【目次へ】 金融所得課税見直し、首相修正 「分配政策、選択肢の一つ」 2面 政策の目玉、いきなり先送り
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続折々の記 ⑧
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【 09 】10/12
3面 「負の遺産」具体策語らず 甘利氏問題・改ざん再調査… 4面 夫婦別姓、トーンダウン 岸田首相「議論すべき」どまり 14面 社説 国会代表質問 「違い」見えぬ首相答弁 追記 10月10日の社説 学術会議問題 任命して関係再構築を とんでもない方向へ舵を切った岸田首相 防衛力方向
最低賃金の経済学 天声人語
下平評 我がまま勝手の個人主義 と 世界のグローバル化
親ガチャという「不平等」 (耕論)
2021/10/12
金融所得課税見直し、首相修正 「分配政策、選択肢の一つ」 衆院代表質問
岸田文雄首相の所信表明演説に対する代表質問が11日、衆院本会議で始まった。首相は自民党総裁選で掲げた株式配当など金融所得への課税強化策について、10日のテレビ番組で「当面は金融所得課税に触ることは考えていない」と軌道修正した。この日の代表質問では「金融所得課税の見直しは、成長と分配の好循環を実現するための様々な分配政策の選択肢の一つ」と述べた。▼2面=いきなり先送り、3面=見解変わらず、4面=夫婦別姓に慎重、14面=社説
また、首相は11日夜の別のテレビ番組で、民間の給料を引き上げる政策などを優先し、金融所得課税の見直しは、今年末に議論する2022年度の税制改正で行わない考えを示した。現行の金融所得課税は一律20%で、金融所得の多い富裕層では所得が1億円の人を境に所得税の負担率が下がっている。総裁選の政策集で首相は「金融所得課税の見直しなど『1億円の壁』の打破」を掲げた。
立憲民主党の枝野幸男代表は代表質問で、立憲がまとめた金融所得課税の強化策を主張。そのうえで首相に対し「所信での言及がなく、テレビでは事実上否定してしまった。具体的にどうするのか」と迫った。
首相は「賃上げに向けた税制の強化、下請け対策の強化など、まずやるべきことがたくさんある。分配政策の優先順位が重要だ」と説明。賃上げに積極的な企業への支援強化策の検討から始めるとし、「税制のあり方は政府や与党の税制調査会等の場でご議論頂きたい」と述べた。
政府の新型コロナ対策について、枝野氏から反省点などを問われ、首相は「コロナ病床が十分に稼働しなかったことなど、この夏の反省も踏まえ、近日中に全体像の骨格を(示すことを)指示する」と述べた。
前政権までの「負の遺産」への対応も問われた。
学校法人森友学園への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざんで、枝野氏から再調査するかどうかを問われたが、首相は「財務省が事実を徹底的に調査し、自らの非も認めた調査報告を取りまとめている」とし、「検察の捜査も行われ、結論が出ている」と答弁した。立憲の辻元清美副代表は代表質問で、改ざんに関与させられ自死した近畿財務局職員、赤木俊夫さん(当時54)の妻・雅子さんの再調査を求める手紙を朗読。首相は「内容はしっかり受けとめさせて頂きたい」としたが、「返事等については慎重に対応したい」と述べた。
▼2面=いきなり先送り (時時刻刻)
政策の目玉、いきなり先送り 首相、株価影響考慮か「与党で議論を」
【写真・図版】金融所得課税をめぐる岸田首相の主な発言と株価の動向
岸田政権にとって初めての代表質問が11日始まった。立憲民主党の枝野幸男代表らが質問に立ち、岸田文雄首相が打ち出した「新しい資本主義」をめぐる論戦が行われた。ただ、岸田氏は、格差是正や分配重視の具体策として掲げた「金融所得課税の強化」を先送りしてしまった。野党からは「最初から白旗」との声があがった。▼1面参照
「9年近く続いた安倍・菅政権の経済政策は、株価こそ上げたが、個人消費は冷え込んだままで潜在成長率も低下した。首相はアベノミクスをどう評価し、何を修正するのか」
初対決で、立憲の枝野代表は岸田首相に、安倍政権から続く経済政策「アベノミクス」は失敗だったと突きつけた。
これに対し、首相は「アベノミクスは旧民主党政権の経済苦境から脱し、デフレでない状況を作り出し、GDPを高め雇用を拡大した。経済成長に大きな役割を果たした」と反論した。
枝野氏は、首相の言う「成長と分配の好循環」について、「適正な分配が機能せず、将来不安が広がっていることと相まって成長を阻害している。好循環の出発点は適正な分配にある」と主張、分配よりも成長を優先させる首相の姿勢に異論を唱えた。
