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折々の記 2016 ⑤
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 09 】05/25

  05 25 日本からケイマンに74兆円、対米に次ぐ巨額   証券投資10年で2倍
       ケイマンに投資マネー   課税逃れ
  05 27 欧州危機への解決策としてユーロ圏議会創設を   ピケティコラム
       エリートの資産隠し暴いたパナマ文書 ピケティ氏が警鐘   ピケティコラム@ルモンド
       オバマ大統領の迎え方   (インタビュー)作家・塩野七生さん
  05 27 戦争は罪なき市民に苦しみ   オバマ米大統領、単独書面インタビュー

 05 25 (水) 日本からケイマンに74兆円、対米に次ぐ巨額     証券投資10年で2倍

タックスヘイブンについての記事は主要なものは落ちまないようにチェックしていくつもりです。


2016年5月25日 朝日▼1面
日本からケイマンに74兆円、対米に次ぐ巨額
      証券投資10年で2倍
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12374736.html

写真・図版  世界有数のタックスヘイブン(租税回避地)=キーワード=として知られる英領ケイマン諸島への日本からの証券投資が増え続けている。日本銀行が24日公表した国際収支統計によると、2015年末時点の残高は前年比約2割増の74兆4千億円で、05年末時点から10年間で2倍超になった。データが残る1996年以降で最高だった。。▼5面=課税逃れ可能性は

 ■高利回り運用狙いか

 「証券投資」は日本の企業や機関投資家、富裕層が、現地に設立された会社の株式や債券、投資ファンドにお金を投じた額。日銀が公表している中では、米国債を中心とした米国への投資(165兆円)に次いで2番目に大きい。フランスや英国を上回る。

 ケイマンはカリブ海に浮かぶ島々で人口は6万人弱。法人税やキャピタルゲイン(金融資産などの値上がり益)への課税がない点が注目されるが、金融ビジネスで重視されるのはむしろ、投資を集める子会社やファンドを匿名性の高いかたちで手軽に作れる点だ。

 英領バージン諸島などほかのタックスヘイブンと比べても会社やファンドの設立や運営への規制がゆるやかで、高い利回りの金融商品が作れるともいわれている。そのため、日本を含めた世界中の企業や資産運用会社などがケイマンに投資ファンドや資金調達のための子会社を設立。米国やアジアの不動産などを担保にした金融商品が作られ、お金が集まる。

 アベノミクスの効果で大企業を中心に企業収益は好調。日銀の大規模な金融緩和政策によってお金が市場にあふれている。ただお金は国内で有効な投資先に回らず、一部が海外金融資産に向けられている格好だ。

 しかし、金融危機時には大きな損失を生む可能性がある。実際、08年のリーマン・ショック時には投資額が落ち込んだ。早稲田大学大学院の西山茂教授は「複雑で高利回りの金融商品に比重を置きすぎると、金融危機の発生時に危機を助長する恐れもある」と指摘する。

 一方、ケイマン籍の会社などを利用して資産を隠そうとした国内の富裕層が、国税当局に申告漏れを指摘された例もある。国税庁OBで税理士法人山田&パートナーズ顧問の川田剛氏は「一部の富裕層の中にはペーパーカンパニーをたくさん作って資産を隠し、収益を日本の税務当局に適切に申告していない人もいる」と話している。(牧内昇平)

 ◆キーワード

 <タックスヘイブン> 法人税や所得税などの税率がゼロか極めて低い国・地域。「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が公開した「パナマ文書」も実態の一部を明らかにした。タックスヘイブンに設立された会社の匿名性が高いのも特徴で脱税や資金洗浄の温床との批判がある。

 ■日本からの証券投資の主な投資先 残高

米国      165兆円
ケイマン諸島  74兆円
フランス     26兆円
英国       20兆円
オーストラリア 15兆円
ドイツ      15兆円
中国        2兆円
 (残高は2015年末時点)


▼5面=(にっぽんの負担)課税逃れ
ケイマンに投資マネー
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12374747.html

【写真】4年前のケイマン諸島。郵便局には私書箱がずらりと並んでいた。形だけ島に住所を置く企業が郵便物をここで受け取る

 タックスヘイブンの英領ケイマン諸島に向かう日本の投資マネー。日本国内でも、ケイマンに特別目的会社(SPC)をつくって不動産や債権を担保とした証券を発行する手法が、資金調達の目的で一般的に行われている。会社やファンドの秘匿性を利用し、課税逃れなどが起こる可能性はないのか。▼1面参照

