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折々の記 2014 ⑥
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】06/08~ 【 02 】06/18~ 【 03 】06/22~
【 04 】06/27~ 【 05 】06/29~ 【 06 】07/06~
【 07 】07/11~ 【 08 】07/21~ 【 09 】08/12~
【 05 】06/29
06 29 君死に給うことなかれ 親子兄弟 絆の源泉
07 01 NHKスペシャル番組の利用 利用しない手はない
集団的自衛権、憲法解釈変更へ 行使容認、きょう閣議決定
日本のたがをはずす暴走 天声人語
07 04 2日の新聞 集団的自衛権に関する記事 猛烈な反響 25件
06 29 (日) 君死に給うことなかれ 親子兄弟 絆の源泉
与謝野晶子
君死に給うことなかれ
http://park6.wakwak.com/~y_shimo/momo.239.html
あゝをとうとよ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ、
末に生れし君なれば
親のなさけはまさりしも、
親は刃(やいば)をにぎらせて
人を殺せとをしへしや、
人を殺して死ねよとて
二十四までをそだてしや。
堺(さかひ)の街のあきびとの
舊家(きうか)をほこるあるじにて
親の名を繼ぐ君なれば、
君死にたまふことなかれ、
旅順の城はほろぶとも、
ほろびずとても、何事ぞ、
君は知らじな、あきびとの
家のおきてに無かりけり。
君死にたまふことなかれ、
すめらみことは、戰ひに
おほみづからは出でまさね、
かたみに人の血を流し、
獸(けもの)の道に死ねよとは、
死ぬるを人のほまれとは、
大みこゝろの深ければ
もとよりいかで思(おぼ)されむ。
あゝをとうとよ、戰ひに
君死にたまふことなかれ、
すぎにし秋を父ぎみに
おくれたまへる母ぎみは、
なげきの中に、いたましく
わが子を召され、家を守(も)り、
安(やす)しと聞ける大御代も
母のしら髮はまさりぬる。
暖簾(のれん)のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻(にひづま)を、
君わするるや、思へるや、
十月(とつき)も添はでわかれたる
少女ごころを思ひみよ、
この世ひとりの君ならで
あゝまた誰をたのむべき、
君死にたまふことなかれ。
07 01 (火) NHKスペシャル番組の利用 利用しない手はない
NHKスペシャル番組の利用
NHKスペシャル番組を開くと次のような内容が展開する。
NHKスペシャル
番組紹介
放送予定
放送予定のジャンル
社会 国際 政治 経済 歴史・紀行 災害 自然・環境 医療・健康
文化・芸術・エンターテインメント 宇宙・化学・テクノロジー
討論 子供 人物 スポーツ
当該月の予定表 本放送と再放送に分かれている
これまでの放送
2000年から今までのすべてのジャンルを掲載している
Nスペeyes
第1回(2012/3/13)から今まで第27回(2014/3/20)すべてを掲載
よくある質問 → 番組関連グッズ
映像関連 全275件 すべて検索できる
書籍・雑誌など 全57件 すべて検索できる
音声関連 全7件 すべて検索できる
グッズ 全5件 すべて検索、その他も掲載あり
(利用例1)
28日からNスペ「シリーズ故宮」
素晴らしい文物、心動かされる物語
台北の故宮博物院が所蔵する中国文明の至宝と、その流転の歴史に迫るNHKスペシャル「シリーズ故宮」が、総合で28日午後7時半、29日午後9時から2夜連続で放送される。24日に東京国立博物館(東京都台東区)で開幕する台北・故宮博物院展に合わせた番組で、ナビゲーターは俳優、谷原章介さん(41)が務める。
◆台北に保管されてきた故宮の文化財は、紀元前の古代王朝から清王朝滅亡まで歴代王朝の皇帝たちが集めた第一級品のコレクション。それは可視化され凝縮された中国の歴史そのものである。番組では初めて故宮文物を8K画質で出力するカメラで撮影。美術品個々の魅力を存分に味わっていただきながら、そこに秘められた多民族国家・中国の壮大な歴史と独特な文明の姿を俳優・谷原章介とともに2回シリーズで見つめる。
第1回「流転の至宝」では、主に北京の故宮(紫禁城)に皇帝コレクションとして収蔵されていた文物が、戦争や内戦で移送を繰り返し、台湾にたどりつくまでの苦難の歴史をたどる。
日本語が堪能な台湾の女優、シア・ルージーさん(31)が、谷原さんに台北故宮を案内するというドラマ風設定で進行。谷原さんは日本で初公開される玉器「翠玉(すいぎょく)白菜」について、「白菜は純潔、キリギリスとイナゴは多産の象徴で、(清の光緒帝の)お妃のこし入れの際に持たせたとされています。技だけでなく、ストーリーに心を動かされます」と感心しきり。
◆第1夜は、故宮文物が隣国の日本に初めてやって来るまでの紆余曲折に満ちた道のりを紐解く。満州事変から日中戦争へと日中関係が悪化の一途をたどった時代、あるいは中華民国率いる蒋介石によって台湾に移された時代、絶え間ない戦火のなかで故宮文物は決死の努力で守られてきた。流転のドラマから単なる美術品を超える特別な価値を浮き彫りにする。
第2回「皇帝の宝 美の魔力」では、権力の正当性の証明、かつ巨大な多民族国家をまとめる求心力にもなり得た名宝と歴代皇帝らの思惑を、作家の浅田次郎さん(62)が読み解く。今回、ロケで故宮を初訪問した谷原さんも「武力や経済力も必要だが、実は文の力、芸術の力が皇帝を皇帝たらしめてきたのだと強く感じました。ぜひ素晴らしい文物とその物語を堪能してほしい」と話していた。
◆第2夜は、数ある文物の中から至高の名品を厳選し、そこに秘められた皇帝たちの思惑を解き明かす。明の第3代皇帝・永楽帝が作らせた陶磁器「青花」。実は故宮の青花と全く同じものが、イランに残されている。その理由は何なのか?謎の追跡から、世界の覇者たろうとした永楽帝の野望が明らかになる。17世紀、清で作られた「象牙多層球」。1本の象牙から削りだされた球の中に、入れ子状に21層にもなる球が収まる超絶技巧の作品である。制作技法は長い間不明とされてきたが、最近の研究でその秘密が解き明かされつつある。清朝6代皇帝・乾隆帝が編纂した「四庫全書」。すべての書物を収集するという大事業からは、多民族国家・中国における文化の意味が浮かび上がってくる。出演 作家・浅田次郎。
(利用例2)
宇宙・科学・テクノロジー
素晴らしい文物、心動かされる物語
◆人体 ミクロの大冒険 第1回 あなたを創る!
細胞のスーパーパワー
私たちの成長を支えているのは、細胞がつくり出す柔軟性だ。遺伝子は受精の瞬間に決まってしまう。実際に生きていく環境に応じて臨機応変に対応するのが、細胞の役割なのだ。細胞が周りの環境を察しながら、働かせる遺伝子を選択して変化し、私たちが生き延びるための力を強化しているのである。なかでも、成長のカギを握っている細胞は、脳をつくる神経細胞だ。学習や経験に応じて変化する神経細胞は、まさに私たちの人生を背負う細胞だ。ところが、この神経細胞は取り替えがきかない。皮膚をはじめ、ほとんどの細胞は新陳代謝で活発に入れ替えることで私たちの長い人生をカバーしているのに対し、神経細胞は珍しい一生モノの細胞なのだ。そこで、神経細胞は驚くべき長もち策をつくりあげた・・・。
第1回は、胎内から思春期まで、私たちの成長に合わせて変化する細胞のダイナミズムを紹介する。出演は京都大学iPS細胞研究所 所長 山中伸弥さん、劇作家・演出家・役者の野田秀樹さん、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さん。葉加瀬さんはテーマ曲も担当。
◆人体 ミクロの大冒険 第2回 あなたを変身させる!
細胞が出す"魔法の薬"
私たちの身体をつくる60兆の細胞は、ある時期に一斉に「変身」する。それは思春期だ。その変化を経て私たちは「成長する個体」から「生殖できる個体」へと変貌を遂げる。では、細胞たちはどのようにしてこうした一斉の変化を実現しているのか。カギを握っているのが、内分泌細胞と呼ばれる細胞が出す“魔法の薬”ともいうべき、ホルモンだ。内分泌細胞が血液に送り込んだホルモンが全身をめぐり、受容体をもつ細胞を次々と変化させていくのだ。
最新研究からは、そうしたホルモンが脳に作用し、私たちの心を操っている事実も浮かび上がってきた。その特性に注目して自閉症治療に活かそうとする臨床試験もはじまっている。
第2回は細胞社会のメッセンジャー・ホルモンを軸に、思春期から親となる壮年期にかけて、私たちの成熟を促す細胞社会の仕組みを解き明かす。出演は京都大学iPS細胞研究所 所長 山中伸弥さん、劇作家・演出家・役者の野田秀樹さん、直木賞作家の角田光代さんとタレントの松嶋尚美さんなど。テーマ曲はヴァイオリニストの葉加瀬太郎さん。
◆人体 ミクロの大冒険 第3回 あなたを守る!
細胞が老いと戦う
これまで老化とは「身体のあらゆる場所が衰えること」とされていたが、最新の細胞研究は「免疫細胞の衰えがその根底にある」という事実を明らかにしつつある。
身体を守るはずの免疫システムを指揮するT細胞という免疫細胞は思春期の始まりとともに生産がほぼ終わってしまう。そのため、年齢を重ねるにつれて能力が衰え、やがて誤作動して自らの組織を攻撃するようになり、老年病や生活習慣病といった多くの病気を引き起こす原因のひとつになっているのだ。
こうした知見により、免疫細胞の老化そのものを防ごうとするまったく新しい老化研究がはじまっている。 シリーズ最終回となる第3回は、老化研究や再生医療の最先端研究を紹介し、細胞社会の終わりを見つめる。出演は京都大学iPS細胞研究所 所長 山中伸弥さん、劇作家・演出家・役者の野田秀樹さん、作家の阿川佐和子さん。テーマ曲はヴァイオリニストの葉加瀬太郎さん。
07 01 (火) 行使容認、きょう閣議決定 集団的自衛権、憲法解釈変更へ
行使容認、きょう閣議決定 公明、受け入れ決める 集団的自衛権、憲法解釈変更へ
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11218261.html?ref=pcviewpage
安倍晋三首相は、他国への攻撃に自衛隊が反撃する集団的自衛権について、1日に臨時閣議を開き、憲法解釈の変更で行使を認める閣議決定をする。公明党が30日、閣議決定に賛成するかどうかを、山口那津男代表ら執行部に一任。執行部が同日、受け入れることを決めた。「専守防衛」という日本の安全保障政策が転換点を迎えた。
歴代内閣は長年にわたり、憲法9条の解釈で、日本が集団的自衛権を行使することを禁じてきた。安倍内閣がこの解釈を変えて集団的自衛権を使えるようにすれば、戦後一貫して、海外で武力行使をしてこなかった自衛隊のあり方を大きく変えることになる。
自民、公明両党は1日朝に与党協議を開き、閣議決定案について合意する。その後、両党の党内の手続きなどを経て、臨時閣議を開いて閣議決定。同日中に首相が記者会見し、憲法解釈を変更した理由などを説明する予定だ。
公明党が30日に開いた会合では「国民の理解が進んでいない」などの慎重意見が出たものの、最後には、井上義久幹事長が党執行部への対応の一任を提案して了承された。党執行部は同日、閣議決定案の受け入れを決めた。
1日の閣議決定案は、集団的自衛権を使えるように、憲法9条の解釈を変えることが柱だ。
具体的には、これまで個別的自衛権の行使を認めてきた3要件を変更。新たな3要件として「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合などの条件を設け、それを満たした場合には、日本が集団的自衛権を使えるようにする。
公明党は当初、解釈を変えることには慎重で、党内には閣議決定に反対する意見も強かった。しかし、新たな3要件について、「国民の(中略)権利が根底から覆される明白な危険があること」の文言が入るなど、政府・自民党が公明党の意見をいくつか採り入れたことを理由に、「行使は限定的に行われる」として、最終的に受け入れに転じた。
ただ、新たな3要件は抽象的な文言で、行使に具体的な歯止めをする規定はない。集団的自衛権だけでなく、国連決議に基づいて侵略国などを制裁する集団安全保障でも「自衛の措置」であれば武力を使えるようにするなど、武力行使の範囲を広げるおそれも残している。
07 01 (火) 日本のたがをはずす暴走 (天声人語)
(天声人語)
日本のたがをはずす暴走
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11218272.html
快進撃という言葉がふさわしい。サッカーW杯で、コスタリカがきのう、ギリシャを破って初の8強入りを決めた。優勝経験のある強豪を堅守でしのぎ、1次リーグを1位で突破した勢いが続く
▼前評判は高くなかった。日本代表は大会前の強化試合で3―1で勝っていた。日本がもしギリシャの代わりに決勝トーナメントに進んでいたら、と無駄な夢想をした
▼この中米の小国は安定した民主主義国であり、なにより憲法によって常備軍を持たない「非武装中立」を保ってきたことで知られる。9条を擁する日本との近しさを感じる人もおられよう。この国で大きな役割を果たしていると思われるのが、最高裁のなかにある憲法法廷だ
▼国の隅々にまで目を注ぐ。たとえば、学校近くの川にゴミがたくさん捨てられていると子どもが訴えた。法廷は権利の侵害と判断し、町にゴミの整理を命じた。手続きが簡単で、多くの争いが持ち込まれる
▼11年前に参院憲法調査会が視察した時、「法廷長」がそんな説明をしている。米国のイラク侵攻に政府が支持を表明した際には、この法廷が違憲の判決を出して大いに注目された。行政の仕事に司法がたがをはめる。三権の相互抑制がきいている