首相は「岸田政権は『成長も分配も』が基本スタンス。まず成長を目指すことが極めて重要で、それが民主党政権の失敗から学んだことだ」と切り返した。
ただ、首相の勢いは、分配政策の具体案になるとトーンダウンする。
首相は9月の自民党総裁選で、格差是正や分配政策の目玉として金融所得課税の見直しを打ち出した。高所得者層ほど税金を払う割合が減るという「1億円の壁」の不公平さを「打破する」とも訴えた。ところが、8日の所信表明演説では触れず、10日のテレビ番組では「当面は金融所得課税に触ることは考えていない」と封印してしまった。
枝野氏は代表質問で「金融所得について「いつまでにどうするのか、首相としての方針を具体的に答えて下さい」と問いただした。
首相は「様々な分配政策の選択肢の一つとして挙げてきた」と釈明。「政府や与党の税制調査会の場で議論していただきたい」と述べ、与党に判断を任せる考えを示した。
背景の一つは株式市場の反応だ。総裁選で勝利した9月29日に日経平均は600円超下落した。10月4日に岸田内閣が発足すると3日連続で株価を下げた。
中国経済の先行き不安などの海外要因が大きいとされるが、市場に影響力をもつ海外投資家から金融所得課税強化に前向きな岸田政権が敬遠されたとの見方もある。海外メディアは「岸田ショック」と報じた。
首相周辺は「株価の動向や、マーケットの時価総額の減少が経済に与える影響を考えた。取り組む順序が大事で、目をつぶって突っ込むわけにはいかない」と先送りの理由を解説する。
31日投開票の衆院選を控え、国民に負担を強いる政策は打ち出しづらいとの状況もあった。自民党がまとめた公約の分配政策には、賃上げに積極的な企業への税制支援はあるが、金融所得課税は盛り込まれていない。党内の議論にもほとんど上らなかったという。
首相肝いりの政策が先送りになったことに野党は攻勢を強める。枝野氏の後に質問に立った立憲の辻元清美氏は「格差が広がって若者や女性や子供が苦しんでいる。『もうちょっと税金を払ってください』と国民を説得するのが首相の役目。最初から1週間で白旗あげてどうするんですか」と疑問を投げかけた。(吉川真布)
■中間層へ分配、借金頼み
金融所得課税の見直しを当面封印したことで、首相がめざす「新しい資本主義」の中身は、ますますあいまいになった。金融所得への課税強化は、「1億円の壁」を解消し、格差是正をめざす象徴的な政策と受け止められていたからだ。
コロナ禍で落ち込んだ景気を支えるため、各国が行った大規模な金融緩和は世界的な株高をもたらし、金融資産を持つ富裕層はますます豊かになったが、株の売却益などの金融所得にかかる税金の税率は一律20%(所得税15%、住民税5%)にとどまる。会社員の給与などにかかる税金の税率は地方税の住民税を含めて最大55%まで上がるのに比べるとかなり低い。このため、比較的金融所得が多い富裕層ほど、実質的な税負担が軽くなり、格差拡大につながると批判されてきた。
「見直しの必要だけなら、これまでの自民党政権でも6年前から言ってきた」。枝野氏が代表質問でそう指摘したように、与党の税制調査会でも見直しは検討課題とされてきた。だが、株価を重視する安倍・菅政権下では実現しなかった。それだけに、実現すれば、従来路線の転換を印象づける政策にもなり得たが、いきなり自ら先送りとし、経済政策の独自色は見えなくなっている。
金融所得課税の見直しは、首相が総裁選時に訴えた数少ない歳入増策の一つでもあった。首相は、子育て世帯の住居費や教育費への支援強化など中間層への分配を手厚くすることを経済政策の根幹に据える。こうした分配を行うには多額のお金が必要だ。仮に金融所得課税の税率を10%引き上げれば、税収が数千億円ほど増えるともいわれる。だが、当面は見込めず、財源は政府の借金である国債に一層頼らざるを得なくなる。
首相は代表質問で「分配政策の優先順位、これが重要だ」と強調。まずは、賃上げをした企業への税制優遇などを先行させる考えを示す。こうした施策で所得を増やし、消費を盛り上げ、次の成長につなげる。そんな「成長と分配の好循環」を実現するシナリオを描くが、掲げる分配政策には、安倍・菅政権下にも実施されているものが目立つ。その延長線上で、国債に頼った分配を増やすだけでは、次の成長にはつながりにくく、借金を増やすだけになりかねない。(伊沢友之)
▼3面=見解変わらず
「負の遺産」具体策語らず 甘利氏問題・改ざん再調査… 首相、従来見解繰り返す
【写真・図版】岸田首相 「負の遺産」への対応問われ、代表質問でどう答えた?