 国税庁OBで税理士法人フェアコンサルティングの伊藤雄二氏は「富裕層の一部では、ケイマンなどのタックスヘイブンに複数のペーパーカンパニーを作って日本国内の資産を移転し、死後に日本で相続税を課税されないような対策を行っている」と指摘する。

 日本の税務当局も対策を打ってきた。1978年にタックスヘイブン対策税制を創設。日本企業のケイマン子会社が利益を上げても、税務当局に実態のないペーパーカンパニーと認定されれば、親会社と合算して日本の税率で課税するようになった。

 2年前には、海外資産が5千万円超の富裕層に「国外財産調書」の提出を義務づける制度も設けた。日本の投資家がケイマン籍の投資ファンドで得た収益も、日本で納税義務がある。

 企業の国際取引に詳しいTMI総合法律事務所の岩品信明弁護士は「課税を逃れる『租税回避』は、日本の企業ではごく一部だろう」と話す。ケイマンに資金調達のためのSPCを複数つくっているメガバンクも「SPCの設立、管理コストが安いため、利用した。租税回避の目的はない」(広報)としている。

 だがこれらは、企業や富裕層が税務当局に正直に申告した場合だ。「国外財産調書」の提出件数は2014年で約8千件。伊藤氏は「実際には調書を提出していない富裕層が多数いるだろう」と指摘する。
(牧内昇平)

 ■日本の学者らも要請

 岩井克人・東大名誉教授ら日本の経済学者ら47人は25日、議長国の日本に対し、タックスヘイブン対策を積極的に進めるように求める呼びかけを発表した。

 呼びかけに加わったのは岩井氏のほか、西川潤・早大名誉教授、三木義一・青山学院大学長、上村雄彦・横浜市立大教授、諸富徹・京都大教授ら。

 05 27 (金) 欧州危機への解決策としてユーロ圏議会創設を     ピケティコラム

「ピケティコラム」一覧
      http://sitesearch.asahi.com/.cgi/sitesearch/sitesearch.pl?Keywords=%E3%83%94%E3%82%B1%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0&tvsubmit=%E6%A4%9C%E7%B4%A2

(05/25)(ピケティコラム@ルモンド)欧州危機への解決策 ユーロ圏議会、創設を  難民問題、債務問題、失業問題――欧州の危機に終わりはないようだ。一部の人たちにとっての答えは「自国にこもるしかない」というもので、そうした人が増えている。欧州から離脱し、国民国家へ戻ろう、そうすれば…

(04/20)(ピケティコラム@ルモンド)「パナマ文書」の教訓 不透明な金融に立ち向かえ  タックスヘイブン(租税回避地)や金融の不透明さに関わる問題が、何年も前から新聞の1面をにぎわしている。この問題に対する各国政府の声明は自信に満ちたものだ。だが、残念ながらその行動の実態とはかけ離れて…

(03/24)(ピケティコラム@ルモンド)欧州社会の差別・偏見 「イスラム嫌い」の衝動、抑えよ  欧州社会におけるイスラムおよびイスラム教徒のあり方について、世の議論の展開が、いよいよヒステリックになっている。情報も的確な研究もないため、議論の材料となるのは、いくつかの事件だ。パリのテロやケルン…

(02/24)(ピケティコラム@ルモンド)米大統領選 サンダース氏は新時代を開くか  米国大統領選の候補者指名争いで、「社会主義者」バーニー・サンダース氏が信じられないほどの成功を収めている。私たちはどう解釈するべきなのだろうか。 バーモント州選出の上院議員サンダース氏は、いまや50…

(02/03)(ピケティコラム@ルモンド)インドの発展 不平等の解消が課題  中国とその金融システムに対する不信感が募るなか、今後数十年にわたる世界経済の牽引(けんいん)役として、インドがますます注目を集めている。インドの2016〜17年の経済成長は、中国が推定6%なのに対し…

(01/07)(ピケティコラム@ルモンド)欧州の危機 ユーロ圏の新議会発足を  2015年12月の地方選の結果の通り、フランス全体ではここ数年で、右翼が得票率を15%から30%まで伸ばした。40%を記録した地域も複数あったほどだ。背景には失業の増加や排外的な感情の高まり、そして…

(12/01)(ピケティコラム@ルモンド)テロ対策 治安一辺倒では不十分だ  テロリズムに対し、治安対策で応じる必要があるのは確かだ。「イスラム国」(IS)に打撃を与え、そこに属する人たちを逮捕しなければならない。しかし同時に、こうした暴力を生み出す政治的背景について、数々の…

