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続折々の記 2020③
【心に浮かぶよしなしごと】
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【 02 】03/03~
・ 田中宇による世界情報
03 03 (火) 田中宇による世界情報 世界の中の日本意識を
他人 事ではない。
トランプ対習近平、トランプ対安倍政権、この対立状況から経済問題と核開発の軍事対立が想定され、戦争時代から中立国増強を通して平和への道を模索しようと考えてみることにした。
そこで世界ニュースの解説で特異を持つ田中宇にニュースを取り上げて参考にしたい。 見た通り2月から3月の9本のニュースである。
◆ウイルスの次は金融崩壊
【2020年3月2日】ウイルスはいずれ治療薬が出てくるか、感染すべき人々が感染すれば深刻さが低下し、経済や社会も復旧する。対照的に、金融システムは崩壊するとなかなか再生できない。リーマン危機から12年たったが、いまだに世界の金融は中銀群のQEによる救済策がなければ再崩壊する。リーマン危機の時は中銀群に大きな余力があったが、今は余力をほぼ使い果たした。巨大な金融危機の再来に、中銀群は弾切れの状態で向きあわねばならない。勝てない可能性が大きい。敗北すると、米国債や日本国債の金利上昇・ドル崩壊になる。金地金ぐらいしか価値を保てるものがなくなる。
新型ウイルスとトランプ
【2020年2月27日】トランプの米政府は同盟諸国に非常に冷淡に接する覇権放棄策を採っているので、日本に対して何も指導せず、クルーズ船の対策でも船会社が米国なのに動かず、日本政府のやり方が全くダメだとわかってから、批判したり、米国人を帰国させたりする他人行儀な策に終始した。国家安全の重大事に際し、米国(お上)が主導してくれることで政府内の結束を作る仕掛けになっていた日本では、米国が何もしてくれないので、無策なだけでなく政府内の結束すらとれず、ウイルス対策は見事に失敗し続けている。
◆シリア内戦終結でISアルカイダの捨て場に困る
【2020年2月24日】トルコは、国境のシリア側に幅15キロの帯状の安全地帯を作り、ISカイダと親族・支持者らのための難民キャンプ・定住地を作りたい。一方シリアはトルコを信用していないので、安全地帯を作るとそこから再びトルコや軍産がISカイダに内戦を再開させかねないと懸念している。ここで、仲裁役であるロシアの出番になる。シリアは安全地帯を一時的に認める代わりに、アサド政権に対する国際的な再承認を得るのでないか。ただし米国はそれを認めず自ら「お味噌」になっていく。
新型ウイルス関連の分析
【2020年2月20日】ロシアが今のタイミングで中国人の入国を全面禁止したのは、中国がこれから従来の厳しい国内諸都市の封鎖を少しずつ解いていくからだ。封鎖解除とともに、中国国内の人的の交通がしだいに増えていく。ロシア(や日韓など周辺諸国)にやってくる中国人も少しずつ再増加する。中国は、経済再開がこれ以上遅れると、習近平の独裁と中国共産党の統治の正統性が失われかねないので、無理をして封鎖解除・経済再開を進めている。日韓も、中国人を今すぐ入国禁止にするのが良い。
世界に蔓延する武漢ウイルス(2)
【2020年2月18日】日本や韓国などアジア諸国の多くは、政治的な中国への配慮・媚中と、経済的な成長急減への恐怖から、水際政策も国内感染拡大抑止策も無策に近い。だが、意外にも「神風」的なものが吹いている可能性がある。それは、ウイルスが感染を繰り返すほど重篤性(病原性、致死率)が下がることだ。発生地の武漢から遠ざかるほど発症者の数が桁違いに少ない。これは遅行性の問題なのか?。いずれ武漢から遠い諸外国でも発症が急増して毎日世界で数万人ずつ発症するのか?。私は最近までそれを恐れ、悲観論を展開してきた。しかし、これまでのアジア諸国での感染拡大の流れを見ると、そうはならないとも思える。
世界に蔓延していく武漢ウイルス
【2020年2月15日】米政府のウイルス対策担当部署CDCの所長が「ウイルスは米国でも蔓延し、感染問題は今年じゅうに終わらず、来年まで続くかもしれない」と警告した。世界で最も厳しい措置をとってきた米国でさえ、ウイルス蔓延の可能性が高まっている。しかも蔓延が来年まで続くかもしれないという予測だ。これは衝撃だ。「ウイルスは3月に終息していく」との楽観論は政治的な目的を持った甘すぎる予測・プロパガンダなのだ。中国でのここ数日の事態の悪化を見ても、簡単に終息しないことがわかる。
悲観論が正しい武漢ウイルス危機の今後
【2020年2月12日】中国共産党は、国内には「長く厳しいウイルスとの戦争」を言い聞かせる一方で、世界には「もうすぐウイルスを打破して経済を再開する」と喧伝する二枚舌戦略をやっている。中共は、経済成長の実現が最大の政治正統性であり、経済成長を止めて4億人分の都市を封鎖したのは、国家安全に対するウイルスの危険が非常に大きいことを意味する。未発症で感染する武漢ウイルスの感染防止策は、大規模な隔離封鎖しかない。中国以外の多くの国は大規模な隔離封鎖をやれない。中国以外の国の感染者が急増したら、十分な隔離封鎖をやれず感染が大幅拡大するかもしれない。こうした危ない国の中に日本が入りうる。
◆ウイルス戦争で4億人を封鎖する中国
【2020年2月10日】「新型ウイルスは危険でない。習近平は独裁強化のためにウイルスとの戦争だと言っている」という説があるが間違いだ。中共の政治正統性は経済成長にある。ウイルス感染で中国が経済成長できなくなると、中共と習近平独裁の正統性が失われる。中京は今、経済を犠牲にして4億人に自宅検疫を強要している。このウイルスはやはり中国の国家安全の脅威になる危険なものなのだ。習近平は1月23日に武漢周辺を完全閉鎖した時点で、武漢が全滅しても国家を救うためにやむをえないと考えて見捨てた。武漢の患者救済を優先していたら、外部との交通遮断が遅れ、感染が中国全土や全世界にもっと急速に広がっていた。
【2月10日の短信】
フィリピンのドゥテルテ大統領が米国との軍の地位協定を破棄すると表明した。以前から米国と対立するたびに破棄を表明するが決行せず。だが米覇権衰退・中国台頭の中、いずれ決行するはず。今回が本番か?。フィリピンは米国傘下から中国傘下へ。ウイルスで弱っている中国に恩を売る策略かも。
2020年2月10日 田中宇
【2月10日の短信】
フィリピンのドゥテルテ大統領が米国との軍の地位協定を破棄すると表明した。以前から米国と対立するたびに破棄を表明するが決行せず。だが米覇権衰退・中国台頭の中、いずれ決行するはず。今回が本番か?。フィリピンは米国傘下から中国傘下へ。ウイルスで弱っている中国に恩を売る策略かも。
(Philippines' Duterte moves to terminate defence pact with US)
2020年2月10日 田中宇
ウイルス戦争で4億人を封鎖する中国
2月10日、中国政府が武漢コロナウイルスの蔓延を防ぐため延長していた旧正月の休暇の延長期間が終わり、中国各地の一部の工場や企業の活動が再開された。だが、再開は一部だけにとどまり、中国の経済活動のほとんどは依然として停止している。先週末の段階で、中国経済の80%、中国から世界への輸出の90%が止まっていた。大企業のひとつアリババは、今週いっぱい16日まで従業員の休暇と操業停止を延長した。中国政府は「ウイルスの拡大は山を越えたが、まだ感染再燃の恐れがあるので慎重に経済を再開していく」と表明している。これから徐々に再開するという見通しだ。 (China seeks to restart economy despite coronavirus outbreak) (武漢コロナウイルスと世界不況)
しかし実際にはここ数日、市民に無期限の外出禁止(自宅検疫)を義務づけ、地域を封鎖する新たな大都市や省が相次いでいる。成都、広州、重慶、南京、杭州、ハルビンなどだ。先週末の時点で、40の大都市と3つの省が全住民に自宅検疫を義務づけている。中国の人口の3分の1を占める4億人が自宅検疫を続けている。それ以外の中国もおそらく全域が住民に何らかの行動規制を強いている。無数の中小都市や農村が、検問所を作って外部者の入域を禁じ、内部の住民もできるだけ外に行かせない検疫体制を組んでいる。 (Inside Wuhan: Daily life in China's coronavirus quarantine zone) (Chinese villages build barricades to keep coronavirus at bay)
自宅検疫の拡大からは「感染拡大が山を越え、徐々に経済を再開する」という当局発表とは逆の動きが感じられる。つまり「まだ感染が拡大しており山を越えておらず、経済を再開できる状況にない」ということだ。「中国経済は2月10日から慎重に再開された」という公式論は、中国への国際非難の増加や株価下落を防ぐための歪曲話かもしれない。来週初めの2月17日になっても経済再開が加速しない場合、事態の改善が歪曲話である可能性が強まる。 (Angry Chinese Ambassador Slams US Senator For "Absolutely Crazy" Theory Coronavirus Is Biological Weapon) (Coronavirus: Pressure grows to re-open factories)
4億人の自宅検疫体制を「感染拡大」でなく「感染拡大を先制する予防策」と考えることもできる。だが、この巨大な封鎖体制は、中国の党と人々が最重視する「経済活動(金儲け)」や「教育」を著しく阻害する。中国全土の学校のほとんどは閉まったままだ。現時点で予定されている最速の学校再開は3月1日だ。「一応やっておこう」的な予防策でこんなことをするとは思えない。やはり今回のウイルスはかなり危険なものであり、湖北省以外の場所でも感染がまだ拡大していると推察するのが妥当だ。 (Exiled Chinese Billionaire Claims 1.5 Million Infected With Coronavirus, 50,000 Dead) (As China returns to work, it is hardly business as usual)
習近平は2月5日ごろの中共中央の会議で、今回のウイルスとの戦いには「1937年の精神」が必要だと言っている。1937年は日中戦争が始まった年であり、習近平が言いたかったのは、まだ山賊だった中国共産党軍が巨大な日本と死にものぐるいで戦おうとした時の「抗日戦争の精神」である。安倍の日本は中国に対して「いい子」を貫き、日中間の定期旅客機は飛び続けているし、安倍は日本のマスコミやウヨクに中国批判を言わせない傾向だ。だから習近平は、反日的な「日本と戦った時の精神」でなく「1937年の精神」言ったのだろう。習近平は「ウイルスとの戦いは、党と国家の運命がかかっている大変な戦争なのだ」と言った。中共は今回のウイルスを「国家安全に対する重大な脅威」と考えており、それで「戦争」つまり有事体制を組むことにした。有事体制の一つが、4億人に対する自宅検疫の強制だった。 (Coronavirus is the Black Swan that might finally sink the markets) (China's Xi Declares 'People's War' on Coronavirus)
「今回のウイルスはそんな危険なものではない。習近平は、自分の独裁を強化するために戦争だと言っているんだ」という説がある。それは間違いだ。トウ小平以来、中共の政治正統性は経済成長にある。今回のウイルス問題で中国が経済成長できなくなると、中共と習近平独裁体制の正統性が失われる。中京は、経済を犠牲にして4億人に自宅検疫を強要している。このウイルスはやはり中国の国家安全の脅威になる危険なものなのだ。戦時に自国軍の犠牲を小さく見せる有事プロパガンダをやるように、中共は感染者や死者の総数、致死率を実際よりずっと少なく発表している疑いがある。 (Optimism Fades As Virus Deaths Jump To 724; 190K Under Observation; Drop In New Cases Reverses Higher)
