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  02 24 ピケティ流 富の再分配   シンポジウム「広がる不平等と日本のあした」

 02 24 (火) ピケティ流 富の再分配   シンポジウム「広がる不平等と日本のあした」

2015年2月24日
ピケティ流、富の再分配とは
   シンポジウム「広がる不平等と日本のあした」

    http://digital.asahi.com/articles/photo/AS20150224000228.html

 世界的ベストセラー「21世紀の資本」の著者でパリ経済学校教授のトマ・ピケティ氏を招いたシンポジウム「広がる不平等と日本のあした」(主催・朝日新聞社、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、協力・みすず書房)が1月29日、都内で開かれた。ピケティ氏が基調講演し、日米欧の各国内で所得や資産の格差が拡大していくことに警鐘を鳴らした。パネル討論には、政府の経済政策にかかわる西村康稔内閣府副大臣らが参加。日本経済の現状や、経済成長と格差解消を両立させる課税のあり方について話し合った。

 ◆キーワード

 <「21世紀の資本」>
 欧米を中心に、200年超にわたる税務記録を分析。資産を運用して得られる利益率(資本収益率)が、働いて得られる所得の伸び(経済成長率)を常に上回ることを示した。そのため放っておくと、不平等は拡大すると指摘。各国が協調して、所得と資産に対する累進課税制を導入するよう提言する。日本語版はみすず書房から昨年12月に刊行。

 ◆教育機会の差、所得差に ◆戻ってきた世襲社会 パリ経済学校教授、トマ・ピケティ氏

 富の分配という問題は、19世紀にはリカードやマルクスが政治経済学の中心に置いていたが、20世紀に入ると中心から外れていった。経済の発展が進めば不平等は自然に縮小するものだと、多くの経済学者が楽観的に考えるようになったからだ。しかし、いま、そんな話を本気で信じている人はいない。この数十年間、多くの国で、不平等が大きく拡大しているのだ。

 米国の経済学者クズネッツが指摘したように、1920年代から50年代にかけて、所得の不平等は大きく縮小していた。しかし、80年代くらいから拡大し始め、今や20年代よりひどくなっていると言える。

 不平等が拡大したのはグローバル化で熟練度の低い労働者の賃金が下がったからだ、という考え方を多くの米国人は好む。重要でないとは言わないが、それだけでは十分説明できない。

 私がまず指摘したいのは、教育における不平等が所得の不平等につながっていることだ。米国の下位50%ないし70%の所得層は、公立の高校か短期大学に進むことが多いが、ここには公的な投資があまりされていない。これに対し、名門大学にはお金がつぎ込まれている。ハーバード大学生の親の平均所得は、米国の上位2%にあたる。教育機会の不平等はフランス、そして日本にもある。

 労働市場の制度も重要だ。米国では、労働組合が弱くなっただけでなく、最低賃金も歴史的に見て非常に低くなっている。最上位の所得層にかかる税金が安くなったことも影響している。これでは、経営者たちが自分の給料をどんどん上げたくなるだろう。

 資産の不平等は、長い目で見れば所得の不平等より重要だ。上位10%の人たちが、欧州で60%、米国で70%の資産を所有している。日本では50~55%くらいという分析があるが、私は過小評価されていると思う。

 現在の資産の不平等は、1世紀前ほどひどくはない。しかし、国民所得に比べてどれくらいの資産が存在するかを見ると、歴史的にも非常に高い水準になっている。第1次世界大戦、大恐慌、第2次世界大戦で落ち込んだが、その後増加しているのだ。

 世襲社会、相続財産に依存する社会が戻ってきている。とくに欧州と日本で。経済成長率が低いため、過去に蓄積した資産が重要になるからだ。それは、親の資産なしに自分の給料だけで東京やパリで住宅を買おうとすると、非常に難しくなることを意味する。

 長い間、米国や英国は、課税制度を強力に使い、富の再分配をしてきた。戦争による富の破壊やインフレなど、再分配に効果をもたらすものは色々ある。私は、累進課税が最も透明性が高く、最も民主的なやり方だと思う。不平等と富をめぐる民主的な議論に貢献すること、それが私がこの研究でやろうとしたことである。

 <パネルディスカッション>

 ◆パネリスト(敬称略)

   パリ経済学校教授 トマ・ピケティ
      日本の累進課税 強めては
   上智大教授 鬼頭宏
      富裕層に寄付を促しては
   OECD(経済協力開発機構)事務次長 玉木林太郎
      格差拡大 成長にマイナス
   内閣府副大臣 西村康稔
      閉塞感 技術革新で克服を
   (コーディネーターは朝日新聞論説主幹・大野博人)
       ◇

 鬼頭 日本では高齢者が資産を持っている。これを商品に向けようと、教育や住宅資金の贈与を優遇して子や孫に移し、消費を増やそうとしている。けれども金持ちの子と、そうでない子どもとの間に大きな格差が生まれる懸念がある。納税とは別に、富裕層が芸術や文化、慈善事業に寄付をすることで、もっと自由度の高い資産の再分配が可能になるのではないか。

 玉木 OECDのほとんどの国では1985年から最近まで格差が拡大している。日本も例外ではない。我々の最近の研究では、格差が拡大すると成長にマイナスの効果をもたらす。日本も、実際の成長率は可能だった成長率より低下したといえる。成長をうながす上でも格差問題は取り組まざるをえないテーマだ。

 西村 かつて1億総中流といわれたが、アンケートでは今でも9割の日本人が中流意識をもっている。上位1%の富裕層の所得シェアは日本9%、フランス8%、米国約20%。経営者の給料と労働者の平均所得との差も日本は小さい。相続税が総税収にしめる割合も日仏は変わらず、米国は低い。格差は米国で大きく、日仏は同じような感じだ。

