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折々の記 2014 ⑤
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 01 】04/27

  04 27~05 01 ロボット技術  

 04 27~05 01 (日) ロボット技術

この記事に関するニュース

  その① ロボベンチャー上場、人気過熱 医療・介護へ活用期待(3/27)
  その② (ザ・テクノロジー:1)ロボットバブルとグーグル(4/29)
  その③ (ザ・テクノロジー:2)「日本の快挙」がグーグルに(4/30)
  その④ (ザ・テクノロジー:3)ヒト型ロボットの源流は日本に(4/30)
  その⑤ (ザ・テクノロジー:上)のまれる日本のロボット技術 グーグル、次世代にらみ買収(4/30)
  その⑥ (ザ・テクノロジー:下)ロボットビジネス、主役交代 挑む孫氏、ソニーは撤退(5/1)
  その⑦ (ザ・テクノロジー:4)孫社長「次はロボット」(5/1)
  その⑧ (ザ・テクノロジー:5)人型ロボ商品化、展望欠く日本(5/1)
  その⑨ (ザ・テクノロジー:6)雇用減・軍事利用、懸念も(5/1)
  その⑩ (ザ・テクノロジー:7)「ロボットが労働力不足補う」
  その⑪ (ザ・テクノロジー:8)ロボット商用化の壁越えるには



その① (3/27)
  ロボベンチャー上場、人気過熱 医療・介護へ活用期待

 筑波大発のロボットベンチャー、サイバーダイン(本社・茨城県つくば市)が26日、東証マザーズに上場した。日本でロボット専門メーカーが株式上場するのは初めて。サイバーダインは人の手足の動きを補助するロボットスーツ「HAL」(ハル)を開発し、医療・介護の分野へ活用が見込まれる。

 株式の公募・売り出し価格3700円に対し、初値はその2・3倍の8510円。終値はさらに値上がりして9600円でひけた。投資家の期待は高く、上場承認した東証を傘下にもつ日本取引所グループの斉藤惇CEOは「HALを使えばお年寄りが一人でトイレにも行ける。医療・介護の費用負担が少なくて済みそうで、まさにアベノミクスだね」と評した。

 サイバーダインは、筑波大大学院教授でもある山海嘉之社長(55)が2004年に創業した。手や足の機能が衰えた人に動きを補助するロボットスーツHALを開発し、昨年6月にはその欧州モデルが欧州の医療機器として認証され、さらにドイツではHALによる治療が公的労災保険の対象とされた。国内でも医療・福祉施設で約400体が使われている。山海氏は「私たちは市場も製品もなかったところから始めて、欧州全域に受け入れられるまでになった」と、感無量の様子だった。

■欧米と競争激しく

 日本のロボットは、ホンダの「アシモ」やソニーの「アイボ」で世界に先駆けてきたものの、経営難のソニーがロボット事業から撤退するなどビジネス化は順調とはいいがたい。一方、欧米は機能を絞ったロボットで追い上げ、米アイロボット社の掃除機ロボ「ルンバ」はヒット商品になった。さらにグーグルやアマゾンなど潤沢な資金を有する巨大IT企業がM&Aによって参入するようになっている。サイバーダインは、上場によって調達した約30億円を元手に研究開発や海外展開を積極化させる方針だ。

 同社は、今回の上場に際して、他企業に買収されるリスクを回避するため、筆頭株主の山海氏に、普通株の10倍の議決権をもたせた種類株を発行した。(大鹿靖明)



その② (4/29)
  (ザ・テクノロジー:1)ロボットバブルとグーグル

 米西海岸シリコンバレーはいま、ロボット技術への熱気に包まれている。

 4月9日、カリフォルニア州パロアルト市で開かれた小さなロボット展示会。そこへ、投資家ら次世代技術の目利きたち1500人が殺到した。

 空気の出し入れで動くゴム人形のようなロボット、壁を上っていく尺取り虫のような物体、人工知能でコースを正確に走るミニカー……。40社が展示した製品はそれぞれ独自性にあふれていた。

 創業50年近いベンチャーキャピタルのデブダット・エールカーは「次の大きな波は何かと検討してきたが、ロボット分野だ」と断言した。

 ロボットバブルに火をつけたのは、世界的なIT大手の米グーグルだ。ロボットベンチャー8社を一気に買収したことが昨年12月に判明し、ニュースが世界を駆け巡った。

 グーグルは買収後、徹底した秘密主義を貫き、買収目的も明かさない。シリコンバレーで今月開かれたシンポジウムで、主催者が聴衆に語りかけた。

 「グーグルはロボット関連企業をどんどんのみ込んでいる。いったん吸収されると、そこから情報は一切漏れてこない。まるでブラックホールのようだ」

 8社のなかで、特に注目されたのが、東京大発ベンチャーの「シャフト」だ。

 昨年12月、米フロリダ州のカーレース場で開かれたロボットコンテスト予選。シャフトは、米航空宇宙局(NASA)やマサチューセッツ工科大学(MIT)など強豪を押しのけて、参加16チームのなかで、断トツで予選を通過した。

 コンテストを主催したのは、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA〈ダーパ〉)。ダーパは、米国の国防費を背景にした豊富な予算を国内の大学や研究機関につぎこみ、最新のテクノロジーを吸い上げて軍事技術に応用している。

 12月のコンテストは、2011年3月の東京電力福島第一原発事故がきっかけになっていた。ロボットが、がれきが積み重なる過酷な状況でも作業できるかがテーマだった。

 災害現場を模した会場で、ロボットたちはがれきの中を歩いたり、はしごを上ったり、ホースを消火栓につないだりする八つの課題に挑戦。ほかのロボットが止まったまま動かなかったり、転倒したりするなか、シャフトの二足歩行ロボット「S―One(エス・ワン)」だけは着実に課題をこなしていった。

 圧巻だったのは、ロボットによる四輪駆動車の運転だ。エス・ワンは腕と足を使ってハンドルやアクセルを器用に操作。75メートルのコースを完走すると、観客から歓声が上がった。予選トップのシャフトは、来年初めの本選でも優勝候補の本命だ。

 予選直前の昨年11月にグーグルに買収されたシャフトは、その後ホームページを事実上閉鎖。マスコミの取材にも応じない。経済産業省が問い合わせてもなしのつぶてだ。(敬称略)(高山裕喜、畑中徹=パロアルト、大鹿靖明)



その③ (4/30)
  (ザ・テクノロジー:2)「日本の快挙」がグーグルに

 今月24日、訪日中の米大統領のバラク・オバマが、分刻みの忙しさをやりくりして向かったのは、お台場の日本科学未来館だった。

 ホンダのアシモとサッカーに興じたあと、オバマは開発途上の青いロボットと向き合った。スーツ姿の大統領の前にあらわれたのは、普段着のシャツによれよれのジーンズ姿の日本の2人の若者だった。

 「このロボットは何に使うのですか」とオバマ。「東京電力福島第一原発のように人が入れない場所で、代わりに作業します」「いま魂をかけて開発しています」。そう答えたのは、元東大助教の中西雄飛と浦田順一。

