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折々の記 2015 ③
【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】04/07~     【 02 】04/08~     【 03 】04/19~
【 04 】04/23~     【 05 】04/26~     【 06 】04/28~
【 07 】04/29~     【 08 】04/30~     【 09 】04/30~

【 03 】04/19

  04 19 戦争体制の設置を可能にする安倍総理   国民はこれでも平気か
  04 21 言論・表現の自由   社説 胸がすっきり
  04 22 安保法制とTPPの行方   ゴリ押し
  04 22 安倍の孤立   田中宇の国際ニュース解説

 04 19 (日) 戦争体制の設置を可能にする安倍総理    国民はこれでも平気か

今朝の新聞を見ると、

「自衛隊と米軍の役割分担などを決める協議の場である「調整メカニズム」を、日米間の合意でいつでも設置できるようにする方針を固めた」

平和への強力な活動もなしに、独自の日本の方針もなしに、再び昔の戦争悲劇を繰り返そうとする亡者を感じます。

戦争を前提としたこんな組織を政府が決める権限があるのか。 おかしい。 国会議員は戦争の潮流を身を挺して防げないのか。

戦争の悲惨さを目のまえにし、子を失い、兄弟を失い、戦友を失った、戦争体験者の悲しい思いを踏みにじることにひとしい。 国民はこれでも平気か。

恒久平和をうたった憲法をわすれさり、広島原爆の碑に刻まれた「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」、あの覚悟を失ったのか。

悲憤やるかたない。




日米、防衛連携を強化 調整機関、常時設置可能に 指針改定
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11712684.html?ref=pcviewpage

 日米両政府は今月末に合意する予定の「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)改定で、自衛隊と米軍の役割分担などを決める協議の場である「調整メカニズム」を、日米間の合意でいつでも設置できるようにする方針を固めた。防衛省の中央指揮所に米軍から、米軍横田基地に自衛隊から、それぞれ連絡員を派遣して「日米共同調整所」を置く。自衛隊と米軍の一体運用がさらに進むことになる。

 東日本大震災のような大災害や、離島防衛などのグレーゾーン事態、近隣国からの弾道ミサイル発射などの際に、自衛隊と米軍の連携を強化することが狙いだ。調整メカニズムのもとで「日米共同調整所」が設置され、自衛隊と米軍が共同作戦をする際の調整役になる。日本有事や集団的自衛権の行使から大災害への対応まで、日米の部隊がより緊密に動くよう調整する中心になる。

 自衛隊と米軍の幹部や実務者が中心となる「調整メカニズム」は、いまのガイドラインにも「平素から構築しておく」と明記されている。だが、実際に設置された例は一度もない。日本が直接武力攻撃される「武力攻撃事態」、または日本周辺有事などの「周辺事態」の認定をした後でないと立ち上げられない規定だったからだ。

 東日本大震災の際には、臨時の「日米調整所」が設置された。だが、防衛省は、当初の人員が不足し、案件によって対米窓口が異なるなど十分機能しなかったと総括した。そのため、ガイドラインであらかじめ定めた調整メカニズムをいつでも素早く立ち上げられるように検討を進めてきた。

 有事や災害時に日米が協力して有効な対応を打ち出せる利点がある。一方、有識者には、安全保障上の重要な決定を自衛官と米軍人が実質的に行い、内閣が追認することになる可能性を指摘する声もある。(今野忍)

 04 21 (火) 言論・表現の自由    社説 胸がすっきり

福島氏「安倍内閣が、14本から18本以上の戦争法案を出すと言われている。集団的自衛権の行使や後方支援という名のもとに、戦場の隣で武器弾薬を提供することを認めようとしている」

この発言を直接聞かなかったが、読んだとき胸のつかえが一度に散った感じだった。




① 2015年4月21日(社説)
言論の府で 異論への異常な圧力

   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11715473.html

 言論をめぐる、昨今の自民党の行状が目にあまる。

 1日の参院予算委員会での社民党・福島瑞穂氏の発言について、自民党は「不適切と認められるような言辞があった」として修正を求めている。

 福島氏は質問の中で「安倍内閣が、14本から18本以上の戦争法案を出すと言われている。集団的自衛権の行使や後方支援という名のもとに、戦場の隣で武器弾薬を提供することを認めようとしている」と述べた。

 安倍首相はその場で「レッテルを貼って議論を矮小(わいしょう)化していくことは断じて甘受できない」と反論した。

 その後、自民党の堀井巌・予算委理事が福島氏に会い、「戦争法案」との表現を修正するように要求。福島氏は拒否し、「国会議員の質問権をこういう形で抑え込もうというのは極めておかしい。表現の自由に関わる」と反発している。

 国会議員の国会内での発言は、国会の外で責任は問われないと憲法は定めている。すべての国民を代表する議員が自由に議論するためだ。それほど尊重されるべきものだ。

 これまでも議員発言が議事録から削除・修正されたことはあるが、国会の権威や人権を傷つけたような場合が通例だ。

 福島氏の発言は、集団的自衛権についての強引な解釈改憲に基づく法整備への、国民の根強い懸念を代弁している。多数意見であろうとなかろうと、国会で尊重されるべき主張である。

 政権側に異論があるなら、議場で反論し、やりとりをそのまま記録に残せばいい。その是非を判断するのは、現在と後世の国民だ。

 多数派の意に沿わない発言だからといって、「一方的だ」という理由で修正させようというのは、数の力を背景にした言論の封殺である。

 権力と憲法の関係について、改めて考えたい。

 憲法によって権力の暴走を防ぐ「立憲主義」について、首相はかつて国会で「王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方だ」と語った。まるで権力を縛るなど時代錯誤だと言わんばかりだった。

 しかし、最近の安倍首相ら政権側の言動はどうだろうか。沖縄県知事らの意向などお構いなしの普天間飛行場移設の強硬姿勢。個別の報道番組への口出し。そして今回の議員発言への修正要求である。

 自らと異なる立場に対する敬意や尊重などかけらもない。「絶対権力」の振る舞いと見まごうばかりである。



B>② 2015年4月21日(社説)
放送法 権力者の道具ではない

   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11715468.html?ref=pcviewpage

 今の政権党は「放送の自律」という原則を理解していない。そう考えざるを得ない。

 テレビ朝日「報道ステーション」とNHK「クローズアップ現代」で事実ではないことが放送されたとして、自民党情報通信戦略調査会が、両局の幹部を呼んで事情聴取をした。

 番組内容に問題があったことは、両放送局とも認め、視聴者におわびしている。だからといって、その問題を理由に政権党が個別の番組に踏み込むのは、行き過ぎた政治介入というほかない。

 自民党は「放送法に照らしてやっている」と説明している。確かに放送法第4条は「報道は事実をまげないですること」と定めている。テレビ局が誤った報道をしたり、伝え方に問題があったりした場合、自らの責任で訂正するのは当然だ。

 ただし、そうした営みは、あくまで放送局の自律した判断に委ねられるべきである。

 放送法第1条は、「放送が国民に効用をもたらすことを保障し、表現の自由を確保し、健全な民主主義の発達に資する」との目的をうたっている。そのうえで第3条は、番組編集の自由を保障している。

 放送法は、民主主義社会の基盤である国民の知る権利や表現の自由に、放送を役立てることを主眼としている。政治権力が放送局を縛る道具としてあるのではない。

 自民党は、さらに干渉を強めかねない。NHKと民放各社でつくる第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」についても、批判的に言及した。

 BPOは、番組への苦情や指摘を受けて、有識者が審議する仕組みだ。再発防止計画を出させ、検証番組の放送を求めることもある。議論の過程や決定、放送局の対応を公表しており、放送界の自律的な審査機関として機能している。

 ところが、BPOの運営資金が放送界で賄われていることから、自民党からは「お手盛り」などという批判とともに、政府が関与するかたちに変えようとの発言も出ている。それは、あまりに乱暴な考えだ。