11日にあった衆院代表質問では、甘利明・自民党幹事長の過去の「政治とカネ」の問題や、公文書改ざんなど安倍、菅両政権下の「負の遺産」への対応が問われたが、岸田文雄首相は具体策は語らず受け流した。「信頼と共感を得られる政治」を掲げる首相に、疑惑や疑念の解消に向き合う姿勢はうかがえない。
立憲民主党の辻元清美氏は前政権までの負の遺産について、首相の対応を続けざまにただした。まず問うたのは、2016年に政治とカネの問題で閣僚を辞任した甘利氏の問題だ。
「大臣室で大臣が、事業者などから現金を受け取る行為を岸田内閣では認めるのか」。そう切り出した辻元氏は、自らが02年に秘書給与の流用問題で議員辞職した過去に言及。「議員辞職後に、自民党の強い求めに応じて私は予算委員会の参考人招致に応じた」と述べたうえで、首相に「甘利幹事長に政治倫理審査会で説明するよう指示していただかなければならない」と迫った。
森友学園をめぐる財務省による公文書改ざんでも、再調査するかどうか重ねて首相の見解をただした。
辻元氏は、改ざんに関与させられ自死した近畿財務局職員の赤木俊夫さんの妻、雅子さんが首相宛てに出した再調査を求める手紙を紹介。「夫は改ざんや書き換えをやるべきではないと本省に訴えていた」「正しいことが正しいと言えない社会はおかしいと思います」。そんな雅子さんの言葉を首相にぶつけ、「ご自分の言葉で誠実に答えて下さい」と求めた。雅子さんは、議場でこの日の質疑を傍聴していた。
これらの問いに対する首相の説明は、いずれも従来の見解の繰り返しだった。
「国民の信頼と共感を最優先する政治姿勢を堅持し、丁寧な対話を積み重ねる」。そんな姿勢の必要性を語ったが、各論になると途端に具体性を欠いた。
甘利氏の問題については「説明責任のあり方は政治家自身が自ら判断すべきものだ」と深入りを避け、政倫審の説明についても「国会で決めることだ」などと語るのみだった。
公文書改ざんの再調査には「(雅子さんの手紙の)内容はしっかりと受け止めたい」としつつ、「民事訴訟で法的プロセスに委ねられている」ことなどを理由に「返事等については慎重に対応したい」などと返答。再調査の有無については、この日も明確にしなかった。
代表質問では、日本学術会議の会員任命拒否問題や、参院選広島選挙区で自民党本部が河井案里氏側に提供した1億5千万円をめぐる問題も取り上げられた。これにも首相は、菅前政権の見解などをなぞり、岸田政権として真相解明や信頼回復にどう臨むのかを具体的に語ることはなかった。
代表質問後、雅子さんは俊夫さんの遺影を手に記者団の取材に応じた。「岸田首相なら受け止めてくれると期待していたが、残念だった。話を聞くのが得意とおっしゃっていたので、きっと考えが変わる時が来るんじゃないかと思う」と話した。(三輪さち子)
▼4面=夫婦別姓に慎重
夫婦別姓、トーンダウン 岸田首相「議論すべき」どまり
衆院本会議で、代表質問への答弁に臨む岸田文雄首相=11日午後、上田幸一撮影 選択的夫婦別姓制度の導入について、岸田文雄首相は11日、衆院本会議での代表質問で「国民の間に様々な意見がある。引き続きしっかりと議論すべき問題だ」と述べた。就任前には導入に向けた議論に前向きな立場を示すこともあったが、慎重な言いぶりが際立った。▼1面参照
立憲民主党の枝野幸男代表が制度実現をめざす考えを示したうえで、「大部分が女性である、婚姻の一方当事者に改姓を強いる、という差別的な制度を急いで改める必要を感じないか」と質問した。これに対し、首相は「議論すべき問題」とするのみで、方向性を示すことはなかった。
首相就任前は導入に前向きな姿勢を示すこともあった。3月には記者団に「多様性を尊重する、個性を大事にするといった観点からも議論を前向きに進めることは大事なのではないか」と発言。さらに、同月に発足した自民党有志でつくる「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」には、呼びかけ人として野田聖子・少子化相らとともに名を連ねた。
だが、総裁選では「実際に困っている方々がいる」としつつも、「家族の一体感などの観点から、もう少し議論を続ける必要がある」として、慎重姿勢を強めていた。
導入賛成派の自民党のベテラン議員は、慎重派の高市早苗氏が政調会長に就いたことを踏まえて、「反対の立場の人たちが岸田さんの周りには多いので、言えなかったのではないか」と解説した。(野平悠一)
▼14面=社説
国会代表質問 「違い」見えぬ首相答弁
「丁寧な説明」とは、単に口調を指すものではない。厳しい質問にも真摯(しんし)に向き合い、お定まりの答弁で受け流すのではなく、情理を尽くした内容を伴わねばならない。これでは、説明責任に対する姿勢も、政策の中身も、菅前首相や安倍元首相との違いは見えてこない。
岸田首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が始まった。衆院選前、首相の最初で最後の国会論戦である。質問1回答弁1回の一方通行だが、「丁寧な説明」を掲げる首相が、安倍・菅政権の反省のうえに、自らがめざす政治をどう語るかに注目したが、肩すかしだった。
