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続折々の記 2022 ⑨
【心に浮かぶよしなしごと】
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【 05】09/02
     田中宇の明るい国際ニュース解説が出た   世界はどう動いているか
        ユーラシアの逆転と日韓米軍の撤退
        中露主導の朝鮮半島和平への道筋をつけるロシア

 2022/09/02
田中宇の明るい国際ニュース解説が出た
世界はどう動いているか

ユーラシアの逆転と日韓米軍の撤退
 【2022年8月29日】ユーラシアを席巻した中露は今後、ユーラシアを外側から包囲してきた韓国と日本の米軍基地を撤去させようとする。在韓米軍の撤退は、これから中露が朝鮮半島の和平仲裁を主導していく際の最終目標になっていく。半島和平を成功させる最重要点は、和平や米軍撤退が実現しても北朝鮮の金家の独裁体制が内部崩壊しないという自信を北の上層部に持たせることだ。北朝鮮はこれまで、南北の戦争状態や在韓米軍の脅威を使って国内を結束させて独裁を維持してきた。うかつに和平を達成すると、北の国内で金家の独裁を支持する洗脳が解け、政権や国家が崩壊しかねない。北の上層部は、その懸念がある限り和平を進めない。

◆中露主導の朝鮮半島和平への道筋をつけるロシア
 【2022年8月27日】ロシアは、北朝鮮に恩を売っても、それを利用して朝鮮半島和平の主導役になろうとはしていない。ロシアにとって、これからの半島和平の主導役は自国でなく中国である。米国も、中国が半島和平の主導役になることを望んできた。ロシアは、北朝鮮に言うことを聞かせる政治力を構築し、これから中国が米国に替わって半島和平を主導する際に、ロシアが対北政治力を使って中国を補佐することで、中国に恩を売りたい。


ユーラシアの逆転と日韓米軍の撤退
   https://tanakanews.com/220829eurasia.htm
2022年8月29日   田中 宇
この記事は「中露主導の朝鮮半島和平への道筋をつけるロシア」(田中宇プラス)の続きです。

ロシアは今年2月のウクライナ開戦後、中国やインド、イラン、トルコなど非米諸国を誘い、ユーラシア大陸の非米化を進めている。ロシアはまず、欧州に売れなくなった石油ガスなどの資源類を非米諸国に安く売ることで、非米諸国が米国主導の対露制裁に乗らないようにした。開戦後、資源類の国際価格が上がったので、安く売ってもロシアは前より儲かっている。非米諸国間の資源類の貿易決済には、米国側のSWIFTでなく、ロシアや中国が開発してきたSWIFT代替の非米諸国通貨建ての決済システムを使い(露SPFS、中CIPS)、中国も非米諸国との貿易に非米決済システムを使う傾向を強めている。中国は習近平が政権についた2014年から、ユーラシアの経済覇権戦略として一帯一路を進めてきた。これまで一帯一路は停滞していた部分もあるが、ウクライナ戦争でロシアが中国も誘って非米化に積極的になったことで一帯一路も加速されている。 (資源の非米側が金融の米国側に勝つ)

米国の監視下にあるSWIFTやドル建て決済を使った貿易など経済行為はすべて米国側に知られてしまうが、非米決済システムを使った貿易・経済行為は米国側に知られずに進められる。米国側は、露中主導のユーラシアの非米化の状況を把握できなくなっている。米国側のマスコミは中露敵視のプロパガンダ機関なので、中露の非米化策を悪しざまに失策として描きたがることもあり、非米化や多極化は米国側の人々が気づかないうちに隠然と進んでいく。国連では、加盟国の3分の1しか対露制裁を支持しなくなった。 (Escobar: Geopolitical Tectonic Plates Shifting, Six Months On...) (Only one in three UN members back new anti-Russia resolution)