 放送法もBPOも、テレビを、国民の自律的な言論や表現の場とするための仕組みなのである。そこに政権政党の意向を働かせることは、多様で自由な表現を保障する民主主義の本質的な価値を損ねかねない。

 放送局が公正に番組をつくる責任を自覚すべきなのは当然だが、今の自民党の「圧力」は明らかに行き過ぎだ。権力の乱用を厳に慎まねばならない。



B>③ 2015年4月21日(インタビュー)
自衛隊と邦人救出

   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11715468.html?ref=pcviewpage

 「イスラム国」(IS)による事件をきっかけに、自衛隊を使った邦人人質救出の議論が熱を帯びている。安倍晋三首相は海外でテロに巻き込まれた日本人救出について、「国として当然の責務」と意欲を見せるが、自衛隊にどこまでできるのか。現場を知る林直人氏と山口浄秀氏の元陸将2人に聞いた。


   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11715463.html?ref=pcviewer


 ■取材を終えて

 2人の話に共通していたのは、軍事の世界は主義や善悪を排した徹底したリアリズムから出発する、ということだ。装備や訓練、情報の現状からみれば、見ず知らずの遠く離れた中東の砂漠で、救出作戦を展開させるなど自殺行為に等しい。朝鮮半島有事という、あり得べき危機の際も、現状の日韓二国間関係の改善なくして、円滑な救出作戦など期待できまい。勇ましい救出論の前に、まずは政治がリアリズムを取り戻すことが大前提だ。(編集委員・駒野剛)

 04 22 (水) 安保法制とTPPの行方    ゴリ押し

オバマ政権に従属的な姿勢の安倍政権の安保日米安全保障の戦争化体制決着の最終段階、
それと日本の民意を黙って秘めながら黙々とTPP折衝に当たっている甘利大臣の最終段階での決着持ち越し、

この二つは最大関心事だ。



2015年4月22日 1面
① 安保法制、自公協議が決着 後方支援、恒久法では「例外なく事前承認」
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11717397.html

 新しい安全保障法制についての自民、公明両党の協議が21日、事実上決着した。戦争中の他国軍を自衛隊が後方支援するための「国際平和支援法」では、自衛隊の派遣命令前に例外なく国会の承認を義務づけることで両党が一致。残されていた課題で合意した。政府は与党合意をもとに5月中旬にも関連法案を今国会に提出。成立すれば、海外での自衛隊の活動内容や範囲は一気に拡大する。▼2面=活動拡大、4面=残る論点、14面=社説

 これに対し、公明が「歯止め」策として主張した国会承認が安保法制に盛り込まれたが、実際に機能するかどうかが問われる。

 安全保障法制は、大きく「日本の防衛」と「世界での活動」の二つの目的にわかれ、主に四つの法案の新設や改正に集約される。

 集団的自衛権を使えるようにするための昨年7月の閣議決定に伴い、武力攻撃事態法を改正する。「存立危機事態」という考え方を設け、日本と密接な関係にある他国が武力攻撃され、「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」事態を想定。「他に適当な手段がない場合」に、日本が直接、武力攻撃を受けていなくても武力行使できるようにする。安倍晋三首相は中東での停戦前の機雷掃海を念頭に置いている。

 朝鮮半島有事の際、自衛隊が米軍を後方支援することを念頭に作られた「周辺事態法」も改正され、「重要影響事態法」に変わる。「日本周辺」という事実上の地理的考え方をなくして「日本の平和と安全に資する活動」であれば、世界中に自衛隊を派遣できるようにする。現在、米軍に限られている支援対象を米以外の国の軍隊にも広げる。

 一方、国際社会の平和と安全などを目的に掲げて戦争する他国軍を、自衛隊が後方支援するための「国際平和支援法」を新設する。これまでは派遣のたびに特別措置法を作ってきたが、いつでも自衛隊を海外に派遣できる「恒久法」とし、他国への弾薬も提供できるようにする。

 国連平和維持活動(PKO)協力法も改正し、国連の指揮下にない人道復興支援や治安維持活動も新たにできるようにする。 (小野甲太郎)

 ■<視点>「歯止め」国会の重責

 安全保障法制をめぐり、与党は21日、大筋で合意した。自衛隊の活動範囲は大きく広がり「専守防衛」の理念のもと自衛隊に課せられていた様々な制約は取り払われることになる。

 安倍内閣の判断で憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を認めた閣議決定からわずか9カ月。一気にたがが外れたように、これまで認められなかった他国軍への弾薬提供や海外での治安維持任務も可能とした。政権は中国や北朝鮮の脅威を挙げ、米軍などとの連携強化も地球規模で一気に進めようとする。「多弱」といわれる野党はチェック機能を果たせていない。

 新たな安保法制が整備されれば、自衛隊はこれまでより戦場に近づくことになり、リスクは格段に高まる。後方支援を通じて戦争の一方に加担すれば日本がテロの標的になる恐れもある。

 自衛隊による武力行使や他国軍への後方支援は一義的には、ときの内閣の判断だ。だが、三権分立のもとその判断を検証し、承認を与える国会もまた、内閣と同様に重い責任を負う。国会審議を通じ、あいまいさが残る自衛隊の派遣基準や歯止めを明確化することは与野党共通の課題だ。与党であっても内閣に追随するだけなら国会の役割を果たしたとは言えない。(石松恒)


2015年4月22日(安全保障法制) 2面 
② 自衛隊活動、一挙に拡大 事前承認、問われる実効性
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11717454.html

 安倍政権が今国会での成立を目指す安全保障法制の全体像が固まった。「切れ目のない対応」という名のもと、あらゆる事態で自衛隊の活動範囲を拡大させる内容だ。公明党はその「歯止め」として国会の事前承認に最後までこだわったが、国会は本当にその役割を果たせるのか。安保法制で、自衛隊のリスクは格段に高まると見られるだけに、その責任は重い。▼1面参照

 「公明の主張が認められたと理解している」。公明党の北側一雄副代表は21日、与党協議後の記者会見で胸を張った。

 2月に始まった与党協議で、最後まで残った課題は、地球規模で拡大する自衛隊の活動に、いかに「歯止め」をかけるか。自衛隊の海外派遣をできるだけ抑えたい公明がこだわったのが「国会の事前承認」だった。

 政府・自民は、昨年の閣議決定の中身を最大限に読み込んだ方針を次々と出して公明にのませようとした。これに対し、公明は、国民を代表する国会に、自衛隊派遣の最終的な責任を持たせる国会承認を訴えることで「歯止め」をかけたとアピールすることを狙った。

 21日の与党協議では、戦争している他国軍を後方支援する恒久法「国際平和支援法」に関し、「緊急の必要がある場合、国会閉会中の場合または衆議院が解散されている場合であっても、国会を直ちに召集するなど所要の手段を尽くす」として、公明の主張通りに「例外なき事前承認」が盛り込まれた。

 ただ、実効性が問われる部分も残した。同法に基づいて自衛隊を派遣するときは、国会に対し、「7日以内に各議院が議決するよう努めなければならない」という努力規定が付けられた。衆参で計14日以内に承認することを求めたものだ。自衛隊を海外に送るかどうかという重要な政治判断にあたって日数の制限をつけてしまうと十分な審議時間が確保できない恐れがある。

 さらに、武力攻撃事態法、重要影響事態法、改正PKO協力法に関しては、原則は事前承認としながら、閉会中や衆院解散時には例外として事後承認を認めた。

 一方、国会が「歯止め」としての機能を本当に果たせるのかどうか。国会自身にも重い課題を突きつけている。

 たとえば英国では2013年、キャメロン政権が米国とともに、化学兵器使用の疑いがあったシリアへの武力行使を行う動議を下院にかけた。ところが、英国はイラク戦争やアフガン戦争で600人以上の死者を出し、国民に厭戦(えんせん)気分が高まった。動議は、世論を感じ取った与党・保守党から約30人もの造反が出て否決。キャメロン政権はシリアへの軍事介入を断念した。

