入りして厚遇を受けているように見えた。しまいには海洋汚染の被害を受けた、油で汚れたペリカンまでもが環境保護政策によってよたよたと行列の前の方に加わり始めた。『(寛容を説く)リベラルの連中は、行列の後ろで不当に待たされている私たちより、動物を優先しているぞ』と感じたわけです」

 ――なるほど。

 「第3幕としては、(民主党大統領の)オバマが、本来は全ての人に公平に仕えるべき立場なのに、横入りしている連中を助けているように感じました。『不公平じゃないか』と思った。『どうやってシングルマザーが、息子オバマのためにコロンビア大学やハーバード大ロースクールの教育を提供できたのか?』『何かインチキがあったに違いない』との思いが募ります」

 「最後には、高学歴の誰かが『おまえは人種差別主義者だ。レッドネック(貧しい白人への差別語)だ』と言っているような気がしたのです。行列に割り込んだだけでなく、後方で自分の番が来るのを待ってきたオレたちのことを指さして笑い始めたと感じたのです」

 《中間選挙の前日、私(金成)はオハイオ州で開かれたトランプ氏の集会で支持者の声を聞いた。「私の祖先は移民だったが、列に並んで入国した合法移民で、自分で働いて中間層になった」「でも今のヒスパニック移民は不法に入国し、福祉で暮らそうとしている」と。事実に基づかない物語が浸透していた。ホックシールドさんのディープストーリーを思い出した。》

 ――そのような物語が見えた?

 「はい。この物語を本人たちに語り聞かせ、彼らの気持ちに合っているか尋ねると、『私はあなたの比喩の世界を生きている』と答えてくれました。重要なのはディープストーリーは誰しもが持っているということです。正しいとか間違っているとか、モラルに基づく判断は取り除かれている。事実も除去されている。その人にとって、ある状況をどのように感じたのか、何がとても重要なことに感じたのかを言葉にしたものです」

 ――彼らにとって山の上にあるアメリカンドリームとは具体的に何ですか。

 「給料のよい仕事を得ることだけではありません。他人から尊敬され、慕われ、自分を誇りに思えることです。しかし、現実には『そういう価値観を持っていることを恥ずかしいと思え』と言われているように感じてきました。だから自分のアイデンティティーを取り戻したい」

 「どういう時に彼らは自分を誇りに思えるのか。『私は南部人だ』はうまくいかない。南部人は軽蔑されているから。『私はキリスト教徒』というのも小さな町でしか通用しない。『私は伝統的な暮らし方を尊重する。女性の居場所は家庭です』もダメ。現代では女性のキャリア形成が脚光を浴びています。彼らのアメリカンドリームとは、失われたものの回復。だからトランプ氏は『米国を再び偉大にしよう』と叫び続けた。この言葉に、彼らは過去の復活を重ねている」

 ――著書で「列の後ろで並んでいる多くは有色人種。貧しい者、若者、年老いた者。ほとんどが大学を出ていない。振り返るのは怖い」とあります。なぜ怖いのでしょう。

 「自分よりも後ろに並ぶ、貧困層を見るのが怖いのです。多くは黒人やヒスパニック系の移民です。彼らはあなたのことをうらやましがっている。それは事実として、白人こそが優遇されてきたからです。『なぜ自分は黒人や移民より列の前にいるのか』との問いに、『政府に優遇されたから』という答えは聞きたくない」

 ――あなたが調査を始めた2011年は、トランプ氏が、オバマ大統領はアフリカ生まれで大統領になる資格がないという虚偽情報を広める「バーサー運動」を熱心に始めた頃です。これは右派の物語に合致している気がします。「オバマは偽の出生証明書で行列に割り込み、前進したのだ」と。

 「その通り。『列の最前列にいるオバマを引きずり出し、行列の後ろに戻してやれ』『オバマには大統領になる資格がない。有資格者は、ブロンドヘアの私だ』と。トランプ氏は支持者に『皆さんを列の前に入れてあげます』というメッセージを送ってきた。米社会には多くの疑念や妄想があり、トランプ氏は、それが低い教育レベルや経済的な不安と密接な関係にあることを知っているのです。だからこそ彼は人々の心に潜む疑念を意図的にかきたててきた。人々の中にある疑念が、彼にとっては支持を集めるための資源です」

