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折々の記 2010 F

【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】10/01〜     【 02 】10/05〜     【 03 】10/11〜
【 04 】10/22〜     【 05 】11/09〜     【 06 】11/17〜
【 07 】11/30〜     【 08 】12/08〜     【 09 】12/10〜

【 01 】10/01

  10 01 強硬な中国

 10 01 (金) 強硬な中国

きょうから臨時国会が開かれましたが、菅総理はなんとなく薄っぺらでどっしりとした政治方向が感じられません。 尖閣諸島問題への対応や沖縄基地問題の取り扱い方が見ていられない。 あわせて、ドル崩壊に対する対応の見通しもできていない感じが強いのです。 困ったことです。

9月29日の朝日社説は次のように指摘しています。


強硬な中国―大国の自制を示せ

 尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で逮捕、勾留(こうりゅう)された中国人船長は釈放され、自宅に戻った。にもかかわらず、中国政府は日本側に謝罪と賠償を求めるなど、強硬な姿勢を示した。

 中国側は強腰で臨めば、日本はさらに譲歩してくると思ったのだろうか。それは思い違いであり、中国の長期的な利益にもならない。

 中国は経済の改革開放により、日本を抜いて世界第2の経済大国になるのが確実だ。その経済力を背景にアジアやアフリカなど世界で存在感を強めている。

 中国政府は経済的な余裕を、軍事力増強にも向けた。その結果、海軍は太平洋などで活動を広げている。尖閣諸島だけでなく、南シナ海でも周辺各国と領有権をめぐって対立している。

 その注視の中で、今回のようななりふり構わぬ振る舞いは、国際社会から異様と受け止められている。

 中国は長らく、中国の発展は世界の脅威ではなく、あくまでも平和的な道を歩むと国際的に訴えてきた。その姿勢が変わったかのように見えるのは、極めて遺憾だ。

 指導部の入れ替えがある2012年の共産党大会を控えた微妙な時期に、胡錦濤総書記をはじめとする指導部は、火種になりかねない日中関係で弱腰になるわけにはいかないのだろう。大国意識の強まる世論を無視できないことも容易に想像できる。

 とはいえ、世界のリーダーにならんとする中国が、隣国との関係でここまでかたくなになるのはやり過ぎだ。

 米国がかつてのような国力を誇れぬ今、中国はアジアの安定を保つ方向に動くべきだ。調和のとれた国際関係は中国外交の目標のはずだ。ならば、大国の自制を示すべきだ。

 釈放について国内に批判がある。

 だが、「平和的で外交的な手続きをとることがいかに重要かという洞察力と見解を示した」(キャンベル米国務次官補)という評価もある。平和的な手段こそ、日本のとるべき道だ。

 菅直人首相は10月4、5両日にブリュッセルで開かれるアジア欧州会議首脳会議に出席すると決めた。

 1日から臨時国会が始まるが、尖閣沖の事件を受けて、首脳会議を優先する。当然の選択だ。外交の重要さをあらためて認識したい。

 各国に日本の立場への理解を求めるだけでなく、中国との対話も探るべきだ。少なくとも、事件再発を防ぐ話し合いを始めなければならない。

 38年前のきょう、日本と中華人民共和国は外交関係を樹立した。

 北京で署名された「日中共同声明」で、双方は両国間の恒久的な平和友好関係の確立に合意した。中国はこれを忘れてはいまい。
(朝日新聞社説 2020/9/29)




きょうの朝日新聞に次のような記事が載せられています。

   大国 覇権へ突進
         上 海の攻防 … 2010 10 01
         中 政治の不安 … 2010 10 02
         下 官と民のはざま … 2010 10 03

この記事はコピーしておきたいのだが、asahi com には出ていません。 細かくは見てないが、 19世紀前半の帝国主義の筆法よろしく強引な自国の手前勝手な「わがまま」に似ています。


<2010/10/01>

大国 覇権へ突進
上 海の攻防


大きな地図で見る

 中国を含む複数の国・地域が領有権を主張する南沙諸島や西沙諸島が浮かぶ南シナ海。 この海では、中国を巡る緊張は日常になりつつある。

 6月中旬、ベトナム・トンキン湾沖。 ベトナム難民が長く漁場としてきたこの海域で、操業中のベトナム漁船が中国当局に次々と摘発された。 同月末までに拿捕された漁船は31隻にのぼった。 中国が一方的に通告していた「5月16日から8月1日までは、北緯12度以北の海域を禁漁とする」という措置に従わなかった、ということのようだった。

