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折々の記 2014 ①
【心に浮かぶよしなしごと】

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  01 01 教育2014 世界は 日本は:1  
  01 01 (社説)政治と市民 にぎやかな民主主義に  
  01 01 NHKスペシャル シリーズ遷宮 第1回「伊勢神宮~アマテラスの謎~」  持統天皇
  01 02 NHKスペシャル シリーズ遷宮 第2回「伊勢神宮~アマテラスの謎~」  

 01 01 (水) 教育2014 世界は 日本は:1  

朝日新聞デジタル 2014年1月1日05時00分
(教育2014 世界は 日本は:1)グローバルって何 めざす、世界の1%
    http://digital.asahi.com/articles/DA2S10906717.html?iref=comkiji_redirect

    写真・図版 中学3年の生物の授業で人体の皮膚の構造を描く生徒たち。授業中の会話も
          すべて英語だ=韓国・済州島のNLCSチェジュ、吉田美智子撮影

 少子高齢化が進む日本。海外に経済成長の活路を見いだそうと、政府は英語教育の強化を打ち出す。ただ、グローバル人材の育成という目的地は、語学の壁を越えたその先にある。日本の教育は、世界をとらえられるか。

  ▼25面=特集

■ 済州島に英語都市

 「世界1%のグローバルリーダーを育てるアジア最高の英語教育都市」

 そんなキャッチコピーの新都市の建設が、韓国・済州島で進んでいる。379ヘクタールの広大な敷地に、欧米トップクラスの名門私立校の分校と大学を誘致。病院やコンビニでも、フィリピン人従業員を雇うなど英語を常用化する計画だ。

 2011年9月、英国の私立女子校「NLCS(ノース・ロンドン・カレッジエイト・スクール)」は韓国政府の要請を受け、初の海外分校「NLCSチェジュ」(定員1508人)を開校。幼稚園から高校まで14年間の共学の一貫校だ。

 皮膚の構造を描く中学3年の生物の授業。女子生徒19人が筆や絵の具を一斉に手に取り、英語で部位の名称や説明文を加えていく。「どんな色がいいかな?」「神経をまだ描いていないよ」……。生徒の会話はもちろん英語だ。

 1997年の通貨危機後、韓国政府は外貨を稼ぐ企業や人材を育てるため、英語教育にかじを切った。小中高生の早期留学も急増。この学校の寮費を含む学費は平均年約4500万ウォン(約450万円)と高額だが、海外留学よりは安い。都市を運営する公営企業は、21年には居住人口を2万3千人に増やそうとしている。

     *

 オーストラリアでは、87年から小中高での外国語教育が政策として始まった。白人を優遇する白豪主義を廃止し、多文化主義に転換した象徴として導入した。

 その後、94年にアジア語重視が打ち出され、日中韓インドネシアの4カ国語について「小3から高1までの6割がいずれかを学ぶ」との目標が設定された。いま、豪州で最も盛んに教えられている外国語は日本語だ。全国に約30万人いる日本語学習者の9割以上が初中等教育で学んでいる。

 「アジア語必修化」を起案したラッド前首相(当時はクインズランド州政府事務次官)は「将来的な貿易の重要性から選んだ。国の将来がかかった優先事項であり、その重要性は今も変わらない」と話す。

■ 慶大中退、アブダビに

 アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに2010年に開校した米ニューヨーク大アブダビ校。102カ国から集まった約620人の学生が学ぶ。

 橋本晋太郎さん(21)は慶応大法学部を1年半で中退し、飛び込んだ。「数百人もの大教室で講義を聴き続ける毎日」に危機感を覚えたからだ。

 ここでは1クラス10人前後。教授も交えて徹底した討論が続く。イスラム教徒のエジプト人学生とキリスト教徒のメキシコ人学生が、神や教えの違いを議論する場面にも立ち会った。

