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折々の記 2014 ⑥
【心に浮かぶよしなしごと】
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06 27 世界新秩序 米中を追う 連載もの
06 28 (続)都議ヤジ問題
06 27 (金) 世界新秩序 米中を追う
世界新秩序 米中を追う 2014/04/09 ⇒2014/06/27
2014年6月27日(世界新秩序 米中を追う)
米の対テロ軟化、懸念する中国
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11211731.html?ref=pcviewpage
迷彩柄のシャツを着た少年十数人が、自動小銃や拳銃を構えた。顔つきは、まだあどけなく、10歳前後とみられる。教官役のかけ声で、銃声が一斉に響く。次の瞬間、標的が大写しにされた。
中国の胡錦濤(フーチンタオ)・前国家主席の顔写真だ。
世界中からイスラム武装勢力が集まるパキスタンの部族地域で、中国から逃れてきたウイグル族の独立派が製作したとみられるPRビデオが出回っている。映像の一部はインターネット上にも掲載。ウイグル族を弾圧しているとして中国政府を批判し、中国内の同胞に抵抗を呼びかける内容で埋め尽くされている。
15日の夜明け前、その部族地域の一角をパキスタン軍が空爆した。イスラム武装勢力の「聖域」と呼ばれる北ワジリスタン地区。その後も同地区への空爆を繰り返し、これまでに武装勢力300人以上を殺害したと発表している。難民化した住民は40万人を超えた。
部族地域での大規模な軍事作戦は、5年前に行われて以来。アフガニスタンと隣接する部族地域は従来、米国にとって対テロ作戦の主戦場だったが、最近は、中国もウイグル族の動向を注視している。今月上旬に訪中したパキスタン軍トップ、ラヒル・シャリフ陸軍参謀長に対し、中国の范長竜・中央軍事委員会副主席は、ウイグル族武装勢力の取り締まりに期待感を示した。
無人機による攻撃を多用し民間人も巻き添えにした対テロ作戦をめぐって米国とパキスタンの関係がぎくしゃくする一方、中国は戦略的に重要なパキスタンを「真の友人」と呼び、深い関係を保ってきた。
だが、部族地域に潜むイスラム武装勢力には米国同様に手を焼く。国際テロ組織アルカイダ指導者だったオサマ・ビンラディン容疑者殺害後、米国が対テロ作戦を軟化させていることも、中国には気がかりだ。
米軍は2016年末、アフガンから撤退する。中国企業はアフガンで、世界屈指の銅の埋蔵量が期待される鉱山の開発権を得たが、反政府勢力の脅威で工事が進まない。イラクでは、中国が原油の輸入を急増させ、13年には米国をしのぐ最大の輸出相手になった。イラクに駐在する中国人は1万人にのぼる。
同時多発テロ後に米国が政権を崩壊させたイラクとアフガン。そして、パキスタン。混迷を深める紛争地域で、米国と中国の国益と思惑が交錯している。 (イスラマバード=武石英史郎、北京=斎藤徳彦)
2014年6月27日(世界新秩序 米中を追う)
標的にされる中国 「全イスラム教徒の敵」
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11211629.html?ref=reca
パキスタンの部族地域に集まる国際的な過激派のサークルの中に、ウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」が目立つようになったのは2007年ごろからだ。どういうルートでたどり着いたのか、中国領内の同胞とどうつながっているのかははっきりしない。
組織は自身を「トルキスタン・イスラム党」と名乗り、指導者のアブドラ・マンスール司令官は今年撮影されたビデオで、08年に中国と北京五輪への「聖戦」開始を宣言し、昨年1年間だけで20件以上の攻撃を行ったと主張。「中国は我々だけの敵ではない。全イスラム教徒の敵だ」と訴えた。
対テロ戦を「米国対イスラム世界」の構図に持ち込もうとしたアルカイダと同じく、ウイグル問題を「中国対イスラム教徒」の問題に拡大しようとする思惑がのぞく。
昨年10月に撮影されたビデオには、かつて軍事政権が中国の支援を受けたミャンマーのイスラム教徒が、ウイグル族や他の外国人と並んで登場した。パキスタン南部カラチの宗教学校に留学後、同国の反政府勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)に参加した人物で、TTPのビデオにも度々登場する唱道者的な存在だ。
この人物は、「ミャンマーでも中国はイスラム教徒弾圧に関わっている」と指摘。パキスタンと中国が友好関係にあることを引き合いに「イスラム教徒が中国を兄弟と呼ぶのは恥ずべきことだ。パキスタンの支配者にとって、米国が父親なら、中国は母親。東トルキスタン(ウイグル)を救え。中国を攻撃せよ」と訴えている。
中国人民公安大学の李健和副学長は22日、北京で開かれた記者会見で、ETIMとアフガニスタン、パキスタンのタリバーンとの関係について、「主に人員の訓練、武器、資金の提供の面でつながりがあり、中国政府は(関係解明の)手がかりをつかんでいる」と説明した。
ウイグル独立派組織の宣伝活動に対し、中国政府も動き出した。
「新疆地区はアフガニスタン、パキスタンと境を接している。多くの国の情報によると、パキスタンとアフガンの国境地域には40カ所以上のテロ組織の訓練キャンプが隠れている」