 人口が減ってくると成長力が衰え、ピケティ氏の主張によれば格差が開く。人口減という閉塞(へいそく)感を打ち破り、イノベーション(技術革新)を起こさなくてはいけない。規制緩和などで、まず成長を取り戻すことに注力している。

 ピケティ 人口が減り続けるのは怖いことだ。もし、どの家も子どもが10人もいるような社会なら、遺産をあまりあてにできないだろう。それが、ひと家族あたり一人しか子供がいなければ、相続の重要性が増す。不平等の構造に影響を及ぼすことになる。だから長い目で見て最も重要な不平等対策は、人口を少しでも増やすことだ。

 日本の不平等は、たしかに米国ほどではないが、増大している。ゼロに近い成長のときに国民所得に占める上位の人々のシェアが増えるということは、購買力を減らしている人がいるということだ。深刻な問題だ。

 日本の最高所得への税率は、過去の水準、あるいは国際的な水準から見ても、高くはない。トップの人の所得は増えているのに、税率は低い。私は、日本の税制は、もっと累進を強めることができると思う。消費税の増税は、私には正しい方向とは思えない。低所得者、中所得者の税は減らし、高所得の人や資産の多い人には高めの税金をかける方が、日本の経済状況に合っているのではないか。

 大野 累進的な資産課税はピケティ氏の提案のなかでも非常に議論を呼んでいるものの一つだ。資産が国境を超えて動く時代に、そんなことが可能なのか。

 玉木 まだたくさんの課題があることは否めない。最大の問題は、各国の資産課税に対する考え方が、所得課税に対するほど、成熟し、共通したものとなっていないことだ。

 ただ国際的な法人課税の分野では、この数年、長足の進歩があった。資産課税であれ所得課税であれ、我々は極めて有効な方策を将来、取り得る可能性がある。議論を現時点で封印する必要はない。

 大野 会場からもご感想を。エッセイストの小島慶子さん、どうぞ。

 小島 税金を取られるほうはどうすれば納得するのか、ずっと考えていた。

 大野 連合の古賀伸明会長からも、お聞かせ下さい。

 古賀 格差の問題は、ITの進化で雇用の質が二極分化していくことからも顕著になってくると思うが、この課題をどうとらえるべきか。

 ピケティ 富裕層が、中間層や貧困層の利益のために累進課税を受け入れるにはどうしたらいいか、というのは非常に複雑な問題だ。ただ言えるのは、正義がなければ、グローバルで開かれた経済を維持できなくなるということ。これを富裕層も理解する必要がある。さもなければ、グローバル化への反発や排外主義が広がりかねない。

 技術革新と不平等との関係も難問だ。最善の対応は教育に対する投資だ。日本もそうかもしれないが、特に欧州では、大学に十分な投資がなされていない。世界のトップ大学の9割が、大西洋の向こう側、すなわち米国にあるというのは望ましい状況とは言えない。21世紀にバランスの取れた成長が果たせるかどうかは、高等教育への投資にかかっている。

 (構成・山下龍一、末崎毅、青山直篤)

     ◇

デジタル版に特集(http://t.asahi.com/h0p4)、会員の方は講演の模様を動画で見ることができます

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   ピケティ論争、日本白熱 格差拡大に警鐘「21世紀の資本」 高所得層が強い関心(2/3) ⇒後出
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   (書評)『21世紀の資本』 トマ・ピケティ〈著〉(12/21) ⇒後出


 イ (2/3)
   ピケティ論争、日本白熱 格差問題、議論が活性化
     http://digital.asahi.com/articles/ASH225GRYH22ULFA023.html?iref=reca
     
 世界的な格差拡大に警鐘を鳴らす「21世紀の資本」の著者、トマ・ピケティ氏が4日間の日本滞在を終えて帰国した。講演や記者会見、学生とのやりとりを通じて問題の深刻さと解決に向けた取り組みを訴えた。その言葉は、日本の格差論議を揺さぶっている。

【特集】トマ・ピケティ氏「21世紀の資本」

 1月30日午後、ピケティ氏は動画配信サイト「ニコニコ生放送」に出演。「成長のために格差は許容すべきか」などの質問に答えた。15分ほどの放送時間に寄せられたコメントは、約6千件。20~30代の若い世代を中心に、録画も含め約1万7千人が視聴した。

 ブームについて、日本語版の訳者の一人、山形浩生氏は「特に所得が上位の層が強い関心を持っているようだ」と指摘する。「これから転落するかも、と思っているのかもしれないし、自分たちだけが富むのはいけないと感じているのかもしれない」

 とりわけ注目されたのが、資産の格差が世襲により固定化するとの主張だ。朝日新聞などが主催したシンポジウムでも、ピケティ氏は「世襲社会が戻ってきている」と訴えた。日本側の登壇者からは、高齢者の資産を若い世代に移すよう促す税制上の優遇措置に触れて「金持ちの子どもと、そうでない子どもとの間に大きな格差が生まれる懸念がある」(鬼頭宏・上智大教授)との声が出た。

 もっとも、ピケティ氏の議論がそのまま日本にあてはまるわけではないとの意見もある。大田弘子・政策研究大学院大学教授は「日本の場合、ピケティ氏の問題意識の中心の米国ほどひどい格差はない。政府による所得再分配の必要性だけを教訓として引き出すのは間違いだ」と指摘する。

 ピケティ氏も、公正な競争の結果としての格差は否定していない。経済成長も重視する立場だ。朝日新聞の取材に対し、「私的財産の保護は、個人の自由や経済効率性を高める上で欠かせない。避けなければならないのは、財産が極端に特定の層に集中することだ」と述べた。

 ピケティ氏が、不平等への主な解決策として示したのは、資産が多ければ高率の税を課す「累進課税」だ。この観点から、お金持ちにも貧しい人にも同じ率でかかる消費税の増税には反対姿勢を示した。だが、森信茂樹・中央大大学院教授は「膨れあがる社会保障費を考えれば消費税の引き上げは避けられない」と話す。