 日本も、英国と同じように議院内閣制をとり、国会の多数派が首相と内閣を構成する。それでも、政府の判断に対し、国会として独立の立場で判断できるかが問われる。

 ■「切れ目ない対応」 危険性は高まる 

 一方で、安倍晋三首相が安保法制の必要性を説くときにいう「切れ目のない対応」のかけ声のもと、自衛隊の活動範囲は大幅に広がろうとしている。

 「日本の海の状況も、空の状況も大変厳しい。これは10年前とは比べものにならない」。首相は20日のテレビ番組で、こう強調した。そのうえで、首相は今回の安保法制で、尖閣諸島などの離島防衛から集団的自衛権の一部行使まで「切れ目のない対応を可能にする法制を行う」と語った。

 首相がいう「切れ目のない対応」とは、日本やその周辺で自衛隊ができることを増やす狙いがある。加えて、あらゆる状況で米軍を支援する態勢を整え、日米の連携を強めるのが、もう一つの狙いだ。実際、首相は20日の番組で、安保法制によって「日米の同盟関係はより効率的になる。抑止力は強化される」と語った。

 念頭に置くのは、軍事的に台頭し、海洋進出を図る中国であり、核・ミサイル開発を進める北朝鮮だ。

 これまで日本は自国が直接攻撃された場合に反撃する個別的自衛権しか認めてこなかった。しかし、安倍政権は、集団的自衛権を行使することによって、日本が武力行使できる範囲を大きく広げようとしている。

 さらに、有事になる前の段階で、日本の平和と安全に重要な影響を及ぼすと政府が判断したときに、米軍を後方支援することができるのが、重要影響事態法の整備だ。これまで事実上日本周辺に限られてきた米軍支援の範囲を地球規模に広げる考えだ。だが地理的な制限がなくなり、国連決議も必要としないことから、米軍支援が際限なく拡大する可能性がある。

 今回の安全保障法制のもう一つの特徴は、「国際平和」の名のもとに、自衛隊が世界でできることを大幅に広げようとしていることにある。2001年の米同時多発テロ以降、日本は米国などの求めに応じてその都度、活動内容を限定した特別措置法を整備し、自衛隊をインド洋やイラクに派遣してきた。しかし、恒久法の国際平和支援法ができれば、中東などで米軍が展開するテロとの戦いに対し、自衛隊を随時派遣できるようになる。

 紛争が終わった後の人道復興支援では、国連平和維持活動(PKO)協力法を改正し、国連が統括しない人道復興支援であっても自衛隊の派遣が可能となる。 自衛隊がより海外に出やすくするため、その要件を緩める措置と言える。ただ、こうした措置は、自衛隊が紛争地に近づくことにつながり、戦闘行為に巻き込まれる危険性は格段に高まる。(今野忍、石松恒)


2015年4月22日 4面 
③ 人道支援派遣、残る論点 特措法の必要性、自公棚上げ 安保法制協議
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11717447.html

 新たな安全保障法制では、特別措置法がなくても陸上自衛隊がイラクで行ったような人道復興支援はできるのか――。可能と主張する政府・自民党と、不可能との立場を崩さない公明党。21日の与党協議で両党は「特措法が必要かどうかは今後の判断」と棚上げする方針で一致した。その背景には「大人の事情」があった。▼1面参照

 「イラク人道復興支援のような時には特措法が必要な事態もあるのではないか」。この日の与党協議で公明党議員が口火を切ると、自民側が色をなした。「特措法が必要とはどういう事態なのか」

 与党協議座長の自民党の高村正彦副総裁が「特措法が必要だという言い方はやめてもらいたい。北側(一雄公明党副代表)さんには言ってある」と釘を刺すと、北側氏は「了解しています」と引き取った。

 伏線は17日にあった。北側氏が「(イラクの)サマワのような活動はできない。どうしてもやるというなら特措法でやるしかない」と明言したのだ。

 2003年、政府はイラクで給水や学校建設などをする活動に自衛隊を派遣するために特措法を作った。これは、国連平和維持活動(PKO)協力法が国連主導型しか認めていないからだ。

 今回のPKO法改正で、国連主導以外でも派遣可能になる。また政府は、改正の目的として、必要があるたびに特措法を作らなくてもいいようにする、と説明してきた。首相周辺は「特措法が必要という言い方をすれば『穴がある』と認めているようなものだ」と話す。つまり「切れ目のない法制」と訴えてきた安倍晋三首相の主張と矛盾することになる。また国会審議でも野党の追及を招きかねない。

 公明党にも事情がある。統一地方選の後半戦投開票日を前に、有効な「歯止め」をつくったという実績が必要だった。そこで目を付けたのがPKOの参加5原則に含まれる「停戦合意」だ。

 「停戦合意」は改正法でも変わらない。北側氏は21日夕も、記者団に「大事なのは5原則を満たしているかどうか。満たしていないような事態に自衛隊を派遣するなら、別途法律を作るしかない」と、「歯止め」の成果とともに特措法の必要性を強調した。

 今後、同様の事態で自衛隊を派遣できるかは、5原則の解釈に委ねられる。

 政府関係者は「5原則は厳格に適用されるので、停戦合意がなければ派遣できない」と話す。だが、首相周辺は強気だ。「国全体で停戦合意していなくても、地域内で停戦合意していればいい。当てはめの問題だ」

 中東・ホルムズ海峡の停戦前の機雷除去についても、政府・自民党は可能との見方だが、公明党は慎重で、意見の相違を残したままだ。海外派遣の条件についても棚上げしたまま、安保法制の議論は大詰めを迎えている。(三輪さち子)


2015年4月22日 社説 14面 
④ 安全保障法制 抜け道だらけの決着だ
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11717368.html

 今国会の焦点となる安全保障法制は、きのう開かれた自民、公明両党による与党安保協議で最後の課題が決着し、全容が固まった。戦争中の他国軍を後方支援するための恒久法「国際平和支援法」について、例外なく国会の事前承認を義務づけることで事実上合意した。

 だがこれを大きな「成果」と受けとるわけにはいかない。

 安保法制の狙いは、自衛隊の海外派遣の縛りをできるだけ解くことにある。これまでの地理的な制約を取り払い、米軍以外にも支援の対象を広げ、自衛隊員は格段に危険な任務につく。「歯止め」は重要だが、恒久法は巨大な安保法制の一部であり、ここで事前承認をかけたとしても全体の方向性を変えるような話ではない。

 さらに言えば、もともと恒久法は国連総会の決議や安保理決議を要件とする方向で、一定の「歯止め」をかけている。そのうえに国会の事前承認を例外なく課すことは当然だ。

 見過ごせないのは、こうした「歯止め」をかけたとしても、他国軍への後方支援に抜け道があることだ。現在の周辺事態法の地理的限定を外し、抜本改正する重要影響事態法である。

 国際社会に寄与するのが恒久法で、日本の平和に関わるのが重要影響事態法。これが政府の説明だが、どちらも活動の中身は後方支援で重なる。

 これでは、国連決議が出なかったり、国会承認が得られなかったりした場合でも、政府が重要影響事態と認定すれば済むことにならないか。

 この法案については、日米安保条約の効果的な運用に寄与することを「中核とする」と規定する方向だ。そういう表現をとることで、条約に縛られない支援が可能になる。原則は事前、緊急時は事後の国会承認が求められるが、政府には使い勝手のいい法律となりそうだ。

 重要影響事態法による後方支援という抜け道があるので、恒久法には厳しい制約を課しても差し支えない――。そんな判断が与党になかったか。

 そもそも安保法制の出発点は昨年7月の閣議決定だ。憲法解釈を百八十度変え、集団的自衛権の行使容認に踏み込んだ。日本の安保政策の大転換であり、平和国家の原則と法的安定性は揺らいでいる。

 集団的自衛権の行使ができる「存立危機事態」とはどんな事態なのか。そこがあいまいなままの決着であり、時の政権の判断次第で海外での武力行使に道が開かれてしまう。安保法制の最大の抜け道である。