24日、中国政府の国家インターネット情報弁公室は、ETIMがインターネットを利用してテロを扇動していると主張する動画を公開した。昨年10月に北京の天安門前に車両が突入、炎上した事件で、居合わせた人たちを車両が次々とはねる映像も含まれる。
「ETIMも、この地域の訓練キャンプでテロリストを訓練し、グローバルな『聖戦』に積極的に介入している。ETIMは中国国内でのテロの実行者であり、同時に国際組織によるテロの主要な参加者である」
◆アフガンで増す存在感
「パキスタンは中国の真の友人だ。中国はパキスタンがETIMの取り締まりを支持していることに感謝し、対テロ協力の一層の深化を願っている」
中国軍の范長竜・中央軍事委員会副主席は4日、訪中したパキスタンのラヒル・シャリフ陸軍参謀長と会談し、こう述べた。シャリフ氏も「ETIMは両国の共通の敵。パキスタンは徹底的に取り締まる」と応じた。
中国とパキスタンは、ともに隣接する大国インドとの戦争を経験し、「敵の敵は味方」という共通の利害から、核開発や軍事部門から経済協力まで多岐にわたる分野で関係が深い。
さらに、昨年6月に誕生したシャリフ政権は、中国新疆ウイグル自治区から伸びるカラコルム・ハイウエーを、中国の全面支援で02年から開発が進むアラビア海沿岸のグワダル港につなげる経済回廊計画を提唱する。回廊は分離独立運動がくすぶる同自治区に経済発展をもたらし、米国の影響下にあるマラッカ海峡を経ずにインド洋への道を開く。中国にも重要な計画だ。
一方、アフガニスタンのカルザイ大統領も、後ろ盾だった米国との関係がこじれるにつれて中国に接近。12年間の在任中に6度訪中し、習近平国家主席から「古い友人」と呼ばれるまでになった。今年6月に訪中した際には「もし選び直すチャンスがあるなら、アフガンは効率的な中国式の発展モデルを選ぶだろう」と中国国営中央テレビの取材に答えている。
カルザイ政権下で両国の貿易額は、ほぼ10倍に拡大した。中国はインフラ整備への支援や無償援助と引き換えに、銅や石油などの共同開発権を獲得し、大手の国有企業を進出させてきた。
◆進出先の治安、米軍頼み
ただ、中国の誤算は、パキスタン、アフガンともに、治安がなかなか安定しないことだ。進出先で中国人が襲われる事件が相次ぎ、開発は計画通りに進んでいない。米政権は国際テロ組織アルカイダの本体は弱体化したとみて、アフガン駐留米軍を16年末までに完全撤退させる。パキスタンでも、無人機使用が国際的な批判にさらされ、攻撃の規模を縮小しつつある。
中国は、周辺国に米国が軍事展開することに否定的で、国境を接する中央アジア・キルギスでの駐留にも反対した。だが、アフガンでは米軍に頼るしかなく、カルザイ氏によれば、米軍のアフガン駐留延長にも賛成していた。
中国の懸念の背景には、米軍が11年末に撤退して以降、治安が悪化したイラクでの事態がある。
26日の中国外務省の定例会見では「イラクで1千人以上の中国企業従業員が、危険地域から撤退できずにいる」との報道に関する質問が集中した。華春瑩副報道局長は「安全のため、細かい情報は公表できない」とも述べ、事態の緊迫ぶりをうかがわせた。華氏はこれまで、「イラクには1万人以上の中国企業の従業員がいるが、大部分は安全な地域にいる」としていたが、事態は急転した。
中国は、イラク戦争後に対外開放を再開したイラクの油田開発に積極的に取り組んだ。中国石油天然ガス集団や中国海洋石油といった国有大手が重要プロジェクトの国際入札にことごとく参加し、南部のルメイラ油田などの権益を次々と手に入れた。
イラクから中国への原油輸入は、09年から急増し、13年には約2350万トンに到達。米国を抜きイラク最大の輸出相手となった。米国では「イラクの戦後、石油ブームの最大の受益者は中国」(ニューヨーク・タイムズ紙)と言われるほどだ。
だが、こうした権益は、内戦状態ともされる治安の悪化で大きく揺らぐ。
上海の復旦大学パキスタン研究センターの杜幼康主任は「米軍の撤退で南アジア情勢には大きな不確定要素がもたらされる。中国にも当然、影響があるだろう。いまのイラク情勢が見通せなかったのと同様にアフガン情勢についても、確かなことは言えない」と指摘する。(イスラマバード=武石英史郎、上海=金順姫、北京=斎藤徳彦)
06 28 (土) (続)都議ヤジ問題
2014年6月28日
複数都議がヤジ 議場の音声分析「自分が産んでから」も
http://digital.asahi.com/articles/ASG6W5KBQG6WUTIL020.html?iref=comtop_6_01
【音声】塩村都議の質問とヤジ=録音の音源から
東京都議会で晩婚化対策を質問した塩村文夏(あやか)都議(35)が女性蔑視のヤジを浴びた問題で、複数の議員が立て続けにヤジを飛ばしていたことが分かった。都議会は発言者の特定を1人にとどめて幕引きを図ろうとしているが、事実解明は避けられなくなった。
塩村都議の質問とヤジ、音声分析の結果は → 後掲
特集:都議ヤジ問題 → 後掲
都議会、再調査求める声 → 後掲
都議会の記者席で朝日新聞記者が取った録音と、都議会が庁内放送で流した都議会中継の音を朝日新聞とテレビ朝日が分析した。
鈴木章浩都議(51)が「早く結婚した方がいいんじゃないか」とヤジを飛ばした直後、たたみかけるように男性の声で「自分が産んでから」「がんばれよ」とのヤジが続いた。塩村都議が女性の不妊に関して質問した際には「やる気があればできる」との暴言も聞かれた。
音声分析に協力した日本音響研究所の鈴木創所長は「口調や声の調子からヤジを飛ばした人は複数いる。たくさんの人が同時に話している」と分析した。