 授業では「君はどう考えるのか」と問われ続ける。知識以上に、自分の考えを論理的に組み立てることが求められ、「何を話すか考える」ための予習に、勉強時間はかつての5倍になった。一日に10時間の勉強も珍しくないが、「論理的に話せばみんなが納得してくれる。面白くて全然苦にならない」と言い切る。

 英語検定TOEFLの国別平均点で、日本は70点とアジア最低レベル。韓国(84点)や中国(77点)に後れをとっている。ただ、国際的に活躍する人材に求められるのは、語学力だけではない。主体性やチャレンジ精神、異文化に対する理解など総合的な力だ。

 日本の学校教育で、育むことはできるのか。

◆ 年間企画「教育2014」は、全国の地域面にも掲載しています。ご期待ください

 朝日新聞デジタルの「教育2014」特集ページ(http://t.asahi.com/dkfp)では、動画や全国の地域面の教育連載記事などが見られます。

 教育取材班のフェイスブックページ(https://www.facebook.com/eduasahicom)も立ち上げました。連載へのご意見などをお寄せください。

(2面に続く)



(1面から続く)

(教育2014 世界は 日本は)考え論じ知を磨く 軽井沢に世界の縮図再現

    写真・図版 ニューヨーク大アブダビ校に入学した橋本晋太郎さん=アラブ首長国連邦
          アブダビのNY大学生寮で、村山祐介撮影

 グローバル社会で活躍できる人材を育てる教育とは――。ヒントになりそうなのが、国内では各種学校を含めて認定校が27校しかない国際バカロレア(IB)の教育課程だ。

 「人間は組織的な命令を受けている状況で、どこまで自律した判断ができるでしょうか」

 静岡県沼津市にあるIB認定校の加藤学園暁秀高校。教師が映像を見せながら、「バイリンガルコース」の2年生19人に英語で次々と問題を投げかけた。

 問題に「正解」はなく、授業は3、4人のグループに分かれて議論し、自分の考えをまとめる。IBの特徴である「知の理論」と呼ばれる科目だ。

 このコースで学ぶ内藤桜さん(18)は2年の夏、日本の高校生と米ハーバード大生の合宿に参加した。日本人の生徒は誰も発言しようとしない。「英語が話せても、意見を言うことに慣れていない人が多い」

 「知の理論」は、自分では思いつかないような意見に触れながら自分の頭で考え、論じる訓練として最適だと思う。「たとえ戦争をしている国があっても、世界各国がクラスメートのように個々の性格や考えの違いを理解し、各国の存在を認めて一つにつながっていくのがグローバル。お互いに意見を持って話し合わないと、もったいない」

 政府は、IB認定校を2018年には200校まで増やす計画だ。

 国際的な観光地である長野県軽井沢町には、「世界の縮図」の再現を目指す高校が8月に開校する。

 IB認定候補校「インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)」は、生徒の7割をアジアを中心とした海外から集める計画だ。

 昨年11月中旬。香川県で公園施設製造業を営む男性(49)が、15歳の長男と、完成したばかりの校舎や寮を見学に訪れた。

 会社の取引先は今や、台湾やドイツなど世界各地に及ぶ。「自分のような地方の中小企業でも、英語を話して世界でものを売ったり買ったりしないといけない時代。息子には、できる限りスムーズに世界の中に踏み出していってほしい」

 記者が将来の夢を聞くと、長男は「宇宙飛行士になること」と目を輝かせた。

 学費、寮費を合わせて年間350万円かかる。「世界のさまざまな階層から、多様な価値観を持った生徒を集めたい」(小林りん代表理事)として、1期生50人のうち最大で半数に、費用の全額か半額の奨学金を出すことを目指すという。

■ 公立高も海外後押し

 公立高校にも、グローバルを意識した取り組みが広がっている。

 ISAKと同じ軽井沢町にある長野県軽井沢高校には今年度、普通科に「グローバルスタディコース」ができた。田澤直人校長(55)はISAKの開校を「世界に触れるチャンス」と歓迎。ISAKの生徒と一緒に部活動をしたり、学校設備を貸したりして交流することを検討中だ。

