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折々の記 2014 ①
【心に浮かぶよしなしごと】

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  01 03 教育2014 世界は 日本は:2  格差を超える 暮らしのせいにしない
  01 03 教育2014 世界は 日本は:2  断つ、貧困の連鎖 「1ドル投資、7ドルリターン」
  01 03 中国の富豪、NYタイムズ買収に意欲 「株主と交渉へ」実現性は不透明  
  01 03 続く靖国参拝、中韓反発 総務相にも批判拡大  
  01 03 (異才面談:3)国立情報学研教授・新井紀子さん 人工知能が雇用奪う未来  
  01 03 (社説)「1強政治」と憲法 「法の支配」を揺るがすな   
  01 03 (第1次世界大戦の遠近法:2)ロボット戦争、その果てに   


 01 03 (水) 教育2014 世界は 日本は:2  

朝日新聞デジタル 2014年1月3日05時00分
(教育2014 世界は 日本は:2)格差を超える 暮らしのせいにしない
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S10906783.html?iref=comkiji_redirect

   写真・図版 放課後、「学びルーム」で宿題を終え、足元の花壇を跳び越えて遊ぶ女の子。
         郡山小学校の校庭の周りには、団地が立ち並ぶ=大阪府茨木市、林敏行撮影

 誰でも、よい点をとれば、成功の階段を上れる――。学校は、そんなふうに格差を縮小する役割を期待されてきた。いま、豊かな家の子どもほど教育環境に恵まれ、良い成績をあげ、高い収入の仕事への道が広がる。学校は格差を超えられるのか。

■ 学校を拠点に立ち向かう

 校庭の向こうに、団地群が広がる。

 大阪府茨木市立郡山小学校。校区の半分以上を団地が占める。1970年の日本万国博覧会を機に、山を切り開いて建てられた。

 かつて千人を超える市内有数のマンモス校だったが、いま児童は174人。市から就学援助を受けている子は、全国平均の約3倍。外国にルーツを持つ子も1割を超える。

 そんな学校の校長に、平家(へいけ)陽一さん(61)が着任したのは2008年だった。

 郡山小は、その年の全国学力調査の成績が全国平均を大きく下回り、市内で最も低い学校の一つだった。

 授業で算数の問題が解けないとき、ある子は言った。「何もかも嫌や。どうせ、できへんもん」。教師が叱ると、本音がこぼれた。「自分なんかいなくても、誰も悲しまん」

 平家さんは教職員に訴えた。「暮らしのしんどさのせいにしたら、この子ら、ずっと浮かび上がれん。教育の機会均等を守るのが、教師の役割やないか」

    *

 教職員総掛かりの「チーム郡山」としての取り組みが始まった。放課後、子どもが教師に質問しながら宿題に取り組めるよう「学びルーム」を開く。朝ご飯を食べたか、夜更かしをしていないかチェックする「生活振り返り週間」を年5回に増やす。

 市教育委員会も郡山小を支えた。教員免許を持つ専門支援員を3人配置、授業中、ついていけない子のそばに付いて指導する。家庭環境も含めて支えようと、スクールソーシャルワーカーを中学校区に配した。地域も、料理やテニスなど月1回の土曜講座を続けた。

 そして6年目の昨年、郡山小の全国学力調査の成績は、全国平均を超えた。「一人の子どもも切り捨てたくないと、あの手この手で励まし続けた結果だ」と現校長の吉田明弘さん(55)は話す。

 「郡山小は、総合力で勝負する日本の学校の典型だ」と言うのは、大阪大学の志水宏吉教授(教育社会学)。学力調査の分析から学力を底上げする学校を見つけ、訪問調査を続けてきた。

 そこから導き出した共通項をまとめたのが「スクールバス・モデル」。右前輪は学習指導、左前輪は生徒指導、右後輪は家庭とのかかわり、左後輪は地域連携……。これらを組み合わせ悪路でも乗り越えていくバスに、学校をたとえた。

 志水教授は言う。「日本社会では貧困が広がりつつある。学校を拠点に、家庭や地域など社会全体が力を合わせることが必要だ」

 各国は、経済格差にどう立ち向かおうとしているのか。米独英を取材した。

(2面に続く)



