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折々の記 2016 ⑤
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 03 】05/10

  05 10 パナマ文書、未明に公開   2016年5月10日
       闇の一端 タックスヘイブンの金融資産、日米GDP合計以上か   
       米大企業、66%が「本社」   
       パナマ文書が晒すもの   
       提携取材、ニュース発掘   パナマ文書、報道に80カ国400人
  05 11 税逃れ防止、仕組み次々   法人名公開

 05 10 (火) パナマ文書、未明に公開     2016年5月10日

パナマ文書 1面
パナマ文書、未明に公開
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12348221.html

 各国の指導者らとタックスヘイブン(租税回避地)との関係を明らかにした「パナマ文書」に登場する21万余の法人とその株主らの名前が10日午前3時(米国時間9日午後)、「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)のウェブサイトで公表される。ICIJは公表について「公益目的」と説明している。▼2面=闇の一端、10面=米国内に「租税回避地」、15面=「耕論」、33面=朝日新聞など提携取材

 文書はパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」(MF社)が作成した1150万点の電子ファイル。21万余の法人名と、その株主や役員となっている企業や個人の名前と住所地を公表する。


パナマ文書 2面
闇の一端 タックスヘイブンの金融資産、日米GDP合計以上か
      (時時刻刻)パナマ文書
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12348181.html

写真・図版
 【パナマ文書に登場する法人の株主ら(企業・個人)の主な住所地は…/主にどこに設立したか】

 世界の首脳らと租税回避地(タックスヘイブン)の関わりを暴いた「パナマ文書」。富裕層の蓄財の闇を照らし、税負担の不公正さに対する市民の怒りに各国で火をつけた。だが明らかになったのは、租税回避のほんの一端にすぎない。▼1面参照

 「タックスヘイブンは富裕層や国際的な企業を利する一方、それらの利益は他の人の犠牲の上にあり、不平等を拡大させている」。フランスの経済学者トマ・ピケティ氏ら世界の約350人の経済学者やエコノミストが9日、タックスヘイブンをなくすよう求める書簡を発表した。

 ■経済学者ら批判

 書簡には、ピケティ氏のほか、ノーベル経済学賞を昨年受賞したアンガス・ディートン米プリンストン大教授、米コロンビア大のジェフリー・サックス地球研究所長らが名前を連ねた。書簡では「タックスヘイブンが持つ秘匿性が汚職を促している」などと批判し、「タックスヘイブンが世界経済をゆがめている」と強調した。

 タックスヘイブンは、富裕層らの資産隠しの舞台として利用されてきた。実体の無いペーパーカンパニーを簡単につくることができ、監視や規制が不十分なため、脱税や粉飾決算、資金洗浄に悪用されやすい。

 パナマ文書が明らかにしたのは、「氷山の一角」にすぎない。

 「(タックスヘイブンに移される資金は)公の統計などに出てこない、まさに『ブラック経済』だ。その規模はあまりにも大きい」。国際NGO「税公正ネットワーク」のジョン・クリステンセン事務局長はそう説明する。

 税公正ネットワークのスタッフの試算では、世界の富裕層がタックスヘイブンに持つ未申告の金融資産は、2014年時点で24兆ドル(約2570兆円)~35兆ドル(約3750兆円)にのぼる。米国と日本の14年の国内総生産(GDP)の合計約22兆ドルを上回る規模だ。その額は、21兆~32兆ドルと試算した10年時点より増えている。

 そうしたタックスヘイブンが政治家を含む富裕層らに広く使われている実態を、パナマ文書は浮き彫りにした。クリステンセン氏は「政治家が自国の法律で定められた税金を払わずに、自国のルールの外にあるタックスヘイブンに資金を移して税を逃れる。その一方で貧しい人たちに財政緊縮策を課す。これは民主主義の問題だ」と話す。

 ■政府税収目減り

 タックスヘイブンも含め国ごとに異なる税制を巧みに利用する、企業の「節税」はより一般的だ。経済協力開発機構(OECD)の推計では、企業による過度な節税策により、政府に入ってくるはずの税収が、毎年1千億~2400億ドル目減りしているとされる。世界全体の法人税収の4~10%にあたるという。

