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折々の記 2016 ③
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 06 】04/06

  00 00 唯今現在の流れの断面   個人として歴史の因縁果を学びとること

 04 06 (水) 唯今現在の流れの断面     個人として歴史の因縁果を学びとること

曰く馬脚を現わした亡霊、曰く御し難し、大きな流れは止めどなく進んでいる。 内閣法制局横畠裕介長官は総理の意のままによって、中道を求めることのない憲法第九条の解釈をして、戦争への道を合憲としました。 同様に安倍総理の意のままに沿って、黒田東彦日銀総裁はこれ以上はできないまでに紙幣を発行し続けました。

集団帰属の悪弊に逆らうこともなく、自民党の人々は牛尾に従い、とうとう今日の経済の混沌状況と歴史に逆行する軌道へ面舵をとってしまいました。

唯今現在の流れの断面のニュースの一端を留めておきたい。

       法制局、23問存在認める 集団的自衛権めぐる想定問答
       消費増税、首相公約の重み 衆院解散時「再延期ない。断言する」
       黒田緩和3年、上がらぬ物価 「ショック療法頼み限界」
       (社説)異次元緩和3年 限界認め、軌道修正を
       ホロコーストの教訓 米エール大学教授、ティモシー・スナイダー



2016年4月5日 1面
法制局、23問存在認める
   集団的自衛権めぐる想定問答
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S12295115.html

 集団的自衛権の行使を認めた2014年7月の閣議決定に関連して内閣法制局が作った想定問答について、横畠裕介長官は4日の参院決算委員会で、長官が了承していない23の想定問答が法制局に残っていることを明らかにした。横畠氏は公開が必要な行政文書に当たらないとの認識を示したが、公文書管理法などに照らせば、行政文書に当たる可能性が高い。

 同法は、行政機関の職員が職務上作成、または取得し、組織的に用いるために行政機関が保有する文書を「行政文書」と定義。意思決定の過程を事後に検証できるよう文書を残すことを目的としている。

 朝日新聞は、法制局内に残っている想定問答の記録を入手。記録には「海外派兵は可能になるのか」「法制局はきちんと意見を述べたのか?」などのタイトルが付いている。さらに、組織として作られた経緯が残っており、公開によって法制局内でどんな議論が行われていたかの一端がわかる可能性があることから情報公開請求を行ったが、開示されなかった。

 横畠氏は4日の同委で、朝日新聞が指摘した想定問答について、内閣法制次長が了解した想定問答が12問、次長了解前の11問が存在したことを認め、次長の部下の参事官らが「国会の閉会中審査に備えて作成しようとした」と述べた。一方、次長が了解した想定問答は長官の段階で「不採用になったもの」、次長了解前は「担当者段階の案」と説明。「不要のものと認識していたが、消去しないまま放置していた」とも述べ、行政文書に当たらず、開示しない方針を改めて示した。

 これに対し、民進党の礒崎哲史氏は「『閉会中審査に備えて』ということは法制局として、明確に目的をもって準備していた行政文書だ」と述べ、法制局の対応を批判。民進党は今後も想定問答の開示を求める考えだ。(河合達郎)


2016年4月5日 2面
消費増税、首相公約の重み
   衆院解散時「再延期ない。断言する」
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S12295015.html

消費増税をめぐる安倍首相発言と自民党選挙公約

2012 06月 民主・自民・公明3党が、社会保障・税の一体改革(消費税率14年4月に8%、15年10月に10%
       に引き上げ)で合意
 々 09月 自民党総裁選で安倍晋三氏が返り咲き
       安倍首相発言  伸びていく年金、医療、介護、大切なセーフティネットのために、給付を
       守るために、3党合意を行い、社会保障と税の一体改革を進めていくことになった。 今後も、
      この中身を進めていくことは当然だ。(9月14日、自民党総裁選の所信表明演説)

      衆院選公約  「消費税は、全額、社会保障に使います」
             「消費税(当面10%)を含む行財政抜本改革の一層の推進により、持続可能で安
              定した財政を確立し、財政の配分機能を回復します」