「新しい日本型資本主義」を看板とする首相は、「成長」の意義も忘れてはいないが、従来より「分配」を重視しているのは明らかだろう。しかし、「分配なくして成長なし」という立憲民主党の枝野幸男代表に対して強調したのは、アベノミクスの成果だった。
岸田政権の経済政策としてまず挙げた「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の推進」は、アベノミクスの三本の矢そのもの。分配政策として総裁選で公約した金融所得課税の見直しは「選択肢のひとつ」に後退した。「民主党政権の失敗」から学んだという言いぶりは、「悪夢」と決めつけて批判を繰り返した安倍氏の答弁を思い起こさせる。
枝野氏はまた、被爆地・広島が地元の首相に対し、核兵器禁止条約の締結国会議へのオブザーバー参加を迫った。首相は「出口」としての条約の重要性は認めながら、核保有国の協力が必要だとして、関与を求める努力の必要性を指摘するにとどめた。所信で「核兵器のない世界」に向け全力を尽くすと宣言しながら、従来の政府方針から踏み込めないのは情けない。
安倍・菅政権の「負の遺産」を清算する意思も意欲も感じられなかった。現金授受疑惑を抱える甘利明幹事長の説明責任については「政治家が自ら判断すべきもの」。野党が求める政治倫理審査会への出席は「国会でお決めになること」。安倍、菅両首相が頻繁に使った逃げ口上と同じではないか。
森友学園をめぐる公文書改ざんでは、「結論が出ている」として再調査を否定。自民党が河井案里氏側に渡した1億5千万円の使途についても、党本部としてチェックする考えはないとした。日本学術会議の会員候補6人の任命拒否も「当時の首相が最終判断し、一連の手続きは終了した」とにべもなかった。
総裁選の際に語った「民主主義の危機」という認識は一体何だったのか。これでは政治への信頼回復はおぼつかない。
▼追記 =2021年10月10日の社説
学術会議問題 任命して関係再構築を
菅前首相が、日本学術会議が推薦した会員候補6人を任命しなかったことが明らかになってから、1年が過ぎた。
安倍政権時代の政策に批判的な発言をしたことが原因とみられたが、菅氏は理由を説明しなかった。以来、会議と政府の関係はこじれたままで、その再構築が大きな課題になっている。岸田首相は前政権の過ちを認め、この異常事態に終止符を打たなければならない。
振り返れば、この問題が菅氏の最初のつまずきだった。
推薦された者をそのまま任命するという従来の国会答弁を踏みにじり、「総合的、俯瞰(ふかん)的に判断した」と繰り返す。批判が収まらないとみるや問題をすり替え、政府与党一体となって学術会議の改組を唱える――。
強権的で説明責任を果たさない体質は、その後のコロナ対策をめぐっても表面化した。政治と国民の間に深い溝を刻み、菅氏は退陣に追いこまれた。
学術会議の梶田隆章会長は先月末に所感を発表。政府のこれまでの対応は受け入れられないと改めて表明し、社会の課題に取り組むためにも任命問題の解決が重要だと述べた。
自民党総裁選で岸田氏は、各省に「科学技術顧問」を置く考えを示した。感染症対策や気候変動への対処をはじめ、解決困難なテーマが山積するなか、専門家の知見を政策に生かそうとする姿勢は大切なことだ。
自然科学に限らず、社会・人文科学の蓄積も活用しなければならないが、なかには政権の方針に沿わない見解も当然あるだろう。そうした異論にも耳を傾け、分野や立場の違いを超えた多角的な検討を経た先に、求める答えはある。官邸の力が過度に強まり、官僚の萎縮が進むいま、外部の目が果たす役割は重要さを増している。
今年のノーベル物理学賞を受ける真鍋淑郎さんは、かつて日本政府の研究プロジェクトを率いた経験がある。受賞が決まった後の会見で「日本は政策決定者と科学者が互いにどうコミュニケーションを取り合うか、もっと考えなければならない」と苦言を呈した。
朝日新聞は社説で、任命拒否は学術全般への圧力に他ならず、学問の自由を脅かし、民主主義の根幹を揺るがす問題だと繰り返し指摘してきた。総裁選で見解を問われた岸田氏は「人事をひっくり返すことは考えていない」と述べた。それでは、独善に走って失敗した前政権の轍(てつ)を踏むだけだ。
まず6人を任命して学者らを代表する学術会議との関係を修復し、多様な意見にしっかり耳を傾ける。首相の「聞く力」は本物か、国民は注視している。
とんでもない方向へ舵を切った岸田首相
2021/10/13
自民公約、力での対抗重視
防衛費「GDP比2%以上も念頭」
財政規律確保の文言、消える
【写真・図版】自民党公約の2019年参院選公約との主な違い
自民党は12日、衆院選の政権公約を発表した。安倍政権時代に比べ、軍備増強を図る中国や北朝鮮を念頭に、力による対抗策に重きをおいた安全保障政策を打ち出し、岸田文雄首相が唱える分配重視の経済政策を掲げた一方、財政規律への目配りには欠けた内容だ。選択的夫婦別姓制度をめぐっては「国民の声や時代の変化」を受け止めるとの表現にとどまった。▼2面=名門派閥の理念封印