(10/14)(ピケティコラム@リベラシオン)南アの人種間格差 「略奪」防ぐ国際的枠組みを  アパルトヘイト(人種隔離)政策の廃止により、南アフリカ共和国では確かに法的には白人と黒人との平等が実現した。だがそれは形だけで、生活面での底なしの格差は是正されていない。国際的規模のさまざまな要因で…

(09/16)(ピケティコラム@リベラシオン)難民の受け入れ 欧州は開かれた取り組みを  この数週間で見られた難民に対する連帯感の高まりは、遅ればせながらとは言え、欧州の人たちや世界の人たちに、最も重要なことを思い出させたという点で、意味があると言えるだろう。21世紀において、欧州大陸は…

(06/24)(ピケティコラム@リベラシオン)政教分離と不平等 フランスの壮大な「偽善」  フランスはしばしば、宗教に関して平等で中立的な国家モデルであるかのように振る舞ってきた。実際にはしかし、例えば雇用に関して、問題はもっと複雑だ。時に、寒々としてさえいる。 ほかの様々な分野でそうであ…

(05/27)(ピケティコラム@リベラシオン)低賃金労働者の支援 弱者犠牲の手当より減税を  フランス政府は、失業者の雇用復帰を促し、低所得労働者を支援するための活動手当を創設しようとしている。だが、この施策は、おそろしく手続きが煩雑な「競争力強化や雇用創出のための税額控除(CICE)」と並…


2016年5月25日 ▼15面 オピニオン
欧州危機への解決策 ユーロ圏議会、創設を
      ピケティコラム@ルモンド
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12374608.html

 難民問題、債務問題、失業問題――欧州の危機に終わりはないようだ。一部の人たちにとっての答えは「自国にこもるしかない」というもので、そうした人が増えている。欧州から離脱し、国民国家へ戻ろう、そうすれば全てがよくなる――というのだ。これは空約束だが、分かりやすい。これに対し、進歩主義陣営は逃げ口上をうつばかりだ。いわく、確かに現状は輝かしくはないが、何とか踏ん張って事態が改善するのを待つべきであり、いずれにせよ欧州のルールは変更できないのだ――と。

 このような戦略は命取りになりかねず、これ以上続けるべきではない。今こそ、ユーロ圏の主要国が改めて指導力を発揮し、決断ができて欧州を再び軌道に乗せることができるしっかりした中核をつくるときだ、と提言すべきだ。

 まずは、欧州条約は手直しさせない、という考え方を取り払う必要がある。「世論は現在の欧州を毛嫌いしている。この際、何にも手をつけないでおこう」というのか! そんな理屈は馬鹿げているし、なによりも間違っている。具体的に言おう。欧州連合(EU)をつくる28カ国が締結している条約全体、特に2007年(に署名された)のリスボン条約を見直すのは、恐らく時期尚早だ。例えば英国とポーランドの2カ国だけをとっても、フランスとは異なる課題をもっているからだ。しかし、だからといって何もしないでおくべきだという結論にはならない。現条約と並行し、ユーロ圏内の希望する国々が政府間で新条約を結ぶことは、間違いなく可能なのだ。

 何よりの証拠に、11~12年に条約締結はなされている。ユーロ圏加盟国が数カ月交渉し、予算に重大な影響をもたらす二つの政府間条約を批准したのだ。一つはESM(欧州安定メカニズム、資本金7千億ユーロを付され、ユーロ圏加盟国に金融支援をする基金)を設立するもの。もう一つはTSCG(ユーロ圏における安定、協調、統治に関する条約)で、新たな予算ルールを定め、(違反すれば)自動的に加盟国に制裁が科されるというものだ。

     *

 問題はこの二つの条約が、さらなる景気後退と、欧州での高級官僚の支配体制拡大をもたらしただけだったということだ。ESMに援助を要請する国は「覚書」に、かの有名な「トロイカ」の代表者と署名しなければならない(ESM条約第13条)。条約のわずか数行で、欧州委員会と、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)(からなるトロイカ)の一握りの高級官僚に権限が与えられていたからだ。こうした官僚は有能な場合もあるが、能力に欠ける場合もある。そんな彼らに国全体の医療や年金、税などの制度改革を監督する権限が与えられ、しかもこうしたことが極めて不透明で民主的な統制が利かない中で決められたのだ。TSCGの方は第3条で、構造的な財政赤字を国内総生産(GDP)比で最大0.5%以内に抑えるという非現実的な目標を定めていた。正確にはこれは二次的赤字(債務の利払い後に達成するべき)の目標なのだ。つまり、ひとたび金利が上がれば(この目標を達成するためには)何十年間というスパンで、GDP比3~4%という巨大なプライマリーバランスの黒字が必要になるということだ。これは金融危機以来、巨額の債務を蓄積してきた国、すなわちユーロ圏のほとんど全ての国に当てはまるのである。1950年代に(とりわけドイツのために)過去の負債を帳消しにして欧州が復興したことや、そうした政治的決定こそが、成長と新しい世代への投資を可能にしたことを人びとは忘れている。