2015年4月22日 TPPとAIIB 3面 
⑤ TPP決着持ち越し AIIBで孤立、米に焦り
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11717473.html

 環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる日米の閣僚会談は21日未明、夜を徹した約15時間の攻防の末、互いの溝を埋めきれないまま終わった。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立で存在感を増す中国に対抗し、交渉を急ぎ始めた米国だが、合意への道筋は見通せていない。

 「距離は相当狭まったが、課題は残っている」

 21日午前3時半ごろ。会談を終え、記者団の前に姿を見せたフロマン米通商代表部(USTR)代表と甘利明TPP相は、ほぼ同じ言葉で協議の「進展」を強調した。

 交渉は難航した。甘利氏とフロマン氏だけの会談と、それを踏まえた実務者協議を繰り返す個別品目の「ガチンコ交渉」(甘利氏)だった。

 まず議題に上がったのは、日本が「聖域」と位置づけるコメなど農産品だ。日本にとってのコメの特殊性を説く甘利氏に対し、フロマン氏も「いつもの強気」(交渉筋)で従来の主張を展開。焦点は日本が新たにつくる米国産米の優先輸入枠の規模に絞られ、年約5万トンが限度とする日本と約20万トンを求める米国の主張がぶつかった。米国が自動車用輸入部品に課す2・5%の関税をめぐっては、即時撤廃を日本が要求し、米国は主要部品の段階的撤廃への理解を訴えた。

 甘利氏は20日夕方、出席予定だった会議をキャンセル。フロマン氏と2人だけで1時間半ほど話し込むこともあった。「怒鳴り合いはないが、笑い声も聞こえない」(交渉筋)雰囲気だったという。

 交渉が難航した背景には、米議会が大統領に貿易交渉の権限を一任する貿易促進権限(TPA)法案が成立していないという事情があった。日本からすれば、成立前に譲歩して合意しても、米議会に覆されるおそれがある。当初から「完全決着は期待していない」(甘利氏)としてきた。

 フロマン氏は交渉の最後、「今回、本当はまとめたかった」と漏らしたという。日本側も「まとめようという強い意志を感じた」と語る。交渉筋によると、米国側がコメの優先輸入枠の要求水準を引き下げる場面もあったという。(鯨岡仁、澄川卓也)

 ■AIIBで孤立、米に焦り

 米国が交渉を急ぐのは、オバマ大統領の任期中にまとめるには、ギリギリのタイミングになってきたからだ。来年の大統領選に向けた動きが本格化する今夏までずれ込むと、貿易交渉はほとんどできなくなる。TPP交渉全体を主導する日米の首脳会談を28日にひかえ、「できる限り日米の協議を詰めたい」(米政府関係者)と考えていた。

 さらに、米国の背中を押したのが、中国主導のAIIBでの「失敗」だった。主要国が軒並み参加を表明し、参加を見送った日米は孤立化。国際社会での米国の指導力の陰りが露呈してしまった。このうえ自らが主導するTPPもまとめられなければ、アジア市場で貿易や投資のルールづくりを中国に主導されてしまう。オバマ大統領は17日の記者会見で「我々がアジアで新しいルール作りを支えなければ、中国が自国に有利なルールを作ることになる。今後20~30年も市場から締め出される」と、焦りを隠さなかった。

 AIIBで米国と共同歩調をとる日本にとっても、TPPは成長戦略の柱で交渉の漂流は避けたい。このため、日米首脳会談では交渉の進展ぶりをアピールすることで、ほかの参加国に交渉の加速を促し、5月下旬にも参加12カ国の閣僚会合を開いて大筋合意に持ち込むシナリオを描く。

 ただ、日本を含む交渉参加国は、TPA法案が成立するまでは合意は難しいとみる。米政府は閣僚会合に間に合うように、5月中旬ごろまでに成立させたい考えだが、与党・民主党に反対派が多く、審議の行方は予断を許さない状態だ。 (五十嵐大介=ワシントン、小林豪)

 ■日米がめざす合意への道筋

<4月>

19~21日 日米閣僚会談→日米首脳会談の事前調整
23~26日 全参加国の首席交渉官会合→難航分野で合意にめど?
   28日 日米首脳会談→交渉の進展をアピール
   29日 安倍晋三首相が米議会で演説→TPPの重要性を強調

<5月中旬> 米議会でTPA法案成立?

<5月下旬~6月初旬> 全参加国の閣僚会合→大筋合意?


 04 22 (水) 安倍の孤立    田中宇の国際ニュース解説

国内でゴチャゴチャしているうちに、世界は中国を中心に大きく廻り始めている。


2015年4月14日 田中 宇
① 加速する日本の経済難
    http://tanakanews.com/150414japan.php

 4月10日、日本の平均株価が15年ぶりに2万円の大台に乗せ、アベノミクスが成功して日本経済が好転している証拠と喧伝された。しかし、この日の株価が15年ぶりの高値になったのは日本だけでない。欧州の全欧平均株価(FTSEurofirst300)も、15年ぶりの高値の1640ポイントになった。英国の平均株価FTSEは、この日史上初めて7000ポイントの大台に乗り、史上最高値を更新した。ドイツや米国の平均株価も高騰した。 (FTSE 100, Japan’s Nikkei and Germany’s DAX are at record levels. So why are stock markets booming?)

 この日、日本や欧米の株価が高騰した主因は、景気が回復しているからでない。日本銀行をはじめとする先進諸国の中央銀行が、通貨を大増刷して債券や株を高騰に誘導するQE(量的緩和策)を拡大しそうな見通しが強まったからだ。景気回復でなく、中央銀行による株価つり上げ策によって先進諸国の株価が上昇した。 (World stocks reach milestones, dollar gains) (中央銀行がふくらませた巨大バブル)

 株高を煽るQEを、先進諸国のいくつもの中央銀行がやっているかのように報じられているが、いま本気でQEをやっているのは日本銀行だけだ。米国は昨年10月にQEをやめている(代わりに日本がQEを引き受けた)。EUの欧州中央銀行(ECB)もQEをやっているが、ECBのQEは、国債がマイナス金利になると買い支えの額が縮小する。ドイツなどで国債がマイナス金利になり、ECBは目標額(600億ユーロ)の3分の2しかQEを行っていない(3月の実績が417億ユーロ)。EU盟主のドイツはQEに反対で、対米関係を重視するECBの総裁に押し切られてしぶしぶQEをやっているだけなので、目標額に達しない方が好都合だ。 (Draghi Is No Longer Bernanke's Best Friend) (German Bond Scarcity Could Turn Into Shortage, BNP Says) (Why Weeks After The ECB QE Started Many Are Already Calling For Its Taper) (ユーロもQEで自滅への道?)

「QEが景気を良くして、それが世界的な株高になっている」と考える人がいるかもしれないが、それは間違いだ。権威あるFTですら、QEが景気を良くしていないことを、最近の記事でやんわりと認めている。 (QE may not have been worth the costs) (崩れゆく日本経済) (QEするほどデフレと不況になる)

 日本では、マスコミが大企業の給与上昇を喧伝し、政府はアベノミクスの成果として勤労者の賃金が増えているかのように見せているが、実のところ賃金は減っている。厚生労働省が4月3日に発表した平均賃金の統計(毎月勤労統計調査)は、ほとんど報道もされないまま重大な下方修正が行われた。それまでの統計では、2014年の基本給(所定内給与)の指数が、対前年比0・0%、つまりまったく横ばい(同額)だったのが、定期的な調査対象企業の入れ替えの結果、対前年比マイナス0・4%、つまり減額へと下方修正された。政府の喧伝と裏腹に、サラリーマンの基本給は減少し続けている。物価上昇を勘案した実質賃金指数は、今回の下方修正前から20か月連続のマイナスだ。 (修正前(旧事業所データ)の賃金指数) (修正後の賃金指数) (Japan - revised data shows wage growth much weaker than previously reported)

