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続折々の記 2022 ④
【心に浮かぶよしなしごと】
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【 07 】05/18~ 【 08 】05/26~ 【 09 】06/04~
――――――――――――――――――――――――――――――
【 06 】05/18
【 04 】05/15~ と【 05 】05/16~ から
人:人=国:国の原則が踏みにじられている 普通人の感情は合理的
人:人=国:国 この原則が踏みにじられているのは何故か、それが問題の根幹にあると私は思う。
【 04 】05/15~ と【 05 】05/16~ 、この二つの内容についての私見をまとめておきたい。
今日は5月19日です。 今朝の新聞第一面を見ると、次の報道が載っている。
ロシア、捕虜交換拒む動き 製鉄所の兵、念頭か 法案準備
北欧2国が同時申請 トルコは消極姿勢 NATO加盟
GDP2期ぶりマイナス 年1.0%減、オミクロン株響く 1~3月期
(復帰50年 基地はなぜ動かないのか:4)基地の歴史、本土で考える
(天声人語)兵士よ、君は人間だ
米主導IPEF、日本で発足表明 バイデン大統領、22日に来日 4面
小説家・寂聴、最期まで書く意欲 17年密着取材、監督が見た素顔 24面
人:人=国:国 この原則
こんな表現では何のことやらわからない。 単数:複数という表現とか、ロシア:アメリカなら、およその察しはつく。 それでもまだ意味内容は模糊としている。
実は自分のホームページの表書きで
高校でも大学でも、親子の絆がどう結ばれるのか、知徳体ことに知的
発達はどのように仕組まれているのか、全く教育されていません。―
この事実に直面し「このままではいけない」という思いを痛烈に感じ
0歳教育を立ち上げることにした。物質文化はますます高度化して夢はひろがるのに、精神文化は影をおとし続け、絆の希薄さもてつだって心の孤立化はますます進みました。 このような世情の移り変わりを見てきて、わたしたちは知性を豊かにし、人柄をみがき、健康に気をつけて、 『真理(合理的なほんとうのこと)』 を求めなくてはならないと思います。
日常の生活は、そのためのエネルギー燃焼にしたいものです。 今更、漱石を引き合いにだすまでもなく、金と名誉と異性を求めず、まっとうな 『真理』 を求めたい。
この表現は60才ころのことでした。 でもこの内容は、それまでの生活実態をまとめるつもりでした。 そしてその後も大きな変化はなく過ごしてきました。 真理とは合理的なほんとうのことの意味としてとらえ、生活に即してきたつもりでした。
いまはどこの国でも一人の自由と権利を保障することを表明しています。 実体は多少の相違はあるにせよ民主主義を標榜しているのです。 この民主主義というのは選挙制度の使われているにせよ、本来は一人ひとりの自由と権利を大事にすることを願って使われるものであることは承知し、その実現を大事な方向としなければならないと私は思っています。 このことは誰にしても異存はないと思います。
この大事な一線を絶えず尊重しなければ、民主主義とか自由や権利の保障の考えは崩れてしまいます。 民主の言葉にはこうした意味が基底になっていると考えなくてはならない。 私はそう理解しています。 間違いありませんね。
この理解に立って、人と人の立場のあり方が成り立っていると私は考えているのです。 それは日本人にしても、ロシア人にしてもアメリカ人にしても、ウクライナ人にしても、同じように自由や権利は尊重しなければならないことに相違ないのです。
この意味において、西田哲学の「一即多」が成立しそれはすべてにおいて可能だという確信になっていると言えます。 お釈迦さまの説く煩悩を乗りこえた立場も理解できるのです。 親鸞の教えの考え方を「歎異抄をひらく」で見ますと
善人なおもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや
これは「歎異抄」三章の一節ですが師事していた唯円はこう説(ト)いています。
ひそかに愚案を廻らして、ほぼ古今を勘うるに、
先師の口伝の真信に異なることを歎き、後学相続
の疑惑あることを思うに、幸いに有縁の知識によ
らずば、いかでか易行の一門に入ることを得んや。
まったく自見の覚悟をもって、他力の宗旨を乱る
ことなかれ。
よって故親鸞聖人の御物語の趣、耳の底に留むる
所、いささかこれを註す。ひとえに同心行者の不
審散ぜんがためなり。
師の教えについて「耳の底に留むる所、いささかこれを註す」として真実は合理的に理解することを最も大切にしていた、と私は思っています。
「人が人を殺す、これは通常のことではない」
あの「ハムレット」の独白で忘れ得ない言葉として、「 to be or not to be 」‘生かすべきものか、否か’の有名な言葉として記憶している。 生と死それは普通、人の生涯を表わした言葉であり、シェイクスピアの叔父に対する苦悩の言葉であった。 to be beは繋辞用法と自動詞としての存在用法があり、ここでは自動詞の不定詞用法だから、存在すべき~の意味て受け取り、叔父への復讐をすべきか否かの苦悩表現であったと思うのです。
普通に生か死かと若い時には教わったと思っていた。 だが、叔父が尊父を殺害したことを扱った文学の内容である。
そうかと思えば、蜘蛛一匹を踏みつけなかった犍陀多は、地獄へつるつると下がってきた蜘蛛の糸で助かりそうになったのに、再び凡欲のために地獄へ落ちていったと芥川は作品でとり扱っています。 釈迦さまは蓮池で見られたこの様子を見て、黙って立ち去ったと表現していました。
人間世界では法律でも重罪としての刑を科しています。
ところがどうでしょうか? 21世紀を迎えてもまだ、政治家は戦争をすることを計画しているのです。 世界中の母親たちはすべて「戦争はいやです」と言っているのにです。
米ロの対立から、「こぞって嫌ともいわず」に先進諸国の指導者も戦争に参加しているのです。 こんな心がけが、人を殺し施設を破壊する戦争に参加しているではありませんか。
こんな不合理がまかり通っているのに、権力に負けて、反対の意思表示すらいえないのです。 どの国でも一人の人としての自由や権利を保障されて、民主主義だと言っているではありませんか。 こんな矛盾が世界に通用しているのです。
この意見に反対する人はないと思います。 でも戦争を認めているのです。 こんな惨めなことって、ほかにありますか?
私はぼつぼつ94才を迎える老人です。 生きる死ぬの実戦にも参加しました。 戦後の平和憲法は喜んで迎えましたし、ユネスコ憲章の冒頭の言葉も心に強く秘めております。
歴史の勉強はこれから進む自分たちのこれからの方向を決める手助けにすることが狙いだということも学びました。 そして学問の大切さや生活の心がけの大切さなども学びました。
善いことは真似ることが自分を磨いていく最上の方法だということも知りました。 モーゼの十戒は親を敬うことであり、いのちの伝承は私たちの大事な願いだということも知りました。
こうした学びの結果、不合理なことはやめて、真理(合理的なほんとうのこと)を求めていくことが人の願いだと知りました。 そしてそうすることが自分の幸せになることだと知りました。
今は5月21日、新聞記事の天声人語には次のようなことが載せてあります。
死にたまふことなかれ(天声人語の表題)
〈戦争が始まった。海で陸で野獣のように殺し合う。安全な場所にいる者が他人をそそのかして戦わせる〉。ロシアの文豪トルストイは日露戦争の開始まもない1904年6月、反戦論を英紙に寄せた
3カ月後、響き合うように与謝野晶子が発表した詩が「君死にたまふことなかれ」である。仲よしの末弟が激戦地の旅順要塞(ようさい)に派遣されると聞く。その身を案じ、どうか戦死だけはしないでと呼びかけた
〈旅順の城はほろぶとも、ほろびずとても、何事ぞ〉。要塞の行く末なぞどうでもいい。〈すめらみことは、戦ひに おほみづからは出(い)でまさね〉。天皇は戦場にはおでましにならないではないか。無事を願う姉の真情がせきを切る
晶子はすさまじい批判を浴びた。「いまでこそ代表的な反戦詩ですが、当時の世論は強硬。逆賊呼ばわりされました」。天理大名誉教授の太田登さん(75)によると、「危険思想」「作者には刑罰を」と文壇から声が上がったという。一方のトルストイも母国では非難され、処罰を求める議論さえあったそうだ
平和への願いは、いつの世もどこの国でも変わるまい。しかしひとたび戦争が始まれば、その声はかき消される。政府が挙国一致をあおり、世論も過熱するからだ。いままさにロシアの国内で起きていることである
晶子が亡くなって今月でちょうど80年。独裁者が戦場に送り込んだ幾万人のロシア兵にも、その身を案じてやまぬ家族はいる。その声は圧殺されて、少しも聞こえてこない。
最近は、特に体の衰えを感じている。 2022/01/05 12:09 という印刷日時と 日野原重明先生の食事|大豆レシチン・胚芽クッキー・オリーブオイル というタイトル https://inedia.jp/hinohara.html というURL の印刷物を食卓の上に家内が目につくように置いてあった。 夫の身を案じてのことかと思い、それに目を通した。 それは、朝起きて身支度した後のことであった。
そのあと新聞を郵便箱から取り出して、1面の記事タイトルと天声人語を読んで上記の記事記事に目をとめたのです。 将に反戦記事そのものでした。
昨日羅列的に書き留めた自分の記事を、もうちょっと気の利いた記事にしなくてはと思っていた矢先のことでした。 体の衰えと自分の願いを残したいという思いが重なっていると思うと、この二つのことに意を注がなくてはと思いました。 そのことで今朝パソコンに向かったのです。
今自分の頭には、私たちが迎える将来のために二つのことがあるのです。 その第一のことが人の道に反しない考え方を身に着けることが文明の没落を防ぐ道であるということが一つです。 もう一つは合理的な真理に支えられた世情の進む方向をみんなで考えるように広めることでした。
① 悲しみの現実
何故こんなことを考えるか、過去の経験から感じているものはいろいろあるのです。 一番悲しかった思い出は、教師になった担任の時に出会った「人のモノを盗む」ことと『ウソを言う」ことの二つでした。
一つの悲しみは「人のモノを盗む」生徒のことでした。 まだ13才になったばかりの中学一年生井口某女は、戦時中は海外だったから引揚者でした。 親は自分の土地はなく借家は山間(ヤマアイ)にある小さな家しかなかったのでしょう。 当時、昭和24は食べ物にも不自由はつきものでした。 しかも他所(ヨソ)で働いてお金を得る状態では大変だったに相違ありません。
親の苦労は計り知れません。 私自身もまだ20才になったばかりで想像だにできませんでした。 その親は他所で働いての帰り道、田んぼの土手に大豆を干してあるその大豆をを小脇に抱えて帰り夕食に食べていたと言います。 これはその家でない近間の家でお聞きしたことなのです。
子供のころから親の元で成長してきた某女は、困ったときに他人(ヒト)の物をわからぬように手に入れることを真似(マネ)るようになっていたのでしょうか。 子供たちによれば小学校時代からそうだったと後で内訳話として聞きました。 一学期の終わりころ、所用で私が放課後のホームルームにいなかったときに、みんなが「井口某女さんは人のものを取るから、仲間はずれにする」こんな約束事をしてしまったのです。
自分がいないときの約束事だったが、事の重大さもあり不問に付していました。 二学期が始まって9月になり、某女から「これから約束するから堪忍してくれるように、皆に諮(ハカッ)ってほしい」と申し込まれ、幸い仲直りできたのです。
ところが、卒業も近い中学三年の3月、昔は生徒会で学用品を昼休みに購買部があって金銭扱いもしていました。 その日に購買部から「お金が足りない」連絡を受け、その日に購買部に来た人にも様子を聞いていて某女にも様子を聞いたのです。 とたんに「疑われた」と泣き崩れてしまい、始末ができなかった。
卒業後6月になると農繁休みがあり、その機会に就職した子供たちの補導激励を兼ねた 職場訪問がありました。 名古屋の起(オコシ)にある繊維工場に就職した井口某女の工場へも行きました。 ところが「某女はやめてどこへ行ったか分からない」と言われ、どうしたのかお聞きすると「友達のものを盗んでおれなくなった」と言われたのです。
大事な教え子なのに、黙って他人の物を持ち去る、昔は泥棒といったのです。 ああ悲しい、私は突き飛ばされた思いでした。 このことは、今も悲しい思いで頭から離れません。
もう一つの出来事は「ウソを言った」ことでした。 「うそを言ってはいけない」パンツもシャツも知っている。 教師たるものは、「生徒のウソを許してはいけない」のです。 何故なのか?
教師は親代わりの責任を委(ユダ)ねられている。 この意識を持っているか否かは、量りようもないにしても親代わりをしているという意識は本来の職責だと思うからです。
始めの例もそうなのですが、ウソは言ってはいけないのは親の願いだと思うからです。
戦後になってから、「マンビキ」という言葉を軽々しく使うようになってしまいました。 ことは重大なのに!
書店でのマンビキ、大規模商店でのマンビキ、…… 。 冗談じゃない! マンビキとは他人(ヒト)のモノを盗むことじゃないか! 子供の教育現場ではことの大小は問わず、マンビキ、泥棒を許してはならないのです!