 々 12月 衆院選で自民党に政権交代し、安倍晋三首相が就任
2013    参院選公約  「消費税は、全額、社会保障に使います」
 々 07月 参院選で自民圧勝
 々 10月 安倍首相が消費税率8%への引き上げを決断
      本日私は、消費税率を法律で定められた通り、現行の5%から8%に引き上げる決断をしました。
      社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するために財源の確保は待ったなしだ
      (10月1日、記者会見)

2014 04月 消費税が8%に
 々 11月 安倍首相がしょうひぜいりつ10%への引き上げ1年半延期と衆院解散を表明
      アベノミクスの成功を確かなものとするため、本日私は、消費税10%への引き上げを18カ月
      延期すべきだとの結論に至った。 再び延期することはない。 はっきりと断言します。
      17年4月の引き上げは景気判断条項を付すことなく、確実に実施します。 3年間3本の矢を
      さらに前に進めることにより、必ずやその経済状況を作り出すことができる

      (11月18日、記者会見)
      衆院選公約  「消費税の引き上げを18カ月延期します」
              「安定した社会保障制度を確立するために、2017年4月に消費税率を10%にします」

 々 12月 衆院選で自民圧勝
2015 03月 消費税率10%への引き上げを17年4月まで延期する改正消費増税法が成立
 々 12月 消費税率10%時の軽減税率導入を与党決定
2016 03月 消費税率引き上げで逆に経済がガクンと減速し、結果として税収が上がらない状況を作るの
      であればまったく意味がない
(2月19日、衆院予算委)
      世界経済の大幅の収縮が実際に起こっているか、専門的な見地の分析も踏まえ、その時の政
      治判断で決める
(2月24日、衆院財務金融委)

      安倍首相が世界経済について有識者と意見を交わす「国際金融経済分析会合」を開始
      消費税率10%時の軽減税率導入を盛り込んだ税制改正関連法が成立
      消費税率10%への引き上げについては、リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が
      発生しない限り、予定通り来年引き上げていく。 引き上げを延期するかどうかは、専門的
      な見地からの分析も踏まえてその時の政治判断で決定すべきものだ
      (4月1日、ワシントンで記者団に)

 々 05月 G7首脳会議(伊勢志摩サミット)
  夏   参院選

 安倍政権が先送りを検討する来年4月の消費税率引き上げをめぐり、安倍晋三首相が過去の発言や公約との整合性を問われている。2014年に延期した際には「再び延期することはない」と明言したため、野党は「方針転換なら公約違反」と批判する。再延期を判断すれば関連法の改正や財源探しも必要で、先送りの「ハードル」は高い。

 安倍首相は1日、訪問先の米国で、消費税率引き上げ延期の是非についてこう言及した。

 「専門的な見地からの分析も踏まえてその時の政治判断で決定すべきものだ」。経済情勢次第で先送りを示唆したとも取れる発言に、与党内では「増税は延期されるだろう」(自民幹部)との観測が強まる一方だ。

 これに対し、民進党の岡田克也代表は3日、北海道石狩市で強調した。「首相はリーマン・ショックのようなことがない限り、必ず来年4月に消費税を上げると言って(一昨年に衆院を)解散した。先延ばしは、重大な公約違反だ。内閣総辞職に値する」

 増税に反対する共産党の山下芳生書記局長も4日、「消費の落ち込みが予想より大きく長引いている。失政だ」と政権を批判した。

 野党側の批判は、過去の首相発言や選挙公約を踏まえたものだ。

 首相は14年11月18日、消費増税の延期を公表した記者会見で「再び延期することはない。はっきりと断言します。景気判断条項も付すことなく確実に実施する。3年後に消費税引き上げの状況を作り出すことができる」と発言。延期の是非を問うとして臨んだ同年の衆院選では、自民党の公約に「17年4月に消費税率を10%にする」と明記した。

 再び増税先送りに傾く政権に対し、野党は再延期ならアベノミクスの破綻(はたん)を自ら認めることになると主張。この点には、政権内からも懸念の声が上がる。閣僚の一人は最近、2年前の首相会見録を読み直した。「当時の首相はかなり踏み込んでいる。延期すれば、野党は政治責任を問うだろう。そう甘くない」とみる。官邸スタッフの一人も「首相は自縄自縛に陥っている」と指摘する。