 このESMとTSCGというご立派なシステムは、ユーロ圏財務相会議の管理下にあることを付け加えておこう。会議は密室で開かれ、欧州を救ったと決まって夜中に告げる。財務相たち自身、自らが何を決定したのか分かっていないのだと私たちが理解するのは、翌日の昼間というわけだ。21世紀の欧州における民主主義は、なんとも見事に成功したものである!
     *
 いま必要なのは解決策だ。二つの条約の問題を改善するため、真に民主的な機関をユーロ圏に作らなければならない。白日の下で討議し、公明正大な決定を下す機関だ。最良の手はユーロ圏議会の創設だろう。各国議会の代表で構成する議会が、ユーロ圏に直接関わる予算と財政上のあらゆる決定を行うべきだ。ESMを始め、赤字管理や債務再編もできるようにする。欧州共通法人税や、インフラと大学に投資する予算を可決することもできるだろう。

 この欧州の中核は、全ての国に開かれている一方、(改革を)より速く進めようとする国の邪魔をしてはならない。実際、合計でユーロ圏の人口とGDPの75%以上を占めるフランス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国が合意すれば、新しい政府間条約の発効は必ず可能になるのだ。

 最初のうちドイツは、このような議会で少数派になるのではないか、と懸念を抱くかもしれない。しかしドイツとて民主主義を公然と拒否できるはずはない。拒否するなら、反ユーロ陣営を勢いづかせるリスクを背負うことになる。なにより、この提案はバランスのとれたものだ。なぜなら債務帳消しへと道を開くと同時に、ギリシャのようにそれを望む国は、将来的に多数派の法に従わなければならなくなるからだ。保守主義と自国のエゴイズムを脇に置きさえすれば、妥協点は手の届くところにある。

(〈C〉Le Monde,2016)(仏ルモンド紙、2016年5月15‐16‐17日付、抄訳)

     ◇

 Thomas Piketty 1971年生まれ。パリ経済学校教授。「21世紀の資本」が世界的ベストセラーに


2016年4月20日  オピニオン
エリートの資産隠し暴いたパナマ文書 ピケティ氏が警鐘
      ピケティコラム@ルモンド
      http://digital.asahi.com/articles/ASJ4L3JXSJ4LUHBI00R.html

 タックスヘイブン(租税回避地)や金融の不透明さに関わる問題が、何年も前から新聞の1面をにぎわしている。この問題に対する各国政府の声明は自信に満ちたものだ。だが、残念ながらその行動の実態とはかけ離れている。ルクセンブルク当局が多国籍企業の租税回避を手助けしていたことが暴露された2014年のルクセンブルク・リークで、多国籍企業が子会社を利用して欧州にほとんど税を納めていないことが明るみに出た。16年の「パナマ文書」が明らかにしたことが何かというと、先進国と発展途上国の政治・金融エリートたちが行う資産隠しの規模がどれほどのものかということだ。ジャーナリストが自らの任務を果たしているのは喜ばしい。一方で、政府が果たしていないのが問題なのだ。08年の金融危機以来、何もなされてこなかった。ある面では事態は悪化してしまっている。

   特集:「パナマ文書」の衝撃  ⇒

 順を追って見ていこう。欧州では税の引き下げ競争の結果、大企業の利益に対する課税の税率がこれまでにないレベルになった。例えば英国は課税率を17%まで引き下げようとしている。主要国では先例のない水準だ。しかもバージン諸島や王室属領にある他のタックスヘイブンを保護したままである。何もしなければ最終的にどの国もアイルランドの課税率12%に並ぶだろう。0%になることもありうるし、投資に対する補助金まで出すはめになるかもしれない。そんなケースがすでに見られている。

 一方米国では利益に対して連邦税が課され、税率は35%だ(さらに5~10%の州税がかかる)。欧州が民間の利権に振り回されるのは、欧州は政治的に細分化されており、強力な公権力が存在しないからなのだ。この袋小路から抜けだすことは可能だ。ユーロ圏のGDP(国内総生産)と人口で75%以上を占めるフランス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国が民主主義と税の公平性に基づいた新条約を結び、大企業への共通法人税という実効性のある政策を取れば他国もそれにならうほかなくなるはずだ。そうしなければ世論が長年求めてきた透明性の確保につながらず、しっぺ返しをうけることになるかもしれない。