都議会最大会派の自民の吉原修幹事長は、所属議員全員の聞き取りをし、鈴木都議のヤジ以外は「聞いていない」と説明していた。
◆立て続けにヤジ
朝日新聞とテレビ朝日は、18日の都議会の記者席で朝日新聞記者が取った録音と、都議会が庁内放送で流した都議会中継の音を分析。二つの音源を重ねたうえで塩村都議の声の音を小さく、男性の声の音を大きくする「シグナルエンハンスメント」の手法などで音声を補正し、精度の高いスピーカーで分かった部分について調べた。
その結果、塩村都議に鈴木章浩都議(51)が「早く結婚した方がいいんじゃないか」とヤジを飛ばした直後、男性の声で「自分が産んでから」とのヤジが聞こえ、「がんばれよ」の声もたたみかけるように続いた。
塩村都議が、悩みを抱える女性への対策に関する質問をした際には「先生の努力次第」と男性の声があがり、女性の不妊に関する質問のときには「やる気があればできる」とのヤジも聞かれた。
補正前と補正後の音声を聞き、独自の分析もした日本音響研究所の鈴木創所長は、「自分が産んでから」の発言について「ノイズの影響でクリアではないが、そう発言した可能性は十分ある」との見方を示した。音声を確認するなかで、「セクハラじゃないか」と注意する声があがっていたことも指摘した。
都議会のヤジは、鈴木都議が自ら発言を名乗り出たが、発言者の特定は鈴木都議のみ。都議会は他の発言者の調査を進めず、25日に閉会した。
動画ページ
自民・鈴木章浩都議、塩村氏にヤジを謝罪 辞職はせず(6/23)
都議会ヤジ、うやむや 逃げる自民「他のヤジ知らぬ」(6/26)
海外記者にどう映る 塩村都議、ヤジ問題で会見(6/24)
ヤジ認めた都議事務所、大量の生卵投げつけられる(6/24)
ヤジ再三否定の果て 都議「真実話す機会逸した」釈明(6/24)
後掲 掲載の言葉を検索して開いて見ること
塩村都議の質問とヤジ、音声分析の結果は → 後掲
音声分析で聞かれたヤジ声(録音された音源から)
特集:都議ヤジ問題 → 後掲
ヤジ再三否定の果て 都議「真実話す機会逸した」釈明
【動画あり】自民・鈴木章浩都議、塩村氏にヤジを謝罪
自民・鈴木章浩都議、ヤジ認める 「早く結婚すれば」
女性都議に「産めないのか」 自民?議員席からヤジ
ヤジ認めた都議事務所、大量の生卵投げつけられる
女性都議へヤジ、抗議1千件 自民、発言者特定せぬ意向
舛添知事「釣られて笑った」 女性都議へのヤジを批判
「ヤジ、本当に不意打ちだった」 塩村都議に聞く
ヤジ謝罪の自民・鈴木章浩都議 会見での主なやりとり
複数の自民都議「ヤジここまで問題になるとは」
自民・石破幹事長「都議会ヤジ、名乗り出て謝罪を」
都議ヤジ、海外も報道「五輪開催東京に批判押し寄せた」
都議会の定例会録画映像(ヤジは18日の塩村都議の一般質問、6:35:30ごろ)
都議会の議員や座席図はこちら(都議会の広報紙「都議会だより(2013年版)」のPDFを開きます)
都議会、再調査求める声 → 後掲
ウェブロンザ 「セクハラ」ヤジの根深さ
「早く結婚した方がいいんじゃないか」「子どもを産めないのか」とのセクハラヤジ問題で、「結婚ヤジ」の鈴木章浩都議(51=自民党)が塩村文夏(あやか)都議(35)に謝罪し、自民会派を離脱した。しかし、「妊娠ヤジ」の発言者が名乗り出ず、議場でヤジを笑っていた議員が多数いたことに表れているように、この問題は鈴木都議の謝罪ではおさまらない。海外メディアからの批判を見るまでもなく、「セクハラ」に対する日本人男性の感覚はいまだにズレている。
ウェブロンザ 北原みのり
結婚・妊娠ヤジ「謝罪」に思う――「セクハラ」の本質はまだ理解されていない
http://astand.asahi.com/magazine/wrculture/special/2014062400003.html?iref=webronza
「早く結婚したらいいんじゃないか!?」とヤジを飛ばした都議会議員の鈴木章浩の謝罪記者会見を見た。記者会見の中で彼が、「結婚したくてもできない人に申し訳ないと思う」と謝罪していて、驚いた。ああ、この人、何が悪いのか本当には理解していないのね。
だいたい記者会見中に「辞職はしないのか?」の質問に、何度も「初心に戻って」とか「原点に返る」と繰り返しているのだけど、心から聞きたい。
セクハラ議員の原点って、いったい、どこですか? セクハラ議員の戻るべき「原点」って、党の会派を抜けるとか、そういうことじゃないんじゃないの? どうか一般市民に戻って、目の前の妻との関係からやりなおしていただきたいものです。
それにしても、今回の一連の「騒動」からは、日本社会がいかにセクハラについて無知で甘く、そして女にとってはいかにそれが「見慣れた光景」であることかを、再認識させられた。
「セクシャルハラスメント」という言葉が新語・流行語大賞の新語部門金賞を受賞したのが1989年だが、四半世紀経っているというのに、いったい何がどれほど変わったのだろう。
まず、今回「セクハラ」が、世間ではかなり軽く扱われていることに驚いた。
例えば毎日新聞が行った塩村文夏議員へのインタビュー(6月20日)には、「ツイッターなどではこれは『セクハラ』という言葉でとどめてはいけない、いう指摘もあります」と記者が塩村さんに質問している。
「セクハラという言葉でとどめてはいけない」とは、いったいどういう意味だろう? 都議会で公然と行われた”セクハラ事件”(ですよね?)を取材している新聞記者ですら、「セクハラ」が分かっていないのだろうか。