 ただ野党も、消費税率引き上げへの対応で足並みがそろっているわけではない。特に民進は民主政権時代の12年、当時野党の自民党や公明党との3党合意で消費増税を決めた。党内には社会保障充実や財政再建のために将来の消費増税は避けられないとの意見も根強い。

 一方、共産など他の野党は参院選に向け、与党より先に「延期」を打ち出すべきだとして、消費増税凍結法案の提出を主張。民進は、これに歩調を合わせるかを明確にしていない。

 岡田氏は3日、NHKの報道番組で「経済状態がかなり厳しいことも間違いない。現時点で(延期への対応を)決めていない」と語り、政権の動きを見極める姿勢を見せた。

 ■法改正・財源確保に難題

 安倍首相にとって、消費増税の再延期の「ハードル」になるのは、2年前の公約だけではない。1日には、記者団にこう語った。「引き上げ延期をするためには法改正が必要になる。その制約要件の中で適時、適切に判断していきたい」

 首相は14年秋、当初は15年10月に予定していた消費税率10%への引き上げを1年半延期するよう訴え、衆院解散・総選挙に踏み切った。10%にする時期を17年4月に再設定し、経済情勢次第で増税を停止できると定めた消費増税法の「景気条項」を削除する法改正も同時に行った。

 このまま法改正をしなければ、消費税率は来年4月に10%に上がる。首相はこれまで、再設定した増税時期を書き込んだ法改正を「財政再建の旗印」として内外にアピールしてきた。しかし増税先送りも含めた検討に入ると、かえって判断の足かせになりつつある。

 消費増税を再延期するには、秋の臨時国会に改正法案を提出し、成立させなければならない。予定通りの税率引き上げを求める自民幹部からは「(増税延期の)法改正なんて絶対認めない」との声も上がる。

 再延期の場合は、代わりの財源確保も課題になる。政府は17年度から予定していた介護保険の低所得者対策や年金受給資格の拡大などの財源として、消費増税に伴う増収分を見込んでいた。しかし増税を先送りすれば、「社会保障充実策の実施は難しい」(財務省幹部)のが現実だ。 (村松真次、鯨岡仁)


2016年4月5日 3面
黒田緩和3年、上がらぬ物価
   「ショック療法頼み限界」
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S12295130.html

消費者物価指数は「2%」の目標に届かず  日銀が持つ国債の残高は3倍近くに  「これまでとは全く次元の違う金融緩和」――。日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁がこう言って始めた緩和策が4日、4年目に入った。物価が上がるという「期待(予想)」を人々に抱かせ、投資や消費を促す戦略だったが、前年比2%の物価上昇率目標の達成が見通せないうちに効果は薄れてきた。その裏で、日銀が持つ国債が大量に積み上がるなど、緩和の長期化に伴うリスクも膨らんでいる。▼オピニオン面=社説

 「この政策はとても強力。いずれ『プラス』の効果がはっきり出てきて、明るくなってくる」

 日銀が先月25日からホームページに載せた「5分で読めるマイナス金利」と題した一問一答形式の文章には、こうした威勢のいい言葉が次々と出てくる。1月末のマイナス金利政策の導入決定後、「個人預金に手数料が取られるのではないか」といった不安の声が絶えず、対応を迫られた。

 「プラス」の効果は出てはいる。銀行は住宅ローン金利を過去最低水準に下げ、店頭に相談客が殺到。三井住友信託銀行では3月の借り換えの申込件数が前年の約6倍に増えたという。だが、住宅の新規購入の伸びはまだ限定的だ。

 マイナス金利政策も、3年前からの「異次元」の緩和も、核心は人々の「期待(予想)」をいかに変えるかにある。年80兆円と極端に大量のお金を市場に流し込んだのも、2%の物価目標を「2年で達成」と宣言したのも、デフレに慣れきった消費者や企業の見方を一変させるためだ。人々に物価は今後上がると信じてもらえれば、値上がり前に買おうとして消費や投資が増えると見込んだ。

 当初は株高・円安が進み、物価も上がった。円安で企業収益が増え、設備投資や富裕層の消費も伸びた。だが、足もとでは新興国など海外経済の変調で円安の勢いが止まり、原油安もあって物価は伸び悩む。肝心の賃金の増加も限定的で、消費も振るわない。

