【目次へ】
  続折々の記へ

続折々の記 2020⑨
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】11/06~     【 02 】11/10~     【 03 】11/14~
【 04 】11/22~     【 05 】12/04~     【 06 】12/07~
【 07 】12/08~     【 08 】12/22~     【 09 】12/28~

――――――――――――――――――――――――――――――
【 02 】11/10
           バイデン米次期大統領   当選確実 10日新聞

 11 10 (月) バイデン米次期大統領      当選確実 10日新聞

きょうは12日なのに、トランプ氏は選挙結果を認めず公にも顔を出していない。 みともない心根だ。 世界中の人たちも同じ心境だろう。

普通の人ならこんなこともありうるが、世界の政治の中心の一人としては、見苦しい身の処し方である。 奥さんは選挙の敗北を認めるように勧めているという。

ともかく、11月10日の朝日の記事を記録としてとどめる。

▼1面=2020年11月10日
「品位回復し、民主主義守る」 バイデン氏、米次期大統領

写真・図版 【写真・図版】 米デラウェア州ウィルミントンで7日、演説を終え、支持者の前に立つバイデン氏(右)とハリス氏=AFP時事

 米大統領選で当選が確実になった民主党のジョー・バイデン次期大統領(77)は7日夜(日本時間8日朝)、地元のデラウェア州ウィルミントンで勝利演説を行い、「分断ではなく、結束を目指す大統領になることを誓う。(米国を)赤い州と青い州に分けて見るのではなく、合衆国として見る大統領となる」と国内融和を求めた。共和党のドナルド・トランプ大統領(74)は敗北を認めず、「選挙で不正があった」と複数の訴訟を起こしているが、次々と退けられており、法廷闘争が成功する見通しはない。▼2面=多難の道、3面=急転換、7面=「大きな政府」、10・11面=米で世界で、14面=社説、15面=耕論、34面=揺れる伝統

 バイデン氏は来年1月20日、第46代大統領に就任する。副大統領には、女性初となるカマラ・ハリス上院議員(56)が就く。米国で再選を目指した現職大統領が選挙で敗れるのは、1992年のブッシュ氏(父)以来28年ぶりで、トランプ氏で10人目となる。

 今回の大統領選はトランプ氏の信任投票の性格が強かった。中でも、米国で1千万人近くの感染者、23万人超の死者を出した新型コロナウイルスをめぐるトランプ氏の対応の是非が争点だった。バイデン氏は演説で「我々の仕事は新型コロナを制御することから始まる」と述べ、9日には、政権移行を視野に入れた新型コロナ対策の専門家チームを指名した。

 バイデン氏は演説で、「この時代の大きな闘い」として新型コロナ対策のほかに、「この国の人種的平等を成し遂げ、構造的な人種差別を根絶する」「気候(変動)を制御し、地球を守る」「品位を回復し、民主主義を守り、この国のすべての人に公平な機会を与える」などを列挙。政権として、これらの課題に力を入れる方針を示した。

■トランプ氏、敗北宣言を拒否

 米大統領選では、結果が判明してから負けた候補が敗北を認める慣例が続いてきたが、トランプ氏は拒否している。複数州では選挙に不正があったとして開票の中止や集計やり直しを求める訴訟を起こしている。ただ、訴訟は次々と敗訴しているうえ、再集計が行われても選挙結果を揺るがすほど両氏の得票が変わる可能性は、極めて低い。

 大統領選は各州などに割り当てられた538人の選挙人の過半数(270人)を得た候補が勝利する。開票は3日から始まり、バイデン氏は7日にペンシルベニア州で勝利を決めた結果、当選確実となった。AP通信の8日現在の集計では、獲得選挙人はバイデン氏が290人、トランプ氏が214人で、3州は勝者が判明していない。総得票はバイデン氏が約7540万票、トランプ氏が約7090万票となっている。

 今後は、12月14日に各州で選挙人が投票結果に基づいて投票する。投票用紙は来年1月6日に開票され、バイデン氏が正式に新大統領として選出される。バイデン氏は就任時には、78歳と史上最高齢の大統領となる。(ワシントン=園田耕司、ウィルミントン=藤原学思)

▼2面=2020年11月10日
消えぬ「トランプ」生んだ土壌 アメリカ総局長・沢村亙

 「トランプ」とは、いったい何だったのか。

 米国に初めて赴任した27年前。冷戦に勝利した唯一の超大国には自信がみなぎっていた。イスラム過激派のテロが深刻化する前の話である。米国を脅かすものは、なかった。

 トランプ氏は高層ビルを手がける不動産王として名をはせていた。経済は右肩上がり。物件を買いあさる日本に対する脅威論も聞かれたが、米国が競う相手は民主的な同盟国だった。

 クリントン大統領は中東和平の推進をはかり、世界はもめごとを収めてくれる米国に期待した。米国民もそれを誇りにしていた。

 地方の図書館や教会には地域活動をする住民たちが集い、人々は笑っていた。

 3年前、再び米国に赴任した。大統領はトランプ氏だった。以来、人々が怒る顔を見ない日は珍しい。

 広がる格差で多くの国民が好調だった経済を実感できない。地方は製造業がすたれ、閉塞(へいそく)感から医療用麻薬に走った中毒患者であふれていた。交流の場はSNSなどネット空間になった。変わらぬものは、根深い人種差別である。

 いまや軍事や経済で覇権を中国に奪われる不安が一般国民にも浸透する。巨額を費やして世界のもめごとに関わるのは「割に合わない」との考えも広がる。

 「トランプ」は分断を引き起こした原因か、米国の不調がもたらした結果か。27年前と今を比べれば、米国が力を失い、白人が主役だった社会が変わりゆくことへの不満や不安の「受け皿」だと理解できる。

 トランプ政権は米国第一主義を掲げ、「古き良き時代」への回帰を説いた。支持層を喜ばせたものの、米国への信頼を傷つけ、米社会をさらに分断した。中身が伴わない政治は、新型コロナウイルスには効かなかった。

 世界に自国第一をまき散らし、民主主義の規範は傷ついた。米国という重しを失った国際社会は漂流を始めた。

 バイデン氏当選が確実になった途端、歓喜の声が米国各地で上がった。それは分断の重苦しさからの解放感といえた。女性初の副大統領になるハリス氏は、アジアとアフリカにルーツを持つ。バイデン政権の米国は多少は国際協調に戻るだろう。だが「トランプ」を生んだ土壌まで消えるわけではない。第2、第3の「トランプ」が現れるかもしれない。自由な世界を米国に頼らずに守れるか。日本など民主国家の結束が真剣に問われる。

▼3面=急転換
国際協調へ急転換 パリ協定・WHO復帰、バイデン氏明言

写真・図版 【写真・図版】 ジョー・バイデン氏

 バイデン次期大統領が就任すれば、米国の外交・安全保障、経済、国内政策は大きく転換する。トランプ大統領は米国の利益を最優先にする「米国第一」を掲げ、国際条約や国際機関からの撤退を進めてきたが、バイデン氏は国際協調路線に戻る考えだ。激化した米中対立の行方も注目される。

 トランプ氏の国際協調軽視の象徴は、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」や世界保健機関(WHO)などからの一方的な脱退の動きだ。バイデン氏はいずれも復帰すると明言し、特に気候変動については「人類存続にかかわる脅威」と最重視する考えだ。