この記事に限らず、「セクハラというより人権侵害だ」「セクハラというよりイジメだ」という発言(みんな、真剣に怒りを表明している)が、ネット上では多く見られた。
もしかしたら、セクハラが人権侵害で、セクハラが嫌がらせでありイジメである、という前提が、社会で共有されていないのかもしれない。
「セクハラ」とは、職場の上司が「子供産めよ~」みたいなことを言って、女性社員が「ん、もうっ! それってセクハラですぅ~」と笑って答え、「あはは、セクハラって言われちゃったなぁ~」とオヤジがガハハと笑ってじゃれ合う様子を表す言葉、とでも思っているのだろうか。または男どうしが、「これもセクハラか~?」と大げさに怖がり、はしゃぎあうような時に使われる遊びの言葉だとでも?
また鈴木議員の謝罪の中にあった、「結婚したくてもできない人に申し訳ないと思う」という発言も、セクハラへの無理解そのものである。塩村議員自身がツイッターで「悩んでいる女性に言ってはいけない」という文言で抗議したように、ヤジ批判の中には、「産みたくても産めない人や結婚したくてもできない人への配慮が欠けている」、という声は非常に大きかった。
もちろん、結婚差別を受けている人、不妊で苦しんでいる人に対する配慮の欠けた発言であることは言うまでもないが、セクハラ発言は特定の状況にある人々に対する配慮の問題ではない。「結婚すればいい」「産めばいい」ということを、公の場で嘲笑するために発言すること自体が女性への差別発言なのだ。
どうしても「配慮の問題」としたいのならば、正確に表現するべきだろう。
「結婚したいわけでもないのに、産みたいわけでもないのに、全く関係のない男から『産めよ』『結婚しろよ』と冗談のように言われ、日々セクハラ環境に悩まされている女性たち」に対して、謝罪しよう。
少子化対策について真剣に語る女性議員を前に、「お前が産め」「お前が結婚しろ」と捉えかねないヤジをぶつけ、それに対し、男たちがガハハと楽しそうに笑うその光景そのものに、セクハラが深く根付いている社会に対する絶望や怒りを感じた女性たちに対しても、同様に謝罪するべきだろう。
また鈴木議員は、「自分の発言と他の発言が一緒になって報道されていること」への違和感を何度か述べていた。他の発言とは「自分が産んだらいいんじゃないか?」という発言だ。
「結婚ヤジ」と「妊娠ヤジ」が同列に表現されたことへの違和を語り、「(妊娠ヤジは)あり得ない」と批判し、「自分の発言には責任をもって謝りたい」と堂々と仰っていたが……、「お前が産め」と「お前が結婚しろ」、または「産めないのか?」「結婚できないのか?」も、そんなに変わりませんよ?
「妊娠の問題」の方が「結婚の問題」より、より深刻で重い差別に直結するというお考えなのだろうが、そもそもが、個人の事情である結婚・出産について、土足で踏み込み笑うことの暴力がセクハラなのだから。
さらに鈴木議員は、「少子化、晩婚化が大きな問題になっている中で、早く結婚していただきたいな、という軽い思いで発してしまった。彼女を傷つけようとか、そういう思いはない」と記者会見で答えている。「傷つける意図はなかった」は、セクハラ加害者の常套句でもある。
セクハラは意図の問題ではなく、意識の問題である。女性をそのように嘲笑してもいい、と捉える意識や、環境の問題だ。
鈴木議員は、数日前のテレビ取材班にマイクを向けられ、「塩村さん、結婚していないんですか?」と驚いたように話していた。それはまるで、”彼女がシングルだということも知らないのに、僕がヤジを飛ばすわけないでしょ?”とでも言うような調子だった。
要はその場その場で、嘘や暴言がポロリと口から軽い気持ちで出てしまう方なのだろう。議会でのセクハラヤジはなくなったとしても、恐らくこれからも日常のセクハラ発言やセクハラ行為などされてしまうかもしれない。彼自身のためにも、早く議員を辞職することをおすすめしたい。
また、あまりにもクリシェ過ぎて記すのも残念だが、塩村さんの態度に批判的な声も少なからずあった。代表的なものとして竹田恒泰氏の発言が分かりやすいので、一応紹介しておこう。
「僕も『たかじんのそこまで言って委員会』で多産計画について発言する度に、隣の田嶋陽子さんから『あんたが早く結婚しなさいよ』と言われる。でも男性蔑視などと話題になったこともない。おなじヤジでも、立場が変わると大分違うものだと思った」「塩村さんには、上手に受け流して嫌味の一つでも言う余裕を持って欲しいと思います」
曰く、軽いじゃれ合いですむはずのものが、「セクハラ事件」になるのは女がうまく切り返せないから、という類いの発言である。幼稚で愚かなセクハラに対し、「大人として機転で返してほしい」と求めるなんて、甘えるのもいい加減にしてほしいものだが、今回も、塩村さんが発言に対して一瞬笑い、その後に泣いたことに対して、批判的な声も少なくなかった。
それでも今回、多くの女性が発言に対する怒りの声をあげたのは、問題のヤジが飛んだ瞬間の塩村議員の戸惑ったような苦笑いが、「他人事」じゃなかったからではないか。
性的嫌がらせを受けた時に、とっさに怒りを表明できず、脊髄反射的に笑ってしまい、後からじわじわと悔しさに涙がにじむ。そんな経験を全くしたことがないと言い切れる女性は、どのくらいいるだろう。
反射的に怒りたい、そうしたいのにできず笑ってしまった自分に対する悔しさや後悔も合わせて、セクハラ被害者は加害者のみならず、自分自身を責めてしまうものだ。
余談だけれど、竹田氏の発言は、”意図せず”「真理」を突いている。
ホント、そうなんですよ竹田さん、立場が変わると大分違いますよ!