 企業の不安も強まっている。日銀の3月の全国企業短期経済観測調査(短観)では景況感が悪化。4日発表の企業の物価予測も、2014年3月の調査開始以来、最も低い水準だ。

 渡辺努・東大教授の研究室が2月下旬~3月上旬に約1万人を対象にした調査では、物価上昇を予想する人が前年より減り、「変わらない」という人が増加。物価が上がるとの見方はしぼんでいる。渡辺氏は「ショック療法で期待を高めるのはもう限界だ」と話す。

 日銀の政策委員からは「期待に働きかける難しさを感じる」との声が漏れるが、黒田総裁は「中央銀行が本気で取り組んでいる以上、『物価安定の目標』は必ず実現する」などと言い続けている。

 ■リスクも膨らむ

 消費者物価の上昇率は足もとで前年比ゼロ%程度にとどまる。「異次元」緩和の長期化が見込まれるなか、リスクも膨らんでいる。

 日銀は、新規に発行される国債のほとんどを買い込み、金融機関にその代金を渡すことで緩和を続けている。日銀が保有する国債の残高はこの3年間で3倍近い約353兆円(3月20日現在)に達し、国債発行額全体の3割超を占める。

 日銀の買い入れで国債金利が低く推移することで政府が借金しやすくなり、財政健全化への取り組みが鈍る懸念がつきまとう。

 さらに深刻なのは、物価目標を達成し、緩和を終えるときだ。日銀が国債を現在のペースで買い続けるのをやめれば買い手が減り、国債価格が暴落(長期金利は上昇)する恐れがある。日銀が抱える国債にも損が出て、政府による財政支援を通して国民にツケがまわる可能性がある。(藤田知也)


2016年4月5日 (社説)12面
異次元緩和3年 限界認め、軌道修正を
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S12294987.html

 日本銀行が黒田東彦(はるひこ)総裁のもとで「異次元」の金融緩和を始めてから3年。2年間の「短期決戦」として始まったはずの政策は、2年がすぎ、3年たっても、掲げてきた2%のインフレ目標を達成できていない。

 日銀が期限を次々と延ばす間に、緩和に伴う副作用が目につき始め、抱えるリスクはじわじわと増している。日銀が実行すべきなのは緩和の強化ではなく、軌道修正を図ることだ。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、(1)大胆な金融緩和(2)機動的な財政出動(3)民間投資を促す成長戦略の「3本の矢」からなる。政権は介護や子育て政策の充実に力点を置く「新3本の矢」を打ち出したが、政策の骨格は変わっていない。

 当初の2、3本目の矢は目新しいものではない。多くの政権が景気対策で財政を膨らませ、成長戦略も練ってきた。1本目の異次元緩和こそが異色でありアベノミクスの柱と言える。

 日銀が大量の国債を買いあげ、巨額のマネーを市場に注ぎ込む。そうして長期金利を歴史的な低水準に引き下げる。安倍政権は日銀にそんな大胆な金融緩和を行わせようと黒田氏を日銀総裁に選んだ。「デフレ脱却」を旗印に、ただちに国民負担が生じるわけではない金融政策に寄りかかる構図である。

 ■弱かった波及効果

 当初、アベノミクスを「成功している」と評価する声が多かったのは、円安と株高が進んだためだ。輸出産業を中心に企業が過去最高水準の収益をあげ、賃上げも一定程度は実現した。

 ただ、その効果は過大評価された面がある。政権が発足した2012年末は米国経済の回復と欧州金融危機の沈静化を受けたドル高・ユーロ高に伴い、円安が始まっていた。世界経済の好転で株高の環境も整いつつあった。アベノミクスがその背中を押した、というのが実態だろう。

 大企業や裕福な個人投資家が受けた恩恵に比べ、中小企業や大多数の働き手への効果が乏しいとの指摘は根強い。富が滴り落ちるように広がる「トリクルダウン」は実現せず、国民の実質所得は伸び悩む。ここ3年の実質経済成長率はその前の民主党政権時代より総じて低く、消費や投資という実体経済への波及は弱々しい。