公約のキャッチフレーズは「新しい時代を皆さんとともに」。 感染症対策や経済安全保障、教育、憲法改正など八つの重点事項で構成されている。
安全保障分野では、海警部隊に武器使用を認めた中国の海警法に触れ、海上保安庁の体制拡充と自衛隊との連携強化を明記。「敵基地攻撃能力」との文言はないものの、「相手領域内」での弾道ミサイルなどを阻止する能力の保有を含めて、抑止力向上の新たな取り組みを進めるとした。
さらに、2022年度から防衛力を大幅に強化するとし、新たな国家安全保障戦略や防衛大綱を策定すると説明。これまで対国内総生産(GDP)の1%以内におおむね抑えられてきた防衛費について、「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」と踏み込んだ。
いずれも直近の国政選挙となる安倍政権下の19年参院選時の公約に比べ、中国などの脅威に対し、軍事力で対抗する姿勢が強まっている。党総裁選で安倍晋三元首相が支援した高市早苗政調会長の主張がにじむ内容といえる。
経済政策では、「新しい資本主義」を掲げ、分配政策による分厚い中間層の再構築をうたった。そのうえで、「財政の単年度主義の弊害是正」を打ち出し、国家的な課題に中長期的に取り組むと主張。19年参院選で掲げた「財政再建を着実に実行」「25年度の基礎的財政収支の黒字化」といった財政規律を確保する文言は盛り込まれていない。
選択的夫婦別姓制度については「氏を改めることによる不利益に関する国民の声や時代の変化を受け止め、その不利益を更に解消し、もって国民一人ひとりの活躍を推進する」との記述にとどまった。案段階では「氏制度のあり方についてさらなる検討」とも記されていたが、採用されなかった。記者会見した高市氏は、旧姓使用のさらなる拡大への意欲を語ったうえで、「公約が後退したということでは決してない」と説明した。(楢崎貴司)
▼2面=名門派閥の理念封印 (岸田文雄研究)
敵基地攻撃能力・憲法9条改正、前向きに
平和主義、名門派閥の理念封印
12日に参院で行われた代表質問で、立憲民主党幹事長の福山哲郎が取り上げたのは、敵の基地や拠点を直接破壊する敵基地攻撃能力の保有だった。コストや実現可能性のほか、「先制攻撃と見なされる恐れがある」点をただした。憲法違反につながりかねないという批判を踏まえたものだった。
首相の岸田文雄は「(弾道ミサイルに対する)迎撃能力を向上させるだけで、本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのかといった問題意識を持っている」としたうえで、「様々な観点から検討していきたい」と語った。
総裁選でも岸田は保有を「有力な選択肢」と発言。踏み込んだと注目されたのは、岸田が自民党の名門派閥「宏池会」のトップだからだ。
先月30日、東京・永田町にある宏池会事務所では、岸田を所属議員が拍手で出迎えた。前日の党総裁選で勝利し、第100代の首相就任を間近に控えていた。
「30年ぶりに宏池会政権が誕生した」
事務総長代行の三ツ矢憲生のこんなあいさつを、岸田は「30年の歴史の重みを感じると同時に、総裁派閥になったことの責任の大きさをかみしめなければならない」と引き取った。
宏池会は、終戦直後の吉田茂元首相の「軽武装・経済重視」政策を引き継ぎ、池田勇人元首相が創設した党内最古参の「ハト派」派閥。大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一とこれまで4人の首相を輩出した。9代目会長の岸田は派閥ホームページに戦前の反省を踏まえ、「リベラルな社会作りを目指す集団としてスタートした」と紹介している。
先代の古賀誠が、自著で「宏池会という政策集団は、9条を守ろうという志を持ってきた」と記すように、平和主義が派閥のカラーだ。
だが、今回の総裁選での岸田の訴えからはその色が抜け落ちていた。政調会長時代にまとめられた9条への自衛隊明記を含む党の「改憲4項目」を掲げ、「総裁任期中にめどはつけたい」と明言。敵基地攻撃能力の保有の検討にも積極姿勢を見せたからだ。
三ツ矢が、岸田の変化を感じ取ったのは今年3月。
「自分は発信力がないとされている。ある人に相談したら、『これをやった方がいい』と言われた」
岸田はこう打ち明け、助言に従って、敵基地攻撃能力の保有と海上保安庁の役割強化のための法改正に関するメッセージを発信したいと三ツ矢に告げた。文案にあった「敵基地攻撃」の文字を見て、三ツ矢は「これは宏池会の理念にそぐわない」といさめた。「ある人とは安倍(晋三)さんか」と聞くと、岸田は「直接ではないんだが……」と言葉を濁したという。
宏池会メンバーに説明するよう勧めたが、岸田は直後、自身のツイッターに「敵のミサイル発射能力そのものを直接打撃し、減衰させることができる能力を保有することが必要」と投稿。「敵基地」の文言はなくなったが、保有への賛意は明確だった。