一度、女になって世の中を見ていただきたい。産めという圧力、結婚しろという圧力がどれだけ「女にだけ」かかっていることか。子育ての負担をどれだけ女性だけが負っているか。どれだけの女性が日々のセクハラにストレスを抱えているか。そういう社会環境にぜひ一度身をおいていただきたいもんです。全く違う世界が見えることでしょう。
さらに塩村さんが昔タレント活動をしていたこと、テレビでの発言を取り扱い、「そもそも、塩村議員自身が、議員として相応しくない」というような発言も少なからずでてきた。グラビアの仕事をしていた時代の水着姿を「さらす」メディアもある。これもセクハラ無知の方々の常套手段である。
いわゆる、「完璧な被害者でなければ、セクハラと認められない」ことも含めて、セクハラ被害者は二重に被害者にされてしまう。
セクハラに限らず、この国では性暴力被害者の「モラル」「貞操」を問う傾向が未だにある。強姦ならば「どれだけ抵抗したのか」が未だに問われ、性犯罪に巻き込まれるにいたる「彼女自身の甘さ」が問題視される。「被害者」にならないために、女自身への注意喚起が行われる。
被害女性は一度目は加害者により、そして二度目は社会の声により、二度被害を受ける。このように被害を被害として声を上げること自体に、プレッシャーを感じる社会環境そのものが、セクハラの温床となっているというのに。
鈴木議員一人が謝罪したが、これは笑った人全てが一列に並んで謝罪するべきセクハラだった。都議会がセクハラ環境にあることを、証明したようなものなのだから。
一連の「騒動」から見えてくるのは、たった数日間で7万5000人が発言者の処分を求める署名をしたからといって、この社会で「セクハラ」が理解されているわけではないのかもしれない現実。
だいたい、この「署名の多さ、スピード」の背景には、「名乗りでない犯罪者」をあぶり出してやりたいという、「誰かを強烈に叩きたい」という、セクハラとは無関係に、正義の名を借りた凶暴な感情も市民の側にはあったのではないか。もし本当にこれほど「セクハラ」に対しスピーディーに反応し抗議できる社会ならば、そもそも都議会がこのようなセクハラの温床になどなっていなかっただろう。
抗議の声は届いた。が、セクハラの本質、セクハラの問題性については、まだまだ議論の余地がある。というか、しなければいけない。都議会にまで蔓延する日本社会のセクハラ環境の深刻さと無知に、真剣に向き合うべき時だ。
ウェブロンザ 澁谷知美
差別者で嘘つき、鈴木都議は辞職すべし
http://astand.asahi.com/magazine/wrnational/2014062500008.html?iref=webronza
東京都議会で質問中の塩村文夏都議にたいし、「早く結婚した方がいいんじゃないか!」と女性差別発言――この記事では「セクハラ発言」「セクハラやじ」といった言葉はあえて用いない。理由はのちに説明する――をした鈴木章浩都議。ネット住民、マスコミによる総力あげての犯人さがしで目星をつけられたのち、観念したのか、やっと名乗りでた。
本人は辞職するつもりはないという。が、鈴木都議に辞職以外のチョイスはない。都議会や自民党は、全力で彼を議会から追放せねばならない。市民も全力で辞職を要求していかなければならない。なぜか。理由は第一に、鈴木都議が差別者だからである。第二に、嘘つきだからである。差別者の嘘つきを市民の生活を預かる都議会に置いておくことはできない。
とはいえ、あまりピンとこない読者もおられると思う。とくに「差別者ってのは言いすぎでは」という人もいるかも。以下に説明する。
れっきとした性差別
第一の「差別者である」とはどういうことか。鈴木都議がしたことは、れっきとした女性差別である。このことを早くから指摘していたのは、ライターの松沢呉一であった。松沢は、もともとは「セクハラ」も重い意味を持っていたが、軽い意味に変えられてしまった現実を前提としながら、次のようにいう。「『女性差別発言』『性差別発言』と『セクハラ』とどっちが内容を正しく表現していて、どっちが重いと感じるでしょうか。私は圧倒的に前者です。「セクハラ」になると腰がくだける。飲み屋のエロ話みたいなもんかと」(注1)。また、英国ガーディアン紙は、「Sexist Abuse(性差別者による暴言)」という言葉を使い、「Sexual Harassment(セクシュアル・ハラスメント)」という言葉は使っていない。事態の深刻さにあわせた言葉のチョイスをしている(注2)。
ではなぜ、鈴木都議の「早く結婚した方がいいんじゃないか!」は女性差別になるのだろうか? 塩村都議が質問中に、投げつけるように鈴木都議が発したこの言葉が女性差別であることを理解するには、同種の言葉が持つ「侮辱」の機能を思いおこせばよい。
「からかい」について考察した社会学者の江原由美子によれば、一般に社会的に劣位に立つとされている人びとは、まったく見知らぬ者の「からかい」を受けやすい立場にある。からかう側が、悪意や攻撃の意図を持っていることはまれで、むしろ「親密性」の表明としてからかうことが多い。
