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続折々の記 2019⑦
【心に浮かぶよしなしごと】

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            改憲「成し遂げていく」  安倍首相 第4次再改造内閣、発足
               二面 側近重用、イメージ戦略
               十六面 (社説)安倍新体制、「挑戦」課題を見誤るな
               憲法第9条
            若者の死因1位が「自殺」の日本  なぜそんなに生きるのが「辛い」のか
               
【 07 】09/12~

 09 12 (木) 改憲「成し遂げていく」     安倍首相 第4次再改造内閣、発足

郵便受箱から朝日新聞を取り出す。 その第一面トップに 改憲「成し遂げていく」 の文字が目に飛び込んだ!  朝日がどうしてこの見出しを付けて出したのか?  大勢順応型の国民はどう受け止めるのか?

他の新聞では、第4次再改造内閣発足の初めの記事としてこんな見出しをするのだろうか?

調べてみた。

① 朝日新聞  改憲「成し遂げていく」 社会保障「大胆に構想」

② 読売新聞  第4次安倍再改造内閣が発足…改憲へ「議論を力強く推進」

③ 毎日新聞  社会保障会議設置へ 首相「改憲は自民主導で」

④ 日経新聞  自民、憲法改正へ野党との協力目指す まず国民投票法

⑤ 中日新聞  改造内閣発足、首相「改憲成し遂げる」与野党論議促す

⑥ 東京新聞  首相、自民主導の改憲主張 第4次安倍再改造内閣が発足

朝日新聞だけがこんな記事をトップに出したのかと驚くとともに総理の気持ちに憤慨していたが、マスコミのニュースはみんな似たり寄ったりの見出しでした。 こうした情報が真実だとそして世の人々の心の流れだと受け止められたら大変なことになる。 ニュースを発信する人たちは、政治家のプロパガンダを心得ているにしても、そのことを報道として記事には載せられない。 時の政権担当はプロパガンダの効用を十分利用するものだと思う。 だから、マスコミの記事にしても、私たち国民は単なる情報に染まることなく、自分の信念をきちんと持って対応していかなくてはならない。

第一面の記事

 改憲「成し遂げていく」 社会保障「大胆に構想」
     安倍首相 第4次再改造内閣、発足


 安倍晋三首相は11日、第4次再改造内閣を発足させた。麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を留任させ、環境相に小泉進次郎衆院議員を起用した。記者会見では憲法改正について「自民党立党以来の悲願」とし、「必ずや成し遂げていく」と決意を語った。

 首相は記者会見で、7月の参院選で憲法の議論を進めるよう訴え、「国民の信を得ることができた」と説明。「議論は行うべきだというのは国民の声」とし、自民党として新しい体制で、憲法改正に向けた議論を進める考えを示した。その上で「憲法改正原案の策定に向かって、衆参両院の第1党である自民党は今後、(国会の)憲法審査会において、強いリーダーシップを発揮していくべきだろう」と述べた。

 記者会見では日韓関係も問われた。韓国の元徴用工訴訟を念頭に「韓国側から日韓請求権協定への一方的な違反行為など国家間の信頼を損なう行為が相次いでいる」と指摘。政府としては韓国側に国際法に基づいて適切な対応を求めているとし、「その方針は一貫したもので、新しい体制でも、みじんも変わるものではない」と強調した。

 社会保障改革では、「全世代型社会保障検討会議」を新たに設け、来週にも初会合を開くことを明らかにした。70歳までの就労機会の確保や年金受給開始年齢の選択肢の拡大などの改革を進めると説明。担当の西村康稔経済再生相を中心に「新しい社会保障制度のあり方を大胆に構想してまいります」と語った。

 首相は今回の改造で閣僚19人のうち、17人を交代させ、安倍内閣としては最も多い13人を初入閣させた。会見では「安定と挑戦の内閣」と位置づけた。ただ、文部科学相に萩生田光一氏、1億総活躍相に衛藤晟一氏を起用するなど側近の起用も目立った。

 萩生田氏をめぐっては、加計学園の獣医学部新設問題への関与が取りざたされた経緯がある。野党側は大学を所管する省庁のトップに萩生田氏を起用したことを批判しており、今後、国会で改めて加計学園問題を追及する構えだ。


