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折々の記 2016 ⑤
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 02 】05/09

  05 09 参院候補擁立へ政治団体 「安保法制は違憲」の憲法学者   小林節慶応大名誉教授(67)ら
  05 09 トランプ 自由貿易を攻撃、喝采の源   トランプショック 分断大国
  05 09 「2030 未来をつくろう」   地球規模の課題、ゲイツ夫妻と解決探る
       貧困救った幸せのバッグ   途上国従業員を厚遇
       格差解決へ、消費者も一役   倫理性に共感、品質も支持
       貧困根絶、日本の力を ビル・ゲイツ   ビル・ゲイツ企画1
       どこへでも教育を届ける 島の塾、先生は東大生   ビル・ゲイツ企画2
       感染症ビッグデータ包囲網 通信記録から拡大追跡   ビル・ゲイツ企画3
       女性の夢を切り開きたい メリンダ・ゲイツ   ビル・ゲイツ企画4

 05 09 (火) 参院候補擁立へ政治団体 「安保法制は違憲」の憲法学者     応援していきましょう

見事な判断実行 !! 応援する。


2016年5月9日
参院候補擁立へ政治団体 「安保法制は違憲」の憲法学者
      小林節慶応大名誉教授
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12346885.html

 安全保障法制を「違憲」として廃止を訴える憲法学者の小林節慶応大名誉教授(67)らが政治団体を設立し、夏の参院選に比例区から立候補する意向を固めた。「反安倍政権」を旗印に候補者をインターネットなどで募り、小林氏も含めて選挙運動が認められる10人以上を擁立する方針。9日に記者会見して発表する。

 新たな政治団体は政策として、――▽安保法廃止▽言論の自由の回復▽消費増税の延期▽原発廃止▽「憲法改悪」阻止――などを掲げる。参院選では、公職選挙法の規定で政党に準じた選挙運動が可能になる「確認団体」となるために、少なくとも候補者10人を立てる予定。立候補に必要な供託金も、ネットなどを通じて支援を募るという。

 小林氏は昨年6月の衆院憲法審査会に参考人として出席し、集団的自衛権の行使を認める安保法制を「違憲」と指摘した憲法学者の一人。今年1月、有識者らと「立憲政治を取り戻す国民運動委員会」(民間立憲臨調)を設立し、「安保法廃止」を掲げる野党間の選挙協力を呼びかけてきた。

 小林氏はこれまで、共産を除く野党各党の参院選比例区候補が新たな政治団体に名を連ねる「統一名簿」方式を模索し、一部の民進党議員らと協議を重ねてきた。しかし、民進執行部は否定的な姿勢を示したため、野党各党や無所属議員との連携を棚上げし、学者や経済人、文化人ら民間主導での政治団体の設立を決めたという。

 小林氏は朝日新聞の取材に、独自の政治団体を作る理由について「野党共闘の先頭に立つべき民進党の動きが遅く、このままでは時間切れになる。既成政党に不信を抱く無党派層に関心を持ってもらうため、旗を立てたい」と話した。

 小林氏らの狙いは、市民主導で安倍政権に「対決」する機運を高めようとするものだ。(藤原慎一)

 05 09 (火) 自由貿易を攻撃、喝采の源     (トランプショック 分断大国:2)

USA大統領候補トランプ氏の動きを、しばらくは見ていく必要がある。


2016年5月9日 (トランプショック 分断大国:2)
自由貿易を攻撃、喝采の源
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12346868.html

 「みなさん、昔より2倍も頑張って働いているのに、稼ぎが減るなんてウンザリでしょう。その気持ち、わかりますよ」

 「北米自由貿易協定(NAFTA)は我が国を破壊した。TPP(環太平洋経済連携協定)はもっとひどくなりますね」

 共和党候補の座を決定づけた、インディアナ州予備選の前日。トランプ氏は超満員の聴衆を前に自由貿易体制を攻撃し続けた。

 会場からあふれた数百人が、隣の会場でスピーカー越しに演説を聞き、喝采を送った。その1人、近くに住むレット・ロウさん(51)。7年間勤めた自動車部品工場が5年前に閉鎖され、解雇された。「私の時給は当時23ドル(約2400円)だったが、工場の移転先のメキシコでは2ドルと聞いた。お手上げだった」

 高校卒業以降、工場12カ所で働いてきた。90年代前半までは賃金の高い工場に転職する「前向きな一歩」ばかりだったが、最近は周囲も含めて追い詰められた形での失業が多い。

 「企業が労働者を見捨てて海外に出ることが当然になった。金持ちは自由貿易でより豊かになり、私たち労働者はやせ細った。金持ちの献金を受け取っているのが、トランプ氏が倒してきたエスタブリッシュメント(主流派)の政治家たちなんだ」

 トランプ氏は矛先を、外国に向ける。中国やメキシコをたびたび批判。6日のネブラスカ州での演説では、「日本がネブラスカの牛肉に38%の関税をかけるなら、日本の車にも関税38%をかける」と日本もやり玉に挙げた。

 ■格差広がり、高まる不満

 今回の大統領選挙では、自由貿易が大きな争点となっている。特に本来は自由貿易を推進してきた共和党の支持者の間で、懐疑的な見方が増えている。

 ピュー・リサーチ・センターの調査では、自由貿易が「悪いこと」と答えたのは、民主党支持者で34%、共和党支持者は53%だ。トランプ氏支持者では67%にものぼる。

 労働者の怒りが止まらないのは、彼らが景気回復を実感できないからだ。世界的な低成長が広がるなか、一人勝ちといわれる米国でさえ、年2%程度の成長にとどまる。金融危機から脱し、失業率が下がったとはいえ、4%超の成長をしていた90年代と比べれば、回復の歩みは遅い。

 一方で、貧富の格差は広がる。NAFTAが発効した94年から、上位5%の所得は15%増えたが、下位20%の所得は4%減った。

 日米などの先進国では、製造業は賃金が安い国に拠点を移してきた。雇用を生む産業は、製造業から医療や教育などサービス分野に移っている。

 世の中が必要とする技能が変わるなか、「スキルギャップ」(技能の格差)の壁が立ちはだかる。急激な変化に取り残された人々が「製造業をアメリカに取り戻す」というトランプ氏の言葉に喝采を送っている。(サウスベンド〈インディアナ州〉=金成隆一、ワシントン=五十嵐大介)


 05 09 (火) 「2030 未来をつくろう」     地球規模の課題、ゲイツ夫妻と解決探る

ビル・ゲイツとは何者なのか?