 一方的な「禁漁通告」は、中国がこれまでも使ってきた手法だ。 中国は東シナ海で、1990年代から漁業者の避難施設、海洋調査施設……さまざまな目的を持ち出して南沙諸島の小島や岩礁に建物を造ってきた。 軍事転用が可能な施設もある。 2001年に突然、「南シナ海での漁業を6月から8月まで禁止する」と宣言し、他国の漁船の排除に乗り出した。

 多数の漁船団を送り込み、それを保護する名目で漁船監視船を派遣するやり方もそうだ。 南沙諸島周辺ではいま、多いときには1000隻近い中国漁船が操業し、マレーシアとの間で摩擦を引き起こしている。 今年4月からは大型漁業監視船が常時、監視行動を開始。 9月29日、広東省湛江市で最新鋭監視船「漁政301」が完成した。報道によれば、2500d級でヘリコプターを搭載できる。

 既成事実を積み重ねながら、支配を強めていく。

 周辺の東南アジア諸国は緊張を強いられているが、中国への強い抗議や報復措置といった先鋭化は起きていない。

 ベトナム国内で6月の漁船拿捕は一切伝えられなかった。同国外務相が出した短い報道官声明は、南沙諸島と西沙諸島は「ベトナム固有の領土である」としながらも、中国に触れなかった。「中国と経済の相互依存を深める中、平和や安全を脅かす事態に発展させないことがきわめて重要」とマレーシア海洋研究所のナゼリー・カリド氏。

 尖閣諸島沖の衝突事件は、海に張り出してくる中国が日本の間近にまできていることを印象づけた。 しかし、南シナ海ではすでに中国、東南アジア諸国、米国の間で攻防が続いている。(バンコク=藤谷健、北京=峯村健司)


尖閣 ひとごとでない


……… 米国・南シナ海沿岸諸国と中国がにらみ合う海の構図 ………
……… 舞台が日本終焉まで広がる可能性が ………

 中国が海洋進出を図る狙いは、年10%前後の伸びを続ける経済成長を支えるエネルギーの確保だ。

 南シナ海と東シナ海には、石油など豊富な地下資源が眠っている。 南シナ海はマラッカ海峡に通じる重要なシーレーン(海上交通路)でもある。 エネルギー需要の急増で、中国は1998年に原油の「純輸入国」になった。 輸入原油の8割がマラッカ海峡を通る。

 中国軍は、南シナ海の玄関口である海南島・三亜に最大規模の海軍基地を建設中だ。 原子力潜水艦の基地も備え、建造中の空母も配備される予定。 そうなれば、南シナ海に圧倒的な影響力を持てる。

警戒感隠さぬ米

 これを見過ごすことができないのが米国だ。

 米国は従来、アジアの海を巡るあつれきには距離を置いてきたが、中国による強引な海上権益確保を無視できなくなりつつある。

 2001年、海南島沖で起きた米中軍用機接触事故で米国は米機乗員と機体を取り戻すために中国への謝罪を強いられた。 昨年3月には米海軍の調査船が南シナ海で中国政府の艦船5隻に妨害を受ける事件も起きた。 重要なシーレーンの「航行の自由」が脅かされることへの懸念だけでなく、中国の軍事力増大が南シナ海の「もろい現状を崩壊させる可能性がある」(国防総省の中国軍事力に関する年次報告書)と警戒する。

 中国と1対1で対峙することは避けたい南シナ海沿岸国は、米国とともに東南アジア諸国連合(ASEAN)という多国間の枠組みのなかに中国を包み込みたいのが本音だ。 米国はそれに応えることで中国を包囲したい思惑がある。

 米政府高官は南シナ海を巡る対中姿勢について「あえて目に見える手法をとっている」と話す。 ASEAN関連会議などの場で積極的にこの問題を取り上げるだけでなく、8月にベトナムと南シナ海で実施した軍事交流には、中国が神経を尖らす空母ジョージ・ワシントンを投入した。

対立にためらい

 それでも、中国と間近で向き合うASEAN諸国にはためらいがある。

 9月24日、ニューヨークで開かれたオバマ米大統領と10人のASEAN首脳が参加した米ASEAN首脳会議。 約1時間半の議論の最大の焦点は、南シナ海問題だった。 しかし、会議後に発表された共同声明からは、米国が原案に記していた「南シナ海」の文字が消えていた。