第二面の記事

 (時時刻刻)側近重用、サプライズの陰で 「めくらまし」批判も
     イメージ戦略、小泉氏起用 内閣改造


 38歳の若さで初入閣した小泉進次郎環境相が脚光を浴びた今回の内閣改造・党役員人事だが、安倍晋三首相の側近重用が目立つのも特徴だ。「ポスト安倍」に向けたキーパーソンたちの思惑もはらみながら、第4次安倍再改造内閣が発足した。▼1面参照

 11日午後、首相官邸。首相執務室を出た小泉氏がエントランスに姿を現すと、待ち構えるカメラから一斉にフラッシュがたかれた。

 マイクを向けられた小泉氏は「環境大臣は重い。ありがたい機会を総理からいただいたと率直に感謝している」と笑顔で語った。

 その後の記者会見で、安倍首相は小泉氏起用の理由について「手あかのついた従来の議論ではなく、若手ならではの斬新な発想での取り組みを期待している」と語った。

 小泉氏の入閣は永田町では驚きをもって受け止められた。昨年9月の自民党総裁選では、石破茂・元幹事長の支持を明言するなどし、首相との「距離」が指摘されていたためだ。

 首相周辺によると、首相は石破氏に票を投じた小泉氏の起用に当初は後ろ向きだったが、小泉氏と同じ神奈川県選出の菅義偉官房長官ら複数の関係者から「小泉氏本人が入閣を希望している」と伝えられると起用を決断したという。

 若さと発信力を持つ小泉氏を初入閣させることで、メディアは大きく報道。イメージ戦略が功を奏し、今回の改造の目玉となった。

 その陰に隠れた形となったのが、首相の「側近重用」人事だ。2012年の第2次安倍政権発足時から首相補佐官として首相を支えた衛藤晟一・1億総活躍担当相や首相側近として知られる萩生田光一文部科学相、高市早苗総務相ら、首相に政治信条が近い議員が起用された。

 こうした人事には「安倍さんの側近ばかり」(衆院中堅議員)などと早くも党内から批判があがる。小泉氏の起用についても、閣僚経験者は「安倍さんによる『今までありがとう内閣』だ。進次郎はそのめくらましでしかない」。参院のベテラン議員も「目新しく見せようとする偽装内閣」と冷ややかだ。

 側近重用は、政権運営の波乱要因となる可能性もある。

 なかでも加計(かけ)学園の獣医学部新設問題への関与が指摘された萩生田氏の文科相への起用は、森友学園問題などの責任が問われている麻生太郎財務相と同様、国会などで野党の追及にさらされるリスクとなる。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は11日の記者会見で、「国民に対してよりいっそう明確な説明をしてもらいたいし、それが求められる立場になった」と述べ、さっそく追及を強める構えを見せた。

 自民党の参院議員は今後の政権運営にこう不安を漏らす。

 「これでは『お友達在庫一掃内閣』だ。萩生田文科相では予算委が開けない。予算委を開けないと首相がめざす憲法改正も動かせない」

 ■二階氏交代、一時模索 首相が「岸田幹事長」構想

 内閣改造に先立ち、11日午前に自民党本部であった新四役の共同記者会見。二階俊博幹事長(80)は安倍首相の党総裁の連続4選論について、「そういうご決意を固められた時は党をあげて支援したい」と述べ、首相を全面的に支える姿勢を強調した。

 今回の人事では、二階氏の処遇をめぐる激しい攻防があった。

 首相は2021年9月の総裁任期満了を見据え、ポスト安倍の育成を考えていた。関係者によると首相は7月の参院選後、二階氏を交代させて、岸田文雄政調会長を幹事長に引き上げる構想を打ち明けたという。

 首相と岸田氏は3世議員の当選同期。首相はこれまで外相や政調会長といった要職を任せ、岸田氏も政権の「禅譲」を期待して首相に忠誠を尽くしてきた。岸田氏が参院選で自派閥の現職4人を落選させても、首相は周辺に「岸田さんのせいじゃないよ」と擁護した。