 《私(金成)は中西部に通い、トランプ氏の支持者の取材を続けている。取材拠点として借りたアパートは家賃5万円。地元高校の同窓会や酒場、病院などで話を聞き、彼らの自宅に上がり込んで取材をした。すると、彼らの多くは「話を聞いてくれてありがとう」と言ってくれる。彼らは話をしたがっている、といつも感じていた。》

 ――どうやって南部の人々と信頼関係を築いたのですか。

 「驚くほど簡単でした。話を聞けたのは彼らのおかげ。彼らが熱心に語りたがったのです。私も『どうやってここまで話を聞けたのか』と聞かれますが、答えは『彼らが話したがった』です」

 ――講演などで、「バブル」という言葉を使っていますね。どういう意味ですか。

 「沿岸部にあるバークリーはコスモポリタンで多民族で、教育レベルが高い。関心は地元だけでなく世界に向いている。そんな(似た者が集まる心地よい)バブルの中での暮らしから外に出ないと茶会は理解できない。バークリーの人々は、ルイジアナ州の右派の人々について『なぜ、トランプに投票できるのか』と首をかしげている。右派の人々もそれを知っている。ある人は私に『バークリーやニューヨークの人々が私たちを見下して、私たちを間抜けで、教育不足で、田舎者と思っていることを知っている』と言いました」

 ――南部の人たちを面白おかしく描写する番組を見かけます。

 「テレビには、超優秀で模範的な家庭を築いている黒人のオバマ大統領が映っている。同時に、リベラル派が南部の白人を笑いものにしている番組もある。南部の人々は両方を見ている。あるコメディアンが番組で、銃を持った若者がマクドナルドへ入っていく姿を笑いものにした。『そもそもなんでマクドナルドに行くんだ』とコメントした時、私は『ダメだ』と思いました。『もっとましなレストランへ行け』という含みがあるからです。彼らはエリートからの文化的な辱めに(南部)地域への偏見だけでなく、階級的なさげすみも感じているのです」

 ――著書で60~70年代、社会的な仕組みの改良に的を絞っていた左派の運動が、個人のアイデンティティー(女性やアジア系、性的少数者など、それぞれの属性)の主張を中心に据えた活動へと変化した、と指摘しています。「社会の同情を得るには、ネイティブ・アメリカンか女性かゲイでありさえすればよくなった」「これらの社会運動は、列に並んでいた年配の白人男性というグループには目もくれなかった」と。

 「60年代の社会運動は人種横断的、宗教横断的で、倫理的な問題に取り組んでいた。しかしブラックパワー運動が始まり『白人は来るな』と言い始めたときに、運動の衰退が始まった。いま欠けているものは、異なるグループを横断する連合体です。例えば、ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)運動に参加している人が、人種を問わず貧しい子への支援をしている人や、環境汚染の最大の被害者はマイノリティーだと主張する運動家と協力し合う。それが大事。トランプ氏を支持する40%の人々に呼びかけるには連合体を形成する必要がある。(集団の特性を重視する)アイデンティティー政治は連合体を形成する際の最大の妨害の一つです。大学にも『私は黒人』『アジア系だ』『レズビアンだ』『女性だ』と主張するバブルがありますが、それらの主張が活動を支配することは間違っています」

 ――グローバル化の影響は。

 「列を前へ進んでいる人がいる一方で、自分は進んでいない。こういった感情は世界的なトレンドのようです。右派の勃興がハンガリーやイタリア、ロシア、フランス、オーストリア、スイスに広がっている。グローバル化が新たな『持てる者』と『持てない者』を生み出した。トランプ氏は下品で加虐的ですが、彼の政策は40%の支持者に訴えかけている。西側のリベラル、民主党がしなければならないのは、グローバル化の敗者のための政策です。南部の貧困層などを退けるのではなく、彼らに訴えかける必要があります」

 ――リベラル派の課題は?