しかし、その「からかい」は「投げかけられた側」を非常に怒らせることがある。なぜなら、それは「投げかけられた側」の意思を無視して投げかけられるからである。そして、意思を無視してよいという判定を見知らぬ他人がしたということ自体が、「投げかけられた側」を劣位者として軽侮したことのあかしだからである。
「このことは逆に、他者を侮辱する手口として『利用』される。さほど親しくない他者、または、見知らぬ他者に対し、親しげな愛称や呼称で呼びかけること自体が、はっきりと侮辱の意図を伝えるのである」(注3)
塩村都議と鈴木都議は「まったく見知らぬ者同士」ではないにせよ、「さほど親しくない間柄」であろう。そのような関係において、投げつけるような調子で発せられた、プライベートにかかわる言葉「早く結婚した方がいいんじゃないか!」は、上記の「からかい」とまったく同じ機能を持っている。つまり、塩村都議の意思を無視した投げかけであり、「塩村都議の意思を無視してよい」という鈴木都議の判定の表明であり、そのことによって侮辱の意図を伝える機能を持っている。
この言葉が女性差別であるといえるのは、もっぱら女性を貶める目的で同種の言葉が「利用」されてきた長い歴史があるからだ。「いかず後家」「嫁き遅れ」という言葉が日本語として定着しているていどには、この種の女性差別は日本社会にがっちりと組みこまれ、構造化されている。そして、数えきれないほどの女性たちが、「これさえ言われなければ、平穏に暮らせたはずの今日」を奪われてきた。
鈴木都議の最大の罪は、このすでにある構造化された性差別を「利用」したことにある。ヤジ=差別、ではない。ヤジるのであれば、あまたある言葉の在庫から、差別につながらないものを拾うこともできた。しかし、鈴木都議は差別として帰結するほかない言葉を【わざわざ】選んだのである。相手を萎縮させ、自分の「すごさ」を周囲にアピールするヤジの道具として、差別を「利用」したのである。
しかも、「軽い思いで」(鈴木都議。注4)発言したというのだから、よけいに悪い。「軽い思い」で差別されたんじゃ、女はたまったものではない。やすやすと人を差別する男に、多様な性や民族の人びとが暮らす東京都の政治を任せることはできない。彼を都議会から追放するしかないというのは、こういう理由である。
なお、「公正な社会」実現のためには、たとえ塩村都議がそれを望んでいないとしても、鈴木都議を辞めさせなければならないことを付言しておきたい。というのも、ふたたび松沢によれば、「『セクハラ』は対個人の問題。『女性差別』は対個人を含みつつも、もっぱら対社会の問題。法律で言えば個人的法益と社会的法益の違い」があるからで、「仮に言われた都議がまったく気にしていなくても」女性差別は成立しているからである(注5)。
つまり、鈴木都議は性差別者であり、このまま議員を続けさせてしまえば、「謝れば、差別者でも市民生活を左右するような重要な仕事をしてもよい」と社会にメッセージしてしまうことになる。すでにして公人による性差別、民族差別が横行している日本で、それは困る。なんとしても辞めさせるべしと筆者が主張する理由はここにある。
嘘が習い性になっている
鈴木都議を辞めさせなければならない理由の第二は、鈴木都議が嘘つきだからである。鈴木都議は「犯人さがし」がさかんだった頃のマスコミ取材にたいし、「自分ではない」と答えていた。その様子は動画サイトで見ることができる。また、会派からの聞き取り調査においても虚偽の報告をしていた(注6)。
今後も議員活動で保身のために嘘をつくことが予想される。というより、大田区議時代に、他人の文章を盗用して海外視察のレポートを書き、バレるという事件を2回起こしている。1度目は2007年。2005年の欧州視察のレポートを、ネットに上がっていた大学教授の講演要旨から盗用した。報道によれば、次のような書きかえであった。
「要旨中「二つ目は、『コングレスポ』で、駐車場、大展示スペースと会議場、宿泊施設等が入っている三層構造の大きな建物」というくだりが、報告書では「二つ目は、『リール・グランパレ』という駐車場、大展示スペースと国際会議場、宿泊施設等…」となっているほか、「再生しようとしています」が「再生しようとしました」などと、固有名詞や語尾が変えられている」(東京新聞2007年3月21日朝刊22頁)
語尾だけ変える、この「小手先」感が、今回の事件と同じだと思う。「早く結婚して頂きたくて」差別発言をしたなど、誰が信じるんだアホ、という小手先の嘘を平気でつく。2度目が発覚したのは2007年。ウィキペディアの文章から盗用して、2006年の米国視察レポートを書いた。盗用した文章の分量は、全体の97パーセントにのぼったという(しんぶん赤旗2007年3月30日15頁)。
この男、嘘が習い性になっている。彼が都議にえらばれた選挙は、この事件のあとだ。当選させた大田区民はどうかしている。失礼な言い方だけど。
鈴木都議を辞めさせれば終わり、ではない。「産めないのか!」という性差別発言の主は鈴木都議ではないという。「ほらほら、動揺しちまったぞ!」「お前、不倫してるんだろ!」も発言主が不明なまま放置状態。鈴木都議以外にも発言者がいるはずである。彼らにも同様に議会を任せることはできない。すべての発言者を特定し、辞職に追いこむまでは、この問題は終わらない。(2014年6月25日午後5時脱稿)