敵基地攻撃能力の保有は、安倍が昨年9月の首相退陣直前の談話で「今年末までにあるべき方策を示す」と次期政権に検討を促した「置き土産」。昨年の総裁選では、政権継承を掲げて勝利することになる菅義偉が「我が国の防衛に空白を生むことはあってはならない」と前向きだったが、岸田は「実際のところ、専守防衛、平和憲法との関係で現実的な対応ができるのかどうか。こういった観点から、しっかり議論を進めていく」と慎重な考えをにじませた。
菅政権下では実質的には動かなかったが、今回の総裁選でも再び争点に。河野太郎や野田聖子が慎重論を唱える一方で、安倍の支援を受けた高市早苗が「敵基地の無力化」を説き、岸田も検討の必要性を唱える側に回った。
■「手段」か「変節」か
安倍が自衛隊明記の9条改正を訴え、20年に新憲法施行をめざす考えを示したのは17年5月。安倍内閣の外相だった岸田はその翌月、自衛隊は現憲法でも合憲で「9条改正は考えない」と言い切り、「(安全保障法制で)結論が出たとたんに平和憲法そのもの、9条を変えるとなれば、話は振り出しじゃないか」と強調していた。
その後も「(安倍)首相は保守、あえて言えばタカ派。私はリベラル、ハト派」と語るなど、自主憲法制定を強く主張するタカ派の系譜に連なる派閥「清和政策研究会」(細田派)出身の安倍とは、一線を画していた。
それから4年余り。今回の総裁選では、改憲4項目の実現をめざす姿勢を明確にした。討論会などでは宏池会の理念に触れつつも、「特定の理念やイデオロギーに左右されない、徹底した現実主義こそ宏池会の本質だ」と、「現実主義」を強調するようになった。
岸田は河野との決選投票で、3位の高市の支持票を上積みして勝利した。岸田、高市両陣営の「連合」の結果だった。敗れた高市だが、安倍も駆けつけた自身の陣営の報告会で「(岸田政権には)私たちの声も大きく反映されると思っている」とあいさつした。そして、政策づくりの要となる政調会長に就任した。
路線に開きのあるグループによる、一見奇妙な共闘。岸田派の閣僚経験者は「敵の敵は味方。まずは権力を取らなければ仕方がない。権力を握った後、距離をとればいい。9条をいじる必要はない」と語る。
「リベラル封印」に見える岸田の主張は、宏池会政権復活の「手段」なのか、それとも現実主義という名の「変節」なのか。見極めるカギが敵基地攻撃、改憲への対応になりそうだ。
古賀は9日放送のテレビ番組で、岸田の総裁選での主張に「正直驚いた」と振り返った。安倍やその盟友の麻生太郎が岸田政権誕生を後押ししたことを認めつつも、クギを刺した。
「いつまでも、その人たちの言い分を聞いていかなきゃいけないのであれば、本末転倒だ」(敬称略) (編集委員 佐藤武嗣)
2021年10月13日 (天声人語) 時事問題として大切な見解
最低賃金の経済学
「多数の失業者は無慈悲な生存の問題に直面している。そしてそれと同じくらいの多数の人々が、少額の収入で苦しんでいる」。1930年代初めの大恐慌の時代、米大統領ルーズベルトが発した言葉である。事態を打開すべく始めたのがニューディール政策だ
▼失業者に仕事を与えるため、ダム開発など公共事業を進めた。収入のほうは合衆国としての最低賃金を定めることにした。製造業の時間あたり収入は3割伸びたという(藤本武著『最低賃金制』)
▼欧米の国々では20世紀前半、最低賃金の制度が導入された。しかし長い間、経済学者たちからは批判されてばかりだった。最低賃金が上がれば企業は人を雇う意欲を失い、雇用そのものが減るとの主張だった
▼それに挑戦したのが、今年のノーベル経済学賞に選ばれたデビッド・カード氏である。1990年代に米国の二つの州でファストフード店を調査し、最低賃金の上昇が必ずしも雇用の減少につながらないとの結果を得た
▼最初は人々に受け入れられず、数字の操作も疑われたほどだったと英BBCに語っている。やがて多くの研究が後に続き、最低賃金への批判は和らいでいった。米国のいくつかの州ではここ数年、時給を15ドル(1700円)まで上げ、働く人に報いる動きが出ている。その水準まではいかないが、日本でも引き上げが続いてきた
▼ノーベル平和賞は言論の危機を、物理学賞は気候の危機を映し出した。そして経済学賞は所得格差の問題に光をあてた。
下平評
2021/10/12
我がまま勝手の個人主義 と 世界のグローバル化
このところの岸田新総理を迎えた日本の政治の動向を見ていると、「国の安全とか国民の幸福」とか体(テイ)のいい未熟な作文そのままの現実としか目に映らない。 世界の平和と温かい思いやりの心など少しも感じられない。
アメリカの手前勝手な個人主義に迎合した、その場限りの指導者の椅子取りゲームのように思えます。 これは言い過ぎでしょうけれど、国民という普通感情を持って暮らしている者にとっては、国民の信託者とは目に映りません。
世界は地球規模の温暖化を抱え、細菌の世界規模に直面しているのに、金儲けという「死の商人」の金融末路を目の前にして何を考えたらいいのか困っているというのに………この現実をどうすべきかの課題、これこそいのちのが直面している課題です。 私はそう思っています。
世界の平和とそのこころに取り組むための政策を、その知恵を見つけてほしい。