 中国はその3日前、「南シナ海についての声明には重大な懸念を表明する」(キョウユ外務相副報道局長)と威嚇。 23日には温家宝首相が国連総会での演説で、国家主権や領土保全をめぐっては「屈服も妥協もしない」と言い切った。 日本では尖閣問題でのメッセージと受け止められたが、ASEAN諸国は自分たちのこととしてとらえた。

 ASEANのある政府高官は「中国不在の会議でこの問題を声明に盛り込むのはフェアではない。それに、米国の言いなりになっているとの印象を与えかねない。『南シナ海』を削れば、米中双方の顔が立つ」と明かした。

 東南アジアの国々にとって、尖閣諸島沖の衝突事件はひとごとではなかった。 だが、一連の事態を通じて、東南アジア諸国政府当局者による公式の言及はほとんどなかった。

 その東シナ海。 中国政府関係者によると、同海への漁業監視船の派遣は06年から始まった。 近海の漁獲高が減った中国漁船が、魚を求めて尖閣付近に押し寄せるようになったからだ。 当初監視船は、漁船が尖閣周辺の「敏感な海域」に入らないように指導していた。 しかし、今回の衝突事件で中国人船長が逮捕されたことで状況が変わった。

 中国政府関係者は「(進入してきた漁船を追い返すにとどめるという)長く続いてきた暗黙のルールを破り、自国の領海であることを声高に主張した。 今後、監視船は攻撃的にならざるを得ない」と話す。 だが、日本の海上保安庁幹部は「これまで中国漁船が体当たりしてくるようなことはなかった」と漁船の質が変化してきたことに注目する。

 中国の東シナ海長期戦略はこうだ。 

 まず沖縄、台湾、フィリピンにつながる島々を「第1列島線」と定め、ガス田周辺を含む海域を「内海」化する。 続いて、日本列島からサイパン、グアム島をつないでインドネシアに至る「第2列島線」内の西太平洋海域に展開できる「外洋海軍化」を目指す。

 南シナ海のような日常的な緊張が、東シナ海にも生まれる可能性をはらむ。(村山祐介=ワシントン、四倉幹木=マニラ、永田工)

◇        ◇        ◇

 経済の結びつきが強まり、相互依存を深める日中。 だが、尖閣諸島をめぐる対立と中国の対抗措置は積み上げつつあった信頼関係を揺るがした。 日本の経済が中国に頼りすぎることの危うさも浮かんだ。 リスク管理が困難な尖閣問題を抱えながら、いかに中国と向き合っていくか。 余震が続く海域や政治、経済の現場から伝える。


<2010/10/02>


政治対話 探り合い


……… 海洋進出を加速する中国 ………
……… 緊張が続く国境の海での危険回避の仕組み作りが、日本政府の急務 ………
< 大国 覇権へ突進 >  〔中 政治の不安〕


 窓から見た東シナ海は、中国の漁船で埋まっていた。 5月下旬、よく晴れた尖閣諸島の北西海域―――。

 長島明久防衛政務官(当時)は、海上自衛隊の哨戒機P3Cの窓いっぱいに広がる大船団を見ていた。 同乗の自衛官に聞くと「300隻はいます」。 尖閣の二つの島を海上保安庁の巡視船がぐるぐる回っていた。

 何十隻も日本領海内に向けて押し寄せたら、2隻の海保の船では防ぎきれない。 中国が軍艦を尖閣付近に派遣したら、どうなるか。 海上警備行動の命令を受け、自衛隊が対応することも、政権は想定している。 防衛省幹部の一人は「海自の護衛艦も出す」と明言した。

 今年4月には中国海軍の艦隊が東シナ海で訓練を行い、沖縄本島と宮古島の間を通過した。 その際、海自は護衛艦を貼り付けた。 すると中国の艦載ヘリコプターが、護衛艦に高度30b、水平距離90bまで異常接近。 洋上での日中接触は、すでに現実だ。 明確な侵略となれば、日米安保条約5条が発動され、自衛隊と米軍が共同で対処する可能性さえ出てくる。

すれ違う協議

 日々の高まる緊張を受け、日中の防衛当局は7月、東シナ海など海上での不測の事態を防ぐための「海上連絡メカニズム」の構築に向けた協議を防衛省で開いた。 だが、話は簡単には進まない。

 緊急時、現場で軍同士が連絡を取る国際緊急周波数がある。 だが、中国側は「日本が応答しない」と言い、日本側は「英語で呼びかけられればわかるはず」とかみ合わない。 英語が下手なのかも、という話も出たが、現場では冗談ではすまない。