 首相がなぜ、そこまで岸田氏にこだわるのか。首相側近のひとりは「首相と対峙(たいじ)してポスト安倍をねらう石破元幹事長への警戒感がある」と解説する。

 石破氏は昨年の総裁選で地方票の45%を得票。国会議員の支持は広がっていないが、世論調査ではポスト安倍としての人気も高い。「岸田氏の存在感を高めることで、石破氏を次期総裁レースから追い落とす」(首相側近)。岸田氏の「昇格」には、そんな思惑もあったという。

 二階氏側は、首相側のこうした動きを強く牽制(けんせい)。二階氏の側近は「幹事長を代えても、二階さんに行列をつくる人の流れは変わらない。党内は乱れる」などと発信を強めた。

 これに、岸田氏の力が増すことを懸念する菅氏も同調。党内をまとめるには岸田氏では力不足との見方を首相に伝え、「政権の安定は党の安定があってこそ」と二階氏の続投を求めた。

 党と官邸の中心で権勢を振るう二階、菅両氏の連携を前に、首相も「二階さんを代えるのは危険だ」と幹事長交代を断念。岸田氏が傷を負わないよう、最終的に政調会長を続投させるしかなかった。首相周辺は「党人事は不完全燃焼に終わった」と悔やんだ。

 一方、首相は閣僚人事で将来のリーダー候補と目される面々をちりばめた。

 自らに近い加藤勝信氏を厚生労働相に据え、麻生派の河野太郎氏を外相から防衛相に、竹下派会長代行の茂木敏充氏は経済再生相から外相に横滑り。小泉氏を環境相に初入閣させた。石破派からの閣僚起用はゼロで、政権中枢から排除する姿勢を鮮明にした。

 突出したポスト安倍をつくらず、互いに競わせて複数の「後継カード」を手中にする――。そんな「どんぐりの背比べ」(首相側近)の布陣を敷くことで、首相は引き続き求心力を確保する考えだ。

 ■改憲、「党一丸で」 首相、四役に呼びかけ

 首相は今回の人事に、憲法改正に向けた挙党態勢を敷くねらいも込めた。

 「党一丸となって力強く進めていきたい」。11日の役員会で首相は、二階氏や岸田氏ら党四役の名前を列挙し、改憲の歯車を回す考えを強調した。

 1年前の党人事では、首相は自らと思想信条の近い側近に憲法論議の進展を委ね、野党の反発を招いた。その反省を踏まえ、これまで積極的に憲法に関わってこなかった党の中枢にも関与を促し、公明党や野党との調整を進めるねらいだ。

 首相はハト派と目される岸田氏や、野党と一定のパイプがある二階氏らにも、続投にあたって直接、協力を求めたとされる。11日の官邸での会見では、国会の憲法審査会をめぐり「国民の期待に応える議論をしてもらいたい」と語り、国会で自民党が主導権を握り、改憲の具体的な議論を進めたい考えも示した。

 だが、首相の強い意欲が改憲論議の前進につながるかは不透明だ。首相は先の参院選で繰り返し、「憲法の議論を進める候補者か議論しない候補者かを選ぶ選挙だ」と、野党を批判した。野党第1党の立憲民主党などは態度を硬化させており、安倍政権下での改憲論議に応じる兆しはみえない。

 加えて参院選では、与党と日本維新の会などの改憲勢力が、参院で改憲発議に必要な3分の2を割った。「国民が憲法改正を望んでいないからできない」。立憲民主の福山哲郎幹事長は冷ややかで、現状では改憲の中身の議論どころか、手続きをめぐる国民投票法改正案の審議も見通せない。

 いまの衆院議員の任期は2021年10月まで。次の衆院解散が視野に入るなか、今後、与野党間の対立が強まる可能性は高い。

 ただ、首相周辺は「憲法改正は安倍政権の旗印。首相があきらめることはない」。首相は改憲論議の行方をみながら、解散のタイミングを含め政権のかじを取ることになりそうだ。(安倍龍太郎、明楽麻子、石井潤一郎)


第十六面の記事

 (社説)安倍新体制 「挑戦」課題を見誤るな

 閣僚19人中17人を交代させ、うち13人が初入閣というものの、刷新のイメージよりは、側近の重用と派閥の意向に配慮した内向きの論理が際立っていると言わざるをえない。