 日本の場合は格差拡大の背景として、資産の個人差が大きくなる高齢化や、正社員と非正規社員の処遇の差など労働市場の問題も大きいと指摘される。人口減が急激に進み、年金の負担が世代間で大きく異なることも格差拡大につながりかねないが、ピケティ氏はこうした日本固有の論点には踏み込んでいない。

 それでも、議論を活性化させたのは間違いない。日本の格差に早くから取り組んできた橘木俊詔・京都女子大客員教授は「格差問題への関心が薄れ、議論が沈静化してしまっていたところにピケティ氏の本が出て、論争を再燃させた」と指摘する。(青山直篤、鯨岡仁)

◆首相、ピケティ人気に警戒感も

 ピケティ人気は政治の世界にも波紋を広げている。

 ピケティ氏にあやかろうとしているのは、アベノミクス批判を展開する民主党だ。長妻昭代表代行が「お会いしたい」と手紙を送り、1月30日には、岡田克也代表ら党幹部とピケティ氏との面会が実現した。

 岡田代表が「かつて1億総中流と言われたが、今はすっかり変わった」と話すと、ピケティ氏は「日本でも富裕層が拡大している。米国ほどではないが、欧州より深刻ではないか」と応じた。民主党は「格差」を国会論戦の最大のテーマに据える。

 安倍晋三首相にはピケティ人気に警戒感もにじむ。

 「ピケティ氏も経済成長を否定していない。しっかり成長して果実がどのように分配されるかが大切だ。成長せずに分配だけを考えればじり貧になる」。1月29日の衆院予算委員会の質疑でピケティ理論を持ち出されると、そう答えた。

 首相は最近、事務方からピケティ氏について解説を受けたという。「反論よりも、国民の恩恵を強調するようにしている」(首相周辺)。2日の参院予算委では、自らの経済政策について、「全体を底上げする政策だ」と力を込めた。

     ◇

 〈21世紀の資本〉 世界で150万部のベストセラー。3世紀にわたる歴史研究をもとに、「資本の収益率(r)が経済成長率(g)を上回る」という不等式を示した。放置すれば、資産家がどんどん豊かになり、経済格差が広がるため、世界規模で資産への課税を強化すべきだと主張している。

  「21世紀の資本」、異例の13万部 関連書籍もヒット
  ピケティ氏、東大で熱弁 格差の世襲化に危機感
  「不平等が拡大」と警鐘 トマ・ピケティ氏が来日講演
  失われた平等を求めて 経済学者、トマ・ピケティ教授
  (ひと)トマ・ピケティさん 不平等の拡大を警告


 ロ (2/3)
   ピケティ論争、日本白熱 格差拡大に警鐘「21世紀の資本」 高所得層が強い関心  
     http://digital.asahi.com/articles/DA3S11582981.html?iref=reca
     
 世界的な格差拡大に警鐘を鳴らす「21世紀の資本」の著者、トマ・ピケティ氏が4日間の日本滞在を終えて帰国した。講演や記者会見、学生とのやりとりを通じて問題の深刻さと解決に向けた取り組みを訴えた。その言葉は、日本の格差論議を揺さぶっている。

 1月30日午後、ピケティ氏は動画配信サイト「ニコニコ生放送」に出演。「成長のために格差は許容すべきか」などの質問に答えた。15分ほどの放送時間に寄せられたコメントは、約6千件。20~30代の若い世代を中心に、録画も含め約1万7千人が視聴した。

 ブームについて、日本語版の訳者の一人、山形浩生氏は「特に所得が上位の層が強い関心を持っているようだ」と指摘する。「これから転落するかも、と思っているのかもしれないし、自分たちだけが富むのはいけないと感じているのかもしれない」

 とりわけ注目されたのが、資産の格差が世襲により固定化するとの主張だ。朝日新聞などが主催したシンポジウムでも、ピケティ氏は「世襲社会が戻ってきている」と訴えた。日本側の登壇者からは、高齢者の資産を若い世代に移すよう促す税制上の優遇措置に触れて「金持ちの子どもと、そうでない子どもとの間に大きな格差が生まれる懸念がある」(鬼頭宏・上智大教授)との声が出た。

 もっとも、ピケティ氏の議論がそのまま日本にあてはまるわけではないとの意見もある。大田弘子・政策研究大学院大学教授は「日本の場合、ピケティ氏の問題意識の中心の米国ほどひどい格差はない。政府による所得再分配の必要性だけを教訓として引き出すのは間違いだ」と指摘する。

 ピケティ氏も、公正な競争の結果としての格差は否定していない。経済成長も重視する立場だ。朝日新聞の取材に対し、「私的財産の保護は、個人の自由や経済効率性を高める上で欠かせない。避けなければならないのは、財産が極端に特定の層に集中することだ」と述べた。

 ピケティ氏が、不平等への主な解決策として示したのは、資産が多ければ高率の税を課す「累進課税」だ。この観点から、お金持ちにも貧しい人にも同じ率でかかる消費税の増税には反対姿勢を示した。だが、森信茂樹・中央大大学院教授は「膨れあがる社会保障費を考えれば消費税の引き上げは避けられない」と話す。

 日本の場合は格差拡大の背景として、資産の個人差が大きくなる高齢化や、正社員と非正規社員の処遇の差など労働市場の問題も大きいと指摘される。人口減が急激に進み、年金の負担が世代間で大きく異なることも格差拡大につながりかねないが、ピケティ氏はこうした日本固有の論点には踏み込んでいない。

 それでも、議論を活性化させたのは間違いない。日本の格差に早くから取り組んできた橘木俊詔・京都女子大客員教授は「格差問題への関心が薄れ、議論が沈静化してしまっていたところにピケティ氏の本が出て、論争を再燃させた」と指摘する。