中共の今回の「戦争」の敵は新型ウイルスだ。治療薬は存在しない。検査薬も、医療従事者も足りない。武漢では医療従事者の3割が院内で感染し、どんどん発症している。ウイルスとの戦いが長引くほど、ウイルスに勝てなくなっていく。治療薬がないことは、敵と戦う武器がないことを意味する。感染者や発症者は、隔離しておくしかない。本来なら1人ずつ個室に隔離しておくべきだが、収容施設が足りない。仕方がないので、新しく作った病院には仕切りもない。発症者どうしが密集して寝ている。ウイルス感染で発症して治癒すると、体内に抗体ができて再発を防ぐが、今回のウイルスは十分な抗体が作られず、いちど発症して治癒しても、再び感染し発症する可能性があると、北京のウイルス専門家が発表した。しかも、ウイルスは人から人に感染していくうちに変異して別のウイルスになりうる。発症者が大部屋に集められている病院では、治癒しても再発してしまう恐れがある。一度入ったら二度と出られない「死の収容所」と化しているとの指摘がある。 (Scientists Warn: You Can Contract The Coronavirus More Than Once) (Doctor Warns Up To 30% Of Medical Staff Working In Wuhan Hospital Now Infected With nCoV)
これはとんでもない人権侵害だと非難されているが、事態は平時でなく戦時だ。病院が足りないので発症者を自宅に置いておくと同居人や近隣の人々が大量に発症しかねない。発症者が出た町の全体を隔離し、住民の外出を禁じないと、町全体、国全体が発症してしまう。治療薬はないし医療従事者も足りない。ウイルス感染した国民は「敵」を内包している。病院とは名ばかりの「死の収容所」を作って隔離しておくしかない。武漢や他の都市では、中共がホテルを接収して発症者を閉じ込める仮病院=収容所にしている。そこには看護師も少数しかいない。この惨事を外部に伝えようとした市民ジャーナリストが捕まってこれらの収容所に隔離されたと中国敵視の活動家が指摘している。事実上の死刑である。戦時だから売国奴は死んでもらう。 (The Dystopian Horror Of Life Under Quarantine In China) (Chengdu On Lockdonw As Coronavirus Deaths Hit 813, Surpassing Total From 2003 SARS Outbreak)
習近平は1月23日に武漢の周辺を完全閉鎖した時点で、武漢が全滅しても国家を救うためにやむをえないと考えて見捨てたのだろう。武漢の患者救済を優先していたら、外部と武漢との交通の遮断が遅れ、感染が中国全土や全世界にもっと急速に広がっていただろう。中共のこうした強硬な戦法は、中共が抗日戦争に勝った「勝者」で、中共が強い独裁体制だからやれている。その戦争で「無条件降伏」し、その後75年間骨抜きの日本で同様のウイルス事件(たとえば武蔵村山の感染症研究所からのエボラウイルスの漏洩)が起きたら、強硬で急速な隔離政策をとれず、75年ぶりに今度こそ本当の「1億総玉砕」になりうる。 (武漢コロナウイルスの周辺)
これらの現状を総合して考えると、新型ウイルスの猛威はまだ中国で続いている。中国以外の諸国での発症は総数がかなり少なく、それを見るとウイルスの脅威は大したことないと思えるが、それと対照的に、中国の巨大な封鎖を見ると、かなりの脅威に違いないと思えてくる。こんご最も早く状況が改善しても、中国各地の大都市の封鎖が緩和され、経済の再開が始まったと実感できるのが2月下旬から3月上旬、そのあと4-6月にかけて再開が進み、悪影響が終わるのは秋になる。現時点で、中国の都市封鎖は終わるめどが発表されていない。今年の世界経済がマイナス成長になる可能性が増している。 (Sen. Tom Cotton: China is not close to having control over coronavirus situation) (Here Are The 2 Trillion Reasons Why Stock Markets Are Soaring In The Face Of A Global Pandemic)
米国では以前から中国敵視だった共和党のトム・コットン上院議員が、新型ウイルス感染の被害は中共の発表よりはるかに大きいはずだとか、まだウイルス問題の解決のメドが立っていないはずだとか、ウイルスは武漢の野生動物市場からでなくウイルス研究所から漏洩したのでないかと言っている。民主党や軍産系マスコミは、コットンの主張を陰謀論扱いしている。だが私から見ると、コットンの指摘の多くは合理的だ。 (Chinese diplomat pushes back against coronavirus 'rumors' from GOP senator) (Don’t Listen To Sen. Tom Cotton About Coronavirus)
2020年2月12日 田中宇
悲観論が正しい武漢ウイルス危機の今後
この記事は「ウイルス戦争で4億人を封鎖する中国」の続きです
中国政府は新型ウイルスの感染拡大のために、1月23日から武漢市と湖北省(合計で人口6千万人)を外部と完全閉鎖して住民に無期限の自宅待機(自宅検疫)を義務づけた。その後、武漢からの人の移動で発症者が少し出ている中国全土の約80の大都市と2つの省でも、同様の封鎖・自宅検疫態勢を敷いた。中国の人口の3分の1にあたる4億人が、外部と断絶された封鎖状態の中で生活している。この封鎖は明確な期限が設けられておらず無期限だ。(中国に媚び配慮して「武漢ウイルスと呼ぶな」という風潮が始まっているが、このウイルスは武漢のウイルス研から漏洩した可能性があり、しかも武漢市は中共のウイルス戦争の捨て駒にされている。「武漢」の名は重要だ) (武漢コロナウイルスの周辺) (武漢コロナウイルスと世界不況)
新型ウイルスには、ワクチンなどの治療薬がないうえ、発症前の無症状な感染者から他の人に移ってしまう。感染したかどうかを判定する検査キットも世界的に不足しているし、検査には設備と時間が必要だ。ウイルス感染を止めるには、町ごと封鎖・隔離して予防するやり方しかない。中国は、ウイルス感染の唯一の拡大防止策である封鎖・隔離を大規模に始めている。1月23日から約2週間に、4億人を封鎖する策を実施したのは驚きだ。封鎖すると、その地域の経済活動がほとんど止まり、学校も娯楽も停止され、経済的、社会的、精神的に大きな苦しみとなる。当然、各地の共産党幹部は封鎖に抵抗しただろうが、中共は習近平の強力な独裁権力を使い、問答無用で封鎖を進めた。 (Xi Jinping faces China’s Chernobyl moment) (Beijing Under Partial Lock Down As Virus Death Toll Tops 900; More Than 40,000 Infected)
今回の武漢ウイルスがどのぐらい危険なのか、まだわかっていないことが多い。「致死率も低く、毎年のインフルエンザと変わらない」という楽観論も少し前まであった。楽観論に基づくと、大都市を丸ごと隔離するのは習近平の独裁強化を目的にした過剰反応とも思える。日本や韓国、欧州諸国の多くなどは、依然として湖北省以外の中国からの入国の流れを検疫なしで放置しているし、市民は繁華街の人混みの中をのんきに歩いている(世界的に外出時の感染への警戒が強まっているようだが)。中共自身、武漢ウイルスの危険さや、4億人を封鎖している理由について何も発表していない。封鎖されている地域がどこなのかという詳細すら、ネットでいろいろ検索したが出てこない。全体像が曖昧だ。そんな中で、2月10日の週明けから中国各地で工場の再稼働など経済活動が再開されたという話も出ている。楽観論と悲観論のどちらが正しいのかわからなくなっている。 (For Markets Just One Thing Matters: Did China Go Back To Work Today Or Not?)
そんな中、習近平は2月10日、武漢発祥の新型ウイルスへの予防と制御を担当している北京市内の病院の一つを訪問した。久々に公の場所に姿を見せた彼はマスク姿で、武漢とテレビ電話をつないだりして担当者らと話し合った後、少し演説した。習近平は演説で「ウイルス感染の状況は依然として非常に厳しく、予防・制御策は膠着した状態が続いている」(当前疫情形勢仍然十分厳峻;現在疫情防控正処于胶着対壘状態)と述べたと報じられている。2月10日から経済を再開できるなら、こんな長期戦を覚悟した悲観的な発言はしない。「状況は改善している」と述べるはずだ。習近平の悲観論の発露を見て私は、中国のウイルス危機はまだまだ続き、感染者・発症者が増え続け、4億人の封鎖も継続・拡大するだろうと感じた。楽観論は間違っており、悲観論が正しい。 (如何打贏武漢保衛戦、湖北保衛戦? 習近平提出五点要求) (Masked President Xi Warns 'Prepare For Long & Grim' Virus Battle As Trump Insists Outbreak Will End By April)
前回の記事にも書いたが、中共は経済成長の実現が最大の政治正統性であり、経済成長を止めてまで大都市を次々と封鎖するのは、それだけ国家安全に対するウイルス問題の危険が大きいことを意味する。やはり、武漢ウイルスの感染拡大防止策は、大規模な隔離・封鎖による予防しかないのだ。多くの国は、こんな大規模な隔離・封鎖をやれない。今はまだ中国以外の世界中の感染者が多くないが、今後、中国以外のどこかの国の感染者が大きく増えると、その国は十分な隔離・封鎖政策をやれず、感染が大幅拡大する可能性がある。こうした国の中に日本が入りうる。 (Life and death in a Wuhan coronavirus ICU 武漢の壮絶な状況) (新型コロナウィルスについて調べたこと、考えたこと)
2月10日に中国のいくつかの工場が再開されたが、その多くは韓国など諸外国の工場に部品を供給するための工場で、諸外国から懇願・加圧されて特別扱いで再開した感じだ。中共は経済よりウイルスの阻止を優先しており、ウイルスとの厳しい戦いが続く以上、経済の再開は二の次で最小限になる。これから1-2週間すると、中国の経済は実のところほとんど再開されていないことがバレていくだろう。中国は統計数字をごまかすだろうが、それをどうやって見破るか、ゼロヘッジが考えている。 (中国製部品の需給に息抜き-現代自、一部車種の生産を再開) (Is China Really Resuming Production? Here Is The Dismal Answer, And An "Alternative" Way To Track What's Really Going On) (Does A Sudden Surge In SO2 Levels Suggest A Huge Surge In Cremations Across China? 武漢でSO2急増。大量の遺体焼却か)
習近平が発した悲観論は、英国の医学雑誌ランセットに載った、武漢ウイルスの感染者数の概算や今後の予測に関する1月29日時点の研究報告書が、大げさな歪曲でなく実態に近いものであることも感じさせる。ランセットに載った研究は感染のモデルを使った概算で、1月29日の時点で武漢に感染者が7万6千人ぐらいいると概算し(この時点で中国の当局発表の感染者数は7800人だった)、すでに重慶や北京など他の大都市に数百人単位で感染者が移動していると推定した。また今後の予測について、人々の移動への抑止がどのくらい有効かによるが、感染のピークが3月後半から5月、もしくはそれ以降なると予測している。 (Nowcasting and forecasting the potential domestic and international spread of the 2019-nCoV outbreak originating in Wuhan, China: a modelling study)
1月29日の段階では、この研究の感染者数の概算がかなり多いと感じられたが、その後、武漢で感染の検査を受けられない人が無数にいることがわかり、感染者数が中国当局の発表よりはるかに多いと考えるのがむしろ自然なことになった。武漢の閉鎖前に他の諸都市に移った人々から他の市民への感染を防ぐための大規模な諸都市の封鎖も行われ、ランセットが示した筋書きが現実と合致している。ランセットの予測が正しいなら、中国の大規模な封鎖はこれからまだ2-3か月は続く。これは習近平が2月10日に「事態はまだ膠着状態だ」と述べたことと合致する。あと2-3カ月も中国で感染者が増え続けると、おそらく連動して中国以外の諸国でも感染が増える。世界はかなり危険な状態になる。 (Is The True Number Of Coronavirus Victims Far Larger Than We Are Being Told?)