 タックスヘイブンは、政治家や富裕層と、庶民の格差を広げる原因になっているだけではない。国際NGO「グローバルウイットネス」(本部・英国)のロバート・パルマー氏は「タックスヘイブンに流れ込んでいるお金の一部は、海外援助を通じて途上国の教育やインフラなどに使われるべきものだ。税逃れは富裕層を富ませるだけでなく、途上国の発展を阻害する」と指摘する。

 (ロンドン=寺西和男)

 ■日本の経営者・上場企業も

 「パナマ文書」に含まれていたタックスヘイブン法人の株主や役員のうち、400余の法人と個人が日本を住所としている。重複などを除くと、日本企業は少なくとも約20社、日本人と見られる個人は約230人を数える。政治家の名前は見つかっていない。

 企業経営者では飲料大手の社長や大手警備会社の創業者らが英領バージン諸島の法人の株主となっていたが、取材に対し、いずれも租税回避の意図を否定している。

 海外との取引に法人を活用しようとした上場企業もあった。法人を保有していた大手商社は「法人設立や清算が簡単。効率的な運営ができる」と説明する。

 また、暴力団が関係する企業の役員とみられる人物が法人の株主となっている例もあった。

 株主の中には、住所地が存在しないなど実体がよくわからないものもある。

 ■手弁当の調査報道、前首相追い詰めた 33万人アイスランド、2万人が怒りのデモ

 グンロイグソン前首相(41)が退陣に追い込まれたアイスランド。首都レイキャビクの議会前では、抗議活動が続く。

 政治の透明性を求める「海賊党」の国会議員アスタ・ヘルガドッテルさん(26)は「パナマ文書によって、富裕層がフェアプレーをしていないことがはっきりした」と訴える。

 2008年のリーマン・ショックを受けて国家破綻(はたん)の瀬戸際に陥った国だ。13年から政権を担った前首相は、債権回収を迫る外国の投資家らを「ハゲタカ」と非難し、自らを「アイスランド金融再建の旗手」と標榜(ひょうぼう)した。

 だがパナマ文書で、前首相夫妻が、破綻した国内大手3銀行の債権者に名を連ねる英領バージン諸島の会社の所有者だったことが明らかになった。夫妻は同社を通じて、数億円の投資をしていた。前首相は潔白を主張したが辞任を余儀なくされた。

 追い詰めたのは、同国のフリージャーナリスト、ヨハネス・クリスチャンソンさん(44)だ。昨年6月からほぼ無収入でパナマ文書の分析に専念してきたという。

 国内で調査報道記者として知られるクリスチャンソンさんの要請では、前首相が取材に応じないのは目に見えていた。スウェーデン公共放送の記者の協力を得てインタビューを取り付けた。

 英領バージン諸島の会社について問うと、前首相は答えに窮した。「こんな取材は不適切」と色をなして部屋を出て行った。取材は打ち切られた。取材内容は、アイスランドの公共放送RUVでそのまま放映された。その様子が、国民に「やましさ」を印象づけた。

 放映の翌日、人口33万人の小国で2万人規模の抗議デモが起きた。「政治に期待していた高い倫理基準が保たれていなかったことへの怒りだ」

 今、クリスチャンソンさんの取材活動を支えるのは怒れる市民だ。インターネットで寄付を募ったところ、パナマ文書の公開から約1カ月で目標の2・5倍の約10万ユーロ(約1200万円)が集まった。

 パナマ文書に絡んで名が挙がった為政者への怒りは、アイスランドにとどまらない。スペインのソリア産業相は辞任。キャメロン英首相も強い批判を浴びた。一方、中国はパナマ文書関連の報道を厳しく規制。ネットでの検索も制限されている。

 (レイキャビク=渡辺志帆)


パナマ文書 10面
米大企業、66%が「本社」
      国内「タックスヘイブン」デラウェア州
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12348116.html

