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  04 07 教科書編纂 国の介入   教育介入

 04 07 (火) 教科書編纂 国の介入    教育介入

ニュースは次のように報じている。

   * 新検定基準に基づいた意見と対応
   * 教科書に政府見解加筆
   * 教科書、強まる政府主張 領土の記述、大幅増
   * 韓国「検定、歴史を歪曲」 中国新華社も批判
   * 朝日新聞 社説 検定発表 教科書はだれのものか
   * 歴史、バランス重視 来春からの中学教科書、検定結果
   * 生きた教材 中学教科書に登場 数学では記録予想
   * 読売新聞 教科書検定、韓国政府抗議に閣僚から反論相次ぐ
   * 読売新聞 社説 中学教科書検定 歴史と領土への理解深めたい
   * 毎日新聞 「韓国側の抗議受け入れられぬ」菅官房長官
   * 毎日新聞 教科書検定 創意工夫の道、より広く
   * 日本経済新聞 文科相「友好関係にマイナスでない」
   * 信濃毎日新聞 社説 教科書検定 多面的な見方の紹介を

新検定基準に基づいた意見と対応

 意見①「政府見解に基づいていない」
 ※ 対応
 教育出版
 (公民)
 「戦争時に被害を受けた人々から
 現在も補償を求める動き」
 「賠償問題は解決済み」との政
 府見解を追記
 育鵬社
 自由社
 (歴史)
 東京裁判について「戦勝国は罪
 に問われなかった」「日本人から
 歴史への誇りを失わせた」など
 「裁判を受諾しており、異議を述
 べる立場にない」といった政府
 見解を追記
 学び舎
 (歴史)
 旧日本軍の慰安婦にされていたと
 名乗り出た金学順さんについてや
 元慰安婦が謝罪や補償を求めた
 ことなどをめぐる記述
 元慰安婦が連れ去られる図や証
 言の記述を削除し、「強制連行を
 直接示す資料が見当たらない」
 との政府見解を追記

 意見②「通説的見解がないことが明示されていない」
 ※ 対応
 清水書院
 学び舎
 (歴史)
 関東大震災の際に殺害された朝
 鮮人の人数について「数千人」と
 記述
 人数に痛切がないことを明記


2015年4月7日
教科書に政府見解加筆
   慰安婦や東京裁判、意見6件 中学検定結果
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11691882.html

 2016年度から使われる中学校の教科書について、文部科学省は6日、検定結果を公表した。社会科の検定基準が変わって初めての検定で、「東京裁判」や「慰安婦」などの記述に関連して、政府の統一的見解が盛り込まれていない、などとする意見が6件ついた。今回の検定では初めて特定の事柄を加筆するよう促し、各社とも盛り込んだ結果、政府の主張が教科書に反映される形となった。

 (2面=出版社側は、4面=中韓の反応、16面=社説、18面=各教科は、38面=東京五輪登場)

 文科省は昨年1月、社会科の検定基準に、「政府見解がある場合はそれに基づいた記述」「近現代史で通説的な見解がない数字などはそのことを明示」などを追加。教科書が妥当かどうかを見ていた検定に、具体的な事柄を書くよう求めたルールが加わる大きな転換となった。検定基準の改定をめぐっては、安倍晋三首相が13年4月、国会答弁で見直しの考えを示し、歴史教科書の一部を「自虐史観」と問題視する声が多い自民党が同年6月に提言した。

 地図帳を含む社会科の申請は、8社の歴史、地理、公民の計20冊。検定では5社の計5冊に対し「政府見解に基づいた記述がない」との意見が4件、「通説的な見解がないことが明示されていない」が2件ついた。

 初めて教科書をつくった「学び舎(しゃ)」の歴史では、旧日本軍の元慰安婦の記述が対象になった。同じページには旧日本軍の関与を認めた「河野談話」も書かれていたが、07年に閣議決定された「軍による強制連行を直接示す資料は見当たらない」など別の見解があるとして追加を求めた。いったん不合格となり、出し直した教科書では、この見解が追加された。中学校教科書に「慰安婦」の記述が載るのは10年ぶりという。

 同様に一度不合格となった「自由社」は、日本の戦争責任を裁いた東京裁判の判決について否定的にとらえる記述に意見がついた。再申請で「裁判は受諾しており異議を述べる立場にはない」とする政府見解が加わった。

 下村博文・文科相は6日に記者会見し、歴史教科書について「これまで光と影のうち影の部分が多かった。政府見解と異なる記述がある場合に政府見解も載せることで、バランスをよりとる方向にまとまりつつある」と述べた。