 タックスヘイブンに置かれている個人資産は不透明性が非常に高い。08年以降、世界のあちこちで巨額の財産が経済規模を上回る速度で成長し続けた。その原因の一端は、他の人々よりも払う税が少なくてすんだことにある。フランスでは13年、予算相がスイスに隠し口座は持っていないとうそぶき、省内でその事実が発覚する懸念はなかった。ここでもまた、ジャーナリストたちが真実を明らかにしたのだった。

 スイスは、各国間で金融資産情報を自動的に交換することに公式に同意した。パナマは拒否しているが、この情報交換で将来的に問題が解決されると考えられている。だが、情報交換は18年になってようやく始まることになっているのに加え、財団などの保有株には適用されないといった例外まで設けられている。しかもペナルティーは一切設定されていない。つまり、私たちは「お行儀よくしてください」と頼めば、各国が自発的に問題を解決してくれる、そんな幻想の中にいまだに生きているのだ。厳格なルールを順守しない国には、重い貿易制裁と金融制裁を科すということを実行に移さなければならない。ここではっきりさせておこう。どんなわずかな違反に対しても、その都度こうした制裁を繰り返し適用していくのだ。もちろんその中にはフランスの親愛なる隣国スイスやルクセンブルクの違反も含まれるだろうが。こうした繰り返しがシステムの信頼性を確立し、何十年にもわたって罰を免れてきたことで生み出された、透明性が欠如した雰囲気から抜け出すことを可能にするだろう。

 同時に、金融資産を統一的な台帳に登録するようにしなければならない。欧州のクリアストリームや米国の証券預託機関(DTC)などといった金融市場で決済機能を果たす機関を、公的機関が管理できるようにする。こうした仕組みを支えるため、共通の登録料を課すことも考えられる。得られた収入は、気候対策などの世界全体に関わる公益の財源にあてることもできよう。

 疑問がまだひとつ残っている。不透明な金融と闘うために、各国政府は08年からずっとほとんど何もしてこなかった。なぜなのか。簡単に言えば、自ら行動する必要はないという幻想の中にいたからだ。中央銀行が十分な貨幣を発行することで、金融システムの完全な崩壊を免れ、世界を存亡の危機に追いやる過ちを避けることができた。その結果、たしかに景気後退の広がりを抑えることはできた。しかしその過程で、必要不可欠だった構造改革、行政改革、税制改革をせずにすませてしまった。公的セクターと民間とが持っている金融資産は全体で、国内総生産(GDP)のおよそ1千%、英国では2千%にあたる。それに比べれば、主要中央銀行の金融資産の規模は、GDPの10%から25%に上がったとはいえ小さいままで、必要が生じれば、より増やすことができる水準であることは安心材料だろう。

 しかしここからわかるのは、とりわけ民間部門のバランスシートが膨張し続けていることと、システム全体が極めて脆弱(ぜいじゃく)であるということなのだ。願わくば「パナマ文書」の教訓に世界が耳をかたむけ、いよいよ金融の不透明さに立ち向かわんことを。新たな危機を招かぬうちに。

(〈C〉Le Monde,2016)(仏ルモンド紙、2016年4月10-11日付、抄訳)
特集:「パナマ文書」の衝撃

パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が作成した1150万点の電子ファイルから、各国の指導者らとタックスヘイブンとの関係が明らかになった

写真・図版 【図表】パナマ文書に登場する法人の株主ら(企業・個人)の主な住所地など

パナマ文書、21万の法人と株主名を公開 日本は400(05/10)

 各国の指導者らとタックスヘイブン(租税回避地)との関係を明らかにした「パナマ文書」に登場する21万余の法人とその株主らの名前が10日午前3時(米国時間9日午後)、「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)のウェブサイトで公表された。ICIJは公表について「公益目的」と説明している。

   特集:「パナマ文書」の衝撃   ⇒
   パナマ文書の流出元、創立者モサック氏とは ドイツ出身   ⇒

 文書はパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」(MF社)が作成した1150万点の電子ファイル。21万余の法人名と、その株主や役員となっている企業や個人の名前と住所地を公表した。

 株主などとして挙げられている延べ37万余の人や企業の住所地のうち、最も多いのは香港の5万4千余、次いでスイスの4万2千余。日本は400余で全体では65番目となっている。