 今回の下方修正は、3年ごとの定期的なもので、厚労省がどの企業から統計をとるかは「無作為」に決めていることになっており、横ばいだったはずの賃金が実のところ減少していたのは、公式論だと「無作為の中の偶然」にすぎない(だからマスコミは報じなかった)。しかし安倍政権は、新聞やテレビ局に圧力をかけて政府批判をやめさせる策をとる政権だ。「無作為」の統計対象企業の選定に関して、できるだけ賃金が上昇しているように見せるようにしろと厚労省に圧力をかけても不思議でない。定期修正ごとに、賃金が上昇気味になるように対象企業を選定し、それを「無作為」と言い続けられる。調査対象企業を入れ替えるごとに、実は賃金が減っていたことが露呈するが、それは人目につきにくい「旧事業所データ」に押し込められ、報道されない。 (この件を見やすいグラフにしたもの)

 今回の定期修正は全体的に、平均賃金がさかのぼって下方修正されており、アベノミクスの粉飾が露呈するかたちだ。今回の下方修正を前に、厚労省は3月31日に予定されていた今回の発表を4日間遅らせた。厚労省は、安倍政権の不利につながりかねない下方修正をして良いかどうか、政権中枢と協議したのかもしれない。米国では、雇用統計の粉飾が常態化している。対米従属の日本が「お上」の真似をして賃金統計をごまかしてもかまわないわけだ。 (Japan Admits Fabricating 2014 Wage Growth Data) (米雇用統計の粉飾)

 今回の厚労省の件は、ゴールドマンサックスが指摘し、米金融分析サイトのゼロヘッジがネット上に公開した。日本では日刊ゲンダイだけがこの件を記事にした。余談だが、日刊ゲンダイの記事は「大手シンクタンク関係者」と「某シンクタンク主任」の発言として書かれている2つのコメントが、ゼロヘッジの分析とまったく同じ内容だ。たぶん日刊ゲンダイの記事の筆者は、コメントを取材したふりをしてゼロヘッジの分析を翻訳しただけだろう。ゼロヘッジは以前からアベノミクスの問題点を鋭く指摘し続けており、目を通しておくべきサイトだ。 (公表遅れた「勤労統計」 やっぱり下方修正ラッシュの衝撃結果)

 日本など先進国の経済の大黒柱は「製造」でなく「消費」で、GDPの6-7割が人々の消費で成り立っている。人々の消費の源泉は賃金だ。勤労者の賃金が増えれば消費も増えるし、賃金が減少傾向なら消費も減る傾向だ。日本の勤労者の賃金が減っている以上、消費も増えにくい。経済成長が止まって当然だ。日銀が発表した3月分の短観でも、日本経済が好転していないことが確認されている。 (Recovery in Japan business mood stalls, capex to be cut: BOJ tankan) (Abewrongics: Nikkei/USDJPY Tankin' After Terrible Tankan)

 米欧日では80年代の金融自由化以来、金融システムが実業(実体経済)の規模より何百倍も大きくなり、金融の儲けの一部が実業界に流れ出し(トリックルダウン)人々の賃金を押し上げ、消費を拡大してGDPを成長させてきた。08年のリーマン危機による金融システム崩壊後、延命策としてQE(造幣による買い支え)が行われているが、QEは金融システムの延命だけで手一杯だ。トリックルダウンの機能が消失し、中産階級は賃金が減って解雇も増えて(フルタイム減、パートタイム増)貧困層に転落し、延命策の副産物の金融相場上昇でますます儲ける金持ちと、それ以外の転落傾向の一般市民の所得格差が拡大している。この傾向は数年前から米国で顕著だが、最近は日本でも貧困拡大、中産階級の転落、貧富格差拡大が指摘され始めている。貧困層への転落が拡大すると、消費が伸びず、マイナス成長になり、政府は統計のごまかしで経済成長が続いているかのように粉飾するしかなくなる。 (Under 'Abenomics,' rich thrive but middle class on precipice) (揺らぐ経済指標の信頼性) (Japan Shocked To Find Abenomics Is Destroying Its Middle Class)

 日本経済は見かけ上、株高やベースアップで景気が好転しているかのようだが、株高はQEによるバブル膨張であり、全体の賃金は下がっている。実質的に、日本経済は悪化し続けている。機関投資家の多くは、株高がQEによるバブルだと知っている。QEの主目的は債券相場の崩壊(利回り高騰)を防ぐことで、株価の上昇はQEによる資金過剰の副産物だ。 (The Fed's Big Problem: "De-Risking A Bull Market Is Very Different From De-Risking A Bear Market")

 QEは資金過剰(金あまり)を引き起こし、高リスクな株式やジャンク債への資金流入を煽っているが、QEが引き起こす最大の危険は、資金が過剰なのに債券が買われない(買えない)状態を引き起こすことだ。QEは、中央銀行が債券金利の上昇を防ぐために債券を買い支える政策なので、投資家は皆、債券の価格(金利)が中央銀行によって歪曲(操作)されていることを知っている。投資家は、操作されない状態の価格(金利)がどのぐらいなのか知りたいが、それがわからないので混乱する。 (The Bank Of Japan's Liquidity Crisis In One Chart)

 債券相場は、債券の需給でなく、中央銀行がQEをいつまで続けるか、拡大か横ばいか縮小かによって変動することになり、中央銀行がどっちつかずな態度をとると相場が混乱する。中央銀行がQEで債券を大量に買うため、市場への債券供給が減り、売買したくても期待通りの値がつかなくなる。混乱がひどくなると、取引を見送る投資家が増え、資金過剰なはずなのに市場に入る資金が減って流動性の危機が起きる。近年は機関投資家の多くがコンピューターを使ったプログラム売買で、皆が同じようなプログラムを使っているので、混乱が瞬時に急拡大する。最近、日本と米国の両方で、国債市場の流動性の危機が指摘されている。 (Biggest Shortage Of US 10-Year Treasurys Since June 2014) (Japanese Government Bonds Are Crashing - Biggest Surge in Yields In 2 Years)

 米連銀はすでにQEをやめているが、国債償還(満期)で得た現金で国債を再購入したり、短期国債を長期国債に買い換えることで小規模な事実上のQEを続けている。米政府は3月16日に財政赤字が法定上限に達し、それ以来国債の新規発行をやめているので、国債が供給減になっている。米政府は、国債の金利上昇を抑止するため、昨年から国債発行を減らし、需給の逼迫を意図的に引き起こしてきた。これらが流動性の危機を招き、4月5日、権威あるWSJ紙が「(米国の)債券市場は壊れている」「担保になる米国債の不足で、銀行間の短期融資市場(レポ市場)も取引が滞っている」「流動性が低下し、金融危機が起こりかねない」とする記事を出した。 (Broken Bond Market Complicates Fed's Plan to Raise Rates) (Lew warns Congress over US debt ceiling)

 QEは中央銀行の財務内容を悪化させるので永久に続けられず、いずれやめねばならない。QEをやめると、債券の価格が下がる(金利が上がる)が、投資家はどのくらい下がるのが妥当かわからない。QEをやめていく局面で債券市場が混乱しやすい。昨年10月末に米連銀がQEをやめる2週間前の10月15日、米国債市場で数分間で相場が急上昇した後で急落する事態があり、この手の混乱が今後も起きかねないと米金融界が懸念している。 (Fed official warns `flash crash' could be repeated) ("Another Crisis Is Coming": Jamie Dimon Warns Of The Next Market Crash) (QEの限界で再出するドル崩壊予測)

 対米従属が国是の日本は、米国覇権の力の源泉である米国債を頂点とする債券金融システムの崩壊を防ぐため、米連銀がやめざるを得なくなったQEを昨年11月から引き継ぎ、それまでの日本独自のQEを急拡大して続けている。今年2月以来、日本の国債市場では流動性の危機が起きており、金融界や日銀内部から、QEの続行に対する懸念が表明されている。 (The art of Japanese debt juggling) (日銀QE破綻への道) (米国と心中したい日本のQE拡大)