▼翻って日本政治の現状は、権力分立など眼中にないかのようだ。国会も無視したまま、しゃにむに集団的自衛権をめぐる憲法解釈をひっくり返そうとしている。日本のたがを勝手にはずしておいて、この政権がしっぺ返しを食わないとは思えない。
07 04 (金) 2日の新聞 集団的自衛権に関する記事
【その1】
9条崩す解釈改憲 集団的自衛権、閣議決定 海外で武力行使容認
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220048.html
安倍内閣は1日夕の臨時閣議で、他国への攻撃に自衛隊が反撃する集団的自衛権の行使を認めるために、憲法解釈を変える閣議決定をした。歴代内閣は長年、憲法9条の解釈で集団的自衛権の行使を禁じてきた。安倍晋三首相は、その積み重ねを崩し、憲法の柱である平和主義を根本から覆す解釈改憲を行った。1日は自衛隊発足から60年。第2次世界大戦での多くの犠牲と反省の上に立ち、平和国家の歩みを続け、「専守防衛」に徹してきた日本が、直接攻撃されていなくても他国の戦争に加わることができる国に大きく転換した日となった。
■首相「新3要件、歯止め」
首相は1日の記者会見で「現行の憲法解釈の基本的考え方は何ら変わることはない」と述べた。一方で、歴代内閣が集団的自衛権の行使を禁じる根拠とした憲法9条との整合性については詳しく語らなかった。
首相は当初、憲法改正手続きを定めた憲法96条を改正することで、憲法を変えるハードルを下げようとした。しかし、改正の機運は盛り上がらず、憲法解釈の見直しに方針転換した。
今回の閣議決定は、海外での武力行使を禁じた憲法9条の趣旨の根幹を読み替える解釈改憲だ。政府は1954年の自衛隊発足以来、自国を守る個別的自衛権の武力行使に限って認めてきた。しかし、閣議決定された政府見解では、日本が武力を使う条件となる「新3要件」を満たせば、個別的、集団的自衛権と集団安全保障の3種類の武力行使が憲法上可能とした。
首相は会見で「いままでの3要件とほとんど同じ。憲法の規範性をなんら変更するものではなく、新3要件は憲法上の明確な歯止めとなっている」と強調した。 しかし、これまでの政府の3要件には「我が国に対する急迫不正の侵害があること」という条件があり、日本は個別的自衛権しか認められないとされてきた。新3要件は「他国に対する武力攻撃」を含んでおり、集団的自衛権を明確に認めた点で全く異なる。さらに首相が「歯止め」と言う新3要件は抽象的な文言で、ときの政権がいかようにも判断できる余地を残している。(円満亮太)
◇
米国防総省は1日、「日本政府の集団的自衛権に関する新たな政策を歓迎する。この歴史的な取り組みは日米同盟における日本の役割を強化することになる」との談話を発表した。
■危うい「全て首相の意向」
「日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る」。1日に首相官邸で開かれた記者会見。そう語る安倍晋三首相は傍らに、自らの指示で作らせた母子らが乗った米艦のパネルを置いた。集団的自衛権の議論に入る直前の5月15日の記者会見と同じものだ。
自らの信じる結論に突き進む。「安倍さんを見ていると、正直、強引だなと思うことはある」。閣僚からもこんな感想が出るほど、今の首相は止められない。
昨年末の特定秘密保護法。なりふり構わぬ法案審議に批判が集まり、首相は「丁寧に説明すべきだった」と謝罪した。5月の会見でも「与党協議は期限ありきではない」と熟議を約束。そこから50日も経たないうちの閣議決定である。
「これは総理の悲願だから」。首相官邸の高官や自民党幹部から連日こんな言葉を聞く。集団的自衛権がなぜ必要か。なぜいまか。すべてが「首相の意向」で退けられ、疑問を差し挟む余地はない。一昨年の衆院選と昨年の参院選でねじれ国会を終わらせた首相の力は、政府・与党内で強い。
しかし、いずれの選挙でも、集団的自衛権は公約の中心にはなかった。参院選ではむしろ憲法改正を説き何より経済政策への支持で今日の政権安定を得た。
そうして獲得した権力をまるで白紙委任されたように使い妥協しない。歴代内閣が禁じたことを「できるようにした」のに「憲法解釈の基本は変えていない」と言う。その矛盾に、首相は向き合おうともしない。(冨名腰隆)
■閣議決定のポイント
◆密接な関係の他国に武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合、集団的自衛権を含む「自衛のための措置」を可能に
◆自衛隊の国連平和維持活動(PKO)などで、自衛隊が武器を使える場面を拡大
◆自衛隊が他国軍に後方支援する場所を「非戦闘地域」に限る制約は撤廃
◆キーワード
<武力行使の新3要件> (1)我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない時に、(3)必要最小限度の実力を行使すること――という内容。
【その2】(日本はどこへ 集団的自衛権:1)
「強兵」への道、許されない 編集委員・三浦俊章
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220047.html
安倍内閣が集団的自衛権行使を認めた7月1日は、日本の立憲主義の歴史において、最も不名誉な日として残るだろう。
首相自ら憲法の制約をふりほどき、定着した解釈をひっくりかえした。国会に諮ることも、国民の意思を改めて問うこともなく、海外での武力行使に道が開かれた。
従来の積み上げを突き崩す解釈変更は、本来の改憲論にとっても屈辱のはずだ。ルールの改正は、ルールの尊重を前提とする。憲法改正は、憲法への敬意なしには成り立たない。
69年前、日本は世界を相手にした戦争に敗北した。明治以来の「富国強兵」路線のうち、「強兵」は完全に破綻(はたん)した。それに代えて国民が求めたのが、9条に基づく平和主義だった。
日本はその後、米国と安保条約を結び、自衛隊を発足させた。しかし、戦前の反省から、その枠内でも軍事的要素を極力抑制し続けたのである。
9条か安保・自衛隊か、ではなく、日本は9条の理念と安保・自衛隊の現実主義を組み合わせる道を選んだ。軍事力ではなく経済力を柱に、民生部門中心に世界に貢献する道を選んできた。この路線は、国民の広い共感と支持を得た。
本紙世論調査では、多数は集団的自衛権行使に反対である。民意が国のあり方に根本的な変更を求めているとは、とても言えない。
それでもこの解釈改憲が実現したのは、政府・与党内の力学の結果である。
「戦後レジームからの脱却」を唱えて靖国神社に参拝する首相の後ろ向きのナショナリズム。そこに、「普通の国」と肩を並べるため、対外政策で自衛隊の活用範囲を広げようとする外務・防衛官僚のある種の「国際主義」が結合した。
だが、ナショナリズムと軍事力の結合ほど危ういものはない。賢明な外交がなければ、どんな軍備でも国を守ることはできない。
安全保障環境が激変したのだ、とよく言われる。だが、グローバリゼーションの時代は、国家は対立しながら深層では結びつき、複雑なゲームを展開する。弱肉強食の国際政治への単なる逆戻りではない。
第1次大戦勃発100年の今年、20世紀の動乱の発端として大戦を回顧し、ナショナリズムや軍事依存の危うさを反省する機運が、欧米を中心に高まっている。
そして来年は戦後70年にあたる。そのときに日本の選ぶ道が、「強兵」への復帰でよいはずはない。
【その3】(天声人語)
閣議決定 されど
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220044.html
札幌市に住む会社員安川誠二さん(53)は3月に「親子で憲法を学ぶ札幌の会」をつくった。小学3年の一人娘がいる。集団的自衛権をめぐる安倍政権の姿勢に不安を感じていた。友人と語らい、「子どもたちのために」と動き出した
▼4月から6月にかけて、「やさしい憲法講座」を3回連続で開いた。30代から40代のお母さんと子どもが毎回30人ほど参加した。顔を出した年配の女性は、こうした勉強会に若い世代がたくさん集まるのは珍しいと驚いていた。安川さんは、みんな将来が心配なのだと実感したという
▼講師は知り合いの元裁判官だ。「条文を順に読むよりは、大事なところから見ていきましょう」。そんな調子で話は始まる。まず99条を。天皇、大臣、国会議員、裁判官、公務員らは憲法を尊重し、擁護する義務を負うと書いてある
▼義務を負う人の中に国民は入っていない。つまり、時の政権をはじめ広く権力の側にいる人々に、憲法の枠内で仕事をしなさいと、国民の側から命令するのが憲法ということになる。憲法の本質が、わかりやすく丁寧に説明されていく
▼講座をもとに小冊子を2冊作った。千部ずつ刷り、書店などに置いた。近く3冊目を出す。平和主義も基本的人権も、ひとごとにしてはいけない。そんな理解が広がっていく確かな手応えを感じる、と安川さんは話す
▼憲法をめぐる草の根の営みがあちこちで始まり、続こうとしている。政権が何かを閣議決定しておしまい、という話では決してない。
【その4】
ねじ曲げられた憲法解釈 専守防衛から大きく転換 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220017.html
海外で武力を使う集団的自衛権の容認について、安倍内閣は1日、閣議決定による憲法解釈の変更という手法で踏み越えた。安倍晋三首相は「平和国家の歩みは変わらない」と語ったが、積み重ねられてきた憲法解釈の強引な読み替えは、9条の空洞化を招く事実上の改憲にほかならない。専守防衛を貫いてきた日本の国のかたちを、大きく変えるものだ。
■「自衛措置」強引に拡大
「海外派兵は一般に許されないという原則は全く変わらない」
安倍首相は1日、記者会見でこう強調した。憲法9条には直接触れず、「憲法の規範性を何ら変更するものではない」などとも述べた。
しかし、閣議決定で認められた集団的自衛権行使の本質は、他国同士の戦争に参加することだ。海外派兵を封印してきた憲法9条は、今回の閣議決定で根幹に「風穴」を開けられた。
首相はかねて、解釈変更による行使容認を解釈改憲と呼ばれることに拒否感を示してきた。しかし宮崎礼壹(れいいち)・元内閣法制局長官は「憲法の根本転換であり、集団的自衛権を認めるなら、憲法改正が筋だ」と指摘。閣議決定の内容はまさに解釈改憲そのものと言える。
戦争を放棄し、交戦権を否定している憲法9条をどう読めば、海外での武力行使を認められることになるのか。矛盾を乗り越えるため、政府は閣議決定に盛り込んだ「武力行使の新3要件」で、「自衛の措置としての武力の行使」という新たな概念を作り出した。
歴代内閣はこれまで、憲法上認められるのは自国を守る個別的自衛権のみで、他国を守るために武力を使う集団的自衛権での武力行使は「自衛のための必要最小限度の範囲」を超えるものとしてきた。
しかし、新たな概念は、個別的自衛権と集団的自衛権に憲法上の区別を付けず、武力行使を認めた。日本だけでなく、「密接な関係にある他国が攻撃を受けた場合」も、ときの政権が日本に「明白な危険」があると判断すれば、「自衛の措置」として武力が使えるとした。政府は、機雷除去など他国の領海内での武力行使も想定している。
「明白な危険」があると判断すれば、海外でも武力行使できる――。これまでの政府見解と全く異なる理屈にもかかわらず、閣議決定に合わせて作成された政府の想定問答では、「憲法解釈としての論理的整合性、法的安定性を維持」「解釈改憲ではない」と強弁している。
解釈改憲の矛盾を正当化するために、政府は集団的自衛権の行使を禁じた1972年の政府見解から、本来は個別的自衛権の行使理由である「(国民の生命などが)根底から覆されるという急迫、不正の事態」という言葉を引用。集団的自衛権の行使を認める理屈にすり替えた。今回決定された政府見解は、政権にとって都合の良い部分を切り取ったものだ。
憲法9条の改正を主張してきた小林節・慶応大名誉教授は、閣議決定を貫く論理を批判する。
「憲法9条を普通に読めば、海外派兵を想定はしていない。そこに踏み込めば、もはや憲法解釈の許容範囲内を超えている。それは憲法の破壊であり、単なる憲法違反だ」(園田耕司)
■「戦後レジーム脱却」狙う
海外で武力を使う集団的自衛権の行使容認は、安全保障政策の大きな転換点だ。一昨年末の発足以降、第2次安倍内閣が進めてきた一連の政策決定を振り返ると、首相がこだわる「戦後レジームからの脱却」とは何かが浮かび上がる。
政権は昨年末、安保政策の決定で「官邸主導」を確立する国家安全保障会議(日本版NSC)の設置法と、安保に関わる情報管理徹底と情報を漏らした公務員らへの罰則を強めた特定秘密保護法を成立させた。NSCを設置した狙いは、官邸に置いた国家安全保障局に外務省や防衛省、警察庁などの情報を集約することだ。政権にとっては、素早い政策決定ができる半面、官邸の権限強化による意思決定や情報の「ブラックボックス化」の懸念もある。
「NSCと両輪になる」(政権幹部)とされる秘密法は、米国などと安全保障の連携を進めるため、情報漏れを防ぐことを狙ったものだ。今年末から施行されるが、政府が情報を「特定秘密」に指定すれば、与党の国会議員ですら内容に触れることはできない。官邸への「情報一元化」が一層進む一方、国民の「知る権利」が損なわれるおそれも指摘される。
首相は1日の会見で、集団的自衛権の行使容認について「国民の命を守るため」との意義を改めて訴えた。秘密法やNSC設置法が成立した際も同じように「国民の生命と財産を守る」と法制定の意義を強調していた。
国民を守ることを大義名分に掲げ、首相は、安全保障に関わる情報や権限を一手に握る仕組みをつくっている。こうした流れのなかで、集団的自衛権の行使容認が決まった。
閣議決定された政府見解では、集団的自衛権も含めた武力の行使、自衛隊の出動を命じる際の歯止めとして、「原則として」国会の事前承認を関連法案に盛り込むことを定めた。