 いわゆる進学校ではない分、授業の自由度は高い。昨年11月下旬に訪れた「異文化コミュニケーション」の授業では、将来の海外での生活を意識し、英語での計算の表現や硬貨の呼び方を学んでいた。

 学校独自のカリキュラム作りを担当する長嶋幸恵教諭(41)は「全員がリーダーとなって国際的に活躍を、というわけではない。むしろ観光地である地元のことを知った上で、他人と話し合い、発信できる生徒になってほしい」と話す。

 新潟県立国際情報高校には昨年4月、「海外大学進学コース」が開設された。選択すると2年生から、英語でのプレゼンテーションなどがある。生徒一人ひとりにICレコーダーが渡され、毎日、英語で話して録音し、話す力を磨く。

 平田正樹校長は「英語力も大事だが、グローバル人材に一番必要なのはぶれない価値観。自分が大切にしていることに、気づかせることが必要だ」と説く。

 海外大学への進学を後押しするのは熊本県だ。昨年8月から、ベネッセの開発したTOEFL対策のウェブ授業を、希望する県内の中高生が週1回、無料で受けられるようにした。蒲島郁夫知事肝いりの施策で、13年度はこの事業などに1500万円を充てた。

 蒲島知事はかつて農協に勤めた後に農業研修生として渡米、これをきっかけにハーバード大大学院で学び、東大教授になった。

 「お金持ちでなければ、海外という選択肢は思いつかない。でも世界にも自己実現の機会があり、可能性は誰にでもあると知ってほしい」。蒲島知事は行政が支える意義をそう語る。

     ◇

 次回は「格差を超える」です。

■ 飛び出そう「外」へ 宇宙飛行士・星出彰彦さん(45歳)

 宇宙飛行士の星出彰彦さん(45)は高校時代、シンガポールのIB認定校に留学した。国際教育についてテレビインタビューで聞いた。

 ――なぜ、留学したのですか。

 「宇宙飛行士になるためには国際感覚が必要だと思って留学の道を選んだ。最初は英語で苦労したが、分かったのは、語学というのはあくまで道具。実際の能力や魅力というのは、その人の経験や、経験に基づく説得力なんだということ」

 ――日本の教育をどうみますか。

 「マイナス面ばかりが目に付きがちだが、和を尊ぶという点では優れていると思う。初めて宇宙へ行ったとき、7人の中で私を含む5人は未経験者だったが、全員が『どうすればチームに貢献できるか』を常に考えていた。チーム仕事では、リーダーシップのほかにフォロワーシップ(補佐する能力)が非常に大切だ。後者に強い日本人は組織へ貢献できる」

 ――グローバルな人材を育てるための教育とは。

 「留学しなくても、外国人の先生に接する機会や海外の情報を入手することはできる。ただ、情報は知識であって経験ではない。私も地球は大きくて丸いものだと知っていたが、実際に宇宙から地球を見て無重力を体験した時は価値観の変換があった」

 ――いま、学んでいる人たちへのメッセージを。

 「世界中から集まった宇宙飛行士たちも、未知の分野に取り組むたびに苦労しているが、得意分野を土台にしつつ、外へ飛び出すことで乗り越え、成長している。だからみなさんも、苦労を次のステップへつなげるために、外へ出てみてほしい。日本国内で今の環境から出るという『外』もあるし、日本そのものから出る『外』もある」

     *

 ほしで・あきひこ 東京都出身。慶応大卒業後、技術者として宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)に就職。1999年に日本人宇宙飛行士に選ばれ、2008年、国際宇宙ステーション(ISS)へ。2度目となる12年にはISSに約4カ月間滞在した。

■ 年間企画「教育2014」

 だれもが持論を語ることができ、正解は一つとは限らない。それが教育だと思う。

 たとえばグローバル人材の育成にあたり、優先すべきは、競争社会を生き抜く強さか、異質な他者を認めるしなやかさか。取材班の中でも意見は異なる。

 安倍政権の下、次々に教育改革の矢が放たれる今、教育をめぐる議論はかつてないほど活発化している。

 社会が急激に変化し、学校は子どもに、今はまだない仕事、発明されていない技術、起きるか分からない問題に備えさせる必要がある――と経済協力開発機構のアンドレア・シュライヒャー教育局次長は言う。