もし今後、一帯一路など中露によるユーラシアの非米化策が大幅に停滞して決定的に失敗したとしても、それによってユーラシアの経済覇権が米国側に戻ることはない。米国側は1997-8年のアジア通貨危機後の四半世紀にわたり、中東以外のユーラシアの多くの地域で経済覇権をほとんど放棄してきた。冷戦終結後しばらくは、米国側(欧米)がユーラシア内陸部を発展させる構想(日本も90年代前半に環日本海経済圏構想など)があり、米国側がユーラシアの経済覇権を握ろうとしていたが、それらの動きはアジア通貨危機後に下火になった(環日本海は、日本が米国に言われて進めた構想だったことになる)。 (ユーラシアの非米化) (American Hegemony and the Politics of Provocation)

アジア通貨危機から3年後の2001年には911テロ事件が起こり、米国は、アルカイダなどイスラム主義のテロリストをこっそり育ててユーラシア各地でテロをやらせ、それを口実で米軍がアフガニスタンやイラクなどを占領する自作自演の「テロ戦争」の軍事覇権戦略をやり出した。米国側の覇権戦略は軍事面が席巻し、経済面はないがしろにされた。米国側はそれ以来ずっと、ユーラシア内陸部の経済発展にほとんど貢献していない。米国側は、テロリストを育ててユーラシアの安定と発展を壊すだけの勢力になった。 (アルカイダは諜報機関の作りもの) (多極化の申し子プーチン)

米国に代わってユーラシアの安定と発展を手がけるようになったのは中露だった。911事件の前年の2000年初にロシアの政権を握ったプーチンは、中国との国境紛争をすべて解決して中国との結束を強化した。中露は、両国の間にある中央アジア5か国も入れて、ユーラシアの安定と発展を推進する「上海協力機構」を作った。上海機構は、テロリストを育ててユーラシアを不安定化しようとする米国に対する防御策であると同時に、ユーラシアを安定・発展させるための中露協働の覇権組織でもあった。911後、米国はアフガニスタンを占領し、中央アジアや新疆ウイグルにテロ行為を輸出しようとしたが、上海機構がテロ拡大を食い止めた(中国共産党がウイグル人のイスラム主義者たちを収容所に入れたのは、中国にテロを輸出しようとした米国の国際犯罪への対策ということになる)。 (プーチンの新世界秩序) (立ち上がる上海協力機構)

上海機構はその後、印度パキスタンやイラン(今年)が加盟国になり、トルコやサウジアラビア、アルメニア、アフガニスタン、ベラルーシなどのユーラシア諸国が準加盟(オブザーバー、対話伴侶、申請中含む)になっており、ユーラシアを代表する国際安全保障機関に成長した。上海機構は、ユーラシアの非米側を代表する国際機関でもある。サウジやトルコ、印パなど、米国とつながっている諸国も参加しているが、それらの国々は非米的な色彩も持っており、上海機構への参加は非米側との協調を強化する策として行われている。近年、中東での米国覇権低下に合わせて非米的な色彩を強めているイスラエルも上海機構への加盟を希望している。 (非米化で再調整が続く中東) (多極側に寝返るサウジやインド)

米国側はユーラシアで上海機構に対峙する国際組織を持っておらず、米国とユーラシア各国との2国間関係だけが頼りだが、昨夏の米軍アフガニスタン撤退に象徴されるように、米国の影響力は低下し続けている。今後たとえ中露がユーラシアの運営に失敗したとしても、その空白を埋める形で米国側の影響力がユーラシアで拡大することはない。そもそも中露は、冷戦後の米国が1990年代末にユーラシア進出を放棄した後の空白を埋めただけだ。米国はその後ずっとユーラシアに戻ろうとしていない。アフガニスタン占領も、米国に目的意識が感じられず、中露に脅威を感じさせて結束させてユーラシア覇権を取らせるための隠れ多極主義の策でしかなかった。 (多極化の進展と中国) (米露逆転のアフガニスタン)