 各国首脳らとタックスヘイブン(租税回避地)の関係を暴き、衝撃を与えた「パナマ文書」。現時点で米国の政治家らの名前は出ていないが、米国でも一部の州では税金が優遇され、所有者の情報を出さずに会社が作れる実態がある。文書を機に批判が高まり、米政府も対応に乗り出さざるを得ない状況だ。▼1面参照

 ■建物一つに31万社登記

 米東部デラウェア州のウィルミントン。人口約7万人の街の目抜き通りを抜けると、「ノースオレンジ通り1209番地」に行き着いた。薄茶色の2階建ての建物は、企業設立の代行業者CTコーポレーションが所有する。

 同州によると、この建物は約31万5千社の企業の登記上の住所になっている。英ガーディアン紙によるとアップルやウォルマートなど大企業のほか、米大統領選の有力候補のクリントン前国務長官や不動産王のトランプ氏の関連会社もこの住所で登記されている。

 ウィルミントンは治安のあまりよくない街として知られる。日中でも出入りする人はまばらで、外にいた女性は「メディアには話すなと言われている」。CTの広報担当者は「顧客企業が合法的に事業をする手助けをしている」としながらも、顧客の数などについては答えなかった。

 人口約94万人の同州全体では、118万社が登記されている。昨年、登記された会社は過去最高の約17万8千社で、1日あたり平均487社が設立されたことになる。企業に関する各種の税や手数料などの収入は10億ドル(約1080億円)を超え、州の歳入の約4分の1を占めている。

 同州に企業が殺到する理由の一つは、税制上の優遇措置があるからだ。州の法人税(8・7%)はあるものの、州内で実際の事業をしていなければ法人税はかからない。著作権などの収益にかかる税金はゼロ。米国の主要企業500社の66%が同州に登記上の本社を置いている。

 州税を州ごとに決められる米国では、州による企業への優遇策が企業や投資の誘致戦略として19世紀ごろから広がり、ワイオミング州やネバダ州では州の法人税がない。

 また、デラウェア州では裁判所や州政府のサービスの充実に加え、実質的な所有者の情報などを出さずに簡単に企業が設立できる。会社設立の書類は最少で2ページだけ。会社名や住所を記入し、千ドルほど払えば1時間ほどで会社が作れる。

 会社設立の代理業を営むアン・チルトンさんは、親の代から登記サービスを手がける。顧客は米国内のほか英国やスイス、香港、日本など海外にもおり、月100~200件の登記を代行する。「実質的な所有者がわからなくても、大多数の企業は違法行為をしているわけではない。我々はパスポートなどの提示も求めている」と、チルトンさんは話す。

 ■批判高まり政府が法案

 だが、「パナマ文書」の暴露をきっかけに、こうした「企業に優しい」州への批判が強まっている。

 国際NGO「税公正ネットワーク」の昨年の金融秘匿ランキングでは米国はスイス、香港に次いで3位で、ケイマン諸島(5位)やルクセンブルク(6位)を上回った。日本は12位で、パナマ(13位)より高かった。米メディアは「米国は世界最大のタックスヘイブンの一つ」(ワシントン・ポスト紙)と批判する。

 NPO「グローバル・ファイナンシャル・インテグリティー」のトム・カルダモン氏は「米国人はパナマに行く必要がない。台所から電話1本で、ペーパー会社を作ることができる」と指摘する。

 先進国でつくる経済協力開発機構(OECD)などの後押しで、約100カ国が来年以降、自国民の銀行口座の情報などを自動的に交換する枠組みを始めるが、その土台となる共通報告基準(CRS)に米国は参加していない。

 参加しない理由として米国は、外国金融機関に米国人の口座情報を報告するよう求める「外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)」を施行したことを挙げているが、FATCAは双方向の自動情報交換を認めていない。米国から一方的に情報を求められる状況に、新興国などの不満は根強い。

 英仏など欧州5カ国は4月、企業の実質的な所有者の情報を交換し合う枠組みで合意。こうした動きに押されるかのように米政府は今月、新たな対策を公表した。企業を設立する際、実質的な所有者の情報を連邦政府に提出することを義務づける法案のほか、口座の情報を相互交換できるようにする法案の可決も議会に求めている。

