日本囲碁規約
1989(平成元)年4月10日制定


目次

  日本囲碁規約・目次

   日本棋院理事長 朝田静夫 関西棋院理事長 橋本宇太郎 … 4
 前文 囲碁規約改定委員会委員長    吉国一郎 ………………… 6
I 日本囲碁規約(全文) ………………………………………………… 11
II 日本囲碁規約逐条解説 ………………………………………………… 16
   第一条(対局) …………… 16  第八条(地) ……………… 30
   第二条(着手) …………… 17  第九条(終局) …………… 31
   第三条(着点) …………… 18  第十条(勝敗の決定) …… 33
   第四条(石の存在) ……… 20  第十一条(投了) ………… 36
   第五条(取り) …………… 21  第十二条(無勝負) ……… 36
   第六条(劫) ……………… 23  第十三条(両負け) ……… 37
   第七条(死活) …………… 24  第十四条(反則負け) …… 38
III 死活確認例 ……………………………………………………………… 39
IV 日本囲碁規約改定の概要 ……………………………………………… 52





      

財団法人日本棋院 理事長 朝田 静夫
財団法人関西棋院 理事長 橋本宇太郎

 平成元年の四月に四十年振りに日本囲碁規約の大改定が実現されたことは誠に意義深く、関係者の一人としてご同慶の至りであります。

 昨年は国際化元年と云われた位、囲碁の国際化が急進展した年で、世界囲碁選手権戦・富士通杯、IBM早碁オープン戦、日中囲碁名人戦、同天元戦等、新しい国際棋戦が始まった他、世界アマチュア囲碁選手権戦も第十回目を迎え、参加国も三十六ヶ国の多きに達しました。

 終戦後間もない昭和二十四年十月に、時の日本棋院理事長津島寿一氏と元副総裁の大倉喜七郎氏の両先輩が、世界に囲碁を普及するには、囲碁規約の設定が是非必要との認識に立ち、戦後日本棋院復興の記念として囲碁規約制定委員会(委員長下村宏氏)を設け、日本で初めての成分法を完成されました。

 爾来四十年両先輩の先見性は見事に実証されたわけですが、国際試合の急激な増加と共に日本囲碁規約の合理化、理論的明確化の要請が関係者の間で強く呼ばれるようになりました。

 この時期に、両院にとって誠に幸いであったのは、日本棋院相談役、関西棋院名誉顧問に吉国一郎元法制局長官がおられたことです。

 両院の懇請で囲碁規約改定委員会の委員長を快くお引き受けいただき、大変な難事業を二年間に亘り十四回の委員会を主宰され、見事に纒めあげられたことに対し、深甚な敬意と謝意を表する次第です。

 この新日本囲碁規約を両院棋士が遵守し、国の内外に普及すべきことは論を俟ちませんが、広く囲碁界のご理解を得て一般にも採用されることを期待してやみません。同時に国際囲碁連盟ルール委員会が国際ルールの統一を推進していく上で、この合理的な新規約が大きな役割を果たすことを信ずるものであります。

  平成元年 四月



前文



   前 文

    日本囲碁規約改定の経過について

囲碁規約改定委員会 委員長 吉国 一郎

 現行の日本囲碁ルールは、私も参画して制定された昭和二十四年十月の日本棋院囲碁規約に基づいて運用実施されているが、同規約によって決定できない死活等については、日本棋院判例により、また判例のないものについては、日本棋院、関西棋院審査会の審査を経て、それぞれ判定することになっている。

 しかし乍ら、現行日本ルールが徳川時代以来の慣習として認められてきたものを成文化した為、理論面での明確性が必ずしも充分と云えない処から、しばしばトラブルが発生しているのが現状である。

 特に最近の囲碁の国際化と共に国際試合が急増している事から、合理性を追求する欧米囲碁愛好家の納得性が得られるルールの確立が急務となってきたこと、及び地とハマを中心とする日本ルールと石の生存権を基本とした盤上の石数と地の和で勝敗を決する中国ルールや台湾ルール等との統一の問題も発生してきている。

 以上の背景から囲碁規約改定準備委員会が昭和六二年一月設置された。改定試案作成の基本方針として、(1)日本の伝統的な対局方法を遵守する。(2)日本ルールに潜在的に含まれている合理性の理論化と明確化。(3)世界に通用する囲碁ルールの追求。(4)新たに今までの対局方法での有力な改定意見があれば別案として作成する。ただし、基本は日本の囲碁方法の範囲とすることが定められた。

 準備委員会は幹事の酒井猛九段の試案をタタキ台として六回の討議の末、改定試案を六二年三月二十六日完成した。本試案は六二年四月から五月にかけて、東京、関西、中部の棋士総会に諮られた結果、改定委員会を設置して、更に精緻化、合理性を徹底した委員会案を作成することになった。

 囲碁規約改定委員会は、六十三年一月から八回討議を重ね、平成元年二月二十一日委員会最終案(本案)を纒めた。本案は途中段階で六十三年四月、六月、平成元年三月の三回、東京、関西、中部の各棋士総会で検討が加えられた他、六十三年五月十八日国際囲碁連盟ルール委員会に日本案として参考提案され、欧米の好評を博した。

 本案は平成元年三月十日の理事会に上程可決された後、四月四日の評議委員会に於て最終的に決議された。関西棋院に於ても、同様の経過を経て三月二十八日の棋士総会で採択を決定した。

 以上の事からお分かり頂けるように、今回の日本囲碁規約の改定は、もっぱら日本囲碁のルール面の合理性を確立、明確化する為の改定で、中国ルール、台湾ルール等との統一は国際囲碁連盟ルール委員会に任せたものと云える。