中国当局が発表する感染者数はさいきん毎日3千人近くの増加で一定していたが、これは中国の感染者の検査をする設備能力の合計が1日3千人程度を限界としており、3千人以上検査できないので3千人なのだと推測している人(Scott Gottlieb。米国の医師)がいる。この推論が正しいかどうかわからないし、3千人よりはるかに少ない日もある。しかし、なるほどと思える推論だ。 (This Is How China Is Rigging The Number Of Coronavirus Infections)
英国からはもうひとつ、ロンドンの大学LSHTMがもっと楽観的な予測の研究を発表している。2月8日に報じられたその研究も、感染のモデルを分析したもので、武漢での感染者は市民の5%にあたる50万人が感染のピークとなり、2月の中旬から下旬にかけてピークに達する。今の実際の感染者数(50万人近く)は当局発表(1万7千人)よりはるかに少ないが、普通のインフルエンザと区別しにくいので、多くの市民は感染しても新型ウイルスと判別されないでいる。春に近づき気温が上がるので感染の拡大が阻害される。最近の4日間は当局発表の感染者数の増加幅が減少しており、これがピークの接近を示している。武漢がピークになると、少し遅れて他の諸都市の感染者数も山を越える。今後の2週間で、本当にピークがくるかどうかわかる、とLSHTMの研究は結論づけている。 (Coronavirus May Infect Up to 500,000 in Wuhan Before It Peaks) (Analysis and projections of transmission dynamics of nCoV in Wuhan)
株価をテコ入れしたいトランプ米大統領は2月10日に「中国のウイルス問題は、春になって気温が上がるので4月までに解決する」という楽観的なツイートを発したが、トランプはおそらくLSHTMの研究を見ている。この研究の予測が事実になるなら、再来週には武漢の実質的な感染者の減少が始まる。ランセットの予測より事態の収束がかなり早く、これが現実になると未来がかなり明るくなる。だが、LSHTMの研究の楽観論は、2月10日に習近平が発した悲観的な展望と矛盾している。もしこの研究の通りになっているなら、習近平は「今は膠着状態だ。厳しい戦いが続く」と言わず「まもなく解決する。もう少しだ頑張ろう」と言うはずだ。それにLSHTMの研究は、当局発表が非現実的な数字だと言いながら、当局発表の数字に頼って自論を正当化しており非合理的だ。この研究は、中共から楽観論を出してくれと頼まれて作った感じがする。 (President Trump tweeted the coronavirus could weaken as weather warms. Scientists say it's too early to know)
2月11日は、中国上層部の専門家(鐘南山)が「ウイルスは2月の中旬から下旬がピークで、4月に終息しそう」との予測をマスコミに発表した。LSHTMの研究とほとんど同じ予測だ。これが実現したら結構なことだが、この楽観論は、2月に入って4億人が隔離隔離され、習近平が10日に悲観論を発したという現実と、大きく食い違っている。「2月ピーク、4月終息」の説は「2月10日から中国の工場が再開」と合わせ、中共が関係筋(媚中の英国、株高希望のトランプや金融界マスコミ)と組んで流布させているプロパガンダの可能性がある。中共は、国内には「長く厳しいウイルスとの戦争」を言い聞かせる一方で、世界には「もうすぐウイルスを打破して経済を再開する」と喧伝している。中共の二枚舌戦法に気づくべきだ。あと2週間もすれば、今回の私の悲観的な見立てが正しいかどうかわかる。楽観論の予測が当たり、私自身の悲観論が外れたら、暗い気持ちの私にとってもうれしいが、現時点で楽観論が正しいとは思えない。 (Exiled Chinese Billionaire Claims 1.5 Million Infected With Coronavirus, 50,000 Dead) (新型肺炎流行、4月に終息も ピークは2月か 中国専門家トップが予想) (Chengdu On Lockdonw As Coronavirus Deaths Hit 813, Surpassing Total From 2003 SARS Outbreak)
2月10日には、WHOの事務局長が、中国以外の世界で新型ウイルスの感染が把握されてないケースがたくさんありそうで、発表されている感染者数は氷山の一角にすぎないかもしれないとツイートした。シンガポールの国際会議に出て感染した英国人が、次の旅先であるフランスで会った欧州各国の人々に次々とうつしたことが問題になっている。シンガポールでは中国に行ったことがない感染者が出ており、これから外国の国内での感染拡大がひどくなる兆候だ。症状が出ていない段階で感染してしまうので、国際的な人の出入りが多いシンガポールなどでは、都市ごと閉鎖できる中国より、予防や制御がはるかに難しい。それでWHOが「もっといるかもしれない」と警告を発した。今回のウイルスはグローバリゼーションを逆行させていく。 (Coronavirus cases spreading outside China ‘could be the spark’ that becomes ‘bigger fire,’ WHO says) (Coronavirus: Fallout from Singapore conference spreads across Europe)
武漢の閉鎖でウイルスの危険が知れ渡ったあと、世界各国は2種類にわかれている。一つは、米国や豪州など、中国との飛行機の定期便を停止したり、中国から自国への入国者に14日間の検疫を義務づけたりする「中国に強硬姿勢の国々」。もうひとつは、日本や韓国、ドイツなど、中国との定期便を維持し、検疫義務は武漢や湖北省からの入国者のみにしている「中国に怒られたくない媚中の国々」だ。媚中派は目先の経済成長に固執している人々でもある。彼らは、ウイルス蔓延時の経済打撃の方がはるかに大きいことを無視している。中共は、媚中の国々の対応に満足を表明している。だがその一方で、中共は国内で4億人の強制検疫など異様な強硬姿勢をとっている。前代未聞で正体不明の危険なウイルスなのだから、自国を守るには強硬姿勢をとって当然だ。習近平ら中共の上層部は「媚中の国々は馬鹿だな」と嘲笑しているだろう。 (Saxo Bank: Sanguine Approach To Virus Impact Is Misplaced) (UK Warns Coronavirus Is "Imminent Threat" 英国は媚中と現実の間で揺れている)
4億人を隔離した習近平の2月10日の悲観論を聞くと、やはり武漢ウイルスはとても危険なものであり、中国からの入国者に早くから厳しい対応をとった米国のやり方が正しかったと感じる。ロシアは中国と仲が良いが、早くから中露国境での人的往来を停止したし、その後も中国から赴任してきた領事に2週間の公邸での検疫を求めるなど、中国からの入国者に厳しい対応をしている。それでもロシアと中国の関係は良好だ。諜報機関出身で鋭いプーチンは、すぐにウイルスの本質を見ぬいたのだろう。2月12日には日本でも、危篤な感染者が出ているとか、浙江省からの中国人らも日本への入国を拒否するとか、事態がじりじりと悪化していることがわかる展開が起きている。これからの2週間で、事態が好転しそうには全く見えない。やはり悲観論が正しく、楽観論は株高や媚中、観光・飲食・小売業者がすがりつくプロパガンダである。 (Controlling The Narrative Is Not The Same As Controlling The Virus)
2020年2月15日 田中宇
世界に蔓延していく武漢ウイルス
2月14日は、世界的に武漢ウイルスの蔓延が悪化の方向に大転換した日だった。中国、米国、日本の順に分析していく。中国では、北京への他の地域からの人の流入に対する規制が開始された。北京市民で市外に出た人は、市内に戻ったら2週間の検疫(自宅?からの外出禁止)を義務づけられる。中国の党と国家にとって最も重要な首都の北京を中国の他の地域から隔離することで、北京でのウイルス感染の拡大を少しでも減らそうとする試みだろう。 (China Imposes 2 Week Quarantine On Everybody Returning To Beijing) (Beijing imposes 14-day quarantine on all arrivals)
上海でも同日、市の境界線に検問所を作って自宅や勤務先が市内にない人や車の流入を禁止し始めたという情報がツイッターで流れたが、これは「誤報だった」という指摘もでており不確定だ。中国政府は国内を、最も大事な北京(と上海?)、あまり大事でない残りの地域、ウイルス発祥地で見捨てられた武漢と湖北省、という3種類にわける政策を始めたことになる。中共が、他の地域を見捨てても北京(と上海?)だけは絶対に守る政策をとりはじめたことは、それだけ中共が国内のウイルス蔓延に手こずり、苦戦し、追い詰められていることを示している。習近平は、ウイルスとの総力戦争を宣言し、2月10日には「膠着状態だ」と表明したが、2月14日の事態は中共とウイルスとの膠着状態の戦争で、中共が負けていることを示している。武漢ウイルスは大変な脅威なのだ。 (Hubei Reports 116 New Coronavirus Deaths, 4,823 Cases; Over 160,000 Tracked) (Coronavirus: Claims Shanghai to ban all people entering city from midnight deemed false)
中国政府は、米国など、国民に中国への渡航を禁じたり、中国との間の旅客機の定期便を止めたりしている諸国に対し「ウイルス問題は解決されつつある。渡航禁止や定期便中止は間違っている。早く復旧すべきだ」と提案・要求している。実のところ、中国のウイルス問題は解決どころか逆に急速に悪化しており、中共の要求は世界に脅威を与えるものになっている。今になってわかったのは、米国が1月末に早々と中国との人的交流を断ったのは正しい政策であり、中共の要求を受け入れて中国との人的交流を止めなかった日本など媚中諸国の方が決定的に間違っていたということだ。 (悲観論が正しい武漢ウイルス危機の今後) (Chinese Experts Warn Of Imminent "Surge" In Coronavirus Cases: Virus Updates)
2月14日には、上海市当局が300人の発症と1人の死亡を隠していたことも発表された。中国政府はまた、これまで毎日発表してきた感染者数の統計数字の中に未発症者を含まず、発症者だけの数字であることも認めた。中国では検査薬が足りないので、発症しないと検査してもらえない。未発症の感染者の数は今後も不明ということになる。また中国政府は、国内の47万人が発症者と濃厚接触したと発表し、これから感染が急増しそうなことも認めた。2月9日に在米の亡命中国人(郭文貴)が「武漢でのウイルス感染の実数は150万人、死者は5万人だ」と発表し、その時は中共敵視派による誇張策かと思われたが、1週間後の今になると150万人説は誇張でなく「現実的な数字」だ。武漢ウイルスに関する楽観論は間違っており、悲観論が正しいという、前回記事に書いたことがほぼ妥当な感じだ。 (Chinese experts said that there may be a surge on COVID19) ( China Admits That More Than Half A Million People Have Had "Close Contact" With The Infected) (Billionaire Whistleblower: Wuhan Coronavirus Death Toll Is Over 50,000)
中共はこれまで、発表数字のごまかしを全く認めてこなかったが、それがここにきて突然、ごまかしを認め、被害がもっと拡大しそうなことを認め始めた。これは中共が、これまでの感染抑止策がうまくいかなかったと認め、もっと強硬な新戦略に移行したことを意味している。新戦略の一つが、北京と上海だけは感染を最小限に抑える策だ。新戦略のもうひとつは、習近平が2月13日に武漢や湖北省のトップを更迭し、新たに湖北省の共産党書記になった応勇・前上海市長が、すべての発症者を強制的に収容施設(名ばかりの病院)に入れて隔離する政策に踏み切ったことだ。 (China ousts Hubei party boss, Shanghai mayor to take over job)
これは、発症者を積極的に排除して残った人々の感染や発症を防ごうとする策なのだろうが、武漢ウイルスは未発症の感染者から他人に感染するので、発症者だけを目の敵にするのは意味が薄い。検査キットが徹底的に足りないので未発症者の感染を見分ける方法がなく、意味が薄くても強制隔離の徹底しか方法がないと中共は考えたのだろう。発症者の強制収容は人権侵害なので欧米や日本でやるのは無理だが、一党独裁の中国ならやれる。しかし効果は薄い。 (Shocking Video Shows People On The Street Being Rounded Up As Wuhan Begins 'Wartime' Measures)
中共は、2月10日から経済を再開すると宣言した。米国のアップル社は、2月14-15日から北京と上海の店舗を再開すると発表された。それだけ見ると中国経済が再開されつつある印象だ。しかし、これはおそらく中共が世界に事態の改善を宣伝するためのプロパガンダ策で、中共はアップルに頼んで店を開ける演技をさせただけだ。北京でも上海でも、市民の多くは外出を禁じられ、繁華街の店はほぼすべて閉まっている。中共はせめて北京と上海だけでも感染拡大を防ごうと必死で、外部からの人の流入を断絶している。市民が楽しくアップルの店でiフォンをいじれる状況でない。 (Apple to reopen a store in Shanghai on February 15) (China Is Disintegrating: Steel Demand, Property Sales, Traffic All Approaching Zero)
中国は今、経済の70-80%が止まっている。大幅なマイナス成長だ。世界の株価上昇は全く頓珍漢だ。米連銀や中国人民銀行が市場に資金を注入し、株価上昇を演出している。通販の世界的大手である中国のアリババは2月14日、中国と世界の金融市場のブラックスワン(驚くべき大暴落)が起きそうだと警告した。アリババの物流機能の2割しか機能していない。 (Alibaba Warns "Black Swan" Event Could Be Imminent, Triggered By Covid-19 Outbreak In China) (Alibaba warns of severe impact as coronavirus brings China to halt)
米国では2月14日、米政府のウイルス対策担当部署であるCDC(疾病予防管理センター)の所長(Robert Redfield)が「米国は今、新型ウイルスの国内での蔓延を必死で封じ込めている段階だが、ウイルスが米国内に感染拡大の根を下ろしてしまった可能性もある。ウイルスは米国でも蔓延し、感染問題は今年じゅうに終わらず、来年まで続くかもしれない」と警告した。米政府は、全米の11か所の米軍基地内の既存施設をウイルス感染者の隔離用に用意し、感染者の拡大に備えている。米国ではまだ15人の感染者しか出ていないが、今後は感染者がかなり増えるかもしれないとCDCは考えている。米軍も、感染が急拡大した場合の対応策を発表した。米国は、中国からの武漢ウイルスの流入に対して世界で最も厳しい措置をとってきた国の一つだ。 (Novel coronavirus 'is probably with us beyond this season, beyond this year,' CDC director says) ('It's Coming': CDC Director Warns Coronavirus To Become Widespread Throughout United States, 'Probably Beyond 2020')