「ウソは泥棒の始まり」それは昔からの庶民が、大事にしてきた人の心掛けの基底になっていたと思います。 文明の崩壊はここから始まるのです。
二つ目の例は、オートバイに乗ったか乗らなかったのかという問題でした。 単純といえば単純なことなのです。
「乗ったか乗らなかったのか」小学校の校庭で中学生が黙ってオートバイに乗ったことの知らせを受けたのです。 私のクラスの三人だということも電話連絡で知らせてくれました。 学活の時に事の真偽を聞いて注意するつもりだったのに、「乗っていません」と三人はともに答え、適当なことを言われても生徒指導では困るので、電話でその旨をお聞きしました。
電話の応えは、乗ったのは事実で乗らなかった子供の名前まで知らせてくれました。
事の顛末を学活で報告し、真偽を確認したのです。 サイドにわたり乗らなかったと言い張りました。
どうしたものか迷いましたが、乗らなかった少年に聞くと、心中では煩悶したのでしょうが、「乗っているのを見ました」との返答でした。
「前に乗りました」三人とも認めたのです。
「A君、前へ来なさい」「乗ったのですね」「はい」「足を開いて、奥歯を噛みしめなさい」 予科練方式に右手のこぶしで生徒の左頬(ホホ)を一発
「ガッーン!」
続いて、B君、C君
生徒全員「シーン! ……… 」
ウソを言ってはいけない! シャツも知っている! ウソを言ってはいけない! パンツも知っている! ………
私は親代わりだ。 放課後三人の家庭を訪ねて、事の顛末を報告し、今後こうしたことに気を付けてほしい」と指導しました。
② 進歩と退歩の源流は、文明の進歩と退歩に通じる
この二つ目の事例は、教師としてどう直接指導すべきなのでしょうか。 応(コタ)えはいろいろあるでしょう。 暴力はいけないとかいろいろ判断すべき基準はあるでしょう。
でも本当に心をさらけ出してウソの顛末の根底にあるものは、人が侵してはならない根本的な基盤になることを一度は確認すべきなのです。
政治家のウソが世界の人々にとんでもない不幸を与えるとしたら、たとえ小さなウソにしろその功罪は、はかり知ることはできないのです。 二度にわたる世界の大戦争は、悲惨の極を人々に与えました。 それでもまた戦争があちらこちらで起こっているのは何故でしょうか。
プロパガンダの陰に隠れた、虚言とか欺瞞 ……… その中身はウソとダマシに満ちたものであり人間性の破壊に通じ、せっかく築き上げてきた生活文化を崩してしまうことになるのです。
プロパガンダとは、特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為の事である。 通常情報戦、心理戦もしくは宣伝戦、世論戦と和訳され、しばしば大きな政治的意味を持つ。最初にプロパガンダと言う言葉を用いたのは、1622年に設置されたカトリック教会の布教聖省 の名称である。ラテン語の propagareに由来する。
さらに調べるとすれば、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』を開くか、
更に、その中に紹介されている 戦争遂行のためのプロパガンダを見ると、
戦争遂行のためのプロパガンダ
国家が戦争を遂行するためには、国民に戦争以外の選択肢はないことを信じ込ませるために国策プロパガンダが頻繁に行われる。アーサー・ポンソンビーは、第一次世界大戦でイギリス政府が行った戦争プロパガンダを分析して、主張される事に関する10の要素を以下のように導き出した[20]。
1.我々は戦争をしたくはない。
2.しかし敵側が一方的に戦争を望んだ。
3.敵の指導者は悪魔のような人間だ。
4.我々は領土や覇権のためではなく、偉大な使命(大義)のために戦う(正戦論)。
5.我々も誤って犠牲を出すことがある。だが、敵はわざと残虐行為におよんでいる。
6.敵は卑劣な兵器や戦略を用いている。
7.我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大(大本営発表)。
8.芸術家や知識人も、正義の戦いを支持している。
9.我々の大義は、神聖(崇高)なものである(聖戦論)。
10.この正義に疑問を投げかける者は、裏切り者(売国奴、非国民)である。
フランスの歴史家アンヌ・モレリは、この十要素が第一次世界大戦に限らず、あらゆる戦争において共通していることを示した。そして、著書『戦争プロパガンダ10の法則』の序文中で、「私たちは、戦争が終わるたびに自分が騙されていたことに気づき、『もう二度と騙されないぞ』と心に誓うが、再び戦争が始まると、性懲りもなくまた罠にはまってしまう」と指摘している。
ヘルマン・ヴィルヘルム・ゲーリング は、
もちろん、普通の人間は戦争を望まない。(中略)しかし最終的には、政策を決めるのは国の指導者であって、民主主義であれファシスト独裁であれ議会であれ共産主義独裁であれ、国民を戦争に参加させるのは、常に簡単なことだ。(中略)とても単純だ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者を愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張する以外には、何もする必要がない。この方法はどんな国でも有効だ。
ヘルマン・ゲーリング[注釈 1]
ニュルンベルク裁判中、心理分析官
グスタフ・ギルバートに対して
ドイツの軍人、政治家。軍における最終階級は
全ドイツ軍で最高位の国家元帥 (Reichsmarschall)。
ニュルンベルク国際軍事裁判は、
第二次世界大戦において連合国によって行われたドイツの戦争犯罪
を裁く国際軍事裁判である。国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)
の党大会開催地であるニュルンベルクで開かれた。
グスタフ・ギルバートは、
アメリカ合衆国の心理学者、軍人。ニュルンベルク裁判の際に心理分
析官として被告人のナチス幹部たちを観察した人物として知られる。
フリーの国際情勢解説者、田中 宇(たなか・さかい)が、独自の視点で世界を斬る時事問題の分析記事。新聞やテレビを見ても分からないニュースの背景を説明します。無料配信記事と、もっといろいろ詳しく知りたい方のための会員制の配信記事「田中宇プラス」(購読料は6カ月で3000円)があります。以下の記事リストのうち◆がついたものは会員のみ閲覧できます。是非とも次にあるデータを見て、その詳細な解説を読んでください。 今度来たバイデン大統領の対中国の台湾問題に関する発言は、「ウクライナの二の舞」そっくりの魂胆だと私はにらんでいます。
◆左派覇権主義と右派ポピュリズムが戦う米国 (会員の申し込みをすませば、詳細な解説閲覧ができます…以下同じ)
【2022年5月26日】ツイッターなどSNSで言論が統制・歪曲されている新型コロナ、地球温暖化、露中敵視、CRT、米違法移民、似非ジェンダー問題は米国で、いずれも左派覇権主義・民主党が言論統制や歪曲・運動推進に積極的で、右派ポピュリズム・共和党は歪曲に気づいて反対している(露中敵視は共和党も反対してない)。左派は自分たちの歪曲された(似非)運動を「覚醒運動」と呼んでいるが、それが歪曲な似非・妄想だと気づいている右派の方が、実は覚醒している。だがSNSやマスコミでは右派の言論の方が妄想扱いされている。覚醒は妄想で、妄想が覚醒だというジョージ・オーウェル1984型になっている。
複合大戦で露中非米側が米国側に勝つ
【2022年5月25日】米国側は金融崩壊してドルの力が低下していく。人類が日々必要とする石油ガス穀物など資源類の多くは非米側が持っている。資源類のドル建て価格が上昇していく。インフレや食糧難が世界的にひどくなる。インフレ激化や穀物戦争も、ウクライナ複合戦争の一部である。金融も石油ガス穀物も、米露だけでなく全世界を巻き込んでいる。今起きているのは単なる複合戦争でなく「複合世界大戦」、世界が米国側と非米側に二分されて勝敗がついていく「複合大戦」である。
詳しい解説
2022年5月25日 田中 宇
最近、ウクライナ戦争に関して複合戦争(Hybrid War)という言葉をよく目にする。複合戦争は、兵器を使って殺人や破壊をする従来型の戦争と、それ以外の分野の作戦が複合されて勝ち負けが決まっていく戦争、という意味らしい。従来型以外の分野は多種多様で、ひと括りにできない。複合戦争は曖昧な概念だ。そもそも従来型の戦争自体、諜報や傍受、撹乱、プロパガンダなど裾野が広いし、軍事と隣接して外交の分野があるので複合的である。細かい定義は重要でない。今回のウクライナ戦争がとくに複合的かつ世界的な「複合大戦」であるのは、米国と同盟諸国(米国側)がロシアを徹底的に経済制裁し、対抗してロシアが中国やインドなど非米諸国を引っ張り込んで米国側vs非米側の経済対立・世界経済の分裂になっているからだ。 (Escobar: Russia Rewrites The Art Of (Hybrid) War) (The End Of The Unipolar Era)
米国側がロシアをドル決済(SWIFT)から追放し、対抗してロシアは米国側にルーブルで石油ガス代金を払えと要求して対立し、結局ロシアが勝っている。EUは先日、加盟国がロシアにルーブルで払っても対露制裁違反でないと決めた。これまで、ルーブル払いがEUの対露制裁に違反しているのかどうか不透明だった。EU上層部が「違反です」と言った後、イタリアのドラギ首相が「違反じゃない(ようだ)」と宣言する展開もあった。結局EUは、違反でないと決めた。EUの対露制裁は無意味になり、ロシアはEUを打ち負かした。これは今回の複合戦争の一部だ。ロシアのラブロフ外相が5月14日に「米欧(米国側)がロシアに対し、経済制裁など全面的な複合戦争を仕掛けてきている。ロシアは中国やインドと協力してこれを乗り越える」と表明した。露政府は最近、複合戦争という言葉をよく使う。 (EU Gives OK To Pay For Russian Gas In Rubles) (Russia Forges New Partnerships in Face of West's 'Total Hybrid War' - Lavrov)
そもそもEUはロシアの石油ガスに依存しており、その輸入を短期間で止めることは不可能だと開戦前からわかっていた。EUの親分である米国は、2014年から8年もかけて今回のウクライナ戦争の準備をしてロシアに侵攻させたのだから、米国がEUに石油ガスの輸入先をロシア以外に変えさせる戦争準備の時間はたくさんあった。開戦前にたっぷり備蓄することもできた。しかし実際は何の準備も行われず、ドイツは最後までノルドストリーム2を予定通り稼働させようと米国に頼み続けていた。開戦前のEUの石油ガス備蓄の増加も行われず、開戦時の欧州全体の天然ガスの備蓄量は、備蓄可能総量の5%しかなかった(開戦前から米国側に敵視されたガスプロムが欧州への送付を減らし続けたので)。欧州はロシアとの複合戦争において、戦う前から負けていた。米国は、NATOを通じて欧州と戦略を共有し、欧州に戦争準備をさせるべきだったのに、何もしなかった。米NATOの(意図的な)作戦負けである。 (Europe has next to no gas left - Gazprom) (ロシアを制裁できない欧米)
ウクライナ開戦で決定的になった米国側と非米側の対立において、世界の石油ガス鉱物や穀物など資源類の多くは非米側が持っている。米国側はカネだけ持っているが、このカネは大膨張した金融バブルであり、そのバブルはウクライナ戦争と並行して進んでいる米連銀のQE終了・QT(過剰造幣事業の収縮)によってバブル崩壊を引き起こすことが必至になっている。QE終了・QTによって、米国覇権の根幹にあったドルのバブルがこれから劇的に崩壊していくことが予測されたので、プーチンは勝てると気づいてウクライナに侵攻した。プーチンのウクライナ侵攻は最初から世界金融システムの大転換と連動しており、その意味で複合戦争だった。金融面のウクライナ複合戦争は、ロシアが勝つというより、米国側がQE終了・QTによって自滅的に金融崩壊して負けていく。 (来年までにドル崩壊) (Morgan Stanley: We Are About To Find Out The Cost Of Remodeling A Global Economy) (Five Warning Signs The End Of Dollar Hegemony Is Near)
米国側は金融崩壊してドルの力が低下していく。人類が日々必要とする石油ガス穀物など資源類の多くは非米側が持っている。当然ながら、資源類のドル建て価格が上昇していく。インフレや食糧難が世界的にひどくなる。こうした「穀物戦争」の分野も、ウクライナ複合戦争の一部である。金融も石油ガス穀物も、米露だけでなく全世界を巻き込んでいる。今起きているのは単なる複合戦争でなく「複合世界大戦」、世界が米国側と非米側に二分されて勝敗がついていく「複合大戦」である。 (Germany warns of ‘brutal’ global hunger) (現物側が金融側を下克上する)
米国側のマスコミは「世界的な穀倉地帯だったウクライナに侵攻した露軍は、畑を壊したり作付けを妨害した。露軍は穀物を輸出していたウクライナの黒海岸の港湾も封鎖し、世界への穀物輸出を止めた。だから世界は穀物不足で飢餓や食糧暴動になっていく。全部プーチンが悪い」と言っている。しかし、これらは大ウソだ。ウクライナでは今春、昨付け予定地の82.2%において種まきが行われた。なかでも春小麦に関しては、予定地の98%で種まきが行われた。ウクライナの農業は、露軍侵攻後もおおむね平常通りに運営されている。露軍はウクライナ人の犠牲を最小限にするために、農地や農家をできるだけ破壊しないように進軍したと露政府が言ってきたが、それは事実だったと考えられる。米国側のマスコミ権威筋の方がウソつきである。ロシアも今年は穀物が豊作(過去最高の1.3億トン)で、輸出先である中東アフリカ方面の飢餓や暴動を防げるぞとプーチンが言っている。「全部プーチンが悪い」と言っている人々の方が極悪だ。 (Ukraine sows crops on over 80% of planned lands - ministry) (Putin Says Large Russian Grain Harvest to Support Higher Exports)
露軍がオデッサなどウクライナの港を封鎖したから穀物を輸出できないという話もウソだ。ウクライナの港を封鎖したのは、露軍でなくウクライナ軍だ。開戦直後、ウクライナ政府は露軍の上陸を防ぐため、親分である米国に命じられ、オデッサなどの港湾を機雷で封鎖した。ウクライナ自身が、米国に言われるまま、穀物を輸出できないようにしてしまった。「全部プーチンが悪い」と言っている人々の方が極悪だ。米国や新興市場諸国のインフレや物不足はウクライナ開戦前の昨年からの現象で、米国や中国での港湾の滞船とコンテナ流通管理の崩壊などで流通網の詰まりが原因だ。そこにウクライナ戦争による資源の高騰や輸入停止が加わり、抑止不能なインフレ・物不足になっている。 (Russia strikes US missile shipment for Ukraine, blocks world’s grain supply) (Biden proposes to export 20 million tons of Ukrainian grain to stabilize food prices)
インフレ物不足はロシアのせいでないのに、ロシアのせいにされている。この手の戦争プロパガンダも複合戦争の一分野である。悪者にされているロシアは、プロパガンダの複合戦争に負けていることになる。南京大虐殺やホロコースト以来、米英は戦争プロパガンダがとても巧妙だ。しかし「すべてプーチンが悪い」という戦争プロパガンダは、米国側諸国において「プーチン政権を倒すまでロシアからの石油ガス穀物などの輸入を止めるんだ。エネルギー危機や食糧難になっても我慢しよう」という「欲しがりません勝つまでは」政策になっている。「ロシアは間もなく崩壊する」というプロパガンダも流されてきたが、それは大間違いで、プーチン政権は倒れない。この状態が長引くと、米国側はエネルギー危機や食糧難がひどくなって厭戦的な政権に交代したりして負けてしまう。米国側で「すべてプーチンが悪い」というプロパガンダがうまくいくほど、米国側自身が自滅していく。 (ドルはプーチンに潰されたことになる) (ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧)
今回の戦争のプロパガンダのもう一つは「露軍は作戦失敗で負けている」というやつだ。米国側の人々の多くがそれを信じている。先日は、米国でこれまで「露軍は負けてない。順調に勝っている」と言っていた筆頭の元海兵隊員の分析者スコット・リッターが「米国側がウクライナ軍に送った対戦車砲などが戦地に届き、ハルキウなどで露軍の戦車部隊が撃退されて退却している。露軍は負けるかも」と言い出し、やっぱり米軍は負けてるんだ、という話になっている。しかし、戦争状態が長期化した方が米国側の自滅が加速するため、ロシアの政府や軍も、自分たちが負けているという偽情報を流したり放置したりしている。露軍不利説は簡単に信用できない。ウクライナ極右軍が立てこもっていたマリウポリ製鉄所の陥落などを見ると、民間の犠牲を減らすためにゆっくり(一進一退的に)戦争を進めていると言っている露軍の説明が正しい感じがする。 (Scott Ritter’s Switcheroo: “Why I Radically Changed My Overall Assessment”) (ウソだらけのウクライナ戦争)
米中枢のエスタブ権威筋であるNYタイムスやキッシンジャー元国務長官も最近、ロシアが優勢なのでウクライナ政府はクリミアをあきらめるなど譲歩してロシアと和解して戦争を終わらせていくしかないと言い出している。NYタイムスは5月19日の社説で、米国側はもうウクライナでの戦争に勝てないので、限界を認めて現実主義に転じ、ウクライナはロシアと停戦交渉せねばならない、クリミア奪還は無理だと言い出した。キッシンジャーは5月23日にダボス会議で演説し「今後2か月以内にウクライナ戦争を終わらせないとウクライナでの露軍の勝利が確定し、覆すには米露の直接大戦しか手がなくなる。そうなる前にウクライナ政府がロシアに譲歩して停戦するしかない」という趣旨を述べた。軍事や経済など複合戦争の全面で、米国側が勝てる可能性が大幅に減った感じだ。 (New York Times Repudiates Drive for ‘Decisive Military Victory’ in Ukraine, Calls for Peace Negotiations) (Kissinger warns of deadline for Ukraine peace settlement)
米諜報界とバイデン政権は、過激に稚拙にやって意図的に失敗して米覇権を潰して世界を多極化したい隠れ多極主義のネオコン系の勢力が牛耳っている。彼らは敗北や大失敗の誘発を意図的にやっている。負けるとわかっていても戦争状態をやめない。米国側が稚拙に負けて覇権が崩壊していく今後が、まさに彼らの真骨頂になる。米国側がもっと負けて覇権やドルの崩壊が大幅に進んだ後、再びキッシンジャーが出てきて「もう多極化を受け入れるしかない」とリアリストっぽいことを言うのかもしれない。ネオコンとキッシンジャーはボケとツッコミ的な仲間だ。 (米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化)
英独仏豪日など同盟諸国は、隠れ多極主義の米国と無理心中させられていく。独仏は、この戦争が米国側の敗北・覇権崩壊になっていくことを知っているので、ゼレンスキーのウクライナに対露和解をやらせたい。しかし、ゼレンスキーは米中枢を握るネオコン系の言うことしか聞かず、独仏を馬鹿にしている。米中枢は確固たる決意で自滅の道を進んでいるので、同盟諸国がいくら言っても方向転換しない。むしろ同盟諸国に対し、もっとウクライナを軍事支援しろ、ロシアの石油ガスを輸入するなと加圧してくる。米国は、同盟諸国の足抜けを許さない。中立を許さない。そのくせ非米諸国が中立を宣言しても米国は黙認する。同盟諸国は、敗北が決まっている米国の戦争マシンに隷属させられている。同盟諸国は、自由に中立を宣言してロシアの石油ガスを輸入し続けられる非米側の諸国がとてもうらやましい存在に見えてくる。 (中立が許されなくなる世界) (US and UK Split With France and Claim There Is No Exit Ramp for Putin)
米国は、対ロシアだけでなく中国敵視についても複合戦争の形態を採っている。米政府はバイデンの日韓訪問を機に、経済分野の新たな中国敵視協定として「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を作った。米国は、台湾を使った軍事面の中国敵視と、経済面の中国敵視IPEFを絡ませた複合戦争をやっている。経済面の中国包囲網としては、オバマが作ってトランプが離脱して米国抜きで開始されたTPPもある。バイデンは、IPEFなんか作らないでTPPに入ればいいじゃないかという話になるが、TPPに入ると米国は関税を引きげねばならず、米国内で不評になる。IPEFは、関税引き下げがメニューにないので米国内で反対されない。TPPから米国側の諸国間の自由貿易の機能を抜き取り、中国敵視の要素を追加したのがIPEFだ。 (US Announces 13-Nation Indo-Pacific Economic Pact To Counter China's Influence In The Region)
米日豪印韓ASEANのIPEF加盟諸国のうち米印など以外は、中国が主導するRCEP、日豪が主導するTPPにも入っている。それらの諸国はRCEPにも入っているのだから中国敵視をしておらず、むしろ「米中両属」になっている。米国は同盟諸国に対して「ロシアと貿易するな」と言えるが「中国と貿易するな」とはいえない。中国は世界経済にとってとても重要な国なので、対中国貿易を否定できないからだ。IPEFは、バイデン政権の付け焼き刃的な「なんちゃって組織」にすぎない。 (中国と戦争しますか?)
バイデンは東京での岸田首相との共同記者会見で「米国は1つの中国の原則を認めており、それに基づくなら、中国が台湾に軍事侵攻して併合しても米国は認めざるを得ない。だが、もっと根本的に考えるなら、独裁国である中国が民主主義の台湾を武力で併合することは決して許されない。その意味で、中国が台湾に侵攻するなら、米国は軍事力を使って台湾を守りたい」という趣旨と解読できる発言を行った。だがその後、米大統領府は「米国は、1つの中国の原則を支持する姿勢を変えていない」と軌道修正し、バイデン発言を無効にしてしまった。バイデン発言は「言い間違い」として報じられた。 (What's Behind Biden's Resolve to Defend Taiwan Against Beijing?) (Biden "Misspeaks" In Vow To Respond Militarily If China Attacks Taiwan, White House Walks Back)
バイデンはこの9か月間に3回、同様の趣旨の発言を行い、そのたびに大統領府から「言い間違い」とレッテル貼り・訂正されてきた。要するに、大統領がいくら宣言しても、米軍が中国軍に戦争を仕掛けることはない。米国はこれから金融と覇権が崩壊していくのだから、今後ますます中国の敵でなくなる。米国が強い状態で台湾を傘下に入れ、中国が台湾を武力で併合できない事態が作られる可能性は今後さらに減る。台湾に兵器を供給する国もなくなって、台湾は防衛力が低下し、交渉で中国の要求を呑んでいかざるを得なくなる。それが見えているのだから、中国は台湾を威嚇するだけで侵攻しない。ロシアでも中国でも、複合大戦は露中非米側が米国側に勝っていく。 (White House walks back Biden Taiwan defense claim for third time in 9 months)
中国と戦争しますか?