注1 松沢呉一 Facebook 2014年6月21日0時36分ポストのコメント欄。なお、このあとには、「もともと「セクハラ」だって重いわけですが、この言葉を軽く軽く使ってきた人たちがいるわけです。その結果がメディアが好んで「セクハラ」を使う事態です」という指摘が続く。
注2 “Tokyo assemblywoman subjected to sexist abuse from other members”, The Guardian, 2014/06/20
http://www.theguardian.com/world/2014/jun/20/tokyo-assemblywoman-sexist-abuse
注3 江原由美子『女性解放という思想』「からかいの政治学」勁草書房、182頁
注4 「鈴木章浩都議の謝罪会見やりとり「早く結婚して頂きたくて」【セクハラやじ】」THE HUFFINGTON POST 2014年6月23日
http://www.huffingtonpost.jp/2014/06/23/suzuki-akihiro-apologize_n_5520747.html?utm_hp_ref=japan
注5 松沢呉一 Facebook 2014年6月23日15時40分ポストのコメント欄、同日1時23分ポスト
注6 注4と同じ
プロフィール
澁谷知美(しぶや・ともみ)
東京経済大准教授。1972年大阪市生まれの千葉県育ち。東大大学院教育学研究科博士課程修了。専門は社会学および教育社会学、主な研究テーマは男性のセクシュアリティの社会史。単著に『日本の童貞』『平成オトコ塾 悩める男子のための全6章』『立身出世と下半身 男子学生の性的身体の管理の歴史』、共著に『性的なことば』などがある。
ウェブロンザ 小原篤次
「成長」を阻む岩盤おやじ社会-「セクハラ」ヤジ問題の根深さ―
http://astand.asahi.com/magazine/wrbusiness/2014062400005.html?iref=webronza
東京都議会みんなの党会派の塩村文夏(あやか)議員(35)が、18日に開かれた都議会本会議の一般質問において、議場からセクハラというべきヤジを浴びせられた。塩村議員は、女性の妊娠・出産をめぐる都の支援体制などを取り上げていた。
セクハラやじの都議はアフリカの子どもを見て政治家決意
この都議会での「セクハラ」ヤジが問題になってから5日後の23日、都議会自民党の鈴木章浩(あきひろ)都議(51)が、ヤジの一部を認めて謝罪し、会派を離脱したが、辞職はしていない。鈴木氏は会見で「不適切な発言で多大なご迷惑をおかけした」と頭を下げたうえで、「早く結婚した方がいいんじゃないか」とヤジを飛ばしたことを認めたものの、「産めないのか」とのヤジは否定している。
鈴木都議は自身のホームページで、政治理念として、「学生時代にアフリカのスーダンでボランティア活動をしていた時、毎日多くの子どもたちが命を落としていくのを目の当たりにしました。その時、人々の暮らしにおいて正しい政治がいかに大切なものなのかを心の底から実感しました」としている。家族構成は、妻・一男二女の5人家族と公表している。娘さんを持つパパとしての役割、そして政治家としての政治理念はどこに行ったのだろうかと首をかしげざるを得ない。
5日後になるまで本人からの申し出などはなかったため、都議会側は一時、発言者を特定するために声紋鑑定を検討する騒ぎとなった。西日本新聞には、政治評論家の森田実氏が「発言者は自分から申し出て謝罪すべきで、逃げるのは選挙で選ばれた公的な人間がやるべきではない」とコメントが掲載された。鈴木都議のセクハラやじとその後の行動は謝罪だけで済むことなのだろうか。男性社会の象徴である政界特有の問題の根深さが感じられる。
男女雇用機会均等法が1986年に施行され、1997年改正では、職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)防止のための事業主の配慮義務が規定された。さらには、2007年改正では配慮義務が措置義務に格上げされ、男性に対するセクハラも盛り込まれるようになった。
雇用側は就業規則などで、職場におけるセクハラの内容やセクハラがあってはならないという方針を社内ルールとして明文化し、役職者、従業員に周知・啓発し、セクハラ研修が定期的に開催される。そして、懲戒解雇などの処分も規定されている。セクハラ問題が懲戒対象であることは、21世紀の職場では常識になっている。
自民党の野田聖子、高石早苗は動くのか
自民党や議会はあいまいな解決策を模索するのだろう。議会が自律的に解決できなければ、法廷で争われる可能性がある。ぜひ塩村議員には謝罪で許すのではなく、一連のヤジについて声紋鑑定も行わせたうえで、訴訟をしてもらいたい。