 領土をめぐっては、竹島と尖閣諸島の記述が20冊全ての教科書に入った。文科省は今回の検定前、「学習指導要領解説」に竹島と尖閣を明記し、日本政府の立場を教えるよう求めた。2010年度の前回検定時では、竹島は20冊中13冊、尖閣は11冊にとどまっていた。文科省の担当者は「分量としては倍増といっていい」と話した。(高浜行人)

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① 2面=出版社側は

(時時刻刻)
教科書、強まる政府主張 領土の記述、大幅増
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11691858.html

 安倍政権の「教科書改革」で初めてつくられた社会科教科書は、領土問題や近現代史で政府の立場がより一層強調されることになった。学校で使う教科書を選ぶ作業も変わるとの見方も出ている。子どもたちが手にする教科書が様変わりしようとしている。▼1面参照

 「国の方針を反映させるには、記述を大幅に増やすしかなかった」。今の教科書と比べて最も様変わりした、日本の領土問題に関して、社会科の教科書をつくった8社の大半は、取材にそう答えた。

 例えば、地理は全社が北方領土(北海道)、竹島(島根県)、尖閣諸島(沖縄県)をめぐる問題に2~3ページを割いた。今の教科書では尖閣の記述はわずかで、領土問題全体で1ページ弱の扱いが大半だった。

 文部科学省は今回の検定前、「学習指導要領解説」に竹島と尖閣を明記し、日本政府の立場を教えるよう求めた。「韓国と主張に相違」を教える程度だった竹島は「韓国に抗議を繰り返している」点も追加。記述無しだった尖閣は「日本が支配し、領有権問題は無い」ことを理解させる――となった。解説は教科書づくりの際、各社が何を取り上げるかの参考にするため、検定前の段階で記述が増えた。

 ただ、いずれの社も、日本の主張を載せる一方、周辺国の主張を詳述した社は一社もなかった。

 「執筆者が内容をいじれる雰囲気ではなかった」。ある教科書を担当した大学教授は振り返る。別の大学教授は「領土の扱いが大きすぎる」と出版社に指摘したが、変更を拒まれたという。「領土問題は歴史のごく一部。生徒が過大な印象を持たないか」と心配する。出版社の間でも「日本の主張だけで紙幅がいっぱい」との声が多かった。

 領土以外でも、検定申請前に現行教科書から表現を変えた事例もあった。

 日中戦争の「南京事件」について、帝国書院は「諸外国から『日本人の蛮行』と非難されました」という現行本の記述を「日本人の蛮行」を削りながら脚注に移し、「調査や研究が続いています」と加えた。担当者は「改めて根拠などを検討して判断した」。また、太平洋戦争などをめぐる歴史認識について「近隣諸国からきびしい目が向けられています」が、「諸国から意見も出されていますが、より友好な関係を築くことが望まれています」に。担当者は「対立をあおってはいけない」と話す。

 こうした出版社の対応について、ある出版社で歴史の執筆をした大学教授は「以前より文科省の意向を気にするようになった」と漏らす。今回から検定関連資料が文科省のホームページで公開される影響もあげ、「なるべく検定で修正されない本をつくって申請したい雰囲気を感じた。自主規制が進んだ印象だ」と話した。

 ■採択に首長の声、記述影響

 実際に学校で使う教科書は各地の教育委員会が選ぶ。その手続きが8月ごろにあるが、昨年の地方教育行政法改正で教委制度が大きく変わり、首長の意向が反映される可能性が指摘されている。

 教科書から政治的な影響を排するため、これまでも自治体のトップではなく各教委に採択の権限が与えられてきた。その仕組みは今も変わらないが、昨年の法改正で、首長と教委が教育方針について話し合う「総合教育会議」が置かれることになった。

 「『領土に関してより詳しい教科書を選ぶ』くらいのことは決められます」。昨秋、全国の首長約20人を前に文科省幹部が新制度について説明した。集まったのは、政権の教育政策に賛同する首長でつくる「教育再生首長会議」のメンバーたち。ある出席者によると、秋に2回あった会議は、多くの時間が「教科書選び」の議論に費やされたという。

 教育の政治的中立を保つため、新制度でも「総合教育会議は個別の教科書を選べない」ことになっている。だが、教育会議の方針にどう具体性を持たせるかは各地の判断。教科書に関する首長の考えが強く反映された方針となれば、「教委の採択を左右する可能性はある」と文科省幹部はいう。首長会議の一人、東京都品川区の浜野健区長は「日本の伝統・文化をしっかり学べる教科書が必要という考えを入れたい」。