 昨年11月、グーグルに買収されて以来、シャフトは沈黙を守ってきた。

 その共同創業者2人が、グーグル傘下のロボット企業の代表として、久しぶりに姿を現した。

 シャフトは、浦田と中西が中心となり、わずか2年前に設立されたベンチャーである。2人は、日本のロボット研究の本流である東大教授、稲葉雅幸の門下生だった。

 経済産業省は1998年度以降、ヒト型ロボットを開発しようと、45億円強を投じた。「アシモ」の原型となるロボットP3をベースにHRPシリーズを開発。そのひとつHRP―2を使って研究してきたのが、東大の稲葉研究室だった。

 「浦田君は技術的にピカイチ、中西君は人間的にピカイチ」。2人を育てた稲葉は評する。

 原発事故当時、ロボットは期待ほどの働きができなかった。「福島の現場で何もできないのが非常に残念」。浦田がそう悲しむのを友人は聞いた。がれきが積み重なる事故現場で、ヒト型ロボットは転倒しやすく使えなかった。

 浦田と中西は、その壁の突破を試みた。

 いま31歳になる浦田が開発したのは、高速で動く強力なモーターと、どこに足をつけばよいのかを瞬時に計算するソフトだった。その足は「ウラタレッグ」と呼ばれる。2人と親交のある産業技術総合研究所の加賀美聡は「シャフトの意義は不整地で歩けるロボットを開発したこと」とみる。

 ダーパのコンテストのねらいは、軍事費に由来する資金で米国内外の有望技術を集めることにある。東大に籍をおいたままでは軍事費を背景にしたコンテストに出にくい。2人は助教の立場を捨て起業を決意。稲葉は「辞めれば、僕らの本気度を投資家にわかってもらえる」と彼らが話すのを覚えている。

 だが、開発資金集めは難航した。資金回収の見通しがつかないロボット開発に、国内のベンチャーキャピタルは二の足を踏む。社外取締役の鎌田富久は旧知のグーグルのアンディ・ルービンに話をつないだ。ルービンは、スマートフォンの基本ソフト(OS)「アンドロイド」の開発責任者を務めた人物で、いま担当しているのがロボット開発だった。渡りに船とばかりに、ルービンは13年11月、シャフトを買収した。

 グーグルは、日本のさまざまな技術を取り込もうとしているように見える。コンテストから1カ月後の今年1月9日。早稲田大教授の高西淳夫の研究室に、中西と、やはりグーグルに買収されたばかりのロボットベンチャー、ボストン・ダイナミクス創業者のマーク・レイバートらが訪れた。早大は73年に世界初の本格的なヒト型ロボットを開発し、東大と並ぶロボット研究の中心だ。

 共同研究を持ちかけられた高西が「グーグルはいったい何をするつもりなのか」と尋ねると、レイバートはこう返した。「それは言えないよ」

 人材集めにも余念がない。稲葉は「私の研究室から10人がグーグルに行った」と打ち明ける。ソニーでもアイボの開発にかかわったエース級の中堅がグーグルに転じている。

 そのねらいは、ベールに包まれたままだが、おぼろげながらうかがえるのは、次世代のロボット技術をすべて取り込むことだ。

 会長のエリック・シュミットは近著「第五の権力」で「近いうちに米国の一般家庭でも数台の多目的ロボットを持てるようになるだろう」とみる。

 それはどんなロボットか。日本法人元社長の村上憲郎は「コンピューターが執事になる」と予測する。家庭にいるロボットが、主人の質問をネットで瞬時に検索して答えたり、掃除や調理をこなしたりする未来が訪れるかもしれない。

 グーグルはその先に、ロボットの頭脳を握ろうとしているようにみえる。同社は「クラウド(雲)ロボティクス」と呼ばれる技術を11年に提唱。サイバー空間上の巨大な「頭脳」に、ネットを通じて家庭や工場にあるロボットがつながるイメージだ。

 それはグーグルがロボットすべての頭脳を支配することも意味する。「ものづくり」の延長線上でロボットを考えてきた日本とは、まったく違う発想だ。

 ロボットが期待されるのは時代の要請でもある。米アイロボット社創業者、ロドニー・ブルックスは「多くの先進国では高齢者が増え、若年者が減っている。それに、日本では、老朽化するインフラを点検・修理する労働力をどう確保するのか。ロボットこそが、問題解決のカギを握る」と語る。

 シャフト買収に大きな衝撃を受けたのは、日本のロボット開発を後押ししてきた経産省だ。経産省は、ロボット技術で米政府と協力を深めようとしていた矢先に、国内の有望企業が米国に流出したからだ。

 経産省は、昨年7月、米国防総省と災害対応ロボットの日米共同研究で合意。来年開催されるダーパの最終コンテストに日本が参加することが目玉だった。経産省は「武器輸出三原則には抵触しない」と説明するが、同省から打診されたトヨタ自動車やホンダは軍事色を嫌い、参加を固辞。策が尽きた同省は日本からの挑戦者を広く公募し、選ばれた者には開発資金などを補助すると公表した。

 「果たしてこれでいいのか。共同研究で合意したとはいえ、米国は追い上げてくる競争相手でもある」。同省幹部からは、そんな懐疑的な声も漏れる。

 突如始まったロボットをめぐるテクノロジー覇権競争。米国は、先行する日本に照準をあわせる。

 ソ連のスプートニク打ち上げに衝撃を受けた米国はNASAを設け、月着陸を実現したアポロ計画を始めた。日本の半導体攻勢に悩まされると、国防総省が中心になって産官学の共同研究機関を設け、技術革新に挑んだ。そしてダーパやグーグルの動き――。

 研究者たちは、日本のロボットテクノロジー自体は、今でも世界を牽引(けんいん)しているとの見方で一致する。名古屋大教授の新井史人は「日本はものづくりの国。モーターやセンサーなどの技術力は高い」と言う。

 ただ、課題は、ハードを動かすソフトにある。産総研でロボットを研究してきた横井一仁は「産業用ではまだリードしているが、ヒト型はかなり混沌(こんとん)としてきた。ソフトの世界では米国がかなり進んでいる」と打ち明ける。

 頭脳は米国がつくり、ハードの機器は中国が量産する。エレクトロニクス産業ではそれが現実に起きた。「手をこまねいていると、ロボットの世界でも起きかねない」。シャフト創業者と同窓のロボット研究者はそう語った。=敬称略(大鹿靖明、高山裕喜、嘉幡久敬)



その④ (4/30)
  (ザ・テクノロジー:3)ヒト型ロボットの源流は日本に

 人間のように二本の足で動くヒト型ロボット開発の源流は日本にある。

 早稲田大教授の加藤一郎らのグループは1973年、WABOT―1と呼ばれる世界初の本格的なヒト型ロボットを開発。簡単な会話をしたり、歩いたりする初歩的な動作ができた。

 早大のグループはその後、「ZMP」と呼ばれる新たな力学の理論を取り入れることで、なめらかな歩行を実現。これが大きなブレークスルーとなった。その後、企業や大学で開発された「歩けるロボット」のほぼすべてにこの理論が活用された。

 企業では、ヒト型ロボットの開発を早くから始めていたホンダが「アシモ」を開発。ZMPを取り入れ、人間のように歩く姿に世間は驚き、アシモは「ヒューマノイド(ヒト型ロボット)」の代名詞として広く知られるようになった。