 (青山直篤、鯨岡仁)

◆国会論戦にも波紋 首相、ピケティ人気に警戒感も

 ピケティ人気は政治の世界にも波紋を広げている。

 ピケティ氏にあやかろうとしているのは、アベノミクス批判を展開する民主党だ。長妻昭代表代行が「お会いしたい」と手紙を送り、1月30日には、岡田克也代表ら党幹部とピケティ氏との面会が実現した。

 岡田代表が「かつて1億総中流と言われたが、今はすっかり変わった」と話すと、ピケティ氏は「日本でも富裕層が拡大している。米国ほどではないが、欧州より深刻ではないか」と応じた。民主党は「格差」を国会論戦の最大のテーマに据える。

 安倍晋三首相にはピケティ人気に警戒感もにじむ。

 「ピケティ氏も経済成長を否定していない。しっかり成長して果実がどのように分配されるかが大切だ。成長せずに分配だけを考えればじり貧になる」。1月29日の衆院予算委員会の質疑でピケティ理論を持ち出されると、そう答えた。

 首相は最近、事務方からピケティ氏について解説を受けたという。「反論よりも、国民の恩恵を強調するようにしている」(首相周辺)。2日の参院予算委では、自らの経済政策について、「全体を底上げする政策だ」と力を込めた。

 ◆キーワード

 <21世紀の資本> 世界で150万部のベストセラー。3世紀にわたる歴史研究をもとに、「資本の収益率(r)が経済成長率(g)を上回る」という不等式を示した。放置すれば、資産家がどんどん豊かになり、経済格差が広がるため、世界規模で資産への課税を強化すべきだと主張している。

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 ハ (1/1) インタビュー2015
   失われた平等を求めて 経済学者、トマ・ピケティさん  
     http://digital.asahi.com/articles/DA3S11532155.html?iref=reca
     
 自由と平等。民主主義の理念のうち、自由がグローバル時代の空気となる一方、平等はしばらく影を潜めていた。だがその間、貧富の差や社会の亀裂は拡大し、人々の不安が高まった。そこに登場したのが大著「21世紀の資本」。不平等の構造をあざやかに描いた著者のトマ・ピケティ教授は「私は悲観していない」という。

◆競争がすべて?バカバカしい 平等と資本主義、矛盾しない

 ――あなたは「21世紀の資本」の中で、あまりに富の集中が進んだ社会では、効果的な抑圧装置でもないかぎり革命が起きるだろう、と述べています。経済書でありながら不平等が社会にもたらす脅威、民主主義への危機感がにじんでいます。

 「その通りです。あらゆる社会は、とりわけ近代的な民主的社会は、不平等を正当化できる理由を必要としています。不平等の歴史は常に政治の歴史です。単に経済の歴史ではありません」

 「人は何らかの方法で不平等を正そう、それに影響を及ぼそうと多様な制度を導入してきました。本の冒頭で1789年の人権宣言の第1条を掲げました。美しい宣言です。すべての人間は自由で、権利のうえで平等に生まれる、と絶対の原則を記した後にこうあります。『社会的な差別は、共同の利益に基づくものでなければ設けられない』。つまり不平等が受け入れられるのは、それが社会全体に利益をもたらすときに限られるとしているのです」

 ――しかし、その共同の利益が何かについて、意見はなかなか一致しません。

 「金持ちたちはこう言います。『これは貧しい人にもよいことだ。なぜなら成長につながるから』。近代社会ではだれでも不平等は共通の利益によって制限されるべきだということは受け入れている。だが、エリートや指導層はしばしば欺瞞(ぎまん)的です。だから本では、政治論争や文学作品を紹介しながら社会が不平等をどうとらえてきたか、にも触れました」

 「結局、本で書いたのは、不平等についての経済の歴史というよりむしろ政治の歴史です。不平等の歴史は、純粋に経済的な決定論ではありません。すべてが政治と選択される制度によるのです。それこそが、不平等を増す力と減らす力のどちらが勝つかを決める」

 ――最近は、減らす力が弱まっているのでしょうか。

 「20世紀には、不平等がいったん大きく後退しました。両大戦や大恐慌があって1950、60年代にかけて先進諸国では、不平等の度合いが19世紀と比べてかなり低下しました。しかし、その後再び上昇。今は不平等が進む一方、1世紀前よりは低いレベルです」

 「先進諸国には、かなり平等な社会を保障するための税制があるという印象があります。その通りです。このモデルは今も機能しています。しかし、それは私たちが想像しているよりもろい」

 「自然の流れに任せていても、不平等の進行が止まり、一定のレベルで安定するということはありません。適切な政策、税制をもたらせる公的な仕組みが必要です」

 ――その手段として資産への累進課税と社会的国家を提案していますね。社会的国家とは福祉国家のことですか。

 「福祉国家よりももう少し広い意味です。福祉国家というと、年金、健康保険、失業手当の制度を備えた国を意味するけれど、社会的国家は、教育にも積極的にかかわる国です」

 ――教育は不平等解消のためのカギとなる仕組みのはずです。

 「教育への投資で、国と国、国内の各階層間の収斂(しゅうれん)を促し不平等を減らすことができるというのはその通り。そのためには(出自によらない)能力主義はとても大事だとだれもが口では言いますが、実際はそうなっていません」

 「米ハーバード大学で学ぶエリート学生の親の平均収入は、米国の最富裕層2%と一致します。フランスのパリ政治学院というエリート校では9%。米国だけでなく、もっと授業料の安い欧州や日本でも同じくらい不平等です」

 ――競争が本質のような資本主義と平等や民主主義は両立しにくいのでしょうか。

 「両立可能です。ただしその条件は、何でもかんでも競争だというイデオロギーから抜け出すこと。欧州統合はモノやカネの自由な流通、完全な競争があれば、すべての問題は解決するという考えに基づいていた。バカバカしい」