 見えない未来へ、だれもがためらわずに一歩を踏み出してほしい。そのためにどうしたらいいか、考えたい。

     *

 「世界は 日本は」のシリーズの担当記者は、浅倉拓也、石山英明、磯崎こず恵、鵜飼啓、大野良祐、岡雄一郎、河原田慎一、錦光山雅子、郷富佐子、小暮純治、佐々木学、杉山正、高浜行人、武石英史郎、寺西和男、中井大助、宮本茂頼、村山祐介、八尋紀子、吉田美智子と、氏岡真弓、前田直人の両編集委員。

◆ キーワード

 <国際バカロレア> 大学入学資格を与える世界共通の教育課程。初等、中等、ディプロマの三つのプログラムがあり、国際バカロレア機構(本部・スイス)が認定する。授業や試験は基本的に英、仏、スペイン語のいずれかで行う。このうちディプロマプログラム(DP)で2年間学び、試験に合格すれば大学入学資格が得られる。DPでは、一部日本語で学べる日本語版も導入される予定。



(▼25面=特集)
(教育2014 世界は 日本は)考え論じ知を磨く 軽井沢に世界の縮図再現

(教育2014)「第3の改革」現在地は

■ 明治、欧化急ぎ学制 戦後、米国型の教育委

 世界の流れを意識した教育改革論議は、今に始まった話ではない。近代以降、大きな節目が二つあった。

 一つは明治。1868年、「広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ」で始まる新政府の基本方針「五箇条の御誓文」が示された。最後の柱は「智識(ちしき)ヲ世界ニ求メ大(おおい)ニ皇基ヲ振起スヘシ」。世界に学び、日本を強くしようという宣言だった。

 欧州の先進国がアジアへの進出を競うなか、日本に欧化の風が吹いた。初等教育を国民に広め、高等教育で先進国に追いつく人材を育てるという学校教育の土台が、ここで固まった。

 もう一つは1945年の第2次世界大戦後だ。戦前の教科書に墨が塗られ、米国型民主主義が広がり、6・3・3制や教育委員会制度という骨組みができた。47年の学習指導要領一般編(試案)の序論のくだりが、時代の空気を映す。

 「これまでとかく上の方からきめて与えられたことを、どこまでもそのとおりに実行するといった画一的な傾きのあったのが、こんどはむしろ下の方からみんなの力で、いろいろと、作りあげて行くようになって来たということである」

 明治・戦後ほどの大改革は、その後ない。71年、中央教育審議会(中教審)が「46答申」と呼ばれる提言で、明治・戦後に続く「第3の改革」を求めた。国際化などをふまえ、教育の多様化や個性重視などの論点をまとめて国が主導する教育改革を促す内容だ。だが、ときの政治テーマとしてとりあげられないまま、たなざらしとなった。

 84年、中曽根康弘首相の直属で発足した臨時教育審議会(臨教審)も「第3の改革」を掲げ、多くの提言を出した。だが、これも大改革にはつながらなかった。中曽根氏は持論の教育基本法改正を議題にもできず、教育改革は「失敗だった」とのちに総括した。

 2000年に小渕恵三内閣から森喜朗内閣に引き継がれた教育改革国民会議は、ようやく教育基本法の見直し提言に踏み込む。06年に発足した第1次安倍晋三内閣が、約60年ぶりに教育基本法を改正した。

 国民全員がかかわる教育の改革は難事業で、提言だけで実現せずに終わることが多い。東北大の青木栄一・准教授(教育行政学)は、「46答申でうたわれた『第3の教育改革』の提言がずっと続いている印象で、過去の議論の繰り返しが目立つ。わかりやすい制度改革に過剰な期待が寄せられ、運用面の改善といった地に足のついた議論に乏しくなる傾向があると思う」と指摘している。