 通商産業省(現経済産業省)も98年、東京大教授の井上博允を中心にしたプロジェクトを開始。アシモの前身となったホンダの「P3」というロボットを改良した「HRP―1」が使用され、産業技術総合研究所と川田工業によってHRP―2が開発された。HRP―2は、センサーやモーター、制御プログラムなど、ロボットの動きを高度化するさまざまなパーツを試す試験機(プラットホーム)として、大学などの研究室に広く導入された。さらにその後継機として、屋外などの環境でも歩行できるのが特徴のHRP―3が開発された。

 HRP―3の開発時に作られた「脚」の部分を利用して、東京大の研究室に所属していた助教の浦田順一が開発したのが、蹴飛ばしても倒れない「ウラタレッグ」だ。モーターを使って瞬時に大きなパワーを出すことができ、けとばされると即座に後ずさりをしてバランスを保つ。

 モーターの過熱を防ぐため、水冷式を採用するなど、さまざまな工夫がこらされており、歩行だけでなく、数十センチもジャンプができる。これに上半身をつけ、車の運転やはしごの上り下りといったDARPAのロボットコンテストの競技ができるように開発されたのが、シャフト社のS―One(エス・ワン)だ。=敬称略(嘉幡久敬)



その⑤ (4/30)
  (ザ・テクノロジー:上)のまれる日本のロボット技術 グーグル、次世代にらみ買収

 米西海岸シリコンバレーはいま、ロボット技術への熱気に包まれている。

 4月9日、カリフォルニア州パロアルト市で開かれた小さなロボット展示会。そこへ、投資家ら次世代技術の目利きたち1500人が殺到した。

 空気の出し入れで動くゴム人形のようなロボット、壁を上っていく尺取り虫のような物体、人工知能でコースを正確に走るミニカー……。40社が展示した製品はそれぞれ独自性にあふれていた。

 創業50年近いベンチャーキャピタルのデブダット・エールカーは「次の大きな波は何かと検討してきたが、ロボット分野だ」と断言した。

     *

 ロボットバブルに火をつけたのは、世界的なIT大手の米グーグルだ。ロボットベンチャー8社を一気に買収したことが昨年12月に判明し、ニュースが世界を駆け巡った。

 グーグルは買収後、徹底した秘密主義を貫き、買収目的も明かさない。シリコンバレーで今月開かれたシンポジウムで、主催者が聴衆に語りかけた。

 「グーグルはロボット関連企業をどんどんのみ込んでいる。いったん吸収されると、そこから情報は一切漏れてこない。まるでブラックホールのようだ」

 8社のなかで、特に注目されたのが、東京大発ベンチャーの「シャフト」だ。

 昨年12月、米フロリダ州のカーレース場で開かれたロボットコンテスト予選。シャフトは、米航空宇宙局(NASA)やマサチューセッツ工科大学(MIT)など強豪を押しのけて、参加16チームのなかで、断トツで予選を通過した。

 コンテストを主催したのは、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA〈ダーパ〉)。ダーパは、米国の国防費を背景にした豊富な予算を国内の大学や研究機関につぎこみ、最新のテクノロジーを吸い上げて軍事技術に応用している。

 12月のコンテストは、2011年3月の東京電力福島第一原発事故がきっかけになっていた。ロボットが、がれきが積み重なる過酷な状況でも作業できるかがテーマだった。

 災害現場を模した会場で、ロボットたちはがれきの中を歩いたり、ホースを消火栓につないだりする八つの課題に挑戦。ほかのロボットが止まったまま動かなかったり、転倒したりするなか、シャフトの二足歩行ロボット「S―One(エス・ワン)」だけは着実に課題をこなしていった。

 圧巻だったのは、ロボットによる四輪駆動車の運転だ。エス・ワンは腕と足を使ってハンドルやアクセルを器用に操作。75メートルのコースを完走すると観客から歓声が上がった。予選トップのシャフトは、来年初めの本選でも優勝候補の本命だ。

 予選直前の昨年11月にグーグルに買収されたシャフトは、その後ホームページを事実上閉鎖。マスコミの取材にも応じない。経済産業省が問い合わせてもなしのつぶてだ。

     *

 今月24日、訪日中の米大統領のバラク・オバマが、分刻みの忙しさをやりくりして向かったのは、お台場の日本科学未来館だった。

 ホンダのアシモとサッカーに興じたあと、オバマは開発途上の青いロボットと向き合った。スーツ姿の大統領の前にあらわれたのは、普段着のシャツによれよれのジーンズ姿の日本の2人の若者だった。

 「このロボットは何に使うのですか」とオバマ。「東京電力福島第一原発のように人が入れない場所で、代わりに作業します」「いま魂をかけて開発しています」。そう答えたのは、元東大助教の中西雄飛と浦田順一。沈黙を守ってきたシャフトの共同創業者が、グーグル傘下のロボット企業の代表として、久しぶりに姿を現した。=敬称略(高山裕喜、畑中徹=パロアルト、大鹿靖明)

     ◇

 テクノロジーの急速な進化がいま、私たちの世界を劇的に変えようとしている。人々のライフスタイルや社会はどう変わるのか――。第1シリーズではロボット技術の最先端を2回に分けて報告する。

 (2面に続く)
 (1面から続く)
 (ザ・テクノロジー)東大辞めロボット起業、福島原発事故が原点

 「シャフト」は、東京大の助教だった浦田順一と中西雄飛が中心となり、わずか2年前に設立されたベンチャーである。2人は、日本のロボット研究の本流である東大教授、稲葉雅幸の門下生だった。

 経済産業省は1998年度以降、ヒト型ロボットを開発しようと、45億円強を投じた。「アシモ」の原型となるロボットP3をベースにHRPシリーズを開発。そのひとつHRP―2を使って研究してきたのが、東大の稲葉研究室だった。

 「浦田君は技術的にピカイチ、中西君は人間的にピカイチ」。2人を育てた稲葉は評する。

 原発事故当時、ロボットは期待ほどの働きができなかった。「福島の現場で何もできないのが非常に残念」。浦田がそう悲しむのを友人は聞いた。がれきが積み重なる事故現場で、ヒト型ロボットは転倒しやすく使えなかった。

 浦田と中西は、その壁の突破を試みた。

 いま31歳になる浦田が開発したのは、高速で動く強力なモーターと、どこに足をつけばよいのかを瞬時に計算するソフトだった。その足は「ウラタレッグ」と呼ばれる。2人と親交のある産業技術総合研究所の加賀美聡は「シャフトの意義は不整地で歩けるロボットを開発したこと」とみる。

 ダーパのコンテストのねらいは、軍事費に由来する資金で米国内外の有望技術を集めることにある。東大に籍をおいたままでは軍事費を背景にしたコンテストに出にくい。2人は助教のポストを捨て起業を決意。稲葉は「辞めれば、僕らの本気度を投資家にわかってもらえる」と彼らが話すのを覚えている。

 だが、開発資金集めは難航した。資金回収の見通しがつかないロボット開発に、国内のベンチャーキャピタルは二の足を踏む。社外取締役の鎌田富久は旧知のグーグルのアンディ・ルービンに話をつないだ。ルービンは、スマートフォンの基本ソフト(OS)「アンドロイド」の開発責任者を務めた人物で、いま担当しているのがロボット開発だった。渡りに船とばかりに、ルービンは13年11月、シャフトを買収した。