ユーラシアの覇権は、すでに不可逆的に中露が持っている。中央アジアの石油ガス利権の多くは中国のものになった。昨年の米軍アフガン撤退と、今年からのウクライナ戦争は、中露のユーラシア覇権を強化する働きをしている。バイデンの米国は選挙前のインフレ対策(石油ガス相場引き下げ策)として、石油ガス産出国であるイランと核協定を結び直そうとしているが、イランはウクライナ開戦後、ロシアがユーラシアの貿易システムの非米化を進めてくれたおかげで、米国側からの経済制裁に関係なく、中露などユーラシアの非米諸国と貿易を拡大できるようになった。イランにとって米国との核協定の結び直しの重要性が下がった時に、米国がイランと核協定を結び直したがっている。米国の愚策(隠れ多極化策)が、イランを優勢にしている。イランは、核協定がどうなるかに関係なく、ユーラシアの非米化に貢献していく。 (イラン核協定で多極化) (インドへのパイプラインでアフガンを安定化するプーチン)

イランとロシア、それから露イランと親しいカタールは世界の3大ガス産出国だ。3か国で世界の天然ガス埋蔵量の6割を占める。3か国は、ガス供給のカルテルを作って米国側へのガス輸出価格をつり上げたい。これまでは消費者である米国側の覇権が強くて不可能だった露イラン結束によるガス価格つり上げ策が、ウクライナ戦争による転換でやれるようになった。この手の転換・非米側台頭があちこちで起きている。 (Are Iran And Russia Moving To Create A Global Natural Gas Cartel?)

米国は、ペロシ下院議長が訪台するなど、中国との敵対関係を強めている。米国が中国敵視を強めるほど、中国共産党の上層部では、ロシアやイランと組んでユーラシアを非米化して米国覇権に対抗しようとする習近平の力が強まり、米国と協調しようとする胡錦涛までのリベラル系勢力が弱まる。ペロシ訪台など米国の中国敵視策は、中国を非米化し、中露結束を強化し、プーチンを助けてしまっている。ペロシ訪台も、隠れ多極化策である。 (中国に非米化を加速させ米覇権衰退を早めたペロシ訪台) (Real Taiwan crisis is only starting – WaPo)

ユーラシアは不可逆的に中露のものになっている。ユーラシア大陸を外側から支配してきた米国(米英)が退潮し、大陸を内側から支配する中露が台頭している。これは、地政学の逆転である。地政学は英国が作った学問の体裁をとった戦略であり、英米がユーラシアを外側から包囲・支配することで全世界の覇権を持ち続けられるという話だ。 (世界資本家とコラボする習近平の中国)

地政学は、ユーラシアにおける英米の優勢を前提としている。今のように、大陸の外側の英米よりも内側の中露が優勢になった場合に世界の覇権や米英がどうなるかという展開は歴史上初めての経験だ。19世紀末に資本家(多極主義者)がシベリア鉄道を開通し、ロシアがユーラシア内側の統一された初の勢力になって以来、内側と外側が対立する事態になったが、これまでは常に外側が強かった。中国はなかなか台頭しなかったし、中露(中ソ)の結束も強まらなかった。だが2000年以来の四半世紀で状況が大転換し、今や内側の中露が結束し、非米諸国を率いて世界の資源類の利権を握って強くなり、外側の米国側は衰退の一途だ。中国は米覇権を潰したい習近平が独裁する強大な国になり、欧米はどんどんショボくなっている。この逆転は今後ずっと続く。地政学の理論は加筆が必要だが、地政学を語る(騙る)権威筋は米国側のプロパガンダの傀儡であり、地政学の逆転自体が「起きてない」ことになっている。笑える。 (Something Is Looming Geopolitically, And We Better Start Taking It Seriously)

日本のマスコミでは、一帯一路が失敗したことになっているし、ユーラシアの非米化もプーチンの奇抜な失策とみなされている。日本のマスコミ権威筋やその傘下にあるネット言論は、この分野でも他の分野でも、敵性勢力の失敗を妄想して嘲笑するだけの幼稚な思考に終始している。日本の今後の経済発展を考えるなら、日本もユーラシアの開発に参加する必要がある。だが、それにはユーラシアを席巻する中露と和解し、米国からの非難や妨害を乗り越えて動き続けねばならない。中露との和解は可能だが、米国からの非難妨害を乗り越えるのは、現実無視の対米従属屋しかいないマスコミ権威筋(とその傀儡市民)を抱える今の日本にとって難しい。日本は、ユーラシアに手を出せない。「ユーラシア開発はどうせ失敗するのだから不参加で良い」という幼稚な妄想を軽信し続け、貧しくなっていく運命にある。 (Geopolitics: The World Is Splitting In Two) (中国と戦争しますか?)