(1面から続く)

(教育2014 世界は 日本は)断つ、貧困の連鎖 「1ドル投資、7ドルリターン」
 日本より経済格差の大きい欧米各国。移民家庭の子の割合も高い。そこで早い段階で手を打とうと取り組むのが、米国とドイツだ。

 「ねえ、話してくれる? 今日は何するって」。米ミシガン州インクスター市のスターフィッシュ幼稚園。12月の朝、教師が園児に尋ねていた。子どもはその日したいことを考えて話す。

 非営利機関「ハイスコープ教育研究財団」のカリキュラム。園児の大半は、国の定めた所得基準を下回る黒人家庭の子だ。将来、自立するために問題解決の力をつけようとする。

 財団を設立したデイビット・ワイカート氏は、1962年から「ペリー就学前研究」という調査を手がけた。貧しい黒人家庭の3~4歳児123人を、幼稚園に通う子と通わない子に分類。15、19、27、40歳などの時点で再調査すると、幼稚園グループは「基礎学力」「逮捕歴」「年収」など全項目で、通わないグループよりよい結果が出た。

 犯罪抑止や経済的自立による税収増、福祉費用の支出減などの効果から、このプログラムに1ドル投資すれば、7ドルのリターンがある、と試算した。

 こうした結果を背景に、オバマ大統領は昨年2月の一般教書演説で「どの子も人生の競争に出だしから遅れないようにしよう」と幼児教育の拡充を明言した。

 ドイツでも、多くの州政府が、基礎学校(6~10歳)に入る前、ドイツ語教育の強化と、学校を午前だけでなく午後も授業する全日制化に取り組んでいる。

 ミュンヘン市のアッシェンブレナー通り幼稚園。移民家庭の子がほとんどだ。教師が、基礎学校の授業についていけるか判断する。難しそうだと、週4時間、基礎学校で担任になる予定の教師らが授業をする。

 貧しい移民の子が多い同市のウィルヘルム・ブッシュ実科学校(10~16歳)でも、格差を縮める試みが続く。昨年からクラス担任が週に1時間、生徒と面談、家庭環境を詳しく把握する。落第する割合は4%程度と、4年前の11%から大幅に減った。市教育部のライナー・シュベッペ部長は「格差が世代をこえて固定される『カースト制度』に似た状況を変えるには、学校の役割が大きい」と話す。

 日本はどうか。就学前の教育機関への公的支出は、経済協力開発機構諸国の最低レベル。政府は14年度から「幼児教育の無償化」に段階的に取り組む姿勢だが、新年度予算では幼稚園の通園補助の拡大にとどまり、格差是正策には遠い。

■ 英、公設民営校で改革

 英国は、貧しい地域の学校に民間の力も使って予算を集め、学力テストや監査の結果で学校や教師を競わせることで改革を進める。

 ロンドン市のサウス・ノーウッド校は、11歳から19歳まで約1200人が学ぶ共学の中等学校。モダンな校舎が、オートロックの鉄格子の門に守られている。

 黒人らマイノリティーの生徒が7割で、貧困家庭で無料給食を受ける子が過半数を占める。だが、生徒の大半が大学に進学する。大富豪フィリップ・ハリス氏の財団「ハリス・フェデレーション」が運営する27校の「アカデミー」の一つだ。

 アカデミーは2000年、ブレア首相の労働党政権が、貧困地区の学校再生の切り札として導入した公設民営校。国の学校監査で評価の低い学校を自治体から独立させ、民間のスポンサーが運営に参画する。授業料は無料。多くは国費と寄付で校舎を建て替えた。

 サウス・ノーウッド校は公立校時代、生徒がギャングの抗争で殺害されるほど荒れていた。07年にアカデミーに再生後は、校則を厳格化。移民家庭の子で英語が苦手なら、英語を集中的に教えた。教員とは成果主義に基づく雇用契約を結び、2年後にほとんどが入れ替わった。