 グーグルは、日本のさまざまな技術を取り込もうとしているように見える。コンテストから1カ月後の今年1月9日。早稲田大教授の高西淳夫の研究室に、中西と、やはりグーグルに買収されたばかりのロボットベンチャー、ボストン・ダイナミクス創業者のマーク・レイバートらが訪れた。早大は73年に世界初の本格的なヒト型ロボットを開発し、東大と並ぶロボット研究の中心だ。

 共同研究を持ちかけられた高西が「グーグルはいったい何をするつもりなのか」と尋ねると、レイバートはこう返した。「それは言えないよ」

 人材集めにも余念がない。稲葉は「私の研究室から10人がグーグルに行った」と打ち明ける。ソニーでもアイボの開発にかかわったエース級の中堅がグーグルに転じている。

 ■グーグル照準、執事ロボか

 そのねらいは、ベールに包まれたままだが、おぼろげながらうかがえるのは、次世代のロボット技術をすべて取り込むことだ。

 会長のエリック・シュミットは近著「第五の権力」で「近いうちに米国の一般家庭でも数台の多目的ロボットを持てるようになるだろう」とみる。

 それはどんなロボットか。日本法人元社長の村上憲郎は「コンピューターが執事になる」と予測する。家庭にいるロボットが、主人の質問をネットで瞬時に検索して答えたり、掃除や調理をこなしたりする未来が訪れるかもしれない。

 グーグルはその先に、ロボットの頭脳を握ろうとしているようにみえる。同社は「クラウド(雲)ロボティクス」と呼ばれる技術を11年に提唱。サイバー空間上の巨大な「頭脳」に、ネットを通じて家庭や工場にあるロボットがつながるイメージだ。

 それはグーグルがロボットすべての頭脳を支配することも意味する。「ものづくり」の延長線上でロボットを考えてきた日本とは、まったく違う発想だ。

 ロボットが期待されるのは時代の要請でもある。米アイロボット社創業者、ロドニー・ブルックスは「多くの先進国では高齢者が増え、若年者が減っている。それに、日本では、老朽化するインフラを点検・修理する労働力をどう確保するのか。ロボットこそが、問題解決のカギを握る」と語る。

 シャフト買収に大きな衝撃を受けたのは、日本のロボット開発を後押ししてきた経産省だ。経産省は、ロボット技術で米政府と協力を深めようとしていた矢先に、国内の有望企業が米国に流出したからだ。

 経産省は、昨年7月、米国防総省と災害対応ロボットの日米共同研究で合意。来年開催されるダーパの最終コンテストに日本が参加することが目玉だった。経産省は「武器輸出三原則には抵触しない」と説明するが、同省から打診されたトヨタ自動車やホンダは軍事色を嫌い、参加を固辞。策が尽きた同省は日本からの挑戦者を広く公募し、選ばれた者には開発資金などを補助すると公表した。

 「果たしてこれでいいのか。共同研究で合意したとはいえ、米国は追い上げてくる競争相手でもある」。同省幹部からは、そんな懐疑的な声も漏れる。

 突如始まったロボットをめぐるテクノロジー覇権競争。米国は、先行する日本に照準をあわせる。

 ソ連のスプートニク打ち上げに衝撃を受けた米国はNASAを設け、月着陸を実現したアポロ計画を始めた。日本の半導体攻勢に悩まされると、国防総省が中心になって産官学の共同研究機関を設け、技術革新に挑んだ。そしてダーパやグーグルの動き――。

 研究者たちは、日本のロボットテクノロジー自体は、今でも世界を牽引(けんいん)しているとの見方で一致する。名古屋大教授の新井史人は「日本はものづくりの国。モーターやセンサーなどの技術力は高い」と言う。

 ただ、課題は、ハードを動かすソフトにある。産総研でロボットを研究してきた横井一仁は「産業用ではまだリードしているが、ヒト型はかなり混沌(こんとん)としてきた。ソフトの世界では米国がかなり進んでいる」と打ち明ける。

 頭脳は米国がつくり、ハードの機器は中国が量産する。エレクトロニクス産業ではそれが現実に起きた。「手をこまねいていると、ロボットの世界でも起きかねない」。シャフト創業者と同窓のロボット研究者はそう語った。=敬称略(大鹿靖明、高山裕喜、嘉幡久敬)



そのその⑥ (5/1)
  (ザ・テクノロジー:下)ロボットビジネス、主役交代 挑む孫氏、ソニーは撤退

 米グーグルがロボット技術の覇権を握ろうとするなか、日本企業にもロボットに次の時代を託そうとする動きがある。

 話しかけると、こちらを向いて「コンニチハ」とあいさつした。全長57センチのかわいらしいヒト型ロボット「ナオ」は、フランス生まれ。胸にある漢字の「六」のような印は、エッフェル塔をデザインしたという。

 開発したのはフランスのロボットベンチャー、アルデバラン・ロボティクス。大株主は実は、日本のソフトバンクだ。

 アルデバランは、大学や研究機関むけにナオを累計5千体販売した。パソコンで指示を打ち込めば、その通りに動く。19カ国語を話し、25の関節を使ってダンスもすればヨガもする。歌も歌うし、ちょっとしたクイズも出せる。今年中に価格を100万円以下にし、近い将来、一般むけの販売を目指している。創業者で最高経営責任者のブルーノ・メゾニエは「親切な友達のようなロボットを創造するのが目標」と語る。

     *

 ソフトバンク社長の孫正義が「次はロボット」と思い定めたのは2010年。次の30年の構想を明かす発表会でこう語った。

 「脳型コンピューターがモーターという筋肉と合体するとロボットになります。やがて知的ロボットと共存する社会になる」。そのときロボットビジネスの覇権を握るのは、モーターや部品をつくる自動車や電機メーカーではなく、「脳をつくるところになる」。グーグルの動きを先取りするような時代観だった。

 孫はロボットビジネスを担う新会社を13年に設立。企業買収を積極的に進める同社だけにM&A案件は数多く持ち込まれ、アルデバランへの出資も「そんな一つだった」と孫。

 孫はロボットビジネスについて「いまはまだとてもコメントする状況にない」と多くを語らないが、幹部の一人は「孫さんは『やがてコンピューターが人間を超える』って言うんですよ」。

 社内で検討されている一つがマスコットロボだ。一家に一台。遊び相手になるだけでなく、質問すれば調べて答えてくれる。

     *

 ナオの外形は00年代初頭、ソニーが開発中だったヒト型ロボット「キュリオ」に似ている。世界に先駆けてイヌ型ロボット「アイボ」を発売したソニー。開発を指揮した元上席常務の土井利忠はいずれロボットの時代が来ると予感していた。

 だが、当時会長の出井伸之は商品展開に慎重だった。「アイボの後継機の企画が相次いで持ち込まれたが、代わり映えがしなかった」と出井。二足歩行の「キュリオ」は開発中止に。土井は「なぜやめるんですか」とメールで出井に論争を挑んだものの、ソニーは06年ロボットから撤退した。土井は「ソニーの将来がつぶされた」と無念がる。

 入れ替わるように孫はロボットにのめりこんだが、具体的な検討が進んでいない実態もある。ある幹部は周囲にこう漏らした。「アルデバランを買っても、実はどう使っていいのか分からない。社内では、全国の携帯ショップにナオを置いてみようかと考えている程度なんです」=敬称略(大鹿靖明)