 しかし日本政府は、自国の金融財政の健全性の維持よりも、政治的な対米従属(日米同盟の維持)の方が重要と考えているようで、日銀の上層部は「QEを永久に続けるわけではない」などと煙幕を張りつつ、QEをやめるそぶりがない。もともと日銀のQEは今年4月までの予定だったが、ほとんど議論なく静かに無期限に延長されている。 (Bank of Japan Votes Down Call to Slash Easing) (Exclusive - BOJ's Nakaso warns market against betting on more easing)

 日本国債を大量に保有している日本生命の岡本圀衞会長は4月10日「日銀はこれ以上QEをやるべきでない」と表明し、日本の金融界を代表するかたちで、QEの続行に強く反対した。日銀や財務省といった当局への忠誠が基本の日本の民間金融界のトップが、日銀の基本的な政策に明確に反対意見を述べたことは異例だ。日銀のQEへの大きな危機感が金融界にあることを示している。ロイター通信の日本語の記事はやんわりした感じで書いてあり、それほどの危機感を感じさせない。 (インタビュー:追加緩和、そろそろ好ましくない=岡本・日生会長)

 しかし英文記事では、岡本氏の発言が意味するところをすくいとって「日本国債の9割を(当局の言うことを聞く)国内金融機関が持っているからという理由で、QEを続けても日本国債の金利高騰(相場暴落)が起きないと考えるのは愚かだ」「QEによって日銀の勘定の肥大化が起きている」「QEが債券市場の機能不全を引き起こす懸念がある」といった、厳しい内容になっている。 (INTERVIEW-Nippon Life chairman: more BOJ quantitative easing undesirable)

 岡本会長の指摘で最も恐ろしい点は「日銀がうまいことQEを終わらせていく方法があるのか疑問だ(入口はいいが、出口となるとなかなか出られない)」という趣旨の発言だ。日銀のQEは日本の債券市場を破壊しているのでやめるべきだが、日銀がQEをやめようとすると、米連銀がQEをやめた(日銀に引き継いだ)時のように他の国の中央銀行に引き継いでもらうことができないので、うまくやめられず、日銀のQE終了が日本国債市場の崩壊、流動性危機から金利急騰を招きかねない。日銀が今すぐQEをやめるつもりでも日本国債が危機(金利高騰)になるかもしれないと、日本国債の最大級の保有者である日本生命の会長が懸念している。日本はすでに、QEを続けても破綻、やめても破綻という事態に入り込んでいる懸念がある。ゴールドマンサックスも、同種の警告を発している。 (Japan QE Limit Approaching As Goldman Says BoJ Risks Losing Crediblity) (QEやめたらバブル大崩壊)

 QEは一般に金融界を救済する政策だが、日銀のQEは「米国の」金融界を救済するものの、日本の金融界を救済せず、逆に経営危機に陥らせている。日本の地方銀行でつくる地銀協の寺門一義会長(常陽銀行頭取)は先日「日銀がQEで日本国債を買い占めてしまうので、地銀は従来のように日本国債を買って運用できず(買えてもQEのせいで利回りが低すぎる)、営業コストをまかなうために危険な外債や株に手を出さざるを得ず、危険になっている」という警告を表明した。地銀64行のうち、金利収入で営業コストをまかなえているのは約20行にすぎず、残りは経営改善できない場合、他の銀行に吸収合併してもらうしかないという。 (Japan's regional banks feel impact of BoJ stimulus)

 自国の銀行の安定を守ってやるのが中央銀行の使命だ。しかし今の日銀は、自国の銀行の安定を犠牲にして、米国債(と日米同盟)の安定を守るためのQEを無理して続けている。しかも、日銀がQEで全力で支えても、米国の債券金融システムは不安定化している。いずれ日米ともに国債が破綻しそうだ。日銀のQEは「売国奴」にすらなっていない愚かな自滅行為だ。日銀は安倍政権になって、黒田総裁を送り込まれ、政府から自立した中央銀行であることをやめさせられ、政権(対米従属の官僚権力機構)に乗っ取られている。日銀はすでに死んでいるといえる。 (米国と心中したい日本のQE拡大)


2015年4月16日 田中 宇
② 日本をだしに中国の台頭を誘発する
    http://tanakanews.com/150416china.htm

 英国は第二次大戦後ずっと、米国にとって「特別な関係」の同盟国だった。しかし米議会の調査機関(Congressional Research Service)は最近、英国が米国にとって特別な関係の国でなくなっているとする機密の報告書を作成し、この件を議員たちに説明した。報告書は、G20のような国際機関ができ、地政学的な変化が起きた結果、米国にとって英国との関係が外交の中心だった従来の状況がなくなったとしている。この報告書から予測されるのは、今後の米国が、英国との関係をますます軽視する「英国はずし」の加速だ。 (Secret US memo for Congress seen by Mail On Sunday says Britain's 'special relationship' with America is over)

 報告書について報じた英デイリーメール紙の記事は、なぜG20の創設が米英同盟の先細りにつながるのか「地政学」という言葉を超える説明をしていない。だが、私はピンときた。08年秋のリーマン危機の直後、戦後のブレトンウッズ体制(ドル単独基軸体制)の見直し(基軸通貨体制の多極化)が英仏露などによって提唱され、初めてG20サミットが開かれ、経済分野の問題を考える世界最重要の意志決定機関がG7からG20に交代したと米大統領府が発表した。 (転換期に入った世界経済)

 G7は、米英が西欧諸国や日本、カナダなどを率いる形で先進諸国を団結させる組織で、その中心は米英同盟だ。米英同盟は英国にとって、戦後の覇権国となった米国の世界戦略を、戦前の覇権国だった英国が(軍産複合体などを通じて)隠然と牛耳るためのもので、英国が米国の戦略を牛耳って作った世界体制の象徴が冷戦構造だった。冷戦遂行の軍事組織NATOは、米英が西欧諸国を率いてロシアと対立する体制で、NATOとG7は同じ構図になっている。

 G7は80年代、軍事の冷戦が終結に向かい、覇権体制が経済重視に転換していく時に作られた。人々に本質を悟られないよう、G7は「世界経済のための組織」ということになっていたが、G7の本質は、英国が米国を牛耳り、先進諸国を率いてロシアや中国と恒久対峙することだ。(ゴルバチョフが冷戦を終わらせる見返りとしてロシアをG7に入れてくれとレーガンに頼んだのでG7がG8になったが、G8は形式だけの存在で、ロシアは冷戦後も米英から冷遇・敵視された)

 米英単独覇権体制であるG7と対照的に、G20は米国、EUと中露などBRICS諸国が対等の発言権を持つ多極型の覇権体制だ。リーマン危機によって米国の経済覇権の根幹に位置していた債券金融システムが崩壊し(今も部分崩壊したままだ)、米国が覇権を経済面で維持できなくなったとみなされ、基軸通貨体制をドル単独(ブレトンウッズ体制)から多極型に転換する必要があるとしてG20サミットが開かれ、同時にG20がG7に取って代わった。

 その後、基軸通貨体制の多極化は、BRICS諸国間での相互通貨決済体制の強化、人民元の国際化など、地味な形でしか進んでいない。EUはユーロ危機にまみれ、世界は依然としてドルが単独で最重要の通貨だ。G20は大したことを決めておらず、G7も存続し、G20が世界経済の最高意志決定機関であることは実感できない。米国や対米従属の日本が、QEなどで米国の債券金融システムを延命する策をやっているので、多極化が棚上げされている。 (◆QEやめたらバブル大崩壊)

 しかし、米議会の秘密報告書が「G20ができたので英国との関係が米国にとって最重要でなくなった」と書いていることは、G20がG7に取って代わり、米英単独覇権体制が崩れて覇権が多極化するプロセスが放棄されず、いまだに潜在的に進行していることを示している。