調べてみるとあるある。 金の亡者の親分である。 wikipedia を見ると、遠慮した書き方をしていてどのようにして巨万の富を個人所有にしてきたかは書かれていない。

こういう老生の書き方は、市場価値という自由取引という今の金銭取引システムの根底になっている約束に違反している。

だが、無制限な金銭取引システムを放置しておいたから、今日的な経済格差がますます広がって労働の不平等や所得の偏在、偏り問題が解決できない状況になっていくのです。

智慧はないものか? 「三人よれば文殊の智慧」ではおさまらない。 地球規模での知恵を多数決をかさねて絞りだすわけにはいかないのだろうか。

それでも手の届くところで、世界規模での金融システムの“金ころがし”を規制したり、労働価値による金銭分配を統一したりできないものなのか。 あるいはまた、死の商人を摘発公表するみんなの考えを作りだすことはできないものなのか。

日本の癖で、ちょっといい考えだということで、金の亡者の言うことをうのみにしてはならない。 朝日新聞として間違った方向へ進みそうなときの覚悟はしておくほうがよい。


ビル・ゲイツは次のURLで検索できます   これいがいの検索も参考に見るのもいい

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%84


2016年5月9日 <お知らせ>
「2030 未来をつくろう」
      地球規模の課題、ゲイツ夫妻と解決探る
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12347006.html

 朝日新聞社は、世界で感染症撲滅や貧困対策に取り組む米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏と妻のメリンダ・ゲイツ氏をゲストエディターに迎え、企画特集「2030 未来をつくろう」を本日付朝刊と朝日新聞デジタルでお届けします。

 特集では、国連が2030年までに解決を目指す貧困や教育格差、感染症、ジェンダー問題などと向き合う人たちを日本や世界で取材しました。

 またゲイツ夫妻や歌手のエルトン・ジョンさんら、国内外のフィランソロピスト(社会貢献活動家)や起業家が特集にメッセージを寄せました。ビル・ゲイツ氏は寄稿で、今月末の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)などを念頭に置きながら、感染症や貧困対策で「日本は変化を起こすことができる」と呼びかけました。

 朝日新聞社は今後も、こうした解決模索型のジャーナリズムを通じ、地球規模の課題をどのように解決できるか、読者と共に考える報道を続けます。


(2030 未来をつくろう)

貧困救った幸せのバッグ
      途上国従業員を厚遇
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12347005.html

 古びた自動車や人力車が行き交うバングラデシュの首都ダッカ。渋滞で車が止まると、物売りや物乞いが窓を小突く。そんな街の中心部から車で1時間半ほど西に行った郊外に、180人ほどが働く工場がある。布や革を切り出し、ミシンで縫い上げ、バッグを仕上げていく。

 国連によると、バングラデシュは1日1・25ドル(約134円)未満で生活する人が人口の4割超(2010年)を占める貧困国だ。13年、違法に増築された衣料品工場が入るビルが崩落し、1千人あまりが亡くなった。先進国の衣料品メーカーが安い労賃を求めて拠点を構える「世界のアパレル工場」と言われる裏で、労働環境の劣悪さが見逃されていた。

 だが、このバッグ工場は様子が違う。仕上げ担当のジャハンギール・ホセインさん(27)は、富裕層の家で召使をしていた。そこから転職してきて7年。月収は1万タカ(1万4千円)を超えた。前職の2・5倍だ。「冷蔵庫やテレビがある大きい部屋に住めて、家族も養えています」。最近、家を建てるための土地も買った。

 平均給与は業界平均の7800タカより5%ほど高い。責任者のモハマド・マイヌル・ハックさん(38)は「医療保険も完備していて、大きなお金が必要なときは会社の無利子ローンも使えます」。検品部門の明るい照明をまねするなど、他社が待遇面の参考にし始めている。

 工場の所有者は日本のベンチャー企業「マザーハウス」(東京都台東区)だ。大手メーカーと異なり、デザインから製造、販売まですべて責任を持つ。現地調達した革や植物のジュートでバッグをつくり、手厚い待遇で従業員を貧困から救う。デザインも担う山口絵理子社長(34)は「途上国発の世界に通じるブランド」をめざす。

 工場から約5千キロ離れた東京都心。ナチュラルな内装のマザーハウス本店に並ぶバッグは、革素材ながら軽く、デザイン性の高さなども女性に喜ばれている。2万~5万円ほどで決して安くないが、それでも貧困を減らす新しい支援のかたちに魅力を感じる消費者に支えられ、経営は軌道に乗り始めた。(ダッカ=福田直之)

(2面に続く)


(2030 未来をつくろう)

格差解決へ、消費者も一役 
      倫理性に共感、品質も支持
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12347019.html

 (1面から続く)

 貧困や格差といった課題の解決に役立つ製品・サービスを提供する企業、それを選ぶ消費者が増えている。国連による2030年までの「持続可能な開発目標(SDGs)」=キーワード=にも一役買う新たな動きだ。