訴訟となれば、継続して報道される。次の都議会選挙まで3年近くあるとはいえ、次回選挙では、有権者から相当な懲罰を受けることだろう。もし一連のヤジが、塩村議員の指摘通りならば、セクハラは政治家であっても、「次はない」という覚悟も必要だろう。また、自民党幹部の野田聖子総務会長や高市早苗政調会長はここで積極的に行動しないと、女性政治家としての役割、見識が疑われかねない。
安倍政権は、社会各分野で指導的地位の3割以上を女性にするなどの目標を掲げ、女性の社会進出と活躍の機会拡大を「成長戦略」の柱にしている。そのためには、子育て支援充実、扶養者控除など税制改革、女性登用の義務化など課題は多岐にわたる。
女性が結婚や子育てをきっかけとして、退職することが依然、当然視され、管理職や役員登用を躊躇する空気が残されている。厚生労働省の平成25年賃金構造基本統計調査では、女性の賃金水準は72%にとどまっている。とくに、58%と格差が大きい金融業・保険業などでは、総合職、地域営業職、事務一般職などと合法的に、男女の待遇を分断し、固定化する職種を温存している。
最近、ある外国人のワーキングマザーから「日本の女性は結婚・出産したら専業主婦になるから」とステレオタイプの指摘をいただいた。時折、女性社員は優秀と持ち上げながら、本音では、女性の進出をなかなか認めたがらないおやじ社会は、間違いなく、成長や競争を妨げる日本の岩盤の一つである。
女子学生から「日本はなぜ、女性の社会進出が遅れているのか」と問われたとき、何と説明したらよいのだろう。
「どうやら、安倍政権の女性政策の優先度は低いようだね。集団的自衛権行使の憲法解釈見直しや株価対策に比べれば、とても本気とは思えない。やはり、少子化、つまりは日本の人口減少にも歯止めはかからないのではないかな」。今はこんな答えしか思い浮かばない。
. プロフィール
小原篤次(おはら・あつじ)
長崎県立大学国際情報学部准教授。1961年、大阪府堺市生まれ。同志社大学法学部卒、国立フィリピン大学修士。朝日新聞社、チェースマンハッタン銀行(現JPモルガン・チェース)、みずほセキュリティーズアジア初代株式調査部長、みずほ証券リサーチ&コンサルティング投資調査部副部長を経て現職。
ウェブロンザ 多賀谷克彦
(波聞風問)女性の活躍推進 職場も変わらなければ
http://astand.asahi.com/magazine/wrbusiness/2014062400006.html?iref=webronza
伊藤忠商事の東京本社財務部に勤める山下綾美さん(30)は昨年10月から、それまで午後7時前後だった退社時間が1時間以上早くなった。1歳の長女を託児所に迎えにいくため、これまでは仕事が残っていると、同僚に後を頼んでオフィスを出ることが多かった。今では、無理なく託児所へいくことができる。
伊藤忠は昨年、深夜まで働く習慣をあらため、朝早く出社して、仕事の能率を上げようという取り組みを始めた。総合職の時間外勤務が、月平均4時間減っただけではなく、社員の働き方、生活スタイルが変わりつつある。
何より、仕事と育児、介護を両立しようとする女性を支える効果が出始めている。山下さんは「育児とキャリアの両立を前向きに考えられるようになった」という。人事・総務部の垣見俊之さんは「育児中だけではなく、結婚後も、出産後も、無理なく働けると考えられるようになったことに意味がある」と話す。
残業減らしは長年の課題だった。自身も朝型で知られる岡藤正広社長の「朝型に変えたらどうや」「早朝出勤にも割増賃金を払ったらええやろ」という一言から検討が始まった。ただ、残業を早朝出勤に切り替え、割増賃金を支払う仕組みは他の企業をみてもあまり例がなかった。
垣見さんらは制度設計に苦心したという。結果「残業禁止」を打ち出した。午後8時以降は原則禁止で、同10時以降は禁止とし、残った仕事は翌朝に片付ける。早朝の時間外手当のほかに割増賃金を出し、午前8時前に出た社員には軽食を出すようにした。
安倍政権は成長戦略の一つに女性の活用を掲げる。政策の後押しは必要だ。でも、職場が変わらなければ、共働きの夫婦が育児、介護をしながら、自らの能力、キャリアを生かすことは難しい。政策だけに頼るのではなく、民間企業の創意工夫がなければ、女性がキャリアを生かせる社会は生まれない。
簡単ではないだろう。伊藤忠でも、管理職から「本当にできるのか」「人事はビジネスが分かっていない」「残業は悪いことか」という反応があった。社外からは「商社には無理」と言われた。経営陣のリーダーシップがなければ、導入は難しかった。次はどう継続させるかだ。
伊藤忠には、多くの企業から問い合わせが寄せられているという。同じ仕組みを採り入れようと検討している大手企業もあると聞く。ほかにも、リコーは社員が働く時刻を決めるフレックス制度を組み合わせ、システム開発のSCSKは報奨金を設けて、残業を減らし、働き方を見直そうとしている。女性の活用をとなえるなら、男性も含めた全従業員の働き方、暮らし方を変える覚悟が必要だ。
プロフィール
多賀谷克彦(たがや・かつひこ)
1962年2月21日、神戸市生まれ。4年間の百貨店勤務を経て、1988年朝日新聞社に入る。前橋、新潟支局のほか、東京、大阪本社で経済記者。流通・食品、証券などを担当。07年4月から編集委員(大阪在勤)。