 最近、多極化の動きとして象徴的だったのが中国によるAIIB(アジアインフラ投資銀行)の創設だ。時期的に見て、米議会の今回の「英国はずし」の新政策は、英国が米国の反対を押し切ってAIIBに加盟したことがきっかけだろう。AIIBは「ブレトンウッズ機関」の一つであるADB(アジア開発銀行)のライバルだ。中国などBRICSは、IMFのライバルとしてBRICS外貨準備基金、世界銀行のライバルとしてBRICS開発銀行を作っており、ブレトンウッズ体制に取って代わる多極型の体制(新世界秩序)を用意している。AIIBの創設は、多極型覇権(G20)が米英覇権(G7)に取って代わる動きの新たな象徴だ。 (日本から中国に交代するアジアの盟主) (U.S. Support of China's Development Bank is Gigantic U-Turn)

 英国が、米国の反対を無視してAIIBに加盟し、その報復として米議会が米英同盟の軽視を戦略として打ち出した。米議会の報告書の「G20ができたから、米国にとって英国が最重要でなくなった」という指摘の意味は「英国が、AIIBに入るなど、米国を見限ってG20にすり寄って多極化の扇動役に鞍替えしたので、米国にとって最重要の国でなくなった」ということだ。英国は、AIIB加盟以外にも、ロンドンを人民元取引の世界的中心にすることを目指すなど、昨年から中国にすり寄る行動を続けている。 (中国主導になる世界の原子力産業)

 AIIBには、関係国のうち日米以外のすべての国々が加盟した。当初、この流れを作ったのは英国であるように見えたが、最近の報道によるとそうでない。FTによると、もともと英政府は3月17日ごろAIIB加盟を発表する予定だと中国政府に伝えていたが、ルクセンブルグが3月11日に加盟申請し(発表はしなかった)中国政府が英政府にそのことを伝えると、欧州諸国の中で加盟一番乗りを目指していた英国は焦り、前倒しして3月12日に加盟申請を発表した。欧州では英国、ルクセンブルグ、独仏が人民元の決済所を開設し、欧州での対中ビジネスの中心地になろうと競争している。中国は、欧州諸国間の対中すり寄り競争を手玉に取り、AIIBへの加盟の雪崩状況を作り出した。中国は、老練なはずの英国より外交術が勝っている。 (UK move to join China-led bank a surprise even to Beijing)

 日本は、木寺昌人駐中国大使が、6月までにAIIBに加盟するとの見通しを表明したが、本当に日本がAIIBに入るのか私は疑問だ。日本は中国から加盟を誘われていたのだから、入るなら3月末までに加盟申請し、発言力が大きくなる創設時の加盟国になるはずだ。わざわざ加盟を数カ月遅らせ、創設時加盟国にならずに自国の発言力を低下させるのは馬鹿げている。安倍政権は、AIIBに入るべきだと政府に圧力をかける中国重視の財界を煙に巻くため、6月に加盟すると駐中国大使に言わせたのでないか。日本は4月末の安倍訪米後、米国との結束を強めて中国への敵対を強める方向で、AIIBに加盟するのでなく敵視する方に進んでいる。 (Japan expected to join Asian Infrastructure Investment Bank)

 米政府は、ルー財務長官が3月31日にAIIBを歓迎すると表明し、加盟しないものの、それまでの敵視を引っ込めた。しかしルーは同時に、中国が今年中に人民元をIMFのSDR(世界の主要通貨を加重平均した単位。現在ドル、ユーロ、円、ポンドで構成されている)に入れたがっていることについて、人民元は為替が自由化されておらず時期尚早として反対を表明した。米国が中国の動きを阻止するテーマは、AIIBから人民元のSDR入りへと移り、続いている。 (China knocking on door of IMF's major league, U.S. wavers) (China's yuan doesn't qualify to join IMF: US)

 人民元をSDRに含めることについて、米国は反対しているが、独仏は賛成を表明している。米国の反対を押し切って独仏など各国が大挙してAIIBに加盟したように、人民元のSDR入りも、欧州勢など各国の賛成によって、米国の反対が押し切られるだろう。人民元のSDR入りは、中国の目論見どおり年内に実現しそうだ。米国は、あらかじめ負け続けるとわかっていて、中国の経済覇権の拡大について、次々とテーマを変えつつ喧嘩をふっかけている。 (China Targets dollar, Washington Has Conniptions) (China's Defiance Before the IMF: Incorporate the Yuan into the Special Drawing Rights)

 米国が、中国の経済台頭を阻止する策をやるたびに、米国(日米)以外の「国際社会」は米国の制止を振り切って中国の側につき、米国の覇権(信用力)の低下(浪費)と、中国の台頭が続く。米国が阻止しようとしても国際社会が中国の側につくので、もはや中国の台頭は止められない。中国(やロシア、イラン、中南米諸国など)は、権威が落ちているのに好戦的な姿勢をやめない米国の言うことをますます聞かなくなり、国際社会が米国抜きで意志決定することが増え、米国の外交力が落ち、しだいに世界の覇権体制が多極型に転換していく。 (不合理が増す米国の対中国戦略) (Renminbi-Rising: American Leadership In A Multipolar World)

 米国が自国の覇権を温存したいなら、中国の台頭を容認しつつ、中国が米国好みの世界体制を阻害しないよう丸め込むしかないが、現実は逆で、米国はむしろ自滅的な中国敵視の傾向を強めている。米国(政府と議会)は、失敗を予測せずにこの愚策を繰り返しているのだろうか。そんなはずはない。米国は、かつて中国が弱かった時代(戦前や1970-90年代)には、中国を積極的に支援していたが、中国が台頭してくるにつれ、中国への敵視を強め、中国のさらなる台頭を引き起こしている。米国は、中国をこっそり強化する策を長く続けている感じだ。何度も書いていることだが、私はそれを「隠れ多極主義」と呼んでいる。 (中国を隠然と支援する米国)

 近年の米国は、ロシアやイラン、中南米などに対しても、敵視して逆に台頭を誘発する隠れ多極主義をやっている。たとえば、南米の反米的なベネズエラが原油安で財政破綻に瀕し、政権崩壊しそうになると、オバマ大統領が3月中旬に突然、ベネズエラが米国にとって脅威だとして敵視する発言を行い、ベネズエラ(や中南米全体)の人々の反米感情を掻き立て、弱体化していたベネズエラのマドゥロ政権が人々の支持を取り戻すように誘導した(ベネズエラを再強化した後、米政府はベネズエラ敵視の姿勢を撤回している)。米国のキューバとの国交正常化も、似たような効果をもたらしている。 ("A new degree of pettiness": Why is the U.S. really sanctioning Venezuela?) (Obama clash with Venezuelan leader backfires; Latin Americans unite against U.S.)

 隠れ多極主義の動きが意味するところは、米国自身の中に、自国の単独覇権よりも多極型覇権を好む傾向があることだ。この傾向は、覇権運営の過去の教訓に由来すると考えられる。先代の覇権国だった英国が、後から台頭してきたドイツに覇権を奪われそうになる中で、二度の大戦が引き起こされている。覇権国が衰退すると、覇権国に取り付いていた資本家たちが次の覇権国になりそうな国を加勢し、覇権転換を起こす動きが強まり、覇権の延命策と自滅策の相克になり、世界大戦など全体を自滅させる動きになりかねない。 (隠れ多極主義の歴史)

 これを防ぐには、覇権体制が単独国家の一極支配体制でなく、複数の大国(地域覇権国)が対等関係で立ち並び、談合する多極型になっていた方が良い。複数大国制は大国間の覇権争いになるので危険だという説は、単独覇権維持のためのプロパガンダである。米国は第二次大戦後の覇権体制として、国連安保理常任理事国の多極型の5大国談合体制(P5)を用意したが、英国が誘発した冷戦体制によって上書きされ、P5は長く無力化されていた。最近、中露の台頭でP5が復権している。