 2日午後、東京都台東区のマザーハウス本店。8日の母の日が近づき、買い物客らがプレゼントを探していた。20代の女性は「バングラデシュで働く人のためにもなる。商品選びのプラス材料です」。

 こうした考え方は「エシカル(倫理的)消費」と呼ばれる。売り上げの一部がカカオ産地の児童労働を防ぐ取り組みに寄付される森永製菓のチョコレート、原材料の安全性テストに動物を使わない英ラッシュの美容用品――。倫理性を重んじる消費者の支持こそ、マザーハウスの強みだ。

 同社は3月、創業10年を迎えた。ダッカの大学院で開発学を学んでいた山口絵理子さんが、単なる資金援助では貧困を解決できないと考え、布の材料になる現地の植物ジュートを使った「かわいい」バッグを輸出しようと起業した。

 順風満帆ではなかった。当初は工場の確保もままならず、買い付けた素材を丸ごと持ち逃げされたこともあった。それでも、できた商品は消費者が意義を感じて買ってくれた。

 品質とデザインにこだわる。山崎大祐副社長(35)は「自社企画だから良いものがつくれる。なるべく在庫を持たず、セールもしません」。ただ、それが現地で十分に給料を支払い、職人を育てている対価であるというストーリーとなり、ファンを増やした。経営的には、ここ4年でようやく安定し、直近の年間売上高は10億円、営業利益は1億円をそれぞれ超えた。

 生産地や品目は増えている。09年に進出したネパールでは、地元名産のシルクやカシミヤを使ったストールを、糸紡ぎから染色まで一貫生産する。さらに源流を追って養蚕にも乗り出す予定だ。15年には、インドネシアのジョクジャカルタに伝わる線細工フィリグリーを使ったジュエリーの生産も始めた。

 売り上げは、ほとんどが直営店での販売だ。日本の18店のほか、台湾に6店、香港に2店を構える。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という哲学への共感は、海外の顧客にも広がる。

 台湾の会社員、曹斯永さん(33)も、そんなうちの一人だ。「品質やデザインにもひかれています。友達や家族にも薦めているところ」という。昨年、台北でマザーハウスが開いたイベントで山口さんに頼み、特注の結婚指輪をつくってもらった。

 山口さんは「『人生とつきあうブランドにしたい』と思い始めたところでの依頼でした。結婚という場なら、きちんと表現できる」と話す。起業当初、採用面接したバングラデシュの女性は「15人の家族のために頑張ります」と言った。最近、途上国では「家族の絆こそがすべての核」と改めて思っていた。

 途上国での経験と、消費者との対面が、商売の新たなコンセプトを生み出しつつある。マザーハウスは今夏、オーダーメイドによる指輪の受注を始めるつもりだ。

 ■干ばつ被害、農家に保険金

 干ばつや洪水、サイクロン――。東南アジアでは、よく起きる自然災害のたびに零細農家が嘆いてきた。それを保険で救う取り組みが進んでいる。

 タイ東北部コンケン県。乾燥地帯にあるサウォーンカオ4番村は水利設備が整っていない。ウィッポル・タイソン村長(59)は「毎年のように干ばつになるが、いまは村の半数にあたる80軒弱の農家が保険に入っています」。

 損保ジャパン日本興亜が10年に始めた「天候インデックス保険」だ。7~9月にタイ気象庁が観測した降水量が設定値を下回ると、保険金を払う。

 タイの一般的な農家は、銀行からの借金で肥料などを買って、収穫後に返す。これを毎年繰り返す自転車操業なので、干ばつに遭うと借金が膨らみやすい。

 それが変わりつつある。村の稲作農家サーコン・ウェンソンさん(41)は、2年前の干ばつで保険金を受け取った。「お金が足りないと、ほかで稼ぐしかなかった。ある程度埋め合わせでき、生活が楽になった」。年間保険料は農家の平均年収の1%にあたる500バーツ(約1500円)ほど。タイでは約5千軒が利用している。

 同社が農家のための保険を強化しているのは、急速に経済発展する東南アジアで将来、自動車保険などの需要が見込めるからだ。まだ利益は薄く、「先行投資」ではあるが、保険という本業を通じた社会貢献でもある。

 次の計画は、タイの隣国ミャンマーでの保険サービスだ。来年度にも、コメやゴマをつくる農家を対象に始める。

 準備を始めたときは障害があった。ミャンマーでは、保険料を計算するのに必要な雨量データが所々欠けていた。人工衛星を使う最新のITで補うことにした。1時間ごとに、10キロ四方の網目状に降水量を推定できる。世界的にも珍しい取り組みだ。

 SDGsが掲げる気候変動の影響の軽減策にも役立ちそうだ。ミャンマーのマウンマウンテイン保険事業監督委員長は「まだ我が国に農家向け保険はない。気候変動で苦しむ農家が減れば、貧困も減る」と期待する。(福田直之)

 ◆キーワード

 <持続可能な開発目標(SDGs)> 昨年9月の国連総会で決められた、2030年までの15年間で取り組む行動計画。今年1月にスタートし、30年末までの達成を目指す。「貧困をなくす」「ジェンダー平等」といった17項目からなる。国連は01年に「ミレニアム開発目標(MDGs)」をまとめ、15年の達成期限までに途上国の貧困改善などに成果を上げた。その後継としてSDGsがつくられ、従来の途上国支援に加え、気候変動への対策など幅広い課題も盛り込まれた。法的拘束力はないが、国連を中心に進み具合を監視していくことになっている。



ビル・ゲイツ企画1

貧困根絶、日本の力を ビル・ゲイツ
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12346795.html