政府内では緊急の場合は「原則」によらず、政府の判断で自衛隊の出動を決めることも想定されている。NSCに集められた情報が「特定秘密」に指定され、開示されないまま、情報を握る首相が集団的自衛権を行使する判断を下すことも可能だ。
首相は官邸スタッフにこんな言葉を漏らしたことがある。「平和、平和と言っていれば、平和になると思っているのは、おまじない平和主義だ」。その言葉通り、首相は国の姿を大きく変える政策を急ピッチで進める。武器輸出を事実上解禁した「防衛装備移転三原則」、外国軍への支援を認める政府の途上国援助(ODA)の見直し……。
集団的自衛権の行使の容認に踏み切った首相は1日、「平和国家としての日本の歩みはこれからも決して変わることはない」と胸を張った。だが、「国家」の姿は確実に変わりつつある。(蔵前勝久)
【その5】
論理の暴走、戦前と同じだ 片山杜秀・慶大教授 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220018.html?ref=pcviewpage
「時務(じむ)の論理」という昭和10年代の日本で好んで使われた言葉がある。日中戦争が始まる。ナチスが台頭する。米は世界大恐慌で低迷。すぐ第2次世界大戦になるかもしれない。
危機の時代に対処するのは政治の務め。緊急事態への即応力を高める。法律なんぞ後回し。それが時代の求める論理。時務の論理とは目先の都合にあわせて法解釈も何も変えてゆく論理だ。国の存立に関わる。この決め台詞(ぜりふ)で無理を通す。
閣議決定で憲法解釈を変更。集団的自衛権は合憲。時務の論理の復活ではないか。平和憲法と集団的自衛権にはやはり矛盾がある。改憲の手続きが不可欠だろう。現政権は改憲する余裕なしと考えているようだ。明日にもアジアで有事があるかも。米が中東かどこかで協力を求めてくるかも。そのとき日本が即応できることが第一義なのだ。
集団的自衛権の議論はかつてもあった。そこで抑止力となったのは歴史の記憶だった。敗戦の不幸な記憶だ。その記憶を血肉にし、この国の身の程をわきまえた自民党の長老が、党内のタカ派を抑えた。平和憲法の理念を信奉した社会党などの存在も大きかった。 でも来年で敗戦から70年。記憶はいよいよ風化する。そして別の記憶が取って代わる。対米依存の「幸福な記憶」だ。日米安保体制を堅持してきたからこそ戦後日本はうまく運んできた。その記憶と、危機の時代の時務の論理が手を握る。米が弱ってきた。世界の危機だ。日本の出番だ。ここで日本がやる気を見せれば、より対等な日米関係を発展させうる。幸福は持続しうる。平和憲法は二の次。集団的自衛権容認の根幹思想ではあるまいか。
だがこの幸福な記憶は今後もあてになるだろうか。20世紀初頭の日英同盟が思い出される。日英が手を結べば東洋平和は守れるつもりだった。けれど、やがて日英だけではアジア太平洋地域を仕切れなくなった。米が台頭したからである。日英同盟は終わり、米などを入れた多国間の安全保障体制に切り替わった。もちろん日米同盟は現時点で大切だ。が、集団的自衛権容認は平和憲法の精神にふれる。平和や自衛という言葉の意味の、異次元的緩和だ。拡大解釈だ。そこまでやらねば本当に国が危ういのか。
時務の論理は危機の時代ならではの究極のリアリズムのつもりで展開される。が、あとから考えると近視眼的に興奮しての選択ミスということも多い。かつての日本は危機に負けない強い政治力を求めて大政翼賛会を作った。日本の独立自衛のため大東亜共栄圏を構想した。失敗に終わった。
まだ遅くない。時務の論理の暴走を食い止めねばならない。声をあげよう。(聞き手・渡辺哲哉)
◆片山杜秀・慶大教授(日本政治思想史)
かたやま・もりひで 1963年生まれ。音楽評論家としても活躍。著書に「近代日本の右翼思想」「ゴジラと日の丸」「未完のファシズム」など。
【その6】
危険はらむ軍事優先 周辺国刺激、緊張招く懸念 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220015.html
中国や北朝鮮の脅威に対抗し、日米同盟をさらに強化する――。安倍晋三首相は、集団的自衛権を使えるようにする理由に、安全保障上の「抑止力」を挙げる。だが、行使容認に賛成する米国も中国との対話を重視し、日本の姿勢とのズレが見える。首相は「戦争する国になることは断じてない」と訴えるが、自衛隊の海外派遣に制約をなくせば、周辺諸国を刺激して軍拡競争を招くおそれもある。軍事に偏りがちな外交戦略の行方が問われている。
安倍首相は1日、会見で「日本に戦争を仕掛けようとするたくらみをくじく。これが抑止力だ」と語った。
閣議決定では、武力行使の要件に明確な歯止めをかけず、将来紛争が起きたとき、自衛隊を自由に動かす余地を残した。政府内には、自衛隊の活動内容を広げれば、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力が高まるとの考えが根強い。
しかし、双方が抑止力を高める競争を続ければ、軍拡を招き、地域の緊張が高まる危険性もはらむ。
首相はまた、「外国を守るために日本が戦争に巻き込まれるという誤解がある。そのようなことはありえない」とも強調した。だが、集団的自衛権や集団安全保障での武力行使を新たに認めたことで、米国をはじめ他国は日本に期待し、危険な活動を際限なく求めてくる可能性がある。
フィリピンのアキノ大統領は6月24日、安倍首相との会談後、内戦下のシリアで自国の国連平和維持活動(PKO)部隊が攻撃された事例を紹介。「同盟国の部隊が助けに来てくれるなら、我々は望む」と語った。外交評論家の岡本行夫氏は「集団的自衛権の行使は国際社会に歓迎されるだろうが、自衛隊には危険な任務を担わせないという日本の政策的スタンスを変えられず、求められた行動を断れば、かえって日本の立場を難しくする可能性がある」と指摘する。
防衛の現場からは、閣議決定の内容を疑問視する声もある。1992年、自衛隊初のPKOとなったカンボジアで、指揮官を務めた元陸上自衛隊幹部は語る。「専守防衛を大きく変える目的やビジョンが見えず、現場の隊員は非常に不安を覚える。集団的自衛権ありきという感じで、言葉遊びにしか見えない」
自衛隊は海外での任務を拡大させてきたが、これまで1発の銃弾も撃っておらず、戦闘中の死者もいない。だが、日本が直接攻撃されなくても他国を守る集団的自衛権を使えば、元陸自幹部は「任務や装備について質と量の両面で転換を迫られる」と指摘する。外務省幹部は「次のステップは防衛費の増大だ」と語る。
1954年7月1日、防衛庁(現防衛省)・自衛隊は誕生した。60年の節目にさらなる海外派遣の道が開いたことに、自衛隊関係者は言う。「いざというとき国民の先頭に立つ覚悟はある。だが、それには国民の支持が前提だ」(渡辺丘)
■外交戦略、米とずれ
「米高官から『日本を守っている米艦船が襲われたとき、自衛艦が救出しないで米国民の日本への信頼感が続くか考えてもらいたい』と言われた」
安倍首相は会見で、集団的自衛権の行使が、日米同盟の強化につながると強調した。中国が圧力を強める尖閣諸島を守るためにも、同盟強化は欠かせない――。そう意識する首相にとって、自衛隊が米軍を守る集団的自衛権の行使容認は一刻も早く実現したい政策だった。
米国も歓迎の意向を示す。アフガニスタンやイラクでの戦争で疲弊し、国防予算も絞るなか、中国を意識してアジア重視の「リバランス政策」をとる。日本が米軍を支える態勢を整えることは、この政策に沿うものだからだ。
ただ、中国をめぐっては、日米に思惑の違いもある。オバマ大統領は「我々は中国とも非常に緊密な関係を保っている」と明言し、新しい大国同士の関係を模索する。4月の来日時には、「事態のエスカレートは正しくない。平和的な解決が必要だ」と対立する日中に対話を促した。
一方の安倍首相は、中国への対決姿勢を変える様子はない。5月末にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議では、南シナ海で実効支配を強める中国を念頭に「法の支配」の重要性を強調。中国と対立するベトナムやフィリピンを味方に引き入れた「対中包囲網」をもくろむ。
だが、「集団的自衛権は抑止力を高める」という首相の主張とは裏腹に、今回の閣議決定が中国をさらに刺激するのは明らかだ。5、6月には東シナ海上空で中国機が自衛隊機に異常接近する事態も発生。軍事衝突を防ぐための連絡態勢の議論も進まない中、海と空で衝突の懸念が強まっている。日中首脳が会談する見通しもたたない。領土や慰安婦問題で対立する韓国との関係改善も遅れている。
こうした中、北朝鮮に対し、安倍首相は拉致問題の解決をめざして対話姿勢を打ち出した。
米政権内には、北朝鮮をめぐる日本の動きが、米韓との足並みの乱れにつながると懸念する声もある。
ロシアをめぐっても、日米の戦略にはズレがある。6月には、米欧が渡航禁止を科すナルイシキン下院議長の訪日を許した。今秋にプーチン大統領を招き、北方領土問題を進展させたい思いがにじむ。
中韓との関係がこじれるなか、米国と反目する北朝鮮やロシアとの「独自外交」を進める安倍内閣。アジアをはじめ、国際社会の平和と安定に向けた外交戦略は見えない。(広島敦史)
【その7】
抑止力、逆に低下する恐れ 植木千可子・早大教授 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220014.html
集団的自衛権の行使には、日本の戦争に巻き込まれたくない国を、日本のために巻き込む代わりに、日本も他国の戦争に巻き込まれる、という側面がある。
米国は長年、日本に連携を強めるよう促していた。ただ、今回の容認は限定的で、米国が期待するほどの負担軽減にはつながらない。米国の一部には、尖閣などでの「グレーゾーン事態」に巻き込まれることへの警戒感がある。米国の関与をとりつけるためには、防衛負担が平時から増す可能性がある。
首相は閣議決定で抑止力が増すとしているが、逆の可能性が高い。抑止の成功には軍事力行使の基準が明確であることが重要だが、あいまいなため、潜在的な攻撃国が日本の意図を読み誤る恐れがあるからだ。
米国の国力が相対的に低下し、米国を支えてきた先進諸国も財政悪化している。世界の安全保障環境がさらに不安定化するかもしれない。米国主導の国際社会をどう安定的な集団指導体制に移行させていくか。
それには中国を取り込むことも必要だ。日本は、そのリーダーシップをとることを期待されている。しかし、今では中国と一番仲の悪い国となり、尖閣諸島をめぐる日中の対立に巻き込まれることをアジアの国や米国さえも恐れている。中国や韓国と首脳会談もできない状態で、地域の枠組みづくりを担うリーダーにはなり得ない。
日米安保などの抑止力は重要だが、それだけでは不十分だ。中国を多国間の枠組みに取り込み、協調的でない行動をとると、マイナスが大きすぎるという状況をつくらないといけない。
米国は中国を警戒する一方で国際社会に巻き込む努力も続けている。日本も災害派遣での協力などに中国を引き込み、偶発的な衝突を避けるための危機管理制度をつくることが必要だ。
今までは日本人の命が奪われることが自衛権発動の揺るがぬ基準だった。しかし集団的自衛権を限定的でも容認すれば、紛争ごとに判断を迫られる。殺す相手も、助ける相手も選ぶことになる。一体どんなときに軍事力を行使するのか。相手の命、送り出す自衛官の命を犠牲にしてまでも、守るべき価値とは何なのか。正面からの議論が必要だ。
戦後日本では、国民全体で安全保障について悩み、考える機会が少なかった。国民一人ひとりが主体的に考えることを習慣づける必要がある。日常的に海外のニュースに関心を持ち、世界で何が起きているのかを知ることが大切だ。何よりも、戦争をするしないを決めるのは、国民の責任だという自覚と気概を持つことが大事だろう。こんなはずじゃなかったのに、というせりふは、私たち民主主義国家の国民には許されない。(聞き手・渡辺丘)
◆植木千可子・早大教授(国際安全保障)
うえき・ちかこ 米マサチューセッツ工科大学で博士号(政治学)取得。北京大学客員研究員、防衛省防衛研究所主任研究官などを経て現職。編著に「北東アジアの『永い平和』」。
【その8】
国会、歯止め役担えるか 賛成大多数、民意とずれ 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220022.html
集団的自衛権の行使を認める閣議決定が行われた。焦点は行使の前提となる個別法の整備に移り、国会審議を通じての歯止め、チェックが重要になる。だが、今の国会は集団的自衛権が争点にならなかった直近の国政選で勢力が決まっており、賛否が割れる世論を反映していない。民意とずれる国会に今後のチェック役を担うことはできるのか。
「国会が法律を通さない限り、集団的自衛権は行使できないんですよ」
自民党の高村正彦副総裁は、よく「国会の歯止め論」を強調する。三権分立では、閣議決定はあくまで政府の意思を示したに過ぎない。仮に政府の閣議決定で武力行使への歯止めが不十分だとするならば、国会が法律案を修正することなどでチェック役を果たせるという理屈だ。
だが、いまの国会は集団的自衛権の行使に賛成の勢力が大多数を占め、慎重・反対の割合が高い世論と一致していない。世論と乖離(かいり)する国会が、法案審議を通じて十分なチェック役を果たせるかは疑問だ。
2012年12月の衆院選と、13年7月の参院選後の衆参の議席をみると、集団的自衛権を使えるようにすることに賛成の党の議席は衆院で約8割、参院でも6割を超える。
一方、朝日新聞の世論調査(6月21、22日実施)では、集団的自衛権の行使を認めることに「反対」は56%。同様にほぼ二択で賛否をきいた日本経済新聞の調査(同27~29日)では「使えるようにすべきではない」が50%、毎日新聞(同27、28日)では「反対」が58%に達し、国会の勢力と世論が逆になっている。
■選挙で争わず
