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続折々の記 2023 ③
【心に浮かぶよしなしごと】
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【 07 】02/21~ 【 08 】02/24~ 【 09 】02/25~
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【 07 】02/21
⑦ 乳酸菌のサプリメントが効かない理由
⑧ 乗り物に酔う人の原因と対処法
被爆国の日本は軍縮にも大きな役割を グテーレス事務総長
いま国連に何ができるか 「大国の興亡」研究の世界的権威に聞く
NHKスペシャル
ウクライナの行方 なぜ、こんなことになっているのか?
田中宇の情報 その一 金融はいつまでもつのか
田中宇の情報 その二 欧米をますます不利にするバイデンのウクライナ訪問
朝日の情報 侵攻1年、見えぬ出口ウクライナ民間犠牲8000人超
欧州総局長・杉山正 G7以外も巻き込み抑止を ウクライナ侵攻1年
2023/02/19
https://www.teamlab.art/jp/w/life/
生命の力 D something great
https://karada-naosu.com/category6/entry20.html
自分力(生命力)の正体を理解する
⑦ 乳酸菌のサプリメントが効かない理由
腸内細菌ビジネスが横行している 世間では、「腸まで届く乳酸菌」「人には人の乳酸菌」など数多くの乳酸菌やビフィズス菌の必要性を謳った広告を目にします。その理由は、日本人は便秘をはじめとする腸に不安を抱えている人が多いからです。
一般的に腸の病気といえば便秘か下痢かですが、実際は腸内細菌のバランスが乱れることで、さまざまな症状が発症します。その症状をまとめます。
①便秘または軟便である
②慢性的な便秘と腹部膨満感があり、オナラがよく出る
③便秘ではないが腹部膨満感があり、オナラの臭いが臭い
④貧血・頭痛・めまい症状がある
⑤胃の圧迫感・逆流性胃炎・ゲップの症状がある
⑥乾燥皮膚、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患がある
⑦太りやすい人は太り、痩せ過ぎの人は痩せる
⑧自律神経が安定しない
⑨就寝時に歯ぎしりや噛みしめをする
⑩口臭・歯槽膿漏がある
上記した以外にも、現代人が抱える体内環境の不調は、腸内細菌のバランスが崩れることで発症していることが少なくありません。
「腸内細菌のバランスが崩れる」と腸内はどうなるのか
腸内には善玉菌と悪玉菌、または腸内の環境に応じて善玉にも悪玉にも変化する日和見(ひよりみ)菌が生息しています。
腸内細菌はストレスや抗生物質の服用または、糖質の過剰摂取や胆汁の質の低下などにより善玉菌が弱るといわれています。それらの影響で善玉菌の勢力が弱ると日和見菌は悪玉菌に変化し、腸内は悪玉菌の勢力が優位になります。
善玉菌、悪玉菌は双方とも分泌物質を生産しています。善玉菌が生産する分泌物質で作られた医薬品にペニシリンがあります。一方、悪玉菌も分泌物質を生産しており、その分泌物質が増え過ぎると上述したような多種の症状を引き起こします。
悪玉細菌が出す分泌物を減らさなければならない 腸に生息する悪玉菌が作る分泌物質が多種の症状を引き起こすことはお伝えしました。そこで、悪玉菌を減らすことで症状の改善緩和に導いてくれる可能性のある「乳酸菌(プロバイオティクス)」の開発に多くの会社が力を入れています。多くの人はその研究結果を信じ、乳酸菌のサプリメントを服用しています。
なぜなら、乳酸菌が腸にまで届くことでことで、悪玉菌の増殖を抑制するからです。
ここで乳酸菌の働きを簡単にまとめます。
①乳酸菌自身が人間にとって必要な栄養素や酵素を作る
②腸の粘膜の質が向上し異物の侵入を防御してくれる
③乳酸菌が作る分泌物質によって、悪玉菌やウィルスの増殖を阻止する
上記した、これらの働きの多くは乳酸菌が生産する分泌物質(バクテリオシン)によって担われています。
そこで多くの会社が乳酸菌の必要性を謳い、各会社で独自の菌種を培養しサプリメントの商品を開発しています。
また、昨今の乳酸菌サプリメントはカプセルの技術の進歩により、胃酸や胆汁の影響を受けないで乳酸菌類が腸にまで到達していることは確認されています。
乳酸菌が腸に届いても意味がない
現在開発されている乳酸菌のサプリメントは、腸内に到達していることはお伝えしました。しかし、多くの人が乳酸菌のサプリメントを服用しているにも関わらず、症状の緩和を体感できる人は少ないです。
その理由をまとめます。
①腸内には個人固有の腸内細菌叢(集団)が既に存在する
②「①」のことで、外部から摂取した乳酸菌類は、依存の集団の中で生存することは難しい
③ストレスや薬の服用、糖質の過剰摂取により悪玉菌が作る分泌物質が増え、乳酸菌の定着を妨げる
各メーカーは挙って「腸に到達するプロセス」を切り口に乳酸菌の効果をアピールしています。しかし、上記したように、乳酸菌が腸に到達しても、それらが腸内で宿らなければ何の意味もありません。
つまり、メーカーの説明は、腸に到達した乳酸菌が腸内で宿った所までの確認であり、その後乳酸菌が腸内に定着し、分泌物を生産したことは確認していません。
ようするに、乳酸菌がその機能を発揮するためには乳酸菌が宿り、分泌物(バクテリオシン)を生産してくれる状態でないと意味がないということです。
ここで乳酸菌が生産する分泌物質の働きをまとめます
①乳酸菌が優位となる腸内細菌叢(集団)の形成
②悪玉菌が生産する分泌物質の増殖を抑制する
上記した以外にとても大切な働きが乳酸菌にはあります。それは免疫を安定させることです。その理由の1つに、乳酸菌の生産する分泌物質から抗生物質の「ペニシリン」が開発されたことから、乳酸菌の分泌物質には天然の抗生物質の働きがあるからです。
乳酸菌が生産する分泌物質は増やせるのか
現在はストレス社会です。中長期的なストレスで体は自律神経が乱れたりさまざまな影響がでます。その1つに腸内細菌叢が乱れることがあります。
例えば、子供が学校やクラブに行きたくない場合に、腹痛を訴えることがあります。また、大人でもストレスで便秘になったり、過敏性の大腸炎になったりします。そのように、腸内細菌叢はストレスの影響を受けやすいといえます。
また、多くの人は何らかの薬を服用しています。その薬も腸内細菌叢を乱す原因になります。そのことで現代人の腸内は、善玉菌(乳酸菌)が減り、悪玉菌群が優位な傾向であるといえます。
「乳酸菌を腸内で増やせるのか?」 この問いに1つの光が見えてきました。
それは、「便移植」です。健康な人の「便」から有能な腸内細菌を抽出・培養し、病気の人にそれを移植する方法です。その方法で原因不明で、治療の手立てがなかった人が回復するケースが報告され始めました。
そのように、腸内で有能な細菌叢が増えれば、病気は改善に向かう可能性があるということです。
また、最近は「新たな乳酸菌サプリメント」が開発されています。それは乳酸菌が生産する分泌物質を培養抽出したサプリメントです。つまり、乳酸菌が作る分泌物質を研究機関で培養・抽出したものを服用するというものです。
上述してきたように、乳酸菌を摂取しても腸内で宿り増殖する可能性は少ないので、乳酸菌の分泌物質を直接摂取しようというものです。開発側のデーター通りに効率的に腸に届き、腸内で乳酸菌が作る分泌物質が増え、その恩恵がえることを期待したいです。
「病気になる人、ならない人の差はどこにあるのか?」 私はこのことを常に考えて施術にあたっています。その差は遺伝によるものが大きいですがその他にもストレスや食習慣の乱れ、または薬の服用などで腸内環境が乱れている点も病気になる原因の1つと思っています。
病院に行っても原因がないのに体調不良が続いてる人は、一度腸内環境の改善を試みてはいかがでしょうか。
https://karada-naosu.com/category6/entry18.html
自分力(生命力)の正体を理解する
⑧ 乗り物に酔う人の原因と対処法
乗り物に酔う人、酔わない人
学校の遠足でバスを使用すると、決まってバスに酔う子供がいます。一方、全く酔わない子供もいます。果たしてその違いはどこにあるのでしょうか。
車や船に酔う原因はいくつかあります。例えば乗り物に乗っている際に、下を向いてメールや読書をしたら気分が悪くなります。これは「目から入ってくる動きの情報」と「耳の中の三半規管が感じている体の揺れの情報」にズレが生じ、それを脳がうまく調整できないことで起こります。
ようするに、下を向いていると目からは「現在、動いていない」という情報が脳に伝わります。一方、耳の三半規管からは「現在、揺れている」という情報が脳に伝わります。その情報の相違に脳が対応できないことで乗り物酔いが発生します。
それとは逆に、映画などで激しく揺れる映像などを見ると、目からは「現在、動いている」という情報が脳に伝わります。しかし実際は、からだは全く動いていないため脳が混乱して酔った感覚になります。
乳幼児は車に酔いにくい 最近は、乳幼児を車に乗せて買い物やドライブにいく人が増えています。車に乗っている乳幼児は心地よく居眠りしたり、はしゃいだりして車を嫌がる子は少ないです。