 米国が多極化を望むなら、中国やロシアへの敵視をやめて仲良くすれば良いだけであり、それをしないのだから米国に多極主義など存在しない、と言う人がいる。この考えは、ナショナリズムやマスコミといった国民国家の構造が、敵対国と仲良くなるより敵対をいっそう強めることに向いており、寛容主義より好戦論を進める方がはるかに簡単だという点を忘れている。ケネディ大統領はキューバ危機後にソ連との和解を試みたが、それはソ連敵視を加速する逆方向の好戦策に打ち消され、ケネディ暗殺で終わっている。冷戦の終結はその後、米国の好戦策を暴走させてベトナム戦争の泥沼化と撤退が引き起こされ、好戦策が自滅した後のニクソン訪中を皮切りに実現している。 (歴史を繰り返させる人々)

 冷戦後、米国はロシアへの敵対をやめてG7に入れてやり、ロシアを資本主義で親米の国として発展させる計画が始まったが、ロシアの財界人たち(オリガルヒ)が米英の傀儡として国有企業を民営化すると称して私物化し、露経済を破綻させた。その後にロシアの権力者として出てきたプーチンは親米政策を捨て、ロシアを米国に頼らない国として発展させ、米国に敵視されるほどプーチンの国内権力と国際影響力が強まる構図になっている。 (プーチンの光と影)

 米大統領が敵視の終了を宣言しても、それは短命に終わる。むしろ敵視を過剰に強めて失敗に誘導する方がうまくいく。だから米国の多極主義は直截的でなく、多極主義と正反対の単独覇権主義を過剰に敵対的、好戦的にやって失敗することで多極化を引き起こす、複雑な「隠れ多極主義」になっている。本物の単独覇権主義者が、好戦策を過激にやって失敗に導く隠れ多極主義の策を防ぐには、世論を席巻する好戦策を弱めることが必要だが、すでに書いたように好戦策は弱めるより強めることの方がずっと簡単で、好戦策を弱めようと者は「弱腰」「左翼」「売国奴」のレッテルを貼られて失敗する。右翼が左翼のレッテルを貼られる皮肉な状態だ。 (ますます好戦的になる米政界)

 この10年、米政界は何度失敗しても好戦性を強める一方だ。隠れ多極主義が非常に強く推進されていることになる。米国が次に好戦性を弱めるのは、米国覇権の崩壊と覇権の多極化が決定的、不可逆的に進んだ後だろう。その時には、米国抜きの多極型世界体制が確立している。米国は、自国の覇権が失われた後になって好戦策を捨て、北米の地域覇権国(NAFTAの盟主)として、多極型の世界体制に参加するだろう。 (世界システムのリセット)

 米国の過激な敵対策は、相手国によって分野を切り替えている。外交安保面でがんばってほしいロシアに対しては、米国が悪役になってウクライナ問題を用意し、ミンスクでロシアの停戦協定の技能の高さが世界に示され、シリアやリビア、イエメンなど他の内戦でもロシアが停戦の調停役になる傾向を、ひそかに米国が扇動している。経済覇権運営をやってほしい中国に対しては、米国がIMFにおける中国の発言権の拡大を封じ、中国がAIIBを創設するよう仕向け、次は世界が米国の反対を押し切って人民元のSDR参加を了承する道が作られ、中国がBRICSを代表する経済覇権運営をするように仕向けている。 (◆ウクライナ再停戦の経緯) (Yuan on way to become international currency' - frmr head of IMF's China division)

 米国での隠れ多極主義の強まりを見て、英国が米英同盟に立脚した国家戦略をあきらめ、中国にすり寄って多極化に乗る戦略に転じたのは自然な動きだ。英国は、経済戦略を多極型に転換したが、軍事外交戦略ではまだ米国の傘下を出ず、ロシアを敵視している。独仏も同様の傾向だ(独仏はロシアに対して仏が親露、独が中立という役割分担をして、米露間のバランスをとっている)。

 米国は中国、ロシア、イランといった敵性諸国に対し、敵視を過剰にやって失敗すると一部容認し、しばらくするとまた敵視を過剰にやるジグザグ行動を繰り返している。米国の敵視策が失敗して一部容認の局面になるたびに、英仏独など「国際社会」は中露イランに接近し、次に米国が再び敵視を強めても、英独仏などは以前よりも同調しなくなる。米国のジグザグ行動は、英独仏など国際社会を、中露イランなど反米系の諸国と和解する方向に押しやっている。事態は、米国だけが中露イランを敵視し、他の国際社会は中露イランと協調する、米国抜きの多極型世界の状態に向かっている。米議会が米英同盟を放棄する報告書を出したことは、こうした動きを象徴している。 (Australian FM: Tehran, Canberra share common interests in fight with terrorism)

 このような多極化の流れの中で、最近の日本の国家戦略を見ると、米国の自滅策にとことんつき合って日本を自滅させる頓珍漢なことをやっていると感じられる。安倍政権は、米国が中国敵視を続ける一方、英独仏など他の国際社会が親中国に転じるのを見て、日本が米国との同盟関係を強める好機と見ている。日米だけがAIIBに加盟しないことが、日米同盟の結束を象徴するものと考えられている。4月末に安倍首相の訪米を機に、中国を仮想敵とする日米の軍事一体化が加速する。TPPも、日米の経済(市場)一体化ととらえられている。

 これまで「対米同盟」という電車は世界各国が乗り込んで大混雑で、敗戦国として「3等切符」の日本は、座ることもできず苦しい姿勢だった。ところが最近、他の乗客がこぞって「親中国」という別の電車に乗り換え、対米同盟電車はがらがらになり、日本は特等席に座れて大満足している。しかし実のところ、他の乗客が降りていったのは、対米同盟の電車が終点(覇権の終焉)に近づいているからだ。良い席に座れて喜んでいる日本は、電車が間もなく終点に着くことに気づいていない。日本は、小泉や鳩山の政権時代に親中国に乗り換える機会があり、早めに乗り換えていたら良い席に座れただろうが、今ではもう遅い。再び最下位の「敗戦国」の地位からやり直すことになる。

 最近の記事で、「戦争責任」を否定する日本の首相に演説させたくない米議会が安倍に両院合同会議で演説する栄誉を与えたのは不可思議だと書き、日本のTPP加盟と引き替えの栄誉でないかと考察した。その後、もしかすると米議会やオバマが安倍を鼓舞する理由は、TPPよりも、米国が新たな中国敵視策をやるために日本を使いたいからでないかと考えた。 (安倍訪米とTPP)

 すでに書いたように、米国は、自国の覇権が崩壊するまでずっと中国を敵視し続ける。中国が経済台頭するほど、米国内で「中国敵視をやめて協調した方が利得が大きい」という主張が強まる。それを振り切るには、新たな中国敵視の構図が必要だ。その新たな構図として、米国(議会とオバマ)は、対米従属の一環として日米共同の中国敵視策を強化したい安倍政権の日本を大歓迎し、日米同盟強化のイメージ策による中国包囲網の巻き直しをやろうとしているのでないか。米国が、日本に引っ張られるかたちで中国敵視を再強化する構図だ。日米同盟を強化したい日本側は、こうした構図に狂喜乱舞している。この構図は、米国がイスラエルに引っ張っられ、イランに核兵器開発の濡れ衣をかけて潰そうとしたことに似ている。 (SYSTEMIC TENSION BETWEEN CHINA AND US)

 しかし、米国が日本に引っ張られて中国敵視を続けるほど、他の国際社会は中国を敵視することに不利益を感じ、米国の制止を振り切って中国に接近し、米国の覇権喪失と中国の台頭、世界の多極化が進む。それが米国側の真の目的であり、日本はだしに使われているだけだ。これから始まる日米共同の中国敵視策の再強化が、どのような形でいつごろ終わるかわからないが、この件での米国の主眼は軍事でなく経済の覇権なので、前回の記事に書いたように、日銀のQEが日本国債の信用失墜(金利高騰)で終わるとか、米国のバブル崩壊とか、そちらの方面の動きと関連することになりそうだ。