 さらに、文科省は今年1月、過去の通知をまとめた「留意事項」を各地の教委向けにつくった。「教員の投票で教科書が決定されるなどの手続きは適当ではありません」など。自民党内には以前から、「教職員組合の意向が採択に影響している」とみる声が根強く、首相直属の「教育再生実行会議」の委員が省幹部に「再度、通知の説明を」と働きかけていた。

 こうした「環境変化」を見越して、ある出版社担当者は「保守層の方から見てもおかしくない内容にした」と明かす。国が無償給付する教科書(社会)は1冊約750円。例えば、人口約52万人の宇都宮市の場合、採択されれば約1千万円の売り上げに。関連の問題集や資料集、教師向け指導書の販売も見込まれ、採択の動向は各社の経営に影響する。

 ある出版社版(歴史)を執筆した大学教員は「南京事件や領土をめぐる表現の違いだけで、採択が決まる事態が広がらないか」と懸念する。

 ■<考論>「不都合な真実」へ誠実に

 樋口修資(のぶもと)・明星大教授(教育行政学)の話 よりバランスのとれた教科書で、子どもが多角的に考えられるようにするのが検定基準改正の趣旨。今回の検定はおおむねこれに沿ったものと見ることができる。たとえば日本の戦後処理について、政府見解に基づく記述が盛り込まれていないと指摘されたある教科書は「賠償などの問題は解決済み」という政府の立場を加えつつ、軍や企業からの被害をめぐり「補償を求める動きが続いている」との記述は残した。政府見解と異なる見解を認めないというものではない。

 ただ、領土問題では、相手国の見方はほとんど見られず、なぜ問題化しているかが分からない。相手の言い分を知り、どうすべきか考える問題解決型の学習にはこれではつながらない。

 「南京事件」の被害者などについては具体的な記述を避けるケースがあった。基準改正で萎縮し、自己規制したとすれば残念だ。「不都合な真実」でも誠実に向き合い、その反省の上に立って未来を構築する姿勢を、検定する側も発行者も堅持すべきだ。


② 4面=中韓の反応

中学教科書
韓国「検定、歴史を歪曲」 中国新華社も批判
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11691795.html

 文部科学省が中学校教科書の検定結果を公表したことを受け、韓国外交省は6日、「韓国固有の領土である独島(トクト)(竹島の韓国名)に対する不当な主張を強化し、明白な歴史的事実を歪曲(わいきょく)した中学校教科書の検定を通過させる挑発をまたも敢行した」などと非難する報道官声明を発表した。趙太庸(チョテヨン)・第1次官が日本の別所浩郎・駐韓国大使を外交省に呼び、抗議した。▼1面参照

 韓国教育省も、「強く糾弾し、是正を要求する」などとした報道官声明を発表。旧日本軍の慰安婦問題に関する記述をめぐっては、「検定結果の発表を通じて、過去を否定し、歴史的審判を回避している」と批判した。

 一方、日韓は今年、国交正常化から50周年を迎える。韓国政府は懸案になっている慰安婦や竹島などの問題では譲歩しないものの、その他の分野での協力や交流は続ける方針だ。

 中国国営新華社通信は6日、「日本政府の圧力や(出版社の)自己検閲で、歴史認識問題をめぐる表現が一部の教科書で後退した」と批判的に伝える記事を配信。中国政府は今年を「反ファシズム戦争勝利70周年」と位置づけ、歴史問題で安倍政権の出方を注意深く見守っているさなかだけに、日本に対する態度を硬化させる可能性もある。(ソウル=東岡徹、北京=林望)


③ 16面=社説<

(社説)
検定発表 教科書はだれのものか
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11691787.html

 教科書は、国の広報誌であってはならない。

 来春から中学校で使う教科書の検定結果が発表された。

 文部科学省は今回の検定から新しいルールを用いた。

 教科書編集の指針を見直し、領土問題について日本政府の考え方を書くよう求めた。

 検定基準も、慰安婦や戦後補償など政府見解がある事柄はそれに基づいて記すよう改めた。自民党の意向に沿ったものだ。

 これまでの検定は、教科書会社が書いてきた記述を前提に判断する姿勢だった。それを具体的に書かせる方向に転換した。

 結果はどうだったか。

 領土問題は、社会科の全社が扱った。「日本固有の領土」「竹島を韓国が不法に占拠している」など編集の指針をなぞる社が多い。相手国の主張や根拠まで扱った本はほとんどない。