▼中露が日韓駐留米軍を撤退させる

ユーラシアを席巻した中露は今後、ユーラシアを外側から包囲してきた米軍の基地を撤去しようとするだろう。とくに韓国と日本の駐留米軍は、中露の両方に近く、冷戦中から根本的な動きがほとんどなく維持されてきた。前回の有料記事に書いたように、在韓米軍の撤退は、これから中露が朝鮮半島の和平仲裁を主導していく時に、和平の最終目標になっていく。今後の半島和平を成功させるための最重要な点は、和平や在韓米軍撤退が実現しても、北朝鮮の金家の独裁体制が内部崩壊しないという自信を、金家など北の上層部に持たせることだ。北朝鮮はこれまで、南北の戦争状態や在韓米軍の脅威を使って国内を結束させ、金家の独裁を維持してきた。うかつに和平を達成すると、その後で事態が安定した時に、北の国内で金家の独裁体制を支持する洗脳が解け、政権や国家が崩壊しかねない。北の上層部がそれを懸念している限り、北は何やかんや理由をつけて和平を進めたがらない。 (中露主導の朝鮮半島和平への道筋をつけるロシア) (Why is North Korea aiming to strengthen ties with Russia?)

和平が達成されても北の政権が維持されるには、北の政権の正統性を、軍事(米韓に負けないこと)から経済(北の人々の生活が良くなること)に転換する必要がある。北は、金正日の時にそれをやりかけた。金正日は、経済を自由化した中国に見習って、張成沢ら経済担当の側近を重用し、軍人を遠ざけた。だが、2011年に金正日が死んで金正恩が後継した後、軍部が金正恩をたらし込んで権力の近くに戻り、2013年に張成沢ら経済担当者たちを処刑・降格して外し、北は再び軍事最優先に戻った。これから中露が半島和平を進めるなら、その前に、金正恩を説得して北を経済優先の国策に戻さねばならない。ウクライナ開戦後、北に格安(ほぼ無償)で石油ガス食糧類を供給し始めたロシアは、兄貴分である中国と連携し、金正恩の翻意をうながしていくのでないか。 (北朝鮮・張成沢の処刑をめぐる考察) (御しがたい北朝鮮)

北朝鮮が経済発展し始め、和平が進んで軍事的脅威が減っても北が政権維持できるようになると、南北和解が実現し、韓国が米国に要請して在韓米軍が撤退していく。その前に(もしくは同時期に)、米国が覇権放棄屋のトランプの共和党政権になり、米国の方から在韓米軍を撤退していく可能性もある。在韓米軍がいなくなったら、次は在日米軍だ。 (安倍元首相殺害の深層 その2)

在日米軍撤退の条件となるのは、台湾が中国の傘下に入って台中の和解が実現することだろう。朝鮮半島が和解しても、台湾問題が残る限り、在日米軍は駐留し続ける。中国(中露)が強くなり、米国が弱くなる傾向なので、日本自身が米国に頼って中露と敵対し続けるシナリオは消えていく。台湾が独立して中国がそれを容認するシナリオもなくなる。武力による台湾併合は、アジアの地域覇権国になる中国の印象を悪くする。アジア諸国から尊敬されたい中国は、台湾を武力併合しない。米国の覇権崩壊など政治環境の変化によって、台湾が中国と交渉する気になるしかない。何らかの道筋で台湾問題が解決すると、米中や日中の対立も低下し、在日米軍が撤退する。米国は金融面と社会面から崩壊しかけているが、これが進むと米英が中露を敵視する力も失われ、日本や台湾は中国を敵視できなくなり、地政学も丸ごと過去の遺物となる。 (日本の隠然非米化)