 日銀が2月、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部に初めてマイナス金利を導入すると、副作用が目立ち始めた。海外経済の動揺もあって、株式市場や外国為替市場では乱高下が繰り返し起こっている。マイナス金利は、利ざやが取れない金融機関の収益を苦しくし、資産を長期運用する年金などの持続性にも影を落とす。

 ■自縄自縛の危うさ

 それでも日銀は強気の姿勢を崩していない。「やれる手はいくらでもある。目標は達成できる」と言い続けている。

 黒田総裁は昨年、国際会議で語った。「ピーターパンの物語に『飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう』という言葉がある。大切なのは前向きな姿勢と確信だ」

 異次元緩和は、期待に働きかける政策である。日銀がインフレ目標を示し、あらゆる手を打つと約束すれば、企業も消費者もそうなると考えて投資や消費におカネを使うようになる。そんな考えにもとづく。

 実際には、原油などの資源安もあって足元の物価の伸びはほぼゼロで推移している。インフレ期待は高まっていない。それでも、期待に水を差すような説明はできない。日銀はそんな自縄自縛に陥っていないか。

 日銀はすでに国債発行残高の3割超を保有しており、比率はさらに上がっていく。国債発行という政府の借金を日銀が手助けする「財政ファイナンス」に陥れば、財政規律が揺らぎ、国債価格や円相場の急落リスクが高まりかねない。異次元緩和を強化し、長びかせるほど、日本経済が抱える危うさはマグマのようにたまっていく。

 日銀を含む各国の中央銀行が政府からの独立を保証されているのは、政府の道具となって金融政策がゆがみ、そのツケを国民が払う事態を避けるためだ。今の日銀は政権の下請け機関になっていないか。

 ■日銀頼みの無責任  安倍政権は補正予算編成を含む経済対策を検討し始め、10%への消費増税の再延期論もくすぶる。日銀による国債の買い支えがずっと続くことを前提にしたかのような財政運営は無責任である。

 将来の世代も見すえ、持続可能な財政へと再建していく。同時に民間の投資や消費が引っぱる日本経済の発展をめざし、地道に構造改革に取り組む。それが政権の仕事だろう。

 そう促すためにも、日銀は異次元緩和の限界について、もっと政権に対して説明する必要がある。それが、「緩和強化」一辺倒の路線を修正する第一歩となる。


2016年4月5日 (インタビュー)13面
ホロコーストの教訓
   米エール大学教授、ティモシー・スナイダーさん
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S12294987.html

 ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の教訓に学ばないまま、大虐殺は繰り返されるのだろうか。米国を代表する歴史家ティモシー・スナイダー氏が新著「ブラックアース」で具体的な国名を挙げて警告を発し、大きな反響を呼んでいる。アウシュビッツ強制収容所に象徴されてきたホロコースト像の大幅な転換も迫る同氏を訪ねた。

 ――ホロコーストとは「ドイツのユダヤ人がガス室で虐殺された出来事」と、多くの日本人が信じてきました。あなたが昨年米国で出版した「ブラックアース」は、この常識を覆す内容を含んでいます。私もショックを受けました。

 「欧米でも、ホロコーストはドイツ国家が関与し、ドイツのユダヤ人の身の上に起きた悲劇だと思われてきました。実際には、犠牲者の大半がドイツとは関係ない。殺されたユダヤ人の97%は、当時のドイツの外にいたのです」

 「ホロコーストは『記憶の文化』と化しています。現代人はもはや出来事自体を話題とせず、それがどう記憶され、伝えられているかを論じます。でも、本当に何が起きたのか、実はまだ知られていない。そのような問題意識から歴史を描き直そうと思いました」

 「アウシュビッツは、100万人ものユダヤ人が殺された現場です。ただ、1941年に始まる大量虐殺で、ここが舞台になったのは主に末期の43~44年です。なぜ虐殺が始まったのかは、この施設を見てもわかりません」

 ――著書の中では「アウシュビッツの逆説」と呼んでいますね。

 「アウシュビッツは史上最悪の施設として人々に記憶されています。でも、ここだけを語ることはホロコーストの過小評価につながりかねない。虐殺が密室の中で実行されたように見えるからです。実際には、犠牲者の約半数が収容所ではなく、公衆の面前で殺されました。何が進行しているのか、市民は知っていたのです」