 この協議で中国側の幹部は「中国海軍は外洋での行動になれていないから、今までなかったことが起きる。英語や国際的な信号に慣れていない」と漏らしたという。

 日中の小競り合いは洋上に限らない。 尖閣沖の衝突事故で船長が逮捕されたあと、中国語に堪能な外務省職員が東京から那覇地検石垣支部のある石垣島に派遣された。 現地に駆けつけた中国の総領事館員が「日本側の対応がおかしい」と抗議するのに対応した、という。

 外務省や防衛省の首脳幹部は、誤解や偶発的な衝突を防ぐホットラインや相互理解を進めるための防衛交流の必要性を痛感している。 だが、9月21日に予定されていた中国空軍の佐官級幹部の来日は、中国側が「国内業務の都合」を理由に延期した。 尖閣での衝突事件は、危機回避策を探る日中相互の動きに、影を落としている。

 日中間の信頼情勢に詳しい米スタンフォード大のベンジャミン・セルフ上級研究員は「今回の尖閣問題を見ると、日中の信頼構築はうまくいっていない。中国の信頼を得るために日米同盟を使う発想に立たなければ、日中関係の進展はない」と語る。 日米同盟が安定すれば、中国側もそれを意識して穏便な行動をとる、という見立てだ。

 一方で、政権内では、尖閣問題を逆手にとって、米軍普天間飛行場の移設問題を動かすテコにしようという動きが出ている。 「沖縄がいかに重要な場所にあるか、脅威が身近にあるかを国民、沖縄県民が認識した」(外務省幹部)というわけだ。 民主党の有力幹部も「米軍駐留に国民の理解は深まった」と話す。

 そんな思惑を察知してか、沖縄県の仲井真弘多知事は先月末、県域にある尖閣諸島について「早めにぜひ行きたい」と視察に乗り出す意向を示した。 一隻の中国漁船の動きが、沖縄、米国を巻き込んで波紋を広げつつある。(河口健太郎、鶴岡正寛)

か細いパイプ

 「お互い読み違えた」

 今回の日中両政府の動きについて、ある外務事務次官の経験者はそう分析している。

 「中国はすぐ船長を釈放すると思い、日本は国内法で粛々とすれば政治性は帯びないですむと思った」

 掛け違えたボタンを元に戻すのは政治の仕事だが、人材が乏しい。 菅直人政権の要は、仙石由人官房長官や前原誠司外相らの党内グループ「凌雲会」のメンバーが占めている。 全体に「対中強硬」の空気が強く、中国との縁は薄い。 衝突事件後、凌雲会に所属するある政務官は「誰か中国にパイプのある人はいないか」と若手議員に電話をかけまくったという。 

 凌雲会は仙石氏が会長を務め、前原氏と枝野幸男幹事長代理が政策面の中心。 前原氏は中国脅威論を唱えたことで知られ、枝野氏は事件後、朝日新聞の取材に「中国と戦略的互恵関係をつくるなんて最初から無理」と突き放した。

 「法治」ではなく「人治」の国といわれる中国にとって、水面下の根回しを嫌い、法と原則を重んじる凌雲会の気風は水と油だ。

 民主党の「親中派」代表格は、民主党代表選で菅首相と戦った小沢一郎代表だ。近い議員は、菅首相の「脱小沢」路線で要職から外れている。 先月29日から訪中した細野豪志・前幹事長代理も、その一人。 小沢氏は2006年中国の胡錦濤国家主席と、民主党と中国共産党の「交流協議機構」の設置で合意しているが、細野氏はその日本側窓口を勤めている。

 細野氏が訪中した29日、民主党の高邑勉衆院議員も、北京にいた。 留学生受け入れ60年の記念式典が開かれた北京大学で、劉延東国務委員(副首相級、教育担当)に「日中間にはいま、大変困難なことが起きている。しかし、我々のような若い世代が必ず解決できると信じている。微妙なときだからこそ(北京に)帰ってきた」と話しかけた。

 高邑氏は、36歳、北京大学大学院で国際関係学を学んだが、当選一回の若手だ。 仙石氏は出発前、高邑氏に「ぜひそんな縁を大事にして頑張ってきてほしい。民主党には今、そういう『第二トラック』を走ってくれる人が必要なんだ」と声をかけて送り出したという。