その米国でさえ、ウイルスが蔓延する可能性が高まっている。しかも、蔓延が来年まで続くかもしれないという予測だ。これは衝撃だ。日本や中国では「ウイルス問題は3月に終息していく」との楽観論が流布し、米国でもトランプ大統領が同様の楽観論を発しているが、これらは政治的な目的を持った甘すぎる予測・プロパガンダなのだ。北半球が春になって気温が上がるとウイルスが死ぬと、トランプやその他の人々が言っているが、年中気温が高いシンガポールやタイで感染が広がっているのでそれは違うぞと専門家が米議会で証言している。 (US military prepping for coronavirus pandemic)
世界で最も優秀だと喧伝されるCDCの長官が「来年まで続くかもしれない」と言っている。これが一番正しい予測だと考えるのが自然だ。中国でのここ数日の事態の悪化を見ても、簡単に終息しないことがわかる。早めに終息したらありがたいが、そうならない可能性がかなり高いと、全人類が肝に銘じるべきだ。長く厳しい戦いが続く。驚くほど多くの人が発症し、死者も多く出る。私自身も含まれる可能性がかなりある。こうした予測が大外れになって私がネットで嘲笑されることを祈る。 (Coronavirus 'could infect 60% of global population if unchecked')
11か所の米軍基地に合計1000人分の隔離施設を設ける話は2月11日に最初に報じられ、その時はまだこれほどの大惨事が予測されていなかったので、また軍産の大げさ話か思ったが、そのわずか3日後、この隔離施設の設置が当然だと思える事態になった。 (US military approves 11 coronavirus quarantine camps next to major US airports which can treat 'up to 1,000 people')
ゼロヘッジによると、米保健福祉省のアレックス・アザー長官は2月14日に出演したCNNテレビで、米政府が中国だけでなく、日本やシンガポール、香港など、感染が拡大している中国以外のアジアからの外国人の入国も禁止する規制拡大を検討していると表明した(それらの地域から帰国した米国人は米軍基地内で2週間の検疫)。ゼロヘッジからたどれるアザーの発言のCNNの動画にはそのくだりが出てこないのでゼロヘッジが誇張した疑いもあるが、むしろ動画に収録されていない部分で発言したとも考えられる。 (China Imposes 2 Week Quarantine On Everybody Returning To Beijing) (“We’re seeing very limited impact here in the United States, but that could change at any time,”)
日本やシンガポールの事態は急速に悪化しているので、CDCが入国規制の拡大を検討するのは自然だ。規制拡大が実施されると、日本人は米国に行けなくなる。日本にとって経済的、政治的に大打撃だ。日本は、ウイルス対策の初動が媚中的で甘すぎたため、唯一絶対の同盟国・従属先だった大好きな米国から入国禁止の縁切りをされてしまう。日米同盟の行く末として象徴的だ。トランプは以前からすべての同盟関係に懐疑的だ。ドゥテルテのフィリピンはすでに先日米国との縁切りを決めた。
刻々と状況が変わっているので、とりあえずここまでで配信し、続きはまた書く。
(続く)
2020年2月18日 田中宇
世界に蔓延する武漢ウイルス(2)
前回の記事で、2月14日が新型コロナウイルス(COVID-19)の感染状況が世界的に転換した日だったことを書いた。2月14日は、日本にとっても新型ウイルス問題が大きく転換した日だった。日本政府はこの日、それまでの中国から国内へのウイルス感染者の流入を止める「水際政策」の破綻・失敗を認め、日本国内での感染・発症拡大が避けられないと言い始めた。 (世界に蔓延していく武漢ウイルス)
新型ウイルスは未発症の人から他人にどんどん感染するので、感染拡大を止めるのが困難だ。中国では、感染を拡大するため合計4億人が住む大都市や省を閉鎖し、住民は厳しい外出制限・自宅待機を命じられ、中国全土の無数の村落や集合住宅が入り口に検問所を設けて人の出入りを制限するミクロ的な究極の水際政策をこの3週間ほどやっている。中国の各都市の繁華街はゴーストタウンだ。治療薬がない新型ウイルスの対策は、外出禁止や地域の閉鎖しかない、というのが中国の先例から見て取れる。私は、日本でも政府が人々の外出制限や企業の業務縮小を要請するのでないかと思ったが、そんなことにはまったくならなかった。 (悲観論が正しい武漢ウイルス危機の今後)
日本政府が国民に言っていることは「感染拡大を止めるのは難しい(国民の5%つまり600万人ぐらいまでの感染を覚悟せよ)」「感染しても多くの場合は軽症や無症状で終わるので心配するな」「各自、うがいや手洗い、睡眠などによる免疫力の強化をやってください」といったことだ。1945年の敗戦直前に政府が国民に「本土決戦です。米軍と竹槍で戦ってください。無理なら集団自決してください。神風が吹いて日本はきっと勝ちます」と言っていたような感じだ。通勤ラッシュは続き、繁華街では依然として宴会が続けられ、各種のイベントの多くも予定通り開かれている。中国のように役所が繁華街で消毒液を撒き始めたりもしていない。4億人の大都市閉鎖など強行策をやった中国と対照的に、日本は「無策」だ。発症者が出たら、その周辺の人々の感染を検査する後追い政策しかやっていない。
日本が無策なままなのは、経済成長を止めたくないからだ。国民に外出制限を要請したら、小売店や飲食店の売り上げが激減し、政府が非難される。中国は経済を止めたが、日本は経済を止めたがらない。日本だけでなく、韓国や東南アジア諸国など、感染が少しずつ増えている他の諸国も、この点に関しては変わらない。日本だけが無策なのではなく、中国だけが強硬なウイルス対策をやっている。発生地の武漢が国内にあるのだから中国の強行策は当然ともいえるが、周辺諸国はこんな無策で良いのか?。日本や韓国などアジア諸国の多くは、政治的な中国への配慮・媚中と、経済的な成長急減への恐怖から、水際政策も国内感染拡大抑止策も無策に近い。だが、意外にも「神風」的なものが吹いている可能性がある。それは、感染を重ねるほどウイルスの重篤性(病原性、致死率)が低下することだ。
横浜港のクルーズ船以外の日本と、他の周辺諸国との、把握されている感染者数の推移をざっと分析すると、日本の感染者数は、他の諸国と大差ない。2月17日の時点で、日本40人、韓国30人、シンガポール58人などだ。日本と韓国の感染者数の推移を見ると、おおむね日本が韓国の2倍弱で推移してきた。日本が韓国の3倍の人口であることを考えると、日本が異様に多いわけでない。人口比で言うとシンガポールが異様に多い。韓国の感染者は2月10日の27人から2月17日の30人へと、1週間で3人しか増えていない。マカオの感染者は、1月27日の7人から2月17日の10人へと、3週間で3人しか増えていない。これらの傾向が今後も変わらないなら、周辺諸国の感染者数はこれからの1か月間で1か国あたり最大でも数十人だろう。中国本土の感染者数と比べるとごくわずかだ。 (新型コロナウイルス感染者数(COVID-19)推移)
韓国やマカオは、日本よりも中国との距離が近いし、人的交流も多い(中国在住の外国人は韓国人が12万人で最多、日本人は6万人。韓国在住の外国人の7割が中国籍)。新型ウイルスの感染も、韓国やマカオの方が日本より先に広がっていると推定される。その韓国とマカオで、1月下旬から2月上旬まで感染者が増え続けたが、その後はあまり増えなくなっている。そこから推定されるのは、日本の感染者の増加幅の変化が、韓国やマカオより1-3週間遅れて発生し、それで2月14日ごろからの増加幅の増大になっているのでないか、ということだ。この推定を延長すると、2月末以降は日本も感染数の増加が減ると考えられる。中国本土でもここ数日、政府統計を信じるなら、湖北省以外の場所での感染の増加幅が減っている。 (China's Coronavirus Numbers Don't Add Up, And The White House Doesn't Believe Them)
そもそも各国とも、いわゆる「感染者数」として発表されている統計人数は実のところ感染者の総数でなく、「発症者数プラスアルファ」だ(プラスアルファは、発症者の周辺で検査を受けて未発症だが感染しているとわかった人々)。新型ウイルスは未発症の感染者からも他人に移るうえ、症状の重篤性(病原性)が弱いので、感染しても未発症や軽症で終わる人が多い。検査キットが足りないので、未発症や軽症の人は検査してもらえず、感染者の統計数字に入らない。日本ですでに数千人から10万人以上が感染しているかもしれないと言われているが、発症者は数十人だ。発症者が出ると、その周りの人々(集団=クラスター)を全員検査するので、未発症の感染者の存在もわかるが、それ以外の(クラスター外の)人々は未発症や軽症なら検査されないままだ。
感染者のほとんどは、未発症か軽症で、検査されないまま治癒する。彼らは感染の自覚がないので普段の生活を続け感染を拡大するが、それで感染させられた人の多くも未発症や軽症で普通の生活を続けるので、さらに感染が拡大される。WHOが新型ウイルスの致死率を2%と発表したが、これは母数が「感染者総数」でなく、その百分の1以下の「発症者数プラスアルファ」だ。実際の感染者総数で死者数を割った本物の致死率は0.02%とか、毎年のインフルエンザと大差なくなる。
その一方で、中国の武漢市や湖北省では何万人もの人が発症しているのも事実だ。武漢市よりも湖北省の僻地、湖北省よりもその他の中国、中国よりも日韓アジア諸国の方が、発症者の数が桁違いに少ない。これは単に遅行性の問題なのか?。いずれ、武漢から遠い諸外国でも発症が急増して4-6月ころには毎日世界で数万人ずつが発症していくのか?。私は最近までそれを恐れていた。前回の記事の悲観論はその前提で書いた。しかし、これまでのアジア諸国での感染拡大の流れを見ると、そうはならないとも思える。諸外国での増加幅は多分、これからも大したものでない。 (Coronavirus: China’s Hubei province orders everybody to stay home)
ウイルスは、人から人に感染し続けて代を重ねていくほど、重篤性(病原性、致死率)が下がると言われている。ウイルスは、感染を急拡大するため、1次や2次の感染者の体内では大量のウイルスを増殖させ、重篤な症状を引き起こすが、その後どんどん拡大して人類全体の中である程度の感染者を作ると、感染者を重症にして殺すのでなく、軽症や未発症のまま生かしてウイルス自身の種の保存を重視する態勢に変わる。そのような学説をいくつかの場所で見た。この説は、発症の武漢での多さと諸外国での少なさを説明できる。この説の現象が今回の新型ウイルスで起きているなら、日本など諸外国での発症はあまり増えていかない。 (Coronavirus 'could infect 60% of global population if unchecked')
中国では各地で住民に外出禁止・自宅検疫・自宅軟禁を強いてきた。これは感染拡大を防ぐ効果があっただろうが、同時に、自宅に閉じ込められた人々の体力・免疫力が低下し、外出禁止前にすでに感染していた人々が発症し、感染していなかった同居家族が感染発症して犠牲者が増えることも生んでいる。日本でも、人々が狭い部屋に閉じ込められ続けたクルーズ船内で多数の発症者が出ている。感染者が見つかった時点で、そこに居合わせた全員にその場で2週間かそれ以上の検疫・軟禁を強いるのが、中国を中心とする、新型ウイルスに対するこれまでの対策の考え方だった。
だが、このやり方は閉鎖地域外への感染を防ぐ一方で、閉鎖地域内での感染を増やしてしまうことがわかった。そのため横浜のクルーズ船は、各国が飛行機を出して船内の自国民を引き取っていく解散方式に転換したのだろう。中国も、2月17日の週明けから、武漢・湖北省以外の地域の閉鎖を解いていくことにした。 (Reported slowdown in outbreak ‘must be interpreted very cautiously’ – WHO)
新型ウイルス感染を疑われたクルーズ船は、横浜港に停泊したもの以外にも何隻かあった。そのうちの1隻は各国に入港拒否された挙句、最終的にカンボジアのシアヌークビル港に受け入れられ、入港の翌日に乗客の大半が下船し解放された。カンボジア政府が、この船(ウェスターダム号)に対してとった策が、日本政府の策と対照的ですごい。 (MS Westerdam - Wikipedia)
ウェスターダム号は2200人の乗客・乗員を乗せ、2月1日に香港を出港した後、フィリピン、日本、グアム、タイなどに寄港を断られ後、2月13日にシアヌークビルに入港した。その間も船内ではずっと乗客の行動制限はなく、みんなが歓談しつつ食堂で食事し、イベントも予定通り行われ続けた。2月11日に乗客全員の体温が測定され「誰も感染していない」と結論づけられた。2月13日の入港後、カンボジア政府は何らかの症状が出ていた20人を検査したが感染者はいなかったと発表した。翌2月14日、乗客は行動の自由を得てカンボジアに上陸し、そのうち145人がマレーシアに飛行機で移動したが、マレーシア到着時の検査で80歳の米国人女性が新型ウイルスに感染していることがわかった。クルーズ船会社は「何かの間違いだ。再検査したら感染していないとわかるはずだ」などとコメントを発表した。 ('Westerdam' passengers disembark, all cleared) (Cruise firm seeks new virus test for passenger from ship in Cambodia)
ウェスターダムから乗客が降りる時にはカンボジアのフンセン首相もマスクせずにやってきて歓迎した。入港を見物にきた市民たちはマスクしていたが、政府要員が見物人にマスクを外せと命じた。下船した乗客たちもマスクしていなかった。これらは、ウェスターダムに感染者はいないという宣伝だった。しかし、そもそも人口10万人のシアヌークビルには新型ウイルスの感染を検査する設備がない。カンボジア当局は、下船時に20人に簡単な検査をしただけだった。マレーシアで感染が見つかった女性は、その20人に含まれていない。 (Cambodia's Coronavirus Complacency May Exact a Global Toll)
独裁的辣腕で親中国なフンセンのカンボジア政府が、クルーズ船の運営会社から依頼(贈賄?)されて下船時の検査を甘くしたのでないかと疑われたが、大した騒ぎにならず、残りの下船した人々はそのまま帰途につき、世界に散らばった。現時点でそれから3日たっているが、世界に散らばった下船者たちの中からさらなる発症者が出てきたという話はない。日本に帰国した4人は陰性だった。冗談が通じる状況でないと知りつつあえて書くと、日本とカンボジア、どちらの政府のやり方が「正しかった」のか?。新型ウイルスをめぐる世界的なミステリーが続いている。 (Using '1984'-Style Propaganda...)