■ 安倍流保守理念、成長戦略と融合

 2012年秋、自民党総裁選に勝利した安倍晋三新総裁が党本部に立ち上げたのは、日本経済再生本部と教育再生実行本部だった。

 当時はまだ野党。経済政策・アベノミクスで無党派層にアピールし、教育改革で保守理念をにじませて自民党支持層を固める。その両者の融合は、政権奪還戦略の中核だったのだ。

 12年暮れの総選挙に圧勝し、第2次安倍内閣をつくった安倍首相は、翌1月に教育再生実行会議を設置。初会合で、教育再生は経済再生と並ぶ最重要課題だと力説し、こう続けた。

 「強い日本を取り戻すには、日本の将来を担う子どもたちの教育の再生が不可欠。最終的な大目標は、世界のトップレベルの学力と規範意識を身につける機会を保障することだ」

 06~07年の第1次安倍内閣で設けた教育再生会議の提言もふまえ、今回の実行会議の作業は急ピッチで進んでいる。すでに(1)いじめ・体罰問題への対応(2)教育委員会制度の見直し(3)グローバル人材の育成(4)人物本位の大学入試制度への転換――について、4次にわたる提言を出している。

 徳育の教科化といった保守色の強い課題に引き続き取り組む一方、力点はアベノミクスの「3本目の矢」である成長戦略に置く。

 安倍首相は「成長産業を支える人材を育成することは成長戦略の要」「経済再生を支える大学の質・量の充実を図り、世界に勝てる人材を育成する大学を拡大していくべきだ」と、実行会議にハッパをかけている。

■ この1年間に進められた主な教育施策

◇教育委員会制度の見直し

 地方教育行政の最終責任を教委から首長に移す案を、中央教育審議会が文部科学相に答申

◇大学入試改革

 大学入試センター試験から「達成度テスト」(仮称)に見直す案を教育再生実行会議が提言。複数回受験や面接重視などを検討

◇道徳の教科化

 検定教科書を導入し、2015年度から始める方向

◇英語教育の見直し

 英語教育の小学3年開始▽小学5年からの教科化▽中学で英語による授業――などを検討

◇教科書検定制度の見直し

 近現代史に関する「バランスの良い」記述や政府見解に基づく記述を求める新基準を設ける

(教育2014)私が考える理想の学校 下村博文さん、俵万智さん、川村隆さんに聞く

 学校の先生の影響は大きいと思う。私は小学3年で父を亡くし、貧困家庭で同情されたんでしょう。こっそり裁縫セットを渡してくれたり、成績の推移表を個人的に作ってくれたり。「大切にしてもらっているから、がんばろう」という動機付けになった。

 子供に愛を感じられるのが、教師として一番大事。その象徴が吉田松陰。最高の教師だと思う。彼は教え子の良いところを引き出し、教え子は日本を変える原動力になった。教育担当の大臣として、学校の先生が喜びを感じられる環境を作りたい。

 日本の学校の強みは、初等中等段階での総合的な教育力。先月発表された経済協力開発機構の学習到達度調査(PISA)でも、日本は全3分野でトップ水準だった。ただ、平均より下の子はいったん脱落すると上がっていけず、上の子には物足りない。

 これまでの学校教育は、工場の優秀な人材、優秀な官僚の供給が目的だった。しかし、21世紀以降は目標が不明確で、創造的な能力が問われる。学校に適応できなかった発明家エジソンのように能力を持った子を脱落させず、逆に力を引き出せるか。今は多様性を認めず、有為な人材の供給源になれていない。これでは日本に未来はない。

 民間のノウハウを生かし、多様な子の受け皿を作りたい。教育のチャンスが一人ひとりに常に提供されている国をつくりたい。

     *

 (下村博文さん) 群馬県出身。早大在学中に学習塾経営。東京都議を経て1996年の衆院選で初当選。59歳。

■ 遊びで学ぶ生きる力 歌人・俵万智さん

 高校時代、詩を書いたり演劇をしたりする先生に憧れ、挑戦したことが歌人の道を歩むきっかけになった。ところが自分が教師になってみると、あまりにゆとりがない。高校時代の先生は、よく私の面倒までみてくれたものだ。