 ――ドイツ国家が強大がゆえに虐殺を起こしたと信じられていますが、これにも異を唱えました。

 「ヒトラーをナショナリストと見なすのは間違いです。人種に基づいた帝国を築こうとした彼は、もっと過激な何者かです。彼にとって、国家はそのための手段に過ぎなかった。ドイツで国家の力が強大化したからホロコーストが起きたと考えるのは、誤りです」

 「38~39年のドイツは、当時のソ連ほど強圧的ではありませんでした。虐殺を本格化させるのは、ドイツが国境を越えて外に出た後です。そこは、バルト3国やポーランドの国家がソ連侵攻で破壊されて生まれた無法地帯でした。だからこそユダヤ人虐殺が可能になった。国家の有無がホロコーストの決め手となったのです」

 「つまり、直接ホロコーストの責任を負うわけではないにしても、ソ連が演じた役割は大きい。ドイツの求人に応じて虐殺に協力したのも、ソ連の市民でした」

    ■    ■

 ――あなたは、虐殺に手を染めたのが「私たちとさほど異ならない人だ」とも指摘しています。私たちもいつか虐殺を起こし得るのでしょうか。

 「それは重要な問題意識です。現代社会は『犠牲者の立場』に配慮します。問題は、『犠牲者だ』と考えること自体が純朴とはいえないこと。誰かを攻撃する人々の大半が、自分たちを『犠牲者』と位置づけるからです。ナチスも同様でした。国際的な陰謀にさらされていると考えたナチスは、すべてを『自分たちを守る行為』として正当化したのです」

 「では、何が普通の人を人殺しに変えるのか。ドイツの歴史家の多くは、訓練と思想だと考えました。確かにそういう面はありますが、私はここでも『国家の破壊』が持つ重要性を指摘したい」

 「国家が破壊されなかった西側のフランス国内と、国家が破壊された東側のポーランドやソ連領内とで、ドイツ人は全く違う振る舞い方をしました。国家に伴う諸制度が消滅し、無法地帯に陥った東側で不安にさいなまれた人々に、ドイツ人は『国家を再建する代わりに、ユダヤ人攻撃に協力せよ』とささやいたのです。国家の崩壊は、人が殺人者になるうえでの社会学的な条件です」

    ■    ■

 ――現代人はホロコーストからどんな教訓を得るべきですか。

 「私たちはホロコーストを理念、思想、意図といった面から分析するあまり、物質的な面から分析する営みをおろそかにしてきました。しかし、ヒトラーが重視したのは物質面。すなわち、限られた資源、土地、食糧を巡る戦いです。『ドイツ人の絶え間ない闘争をユダヤ人の倫理観や法感覚が妨げている』との考えが、ヒトラーの反ユダヤ主義の基本でした」

 「多くのユダヤ人が暮らすウクライナや東欧にドイツが進出したのは、何としてでも豊かな土地を征服し、食糧を確保したいという思いからです。生き残りの危機が迫っていると信じ込むようなパニックに陥ったことに、ドイツの問題があった。この種の精神状態に加え、国家が消滅した環境、特定の集団を攻撃する思想が重なった時、虐殺が起きるといえます」

 「ルワンダやスーダンで起きた大虐殺も、生存パニックと国家の崩壊に起因しています。現在のシリアにも、国家崩壊の状況がうかがえる。(イラク戦争で)米国がイラクの体制を転覆させた時も、同様の問題を引き起こしました」

 ――とすると、次に大虐殺が起きるのは?

 「日米欧では、食糧問題をそれほど重大な政治課題だとは考えません。でも、例えば中国のような国は、30~40年後に(ナチス・ドイツと)同じような視点から世界を見ていないとも限りません」

 ――中国については、著書でも取り上げていますね。

 「これはもちろん、予言ではありません。いくつかの要因が存在することを指摘しただけです。大躍進や文化大革命で多数の犠牲を出した経験がある中国は、ナチス・ドイツが30年代に悩んだ『生存圏』に似た問題を抱えています」

 「中国の指導部は、消費社会としての生活水準を守ろうと、気を使っています。だから、食糧問題には非常に敏感です。50年後、中国が土地不足と水質汚染に見舞われると何が起きるか、想像に難くありません。一方で、中国が再生可能エネルギーの開発に非常に熱心であるのは、希望を持てます」