 ただ、企業の実質的所有者の開示をめぐっては、議会ですでに同様の法案が出されているが、野党・共和党の反対で可決の見通しは立っていない。米政府関係者は「法案に反対するロビイストは、(銃規制に反対する)NRA(全米ライフル協会)と同じぐらい強力だ」と話す。

 「パナマ文書」を暴いた国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によると、文書に関連し、米連邦地検が刑事事件を視野に捜査を始めた。日本時間10日午前3時(米国時間9日午後)に、文書にある20万余の法人とその株主らの名前をICIJが予定通り公表すれば、米国からも関係先が出てくる可能性がある。

 国際NGOオックスファムによると、多国籍企業の税逃れで毎年1110億ドル(約12兆円)が米政府の損失になっているという。米メディアでは、クリントン氏に近い人物の会社もパナマ文書に含まれていたとの報道もあり、大統領選でも議論になりそうだ。(ウィルミントン〈米デラウェア州〉=五十嵐大介)

 ■パナマ文書流出元の創立者モサック氏 元ナチス武装親衛隊の父と移住/共同の法律事務所、支店40以上

 タックスヘイブン(租税回避地)と各国の指導者らの関係を暴いた「パナマ文書」の流出元となった中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の共同創立者の一人で、ドイツ出身の弁護士ユルゲン・モサック氏(68)は、1960年代初めに父親に連れられてパナマに移り住んだ。

 パナマで法律を学んだユルゲン氏は、73年に弁護士の資格を取得し、パナマとロンドンで活動。政界に太い人脈を持つパナマ人弁護士のラモン・フォンセカ氏(63)と知り合い、互いの法律事務所を統合して86年にモサック・フォンセカを設立した。その後、事務所は世界に支店40以上、500人以上の従業員を抱えるまでに成長した。

 フォンセカ氏は「我々はモンスター(怪物)を作り出した」と、後に記者の取材に誇っていたという。

 朝日新聞も参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の調査によると、ユルゲン氏の父エアハルト・モサック氏は第2次大戦中にナチス武装親衛隊に所属。パナマに移住した後、米中央情報局(CIA)に情報提供者になることを持ちかけ、対キューバ諜報(ちょうほう)活動に従事したが、エアハルト氏とCIAの関係がユルゲン氏に及んでいたかは不明だ。

 一方で、パナマ文書を入手した南ドイツ新聞は、CIAを含む複数の国の情報機関の関係者が、スパイ活動の「隠れみの」として経営実態のないペーパー会社をつくる際に、モサック・フォンセカを利用していたと報じている。(ベルリン=玉川透)

 
(耕論)15面
パナマ文書が晒すもの
      鳥羽衛さん、黒木亮さん、ジェラード・ライルさん
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12348064.html

 タックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴露したパナマ文書が世界に衝撃を広げている。税や金融の専門家、文書を暴露した「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)幹部に聞く。

特集:「パナマ文書」の衝撃

 ■高度な金融専門家育成を 鳥羽衛さん(弁護士・元東京国税局長)

 税金は主権国家が課税徴収しますが、経済はグローバル化し、国境を超えます。各国で制度が違うため、主権の壁にぶつかり、調査や徴税ができない現実があります。

 例えば日本企業がその事業で利益を上げれば、法人税や事業税が課税されます。しかし仮に、その企業が、海外のペーパーカンパニーに利益を留保していたり、源泉課税がなされない形で送金していたら、直ちには課税できません。

 こうしたペーパーカンパニーが大量につくられているのが、タックスヘイブン(租税回避地)です。税金が無税だったり、大幅に軽減されたりするので、税負担を減らせます。この仕組みを利用する動きは古くからありましたし、そこからの情報流出は以前からありました。しかし、パナマ文書は情報量が格段に多く、著名人の名前が報じられていることが衝撃を広げています。