 安倍首相が夏の参院選を受けた内閣改造と自民党役員人事を行った。「安定と挑戦」を掲げ、内閣と党のそれぞれ骨格である麻生副総理兼財務相と菅官房長官、二階俊博幹事長と岸田文雄政調会長を留任させた。

 森友問題で公文書改ざんという前代未聞の不祥事を起こした組織のトップである麻生氏に対し、社説は繰り返し、政治責任をとって辞職すべきであると主張してきた。続投を決めた首相の判断は承服できない。

 それに加え、首相は今回、加計学園の獣医学部新設問題への関与が取りざたされた側近の萩生田光一・党幹事長代行を文部科学相に起用した。森友・加計問題は、いまだ真相が解明されていないというのに、既に「過去のもの」と言わんばかりだ。

 萩生田氏が安倍内閣の官房副長官だった16年10月、文科省の局長に対し「総理は『平成30年(2018年)4月開学』とおしりを切っていた」と伝えた――。そんな記録文書の存在が明らかになったのは17年6月。萩生田氏は発言内容を否定するが、文科行政のトップに立つ以上、うやむやにはできない。国会で納得が得られるまで説明を尽くす責任がある。

 政治信条の近い議員の登用は萩生田氏ばかりではない。首相補佐官から1億総活躍相として初入閣した衛藤晟一氏は、新憲法制定を掲げる保守系の運動団体「日本会議」に中心的に関わってきた。総務相に再任された高市早苗氏については、前回、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波停止を命じる可能性に言及し、放送への威圧と批判されたことを忘れてはなるまい。

 一方、総裁選で争った石破茂・元幹事長の派閥からの起用はゼロだった。石破氏を支持した無派閥の小泉進次郎氏を環境相に抜擢(ばってき)したとはいえ、自らに批判的な勢力を干すような人事は、忖度(そんたく)をはびこらすだけではないか。閣内に入った小泉氏には、首相への苦言を辞さないこれまでの政治姿勢を貫けるかが問われよう。

 首相は組閣後の記者会見で、新内閣が取り組む「挑戦」について、全世代型社会保障への転換など内外の諸課題を挙げたうえで「その先にあるのは憲法改正への挑戦だ」と語った。しかし今、国民の間に改憲を期待する機運があるとは思えない。党総裁としての残り任期2年の間に何を成し遂げるか、挑戦する課題を見誤ってはいけない。


総理は「自民党立党以来の悲願」というけれど、戦争をしない、武力を持たない、国の交戦権を放棄すると明記されている憲法そのものに反抗する考えを結党以来持っていたと判断しなければならない。 言い換えれば、武力を行使して戦争、殺戮、破壊という手段を国際間で持つというのである。

笑顔を浮かべながら口では国際間の平和を解きながら、戦争の準備をするというのである。 これほどの矛盾を私たちは見逃すわけにはいきません。 戦争というものが、どんな結果をもたらしたか、どこの国の人たちも一人一人の心で知っていても、いつも騙されているのです。

こんな繰り返しに騙されてはなりません。 この繰り返しを許すわけにはいきません。

私たちの心の願いを政治家は心から受け取っていないではないか。 第4次再改造内閣発足後初めの記者会見での発言は、武力を持つことを正当化することだったのである。

憲法改正を許してはなりません。

憲法第9条
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する

前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない国の交戦権は、これを認めない

憲法前文とともに「三大原則の1つ」である平和主義を規定しており、この条文だけで憲法の第2章「戦争の放棄」を構成する。この条文は、憲法第9条第1項の内容である「戦争の放棄」、憲法第9条第2項前段の内容である「戦力の不保持」、憲法第9条第2項後段の内容である「交戦権の否認」の3つの規範的要素から構成されている。日本国憲法を「平和憲法」と呼ぶのは、憲法前文の記述およびこの第9条の存在に由来している。



若者の死因 第1位が「自殺」 の日本
   なぜそんなに生きるのが「辛い」のか
   ドイツからその「辛い」について考えてみた
   雨宮 紫苑 ドイツ在住フリーライター
   https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66433

日本では10歳~39歳までの死因1位は「自殺」(厚生労働省自殺白書H30年度版)であり、世界で比較してももロシア・韓国とともに「若者の死因自殺率」が高い(厚生労働省「諸外国における自殺の現状」)。