 (2面に続く)
 (1面から続く)
 (ザ・テクノロジー)ヒト型ロボット商品化、展望欠く日本 ニーズつかむ米

 2000年前後、世界のロボットを牽引(けんいん)したのは日本の大企業だった。

 ソニーが1999年、世界初の家庭用ロボットとしてイヌ型の「アイボ」を発売、翌年には二足歩行のヒト型ロボット(後に「キュリオ」に発展)を発表した。子犬のように遊ぶアイボの姿は人々の目を釘付けにした。初代は25万円と高額だったにもかかわらず人気を呼び、累計15万台を売るヒットを記録した。

 ヒト型ロボットを研究してきたホンダは00年、「アシモ」を発表。ロボットが人間と共存する時代が迫っていることを予感させた。

 ロボット熱は他のメーカーにも及んだ。そんな勢いは05年の愛・地球博(愛知万博)で実を結ぶ。大手からベンチャー、大学の研究室に至るまで、出展ロボットは100種類に達した。

 ところが、日本のロボット産業はこのときが頂点だった。ソニーは06年3月、ロボットから撤退。ホンダの「アシモ」もPR用が主で、実用化にはほど遠い。「ロボットが人間の生活に入ったときに安全性は十分確保できるのか、そのハードルを越えられない」(広報担当者)ことが背景にある。「電機メーカーの経営悪化という経済的側面と、少しでもリスクがあるとちゅうちょする日本の企業文化に問題がある」。産業技術総合研究所(産総研)の加賀美聡はそう見る。

 ただ、実用化できないのは、安全面ばかりが理由だったとは言い難い。

 茨城県つくば市にある生活支援ロボット安全検証センターは、人体にぶつかったときなどの安全性を確かめる機関だ。センターを所管する産総研の大場光太郎は「メーカーが持ち込むロボットはそもそもどんな商品にするのか明確でなく、リスク評価のしようがないものが多い」と手厳しい。

 トヨタ自動車パートナーロボット部長の玉置章文もそれを認める。「日本のメーカーは技術志向が強すぎて、商品に落とし込むツメが甘い」。愛知万博でトランペットを吹くヒト型ロボットが注目を集めたトヨタはいま、より実用性の高い商品を開発している。

 その一つが、1人乗りの移動機器「ウィングレット」。もとはソニーが研究開発していたが、本業のエレクトロニクス事業立て直しのために撤退。トヨタは07年、研究成果と開発スタッフを引き取った。最新のセンサーで人の微妙な体重移動を読み取るロボット技術が組み込まれている。つくば市で始めた公道での走行実験を、秋から愛知県豊田市でも始める。

     *

 日本の大企業が足踏みするなか、海外メーカーの単純なロボットが表舞台に出てきた。

 米アイロボット社は、地雷探査ロボットの技術を生かした掃除ロボット「ルンバ」を02年に発売。円盤のようなロボットが、床を行ったり来たりして掃除する。便利さが受け、世界で大ヒット。同社の家庭用ロボの累計販売台数は世界で1千万台以上に及び、生活を着実に変え始めている。

 米国ではいま、低価格の単機能ロボを商品化する動きが相次いでいる。

 リボルブ・ロボティクス社が売り出した「kubi(クビ)」(約5万円)。専用機器の上にタブレット端末を装着すると、テレビ電話でつながっている相手が離れた場所から、首を動かすようにタブレット画面の向きを変えられる。アンキ社の「アンキ・ドライブ」(約2万円)はiPhoneを使って操作するミニカー。センサーや人工知能で、位置を1秒間に500回検出し、高い精度で走る。  「首」や「暗記」という日本語由来の名前が示す通り、00年代に日本のロボット技術から受けた刺激をもとに、実用化で先行する。

 米国勢は単機能ロボットばかり追い求めているわけではない。

 米国・ボストンの中心部から車で約40分。アイロボット社の最高経営責任者(CEO)、コリン・アングルを訪ねた。入り口で迎え入れたスタッフは開口一番、「CEOはかぜ気味で、本日は出社していない」。そして、こう続けた。「でも、CEOはここにいる」

 彼が指し示したのは、21・5型の液晶画面が「顔」のように取りつけられ、画面越しに相手とやりとりできるロボット「Ava500」。高さ約166センチで、3次元の撮像装置やレーザーなどで位置を測り、秒速1メートルで自ら移動できる。

 画面越しに登場したアングルは「私についてきてください」。ロボットは動き出し、アングルが歴代のルンバを紹介。離れた場所にいるのに、一緒に歩きながら話しているような感覚に襲われた。

 この画面付きで動き回るロボットは「テレプレゼンス(テレビ会議)ロボット」と呼ばれる。昨年から米企業各社が相次いで発売。値段を約15万円に抑えた低価格機種もある。掃除ロボの技術をベースに、より高度なロボットを市場に送り出しているのだ。

 アングルは言う。「日本のメーカーは、消費者が欲しいロボットを製造してこなかった。ヒト型ロボットにこだわった結果、ロボット産業におけるリーダーの座を失ったのかもしれない」

 アップル創業者の故スティーブ・ジョブズは「まず消費者が求めているものを考えてから、技術開発に向かうべきだ。技術開発してから、さてどうやって売ろうかと考えるのはだめだ」と語った。夢の技術を追い求め、商業化の前で足踏みした日本の大企業。単純なロボットで市場を切り開いた米国のベンチャー企業。手法の違いが生んだ差を、ジョブズは言い当てているように見える。=敬称略(大鹿靖明、高山裕喜、ボストン=畑中徹)

 ■雇用者減・軍事利用に懸念も

 テクノロジーの進化は新たな課題を生み出す。

 2本の腕がある米リシンク・ロボティクス社の「バクスター」。缶詰を開けたり箱詰めしたりする作業を人間のようにこなす。1体250万円程度で、米国では数百台を販売。創業者のロドニー・ブルックスは「バクスターに単純作業をさせ、人間は高度な作業に力を注げる」と説明する。

 日本でも同様のロボットが稼働中だ。埼玉県加須市のグローリーの工場では、17台の「NEXTAGE」がパート従業員と並び、「釣り銭計算機」を器用に組み立てている。

 こうしたロボットは生産性向上につながる一方、人間の雇用に悪影響を及ぼす懸念がある。

 国立情報学研究所教授の新井紀子は「バクスターのような安価なロボットが普及すれば、中小の製造業や物流、医療機関などで雇用が減るだろう」と指摘する。英オックスフォード大は昨年9月、「ロボット化などの技術革新で、20~30年後には米国で働く人の半数の仕事が、機械にとって代わられるリスクがある」という衝撃的な内容の報告書を出した。

 雇用だけではない。

 高齢者の歩行訓練などを支援するロボットスーツを手がけるサイバーダインは3月、ロボットベンチャーとして初上場を果たした。

 創業者で筑波大大学院教授でもある山海嘉之は、海外の軍事関係者から毎年のように資金提供の申し出を受けてきた。

 ロボットスーツは、兵士の運動能力を飛躍的に高める。「重装備のときは、防護服を着て重火器を持ち、酸素ボンベを背負うこともある。だからロボットスーツが欲しいのでしょうね」