 首相や外相ら「第一トラック」の走者が転倒しても、地道に橋って中国とのパイプを維持する――そんな役回りを期待されているのか。 高邑氏はそう感じている。

 若手に期待をかけざるを得ないほど、現政権の中国とのパイプは細い。

 前原外相は1日、東京都内で講演し、尖閣問題について「再発防止策をしっかり日中間で合意するのが大事だ。話し合う窓口を閉ざすことはしない」と述べ、パイプを広げる必要性を強調した。

 質疑応答で前原氏は「ポスト菅首相を目指す決意を」と問われ、かみしめるように語った。

 「外交も大変なポジションだなと今、感じている。首相になりたいなんて軽々にいえるものではないと、逆に今感じているところだ」(倉重奈苗、山口博敬)

別枠で掲載されたもの

…… 民主・細野氏の訪中 ……
仙石長官が要請

 民主党の細野豪志前幹事長代理が中国・北京を訪問したのは、仙石由人官房長官の要請に基づくものであることが分かった。 細野氏は北京入りした先月29日夜、中国外交を統括する戴秉国・国務委員(副首相級)と会談していた。 訪中にかかわった関係者が明らかにした。

 細野氏は29日、北京市内の釣魚台迎賓館で中国外務相幹部と長時間にわたり会談。 途中から戴秉国氏も加わった。 閣僚級交流の停止などの中国側の対抗措置のほか、河北省石家荘市で起きた4邦人の拘束事件などが取り上げられ、関係改善に向けて意見交換したとみられる。



<2010/10/03>


中国リスク 超える


……… 9月30日夜、日中の企業幹部は抱き合って喜んだ ………
……… 経済のつながりは引き合う関係 ………
< 大国 覇権へ突進 >  〔下 官と民のはざま〕


 尖閣事件が一つのビジネス交渉を止めつつある。
 「しばらく動けないね」
 9月下旬、中国の大手証券幹部はあきらめ顔で話した。 日本の大手重機メーカーが売りに出した関連会社を、中国企業に仲介しようとしていた。 中国側も技術力の高い日本企業を買いたいと考えていた。 中国では外貨を用いた投資や買収には政府の認可がいる。 政治的に対立する国に対しては、申請しにくい。

 個人観光ビザの発給条件緩和で8月、前年比約6割増もの中国人観光客ラッシュにわいた地方の観光産業。 尖閣事件が起きた9月は、一斉キャンセルという「津波級の荒波」(日本政府観光局担当者)に一気に沈んだ。

 約1900人分の空きが生じた、山梨県甲斐市の温泉施設「湯〜とぴあ」。 そのホールで男子従業員(63)は、「いまや日本人のお客さんだけではやっていけないのが実情なのに」と語った。 10月も61団体の予約が入っていたが、宿泊が最終的に決まったのは1〜4日に訪れる5団体だけ。 観光旅行であってもこのような状態になった。

 中国の政府系シンクタンクの研究員はいう。 「中国に日本と同じ概念の『民』はいない。国家の外交方針が決まれば、日本より圧倒的に一つの声で動ける。外国に対して企業と政府の関係は世界のどの国より強い」

 民間企業も、政府が握る許認可の裁量を気にして、いったんことが起こると、政府の声に配慮して動いてしまう。 これがこんかい、日本が直面したチャイナリスクだ。

危機回避探り  日本企業奔走

 リスクはほかにも種々あり、日本の企業はそれらを避けるため、奔走している。 例えば、ソニーは今春、生産を委託する広東省の工場に、行動規範を徹底し人権に配慮するよう促した。 従業員の自殺が相次ぎ、海外メデアで「苛酷な労働環境が背景」と報道されたものを受けたものだ。

 イオングループは最近、中国の縫製メーカーの納期遅れに細心の注意を払っている。 グループの衣料品子会社はコックスの池内清和社長は「この半年ぐらい、遅れが散見される」という。 業界の複数の関係者によると、品質基準が厳しい日本向けよりも、国内や欧米向けを優先してつくるようになった。また、労働者も賃金の高い自動車などの工場に移り始め、一部の商品で1〜4週間ほどの納期遅れが起きるようになったという。

 ホンダは今年、中国の全工場が10間ほど生産停止に追い込まれた。 広東省仏山市の系列部品工場で断続的にストライキが発生し、部品が届かなくなったのが原因だ。

高まる依存度 戦略手づまり

 中国と深くつきあいながらも他国との関係も重視するという、日本企業が盛んに採りいれているリスク管理の方法「チャイナ + 1 」は、もう限界点にきている。

 中国から見ると貿易に占める日本の割合は、1990年代半ばには2割を超えていたが、09年にはほぼ1割に。 一方、日本にとって中国の比重は、この時期に1割以下から2割に増えた。 日本は対中投資の累計では主要国で首位で、現地に根づいたとはいえ、中国で強い存在感を放っていた80年代の面影はない。 今では欧米や韓国など中国市場をめざす各国の中の一つだ。