 これでは、なぜ争っているか生徒にはわからない。双方の言い分を知らなくては、中韓やロシアとの間で何が解決に必要かを考えるのは難しいだろう。

 文科省は答えが一つでない問いについて、多様な人々と話し合いながら解決の道を探る力を育てようとしている。その方向とも相いれない。

 社会科の教科書は、国が自分の言い分を正解として教え込む道具ではない。

 子どもが今の社会や過去の歴史、国内外の動きを理解するのを助けるためにある。

 政府の見解を知っておくことは悪いことではない。ただ、それは一つの素材に過ぎない。

 例えば戦後補償問題の場合。戦争で被害を受けた人々の証言、彼らの生きた戦後、中韓や欧米、国連の動きも併せて紹介し子どもが考える。そんな教科書が求められるのではないか。

 どんな教科書をつくるかは、出版社が判断することだ。国の検定は控えめにすべきである。

 政府見解は絶対的なものではない。時の政権で揺れ動く。

 検定でそれを書くよう強いれば、合格がかかるだけに教科書会社や執筆者は萎縮し、政府の主張ばかり記すようになる。

 教育内容が国に左右される危うさを、この社会は先の大戦で痛感したのではなかったか。

 教科書を選ぶ作業が、これから各自治体で始まる。

 今月から、自治体の長が設ける「総合教育会議」の制度が始まった。首長の教育への関与を強める狙いだ。

 だが、教科書採択はあくまで教育委員会の権限である。

 我が街の子どもに、どの教科書がふさわしいか。教委は教育の視点でこそ選んでほしい。


④ 18面=各教科は

教科書検定特集
歴史、バランス重視 来春からの中学教科書、検定結果
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11691754.html

 来春から使われる中学の教科書の検定結果が公表された。歴史はこれまで認められてきた内容や表現でも、バランスを重視した書き方を求める動きが目立った。原発や震災については、防災や安全の観点から、幅広い教科で取り上げられた。

 ■意見、現行と同じ記述にも

 今回の検定では、現行の教科書通りに書いたのに検定意見が付くケースが社会で目立った。文部科学省教科書課によると、歴史のうち不合格となり再申請した2社分を除く6社6点に限っても、検定意見291件のうち22%の64件は前回検定を通った部分に付いた。担当者は「検定基準の改定を機に、よりバランスのとれた教科書作りという観点から正確性を期した結果だ」としている。

 その一つが、明治政府のアイヌ民族への政策を紹介した日本文教出版の特集の記述。1899年制定の「北海道旧土人保護法」の趣旨について、現行本と同様に「アイヌの人々の土地を取り上げて、農業を営むようにすすめました」と書いたが、「法の目的は土地を取り上げるのでなく分与することにある」と意見が付いたため、「土地をあたえて、農業中心の生活に変えようとしました」と修正した。

 日本文教出版の担当者は「斜めから見た部分を強調していた反省もある。特集全体の人権を重んじる姿勢は維持している」と話す。

 1910年の韓国併合後の「土地調査事業」についても、東京書籍が「土地制度の近代化を名目として日本が行った」と現行本の記述を維持したところ、「事業は近代的な土地所有制度を確立するためのもので、『名目』という表現は誤解のおそれがある」との意見が付き、「名目」を「目的」に変えた。

 一方、ドイツの考古学者シュリーマンら幕末から明治期に来日した外国人3人の日本への見方を紹介した育鵬社のコラム。「日本人の特性について話し合ってみましょう」と呼びかけるイラストをあしらった以外は現行本と同じだったが、「当時の日本を肯定的に評価する見方ばかり。特定の方向に誘導されるおそれがある」と指摘され、批判的な見方を追加した。同社の担当者は「完成度を高めることを最大の眼目と考えて対応した」と話す。

 ■伝統文化や偉業、幅広く 八丁みそ・歌舞伎・ノーベル賞…

 「日本の伝統と文化」に関する題材は、縁遠そうな教科でも意識して盛り込まれている。

 理科では新興出版社啓林館が、八丁みそ(愛知県)、ふなずし(滋賀県)、灘の日本酒(兵庫県)という伝統食材を資料コーナーで取り上げた。いずれも製造工程で発酵を活用しており、「菌類・細菌類の学習が生活に役立つことを理解させたい」と担当者は説明する。結晶の項で「金平糖」、化学変化の項で「たたら製鉄」も扱った。

 音楽では、歌舞伎の演目「勧進帳(かんじんちょう)」で使われる長唄の歌い方を教育芸術社が紹介。教育出版は文楽の演目「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」の床本(ゆかほん)(台本)を一部掲載し、生徒が声に出して語れるように教える。保健体育では、江戸時代の儒学者、貝原益軒(えきけん)が「腹八分目」を説いた「養生訓(ようじょうくん)」を大日本図書が紹介している。