【2022年5月22日】米英は中露に対して何をやりたいのか。日豪をNATOに入れたり、日本をファイブアイズやAUKUSに加盟させて、同盟諸国にもっと中露敵視をやらせたい?。同盟諸国に加圧し、米国側が団結して中露敵視を強めると、うまくいくのか?。いくわけない。米国側が敵視を強めるほど、中露は結束を強め、米国側を無視して自分たち非米側の世界を運営していくようになる。米国は中国と戦争する気がない。戦争せず敵視だけして対立感を醸成し、中露の結束を強化してやっている。
詳しい解説
2022年5月22日 田中 宇
2月末のウクライナ開戦で米国と同盟諸国(米国側)がロシアへの過激(で自滅的)な敵視・経済制裁を開始する一方、中国やインドBRICS、イラン、アラブ、アフリカ中南米など非米諸国はロシア制裁を拒否し、米国側と非米側の世界的な対立構造が立ち上がった。ロシアは、米国側が買わなくなった石油ガス資源穀物など輸出品を、代わりに中国を筆頭とする非米諸国が買ってくれるので、米国側に強く制裁されても困っていない。ロシアは、米国側から敵視されるほど中国と結束し、中国の弟分(劣位同盟国)になっていく。その一方で米英はロシアだけでなく、ロシアを支援する中国など非米側も敵視する傾向を強めている。英外相は、NATOをロシアだけでなく中国も敵視する軍事同盟にしようと提案している。 (Russia Forges New Partnerships in Face of West's 'Total Hybrid War') (米欧との経済対決に負けない中露)
米国務長官は、トランプ前政権が進めていた米中経済分離策を踏襲すると発表した。中国政府(中共)も、ゼロコロナ策をしつこく演じて上海や深センなど沿海諸省で都市閉鎖を延々と続けて経済を封鎖し、嫌気をさした米欧企業が中国から出ていくように仕向けている。米国だけでなく中国の方も、米中分離を進めていることになる。中国は発展途上国だった従来、米国主導の世界経済システム(経済覇権)の中で米国側の下請けをやって発展してきた。米中分離は、中国側から見ると、途上国から大国に成長した中国が、米国側に依存するのをやめて、一帯一路など中国主導の地域覇権体制を組み、その中で米国側と関係なくやっていく方向転換を意味する。 (Blinken to Unveil Biden’s China Strategy) ('Stop asking why': Shanghai tightens COVID lockdown)
米国から見ると、米中分離は、中国を米国覇権の傘下から押し出して困らせる経済制裁のつもりなのだろう。しかし中国はもともと経済的な対米自立が目標なのだから、米中分離は対中制裁になっていない。米中分離はむしろ、米国側の企業が安く製造できる下請け国、14億人の巨大市場を失う動きとなり、米国側にとって自滅策だ(米上層部は、自滅策と知りつつ米中分離を進めて中国を非米型大国・地域覇権国に押し上げているのだから、私から見ると隠れ多極主義)。 (The Race To Break The Russia-China Alliance & The "Ukraine Of The Asia Pacific")
経済制裁がダメなら戦争で潰せば良いって?。それは無理だ。中国もロシアも核保有国だ。しかも中露は結束を強めている。米国側が、中露どちらかと親しくしつつ、もう一方と敵対しているなら、敵対している方を経済制裁して困窮させつつ、武力行使もありうるぞと脅したりして譲歩させることも可能だった。しかし、中露が結束しているので経済制裁しても効かない。中露が他の非米諸国と組んで米国側を無視して経済を回せてしまう。ロシアはSWIFTのドル決済システムから追放されたが、ルーブルや人民元で決済できている。むしろ米国側の方が、中露を制裁したことで資源や食糧の不足と高騰に悩まされ、ドルの覇権も危うくなって自滅している。今のように米国側が経済面で負けている状態を軍事面で挽回しようとすると、米欧と中露のガチな核戦争になって人類消滅みたいなことになる。米上層部がいくら馬鹿でも、それはやらない。となれば、米国側は経済面でどんどん自滅していくだけだ。 (米露の国際経済システム間の長い対決になる) (米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化)
結局のところ米国や英国は、中露に対して何をやりたいのか。「中国は、台湾の民主主義を潰そうとしたり、新疆ウイグルのイスラム教徒を弾圧してけしからんので、民主や人権擁護の観点から中国を政権転覆する」とか「ロシアは、ウクライナに侵攻してけしからんので政権転覆する」というのが米英の目標とされている。しかし、台中の対立は中国国内の内戦問題であり、どちらかが民主主義だから良いという話でない。それに、もし米国が国共内戦からの歴史を無視することにして、台湾が民主主義で素晴らしいということだけに注目することにしたのなら、米政府は台湾(中華民国)を国家承認して国交を再樹立すれば良い。米国はそれをせず、台湾への兵器販売や、米議員訪問など騒動醸成目的だけの動きに徹しているのだから、民主主義を重視しているわけでなく、中国と本気の対決もしていない。 (TW The Coming Proxy War With China) (China Slams US for Changing Taiwan Wording on State Department Website)
中共のウイグル人に対する仕打ちは、その近くにあるアフガニスタンの人々に対する米国の仕打ちと比べ、それほど悪くない。中共がウイグル人を「虐殺」したというのは無根拠な話(米諜報界が妄想したウソ)だ。弾圧してるが大量殺戮してない。半面、米軍は昨年まで20年間の占領で数十万人のアフガン人を殺戮(虐殺)している。また米国は2014-22年にウクライナを政権転覆・極右化して武器を渡して東部のロシア系住民を1万人殺させている。ロシアより米国の方がはるかに悪い。米国は、中露の政権を転覆する大義がないし、転覆できない。転覆する必要もない。米国が中露の現政権と仲良くした方が、世界ははるかに安定する。(米国は世界を不安定にしつつ自国の覇権体制を自滅させたい) (US Presses Taiwan to Buy More Weapons Suited to Defend From Chinese Invasion) (ウクライナ戦争で最も悪いのは米英)
結局のところ、米英は中露に対して何をやりたいのか。日豪をNATOに入れたり、日本をファイブアイズやAUKUSに加盟させて、同盟諸国にもっと中露敵視をやらせたい?。同盟諸国に加圧し、米国側が団結して中露敵視を強めると、うまくいくのか?。いくわけない。米国側が敵視を強めるほど、中露は結束を強め、米国側を無視して自分たち非米側の世界を運営していくようになる。南シナ海や東シナ海などで中国と米国側の軍事的なつばぜり合いは多発するが、そこから米中戦争にはならない。台湾を国家承認しない米国は、中国と戦争する気がない。戦争せず敵視だけして、対立感を醸成しているだけだ。中露の結束がつよまるばかりだ。 (New Zealand Deal May Put Japan Closer to ‘Five Eyes’ Intelligence Alliance) (Liz Truss's militant rhetoric is another sign that post-Brexit Britain is dangerously delusional)
中国は最近、豪州の北方沖にあるソロモン諸島と安保協定を結び、中国軍の基地が豪州沖にできるかもしれない事態を作った。豪州がソロモン諸島に文句を言ったら「AUKUSを作る時に事前に何も知らせてくれなかったのだから、こちらも勝手に中国と安保協定を結んだだけだ」と言い返された。ソロモン諸島から見ると、豪米アングロサクソンは傲慢で、中国の方がましだ。中国は、南洋でも尖閣周辺でも、敵視されるほど大胆に前に出てくる。軍事でも経済でも、米英に言われるままに中国を敵視して困るのは豪日の側だ。豪州のモリソン政権は昨日の選挙で負けて下野した(政権交代しても行き詰まりは変わらないだろうが)。 (Accuses AUKUS Countries of Inciting Arms Race in South Pacific) (UK calls for a 'global NATO')
米国は、同盟諸国に中露敵視を強めさせる役割を自分でやらず、昨年末あたりから英国にやらせている。米国自身が同盟諸国に中露敵視を強めろと加圧すると、同盟諸国は自国の軍隊や安保体制を今よりさらに米国と一体化することを中露強化策としてやりたがり、日独など(日欧)が対米従属を強めて米国にぶら下がる傾向にしかならない。米国は、同盟諸国をぶら下がらせたくないので、バイデン政権になって、同盟諸国に中露敵視を強めさせる役割を英国に下請けさせ、英国と独仏豪日などでうまくやってくれという態度になっている。だから英国は、NATOを拡大して豪日を入れる案とか、英豪が米国の傘下で結束して中国敵視を強化するAUKUSとか、米英豪NZの諜報同盟であるファイブアイズに日本も入れと言ったりしている。日本は敗戦後、二度と地域覇権を求めず永久に対米従属するつもりで諜報機関を作らないようにしてきた。それが今になって諜報同盟に入れと言うのはお門違いだ。 (New Zealand deal may put Japan closer to ‘Five Eyes’ intelligence alliance) (Make NATO a Pacific Power? British Government Comes Up With Another Dumb Idea)
最近の記事に書いたように、アングロサクソン諸国の諜報界は、インチキな話をばらまく隠れ多極派のネオコン系に席巻されて麻痺・洗脳状態になり、まっとうな諜報分析ができなくなっている。日本がファイブアイズに入ったら、おかしくなったアングロサクソン諜報界から中国の脅威などについて過激な妄想を注入されて事実と信じ込むよう洗脳される。今のような現実論で国際情勢を見られなくなり、国家的な大失敗の可能性が高まる。今のような、無能な小役人を演じて事なかれ主義で米国からの洗脳を回避する方がはるかにましだ。 (米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化) (China Says NATO Has ‘Messed Up’ Europe in Warning Over the Alliance’s Role in the Asia-Pacific)
米国が同盟諸国に中露敵視を強めさせる担当を英国に下請けさせた後、年初に英首相が訪日する予定だったが露軍のウクライナ侵攻が近づいて中止された。その後5月初めに日本から岸田首相が訪英し、日英同盟の現代版みたいなのを締結した。そして今回、仕上げ的に米国からバイデンが訪日した。しかし、米国側の中露敵視は合理的な戦略でないので、バイデンが訪日しても基本的なことは何も変わらない。日韓にもっと兵器を買えと言って回るぐらいだろう。 (British PM Boris Johnson cancels planned visit to Japan, government sources say) (Beijing Blasts Kishida’s Five-Nation ‘Confrontation’ Tour Penning Defense Deals Across Asia, Europe)
バイデンの日韓訪問は、インド太平洋の新しい経済協調を強化する経済面の目的もあると喧伝されている。だが経済面での2大問題は、(1)対露経済制裁と、米中など国際流通網の逼迫によるインフレの長期化と、(2)間違ったインフレ対策である米連銀のQE終了・QTによる金融崩壊だ。インフレは、米国が中露敵視をやめない限り続く。(1)(2)ともに原因は日韓に関係ない。(1)を解決したいなら東京ソウルでなく北京に行くべきだ。そもそも「バイデン日韓訪問の目的は経済」という話は「中国と戦争しろと言いに来ないでくれ」という日韓からの批判をかわすために米国と傀儡筋が発している目くらましだ。 (US, Japan Preparing Statement Pledging to ‘Deter’ China) (権威筋や米国覇権のゾンビ化)
アジアでは、日豪がまだ米国側にとらわれている半面、インドや東南アジア、韓国は非米側に傾注しており、すでに立場的に一枚岩でなく、経済協調が崩れる方向にある。米国のインド太平洋経済協調は非現実性が増している。しかもバイデン日韓訪問に合わせ、米国防総省の筋は2027年に米中が戦争するシナリオをわざわざ流している。訪問の目的は経済でなく日韓に中国を敵視させるためだよ、と軍産がわめいている。日米は、中国を「軍事的に抑止する(=戦争する)」ための日米協力について声明を発表することになっている。 (TV War Games Over Taiwan) (US, Japan Prepare Statement Pledging To Jointly 'Deter' China Militarily)
中共の上層部では、今まで強固だった習近平の独裁体制が崩れ、ほされていた李克強首相が経済政策の責任者として復権したとか、習近平はゼロコロナ策が失敗して権力が低下しているとか言われている。しかし、ゼロコロナが非現実的な超愚策であることは前からわかっていた(広範なPCR検査をすると偽陽性が増え、永久にゼロにならない)。上海などを延々と過激に都市閉鎖する中国のゼロコロナ策は、コロナ対策のふりをした習近平の権力強化策である。中共の権力闘争はずっと前から上海が焦点であり(もともと上海は英国が作った沿岸の洋風な町で、伝統政治勢力が強い北京の対極にいる)、だから北京でなく上海だけが長く都市閉鎖されている(それと国際流通網を破壊するために深センなど)。これから習近平が失脚していくとしたら、それは「ゼロコロナの都市閉鎖をやって上海派を封じ込めようとしたのに習近平は勝てなかった」ことになる。しかし習近平が失脚に向かっている兆候は少ない。むしろ習近平は上海狙い撃ちのゼロコロナ策によって、政権中枢から上海派をさらに外し、独裁を強化する可能性の方が大きい。 (Inside China’s Zero-Covid Fortress, Xi Admits No Doubts) (The New Rift Between WHO And China)
最近、北朝鮮もコロナが大流行していると大騒ぎしている。これまでコロナをほとんど無視してきた金正恩が突然騒ぎ出して奇妙だ。これも習近平を見習って、コロナ対策を使って金正恩の権力を強化するための策略だろう。新型コロナは初期のもっと発症力があった時でも「強い風邪」であり、北朝鮮のような「生きるのがやっと」な国はコロナを気にする余裕も必要もない。北の人々はワクチンもほとんど打っていないそうだが、良いことだ。全人類、打たない方が良い。コロナワクチン(とくにmRNA)は効かないし、連打による自然免疫の低下などの害悪の方が大きい。 (Kim Mobilizes Military To Tackle "Explosive" North Korean COVID Outbreak, Infected Told To 'Gargle Saltwater') (New US strategy seeks to arm Japan against China)
中国もロシアも、大して悪い国でない。「悪さ」でいったら米英の方が上だ。米国側が中露を敵視するのは不合理で超愚策、そして隠れ多極主義だ。経済やエネルギー安保のことを考えると、米国側全体が、中露と仲良くした方が得策だ。しかし、米英はもう10年以上も中露を敵視しており、いくら愚策でももうやめない。米国は中露を敵視し続けて覇権を低下させ、中露を結束台頭させていく。その流れは多分もう変わらない。変えられるかもしれないのは、同盟諸国が米国につきあって中露を敵視して自滅していくという流れの方だ。同盟諸国、とくにアングロサクソン以外の日独仏韓などは、米国と一緒に自滅していく必要などない。米国からできるだけ距離を置き、可能なら非米側に転入した方が、未来の国民たちの幸福のために良い。実際はそうでなく、同盟諸国のマスコミ権威筋は中露敵視・同盟美化の妄想をばらまき続け、多くの国民がそれを軽信している。方向転換は難しい。 (Two Decades After Iraq War Began, China Colonizes Iraq’s Oilfields) (Japan Probably Needs To Move To The Pro-China Camp)
◆米政治家らに横領されるウクライナ支援金
【2022年5月18日】米政府は開戦以来530億ドルをウクライナに支援していることになっている。だが米政界では、これらの支援金のかなりの部分が目的通りにウクライナのために使われず、不正使用や使徒不明になるのでないかという疑いが共和党側で強まっている。民主党系の米議員たちが親族や友人にウクライナ関連のNGOを作らせ、支援金の一部がそれらのNGOに入る構図が作られている疑いがある。NGOは何もせず報告書だけ巧妙に書き、NGOが米政府からもらった資金は議員と仲間たちで山分けされそうだ。日欧からの支援金も、この不正構造の中に流入させられている懸念がある。
フィンランドとスウェーデンNATO加盟の自滅
【2022年5月16日】北欧2か国はロシアやウクライナに近いから、いくらでも独自の情報を集めて分析できる。今回それをやっている北欧2国の諜報員や外交官もいるはずだ。しかし、彼らが政府に出す報告書は首脳陣に軽視されている。米国の諜報界やマスコミ権威筋の全体が今回のように無茶苦茶な大間違いを信じ込んで流布したことは、これまでになかった。だから、メディアリテラシーを意識する人もコロリと騙されている。
詳しい解説
2022年5月16日 田中 宇
北欧のフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請することになった。北欧2カ国の政府は、5月15日に相次いでNATO加盟の意志を正式に表明した。2か国は、ソ連敵視の米国側軍事同盟として冷戦初期に作られたNATOに加盟せず、軍事安保的に中立を保ってきた。フィンランドはソ連(ロシア)と千キロ以上の国境を接しており、ロシア帝国やソ連の一部だった時もある。フィンランドはソ連に取られた領土回収を目指して第2次大戦でドイツに味方したが、ドイツが負けたため再びソ連の影響を受けるようになり、冷戦中も米同盟国にならず中立を維持した。スウェーデンは、ドイツの脅威を避けるため2度の大戦で中立を宣言し続け、その後の冷戦期にも中立を維持してNATOに入らなかった。このように北欧の2か国は、周辺の諸大国間の対立や戦争に巻き込まれないための外交安保的な知恵として、中立やNATO不加盟を貫いてきた。ところが2か国は今回、ウクライナ戦争で米国とロシアが激しく対立する中で、過激にロシアを敵視するNATOに入ることにした。これは2か国の歴史上、画期的な方針転換である。 (Finland's President Informs Putin Of Application To Join NATO) (Finland–Russia relations - Wikipedia)