ここで、疑問が湧いてきます。上述してような理由で乗り物酔いが発生するなら乳幼児も乗り物に酔うはずです。しかし、乳幼児が乗り物に酔うことはほとんどありません。
その理由は平衡機能の発達に関係しているからです。0~3歳くらいまでの乳幼児は平衡機能がまだ未発達なため、乗物酔いすることはほとんどありません。ようするに、耳の三半規管からの情報が脳に伝わらないからです。
乗り物酔いが発症しやすい年齢は、小学生から中学生くらいまでが多く、その理由は平衡機能が発達しはじめる時期だからです。つまり、平衡機能が発達することで、耳の三半規管からの情報が脳に伝わり、上述した目からの情報との相違が発生するからです。
青年期や成人になっても乗り物に酔う理由
人が成長していくと乗り物に酔いにくくなるのは、目からの情報と耳からの情報に相違があった場合でも、過去に経験した情報(記憶)から脳は混乱せずに微調節しているからです。
しかし、成人になっても乗り物に酔う人がいます。その原因をまとめます。
①腎臓の働きの1つである、エリスロポエチンというホルモンの合成力が弱い
②腎不全でエリスロポエチンが合成できなくなると極度の貧血に見舞われる
ここでエリスロポエチンの働きをまとめます。
①エリスロポエチンの働きは、骨髄に働きかけて赤血球を増やす
②「①」のことで呼吸により獲得した酸素と赤血球が結びつき、脳に多くの酸素が運ばれる
3「②」の理由で乗り物に酔う頻度は低下する
上記したように、成人になっても乗り物に酔う理由に、脳内の酸素不足があります。そうなる原因の1つに、腎臓で作られるエリスロポエチンの合成力の低下が関係しています。
また、乗り物に毎回のように酔っていると、乗る前から自律神経が緊張し、呼吸が浅くなることで酔いを助長します。
大人になっても乗り物に酔う人の対処法
大人が乗り物に酔う理由の1つに、腎臓で造られるエリスロポエチンが関係していることはお伝えしました。そこで、腎機能を高めエリスロポエチンを増やすことが可能であれば乗り物酔いを軽減することができます。
その働きがあるのは、スギナという雑草です。その特徴はスギナには珪素(ケイ素)が多く含まれることです。そしてスギナには珪素(ケイ素)と他に保有する成分との相乗効果で、癌や糖尿病・腎臓炎・腎臓結石・カリエス・肝臓病・胆のう炎などの多くの病気に効き目があるといわれています。
珪素(ケイ素)は、亜鉛や鉄などと同様、生命維持には必須な微量元素であり、その働きで上記した症状の他に、乗り物酔いを改善する可能性も高まります。
珪素(ケイ素)は日常の食事では摂取しにくい元素のため、乗り物に酔いやすい人は、スギナ茶を2~3カ月間飲用することをお勧めします。
自己指圧法で内臓機能を高める
乗り物に酔う人は、腎臓の働きが弱い可能性があることはお伝えしました。また、その他にも自律神経の緊張が強く、呼吸が上手にできていない人も乗り物に酔いやすいです。
川本療法の考えは、そのような人に対し自宅で自身の弱い個所のケアをする方法を教えています。
自己指圧は自分の弱っている箇所を刺激することで、神経命令を活性させ血液を患部に集める作用があります。そのことで、患部に滞っている余分な体液を散らすこともでき、細胞の修復スピードが速くなると考えています。
また、患部に「痛すぎず気持ちよい刺激」をすることで、皮膚から脳に刺激が伝わります。その刺激が体にとって味方であると判断すると、脳は安心し自律神経が整います。
なお、自己指圧の必要性と、疾患別に自己指圧をする方法はこのページに詳しく述べていますので参考にして下さい。
2022年8月6日 16時11分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220806/k10013756911000.html
“被爆国の日本は軍縮にも大きな役割を”
グテーレス事務総長
国連のグテーレス事務総長は6日、被爆者と面会したあと広島市内で会見し、日本には、被爆国としての教訓から、国際社会との関係を生かして、核だけでなく軍縮を進める大きな役割が期待されていると訴えました。
国連のグテーレス事務総長は、広島市内のホテルで広島と長崎の被爆者合わせて5人と面会し、記者会見を開き「被爆者たちの声は恐るべき歴史上の瞬間の証言だ」と述べました。
一方で「世界では、核兵器の精度を高めるなどこの教訓を忘れかけているという危機にあり、中東や朝鮮半島、ウクライナなどで危機が広がるなど、核戦争の可能性について赤信号が点滅している」と現状を説明しました。
そのうえで、日本政府には、被爆国としての教訓から、国際社会との関係を生かして、核だけでなく軍縮を進める大きな役割が期待されていると訴えました。
また、グテーレス事務総長は、各国の首脳らを広島に招き核軍縮を議論する「国際賢人会議」がことし11月に、G7サミットが来年5月に、それぞれ広島で開かれることについて「いちばん大切なのは、軍縮を進めるための交渉が再開されることで、核保有国が核の先制使用を行わない方向に進んでほしい」と述べ、核兵器の廃絶に向けた動きに期待を寄せました。
2023年2月16日 午前11:59 公開
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pVv2mGav4V/bp/ppOWvYMQ2p/
いま国連に何ができるか
「大国の興亡」研究の世界的権威に聞く
NHKスペシャル
ロシアによるウクライナへの侵攻からまもなく1年。しかし戦争終結の道筋はいまだ見えていません。かつて2度の世界大戦を経験した人類は、その反省から「国際連合」を創設し、「安全保障理事会」が“平和の番人”となって、戦争や紛争を防止する役割を担うはずでした。
ところが、安保理の常任理事国であるロシア自らが国連憲章を破るという暴挙を前に、そのシステムが根底から崩れ「対話の場」は「分断の舞台」へと変貌しています。国連はなぜ機能不全に陥ってしまったのか。対話による事態打開の可能性はないのか。そしていま、国連にできることは何か。
国際秩序を「大国の興亡」の視点から読み解き、国連の過去と未来についても研究してきたイェール大学教授で歴史家のポール・ケネディ氏に河野解説委員長が聞きました。
〈国連はロシアをなぜ止められないのか〉
Q:いまウクライナで戦争が続いています。そんな中で国連は機能していると思いますか。
国連は予想通りネガティブな形でのみ機能しています。残念ながらそれは1945年に国連の創設者たちが予期していたことです。どういうことかと言いますと、安全保障理事会(安保理)の活動である「平和維持」や「戦争を終わらせること」といったことはすべて、国連の仕組みを通してのみ機能するということです。そしてその国連の仕組みとは、「大国の考えが一致している場合、そして拒否権の発動によって他の大国の意図を妨害しない時にのみ、そうした活動が機能する」ということなのです。国連憲章の草案を起草した1人であるイギリスのグラドウィン・ジェブは「残念ながら国連が発足する」と言ったとされています。
今、大国の1つであるプーチン大統領のロシアが他の国を侵略しています。この問題は安保理に持ち込まれ、国連の仕組みに従って、大国はこの問題を安保理の場で協議します。他の大国はロシアに軍事行動の停止を求めます。しかしロシアは安保理で拒否権を持っておりそれには合意しません。ひょっとしたらロシアで体制の変更があったり、プーチン大統領が反省したり悔いたりして、安保理を通してウクライナの状況を変えることに合意するかもしれませんが、今のところロシアにそんな気はありません。ロシアは5大国の1つです。拒否権を持っています。残念な話ですが、拒否権を持つ1つの大国が仲介を拒んでいるという意味で、皮肉にも国連憲章どおりに機能しているのです。
Q:こうなることは想定内だったということですね。
国連の創設者たちは1930年代の国際連盟の失敗から教訓を学ぼうとしました。 国際連盟からは多くの国が脱退しました。彼らが至った結論は、「国益に絡む問題に関しては大国に拒否権を付与しなければならない。積極的な役割を与えるということでなく拒否権を付与する」ということでした。
大国の1つが利己的なやり方で拒否権を発動した時、国連のシステムは機能しているということになります。国連の創設者たちにはそうなることが分かっていました。その当時引き合いに出されたアナロジーは「サーカスのテント」というシンプルな比喩でした。つまり1頭の動物がテントから出るよりすべての動物をテントの中に留めておいた方がマシだという考え方です。
アメリカだから拒否権を持つ、中国だから拒否権を持つ、プーチンのロシアだから拒否権を持つ、そういう考え方をせざるを得なかったのです。残念ですがそこはどうしようもなかったので、そういうシステムにしたのです。ですから今、ロシアは国連の枠外ではなく枠内にいます。
(拒否権を持つ常任理事国のひとつであるロシア)
Q:ロシアは今も国連の枠内にいますが国連憲章に違反しています。しかもロシアは安保理のメンバーです。安保理のメンバーが国連憲章に違反して隣国を侵略しているという現実をどう理解したらよいのでしょうか。
ご指摘のように、「他国の主権を尊重する」という国連憲章の定めを、拒否権を持つ大国が無視するなんてあり得ないですし間違っています。プーチンのロシアは憲章を無視してウクライナに侵攻しました。ロシアは平和を破壊して国際法に違反しています。