 社会では、日本文教出版の公民が関連の記述を4ページに倍増し、回転ずしや漫画など海外で広まる日本文化などを取り上げた。教育出版の歴史は古代の神話に関する2ページの特集を新設し、「すべてが歴史的事実とはいえません」としつつ、古事記や日本書紀に書かれた話を紹介した。担当者は「これだけの紙幅で神話を扱うのは初めて。日本人の古代の精神文化は知っておいた方がいい」と話す。

 日本の「偉業」を教える記述も目立つ。

 社会では、育鵬社の歴史が古代日本で「世界一のもの」を考えさせる欄を設け、仁徳陵古墳(大山〈だいせん〉古墳)や法隆寺などを取り上げた。保健体育で、大修館書店は「人びとの健康に貢献した日本人」というページを新設し、江戸時代の杉田玄白からノーベル賞受賞者の利根川進さんまで11人の業績を紹介した。

 数学では、東京書籍が「数学を切りひらいた日本人」として、そろばんによる乗除計算やねずみ算などを書いた算術書「塵劫記(じんこうき)」の著者、吉田光由(みつよし)を扱った。「過去の偉人の貢献により、水準の高い日本の数学がつくられたことを教えたい」と担当者は説明している。

 ■東日本大震災、全教科に 原発再稼働巡る社説比較/被曝を解説

 東日本大震災についての記述は大幅に増え、初めて全教科に掲載された。合格した104点のうち5割を超す58点に記された。被災した生徒に配慮しながら、震災をどう伝えるか。苦心の跡がうかがえる。

 日本文教出版は地理で災害関連の記述を4ページから10ページに増やし、震災後の復興のあゆみや、南海トラフ巨大地震の被害想定や対策を特集した。編集部は大阪市にあり、担当者は「阪神・淡路大震災の記憶の風化を肌で感じており、少しでも食い止めたい」と話す。

 国のエネルギー政策と原発について、対立する論調を紹介したのは東京書籍の公民。「再稼働を急がせることなど許されない」「再稼働の実現に向けた取り組みを加速させるべきだ」とする新聞2紙の社説を並べ、「なぜそのようなちがいが生まれるのか」を話し合うよう促した。

 一方、帝国書院は公民のコラムで、物資不足の中で順番を守って買い物を待つ被災者の写真や震災後の日本人の対応を称賛する外国人の声を盛り込んだ。

 東京書籍の国語では、河北新報(仙台市)の新聞記者が、自ら被災しながら取材を続けた記録を書き下ろした。教育出版の英語は、東日本大震災にショックを受けた神戸市の中学生が、阪神・淡路大震災で被災した祖母の話を聞いて考え、「将来への希望」を話す文章を載せた。両社とも被災した生徒が学ぶことに配慮し、犠牲を直接取り上げるような記述は避けたという。

 大修館書店の保健体育は、発展的学習のコラム「放射線と健康」を新設し、「外部被曝(ひばく)」「内部被曝」などについて解説。「ひとたび放出された放射性物質は、数十年・数百年にわたって大気・水・土壌を複合的に汚染する」と記した。担当者は「原発事故でまだ避難が続いている現実があるのに、『健康と環境』の学習で触れないわけにはいかない」と話す。

 <国語> 羽生選手のソチ「金」登場

 5社が申請し、別冊を廃止して本体に統合した社があったため、ページ数は6.7%減。しかし、全体としてページ数は増加傾向だという。東日本大震災に関する教材を加えた社が複数あったほか、四季や短歌など日本の伝統的な文化について充実させた記述も目立った。男子フィギュアスケートの羽生結弦選手が、2014年ソチ冬季五輪で金メダルを獲得した際の新聞記事が登場する教科書もあった。

 <数学> 徒歩と車、避難の距離は?

 7社が21点を申請。平均ページ数は8.9%増えた。学習指導要領の範囲外に当たる「発展的学習」は全てが掲載。前回なかった東日本大震災の記述が2点に登場。自然災害や防災の記述も3点から11点に増え、徒歩と車での避難の移動距離の違いや緊急地震速報などについて説明した。ネットから引用する際の著作権の問題など、情報モラルやリテラシーの記述も5点から9点に増えた。

 <英語> 活躍する錦織選手ら、紹介

 6社が申請し、平均ページ数は11.4%増。一方で、1冊あたりの新出単語数の平均は前回の497語から485語に微減。ただ、難易度に特に変更はないという。テニスの錦織圭選手ら、世界で活躍するスポーツ選手を扱った教科書が目立った。小学校で英語の授業が定着し、中1の冒頭で振り返り学習のページを増やした社もあった。ある社は英語では初めてとなる別冊をつくった。