2カ国は、NATO加盟の国家的な意志をほぼ固めた。NATO側では、ロシアとも親しいトルコが2カ国の加盟に反対する素振りを見せている。加盟承認は全会一致が原則なので、トルコが反対し続けると2か国は加盟できない。だが、2カ国のNATO加盟はバイデンの米国が強力に推進している。エルドアン大統領のトルコはちゃっかりな国で、米国から軍事安保面の大きな贈り物をもらえるなら、トルコは反対しなくなる。米国は今後おそらくトルコが満足する軍事安保的な贈り物を与え、トルコは反対をやめ、2カ国はNATOに加盟する。(クロアチアなど、トルコ以外にも反対する加盟国が正式に出現すれば変わるかも) (NATO 'confident' of overcoming Turkey's objections) (NATO countries spoke out against the admission of Finland to the Alliance)
北欧2か国は、なぜNATOに入ることにしたのか。「ウクライナで戦争犯罪を続けるロシアを許せないからだ」と思う人が多いかもしれないが、その考えは間違いだ。2カ国がこれまでNATOに入らなかったのは、自国の安全を守るためだ。他国間の戦争でどこかの国が戦争犯罪を犯したとしても、それを理由に2か国がNATOに加盟することはない(そもそもウクライナでのロシアの戦争犯罪とされるものは濡れ衣ばかりだし)。2か国がロシア敵視のNATOに加盟するのは、ロシアを敵視しても自国の安全が脅かされないと2か国が考え始めたからだ。2か国の上層部は、ロシアがウクライナ戦争で作戦を失敗し続けて露軍の疲弊やロシア国民の厭戦気運がこれから強まり、近いうちにロシアが経済破綻や政権崩壊してプーチンが失脚して大混乱・弱体化していくという、米国側の諜報界とマスコミ権威筋が言っている予測が正しいと思っているのだろう。 (Ukraine can defeat Russia - NATO) (UK and Sweden Say Relations With Putin Can Never Be Normalized)
ロシアがこれから崩壊・弱体化していくなら、もうロシアに配慮してNATO不加盟を続ける必要はない。むしろロシア崩壊のとばっちりを受けないよう、米英やEUと協力してやっていかねばならない。これからロシアが崩壊するなら、NATOの役目は「ロシア敵視」から「ロシア崩壊の悪影響を欧米諸国が受けないようにすること」になる。プーチンはロシアが崩壊する前に北欧や東欧を手当たりしだいに侵攻するかもしれない。早くNATOに入っておいた方が良い、と2か国は考えたのでないか。 (The West On The Path Of Full-Spectrum Confrontation With Russia)
2か国がNATO加盟の意志を正式表明する2日前の5月13日、米バイデン大統領が2か国の首脳と三者ビデオ会議を行い、米国が強く後押しするから早くNATOに入れと2か国に勧め、2か国はそれに乗ることにした。バイデンは、これからロシアの軍や政府や経済が崩壊していくシナリオを、米諜報界の明確な分析として2か国の首脳に伝えたのでないか。ロシアが今後も従来の強さを維持する可能性がかなりあるなら、2か国はロシアに敵視されて自国の安全を脅かされかねないのでNATOに入りたくない。バイデンは、世界で最も権威がある米諜報界の分析として、ロシアがこれから崩壊し弱体化するシナリオを2か国に伝え、2か国はその分析を信じてNATOに入ることにした。 (Biden Encourages Finland & Sweden's Move Into NATO As Russia Cuts Electricity Supply Overnight)
この話の大問題は、ロシアがこれから崩壊するという話が大ウソであることだ。むしろ逆に、ウクライナ戦争でロシアの優勢が続き、石油ガス資源穀物などの国際価格の高騰でロシア経済も好調さが加速して、ロシアが台頭して欧米が劣勢になっていく可能性が大きい。2月末のウクライナ開戦以来、米国側のマスコミは「ロシア軍は作戦失敗で苦戦し、敗北寸前だ。ウクライナ軍もうまく反撃している。ロシアは負ける」と大ウソの稚拙な戦争プロパガンダを喧伝し続けてきた。しかし最近はNYタイムスが「ロシアは開戦直後にドンバス(ウクライナ東部2州)の30%(ロシア系民兵団の開戦前からの支配地)しか支配していなかったが、今や支配地を広げてドンバスのほとんどを支配している(露軍は計画通りに作戦を遂行できている)」と認める記事を出している(ロシアはこれから負けるかもと、記事の後半でプロパガンダをぶり返しているが)。ロシアはウクライナで負けていない。勝っている。 (Ukraine War’s Geographic Reality: Russia Has Seized Much of the East) (ウソだらけのウクライナ戦争)
プーチンは開戦当初から、ウクライナで露軍の作戦遂行をゆっくり進め、意図的に戦争を長引かせている。その最大の理由は、戦争状態が長引くほど、米国側が自滅的な対露経済制裁を続け、米国側の経済が衰退し、石油ガス穀物の高騰でロシア側の優勢が増すからだ(戦争をゆっくり進めるもう一つの理由は、最終的にロシアの影響圏に戻るウクライナで、できるだけ市民を殺さず、建物を破壊しないようにするため。ウクライナ国民の半分近くは極右が嫌いでロシアの方がましだと考えておりロシアの味方)。それなのに米国側のマスコミ権威筋や諜報界は「露軍は、ウクライナで作戦が失敗しているのでゆっくりしか進めない。露軍は苛立って街区をどんどん破壊している」と大間違いの分析・喧伝を続けている。 (Some US media outlets begin to cover events in Ukraine more objectively - Russian embassy) (ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?)
(街区の破壊の多くは、自国民を愛していないウクライナ極右民兵団が、露軍のせいにするためにやっているのだろう。米国側のマスコミは、街区の一部しか破壊されていなのに市街全体が破壊されたかのような報道を続けてきた。露政府は、欧米人が激怒した方が自滅的な対露経済制裁をやりたがって経済的にロシアを有利にしてくれるので濡れ衣を放置している) (濡れ衣をかけられ続けるロシア)
米国側で大間違いの分析を続けているのがマスコミや評論家だけで、政策決定を担当するプロである諜報界の要員や外交官たちが正しい分析をしているのなら正常だ。そういう場合、そのテーマのマスコミやオルトメディアの情報をたくさん見ていくと、報道されているプロパガンダと、裏の実体的な分析の食い違いが見えてくるので何となくわかる。しかし今回は違う。マスコミは100%プロパガンダだ。米国側の諜報界も全体として「何がなんでもロシア敵視」の大合唱で麻痺した状態にあり、プロの諜報要員が、ロシアのウクライナ侵攻は失敗していると本気で大間違いを言っている。スイスのプロの諜報要員でウクライナやロシアに詳しいジャック・ボーが、そのように嘆いている。バイデン政権の重鎮たちの間でも、ロシアのウクライナ侵攻は失敗しているのでもっと激しく対露制裁すればロシアを潰せるという話になっているのだろう。だからバイデンが北欧2か国の首脳に対し、ロシアが崩壊する前にNATOに入ることを強く勧め、米大統領国が言っているのだから間違いないと考えた2か国がNATOに入ることになった。 (Jacques Baud: “The Military Situation In The Ukraine”) (Ex-NATO analyst paints a completely different picture of Ukraine war)
米諜報界の人々はもともと優秀だ。みんなが一方向の歪曲情報に流されて集団思考の間違いに陥ることを警戒する姿勢を、諜報分析者として教育される過程で身につけている(米国の前に覇権を持っていた英国流の教育)。だが近年は、そのようなプロたちの技能を乗り越える力で、前回の記事に書いたような、諜報界の上層部に巣食う隠れ多極主義者たちが支配して情報歪曲の独裁化が行われている。諜報界でも外交界でも、情報歪曲の独裁体制に従わない者、反逆する者は、政治的に更迭・排除されてしまう。職業的に生き残りたい諜報要員や外交官は、プロとしての自分の分析を自ら殺し、進んで集団思考の間違いに入り込み、情報歪曲の独裁体制に迎合して「間もなくロシアが崩壊する」と本気(のふり)で言わなければならない。プロでない姿勢をとらないと、プロとして業界に生き残れない。そんなの冗談じゃないぜ、と怒って声をあげた一人がジャック・ボーだった。 (米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化) (ウクライナ戦争で最も悪いのは米英)
世界中の国々は、米国の同盟国であっても、米国だけに諜報分析を頼るのでなく、自国の要員たちの独自の分析も採用し、米大統領が言ってくる話と、自国の分析者の話のどちらが正しいか、首脳陣が理性を駆使して判断する必要がある。北欧2か国はロシアやウクライナに近いから、いくらでも独自の情報を集めて分析できる。今回それをやっている北欧2国の諜報員や外交官もいるはずだ。しかし、彼らが政府に出す報告書は首脳陣に軽視されている。米国の諜報界やマスコミ権威筋の全体が今回のように無茶苦茶な大間違いを信じ込んで流布したことは、これまでになかった。だから、メディアリテラシーを意識する人もコロリと騙されている(この状態はコロナの時も同様)。イラク戦争時でさえ、サダム・フセインが大量破壊兵器を持っているという話はウソだということが、開戦前に半ば常識になっていた。今回は、それよりかなりひどい状態だ。 (Russia doesn’t care if G7 recognizes new Ukrainian borders - Medvedev) (Intellectualism is dying in the West)
(今回のような徹底した情報歪曲独裁の先例は、イラク戦争でなく、イラン核問題だろう。イランは核兵器を開発していないのに、イラン敵視のイスラエル系の勢力が米諜報界やマスコミを席巻・支配し、2005年ごろから米マスコミは「イランは核兵器を開発している。間もなく完成する」というウソが氾濫し、権威ある人々がその話を否定することが許されなくなった。オバマ大統領は「イランが核兵器開発している」というウソを否定しないままま、イランが核兵器開発できる道具を持たない見返りに対イラン制裁を解除する核協定JCPOAを結んだ。だがこれもトランプに離脱されてしまった) (イラン核問題:繰り返される不正義) (トランプがイラン核協定を離脱する意味)
米同盟国の首脳陣の中にも、ロシアが勝っているという事実を把握している人はいる。たとえばフランスのマクロン大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領に「ドンバスとクリミアの主権を放棄してロシアと和解するしかない」と提案し、ゼレンスキーが逆ギレしてマクロン提案を世界にばらした。マクロンは、ロシアが勝っていることを知っているので、ゼレンスキーにそのような提案をした(ロシアが負けるなら、ウクライナに大幅譲歩の対露和解を勧めなくてよい)。EUは今年末までにロシアからの石油輸入を止めることを決めている。ロシアとウクライナを早く和解させないと、EUがロシアからの石油ガスの輸入を本気で止めねばならなくなり、EUの経済が自滅してしまう。だからマクロンはゼレンスキーに、ドンバスとクリミアをあきらめろと加圧した。だがゼレンスキーは、最大の後ろ盾である米国から、絶対にロシアに譲歩するなと言われており、マクロン提案を暴露して米国に通報した。マクロンは欧州の自滅を止められない。 (France denies Ukrainian claims)
また、イタリアのドラギ首相は先日訪米した際、記者団に「ロシアから天然ガスを輸入してきた国のほとんどは、プーチンの言いなりになってガス代をルーブルで払うための口座を作った」と暴露した。ガス代用のルーブル口座開設はEUの対露制裁に違反しているとEU当局は言っているが、ドラギは「違反かどうか不明なのでみんなやっている」と発言した。EUの対露制裁には大きな風穴が開いている。ウクライナ開戦から3か月近くが過ぎ、戦争状態の長期化が不可避になっていく中で、ロシアは負けそうもなく、米国の諜報分析の方が間違っていると考える指導者が、米国側諸国の全体で増えていると推測できる。訪米中のドラギの暴露は、諜報界が無能になった米国を揶揄する意図が感じられる。 (Italian PM Draghi Now Supports Ruble Payment Scheme for Russian Gas) (European Sanctions Blown To Bits: Draghi Says "Most Gas Importers" Have Opened Ruble Accounts With Gazprom)
米諜報界はすでに大ウソな歪曲情報しか発信できない、ひどく麻痺している「ゾンビ機関」だ。バイデン政権の米政府も、大統領府の報道官が偽情報の発信を多発してきた人(Karine Jean-Pierre)へと交代するなど、ゾンビ化が進んでいる。米国勢に入り込まれて英国の諜報界とその傘下の英政府もゾンビだ。米国が支配するNATOやG7、英米の言いなりなEUもゾンビになっている。ゾンビ化するほど主張がヒステリックになり、加盟諸国に対してロシア敵視などの超愚策を声高に強要する傾向が増す。言いなりになっている加盟国は自滅させられる。 (The Incoming White House Press Secretary is Already Spreading Misinformation) (American progressives join the War Party)
北欧2か国がこのままNATOに加盟したら、NATOに無茶なロシア敵視を強要されるだけでなく、優勢が増していくロシアから報復的な経済制裁などを受けるようになる。2か国はロシア勝利の状態を痛感し、誤判断によってNATOに加盟したことを後悔するようになる。いったんNATOに加盟したら、劇的な政権交代でもない限り離脱は困難だ。NATOに加盟したまま、NATOの決定を静かに無視するしかなくなる。 (How British spies have launched a full-scale propaganda war to demonize Moscow) (権威筋や米国覇権のゾンビ化)
米国に引っ張られてゾンビ化している英政府は最近、ロシア敵視だけでなく中国敵視も強め、NATOを豪日などアジア諸国にも広める計画や、アングロサクソン諸国(米英加豪NZ)の諜報界の統合システムであるファイブアイズに日本も入れる構想を言い出している。日本政府はこれらに対して消極的で、戦争を放棄し諜報機関もない国なので加盟しにくいですと言い訳してやんわり断っている。日本は良い線いっている。米英諜報界が多極派の謀略によって麻痺してゾンビ機関になっているので、日本は拡大NATOにもファイブアイズにもAUKUSにも入るべきでない。入ると米国の隠れ多極派によって自滅させられる(豪州は、すでに自滅させられかけている)。日本は本来、ゾンビ化したG7からも離脱した方が今後の安定のために良い。日本はサミュエル・ハンチントンの示唆に従って「孤立文明」になって欧米から距離をおいた方が良かった。 (New Zealand Deal May Put Japan Closer to ‘Five Eyes’ Intelligence Alliance) (China Says NATO Has ‘Messed Up’ Europe in Warning Over the Alliance’s Role in the Asia-Pacific) (New US strategy seeks to arm Japan against China)
米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化
【2022年5月15日】都市閉鎖やゼロコロナなど超愚策で欧米経済が自滅するコロナ危機。非米側との対立激化で米国側の経済が自滅するロシア敵視。化石燃料使用停止で欧米経済が自滅する温暖化対策。いずれも過激な歪曲覇権体制を組んで強く推進するほど、欧米経済の自滅が加速し、米覇権の崩壊と多極化が促進される。コロナもロシア敵視も温暖化対策も、隠れ多極主義の策略だ。これを推進しているのは米諜報界の多極派である。これらの歪曲策は今後もずっと続き、米覇権崩壊と多極化が完了するまで終わらない。2度の大戦のロックフェラー以来、ずっと続いてきた隠れ多極派は、75年かけて諜報界を乗っ取って米覇権を自滅させて世界を多極化している。
詳しい解説
2022年5月15日 田中 宇
ウクライナ戦争は、開戦から3か月近くが過ぎた今、ロシア側(非米側)の勝ち、米国側の自滅的敗北で推移している。米国側がロシアからの石油ガス資源類の輸入を止め、SWIFT追放などロシアを米国中心の世界経済から完全に排除することでロシア経済を潰すはずだった対露経済制裁は、逆に、欧州諸国など米国側に石油ガス不足など経済の大打撃を引き起こす自滅策になっている。資源類の国際価格の高騰を受け、ロシア経済はむしろ好調になっている。対露経済制裁が米国側を自滅させることは事前にわかっていたが、米国側の諸政府やマスコミ権威筋はそれを全く無視して過激で無謀な対露制裁に突っ走り、予定通り自滅している。米国側の人々や政治家がマスコミに扇動されて対露制裁を強めるほど、米国側の人々自身の生活が破壊されていく自業自得になっている。 (米欧との経済対決に負けない中露)
同時に米国側は、金融バブルを維持するための唯一の支えだった米連銀(FRB)のQE(造幣による相場テコ入れ策)がインフレ対策の名のもとに終了させられたため金融バブルが崩壊し、株や債券の下落が止まらなくなっている(インフレの原因はQEでなく供給側なのでQE終了は超愚策)。米連銀が予定通り6月1日からQT(QEの巻き戻し。資産圧縮)を開始していくと、金融危機がひどくなり、ドルの基軸性が崩れ、米国の覇権体制が終わっていく。 (来年までにドル崩壊)
ウクライナ戦争とQEの終了が重なり、世界の体制が米単独覇権から多極型へと転換している。ロシアのラブロフ外相は最近、世界はすでに意思決定の中心がいくつもある多極型であると指摘した。世界はこれから多極化していくのでなく、すでに多極化が完了したとラブロフは言っている。(米国側の人々のほとんどが、まだ多極化の事実を感じていないので、それが感じられるようになるまで多極化は完了していないといえるが) (Russian operation in Ukraine contributes to freeing world from Western oppression - Lavrov)