 中東政策でも、トランプ政権が離脱したイランとの国際的な核合意に復帰するほか、一方的なイスラエル寄り姿勢も改めるとみられる。また、核軍縮では、来年2月の期限切れで失効が危ぶまれていた米ロ間の「新戦略兵器削減条約」(新START)についても、バイデン氏は延長を明言している。

 同盟国への対応も変わる。トランプ氏は同盟国に「米国はだまし取られてきた」と訴え続け、北大西洋条約機構(NATO)加盟国には国防費、日韓には駐留米軍経費負担の大幅増を迫ってきた。これに対し、民主党の政策綱領は同盟国について「米国の国家安全保障にとって代替できない要石」と強調。アジア政策でもカギとなる同盟国の最初に日本を挙げた。ただ、トランプ氏のような露骨な圧力はなくても、同盟国に防衛負担の分かち合いを求める傾向は続くとみられる。

 一方、米中対立の構図は基本的に変わらないとみられる。トランプ政権は、中国を米国と軍事的に競い合う「競争国」と定義。また、トランプ氏は貿易戦争を仕掛け、制裁関税をかけてきたうえ、新型コロナウイルスの感染拡大については「中国に責任がある」と批判を強めてきた。

 バイデン氏は制裁関税の報復合戦は「自滅的」と否定的で、新型コロナではトランプ氏のような言動は取っていない。しかし、中国については「重大な競争相手」と指摘し、制裁関税を就任後に解除するかは明言を避けている。中国側が軍事転用する可能性がある先端技術やデータを巡り、緊張が高まっている状況も変わらない。さらに、人権問題ではトランプ氏より強い姿勢を取る可能性がある。

 通商では、オバマ政権は自由貿易を重視し、バイデン氏も副大統領として環太平洋経済連携協定(TPP)を主導した。しかし、グローバル化に対する厳しい反発に配慮して、バイデン氏は大統領選で自由貿易を強く推進するような主張は避けてきた。TPPも「当初推し進められていたような形では復帰しない」と明言している。

 内政では、新型コロナ対応が大きく変わりそうだ。バイデン氏は「トランプ氏は包括的なプランを持っていない」と厳しく非難。科学者や保健当局など専門家の意見を尊重し、マスク着用を義務化するように求める考えだ。移民に否定的なトランプ氏の言動についても、バイデン氏は「移民の国としての価値観や歴史への攻撃だ」と批判。米国に約1100万人いるとされる不法移民に市民権獲得の道を開く法案も検討するとしている。(ワシントン)

■イランなど期待、中ロは沈黙

 各国からは相次いで「自国第一主義」の脱却などを期待する声が上がった。一方で中国やロシアは沈黙を守っている。

 「ルールに基づく多国間主義の立て直しで協力を深めたい」

 欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は声明でこう強調した。気候変動などの世界的課題を列挙し、「新たな協力関係が極めて重要だ」とした。 中東政策にも変化がでそうだ。トランプ政権から多くの恩恵を受けてきたイスラエルが懸念するのは、米国のパレスチナやイランへの歩み寄りだ。ネタニヤフ首相がメッセージを発したのは当確報道から約12時間後。ツイッターに「米国とイスラエルの特別な同盟をさらに強めるため、ともに取り組むことを楽しみにしている」とつづった後、トランプ氏にも謝意を示した。一方のパレスチナは、手放しで歓迎。自治政府のアッバス議長は「パレスチナ人の自由、独立、正義、尊厳を実現するため、ともに取り組むことを楽しみにしている」とした。断絶した米国との対話を自治政府が再開する方針に転換するとみられている。

 トランプ政権による核合意の離脱と制裁で疲弊していたイランでは期待が広がる。ロハニ大統領は閣議で「米国による『最大限の圧力』政策は失敗した」と強調。「次の米政権は今こそ、国際的な義務を順守する道へ戻る時だ」とした。

 一方、中国政府は目立った反応を示していない。中国外務省の汪文斌副報道局長は9日の会見でこの点を問われ、「バイデン氏が当選を宣言したことには留意している。中国側の態度表明は、国際慣例に従って行う」と述べるにとどめた。中国外交筋は「トランプ氏の出方を見守っているが、バイデン政権への準備も水面下で始まっている」と認める。

 トランプ政権と3度の首脳会談を行った北朝鮮からも公式な反応は出ていない。

 ロシアも沈黙。バイデン氏が人権問題などで厳しい対応をとるのは確実だが、米ロ間の核軍縮の交渉が再び動き始める可能性がある。ロシアがトランプ政権下で最も懸念していたのは、米国の一方的な核戦力拡大だった。来年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長をめぐってトランプ政権の対応は二転、三転。バイデン氏が選挙期間中に延長の意向を示したことについて、プーチン大統領も「将来の米ロ相互協力にとって重要な要素となる」としていた。バイデン次期米大統領が掲げる経済政策

▼7面=「大きな政府」
トランプ減税一部撤回、コロナ危機に巨額投資 バイデン次期大統領

写真・図版 写真・図版 【図版】左⇒ バイデン次期米大統領が掲げる経済政策】

【図版】右⇒ 日経平均株価】

 バイデン次期米政権では、経済政策も大きく変わりそうだ。同盟国にも関税を繰り出す「予測不能」のトランプ米大統領と違い、バイデン前副大統領は国際協調に戻る姿勢を示す。米中摩擦の緩和や追加の経済対策が、日本経済にもプラスになるとの期待が広がっている。▼1面参照

■共和党と調整、課題

 トランプ政権は、減税や規制緩和という政府の役割を弱める経済政策と、関税を多用し、政府の統制を強める通商政策という、ちぐはぐな政策が特徴だった。バイデン次期政権は、富裕層への増税や社会保障の拡充を通じた格差の是正を図り、経済政策の面でも、市場介入を積極的に進める「大きな政府」をめざす。

 バイデン氏はトランプ減税の一部撤回や、コロナ危機に対応する巨額の財政出動を公約。党内には巨大IT企業への規制強化を求める声も強い。通商面でも、国内産業の回復を急ぎ、オバマ政権までの自由化にそのまま戻る見通しは薄い。

 トランプ政権が軽視した環境政策についても、重視する方向に転換する方針だ。

 法人増税などのバイデン氏の政策は、必ずしもビジネス寄りではない。それでも、米投資銀行幹部は「大統領職が伝統的なあり方に戻る」とし、トランプ政権に比べ政策の予測可能性が高まることを歓迎する。

 ただ、上院で共和党が過半数を維持すれば、企業の規制を強める政策の多くは実現が難しくなる。それだけに、来年1月にジョージア州で行われる上院選の決選投票への関心が高まる。共和党が上院で多数派を維持した場合、バイデン氏は共和党幹部らとの妥協を図る必要があり、手腕が問われる。

 仮にバイデン氏が掲げる経済政策が実現したとしても、米経済への影響は見方が分かれている。

 米調査会社ムーディーズ・アナリティックスは、トランプ政権が継続した場合に比べて米国内総生産(GDP)が4年後に4・5%上ぶれすると試算。一方、保守系経済学者らがまとめたフーバー研究所の報告は、規制強化や増税、エネルギー政策が重しとなり、1人あたりGDPが8%以上も低下すると予測する。(ワシントン=青山直篤、ニューヨーク=江渕崇)

■対中関係の改善、市場期待

 バイデン氏の当選確実を日本の株式市場は好感した。9日の日経平均株価は大幅高となり、一時2万5千円に迫り、終値は2万4839円84銭とバブル崩壊後の最高値を更新した。業種別指数では、輸出が多い輸送用機器や機械、金属製品が前週末比2%ほど値上がりした。