問題は、大国による違法な行為に歯止めをかける術は、戦争の威嚇をするか戦争をする以外に方法がないということです。ウクライナは拒否権を持つ大国による侵略を受けています。しかし拒否権があるので国連の仕組みを使って対応することができません。そこで欧米諸国はウクライナに対する武器援助を継続しているのです。航空機、戦車、機関銃、火砲などを供給することによって戦争の拡大を防ぎつつ、ウクライナがロシアを打ち破ることを願っているのです。
Q:そこが限界なのですか。
国連の仕組みを蹂躙した大国が、外交交渉に応じて妥協して撤退するという手順を踏むならばそれが解決策になるでしょうし、そうなるかもしれません。ロシアがこの状況から抜け出さねばならないと判断したなら、国連事務総長の仲介を要請する可能性があります。国連事務総長の仲介がこの苦境から抜け出るための1つの可能性です。そのためには無謀な(侵略行為を行った)大国(ロシア)が譲歩することが前提となります。
Q:常任理事国であるロシアが国連憲章に違反して国際秩序に挑戦したことは、国連の将来にどんな影響をもたらすと思いますか。
悪い影響を与えるという以外に言いようがありません。ロシアが方針を変更して安保理に協力的にならない限り悪い影響しか考えられません。拒否権を持つもう1つの国、例えば独自路線を行く中国ならば「これは自分の領土だと大国が決めたら誰も口をはさむことができない」という結論を引き出しかねません。
自己中心的な3つの大国が安保理で拒否権を持っています。残念ながらそれが現実です。アメリカ、ロシア、そして中国です。これらの国は自らの国益にかなうことであれば賛成します。例えば西アフリカの人権危機問題が安保理の議題になったとしましょう。シエラレオネのような例です。安保理にいる大国は「国連平和維持部隊の派遣に何の問題もない。我が国の国益に何ら影響がない。だから派遣に賛成する。拒否権を行使しない」と言うでしょう。それが悲しい現実です。大国に大きな悪影響がない場合のみ安保理が機能するということです。
〈「“ロシア排除論”では問題は解決しない」〉
Q:ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアを国連安保理から締め出してさらに国連から追放することを求めています。このことについてどう考えますか。
それはあり得ません。ゼレンスキー大統領の言い分は「偽善的な国がこのような間違いを犯している。国際法に違反している。だから安保理から追放するべきだ」というものです。大統領の歯がゆい思いからその声明が出ていることは十分理解できます。私が「あり得ない」と言ったのは先ほどお話ししたように、国連への加盟や安保理構成国の仕組みも定義も、ロシアを安保理から締め出すようには作られていないのが理由です。
そもそもロシアの国連大使が拒否権を行使するでしょう。安保理からのロシア追放を提案したなら、そしてロシアが交渉を拒否する限り安保理への参加資格を停止するという提案をしたならば、イギリスはこれを支持するかもしれません。安保理の協議はその後どうなるかと言うと、国連事務総長が安保理を構成する15か国にこの提案を提示するという流れになります。次に15か国の大使による投票がありますが、その段になってロシアの大使は「ニエット!(ロシア語でノー)拒否権を発動する」と言うでしょう。つまりロシアの追放はあり得ないということです。
大国の特権という偽善の一例をお話します。国連の加盟国、つまり国連総会に席を持つ、ならず者国家が悪いことをしたとします。すると安保理の緊急会合が開かれて、5大国の賛成を得て多数を獲得することが出来れば、そこでならず者国家に対する決議が可能になります。しかしゼレンスキー大統領が主張していることは不可能です。国連の仕組みがそれを許さないのです。
Q:5大国の追放は不可能ということですね。
そうです。そういう仕組みになっていません。ロシアのような拒否権を持つ国が「拒否権を発動する」と言えばそれで終わりです。1945年に(国連創設に関わった)各国の大使は帰国の途の機上で次のように語ったことでしょう。「全力を尽くしたが、すべては5大国が前向きの姿勢を示して抑制を受け入れ規則に従うことにかかっている。そのうち1か国でも規則を尊重しなければそれを強制することはできない」と。
〈“大国同士の戦争回避を優先” 国際秩序の悲しい現実〉
Q:別の観点から見ると、考えが異なる国同士が常に対話をすることに意義を見いだすべきなのでしょうか。
それが(国連の)論理でした。中国がチベットでやっていることは反対ですが、だからと言って中国が国連を脱退したり安保理から離脱したら困ります。中国には安保理や国連に留まって欲しいのです。そして来年もしくは再来年にチベット問題で協議することが出来ることを願うのです。大国を「サーカスのテント」に留め置く必要があるからです。
なぜなら大国にテントを出ていってもらっては困るからです。一方的な行動に出て将来戦争になることを恐れるからです。釈然としないことは理解できます。しかし例えば国益を盾にアメリカが中米で愚かなことをしているとしましょう。その場合アメリカと戦争でもしなければできることは何もありません。ロシアが国境地帯で行動を起こして、「これはロシアの国益だ。いつでも拒否権を発動する構えだ」と言ったならば、残念ながら私たちに出来ることは何もありません。なぜなら核の時代にあって大国の平和を維持することの方が、大国に泣かされている小国の権利を守ることより重要だからです。
これが現実です。非常に悲しい現実です。「国際秩序を維持し核戦争や大国同士の戦争を回避する」という表現を私は使いましたが、このことは「大国に泣かされている」という小国の訴えよりも重要なのです。
〈国連の歴史的な意義 「拒否権」誕生の経緯〉
Q:国連の歴史についてうかがいます。あなたは大国の研究における世界的権威です。過去の超大国の興隆と衰退を踏まえた上で国連が誕生したことの歴史的意味についてどうお考えですか。
過去400年にわたる主権国家の歴史について私の考えをお話しします。最初に誕生したのはスペイン帝国、フランス、ハプスブルク帝国、大英帝国、オランダなど欧州の国家でした。この400年で戦争と平和の繰り返しがありました。その間、戦争を終わらせたり戦争を回避したり出来たのは、マドリッド、ウィーン、ベルリンなどを首都とする各国政府間の外交交渉によるものだけでした。19世紀には長い間平和を保ったこともありましたし、平和が瓦解したこともありました。
ウッドロー・ウィルソンら国際連盟の創設者たちの考えはこうでした。将来的に新しい世界秩序を作って時々会議を開くというのでなく、常時会議を開く仕組みを作るというものです。大国同士の考えが異なる時、その会議場で違いについて交渉できる仕組みを作るというものでした。
それぞれの国の大使がそこ(国際連盟)に常駐して協議をします。そういう理想を旗印として国際連盟という組織の創設に動いたのです。どの国も他の国を信用していなかったので、国際連盟の本部は中立国に置くことになりました。そうした経緯で国際連盟の本部は中立国スイスのジュネーブに置かれたのです。そこで戦争と平和について話し合って、将来の戦争の芽を摘むというのが国際連盟の趣旨でした。
(国際連盟の総会)
しかし、国際連盟の創設者たちは大国が加盟を拒んだらどうなるのかということを理解していませんでした。(国内事情によって)大国が加盟できない場合、また脱退したらどうなるのかといったことに関する理解が欠如していました。加盟しなかった国や脱退した国はいくつあったでしょう。世界最大の経済大国であるアメリカは加盟を見送りました。新たに共産主義国となったロシアは何年も加盟を認められませんでした。イタリアは加盟したもののしばらくして脱退しました。
アドルフ・ヒトラーのドイツも脱退しました。満州事変の後、日本も脱退しました。後に残ったのは大国としてフランスとイギリスの2か国、小さな国々、そして機能不全に陥った国際連盟でした。そこで第2次世界大戦の終結時、平和のための新たな国際組織を作る機運が高まった時に、大国を加盟させ脱退を防ぐ仕組みを作るということになったのです。そのためには国際連合に留まることで生まれる利益を組み込むことが必要でした。残念なことですが「国益がかかっている場合には拒否権を行使できる。こうすべきだとかこうすべきでないと主張する権利を付与する」というのが唯一大国に提示可能な利益だったのです。
〈“必要悪”としての「拒否権」〉
Q:それが拒否権誕生の経緯ですね。
その通りです。拒否権は大国を国連に留めておくための方策として生まれました。しばらくしたら(ロシアが)何が理にかなっているかを理解して、「わかった。ウクライナ戦争を終わらせるべきだ。しかし敗北したという印象を与えながら戦争を終わらせることはできない。国連事務総長に仲介の労を取ってもらいたい。我が国の利益を守ることが出来るなら戦争終結に合意する。それ以外のやり方は受け入れられない。力づくでロシアを追い出すことは許さない」とロシアが言い出すことに希望を託すというのが現在の状況です。
Q:拒否権は超大国を国連に留めための「必要悪」なのでしょうか。
それはピッタリの表現です。まさしく必要悪です。数か月後に中東で大規模な危機が勃発する可能性があるとします。その時には安保理の会合が必要になり、安保理構成国の合意が必要になります。その時にロシアがそこにいなかったらどうやって安保理を機能させることが出来るでしょうか。あなたのご指摘通り、拒否権は悪いもの2つを比べたときのまだましな方、つまり必要悪だということです。