 <理科> 発展的学習、5教科中最多

 5社が申請し、平均ページ数は前回より15.7%増えている。発展的学習がページ数に占める割合は4.8%で、主要5教科中で最も多い。また東京電力の原発事故にふれたものが前回の1点から7点に増えた。「核燃料から生じるエネルギー」という記述に「無から生じるかのような表現で誤解のおそれ」など、科学的事実の説明や用語に正確さを求める検定意見が多くついた。

 <社会> 猿人「700万年前」に修正

 8社が歴史8点、公民6点、地理4点、地図2点の計20点を申請した。このうち歴史で、自由社と学び舎の2点がいったん不合格となったが、再申請して合格した。平均ページ数は、大型化が進んだ地図が20.8%増の186ページ、歴史も9.3%増の318ページに。歴史で、「約500万年前」とされていた猿人が現れた時期は、最新の学説に基づいて意見が付き、「約700万年前」に改められた。

 <その他> 文化遺産の和食、全社言及

 3社が申請した美術は、鑑賞学習用の教材として、原寸大の絵画を載せる社が登場し、ページ数が大幅に増加した。技術・家庭では、東日本大震災を受けて、生活の中で役立つ防災に関する記述が充実した。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことは、全社が言及した。音楽では、著作権法改正を受けて、なぜ違法ダウンロードがいけないのかを説明する社もあった。

 ◆板垣麻衣子、伊東和貴、氏岡真弓、岡雄一郎、鍛治信太郎、片山健志、河原田慎一、玉置太郎が担当しました。


⑤ 38面=東京五輪登場

東京五輪
生きた教材 中学教科書に登場 数学では記録予想
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11691861.html

 2016年度から使われる中学の教科書で、初めて登場する話題の一つが20年に開催される東京オリンピックだ。五輪や国際的なスポーツ大会を中学3年で学ぶことが決められている保健体育は4点すべてが取り上げたのを含め、6教科30点が、パラリンピックとともにさまざまな角度から紹介している。▼1面参照

 保健体育では、学研教育みらいが、日本と五輪の関わりを4ページにわたって紹介。最後の1ページ全部を20年東京大会にあて、荒川静香さんら金メダリストのメッセージを載せている。「五輪教育が広がることを想定し、競技以外のことも学べるようにという視点でまとめた」と担当者は話す。

 東京書籍は同じ保健体育で「文化としてのスポーツの意義」という章に20年東京五輪を位置づけた。「日本開催の意義をより多くの人たちに理解してもらうための魅力的な言葉と、その伝え方」について考えてもらう課題を設けている。

 3年の英語では、開隆堂出版が「あの人にインタビューしたい」と題し、3大会連続パラリンピック代表の陸上選手で、20年東京五輪・パラリンピック招致の英語スピーチをした佐藤真海(まみ)さん(33)のインタビューを取り上げた。大学時代に右足ひざ下を切断した後に「スポーツが希望をくれた」ことや、五輪招致へ「一生懸命がんばった」ことを紹介した。

 大阪の新興出版社啓林館の2年数学は「東京オリンピックの記録を予想しよう」と銘打ち、過去の五輪での陸上100メートルの優勝記録から、東京五輪の記録を予想する方法を紹介した。08年の記録と、男子は72年、女子は76年を基にすると、男子は9・54秒、女子は10・67秒になるという。(伊東和貴、鍛治信太郎、片山健志)



YOMIURI ONLINE 2015年04月07 政治
教科書検定、韓国政府抗議に閣僚から反論相次ぐ
   http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150407-OYT1T50084.html

 7日の閣議後の記者会見で、関係閣僚から、領土問題を明記した日本の教科書検定の結果に対する韓国政府の抗議への反論が相次いだ。

 文部科学省が6日に発表した教科書検定結果では、中学社会科教科書すべてに竹島や尖閣諸島が「固有の領土」などと明記された。

 菅官房長官は、「検定は学習指導要領により専門的・学術的な審議に基づいて公正、中立に行うものだ。抗議は受け入れられないと韓国側に応答した」と語った。また、菅氏は現時点で中国政府からは抗議がないことも明らかにした。

 岸田外相は「竹島問題や歴史認識についての我が国の立場は一貫している。検定結果が日韓関係全体に悪影響を及ぼすことがないようにお互いに努力していくことが必要だ」と述べた。下村文部科学相も「機会があれば韓国、中国の担当大臣にも説明したい。このことが友好関係にマイナスになるとは思っていない」と指摘した。