こうなったのも、直近の二つの国政選で、集団的自衛権の行使を認めるかどうかが大きな論点として争われなかったことがある。
自民党の衆院選公約には「集団的自衛権の行使を可能とし、国家安全保障基本法を制定する」とあるが、実際は、安倍晋三首相が「強い経済を取り戻す」をキャッチフレーズに民主党からの政権奪還を訴えた選挙で、集団的自衛権など安全保障政策の転換は真正面からは問われなかった。
さらに、ねじれを解消した13年の参院選に至っては公約に記載がなく、同時に配られた政策集の356項目の一つとして3行あるにすぎない。石破茂幹事長は1日の会見で「たくさん書いてある公約で(何が書いてあるか)わからないといわれたら、公約の意味がない」と述べたが、集団的自衛権を正面から問わなかったことは間違いない。
結果的に多数派をとった勢力が、後になってある政策を後押しすることになれば、国会がときの民意とずれ、審議を通じて中身を具体的にチェックしたり、歯止めをかけたりすることが難しくなることが起こりうる。特に、国会の多数派が首相を選ぶ議院内閣制のもとでは自民、公明両党にチェック役は期待できない。
■「国民に信問え」
一方、あらかじめ明示的に政策を掲げなくても、ときの政権にどの政策を実行するか一定の裁量があると考えるリーダーはいる。
日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長はかつて「選挙では国民に大きな方向性を示して訴える。ある種の白紙委任だ」と主張。総選挙のマニフェスト(政権公約)になかった消費増税を掲げた菅直人元首相も「議会制民主主義は期限を切った、あるレベルの独裁を認めることだ」と国会で答弁したことがある。
だが、国政選で多数を得たからといって、その勢力を背景にした政権があらゆるフリーハンドを得るわけではない、と指摘する識者もいる。特に、国の安全保障政策の歴史的転換にあたる政策はそうだ。
東京経済大の加藤一彦教授(議会制度論)は「多数を取ったからといって、憲法の三大原理まで変え、のりを超えることは許されない。明らかに総選挙で国民に信を問うに値するテーマだ」と指摘。重要政策の決定の際は、その時点の世論を国会に正確に反映させるためにも、総選挙も視野に入れるべきだと主張する。
仮に個別法が成立しても、将来、実際に自衛隊を派遣する際は、原則として事前に国会承認が必要だ。そのときも、国会が「最後の歯止め」となれるか問われることになる。 (三輪さち子、松村愛)
【その9】
「行使認めるものではない」山口・公明代表 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220024.html
公明党の山口那津男代表は1日、集団的自衛権の行使を認める閣議決定後の記者会見で、「(武力の行使は)国民を守るための『自衛の措置』に限られることが明確になっている。その点で憲法上、いわゆる(一般的な)集団的自衛権の行使を認めるものではない」と述べた。
山口氏の主張は、武力行使をしてもあくまで「自衛の措置」であり、従来の公明党の主張と整合性があることを強調したものだ。だが、閣議決定の中では「『武力の行使』は国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある」と明記されており、山口氏は国際法上と憲法上の評価を使い分けるという苦しい対応を迫られた形だ。
1日の閣議決定に先立ち、山口氏と安倍晋三首相は党首会談を行い、閣議決定の内容で合意した。
【その10】
批判の野党、まとまりなし 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220026.html
集団的自衛権の行使を認める閣議決定に対し、野党からは「拙速だ」「密室協議だ」などの批判が相次いだ。しかし、行使そのものをめぐる賛否は割れており、結束なき「多弱野党」の批判は迫力を欠く。
「集団的自衛権の行使は国民の命を危うくする。国会で議論することなく、密室の与党協議で決めてしまった」。官邸で行われた閣議と同じ時間帯、民主党の海江田万里代表は東京・有楽町で声を張り上げた。日本維新の会、結いの党、生活の党、社民党の党首らも一同に並び、「政権は説明不足だ」と訴えた。
だが、今のところ野党が批判で足並みをそろえられるのは、「拙速だ」などとする政権の手法どまりだ。行使そのものを認める党もあり、野党が一致して対立軸を作れていない。
民主党は賛成派と反対派を抱え、立ち位置を明確にできない。海江田氏は会見で「専守防衛を大きく逸脱する」と批判したが、党の見解については「行使ありきとか、まったく不要ということではない」とあいまいな言い方に終始した。
行使に慎重な結いの党の江田憲司代表は「閣議決定は集団的自衛権の限定容認を認めたのかどうかもあやふやだ。政局優先の言葉遊びだ」。生活の党の小沢一郎代表も「閣議決定で自衛隊を海外派兵するなら、日本は憲法があってない国家となる」と批判した。
一方、結いと合併予定の「日本維新の会」橋下徹共同代表グループの松野頼久国会議員団代表は「憲法解釈の変更について政府の説明が不足している。国会審議を通じて国民に丁寧な説明が必要だ」と強調した。
次世代の党の平沼赳夫暫定代表は「日本が置かれている立場は非常にシビアだ。政権に協力してあげなければならない」と同調。行使を容認するみんなの党の浅尾慶一郎代表も「閣議決定は内閣を構成する与党が決めることだ」と理解を示した。
行使に反対の共産党の志位和夫委員長は「海外で武力行使をしてはならないという一貫した憲法解釈の土台を覆した。こんな厚顔無恥な欺瞞(ぎまん)はない」。社民党の吉田忠智党首も「長年積み上げた憲法解釈を一内閣の判断で変えることは、立憲主義を根本から否定する暴挙」と批判した。
【その11】
集団的自衛権の行使を容認する閣議決定(全文)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220086.html
我が国は、戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家として歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持しつつ、国民の営々とした努力により経済大国として栄え、安定して豊かな国民生活を築いてきた。また、我が国は、平和国家としての立場から、国際連合憲章を遵守(じゅんしゅ)しながら、国際社会や国際連合を始めとする国際機関と連携し、それらの活動に積極的に寄与している。こうした我が国の平和国家としての歩みは、国際社会において高い評価と尊敬を勝ち得てきており、これをより確固たるものにしなければならない。
一方、日本国憲法の施行から67年となる今日までの間に、我が国を取り巻く安全保障環境は根本的に変容するとともに、更に変化し続け、我が国は複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面している。国際連合憲章が理想として掲げたいわゆる正規の「国連軍」は実現のめどが立っていないことに加え、冷戦終結後の四半世紀だけをとっても、グローバルなパワーバランスの変化、技術革新の急速な進展、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発及び拡散、国際テロなどの脅威により、アジア太平洋地域において問題や緊張が生み出されるとともに、脅威が世界のどの地域において発生しても、我が国の安全保障に直接的な影響を及ぼし得る状況になっている。さらに、近年では、海洋、宇宙空間、サイバー空間に対する自由なアクセス及びその活用を妨げるリスクが拡散し深刻化している。もはや、どの国も一国のみで平和を守ることはできず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で一層積極的な役割を果たすことを期待している。
政府の最も重要な責務は、我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うするとともに、国民の命を守ることである。我が国を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、政府としての責務を果たすためには、まず、十分な体制をもって力強い外交を推進することにより、安定しかつ見通しがつきやすい国際環境を創出し、脅威の出現を未然に防ぐとともに、国際法にのっとって行動し、法の支配を重視することにより、紛争の平和的な解決を図らなければならない。
さらに、我が国自身の防衛力を適切に整備、維持、運用し、同盟国である米国との相互協力を強化するとともに、域内外のパートナーとの信頼及び協力関係を深めることが重要である。特に、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定のために、日米安全保障体制の実効性を一層高め、日米同盟の抑止力を向上させることにより、武力紛争を未然に回避し、我が国に脅威が及ぶことを防止することが必要不可欠である。その上で、いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを断固として守り抜くとともに、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献するためには、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備しなければならない。 5月15日に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」から報告書が提出され、同日に安倍内閣総理大臣が記者会見で表明した基本的方向性に基づき、これまで与党において協議を重ね、政府としても検討を進めてきた。今般、与党協議の結果に基づき、政府として、以下の基本方針に従って、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために必要な国内法制を速やかに整備することとする。
1 武力攻撃に至らない侵害への対処
(1)我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増していることを考慮すれば、純然たる平時でも有事でもない事態が生じやすく、これにより更に重大な事態に至りかねないリスクを有している。こうした武力攻撃に至らない侵害に際し、警察機関と自衛隊を含む関係機関が基本的な役割分担を前提として、より緊密に協力し、いかなる不法行為に対しても切れ目のない十分な対応を確保するための態勢を整備することが一層重要な課題となっている。
(2)具体的には、こうした様々な不法行為に対処するため、警察や海上保安庁などの関係機関が、それぞれの任務と権限に応じて緊密に協力して対応するとの基本方針の下、各々(おのおの)の対応能力を向上させ、情報共有を含む連携を強化し、具体的な対応要領の検討や整備を行い、命令発出手続を迅速化するとともに、各種の演習や訓練を充実させるなど、各般の分野における必要な取組を一層強化することとする。
(3)このうち、手続の迅速化については、離島の周辺地域等において外部から武力攻撃に至らない侵害が発生し、近傍に警察力が存在しない場合や警察機関が直ちに対応できない場合(武装集団の所持する武器等のために対応できない場合を含む。)の対応において、治安出動や海上における警備行動を発令するための関連規定の適用関係についてあらかじめ十分に検討し、関係機関において共通の認識を確立しておくとともに、手続を経ている間に、不法行為による被害が拡大することがないよう、状況に応じた早期の下令や手続の迅速化のための方策について具体的に検討することとする。
(4)さらに、我が国の防衛に資する活動に現に従事する米軍部隊に対して攻撃が発生し、それが状況によっては武力攻撃にまで拡大していくような事態においても、自衛隊と米軍が緊密に連携して切れ目のない対応をすることが、我が国の安全の確保にとっても重要である。自衛隊と米軍部隊が連携して行う平素からの各種活動に際して、米軍部隊に対して武力攻撃に至らない侵害が発生した場合を想定し、自衛隊法第95条による武器等防護のための「武器の使用」の考え方を参考にしつつ、自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含む。)に現に従事している米軍部隊の武器等であれば、米国の要請又(また)は同意があることを前提に、当該武器等を防護するための自衛隊法第95条によるものと同様の極めて受動的かつ限定的な必要最小限の「武器の使用」を自衛隊が行うことができるよう、法整備をすることとする。
2 国際社会の平和と安定への一層の貢献
(1)いわゆる後方支援と「武力の行使との一体化」
ア いわゆる後方支援と言われる支援活動それ自体は、「武力の行使」に当たらない活動である。例えば、国際の平和及び安全が脅かされ、国際社会が国際連合安全保障理事会決議に基づいて一致団結して対応するようなときに、我が国が当該決議に基づき正当な「武力の行使」を行う他国軍隊に対してこうした支援活動を行うことが必要な場合がある。一方、憲法第9条との関係で、我が国による支援活動については、他国の「武力の行使と一体化」することにより、我が国自身が憲法の下で認められない「武力の行使」を行ったとの法的評価を受けることがないよう、これまでの法律においては、活動の地域を「後方地域」や、いわゆる「非戦闘地域」に限定するなどの法律上の枠組みを設定し、「武力の行使との一体化」の問題が生じないようにしてきた。