日本ではそんなに生きるのが「つらい」と感じてしまうのだろうか。それはなぜだろうか。

22歳まで日本に生まれ育ち、ドイツにわたった雨宮紫苑さんが自身の体験を踏まえて検証する。

なんでそんなに「つらい」のか

ここ最近のトレンドなんだろうか。どうにも、「生きづらい」という言葉を見かけることが多い。「生きづらさを感じる人にエールを贈る」「生きづらい人のサポートをしたい」「生きづらさに負けずにがんばろう」……。

いたるところで気軽に使われている「生きづらい」という言葉は、改めて考えるとなかなか衝撃的だ。仕事がつらいとか人間関係がつらいとかそういうレベルを通り越して、「生きる」のが「辛い」のだから。

実際のデータでも、悲しいことに「生きづらさ」を抱える人の多さがうかがえる。たとえば厚生労働省の統計によると、15~39歳の各年代の死因第1位が自殺だ。

内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』では、自分の将来のことについて心配している日本人は78.1%で、心配していない人は21.8%。ちなみにドイツは56.1%と43.9%、アメリカは63.4%と36.6%、スウェーデンは49.1%と50.9%。

『世界幸福度ランキング』では、156か国中日本は58番目。また、以前書いた記事でも紹介したとおり、自分の容姿への満足度は22ヵ国中最下位だ。

こういう統計を見ると、国民性もあるとはいえ、たしかに「人生楽しくてしょうがない!」「充実してる!」「自分が好き!」と迷わず言える人はかぎられているのだろうと思う。

では、いったいなにがそんなに日本人を生きづらくしているんだろう?

それはたぶん、「こうすべき」という固定概念だ。

日本に生まれ育った私が初めてドイツへ

大学2年生の夏休み、わたしははじめてドイツを訪れた。現地の大学が提供する1ヶ月のサマーコースに参加するためだ。

それまでわたしは、日本人両親のもとに生まれ、日本で育ち、日本語を母語とする日本人としか関わったことがなかった。わたし自身も日本生まれ日本育ちだ。そんなわたしが、ドイツ滞在の1ヵ月間で、世界中からやってきたいろいろな人と出会うこととなる。

就職回避のために片っ端から奨学金を申し込んで各国を留学ハシゴしているオーストラリア人。

5ヵ国語話せる中国人。

留学はカモフラージュで将来の出稼ぎ準備で来たルーマニア人。

留学中でも週末は実家に帰って恋人と会うフランス人。

家賃と生活費が安いドイツに留学するかたちをとって、大好きなスイス旅行に行きまくり授業にまったく来ないアメリカ人。

テストに遅刻するのがイヤだから、大学の駐車場で車内泊をしたというチェコ人もいた。出身国を紹介する授業で「チェコのお酒をもってきました」と振舞ったお酒のアルコール度数は、なんと40%! 何気なく飲んだわたしは酔っ払って早退することに……。

そうそう、日本語がとても上手なブルガリア人女性とも仲良くなった。舌ピアス、葉巻を咥え、腕にはがっつりタトゥー。日本だったら絶対に関わらなかったであろうタイプだけど、なぜか気があったのだ。ブルガリアでは誕生日の人がまわりの人にプレゼントをする文化らしく、彼女の誕生日に手作りクッキーをもらった。

NEXT ▶︎ 崩れ去った「こうあるべき」

世界は広かった!

年齢も、母語も、文化も、宗教観も、なにもかもがちがう人たち。そんな人たちと出会ったことで、わたしのなかの「こうあるべき」は、たった1ヵ月でことごとく崩れ去った。

なーんだ、大卒でそのまま就職しなくても死にはしないじゃん。海外でも住んでみりゃどうにかなるじゃん。年齢や偏差値なんて日本を出たらだれも気にしないじゃん。いろんな人がいて当然! そう思うようになったのだ。

サマーコースに参加する前のわたしは、「高校を卒業していい大学に行き、大手企業に就職し、結婚して子どもを産む」という未来を漠然と思い描いていた。

でも、世界は広い。そういう生き方だっていいけど、そうじゃない生き方だっていい。どうやって生きていくかは、自分で選ぶもの。大学2年生のわたしは、そんなことすら知らなかった。