 「民主党自身が90年代のクリントン政権下で真ん中に寄り、支持者になる可能性がある人々の関心を失ってしまった。民主、共和両党に共通することですが、『政党は私を代弁していない』と言われている。ブルーカラー労働者、全ての職種、全ての人種に響く綱領が必要です」

 「私は四つの行動を提言しています。(1)報道の自由と独立した司法制度を支え、民主主義の支柱を強化すること(2)政党の綱領を改良すること(3)投票率が低かったミレニアル世代を投票所に行かせること。以上3点は立場の違う人と話す必要がなくやれることです」

 「4点目は、向こう側の人々に近づくことです。2012年にオバマ氏に投票した有権者のうち、推定で650万人から800万人が16年にトランプ氏にスイッチしました。トランプ氏の支持者は、大きすぎて無視できません。バブルから出て彼らと連携する道を探るべきです。原則を曲げなくてもよい。まずは、あなたの話に耳を傾ける人々と話し、彼らの声を聞くべきです。深刻な時代にゆっくりしている余裕はありません」

 「私は、ここまで米国の方向性に恐怖を覚えたことはありませんでした。でも私は(民主主義を脅かす勢力に)勝てると思っています。米国の民主主義は今ストレステストを受けていますが、左派が現実的な行動に移れれば、勝機はあります」

     *

 Arlie Hochschild 1940年生まれ。カリフォルニア大学バークリー校の名誉教授。
 近著に「壁の向こうの住人たち――アメリカの右派を覆う怒りと嘆き」(岩波書店)。

内容紹介
もはやアメリカは“ユナイテッド・ステイツ"ではない。なぜ分断はこれほど深いのか。カリフォルニア大学バークレー校の著名学者が共感を遮る「壁」を越え、右派の心へ向かう旅に出た。全米最貧州の一つ南部ルイジアナでの五年間、ティーパーティー運動を支える人々から聞き取ったディープストーリーを丹念に描く。

内容(「BOOK」データベースより)
アメリカは自分の国なのに、社会が急速に変わってしまい、まるで「自国に暮らす異邦人」の気分だ―。南部ルイジアナ州に暮らす共和党支持派の白人中間層の心情に向き合い、アメリカを分断する“共感の壁”を越える手がかりを探ったノンフィクションの傑作(2016年度全米図書賞同部門ノミネート作)。

登録情報
  単行本(ソフトカバー): 464ページ
  出版社: 岩波書店 (2018/10/26)
  発売日: 2018/10/26



米中間選挙
トランプ氏の不機嫌な朝
    「ほら始まった」と質問遮った

    2018年11月9日11時35分
    https://digital.asahi.com/articles/ASLC93391LC9UEHF004.html?iref=pc_rellink

【動画】トランプ氏がCNN記者と会見で激しく口論(Youtubeに投稿された米大統領府の動画から)
  2:31:42 2時間半にわたる長時間の動画

 アメリカのトランプ大統領に対する「信任投票」だった6日の中間選挙。上院は与党・共和党が過半数を維持、下院は野党・民主党が8年ぶりに過半数を奪還する見通しが判明した6日夜、トランプ氏は「今夜はとてつもない成功だ。みんなありがとう!」とツイートした。早々と「勝利宣言」をしたのだ。

  トランプ氏、CNN記者と会見で口論 出入り禁止に こちら
  米中間選挙、世界はどうなる 特集はこちら こちら
  【2016年の写真特集】ランハム裕子が見た米大統領 こちら
  ニュース>国際>米大統領選挙(アメリカ大統領選挙)2016 こちら

 事前に発表されていた翌7日のトランプ氏の予定は「公式行事なし」。でもきっと緊急記者会見を開いて、言いたいことを言うだろうな。そんな予感がした。

 予感は的中した。7日早朝、同日午前に記者会見を開くとサンダース報道官がツイート。ホワイトハウスに出入りする報道関係者なら事前登録なしで会場に入れる「オープンプレス」に設定された。なるたけ多くの報道機関に取材してほしい。そんな狙いが透けて見えた。