〈戦争を終わらせるために「国連にできることはまだある」〉
Q:ロシアのウクライナ侵攻からほぼ1年が経ちました。戦争を終わらせるために国連は今以上のことができるのでしょうか。
まだいくつかあると思います。1つは人道的見地から、国連総会で大規模な中立的救急隊の創設を協議することです。事務総長が安保理の合意を得て2週間の停戦を提案することも1つの案です。この停戦によって、医師、看護師、医療専門家からなる大規模救急隊が戦場の両側に入ることが可能になるでしょう。そこで遺体を収容したりケガをした兵士や文民を搬出したりすることが出来るようになるでしょう。
最初は「2週間だけでいい。活動のチャンスを与えてくれ。兵を引いてくれ。ロケットと発砲をやめてくれ」と言うだけでいいのです。2週間の停戦の間に、両国の代表に「ウィーンかジュネーブで事務総長と会談する気はないか」と提案することができます。「お茶でも飲みながら話し合いをしないか」と水を向けたらどうでしょう。停戦合意は崩壊するかもしれません。ゼレンスキー大統領がノーと言うかもしれません。「2つの州を取り戻すまで戦闘をやめない」と言うかもしれません。しかし2週間の停戦期限の終わり頃になって、外交官が「ちょっと待ってください。戦場から負傷者を搬出するためにもっと時間が必要です。停戦を2週間延長できませんか。戦闘行為をさらに2週間停止することはできませんか」と言うかもしれません。
停戦が長く続けば続くほど、妥協を通じた和平の可能性が高まります。国連主導の停戦と各援助機関が協力して取り組むことです。援助機関は多くの知識と技術を持っています。コンゴを始め世界各地で内戦終結後の支援を実施してきました。まず医療チームを現場に入れてその後で状況改善の支援をします。外交官が動くのはそれからです。国連は様々な機能を持っています。国連が取り組むべき最初の活動は妥協の外交と人道的介入政策です。
安保理以外にも国連が持つツールは数多くあります。(ウクライナの戦争では)下から始めたらどうでしょう。まず戦場で停戦を実現するのです。現場から始めてその後で外交レベルに話を戻したらどうでしょうか。
Q:興味深い提案です。では安保理にできることはあるのでしょうか。
今、安保理を開催すればロシアが拒否権を発動することは決まっています。冷戦の1960年代に緊張が最高に達したことありました。アメリカもソビエトもニューヨークで安保理を開いて報道の嵐に巻き込まれることを嫌いました。そんな時にウィーンでアメリカの国連大使とソビエトの大使が会談するという提案がありました。そこで核兵器の管理に関する話し合いがありました。
静かに散歩しながらアメリカ大使とソビエト大使が話をしてはどうかという提案がありました。それぞれの首脳が前向きの1歩を踏み出せるかについて、大使同士で話し合ってはどうかという提案です。目立たないところで静かな交渉から始めるのが良いでしょう。衆人環視の中ではやってはいけません。そうすれば妥協を通じて合意を達成することが出来るかもしれません。それは不可能なことではないと思います。
〈『交渉は戦争よりマシ』というチャーチルの言葉〉
Q:戦争を終わらせるためにアメリカには何が出来ると思いますか。また何をするべきだと思いますか。
「今やっていることを維持する。そして今やっていること以上のことをしない」というのが私の答えです。「今やっていること維持する」というのは、現在の支援、特に火砲の弾薬の支援を減らしたり、アメリカが持つ大規模な情報ネットワークや衛星からの情報を減らしたりすれば、ウクライナは早晩戦争に負けるということです。アメリカはロシア軍の動向に関してウクライナ軍に大量の情報を提供しています。
アメリカがウクライナへの軍事支援を減らした場合、ウクライナは負けるでしょう。ロシアが勝つには勝つが、血みどろで混乱に満ちた勝利になるでしょう。偉大な勝利にはならないでしょう。一方、アメリカが軍事支援を増やせば、プーチン大統領を無謀な行動に駆り立てる可能性があります。アメリカがウクライナに防衛目的とは言えない兵器を供給してそれがロシアの脅威になった場合には、そういう事態が起こり得るということです。
今の時点ではアメリカは援助を維持すべしというアドバイスしかありません。仲介の外交を促進すること。そしてロシアが交渉に前向きになるのを待つことです。アメリカは当事者になるべきではありません。
圧力をかけるのは良いが危険なほどに状況をエスカレートさせるのは良くありません。アメリカの新聞や意見記事を読むと「アメリカはもっと積極的になるべきだ。ロシアを敗北に追い込みプーチンを追放するべきだ」などという主張に出会います。これはあまりにも無謀だと思います。日本政府だって強い圧力をかけてロシアをみじめな敗北に追い込むようなやり方は危険すぎると考えているはずです。ヘンリー・キッシンジャーならきっと、「誰かが窮状にある時には退路を用意してやらねばならない。屈辱的な思いをさせて無謀な行為に駆り立ててはならない」と言うでしょうね。「我々の側が妥協する必要がある」というのは決して愉快なことではありません。しかし、かつてイギリスの首相、チャーチルが言ったように「交渉は戦争よりマシだ(Jaw jaw is better than war war.)」ということです。
〈ケネディ教授が提案する国連改革案〉
Q:ご指摘のように国際連盟は主要国がいなくなったことで失敗に終りました。国連も安保理の5大国のコンセンサスがないために失敗しそうになっています。2つの国際機関の経験を踏まえると、そもそも国際機関で平和を維持することはできるのでしょうか。
現在そして将来に向けて2つのことが必要だと思います。まず第1に、拒否権を持つ5大国は国益が本当に脅かされない限り、拒否権行使を特定のケースに限定することを受け入れる必要があります。例えば次期国連事務総長の人選といったような問題に関して拒否権を発動しないといったことです。つまり拒否権行使に関して自粛してその回数を減らすということです。
第2に、第2次世界大戦が終わってから75年以上経つこのタイミングで、他の大国を安保理に迎え入れることです。例えばインドは(今の国連の体制に)強い不満を持っていて、安保理を偽善的だとして批判しています。「インドは独立した大国に成長した。将来はフランスやイギリスの経済規模を上回るだろう。30年後には日本のGDPを上回るかもしれない。我々も同等の位置づけを求める。同等の権利を要求する」というのが今のインドの考え方です。
(現在 国連には193か国が加盟している)
今は考え直す時が来ているのだと思います。「いくつかの常任理事国を追加するべき時に来ているのではないか」という問いかけが必要です。これは非常に難しいでしょう。なぜなら5大国すべてが合意する必要があるからです。しかし今、非常に重要な国をいくつか安保理に加えなければ、安保理に対する尊敬の気持ちもその存在意義もずっと薄れると思います。
常任理事国の数を増やすにあたっての私の提案は、アフリカの大国を1つ、ラテンアメリカから1つ、そして南アジアの大国を1つ増やすというものです。このとき、基本原則を導入することがポイントです。北半球の常任理事国はアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5か国です。これに南半球の地域大国を3か国加えて均衡を取るという考え方は合理的だと思いませんか。
〈対話の可能性は残されているのか〉
Q:あなたは大国の興亡の専門家です。大国ロシアはどうなると思いますか。そして対話を通じて解決を見出すことは可能だと思いますか。
ロシアがなくなることはないでしょう。東はカムチャツカ、そして11の時間帯をまたぎ、フィンランド、バルト3国、ポーランド、ウクライナの国境まで広がる偉大な国、それがロシアです。
ですから何とかしてロシアを国際システムに引き戻す方法を見つけなければならないのです。ロシアは今、自分自身を傷つけています。プーチン大統領率いるロシアの行為は他のどの国よりもロシア自身を深く傷つけています。ロシアを国際社会に引き戻さねばなりません。ロシアを自滅の道から連れ戻す方法を見つける必要があります。
解決に向けて事態を進めるためにはロシアとプーチンにとって利益を示唆する文言が必要です。「とにかくロシアを非難しなければならない。ロシアは法の支配の埒外にいる」といった言い方ではロシアは無法者になってしまいます。それではロシアがテントに入って来て話し合いに応じることはないでしょう。それこそが安保理のそもそもの概念です。悪いことをした国をテントの中に留めておいて、徹底的に話し合って、「法の支配」に対する妥協につなげていくべきです。
Q:ありがとうございました。
ポール・ケネディ 1945年イギリス生まれ。英・オックスフォード大学で博士号を取得。専門は19世紀・20世紀の大国間関係、軍事・海軍史、安全保障問題、国連史など。多くの名誉学位を授与されており、2000年には歴史学への貢献により、大英帝国勲章(C.B.E)を授与され、2003年にはイギリス学士院のフェローに選出されている。1988年に出版された『大国の興亡』は20か国以上に翻訳され激しい論争を巻き起こした。2006年に出版された『人類の議会』では、国連の過去と未来について考察している。
2023/02/24
ウクライナの行方 なぜ、こんなことになっているのか?