日本にはわりと明確な人生の規定路線があって、気がづいたら「多数派」という流れるプールのなかでみんなと一緒に流されていくことが多い。

受験生なら塾に行って勉強しましょう。大学生は早いうちから就活をしましょう。新卒入社したらできるだけ3年は勤めましょう。わたしのようなアラサーの女性は、「結婚」「出産」という使命を果たすことを期待されることも少なくない。

そうやって「当然」を刷り込まれていくうちに、いつのまにかそれ以外の選択肢を削り取られてしまうのだ。まるで、ほかの選択肢なんて存在していないかのように。

NEXT ▶︎ 30代でミニスカート履いたっていい

押し付けるの、やめませんか

日本は年功序列がいまだ根強く、学校生活から年齢による上下関係を叩き込まれる。そんななかでは、「一度勤めて大学に入りなおす」「40歳で転職、ゼロからキャリアをスタート」ということはむずかしい。

でも問題は、そういった制度的なことだけでなく、自分のなかの「こうあったほうがいい」を他人に対して「こうすべき」と押し付ける人が多いことだと思う。

たとえば学校の黒髪強制。「30代なのにミニスカートを履くなんてみっともない」と他人のファッションに口を出したり、「結婚したなら旦那さんにおいしい料理つくらないとかわいそうでしょ」と首を突っ込んだりするのもそうだ。

自分は多数派に所属するごくふつうの人間だから、自分の価値観は正しい。そう信じて疑わず、平気な顔で他人に「こうすべき」と言ってくる人が多すぎる!

「多様な価値観を認めます」というスタンスの人も、このご時勢だいぶ増えてきてはいる。でも、自分のなかの規格から外れた人をどう扱っていいかわからず持て余すことはあるだろう。

「60歳で東大合格」

という見出しを見ればみんな「すごい!」と誉めそやすが、実際同じゼミにいる60歳の学生に声をかける人は少数ではないだろうか。小学生不登校youtuberを応援したとしても、採用面接で「ずっと不登校で動画を上げていました」と言われたら採用をしぶる人が大半じゃないだろうか。現実なんてそんなものだ。

「こうあるべき」論が強いから、そこからはみ出た人は異物として扱われ、浮いてしまう。だから少数派は、いつだって生きづらさを抱えることになる。

NEXT ▶︎ 「こうなればいいなあ」と言うなら

「異端者」は「裏切者」じゃない

じゃあ多数派に所属すれば万々歳かというと、そうでもないのもまた問題だ。多数派に所属しているからって、仲間と手を繋いで仲良しこよし、というわけではない。「この場で自分は異物じゃないか?」と常に不安が付きまとう。

お互いを牽制しあって「異端者はいないか?」と目を光らせていることも結構ある。多数派という枠から飛び出すときは、よっぽどうまくやらないと「裏切り者」かのように言われがちだ。

だから、多数派からこぼれてしまわないよう、できるだけ目立たず平凡に生きようと、自分の自由を自分で縛らざるをえない。

というのも、ドイツで暮らすようになってから、「こうだったらいいのになぁ」と口だけで言う日本人がとても多いことに気がついたのだ。「もう少し若ければ」「お金があったら」「家事を手伝う夫と結婚していれば」「5キロやせていれば」「いい大学を出ていれば」……。

ドイツに移住後、「いいなー。わたしも海外住みたい!」となんどもなんども言われた。でも、「住めば?」というと「わたしには無理だよ」と言う。「フリーランスとして働けば楽しいだろうなぁ」と言う人に「じゃあ独立すれば?」と言えば、これまた「現実的には無理だけどね」と返される。

その気になれば実現しそうな理想ですら、「いやいや無理だよ~」「そこまで本気じゃないし(笑)」と諦めて、笑いながら「いいなぁ」と言い続ける。多数派への忖度に慣れすぎていて、自分の可能性を信じられない思考回路になっているみたいだ。

諦めることがあまりにも当然だから、「なんであいつは能天気に夢を追いかけているんだ」「そんなの失敗するに決まってるからやめておけ」と他人の可能性も奪いたくなるのかもしれない。自分だって諦めたんだから、お前も諦めろ、と。

だから多数派も少数派も、みんな息苦しい。