 特に今回は、いくつかの国の最高指導者がタックスヘイブンを利用していたと報じられています。政権を奪われた時には国外に逃亡しなければ身の危険があるような国の政治家は、国外に財産を隠す動機があるでしょう。本人たちにとっては、ある意味で合理的なのかも知れません。

 蛇足ですが、日本の政治家は政権交代があっても、財産や命を奪われるといった危険はありません。ですから、パナマに資金を隠す必要がないのではないでしょうか。

 税金以外で問題なのは、違法な政治資金や犯罪、暴力団やテロリズム関連団体といった資金の受け皿になっているのではないかという点です。

 税制においては、米国では半世紀以上前から、日本でも1978年から対策が導入されています。国際的には、ここ20年ほど、経済協力開発機構(OECD)が「有害な租税競争」の除去に向けて規制強化に取り組んで来ました。現在は、国際課税全般について、多国籍企業が税制の抜け穴を利用して過度の節税をしている状況を是正するため、「BEPS」(税源浸食と利益移転)というプロジェクトが進行しています。不透明な資金の流れを捕捉するために、各国の当局間の情報交換を密にする方向で世界は動いていると言えます。

 制度は整いつつありますが、課題は実際の執行面です。特に重要なのは、国際課税に精通した人材の育成と、要所にそうした人材を配置した効果的な体制づくりです。税逃れの仕組みは年々複雑化しており、当局に高度な金融知識を持つ人材を常に育成することが欠かせません。

 税金は民主主義社会の根本です。財政状況は厳しいですが、税負担の公平さを維持するため、人材育成と体制の整備は避けては通れないと思います。

 (聞き手・池田伸壹)

     *

 とばまもる 52年生まれ。75年旧大蔵省入り。国税庁調査査察部長を経て、2008年から長島・大野・常松法律事務所に勤務。

 ■監視システム、世論が力 黒木亮さん(作家)

 タックスヘイブンを使うこと自体は違法ではありません。長年住んでいる英国について言えば、本土の近くにある王室属領の小さな島々もタックスヘイブンです。以前は利益を本土に送金しない限り無税だったので、多少の金融センスがあれば一般の人でも口座をつくって節税していました。タックスヘイブンの使いようをみんな知っているので、パナマ文書でキャメロン英首相の父親の名前が出ても、適法に処理していたという説明で批判は下火になっているように思います。

 国際金融の世界でもタックスヘイブンは当たり前のように使われています。

 金融マン時代、ボーイング747型貨物機を銀行団の融資で購入し、サウジアラビア航空に貸し出してリース代を得る仕組みを作ったことがありました。ケイマン諸島のペーパーカンパニーに航空機を所有させてリースする形をとりました。約140億円の航空機でしたが、ケイマンにもってくることで、銀行団がペーパーカンパニーの株式に質権を設定し、航空機をきちんと担保にとることができました。航空機の輸入税や金利への源泉課税もないという利点もありました。

 タックスヘイブンのこうした使い方は、各国の当局も認めている一般的な金融手法です。

 問題なのは、秘密保持を理由に情報をほとんど公開せず、脱税やマネーロンダリングが行われる場合です。ペーパーカンパニーをさまざまなタックスヘイブンに作り、その間で資金の移動を繰り返せば、元の資金の出どころは全く分からなくなり、税金を取ることもできません。それを仕組んできたのはバンカーや弁護士、会計士です。彼らが悪の張本人だと言っていい。

 実質は違法だが、バレやしない。みんなそう思っていたところにパナマ文書が出てきました。政治家や著名人の名前が取りざたされていますが、金融機関こそ戦々恐々としていると思います。脱税やマネロンを幇助(ほうじょ)したと分かったらどうなるのか、と。

 資源や産業に乏しいから、タックスヘイブンにして外国からお金やそれに伴う労働を引っ張ってこよう、という小さな国はまだ多いでしょう。他方で、世に犯罪がある限りタックスヘイブンを悪用しようというニーズはあり、人材やノウハウは伝播(でんぱ)します。