① 田中宇の情報 その一 2023年2月20日
https://tanakanews.com/230220dollar.php
金融はいつまでもつのか
世界の金融システムの中心は米国だ。巨大な社債市場がある米国が資金量も圧倒的に多い。米国が金融崩壊すると世界が金融崩壊する。マスコミは米国について、インフレが一段落したので米連銀(FRB)の利上げも一段落し、金利上昇が止まるので資金調達がやりやすくなって米経済の景気が好転する、金融危機にはならない、と予測している。 (Shrinking Money Supply Undercuts "Soft Landing" Narrative) (Powell Post-Mortem: "Volcker Has Left The Building" And "We're Not In Wyoming Anymore")
これと対照的にオルトメディアは、インフレの小康状態は一時的であり、近いうちにインフレが再燃し、米連銀は利上げを継続せざるを得ず、連銀はQTも続けているので金融システム内の資金の総量が減って金利曲線を歪曲的に逆転させておくことが困難になり、長期金利が高騰して金融危機になり、非米諸国がドルを見捨てるのでドルの基軸性喪失が加速し、債券やドルに対する信用が失墜して金地金ぐらいしか頼るものがなくなり、金相場が高騰する、と予測している。 (No Matter How You Turn It, The Global System Is Already Doomed: Got Gold?) (Inflation Is Going To Get Much Worse)
私から見ると、オルトメディアの方が正しい。マスコミは近年、ウクライナ戦争から新型コロナまでの多くの分野で根本的な歪曲・大間違いを意図的に報じ続けているが、金融に関しても、大幅な歪曲・間違いを固定して報道し続けている。 (The Federal Reserve Is Nowhere Near Victory) (The Core Of The Economy - The Middle Class - Is Crumbling)
インフレについて、米国の当局や金融界は、CPIなどの物価や石油価格などの上昇を抑止したいと考えており、統計や相場の歪曲など、いろんな方法で見かけ上の価格を抑制している。CPIは最初の発表時に低めに出した後、何か月か経ってから情報修正する手口がとられている。また昨秋から米欧の景気が悪くなって消費が減退したこともあり、米国のCPIが昨年6月の前年同月比9.1%増をピークに、今年1月の6.4%増へと上昇幅・インフレ率が下がっているのだと考えられる。昨年12月から米経済は不況入りしたと考えられている。これから米国の景気が回復する見通しはない。好景気報道はウソである。米景気はさらに悪化していく。 (Huge CPI Revisions - Prices Rose Much Faster Than Originally Reported, for Months)
不況になると商品が人々に買われなくなって値下がりし、インフレの沈静化やデフレの傾向になるというのが教科書的な経済理論だ。しかし、それはもともとのインフレが好景気によって引き起こされている場合の話だ。今起きているインフレの原因は好景気でない。(1)コロナ危機以来の、米国内と太平洋航路などの流通網の詰まり、(2)ウクライナ戦争で世界が米国側と非米側に決定的に二分され、石油ガス食糧など資源類の多くが非米側のものになったため、米国側が買う資源類が高騰した、という2つことが今のインフレの主因だ。米国は中露敵視を激化しているので(2)は今後ますます高騰する。(1)も、米国側と非米側との分断の固定化という新要因が加わって長期化する。米国は最近、中国との対立を激化しているので、今後は米中の経済断絶がひどくなり、(1)(2)に起因するインフレが再燃する。米国側のインフレは今後もずっと続き、沈静化どころか逆に悪化する傾向だ。 (White House Considers Restricting China’s Access to Dollars, Media Reports) (El-Erian Says Fed Needs To Raise 2% Inflation Target Or It Will "Crush The Economy")
インフレが再燃したら、米連銀は利上げを続けざるを得ない。インフレが沈静化して金利が下がるという権威筋の予測は間違っている。現在4.6%前後に設定されている米連銀の政策短期金利(FF金利)は、今後数か月以内にインフレが再燃して5%台に上がると予測されている。ふつうは、短期金利が上がると連動して長期金利も上がり、米政府が払うべき長期米国債の利払い額が増えて政府財政が圧迫される。米連銀は、QEの資金を使って長期の米国債や社債を買い支えて長期金利の上昇を抑止し、長期金利が短期金利よりも低い金利逆転状態を作り出し、政府の利払い額が増えないようにしてきた。 ( Gold To Seek Comfort From Duration As Fed Hikes)
しかし連銀は昨年初めから、QEをやめて逆に債券を手放して資金を市場から吸い上げるQTを続けている。QTは現在、平均すると毎月1000億ドル分ぐらいの資金を市場から吸い上げている。QTは今後も2年ぐらい続く予定だ。QTと、インフレ再燃による短期金利の上昇という二重の要因が加速し、今後しだいに金利逆転状態を維持するのが難しくなり、長期金利が上昇する。米政府の利払い額が増えて財政破綻に近づくとともに、債券金融がシステム的に崩壊していく。 (The Fed - Factors Affecting Reserve Balances) (Credit Beginning To Look Like One Of Most Mispriced Asset)
米国では政府の財政赤字額が2月前半に再び法定上限に達し、米政府はへそくり的なつなぎ資金で運営されて、財政破綻・国債の債務不履行を何とか回避している。米政府の財政赤字はこれまで何度も上限に達してきたが、そのたびに米議会が紛糾しつつ土壇場で赤字上限の引き上げを決議し、破綻を先送りしてきた。だが今回は状況が厳しい。議会は今年から、財政赤字の拡大に反対する傾向が強い共和党が下院の多数派を握っており、赤字上限の引き上げに最後まで反対する可能性がある。その場合、米政府は、早ければ7月にへそくりが底をつき、米国債の元利払いができなくなって債務不履行・財政破綻になる。土壇場で破綻が回避される可能性もある。 (CBO Estimates US Treasury Default As Early As July)
債券金融システムは、1960年代のドル過剰発行の末に1971年のニクソンショック(金ドル交換停止)で金本位制を放棄して失墜したドルの信用と価値を再上昇するため、1980年代に米英金融界が創設したもので、国債からジャンク債までの各種債券を発行して作った資金の一部で弱い債券を買い支えて自作自演でシステムを強化し、30年にわたる債券の価値上昇=金利低下傾向=債券バブル膨張を作り出した。米国の債券金融システムの中にいれば儲かるので、世界中が米国の傘下に入りたがり、米覇権が再興し、ソ連は崩壊した。債券金融システムは、金利を低く抑え続ける(=債券の価値を高く維持し続ける)ことが必須だった。 (Bonds Die, CPI's Lie, & Gold Flies) (債券金融システムの終わり)