ウクライナ戦争もQE終了・QTも、米国側が意図して行ったことだ。ウクライナ戦争は、ロシアからの突然の攻撃開始でなく、米国がロシアを開戦へと誘導して引き起こした。米当局は、昨春から1年かけてウクライナ軍に兵器を蓄積させ、今年2月半ばからロシア系住民がいるドンバス地方を激しく攻撃させて、ロシアの反撃を誘発した。米国中枢の戦略立案者たちは、自分たちの側(とくに欧州)を経済的に自滅させ、ロシアなど非米側を台頭させて世界を多極化することになるとわかったうえで、わざわざウクライナ戦争やQE終了・QTをやっている。ウクライナもQTも、米国による、意図的もしくは未必の故意の「世界を多極化する策」である。 (ウクライナ戦争で最も悪いのは米英)
こうした米国の多極化策は、バイデン大統領がやっているのでない。バイデンは、棒読みできるテレプロンプターがないと記者発表もできない人だ。米大統領府の隣のビルにテレプロンプター完備の特別な部屋が作られ、バイデンが出席するオンライン会議や発表のほとんどが、そこで行われている。バイデンは認知症なのか無能なのか、自分の言葉で政策を語れず、側近が作った政策文書を読むことしかできない。オバマやトランプは自分の言葉で世界戦略を語っていたが、今のバイデンは違う(昔は有能だったらしいが)。バイデンは、背後にいる側近や諜報界に操られている。米国で世界戦略・覇権戦略を立案してきたのは諜報界だが、米諜報界は配下の者たちをバイデン政権の側近として送り込み、多極化の世界戦略を進めている。米諜報界には昔から「隠れ多極主義者」が巣食っている。今回のウクライナ戦争とQE終了QTも、彼ら多極派がやっている策略だろう。 (Now We Finally Know Why Biden Is Using A Fake White House Stage) (バイデンの認知症)
多極派の起源は2度の大戦にさかのぼる。大戦で英国から世界の単独覇権の権限を譲渡された米国の当時の上層部(ロックフェラー家など)は、世界を多極型の覇権体制に転換することを希望していた。5大国(米英仏露中)が対等な立場で協力して世界のことを決める国連安保理常任理事国(P5)の体制がその象徴だった。世界が多極型なら、ユーラシアのことは英仏露中に任せ、米国は西半球のことだけやっていれば良いので楽だった。だがP5の協調体制は間もなく、英国勢が米国を動かして冷戦体制を構築したことにより、米英仏と露中の対立に変質させられた。P5の協調で世界を運営する多極体制は機能不全に陥った。米国は、世界の運営をP5に任せられなくなり、代わりに米国自身が、英国系に牛耳られた状態で覇権を運営し、冷戦に勝つためにユーラシアに関与し続けねばならなくなった。 (田中宇史観:世界帝国から多極化へ)
英国は2度の大戦で米国に覇権を譲渡する際、覇権運営の調査役・知恵袋として、英国が持っていた軍事諜報システムのノウハウを米国に伝授し、それを受けて米政府は諜報機関としてCIAを作った。英国は諜報や覇権運営の技能を米国に伝授すると言いつつ、新設された米諜報界を英国(英諜報界)の勢力(エージェント、スパイ)が牛耳るように仕向け、米国の覇権戦略の立案機能を英国が乗っ取ってしまった。英国が望む世界体制は多極型でなく、米国が単独で世界を支配する単独覇権を維持し、米国の覇権運営を担当する諜報界を英国が牛耳ることだった。英国は、米国が孤立主義的な西半球の国に戻らず単独覇権国にしておくため冷戦を起こして長期化した。
米国の上層部にもともといた多極型世界を希求する勢力は、英国に牛耳られた米諜報界で隠れた勢力として存在し続け、機会をとらえて反撃することを続けてきた。英国系はマスコミ権威筋や世論を支配するのがうまく、多極主義は「容共」や「孤立主義」として「悪」のレッテルを貼られた。多極化や米覇権の衰退や放棄は、中露など悪い諸国をのさばらせ、民主的な国際社会=米英支配を壊す悪事とされた。そのため多極派は隠れた地下勢力になった。米諜報界は、英国系の単独覇権主義者(軍産複合体)と、米土着の隠れ多極主義者との、今に続く長い暗闘になった。 (隠れ多極主義の歴史)
米欧先進諸国の経済力の低下が始まった1970年代以降、冷戦を終わらせて経済発展を「東側」や発展途上諸国に広げることが必要になり、多極派の意を受けたニクソンやレーガンが冷戦を終わらせた。だが、米諜報界での暗闘は終わらなかった。英国系は、ロシアや中国、イスラム世界を恒久敵とする新冷戦体制の構築を目論んだ。イスラム世界を恒久敵にする策略は、英国系のライバルとして米諜報界を牛耳りたがったイスラエル系が持ち込んできた(イスラエル系の背後に隠れ多極派がいた可能性もあるが)。その延長で2001年の911テロ事件が起こされた。 (ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
こうした英国系からの反抗に対し、多極派は新手の策略を編み出した。それは、諜報界の隠れ多極派の要員が、英国系の一員のふりをして米大統領の側近として入り込んで露中やイスラム世界などを敵視する新冷戦体制の戦略を立案・実行し、その敵視戦略を過激に過剰に稚拙にやって失敗させ、米国の軍事力や外交的な信用力を浪費して覇権の低下を誘発し、結果的に米国覇権を崩壊へと誘導し、世界を多極型の新体制に転換させていく隠れ多極主義のやり方だった。このやり方は911後のイラク戦争で共和党のネオコン勢力によって初めて大胆に実践されて「大成功」をおさめ、米国の覇権低下を誘発した。(冷戦中のベトナム戦争での米国の大失敗が、この隠れ多極主義戦略の元祖だったともいえる) (歴史を繰り返させる人々)
冷戦後のロシア敵視は、ロシアと民族的に近い東欧のセルビアを悪者に仕立てるユーゴスラビア紛争が皮切りで、米国はセルビアの敵であるアルバニア系のコソボを支援して独立させ、ロシアを怒らせ、ドイツなど欧州とロシアとの敵対を扇動した。冷戦後にロシアとドイツが仲良くすることは、英国にとって大きな脅威だった(レーガンなど米国の隠れ多極主義者たちは、ドイツを再統合した上でロシアと仲良くさせて欧州を対米自立させるために冷戦を終わらせた)。今回のウクライナ戦争も、ノルド・ストリーム2の天然ガスパイプラインまで作ってロシアと仲良くしてきたドイツに、ロシア敵視とロシアからの石油ガス輸入停止を強いる英国流の「ドイツいじめ」「独露分離」が目的の一つになっている。だが同時に米国は今回、ドイツいじめを過激に稚拙にやって窮地に追い込んでおり、これはドイツが対米従属し続けられなくなる事態を作り出す隠れ多極主義の策略でもある。バイデン政権に入り込んだ隠れ多極主義者が、英国流のロシア敵視をやるふりをして、米国覇権(NATOの同盟国体制)を自滅させる多極化を進めている。 (同盟諸国とロシアを戦争させたい米国)
イスラム敵視の方は、米軍がタリバン政権を倒す(カブールから蹴散らす)ためにアフガニスタンに侵攻してテロ戦争を開始する計画がもともとあったので、911テロ事件がなかったとしても挙行されていた。911事件はむしろ「(誇張演出された)大規模テロ」の衝撃によって、米国の諜報界や政界、マスコミ権威筋(深奥国家全体)をテロ戦争やイスラム敵視であふれさせて麻痺させ、米諜報界を機能不全に陥れる効果があった。こうした麻痺や機能不全を引き起こす策略は、その後のコロナ危機や、今のウクライナ戦争でのロシア敵視でも行われている。この手の麻痺戦略は、機能不全の状態に紛れて多極派が米諜報界を乗っ取れるようにするためのものだ。 (911事件関係の記事)
911に関する報道は、誇張を多く紛れ込ませて劇的さを演出し、人々が感じる衝撃を大きくしてある。マスコミも諜報界に操作されて誇張に加担した。その半面、911テロ事件がどのように起こされたかに関しては、事件直後にまことしやかに報じられたシナリオが証拠の裏付けもないまま居座り、当局によるその後の捜査でも物証つきの犯行のシナリオが何も出てこないというインチキぶりだった。米当局(諜報界)と何の関係もない犯人たちが起こした事件でなく、米諜報界の配下もしくは監視下にいた人々が起こした自作自演系の事件なので、捜査がきちんとおこなわれない。911は、米国の諜報界や政界を麻痺させるために、諜報界(の多極派)が引き起こした事件だろう。事件の衝撃で麻痺状態にさせられた政治家や人々の世論は、冷静さ・合理的思考・理性が失われ、その後、諜報界の英国系が微妙な策略を展開して米国覇権を黒幕的に運営していくことが難しくなった。その分、政権転覆や戦争を過激に稚拙にやって覇権を自滅させるネオコンの隠れ多極主義の策略がやりやすくなった。イランが核兵器開発しているという話もネオコンが設置した濡れ衣だった。 (ネオコンと多極化の本質)
共和党の子ブッシュ政権が911事件からイラク戦争で自滅的に大失敗した後、民主党のオバマが大統領になり、米国覇権の立て直しを画策した。覇権好きのオバマは英国系だったといえる。オバマは、イランの核開発疑惑(濡れ衣)を乗り越えるために核協定(JCPOA)を結び、イラクからの米軍撤兵を挙行し、オサマ・ビンラディンを殺したことにして(実は故意の人違い殺人)アフガニスタンからの撤兵も進めようとした。だがオバマの覇権立て直し策は、隠れ多極派が強くなっていた米諜報界に妨害され続けた。米軍が撤兵した後のイランではアルカイダより強いイスラム過激派ISISが米諜報界の肝いりで作られ、オバマはISISと戦うイラク政府軍を支援するために米軍をイラクに戻さざるを得なくなった。米諜報は、リビアとシリアで新たに内戦を引き起こし、オバマが米国を中東から足抜けさせることを阻止した。オバマは、シリアの崩壊を防ぐためにロシアに頼んで露軍にシリア進出してもらうという多極主義をやらざるを得なくなった。 (軍産複合体と闘うオバマ)
オバマの次に大統領とになった共和党のトランプは、オバマと正反対に、同盟諸国を切り捨て、米国の覇権を放棄する策を進める隠れ多極主義者だった。トランプは、NATOやEUを邪険にして同盟国体制をつぶそうとしたり、経済の米中分離を進めて中国を非米化に押しやろうとした。多極派・覇権放棄屋のトランプに対し、諜報界の英国系は米民主党と結託してロシアゲートの濡れ衣をかけたりして潰そうとしたが果たせず、最終的に2020年の大統領選で民主党が不正をやってバイデンを勝たせ、トランプを排除した。 (不正選挙を覆せずもがくトランプ)
トランプ政権途中の2020年春に世界的なコロナ危機が起こった。あれは、もしかするとトランプを潰すための策だったのかもしれない。新型コロナのウイルスは、中国の武漢ウイルス研究所で研究中のコウモリ由来のウイルスが漏洩して世界に伝播した可能性が高いが、武漢ウイルス研究所は当時、米国から研究費をもらってコウモリ由来のウイルスがヒトに感染する可能性について研究しており、米国側の担当は、のちに米政府のコロナ対策の最高責任者(コロナツァー)になったアンソニー・ファウチや、動物ウイルスの専門家・エコヘルスの主催者でCIAの要員でもあるピーター・ダスザク(Peter Daszak)らだった。武漢ウイルス研究所の研究者(中国人)の多くは米国の大学に留学した経験を持ち、その際に米諜報界から勧誘・恫喝されてスパイにさせられた者もいたはずだ。米国のスパイになった中国人の研究員が、米諜報界の指示で研究中のウイルスを漏洩させ、コロナ危機を引き起こした可能性がある。米諜報界がコロナ危機を起こした感じだ。 (米中共同開発の生物兵器が漏洩して新型コロナに?) (Peter Daszak Worked For CIA, EcoHealth Alliance Is A 'CIA Front Organization') (Fauci Knew About Likely Lab-Leak From Secret Teleconference, Pushed Alternate Narrative Instead)
もしそうだとしたらそれは、米諜報界(英国系)が、自分たちの仇敵である多極主義者のトランプを潰すための策略だったと考えられる。コロナ危機発生後、世界各国に、コロナ対策に関して政府首脳より強い権限を持つコロナツァーが配置され、WHOからの司令を受けたコロナツァーが各国政府から政策決定権・国家主権を剥奪し、都市閉鎖やゼロコロナ策、偽陽性頻発のPCR検査の強要、ワクチン強制、国際的な人の移動の禁止などの超愚策を各国に強要した。国家の活動の広範な部分が、コロナ対策の名のもとに制限された。米国でも、ファウチがトランプより強い権限を持つようになった。世界的に、米国の覇権を上書きする「コロナ覇権体制」が組まれた。米諜報界の英国系が、コロナ危機を起こしてトランプから覇権運営権を奪った。 (世界の国権を剥奪するコロナ新条約) (国際政治劇として見るべきコロナ危機)
米民主党と、トランプ敵視のため民主党を支援する諜報界の英国系は、コロナ危機を口実に2020年の大統領選挙で不正がやりやすい郵送投票制度を大々的に導入し、トランプを不正に落選させ、バイデンを当選させる選挙不正をやってトランプを権力の座から追い出した。これも、米諜報界(英国系)が武漢ウイルス研究所から新型コロナウイルスを漏洩させて危機を醸成した当初からの目論見だった可能性がある。 (ずっと続く米国の選挙不正疑惑) (米民主党の選挙不正)
しかし、その後のコロナ危機対策の展開は、豪州や英独仏など米欧の米同盟諸国、米国の民主党系の諸州など、諜報界の英国側の地域において自滅的な超愚策が延々と行われ、米欧が経済を自滅させられる隠れ多極主義的な流れになった。諜報界の英国系の勢力がこんなことをするはずがない。これはもしかすると911後のテロ戦争のときと同様、最初に仕掛けたのは諜報界の英国系の勢力だったが、途中で主導権が隠れ多極派に乗っ取られ、そのため最終的に米国の覇権を自滅させる結果になったのでないかとも考えられる。米英諜報界の内部は、どの派閥の要員か正体を隠している人が多いようで、昔から乗っ取りが横行してきた。 (アングロサクソンを自滅させるコロナ危機) (コロナ帝国の頓珍漢な支配が強まり自滅する欧米)
コロナ危機はもう一つ、興味深い現象を引き起こしている。それは、コロナ対策を口実に、WHOなどが各国(とくに先進諸国)の国権を上書き剥奪してしまう「コロナ覇権体制」を握る勢力(米諜報界)が、各国(先進諸国)のマスコミや世論を簡単に歪曲できてしまう状況を作り出したことだ。マスコミや世論の歪曲は911後のテロ戦争時からあったが、コロナ危機は、そうした歪曲体制をものすごく強めた。新型コロナは医療分野の話であり、専門家でないと実体がわからないという印象が作られ、専門家を語る(騙る)コロナ覇権体制の配下の人々がマスコミや世論を簡単に歪曲できる状況を作った。WHOは専門家機関なので、コロナ覇権を握っているのはWHOでなく、その後ろにいる米諜報界だ。 (英米覇権の一部である科学の権威をコロナや温暖化で自滅させる)
そしてコロナ危機が一段落した2021年末以降、このシステムを使ってマスコミや世論を歪曲するテーマとして、コロナだけでなくロシア敵視が加わり、そのまま今年2月末の露軍のウクライナ侵攻が引き起こされた。世界がロシア非米側と米国側に大分裂し、非米側が資源類の利権の大半を持ち、米国側がロシアを激しく制裁するほど米国側の金融経済が自滅していく今の流れが作られた。ウクライナの戦況についても、世界経済の状況についても、米国側のマスコミ権威筋やSNSはものすごく歪曲された情報しか流さなくなり、ほとんどの人々が大間違いを信じ込み続けている。このすごい状況は、コロナ危機を使った強烈な情報歪曲体制が事前にあったので、米諜報界が簡単に作ることができた。 (ロシアを「コロナ方式」で稚拙に敵視して強化する米政府)
歪曲的なロシア敵視は以前からあったが、コロナで作られた超歪曲の新体制を活用し、ロシア敵視の歪曲がものすごく強化された。歪曲を軽信しない人が処罰される「情報歪曲独裁」「情報歪曲覇権」である。コロナの歪曲も、軽信しない人に自宅軟禁などの処罰を与えたが、それと同様の体制だ。コロナ危機は、ウクライナ戦争による米国側の自滅、覇権崩壊と多極化を引き起こすための「準備段階」だったと考えられる。このほか、グレタ・トゥンベリらを使った地球温暖化対策の過激でヒステリックでトンデモな推進も、コロナ危機と同時期に行われたが、これも以前からの情報歪曲体制の強烈化であり、コロナの歪曲覇権体制を活用して温暖化対策のヒステリが過激化されたと考えられる。温暖化対策(石油ガス停止、使い物にならない自然エネルギー推進)が先進諸国の経済を自滅させることから考えて、米英諜報界の隠れ多極派が推進している。 (コロナの次は温暖化ディストピア) (欧米の自滅と多極化を招く温暖化対策)
コロナ(都市閉鎖やゼロコロナなど超愚策で欧米経済が自滅)も、ロシア敵視(非米側との対立激化で米国側の経済が自滅)も、温暖化対策(化石燃料使用停止で欧米経済が自滅)も、過激な歪曲覇権体制を組んで強く推進するほど、欧米経済の自滅が加速し、米覇権の崩壊と多極化が促進される。コロナもロシア敵視も温暖化対策も、隠れ多極主義の策略だ。これを推進しているのは米諜報界の多極派であるこことがほぼ確実だ。これらの歪曲策は今後もずっと続き、米覇権崩壊と多極化が完了するまで終わらない。米国側のマスコミの信用は全く失われる。2度の大戦のロックフェラー以来、ずっと続いてきた隠れ多極派は、75年かけて諜報界を乗っ取って米覇権を自滅させて世界を多極化している。
◆来年までにドル崩壊
【2022年5月11日】米英と対照的に日本とEUの中央銀行群はQEをやめてない。米英の中銀は多極派に乗っ取られて自滅的なQTを開始しているが、日本はその外におり、欧州もまだ何とか自立しているのでQEをやめていない。円安は150円や200円を超えるかもしれないが、ドル崩壊までの一時的な話であり、急にQEをやめて金融崩壊するよりましだ。これから米英がQTを進めてすごい金融崩壊になっていく中で、日銀はQEを続けていた方が金融的な余力を持ち続けられる。
同盟諸国とロシアを戦争させたい米国
【2022年5月5日】米国自身は決してウクライナに派兵しない。米大統領府がウクライナの戦況を歪曲して実際と全く違う「露軍の大敗北」の話にしているからだ。今のように戦況をわざと大間違いして議会や国民に信じ込ませ、諜報界に正しい調査をさせないまま米軍を派兵すると、米軍は失敗して無駄な戦死者を出し、厭戦気運が高まってバイデンの人気がますます下がる。米大統領府が戦況分析を故意に大間違いしている限り、米軍は派兵されない。大間違いの戦況分析を正しい方向に転換するのは困難なので、米国は今後もずっとウクライナに参戦しない。ポーランドや独仏に参戦しろとせっつくだけだ。
詳しい解説
2022年5月5日 田中 宇
最近の記事で、ロシアがウクライナの東部から南部にかけての地域を分離独立させて親露的なノボロシア連邦を新設しようと目論んでいる話を書いた。ロシアは、ウクライナの何割かの土地に傀儡国家を作る形で自国側に割譲させようとしている。しかし実のところ、ウクライナから土地を奪おうとしている国は敵方のロシアだけでない。ウクライナの味方であるはずのポーランドも、リビウなど自国に隣接するウクライナ西部を奪って自国領として「取り戻す」計画をひそかに進めている。ロシア政府がそう指摘し、ポーランド政府は否定しているが、ロシアが勝ってウクライナ全体がロシアの傀儡国になりそうなことから考えると、ポーランドがウクライナ西部を取っておこうとするのは自然だ。 (Poland Reportedly Interested in Annexing Part of Ukrainian Territories) (ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?)