 「たとえばドイツの自動車メーカーでは労組が役員会で発言権を持っています。けれどもそれはよい車をつくるのを妨げてはいない。権限の民主的な共有は経済的効率にもいいかもしれない。民主主義や平等は効率とも矛盾しないのです。危険なのは資本主義が制御不能になることです」

◆国境超え、税制上の公正を 私は楽観主義。解決信じる

 ――税制にしろ社会政策にしろ、国民国家という土台がしっかりしていてこそ機能します。国民国家が相対化されるグローバル時代にはますます難しいのでは。

 「今日、不平等を減らすために私たちが取り組むべき挑戦は、かつてより難しくなっています。グローバル化に合わせて、国境を超えたレベルで税制上の公正を達成しなければなりません。世界経済に対して各国は徐々に小さな存在になっています。いっしょに意思決定をしなければならない」

 ――しかもそれを民主的に進める必要があります。

 「たやすいことではありません。民主主義の運営は、欧州全体という大きな規模の社会よりも、デンマークのような500万人くらいの国での方が容易です。今日の大きな課題は、いかにして国境を超える規模の政治共同体を組織するかという点にあります」

 ――可能でしょうか。

 「たとえば欧州連合(EU)。仏独が戦争をやめ、28カ国の5億人が共通の制度のもとで暮らす。そしてそのうちの3億人が通貨を共有する。ユートピア的です」

 ――しかし、あまりうまくいっているようには見えません。

 「ユーロ圏でいうと、18の異なった公的債務に、18の異なった金利と18の異なった税制。国家なき通貨は危なっかしいユートピアです。だから、それらも共通化しなければなりません」

 ――しかし、グローバル化と裏腹に多くの国や社会がナショナリズムにこもる傾向が顕著です。

 「ただ、世界にはたくさんの協力体制があります。たとえば温室効果ガスの削減では、欧州諸国は20年前と比べるとかなり減らしました。たしかにまだ不十分。けれど同時に、協力の可能性も示してもいます」

 ――あなたは楽観主義者ですね。

 「こんな本を書くのは楽観主義の行為でしょう。私が試みたのは、経済的な知識の民主化。知識の共有、民主的な熟議、経済問題のコントロール、市民の民主的な主権、それらによってよりよい解決にたどり着けると考えます」

◆民間資産への累進課税、日本こそ徹底しやすい

 ――先進国が抱える巨大な借金も再分配を難しくし、社会の不平等を進めかねません。

 「欧州でも日本でも忘れられがちなことがある。それは民間資産の巨大な蓄積です。日欧とも対国内総生産(GDP)比で増え続けている。私たちはかつてないほど裕福なのです。貧しいのは政府。解決に必要なのは仕組みです」

 「国の借金がGDPの200%だとしても、日本の場合、それはそのまま民間の富に一致します。対外債務ではないのです。また日本の民間資本、民間資産は70年代にはGDPの2、3倍だったけれど、この数十年で6、7倍に増えています」

 ――財政を健全化するための方法はあるということですね。

 「日本は欧州各国より大規模で経済的にはしっかりまとまっています。一つの税制、財政、社会、教育政策を持つことは欧州より簡単です。だから、日本はもっと公正で累進的な税制、社会政策を持とうと決めることができます。そのために世界政府ができるのを待つ必要もないし、完璧な国際協力を待つ必要もない。日本の政府は消費税を永遠に上げ続けるようにだれからも強制されていない。つまり、もっと累進的な税制にすることは可能なのです」

 ――ほかに解決方法は?

 「仏独は第2次大戦が終わったとき、GDPの200%ほどの借金を抱えていました。けれども、それが1950年にはほとんど消えた。その間に何が起きたか。当然、ちゃんと返したわけではない。債権放棄とインフレです」

 「インフレは公的債務を早く減らします。しかしそれは少しばかり野蛮なやりかたです。つつましい暮らしをしている人たちに打撃をもたらすからです」

 ――デフレに苦しむ日本はインフレを起こそうとしています。

 「グローバル経済の中でできるかどうか。円やユーロをどんどん刷って、不動産や株の値をつり上げてバブルをつくる。それはよい方向とは思えません。特定のグループを大もうけさせることにはなっても、それが必ずしもよいグループではないからです。インフレ率を上昇させる唯一のやり方は、給料とくに公務員の給料を5%上げることでしょう」

 ――それは政策としては難しそうです。

 「私は、もっとよい方法は日本でも欧州でも民間資産への累進課税だと思います。それは実際にはインフレと同じ効果を発揮しますが、いわばインフレの文明化された形なのです。負担をもっとうまく再分配できますから。たとえば、50万ユーロ(約7千万円)までの資産に対しては0・1%、50万から100万ユーロまでなら1%という具合。資産は集中していて20万ユーロ以下の人たちは大した資産を持っていない。だから、何も失うことがない。ほとんど丸ごと守られます」

 「インフレもその文明化された形である累進税制も拒むならば大してできることはありません」

     *

 Thomas Piketty 1971年フランス生まれ。パリ経済学校教授。米マサチューセッツ工科大学助教授などを経て現職。不平等の拡大を歴史データを分析して示した「21世紀の資本」(邦訳、みすず書房)は世界的な話題に。同書より前に著した論文は、金融資本主義に異議を申し立てた米ウォール街でのオキュパイ運動の支えになったともいわれる。

◆取材を終えて 「格差」という名の「不平等」 論説主幹・大野博人

 「格差」の問題を語るとき、英語やフランス語ではたいてい「不平等」という言葉を使う。ピケティ氏もインタビューでは「inegalite(不平等)」を繰り返していた。

 同じ状態を指すにしても、「不平等」は、民主主義の基本的な理念である「平等」を否定する言葉でもある。これがはらんでいる問題の広さや深刻さを連想せずにはおれない。

 「不平等」の歴史をたどり、その正体を読み解いて見せた「21世紀の資本」が、経済書という役割にとどまらず、著者自身が述べているように政治や社会について語る書となっていったのは当然かもしれない。また、読者も自分たちの社会が直面する問題の本質をつく説明がそこにあると感じたのではないか。