一つの試みは、「和やかな家庭」その複数が「和やかな世界」となる原則を基調としてほしい。 私は戦争の体験者であり、学ぶことが心の平和の条件だと思っています。 辿りついたのが、命を大事に伝えていくことだったのです。 それがいのちの願いだと理解したからです。 花も虫も鳥も木も、同じいのちの恵みによって何千年、何万年も、いのちを伝えてくることができたのです。
2021/10/14 (耕論)
土井隆義さん、 五十嵐衣里さん、 森岡正博さん
親ガチャという「不平等」
【写真・図版】>当たり!?ハズレ!?<イラスト・古家亘>BR>
「親は選べず、親次第で人生が決まってしまう」。そんな人生観を表す「親ガチャ」を巡り、論争がわき起こった。SNSのスラングとされるこの言葉になぜ人々は反応するのか。
■実は親でなく社会の問題 土井隆義さん(社会学者)
親ガチャを巡っては、「自分の努力不足を親のせいにするな」という中高年に対し、若い世代は「分かっていない」と反発しています。
私は、世代間の認識ギャップとして、この問題を理解する必要があると思います。
まず努力の認識が世代によって違います。日本経済が大きく成長していた1990年代までを体感した中高年は、進学・就職・昇進などで自分のなした努力以上のリターンを得ることができた。一方、30代以下は経済成長率が1%台の世界を生きてきた世代です。努力しても、そのリターンは小さなものになっている。「人生は努力する価値がある」と言われても、「努力して成果があるのか」と疑念が先に立ってしまうのです。
親ガチャという言葉のイメージのギャップもあります。子どもに「親ガチャに外れた」と言われたら、親は子育ての責任を非難されたと感じて不愉快でしょう。でも、多くの若い人は責任追及のつもりでは使っていません。ガチャの元々の意味と同じで、運と諦観(ていかん)しているにすぎない。クジに外れたからと、「クジの責任だ!」とは言わない。淡々と受け入れるだけです。
ただ、双六(すごろく)ゲームのようにこれからの人生が運によって決まるのではなく、生まれついた属性によって既に規定されていると感じている点で、宿命論的と言えます。右肩上がりの経済成長がほとんどない、平原のような社会を歩んできた若年層にとっては、特異な人生観ではありません。
「親ガチャに外れた」と言う言葉を、会話の潤滑油として使う人もいれば、児童虐待に苦しむ人が深刻に使うケースもあります。本当に不幸だと認識しているかどうかは、ケース・バイ・ケースです。
断絶は世代間だけでなく、世代内にも存在します。経済的に豊かな家庭に育った若者と、そうでない若者との関係の分断から来る断絶です。前者は、中高年と同じく「自分の努力不足を親のせいにするな」と、親ガチャが「外れた」という若者を批判しがちです。でも、努力しようという意欲もまた環境によって育まれる面があることを見落としてはなりません。
私は、親ガチャという言葉で自分の境遇を憂える若者にも、認識上の錯誤があると考えます。格差は私たちが作る社会制度によって解消されるべきものだからです。社会の問題を、個々の家庭の問題にすり替えてはいけません。
若者自身も、この状況を改善するため、社会に対して声を上げてほしいと思います。すぐに出来ることは、やはり選挙で投票に行くことでしょう。自分の1票が社会を変えうる、とは考えにくいかもしれない。しかし投票は、自分の声を社会に届ける最も手近なチャンスのはずです。(聞き手・稲垣直人)
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どいたかよし 1960年生まれ。筑波大学教授。著書に「『宿命』を生きる若者たち 格差と幸福をつなぐもの」「友だち地獄」など。
■「頑張れば」は呪いの言葉 五十嵐衣里さん(東京都議会議員・弁護士)
いまの日本は、生まれた家庭次第で人生が左右されてしまう「親ガチャ社会」になっている、と感じます。
親の価値観で「女の子は大学に進学する必要はない」と決められてしまったり、親が子どもの将来に無関心だったりするケースを見てきたからです。世帯年収の違いで、子どもの学力に差が出ているという調査結果もあります。
私は、静岡県内の中学を卒業してすぐ社会人になりましたが、「親ガチャ」に外れたというわけではありません。
中学のとき、いじめに遭い、不登校になりました。進学して同じ憂き目にあうくらいなら、早く自立したいと思ったんです。スーパーのレジ打ちやレストラン、トラックの運転手……、様々な職を転々としました。学歴も、お金もなく、苦しい毎日でした。
そんなある日、突然、勤め先をクビになりました。労働基準監督署に相談すると、担当者が会社に指摘してくれて、解雇予告手当を受け取ることができました。
私が言うのと、立場のある人が言うのでは、会社の対応が違いました。それから法律の勉強を始め、大学の夜間主コースや大学院に進み、司法試験に合格しました。
大学の同級生に、両親が外国籍の友人がいました。私より何倍も優秀でしたが、家にお金がなかった。彼はいつも試験でいい点数をとっていたのに、大学院に進んで司法試験を受けるという選択肢がありませんでした。