 これまでもタックスヘイブンの監視システムを米国や経済協力開発機構(OECD)などがつくってきました。情報共有の輪の中に、タックスヘイブンに関わる国や金融機関などを追い込んでいるのは国際世論です。まだ抜け穴だらけですが、それをふさぐのに世論は力になる。パナマ文書はその動きを大いに後押しするでしょう。

 (聞き手・村上研志)

     *

 くろきりょう 57年生まれ。三和銀行や英国三菱商事などに約23年間勤務。著書に「巨大投資銀行」、「ザ・原発所長」など。

 ■政治家に焦点を当てた ジェラード・ライルさん(ICIJ事務局長)

 オーストラリアで新聞記者をしていたとき、百億円規模の巨額詐欺事件を取材しました。その犯人がタックスヘイブンを使っていました。それが、私がタックスヘイブン問題に関心を持ったきっかけです。9年前のことです。

 その詐欺事件について本を書いたところ、匿名の人物が事件の情報を含むタックスヘイブンの秘密の電子ファイルを送ってきてくれました。2011年初めのことです。私はオーストラリアでの仕事を辞め、ICIJに来ました。

 私には野心がありました。ICIJはグローバルな調査報道チームであり、タックスヘイブンのようなグローバルな問題に取り組める、と。

 タックスヘイブンは日本、ブラジル、ヨーロッパなど世界中のさまざまな場所とつながりがあります。この種の問題はグローバルに取材しなければならないのです。

 提供された秘密ファイルに基づき、私たちはタックスヘイブンに関する大きな記事を2013年に出しました。

 メディアが忘れがちなことですが、最良の情報源は読者や視聴者です。政府の関係者や広報担当者ではなく、周辺にいる普通の人が、記者が知っている以上のことを知っています。記者がやるべきことは、自分が何に関心があるかを人々に知らせることです。

 それができれば、記事を出すたび、興味深い新たな何かを、その記者に提供してくれる誰かを、見つけられる可能性が高まります。そして、それこそが私たちがいま行っていることです。人々が、私たちを見つけてくれ(情報を提供してくれ)ています。

 タックスヘイブンの売りは秘密性です。だからこそ、その秘密を白日の下に晒(さら)す私たちの報道は、それに大きなダメージを与えています。

 今回のパナマ文書報道で、私たちはなぜ公職者に焦点を当てたのか。それは私たちが義務を負っているからです。ジャーナリストとして、こうした文書を入手することは、公益上の特別な義務を負うことになります。公益に資するために最も簡単で最も良い方法は、公職者に焦点を当てることです。だからこそ私たちは、一連のパナマ文書報道で、政治家やその家族、関係者に重点を置きました。

 ジャーナリストの仕事は記事を出すことです。私たちはおそらく今後も2カ月ほどはパナマ文書の取材・報道を続けるでしょう。

 社会には役割分担があります。私たちの役割は、暴露すべきものを、単純に暴露することです。そして私たちは一歩下がり、その次の段階には関与せず、介入しないようにする必要があります。これから前面に出て、問題にどう対応するかを決める責任は、政府当局や一般の人々にあるのです。

 (聞き手 編集委員・奥山俊宏)

     *

 Gerard Ryle 65年生まれ。アイルランドと豪州で26年にわたって新聞記者や編集者。2011年にICIJの事務局長に就任。


(Media Times) 33面
提携取材、ニュース発掘
      パナマ文書、報道に80カ国400人
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12348132.html

 約80カ国のジャーナリスト約400人が国や報道機関の枠を超えて取り組んだ「パナマ文書」報道。日本からも国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と提携する朝日新聞と共同通信の記者が参加した。どのように膨大な極秘データを共有し、取材に取り組んだのか。▼1面参照

特集「パナマ文書」の衝撃

 ■実態解明、あらゆる手段で

 ICIJの副事務局長からメールが朝日新聞の記者のもとに届いたのは、1月23日だった。

 「新しいプロジェクトに朝日新聞も参加してほしい。タックスヘイブン(租税回避地)が日本を含む世界各地の資金隠しを助けている問題だ」とあった。

 電話で概要を聞き、提携に関する合意書を送った。2月18日、パナマ文書の電子ファイルのデータベースにアクセスできるパスワードが送られてきた。

 ファイルは2・6テラバイト。タックスヘイブンにある21万余の法人の情報が含まれていた。旅券のスキャン画像もあれば、アイスランドの前首相の署名の入った株式譲渡合意書もあった。