写真・図版
 【2030年の世界を予想した主な指標】

 2030年と聞いて、どんな未来を思い浮かべるだろう。

 世界の人口は85億人に膨らむ。感染症や災害は貧しい人々を苦しめ、格差や不平等は広がる――。この悪循環を断ち切れないか。

 国際社会は15年後を見すえ、あらゆる貧困をなくすことをめざす「持続可能な開発目標(SDGs)」に向け動き出した。

 国連によると、この四半世紀で、1日1.25ドル未満で暮らす貧しい人や、安全な飲料水を得られない人の数は半分に減った。市民社会や企業も加わった活動の成果だろう。「私たちは成し遂げられる」。そんなゲイツ夫妻のメッセージに賛同が広がっている。

 離れた土地で暮らす人々に思いをはせる。よりよい未来をつくろうと願う。新しい発想と技術革新で課題の解決をめざす。そんな動きはもう、世界各地で始まっている。

    ◇

 グローバルヘルス(国際保健)の分野でかつてない進展が起きている。極度の貧困の中で暮らす人は四半世紀前より10億人減り、子供の死亡率は半減した。ポリオは撲滅に近づいている。だが成功が危機感の欠如を生み、医療や経済の深刻な問題が私たちの優先事項から外されてしまう危険がある。

 それは悲劇的な過ちとなるだろう。毎年600万人近い子供が5歳になる前に命を落としている。結核で亡くなる人は毎年100万人を超え、昨年マラリアで死亡した人は40万人を超えた。

 だからこそ世界の指導者が日本に集うG7サミットは、より公平な世界を築く努力を続ける中で重要な節目となる。国連は昨年、極度の貧困や予防可能な母子の死亡を2030年までに根絶する、野心的だが実現可能なロードマップ「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択した。伊勢志摩サミットは、その後初めて開かれるサミットになる。

 サミットは日本がグローバルヘルス分野で確立した指導力の実績を生かす機会でもある。重要な貢献を示す素晴らしい事例に、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)への支援がある。日本は00年の九州・沖縄サミットで、この重要なパートナーシップ構築に向けた取り組みを主導し、設立後は、最大拠出国の一つとなった。日本は来年も国力に見合う拠出をし、GAVIアライアンス(予防接種とワクチンの普及の国際機関)など、他の重要な取り組みへの支援強化策を模索することで、引き続き人命を救い、他国の継続的な支援を後押しできる。

 日本はまた、研究・開発(R&D)投資で大きな成果を上げつつある。3年前にビル&メリンダ・ゲイツ財団と日本政府などが設立したグローバルヘルス技術振興基金(GHIT)では、日本の製薬会社や大学、研究機関の多大なイノベーション力を活用し、新たなワクチンや治療薬、診断用ツールの開発を加速させている。

 初期成果は有望だ。東京医科歯科大の研究者は、若年層の結核予防で飛躍的な前進となり得るワクチンを開発した。愛媛大の科学者はマラリアの伝染を阻止する新型ワクチンに取り組む。また武田薬品工業は、既存の治療薬に耐性を持つマラリア原虫に感染した子供向け新薬の治験を行っている。

 財団は本日、ポリオ撲滅で重要な役割を果たすであろう、手ごろな価格のワクチンの開発と製造に関し、武田に3800万ドル(約40億円)を投資することを発表する。

 誰もが健康で実りある生活を送る世界を築くには、こうした連携が不可欠である。だが目標に向かって前進し続けるには、他にもやるべきことがある。私たちは、貧困国が自国のプライマリーヘルスケア(一次医療)のシステムをより強靱(きょうじん)で持続可能なものにする取り組みを支援する必要がある。一次医療は良好な健康の土台であり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(基礎的保健医療サービスの提供)の実現に不可欠である。

 日本はパンデミック(世界的大流行)の脅威に対する国際的な取り組みにも重要な役割を果たせる。エボラ出血熱流行の重要な教訓は、強靭な一次医療システムが整った国では大流行に効果的な対処が可能であるという点だ。今回のジカウイルス感染症(ジカ熱)の拡大から明らかなのは、新たな病原体の出現に対して世界規模で体制を整えるには一層の投資が必要だということだ。日本は議長国として伊勢志摩サミットや9月のG7神戸保健大臣会合でこれらの課題への喚起を促すことができる。

 日本の共催で8月にケニアで開かれる第6回アフリカ開発会議(TICAD)でも、日本の指導力が注目を集めるだろう。アフリカに暮らす大半の人々が農業を主な収入源にしている。農家の多くは食べるだけでやっとの生活で、異常気象による作物収穫量への影響に極めて弱い。貧しい農家に対する支援計画への投資拡大要請の場としてTICADを活用することで、日本は変化を引き起こすことができる。

 熊本で起きた壊滅的な地震は、人々の暮らしの脆弱(ぜいじゃく)さと、困難な状況でいかに私たちが支え合っているかということを気づかせてくれる。きわめて悲惨な国内の状況に対応する日本の姿は、海外で困難な状況に置かれている人々への思いやりに通じるところがある。国力や寛容さ、慈愛といった比類のない組み合わせを持つ日本だからこそ、グローバルヘルスや途上国の開発問題の解決に向けて重要な指導力を発揮できるのだ


ビル・ゲイツ企画2

どこへでも教育を届ける 島の塾、先生は東大生
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12346818.html

 日本最西端の離島、沖縄県・与那国島。4月11日の夕方、島の真ん中にある施設に半そで短パン姿の男の子ら小学4、5年生7人がやってきた。ここは与那国町が運営する「どぅなん塾」。学年ごとに2部屋に分かれ、席に着いた子どもたちが、講師と対面した。大きなモニター越しに。

 画面の向こうから、2千キロ離れた東京・本郷のスタジオにいる東大文学部4年生の山中佑美さん(23)が「ちゃんと理解しよう。すぐ質問を。宿題は必ずやろう」と呼びかけた。