中露主導の朝鮮半島和平への道筋をつけるロシア
2022年8月27日  田中 宇
  韓国と北朝鮮を和解させる朝鮮半島和平の問題は、この20年近く不成功が続いている。これまで半島和平を仲裁する主導役は米国ということになっていたが、米政府はオバマ政権以来14年間この和平を進めていない。トランプは2018-19年に金正恩と会談したが、一時的に緊張緩和しただけで終わった。米国で半島和平を手がけたのは1990年代末のクリントンとその次のブッシュだけで、クリントンは米国主導の枠組み合意(北が核廃棄したら軽水炉を建設)を推進して失敗し、ブッシュは和平交渉の主導役を中国に押し付ける6カ国協議を推進して失敗した。その後の米国はずっと、朝鮮半島和平の主導役は中国がやれば良いと思っている。これまで中国は、主導役を引き受けて米国に「北の仲間」「対北制裁違反者」とみなされて敵視されるのが嫌で、引き受けてこなかった。 (多極化への寸止め続く北朝鮮問題) (北朝鮮を中韓露に任せるトランプ)

だが状況は、今年2月のウクライナ開戦後、劇的に転換している。米国が同盟諸国を率いてロシアを徹底的に経済制裁し、世界はロシア敵視の米国側と、ロシア支持(不敵視)の非米側に決定的に分裂した。露中(非米諸国)は、米覇権体制下から追い出されていく傾向になり(そのぶん米覇権は縮小)、露中が米国主導の北朝鮮制裁に参加しても米国から仲間とみなしてもらえず、北制裁に参加する意味がなくなった。米国から敵視されている点で、露中と北朝鮮は似た境遇になった。露中は、むしろ北朝鮮を支援し、北に対する過剰な制裁や敵視を続ける米国の愚策性を逆非難しつつ、米覇権縮小のなか、朝鮮半島和平を露中が主導する方が早道になった。 (Russia vows to expand relations with North Korea)

ロシアは、ウクライナ戦争が一段落した6月ごろからその方向に進み始め、北朝鮮に協調関係を強めようと提案し、北は喜んで乗ってきた。北朝鮮が最もほしい物資である石油ガスや穀物などの資源類を、ロシアは欧州に輸出しなくなったので豊富に持っている。ウクライナ開戦後、資源類の国際価格は3倍とかに高騰し、北朝鮮が国際市場で必要量を調達するのは困難になったが、ロシアは資源類を大幅に割引して北朝鮮に売る(譲渡する)ことにした。その対価として北朝鮮は、ロシアがウクライナから奪って事実上の自国領土にしていくロシア系在住地のドンバスに労働者群を送り込み、ドンバスを再建する建設事業などに従事させる。ソ連時代にあった露北間の、資源類と労働力とのバーターが復活している。(北朝鮮軍が露軍の傘下でウクライナ軍と戦闘する話も出たが、露政府が否定している) (Why is North Korea aiming to strengthen ties with Russia?) (North Korea Willing To Send Russia 100,000 Troops For Ukraine War: Report)

このバーター取引は北朝鮮にとって、とてもありがたい破格なものだ。欧州は今後ずっとロシアからの資源類を買わないだろうから、ロシアが北に資源をとても安く売ることも今後ずっと続く。資源類の国際価格は今後ずっと高騰したままだろうから、ロシアは北朝鮮にとって大事な恩人になっていく。ソ連時代に似た露北間の上下関係が復活する。ソ連崩壊後、ロシアは朝鮮半島和平の外交舞台で末席に落ちていたが、それが再び主役級に復活する。ロシアは(売れ残った)資源類を北に売る対価として、極東における国際政治力を得る。 (No longer a pariah? Russia and China could be about to 'normalize' North Korea and leave the US with another Asian headache)