 21万余の法人の株主や役員のうち、日本が住所地とされるのは個人と企業で計400余。ICIJがリストにまとめていた。朝日新聞記者らがこれらの住所地を日本語に直し、日本人とみられる相手に手紙を出した。しかし、あて先不明で多くが戻ってきた。

 カリブ海の英領アンギラ島に昨年12月、設立された法人の株主とされる日本人も、そうした一人。住所地となっている北関東の繁華街を記者が実際に訪ねたが、住所は実在しなかった。法人の名をネットで検索すると、「当サイトのカップル成立率は92・4%」との画面が現れた。いわゆる出会い系サイトだった。

 英領バージン諸島に2005年に設立された法人の株主の場合、名前は東京都内にある学習塾の運営会社と同じで、所在地は同社の株主のブライダル会社と同じだった。ブライダル会社の社長は現在、政府に助言をする非常勤の役職も務めている。

 学習塾運営会社にたずねると、「出資の事実はない。勝手に名前が使われたのだろう」との回答だった。ブライダル会社の社長は「何も知らない」と回答。「住所貸しを承諾したこともなく、郵送物が送られてきたこともない」と説明した。

 こうしたなかで、記者たちは、各種のデータベースや住宅地図、登記簿を調べ、関係者の証言を集め、実態の取材を進めた。

 提携では取材データを共有するが、それをどう評価し、報じるかは各社の判断に委ねられている。朝日新聞は共同通信とも情報交換し、資産や利益を租税回避地に移して納税額を減らそうとした人がいたことや、中国進出の際に日本企業であることを隠そうとした美容グループなど中国ビジネス関連での租税回避地利用が多いことなどを報じた。

 ■ネットで情報交換

 ICIJは、非営利の報道機関「センター・フォー・パブリック・インテグリティー(Center for Public Integrity)」の国際報道プロジェクトとして1997年に発足した。



 朝日新聞は12年に最初の提携を結び、「人体組織の闇取引」の記事を紙面に掲載した。当初はインターネットを介してデータベースを共有する技術がなく、分析のために記者がICIJの米ワシントンの事務所まで足を運ばなければならなかった。

 その後、ICIJはシステムを開発。各国の記者が、本国にいながら検索機能つきのデータベースを共有し、フェイスブックのような専用サイトでアイデアや情報、原稿を日々交換している。実際に顔を合わせての会議もあり、14年には朝日新聞からも参加した。

 各国の記者は主に自国の人や企業を取材する。日本については、日本語ができるイタリア人ジャーナリスト2人がICIJの依頼で分析し、暴力団関係者や医科大学教授の名前があることなどを把握した。朝日新聞、共同通信の記者がこれに加わり、ネット電話のスカイプで週1回、会議を開き、情報を交換した。

 (五十嵐聖士郎、編集委員・奥山俊宏)

     *

 Media Times(メディアタイムズ)


2016年5月11日 パナマ文書
税逃れ防止、仕組み次々
      法人名公開
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12349918.html

写真・図版
【図版】税逃れをめぐる国際的な取り組み

 ■ICIJ提携記事

 タックスヘイブン(租税回避地)の実態を明らかにした「パナマ文書」。「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)は10日、21万4千の法人とその株主らの名前や住所を公開した。世界各国は「税逃れ」を防ぐ仕組みづくりを加速させているが、利害を乗り越えて足並みをそろえるのは簡単ではない。

 ■国際対策 G20主導、企業は警戒

 「日本が議長を務めるG7でも、国際的に議論をやっていかないといかん」。パナマ文書が公開された10日、麻生太郎財務相は記者会見でそう強調した。今月開かれる主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議や首脳会議(伊勢志摩サミット)で、税逃れ対策を議論する考えを示した。