 市場原理の導入は10年に保守連立政権の誕生後、加速。貧困地区の学校だけでなく全校がアカデミーに移行できるように改め、すでにロンドンの公立校の過半数はアカデミーになった。

 全国教員組合は「生徒や財源の取り合いになる」などと強い懸念を示す。

 都留文科大の福田誠治教授(教育学)は「日本では高度成長期に都市と農村の教育格差の解消が進み、この問題に十分目を向けてこなかった。再び格差が広がりつつある今、英国が多額の予算を費やして機会の平等を確保しようとしている点は見習うべきだ」と話す。ただ、「競争主義は多くの『落ちこぼれ』を生み、全体として学力向上にはつながらない」と指摘する。

 「英国の競争による改革は、貧困地域の問題を明るみに出し、そこへ集中的に投資することに社会の一定の理解を得た」と常葉大教職大学院の小松郁夫教授(教育行政学)。「規制をゆるめ、学校独自のカリキュラムや人事を認める市場主義的なやり方は、勝ち組と負け組を生む。次の一手を用意しなければ格差はさらに広がる」とも話す。

■ 学力保障、釧路で条例化 NPOも学習支援

 自治体ぐるみで学力保障を目指すのが、北海道釧路市だ。「基礎学力保障条例」を昨年施行、小中学生に読み書きや計算力を身につけさせようと学校や地域の役割を定めた。同市教委も学力アップに取り組んでいるが、全国学力調査の結果は全国平均を下回る。

 そんななか、地域が子どもを応援しようと動き出した。NPO法人「地域生活支援ネットワークサロン」は08年から、生活保護世帯の子らを中心とした学習支援の活動をしている。親が不在がちであるなど人と接する機会が少ない子の居場所づくりも兼ねてスタートした。市の委託事業で、公民館など2カ所に11~22歳まで20人弱が集う。

 スタッフや大学生が勉強を教え、誕生日を祝い、キャンプもする。「勉強だけでは自立できない。ありのままを受け入れてもらう体験が必要だと思う」とスタッフの西東(さいとう)真宏さん(28)は言う。

     ◇

 次回は「授業の未来形」です。

     *

 教育取材班のフェイスブックページ(https://www.facebook.com/eduasahicom)を立ち上げました。ご意見などをお寄せください。



朝日新聞デジタル 2014年1月3日05時00分
中国の富豪、NYタイムズ買収に意欲 「株主と交渉へ」実現性は不透明
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S10906838.html?ref=pcviewpage

 中国江蘇省の企業経営者、陳光標氏が米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の買収に意欲を見せていると、米中の複数のメディアが2日までに報じた。陳氏は近く訪米し、「5日にNYTの有力株主と交渉する」としている。

 陳氏は中国メディアの取材に、「NYTは世界で最も影響力がある新聞だ」と買収を目指す理由を説明。同社の企業価値を10億ドル(約1050億円)と見積もり、香港の富豪にも出資を呼びかけて買収資金を準備したという。

 ただ、NYTの時価総額は約24億ドル(約2500億円)で開きがある。議決権を行使するにはオーナー一族の持つ特殊な株式を買い取る必要があり、買収が実現するかは微妙だ。

 NYTはネットの普及で新聞広告の収入が急減し、厳しい経営が続いている。昨年8月に傘下の有力新聞ボストン・グローブを売却するなど、事業の「選択と集中」を加速させ、経営効率化を進めている。オーナー一族は昨夏、NYT本紙を売却する考えはないことを表明していた。

 報道によると、陳氏は買収できない場合は、代わりにNYTの大株主になることや、ウォールストリート・ジャーナルやCNNなど他の有力メディアの買収に乗り出すことを検討するという。

 陳氏はリサイクル事業で成功し、総資産は約50億元(約850億円)とされる。中国では慈善活動家としても有名で、風変わりな言動がしばしば報道される。2012年8月には、NYT紙に「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国のもの」という広告を出したこともある。(北京=斎藤徳彦、ニューヨーク=畑中徹)



 01 03 (金) 続く靖国参拝、中韓反発 総務相にも批判拡大  

朝日新聞デジタル 2014年1月3日05時00分
続く靖国参拝、中韓反発 総務相にも批判拡大
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S10906860.html?iref=comkiji_redirect