社説

中学教科書検定 歴史と領土への理解深めたい

 歴史や領土など、国の基本に関わる問題を生徒に教える際には、公正な教科書を用いることが重要である。

 この観点から、中学校で来春から使う教科書の検定結果は、妥当な内容だ。

 今回の検定が注目されたのは、社会科教科書に新たな検定基準が適用されたためだ。

 近現代史の出来事で通説的な見解が存在しない場合には、その旨を明示する。政府の統一的な見解があれば、それに基づいて記述する。文部科学省は新基準で、こうした点を教科書会社に求めた。

 バランスの取れた歴史認識を育むために、必要な措置である。

 新基準を踏まえ、現行の教科書で認められている記述にも検定意見がつき、修正された。一部の教科書の戦後処理に関する記述で、「国家間の賠償などの問題はすでに解決済み」とする政府の公式の立場が書き加えられた。

 東京裁判を批判的に取り上げた別の教科書では、日本政府も米国による占領の終了時に、「判決を受け入れることを表明」したと付記された。いずれも、史実に即した修正と言えよう。

 現行の中学教科書で、慰安婦に言及しているものはない。今回、1社の教科書が、1993年の河野官房長官談話の要約を掲載した。軍の関与の下、女性の尊厳を傷つけたとして、お詫わびと反省の気持ちを表明した談話だ。

 検定は、2007年に閣議決定された政府見解も踏まえるよう求めた。教科書には「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような資料は発見されていない」との政府見解が付記された。

 慰安婦問題の本質は、軍や官憲による強制連行の有無にある。適切な検定である。

 文科省は昨年、教師が授業を行う際の指針となる学習指導要領の解説書も改定し、竹島、尖閣諸島が日本の領土であることをきちんと教えるよう求めた。

 竹島は、韓国が不法占拠している。尖閣諸島については、日本が有効に支配し、日中間に解決すべき領有権の問題は存在しない。

 全教科書が今回、北方領土に加え、竹島、尖閣諸島を取り上げ、「日本固有の領土」などと明記したのは、大きな前進だ。

 検定結果に対し、韓国政府は、「歪曲わいきょくされた歴史観と、それに基づく領土観を注入している」との声明を発表した。

 教育は内政問題だ。史実に基づく日本政府の立場を教科書に反映させるのは、当然である。



毎日新聞 2015年04月07日 教科書検定
「韓国側の抗議受け入れられぬ」菅官房長官
   http://mainichi.jp/select/news/20150407k0000e010173000c.html

 菅義偉官房長官は7日午前の記者会見で、中学校の教科書検定で島根県・竹島の領有に関する記述が全ての社会科教科書に掲載されたことへの韓国の抗議について、「教科書検定は専門的・学術的な審査に基づいて公正中立に行われている。竹島や歴史認識についてわが国の立場は一貫しており、韓国側の抗議は受け入れられない」と述べた。

 この問題について、下村博文文部科学相は同日、閣議後の記者会見で「国際社会の中で生きていくためには、自国の領土をはじめ、自分の国のことについて正しく理解を深めた上で、他の国々の人々と交流していくことが必要だと思う」と理解を求めた。さらに、「機会があれば韓国、中国の担当大臣にも説明していきたいと思う」とも話した。【木下訓明、三木陽介】

社説

教科書検定 創意工夫の道、より広く

 来春から中学校で使われる教科書の検定結果が出た。全教科で104点が合格した。

 文部科学省は先に、学習指導要領の解説や検定基準を改定。社会科の領土に関する内容をより詳細にすることや、近現代史で政府の統一的見解があれば、これに基づいた記述をするよう事実上指示した。

 今回は、その条件が適用された最初の検定になったが、教科書はそれを反映し、特に日本の領土に関する記述は大幅に増えた。

 部分的にだが、それは「国定教科書」的性格を帯びたといえないだろうか。一律内容の教育への反省から、敗戦後に国定制は廃止された。複数の民間出版社がそれぞれに工夫する現行の検定制では、限定部分にせよ、一律の方向づけには、できるだけ抑制的であるべきではないか。

 領土問題にしても、いわば政府公認の記述を、生徒に暗記させるのが教育の目的ではないはずだ。

 例えば、古今東西の地理や歴史に深く関わってきた「領土」というものについての理解や見方を広げる学習も大切だ。先生の工夫がカギになるだろう。時間が必要だ。

 全体に新しい流れも見られる。

 今回、教科書はより分厚く、色彩がより豊かになった。図版も多く使い、本も大きくなる傾向にある。親しみやすくと、人気キャラクターなども多く登場する。

 内容についても、近年、国際学力テストなどで課題が指摘される「活用力」や討論の仕方など言語活動学習に力を入れる。あるいは、同じ日の新聞の読み比べで、多様な価値判断があることを学ぶものもある。