 市場がバイデン氏に期待するのは、米国と中国の関係改善による輸出拡大だ。トランプ氏は関税の引き上げなどの経済制裁で中国経済に打撃を与えてきた。一方、バイデン氏は人権問題などでは強硬的な姿勢をとる可能性があるが、追加関税などには慎重とみられている。東海東京調査センターの平川昇二氏は「バイデン氏は、(トランプ氏と違って)制裁する前に民主的な交渉を行うだろう」と指摘。中国は日本の第1位の貿易相手国で、日本企業への利点は大きいとみる。

 新型コロナウイルスに対する米国の追加経済対策への期待も大きい。大統領選の混乱が長引くリスクが薄れ、対策をめぐる米議会での協議が再開され、早期に実行されるのでは、との見方があるからだ。民主党は共和党より大規模な対策を求めており、米国の景気が上向けば日本企業の米国向け輸出の拡大につながる。

 ただ、足元では米国の追加緩和観測などから外国為替市場でドル売りが加速。5日には約8カ月ぶりの円高水準となる1ドル=103円台をつけた。「民主党政権では経験則的に円高になりやすい」(みずほ証券の菊地正俊氏)との声もある。今後、1ドル=100円を下回る円高ドル安が進むとの見方もあり、自動車など、日本の輸出産業への影響が懸念される。(吉田拓史)

■TPP、再交渉注目

 通商分野では、バイデン氏が環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰に動くかどうかも注目される。

 トランプ氏はTPPから離脱した後、日本との二国間交渉を要求。昨年妥結した第1段階の交渉では自動車関税の撤廃などを得られず、米側に押し切られた経緯がある。このため、日本政府は第2段階の交渉は避けたい考えで、TPPへの復帰に期待する向きが強い。日本の交渉関係者は「バイデン氏も『バイ・アメリカン』という政策を打ち出していて、(日米交渉になれば)厳しい交渉になる可能性がある」と予想する。

 バイデン氏は、知的財産侵害など中国の通商問題については同盟国との連携を訴えており、台頭する中国に対抗するというTPPの根底にあった外交観は維持している。ただ、復帰にあたっては「再交渉する」とも述べており、早期復帰は考えにくい。日本の交渉関係者は「すでに11カ国で交渉した協定。再交渉と言っても具体的にどの項目を交渉するのか」といい、復帰に向けた交渉が難航する可能性があるとみる。まずは、米国の通商交渉を担う米通商代表部の人事やバイデン氏の具体的な政策を見極めながら、出方を探ることになりそうだ。(新宅あゆみ)

■財界、歓迎と注文

 日本の経済界からは歓迎と注文の声が相次いだ。経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は9日の記者会見で、「バイデン氏は国際関係の協調を重視する従来の米国の考え方を踏襲した、話がきちんとできる大統領だ」と評価。その上で、「日本も関係の再構築をしっかりやっていく必要がある」と述べた。

 日本鉄鋼連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)は8日に出したコメントで、バイデン氏の当選は「米国民が変化を求めていることの表れだ」と指摘。トランプ氏が進めた通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミ製品への追加関税措置が「改善に向かうことを強く期待する」とした。

■不透明感の低下、プラス 大和総研・橋本政彦シニアエコノミスト

 トランプ政権に比べて政治の不透明感が低下し、世界や日本の経済にはプラスが大きいのではないか。米議会の上院は共和党、下院は民主党が多数を占める「ねじれ議会」となる可能性が高い。バイデン氏が掲げてきたインフラ投資などの政策の規模は制約を受けるが、コロナ・ショックからの回復の後押しにはなるだろう。逆に、法人増税は共和党の反対で実現が難しくなり、企業にはマイナス面が軽減される効果もある。企業に対する環境規制や金融規制は、トランプ氏が緩めた部分をもとに戻そうとするとみられる。対中関係では、米中摩擦の深刻化など悪化のリスクは減った。融和的な姿勢をとるかというとそうはならない。いまの高関税の撤廃に動く可能性も低いだろう。(聞き手・渡辺淳基)

■保護主義、方向性は同じ みずほ総研・菅原淳一主席研究員

 トランプ氏はTPPから離脱するなど手法は過激だったが、バイデン氏も国内の製造業を重視しており、保護主義的な方向性に大きな差はない。まずは国内製造業への優遇税制などの支援を進め、就任1年目の来年秋や2年目に通商の議論を始めるのではないか。その際には、日米貿易協定の第2段階の交渉を進めると思うが、日本産の自動車への関税撤廃には応じないだろう。バイデン氏は同盟国と協調して中国に対抗するとみられ、将来的にはTPP復帰も選択肢の一つだろう。ただ、TPPについては「再交渉する」と話しており、日本の農産物市場の開放のほか、原産地規則の厳格化を求めてくる可能性もあり、厳しい再交渉が必要になるだろう。(聞き手・新宅あゆみ)

▼10・11面=米で世界で

米で世界で

   ① 見つめる世界 メキシコ国境で、イランの街角で バイデン氏、米次期大統領
   ② バイデン氏の軌跡 米次期大統領
   ③ <考論>バイデン氏、米次期大統領 4氏に聞く
   ④ (ポストトランプ)結束、願うアメリカ バイデン氏は人々の橋渡しを
   ⑤ 世界の感染、5000万人超 米最多、増加ペース速まる 新型コロナ
   ⑥ バイデン氏勝利演説(要旨)、ハリス氏演説(要旨) 米大統領選



① 見つめる世界 メキシコ国境で、イランの街角で バイデン氏、米次期大統領

 「自国第一主義」を貫いたトランプ大統領が大統領選で敗れたことを、世界の人々はどう捉えたのか。

 トランプ政権の「看板」だった移民政策に揺さぶられるメキシコ。報道によると、米国と国境を接するティフアナでは7日、米国に入れずに待つ移民希望者の支援団体がバイデン氏勝利を祝った。敗北を認めようとしないトランプ氏への抗議集会のさなかにバイデン氏の当選確実が報じられ、移民希望者も加わって歓喜の集会に変わったという。

 トランプ政権が昨年再発動した経済制裁で苦しむイランでも、市民がバイデン政権への期待を口にした。

 テヘラン中心部の市場を訪れた自営業マリフ・モダベルさん(56)は夫の年金が生活の支えだ。レジ袋に入っていたのはタマネギ2個だけ。「最小限のものを買うだけで精いっぱい。いつまでこんな生活が続くのか。バイデン氏は就任後すぐに制裁を解除すべきだ」と訴えた。

 トランプ政権は、温暖化対策の国際ルールである「パリ協定」からも離脱した。海面上昇で人々の生活が脅かされている太平洋の島国からは、米国の変化に期待する声が出ている。

 フィジーのバイニマラマ首相は7日、ツイッターで「今ほど米国のかじ取りが必要な時はない」と協定への復帰を呼びかけた。

 昨年のトルコによる越境軍事作戦で、シリア北部に住む多くのクルド人らが家を追われた。トランプ政権が「トルコ軍の作戦に関与しない」と、事実上黙認したことが背景にあった。自宅を離れ、家族4人と避難生活を送るアマニ・ムハンマドさん(23)は「バイデン氏がこの状況を変えてくれ、故郷に帰ることができる日を心待ちにしている」と切望する。