このシステムは2008年のリーマン危機によってバブル崩壊したが、その後の対策として米連銀がQEを開始して債券を買い支え、システムの蘇生を演出した。マスコミ権威筋は、金融システム(債券に対する市場原理に基づく民間の旺盛な需要)がリーマンショックを乗り越えて蘇生したと喧伝した。だが実際は、債券の民需が再増加せず、米日欧の中銀群がQEで造幣した資金で債券を買い支えて見かけ上の蘇生を演出しているだけのインチキ策だった。それが14年も続いてきた。 (High US inflation could last a decade – investment expert)
しかし、2021年からのインフレ激化を受けて金利が上昇し始め、インフレ対策としてQEをやめてQTに転じろという米政界から連銀への圧力も強まり、債券金融システムが自滅させられる流れになった。QTは2024年末まで続けられ、インフレはそのころも続いているだろうから2025年以降も金融緩和は行われず、高金利の状態がずっと続く。低金利が必須の債券金融システムは崩壊し続け、米国の覇権と、ドルや米国債の信用と価値も失われていく。欧州も自滅し、日韓は隠然と中国側に寄っていき、米覇権下の米国側全体が解体していく。反比例的に、中国ロシアBRICSサウジイランなどの非米側は、世界の資源類の大半を握って結束し、米国側と断絶した状態で隠然と繁栄していく(米国側のマスコミ権威筋は非米側の繁栄を無視・否定するので、非米側は隠然繁栄になる。私などが指摘しても陰謀論扱いされて終わる)。 (Gold's Imminent Return As Money)
従来の世界の貿易決済や資産備蓄の体制はほとんどドル一択だったが、米国側から断絶・制裁された非米側は、ドルと無関係な決済・備蓄の体制を作っている。それは人民元など非米側の主要な諸通貨と、金地金、石油など資源類の価値を連携した「金資源本位制」である。米金融界は、ドルが過剰発行の末に金本位制を維持できなくなった過去を払拭するため、1980年代に債券金融システムを導入した後、その資金の一部を使って信用取引で金相場を引き下げた。金融界による金相場の上昇抑止は現在まで続いている。 (資源の非米側が金融の米国側に勝つ) (Credit Suisse: US Dollar Hegemony May Be Replaced by 'More Multipolar Monetary System')
だが、金本位制を意識した通貨体制を形成しつつある非米側の諸国の中銀群は金地金を買い増しており、最近は米国側が信用取引で金相場を引き下げても、非米側が実需で相場を反騰させ、全体として金相場が上がっていく傾向になっている。今後、米国側(米金融界)が金相場の抑圧に再び本腰を入れて相場を急落させる可能性もあるが、そのための資金源はQTによって枯渇しつつある。米金融界は、債券金融システムのバブル維持(米国の金利曲線の逆転維持)など、インチキな金融覇権維持策の他の分野にも資金を必要としており、金相場の抑圧はしだいに難しくなっている。 (Billionaire John Paulson: You Need Gold, Not Dollars) (ロシアを皮切りに世界が金本位制に戻る)
これからインフレ再燃で米短期金利が5%台の後半まで上がると、金利曲線の逆転維持に必要な資金が増加して維持困難になり、長期金利の上昇が加速し、それを受けて金相場も高騰し、相場の抑止が最終的に終わる可能性がある。1オンス2000-2500ドルを越えると、相場の抑止力が失われ、5000ドルとか1万ドルとか3万ドルに向けて急騰すると、米国の地金おたく(ゴールドバグ)の人々が言っている。今の世界の金融総資産を金本位制に置き換えると、金地金は1オンス3万ドルになる必要があるのでそこまで上がる、と言う人もいる。非米側は純粋にガチな金本位制を目指しているわけでなく、金本位制のイメージを借りて自分たちの通貨を安定させたいと考えているだけなので、3万ドルは疑問だ。しかし、5千ドルぐらいにはなるかもしれない。最近の記事で紹介したゾルタン・ポズサーも、金地金の価格が今の2.5倍になるかも的なことを言っている。 (ドル崩壊への準備をするBRICS) ("The War Is Going To Pick Up... And Gold's Going To $30k")
資産としての金地金をめぐる懸念の一つは換金性だ。今のところ米国側の多くの地域で、金地金は通貨でなく商品(コモディティ)とみなされ、現金と交換する場合に売買差益に累進的な所得税が課され、売上税(消費税)も課税される。米国のいくつかの州やロシアは、金地金を通貨とみなして課税していないようだが、日本などではそうでない。ドルが崩壊したら、世界的に金地金を通貨とみなす法改定が行われるのかどうか。金利が高騰して債券システムが崩壊しても、米国側の諸政府はそれをドル崩壊とみなさず、金地金は非米側でのみ通貨とみなされ、米国側では引き続き商品扱いが続くかもしれない。 (Central Bank Gold Reserves Chart Second-Highest Increase Since 1950 In 2022)
金地金をめぐるもう一つの懸念は、米国側もしくは全世界的に、民間の金地金保有を禁止し、金地金の保有者を中央銀行など政府機関だけに限定する措置がとられる可能性だ。ドルを延命したい米国側は、窮余の一策としてドルのライバルである金地金の民間保有を禁じるのでないか。しかし、そうなるとしても一時的な措置になる。ドルが崩壊したら、ライバルの金地金を封印しておく意味もなくなる。また非米側では、インドや中近東などで金地金が昔から民間の資産備蓄手段であり、地金の民間所有を禁じたら反乱になる。 (Chinese Gold Imports Hit Highest Level Since 2018)
中国は毛沢東の時代に地金の民間保有を禁じていたが、今後の中国がその策を復活することは多分ない。非米側は共通の基軸通貨制度を持ちたいと考えている上、意思決定が多極化しており、中国がインドや中近東の反対を押し切って独裁・覇権国的に非米側全体の金地金の民間保有を禁じることはない。ドルや米覇権が崩壊して多極化が非米側から全世界に拡大すると、世界全体で金地金が通貨の一つとみなされるようになる。それまで5-25年ぐらいかかるかもしれない。 (Buy Gold To Fund Bottom-Fishing)
オルトメディア界の分析の一つに「ドル崩壊は、ドルの代わりに新しいデジタル通貨(CBDC)を導入するために意図的に引き起こされている」というのがある。米国も中国も、人々に対する管理や支配を強化するため、紙幣の通貨を廃止し、人々の決済を政府が簡単に監視できるデジタル通貨に置き換えていきたい。そのためにまずドルを崩壊させているのだという見方だ。私はこの見方に懐疑的だ。 (A Dollar Collapse Is Now In Motion, Saudi Arabia Signals The End Of 'Petro' Status)
中国ではデジタル通貨の使用実験が行われているが、政府が通貨に有効期限を設けたりできるので「金の亡者」たちである中国の人々に不人気で、中央銀行の元幹部がデジタル通貨は失敗したと言っている。中国はもうデジタル通貨を本格導入しないのでないか。欧州でも通貨デジタル化の一歩である現金廃止策が不人気で、人々は紙幣による資産備蓄にこだわっている。通貨デジタル化を奨励するダボス会議(WEF)自体が最近、世界的に人々から嫌悪されている。デジタル通貨が強要されたら、人々はどこの国でも、駆け込み的に金地金を退蔵・隠匿しようとするだろう。人々の経済的自由を奪うほど、経済は繁栄しにくくなる。WEFの大リセットは、人々を怒らせて押し倒されるために推進されている。 (Former Chinese Central Banker Admits Results Of Digital Yuan Experiment "Not Ideal") (Open Madness In Global Bond Markets: Got Gold?)