イ こうした法律上の枠組みの下でも、自衛隊は、各種の支援活動を着実に積み重ね、我が国に対する期待と信頼は高まっている。安全保障環境が更に大きく変化する中で、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、国際社会の平和と安定のために、自衛隊が幅広い支援活動で十分に役割を果たすことができるようにすることが必要である。また、このような活動をこれまで以上に支障なくできるようにすることは、我が国の平和及び安全の確保の観点からも極めて重要である。
ウ 政府としては、いわゆる「武力の行使との一体化」論それ自体は前提とした上で、その議論の積み重ねを踏まえつつ、これまでの自衛隊の活動の実経験、国際連合の集団安全保障措置の実態等を勘案して、従来の「後方地域」あるいはいわゆる「非戦闘地域」といった自衛隊が活動する範囲をおよそ一体化の問題が生じない地域に一律に区切る枠組みではなく、他国が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所で実施する補給、輸送などの我が国の支援活動については、当該他国の「武力の行使と一体化」するものではないという認識を基本とした以下の考え方に立って、我が国の安全の確保や国際社会の平和と安定のために活動する他国軍隊に対して、必要な支援活動を実施できるようにするための法整備を進めることとする。
(ア)我が国の支援対象となる他国軍隊が「現に戦闘行為を行っている現場」では、支援活動は実施しない。
(イ)仮に、状況変化により、我が国が支援活動を実施している場所が「現に戦闘行為を行っている現場」となる場合には、直ちにそこで実施している支援活動を休止又は中断する。
(2)国際的な平和協力活動に伴う武器使用
ア 我が国は、これまで必要な法整備を行い、過去20年以上にわたり、国際的な平和協力活動を実施してきた。その中で、いわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」については、これを「国家又は国家に準ずる組織」に対して行った場合には、憲法第9条が禁ずる「武力の行使」に該当するおそれがあることから、国際的な平和協力活動に従事する自衛官の武器使用権限はいわゆる自己保存型と武器等防護に限定してきた。
イ 我が国としては、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、国際社会の平和と安定のために一層取り組んでいく必要があり、そのために、国際連合平和維持活動(PKO)などの国際的な平和協力活動に十分かつ積極的に参加できることが重要である。また、自国領域内に所在する外国人の保護は、国際法上、当該領域国の義務であるが、多くの日本人が海外で活躍し、テロなどの緊急事態に巻き込まれる可能性がある中で、当該領域国の受入れ同意がある場合には、武器使用を伴う在外邦人の救出についても対応できるようにする必要がある。
ウ 以上を踏まえ、我が国として、「国家又は国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場しないことを確保した上で、国際連合平和維持活動などの「武力の行使」を伴わない国際的な平和協力活動におけるいわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用及び「任務遂行のための武器使用」のほか、領域国の同意に基づく邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的な活動ができるよう、以下の考え方を基本として、法整備を進めることとする。
(ア)国際連合平和維持活動等については、PKO参加5原則の枠組みの下で、「当該活動が行われる地域の属する国の同意」及び「紛争当事者の当該活動が行われることについての同意」が必要とされており、受入れ同意をしている紛争当事者以外の「国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場することは基本的にないと考えられる。このことは、過去20年以上にわたる我が国の国際連合平和維持活動等の経験からも裏付けられる。近年の国際連合平和維持活動において重要な任務と位置付けられている住民保護などの治安の維持を任務とする場合を含め、任務の遂行に際して、自己保存及び武器等防護を超える武器使用が見込まれる場合には、特に、その活動の性格上、紛争当事者の受入れ同意が安定的に維持されていることが必要である。
(イ)自衛隊の部隊が、領域国政府の同意に基づき、当該領域国における邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的な活動を行う場合には、領域国政府の同意が及ぶ範囲、すなわち、その領域において権力が維持されている範囲で活動することは当然であり、これは、その範囲においては「国家に準ずる組織」は存在していないということを意味する。
(ウ)受入れ同意が安定的に維持されているかや領域国政府の同意が及ぶ範囲等については、国家安全保障会議における審議等に基づき、内閣として判断する。
(エ)なお、これらの活動における武器使用については、警察比例の原則に類似した厳格な比例原則が働くという内在的制約がある。
3 憲法第9条の下で許容される自衛の措置
(1)我が国を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを守り抜くためには、これまでの憲法解釈のままでは必ずしも十分な対応ができないおそれがあることから、いかなる解釈が適切か検討してきた。その際、政府の憲法解釈には論理的整合性と法的安定性が求められる。したがって、従来の政府見解における憲法第9条の解釈の基本的な論理の枠内で、国民の命と平和な暮らしを守り抜くための論理的な帰結を導く必要がある。
(2)憲法第9条はその文言からすると、国際関係における「武力の行使」を一切禁じているように見えるが、憲法前文で確認している「国民の平和的生存権」や憲法第13条が「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は国政の上で最大の尊重を必要とする旨定めている趣旨を踏まえて考えると、憲法第9条が、我が国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることを禁じているとは到底解されない。一方、この自衛の措置は、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として初めて容認されるものであり、そのための必要最小限度の「武力の行使」は許容される。これが、憲法第9条の下で例外的に許容される「武力の行使」について、従来から政府が一貫して表明してきた見解の根幹、いわば基本的な論理であり、昭和47年10月14日に参議院決算委員会に対し政府から提出された資料「集団的自衛権と憲法との関係」に明確に示されているところである。
この基本的な論理は、憲法第9条の下では今後とも維持されなければならない。
(3)これまで政府は、この基本的な論理の下、「武力の行使」が許容されるのは、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られると考えてきた。しかし、冒頭で述べたように、パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。
我が国としては、紛争が生じた場合にはこれを平和的に解決するために最大限の外交努力を尽くすとともに、これまでの憲法解釈に基づいて整備されてきた既存の国内法令による対応や当該憲法解釈の枠内で可能な法整備などあらゆる必要な対応を採ることは当然であるが、それでもなお我が国の存立を全うし、国民を守るために万全を期す必要がある。
こうした問題意識の下に、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。
(4)我が国による「武力の行使」が国際法を遵守して行われることは当然であるが、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある。憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。この「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものである。
(5)また、憲法上「武力の行使」が許容されるとしても、それが国民の命と平和な暮らしを守るためのものである以上、民主的統制の確保が求められることは当然である。政府としては、我が国ではなく他国に対して武力攻撃が発生した場合に、憲法上許容される「武力の行使」を行うために自衛隊に出動を命ずるに際しては、現行法令に規定する防衛出動に関する手続と同様、原則として事前に国会の承認を求めることを法案に明記することとする。
4 今後の国内法整備の進め方
これらの活動を自衛隊が実施するに当たっては、国家安全保障会議における審議等に基づき、内閣として決定を行うこととする。こうした手続を含めて、実際に自衛隊が活動を実施できるようにするためには、根拠となる国内法が必要となる。政府として、以上述べた基本方針の下、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために、あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする法案の作成作業を開始することとし、十分な検討を行い、準備ができ次第、国会に提出し、国会における御審議を頂くこととする。
(以上)
【その12】
自衛隊の活動、増す危険 「非戦闘地域」線引きなくす 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220087.html
1日の閣議決定は、憲法の解釈変更で、戦後一貫して禁じてきた海外での武力行使に道を開くものだ。他国への攻撃であっても、三つの要件を満たせば、自衛隊が反撃する集団的自衛権の行使を認める。国連の国際平和維持活動(PKO)などで武器を使いやすくする。自衛隊は活動範囲が広がる半面、危険にさらされる場面も確実に増える。
集団的自衛権を行使できるようにするため、これまで日本が攻撃された場合のみに限ってきた自衛権発動の3要件を変更する。
新3要件は(1)我が国に限らず、密接な関係の他国が攻撃された場合でも、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(2)(危険を排除する)ほかの適当な手段がない(3)必要最小限度の実力行使にとどまる。これらを満たせば、その国と一緒に自衛隊が反撃できるとした。
具体的に想定するのは朝鮮半島有事だ。安倍首相はこの日の会見で、海外在住の日本国民が避難民として米国艦船に乗り込み、その船を守って戦おうとする自衛隊のイラストをパネルにして示した。日本国民を守るため、米軍と協調行動することなどを考えている。
また、国連安保理決議に基づく多国籍軍などへの補給など「後方支援」を拡大する。他国の武力行使と一体化しないように設けた「戦闘地域」と「非戦闘地域」の線引きをなくし、非戦闘地域に限ってきた自衛隊の活動場所を広げる。
PKO活動に従事する自衛隊が武器を使いやすくする。今までは、自分や共に行動する要員の身を守る時だけ武器を使えた。今後は離れた場所で他国のPKO要員らが武装勢力に襲われた時でも、駆けつけて武器を使い反撃できる。
政府は閣議決定を反映した法改正の検討チームを設置。自衛隊法などの改正案を国会に提出する。
【その13】
安倍首相の会見要旨 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220088.html
安倍晋三首相の1日の記者会見の要旨は次の通り。
いかなる事態でも国民の命と平和な暮らしを守り抜く大きな責任があるとの覚悟の下、新しい安全保障法制の整備のための基本方針を閣議決定した。自民・公明の連立与党が濃密な協議を積み重ねてきた結果だ。
集団的自衛権が現行憲法の下で認められるのかという抽象的・観念的な議論ではない。現実に起こりえる事態に現行憲法の下で何をなすべきかという議論だ。
例えば海外で突然紛争が発生して逃げる日本人を、同盟国の米国が救助・輸送している時に日本近海で攻撃を受けた時、我が国への攻撃ではないが、日本人を守るため、自衛隊が米国の船を守れるようにする。日本国憲法が国民の命を守る責任を放棄せよといっているとは私には思えない。
ただし、そうした行動を取る場合でも、他に手段がない時に限られ、かつ必要最小限度でなければならない。現行の憲法解釈の基本的考え方は変わらない。海外派兵は一般に許されないという従来の原則も変わらない。自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことはこれからも決してない。
外国を守るために、日本が戦争に巻き込まれるという誤解があるが、ありえない。日本国憲法が許すのは、あくまで我が国の存立を全うし国民を守るための自衛の措置だけだ。外国の防衛を目的とする武力行使は今後とも行わない。万全の備えをすること自体が、抑止力だ。今回の閣議決定で、日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなる。
二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという痛切な反省の下に、わが国は戦後70年近く一貫して平和国家としての道を歩んできた。自衛隊の創設、日米安保条約の改定、国連PKOへの参加。国際社会の変化と向き合い、対応しながら、平和主義の理念の下で最善をつくし、外交安全保障政策を見直してきた。批判を恐れず、平和への願いを責任ある行動に移してきたことが、平和国家日本を作り上げてきた。その歩みはこれからも変わらない。