   写真・図版 2日、定例会見に臨む韓国外交省報道官。
         新藤総務相の参拝を批判した=ソウル、貝瀬秋彦撮影

 安倍政権の閣僚による靖国神社参拝が続いている。昨年末の安倍晋三首相の参拝に中韓両国が反発するさなか、1日には新藤義孝総務相も参拝した。中国が批判対象を首相個人から政権全体に広げ、韓国とも連携を強める。参拝に批判的な国際的な論調を高める狙いがうかがえる。首相のアジア外交は、2014年も波乱の幕開けとなった。

 「戦争で命を落とした方々に対し尊崇の念を込めてお参りをした」。新藤氏は参拝理由をこう説明した。

 安倍首相は、閣僚の参拝を「自由意思」に委ねてきた。新藤氏の参拝は閣僚就任後、今回で6回目。ほかにも昨年、古屋圭司拉致問題相や稲田朋美行政改革相が参拝している。

 政権ではもともと、首相、岸田文雄外相、菅義偉官房長官の3人の参拝は外交問題化すると想定していた。予想外だったのが、昨年4月の麻生太郎副総理兼財務相の参拝だ。中国に加え韓国も態度を硬化させ、日韓外相会談が流れた。

 しかし、この4人以外の参拝に強い批判は受けないとみていただけに、中韓の反応は誤算だ。昨年末の首相の参拝で反発の「基準」が下がった可能性がある。政府関係者は「首相の参拝で過敏になっているのでは」とみる。

 連立政権を組む公明党の山口那津男代表は2日、東京都内での演説で「謙虚に耳を傾け、世界平和に貢献する日本を示していかないとならない」と、首相自ら関係修復に努力するよう求めた。

 安倍首相は1日付で発表した年頭所感で、日米同盟の強化を主軸に積極的に世界の平和に貢献する「積極的平和主義」の必要性を強調した。しかし、中韓との関係がさらに冷え込めば、米国の懸念も強まる。安倍首相の外交戦略に影を落としそうだ。(山下龍一)

■ 認識の一致を強調

 新藤氏の参拝に対し、中国外務省は「強烈な抗議」を表明した。中国政府やメディアは当初、安倍首相個人を批判していたが、安倍政権内にも参拝支持の声が多いため、安倍政権全体への警戒感を強めている。国営新華社通信は「東洋のナチスに最敬礼し、歴史を後戻りさせる動き」と強調。「右翼政治屋の集まり」と安倍内閣を論評した。一方、王毅(ワンイー)外相は12月31日夜、韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相と電話で協議。中国外務省は尹外相も「参拝反対を表明した」とし、両国の認識の一致をアピールした。

 韓国政府も厳しい姿勢だ。朴槿恵(パククネ)大統領は2日、潘基文(パンギムン)・国連事務総長との電話会談で、「信頼を壊し、周辺国を傷つけることはあってはならない」と発言。尹外相も2日、「日本の政治指導者の歴史修正主義的な態度は、東北アジアの平和と協力の大きな障害物になっている」と非難した。韓国外交省報道官は2日、新藤氏の参拝も批判した。韓国は「日本が間違っているとの共感が、国際社会で一層強まるよう努力する」(政府高官)方針で、関係国と積極的に情報交換する構えだ。

 米政府は、新藤氏の靖国参拝について反応していない。ただ、「(靖国参拝は)地域の緊張をさらに悪化させる」(国務省のハーフ副報道官)と強調しており、苦々しく思っているのは確実だ。

 (北京=倉重奈苗、ソウル=貝瀬秋彦、ワシントン=奥寺淳)



朝日新聞デジタル 2014年1月3日05時00分
(異才面談:3)国立情報学研教授・新井紀子さん 人工知能が雇用奪う未来
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S10906802.html?iref=comkiji_redirect

   写真・図版 「人工知能『東ロボくん』の模試挑戦は母親の心境で見守りました」
            =東京都千代田区の国立情報学研究所、早坂元興撮影

 ――人工知能を東大に合格させるプロジェクト開始から2年。成果は?