 会見は午前11時半スタート。世界が注目する中間選挙後初のトランプ氏の生発言だけに、朝から多くの報道陣がホワイトハウスに駆けつけた。集合場所は混乱状態。あちこちで「押すな!」「俺はお前より先に来た。なぜ俺の前にいる?」などの叫び声が飛び交った。
アメリカの中間選挙で、下院は野党・民主党に過半数を奪還されたものの、上院は与党・共和党が過半数を維持し、「とてつもない成功」と6日夜にツイートしたトランプ大統領。でも翌日の記者会見では終始不機嫌でした。レンズを通してトランプ氏を追ってきたフォトグラファー、ランハム裕子の報告です
長くなりそうな予感

 会見場所はホワイトハウスで最も大きい「イーストルーム」。トランプ氏が赤じゅうたんを歩いて演壇に上がる姿を、報道陣のカメラに映るようアレンジされていた。

 会見場を見渡すと、何かが足りない。トランプ氏の会見でいつも置かれている、原稿を表示するモニターが、今日は置かれていない。トランプ氏はアドリブでやるかもしれない。会見は長くなりそうだ。

 会見開始の予定時刻から30分後、トランプ氏がペンス副大統領と現れた。落ち着いた様子でほほ笑みを見せるペンス氏の隣で、トランプ氏はうつむきがちで不機嫌な表情。何とも対照的だった。

 会見が始まっても、トランプ氏はまったく笑顔を見せない。話し始めて30秒もたたないうちに、自身に批判的なメディアに対する不満をぶちまけた。「敵意に満ちた報道にもかかわらず共和党は勝利を収めた」

 これまでホワイトハウスの記者会見で鋭い質問を繰り返してきた米CNNの有名記者ジム・アコスタ氏の質問の番になった。アコスタ氏が「選挙運動の終盤にあなたが出した声明について聞きますが」と切り出すと、トランプ氏は口をとがらせて「ほら始まった」と質問を遮った。

会見場がリングに

 その瞬間、私の頭の中でゴングが鳴り響き、イーストルームがボクシングのリングに変わった気がした。

 アコスタ氏が、中南米から米国を目指す「移民キャラバン」について「(米国を)侵略するものではない」と発言すると、トランプ氏は「わざわざ教えてくれてありがとう」と返した。

 トランプ氏は選挙戦終盤、移民キャラバンに矛先を向けた。より良い暮らしを切望して米国を目指すキャラバンの人々に「犯罪者集団」のレッテルを貼り、「正体不明の中東出身者も混じっている」という根拠のない話まで持ち出し、「米国を侵略しようとしている」とあおった。

 アコスタ氏が「なぜそのような位置付けをするんですか?」と問うと、トランプ氏は「そもそも君と私は意見が異なる」と反撃し、「君は私に国の運営を任せるべきだ。君はCNNを運営すればいいじゃないか」と話題をすり替えた。

 アコスタ氏はあきらめず、2年前の大統領選でロシアがトランプ陣営の肩をもって選挙に介入したとされる「ロシア疑惑」について、「捜査状況を質問させて下さい」と迫った。

 その瞬間だった。トランプ氏の表情が一気に険しくなった。

5回も「もう十分だ」

 トランプ氏は「もう十分だ」と5回言った後、左手の人さし指を突き立てて、「ロシア疑惑の捜査については何も心配していない。あれはでっち上げだ」と強調。続けて「君はとても失礼で、ひどい人間だ」とアコスタ氏を非難した。

 トランプ氏はいらだった様子で、質問を拒否するかのように、いったん演壇を離れた。すぐにでもこの場を立ち去りたいような印象を受けた。

 次に質問しようとした米NBCの記者が「アコスタ氏は一生懸命働いているだけだ」とかばうと、トランプ氏は「君のことも好きじゃないね」となじった。

 その後も記者からトランプ氏の政治姿勢などに批判的な質問が続き、そのたびにトランプ氏は「フェイク(うその)ニュース!」などと反撃した。

 会見は約90分続いた。途中、フォトグラファーの何人かは「やれやれ」とカメラを置いた。

 会見後、会場にいた記者たちがアコスタ氏に「大変でしたね」などと言葉をかけてねぎらった。アコスタ氏は「温かい言葉をありがとう」と笑顔で感謝した。(ワシントン=ランハム裕子)