 新年度になって最初の国語の授業。この日から通い始めた小学4年の崎原用磨(ゆうま)くん(9)は「先に来ていたお兄ちゃんが『楽しい』って。ぼくも頭が良くなれるように来た」。

 人口1650人ほどの与那国島に、小中学生は150人しかいない。採算が見込めず、進学塾はずっとゼロだった。学力調査の与那国の子どもたちの成績は、全国的に見ても下位に沈んでいた。

 2011年に町営塾が始まった。小4~中3の希望者が学び始めると、成績はぐんぐん伸びた。15年の中3の学力テスト結果で、国語の平均点は首位の秋田県とほぼ並び、数学は首位の福井県を上回った。

 町営塾の発案者は町長の外間守吉さん(66)だ。ある日の新聞広告で、オンライン授業をする教育ベンチャーのフィオレ・コネクション(東京)を知る。連絡を取り、町に塾ができることになった。

 フィオレを経営する松川来仁(らいと)さん(35)は教育産業が伸びると考え、10年に起業した。出身の沖縄と本土との教育格差を感じていて、オンライン授業を思いついた。「私たちのサービスの本質は学習環境をつくること」。過疎地と都市部の格差解消に取り組む同社の講師は、みんな東大生だ。

 島根、宮崎、鹿児島、徳島県の11町村にも実績を広げている。いずれも比較的過疎が進んだ地域だ。松川さんは「47都道府県それぞれに最低1カ所は塾を置きたい」と夢見る。タイに住む日本人生徒向けに塾を始める準備もしている。

 ■短文メールで学ぶ英語

 海外でも教育格差を解決しようとする取り組みは広がっている。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」は、30年までにすべての若者が読み書き能力と基本的計算能力を身に着けられるようにすることなどを掲げる。

 英語が公用語の一つであるインド。ヒンディー語などで教える公立校も英語は小学校から必修科目だが、話せる教員は少なく、教材も整っていない。将来、高収入の職に就くのに必要な高度な英語力が身につきにくく、小学1年から全科目を英語で学べる私立校出身者との格差は埋まらない。

 貧しい家庭の子どもが多い公立校の英語教育を底上げできないか――。国際NGOのVSOインターナショナルは、携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)を使う教育プログラム「SMSストーリー」を開発した。インドのNGOプラタムと組み、普及に努めている。

 なぜ、最新技術や電子メールではなく、SMSなのか。VSOインド事務所のプラビーン・クマール担当部長は「古い携帯でも、SMSなら受け取れる。新たな出費がいらないから」と説明する。

 「ザ・リトル・チックス・シット・オン・ザ・キャット」(ヒヨコが猫の上に座りました)

 ニューデリー東部の公立小で、5年生の男子16人が黒板に書かれた英文を読み上げた。先生のジョティさん(25)の携帯にSMSで送信されてきた文章だ。別のSMSでは教え方も説明してくれる。

 ジョティさんは政府指定の教科書で英語を教えてきたが、「教え方も指導されないまま、退屈な例文を読み上げるだけでした」。SMSで届く英文は、英語圏での指導法に基づき、つづりと発音が関連づけられ、リズミカル。アデルシュ・クマールくん(10)は「お話をみんなで大声で読むのが楽しい」と話した。

 昨年、インド西部の農村で試験導入し、今年1月から首都ニューデリーと中部ジャールカンド州の各150校に対象を拡大。プラタムが実施した英語テストの成績は、導入前より平均22ポイント上がったという。(福田直之、ニューデリー=貫洞欣寛)

 ■気負わず自然体で 有森裕子

 私にとって国際協力とは大それたものではありません。気負わず、自然体で、自分ができることをやっているだけです。

 毎年、カンボジアで対人地雷の被害者らを支援するため、チャリティー・マラソンを開いてきました。保健体育教育にも10年近く取り組み、モデル小学校で体育の授業が行われるようになりました。

 子どもが棚の上の物を取れなかったら、背の高いお父さんが取ってあげますよね。いきなり「国際」を考えず、まずは家庭、そして地域、国内から物事を考えるところから始めてもいいかもしれません。

 ■国より効率よく 三木谷浩史

 単純にお金を出すだけでなく、知恵とアイデアも出して、問題解決の仕組みづくりに関わっていく「フィランソロピー」という取り組みを進めています。たとえば、山中伸弥・京大教授によるiPS細胞研究の支援。僕はただ単に資金を出すだけでなく、難病治療の可能性を議論しながらやっているわけです。

 日本はこれまで、税金を国に集めて、官僚が問題を解決してきました。でも、それには限界がある。起業家って、不可能を可能と思う人。「官」にはない柔軟な発想をうまく使えば、5倍も10倍も効率よく問題が解決できるはずです。

 ■人をつくる教育 牧浦土雅

 途上国でビジネスをするのは、少しでもお金をもらうことで、継続してサービスを提供できるからです。これからはアジアやアフリカで、人をつくる教育に力を入れたい。いまだに「教育は必要ない」という考え方もあり、難しさは感じています。

 「日本の若者は内向き」と言われますが、海外でなくても、外に出なければ視野が狭まっちゃう。国際協力のイベントに出かけることから始めてみるのもいいと思います。

 ■性を学ぶ大切さ 土屋アンナ

 出産や堕胎の方法を知らず命を落としてしまう女の子がいると知って衝撃を受けました。世界には、学校に行きたいから子どもは産めないと自分に言い聞かせ、危険な方法での堕胎を選ぶ現実があります。

 最も大事なのは「リプロダクティブ・ヘルス」(性と生殖に関する健康)を知ることです。その普及を目指す「I LADY」キャンペーンで、日本の若い子にネットでクイズ形式で聞いてみると、避妊などの知識を知らないという子が結構多い。