 東日本大震災を機に、当時小学1年生の息子と、仙台から沖縄・石垣島へ移り住んだ。当初は余震や原発事故の影響を恐れてだったが、今は違う。居心地がよいのです。

 島に来る前は、同世代の子は皆、習い事に忙しく、一緒に遊ばせるには、親がアポをとらなくてはならなかった。ここではそんなことはない。

 息子の小学校は、児童数12人。毎日、鬼ごっこをしたり、ドッジボールをしたりして遊ぶ。小さい子も遊べるように、ルールを考え、うまくいかなかったら話し合ったりしている。こうして遊びの中で学んだことが、生きていく上で必要な力になると思う。

 道徳を授業でやろうというのは怠慢。ペーパーテストなら誰でも善悪を回答できるが、現実はもっと複雑で、頭で考えたようにはいかない。人と関わり合う中から身につけるしかない。

 島の学校でも、都会と同じような標準的な授業を受けることができる。これは日本の教育のすばらしい点。ただ、物足りない子や、ついて行けない子に学ぶ喜びを教えるには、1学級の人数が多すぎる。

 まずは先生がゆとりをもてる仕組みが必要だと思う。

     *

 (俵万智さん) 神奈川県立高校在職中の1987年に発表した「サラダ記念日」がベストセラーに。51歳。

■ エリート育成も必要 日立製作所会長・経団連副会長、川村隆さん

 札幌で豊かな自然に囲まれて小中高校時代を過ごした。外国人のいない田舎だった。英語の先生は日本人で発音はひどく、外国人の先生が教えるなどの勉強のきっかけになる仕組みもなかった。自分の英語能力を気にすることなく、社会人になった。

 23歳のとき、初めての海外出張先のパキスタンで、何で俺はこんなにしゃべれないのかと思い知らされた。

 英語は道具。精神の奥の深いところの話は日本語でいいが、スマートフォンと同様、英語を使えないともはや仕事にならない。小学校での英語教育や若い人の留学促進はいいことだ。日本人は外国でしゃべらないと言われる。これは討論の訓練を受けていないから。日本も早いうちから討論などをさせるべきだ。

 日本の教育は平等主義で、中間層をつくる点ではすばらしい。これだけ優秀な中間層をもつ国は他にはない。しかし、トップエリートの育成も少し意識する必要がある。

 海外の経営者と話すと、学識豊かだと感じる。経済学博士が音楽や哲学に詳しい。そういう連中と我々は戦わないといけない現実がある。

 とはいえ、義務教育段階で選別してエリートを育てるのは違う。大学でやるべきだ。

 高校から大学への接続方法も変える必要がある。面接を基本に定員の1・5倍ぐらい入れ、努力しない人をふるい落とせばいい。受験技術で競う現状は本当によくない。

     *

 (川村隆さん) 東大工卒。1962年に日立製作所に入社。経団連では教育問題委員会委員長も。74歳。




 01 01 (水) (社説)政治と市民 にぎやかな民主主義に  

朝日新聞デジタル 2014年1月1日05時00分
(社説)政治と市民 にぎやかな民主主義に

 一面の枯れ葉を踏みながら歩く。その音さえカサカサとあたりに響くようだ。静かな東京・小平市の雑木林。

 近所の人が散歩などで親しむこの小さな空間が昨年、何度もニュースになった。そこに都道を通す計画への異議申し立て運動が高まりを見せたためだ。

 それまで選挙では主要な争点にならず、住民の多くも意識していなかった古い計画だ。その実施が決まったと、あるとき知らされる。計画だけでなく、それを決めて進めるプロセスそのものへも疑問がふくらんだ。住民投票で問うたのも建設の賛否ではなく、決定に住民参加を認めるかどうかだった。だから、地元以外の人々の関心も呼んだのだろう。