2020年2月20日 田中宇
新型ウイルス関連の分析
ロシア政府が新型コロナウイルス(covid19)の感染拡大をおそれ、2月20日から、すべての中国人の入国を禁止し始めた。すべての中国人の入国を完全に禁止したのは世界で初めてだ。中国敵視のトランプの米国でさえ、米国人の中国渡航は禁じたが、中国人の入国は禁じていない(14日間の検疫が必要)。ロシアは中国、プーチンと習近平は強い盟友の関係だったのに、今回のロシアの中国人入国禁止で露中関係が悪化するのでないかと指摘されている。それに、なぜ今のタイミングで入国禁止なのか。 (Coronavirus Deaths Soar Past 2,000 As Hubei Reports Jump In Daily Casualties)
ロシアが今のタイミングで中国人の入国を全面禁止したのは、経済の再開を重視する中国政府がこれから従来の厳しい国内諸都市の封鎖を少しずつ解いていくからだ。封鎖解除とともに、中国国内の人的の交通がしだいに増えていく。同時に、中国国内の閉鎖で激減していたロシア(や日韓など周辺諸国)にやってくる中国人も少しずつ再増加する。中国政府が、新型ウイルスの感染問題を完全に解決できたので国内の封鎖を解除していくなら良いが、実際はそうでなく、これ以上経済の再開が遅れると、習近平の独裁と、中国共産党の統治の正統性が失われかねないので無理をして封鎖解除・経済再開を進めている。
中国のウイルス問題はまだ解決していない。経済再開の途中で中国の発症者が再増加するおそれがある。中共の機関紙である人民日報がそう書いている。今後、中国からロシア(や日韓)に渡航が増加する人々の中には、ウイルス感染して未発症・未発熱な人が含まれている。その手の人々を国境や空港で察知することは不可能だ。新規入国の中国人の一定割合が、ロシアに入国してから発症し、もしくは未発症なまま、ロシア国内で感染を広げる。ロシアはこれまで発症者を出さないできた。ロシア政府の発表では感染者(発症者)が2人しかいない(発表が事実かどうか不明だが、それは日本も同じだ)。ロシア政府は、中国人の入国が再増加する前にとりあえず全面禁止にしたのだろう。プーチンのロシアはこのような中国の事情を把握し、それを理由に入国禁止を挙行したので、習近平の中共はロシアに公式な抗議をしていないし、おそらく非公式にも抗議していない。ロシアの事情も理解できるからだ。中露関係は今後も良好だろう。
(ロシアに入国した中国人の中には、極東地域などで物資や不動産の買い占めなどをやって荒稼ぎしている者が多く、そうした中国商人がロシアで嫌われている。彼らをもう入国させないという意図もありそうだ)
ロシアは賢明にも中国人を入国禁止にしたが、日本や韓国は依然として何もしていない。日韓は、中国人を入国禁止にしたら習近平に激怒されて陰湿に制裁されるのか??。中国から見て、ロシアは自国と対等な地域覇権国(国連P5)だが、日韓は「中国の属国」なので入国禁止は許さないとか??。そんなことはないだろう(多分)。日韓がロシアの真似をして中国人を入国禁止にしても、中国は本格的に怒らない。表向き不快感を表明する程度だ。ならば、日韓も中国人を今すぐ入国禁止にするのが良い。
日本や韓国は、すでに国内感染が広がっているからいまさら中国人の入国を拒否しても無意味なのか??。それも違う。新型ウイルスは、感染を重ねるほど発症時の重篤性(致死率、病原性)が弱まる。日韓での国内感染の多くは、すでにいくつもの感染を重ねてきた高次の感染ウイルスで、重篤性が弱い。だが中国から新たに入国してくる人々が保有するウイルスの中にはもっと低次で発症時の重篤性が高いものがより多く含まれている。中国はウイルス発祥地の武漢を抱えているのだから、そう考えるのが自然だ。中国人の入国禁止は、今からこそやるべきだ。ロシアを見ると、それが感じられる。ロシアに学ぶべきだ。しかし、日本も韓国も「小役人体質」なので多分そんなことはしない。多くの人がずっと前から、中国人の入国を止めるべきだと日本政府に進言しているのに無視されている。残念だ。 (世界に蔓延する武漢ウイルス(2))
▼無理して経済再開を進める中共
中共は2月17日の週明け以降、しだいに経済の再開を優先し、封鎖対象地域を縮小している。封鎖対象の人口は4億人から1億5千万人に減った。要人やエリートが多く住む首都の北京は外部からの人の流入を止めている。ウイルス発祥地の武漢や湖北省は閉鎖をより厳重にして、ウイルスの漏洩を止めようとしている。最上位の北京と、最下位の湖北を閉鎖した上で、残りの中国での封鎖を少しずつ解き、経済活動を再開しようとしている。 (China Claims 95% Of SOEs Have Restarted Production. There's Just One Problem...)
ゴールドマンサックスによると、中国経済の需要の総合計は前年同期より66%少ない。先週まで中国経済の70-80%が止まっていると言われていたので、10%前後が再稼働したということか。まだ出勤の再開を許されていない人が大半で、各地の外国企業が徹底的な人手不足に困窮している。しかし、困っているものの、注目点は「企業を完全閉鎖せねばならない苦悩」から「企業を再開し始めたが人出が全く足りない」に変わっている。中国政府は「国有企業の95%が事業を再開した」と発表したが、ほとんどの中国企業は稼働率が10%以下だろう。 (Terrifying Charts Show China's Economy Remains Completely Paralyzed)
新型ウイルスはまだ不明な部分が多いので、これから感染・発症の再拡大がありうる。それで中国経済の再開が頓挫すると、中共と習近平の政治正統性に対する信用問題になりかねない。経済再開は、世界資本家たちから中共への強い要望(命令?)でもある。中共は無理をして経済再開を試みている。綱渡り状態だ。 (世界資本家とコラボする習近平の中国)
▼クラスター数の増加幅で決まる
日本と韓国の新型ウイルス発症者(確認された感染者数)が増えているが、その深刻さを考える場合、発症者の人数よりも、クラスター(一人の発症者から感染が拡大した感染者集団)の数が重要だ。既存のクラスター内の感染者数がどんどん増えても、クラスターの総数があまり増えなければ、市中感染(発症するほど強い感染)の拡大がそれほど深刻でない。クラスター内の感染・発症はいずれ止まる。だが、クラスターの増加が加速すると、それぞれのクラスター内での感染・発症が重なり、発症者数の増加幅が大きくなり、事態が深刻になる。
これまでは日本も韓国も、クラスター数がどんどん増える感じはなかった。しかし、今後はわからない。これから2週間ぐらい経ってもクラスター数が急増しなければ、国内に入ってきている新型ウイルスのほとんどは重篤性の弱いものだった可能性が大きくなるが、そうでない場合は困ったことになる。
2020年2月24日 田中宇
シリア内戦終結でISアルカイダの捨て場に困る
2011年からのシリア内戦が最終的に終わりつつある。勝ち組はアサド政権・ロシア・イラン・ヒズボラで、負け組はISアルカイダ・トルコ・米国・クルド・サウジ・イスラエルだ。これまでのシリア各地での戦闘で敗北・投降したISカイダとその親族たち(数万人から数十万人?)は、バスの隊列に乗せられてトルコ国境近くのイドリブの周辺に集められ、米国やサウジに頼まれてISカイダの世話をしてきたトルコ軍の監視のもとに、仮住まいの状態だった。戦勝の波に乗ってシリア全土の再平定を狙うアサド政権のシリア政府軍は今年に入り、イドリブを奪還してISカイダをトルコに追い出すか皆殺しにしようと攻撃を続けている。シリア軍は1月末、イドリブに隣接するアレッポから完全にISカイダを追い出して奪還し、2月に入ってイドリブに接近してきた。 (Damascus brushes off Ankara's threats as Assad's forces make gains in Aleppo) (As Russia mediates Syria-Turkey talks, can new Idlib truce hold?)