 韓国では、北朝鮮に融和的な政策を取ったトランプ政権が去れば、北朝鮮が再び軍事的な挑発行動に出るとの見方が少なくない。

 釜山に住む男子大学生(32)は「バイデン政権が経済制裁など北朝鮮への圧力を強めて、再び(朝鮮半島情勢は)緊張するのではないか」と懸念する。

 政治的な統制が強まる香港では、中国に厳しい政策をとるトランプ氏の人気が高かった。大統領選の結果への反応は複雑で、ネットメディアの掲示板ではバイデン氏の対中姿勢について「口だけで弱腰だ」と懐疑的な声も目立つ。

 (サンパウロ、テヘラン、シドニー、ソウル、広州)

② バイデン氏の軌跡 米次期大統領

写真・図版 【写真・図版】2020年の米大統領選をめぐる動き

 米大統領選で当選を確実にした民主党のバイデン前副大統領(77)。1942年11月20日、ペンシルベニア州生まれ。幼少期は吃音(きつおん)で悩み、詩の朗読などで克服した。デラウェア大、シラキュース大法科大学院を経て弁護士となり、72年11月に29歳の若さでデラウェア州から上院議員に初当選。6期36年務めた。

 上院議員の初当選直後には交通事故で最初の妻と長女を失い、2015年には長男が脳腫瘍(しゅよう)で死去。家族は77年に再婚した現在の妻のジルさん(69)のほか、前妻との間の次男、ジルさんとの間の次女がいる。

 バイデン氏にとっては今回は3度目の大統領選の挑戦だった。最初の2回は民主党の候補者争いの序盤でつまずき、今回も最初は苦戦した。だが、「トランプ大統領に勝てる候補」として党内をまとめ、本選でも「反トランプ票」を集結させることに成功した。

 初挑戦の88年は予備選前に撤退した。2回目の08年はアイオワ州の党員集会で惨敗して身を引いた。だが、当選したオバマ氏から副大統領候補に指名され、オバマ政権の2期8年、副大統領を務めた。

 オバマ氏の後継として16年の大統領選に立候補を期待する声もあったが、長男との死別もあって断念。だが、次の大統領のトランプ氏が排他的な言動を繰り返し国民の分断を深めたことを受け、立候補を決意した。

 バイデン氏の持ち味は、気さくな人柄と、政治的な立場を超えて妥協を図れる柔軟さと包容力だ。民主党の候補者レースを競ったサンダース氏を破ると、同氏の陣営とも協力して政策提言をまとめた。これがバイデン氏の公約の柱になった。また、候補者討論会でバイデン氏を激しく攻撃したハリス上院議員を副大統領候補に指名した。

 米国は新型コロナの感染者数、死者数ともに世界最多。収束の見通しは立たない。バイデン氏は3月半ばに選挙運動を一時停止し、オンラインや少人数で会合を続けた。大規模集会を開き、戸別訪問を続けるトランプ陣営を「国民を守る最低限の義務を果たすことに失敗した」と批判し、自陣営との違いを強調した。

 当選確実となった7日、バイデン氏は聴衆にこう語りかけた。「より冷静になり、もう一度互いに向き合い、もう一度互いに耳を傾ける時だ。前に進むため、互いを敵とみなすことをやめなければならない」

 (ワシントン=香取啓介)

③ <考論>バイデン氏、米次期大統領 4氏に聞く

■対中国やイラン、外交難題 東京大学教授(米国政治)、久保文明氏

 トランプ大統領への批判の中心は新型コロナへの対応でつまずいたことだ。身近に感染が広がる中、トランプ氏の「すぐに良くなる」という物言いに幻滅した有権者は多い。それに対し、バイデン前副大統領はコロナ対策に最優先で取り組む姿勢を示せた。

 トランプ氏は米国内の分断を癒やすのではなく、対立をあおり、政治的に活用してきた。今回の選挙で民主、共和両党で争点がかみ合わなかったのも分断の一側面だ。民主党支持者が新型コロナへの対応、人種差別問題を重視したのに対し、共和党支持者は半数以上が経済対策を挙げた。

 バイデン氏は自身のビジョンを説得力を持って提示できたとは言いがたい。民主党も4年前より団結していたが、医療保険や環境問題で左派の意見に寄りすぎると中道系や無党派層は離れる。バイデン氏は難しいかじ取りを迫られる。

 市民は米国が犠牲を払って世界を支える構造に飽き飽きしている。パリ協定や世界保健機関への復帰は難しくないし、バイデン氏には同盟国と歩調をそろえる安心感はある。ただ、米国が汗をかくのか、同盟国が汗をかくような関係に変わるのかは不透明だ。

 米国内の対中、対イラン感情が悪化する中で、外交姿勢も難しい課題だ。温暖化対策で協力を求めるあまり、中国に甘い対応をする可能性もある。イラン核合意へ復帰を目指すが、簡単ではないだろう。環太平洋経済連携協定は民主党自身が反対で固まっている。

 将来、共和党から再びトランプ氏のような人物が出てくることはありうる。孤立主義も保護貿易主義も共和党では主流でない立場だったが、人気を博することを知ってしまった。米国全体が内向きに変質しつつあることで国際社会に与える影響は大きい。(聞き手・小早川遥平)

■オバマ時代、戻れない ロシア高等経済学院教授(「バルダイ討論クラブ」専門員)、ドミトリー・スースロフ氏

 バイデン政権が発足すれば米国の外交政策はより予測可能なものとなるが、それはあくまで政権の考え方に関してだ。実際の外交は国内政治に縛られ、予測不可能な側面は残る。

 バイデン氏は外交政策を正常化し、オバマ時代のものに戻ると約束しているが、不可能だ。この4年で世界は大きく変わった。大国間の競争があからさまになった。バイデン氏もロシアと中国の両方を抑え込もうとするのは間違いない。国際経済政策も利益重視にならざるを得ず、自由主義には戻れない。左傾化した米民主党も望んでいない。

 バイデン政権は民主主義と人権問題で対ロシア批判を強め、ロシアは反発するから米ロの雰囲気は悪化するだろう。そしてバイデン政権は同盟国との関係も強化する。今後はロシアが欧州でとれる戦略の幅は狭くなる。ただバイデン政権が戦略的に優先するのはアジアだ。米国がどれほど欧州に関心を示すかは、欧州がどれだけ中国封じ込めに関与するかにもよるだろう。(聞き手・喜田尚)

■中米関係、改善に期待 北京大学国際関係学院前院長、賈慶国氏

 バイデン政権でも米国の対中強硬姿勢はすぐには変わらないだろうが、トランプ政権と比べれば関係改善が進む可能性は高い。

 米国第一主義のトランプ氏と違い、バイデン氏は国際協力によって温暖化や国際貿易秩序の維持などの世界的な問題を解決していく立場だ。これらは、中米の協力があって初めてコントロールできる問題なので、協力は双方の利益になる。

 中米関係が悪化した原因はトランプ氏の手法以外に、中国の勃興を受けた米国が、これまで見過ごしてきた政治制度や経済管理モデルの違いを受け入れなくなったことにもある。こうした問題は短時間で解決できないので、相互の対話や政策調整が必要だ。

 中米関係を安定させるには、中国側にも改善が求められる。さらなる市場開放や、巨大経済圏構想「一帯一路」などの対外政策について米国との意思疎通をこれまで以上にはかり、より明確に自身の考えを伝えていくべきだ。(聞き手・高田正幸)