 運動に参加した哲学者の國分功一郎さんは、ものごとを実質的に決めているのは「行政機関」ではないかという。選挙で議員や首長を選べば民主主義は機能していると思いがちだ。けれど、日々の統治を担う行政府に、市民が異議を申し立てるのが容易ではないとしたら――。

■ 強い行政、弱い立法

 民主主義社会で市民が疑問を感じる政策を政府が進める。昨年暮れ、成立した特定秘密保護法をめぐっても同じような構図があった。

 しかも、この法律は行政府による情報の独占を可能にする。何が秘密かを決めるのも管理するのも、結局は行政府の人である。肝心の国会は監視できる強い立場を与えられていない。

 国会で多数派が賛成したから成立したのだが、皮肉なことに、この法律は行政府の権限を強め、立法府を相対的に弱める。行政府が民意の引力圏から一段と抜け出すことになった。

 行政府が強くなり、立法府が弱くなる。これは必ずしも新しい問題ではない。しかし近年、海外でもあらためて議論されるようになっている。背景の一つはグローバル化だ。

 カネや情報が急速に大量に国境などお構いなしに行き交う時代、行政府は刻々と変化する市場などがもたらす問題の解決をつねに急がされる。民意はときに足かせと映る。

■ 「補強パーツ」必要

 だからこそ、行政府は膨大な情報を独占し、統治の主導権を握ろうとする。その結果、多くの国民が「選挙でそんなことを頼んだ覚えはない」という政策が進む。

 消費増税に踏み込んだ民主党政権、脱原発政策に後ろ向きな現政権にそう感じた人もいるだろう。欧州では債務問題に直面した国々の政府が、人々の反発を押し切って、負担増の政策を進めた。

 だが、議論が割れる政策を採るならなおさら、政治は市民と対話しなければならない。

 もとより行政府を監視するのは立法府の仕事だが、政治家は閣僚になったり自分の政党が与党となったりすると、行政府の論理に大きく傾く。ミイラ捕りはしばしばミイラになる。

 民主主義を「強化するパーツが必要」と國分さんはいう。議会は不可欠だが、それに加えて行政を重層的に監視して「それはおかしいと伝える回路が欠かせない」。そのために住民投票や審議会などの諮問機関の改革、パブリックコメントの充実などを提案する。

 地味で頼りなさそうな方法に見えるかもしれない。けれども、議会と選挙以外で市民が政治に働きかける手段は海外でも見直されつつあるようだ。

■ 有権者から主権者に

 たとえば、フランスの民主主義研究の大家ピエール・ロザンヴァロン氏は「カウンター・デモクラシー」という言葉で、議会制民主主義のいわば外側にある仕組みへの注目を促す。デモ、新旧のメディア、市民による各種の評議会などを指す。やはり議会は否定しない。それを補完するのだという。

 豪シドニー大学のジョン・キーン教授も、行政を監視する市民のネットワークや組織を重視する。最近邦訳が出た「デモクラシーの生と死」という著書で、それを「モニタリング民主主義」と呼んでいる。年末の訪日時の講演でも、地球温暖化や少数民族、核軍縮などグローバルな課題で市民レベルの運動が果たした役割を強調した。

 いずれも投票日だけの「有権者」ではなく、日常的に「主権者」としてふるまうことを再評価する考え方ともいえる。

 そんな活動はもうあちこちに広がっている。新聞やテレビが十分に伝えていないだけだと批判をいただきそうだ。確かに、メディアの視線は選挙や政党に偏りがちだ。私たち論説委員も視野を広げる必要を痛感する。