 日本には「自分なんて必要ない」と追い詰めてしまう子が多くいます。自分を愛せる人を増やしたい。

 ■ローテクに可能性 中村俊裕

 ソーラーライトや浄水器などを世界の最貧困層に届ける活動を続けています。こうしたシンプルなテクノロジーに可能性を感じています。

 東ティモールでは照明にランプを使っていて、収入の1~2割は灯油代に消えていました。ランプを安価なソーラーライトに買い替えることで灯油代を教育や医療、貯蓄などに回せるようになりました。

 日本人はたしかにハイテクが得意です。ただ、貧困地域では安くて修理不要なローテクが強いんです。現地に行けば出てくるアイデアが全く変わってきます。人々のニーズを肌感覚で分かることが一番大切です。


ビル・ゲイツ企画3

感染症ビッグデータ包囲網 通信記録から拡大追跡
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12346831.html

 紀元前から人間を苦しめてきたマラリアは、今も年間44万人の命を奪う。

 「雨期になると、いつもこの辺は水浸しだ」

 マラリア多発地帯として知られるビクトリア湖沿岸。ケニア西部の主要都市キスム郊外で暮らすダニエル・オチョラさん(68)は、土壁の質素な家のなかで飛び交う蚊を手で振り払いながらぼやいた。

 排水設備がないため、雨が降れば集落は水浸し。川岸に土を盛り上げただけの河川は洪水を繰り返し、家の中まで泥水が入り込む。

 最大の悩みは大量発生する蚊だ。マラリアは、寄生虫を蚊が媒介して広がる。高熱やだるさ、頭痛など風邪のような症状が出て、重い場合は死に至る。オチョラさんも10歳に満たない子ども4人を失った。

 「頭が痛いと訴えながら、死んでいく。でもどうすることもできないんだ」

 防虫剤を練り込んだ蚊帳や抗マラリア剤などが普及し、発生率や死亡率は大きく低下。それでも依然、年間2億人以上が感染する。

 感染はどこから起き、どう広がるか。「発信源」を特定し、そこで集中的に蚊を駆除すれば、効果は大きいはずだ。蚊が飛べる範囲を超えて人が行き来する流れが分かれば、感染の広がりを推し量る手がかりになる。WHOが昨年掲げた「マラリア患者の発生・死亡率を30年までに少なくとも90%減」の目標達成へ、研究者たちは、ケニアでも普及率が7割を超える携帯電話に注目している。

 「携帯で通話やメールをすると、発信地の基地局の記録が残ります。それをたどれば、人の動きをつぶさに観察できるのです」

 ハーバード大公衆衛生大学院の疫学者キャロライン・バッキー氏(37)は、そう言ってパソコン画面にケニアの地図を映し出した。ビクトリア湖周辺がマラリア感染の「発信源」であることを示す赤、首都ナイロビ周辺が「受信先」を示す青。南西部は一帯がまだらに染まっている。

 バッキー氏らは、ケニアの携帯契約者1500万人の1年分の通信記録をもとに人々の移動や滞在時間を割り出した。そこに地域ごとの感染状況のデータを重ね合わせることで、感染拡大の状況を解析。ビクトリア湖周辺からナイロビ方面へ人々が大量に移動し、感染を広げていると結論づけた。バッキー氏は「この研究は、ビッグデータが感染症対策に役立つことも明らかにしたのです」と語る。

 ■ケータイで症例を収集

 この手法を国レベルの感染症対策に組み入れるにはリアルタイムのデータが欠かせない。携帯会社の協力だけでなく、現場からの感染報告のデータ入手がかぎになる。

 共同研究する、携帯アプリ会社「ジャナ」のネイサン・イーグルCEO(39)は「ビッグデータは解釈が難しく、それだけでは十分でない。現場でしか分からないデータも、本質の理解には重要だ」と強調する。

 例として挙げるのは、同氏がルワンダで実施したコレラの調査だ。データ解析で、コレラ流行前に人々の移動が止まる傾向を見つけたが、洪水で道路が流されて移動できなくなっていたのが原因だった。

 保健システムが整わないアフリカでは、現場からのデータ収集も難しい。地方で感染症が発生した情報が政府に届かず対応が遅れるケースが目立つ。一昨年のエボラ出血熱でも、患者の発生を正確につかめなかったことが、早期の封じ込めに失敗した一因だった。

 この問題の解決を試みるのが、携帯のショートメッセージサービス(SMS)機能を生かした「mSOS」という通報システムだ。長崎大がケニアの学生とともに開発した。

 感染症が疑われる例があれば現場の医療スタッフが病名や年齢、生死などを入力。情報は国や自治体に送られて自動的に集積、患者の分布を地図に表示する。

 現在は死亡率が高いエボラなどが対象だが、長崎大熱帯医学研究所の戸田みつる研究員(32)は「マラリアなどにも使えるよう改良したい」と期待する。

 (キスム=三浦英之、ボストン=下司佳代子)

 ■エイズ根絶は目前 エルトン・ジョン

 約35年前の発見以来、HIVは世界の公衆衛生における最大の危機の一つだった。近年、エイズ対策の驚くべき進展で、2000年以降、新規感染者数は35%減少し、エイズ関連死は04年をピークに42%減っている。1600万のHIV感染者は救命治療を受けている。

 しかしより迅速な対応が必要だ。HIV/エイズは健康や経済をむしばみ続ける。アフリカの10~19歳で最大、世界で2番目の死因であり、新規感染者は毎年200万人近くに上る。エイズ根絶は目の前にある。私はかつて、それが可能だと考えたことはなかった。私の最大の希望は、エイズとの闘いにきっぱりと決着をつける日をこの目で見ることだ。