シリア軍は、イドリブでISカイダを監視(護衛?)しているトルコ軍とも交戦になり、双方の政府軍で何十人かずつが戦死した。シリアとトルコが本格的な戦争になりそうだと報じられている。ロシア軍の戦闘機がシリア軍を空から支援している。これまで仲が良かったロシアとトルコの関係が悪化した報じられている(後述するが、実はそうでもなく出来レース的だ)。トルコは相互扶助の義務があるNATOの一員なので、ロシアとトルコの戦争は、ロシアと米国の戦争になりうる。世界大戦だ!、と騒がれている。米欧のマスコミは、ISカイダを育てた露アサド敵視の軍産複合体の傘下にあるので「ロシアとシリアの軍はイドリブを攻撃して無実の市民を虐殺している」とヒステリックに報じている。 (As civilians suffer in Syria’s Idlib province, death and displacement stalk aid workers, too) (シリア内戦 最後の濡れ衣攻撃)
しかしそんな中で、軍産の総本山である米軍の広報官が「本音」を言ってしまった。英国のテレビ局スカイニュースが2月20日、露・シリア軍のイドリブ空爆で一般市民が多数死に、病院も破壊されたとする露アサド非難の軍産っぽい特集番組を作り、その中で米軍のテロ対策担当の広報官(Myles Caggins)に中継でインタビューしたところ、意外にも広報官は、スカイニュースの意図と正反対の「危険で脅威なのは(露アサドでなく)テロ組織(ISカイダ)の方だ」という趣旨の発言を放った。また広報官は「イドリブは(アサド政権に)ちゃんと統治されていないのでテロリスト組織を引き寄せてしまう磁石だ」とも発言し、シリア軍がトルコ軍を追い出してイドリブを奪還すればテロ組織も退治され問題が解決するという真相を示唆した。 (Under attack: Hospitals deliberately targeted as Syria's war intensifies) (Idlib province a 'magnet' for terrorist groups)
(実際は、ISカイダがイドリブに引き寄せられて勝手に集まってきたのでなく、露シリアとトルコが話し合い、シリア各地でシリア軍に投降したISカイダを集めて監視する場所としてトルコ国境に近いイドリブを選んだ) (アレッポ陥落で始まった多極型シリア和平) (Idlib is a ‘magnet for terrorist groups’, says US military spokesman — contradicting MSM narrative on Syria)
軍産傘下のスカイニュースがせっかくがんばって軍産プロパガンダな特集を作ったのに、それを米軍が台無しにしてしまった。これは広報官の「うっかりミス」なのか。多分そうではない。トランプは覇権放棄・中東撤退の戦略の一環として、米軍がISカイダ(退治のふりをした涵養)に使う予算の額をどんどん減らしている。米軍は「ISカイダを退治するふりして育てる戦略」をやめている。だから広報官も「悪いのはISカイダでなく露アサドだ」というこれまでのプロパガンダをやめてしまい、「ISカイダが悪い(露アサドは悪くない)」という真相・事実を言うようになっている。軍産傘下のマスコミは、軍産中央(=国防総省、米軍)にはしごを外されてしまった。(笑)だ。 (Pentagon slashes funding for Islamic State fight) (Pentagon 'Accidentally' Tells The Truth About Idlib)
今シリアのISカイダはイラク駐留米軍など米国の諜報界・軍産が、テロ戦争による世界支配戦略の「やらせの敵」にするために育てた。ISカイダは米国が育てたのだから、内戦に負けて行き場を失っているシリアのISカイダの面倒を見るのも米国がやるべきだ。しかし米国はシリアをほとんど放棄し、残されたISカイダの世話をトルコにやらせている。イドリブを完全にシリア軍が奪還したら、ISカイダその家族(トルコによると最大で百万人)が難民としてトルコに押し寄せる。そうなると、テロの頻発など、トルコにとってろくなことがない。 (Erdogan says 50,000 Syrians fleeing Idlib to Turkey) (露呈したトルコのテロ支援)
トルコも一時は、ISカイダがシリア軍を打ち負かしてアサド政権を転覆して米トルコの傀儡政権を作ろうと、やらせのテロ戦争に便乗し、やらせ演技について米国の下請けをしていた。だからシリアでのやらせのテロ戦争が失敗した今、トルコは「自業自得」の観もある。しかし、トルコと一緒にやらせのテロ戦争をやってきた米国(首謀者、親分)やサウジ(カネ出し係)、それから米国の傀儡である欧州や英国は、直接的に何のしっぺ返しも受けておらず、トルコに後始末を押しつけて知らんぷりだ。トルコは激怒し、米欧やサウジに「仕返ししてやる」と思って当然だ。(18年秋のカショギ殺害事件でのトルコの反応はサウジへの仕返しだった。トルコが以前から、国内にシリア難民を欧州に送り出してやると息巻いているのは欧州への仕返しだ) (The urgent conversation Trump, Putin need to have about Syria) (テロと難民でEUを困らせるトルコ) (カショギ殺害:サウジ失墜、トルコ台頭を誘発した罠)
トルコは今回、自国が米国主導のNATOの加盟国であることを利用して、米国に対し「シリア上空を飛ぶロシア空軍機を撃墜したいのでパトリオットミサイルをトルコ南部の対シリア国境地帯に配備してくれ」「米軍の戦闘機がシリアのイドリブ上空を警戒飛行して、近くをウロウロしている露軍機やシリア軍機を威嚇(空中戦!)してくれ」と言ってきた。トルコは米国に対し「あんたらロシア敵視を強めているんだから、NATOの同盟国であるトルコのために、シリアでロシアと戦争してくれよ。頼むわ(ウインク)」と言ってきている。NATOを支配する米国の軍産は、ロシアを猛烈に敵視しているが、これは米露の敵対構造を作ってNATOの結束や権威を強めようとしているだけだ。米軍もNATOも、ロシアと本物の戦争なんか絶対したくない(したら相互壊滅になる)。前出の米軍広報官のコメントからは、米軍がロシアとの戦争どころか敵視すらやめたがっていることが見て取れる。トルコはそのあたりを十分知った上で、米国に意地悪をしている。 (US official confirms Turkey asked for Patriot missiles) (Turkey Requests US Jets Patrol Near Idlib To Halt Russian Air Power)
トルコ自身、ロシアと本格的に戦争・対立するつもりはない。トルコは、トランプが覇権放棄を進めている米国に頼れないことを知っており、米国がシリア問題の解決をロシアの丸投げした2016年ぐらいから、米国やNATOを見放し、代わりにロシアとの安保関係を強化してきた。シリア問題解決の主導役はロシアで確定しており、トルコはロシアと交渉するしかないことを知っている。トルコは先日まで「ロシアの迎撃ミサイルS400を買うので米国のパトリオットは要らない」「NATOは役立たず」と言っていた。トルコのこの姿勢は多分変わっていない。 (Turkey tests limits of Moscow-Damascus alliance) (欧米からロシアに寝返るトルコ)
トルコとロシア、シリアとロシアは、イドリブ周辺のISカイダを最終的にどうするかについて、すでに何度か話し合っている。トルコは、国境のシリア側に幅15キロの帯状の「安全地帯(シリア国内だがシリア軍が攻撃してはならない地域)」を作り、そこにISカイダと親族・支持者ら数十万人から百万人のシリア避難民のための難民キャンプ・定住地を作りたい。トルコは、ロシアと一緒に安全地帯を管理するつもりで、シリア政府にそれを認めさせたい。トルコ軍は現在、国境からシリア側に20-30キロのところまで侵攻して占領している。トルコは、この占領地を縮小しつつ(幅を縮めるからシリアに認めてほしい)、そこにISカイダの残党らを入れていきたい。トルコはすでに国内に300万人のシリア難民がおり、これ以上増やしたくない。 (What a Russian-Turkish compromise on Idlib may look like) (Facing new refugee wave from Syria, Ankara sends delegation to Moscow)
このトルコの安全地帯の計画を、シリアは今のところ全面拒否している。シリアはトルコを信用していないので、シリア国内に安全地帯を作ってトルコに管理させると、そこから再びトルコや軍産がISカイダに内戦行為を再開させかねないと懸念している。この懸念は全く正しい。シリアは、対トルコ国境まで政府軍を攻め込ませ、ISカイダの残党らをすべて殺すかトルコに追い出し、国土の再統合を完成させて内戦を終結させたい。トルコは、シリアが安全地帯を認めず攻めてくるならシリアと本気で戦争するぞ、と言っている。 (Bashar Assad Reveals How US Forces Can Be Driven From Syria's Oil Fields) (Turkey and Russia discuss secure zone in Syria's Idlib)
ここで、仲裁役であるロシアの出番になる。ロシアがトルコとシリアをうまく仲裁し、シリア内戦を不可逆的に終わらせて安定を実現すると、中東におけるロシアの覇権・影響力がぐんと増す。イラン、サウジ、イスラエルなどがロシアへの信頼を強める。イランとサウジ、アラブとイスラエル、イランとイスラエルの和解もロシアに仲裁してもらおうという話になっていく。サウジやイスラエルは米国に頼れなくなっているのでロシアの仲裁を歓迎する。米欧もロシアを尊重せざるを得なくなる。だから、ロシアにとってシリア内戦終結のための仲裁は非常に重要だ。ロシアはすでに1月13日、トルコとシリアの諜報長官をモスクワで9年ぶりに引き合わせている。とりあえず、トルコ系民族のシリア人の民兵団をシリア政府軍に編入する話などが始まっている。 (From Russia with love: Turkish and Syrian spymasters meet in Moscow) (Does Russia Have Red Lines in Syria?)
ロシアがこの問題の落とし所をどのあたりと考えているか、まだ明らかでない。しかし推察は可能だ。ISカイダの残党を1箇所に集めておくのは、トルコだけでなく、ロシアや欧州、アラブ諸国などにとっても良いことだ。ISカイダを野放しにするとテロをやりかねないからだ。シリア軍がこのままトルコ国境まで進軍し、ISカイダが無秩序にトルコ国内に逃げ込んで拡散するのは良くない。となれば、ロシアがシリアのアサドを説得し、安全地帯の設置を時限的(1-2年とか?)に認めてもらうのが良い。 ("Biggest Humanitarian Horror Story Of The 21st Century": Up To A Million Refugees Trying To Flee Idlib) (Is Russia cozying up to Syria's Kurds amid rift with Turkey?)
シリアは、安全地帯の設置を一時的に認める代わりに、他の欲しいものを得る。アサド大統領がいま最もほしいものは「アサド政権を、シリアの正当な政府として、米欧など世界に再承認してもらうこと」だ。アラブ連盟への再加盟、欧州諸国との国交再開、アサドと仏マクロンの会談、シリアに化学兵器使用の濡れ衣をかけてきたOPCWが自分たちの報告書の過ちを認めること、などがあり得る。(最近OPCWのインチキぶりが暴露されてきたが、マスコミにほとんど報じられていないので改めて解説が必要かも) (WikiLeaks - OPCW Douma Docs) (シリア政府は内戦で化学兵器を全く使っていない?)
トランプの米国は、無責任をごり押しする覇権放棄策の一環として、アサド政権の承認をここぞとばかりに拒否するだろう。米議会もアサド敵視がお門違いにすごい。ロシアや欧州は、米国を相手にせず「お味噌」扱いするしかない。米国はシリアの油田を軍事占領し続けているので、そこから出ていけというのが、露シリア側から米国への最初の要求になる。 (Congress on verge of passing long-stalled Assad sanctions package) ('Maybe we will, maybe we won't’: Trump doubles down on threat to take oil from Syria)
エルドアンのトルコは、ロシアの仲裁を待っているだけでなく、独自のISカイダ放出策もやっている。それは、まだ内戦が続いているリビアに、シリアからISカイダを移送することだ。もともとISカイダは内戦下のリビアにもおり、リビアのハフタル将軍の軍勢と戦って負けたシルテのISなどが、トルコ軍に逃避行を手伝ってもらってシリアに転戦してきた経緯もある。トルコ軍は最近、彼らを再びリビアに戻し、それ以外のISカイダも厄介払いの意味でリビアに送り込んでいる。 (2,400 Turkey-backed Syrian rebel fighters reach Libya: monitor) (Can Libya be turned around and become Russia's 'second Syria'?)