 こうした提案を、山海は断り続けてきた。小学5年生の作文に「科学は悪用すれば怖いもの」と書いた山海にとって、技術の軍事利用はもってのほかだ。軍事アレルギーは、ホンダやトヨタなど日本の大企業にも共通する。

 対照的に米国はロボットの軍事利用に意欲的だ。

 昨年12月、米フロリダ州のカーレース場。4本足の「ワイルドキャット」がエンジンの爆音を響かせ、動物のようにコースを駆け回った。最高速度約25キロで悪路でも走る。米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA〈ダーパ〉)の資金援助を受けて、ボストン・ダイナミクス社が開発した。

 ロボット技術はすでに無人機で実用化されている。米サイファイワークスは、上空に長期間とどまる新たな無人機を米軍と共同開発中だ。CEOのヘレン・グレイナーは事もなげに言う。「ロボット開発の初期段階で、軍と協力することに問題は感じない。成功すれば、兵士の命を守ることにもつながるのだから」

 人間が全く操作せずに敵を攻撃するロボットが十数年以内に登場すると指摘する専門家もいる。米ニュースクール大准教授のピーター・アサロは「機械で人間の命を奪うことは人間をおとしめる」と指摘。完全自律のロボット兵器開発を禁止する国際的枠組み作りの必要性を訴える。



その⑦ (5/1)
  (ザ・テクノロジー:4)孫社長「次はロボット」

 米グーグルがロボット技術の覇権を握ろうとするなか、日本企業にもロボットに次の時代を託そうとする動きがある。

(ザ・テクノロジー:5)人型ロボ商品化、展望欠く日本

 話しかけると、こちらを向いて「コンニチハ」とあいさつした。全長57センチのかわいらしいヒト型ロボット「ナオ」は、フランス生まれ。胸にある漢字の「六」のような印は、エッフェル塔をデザインしたという。

 開発したのはフランスのロボットベンチャー、アルデバラン・ロボティクス。大株主は実は、日本のソフトバンクだ。

 アルデバランは、大学や研究機関むけにナオを累計5千体販売した。パソコンで指示を打ち込めば、その通りに動く。19カ国語を話し、25の関節を使ってダンスもすればヨガもする。歌も歌うし、ちょっとしたクイズも出せる。

 今年中に価格を100万円以下にし、近い将来、一般むけの販売を目指している。創業者で最高経営責任者のブルーノ・メゾニエは「親切な友達のようなロボットを創造するのが目標」と語る。

 ソフトバンク社長の孫正義が「次はロボット」と思い定めたのは2010年。次の30年の構想を明かす発表会でこう語った。

 「脳型コンピューターがモーターという筋肉と合体するとロボットになります。やがて知的ロボットと共存する社会になる」。そのときロボットビジネスの覇権を握るのは、モーターや部品をつくる自動車や電機メーカーではなく、「脳をつくるところになる」。グーグルの動きを先取りするような時代観だった。

 孫はロボットビジネスを担う新会社を13年に設立。企業買収を積極的に進める同社だけにM&A案件は数多く持ち込まれ、アルデバランへの出資も「そんな一つだった」と孫。

 孫はロボットビジネスについて「いまはまだとてもコメントする状況にない」と多くを語らないが、幹部の一人は「孫さんは『やがてコンピューターが人間を超える』って言うんですよ」。

 社内で検討されている一つがマスコットロボだ。一家に一台。遊び相手になるだけでなく、質問すれば調べて答えてくれる。

 ナオの外形は00年代初頭、ソニーが開発中だったヒト型ロボット「キュリオ」に似ている。世界に先駆けてイヌ型ロボット「アイボ」を発売したソニー。開発を指揮した元上席常務の土井利忠はいずれロボットの時代が来ると予感していた。

 だが、当時会長の出井伸之は商品展開に慎重だった。「アイボの後継機の企画が相次いで持ち込まれたが、代わり映えがしなかった」と出井。二足歩行の「キュリオ」は開発中止に。土井は「なぜやめるんですか」とメールで出井に論争を挑んだものの、ソニーは06年ロボットから撤退した。土井は「ソニーの将来がつぶされた」と無念がる。

 入れ替わるように孫はロボットにのめりこんだが、具体的な検討が進んでいない実態もある。ある幹部は周囲にこう漏らした。「アルデバランを買っても、実はどう使っていいのか分からない。社内では、全国の携帯ショップにナオを置いてみようかと考えている程度なんです」=敬称略(大鹿靖明)



その⑧ (5/1)
  (ザ・テクノロジー:5)人型ロボ商品化、展望欠く日本

 2000年前後、世界のロボットを牽引(けんいん)したのは日本の大企業だった。

(ザ・テクノロジー:6)雇用減・軍事利用、懸念も

 ソニーが1999年、世界初の家庭用ロボットとしてイヌ型の「アイボ」を発売、翌年には二足歩行のヒト型ロボット(後に「キュリオ」に発展)を発表した。子犬のように遊ぶアイボの姿は人々の目を釘付けにした。初代は25万円と高額だったにもかかわらず人気を呼び、累計15万台を売るヒットを記録した。

 ヒト型ロボットを研究してきたホンダは00年、「アシモ」を発表。ロボットが人間と共存する時代が迫っていることを予感させた。

 ロボット熱は他のメーカーにも及んだ。そんな勢いは05年の愛・地球博(愛知万博)で実を結ぶ。大手からベンチャー、大学の研究室に至るまで、出展ロボットは100種類に達した。

 担当者だった経済産業省審議官の安永裕幸は「万博むけ予算を特別に増やした成果だった」と振り返る。

 ところが、日本のロボット産業はこのときが頂点だった。ソニーは06年3月、ロボットから撤退。ホンダの「アシモ」もPR用が主で、実用化にはほど遠い。「ロボットが人間の生活に入ったときに安全性は十分確保できるのか、そのハードルを越えられない」(広報担当者)ことが背景にある。「電機メーカーの経営悪化という経済的側面と、少しでもリスクがあるとちゅうちょする日本の企業文化に問題がある」。産業技術総合研究所(産総研)の加賀美聡はそう見る。

 ただ、実用化できないのは、安全面ばかりが理由だったとは言い難い。

 茨城県つくば市にある生活支援ロボット安全検証センターは、人体にぶつかったときなどの安全性を確かめる機関だ。同センターを所管する産総研の大場光太郎は「メーカーが持ち込むロボットはそもそもどんな商品にするのか明確でなく、リスク評価のしようがないものが多い」と手厳しい。

 トヨタ自動車パートナーロボット部長の玉置章文もそれを認める。「日本のメーカーは技術志向が強すぎて、商品に落とし込むツメが甘い」。愛知万博でトランペットを吹くヒト型ロボットが注目を集めたトヨタはいま、より実用性の高い商品を開発している。

 その一つが、1人乗りの移動機器「ウィングレット」。もとはソニーが研究開発していたが、本業のエレクトロニクス事業立て直しのために撤退。トヨタは07年、研究成果と開発スタッフを引き取った。最新のセンサーで人の微妙な体重移動を読み取るロボット技術が組み込まれている。つくば市で始めた公道での走行実験を、秋から愛知県豊田市でも始める。