 同氏は資本主義もグローバル化も成長も肯定する。平等についても、結果の平等を求めているわけではない。ただ、不平等が進みすぎると、公正な社会の土台を脅かす、と警告する。

 そして、平等を確保するうえで必要なのは、政治であり民主主義だと強調する。政治家や市民が意識して取り組まなければ解決しない、というわけだ。

 たとえばインタビューで、フランスが所得税の導入で他国より遅れ、不平等な社会が続いたことを例にあげ、「革命をしただけで十分」と考えて放置してきたからだ、と指摘していた。

 この考えは、財政赤字の解決策としてインフレと累進税制を比較したときにもうかがえた。インフレ期待は、いわば市場任せ。それに対して累進税制も民間の資金を取り込むという点では同じ。だが、だれがどう払うのが公正か、自分たちで議論して考えるという点で、「文明化された」インフレだという。

 つまり、自分たちの社会の行方は、市場や時代の流れではなく自分たちで決める。「文明化」とはそういうことも指すのだろう。

 「不平等」という言葉の含意をあらためて考えながら、日本語の文章での「格差」を「不平等」に置き換えてみる。「男女の格差」を「男女の不平等」に、「一票の価値の格差」を「一票の価値の不平等」に……。

 それらが民主的な社会の土台への脅威であること、そして、その解決を担うのは政治であり民主的な社会でしかないことがいっそう鮮明になる。

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  失われた平等を求めて 経済学者、トマ・ピケティ教授(12/31)


 ニ (12/31)
   失われた平等を求めて 経済学者、トマ・ピケティ教授  
     http://digital.asahi.com/articles/ASGDS4G49GDSUPQJ003.html?iref=reca
     
 自由と平等。民主主義の理念のうち、自由がグローバル時代の空気となる一方、平等はしばらく影を潜めていた。だがその間、貧富の差や社会の亀裂は拡大し、人々の不安が高まった。そこに登場したのが大著「21世紀の資本」。不平等の構造をあざやかに描いた著者のトマ・ピケティ教授は「私は悲観していない」という。

◆競争がすべて?バカバカしい

 ――あなたは「21世紀の資本」の中で、あまりに富の集中が進んだ社会では、効果的な抑圧装置でもないかぎり革命が起きるだろう、と述べています。経済書でありながら不平等が社会にもたらす脅威、民主主義への危機感がにじんでいます。

 「その通りです。あらゆる社会は、とりわけ近代的な民主的社会は、不平等を正当化できる理由を必要としています。不平等の歴史は常に政治の歴史です。単に経済の歴史ではありません」

 「人は何らかの方法で不平等を正そう、それに影響を及ぼそうと多様な制度を導入してきました。本の冒頭で1789年の人権宣言の第1条を掲げました。美しい宣言です。すべての人間は自由で、権利のうえで平等に生まれる、と絶対の原則を記した後にこうあります。『社会的な差別は、共同の利益に基づくものでなければ設けられない』。つまり不平等が受け入れられるのは、それが社会全体に利益をもたらすときに限られるとしているのです」

 ――しかし、その共同の利益が何かについて、意見はなかなか一致しません。

 「金持ちたちはこう言います。『これは貧しい人にもよいことだ。なぜなら成長につながるから』。近代社会ではだれでも不平等は共通の利益によって制限されるべきだということは受け入れている。だが、エリートや指導層はしばしば欺瞞(ぎまん)的です。だから本では、政治論争や文学作品を紹介しながら社会が不平等をどうとらえてきたか、にも触れました」

 「結局、本で書いたのは、不平等についての経済の歴史というよりむしろ政治の歴史です。不平等の歴史は、純粋に経済的な決定論ではありません。すべてが政治と選択される制度によるのです。それこそが、不平等を増す力と減らす力のどちらが勝つかを決める」

 ――最近は、減らす力が弱まっているのでしょうか。

 「20世紀には、不平等がいったん大きく後退しました。両大戦や大恐慌があって1950、60年代にかけて先進諸国では、不平等の度合いが19世紀と比べてかなり低下しました。しかし、その後再び上昇。今は不平等が進む一方、1世紀前よりは低いレベルです」

 「先進諸国には、かなり平等な社会を保障するための税制があるという印象があります。その通りです。このモデルは今も機能しています。しかし、それは私たちが想像しているよりもろい」

 「自然の流れに任せていても、不平等の進行が止まり、一定のレベルで安定するということはありません。適切な政策、税制をもたらせる公的な仕組みが必要です」

 ――その手段として資産への累進課税と社会的国家を提案していますね。社会的国家とは福祉国家のことですか。

 「福祉国家よりももう少し広い意味です。福祉国家というと、年金、健康保険、失業手当の制度を備えた国を意味するけれど、社会的国家は、教育にも積極的にかかわる国です」

 ――教育は不平等解消のためのカギとなる仕組みのはずです。

 「教育への投資で、国と国、国内の各階層間の収斂(しゅうれん)を促し不平等を減らすことができるというのはその通り。そのためには(出自によらない)能力主義はとても大事だとだれもが口では言いますが、実際はそうなっていません」

 「米ハーバード大学で学ぶエリート学生の親の平均収入は、米国の最富裕層2%と一致します。フランスのパリ政治学院というエリート校では9%。米国だけでなく、もっと授業料の安い欧州や日本でも同じくらい不平等です」