リビア内戦は今、ハフタル将軍(元CIA、今親露)と、トリポリ政府軍(国連が認知)との戦いになっている。ハフタル軍がトリポリを包囲し、政府軍が負けそうになっているが、もともと政府軍を支持していた欧米は知らんぷりだ。そんな中、孤立して陥落寸前のトリポリ政府を最近突然に支援し始めたのがエルドアンのトルコだった。トリポリ政府はムスリム同胞団で、エルドアンの与党AKPと同じ系統だ。それだけでなくエルドアンは、イドリブのISカイダ残党の「人減らし」の一環として、トリポリ政府を突然テコ入れし、ISカイダの残党をまず2400人ほど、シリアからトルコ経由でリビアに送り込んでいる。トルコの当局は「秘密作戦」と言いつつ堂々と民間機でテロリストたちをリビアに送り込んでいる。 (Pentagon Confirms ISIS Resurgent In Libya At Moment Turkey Transfers 2,000 Syrian Fighters) (Syrian Jihadists Filmed Jet-Setting To Next Proxy War On Commercial Plane)
(トルコの突然のリビア支援の思惑としてはそのほか、リビアと経済水域を接合してキプロス・ギリシャ・イスラエルによる海底ガス田の開発を阻止する戦略もある。トルコはイスラエルに対し「ガス田からのガスをキプロスからギリシャに送らず、トルコからロシアが作ったパイプラインに乗せて欧州に送ればよい」と言っている。この点では、トルコとロシアが仲間で、イスラエルとギリシャ系に対抗している。しかしさらにその一方で、イスラエルもギリシャも安保面でロシアが大好きである。リビアのハフタル将軍も、トリポリ攻略を止められてロシアに裏切られたと怒っていたが、その後ロシアから再び連絡がくると嬉々としてモスクワを再訪している。ロシアは最近、中東のみんなに好かれている) (Turkish-Russia partnership in Libya likely to be to Moscow’s advantage) (Putin, Erdogan demand cease-fire in Libya)
リビアに送り込まれたISカイダの中には、リビアに着くやいなや、リビアから船に乗ってイタリアに向かう偽装難民・違法移民の流れに紛れ込み、輸送業者にカネを払ってイタリアに入国してしまった者がいるという。これも、トルコからみれば「やらせのテロ戦争の後始末をトルコに押しつけた欧州への仕返しの一つ」である。 (Syrian Fighters Abandon Libyan War, Flee Towards Italy: Report)
2020年2月27日 田中宇
新型ウイルスとトランプ
アフガニスタンで、米国とタリバンの停戦がうまくいっている。トランプの米政府は、基本戦略である世界からの撤兵を進めようと昨夏、タリバンと交渉して停戦から米軍撤退につなげようしたが、当時はまだ米政界で軍産複合体の力が強く停戦合意できず、9月に米側が交渉を破棄した。その後、トランプは10-12月に自ら弾劾騒動を誘発して稚拙な弾劾決議を軍産傘下の民主党にやらせて自滅させ、トランプ陣営が容疑者のロシアゲートを軍産・諜報界が容疑者のスパイゲートに転換させ、世界撤兵に反対してきた軍産の力を弱めることに成功した。同時期にトランプはシリアから撤兵した。今年1月、トランプはイランのスレイマニを殺害してイランを激怒させて反米の方向に誘導し、イラクで駐留米軍撤退運動を引き起こし、イラクからの米軍撤退も時間の問題になった。 (Afghans Celebrate as US-Taliban Reduction of Violence Holds) (自分の弾劾騒動を起こして軍産を潰すトランプ)
そして米国は1月から、アフガンでもタリバンとの停戦交渉を再開し、2月22日から1週間の停戦を開始した。01年のアフガン侵攻以来、本格的な停戦は初めてだ。1週間の停戦がうまくいくと、停戦はさらに延長され、米軍撤退につながっていく。停戦が合意されたとたん、昨年9月に行われたものの結果をめぐって紛糾し未決になっていたアフガン大統領選挙も、5か月ぶりに現職のガニ大統領の勝利で決着がついた。アフガニスタンは米軍侵攻から19年ぶりに、米軍撤退とその後の安定に向かって進み始めた。 (Is Donald Trump About to Make Peace with the Taliban?) (Afghanistan Confirms Ashraf Ghani Has Won Second Term as President)
アフガンで停戦が発効している最中の2月24-25日に、トランプはインドを初めて訪問した。米国とインドは高関税をかけあって貿易戦争してきたが、貿易面での協定など新展開は何もなかった。トランプの目的は経済でなく、インドに対して「米国撤退後のアフガニスタンの再建に参加してほしい。米軍がうまく撤退できるよう協力よろしく」と頼みに行ったのだろう。 (Despite Trump's Visit, A U.S.-India Trade Deal Isn't Close) (ユーラシアの非米化)
トランプは最近、昨年9月にインドのモディ首相が国連総会出席で訪米した時に開いたインド系米国人の大集会にわざわざ参加するなど、インドと仲良くする演技を派手にやっている。半面、インドの敵であるパキスタンや、その背後にいる中国に対しては冷淡だ。しかし実のところ、米国のタリバンとの和解やアフガン撤兵で得をするのはパキスタンと中国であり、インドではない。アフガニスタンで最大の軍事・政治勢力であるタリバンは、もともとパキスタンが創設した組織だ。米国がタリバンと和解するにはパキスタンとの連携が必須だ。トランプは表向き親インド・反パだが、実質はそうでもない。インドは、米国のアフガン撤退によって開いた国際政治力の空白を中国パキスタンが埋めて台頭と予測し、恐れている。トランプは、懸念するインドをなだめに行ったのだ。 (中国がアフガニスタンを安定させる) (トランプと露中がこっそり連携して印パの和解を仲裁)
米国の撤退後、アフガニスタンは中国、ロシア、パキスタン、中央アジア諸国、イランによって安定化がはかられる。主導役は中露だ。トランプのアフガン撤退は、イラクやシリアからの撤兵と並び、中露イランを強化する多極化・米覇権放棄策の一つである。インドは、トランプの要請通りにアフガン再建に協力する場合、中露など非米諸国と仲良くし、多極化の流れに乗らねばならない。トランプはインドに「米国より中露と仲良くしてやってくれ」と言いに行ったようなものだ。「インド太平洋」と銘打った、米国の中国包囲網は全くの見せかけである。 (Will China and India Collaborate or Feud Over Afghanistan?) (中東インド洋の覇権を失う米国)
米軍は今後、アフガン撤退と同時に、インド洋の公海警備の任務からも外れていくだろう。海賊の脅威があるインド洋を航行する日本など同盟諸国の商船は、これまで米軍に守ってもらえたが、今後はしだいにそれがなくなる。だから日本は自衛隊の艦船をインド洋・中東に派遣せねばならなくなった。自衛隊の派兵は「米軍と一緒に戦争する」ためでなく逆に「米軍が撤退した後の航路の安全確保」のためである。中国や韓国も航路防衛のためにインド洋に海軍を出しており、日本はこの面で中韓との協力が不可欠だ。中国はすでに安保面で日本の「仮想敵」でなく反対の「友好国」である。米国のアフガン撤兵は世界の覇権構造を転換している。 (Japan orders Self Defense Forces to guard ships in Middle East) (米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本)
1月23日に中国政府が新型コロナウイルスの蔓延を止めるために武漢と湖北省を封鎖し、国内に非常事態を敷いた後の2月2日、トランプはポンペオ国務長官を中国に隣接するカザフスタンに派遣し、カザフ政府に「中国とつき合うのをやめて米国と仲良くしよう」と持ちかけたり、中国で弾圧の対象にされているイスラム教徒の聖職者集団と会談して「米国は中国と違って信教の自由を尊重するよ」と表明したりして、中国に対する「嫌がらせ外交」を展開した。ポンペオはその後、最近中国との経済関係を拡大している東欧やウクライナにも行って「中国とつき合うな」と言っている。 (Secretary of State Mike Pompeo Warns Kazakhstan of China's Influence) (Pompeo: China does not benefit Ukrainian people)
フィリピンのドゥテルテ大統領が2月中旬、米国との安保協定(VFA、駐留米軍に治外法権を付与)を破棄し、米国と縁切りしたのも、トランプ政権がミンダナオでの麻薬取り締まりを人権侵害だと攻撃してドゥテルテ側近のフィリピンの上院議員(Ronald Dela Rosa、元警察長官)の米入国を拒否したことが直接の理由であり、トランプがフィリピンを米国側から中国側に追いやったことになる。米比間のVFAが実際に失効するの半年後だが、米政府はフィリピン側に対して遺留工作をやろうとしていない。米国は、これまで米国にとって中国沖の「不沈空母」の一つだったフィリピンが中国の属国に転じるのを黙認・歓迎する「隠れ多極主義」の姿勢をとっている。 (Ending Philippines-US military pact will affect South China Sea disputes: analysts) (Duterte’s gambit: Why Americans should thank the hot-headed leader of the Philippines)
2月21日に開かれたミュンヘン安保会議では、米国の代表者たちが「(欧米にとって)中国が最大の脅威だ」と宣言している。米国はEU諸国に対して「中国ファーウェイの5G技術を使うな」とも言い続けている。また国防総省は「中国と戦うための新兵器の開発が必要だ」と表明している。トランプ政権は、中国敵視の姿勢を強めているが、その一方でアフガン撤兵など、中国が覇権拡大しやすいような動きを加速している。トランプがこのような姿勢をとるのは、中国を怒らせ、中国が米国に対抗する覇権拡大の試みを強めるよう仕向けるためだろう。 (The Door Is Open for the Crucial Trump-Putin-Xi Summit) (No Weapon Left Behind - The American Hybrid War On China)
中国は、いずれ新型ウイルスの巨大な危機から立ち直った後、以前より米国に配慮することなく、覇権拡大を進めることになる。ウイルス危機は習近平政権もしくは中国共産党の独裁体制を転覆するのでないかといった見方もあるが、それは間違いだ。今回のような巨大な危機は有事体制をもたらし、現職の権力者を優勢にする。習近平も安倍もいろいろ批判されているが、政権転覆にはならない。トランプも再選される。 (米民主党の自滅でトランプ再選へ)
▼ウイルス危機の犯人は軍産?、違うか?
米中関係の現状と今後を考える場合、重要なのは「米国(軍産)が、今回のウイルス危機を起こしたのかどうか」という点だ。中国政府のこれまでの説明どおり、ウイルスが野生のコウモリから他の野生の哺乳類に自然界で感染し、その哺乳類が武漢の野生動物市場で売られる過程でヒトに感染し、ヒトからヒトに感染拡大していった、という話が事実なら、ウイルス問題は米中関係と直接に関係ない。中国が困っているのを見て、トランプ政権がちょうどいい機会だと考えて中国に嫌がらせ外交を展開し、中国を怒らせているという話になる。この場合、トランプはたまたま発生したウイルス危機を奇貨として中国に嫌がらせし続けている。 (武漢コロナウイルスの周辺)
ウイルスが、武漢のウイルス研究所などの実験室からの漏洩だったとしても、その漏洩の過程で軍産(米諜報界)が全く関与しておらず、中国側だけの研究所の職員の過失でウイルスが漏洩した場合も同様だ。しかし、同じ研究室からの漏洩でも、米諜報界のスパイにさせられてしまった研究者(中国の研究者の多くは米国への留学経験があり、そこでCIAなどに脅されたりほだされたりしてスパイになる可能性がある)が研究所内にいて、その者が何らかの方法で動物実験中のウイルスの漏洩を引き起こした場合は、軍産が今回の巨大なウイルス危機の犯人になる。中国共産党の上層部が、今回の危機を米国に引き起こされたことを把握しているなら、これは米中のある種の戦争になる。 (悲観論が正しい武漢ウイルス危機の今後)
1月23日に武漢を閉鎖した直後、習近平はウイルスとの戦いを抗日戦争にたとえ、それ以来、事実上の有事体制を組んでいる。今回のウイルスが野生動物による自然現象だったとしても「これは戦争だ」と言って有事体制を組むことは不思議でない。しかし、中国の人口の3分の1を封鎖して感染拡大を強硬に抑えようとした中共上層部の初動の異様さを見ると、これが米諜報界による攻撃・破壊活動だと考える選択肢が出てくる。米国からの攻撃でなかったら、中共は、これほど劇的で大規模な封鎖戦略をとらなかったのでないか、と考えられないだろうか。封鎖戦略は、封鎖された地域(家庭内、病院内など)での感染拡大を煽ってしまうという大きなマイナス面があり、中共はこのマイナス面も当初からわかっていたはずだ。それでも劇的な大規模封鎖を挙行したのは、米国からの攻撃だとわかったからでないか。 (ウイルス戦争で4億人を封鎖する中国)
こうした推論は根拠がないので「陰謀論」と罵られても仕方がない。今回のウイルスは、感染力はものすごいが発症時の重篤性が意外と低い。中共が劇的な大規模封鎖策をとった理由は、ウイルスの感染力がすごかったからであり、米国からの攻撃だったからでない、と考えることもできる。しかし、今回のウイルス危機はタイミング的に、世界の覇権が米国から中国に移りつつある時に発生している。先の2度の世界大戦がそうだったように、覇権の移転時には、覇権移転を推進しようとする側と阻止しようとする側の暗闘が高じて、大規模な戦争・世界大戦が誘発されやすい。今は米国と中露の両方が多数の核兵器を持っており、世界大戦をやれない。それで、世界大戦の代わりに今回のウイルス攻撃を、軍産が中国に仕掛けたのでないか、といった歴史的な推論が成り立つ。
今回のウイルス危機は、中国を痛めつけるだけでなく、世界の実体経済を大不況に陥れる。米日欧の中銀群がいくらQEで資金注入しても、一昨日から起きているような株価の世界的な暴落が止められなくなる。米国中心の巨大な金融バブルが、前倒しで崩壊していく。崩壊は、米国覇権を金融面から消失させていく。中国経済も破綻するが、中国はまだ新興市場であり、実体経済の成長余力がある。金融バブルを意図的に潰す策も、習近平の就任時からやっている。ウイルス危機は、米覇権を崩壊させる。
軍産の目標は、米覇権の維持である。軍産が中国でのウイルス漏洩を誘発したのなら、ウイルスは米国のバブルと覇権の崩壊を引き起こすので、米覇権の維持という軍産の目標に反している。軍産犯人説は、やはり間違いか?。いやいやそうでない。911以降の軍産の内部には、軍産っぽいことを過激にやって失敗・覇権消失につなげてしまう「軍産のふりをした反軍産」のネオコンがいる。トランプも覇権放棄のやり方としてネオコン戦略を採っている。今のネオコンは、具体的な人物・勢力を指すのでなく、ネオコン的な近視眼的な過激策をわざとやる勢力全体を指している。イラク戦争以来、米国の軍産は、ネオコンというウイルスに感染してゾンビ化している。 (好戦策のふりした覇権放棄戦略)