 ■僕もマラリアにかかった サミュエル・エトー

 カメルーンの貧困地区で育った僕は子供の頃、何度もマラリアにかかった。大勢がマラリアで死んでいたので、僕はただ幸運なだけだった。大人になった1990年代、エイズは際限なく広がり、多くの人がこの病気に負け、村は打ちひしがれていた。

 アフリカ各国や日本を含む国際社会の投資の結果、子どもが死なずに夢をかなえられるようになった。世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の支援で2014年末までに1700万人の命が救われ、16年に2200万人に増えるという。

 こうした結果を目にして、基金の親善大使になり、カメルーンとアフリカに恩返しがしたいと考えた。増資の年である今年はより多くの命を救えるチャンスだ。基金の17~19年の三大感染症対策費用130億ドルを集める目標に世界が連帯すべきだ。エボラのような、他の感染症にも対応できる。

 ■2分に1人、今も亡くなる ジャカヤ・キクウェテ

 大統領だった時、7割の子供が学校に行っていない地区を訪ねたことがある。調べさせたところ、大半がマラリアに罹患(りかん)し、学校を休んだり、学業に遅れが出たりしていた。

 タンザニアでは、マラリア対策として、室内での薬剤の噴霧散布、防虫剤を練り込んだ蚊帳、効果的な治療の三つの主要な方法を実施してきた。日本をはじめとする諸外国によるグローバルファンドを通じた支援や連携の結果、マラリアの発症をかなり減らすことができた。

 アフリカ各国政府の強い指導力と効果的な連携で、マラリアによる5歳児未満の死亡率は2000年と比べ、71%減少した。49カ国の元首級で構成する「マラリアに関するアフリカ指導者同盟」はそれぞれの取り組みを共有することでマラリア撲滅に向けて前進を続けてきた。

 それでもまだ2分ごとに1人がマラリアで死んでいる。集中を緩めるわけにはいかない。

 ■なお地球覆う栄養不良 イボンヌ・チャカチャカ

 私は「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」の特使を長年務めてきました。MDGsの期限だった昨年末までに72カ国で栄養不良の人たちの数を半減させるという目標が達成されました。にもかかわらず、いまなお地球上には8億人が栄養不良に悩まされている。

 南アフリカはかつてアパルトヘイト(人種隔離)政策をとっていました。当時、黒人女性は不動産を所有することが認められていませんでした。私が11歳の時、父がなくなり、自宅は当局に接収されました。しかし自分の夢だった歌手になることができ、以来、栄養失調や病気などに苦しむ人々の思いを歌で伝えてきたのです。

 8月にケニアで開かれる第6回アフリカ開発会議(TICAD)では栄養の大切さを議論してください。(共催者の)日本は、貧困や病気をなくすため、さらなる指導力を発揮してください。


ビル・ゲイツ企画4

女性の夢を切り開きたい メリンダ・ゲイツ
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12346857.html

 1970年代にテキサス州で育った私は、コンピューターサイエンスの仕事に就きたいといつも思っていました。でも、ちょっとした想像力が必要でした。家庭の外で働く女性や私が憧れていた仕事をする女性をあまり知らなかったからです。しかし私は幸運でした。自分がなりたい人、なりたいものになりなさいと励ましてくれる母と、女の子だからといって絶対に夢を制限すべきでないと言い切ってくれる父がいたからです。

 父はわざわざ同じ職場のエンジニアの女性を紹介してくれました――最も尊敬する同僚の一人だよ、と言って。女性の貢献やアイデアが男性に負けず劣らず重要だということを目の当たりにしました。今日でも若い女性に向けてこうしたメッセージが常に発せられていません。そんな父がいて、私は幸運でした。

 両親の後押しを受け、私はコンピューターサイエンスと経営学の学位を取り、マイクロソフト社のソフトウェア部門の幹部を10年ほど務めました。そのことをこれからもずっと両親には感謝し続けるでしょう。でも両親の応援によって、コンピューターサイエンスの道に進めただけではありません。女性と女の子の擁護者になるとはどういうことかも学びました。両親は自らが例を示すことで、社会に恩返しをすることの価値を小さい頃から教えてくれました。

 ■真の平等のために

 今、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の共同議長としてこの教訓を実行に移そうと、世界中の女性と女の子の可能性を開く支援をしています。

 この15年間、多くの時間を途上国で過ごしてきました。人々と出会い、家に招かれ、話を聞き、彼らの人生について知る――この仕事の一番素晴らしいところです。私は世界のどこであろうと、いつもほかの母親たちと特別な絆をつくれることに気づきました。

 多くの指標が示すように、女の子として生まれることが今ほど良い時代はありません。データを見ると、女性はほぼすべての国でかつてないほど長生きし、健康で良い暮らしを送れることがわかります。しかし日々の経験からわかっていることもデータで確認できます。真のジェンダー平等に至る道のりはまだ長いのです。いまだに女性と女の子が学校に通えず、給与が低く、健康に暮らしたり、十分に地域に参画したりする機会に圧倒的に恵まれないのです。

 昨年インドで6歳の双子、クリシュナとラダと出会ったときに痛感させられました。息子が娘よりも大事にされるこの地域では、ラダが女の子であるというだけで、2人は全く異なる人生を歩むのです。でも本当は、女の子がすべての可能性を発揮できれば、男の子も男性も、すべての人が恩恵を受けるのです。

 ■強い経済を築ける

 女性と女の子のために資金を注ぐことは、正しい行動であるだけではありません。賢い行動なのです。女性と女の子にもっと健康な暮らしや意思決定の力、経済的な機会を与えれば、多くの命が救われ、家計が豊かになり、強い経済を築けるようになります。なぜなら、女性は稼いだお金の大半を家計に入れて、医療費や栄養のある食べ物や教育への支出を優先させるからです。これらは社会の繁栄の礎となります。