自分の置かれた境遇を嘆く人に対し、「頑張れば成功できる」と説く人はたくさんいます。私はこの言葉は「呪いの言葉」だと思っています。貧困を生んでいるのは政治や社会なのに、個人に責任を押し付けているからです。
私はたまたま勉強が苦でなく、勉強できる環境も整っていました。でも、環境が整っていない人や、何を頑張ればいいかわからない人もいます。そんな人たちにも、あきらめを強要する言葉です。
「なぜ頑張れないのか」「なぜ勉強していい大学に行かないのか」……。こんな風に、上から目線で、個人に努力を強いる政治家がいるのも事実です。国会議員のほとんどは大卒者。裕福な家庭に生まれ、勉強ができる人が多い。二世や三世議員も多い。環境に恵まれているという前提を自覚しつつも、努力して高学歴を得たから、人の上に立つのにふさわしいと思っているのでしょう。
政治の役割は家庭に恵まれなかった人のために環境を整えることです。必要な知識や技術を身につける学びの場を増やし、金銭的支援もする。多様な経歴や背景を持つ人たちが政治に関わり、それぞれの視点で支援策を提案していければ、「親ガチャ社会」を変えられるはずです。(聞き手・富田洸平)
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いがらしえり 1984年生まれ。大学の夜間主コースなどで学び、30歳で司法試験に合格。2021年に都議会議員に初当選。
■運命と和解して生きよう 森岡正博さん(哲学者)
親ガチャ論の本質は、格差の消えない現実の社会で、どういうふうに自分の運命と「和解」して生きていくか、にあると思います。
これは、決して「不平等を甘んじて受け入れろ」という諦観(ていかん)ではありません。
たとえば、あなたが大学受験に挑戦し、第1志望の大学に合格できなかったとします。「受験に勝ったか、負けたか」を問われたら、負けたと思うでしょう。「予備校の授業をたくさん受けるだけの教育投資をできるくらい親が裕福だったら……」と悔しがるかもしれません。
でも、受験では失敗したとしても、進学先の大学ではさまざまな新しい学びや出会いがあるでしょう。「自分なりに頑張ってきたことが実った」「誰かと心が通じて幸せだ」と感じる瞬間がきっとあるはずです。
さて、あなたの人生は本当に「負け」でしょうか? 「いや、勝ち負けで測るなんて意味のないことだ」と言い返したくなる部分がきっとあるのではないでしょうか。
人生には常に、偶然と必然の両面があります。未来は開かれており、自らの自由意志で未来を作っていける。これが偶然の側面です。一方、現実には思うように未来を切り開けないまま、「これも運命だったのか」と諦めることも多い。必然の側面です。
しかし私たちはこのつらい運命と和解して生きることもできます。どんな出来事もかけがえのないピースとして自分の人生に組み込んでいくのです。時間はかかるが、不可能ではない。
たしかに個別の局面で勝ちや負けはあります。しかし、それらをくぐり抜けて続く「人生の全体」を考えれば、勝ちも負けもないのです。
「親ガチャ」という言葉の根本にあるのは、「他の人生があり得たかもしれないのに、現実はそうはなっていない」というやるせなさです。
でも、人は「私の人生」しか生きたことがないわけです。他の誰かの人生と比較することはできません。「人生は勝ち負けなんかでは語れない」。こんな直観を実は多くの人が共有していたから、親ガチャ論争がわき起こったのではないでしょうか。
いまの日本では、「平等な個人」という理念が風前のともしびになっています。権力者である政治家の多くが世襲だったり、お金持ちの子どもがお金持ちになったり……。
このままではいけない。どんな親から生まれても、個人の努力で未来を切り開ける社会にする必要がある。これが、親ガチャ論の不満に対する正しい答えです。もちろん私たちは、こんな社会を一朝一夕で実現するのが難しいことも知っています。ならば、みんなで協力して残酷な格差社会の現実を変えていきましょう。(聞き手・高久潤)
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もりおかまさひろ 1958年生まれ。早稲田大学教授。専門は現代哲学。著書に「生まれてこないほうが良かったのか?」など。
※ 親ガチャとは
親ガチャの意味とは、子供は親を選べないという意味です。
親ガチャとは?当たりハズレのランクと人生の成功失敗
www.spicomi.net/media/articles/3378
子供はどの家庭に生まれるかによって人生が大きく左右されます
親ガチャという言葉の語源は、ソーシャルゲームのガチャから来ています。
下平評
この公論は読んでみると、確かに若者の考えの通りだと思います。
私もそう思います。
だからこそ、子育てについての親学を学ぶ必要があるのです。 3~4才までは家庭環境に100%影響をもつ家庭環境のために宿業教育としての学びを結婚した人は学ばなくてはならないと私は主張しているのです。