■ポピュリスト抑止に ブラジル・FGV大学准教授(国際関係論)、オリバー・ストゥンケル氏

 この4年間、私たちが見てきたのは米国政治の「ラテンアメリカ化」だ。国民と直接コミュニケーションを取り、国内に敵を作る。トランプ氏の行動様式は、多くのポピュリスト政治家がいた中南米の私たちにはなじみ深い。

 国民と直接つながるために批判的なメディアを排除する。これはポピュリストの重要な要素で、ベネズエラのチャベス前大統領は国営テレビを利用した。トランプ氏になり、テレビがソーシャルメディアに置き換わった。トランプ氏がいなければ、ブラジルでボルソナーロ大統領が誕生する可能性はなかった。

 その意味で、トランプ氏は世界のポピュリストにとって有益でグローバルな環境を作り出したと言える。トランプ氏はポピュリストを強く成長させる肥料だった。バイデン政権は以前のような米国の名声を取り戻そうとするはずだ。ポピュリストたちにとっては、やりにくい環境になるのは間違いない。(聞き手・岡田玄)

④ (ポストトランプ)結束、願うアメリカ バイデン氏は人々の橋渡しを

 米大統領選でバイデン前副大統領の当選が固まり、喜びを爆発させたバイデン氏の支持者の間では、トランプ大統領の下で加速した分断から融和への転換に期待が高まっている。ただ、トランプ氏も前回を上回る7090万票余りを得ており、分断の修復には時間がかかりそうだ。▼1面参照

 8日夕。首都ワシントンのホワイトハウス周辺にはバイデン氏を支持する大勢の人が集まり、音楽に合わせて踊ったり、記念撮影したりして喜びを表現した。

 バイデン氏の名前が書かれたボードを掲げて歩いていたガリュー・ストーデンさん(77)は、感染拡大に歯止めがかからない新型コロナウイルス対策に期待する。「バイデン氏はしっかりやってくれると信じている。問題は経済を守りながらそれができるかどうか。なるべく早くビジョンを示してほしい」と話した。

 母と一緒にウェストバージニア州から訪れたシャーラ・ケラーさん(32)は目が不自由だ。「トランプ政権では、強く、声が大きいことが正しいという雰囲気があった。自分のように弱い立場にいる人は息ができない思いがした」。次の政権には「白人も白人でない人も、強者も弱者も結束できるようにしてほしい」と期待を込めた。

 7日、バイデン氏が勝利宣言をしたデラウェア州ウィルミントンの会場前には1千人以上が詰めかけ、歓喜の声をあげた。

 白人女性で配達員のヘザー・グリフィスさん(34)は「ジョーはこの4年で欠けていたものを示してくれた」と評価。「共和党と共通点を見つけ、考え方が違う人との橋渡しもしてほしい」と話した。

 女性で初めて副大統領となるカマラ・ハリス上院議員に期待する声もあった。イリノイ州在住の作家ナス・ジョーンズさん(48)は、「彼女はきっと大統領になる。私の一票は、彼女への期待の一票でもある」と語った。

 ニューヨークのタイムズスクエアにもバイデン氏の当選が伝わった7日昼から大勢の人が集まった。

 俳優のソレア・サイバーグさん(26)は「この国に誇りを持ち、安心して暮らせるようにという願いはみんな同じはず」と、時間はかかっても分断の修復はできるとの考えを示した。

■トランプ氏望んだ人、忘れないで

 この先、米国を待つ困難を思う有権者もいる。

 広告業のコリン・ドッドさん(53)は7日、ノースカロライナ州から車で3時間かけてホワイトハウス前に駆けつけた。自身はバイデン氏を支持したが、地元には大勢のトランプ支持者が暮らしている。

 「7千万人以上がトランプ氏の再選を望んだことも忘れてはいけない。今晩ぐらいは祝福しようと思うが、この国は分断の修復に取り組まないといけない」

 トランプ氏は「投票に不正があった」などと主張し、負けを認めていない。大きな混乱は報じられていないが、バイデン氏の当選確実が伝えられた後、「選挙を盗むな」などと訴えるトランプ氏支持者らの姿も各地で見られた。(ワシントン=大部俊哉、金成隆一、ウィルミントン=渡辺丘、藤原学思、ニューヨーク=鵜飼啓)

⑤ 世界の感染、5000万人超 米最多、増加ペース速まる 新型コロナ

 新型コロナウイルスの感染者が9日、世界全体の累計で5千万人を超えた。米ジョンズ・ホプキンス大が集計した。米国が最多だが、感染をいったん抑え込んだはずの欧州が激しい第2波に襲われている。

 同日午後5時現在で、世界の累計感染者数は5044万6517人。世界の約155人に1人が感染した計算だ。死者は125万人超にのぼる。6月末に1千万人を超えた後、増加のペースは速まっている。

 米国に次いで感染者が多いインドとブラジルは感染が減速傾向だが、最近の感染者数を押し上げているのが欧州だ。世界全体の1日あたりの感染者は50万人強(過去7日平均)だが、11月以降、欧州がこの半数以上を占める日が続く。

 最多のフランスは累計約184万人。5月に200人に減った1日あたりの感染者は、11月には多い日で6万人に膨らんだ。イタリアでは北部などの4州、英イングランド地方でも外出制限が課されている。(合田禄)

  ■世界の新型コロナ感染者(9日午後6時半現在)

             感染者       死者
米国      997万2333  23万7574
インド     855万3657  12万6611
ブラジル    566万4115  16万2397
フランス    183万5187   4万0490
ロシア     178万1997   3万0546
スペイン    132万8832   3万8833
アルゼンチン  124万2182   3万3560
英国      119万5350   4万9134
コロンビア   114万3887   3万2791
メキシコ     96万7825   9万5027
…………………………………………………………………
インドネシア   43万7716   1万4614
フィリピン    39万8449     7647
中国        9万1665     4741
シンガポール    5万8064       28
韓国        2万7553      480
…………………………………………………………………
日本       10万8609     1825
…………………………………………………………………
世界計    5044万6517 125万6869
      (+59万5496)  (+6178)

 (感染者の多い10カ国と、日本と往来の多い国。米ジョンズ・ホプキンス大の集計から。カッコ内は前日午後5時時点との比較。日本の数字は集計方法が異なるため、1面・社会面と一致しない)

⑥ バイデン氏勝利演説(要旨)、ハリス氏演説(要旨) 米大統領選

■バイデン氏勝利演説(要旨)

 この国の人々が声を上げました。彼らは私たちに明確な勝利をもたらしました。史上最多となる得票数、7400万票です!