ポーランドは14-18世紀と、2度の大戦の戦間期(1919-41年)に、リビウなど今のウクライナ西部地域を領有していた。リビウ市民の半分がポーランド人で、3割がユダヤ人だった。戦後、この地域はソ連の一部であるウクライナに編入され、ポーランド人はポーランド側に移住させられ、ユダヤ人はイスラエルや米国に移り、リビウにウクライナ人が急増した。 (Washington, Warsaw Plot 'Reunification' of Poland & Western Ukraine - Russian Foreign Intel Chief)
そして今、ポーランド政府は、ウクライナの国家機能が戦争によって低下しているので「補助する」という名目で、ポーランド軍をリビウなどウクライナ西部に進軍させ、これまで国家警察などウクライナ当局が担当していた西部地域の治安維持などをポーランド軍が代行する計画を持っている。米国やNATOも、ウクライナ政府をロシアとの戦争に注力させられるのでポーランド軍のウクライナ西部侵攻に賛成している。今はまだ米国もNATOも「ロシアを打ち負かし、ウクライナにドンバスやクリミアを奪還させ、戦勝させて元に戻す」ことしか言っておらず、ポーランド軍のリビウ進出も、この戦勝目標が達成されたら終わることになっている。 (Poland has secret plan for Ukraine, Moscow claims)
しかし、もしロシアが勝ち、クリミアやドンバスだけでなくオデッサやハルキウ(ハリコフ)までロシア側に奪われ、ウクライナが分割されることになったら、ポーランド軍はそのままリビウ周辺に居座り、ウクライナ西部はポーランドに併合される。ウクライナ国家として残るのはキエフ周辺などだけになり、それも親露的・露傀儡的な国家になる。ウクライナ戦争は、米国側でなくロシア側の勝ちになる可能性が大きい。ロシアが勝ち、ウクライナ全体がロシアの傀儡国になってしまうぐらいなら、あらかじめウクライナ西部をポーランドの取り分として確保しておいた方が良い。ポーランドはそう考えて、リビウ周辺への越境進軍を検討している。(ポーランドは領土拡張欲が強く、ロシアの盟友であるベラルーシからフロドナ周辺を「奪還」することも目指している) (Poland Wants to Snatch a Piece of the Pie from Collapsing Ukraine)
米国はポーランドの侵攻計画を支持しているが、私が見るところ、それは別の思惑に基づいている。別の思惑とは「NATOの一員であるポーランドをロシアと戦争させる」ことだ。米国の支持によってポーランドの領土欲が刺激され、ポーランド軍がウクライナ西部に侵入・駐屯すると、彼らの役目はリビウ周辺の治安を守るだけでなく、露軍と戦うウクライナ軍を訓練することも任務に入ってくる。米欧NATO諸国がウクライナに送った新兵器類をウクライナ軍が操作できるよう、NATOの一員であるポーランド軍が訓練するのは米国側にとって重要だ。しかしそうなるとポーランド軍は、ウクライナを「非武装中立」にするために戦争しているロシアの敵になってしまう。ポーランド軍がウクライナに駐屯したら、ロシア軍の標的にされる。ロシアとポーランドがウクライナで戦争になり得る。
NATO加盟国であるポーランドがウクライナ西部の治安維持に協力するために軍隊(平和維持軍)を派遣したところ、ロシア軍が攻撃してきたとなると、NATOの5条が発動され、米英独仏などNATO全体がポーランド軍を守るため、ウクライナでロシアと戦わねばならなくなる。こうした状況を作る、もしくは事態をこうした状況に近づけることが米国の目標だ。NATOの5条が発動されても、それですぐに米国がロシアと戦争しなければならないわけではない。ロシアに痛めつけられているポーランドを助けるNATO5条の義務は、米国より先に、現地の欧州大陸にある同じEUのドイツやフランスに課せられる。米国は、独仏など欧州諸国をロシアとの戦争に直面させるためにウクライナの敵対状況を扇動してきた。
独仏など欧州諸国は、ロシアと戦争したくない。欧州諸国は、少ない負担で自国の安全を確保するために、米国の傘の下に入れるNATOに加盟している。NATOがロシアを敵とする組織だというなら、米国主導のロシア敵視の演技に参加してもいいが、それは演技だけですよ、というのが欧州の本音だ。冷戦終結でロシア(ソ連)敵視のNATOは不要になったはずだが、英国やEUなど欧州諸国が米国の傘の下に入り続けたいのでNATOは温存され、米国は同盟諸国を守る安保上の負担を強いられ続けてきた。戦後ずっと米国の覇権運営を黒幕的に牛耳ってきた英国は、米国の軍産複合体と組んでNATOを温存し、軍事費など米国の安保資産の恩恵を、軍産と英欧(イスラエル日豪)など同盟諸国で山分けする事態が続いてきた。米国は同盟諸国に搾取されている。
イラク戦争を起こしたネオコン以来の、米国中枢に巣食う超党派の過激=覇権放棄的な隠れ多極主義勢力は、同盟諸国を巻き込んで米国の覇権戦略を過激に稚拙に好戦的に残虐にやり続けて失敗を繰り返し、同盟諸国が米国に愛想を尽かして離反するように仕向けてきた。しかし同盟諸国は、日本式の「見ないふり・いないふり戦略」や、ドイツ式の「EU軍を作るふりだけして何もしない戦略」などを駆使してしつこく米覇権に従属・ぶら下がり続け、米国がいくら無茶苦茶をやっても誰も離反しなかった。覇権放棄を果敢に推進したトランプも1期で排除された(次期に復権しそうだけど)。しかたがないので、米国中枢は稚拙な好戦戦略をどんどん過激化し、今回のウクライナ戦争に至っている。
ポーランド軍が本当にウクライナ西部に進出するのかどうか、まだわからない。ポーランドがウクライナに進出して露軍に潰されても、独仏が外交的に右往左往するばかりで軍事的に動かず、米国も傍観するだけだと、ポーランドは見捨てられて大敗北になってしまう。その場合、NATOの5条が空文であることも確定してしまうので、NATOを米覇権牛耳りツールとして温存したい英国は、ポーランドに対し、米国から誘われてもウクライナに進軍するなと忠告しているはずだ。それらの展開を、プーチンは含み笑いしつつ眺めている。
米議会では共和党の一部の議員(共和党内で民主党に肩入れするAdam Kinzingerら)が「ウクライナでロシアが大量破壊兵器を使ったら、米大統領の権限で米軍をウクライナに派兵してロシアと戦争できるようにする」法案を提出しようとしている。この法案は、前回の記事に書いた「米大統領府の安保会議のタイガーチームが、ウクライナでロシアが大量破壊兵器を使ったという濡れ衣をかける演出をやろうとしている」という話と連携している。ロシア軍はウクライナで余裕で勝っているので大量破壊兵器を使う必要がないが、それを濡れ衣の演出でねじ曲げ、露軍が大量破壊兵器を使ったと世界に信じ込ませ、米軍をウクライナに派兵させる試みが進んでいる。この謀略が進むと、NATOの5条発動がなくても事態は米露戦争に近づく。 (Adam Kinzinger introduces bill to allow U.S. military into Ukraine) (US lawmaker seeks to bring American troops to Ukraine) (ウソだらけのウクライナ戦争)
しかし、私が見るところ、米国は決してウクライナに派兵しない。そう思える理由は、米軍のウクライナ派兵を進めているかに見えるタイガーチーム自身が、同時に、ウクライナの戦況を歪曲して、実際と全く違う「露軍の大敗北」のイメージにしてしまっているからだ。米軍をウクライナに派兵するなら、まず米国自身がウクライナの戦況を正しく把握して議会やマスコミ権威筋の全体でそれを共有せねばならない。今のように、戦況をわざと大間違いして議会やマスコミ権威筋や国民に信じ込ませ、諜報界に正しい調査をさせない状態で米軍をウクライナに派兵すると、米軍は失敗して無駄な戦死者を出し、米国内の厭戦気運が高まってバイデンの民主党の人気がますます下がる。イラク戦争の時もインチキな諜報が出回ったが大した問題でなかった。しかし今回の敵は、弱いイラク軍でなく強いロシア軍だ。今回はインチキな諜報が敗北につながる。米大統領府がウクライナの戦況分析を故意に大間違いしている限り、米軍はウクライナに派兵されない。大間違いの戦況分析を正しい方向に転換するのは困難なので、米国は今後もずっとウクライナに参戦しない。ポーランドや独仏に参戦しろとせっつくだけだ。 (ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧)
米国はロシアと話し合いをする気が全くない。ロシアが潰れるまで戦う(ウクライナやEUを戦わせる)だけだと米政府は言い続けている。ロシアは潰れない。米露は永久に対立するだけだ(そして世界の覇権構造が多極型に転換する)。この流れの中に、米軍のウクライナ派兵が入る余地はない。米軍がウクライナに派兵されてもロシアは潰れないので、派兵したら米国はその後どこかの時点で米軍撤退のためにロシアと話し合いが必要になる。この展開は、米露の恒久対立を望む今の米国の戦略になじまない。米国はウクライナに派兵しないし、ロシアと直接戦争しない。だから米露核戦争もない。 (Pelosi's 'Victory' Rhetoric During Surprise Trip To Kiev Making Some Allies Nervous)
(最近ロシアの政府筋は「米国側が激しく攻撃してきたら核兵器による反撃も辞さない」といった感じのことを言い続けている。それを受けて米国側の人々は「ロシアが核戦争を起こしそうだ」と言っている。米国側では「ロシア軍は、核兵器に頼らねばならないほど追い詰められているんだ。やっぱりロシアはウクライナで負けている」といった見方も出ている。私が見るところ、これらは間違いだ。ロシアは、米国側の人々を怒らせて、より強い対露経済制裁を仕掛けてくるよう誘導するために、核兵器使用をちらつかせている。米国側の人々が激怒し、ロシアからの石油ガス資源類の輸入停止など対露経済制裁を強くやるほど、その制裁はロシアでなく米国側諸国の経済と国民生活に大打撃を与え、米国側が自滅していく。実際のロシア軍は余裕があり、核兵器を使う必要がない。ロシア側がブチャ事件など戦争犯罪の濡れ衣を放置しているのも、米国側の人々を激怒させ、米国側に自滅的な対露経済制裁を強めてもらいたいからだ。米国側のマスコミ権威筋は、ロシアをこっそり支援する米中枢の隠れ多極派に誘導されている) (Russian TV Warns Britain Can Be 'Drowned In Radioactive Tsunami’ By Single Nuclear Sub Strike)
ポーランドが侵攻してきて西部を奪おうとしているのに、ウクライナ政府は黙認している。ポーランドは米国の後ろ盾を得ているので、同じく米傀儡国であるウクライナは反対できない。その一方でウクライナ政府は「ハンガリーがウクライナの一部を奪おうとしている」と言ってハンガリーを非難している。こっちの方は無根拠な濡れ衣だろう。ハンガリー政府はオルバン首相の親露政権で、ウクライナの極右がオルバンを「殺すべき人のリスト」に入れたのと同期して、ウクライナ政府がハンガリー非難のために濡れ衣を言い出した。ウクライナの一部であるトランスカルパチアはかつてハンガリー領で、トランスカルパチアを奪還すべきだと言っているハンガリー人もいるが、親露でEU加盟のハンガリー政府はロシアとEUとの安定的な和解を望んでおり、トランスカルパチア奪還に動く状況でない(今のところ)。 (Ukraine claims Hungary wants its territory) (Names of Hungarian PM, Croatian President Appear on Notorious Ukrainian Kill List Site)
ウクライナの近隣では、モルドバと沿ドニエストルも、米国側の謀略によって戦争に巻き込まれそうになっている。米国傀儡のウクライナのゼレンスキー政権は、モルドバ政府に対し、沿ドニエストルを武力で回収すべきだと要請している。沿ドニエストルはもともとモルドバの一部で、モルドバはもともとソ連の一部だった。モルドバはソ連崩壊後、ルーマニアに編入してもらうか独立国になるかで迷った末に独立国になったが、その際、モルドバ国内の沿ドニエストルだけは、ソ連の後継国であるロシアと一緒になりたいと望み、1990年にモルドバからの分離独立を宣言した。92年にモルドバと沿ドニエストルが内戦になった後、ロシアが仲裁して停戦させ、ロシア軍が沿ドニエストルに進駐して兵力引き離しを監視している。 (ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?) (Transnistria reports attack from Ukraine)
沿ドニエストルはウクライナと国境を接している。今回、ウクライナ軍は4月27日に無人爆撃機(ドローン)を沿ドニエストルのロシア軍の施設に向けて飛ばす攻撃をやっている。その後、ウクライナ政府がモルドバ政府に対し、沿ドニエストルを武力で回収すべきだ(ウクライナも協力するよ)と提案した。ロシアとの貿易が経済の重要な部分を占めているモルドバの政府は、ウクライナの提案を断った。ウクライナ政府の提案は、ゼレンスキーらが独自に考えたのでなく、モルドバとウクライナで沿ドニエストルに駐留するロシア軍を挟み撃ちにすれば、ロシアから援軍が来て本格戦争になり、ウクライナを使ってロシアを潰す戦争を扇動できて好都合だと考えた米国が、ウクライナにやらせているのだろう。 (Moldova turns down Kiev’s suggestions on Transnistria) (NATO weighs in on threat to Ukraine's neighbor)
米国側はモルドバの政治家を動かして、モルドバをルーマニアに併合させようとする動きもやっている。モルドバはルーマニア語の国で、両国は親和性が高い。モルドバはNATO加盟していないが、ルーマニアはNATO加盟国なので、モルドバがルーマニアに入ればNATO加盟地域になり、モルドバの一部だが分離独立を宣言している沿ドニエストルも、NATOやモルドバ側から見ると加盟地域になる。沿ドニエストルに駐留するロシア軍は、NATO加盟国内に居座っていることになる。モルドバがルーマニアに併合されると、NATOは沿ドニエストルの独立を否定し、そこにいるロシア軍に退去を求める。ロシアは、沿ドニエストルの民意を理由に撤退を拒否する。NATOとロシアが沿ドニエストルをめぐって鋭く対立し、事態は戦争に近づく。これは米国中枢のタイガーチームが喜びそうなシナリオだ。 (Moldova, Transnistria to enter NATO through absorption by Romania)
米国は沿ドニエストルを新たな戦場にしたいらしく、ルーマニアに兵器をどんどん送り込んでいる。戦争を拡大したがっているのはロシアでなく米国側だ。ゼレンスキー大統領のウクライナ政府も、自国民のことより米国傀儡として戦争を拡大することを最優先にしている。ウクライナ政府を支援するのはやめるべきだ。対米従属もできるだけ早くやめた方が良い。中立国になれば石油ガス資源類にも困らないですむ。 (US sending more troops to Romania - president Iohannis)
ウソだらけのウクライナ戦争
【2022年5月3日】ウクライナ戦争でウソ報道の必要性が急増し、米国では検閲体制が組まれて報道の自由が失われている。報道の自由だけでなく、国民の言論の自由も剥奪されつつある。米政府の国土安全保障省の中に「偽情報統制委員会」 “これは酷い、ウソを計画しているではないか!!” (Disinformation Governance Board)が作られ、ウクライナ戦争やその他の分野でのウソ情報・偽情報の発信者を検挙していく体制が組まれた。新委員会の任務は、米政府のウソ情報を鵜呑みにしない人々、米政府のプロパガンダを拒否して対抗してくる人々を、偽情報の発信者とみなして取り締まることにある。新委員会にとっては、ウソを信じる人が正しい人で、ウソを信じずに正しいことを言う人は偽情報を発信する犯罪者である。ジョージ・オーウェルの1984に出てくる「真理省」と同じだ。
詳しい解説
2022年5月3日 田中 宇
2月末のウクライナ開戦から2か月あまりがすぎたが、この戦争に関する米国側(米欧日)のマスコミ報道はウソだらけのままだ。「ロシア軍は戦略的に大失敗して、残虐行為や過激な破壊攻撃といった戦争犯罪をウクライナで繰り返しつつ、ウクライナ軍の果敢な反撃を受けてキエフ周辺から撤退し、ロシア系が多い東部のドンバスにいったん引きこもり、そこからゆっくり南部に再侵攻しようとしている」といった感じの報道になっているが、露軍は大失敗していないし、残虐行為も過激な破壊も戦争犯罪も犯していない。ウクライナ軍は露軍に包囲されており、ほとんど反撃できていない。露軍は4月初めにキエフから撤退したが、それはキエフ周辺のウクライナ軍の施設を大体破壊したからだ。 (市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア) (ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧)
米国側のマスコミ権威筋がウクライナ戦争に関してウソばかり報じているのは、米国と同盟諸国のマスコミ権威筋の支配的な情報源である米中枢(諜報界、米政府筋)が、そのような情報を流して報道させているからだ。ロシア側が流す情報を分析すればウソを修正できるが、米国側のマスコミ権威筋は、ロシア側からの情報を全てウソと決めつけることを米中枢からの加圧で義務づけられているので、ウソを修正できない。開戦から時間が経つほど、この米国側の言論統制が強くなり、ウソまみれの公式論以外のことを言う人は権威を剥奪される。国際問題に関する権威の付与は米中枢を頂点とする構造になっており、権威を剥奪されたら生きていけない権威筋はウソしか言えなくなっている。賢い(生き方がうまい)権威筋ほど、悩まない方が良いと直観し、余計なことを考えずウソを本気で信じる。その方がうまく権威を獲得維持できる。 (まだまだ続くロシア敵視の妄想) (権威筋や米国覇権のゾンビ化)
ウクライナ戦争の大ウソを維持するため、米政府は言論統制をどんどん強化せざるを得ない。米政府は4月に入り、新たな試みとして、米マスコミの中でCNNとブルームバーグ通信の編集者を大統領府(ホワイトハウス)の安全保障会議に出入りさせ、大統領府直結で記事を書けるようにしてやる代わりに、書いた記事を大統領府の担当者が確認し、不都合な言い回しやニュアンスを替えさせてから報道させる新しい検閲体制を組んだ。この新たな検閲体制により、米国のマスコミは政府との一体化を増大させられている。日本の戦争中の「大本営発表」をもっと巧妙にしたものだ。 (White House Holds CNN and Bloomberg 'by the Throat' Greenlighting Fakes About Russia, Source Says)