 ICIJによると、アフリカに武器を密売しようとした英国人や米国の著名な詐欺師などがMF社の顧客として新たに判明した。

 ICIJは政治家など公人に焦点をあてて取材をしている。ジェラード・ライル事務局長はデータ公表について「一般の人たちが私たちの見落としについてヒントをくれるだろうと期待している」と話している。

 朝日新聞はICIJと提携して「パナマ文書」の取材をしている。
 「パナマ文書」とは

 タックスヘイブン(租税回避地)の会社の設立などを手がける中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した内部文書。1977年から2015年にかけて作られた1150万点の電子メールや文書類。

 21万余の法人の情報の中には、10カ国の現旧指導者12人、現旧指導者の親族ら61人の関係する会社も含まれている。芸能人やスポーツ選手といった著名人の関係する会社もある。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手し、朝日新聞を始めとする各国の提携報道機関が報道した。



2016年5月25日 ▼15面 オピニオン
オバマ大統領の迎え方
      (インタビュー)作家・塩野七生さん
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12374609.html

 あの人は今、どう受け止めているだろう。オバマ米大統領の広島訪問が近づくなか、作家の塩野七生さんの考えを聞きたくなった。ローマの自宅に電話したずねると、「日本が謝罪を求めないのは大変に良い」という答えが返ってきた。塩野さんが思う、米大統領の広島訪問の迎え方、とは。

 ――オバマ大統領が被爆地・広島を訪問することを知ったとき、まず、どう感じましたか。

 「知ったのは、ローマの自宅でテレビを見ていた時です。画面の下を流れるテロップでのニュースだったけれど、それを目にしたとたんに、久方ぶりに日本外交にとってのうれしいニュースだと思いました」

 「特に、日本側が『謝罪を求めない』といっているのが、大変に良い」

 ――どうしてですか。

 「謝罪を求めず、無言で静かに迎える方が、謝罪を声高に求めるよりも、断じて品位の高さを強く印象づけることになるのです」

 「『米国大統領の広島訪問』だけなら、野球でいえばヒットにすぎません。そこで『謝罪を求めない』とした一事にこそ、ヒットを我が日本の得点に結びつける鍵があります。しかも、それは日本政府、マスコミ、日本人全体、そして誰よりも、広島の市民全員にかかっているんですよ」

 「『求めない』と決めたのは安倍晋三首相でしょうが、リーダーの必要条件には、部下の進言も良しと思えばいれるという能力がある。誰かが進言したのだと思います。その誰かに、次に帰国した時に会ってみたいとさえ思う。だって、『逆転の発想』などという悪賢い人にしかできない考え方をする人間が日本にもいた、というだけでもうれしいではないですか」

 ――悪賢い、とは。

 「歴史を一望すれば、善意のみで突っ走った人よりも、悪賢く立ちまわった人物のほうが、結局は人間世界にとって良い結果をもたらしたという例は枚挙にいとまがありません」

 「例えば、執筆中の古代ギリシャでいえば、『トロイの木馬』を考えたオデュッセウスがその1人です。兵を潜めた巨大な木馬を作って敵の城内に送り込み、10年間もケリがつかなかった戦争を勝利に導いたのですから」

     ■     ■

 ――米国の現職大統領が、かつて自分と同じ職だった者が原爆投下を命じた地を訪れる、その意味をどう見ますか。

 「広島を息子に見せる目的で、一緒に訪れたことがあります。息子はイタリア人です。原爆を投下した国の、アメリカの人間ではありません。でも、原爆ドームを見、平和記念資料館の展示をすみずみまで見、原爆死没者慰霊碑の前に立っている間、彼は一言も発しなかった。その後も感想らしきことは一言も言いません。簡単には口にできない重さに圧倒されていたのでしょう」

 「あの日、私も考えました。原爆の犠牲者たちは、70年後を生きるわれわれに、ほんとうは何を求めているのだろうか、と」

 「もしかしたら、通りいっぺんの謝罪よりも、安易な同情よりも、被爆地を自らの足を使ってまわり、一人一人が感じ、その誰もが自分の頭で考えてくれることのほうを望んでいるのではないか」

 「オバマ大統領だけでなくサミット参加各国のトップたちが広島を訪問したら、それはアメリカ人だけではなく世界中の人びとに、それをさせる素晴らしいきっかけになりうるんですよ」