結局のところ、米国の金融はいつまでもつのか。上記でいろいろ考察したことを総合すると、早ければ今年6-9月ぐらいに金融の崩壊が加速する感じが想像される。米連銀や金融界がまだ出していない奥の手を持っていて、危機が加速する前にその手札を切ってくると、もう少し延命し、2024年まで金融がもつことになるかもしれない。 (来年までにドル崩壊)
① 田中宇の情報 その二 2023年2月23日
https://tanakanews.com/230223ukrain.htm
欧米をますます不利にするバイデンのウクライナ訪問
2月20日、ポーランドを訪問中の米バイデン大統領が、公式日程になかったウクライナのキエフ(キーウ)訪問を電撃的に行った。同行した米記者団は、バイデンがキエフに行くかもしれないと予測していたものの、列車で行くとは思っていなかったらしい(ウソっぽいが)。バイデンはポーランド国境から10時間の列車の旅をしてキエフを訪問し、キエフに5時間滞在した後、再び10時間かけてポーランドに戻った。米国側マスコミの中には、バイデンが飛行機を使うこともできたのに、象徴的な意味を込めて列車の旅を選んだかのように報じているものもあるが、大間違いである。バイデンは列車で行くしかなかった。ウクライナ全土の上空は開戦直後からずっとロシアが制空権を握って飛行禁止区域に設定している。バイデンが飛行機で行ったらロシアのミサイルに撃ち落とされて死んでいた可能性がある。 (Biden Visits Embattled Ukraine as Air-Raid Siren Sounds) (US informed Russia of Joe Biden’s Kyiv visit hours before departure)
最近の記事にも書いたとおり、ロシアは、戦場になっていないウクライナ西部の鉄道が平常運行されても空爆しないと許可しており、開戦後キエフを訪れたEU諸国など米国側の要人たちは、全員が片道10時間の列車の旅をしている。加えて米政府は、バイデンのウクライナ訪問を事前にロシア政府に通告することで安全度を高めた。プーチンの子分でお茶目なメドベージェフ元露大統領によると、露政府はウクライナ滞在中のバイデンを攻撃しないと米政府に約束したそうだ(本気で敵対してないのがバレると困るので、ロシアの諜報機関はこの話を否定した)。 (ウクライナでゆるやかに敗けていく米欧) (Medvedev says Biden received security guarantees before going to Kiev) (Moscow provided no security guarantees to Biden - FSB)
事前にバイデンの安全を保障してやったかどうかにかかわらず、ロシアがウクライナ滞在中のバイデンを攻撃しなかったことは、この戦争におけるロシアの「余裕」を表している。ロシアは、ウクライナ戦争とそれに伴う欧米による対露制裁が長引くほど、欧米が経済的に自滅して相対的・地政学的にロシアが優勢になるので、この戦争が延々と続くことを望んでいる。バイデンがキエフに来て戦争継続を鼓舞するのは、ロシアにとって望ましいことだった。 (West wages war against Russia on economic front — Putin) (米英覇権を潰す闘いに入ったロシア)
バイデンのキエフ訪問中、ウクライナ当局は空襲警報のサイレンを鳴らし続け、あたかもロシア軍が今にも空爆してきそうな感じを醸成して、その音声や映像が世界に報道されたが、ロシアは全く攻撃してこなかった。空襲警報は「欧米が軍事支援を増やさないとウクライナはロシア軍に空爆されて潰されるぞ」という緊張感を醸し出すためのウクライナ当局の演出だ。昨年来、EUなどの要人がキエフを訪問するたびに、同様の演出的な空襲警報が高らかに鳴らされている。欧州も要人のキエフ訪問を事前に露政府に通告していたのでないか。 (Air Raid Sirens Blared For Dramatic Effect During Biden's Visit To Kiev) (Not a Surprise Visit After All? US Notified Russia About Biden's Trip to Kiev in Advance)
バイデンはキエフで会ったゼレンスキー大統領に対し、ロシアと戦うための巨額の軍事支援の追加を約束した。新型ミサイルも供給され始めている。巨額で大量の新兵器がきたら、戦況が転換してロシアの負けになるのでないか??。マスコミを信じている人々は、そう思うかもしれない。しかし、それも多分間違いだ。これまでも米国側からウクライナに巨額で大量の兵器類が送られてきた。ロシアは不利だ。もうすぐ負ける。間もなくウクライナが勝利する。ずっと、そう報じられてきた。だが、大量の兵器類が来ているのにウクライナは勝ってない。ずっとロシアの優勢が続いている。ロシアはウクライナの制空権を握っているので、欧米が戦場に送り込んできた大量の兵器類をピンポイント攻撃してどんどん破壊していく。 (‘Everyone is Getting Ready for War’: Vucic Says Serbia’s Arms Exports ‘Selling Like Hotcakes’)
ロシアは自軍がこっそり優勢な状態で戦争を長引かせたいので、欧米から送り込まれた兵器類を破壊したことを一部しか発表しない。米国側マスコミの「ロシアは負けそう」という歪曲報道・戦争プロパガンダを、ロシア側は否定せず放置している(だからプーチンはいつも含み笑いをしている、とか)。米国側の全体で、新たに調達・製造する兵器の何倍もの量をウクライナに送り込んでいる。それらの多くは、使う前に露軍の空爆で破壊されていると推測される。米国側の兵器が上手に使われていたら、もっとウクライナが盛り返しても不思議でないが、そうなっていない。ウクライナ高官らが兵器を不正に国外に転売しているという説もあるが、それだと世界のどこかで紛争が激化しそうなのに、今は世界中で戦闘が沈静化する傾向だ。不正転売は一部であり、米国側が送った兵器の大半はウクライナ国内で露軍にピンポイント破壊されているのだろう。 (Western military equipment sent to Ukraine to be ground down, says senior Russian diplomat) (Biden Visits Kiev to Reassure Zelensky While Support for US Proxy War in Ukraine Wanes)
米欧は軍事費の多くを使ってウクライナに送る兵器を増産しているが、露軍にどんどん壊されるので追いつかない。軍事費が浪費され、米欧の国家財政は疲弊している。米国側の諸国はロシアからの石油ガス輸入を止めたので燃料費が高騰し、国民生活が悪化している。その分の経済支援を政府財政から出したいが、軍事費におされて政府はカネがない。燃料費の高騰で不況がひどくなっている(米経済が好景気だという報道があるが間違いだ。経済統計も歪曲されている)。ウクライナ戦争が長引くほど、米国側の諸国(先進国)は政府財政と国民経済が自滅していく。マスコミがおかしくなっているので、この構図も報道されないままだ。 (U.S. tells Ukraine it cannot provide strategic missiles because American forces simply don’t have enough) (Blinken Warns Attempting to Retake Crimea Is a ‘Red Line’ for Putin)
独仏など欧州では、自滅的なウクライナ戦争の構図を米国の言いなりで維持してきた左右のエリート支配層が人々の支持をしだいに失い、選挙による政権転覆の可能性が増している。欧州のエリート層は、ウクライナ戦争を早く終わらせねばならないと考える傾向を強めている。彼ら欧州勢は、ゼレンスキーに圧力をかけてロシアとの和解交渉の席につかせたいが、米国の傀儡であるゼレンスキーは好戦的な米国に加圧され、和解を拒否して戦争を続けている。欧州の支配層は米国に、早くウクライナ戦争を終わりにしないと自分たちが失権するという警告を強めている。 (Russian economy shrank 2.1% in 2022, much less than expected) (Race Of Logistics: NATO's Military-Industrial Crisis)
米国でも、もうウクライナを支援すべきでないという世論が強まり、その世論を支持する共和党が強くなっている。バイデン政権や民主党は(見かけ上の)方向転換を余儀なくなされている。この流れの中で、バイデンがキエフを訪問した。バイデン訪問に先立って、米上層部が同盟諸国やマスコミに言わせる状況判断が、それまでの「ウクライナの勝利が近い」から「米国側が頑張って軍事支援しないとウクライナが負け、ロシアとの和解交渉が必要になる」に転換した。ウクライナと米国側が、クリミアとドンバスの領有をロシアに認めることで和解交渉するしかない、というウクライナ分割容認の構想が米国で(目くらまし的に)語られるようになった。 (Oversight Committee Demands Account Of All Economic, Military Aid To Ukraine) (ウクライナ戦争をやめたくてもやめられない米国側)