 女性は、自分と家族にとって何が一番良いかを知っています。そして、それを実行するための力を必要としています。妊娠するかどうか、そしていつ妊娠するかを女性が決められれば、彼女もその家族も健康な生活を送れるようになり、子どもたちが貧困から抜け出せる可能性が高まります。しかし世界の2億2500万人の女性がいまだに近代的な避妊薬や避妊具を使えないのが現状です。

 私はこれを変えようと決意しました。財団は2020年までに、数千万人の女性と女の子が新たに家族計画を行えるよう力を尽くしています。

 うれしいことに、ジェンダー平等を進める機運は、かつてないほどの高まりを見せています。日本の安倍晋三首相は女性のエンパワーメントの素晴らしい推進者であり、模範を示しています。昨年国連でお会いした時、首相から「すべての女性が輝く社会づくり」の取り組みを聞きました。そして今年3月、国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事と私は、ニューデリーでアジア各国の財務大臣や中央銀行総裁と会議を開き、女性と女の子への投資をさらに増やすよう促しました。

 私は自分を「せっかちな楽天家」と評しています。前進するのは可能だとわかっています。だって、目の前ですでに起きているのですから。しかし、そのスピードを上げるために、私たちすべての人が一役担えるとも思っています。米国や日本をはじめG7諸国からの対外援助は、途上国においてより健康でより裕福な地域を構築するために多くのことができます。それは、すべての人々にとっての、より良い未来につながるのです。

    ◇

 ■夜道危険度、ピンで示すアプリ

 インドの首都ニューデリーは街灯や歩道がない地区が多い。夜間は女性にとって安全とはいえず、就業のための外出や登下校の妨げにもなっている。女性の社会進出を後押しするためにはどうすればよいか。地元のベンチャー企業が2013年、街路や公共交通機関の安全性に着目。寄付を得てスマホアプリ「セーフティー(安全)ピン」を開発し、無料で公開した。

 共同創設者は、女性の社会参加を促すNGOの幹部、カルパナ・ビシュワナートさん(51)と、夫でIT技術者のアシシュ・バスさん(56)。スマホのGPSと地図表示の機能を利用し、各地のユーザーから治安に関する情報を集める仕組みを思いついた。

 寄せられる情報は、夜間の明るさ、人通り、路面状態など8項目で安全性が評価される。アプリの使用者がわかりやすいよう、各地点の安全度が緑、黄、赤など5色のピンで地図上に表示される。

 ユーザーから集まった情報はニューデリー当局も動かし、市内約100カ所に街灯が整備された。

 アプリをダウンロードしたのはインドで約2万5千人にのぼる。評判は国外にも伝わり、インドネシア・ジャカルタ、ケニア・ナイロビ、コロンビア・ボゴタの当局者から協力の要請があり、これら3都市でも利用できるようになった。

 (ニューデリー=貫洞欣寛)

 ■少数民族自立へ、ふりかけ伝授

 タイの新年を祝う水掛け祭り「ソンクラーン」。北部の古都チェンマイで4月14日、日本人僧侶の井本勝幸さん(51)が水しぶきを浴びながら、ふりかけと竹筒に入ったご飯の味見を呼びかけていた。

 隣国ミャンマーは、長らく政府と多くの武装勢力が内戦状態だった。そこから逃れた少数民族がチェンマイに多くいる。帰国後に経済的に自立できるよう、乾燥機を使ったふりかけなどの作り方を教えている。乾燥食品なら軽くて運びやすく、山がちな居住地域から都市に出荷しやすい。

 井本さんは「ミャンマーの内戦を止めないと坊さんとして死ぬとき後悔する」と思って、2011年から停戦を後押ししてきた。

 15年秋、政府と一部の武装勢力が停戦。だが、井本さんは「今後も軍の利権が少数民族に渡るとは考えにくい。彼らの自立には農業をベースにした新産業づくりが必要」と考えた。アフリカなどでの援助の経験をもとに「援助された側が産業を興して自立し、援助する側に回ることが重要だ」と言う。

 ふりかけは現地のゴマと野菜に日本産ののりを加える。ほかにイチゴなど果物の乾燥食品もつくる。帰国を望むラフ族のチャシェボンさん(23)は「お金を稼げれば子どもを学校に行かせられ、安心して生活を続けられる」と期待をする。

 (チェンマイ=福田直之)

 ■小口金融の輪、IT使い広げる

 ミャンマー最大の都市ヤンゴン中心部から車で1時間ほどの町モビ。4月21日のお昼時、小口のお金を貸す「BCファイナンス」の支店は飲食店経営者や農家でにぎわっていた。

 BCによると、カレー店を経営するオンマミンさん(49)は10万チャット(約9200円)を借りたのを手始めに事業を拡大させてきた。「稼いだお金は2人の子どもの教育費に回してきた」という。

 収入の低さなどで銀行口座を持てない人々に、小口の融資や貯金サービスを提供して自立を促す金融「マイクロファイナンス」。BCの融資は無担保だ。希望者が3~7人で1組となって連帯責任を負う。最高経営責任者のジェレミー・クロイザージョンズ氏は「成長市場での融資なので、借り手が返せなくなるリスクは低い」と言う。2年半の運営を通じて、焦げ付きはまだない。

 課題はある。小口融資は件数が多くなる一方、情報システムや支店の運営にはそれなりのお金がかかる。この経費が減らせれば、さらに融資額を増やせるようになる。

 そこで情報システムのコストを引き下げる実験を、日本のIT企業インフォテリアと6月にする。同社の平野洋一郎社長は「BCはミャンマーで頼りにされている。意義ある実験です」と話す。

 (ヤンゴン=福田直之)

 ◇この特集は、各記事の筆者・撮影者のほか、小倉誼之、清宮涼、古城博隆、芹川慎哉、高野遼が担当しました。