日本をとりまく世界情勢は厳しさを増している。あらゆる事態を想定して、切れ目のない安全保障法制を整備する必要がある。そうした事態が起きないことが最善だからこそ世界の平和と安定のため、日本はこれまで以上に貢献していく。いかなる紛争も力ではなく、国際法に基づき外交的に解決すべきだ。私は、法の支配の重要性を国際社会に繰り返し訴えてきた。
関連法案作成チームを立ち上げ、直ちに作業を開始する。十分な検討を行い、準備ができ次第、国会に法案を提出する。今後とも丁寧に説明を行い、国民の理解を得る努力を続ける。
今回の新3要件も、今までの3要件と基本的な考え方はほとんど同じと言ってよく、表現もほとんど変わっていない。憲法解釈の基本的な考え方は変わらない。従って、憲法の規範性を何ら変更するものではなく、新3要件は憲法上の明確な歯止めとなっている。
【その14】
自己資本、世界2強は中国銀 邦銀は10位が最高 英専門誌
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220074.html
英金融専門誌「ザ・バンカー」は、今年の世界銀行ランキングを発表した。中国の国有銀行が初めて1、2位を占め、10位以内にも4行が入った。自己資本や利益の規模だけで見ると、既に「世界一の金融大国」の座を米国から奪っていることになる。
ランキングは、「ティア1」と呼ばれる質の高い自己資本の金額をもとに毎年、発表している。邦銀では三菱UFJフィナンシャル・グループが昨年より順位を三つ下げて10位に入ったのが最高だった。
中国の国内では外資の活動が制限された上で、規制で預金金利が低く抑えられ、貸出金利との間の利ざやを得られる。大きなシェアを握る国有銀行が、激しい競争にさらされずに利益を伸ばすことができる構図だ。(北京=斎藤徳彦)
【その15】
米は歓迎、中韓は懸念 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11219994.html
安倍政権が集団的自衛権の行使を認める閣議決定をしたことが、各国に波紋を広げている。日米同盟強化につながると歓迎する米国に対し、歴史問題で関係が悪化している韓国は不信感をにじませ、尖閣問題などで対立する中国は強い懸念を表明した。
■米「役割高め同盟強化」
米オバマ政権は、安倍政権の閣議決定を歓迎している。集団的自衛権の行使容認を日本に求める声は歴代の米政権内にあったが、公式には「日本政府が決めることだ」という立場を取ってきた。だが、安倍政権が憲法解釈の変更に向けた検討を進めるにつれ、オバマ政権も歓迎姿勢を公式に打ち出すようになった。
2013年秋の日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の共同発表の中で、集団的自衛権の行使容認に向けた議論などを「米国は歓迎する」と表明。4月に訪日したオバマ大統領も支持する立場を改めて示した。国防総省関係者は6月30日、「我々は長年求めてきた。日米同盟の強化につながる」と話した。
日本の集団的自衛権行使容認は、「同盟とは両側通行だ」(ライス大統領補佐官)というオバマ政権の立場にも合致するものだ。財政立て直しのため国防予算抑制を余儀なくされている米国は、同盟国により大きな役割を求めている。
沖縄駐留米軍のトップを務めたこともあるグレッグソン元国防次官補は「日本海を航行する米軍の艦船が北朝鮮から攻撃されても日本が防衛しなかったら、米国内で強い反発が出るだろう」と指摘した上で、「集団的自衛権の行使容認で、日米はより統合して作戦を遂行する能力を持つ。中国に対する抑止力の強化にもつながる」と評価した。
カーネギー国際平和財団のジェームズ・ショフ上級研究員は「朝鮮半島有事に日米がどう対応するか大きく変わる」と指摘。「軍事作戦における日米の情報共有や米軍支援が容易になると期待している」と話した。
駐日米大使館のセシル・シェイ報道官は、「日米同盟は最も重要な安全保障体制の一つであり、防衛協力を強化する日本の取り組みを評価する。同盟における日本の役割を高める努力を歓迎したい」と話した。 (ワシントン=大島隆)
■韓「平和憲法の堅持注視」
「平和憲法に従った防衛安保政策の重大な変更と見て鋭意、注視する」。韓国外交省報道官は1日夜、安倍政権の閣議決定を受けて声明を読み上げた。
声明は、日本政府が今後の法制化の過程で「平和憲法の基本精神を堅持し、地域の平和と安定を害さない方向で透明に進めなければならない」と指摘。朝鮮半島の安保や韓国の国益に影響を及ぼす事案では、韓国の同意がない限り日本の集団的自衛権行使は「決して容認できない」と強調した。 また、歴史に起因する疑心と憂慮を払拭(ふっしょく)し、周辺国から信頼されるよう「歴史修正主義を捨て、正しい行動を見せなければならない」と注文を付けた。
韓国政府は日本の集団的自衛権行使に関し、正面からの反対は避けてきた。国連憲章で認められた権利である上、同盟国である米国が強く支持している事情もある。北朝鮮情勢などを考えれば、マイナスばかりではないのも確かだ。
一方で、国内では警戒感が強い。ソウルの日本大使館前では1日、市民団体が集会を開き、「侵略国家に回帰するという宣言と同じだ」として反対を訴えた。
韓国政府関係者は「安倍政権のような歴史観を持った日本が集団的自衛権行使に突き進んだら、本当に歯止めがかかるのかという国民の不安は大きい」と指摘する。(ソウル=貝瀬秋彦)
■中「主権損なうな」
中国では、閣議決定を国営新華社通信が速報するなど高い関心を示した。外務省の洪磊副報道局長も1日の定例会見で、「我々は日本国内に強烈な反対の声があることを注視している」と指摘。その上で「中国脅威をでっち上げ、自らの政治的立場を推進するやり方に反対する。中国の主権と安全を損なってはならない」と懸念を強調した。
中国は5月ごろから、メディアを中心に「軍国主義に突き進む日本」(国営中央テレビ)との批判キャンペーンを展開。同時期に高村正彦・自民党副総裁ら日本の国会議員が訪中した際も、唐家セン元外相が「安倍内閣は戦後の平和の歩みを大きく変えようとしている」と行使容認に向けた動きを牽制(けんせい)していた。
背景には、この時期に南シナ海で中国の石油掘削をめぐりベトナムとの対立が激化し、米国や日本が中国の海洋進出を非難したこともあるようだ。政府系シンクタンク研究者は「釣魚島(尖閣諸島の中国名)だけでなく、南シナ海でも、自衛隊が米軍と連携して中国に対抗する状況が生まれかねない」と指摘する。(北京=倉重奈苗)
【その16】 関連がないが飛入りで取上げ
「自治権守れ」香港でデモ 数十万人参加 中国返還から17年
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11219995.html
香港の中国返還から17年を迎えた1日、普通選挙などを求める民主派団体によるデモがあり、昨年を大きく上回る数十万人が参加した。中国政府が先月発表した「一国二制度」に関する白書を、自治権を制限するものだとみなす市民たちが、危機感を強めている。
英植民地だった香港は、1997年に中国に返還された際、香港人による高度な自治が許される「一国二制度」が約束された。香港に司法の独立や言論の自由があるのはこのためだ。
だが、中国政府が発表した白書は「香港の自治は中央が与えた地方事務の管理権にすぎない」「中央が香港の全面的な統治権を持つ」と指摘し、市民に衝撃を与えた。香港の憲法ともいえる香港基本法については「中国側が解釈権を持つ」とした。デモに参加したIT企業に勤める譚邁仁さん(35)は、「白書には驚いた。香港の核心的な価値が失われる」と話した。
この時期に白書が発表されたのは、香港トップの行政長官を選ぶ2017年の選挙を巡る香港の民主派への牽制(けんせい)とみられる。18歳以上の市民による普通選挙になることは中国政府も了承済みだ。しかし、中国政府の意向を受けた香港政府は、親中派が多数を占める小委員会が候補者を指名する案を準備しており、民主派候補を締め出す考えだ。
猛反発する民主派団体は、民間投票を先月下旬に実施。一定数の推薦があればだれでも立候補できる制度を支持する投票が、香港の人口の1割にあたる72万票に上り、民主派団体の予想も大幅に上回っていた。(香港=小山謙太郎)
【その17】 関連がないが飛入りで取上げ
軍元副部長から賄賂か 中国軍前副主席、自宅に金塊・高級酒
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11219996.html
中国共産党から6月30日に党籍剥奪(はくだつ)処分を受けた党中央軍事委員会の徐才厚(シュイツァイホウ)・前副主席(71)が、3月に起訴された元軍総後勤部副部長の谷俊山被告から多額の賄賂を受けていた疑いがあることが分かった。習近平(シーチンピン)国家主席は軍最高幹部の腐敗に強い危惧を抱き軍改革への決意を固めた模様だ。
複数の党関係者や外交筋が明らかにした。3月15日、党当局はがんで療養していた徐氏を北京市内の病院から連行し、自宅を捜索。党指導者が執務する中南海近くにある自宅から、金塊や大量の高級酒などが押収されたという。
党当局は押収品の銘柄などから、軍用地の不正売却などで業者らから総額200億元(約3300億円)の賄賂を受け取ったとして起訴された谷被告から、徐氏が横流しを受けた可能性が高いとみている。
習氏は党と軍のトップに就いた直後から「腐敗が深まる先にあるのは党と国の滅亡だ」と訴えた。軍にも「風紀をただし、強軍目標を確かなものにせよ」と訴え、腐敗した軍では国防もおぼつかないとの危惧をあらわにした。
徐氏は江沢民氏を政治的な後ろ盾とし、軍や党内の地位を固めたとされる。
今回の決断には江氏らの抵抗もあったとみられるが、習氏は4月、各軍区幹部が指導部への忠誠を誓う文章を軍機関紙に掲載させるなど、引き締めを進めてきた。庶民感覚とかけ離れた腐敗への対決姿勢を強めて世論を引きつけ、軍の改革を断行する構えだ。(北京=林望)
【その18】(社説)
集団的自衛権の容認 この暴挙を超えて
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11219942.html
戦後日本が70年近くかけて築いてきた民主主義が、こうもあっさり踏みにじられるものか。
安倍首相が検討を表明してからわずかひと月半。集団的自衛権の行使を認める閣議決定までの経緯を振り返ると、そう思わざるを得ない。
法治国家としてとるべき憲法改正の手続きを省き、結論ありきの内輪の議論で押し切った過程は、目を疑うばかりだ。
■解釈改憲そのもの
「東アジアで抑止力を高めるには集団的自衛権を認めた方がいい」「PKOで他国軍を助けられないとは信じがたい」
一連の議論のさなかで、欧米の識者や外交官から、こうした声を聞かされた。
だが、日本国憲法には9条がある。戦争への反省から自らの軍備にはめてきたタガである。占領政策に由来するとはいえ、欧米の軍事常識からすれば、不合理な制約と映るのだろう。
自衛隊がPKOなどで海外に出ていくようになり、国際社会からの要請との間で折り合いをつけるのが難しくなってきていることは否定しない。
それでも日本は9条を維持してきた。「不戦の国」への自らの誓いであり、アジアの国々をはじめ国際社会への宣言でもあるからだ。「改めるべきだ」という声はあっても、それは多数にはなっていない。
その大きな壁を、安倍政権は虚を突くように脇からすり抜けようとしている。
9条と安全保障の現実との溝が、もはや放置できないほど深まったというなら、国民合意をつくった上で埋めていく。それが政治の役割だ。その手続きは憲法96条に明記されている。
閣議決定は、「できない」と政府が繰り返してきたことを「できる」ことにする、クロをシロと言いくるめるような転換だ。まごうことなき「解釈改憲」である。
憲法の基本原理の一つである平和主義の根幹を、一握りの政治家だけで曲げてしまっていいはずがない。日本政治にとって極めて危険な前例になる。
自民党の憲法改正草案とその解説には「公益及び公の秩序」が人権を制約することもありうると書いてある。多くの学者や法律家らが、個人の権利より国益が優先されることになると懸念する点だ。
極端な解釈変更が許されるなら、基本的人権すら有名無実にされかねない。個人の多様な価値観を認め、権力を縛る憲法が、その本質を失う。
■自衛隊送り出す覚悟
安倍政権による安全保障政策の見直しや外交が、現実に即しているともいえない。
日本がまず警戒しなければならないのは、核やミサイル開発を続ける北朝鮮の脅威だ。
朝鮮半島有事を想定した米軍との連携は必要だとしても、有事を防ぐには韓国や中国との協調が欠かせない。しかし両国との関係が冷え切ったまま、この閣議決定がより厳しい対立を招くという矛盾。
尖閣諸島周辺の緊張にしても、集団的自衛権は直接には関係しない。むしろ海上保安庁の権限を強めることが先との声が自衛隊の中にもあるのに、満足な議論はなされなかった。
集団的自衛権の行使とは、他国への武力攻撃に対し自衛隊が武力で反撃することだ。
それは、自衛隊が「自衛」隊ではなくなることを意味する。くしくもきのう創設60年を迎えたその歴史を通じても、最も大きな変化だ。
自衛隊は日本を守るために戦う。海外で武力は使わない。そんな「日本の常識」を覆すに足る議論がなされたという納得感は、国民にはない。
つまり、自衛隊員を海外の、殺し、殺されるという状況に送り込む覚悟が政治家にも国民にもできているとはいいがたい。
それは、密室での与党協議ではなく、国会のオープンな議論と専門家らによる十分な論争、そして国民投票での了承をへることなしにはあり得ない。
安倍政権はそこから逃げた。
首相はきのうの記者会見でも、「国民の命を守るべき責任がある」と強調した。
だが、責任があるからといって、憲法を実質的に変えてしまってもいいという理由にはならない。国民も、そこは見過ごすべきではない。
■9条は死んでいない