しかしこの構想は、すぐに分割容認に行き着くのでなく、その前に数か月間、米国側がウクライナを全力で軍事支援してウクライナがロシアと戦う「最後の猛攻撃の期間」を作る話になっている。その話をするためにバイデンがキエフを初訪問した。バイデンがキエフからワルシャワに戻るのに合わせ、NATO加盟の東欧諸国9か国の首脳たちがワルシャワに集まり、バイデンと会議した。バイデンは、米国が東欧諸国を守り抜くことを約束し、だからあと数か月ウクライナを軍事支援してくれと頼んだ(ロシア寄りのハンガリーは欠席)。バイデンは、ウクライナと東欧諸国を巻き込んで「最後の数か月の戦い」の開始を宣言することで、独仏伊など欧州で厭戦機運を強める諸国の外堀を埋め、欧州が対米従属を維持してウクライナ戦争を支援し続ける態勢を作った。 (On Ukraine, is Biden signaling that ‘as long as it takes’ may have an end-date?) (Biden Meets With 9 NATO 'Eastern Flank' Leaders, Vows US Defense)
今後の戦いが、本当に数か月で終わるかどうかは疑問だ。ウクライナ分割の容認による停戦和平は、ロシアの勝利と、米国やNATO=米英覇権の敗北を認めることであり、NATOと米国と米英覇権と欧州エリートの信用失墜・権力と覇権の崩壊を引き起こす。欧州と米国の支配層は、自分たちの政治的な死につながる停戦和平を認められない。「最後の数か月」はウソであり、本当は単なる時間稼ぎで、その先のことは今の策略が破綻したらまた考えるという話だと思われる。 (Biden’s visit to Ukraine aimed to encourage Kiev to start offensive soon)
米上層部(諜報界)には、米覇権を維持したい勢力によるその手の時間稼ぎの策略を失敗させようとする人々もいる。彼らはセイモア・ハーシュに「ドイツが作ったノルドストリーム海底ガスパイプラインを昨秋破壊したのは米国で、バイデン自らが破壊を了承した」という情報をリークして特ダネ記事を書かせ、ドイツ人を「やっぱりそうだったのか」と思わせて怒らせ、バイデンの時間稼ぎ策の足を引っ張っている。バイデンのキエフ訪問は以前から計画され、あとはタイミングを決めるだけだったらしいが、訪問の日程が内々に決まったことを受け、対抗的にセイモア・ハーシュへのリークが行われたのだろう。 (Seymour Hersh calls pipeline sabotage ‘dumbest’ US act in years)
ノルド・ストリームの破壊を本当にバイデン自身が了承したのかは疑問だが、米当局が犯人なのは間違いないだろう。米軍や諜報組織の中に、正式な指揮系統と別のところから命じられて破壊工作をやる人々がいる。911事件もその筋による挙行だし、今回の破壊もそれだろう。バイデン政権としては「米当局がやったのは事実だがバイデンの命令でない」と言うわけにもいかず「全体として誤報だ」と否定するしかない。 (US realizes that no one believes in its non-involvement in Nord Stream sabotage)
もう一つ、バイデンのキエフ訪問とタイミングを合わせて進められてきたのは、米国が欧州を巻き込んで中国敵視を強める策だ。中露を米国側の敵として結束させるほど、米覇権は自滅の道をたどる。これについては改めて書くことにする。 (China Says Ready To "Join Forces With Russia" To "Defend National Interests" As Putin Confirms Xi Visit)
② 朝日の情報 2023年2月24日
侵攻1年、見えぬ出口ウクライナ民間犠牲8000人超
プーチン氏、核戦力を誇示
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15564709.html?ref=pcviewer
ロシアがウクライナに侵攻してから24日で1年になる。「ウクライナ東部で集団殺害が行われている」とする根拠のない主張でプーチン大統領が始めた戦争は民間施設への無差別攻撃や虐殺を伴い、市民の犠牲が増え続けている。占領地の拡大の意図を隠さないロシアに対し、ウクライナは徹底抗戦する構えだ。戦争が終わる見通しは全く立っていない。
プーチン氏は23日、「祖国防衛者の日」のビデオ演説でウクライナを「我々の歴史的な領土」と呼び、軍備増強を明言。核弾頭を搭載できる新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」の年内の実戦配備をあらためて表明し、核戦力を誇示した。
ロシアは「軍事施設だけを攻撃している」と主張するが、病院や学校への攻撃が続発。国連の21日の発表によると、ウクライナで犠牲になった民間人は確認されただけでも8006人。ウクライナ政府は昨年12月、市民の犠牲者が「2万人をはるかに超えた」とした。
ウクライナは領土の2割近くをロシアの占領下に置かれた状態が続く。プーチン氏は昨年9月、東部・南部4州の併合を一方的に発表したが、ウクライナ軍は反転攻勢を続け、南部ヘルソン州で州都を含むドニプロ川西岸地域を奪還した。以来、戦況は膠着(こうちゃく)状態に陥ったが、ロシアは昨年末から東部で攻勢を強め、ウクライナは今後の大規模攻勢につながると警戒する。
英国防省は、ロシア軍側の死傷者の総計が17万5千~20万人にのぼり、死者は4万~6万人に達したとみる。ウクライナ側は昨年12月、同国軍の戦死者を1万~1万3千人とした。
国連のグテーレス事務総長は22日、国連総会のウクライナに関する緊急特別会合で演説し、ロシアによる侵攻を「国連憲章と国際法の違反」と非難した。(キーウ=喜田尚)
■「夫は戦死」知らせだけ届いた 待ち続ける新婚の妻
「残念です。ご主人は殺されました」
昨年11月27日夜、オクサナ・スタロスビットさん(21)のSNSに、そんなメッセージが届いた。
ウクライナ軍の兵士として前線に立つ夫のセルヒーさん(38)がいたのは、東部ドネツク州の激戦地バフムート一帯。軍の関係者が送ってきたメッセージによれば、夫と同じ部隊の兵士が、ロシア軍の攻撃で殺されるところを見たという。
遺体は見つかっていない。
結婚したのは2021年10月。4カ月後、ロシアの軍事侵攻が始まった。「僕が行かなければ、誰が行くんだい?」。セルヒーさんは軍に入隊した。
離ればなれの新婚生活。「愛している」「食べるものはあるの?」。電話では、そんな言葉が繰り返された。
最後に会ったのは、死亡の知らせが届く3週間ほど前。セルヒーさんの休暇だった。この時に購入した新居は小さいけど、部屋は六つある。将来きっと、子どもに恵まれるはずだから。
その家に今、セルヒーさんの姿はない。
軍からはその後、夫が「行方不明」になっていると聞いた。
「セルヒーの体を目にするまで、私は希望を捨てきれない。彼は、私の人生そのものだから」
ロイター通信によると、「国際行方不明者機関」(ICMP)は昨年11月、ウクライナで少なくとも1万5千人が行方不明になっているとの見方を示した。
死亡の可能性が高くても、愛する人の亡きがらに触れられず、時間を止めたままの人たちがいる。
遺体交換でウクライナ兵を取り戻すために、ロシア兵の遺体を前線などで収容する任務に就くウクライナ軍のオレクサンドル・ルツェンコさん(50)は言う。「死はつらいことだが、このままでは家族は『空虚な希望』を持ち続けなくてはならない。だからこそ、遺体を帰してあげることが、大切なのです」(ウクライナ中部セメニウカ=高野裕介)
③ 欧州総局長・杉山正 2023年2月24日
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15564711.html?iref=mor_articlelink02
G7以外も巻き込み抑止を ウクライナ侵攻1年
侵攻はいつまで続き、そしてウクライナはいつまで戦うべきなのか。
私が現地で聞いた答えの多くは「失われた領土を取り戻すまで」だった。前線の将校クリスティーナ・ボイチュクさん(29)はこう話す。「戦いは2014年から続いている」
ロシアがウクライナに攻め込むのは初めてではない。14年3月、クリミア半島を一方的に編入した。当時現地にいた私の前で、ロシア軍に包囲されたウクライナ兵は軍基地から出て投降していった。
ロシアは隙あらば条約もルールも踏みにじり、力の論理を振りかざす。私たちは侵攻の始まりを2・24と思いがちだが、ウクライナの人々の認識は違う。
ロシアが9年前に犯した侵攻への、私たちの微温的な対応と無関心が今回の侵攻につながったのではないか。ウクライナの人びとは重い問いを突きつける。
今回の侵攻後、米欧は軍事支援と経済制裁を重ねるが、戦争の出口は見えないまま傷痕ばかりが広がる。
だが、昨年11月、侵攻するロシアへの損害賠償を求める国連決議に99カ国が賛成を選ばなかった。経済制裁に加わるのも米欧や日本など40カ国ほどで、主要20カ国・地域(G20)の今年の議長国インドは逆に、対ロ貿易を急増させた。
そのインドの外相は昨年、「欧州の問題が世界の問題で、(それ以外の)世界の問題は欧州の問題でないという思考から、欧州は抜け出さなければならない」と述べた。ドイツのショルツ首相が今月、この発言を「一理ある」と述べたのは危機感の表れだろう。
バイデン米政権は、「民主主義対専制主義」という構図を掲げる。だが、米国の視線の先にあるのは「唯一の競争相手」と位置づける中国だ。こうした二元論に、冷めた視線を送る国々がいることを米欧は深く認識すべきだろう。
今年主要7カ国(G7)議長国の日本は身内の結束を誇るだけでは不十分で、G7の外に広がる世界を巻き込む努力が不可欠だ。
侵略戦争が起きたとき、力の論理だけではない抑止をどう働かせるか。中ロと米欧の間にある国々の協力を得なければ、戦争は止められない。1年経っても終わりが見えない侵攻の重い教訓だ。
https://www.historyjp.com/allindex/ https://www.hotsuma.jr.jp ◆下平評
◆日付 2023/00/00
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