 日本の大企業が足踏みするなか、海外メーカーの単純なロボットが表舞台に出てきた。

 米アイロボット社は、地雷探査ロボットの技術を生かした掃除ロボット「ルンバ」を02年に発売。円盤のようなロボットが、床を行ったり来たりして掃除する。便利さが受け、世界で大ヒット。同社の家庭用ロボの累計販売台数は世界で1千万台以上に及び、生活を着実に変え始めている。

 米国ではいま、低価格の単機能ロボを商品化する動きが相次いでいる。

 リボルブ・ロボティクス社が売り出した「kubi(クビ)」(約5万円)。専用機器の上にタブレット端末を装着すると、テレビ電話でつながっている相手が離れた場所から、首を動かすようにタブレット画面の向きを変えられる。アンキ社の「アンキ・ドライブ」(約2万円)はiPhoneを使って操作するミニカー。センサーや人工知能で、位置を1秒間に500回検出し、高い精度で走る。

 「首」や「暗記」という日本語由来の名前が示す通り、00年代に日本のロボット技術から受けた刺激をもとに、実用化で先行する。

 米国勢は単機能ロボットばかり追い求めているわけではない。

 米国・ボストンの中心部から車で約40分。「ルンバ」を送り出したアイロボット社の最高経営責任者(CEO)、コリン・アングルを訪ねた。

 入り口で迎え入れたスタッフは開口一番、「CEOはかぜ気味で、本日は出社していない」。そして、こう続けた。「でも、CEOはここにいる」

 彼が指し示したのは、21・5型の液晶画面が「顔」のように取りつけられ、画面越しに相手とやりとりできるロボット「Ava500」。高さ約166センチで、3次元の撮像装置やレーザーなどで位置を測り、秒速1メートルで自ら移動できる。

 画面越しに、せきこみながら登場したアングルは「私についてきてください」。ロボットは音もなく動き出し、アングルが歴代のルンバを紹介。離れた場所にいるのに、一緒に歩きながら話しているような不思議な感覚に襲われた。

 この画面付きで動き回るロボットは「テレプレゼンス(テレビ会議)ロボット」と呼ばれる。昨年から米企業各社が相次いで発売。値段を約15万円に抑えた低価格機種もある。掃除ロボの技術をベースに、より高度なロボットを市場に送り出しているのだ。

 アングルは言う。「日本のメーカーは、消費者が欲しいロボットを製造してこなかった。ヒト型ロボットにこだわった結果、ロボット産業におけるリーダーの座を失ったのかもしれない」

 アップル創業者の故スティーブ・ジョブズは「まず消費者が求めているものを考えてから、技術開発に向かうべきだ。技術開発してから、さてどうやって売ろうかと考えるのはだめだ」と語った。夢の技術を追い求め、商業化の前で足踏みした日本の大企業。単純なロボットで市場を切り開いた米国のベンチャー企業。手法の違いが生んだ差を、ジョブズは言い当てているように見える。=敬称略(大鹿靖明、高山裕喜、ボストン=畑中徹)



その⑨ (5/1)
  (ザ・テクノロジー:6)雇用減・軍事利用、懸念も

 テクノロジーの進化は新たな課題を生み出す。

(ザ・テクノロジー:7)「ロボットが労働力不足補う」

 2本の腕がある米リシンク・ロボティクス社の「バクスター」。缶詰を開けたり箱詰めしたりする作業を人間のようにこなす。1体250万円程度で、米国では数百台を販売。創業者のロドニー・ブルックスは「バクスターに単純作業をさせ、人間は高度な作業に力を注げる」と説明する。

 日本でも同様のロボットが稼働中だ。埼玉県加須市のグローリーの工場では、17台の「NEXTAGE」がパート従業員と並び、「釣り銭計算機」を器用に組み立てている。

 こうしたロボットは生産性向上につながる一方、人間の雇用に悪影響を及ぼす懸念がある。

 国立情報学研究所教授の新井紀子は「バクスターのような安価なロボットが普及すれば、中小の製造業や物流、医療機関などで雇用が減るだろう」と指摘する。英オックスフォード大は昨年9月、「ロボット化などの技術革新で、20~30年後には米国で働く人の半数の仕事が、機械にとって代わられるリスクがある」という衝撃的な内容の報告書を出した。ロボット化の進展で、調理師や運転手、パイロットなどの雇用が減るというのだ。

 雇用だけではない。

 高齢者の歩行訓練などを支援するロボットスーツを手がけるサイバーダインは3月、ロボットベンチャーとして初上場を果たした。

 創業者で筑波大大学院教授でもある山海嘉之は、海外の軍事関係者から毎年のように資金提供の申し出を受けてきた。

 ロボットスーツは、兵士の運動能力を飛躍的に高める。「重装備のときは、防護服を着て重火器を持ち、酸素ボンベを背負うこともある。だからロボットスーツが欲しいのでしょうね」

 こうした提案を、山海は断り続けてきた。小学5年生の作文に「科学は悪用すれば怖いもの」と書いた山海にとって、技術の軍事利用はもってのほかだ。軍事アレルギーは、ホンダやトヨタなど日本の大企業にも共通する。  対照的に米国はロボットの軍事利用に意欲的だ。

 昨年12月、米フロリダ州のカーレース場。4本足の「ワイルドキャット」がエンジンの爆音を響かせながら、動物のようにコースを駆け回った。最高速度約25キロで悪路でも走る。米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA(ダーパ))の資金援助を受けて、ボストン・ダイナミクス社が開発した。

 ロボット技術はすでに無人機で実用化されている。米サイファイワークスは、上空に長期間とどまる新たな無人機を米軍と共同開発中だ。CEOのヘレン・グレイナーは事もなげに言う。「ロボット開発の初期段階で、軍と協力することに問題は感じない。成功すれば、兵士の命を守ることにもつながるのだから」

 人間が全く操作せずに敵を攻撃するロボットが十数年以内に登場すると指摘する専門家もいる。ロボット工学と社会問題を研究している米ニュースクール大准教授のピーター・アサロは「機械で人間の命を奪うことは人間をおとしめる」と指摘。完全自律のロボット兵器開発を禁止する国際的な枠組み作りの必要性を訴えている。=敬称略(高山裕喜、大鹿靖明)



その⑩ (5/1)
  (ザ・テクノロジー:7)「ロボットが労働力不足補う」

■米リシンク・ロボティクス社創業者のロドニー・ブルックス氏に聞く

(ザ・テクノロジー:8)ロボット商用化の壁越えるには

 ロボット掃除機ルンバを生んだロボット工学の第一人者が、新たな切り札として世に出したのは、本体価格2万5千ドル(約250万円)と手頃な価格が売りのヒト型作業ロボット「バクスター」だった。生みの親のロドニー・ブルックス氏(59)に、バクスター開発の狙いを聞いた。

 ――バクスターは、製造業の現場をどのように変える可能性がありますか。

 バクスターは、工場の労働者がやりたがらないような退屈で、単純なくり返し作業を受け持ち、生産性を上げることを狙いとしています。安全性も高く、シンプルな機能に絞っているため、誰でも簡単に作業手順を指示できる。バクスターに単純作業をさせて、そのぶん、人間の労働者はより高度な作業に力を注ぐことができるのです。