     ■     ■

 ――ヨーロッパ諸国から「あれだけの惨苦を受けながら、ものわかりの良すぎる国だ」と思われるような心配はありませんか。

 「少し前に、アジアの二つの強国のトップが、相前後してヨーロッパ諸国を歴訪したことがありました。その際にこのお二人は、訪問先の国々でまるで決まったように、日本は過去に悪事を働いただけでなく謝罪もしないのだ、と非難してまわったのです」

 「ところがその成果はと言えば、迎えた側の政府は礼儀は守りながらも実際上は聞き流しただけ。マスコミに至っては、それこそ『スルー』で終始したのです」

 ――そうですか……。

 「当然ですよね。ヨーロッパは旧植民地帝国の集まりみたいなようなものだから、日本の優に十倍の年月にわたって、旧植民地に言わせれば、悪事を働きつづけた歴史を持っているのです。それでいて、謝罪すべきだなどとは誰も考えない」

 「そういう国々を歴訪しながら『日本は悪いことをしていながら謝罪もしないんです』と訴えて、効果があると考えたのでしょうか。私には、外交感覚の救いようのない欠如にしか見えませんが」

 ――厳しいですね。その2国には、言わずにはいられない思いがあるからでは。

 「だからこそ、日本が原爆投下への謝罪は求めない、としたことの意味は大きいのです。欧米諸国から見れば、同じアジア人なのに、と。国の品位の差を感じ取るかもしれません」

     ■     ■

 ――日本は今回、どうすれば良いと思いますか。

 「ただ静かに、無言のうちに迎えることです。大統領には、頭を下げることさえも求めず。そしてその後も、静かに無言で送り出すことです」

 「原爆を投下した国の大統領が、70年後とはいえ、広島に来ると決めたのですよ。当日はデモや集会などはいっさいやめて、静かに大人のやり方で迎えてほしい」

 「われわれ日本人は、深い哀(かな)しみで胸はいっぱいでも、それは抑えて客人に対するのを知っているはずではないですか。泣き叫ぶよりも無言で静かにふるまう方が、その人の品格を示すことになるのです。星条旗を振りながら歓声をあげて迎えるのは、子どもたちにまかせましょう」

 「それから、もしも私が日本の新聞の編集の最高責任者だったら、当日の紙面づくりを他の日とは一変させますね」

 ――え? どういうふうに。

 「オバマ大統領の広島訪問を伝える日の1面には、カメラマンたちが写してきた多数の写真の中から、1枚だけを選んで載せる。『無言で立ち尽くす米国大統領オバマ』、だけにします」

 「頭を下げる姿の大統領は(もし、そうしたとしても)絶対に載せない。なぜなら、自分の国の大統領のこの振る舞いに釈然としないアメリカ人もいるに違いないので。その人たちに『日本だって真珠湾を攻撃したではないか』などと文句をつける言質を与えないためです」

 「その日だけは、記事は大統領の行程を記すだけにとどめて、余計な記事はいっさい排除する。もちろん、社説に至ってはお休みにしていただく。その他のページに載せる写真の説明も、極力抑えた簡単なものにする」

 ――でも、日本がオバマ大統領の広島訪問をどう受け止めたか、きちんと言葉にして米国にはもちろん、世界に発することが大事だと、私は考えます。

 「新聞記者とて、ときには多言よりも無言のほうが多くを語る、という人間世界の真実を思い起こしてほしいんですね」

 ――それで伝わりますか。

 「伝わる人には伝わります」

 「ここイタリアでも、原爆投下の日には、テレビは特別番組を放送します。毎年ですよ。あれから70年が過ぎても、犠牲の大きさに心を痛めている人が少なくないことの証しです。心を痛めている人は、アメリカにも多いに違いありません」

 ――静かに迎えることこそが、世界の良心ある人たちに訴えかけるということですか。

 「『謝罪は求めない』は、『訪れて自分の目で見ることは求めない』ではありません。米国大統領オバマの広島訪問は、アメリカで心を痛めている人たちに、まず、自分たちが抱いていた心の痛みは正当だった、と思わせる効果がある。そうなれば、感受性の豊かな人びとの足も、自然に広島や長崎に向かうようになるでしょう」

 「広島の夏の行事の灯籠(とうろう)流しに多くの外国人が参加するのも、見慣れた光景になるかもしれないのです。そうなれば、原爆死没者慰霊碑の『過ちは繰返しませぬから』という碑文も、日本人の間だけの『誓い』ではなくなり、世界中の人びとの『誓い』に昇華していくことも夢ではなくなる。それが日本が獲得できる得点です」