 「過去の入試問題、教科書、ウィキペディアなどを利用して大手予備校の模試を受けさせ、私大579校のうち403校で合格可能性80%以上となりました。東大はまだ圏外ですが、2021年合格が目標です」

 ――すごい進歩ですね。

 「東大理系の数学模試ではほとんどの受験生が正答できない難問をあっという間に解いてしまいました。数学者である私も夫も解けない問題だったのに」

 ――コンピューターは昨年、将棋のプロ棋士を破りました。その頭脳は人間をしのぎつつあるのですか。

 「将棋やチェスのような枠組みが明確なゲームではたいへん能力があります。でも現在の人工知能は、チェス王者に勝てても子どもの使いもできない、とよくからかわれています」

■ 人の得意分野探る

 ――子どもの使いも?

 「意外にも、人間にとって簡単なことほど不得手です。小学校入試の『次の絵の中で仲間はずれは?』という質問には答えられません。答えるには人間の総合判断能力がいるからです」

 「東大合格プロジェクトの狙いは、知的作業のうち何を機械にさせ、何を人間がしたほうが効率がよいかを探ることです。毎年50万人もの受験生が細かく分かれた多くの問題を解く大学受験は、それを試すのにもってこいだと考えました」

 ――人工知能にはどんな能力が足りないのですか。

 「まず正確で深い言語理解。これは解決の見通しがある程度、得られました」

 「次に含意関係認識。つまり言い換えできる関係かどうかを判断する能力です。これが難しい。たとえば〈川端康成は『雪国』などの作品でノーベル文学賞を取った〉という文章から〈川端は『雪国』の作者である〉が正しい文だと判定することが、いまの人工知能にはできません。実現すれば、グーグルよりはるかに進化した検索エンジンが生まれるでしょう」

■ 事務労働1割失う

 ――ハリウッド映画が描くように、高度な人工知能が人間の未来の敵になる可能性はないのですか。

 「敵というより、人間の雇用を奪うライバルにはなるでしょう。とくにホワイトカラー労働者への影響が心配です。含意関係認識の機能を備えた人工知能が誕生すれば、事務労働の1割くらいが機械に置きかえられるかもしれません」

 「さらに〈1千字の内容を50字に要約する〉といった論旨要約までできる段階に進めば、影響を受けない事務労働者は、おそらくいないだろうと思います」

 ――人間にしかできない仕事だってあるでしょう?

 「税理士の仕事を機械に置き換えるけれど、居酒屋の店員は置き換えない、というようなことはあるでしょう。でもそれは単に機械にやらせやすいものから置き換える、という技術側の都合でしかありません」

■ 挑戦支える社会に

 ――その事態に社会はどう向き合えばいいと?

 「まず教育は抜本的な見直しが求められます。たとえば機械翻訳が発達すれば英語教育が10年後も必要かどうか。難しいのは、教育を見直す速度に比べて機械の発達のほうが速ければ、せっかく努力して身につけた教育が役立たなくなってしまうことです」

 ――それでは機械排斥運動がおきてしまいますよ。

 「そうわかりやすい構図にならないので、失業しても怒りの向け場がありません。技術の進展は思いもよらぬ形で副作用をもたらします。たとえば画像転送技術で遠距離の人とバーチャル会議が簡単にできれば、移動が減って新幹線が打撃を受ける、インターネットの価格比較サイトの普及で秋葉原の電器店の売り上げが減る、というように」

 ――知らず知らずのうちに雇用を奪われる、と。

 「事態は1980年代に始まっていました。まず職を追われたのはタイピストや電話交換手です。大騒動にならなかったのは失業したのが女性ばかりだったから。男性は自分たちの雇用が危うくなって初めてその深刻さに気づいたのです」

 「当時、職を奪われた女性たちは『お前が悪い』と突き放されました。でもそうやってすべてを自己責任にしたら、社会不安が起きます。技術の進展は速く、しかも予測がしにくい。どの職が機械に奪われるのか分からないのです。それを放置したら、社会全体が萎縮してしまうでしょう」