 又今回の改定は、現行日本棋院囲碁規約七十条、付属規定十条、四判例の内、ルールに関する規定の改定と、重要な囲碁用語の定義に絞り込み、マナー規定、用具、手合割(含む込碁)、競技実行方法(含む競技時間)等は他の規定などで定めることとした。

 新ルールは、日本の囲碁の特色である感性の豊かさをいささかも損なうことなく、合理性の追求と個別、例外規定を排した普遍的かつ簡素な条文から成る品位の高い規約であると自負している。また、一般囲碁愛好家にとってもルールの理解が容易であり、従来ともすれば生じたトラブルの余地も解消し、今まで通りの手法で囲碁を楽しむことができるものと信じる次第である。

 いずれにせよ、永い歴史と伝統を有する日本の囲碁が、今回の改定でその合理性が確立された事は囲碁ファンの一人として誠に喜ばしい限りであるが、知能的競技として芸術的価値の極めて高い文化資産を、世界に又未来永劫に伝える為、このルールと共に、礼儀、品位が遵守され、良識と相互信頼の元に対局するという日本囲碁の精神が広く囲碁界に普及されることを切望してやまない。

 最後に起草者の酒井九段始め各委員(末尾記載)及び日本棋院、関西棋院の棋士各位並びに関係者一同のご努力ご協力に対し深甚の謝意を表して私の前書きとする。


  <囲碁規約改定委員会名簿>

 委員長 吉国一郎

 委員(日本棋院)加納嘉徳九段 工藤紀夫九段 酒井猛九段(幹事)
         大枝雄介八段 西条雅孝八段 藤田梧郎六段
         信田成仁五段 畠秀史五段

 委員(関西棋院)宮本直毅九段  (事務局 最勝時哲也 早川文康)

 平成元年 四月



全文



 I 日 本 囲 碁 規 約 (全文)

平成元年四月十日
財団法人 日本棋院
財団法人 関西棋院
(平成元年五月十五日実施)

 財団法人日本棋院及び財団法人関西棋院は、昭和二十四年十月に制定した日本棋院囲碁規約を改定することとし、ここに日本囲碁規約を制定する。この規約は対局者の良識と相互信頼の精神に基づいて運用されなければならない。


第一条
(対局)

 囲碁は、「地」の多少を争うことを目的として、競技開始から第九条の「対局の停止」、までの間、両者の技芸を盤上で競うものであり、「終局」までの間着手することを「対局」という。


第二条
(着手)

 対局する両者は、一方が黒石を相手方が白石をもって相互に一つずつ着手することができる。


第三条
(着点)

 盤上は、縦横一九路、その交点三百六十一であり、石は、第四条に合致して盤上に存在できる限り、交点のうちの空いている点(以下「空点」という)のすべてに着手できる。着手した点を「着点」という。


第四条
(石の存在)

 着手の完了後、一方の石は、その路上に隣接して空点を有する限り、盤上のその着点に存在するものとし、そのような空点のない石は、盤上に存在することができない。


第五条
(取り)

 一方の着手により、相手方の石が前条に基づき盤上に存在することができなくなった場合は、相手方のその石のすべてを取り上げるものとし、これを「ハマ」という。この場合、石を取り上げた時点をもって着手の完了とする。


第六条
(劫)

 交互に相手方の石一個を取り返し得る形を「劫」という。劫を取られた方は、次の着手でその劫を取り返すことはできない。


第七条
(死活)

 1、相手方の着手により取られない石、又は取られても新たに相手方に取られない石を生じうる石は「活き石」という。活き石以外の石は「死に石」という。
 2、第九条の「対局の停止」後での死活確認の際における同一の劫での取り返しは、行うことができない。ただし、劫を取られた方が取り返す劫のそれぞれにつき着手放棄を行った後は、新たにその劫を取ることができる。


第八条
(地)

 一方のみの活き石で囲んだ空点を「目」といい、目以外の空点を「駄目」という。駄目を有する活き石を「セキ石」といい、セキ石以外の活き石の目を「地」という。地の一点を「一目」という。


第九条
(終局)

 1、一方が着手を放棄し、次いで相手方も放棄した時点で「対局の停止」となる。

 2、対局の停止後、双方が石の死活及び地を確認し、合意することにより対局は終了する。これを「終局」という。

 3、対局の停止後、一方が対局の再開を要請した場合は、相手方は先着する権利を有し、これに応じなければならない。


第十条
(勝敗の
決定)

 1、終局の合意の後、地の中の相手方の死に石はそのまま取り上げ、ハマに加える。
 2、ハマをもって相手方の地を埋め、双方の地の目数を比較して、その多い方を勝ちとする。同数の場合は引き分けとし、これを「持碁」という。
 3、勝敗に関し、一方が異議を唱えた場合は、双方は対局の再現等により、勝敗を再確認しなければならない。
 4、双方が勝敗を確認した後にあっては、いかなることがあっても、この勝敗を変えることはできない。


第十一条
(投了)

 対局の途中でも、自らの負けを申し出て対局を終えることができる。これを「投了」という。その相手方を「中押勝」という。


第十二条
(無勝負)

 対局中に同一局面反復の状態を生じた場合において、双方が同意した時は無勝負とする。


第十三条
(両負け)

 1、第九条の対局停止後、対局者が有効な着手を発見し、その着手が勝敗にかかわるため終局に合意できない場合には両負けとする。
 2、対局中に盤上の石が移動し、かつ対局が進行した場合は、移動した石を元の着点に戻して続行する。この場合において対局者が合意できない場合は、両負けとする。


第十四条
(反則負け)

 一方が以上の規則に反した場合は、双方が勝敗を確認する前であれば、その時点で負けとなる。



*日本囲碁規約逐条解説については、次ページをご覧ください。


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