武漢で研究所からのウイルス漏洩を引き起こしたのがネオコン的な軍産・米諜報界であるなら、中国を痛めつけるだけでなく、最終的に世界的な金融崩壊を引き起こして米国覇権を消失させることを十分に把握した上で、巨大なウイルス危機を引き起こすことが十分にあり得る。ネオコンっぽいシナリオは、いずれ犯人が米国側であることがわかるように仕組まれていたりする。イラクの大量破壊兵器、イランの核兵器開発疑惑やスレイマニ殺害、シリアの化学兵器使用をめぐるOPCWのインチキ報告書などが先例だ。今回のウイルス危機がどうなるか注目だ。 (イランを強化するトランプのスレイマニ殺害)
▼日本政府の無策の原因は米国の覇権放棄
米国の覇権放棄は、今回のウイルス危機に対する日本政府の対応にも表出している。戦後の日本は国家の「安全保障」に関する重要な政策や意思決定をすべて「お上」である米国に委ねる強度な対米従属策をとってきた。だが冷戦後、米国は日本(などあらゆる同盟諸国)に頼られることを嫌う傾向を強め、トランプ政権になってからそれが加速した。そんな中で、世界各国の安全保障の重大事である今回のウイルス危機が起きた。この危機が、以前の対米従属の体制下で起きていたら、米政府が日本のウイルス対策の基本方針も裏で作ってくれて、日本の政府や官僚はそれに沿って動くだけの「小役人」で十分だった。横浜のクルーズ船は米国の船会社なのだから、米政府が指揮して対策してくれたはずだ。 (対米従属と冷戦構造が崩れる日本周辺)
しかし、今のトランプの米政府は同盟諸国に非常に冷淡に接する覇権放棄策を採っているので、日本に対して何も指導せず、クルーズ船の対策でも船会社が米国なのに動かず、日本政府のやり方が全くダメだとわかってから、批判したり、米国人を帰国させたりする他人行儀な策に終始した。国家安全の重大事に際し、米国(お上)が主導してくれることで政府内の結束を作る仕掛けになっていた日本では、米国が何もしてくれないので、無策なだけでなく政府内の結束すらとれず、ウイルス対策は見事に失敗し続けている。日本政府が動かないので、ウイルスへの具体的な対策の多くは都道府県に丸投げされている。クルーズ船から下船した感染者の搬送先や搬送手段を手配したのは、日本政府でなく神奈川県だった。 (政府のクルーズ船対応に神奈川県知事が苦言「国が仕切るのが筋」) (まだ続き危険が増す日本の対米従属)
有事の際に権力者の指導力への依存が強まるのはどこの国でも同じだが、日本の最高権力者(お上)は米国政府なので、今回のような有事に米国が動いてくれないと、日本政府は指導者不在のまま、完全な機能不全に陥ってしまう。安倍など歴代の首相は、日本の指導者でなく、米国の下につく「中間管理職=小役人」である。小役人国家である日本の特徴が露呈したのが今回の危機だ。 (Japan, U.S. hail security pact which Trump branded unfair)
今回のことを教訓に、もう米国は日本の指導役(お上)でないのだ、ということに日本の上層部が気づき、米国に頼らず日本国内で完結する権力構造や危機管理体制を作ることが必要だ。しかしまだ日本では上層部から国民までの多くが、米国の覇権喪失や、対米従属策の不能性に気づいていない。早く気づけば、これから改善していける。だが今のように、人々が「日本政府はダメだ」というばかりでなぜダメなのか考えない状態が続くと、日本は失敗を繰り返すばかりで改善できず、国や社会の力が浪費されていく。中国との国力逆転がひどくなり、アジアの地域覇権国である中国の属国になっていく。安倍が習近平の訪日を強く実現したがっているのは、その流れだ。 (Risks to the Japan-China 'Tactical Detente')
2020年3月2日 田中宇
ウイルスの次は金融崩壊
新型コロナウイルスの感染拡大で、世界的に都市や企業の封鎖が広がり、経済の停止がひどくなっている。世界の製造業を牽引してきた中国で、2月半ばから始めた経済再開の試みが感染拡大の再発懸念からなかなか進まず、中国経済の悪化が確定的になった。感染拡大による経済停滞は韓国や日本、欧州にも広がり、それらを嫌気して2月下旬に入って世界的な株価の大幅下落が始まった。米国や日本の株価は1週間で10%以上の暴落となっている。 ("Worst Thing In My Career" - US Stocks Suffer Fastest Collapse From Record Highs Since Great Depression) (China's Coronavirus Recession Has Arrived)
中国や日本など、世界の実体経済は昨年後半(もしくはもっと前から)から減速してかなり悪い。日本で2月16日に発表された昨年10-12月期のGDPは年率換算で前年比6・3%の縮小・マイナス成長だった。私が見るところ、日本や米国のGDP成長率はリーマン危機後、上昇方向に粉飾され続けてきた。中央銀行群によるQE(造幣による資金注入)で株価を粉飾的に上昇させていることとの整合性をとるため、GDPも粉飾してきた。10-12月期のGDPは、ウイルス問題で1-3月期の数字もものすごく悪くなることがわかった後のタイミングで発表されている。日本政府はもともと10-12月期のGDPをもう少し上方に粉飾しようと思っていたが、どうせ1-3月もものすごく悪くなるのなら、10-12月期も無理して底上げいなくて良いと考え直し、年率6・3%の経済縮小という、平時なら巨大なショックを引き起こすとんでもない数字を、ウイルスで世界中がパニックになっている中でどさくさ紛れに目立たないように出したのだろう。 (Stephen Roach: "When China Sneezes...") (インチキが席巻する金融システム) (アベノミクスの経済粉飾)
日本や中国は昨年から不況だったが米国はGDPや雇用統計を粉飾し続けて好景気を演出し、それを世界的な株価上昇の理由として使っていた。今年2月に入り、中国がウイルスとの戦いで武漢など総人口の3割を占める4億人の居住地域を閉鎖し、中国経済が大停滞しても、まだ米国や日本などでは株の最高値が更新されていた。すでに米国でも日本でも、株を買っている勢力のほとんどは、中銀QEの資金や、そこから派生した資金(QEによって社債の利回りが低く抑えられているのを利用して社債を大量発行して自社株を買う企業など)であり、これらの株高を粉飾するための勢力でない、実体経済の拡大を心底予測して買っている「純粋な投資家」は少ない。世界の株式の大半は国際的な大金持ちが保有しており、彼らは中央銀行群や金融界に影響力を行使して株価や社債の高値を維持している。実際の景気が悪いのに株や社債は高値で、そのつじつま合わせに景気が良いかのように数字が粉飾されている。 (Coronavirus: Only a third of Chinese small businesses open as outbreak disrupts labour and logistics) (Why the Coming Economic Collapse Will NOT be Caused by Corona Virus) (中央銀行の弾切れ)
ウイルスによって実体経済が大幅に縮小すると、純粋な投資家が市場から出て行くが、彼らはすでに市場の少数派なので、その流出分は追加のQEなど資金注入の増額によって穴埋めされ、株や社債の高値が維持される。しかし、このやり方が通用するのはある程度のところまでだ。今後、実体経済の悪化が長引き、各種の産業で倒産や債券の債務不履行が増えると、リーマン危機と似たような社債の危機・金利高騰が発生し、債務をめぐる相互不信が拡大し、金融システムが崩壊していく。 (Why the Coming Economic Collapse Will NOT be Caused by Corona Virus) (Why A Bear Market Will Lead To A Dollar Collapse) (異常なバブル膨張、でもまだ崩壊しない)
社債市場で最も危険なのは、米国のシェール石油ガス産業のジャンク債だ。この業界はもともと採掘の高いコストを低金利の債券で賄って赤字を自転車操業で埋めてきた詐欺的な「シェール革命」の神話を利用して運営されてきた。昨年来の景気悪化で石油ガスの国際価格が下落傾向になり、今回のウイルス発生の前から「そろそろやばいよ」と言われてきた。そして今回のウイルス問題で、中国を中心に石油ガスの需要が世界的に急減し、石油ガスの価格が大幅に下がり、下がったままの状態がずっと続く。石油ガス産業は大赤字になって債券を償還できなくなり、石油ガスを皮切りに社債の連鎖破綻が起きる。バブル状態が続いてきた社債の金融システムは、潰れそうな会社でも安価・低金利に資金調達できるので、株高や景気全体の底上げに使われてきた。今後それが潰れていく。株価と実体経済の両方の状況が一気に悪くなる。 (Markets are too complacent about coronavirus despite sell-off) (Sharp sell-off in junk bonds as coronavirus fears grow)
ウイルス問題は、いずれ治療薬が出てくるか、感染すべき人々がだいたい感染すれば、深刻さが低下し、経済や社会も復旧していく(ふつうのインフルエンザみたいに来年の冬に再発するかもしれないが)。これと対照的に、社債の金融システムは、いったん崩壊するとなかなか再生できない。08年のリーマン危機から12年たったが、いまだに世界の金融システムは中銀群のQEによる救済策がなければ再崩壊する。12年たっても再生していない。リーマン危機の時はまだ中銀群に大きな余力があったが、今は余力をほぼ使い果たした状態だ。これから確実にやってくる金融危機の再来に、中銀群は弾切れの状態で向きあわねばならない。危機に勝てない可能性が大きい。中銀群が敗北すると、米国債や日本国債の信用問題・金利上昇になる。ドル崩壊になる。金地金ぐらいしか価値を保てるものがなくなる。金相場は先週に暴落したが、これは中銀群が先物を使ってライバルに先制攻撃をかけたものだろう。(金相場は最終的にものすごく高値になるが、その前に乱高下が続く) (Who Smashed Gold Monday Afternoon? Let’s ‘Round Up The Usual Suspects’) (Gold Tumbles - Is The BoJ Back In The Market?)
今後注目すべきことの一つは、米国での新型ウイルスの感染拡大がどうなるかだ。米国はすでに「水際作戦」が破綻し、中国と関係ない人にどんどん感染が広がる事態に入っている。すでに米国内の旅行者の減少などウイルス関係の経済縮小が始まっている。米国は以前から貧困層の医療体制が崩壊しており、ウイルスの感染拡大に歯止めがかけられなくなる可能性がある。そうなるともともと脆弱な米国の景気が一気に悪化し、米国発の世界的な株価の暴落が再来もしくは加速する。(米当局は、中国や日本と同様、感染者の統計数字を過小に発表するかもしれない) ("Here's Why I Don't Really Trust The Official American Coronavirus Numbers") (Could The Covid-19 Pandemic Collapse The U.S. Healthcare System?)
いずれWHOが新型ウイルス感染を「パンデミック」に指定すると、それも株価の暴落要因になる。指定されると国際・国内の人の動きがさらに規制され、経済への打撃が加速する。国際金融界や各国政府は経済を悪化させたくないので、WHOにパンデミック宣言するなと圧力をかけており、WHOの宣言はパンデミックの一歩手前で止まっている。しかし、これも時間の問題だ。 (WHO escalates risk assessment of Covid-19 to “very high”) (Is Wall Street Behind The Delay In Declaring The Covid-19 Outbreak A "Pandemic"?)
日銀がステルスQEを再拡大していると指摘されるなど、これからQEの資金注入が増額し、株価が反騰する局面もあるかもしれないが、その一方で、米国での感染拡大とWHOのパンデミック宣言で再暴落が起きる。それに加え、3月中旬を超えても中国経済の再開が遅々として進まないことがわかると、先週と同様、これも株価の急落要因になる。中国の封鎖状態が3か月を超えると、中国の中小企業の8割が資金難に陥る。世界の株価はカスケード状・階段的に下落を続けそうだ。どこかの段階で、米連銀が利下げを開始する。社債市場が崩れそうになったら、レポ市場を使った「QEじゃないぞと言いつつのQE」でなく、大っぴらなQE再開・造幣による社債の買い支えもありうる。 ("Emergency Is On The Table": Goldman, BofA Brace For Crisis, Predict Multiple Rate Cuts In Coming Weeks) (Trump Admin Considering Tax Cuts, Pressuring Powell To Cut Rates In Hopes Of Containing Coronavirus Fallout) (隠れ金融危機の悪化)
さらに悪くなると、米連銀がQEの資金で株式を直接もしくはETFで買うこともありうる。日銀はすでにずっと前からやっている。米連銀のイエレン元議長は以前「次に危機になったら連銀が株を買うべきだ」と言っている。その一方で連銀内には「連銀が株投資家を救うのはおかしい。(株の急落を放置して)投資家の連銀依存をやめさせるのが良い」という正論もあるが、「株価が自分の支持率だ」と表明するトランプや、米金融界が連銀に強い圧力をかけているので、たぶん連銀のカネで株を買うことになる。それでも債券のシステム崩壊が起きたら終わりだ。 (Fed's Fisher Stuns CNBC: "Time To Wean Generation Of Money Managers Off Their Dependency On A Fed Put") ("Trump Faces An Impossible Trade-Off": Why A Global Recession Is Now Inevitable) (Yellen Says Fed Should Buy Stocks In The Next Crisis)
トランプは、株価が上がると「自分の経済政策の正しさが株価に表れている」と自慢するが、逆に株価が下がったら経済政策が間違っていたことを認めるかといえば、そうではない。株価と自分の支持を結びつけるトランプの言い方は、世界の株式の大半を持っている大金持ち(選挙資金源、権力層)への配慮であり、連銀に圧力をかけるための言い回しである。株が暴落しても、今秋の大統領選挙におけるトランプの勝算はあまり下がらない。トランプの草の根の支持者の多くは株など買えない人々だ。民主党の予備選で、大金持ちと敵対するサンダースが勝った場合は特にそうだ。予備選でバイデンが勝った場合でも、民主党内は予備選を通じて中道派と左派の対立が悪化しており、党内の結束を最強化できずトランプに負ける可能性が高い。 (Trump Isn’t Easing Coronavirus Forebodings) (How coronavirus could upend the US election)