 私は分断ではなく結束を求める大統領になると誓います。(アメリカを)赤い州(共和党が強い州)と青い州(民主党が強い州)に分けて見るのではなく、合衆国として見る大統領となる。あなた方全員の信頼を勝ち取るために、全力で働きます。それこそが私の信じる米国の姿です。人々のための米国です。

 米国の魂を回復するため、国の背骨である中間層を立て直し、再び世界から尊敬される米国とするためにこの職を目指しました。

 トランプ大統領に投票した人たちの失望はわかっています。私自身も何度か負けたことがありますが、今は互いにチャンスを与え合いましょう。激しい言葉遣いを終わらせ、冷静になり、再び互いを見つめ、再び互いの言い分を聞く時です。前進するには、互いを敵とみなすことをやめなければなりません。彼らは私たちの敵ではなく、米国人なのです。

 聖書はこう教えてくれます。「すべてのことには季節がある。つくる時があり、収穫する時があり、植える時があり、癒やす時がある」。今、米国は癒やしの時です。選挙運動は終わりました。国民の願いは何で、私たちの任務は何でしょうか。

 私はこう信じています。米国人はこの時代の大きな戦いのために、品位と公平、科学、希望の力を結集することを求めました。その戦いとは、ウイルスを制御し、繁栄を築き、皆さんの家族の健康を守ることです。この国の人種的平等を成し遂げ、構造的な人種差別を根絶することです。

 さらに気候(変動)を制御して地球を守り、品位を回復し、民主主義を守り、この国のすべての人に公平な機会を与えることです。私たちの仕事は、新型コロナウイルスをコントロールすることから始まります。

 私は誇り高い民主党員ですが、米国大統領として職務にあたります。私は、私に投票しなかった人たちのためにも、私に投票した人たちのためと同じだけ、一生懸命働きます。

 相手を悪と見なす気のめいるような時代は、今ここで終わりにしましょう。民主党員と共和党員が互いに協力を拒むのは、私たちが手に負えないような不思議な力によって起きているのではありません。決断と選択によるのです。

 私はいつも米国を一つの言葉で定義できると信じてきました。「可能性」です。米国では、自分の夢と、神から与えられた能力がもたらすところまで、誰もがたどり着ける機会を与えられるべきなのです。

■ハリス氏演説(要旨)

 ジョン・ルイス下院議員は生前、「民主主義は状態ではなく、行動である」と記しました。米国の民主主義は保証されたものではないという意味です。民主主義は、私たちがそのために戦い、守ろうとする意欲と同じだけの強さしかなく、決して当たり前のものではないのです。民主主義を守るには闘いと犠牲が必要ですが、喜びや進歩もある。人々にはよりよい未来を築く力があるのですから。

 私たちの民主主義が今回の選挙で投票にかけられました。米国の魂は危機に直面し、世界が注目しましたが、皆さんは米国に新たな日をもたらしました。あなたがたは希望、結束、品位、科学(への信頼)、そして真実を選んだのです。

 今日の私という存在にとって、最も重要な女性がいます。私の母シャマラ・ゴパラン・ハリスです。彼女は19歳でインドから米国に来ましたが、おそらくこの瞬間を想像もしなかった。でも、彼女はこの瞬間が起こりうる米国をとても深く信じていました。

 私は彼女と、1世紀以上にわたって投票の権利を確保し、守る努力をしてきたすべての女性に思いをはせます。私は彼女たちの偉業の上にあります。私は初の女性副大統領になりますが、最後の女性副大統領にはならないでしょう。なぜなら今夜、これが可能性に満ちあふれた国だということを、全ての少女たちが目の当たりにしたからです。

 これから本当の仕事が始まります。命を救い、この(新型コロナウイルスの)パンデミックに打ち勝つのに不可欠な仕事です。働く人たちの役に立つように経済を立て直します。我々の司法制度と社会にある構造的な人種差別を根絶させます。気候変動と戦います。私たちの国を団結させ、私たちの国の魂をいやします。

▼14面=社説
米大統領バイデン氏当確 民主主義と協調の復興を

 米国社会の融和と国際秩序の再建が喫緊の課題である。この大国の軌道を正す歴史的な重責を自覚してもらいたい。

 大統領選で、民主党のジョー・バイデン前副大統領の当選が確実になった。開票はなお続いているが、史上最多の得票数で次の政権を託された。

 共和党のドナルド・トランプ大統領は、再選を果たせなかった。選挙については裁判闘争を始めたが、不正を疑わせる情報は伝えられていない。

 異議を申し立てる証拠がないのならば、選挙プロセスを無理に滞らせず、次期政権への移行に全面的に協力すべきだろう。

■多元主義どう回復

 世界での米国の威信は長期的に退潮傾向にあったとはいえ、トランプ政権の4年間で内政も外交も混迷が深まった。

 バイデン次期政権はその修復にとどまらず、国際環境を安定させるための新たなリーダーシップを築かねばならない。

 大きく分ければ、「コロナ」と「経済」に争点が割れた選挙だった。23万人を超す死者を出したコロナ禍の失政を突いたバイデン氏が、経済の実績を訴えたトランプ氏を破った。

 型破りの大統領は来年1月に去る。だが、彼を支えた米社会の深層は変わらない。人種などの多様化に伴う摩擦に加え、広がる経済格差への労働層の怒りがくすぶり続けるだろう。

 地域、性別、世代など様々な分断をどう乗り越え、米国本来の多元主義を回復するか。

 勝利演説でバイデン氏は「団結をめざす大統領になる」と強調した。女性初の副大統領となるカマラ・ハリス氏とともに、国民統合の道を探ってほしい。

 グローバル化の恩恵から取り残された地方や中間所得層の不満をどう解消するかも難題だ。今回の選挙でも、国内製造業の立て直しや最低賃金の水準などの論議が熱く繰り返された。

 競争か平等かを対立軸とした資本主義社会の新たな設計は、他の国々も悩むテーマだ。グローバル経済下では、国内政策だけで答えを出すのは難しい。

■理念の尊重へ回帰か

 その点、バイデン氏が「中間層のための外交政策」を掲げているのは注目される。技術革新やインフラなどへの重点投資で国内雇用を生むとともに、貿易などの国際ルールづくりに積極的にかかわるとしている。

 その取り組みは、国際社会が望む多国間協調への米国の回帰につながるのか。「米国第一主義」が本当に転換するのか、世界が目を凝らすことになる。

 国際社会では、米欧や日本などの民主主義国と、中国、ロシアなどの権威主義国との価値観の対立が鮮明になっている。

 その中でトランプ氏は同盟関係を軽んじた。目先の打算で北朝鮮の首脳をたたえ、西欧は突き放すような無原則な姿勢が国際政治のモラルを侵食した。

 中国と覇権を争うさなかに、米国の強みである同盟のネットワークを損ねる。そんな矛盾した対外政策は、根底で自らの力の源泉を見誤っていないか。いまや世界は、大国間競争の時代が再来したとも言われる。

 だが、コロナ問題が示したように、地球規模の課題は大国も単独では解決できない。多極的な協調しか対処の道はない。

 バイデン氏は、トランプ政権による過ちの是正が最初の仕事となろう。気候変動をめぐるパリ協定とイラン核合意への復帰を果たし、核軍縮体制や中東政策の立て直しが必要だ。

 そのうえで、米国自身が築いてきた戦後秩序を礎に、新たな現実に対応していく結束の枠組みづくりをめざすべきだ。

 バイデン氏は就任1年目に、民主国家を一堂に集めた首脳会合を開くと宣言している。広がるポピュリズムのなかで、民主主義の復権に向けて米国が決意を示すならば意義深い。

 国連やNGOなどの組織もまじえ、国際社会の持続可能な安定と成長をめざす普遍的な理念を確認し、一国主義の蔓延(まんえん)に歯止めをかけねばならない。

■日本の役割を描け

 日本にとっては、対米関係が今後も重要なのは言うまでもない。だが、この4年で国際社会が学んだ教訓は、もはや特定の大国に多くを頼れる時代ではない、ということだ。

 次期米政権の中国に対する政策は見通せないが、これからも米中関係は波乱含みだろう。

 はざまに立つ日本は、欧州や豪州、アジアとの連携にさらに注力する必要がある。バイデン政権には、太平洋国家としての自覚と一貫性のあるアジア関与政策を求める必要がある。

 菅政権が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」構想は、軍事機構ではなく、法の支配や人権などの原則を広げる枠組みであるべきだ。その意味で、理念の再生をうたうバイデン氏との協働を探りたい。