 「そしてこれこそが、原爆の犠牲者たちを真の意味で弔うことではないでしょうか」

     *

 しおのななみ 37年生まれ。ローマ在住。著書に「ローマ人の物語」「わが友マキアヴェッリ」など。昨年「ギリシア人の物語1」を出し、続刊を執筆中。

 ■取材を終えて

 てっきり「謝罪を求めないなんて、日本はだらしない」と語ると思っていた。そんな予想は大はずれ。「ぜひ会って取材を」とお願いしたが、即座に「だめ」。次作の準備中で今は誰とも会わないという。電話とファクスを何度も重ね、記事化した。「無言こそ雄弁」。これも塩野流のリアリズムであり、逆転の発想なのだろう。(聞き手 編集委員・刀祢館正明)

 05 27 (金) 戦争は罪なき市民に苦しみ     オバマ米大統領、単独書面インタビュー

紙上では、原爆使用についての謝罪をしたほうがいいという意見と、そうでない意見が出ている。 老生は謝罪を求めたくない。 戦争そのものが死と破壊を犠牲にした、国家の一部の指導層の恣意によるもので、戦争に参加させられた一般の人々にとっては迷惑至極のものだからである。

個人の自由意志は全く無視されたものに他ならないからである。

ピケティの調査の結論から言えば、所得と分配の不平等の積み重ねによって一般庶民の経済所得格差は今後ますます幾何級数的にも開いていくと思われる。

第二の世界フランス革命を引き起こさなくてはならないのではないか?



2016年5月27日 朝日▼1面
戦争は罪なき市民に苦しみ
      オバマ米大統領、単独書面インタビュー
      http://digital.asahi.com/articles/photo/AS20160527000334.html

写真・図版  米国のバラク・オバマ大統領は26日、朝日新聞の単独書面インタビューに応じた。オバマ氏は、1945年の原爆投下以来初めて、現職の米大統領として広島を27日に訪問することについて「広島が思い起こさせるのは、戦争は罪なき市民に、途方もない苦しみと喪失をもたらすということだ」と述べ、被爆地から世界に対して、戦争の悲惨さと「核なき世界」を訴えることを明らかにした。

 オバマ氏は広島訪問について「第2次世界大戦で失われた何千万もの命に思いをはせ、敬意を表するためだ」と説明。広島訪問に米国内で異論もある中で、「敬意」という言葉で、戦争で命を落とした米軍兵士も含めて配慮した形だ。

 そのうえで、「広島が思い起こさせるのは、戦争は、理由や関与した国を問わず、とりわけ罪なき市民に対して途方もない苦しみと喪失をもたらすものということだ」として、原爆が投下された広島と、戦争による一般市民の犠牲を結びつけた。原爆投下で多くの市民が亡くなった広島を、戦争の悲惨さを示す象徴的な場所と米国大統領が位置づけた発言として、注目される。

 また、広島で「(2009年に演説した)プラハで示した『核なき世界』を追求するビジョンを思い起こす」と述べ、「核なき世界」に向けたメッセージを、広島から世界に発することを明らかにした。「米国には、核なき世界に向けて指導力を発揮し続ける、特別な責任がある」とも述べた。

 オバマ氏は、「広島と長崎への原爆投下の決定について再び議論はしない」として、原爆投下の是非には触れるつもりがないと明言。一方で、安倍晋三首相と共に平和記念公園を訪れることについて、「かつての敵国同士でさえ、最も強固な同盟国になれるという、和解の可能性を世界に示すものだ」と強調した。

 沖縄県で起きた米軍属の男による死体遺棄容疑事件については「深い遺憾の意」を表明する一方で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画を推進する立場を改めて示した。(アメリカ総局長・山脇岳志)

 ■書面インタビューの骨子

 <広島訪問>
   ◆第2次世界大戦で亡くなった人々に敬意を表する
   ◆原爆投下の決定は再び議論はしない
   ◆和解の可能性を世界に示す
   ◆核兵器なき世界の平和と安全を追求

 <北朝鮮の核、ミサイル>
   ◆世界にとっての脅威
   ◆日米韓の協力を増強

 <沖縄>
   ◆(死体遺棄事件で)深い遺憾と心の底からの哀悼の意を表す
   ◆捜査に全面協力
   ◆一個人の行為は大多数の米軍人らを代表しない
   ◆米軍駐留が沖縄に必要以上の負担と認識
   ◆米海兵隊普天間飛行場の移設は現行計画に尽力

 <アジア太平洋>
   ◆南シナ海での中国の行動は引き続き懸案
   ◆米国は紛争当事者ではないが同盟国を支持