 ――競争が本質のような資本主義と平等や民主主義は両立しにくいのでしょうか。

 「両立可能です。ただしその条件は、何でもかんでも競争だというイデオロギーから抜け出すこと。欧州統合はモノやカネの自由な流通、完全な競争があれば、すべての問題は解決するという考えに基づいていた。バカバカしい」

 「たとえばドイツの自動車メーカーでは労組が役員会で発言権を持っています。けれどもそれはよい車をつくるのを妨げてはいない。権限の民主的な共有は経済的効率にもいいかもしれない。民主主義や平等は効率とも矛盾しないのです。危険なのは資本主義が制御不能になることです」

◆国境超え、税制上の公正を

 ――税制にしろ社会政策にしろ、国民国家という土台がしっかりしていてこそ機能します。国民国家が相対化されるグローバル時代にはますます難しいのでは。

 「今日、不平等を減らすために私たちが取り組むべき挑戦は、かつてより難しくなっています。グローバル化に合わせて、国境を超えたレベルで税制上の公正を達成しなければなりません。世界経済に対して各国は徐々に小さな存在になっています。いっしょに意思決定をしなければならない」

 ――しかもそれを民主的に進める必要があります。

 「たやすいことではありません。民主主義の運営は、欧州全体という大きな規模の社会よりも、デンマークのような500万人くらいの国での方が容易です。今日の大きな課題は、いかにして国境を超える規模の政治共同体を組織するかという点にあります」

 ――可能でしょうか。

 「たとえば欧州連合(EU)。仏独が戦争をやめ、28カ国の5億人が共通の制度のもとで暮らす。そしてそのうちの3億人が通貨を共有する。ユートピア的です」

 ――しかし、あまりうまくいっているようには見えません。

 「ユーロ圏でいうと、18の異なった公的債務に、18の異なった金利と18の異なった税制。国家なき通貨は危なっかしいユートピアです。だから、それらも共通化しなければなりません」

 ――しかし、グローバル化と裏腹に多くの国や社会がナショナリズムにこもる傾向が顕著です。

 「ただ、世界にはたくさんの協力体制があります。たとえば温室効果ガスの削減では、欧州諸国は20年前と比べるとかなり減らしました。たしかにまだ不十分。けれど同時に、協力の可能性も示してもいます」

 ――あなたは楽観主義者ですね。

 「こんな本を書くのは楽観主義の行為でしょう。私が試みたのは、経済的な知識の民主化。知識の共有、民主的な熟議、経済問題のコントロール、市民の民主的な主権、それらによってよりよい解決にたどり着けると考えます」

◆民間資産への累進課税、日本こそ徹底しやすい

 ――先進国が抱える巨大な借金も再分配を難しくし、社会の不平等を進めかねません。

 「欧州でも日本でも忘れられがちなことがある。それは民間資産の巨大な蓄積です。日欧とも対国内総生産(GDP)比で増え続けている。私たちはかつてないほど裕福なのです。貧しいのは政府。解決に必要なのは仕組みです」

 「国の借金がGDPの200%だとしても、日本の場合、それはそのまま民間の富に一致します。対外債務ではないのです。また日本の民間資本、民間資産は70年代にはGDPの2、3倍だったけれど、この数十年で6、7倍に増えています」

 ――財政を健全化するための方法はあるということですね。

 「日本は欧州各国より大規模で経済的にはしっかりまとまっています。一つの税制、財政、社会、教育政策を持つことは欧州より簡単です。だから、日本はもっと公正で累進的な税制、社会政策を持とうと決めることができます。そのために世界政府ができるのを待つ必要もないし、完璧な国際協力を待つ必要もない。日本の政府は消費税を永遠に上げ続けるようにだれからも強制されていない。つまり、もっと累進的な税制にすることは可能なのです」

 ――ほかに解決方法は?

 「仏独は第2次大戦が終わったとき、GDPの200%ほどの借金を抱えていました。けれども、それが1950年にはほとんど消えた。その間に何が起きたか。当然、ちゃんと返したわけではない。債権放棄とインフレです」

 「インフレは公的債務を早く減らします。しかしそれは少しばかり野蛮なやりかたです。つつましい暮らしをしている人たちに打撃をもたらすからです」

 ――デフレに苦しむ日本はインフレを起こそうとしています。

 「グローバル経済の中でできるかどうか。円やユーロをどんどん刷って、不動産や株の値をつり上げてバブルをつくる。それはよい方向とは思えません。特定のグループを大もうけさせることにはなっても、それが必ずしもよいグループではないからです。インフレ率を上昇させる唯一のやり方は、給料とくに公務員の給料を5%上げることでしょう」

 ――それは政策としては難しそうです。

 「私は、もっとよい方法は日本でも欧州でも民間資産への累進課税だと思います。それは実際にはインフレと同じ効果を発揮しますが、いわばインフレの文明化された形なのです。負担をもっとうまく再分配できますから。たとえば、50万ユーロ(約7千万円)までの資産に対しては0・1%、50万から100万ユーロまでなら1%という具合。資産は集中していて20万ユーロ以下の人たちは大した資産を持っていない。だから、何も失うことがない。ほとんど丸ごと守られます」

 「インフレもその文明化された形である累進税制も拒むならば大してできることはありません」

     ◇

 Thomas Piketty 1971年フランス生まれ。パリ経済学校教授。米マサチューセッツ工科大学助教授などを経て現職。不平等の拡大を歴史データを分析して示した「21世紀の資本」(邦訳、みすず書房)は世界的な話題に。同書より前に著した論文は、金融資本主義に異議を申し立てた米ウォール街でのオキュパイ運動の支えになったともいわれる。

◆取材を終えて 論説主幹・大野博人

 「格差」の問題を語るとき、英語やフランス語ではたいてい「不平等」という言葉を使う。ピケティ氏もインタビューでは「in●(eに鋭アクセント付き)galit●(eに鋭アクセント付き)=(不平等)」を繰り返していた。