米国(や日本)では従来、政府などがマスコミに歪曲した情報を漏洩(リーク)して報道させることで似たような機能を実現していたが、マスコミ側が政府側の意図通りのニュアンスで報道してくれないことも多く、今回の戦争のようにウソが膨張していると、マスコミ側が理性を働かせてしまってウソを報道してくれなくなる可能性が増す。それを防ぐため米政府は、報道の自由を大きく侵害する検閲体制を組み始めたのだろう。 (WH 'endorses' all CNN, Bloomberg articles about Russia)
ウクライナ戦争のウソの構図を戦略的に決めているのは、大統領府の安保会議の中に作られた「タイガーチーム」と呼ばれる組織のようだ。この組織は昨年からあり、最初は「ロシアがウクライナを侵攻しそうであることへの対応策」を練っていたことになっている。実際は、米国がロシアをウクライナに侵攻させたかったのであり、タイガーチームの実際の最初の課題は「ロシアをどのように挑発してウクライナに侵攻させるか」だったのだろう。2月末にロシアがウクライナに侵攻した後、タイガーチームの名目上の課題は「ロシアがウクライナで大量破壊兵器を使いそうだが、もし使ったら米欧はどう対応すべきか」に変わった。実際の課題は「ロシアがウクライナで大量破壊兵器を使ったという濡れ衣をどうやってロシアにかけるか」であろう。ブチャ虐殺など、他の戦争犯罪の濡れ衣がタイガーチームの発案だった可能性もある。 (Russia, Ukraine Conflict: Biden Assembles ‘Tiger Team’) (ウクライナで妄想し負けていく米欧)
タイガーチームは「露軍がどこまでひどいことをやったらウクライナにNATO軍が入るべきか」も考えている。露軍に大量破壊兵器や虐殺の濡れ衣をうまくかけられたら、次は、ドイツなど欧州のNATO諸国にウクライナに進軍しろよと加圧する同盟国いじめをやる気かもしれない。バイデン政権の中枢には隠れ多極主義者がたくさん入っており、彼らは米覇権の同盟国体制を自滅させるのが隠れた目標だ。タイガーチームには分科会もあって、そこは「ウクライナ戦争によって地政学的な大状況がどう変わり、何をすべきかを考える」ことになっている。自分たちの無茶苦茶によって米覇権がうまく崩壊して多極化が進んだら、その多極化が逆戻りしないよう、中露への敵視を続けつつ米国自身は孤立主義を増していく策を採る気でないか。 (U.S. Makes Contingency Plans in Case Russia Uses Its Most Powerful Weapons) (中立が許されなくなる世界)
タイガーチームは、イラク戦争を起こしたブッシュ政権中枢のネオコンと同様、政権と覇権の中枢に陣取って、自分たちと異なる分析や戦略案を出してくる諜報界のまっとうな他の勢力からの提案を潰す役目も果たしている。以前に紹介したスイスの諜報専門家であるジャック・ボーは「昨年来、ウクライナの状況を正確に把握している欧米の諜報機関がまったくなくなってしまったことに驚く。多くの諜報機関は、マスコミが報じているインチキと同じものをウクライナに関する諜報の結論にしてしまっている」と言っている。NATO諸国の全体で、タイガーチームに楯突くまっとうな分析を出してくる諜報員は潰される仕組みが作られているのだろう。ジャック・ボーの怒りは当然だが、彼は欧州人だし元当局者なので、米中枢の仕組みに関する深読みをしていない(彼はもともと軍産・権威筋内部の専門家で、今回は諜報界がひどい状態になっていることに対する義侠心から表に出た)。バイデン政権は、トランプと違うやり方で、予定通り順調に米国覇権を自滅させている。 (Jacques Baud: “The Military Situation In The Ukraine”) (ウクライナ戦争で最も悪いのは米英)
タイガーチームのような組織は、巨額の裏金・裏の予算を持っている。ウクライナ開戦後、米国は臨時の予算を組んでウクライナへの軍事支援を急増させている。しかし、米政府が米国内の軍事産業に作らせてウクライナに送り込んだことになっている巨額の兵器群のほとんどが、実際にウクライナ軍の現場に届いているのかどうか確認できず、追跡手段も作られていない。ウクライナ軍部隊の多くはすでに露軍に包囲され、米国などが兵器を送っても受け取れる状況にない。米国がウクライナに送ったはずの兵器の大半は、たぶん兵器の製造すら行われておらず、米政府が払った資金を軍事産業が管理して、それがタイガーチームの下請けのシンクタンクや実働部隊に分配されているのだろう。 (US weapons for Ukraine disappearing into 'black hole')
たとえば英国軍は、軍事諜報の専門家をウクライナ内務省に派遣して、ウクライナ内務省の国家警察や極右民兵団が露軍に濡れ衣をかけるための虐殺現場を演出するのを手伝っている。ブチャ虐殺の騒動演出の直前、現場に向けて英国人の車両が走っていったことを、ベラルーシの諜報機関が把握している。英諜報界は米政府のタイガーチームの下請けとして、ウクライナで露軍に濡れ衣をかける現場の担当者をしている。英政府は金欠なので、英諜報界は米国防総省の裏金を使っているはずだ。 (Bucha was "BRITISH JOB" Lukashenko claims.) (濡れ衣をかけられ続けるロシア)
英諜報界はウクライナに、化学兵器使用の濡れ衣をかけたプロである「白ヘルメット」を連れてきている。英諜報界はシリア内戦時に、シリア政府軍に空爆された反政府派(テロリスト。ISアルカイダ)が支配する街で瓦礫の中から市民を救助することで有名になった市民組織(のふりをしたテロリストの集まり)「白ヘルメット」の創設を手伝い、支援援助もしていた。白ヘルメットは、救援活動をするふりをして、シリア政府軍の空爆直後に現場に塩素などの毒性の物質を噴霧して市民に被害を負わせ、アサド政権のシリア政府軍が化学兵器で市民を攻撃したという話をシリア各地ででっちあげることを繰り返した。塩素は、ISカイダを支援するトルコ軍が供給していた。 (いまだにシリアでテロ組織を支援する米欧や国連) (シリア内戦 最後の濡れ衣攻撃) (露イランのシリア安全地帯策)
この英国系の策略は米国の下請けで行われていたらしく、米英は化学兵器使用を調査する国際機関OPCWを動かして歪曲的な現地調査をさせ、シリア軍に対し、化学兵器を使ったという濡れ衣をかけることに成功した。OPCWの現地調査団は、化学兵器が使われていないといったん結論づけたが、OPCWの上層部から圧力をかけられて結論を歪曲させられた。シリア軍は内戦前に自主的に米英の監督のもとで化学兵器を全て処理しており、化学兵器攻撃をやるはずがない。マスコミのウソ報道と裏腹に、シリア政府軍は1回も化学兵器を使っていない可能性がとても高い。私はそれを記事にしている。ロシアは、シリア内戦でアサド政権を助けて勝たせており、白ヘルメットの戦争犯罪やOPCWのウソを指摘したが、英米の詭弁に対抗しきれなかった。 (シリア政府は内戦で化学兵器を全く使っていない?) (Canada Reveals It Paid White Helmets $4 Million Annually After It Cuts Ties ) (OPCW: Investigation Into Two Alleged Syria Chemical Attacks Inconclusive)
英国は今回のウクライナ戦争の現場に、シリアから白ヘルメットの部隊を連れてきている(シリア内戦がアサド政権の勝ちに終わり、負け組になった白ヘルメットの人々はトルコ軍が占領する北シリアに住んでいた)。ウクライナに連れてこられた白ヘルメットの人々は、ウクライナ内務省や極右民兵団に、ロシア軍が化学兵器を使って市民を殺したという濡れ衣を演出するやり方を教えているはずだ。英政府は金欠だから、白ヘルメットの活動費用なども、米政府が軍事産業に発注したはずの兵器類で作った裏金が流用されている可能性がある。 (Opinion: The Syrian White Helmets are ready to help Ukraine) (NATO White Helmets follow al-Qaeda to Ukraine)
ロシア政府は、米英が化学兵器使用の濡れ衣を露軍にかけようとしていると、何度か警告している。実際の濡れ衣事件はまだ挙行されていない。米英側がタイミングを見計らっているのかもしれない。シリア内戦でアサド政権を擁護してきたロシア政府は、米英が白ヘルメットなどの現場部隊を使ってどのようにシリア政府軍に化学兵器使用の濡れ衣をかけてきたか、つぶさに見ている。ウクライナ戦争では、ロシア自身が、米英や白ヘルメットから、化学兵器使用の濡れ衣をかけられそうになっている。ロシアの政府や軍は、この濡れ衣戦争にどう対抗したら良いか、かなり前から考えているはずだ。これからの展開が注目される。 (White Helmets group shares tips with Ukrainians) (US comments on chemical attack accusations against Russia) (Kiev May Fake 'Russian Strike' on Ukrainian Naval Base to Destroy Odessa Cold Storage Complex: MoD)
米国防総省は1980年代から、巨額の予算をとってその一部(大半)を秘密作戦の費用に使うことをやってきた。自作自演臭が強い911テロ事件の前にアルカイダを育てるための資金も、そうした裏金が当てられたと考えられる。米国は、経済成長したら非米的な地域になりそうなアフリカ諸国を潰しておくため、アフリカ諸国の軍の幹部を米軍の学校で教える際に、クーデターのやり方も教え、アフリカでクーデターが頻発して政治的な不安定や内戦が永続し、アフリカが永久に経済成長できないようにしてきた。アフリカのどこかの将校が米国からの留学後に自国でクーデターを起こす際に、米国防総省の裏金が使われていた可能性もある。2014年のウクライナでの政権転覆や、その後の極右民兵団の育成にも、米国防総省の裏金が使われたはずだ。国防総省の裏金は、実態が全く不明のまま何十年も放置されている。この裏金がなかったら、世界の何百万人かが殺されずにすんだ。米国は人類を不幸にしている。米覇権にぶら下がって安穏としている同盟諸国はもっと悪い。 (米軍の裏金と永遠のテロ戦争) (The US Military Is Training Third World Coup Leaders Again)
ウクライナ戦争でウソ報道の必要性が急増し、検閲体制が組まれて報道の自由が失われていることから派生していろいろ書いた。話を戻す。米国では報道の自由だけでなく、国民の言論の自由も剥奪されつつある。インターネットの大企業が運営するSNSでは、かなり前からトランプ支持者や、新型コロナや地球温暖化やウクライナ戦争のウソなどに対して自然な疑問を持つ人が、運営企業から登録削除などの言論封殺の被害あっている。4月27日には、米政府の国土安全保障省の中に「偽情報統制委員会」(Disinformation Governance Board、偽情報管理会議)が作られ、ウクライナ戦争やその他の分野での「ウソ情報・偽情報(とレッテル貼りされる、実は正しい情報)」の発信者を捜査・検挙していく体制が組まれた。 (New Disinformation Governance Board better suited for dictatorships: Gabbard) (Who Is Nina Jankowicz? Head of Joe Biden's Disinformation Governance Board)
ウクライナ戦争に関してウソや偽情報を最も発信しているのは、すでに書いたように大統領府の安保会議を頂点とする米政府自身である。この新委員会は、まず米政府自体を取り締まらねばならないのだが、もちろんそんな話にはならない。新委員会の任務は、米政府が発するウソ情報を鵜呑みにせず、ウクライナ戦争の実際の状況はこんな風になっているんだと真実を語る人々、米政府のプロパガンダを拒否して対抗してくる人々を、偽情報の発信者とみなして取り締まることにある。新委員会にとっては、ウソを信じる人が正しい人で、ウソを信じずに正しいことを言う人は偽情報を発信する犯罪者である。これは全く、ジョージ・オーウェルの1984に出てくる「真理省」と同じである。ウクライナ戦争のウソに気づいているオルトメディアの分析者らは、この新委員会を「バイデンの真理省」と呼んでいる。 (Disinformation Governance Board: Biden’s ‘Ministry of Truth’) (New so-called ‘Ministry of Truth’ actually just a ‘Disinformation Governance Board’, which is precisely the opposite: DHS)
バイデンの真理省が取り締まりの対象としている分野はウクライナ戦争やロシア関係だけでない。バイデン大統領の息子のハンター・バイデンが父親の代理として中国やウクライナの政府系企業から資金(賄賂)を受け取っていた疑惑について語る人も、たぶん取り締まりの対象になる。バイデン政権の、大失敗している移民政策などを悪く言うことも、偽情報の流布とみなされうる。これらを語る人のほとんどは共和党支持者だから、真理省はバイデンが対立政党を潰すための機関でもある。いずれ米国の政権が交代すると、何が真実かも正反対になる。バイデンや民主党は、真理省を最大限に活用して共和党やトランプを「捜査」し、共和党の台頭を防ごうとするだろう。民主党系ネット大企業の独裁を破壊しようとするイーロン・マスクも逮捕されうる。米国はどんどん腐敗した国になっていく。・・・と言った途端に、それが偽情報発信の犯罪行為となる。 (Liberal media, watchdogs 'utterly asleep at their keyboards' on Biden’s Disinformation Governance Board) (On April 21 Obama Said Social Media Censors “Don’t Go Far Enough” – 6 Days Later Puppet Joe Biden Rolls Out “Ministry of Truth”)
ウクライナ戦争がウソだらけなのは、米英が作っているウソをプーチンのロシアが根強く訂正せず、ウソを放置しているからでもある。何度も書いているが、ウクライナ戦争が長期化するほど、この戦争で作られている米国側と、露中など非米側との決定的な対立構造が長く続き、資源や食料を握る非米側が優勢になり、米国側はインフレが金融崩壊に発展して破綻・敗北していく。米英が作ったウソの構図をロシアが放置した方が、この戦争は長期化する。それを知っているプーチンは、露政府にウソをあまり訂正させず放置している。露軍はウクライナでの戦闘をゆっくり展開している。これも長期化のためだ。米国側のマスコミ権威筋は、戦争は急いで終わらせないと失敗なので露軍は負けているとしたり顔で言っているが、全く間抜けである。 (米露の国際経済システム間の長い対決になる) (Pelosi's 'Victory' Rhetoric During Surprise Trip To Kiev Making Some Allies Nervous)
日本にも真理省が作られる前に記事を配信したいので (笑)、今回はこのへんでやめておく。
◆ロシアを皮切りに世界が金本位制に戻る
【2022年4月30日】ロシア政府が「金資源本位制」の導入を検討していることを正式に認めた。3月末からロシア中銀が1g5000ルーブルの固定相場で国内銀行から金地金を買い始め、金本位制への移行が感じられていた。これまで非公式だった金資源本位制の導入が今回正式なものになったことは、この導入がうまくいきそうだと露政府が考えていることを感じさせる。金本位制の導入は人類にとってニクソンショック以来51年ぶりだ。QEの終了によっていずれ米国側の金融が大崩壊してドル基軸が喪失すると、日米欧の米国側も通貨の立て直しのために金本位制を導入せざるを得なくなる。世界はドル崩壊と金本位制に向かっている。
ウクライナ戦争で最も悪いのは米英
【2022年4月29日】米英は、ごろつきだったウクライナの極右ネオナチの人々を集めて訓練して武装させ、ウクライナ人だけでは足りないので欧米諸国からも募集して合流させた。米英は、極右やネオナチを集めて民兵団を作り、8年間にわたってロシア系住民を虐殺させた。米英の行為は極悪な戦争犯罪である。米英がウクライナに作って育て、親露派を虐殺し続けた極右ネオナチの民兵団を潰すのが、今回のロシアのウクライナ攻撃の目標の一つである「ウクライナの非ナチ化」になっている。正当な目標だ。ウクライナ戦争はロシアにとって正当防衛だ。
詳しい解説
2022年4月29日 田中 宇
NATOの要員として2014年以降にウクライナ軍のテコ入れ策を担当していたスイス軍の元情報将校ジャック・ボーは、私が見るところ、今回のウクライナ戦争が起きた経緯について、最も詳しく語っている専門家だ。ボーによると、ウクライナ政府軍は当時(も今も)士気がとても低く、ウクライナ東部ドンバス2州のロシア系住民の親露派民兵団と戦っている時期、脱走者が多く、戦死者よりも、病死や交通事故、自殺、アル中などの死者の方が多かった(2018年の実績)。米英は、2014年にウクライナの政治運動を扇動して当時の親露政権を転覆し、ロシア敵視・米英傀儡の極右政権を作って、ドンバスの親露派を攻撃させてウクライナ内戦を引き起こした。だがウクライナ政府軍が弱すぎたため、米英主導のNATOがウクライナ軍をテコ入れすることになり、ボーがその担当者の一人としてウクライナに駐在した。ボーはまさに、今回のウクライナ戦争の前段階の状況を作った当事者だった。軍事専門家のボーは国連要員などとしてソ連崩壊直後のロシアに派遣され、ソ連軍・ロシア軍の改革を手伝った経験があり、ロシアやウクライナの軍事状況に詳しい。 (Jacques Baud: The Road to War)
ウクライナ軍は腐敗していたため国民に不人気で、2014年の政権転覆・内戦開始後に徴兵制を敷いたものの、徴兵対象者の7割が不出頭だった(2017年秋の実績)。多くの若者が徴兵を嫌って海外に逃げ出していた(若者の海外逃亡の結果、国内で若手の労働力が不足した)。予備役を集めて訓練しようとしても7割が出頭せず、訓練の会合を重ねるほど出席者が減り、4回目の訓練に出席したのは対象者の5%しかいなかった(2014年3-4月の実績)。ボーらNATOの担当者たちはウクライナ国内での政府軍のイメージを改善しようとしたが短期間にできるものでなく、行き詰まった。 (NATO lies exposed! Former agent speaks out!)