 「トランプ後」の世界を描く使命は、米国だけでなく国際社会全体で背負うほかない。その出発点となる来年、日本もより多角的で自律した平和主義外交へと歩を進めるべきだ。

▼15面=耕論
(耕論)トランプ氏退場、世界は
   クリスティーナ・デイビスさん、鈴木一人さん、ハンス・クンドナニさん

 米大統領選はコロナ禍で異例の展開の末、民主党のバイデン氏が当選を確実にした。これまでのトランプ政権から何がどう変わり、あるいは変わらないのか。日米欧の識者に聞いた。

■国内外の分断、癒やす道を クリスティーナ・デイビスさん(ハーバード大教授)

 米大統領選でバイデン氏が当選を確実にしたことは、米有権者が伝統的な価値に回帰し、多様性や科学に重きを置くほうを選んだことを意味します。

 バイデン新政権はまず、新型コロナウイルス対策を進めると同時に、過去4年間に拡大した国内の分裂を癒やすことに力を入れるでしょう。これまでトランプ支持に傾いていた中西部のラストベルト(さびついた工業地帯)など取り残された地域に対する経済振興策を推進することになると思います。

 通商政策は、トランプ氏の政策と似通った部分があるでしょう。米国の雇用を守り、製造業を米国に戻す必要性を訴えるはずです。バイデン氏は、政府が調達の契約を行う際に米国製品を買う必要性に言及したこともあるのです。特に中国を批判する強い言葉遣いは、バイデン大統領になっても続くでしょう。

 これらは国内の分断を乗り越えるためのものです。米経済を立て直し、製造業を強化し、中国への競争力を高めるメッセージを国内に送るわけです。

 一方でトランプ氏との違いは、米国の一国主義ではなく、多国間主義へとシフトすることです。日本や欧州、そして世界貿易機関(WTO)との協力を強め、明確なルールを構築しようとするでしょう。関税引き上げを手段として「貿易戦争」を引き起こしてきたトランプ政権からは、大きく変化することになります。

 ただ、トランプ政権が導入した中国製品に対する制裁関税は、すぐにはやめないかもしれません。米国人の大半が自由貿易を支持しながら、対中関税引き上げも支持しているからです。

 要するにバイデン政権は多国間主義をとり、日本や欧州とともにルールに基づいた貿易協定の拡大を交渉しながら、中国に政策変更を促すことを通じ、時間をかけて貿易戦争を終える方向に進むのではないか――と思います。

 バイデン氏はオバマ政権で環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉を率いていた人物でもあります。就任1年目は、まずは国内対策に力を入れるでしょうが、その後、TPPへの米国の再加入を検討する可能性はあるでしょう。

 バイデン氏と日本の菅義偉首相は、ともに新たな政権をスタートさせ、中流家庭の出身という共通点もあり、良好な関係を築ける可能性があると思います。気候変動対策でも協力できるでしょう。外交・安全保障面でも「自由で開かれたインド太平洋地域」という構想は、オバマ政権と安倍政権のときに始まったものです。バイデン政権と菅政権の間でも、引き続き重視されていくと思います。(聞き手 サンフランシスコ=尾形聡彦)

     *

 Christina Davis 1971年生まれ。専門は貿易政策を中心とした国際関係。今年1月からハーバード大日米関係プログラム所長。

■国際秩序、制度は戻せる 鈴木一人さん(東京大公共政策大学院教授)

 トランプ氏は非常にユニークな大統領でした。「ビジネスマンであって政治家ではない」と自分で言っているくらいです。

 ユニークさの一つは、ビジョンがないことです。多くの政治家は、自らの理想の実現のため大統領を目指しますが、トランプ氏のやることは時代の空気や彼の本能的な感覚に近い。練られたアイデアではないので理論的でなく、ちぐはぐです。

 伝統的な政治家との決定的な違いは、対人関係の作り方です。元は企業のワンマン経営者。ツイッターの発信が好例ですが、全ては彼自身の発信です。周囲の声は聞かず、自分で問題設定をしてきました。ついてくる人は仲間、批判すれば敵。要求を押しつけ、相手がのめなければ取引はなしです。

 世界はこの4年間、こんなやり方に振り回され、多くの国際秩序の制度的部分が壊されました。国連総会で「米国第一」を宣言して多国間主義を正面から否定し、国際的な枠組みから次々と離脱。自由世界のリーダーとして築き上げてきた秩序を自ら破壊したのです。  一方で、国際秩序の構造的部分は実はほとんど何も変わっていません。

 ブッシュ政権が「対テロ戦争」の名の下に始めたイラク戦争で、米国は世界のリーダーとしての信頼を失いました。大義のない戦争で多くの命を奪ったと。それ以降、オバマ政権は国際的な秩序へのコミットを控えていました。世界一の軍事力や経済力はまだありますが、その能力を生かす意思はなくしたのです。そこに中国が台頭しました。

 1992年の北米自由貿易協定(NAFTA)締結以降、米国内の製造業は賃金の安い国に流れ、やがて米国は中国製品だらけになりました。トランプ氏は中国製品に制裁関税をかけましたが、国内に製造業が残っておらず、雇用は戻りません。

 唯一成功したのは石炭産業と鉄鋼・アルミ。こうしたごく一部の産業のためにパリ協定離脱や関税引き上げをしたのでした。

 制度は元に戻せます。バイデン氏はトランプ氏が壊した部分を直す「脱トランプ」を進めるでしょう。

 まずは民主党左派の支持をつなぎとめるためにパリ協定に復帰し、イラン核合意や世界保健機関(WHO)などにも戻るでしょう。制度の修復で信頼が回復すれば、米国単独の影響力が低下していく中にあっても、足りない部分を同盟国など他国の力で補うことが可能になります。

 中国の輸入品への制裁関税を続けるのは米国にもマイナスです。香港、台湾の問題をカードに使いながら、関税の対象品目を少しずつ減らしていくのではないでしょうか。(聞き手・畑宗太郎)

     *

 すずきかずと 1970年生まれ。専門は国際政治経済学で宇宙政策や経済制裁に詳しい。著書に「宇宙開発と国際政治」。

■バラ色の欧州、期待は禁物 ハンス・クンドナニさん(英王立国際問題研究所上級研究員)

 米欧関係を重視する立場にあって「トランプ政権以前は素晴らしかった」と信じる人が少なくありません。「トランプが米欧関係を危機に陥れた」と。

 しかし、実際にはトランプ氏の大統領就任以前から、米欧関係は損なわれていました。トランプ氏はそれを可視化させ、すでにある流れを加速させたに過ぎません。

 例えば中国の台頭に対応する米国が、これまで欧州に割いてきた力をインド・太平洋地域に回す動きは、オバマ政権時代からうかがえました。欧州はその頃から、自らの安全保障にもっと責任を持つよう迫られていた。その論理を過激な形で、攻撃的に打ち上げたのがトランプ氏です。

 バイデン氏が就任しても問題が解決するわけではありません。欧州各国が国防費の負担を免れるわけでもない。米国で誰が政権に就こうと、外交の重点が欧州から中国へと移る流れは止められません。

 リベラルな国際秩序に関しても同様です。トランプ氏だけが破壊したように語られますが、実際にはその前から、この秩序は課題を抱え、改革が不可欠でした。一例は気候変動対策です。このテーマで欧州各国は中国を潜在的なパートナーと見なしているのに対し、米国は誰が大統領になっても、そうは考えません。こうした違いを明確に示したに過ぎないトランプ氏が去っても、それだけで安定した世界が再興できるわけではありません。