 場合によってはこれから2年半、国政選挙はない。それを「選挙での多数派」に黙ってついていく期間にはできない。異議申し立てを「雑音」扱いさせるわけにもいかない。

 静かな雑木林からの呼びかけに、もっとにぎやかな民主主義で応える新年にしたい。



(記者有論) 2014年1月1日05時00分
米国の民主主義 政府を疑う姿勢が基盤に 真鍋弘樹

    写真・図版 ニューヨーク支局長・真鍋弘樹

 ニューヨークのマンハッタン北西部に位置するコロンビア大学のジャーナリズム大学院には、トーマス・ジェファーソンの像が立っている。

 セ氏零度を下回る冬の日、銅像の前にたたずみ、考えた。この合衆国第3代大統領が生きていたら、今のオバマ政権をどう思うだろうか。

 「新聞なしの政府と、政府なしの新聞のどちらかを選ぶなら、ためらわずに後者を選ぶ」。先日、AP通信のプルイット社長にインタビューした際、思い浮かべたのは、合衆国「建国の父」、ジェファーソンが残した言葉だった。

 当局が記者の通話記録を押収し、情報源の公務員を探し当てて逮捕する。まるで、特定秘密保護法が成立した日本の未来予想図のようだが、これは米司法省がAP通信に対して実際に行ったことだ。

 「史上、最も透明性の高い政権」を目指すと述べたオバマ氏の政府が、今や記者たちに「今までで最も閉鎖的で情報統制に躍起になっている政権」と見なされている。

 「政府が知らせたいことしか報じられなくなったら。それは合衆国憲法起草者たちが思い描いた状況ではないはずだ」。プルイット社長は、そう私に語った。

 「報道の自由」を保障する米憲法修正第1条に強い影響を与えたジェファーソンの思想の底に流れているのは、「政府を心からは信用しない」という疑い深さである。

 たとえ人民が作った政府でも、放っておくと人民の自由に枠をはめようとする。それを防ぐには、政府を監視し続けなければならない。この建国の理念は左右問わず米国のDNAとして生き続ける。冷戦や対テロを理由に常に秘密を生み出す政府と、それを監視し続けてきた言論機関は、二重らせんのように、この国の歴史を編み上げてきた。

 AP事件が発覚した2013年5月、米メディアは動いた。新聞、テレビなど50以上の団体が司法長官に抗議文を送り、「報道目的の情報収集で記者は罪には問われない」など新しいルールを勝ち取った。この経緯から感じられるのは、「報道と言論の自由」は民主主義に必須のインフラである、という強い信念だ。

 日本の状況は米国と二重写しになっている。米政府にならうように、日本政府は広範な市民の反対を押し切って特定秘密法を成立させた。

 ならば日本のメディア、そして市民も徹底的に政府を疑い続け、監視し続けよう。米国の建国の理念にならって。

 (まなべひろき ニューヨーク支局長)



 01 01 (水) NHKスペシャル シリーズ遷宮 第1回「伊勢神宮~アマテラスの謎~」  持統天皇

詳細2013年、ともに遷宮を迎えた伊勢神宮と出雲大社を舞台に、古代日本の謎に迫る2回シリーズ。第1回「伊勢神宮」では、20年に一度、神宮の内宮・外宮などの社や神宝、装束を全て新しく作り直す式年遷宮のもようを初めてつぶさに紹介する。また1300年前に式年遷宮を始めた持統天皇に注目し、遷宮の中でも重要な儀式“遷御の儀”とアマテラスの“天孫降臨神話”の関連などをひもときながら、日本建国神話の謎に迫っていく。

 01 02 (木) NHKスペシャル シリーズ遷宮 第1回「伊勢神宮~アマテラスの謎~」  

詳細2013年、ともに遷宮を迎えた伊勢神宮と出雲大社を舞台に、古代日本の謎に迫る2回シリーズ。第2回は「出雲大社」。遷宮の中から、出雲の国のもつ強大な実像が見えてきた。出雲の神・オオクニヌシは大和王朝も恐れる強大な霊威を持ち、祭る社は全国に数あまた。そのオオクニヌシが自らの豊かな国をアマテラスに譲り、代わりに巨大な社を建てさせたと神話は伝える。日本誕生の知られざる物語に、最新の研究で迫る。