 ――バクスターの機能は箱詰めなど簡単な作業にとどまっていますが、これから技術革新が進むにつれ、人間の雇用を奪ってしまう可能性はないのですか。

 それはないと思います。むしろ、これから起こるのは労働力不足で、その解決に欠かせないのがロボットなのです。

 私がバクスターの開発を思い立った背景は何かといえば、ルンバを生産していた中国での経験です。生活水準が上がるにつれ、工場でたえまなく単純労働を続けることを人びとが嫌がるようになっていた。だんだん、ルンバをつくる人手を集めるのに苦労するようになったのです。さらに「一人っ子政策」の影響もあり、これからは若年労働者の数じたいも減っていきます。

 中国だけではありません。高齢化で世界のトップを走る日本はもちろんのこと、実は米国でも、工場で働く労働者は高齢化している。これまで工場に流れ込んでいた若い不法移民の取り締まりも厳しくなっていて、米国でも、多くの工場で労働者の平均年齢は50代半ばくらいです。これでは製造業の持続的な発展は難しい。それを補うのがロボットなのです。

 ――バクスターの強みは低価格ですね。

 ルンバを開発した経験から学んだことです。類似の掃除機が2千ユーロ(約28万円)で売られていたころ、ルンバを数百ドルで売り出した。これで、ロボット掃除機の市場が一変したのです。バクスターも価格が安いため、小さな企業にも手が届く。それが私のこだわりだったのです。

 ――日本発のロボットは、なかなか市場で売れる商品になっていない、との指摘もあります。

 既存の大企業が、リスクの高いロボット開発を進めるのには大きな困難を伴います。むしろ、新しいベンチャー企業の強みが生きる領域です。万が一失敗しても、始めたばかりの企業がつぶれる、というだけのこと。そうした企業に資金を出すベンチャーキャピタルによる金融が発達しているのが米国の強みです。

 ――ロボットは、これからの社会や暮らしをどう変えていくのでしょうか。

 かつては若者が多く、高齢者が少ない人口構成が一般的でしたが、いまは高齢者が増え、若年者が減っていく人口動態の逆転現象が起こっている。ロボットこそが、この問題の解決のカギを握ると考えています。

 例えば日本では、これから橋などインフラ設備の老朽化が大きな問題になる。壊れそうな橋を点検し、修理する労働力をきちんと確保できるのでしょうか? ロボットが必要になるのはそんな局面です。自宅でロボットの助けを受けられるようになれば、高齢者の自立を支えることにもつながる。

 ――最近、米ネット検索大手グーグルが日本のロボット開発企業「シャフト」を買収したほか、米ネット通販大手アマゾンも、ロボットを使った物流システムを手がける「キバ・システムズ」を買収しています。こうした動きをどうみていますか。

 アマゾンがキバ社を買うのは非常に分かりやすいのですが、グーグルの意図は読み切れません。非常に優れたロボット工学の研究者を擁する企業を買収していますが、いずれもまだ具体的な商品を売り出していない段階でした。グーグルは何をしようとしているのでしょうか、私にはまだ分かりません。

 ――ロボットはこれから、人間の暮らしや、科学技術とのかかわりにどんな影響を与えるでしょうか。

 ロボットの進化が続く近年は、パソコンの原型とされる「アップル1」が出て、パソコンが普及し始めた70~80年代と共通点があるかもしれません。私がインターネットを始めたのは77年です。このネットワークが、私たちの生活をどう変えていくのか、まったく予想ができませんでした。

 ロボットがものすごい変化をもたらすことは確かです。ただそれがどのようなものなのか、私にも分かっていないのです。(聞き手・青山直篤)

     ◇

 ロドニー・ブルックス Rodney Brooks 1954年生まれ。81年、米スタンフォード大博士号取得。ロボット掃除機ルンバを開発したアイロボット社の創始者。2012年に同社を退社し、リシンク・ロボティクスを設立、CTO(最高技術責任者)を務める。



その⑪ (5/1)
  (ザ・テクノロジー:8)ロボット商用化の壁越えるには

■サイバーダイン山海嘉之社長に聞く

 この3月、日本で初めて東証に株式公開したロボット企業があらわれた。筑波大発ベンチャーのサイバーダインだ。同社製のロボットスーツ「HAL」は手足に装着し、衰えた身体機能を改善・補助する。創業社長の山海嘉之氏に、立ちふさがった商用化の壁をどう克服したかを聞いた。

 ――HALが、世界で初めて生活支援ロボットの国際安全規格を取得したそうですね。なぜ国際規格を取得されたのですか。

 「それまでになかった革新的なものが、社会に受け入れられるようになるには、品質を保証するなにがしかの『パスポート』が必要なんです。そこで国際標準化機構(ISO、本部・スイス)の認証を得ようと考えました。とはいえ、こっちが『認証してください』と言って、『はい、わかりました』という性質のものではありません」

 ――どうされましたか。

 「2007年ごろからISOの規格を考える委員会が、各国で開かれるたびに出かけました。パリ、フロリダ、北京、ソウル……。10回以上はそうした会議に出ています。『これだけのモノをつくっています』と説明すると、相手に『なるほど』と思われ、オブザーバーになりました。やがて技術面の専門知識が買われて、委員会の専門委員に就き、規格を作る側に回りました。13年2月に規格の草案が公表され、今年2月に世界初の生活支援ロボットの国際標準化規格ISO13482が成立しました」

 ――なぜ国際機関の認証が必要だったのですか。

 「それがないと、どこにも出せない、売れない。欧州に輸出するには、JIS(日本工業規格)のような『CEマーキング』という認証を受けないと、現地で流通に乗らない。この『CEマーク』を取得するには、ISOの認証があったほうが有利です。サイバーダインはISO13482だけでなく、医療機器としてのISO13485の認証も得ています」

 ――大変でしたか。

 「規格を作るのは『規格屋』という専門家集団で、ロボットの技術に明るいわけではないんです。そもそも『ロボットとはなんぞや』から始まって、一つひとつの言葉の定義や解釈を定めていく。まるで法律をつくるような作業でした」

 ――上場時に種類株を発行し、議決権が山海さんに集中するようにしたのはなぜですか。持ち株比率は49%なのに、議決権比率は89%にもなります。

 「実は、サイバーダインを創業する前の2001年ごろから毎年のように某国の国防関係者から共同研究を持ちかけられてきたのです。都市戦やゲリラ戦では、防護服を着込んだ兵士が重火器を持って、しかも暑いので冷却装置を背負ったりする。そこで身体をサポートするロボットスーツがほしい、となるわけです。それで軍関係の方からはしょっちゅう研究費助成の申し出を受けました」

 ――受けないのですか。

 「ずっと断り続けてきたので最近はありません。でも当社の株を持ったところが『少しぐらい軍事開発に協力してもいじゃないか』とか言われるのが嫌なので、ああした議決権を集中する株式を発行しました。HALはあくまでも平和目的で軍事には使わない。私は、特定の人が特定用途で使う軍事技術から生まれたものよりも、ふつうの人むけに生まれる技術の方が高度だと思っているのです」(聞き手・大鹿靖明)

     ◇

 さんかい・よしゆき。1958年生まれ。工学博士。筑波大学大学院教授。2004年、サイバーダインを設立し、社長。09年から内閣府FIRST最先端サイバニクス研究拠点研究統括も務める。