 ――萎縮させないためには何が必要ですか。

 「多様な価値観が尊重されるやさしい世の中です。子育てがリスクでなくメリットになり、失敗しても何度でも挑戦できると信じられるような、そんな社会がほしい。先の予測が難しいなかでもコンピューターに勝てる高度人材を育て、人間に残される仕事を見つけるには、なんといってもチャレンジと助け合いが欠かせません。結局のところ、それが長期的には効率のよい社会をつくるはずです」

   *

 あらい・のりこ 1962年生まれ。一橋大法卒、米イリノイ大大学院数学科修了。06年から国立情報学研究所教授。著書に「数学は言葉」など。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトのリーダー

■ 人しかできない究極の仕事とは 編集委員・原真人

 機械に仕事を奪われないか。産業革命以来のこのテーマに対し、経済学者たちは「心配無用」と答えてきた。ある仕事が機械に代替されても、別の仕事が必ず人間を必要とする、と。

 この200年の雇用の歴史はたしかにそうだった。機械化が進み、人間の仕事は一変したが、いまも多くの雇用が維持されている。

 それでも近年のコンピューターの劇的進化に、労働移動が追いつかなくなって大きなミスマッチが発生するのではないか。新井さんが心配するのはその点だ。

 だとすると私たちにできることは将来社会やそこで求められる能力、特性をできる限り展望し、必要とされる人材を育てることだ。

 その意味で人工知能の研究とは、機械の可能性を無限に追求する作業であると同時に、さいごに人間に残される仕事を探す究極の「自分探し」の試みだとも言えないだろうか。



朝日新聞デジタル 2014年1月3日05時00分
(社説)「1強政治」と憲法 「法の支配」を揺るがすな
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S10906763.html?iref=comkiji_redirect

 安倍首相が最近よく使う言葉に、「法の支配」がある。

 中国の海洋進出を念頭に「力による現状変更ではなく、法の支配によって自由で繁栄していく海を守る」という具合だ。

 「法の支配」とは何か。米国の政治学者フランシス・フクヤマ氏は、近著「政治の起源」でこう説明している。

 「政治権力者が、自分は法の拘束を受けていると感じるときにのみ、法の支配があるといえる」

 この「法」は、立法府がつくった制定法とは違う。近代以前は、神のような権威によって定められたルールと考えられていた。法と制定法の違いは、現代でいえば憲法と普通の法律の違いにあたるという。