(ウクライナで政権が極右側に転覆されて内戦が始まると、政府軍からの脱走兵が急増した。ロシア語が母語のロシア系住民と、ロシア系でないが極右政権がとても嫌いな人々を合計すると、かなりの割合〈国民の4割ほど?〉になる。軍内にいたその手の人々が集団で脱走し、兵器など装備を持って親露派民兵団に合流した兵士も多かった。部隊ごと親露側に寝返るケースも多発し、彼らがもたらす兵器や装備で、親露民兵団は政府軍と十分に戦えた。ロシア軍はドンバスに兵器を支援しなかったことがOSCEの監視で確認されているが、その理由は寝返りによる政府軍からドンバスへの兵器流入だった)
親露派民兵団やロシア側に対抗できる兵力を急いで持つことを米英から要請されていたウクライナ政府は、政府軍の改善をあきらめ、代替策として、ウクライナ国内と、NATO加盟国など19の欧米諸国から極右・ネオナチの人々を傭兵として集め、NATO諸国の軍が彼らに軍事訓練をほどこし、政府軍を補佐する民兵団を作ることにした。極右民兵団の幹部たちは、英国のサンドハースト王立士官学校などで訓練を受けた。民兵団は国防省の傘下でなく、内務省傘下の国家警備隊の一部として作られた。ボーによると、2020年時点でこの民兵団は10万2千人の民兵を擁し、政府軍と合わせたウクライナの軍事勢力の4割の兵力を持つに至っている。ウクライナ内務省傘下の極右民兵団はいくつかあるが、最も有名なのが今回の戦争でマリウポリなどで住民を「人間の盾」にして立てこもって露軍に抵抗した「アゾフ大隊」だ。
NATOの米英仏加は、2020年から民兵団の幹部たちを自国に招待して軍の学校で訓練をほどこす「センチュリア・プロジェクト」を行っていた。米英仏加はいずれもナチスへの礼賛を禁止しており、それなのにウクライナのネオナチ幹部を自国の軍事学校に招待して訓練したので、この事業はユダヤ差別反対運動やイスラエルから批判された。しかし米英仏加は、ウクライナのネオナチ幹部に対する軍事訓練をやめなかった。 (Western countries training far-right extremists in Ukraine) (Far-Right Group Made Its Home in Ukraine’s Major Western Military Training Hub)
ウクライナ周辺はもともと中世にユダヤ教を国教の一つにしたハザール王国があった関係で、ユダヤ教徒が多数いる。ハザールは、ユダヤ人の多数派である「アシュケナジ(ドイツ系)」の発祥の地になっている(しかし、すべてのユダヤ人はローマ時代にイスラエルに住んでいた人の子孫であるという建前を守るため、中東と全く無関係な東欧人がユダヤ人の多数派であることは言ってはいけないことになっている。これはボーでなく私の認識)。ウクライナには世界最大のユダヤ人コミュニティがあった(現状で5万-40万人と概算されている。ウィキペディアによると世界で12番目に大きなユダヤ人コミュニティ)。同時にウクライナは、強いユダヤ人敵視の流れもある。かつてロシア革命の立案者・参加者(共産党幹部、NKVD)の中にユダヤ人が多く、革命後のソ連共産党がウクライナ人を大量に餓死させるホロドモールを引き起こしたことから、共産党=ユダヤ人を憎む文化的素地があり、それがウクライナでの極右・ネオナチ運動の根幹にあるとボーは説明している。 (How many Jews live in Ukraine and where?) (History of the Jews in Ukraine - Wikipedia)
アゾフ大隊など極右民兵団は、2014年の米英による極右政権への転換後、ウクライナ国内のユダヤ敵視の流れに沿って、米英の動きと関係なく形成されたように最近の米国側のマスコミでは描かれている。しかし実のところ極右民兵団は、米英などNATO諸国が、ウクライナの親露派を攻撃するウクライナ軍を強化するために、ウクライナにもともといた極右に加えて、欧米諸国から極右ネオナチ勢力を傭兵として募集して人数を増やし、NATO諸国が軍資金を出して訓練をほどこして養成したものだ。政権転覆直後という時期的な一致から考えて、ウクライナの極右民兵団を創設・出資・養成した黒幕は米英だった可能性が高い。ボーの説明からそれが読み取れる。 (ウクライナで妄想し負けていく米欧)
米英は、それまでやくざなごろつきだったウクライナの極右ネオナチの人々を集めて訓練して武装させ、ウクライナ人だけでは足りないので欧米諸国からも募集して合流させたのだろう。極右やネオナチに対して極悪のレッテルを貼っている米英自身が、極右やネオナチを集めてカネを出して民兵団を作り、8年間にわたってロシア系住民を虐殺させた。米英の行為は極悪な戦争犯罪である。米英がウクライナに作って育て、親露派を虐殺し続けた極右ネオナチの民兵団を潰すのが、今回のロシアのウクライナ攻撃の目標の一つである「ウクライナの非ナチ化」になっている。正当な目標だ。ウクライナ戦争はロシアの「侵攻」でなく「正当防衛」だ、と言っているロシア側は正しい。 (市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア)
(ボーがそれまでの沈黙を破ってウクライナにおける米英の8年間の戦争犯罪の経緯をしてはし始めた理由は、彼も米英のやり口に対する人道的な怒りを持ち、マスコミ権威筋が歪曲的なロシア敵視報道に終止していることにも怒りがあって、義侠心から自分の経験を話し出したのだと思われる。彼は正しいことを言ったので、マスコミ権威筋から陰謀論者のレッテルを貼られている) (Jacques Baud - Wikipédia)
なぜ米英はウクライナを傀儡化して親露派を殺す内戦をやらせたのか。親露派はウクライナ国内での自治の復活を求めていただけで、米英にとって何ら脅威でなかった。米英はウクライナに傀儡政権を作って親露派が2012年から持っていた自治を剥奪し、親露派が怒って分離独立を宣言すると極右民兵団を作って親露派を殺す内戦を起こした。なぜこんなことをしたのか。おそらく、ロシアを怒らせ、親露派を守ってやらねばという気にさせて、露軍をウクライナに侵攻させるためだろう。露軍がウクライナに侵攻したら、米英はロシアを経済制裁する口実ができる。米欧とロシア(露中)が鋭く対立し続け、ロシアや中国を弱体化する新冷戦体制を作れる。米英は今回の戦争をロシアに起こさせるために、8年前にウクライナの政権を転覆したことになる。
(米国は2014年にウクライナの政権を転覆してロシアを怒らせるウクライナの内戦を引き起こしたが、同時期の2015年には米国が起こしたシリア内戦の後始末をやりきれなくなった米国が、ロシアに頼んでシリアへの軍事支援を開始してもらっている。米国は、ウクライナでロシアを弱体化しようとした半面、シリアではロシアを影響圏拡大・中東の覇権国の地位へと誘導しており、矛盾している。今回のウクライナ戦争も、これから金資源本位制の導入などでロシアと非米諸国が覇権を得ることにつながるので、今後予測される展開も含めて考えると、シリアもウクライナもロシアと非米側を強化する隠れ多極主義の策なのだが) (シリアをロシアに任せる米国) (プーチンが中東を平和にする)
私独自の論に入りすぎた。ジャック・ボーの話に戻る。ボーも、米国がウクライナに介入するのはウクライナを守るためでなく、ウクライナを傀儡化してロシア(国内親露派)にかみつかせ、ロシアを怒らせてウクライナ侵攻させることが目的だった、と指摘している。しかし、プーチンのロシアはなかなかウクライナに侵攻しなかった。ロシアは当初、ウクライナ内戦を停戦させる交渉の参加者にもならなかった。最初の停戦協議であるミンスク合意は、プーチンの盟友(子分)であるベラルーシのルカシェンコ大統領によるお膳立てで進められ、ウクライナ政府が、国内の親露派(ドンバスの民兵団)から剥奪した自治権を戻すことで合意いったんした。ロシアは、ドンバスが自治を再獲得してウクライナ領内にとどまることを望んでいた。しかし、米英傀儡のウクライナ政府は合意を履行せず、ドンバスの内戦は続いた。2015年に仏独がロシアを誘ってミンスク合意の交渉に参加し、仏独露が参加したことで合意は「ミンスク2」に再編されたが、それでもウクライナ政府はドンバスに自治を再付与せず、内戦が続いた。 (ウクライナ再停戦の経緯)
独仏は米英の傀儡として、ロシアを交渉に引っ張り込むことでロシアを交渉当事者に仕立て、ロシアが怒ってウクライナに侵攻することに道を開こうとしたが、ロシアはウクライナに侵攻せず、ウクライナの政府とドンバス民兵団が交渉して自治を再生することを目標にし続けた。ロシアがウクライナに侵攻すると、米欧とロシアの関係が決定的に悪化し、今起きているような新冷戦体制になってしまう。プーチンはそれを望まず、米露関係が何とか維持され、ロシアが米国の覇権を尊重する見返りに、ロシア経済が米経済覇権体制下で発展していく道をあきらめていなかった。プーチンの希望と裏腹に、米英は過激(私から見ると隠れ多極主義的)なロシア敵視をやめず、ウクライナ内戦を扇動し続けた。 (Jacques Baud Discusses Putin's Demilitarisation and Denazification of Ukraine) (まだまだ続くロシア敵視の妄想)
ウクライナ政府に内戦を終わらせて親露派に自治を再付与させるというロシア側の希望が潰えたのは昨年(2021年)3月、ゼレンスキー大統領が、ロシアに奪われたクリミアを軍事的に再征服する法律に署名し、その法律を根拠として、ウクライナ軍が南部のドンバスとの境界の近くに兵器を蓄積する動きを始めた時だった。このウクライナの新戦略は、米国のランド研究所が2019年に作った、ウクライナに兵器を支援してロシアと長い戦争を戦わせる戦略に沿った動きだった。昨年秋になると米国側が「いつロシア軍がウクライナに侵攻してもおかしくない」と言い出すようになった。そして、今年2月16日、ウクライナ軍が蓄積した兵器を使って、それまでの30倍の激しさでドンバスを攻撃し始めた。その後、激しい猛攻撃が連日続いた。米バイデン大統領は2月11日から「間もなくロシアがウクライナを侵攻する」と言っており、2月16日からのウクライナ軍のドンバスへの猛攻撃は、露軍の侵攻を誘発したい米国の指示で行われた可能性が高い。 (ロシアがウクライナ東部2州を併合しそう) (ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも)
ロシア側も、ウクライナ軍がドンバスを猛攻撃し始めることは知っていたようで、2月14日にロシア議会がドンバスが望むウクライナからの分離独立をロシアが承認することを決議し、あとはプーチン大統領の署名だけで発効するようにした。2月22日にプーチンが署名し、ロシアとドンバスが安保条約を結び、ウクライナ軍から猛攻撃を受け続けるドンバスが2月23日にロシアに軍事支援を依頼し、新条約に沿って2月24日に露軍がウクライナに侵攻(特殊作戦)を開始した。 (ロシアを制裁できない欧米)
露軍はドンバス周辺だけでなく、キエフなど他の地域にも侵攻し、ウクライナ全体の制空権を奪取した。ドンバスを守るならもっと小規模に、ドンバスだけに侵攻するのでも良かったはずだが、露軍は大胆に、ウクライナ全体を作戦の対象にした。その理由についてボーは「露の進軍先がドンバスだけだったとしても、手ぐすね引いて待っていた米国は、ロシアを過激に全面的に経済制裁したはずだ。それならドンバスにとって脅威になるウクライナ側の軍事施設を全て破壊した方が良いとプーチンは考え、広範な攻撃に踏み切った」という趣旨の分析をしている。 (US, EU Sacrificing Ukraine To "Weaken Russia": Former NATO Adviser)
私自身は、この要素に加えて、米国側の対露経済制裁がロシアでなく米国側の経済を破壊することになる特性が勘案されたのでないかと考えている。露軍のウクライナ攻撃が広範なものであるほど、米国側は激怒し衝撃を受けてロシアを過激に経済制裁し、その後の米国側の経済的な自滅もすごいものになる。米国側の経済自滅をすごいものにするために、プーチンは米国側をできるだけ激怒させる広範な攻撃をウクライナに行ったのだろう。 (優勢なロシア、行き詰まる米欧、多極化する世界) (ドルを否定し、金・資源本位制になるロシア)
実際の露軍の攻撃はウクライナの諸都市の市街をできるだけ壊さないように進められたのに、欧米の諜報機関は露軍がウクライナ諸都市を無差別に大破壊しているという大間違いの分析をしている、とボーも言っている。諜報界の人であるボーは嘆いている。米軍は侵攻したイラクでもリビアでも、真っ先に国全体のインフラを全破壊した。対照的に露軍は今回ウクライナのインフラをできるだけ破壊せず、機能させ続けている。交通網も電力ガスもインターネットも、ウクライナ軍が猛攻撃してきた一部地域を除き、機能し続けている。こうした状況を米国側は無視している。ボーは、分析を歪曲しているのは政治家だとも言っている。 (“The policy of the USA has always been to prevent Germany and Russia from cooperating more closely”)
長いデータで大変でしたが、これでは確かに形は変わったにせよ世界を震撼させていることから見れば第三次世界戦争と言われても仕方がないと思う。 しかも精神的疲弊を招来する方法としてはウソどころの範疇に収まりません。
あらゆる人たちの中から、この世界的大騒動の悲劇を終わらせる方法をまとめ合う人達が必ず出てくると思います(歴史が変わっていく原理です)。 何とかしなければならないのです。