ロシアは、北朝鮮に恩を売っても、それを利用して朝鮮半島和平の主導役になろうとはしていない。ロシアにとって、これからの半島和平の主導役は自国でなく中国である。米国も、中国が半島和平の主導役になることを望んできた。ロシアは、北朝鮮に言うことを聞かせる政治力を構築し、これから中国が米国に替わって半島和平を主導する際に、ロシアが対北政治力を使って中国を補佐することで、中国に恩を売りたい。ロシアは資源を持っているが、中国は巨額資金と、世界最多の消費者と、広範な製造業を持っている。中国は他の諸国からも資源を買えるが、ロシアの資源の輸出先として最良なのは陸続きの中国であり、代替が効かない。中露間では、国家規模も中国の方が大きくて優勢だ。 (Putin & Kim As Leaders Of World's "Most Sanctioned Countries" Pledge Deeper Ties Against "Hostile" US)

ロシアは、中国のユーラシア支配の「副官」として機能したい。国際政治の「活動家」「策士」であるプーチンのロシアは(米諜報界の多極派からも入れ知恵されつつ)米国の覇権を崩壊させ、胡錦涛まで覇権取得に消極的だった中国を、多極型世界の最大の地域覇権国へと引っ張り出し、ロシア自身は多極型世界の「二番手」「副官」として機能したい。朝鮮半島和平でも、ロシアはそのやり方を採っている。ロシアは中国・太平洋側と、欧州・大西洋側という、ユーラシアの東西の大勢力の間に位置しており、両方と付き合える。欧州は今のところ対米従属で極度のロシア敵視だが、いずれ米国覇権が崩壊した後、欧州は対米自立して再びロシアと協調するようになる。きたるべき多極型世界においてロシアは、中国と欧州の両方と付き合えるので、自国が最上位にくる必要がなく、二番手が良い。 (プーチンに押しかけられて多極化に動く中国)

ロシアが資源類の供給を保障することで、北朝鮮は経済政治の両面で安定を確保していく。北は、米国側から経済制裁され続けても、露中との経済関係があるので前より楽になる。中露は今春以降、国連で米国が提案する対北制裁強化案に反対し続けている。北を厳しく制裁するだけの米国の政策は非効率で不合理だ(北風と太陽)。すでに米国から経済制裁されている露中とくにロシアは、対北制裁に「違反」して米国から制裁されても屁でもない。米国主導の対北経済制裁の方が不合理になり、有名無実化していく。替わりに、北が核実験など無茶をやった場合はロシアが北に資源類を送らなくなって隠然と制裁する体制になる。北は、無茶をやる前に露中の顔色をうかがうようになる。米国が北を挑発しても北は乗らなくなる。 (Russia, China Not Interested in Working With U.S. on N.Korea - U.S Envoy)

米国(軍産)は、朝鮮半島の軍事対立(と在韓米軍駐留)の恒久化を目標に北を制裁してきたので、これまで半島はいつも不安定だった。対照的に露中は、半島の安定と経済発展が目標なので、今後(米軍撤退後)の半島は安定していく。とはいえ、まずは、在韓米軍がどのような経緯でこれから撤退していくのかが全く見えていない。2025年に米政府が共和党(トランプ)政権に戻ったら、米国が在韓米軍の撤退を決めるかもしれないが、それも全く未確定だ。今のところ米国の方から在韓米軍を撤退する気はない。米国が自ら在韓米軍の撤退を決めるシナリオよりも、韓国が米国に米軍撤退を正式に求めるシナリオの方が現実味がある。露中が北朝鮮の後ろ盾・監視役となり、米国が挑発しても北が乗らなくなると、北と韓国との対立が弱くなり、南北対立が減った状態が長く続くほど韓国政府が米軍に撤退を求める可能性が高くなる。 (中国が米国に代わって日韓北を仲裁する)