 今年、安倍首相は「憲法9条改正」に挑もうとしている。

 ただし、憲法96条の改正手続きによってではない。解釈の変更によるのだという。

 最高法規の根幹を、政府内の手続きにすぎない解釈によって変える。これは「法の支配」に反するのではないか。

■ 決める政治はき違え

 衆参のねじれを解消した安倍首相は、「決められない政治」からの脱却を進める。

 先の国会では、内閣提出法案の9割近くを成立させた。

 私たちは社説で、ここ数年の日本政治を特徴づけてきた「決められない政治」を克服するよう、政治家に求めてきた。

 それは、国民の負担増が避けられない時代に、政治には厳しい現実を直視した決断が必要なことを指摘したものだ。

 安倍政権は消費税率の引き上げを決めた。だがそれ以外の分野ではどうか。やりたいことをやりたいように決める。こんな乱暴さが際だってきた。

 三権分立どこ吹く風。一票の格差を司法に断罪されても、選挙無効でなければ受け流す。婚外子の相続差別への違憲判断を受けた民法改正の党内手続きには、猛烈に抵抗した。

 自民党も賛成した憲法改正の国民投票を18歳以上に確定する法改正すら先送り。改憲手続きに従った改正を遠のかせることになろうと、お構いなしだ。

 「いまの力はつかの間のことなのに、我々は何でもできるという自民至上主義が生まれている」。党内のベテラン議員の目には、こう映る。

■ 力ずくに異議もなく

 極めつきは、特定秘密保護法採決の強行に次ぐ強行だ。

 かつて自民党は、勢力が強まるほどに自制した。

 生前、哲人政治家と評された大平正芳元首相は、若手にことあるごとに老子の言葉を説いて聞かせた。

 「大国を治むるは、小鮮(しょうせん)を烹(に)るがごとし」

 小魚を煮る時は、形を崩さぬよう、つついてはいけない。政治も同じという意味だ。

 反対を力ずくで押し切ったあの採決への過程は、保守本来の知恵ともいうべき戒めとは対極の荒々しさだった。

 大平の薫陶を受けたリベラル派は、ほぼ姿を消した。政権中枢のやり方に違和感を覚えても、表だって異議申し立てをする重鎮もいない。

 一方で、予算の大盤振る舞いに群がる族議員の行動は「完全復活」した。

 「官邸しか見ないヒラメ議員の集まりか」。長年、党を見てきた官僚からため息が漏れる。

■ 歴史の教訓はどこに

 今年、安倍政権がいよいよ手をつけようとしているのが、集団的自衛権の行使容認だ。歴代政権は憲法解釈上、行使できないと封印し続けてきた。

 布石は打たれている。慣例を破り、行使容認派を内閣法制局長官に起用した。政治の暴走から法の支配を守る政府内の防護壁は格段に低くなった。

 特定秘密法のように、憲法が保障した国民の権利を法律によって制限する。今度は法律よりも軽い解釈変更によって、戦後の平和主義を支えてきた9条を変質させようとする。

 いずれも、国民の手が届かないところでの出来事だ。

 安倍首相は昨春、憲法改正の発議要件を両院の3分の2の賛成から過半数に下げる96条改正を掲げ、「憲法を国民の手に取り戻す」と訴えていた。

 いまやろうとしているのは正反対のことではないのか。それともこれが、麻生副総理がナチスを引き合いに語った「誰も気づかないうちに」憲法を変えるということなのか。

 昨秋の衆院憲法審査会の議員団によるドイツ視察。改憲の発議要件を緩めることをどう思うかという質問に、独連邦議会の議員がこう答えた。

 「ヒトラーがその全権を掌握するなどということは、3分の2という条項が(厳格に)あればできなかったはずだ」

 歴史の教訓である。

 自民党の1強体制が、2度の選挙によって生まれたのは確かだ。しかし、そのことをもって法の支配に挑むのなら、民意への悪乗りというほかない。



朝日新聞デジタル 2014年1月3日05時00分
(第1次世界大戦の遠近法:2)ロボット戦争、その果てに
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S10906758.html?iref=comkiji_redirect

   写真・図版 CG・小阪淳 このイメージは毎回切り抜いて左につなげていき、
         最初(12月31日付プロローグ)と最後を貼り合わせると、
         リング状の一つの絵になります。次回は7日付です。

 2014年はロボット戦争を巡って人類が本格的な議論を始めた年として記録されそうだ。

 完全自律型ロボットが戦争に投入されれば、人間の兵士の代わりに、標的を自分で探し、攻撃完了までを担う「殺人ロボット」となる。その定義や是非について話し合う国際的な専門家会合が、5月に予定されている。昨年11月、スイス・ジュネーブの国連欧州本部での特定通常兵器使用禁止制限条約の締約国会議で決まった。戦闘員と非戦闘員の区別など「戦争のルール」に従う完全なロボットの実用化は「20~30年先」(ロボットに詳しい専門家)という。

 今までの戦争と何が違うのか。

 例えば、ロボットがプログラムのバグが原因で誤って民間人を殺したとする。「誰の戦争犯罪として裁くのか」と問うのは人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の日本代表の土井香苗だ。ロボットが属する部隊の責任者か、プログラマーか、製造企業か。「戦争犯罪を裁く従来の国際法の枠組みの意味が失われてしまう」

 軍事用ロボットは既に、現代の戦争に欠かせない。地雷除去や偵察機。そして衛星通信でパイロットが乗らない飛行機をコントロールし、上空から標的を見つけてミサイルを撃ち込む無人機もその一つだ。対テロ戦争で米国が本格的に導入して以来、世界数十カ国以上が開発を進めているとされる。