 日本から中国への政府の途上国援助(ODA)は07年度で、大半を占めていた円借款の新たな供与を取りやめた。 8月に北京であった「日中ハイレベル経済対話」では、レアアース(希土類)の日本向け輸出規制の見直しなど日本から中国へのお願いばかり目立った。 「何をテコに中国と交渉すればよいのか」日本の経済官庁担当者はこぼす。

 中国商務省国際貿易経済協力研究院の唐淳風研究員は、中国の強気の背景をこう語る。 「欧米の経済が低迷するなか、日本は中国への依存度を高めておりこの市場から離れられない。一方、経済が盛り上がる中国は日本企業にそれほどこだわる必要がない」

 日本が困惑しているレアアースの輸出制限についても中国の考え方ははっきりしている。 中国現代国際関係研究院経済安全研究センターの江涌主任はいう。「レアアースは経済的な資源であり、戦略的な資源でもある。中国のやりやり方は極めて正常だ」

 中国の力に過度に頼りすぎる政府の経済成長プランは失敗のそしりを免れない。 

 「経済産業省にも、ぬかりがあった」。 9月28日の記者会見で大畠章宏経済産業相は、対中リスクに無防備だった政府の対応を猛省した。

 中国が01年に世界貿易機関(WTO)に加盟した。 このとき、高まる期待に「心配する声もあったが、流れを止められなかった」と元経済産業省首脳は言う。 

 政府内には今後、中国との交渉では経験則が通じないとの危機感がにじむ。 「領土問題の解決手段として『経済』が使われた。仮に経済上の対抗措置をとっても、問題は解決しない」と経産省幹部は気を引き締める。

 訪日観光客を増やして経済を上向かせるという、「観光立国」戦略にも影が落ちた。

 民主党政権は、訪日観光客を09年の679万人から16年には2千万人に増やす目標を設定。 最大の「得意先」を海外旅行者が年率10%近く増える中国と定め、16年に来日する観光客のほぼ3人に1人を中国人と見込んでいた。

経済の絆  渦中でも粛々

 では、日本企業はこの先ずっと、リスク警戒しながら弱気に中国と付き合わねばならないのだろうか。

 9月27日、三重県四日市市であった、中国・天津市が日本企業に進出を呼びかけるセミナー。 参加した古紙リサイクル業の大矢知善興さんは「中小企業にとって、中国にはまだ夢と希望がある」と話した。 いまや取り扱っている古紙の半分以上は中国向け。「思うところはあるが、現場で言い合っていては商売はできないから」という。

 日中の企業同士の面談や会合のキャンセルが続くなか、粛々と開かれた催しもあった。

 9月下旬、船長が釈放される前のこと。 製造業から金融まで中国に進出する三菱グループの各社が、商社役員を団長に、沿岸部のある省をたずねた。 省のトップこそ姿を見せなかったが、省の開発にグループ各社の力をどういかせるか。 実務レベルでは話し合いが積極的に進んだ。

 中国当局によるレアアースの対日禁輸措置が発覚した23日の夜、ある自動車メーカーの首脳は、日本に工作機械を買いに来た中国の自動車メーカー首脳と酒を酌み交わしていた。 尖閣の話題は互いに避け、次のビジネスの話題で酒席は大いに盛り上がった。

 9月30日夜、北京市内の中華料理店では、リチウムイオン電池の生産で提携関係を結んだ、三井物産と中国造船・鉄鋼大手、北京建龍重工集団のお互いの幹部らが、興奮状態に包まれていた。

 アルコール40度を超える蒸留酒「白酒(パイチュウ)」で祝いの杯を重ねていたところ、午後7時過ぎ、「中国中央テレビの全国ニュースで昼の調印式の様子が流れている」との知らせが、北京建龍の幹部の携帯電話に次々と入ったからだ。

 互いに利益になる――。 この単純で普遍的な目標に向き合う経済のつながりは、基本的に引き合う関係で粘り強い。 日中が歩むべき道しるべになるかもしれない。(若松潤、小山謙太郎、神谷毅、西村宏治、北京=吉岡桂子)



 読み応えのある記事でした。  書き写しは大変でした。