解釈は変更されても、9条は憲法の中に生きている。閣議決定がされても、自衛隊法はじめ関連法の改正や新たな法制定がない限り、自衛隊に新たな任務を課すことはできない。
議論の主舞台は、いまさらではあるが、国会に移る。ここでは与党協議で見られたような玉虫色の決着は許されない。
この政権の暴挙を、はね返すことができるかどうか。
国会論戦に臨む野党ばかりではない。草の根の異議申し立てやメディアも含めた、日本の民主主義そのものが、いま、ここから問われる。
【その19】
(声)① 閣議決定は違憲で無効です
弁護士 大森典子(東京都 71)
安倍内閣は集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。しかし我が憲法98条は「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」と定めている。また、憲法は解釈でいかようにも内容を変えることができるものではない。条文の許す解釈の「限界」があることは、法解釈学の常識である。
歴代内閣は憲法9条2項の文言のもとで、個別的自衛権の行使と自衛隊の存在を合憲としてきた。その論理から当然のこととして、自国が攻撃されていないのに、他国の防衛のために出動する集団的自衛権は行使できないとしてきた。
この解釈は、いわば9条2項の許す解釈の限界である。「集団的自衛権の行使も許される」とする閣議決定は解釈の限界を超え、違憲で、無効である。
憲法は主権者である私たちが決めるものである。一内閣の「憲法破壊」を許してはいけない。この違憲無効の閣議決定を一日も早く撤回させるために、また、違憲の閣議決定を行った首相を憲法99条の「憲法尊重擁護義務」に違反した者として退任させるべく行動していこうではないか。
(声)② 行使容認の日は「憲法の命日」
無職 真鍋和瑞(福岡県 75)
日本は憲法9条により武力を放棄した。自衛隊は保持しているが、歯止めはかけてきた。今、その一線が越えられようとしている。集団的自衛権の行使容認はいかに限定的であれ、事実上の憲法破壊に等しい。7月1日、容認が閣議決定された。それは「憲法の命日」として記憶される日になるかもしれない。 日本の安全保障の大転換に臨んで、行使について「どちらとも言えない」と答えた人が37%もあった(5月のNHK調査)。分からないでもない。集団的自衛権、集団安全保障と分かりにくい用語が交錯し、自民党の戦術も変幻を極めたからだ。しかし、反対派56%に対して賛成派28%(本紙6月23日)と、反対派が大きく上回っているのも、また、事実である。
武力には武力の応酬が必至だ。集団的自衛権の問題は、与党間の協議ですませてよい問題ではない。手続きが不十分と考える人は76%(同)に達する。全国民的議論に基づき、憲法改正の手続きを通じて判断されるべき重大事である。閣議決定がなされようとも、その決定とそれに基づく具体的措置は法的に無効だと思う。裁判所の違憲判決を待つほかないのだろうか。
(声)③ 犠牲者ゼロは自慢になるのか
無職 風間禎之助(東京都 71)
集団的自衛権の行使容認が閣議決定されました。私は支持します。反対する意見の中で「日本の自衛隊は、これまで1人の犠牲者も出していない。1人も他国の兵士を殺していない」という声が聞かれました。それは、本当に自慢すべきことなのでしょうか。
1991年の湾岸戦争では、命がけで戦っている多国籍軍を日本は傍観していただけではないでしょうか。だから、130億ドルもの戦費を負担しながら、あまり感謝もされませんでした。
イラク戦争後の復興支援で、サマワに派遣された自衛隊は武器使用基準が他国より厳しいため、何かあればオーストラリア軍に警護を頼むことを想定するという有り様でした。今もアフガニスタンなどで、治安維持のために危険な任務に就いている他国の兵士に、「日本は1人も殺していない」と胸を張って言えるのでしょうか。
私も戦争は絶対に避けてほしいし、どの国の兵士も死んでほしくない。しかし「勉強をしたい」と願っただけの少女を銃撃する人たちが、世界にはいるのです。「自分たちが犠牲になりたくない」と言って、現実から逃れ続けているだけでいいのでしょうか。
(声)④ 国際社会で通用する論理か疑問
会社員 海老根喜昭(神奈川県 58)
安倍内閣が解釈改憲を実行に移した。平和の党を自任する公明党には「日本を救ってほしい」と期待したが、裏切られた格好だ。
集団的自衛権の行使容認への疑問はいくつもある。「明白な危険がある場合」といった要件が、有事の際にどのくらい歯止めとなりうるのか。「我が国のため」という理屈で、なぜ他国での軍事行動が容認されるのか。また、広範に武力行使が認められるような解釈を示しておきながら、場合によっては「そのケースでは参加できません」と言うことが可能なのだろうか。
さらに、実際にどのような事例が集団的自衛権行使の「対象外」になるのか。フィクションではなく、具体的に示してほしい。
与党協議などで努力したつもりの「歯止め」も、同盟国などの圧力の前に際限無く解除されていくのが目に見えるようだ。自国の都合だけの「集団的自衛権」など、国際社会で通用するとはとても思えない。
そもそも過去の戦争は、「わが国の国益、国民を守るため」に始まったのではなかったか。ことは国民の生命に関することである。あいまいな説明は許されない。
(声)⑤ 無言館で「戦争と命」を思う
無職 伊藤正則(静岡県 78)
長野県上田市にある無言館で1日を過ごした。太平洋戦争中、志半ばで戦場に散った画学生たちの残した絵画や愛用品を展示している美術館だ。
いいなずけ、妻、母、妹ら女性を描いた絵が多いが、暗い色調ではあってもあまり悲しくみえないのは、愛する人を描き残すことができたからだろうか。一方、絵の具がはげた自画像に接すると、生きたいとの思いが正面を見据えた目から伝わってきて切ない。
亡くなったのは20歳代がほとんど。出征直前まで描いていたという絵の前に立つと、若者の夢を絶った「赤紙」の罪の重さが改めて強く思われる。
彼らの絵は、最愛の女性にせよ、草花やふるさとの川にせよ、平和に生きることを愛する心がなければ描けなかったと思う。無言館にあるのは、戦争という時代の中で、絵を描く夢を最後まで追い続け情熱を燃やし続けていた若者たちの「遺言」のような絵だ。憲法9条がないがしろにされ、再び戦火への懸念が広まろうとしている今、私たちは何を考えどう行動すべきか、考えさせられた長い1日だった。
【その20】(安全保障を考える)
日本のこれから 神保謙さん、山本義彦さん
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11219974.html
安倍内閣が集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った。戦後日本が守ってきた安全保障政策の大転換によって、国際社会における日本の存在感や立ち位置はどう変化するのだろうか。それは歴史的にどんな意味を持つのだろうか。
■中国との対話、扉のその先へ 慶応大学准教授・神保謙さん
今回の閣議決定のリアルな意義は、三つあると考えています。
第一は年末をめどに改定をめざす新しい「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)に向けた基盤整備です。朝鮮半島有事をにらんだ日米防衛協力の強化は1990年代からの懸案でしたが、現在は中国の軍事的台頭を牽制(けんせい)する意味合いが強くなりました。
集団的自衛権が行使できれば、平時に日本周辺でおこなう日米共同の警戒監視活動の幅が広がる。戦争や武力攻撃を受ける手前のグレーゾーン事態(準有事)にも日米協力を背景に間断なく備えられます。米財政の悪化と他国への「介入疲れ」に苦しむ米国の負担を減らす面でも意味があります。
第二は国際協力での日本の役割の向上です。国連平和維持活動(PKO)は伝統的な平和維持という静的役割から、部隊装備の強化と強い権限を持った積極的PKOへと多様化している。停戦合意の成立など自衛隊の派遣基準となるPKO参加5原則に基づく現行法はもはや現状に合わない。PKOは多国間のチーム活動だけに、国際標準に日本が合わせなければ活動が円滑に進みません。集団安全保障の議論に関連して、自衛隊員と離れた所にいる人が襲われた場合に隊員が武器を持って駆け付ける「駆けつけ警護」で武器使用を認めることは、日本が国際標準に近づく一歩になります。
第三はグレーゾーン事態への具体的な対応です。今回は運用の改善にとどまるので物足りないのですが、日本の領土防衛にからみ、武力攻撃には至らないが警察権では対処できない事態へのリスクが高まっている。自衛隊法と海上保安庁法の隙間を埋める法的基盤整備は依然、必要です。
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<外交にはプラス> 日本外交にとってはプラスが多い。米国は集団的自衛権の行使容認を「歓迎し支持する」との立場を表明しており、日米は良好な関係が続くでしょう。一方、中国からの批判は避けられませんが、日中関係の基本的構図は変わらない。中国は尖閣問題や歴史認識で反日キャンペーンを展開し、日米離間策として米国を取り込もうとしました。しかし、集団的自衛権の行使容認は日米同盟を強化することになり、中国が批判するほど日米は結束する。結局、中国は静観せざるを得ないでしょう。
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<仲間を取り込め> むしろ外交で私が心配するのはこれからの日本の姿勢です。
安倍晋三首相は国家安全保障会議(日本版NSC)の設立、武器輸出の新原則決定、防衛費の増額など、日本が抱えてきた安全保障上の課題を着実に進め、集団的自衛権の行使にも道を開いた。
昨年末の靖国参拝以後は、「歴史修正主義者」と受け取られかねない行動を慎み、日米関係を安定化させようとしてきました。首相が本来もつ保守主義の側面を抑制し、リアリストに徹した自省的な姿勢を貫くことができるかがポイントです。首相が持つ保守の側面が再び強まり、それが外交に影響するようだと、リアリストの評価が反転する恐れがあります。
日米関係を固めたいま、私が期待するのは、国際的なパワーバランスの変化にそったリアルな外交・安保政策です。世界で台頭するのは中国だけではない。インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、オーストラリア、ロシアなど、世界で様々な国が力をつけています。そうした国々と関係を築き、仲間に取り込むのです。
その際、留意するべきは、単純な中国包囲網にしないことです。こうした国々の多くは中国と経済関係があり、日本か中国かという二者択一を迫るのは無理。中国と関係を発展させつつ、「中国のこの部分は許せない」という共通点を見つけるというような「ニュアンスのある戦略的な協調関係」が大切です。それは中国を平和外交に引き込む戦略でもあります。
安倍首相には中国と対立する外交ではなく、中国と向き合ってほしい。「対話のドアは常にオープンだ」と言うだけではなく、自らドアを出てはどうでしょう。東シナ海上で不測の事態に備える「海上連絡メカニズム」の構築など、日中の危機管理体制は喫緊の課題です。世界が望むのは、何より日中関係の安定なのです。(聞き手・吉田貴文)
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じんぼけん 74年生まれ。専門は国際安全保障。東京財団上席研究員、キヤノングローバル戦略研究所主任研究員などを兼任。共著に「学としての国際政治」。
■9条空洞化、「敵」抱える国に 静岡大学名誉教授・山本義彦さん
集団的自衛権の行使容認を閣議決定したことは、平和主義を掲げた日本国憲法に基づく戦後体制の百八十度転換です。
自衛隊はそもそも、日本が自主的に作った存在ではなく、朝鮮戦争で手薄になった日本防衛の穴埋めに、米国の求めに応じて作られたことが始まりです。だから戦力の不保持を定めた現行憲法で、ぎりぎりの解釈として、専守防衛という枠組みを作ったわけです。その自衛隊が本格的に海外で軍事行動ができるようにするというのは、現行憲法の根幹を潰すこと以外の何物でもありません。
それはまた、ポツダム宣言やその延長線上にあるサンフランシスコ講和条約の考え方を否定することです。アジア・太平洋戦争に敗れた結果、連合国はポツダム宣言で日本に民主主義の実現と平和的国家の構築を求めました。こうした考えを受け入れた日本は憲法第9条で具体化させ、天皇制を含む統治機構を存続させました。
戦後60年余、この考えに基づいて外交や防衛をしてきました。今回の閣議決定で、平和国家という日本の国柄は、戦争ができる国、憲法という言葉だけで平和を唱える国へと、大きく変わります。
戦後社会の根幹だった9条の正式な改正を提起することなく、内閣の解釈変更で空洞化させるのは、安倍政権による「憲法クーデター」と言ってもいいでしょう。
安倍政権は、一方で中国などに法の支配を求めながら、自らは平気で法の破壊を行おうとしています。こうしたごまかしを積み重ねることで、政治体制や法制度に対する国民の不信感が大きくなるでしょう。社会規範が守られず、「強い者に従っていれば取り繕える」と言う風潮を助長していくに違いありません。
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<扇動する政治家> それにしても、国民や野党の間に、これだけの転換に対する拒否反応がいま一つ出てこないのはどうしたことか。雇用が回復したといっても不安定な非正規の職場の有効求人倍率が高まっているだけで、人々は日々の不安に追われています。集団的自衛権で懸念されるような戦争や徴兵制といった「将来の危機」については、目が行きにくいのかもしれません。
安保闘争などかつて国論を二分するテーマで市民を束ねる大きな力になった労働運動が、旧国鉄の民営化を手始めにしてガタガタになってしまった。日教組にもかつての活力は残っていません。