しかし、韓国が米軍の撤退を望んでも、北は米軍の撤退を望まない可能性がある。北はこれまで、強大な在韓米軍と対峙してきたので、北の国内に強い緊張感と結束力があり、軍部に擁立された金家が独裁体制を続けてこられた。今後いずれ在韓米軍が撤退して南北間の緊張が弱まると、北は独裁体制に対する求心力・結束力が弱まり、政権崩壊しかねない。南北和平が進んで緊張が緩和するほど、北が政権崩壊する可能性が高まる。在韓米軍の撤退話が出てくると、北が自政権の崩壊防止のため、韓国に戦争を仕掛けて米軍撤退を阻止するかもしれない。このような展開を防ぐため、中露はまず、北を経済発展の軌道に乗せ、韓国との緊張が緩和しても北の人々が自分の政府への支持を失わないようにしておく必要がある。在韓米軍は中露を威嚇するための駐留軍でもあり、中露は在韓米軍の撤退を望んでいる。中露は、米軍撤退を実現するため、北の体制を安定させていくはずだ。 (世界の転換を止める北朝鮮)

在韓米軍を撤退させるには、中露が韓国を非米化することも重要だ。韓国はかなり前から経済的に中国への依存が強くなっている。経済面で韓国はすでに対中従属国である。だから、先日米国のペロシ下院議長が中国の反対を押し切って台湾を訪問した後に韓国を訪問した時、韓国政府は中国に配慮して尹錫悦大統領も朴振外相もペロシと会わなかった。 (South Korea’s president skips Nancy Pelosi meeting due to staycation) (Pelosi Arrives In Seoul, But South Korea's President Won't Meet With Her)

最近は、ロシアも韓国を非米化の方向に誘っている。ロシアの国営原子力企業ロスアトムは、受注したエジプト初の原発建設の工事のうち、タービン建屋の建設を、韓国の政府系原子力企業「韓国水力原子力」に孫請け発注した。ロシアは今後、アフリカ中近東などで次々と原発建設を受注していく構想だが、それらの今後の原発建設でも同様に韓国がタービン建屋を孫請け受注する可能性がある。韓国政府は、韓国の原子力技術が世界に認められたと誇らしげだ(ライバル日本がフクシマで潰れたのと対照的)。韓国は米国側の対露経済制裁に参加しており、ロシア企業からの孫請け受注は制裁違反の疑いがある。韓国政府は、米政府に問い合わせて制裁違反でないと確認したと言っているが、印象としては、韓国が非米側の方にまた一歩進んだ感じだ(韓国政府はすでに、ロシアからの天然ガスの輸入をやめないと宣言している)。 (S Korea signs $2.25 billion deal with Russia nuclear company)

ロシアは、韓国に大事な事業を発注することで非米側に取り込もうとしている。米国は、経済的にも外交的にも信用とちからが低下しており、米国主導の金融システムがバブル崩壊し、中露主導の金資源本位制に取って代わられる流れにある。中露に隣接する朝鮮半島にある韓国は、米国よりも中露が重要になって非米化していく。韓国は、非米側に足を突っ込むほど中露との協調を強め、在韓米軍の撤退を公式に望むようになる。その流れと、中露が北の経済を安定させて在韓米軍が撤退しても北の政権が崩壊しないようにしてやる流れが、今後同時に進んでいきそうだ。尹錫悦・韓国大統領は8月15日、北の電源開発(原発建設)に投資したり食糧支援するから北は核廃絶せよと提案した。クリントンの枠組み合意の「米国抜き版」だ。今のところ北は拒否しているが、いずれ受け入れるかもしれない。 (Yoon proposes ‘audacious’ road map for North Korea’s denuclearization) (North Korea furiously rejects South's ‘absurd’ offer)

韓国では8月13日に、労組などの主催で、米軍駐留に反対する大規模なデモが行われた。だが、米日のマスコミは全く無視して報道していない。報道したのは中国とイランのメディアだけだったと、米国のジョージ・ソロス系のシンクタンク「クインシー研究所」が米マスコミを批判している。米覇権を維持したいソロスは、中露の結束と台頭に危機感を持っているのだろうが、米上層部はすでに隠れ多極派に牛耳られて自滅の道を進んでおり、ソロスが望むようにはならない。韓国が在韓米軍の撤退をしだいに強く望むようになっても、その動きは米国や日本の人々には知らされず、いずれ在韓米軍撤退が具体的な話になったとき、米日の人々は間抜けな感じで驚くことになる。韓国の次は日本からの米軍撤退になる。 (US media ignored major anti-US military protest in South Korea)