 兵士が人ではなくなる時代――。新時代の到来を予感させるが、実は第1次世界大戦こそが、そんな戦争の始まりだったとみるのが倫理学者の加藤尚武だ。

 〈馬車を引いてあわてふためいて逃げていく民間人、そしてその後ろには退却する歩兵たち。とびきりの標的だ〉(ジョン・エリス『機関銃の社会史』)

 大戦で機関銃士だった兵士の回想だ。加藤は「さながらゲームの画面。ボタンを押して敵を倒すような感覚であることが読み取れる」と指摘する。「個人の死は死者数に変わってしまった」と評されるほど未曽有の死者を生んだ大きな原因が、機関銃の導入とされる。「戦争の『脱人格化』が始まり、敵を人とみなさなくなる。機関銃から空爆、核兵器の使用。20世紀は一貫してそういう方向で進んできた」。ロボット戦争時代は「新しいというより、ずっとその準備をしてきたと言える」。

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 とはいえ、「戦争とは何でもあり」という考えにあらがってきたのも20世紀だ。戦闘員と非戦闘員、戦闘地域と非戦闘地域……。戦争のルールとして、こうした「区別」を導入し、残虐な戦争を避ける努力を積み重ねてきた。

 だが、ロボット化は「この区別を無化しつつある」。国際人権法学者の阿部浩己は指摘する。米国は無人機による攻撃を繰り返す。昨年公表された国連の報告書は、04年以降パキスタンで少なくとも死者2200人、うち民間人も400人以上としている。

 「『戦場』なき戦争の時代に突入した」と阿部。無人機に攻撃されればそこが戦場になり、あらゆる所が潜在的な戦場になる。「もはや世界大の内戦状態と呼べるかもしれない。非日常だった戦争が日常化してしまった」

 しかも、こうした攻撃の実態はなかなか明らかにされない。反戦運動の多くは自国兵士の犠牲をきっかけに盛り上がるが、死ぬのは国外の「標的」だ。加藤は言う。「ロボット兵器は『道具』なので議会の承認がなくても自由に使え、権限がある者の権力を拡大する。それは人知れず起きる」

 国家のあり方にも影響する。SF作家ダニエル・スアレースは昨年、英国での講演で「民主主義国家の土台が崩れ、群雄割拠の時代になる」と未来像を説いた。兵士が必要ないなら、戦争は世論の反発もなく簡単に始められる。それどころか、国家でなくても、資金さえあれば個人も戦争主体になれる。暴力の独占という国家の意味が本質的に変わってしまうと。

 世界秩序を揺るがした第1次大戦の後、ドイツの批評家ヴァルター・ベンヤミンはこう書いた。「何ひとつ変貌しなかったものとてない風景」(「経験と貧困」)

 すべてが変わった――しかし彼が見ていたのは、戦前と外見上は何も変わらない光景だった。この後、街が廃虚と化す2度目の大戦を予見していたようにも読める。

 ほとんど気付かぬまま進む世界大の内戦時代。この果てにもカタストロフィーが待ち受けているのだろうか。=敬称略(高久潤)

■ ロボットと人工知能の歴史

1920年  作家カレル・チャペックが造語「ロボット」を使った戯曲を発表
  50年  作家アイザック・アシモフが「私はロボット」で、ロボットは人間に対する安全性、
       命令の服従などを守るべきだとする「ロボット工学3原則」を提示
  56年  「人工知能」という研究分野が米ダートマスであった科学者の会議で提唱
  63年  手塚治虫のアニメ「鉄腕アトム」第1話放送
  68年  スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」で人工知能を搭載し
       たHAL9000が登場
  87年  科学者マービン・ミンスキーが『心の社会』を発表。心とはそれ自体心を持たない
       「エージェント」による協調と主張
90年代半ば 大量のデータから傾向や規則を見つけ出すデータマイニング技術が発展
  96年  国内初の地雷除去ロボットの研究スタート
2001年  軍事用無人機の使用が本格化
  03年  鉄腕アトムが誕生(作品中の設定)
  13年  将棋で現役のプロ棋士が初めてコンピューターソフトに敗れる