加えて、メディアの責任も大きい。こうした本質的な問題の提起より、面白い話題、おかしなニュースが、日々、氾濫(はんらん)しています。
こうした背景の中で、政治家の劣化が進み、批判力を失うどころか、扇動者にすらなっている。戦前にもあったことですが、海軍の軍縮を進めようとした浜口雄幸内閣を攻撃するため、軍の統帥権を聖域化させたのは、反対党の犬養毅や鳩山一郎でした。日中戦争でも議会が「暴支膺懲(ぼうしようちょう)」を声高に唱え、国民をけしかけました。
いま、アジアでの安全保障環境が険しさを増しているとか、シーレーン防衛の必要性を掲げ、朝鮮半島有事の時に「赤ちゃんを抱えたお母さんが米軍の艦船で帰ってくる時、自衛隊が守れない」などと言っています。しかし、米軍は「自国民は守るが、他国民はその国の責任」と言っているわけで、結局は危機感をあおる扇動です。扇動は政治家の仕事ではありません。危機があれば顕在化させないよう全力を振るうのが責務です。
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<標的になる日本> 国柄を転換させた後、日本が向かうのは欧米と同じ、「敵」を抱える普通の国でしょう。日本のNGOも単独の組織とは見なされず、自衛隊の別動隊と見られるでしょう。アルジェリアのプラント建設で日本人が殺されましたが、こうしたテロや攻撃の標的になるケースがドンと増えるでしょう。平和憲法の国という特殊性を捨てた日本が待っているのは、そうした苛烈(かれつ)な世界です。
ただ、私は望みは捨てていません。今回の憲法クーデターの結果、「憲法とは権力を縛る国民の道具だった」と理解する人たちが出てきたからです。国民自らが考え、作り、守る憲法。真の立憲主義が日本に根付く契機になるなら、安倍さんの功績でしょう。(聞き手・駒野剛)
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やまもとよしひこ 44年生まれ。専門は戦間期日本経済史、政治思想史。戦前のジャーナリスト清沢洌の研究でも知られ、「暗黒日記」(岩波文庫)編者。
【その21】 「2世3世が語るしかない」
沖縄戦で自決、大田中将の子孫 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220089.html
この現状をなんとかしないといけない。でも何をすればいいのか。広島市の病院職員、大田聡さん(53)はため息をついた。
先月13日、祖父が眠る沖縄県豊見城(とみぐすく)市を訪れた。祖父は旧日本海軍の大田実中将。69年前の沖縄戦を指揮し、沖縄への配慮を求める電報を打って自決した。
《沖縄県民斯(カ)ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ》
16歳のとき、白木の箱のしゃれこうべを見せられた。祖父だった。後頭部に小さな穴。ピストルを口にくわえて引き金をひいた痕だ。沖縄への納骨を控え、「お前も見ておきなさい」と父の英雄さん(享年70)に言われた。
英雄さんは、中将の長男。11人きょうだいの6番目だ。軍国少年で、父・中将の死に「米英に必ずかたきを討つ」と思っていた。しかし、骨になった父を見て、軍人への疑問が膨らんだ。やや黒ずみ、前歯がなくなった顔。これが戦争か。「戦争に、いい戦争も悪い戦争もない」。高校の日本史教師の道に進み、退職後も若い世代に説いた。
英雄さんの五つ下の弟は、正反対の道を歩んだ。落合たおさ(たおさ)さん(74)=神奈川県鎌倉市。湾岸戦争が勃発した91年、政府がペルシャ湾に派遣した海上自衛隊の機雷掃海部隊の指揮官に命ぜられた。
日本から約1万2千キロ。米軍の駆逐艦やヘリに護衛されながら、国籍不明の高速艇に囲まれたり、米軍ヘリが撃たれたりしたが、何も対処できなかった。国防について、兄の英雄さんと論争したこともある。「兄が言うのは平和と叫ぶだけの観念論。現実社会では通用しない」。集団的自衛権の行使容認は遅きに失したくらいだと考える。
戦争に突き進み、もうこりごりだと考えた祖父の世代。憲法9条と自衛隊という存在のはざまで揺れた父親の世代。では、その次は――。聡さんは自問する。
沖縄では軍隊が住民を守らなかった。「国民を守る」と言われても、集団的自衛権には反対だ。だが「大田中将の孫」の肩書を背負って、人を説得する自信はない。戦争体験もない。だから行動ができない。
そんな世代が支える日本が、戦争のできる国になろうとしている。それにはやっぱり反対だ。「いまは2世、3世が語るしかないのか」
(吉浜織恵、小寺陽一郎)
【その22】
最大の抑止、非戦のはず
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220107.html
■東大教授(日本近現代史)・加藤陽子さん
集団的自衛権の行使容認で、政権は中国へ無言の圧力をかけたいのだろう。だが、中国は歴史問題の使い方がうまい。閣議決定は、中国国内の不満を「反日」に振り向けるのに利用されかねない。尖閣周辺での偶発的衝突などは世界が危ぶんでいる。日本の最大の抑止力は「非戦」のはずだ。
閣議決定にある「国民の権利が根底から覆される明白な危険」という言葉は、一見、発動を厳しく限定しているように見えるが、政権が、国の存立や国民の生命、自由の危機について扇動しやすくする面もある。
かつて日本は、多くの兵士の犠牲によって得た中国での権益を「生命線」として手放せず、米英との戦争を避けられなかった。もし海外で自衛隊員が犠牲になれば、国民はその死を深く悼むだろう。追悼の「記憶」が、外交的妥結を難しくすることも懸念される。
【その23】
行使判断、時の内閣任せ
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220105.html
■日赤看護大教授(国際人道法)・小池政行さん
国際法上、自衛権の行使には厳格な要件が求められる。閣議決定では、どういう場合に、どこまで行使するかの判断を時の内閣に委ねる形になった。一定の歯止めではあるが、行政の判断は常に恣意(しい)的であることを忘れてはいけない。
内閣によっては、10人の日本人が犠牲になった昨年1月のアルジェリア人質事件を「明白な危険」と考えるかも知れない。崩壊寸前のイラクを「明白な危険」と考え、兵力投入を迷う欧米を差しおいて自衛隊を投入するかも知れない。
「必要最小限度の武力の行使」が何をさすのかもあいまいだし、自衛権行使の地理的な範囲も限定されていない。背景にあるのは、日本も世界の紛争に介入し、欧米と同じような役割を担いたいという安倍政権の希望だろう。国民に意見の一致はなく国会審議を通した慎重な個別法の策定が課題となる。
【その24】(集団的自衛権)
若者は、戦争体験者は 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220127.html
ガラス細工のように積み上げ、憲法9条の「平和主義」を守ってきた憲法解釈が、政権の手で砕かれた。海外でも武力を使える国へ――。戦後69年。歴史的な大転換に、戦争をくぐり抜けた世代も、これからを担う世代も抗議の声をあげた。
■若い世代は 「戦争は遠い話」「びびってます」
8:00 東京・永田町の衆議院第二議員会館で自公合意が成立。しばらくして、官邸前にデモ参加者が続々と集合してきた。若者の姿はあまりみえない。
10:15 東京都千代田区の靖国神社。私立大学1年の女子学生(19)が、散歩にやってきた。集団的自衛権についてはよく分からないという。「私たちの世代はぬるま湯につかっていて実感がわかない」
12:15 「日々の生活で精いっぱいで、戦争はあまりに遠い話です」。名古屋・栄のバスターミナルにいた名古屋市中村区在住の尾上慧さん(23)は言った。在学中に就職が決まらず、アルバイトを掛け持ちしながら求職活動中だ。
14:00 官邸前で汗をぬぐいながら叫んでいた山梨大医学部4年の若松宏実さん(24)は、フェイスブックでデモを知って初めて参加した。「自分なんかがと思ったが、山梨でテレビを見ているよりは」と電車に飛び乗ったという。
14:20 東京・秋葉原の玩具店で航空母艦「赤城」を手に取っていたのは東京都三鷹市の飲食店アルバイト、掛居悠人さん(22)。「豪快でゴツゴツした感じにひかれる」。艦隊をテーマにした人気ゲームの影響を受けた。5月には神奈川県横須賀市に米軍艦を見に行った。初めてのリアル。「ゲームでは撃沈されてもチェッと思うだけ」。でも、徴兵制につながる懸念を伝えるニュースを見て、ひとごとではないとも思い始めた。「太平洋のど真ん中で海底に沈むなんて想像したくない」
17:40 甲府市の大学2年、佐藤駿さん(20)は、自宅のテレビで閣議決定のニュースを見た。「親しい国を守れる」と賛成の立場だ。ツイッター上の「徴兵は嫌だ」とか、「戦地で殺されたくない」との意見には「戦地に行くのは自衛隊」と反論する。徴兵は、あり得ないと思っている。
18:00 渋谷駅前のスクランブル交差点に面した大型画面に、閣議決定を伝えるテロップ情報が映し出された。「とにかく戦争に巻き込まれるのだけは嫌」。都内に住む大学2年の女子学生(19)はちらっと視線を上げただけだった。
18:20 埼玉県内にある自衛隊採用試験の専門予備校前。授業を終えたばかりの県内に住む男子生徒(19)は閣議決定の知らせを聞き、ため息をついた。3年前、東日本大震災で雪が舞う中、泥をかき分けて捜索する隊員たちの姿をテレビで見た。「誇りの持てる仕事だと思った。戦争がしたいわけではない。自衛官の姿が少し遠くなった。正直びびってます」と話した。
18:30 防衛省近くの法政大市ケ谷キャンパス。「憲法」の授業で、阪田雅裕・元内閣法制局長官の講演が終わった。授業後、法学部4年の男子学生(27)は「今日は戦後70年近く日本が守ってきた平和憲法の理念が崩れてしまった日」と肩を落とした。
■元兵士らは 「限定的でも引きずりこまれる」
「後戻りのできない戦争参加の道を切り開いてしまったのではないか」。佐藤栄三さん(96)=大分県別府市=は1939年、旧満州国とモンゴルの国境で起きたソ連との紛争「ノモンハン事件」に加わった。最前線の歩兵部隊だった。
夏のある夜。川の対岸のソ連軍に夜襲をしかけた。逃げ遅れたソ連兵をほかの日本兵と一緒に銃剣で刺した。生きるか死ぬか。「人を刺し殺しても、何の感情もわかなかった。限定的だといっても、ひとたび戦闘に入るとひきずりこまれていくものだ」
旧陸軍の戦闘機「隼(はやぶさ)」を操縦した関利雄さん(90)=さいたま市=は、敵の弾が自分の機体を貫く「カン、カン」という乾いた音を覚えている。シンガポールやインドネシアで敵機を撃ち落としたが、命からがらだった。弾を無駄にしないよう敵機が目前に近づくまで攻撃できなかった。
閣議決定文を見て思う。どんな行為が「武力攻撃」か、どういう状況が「生命の危険」か。「戦場では想定通りにはいかないし、線引きは意味をなさない。武力を用いなくて済む方法を模索してほしい」と願う。
「一握りの人たちでこんな重要なことを決めてしまって」。沖縄戦で両親、きょうだい計4人を亡くした内間善孝さん(77)=沖縄県沖縄市=は日本が危うい一歩を踏み出したように思えてならない。
戦争中、旧日本軍が司令部を撤退させた沖縄本島南部に住んでいた。砲弾の破片が数メートル先に落ちた。「部隊があるところを敵は攻めてくる。米国の戦争に巻き込まれれば、狙われるのは基地のある沖縄だ」
被爆者たちがつくる長崎原爆遺族会の正林克記(かつき)会長(75)=長崎市=は2007年の平和祈念式典で体験を読み上げた。目の前にいたのは、第1次政権を担っていた安倍晋三首相。「平和への願いが通じていないのかと、むなしくなる」
被爆当時、6歳。血だらけになった体で、3歳の妹をおぶって逃げた。母は30年ほど前、被爆が原因とみられるがんで死んだ。「武力行使すれば復讐(ふくしゅう)心が起こる。平和憲法で築いてきた世界の信頼と国民の安全安心を壊しかねない」
【その25】
列島、抗議のうねり 集団的自衛権閣議決定
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11220129.html
抗議のうねりは、日本各地に広がった。東京の首相官邸前。自公協議があった午前に始まった抗議活動は、夕方の閣議決定を過ぎて夜半まで及んだ。主催者によると、参加者は1万人規模に達したという。
「9条を壊すな」。参加者が交代でマイクを握り、官邸に向かって叫んだ。5歳の長男を幼稚園に預けて来た40代の主婦はこう呼びかけた。「いくら反対しても安倍首相の思い通りに進んでいく。やりきれない思いでこの場に来ました」。7カ月の長女を抱く神奈川県鎌倉市の会社員向山真衣さん(29)も「子どもが大きくなった時に戦争に巻き込まれる国になって欲しくない」と話した。
「閣議を中止しろ」との叫び声は午後5時半、「閣議決定」のニュースが流れると、「撤回しろ」の連呼に変わった。スーツ姿で声をからす千葉市のシステムエンジニア清水真先さん(40)は「憲法は私たち国民のものなのに」と憤った。
名古屋市の繁華街では、市民団体のメンバーら約30人が「絶対に戦争はいや」と書かれたチラシを配り、福岡市では、市民団体のメンバーらが「子どもたちを戦場に送ってはならない」と街頭で反対の署名を呼びかけた。
広島市の原爆ドーム前。抗議集会には、約600人が参加した。秋葉忠利・前広島市長が「広島は体を張り、若い世代のために頑張る必要がある」と訴えた。
福井市のJR福井駅前では、市民団体の呼びかけで集まった30人が「日本は戦争をする道に入った」と抗議の声を上げた。終戦直前の福井空襲で母親を亡くした元銀行員の山野寿一さん(77)は「若い人に私と同じ悲しい思いをさせたくない」。今後、関連法案の審議もある。あきらめずに反対運動を続けるという。