 もちろん、トランプ氏よりバイデン氏の方が、欧州にとって一緒に働きやすいのは確かです。イラン問題への対応でも、バイデン氏の方が期待できます。

 一方で、例えば中国との関係を考えると、バイデン政権は欧州、特にドイツにとってやりにくい存在となるかも知れません。独フォルクスワーゲンは新疆ウイグル自治区で工場を運営しています。もしバイデン政権が人権問題を理由に中国に制裁を発動したら、苦境に陥るでしょう。

 ロシアについても問題は複雑です。トランプ政権に比べ、バイデン政権はロシアにより厳しい態度で臨むでしょう。その姿勢をポーランドやバルト3国などが歓迎しても、ロシアとの間で天然ガスのパイプライン事業を進めるドイツは逆に、プレッシャーを受ける。欧州内部の意見が分裂しかねません。

 英国は中ロと距離を置き、香港問題では中国に厳しい態度をとっています。その点で米国の方針と重なるものの、ジョンソン政権はトランプ政権と蜜月状態だっただけに、難しい立場に置かれます。

 いずれにせよ、バイデン大統領になって「バラ色の世界が戻ってくる」とは考えない方がいいでしょう。(聞き手 ロンドン=国末憲人)

     *

 Hans Kundnani 1972年生まれ。欧州外交評議会研究部長などを務めた。邦訳著書に「ドイツ・パワーの逆説」。

▼34面=揺れる伝統
「敗北宣言」揺れる伝統 トランプ氏拒否続ける 米大統領選

 米大統領選ではバイデン前副大統領(77)の当選確実が米メディアで報じられたが、トランプ大統領(74)は2日経っても敗北を認めていない。法廷闘争などで徹底抗戦を続ける構えのトランプ陣営から「敗北宣言」が出る見通しが立たず、米国の大統領選で1世紀以上続いてきた伝統が覆されかねない状況だ。▼1面参照

 負けた候補の敗北宣言は、120年以上の歴史がある。1896年、ウィリアム・マッキンリー(第25代大統領)に敗れたウィリアム・ジェニングス・ブライアンが祝意の電報を送ったことが始まりだ。ラジオやテレビへと媒体は変わっても敗者が落選を受け入れることで選挙戦に幕を下ろしてきた。津田塾大学の西川賢教授(米国政治)は「敗北宣言は米国の民主主義と選挙制度の正当性を守るための紳士協定といえる」と語る。敗者が納得して負けを認めることで、対立を白紙に戻して結束を促すという役割を担ってきたという。

 2008年にオバマ前大統領に敗れたマケイン上院議員(当時)は「オバマ氏は偉業を達成した。私は彼が国を率いるのを助けるために、持てる力の限りのことをすると誓う」と、相手をたたえた。再集計問題でもつれた00年大統領選でも、ゴア副大統領(同)が最高裁判決を「強く異議を唱える」としながらも受け入れ、「次期大統領のもとに団結」するように呼びかけた。

 今回、トランプ氏はバイデン氏の当選確実の報道以降、日本時間9日午後9時まで公式の場に姿を見せていない。7日には、首都ワシントン郊外でゴルフをしていた時に声明で、「この選挙はまだ終わりにはほど遠い」と主張。8日午後にも「いつから時代遅れのメディアが次期大統領が誰かを決定できるようになったのか?」とツイートした。

 トランプ氏は「私は大差で選挙に勝った!」と根拠を示さないままの主張を続ける。(園田耕司=ワシントン、杉崎慎弥)

■核軍縮「前進を期待」/拉致「解決、約束を」

 米大統領選で当選が確実となった民主党のジョー・バイデン氏に何を望むか。各地で聞いた。

 「停滞していた核軍縮が前進する一歩と期待したい」。長崎県被爆者手帳友の会の会長、朝長万左男(まさお)さん(77)は語った。

 バイデン氏は8月6日、「広島、長崎の恐怖が二度と繰り返されないために、核兵器のない世界に近付くよう取り組む」との声明を出した。「オバマ元大統領が掲げた『核なき世界』の理念を受け継ぐ人が選ばれたことにほっとしている」という。

 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会の飯塚繁雄代表(82)は「トランプ氏は、解決に努力すると約束してくれた。バイデン氏も同じような意気込みで対応してほしい」とコメントを出した。「家族にも被害者にも時間がない。日本政府は、引き続き米国に対応を促し続けてほしい」と訴えた。

 米軍基地を抱える沖縄。沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)は、対中国強硬姿勢はバイデン政権でも続く可能性が高いとみており、「沖縄を取り巻く状況に変わりはない」と受け止める。「米軍普天間飛行場の辺野古移設の見直しといった沖縄の訴えが届く状況にはなく、軍事衝突だけは絶対に避けるべきだと声をあげ続ける必要がある」と話す。

■「壊れた」4年、修復は大変 米出身タレント、パトリック・ハーランさん

 選挙結果が気になり、寝られない日々が続いた。僕が投票したバイデン氏が当選を確実にしたことはうれしいが、これほどの接戦になったということは、多くのアメリカ人がドナルド・トランプ氏を支持しているということ。この先の4年間に楽観的にはなれないし、選挙後の暴動や衝突も心配だ。  この4年間で分断は深まった。米国に住んでいる警察官の弟はトランプ氏の支持者。彼と政治の話はしなくなった。僕は、トランプ崇拝を促すような論調のFOXニュースを認めていないし、弟は僕が読んでいるニューヨーク・タイムズを認めていない。「ファクト」が違うと、議論ではなく口論になるから、関係を大切にしたい相手ほど政治の話はできないのです。

 政治的な意見が違うのはいいんです。大きな政府か小さな政府か、銃規制に賛成か反対か。議論ができるはず。でも「空は青くない」と言われたら話ができないじゃないですか。事実すら共有できない。そういうアメリカになっている。

 大統領のツイートに「誤解を招いている可能性がある」と警告がつくような状態から卒業したい。熱狂しなくていい。毎日おもしろいことがなくてもいい。バイデン氏は専門家に耳を傾け、協調して政策を生み出す「ノーマル」な大統領になってほしい。4年間で壊れたものを直さないといけないからとても大変な仕事が待っていると思いますよ。(聞き手・池上桃子)

 【最近の米大統領選での敗北宣言】

 ◆2000年(ジョージ・ブッシュ氏〈子〉が初当選)

 ゴア副大統領(民主党)「米国民の統一と民主主義の強化のために、敗北を認める。米国と新しい米大統領のために一致団結してほしい」

 ◆04年(ブッシュ氏が再選)

 ケリー上院議員(民主党)「あなた方と彼ら(ブッシュ氏支持者)をつなぐ架け橋になることを誓う」

 ◆08年(バラク・オバマ氏が初当選)

 マケイン上院議員(共和党)「歴史的な選挙であり、我々の子孫によりよい国を引き継げるよう、次期大統領のために真剣に努力してほしい」

 ◆12年(オバマ氏が再選)

 ロムニー前マサチューセッツ州知事(共和党)「オバマ大統領に電話で祝福を伝えた。大統領が我が国をうまく導くことを祈っている」

 ◆16年(ドナルド・トランプ氏が初当選)

 クリントン前国務長官(民主党)「負けたことの痛みは長く続く。選挙戦は一人の人間のためでも、一つの選挙のためでもなかった」

 ※肩書は当時のもの