 「グローバル化時代の人材」の育成が目標に据えられている。

 現在、文科相の諮問を受けて中央教育審議会が審議する次の新たな学習指導要領は、知識の一方的伝授ではなく、問題を自ら見つけ、双方向の討議などを通じて協力もしながら解決を図る「アクティブ・ラーニング」への転換を目指す。

 これからの動きは急だ。

 「何を教えるか」から「どう学ぶ力を育成するか」。教科書の内容も従来の概念にはない創意工夫が求められる。文科省はこれと呼応するように、現在の学校教育に強い影響を与えている知識テスト頼りの大学入試を抜本的に改めるという。教科横断型の総合的なテストも検討されており、暗記型は通用しない。

 小中一貫校など新しいタイプの学校に即した教科書も課題だろう。

 仮に、教科書づくりが政権や文科省の意向を過度にそんたくしながらであったら、まったく創造的なものを生み出すことは難しい。創意工夫の道は広くありたい。



日本経済新聞 > 速報 > 社会 > 記事 教科書検定
文科相「友好関係にマイナスでない」
   http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG07H6Y_X00C15A4CR0000/?n_cid=TPRN0006

 6日公表された中学校教科書の検定結果で尖閣諸島(沖縄県)や竹島(島根県)が社会科の全教科書に記述されたことを受け、下村博文文部科学相は7日の閣議後の記者会見で「(生徒が)領土について理解できるよう正確な記載が重要。国際社会で生きるなかで、自国を正しく知ったうえで他国と交流することが必要だ」と話した。

 検定結果を巡っては、韓国外務省が駐韓日本大使に抗議し、中国の反発も予想される。下村文科相は「機会があれば(韓国と中国の)担当大臣に説明したい。近隣諸国との友好関係にマイナスになるとは思わない」との考えを示した。

※ 日本経済新聞には、教科書検定についての社説はない。



信濃毎日新聞 社説 04月07日(火)
教科書検定 多面的な見方の紹介を
   http://www.shinmai.co.jp/news/20150407/KT150406ETI090014000.php

 子どもたちに考えさせる教科書になっているか。社会科にはそんな疑問を抱かせる。

 来年度から使われる中学生用の教科書の検定結果がきのう、公表された。

 近現代史を扱う際に政府見解に基づく記述を尊重する。文科省は昨年、検定基準をこう改めた。教科書作成の指針となる学習指導要領解説書には尖閣諸島と竹島を日本の「固有の領土」と明記した。

 それから初めての検定だ。社会科のほとんどの教科書が「固有の領土」と記述した。「尖閣諸島には領土問題は存在していません」とした教科書もある。

 自国の政府がどう考えているのかを知ることは大切だ。問題は、それを「尊重する」あまり、中国や韓国はどう主張しているかが置き去りになったことだ。

 なぜ領土をめぐって隣国ともめているのか。平和的に解決するにはどうすればいいのか。子どもたちが考えるきっかけを得られないのではないか。「問題は存在しない」では、「なぜ」は解消されないままだ。

 文科省が唱える「確かな学力」は、単に知識を吸収するだけでなく、課題を解決するために必要な思考力などを総合した力だ。特にグローバル化した時代には世界の多面的な見方を知り、お互いの理解を深めることが欠かせない。自国の政府見解だけでは、それが進まないばかりか敵対心をあおることにもなりかねない。

 社会科教科書の画一化が進んだのは、検定の縛りが強くなったからだ。文科省は、愛国心などを教育目標に盛った改正教育基本法に照らし重大な欠陥があれば不合格にする―との規定も昨年、教科書の審査要項に加えている。

 教科書を発行する出版社にとって不合格は死活問題だ。昨年の小学生用教科書の検定では、新たな基準の対象外だったにもかかわらず、社会科を発行する4社すべてが領土について政府見解に沿って触れた。

 今回の中学教科書でも沖縄戦の集団自決で「自決を強いられた」という従来の記述を「自決に追い込まれた」に変えたり、南京事件で「『日本軍の蛮行』と非難され」という表現を削除したりと、自粛とみられる動きがあった。

 教科書検定の意義は「著作・編集を民間に委ねることにより、著作者の創意工夫に期待する」(文科省)ことだ。こう書くべきだ、これでは不合格だと締め付けるのでは「創意工夫」は失われ、「国定」に近づく。