 「ロシアの行動にはもっと懸念を抱きます。2013年からのウクライナ危機以来、ロシアは主権国家をないがしろにする態度を取っているからです。ロシアはチェチェンやウクライナで民間に大きな犠牲をもたらし、その後シリアで多数の市民を殺害しています」

    ■    ■

 ――あなたは中ロとともに、米国も大虐殺にかかわる可能性を指摘しました。これは驚きです。

 「ヒトラーの『生存圏』の発想の背景には科学不信がありました。ヒトラーにとって、科学はユダヤ人がつくった妄想でした。現在の米国も、少し似た意識を持っています。つまり、科学の基礎を信じようとしない。大惨事を防ぐための技術を認めないのです」

 ――進化論を否定するような宗教右派の態度のことですか。

 「問題はむしろ、共和党の内部にあるでしょう。米国は先進国で唯一、人口の相当部分が地球温暖化を信じようとしない国です。中国には『生存圏』問題があり、ロシアは『破壊的国家』だとすると、米国のお家芸は『科学の否定』です」

 「米国がイラクを攻めた時のことを思い出してください。国家が破壊されたイラクで、米兵は故郷では決してしない虐待行為に手を染めました。米国は豊かで安定した大国なのに、すでに異常なことをしでかしているのです。ホロコーストを正しく理解していたら、米国はイラクを破壊しようなどと考えなかったに違いありません」

 「>FONT COLOR=RED>私たち個人がすべきことは、自らの歴史の暗部をしっかりと見つめることです。それは『日本は正しい』『米国が悪い』などという評価とは次元が違う話です。自分の国が他の国の人々に何をしたのか。世論操作を受けないためにも、私たち一人ひとりがじっくり考えるべきでしょう

 「ホロコーストは歴史上の特異な出来事だと思われています。でも、それを引き起こした原因は今もあちこちに見いだせるのです」

     *

 Timothy Snyder 1969年生まれ。専門は中東欧史。邦訳著書に「赤い大公」「ブラッドランド」など。「ブラックアース」は今夏邦訳予定。

 ■取材を終えて

 「ブラックアース」(黒い大地)は、ウクライナの肥沃(ひよく)な土壌を意味している。生存競争の妄想にかられたヒトラーは、食糧を求めてこの地に侵攻した。今、ロシアがこの地に手を伸ばす。「たとえ欠点だらけで腐敗し弱小であるとはいえ、ウクライナは国家として、いざという時に力を発揮するのでは」。国家が持つ機能に、スナイダー教授は期待をかける。

 警戒を怠らぬよう心がけたい。ウクライナ危機は、単なる東西の影響力の争い、国内の権力闘争にとどまらず、次に起こりうる虐殺の前兆かもしれない。冷戦後、国際社会はルワンダや旧ユーゴで紛争の深刻さを見極められず、惨事を許した。その教訓を忘れてはならない。
 (論説委員・国末憲人)

「インタビュー」一覧

  (インタビュー)ホロコーストの教訓 米エール大学教授、ティモシー・スナイダーさん(2016/04/05)
  (インタビュー)清貧の政治思想 前ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカさん(2016/04/01)
  (インタビュー)テレビ報道の現場 「報道特集」キャスター・金平茂紀さん(2016/03/30)
  (インタビュー)永遠平和と安保法 元月刊「PLAYBOY」編集長・池孝晃さん(2016/03/29)
  (インタビュー)中東安定への道 世界銀行副総裁、ハフェズ・ガネムさん(2016/03/26)
  (インタビュー)税は誰が決めるのか 民間税制調査会座長・三木義一さん(2016/03/16)
  (インタビュー)マイナス金利は効くのか 日本銀行総裁・黒田東彦さん(2016/02/24)
  (インタビュー)慰安婦問題の明日 京都大学教授・小倉紀蔵さん(2016/02/16)
  (インタビュー)北朝鮮の目撃者として 米国の元駐韓大使、ドナルド・グレッグさん(2016/02/13)
  (インタビュー)展望なき世界 仏人類学・歴史学者、エマニュエル・トッドさん