 同じ状態を指すにしても、「不平等」は、民主主義の基本的な理念である「平等」を否定する言葉でもある。これがはらんでいる問題の広さや深刻さを連想せずにはおれない。

 「不平等」の歴史をたどり、その正体を読み解いて見せた「21世紀の資本」が、経済書という役割にとどまらず、著者自身が述べているように政治や社会について語る書となっていったのは当然かもしれない。また、読者も自分たちの社会が直面する問題の本質をつく説明がそこにあると感じたのではないか。

 同氏は資本主義もグローバル化も成長も肯定する。平等についても、結果の平等を求めているわけではない。ただ、不平等が進みすぎると、公正な社会の土台を脅かす、と警告する。

 そして、平等を確保するうえで必要なのは、政治であり民主主義だと強調する。政治家や市民が意識して取り組まなければ解決しない、というわけだ。

 たとえばインタビューで、フランスが所得税の導入で他国より遅れ、不平等な社会が続いたことを例にあげ、「革命をしただけで十分」と考えて放置してきたからだ、と指摘していた。

 この考えは、財政赤字の解決策としてインフレと累進税制を比較したときにもうかがえた。インフレ期待は、いわば市場任せ。それに対して累進税制も民間の資金を取り込むという点では同じ。だが、だれがどう払うのが公正か、自分たちで議論して考えるという点で、「文明化された」インフレだという。

 つまり、自分たちの社会の行方は、市場や時代の流れではなく自分たちで決める。「文明化」とはそういうことも指すのだろう。

 「不平等」という言葉の含意をあらためて考えながら、日本語の文章での「格差」を「不平等」に置き換えてみる。「男女の格差」を「男女の不平等」に、「一票の価値の格差」を「一票の価値の不平等」に……。

 それらが民主的な社会の土台への脅威であること、そして、その解決を担うのは政治であり民主的な社会でしかないことがいっそう鮮明になる。

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  (インタビュー2015)失われた平等を求めて 経済学者、トマ・ピケティさん(1/1)


 ホ (12/21) 書評
   『21世紀の資本』 トマ・ピケティ〈著〉
     http://digital.asahi.com/articles/DA3S11518378.html?iref=reca
     
 ◇富の格差鋭く分析、分配問題を核心に

 資本主義の格差拡大傾向を鋭く分析した世界的ベストセラーの邦訳版が、ついに出版された。本書は、富の格差や社会階級の問題に関心を失った現代経済学を批判、分配問題を経済分析の核心に戻すと宣言する。これは、19世紀までの古典派経済学が持っていた良質な問題意識の復活でもある。18世紀から21世紀初頭の膨大な各国データで歴史的実証分析を行い、そこから資本主義に内在する傾向法則を掴(つか)み出そうとする。そのタイトルはもちろん、マルクスの『資本論』を意識したものだ。

 本書の分析結果が国際的に敬意を払われているのは、ピケティが、「分配論」(第3部)の科学的基礎として「資本蓄積論」(第2部)を、詳細な実証分析に基づいて展開しているからだ。格差拡大傾向の指摘だけなら、本書がここまで影響力をもつことはなかったであろう。彼はまず、20世紀に二つの世界大戦による破壊と、平等化を目指す公共政策の導入で打撃を受けた民間資本の蓄積が1970年以降、本格的に復調してきたことを確かめる。そしてシミュレーションで今世紀末までには、国民所得に対する資本の価値比率(資本/所得比率)が、格差の大きかった19世紀末の水準にまで高まると予測する。

 もっとも、資本蓄積が高度に進むと、資本の限界生産性(収益率)が低下するという矛盾が生まれる。だからこそマルクスは、利潤率低下で資本主義は崩壊すると予測した。だが資本主義は、想定以上の柔軟性を発揮し、収益率低下を上回る技術進歩や、より収益性の高い資本用途の発見により、国民所得に占める資本シェアの低下を回避することに成功してきた。

 しかし、資本蓄積は別の問題を引き起こす。格差の拡大だ。ピケティの功績の一つは、歴史上ほぼすべての時期で「資本収益率(r)」>「経済成長率(g)」が成立していることを明らかにした点にある。これは、資本の所有者に富を集中させるメカニズムが働いていたということだ。民主化と平等化が相伴って進展した20世紀は、例外的な時期だったと振り返られる可能性すら出てきている。

 資本蓄積が高水準に達し、しかも低経済成長レジームに入った21世紀では、新たに付け加えられる富よりも、すでに蓄積された富の影響力が相対的に強まる。これは、「r>g」による格差拡大メカニズムをいっそう増幅させる。ピケティは1980年以降、国民所得に占める相続と贈与の価値比率が増加に転じたことを確認、相続による社会階層の固定化に警告を発する。

 だが「r>g」は、20世紀がそうだったように、資本主義に不可避的な経済法則ではない。特に国家による資本(所得)課税のあり方は、資本収益率に決定的な影響を及ぼす。1980年以降、グローバル化で各国間の租税(引き下げ)競争が強まり、資本課税は弱体化してしまったが、ピケティは、国際協調に基づく「グローバル資本税(富裕税)」の導入が不可欠だと強調する。これは、個人が国境を超えて保有する純資産総計への課税だ。その実現は、夢物語ではない。OECDで租税情報の国際的自動交換システムの構築が進展しているからだ。

 こうした課税システムは、経済と金融の透明性を向上させ、資本の民主的統制を可能にする。21世紀をどのような世界にするかは結局、市場と国家に関する我々の選択にかかっている。その意味で本書は、格差拡大に関する「運命の書」ではなく、資本主義の民主的制御へ向けた「希望の書」だといえよう。

 〈評〉諸富徹(京都大学教授・経済学)

    *

 山形浩生、守岡桜、森本正史訳、みすず書房・5940円/Thomas Piketty 71年、フランス生まれ。パリ経済学校教授。

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