 パナマ文書が明るみに出したタックスヘイブンを使った税逃れだが、国際社会がただ手をこまぬいていたわけではない。

 経済協力開発機構(OECD)や主要20カ国・地域(G20)が主導し、対策を打ち出してきた。OECDは2009年、情報公開が不十分な国などを載せた「ブラックリスト」を公表、13年には多国籍企業による租税回避を防ぐ行動計画をつくった。10年から各国が要請に応じて口座情報を交換する制度を始め、17年からは国外に暮らす人の銀行口座などの情報を年1回、自動で交換する仕組みを始める。

 税逃れ包囲網が狭まるきっかけは、08年の世界的な金融危機だった。公的資金の注入で大手銀行・企業が救済されたうえ、国際企業や富裕層がタックスヘイブンを使って課税を免れていることが増税に苦しむ庶民の怒りを買い、各国が取り組まざるをえなくなったのだ。さらに議論を後押ししたのが、パナマ文書だ。今年4月のG20財務相・中央銀行総裁会議では、銀行口座の情報交換を拒む国に対抗措置を取ることなどで合意した。

 取り組みを加速するためには、各国が協調して、国内法の整備や、不公平感を生まないための調整が必要になる。ただ、口座情報を自動で交換する仕組みに参加する101カ国・地域に米国が入っていないなど、足並みがそろっているとは言いがたい。

 規制が強まることに企業側の警戒感も強い。伊勢志摩サミットを前に、G7各国の経済団体が東京で開いた「B7東京サミット」の共同提言には、国別の納税情報の開示をめざす欧州委員会の提案を「国境をまたぐ貿易・投資を阻害する」と盛り込まれた。

 (鬼原民幸、ロンドン=寺西和男)

 ■国内規制 外国高官の送金監視

 タックスヘイブンの不透明な利用実態が明らかになり、市民からも規制強化を求める声が挙がっている。

 4月27日、弁護士や社会活動家でつくる「公正な税制を求める市民連絡会」がパナマ文書の問題を受けて緊急記者会見を開いた。

 作家の雨宮処凜(かりん)さんは、奨学金の返済に窮する若者がいる実態に触れ、「パナマ文書を知ったいま、堂々と『財源はここにある』と言える」と語った。連絡会は、参院選の公約に租税回避への規制を盛り込むよう与野党各党に要請する。

 タックスヘイブンは高い匿名性の影で富裕層などの資産隠しや資金洗浄(マネーロンダリング)の舞台として利用されてきた。日本企業が絡む経済事件でも登場し、オリンパスの粉飾事件や巨額の年金消失が社会問題化したAIJ投資顧問の問題では、ケイマン諸島のファンドが浮上した。

 証券取引等監視委員会の特別調査課長などを務めた佐々木清隆氏は、朝日新聞のウェブサイトへの寄稿の中で「(タックスヘイブンの)解明を進めると、裏には日本の投資家がいると判明することも少なくない」と明かす。

 国際社会では、政府高官など重要な地位にある人物や親族について、収賄や資金洗浄に手を染めるリスクが高いとして監視を強める動きが広がっている。日本では10月から、外国の高官やその近親者らが200万円を超えて送金する場合、金融機関に窓口で年収などを確認するよう義務づける。しかし、国内の人物については対象外だ。

 (錦光山雅子、編集委員・奥山俊宏)


2016年5月11日 パナマ文書
税逃れ対策、G7が文書化検討
      首脳宣言に付す方向
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12349955.html

 「パナマ文書」の問題を受け、日本や米国など主要7カ国(G7)が、26日開幕の首脳会議(伊勢志摩サミット)で租税回避対策を首脳宣言の重要課題と位置づけ、付属文書に盛り込むことを検討していることがわかった。

 G7はマネーロンダリング(資金洗浄)や新興国の汚職対策として、「腐敗対策の行動計画」を付属文書として作成する方針だった。しかしパナマ文書問題が浮上し、国際的な課題となったため租税回避防止の取り組みも合わせて議論する。

 12日には英国主催で30カ国以上が参加する「腐敗対策サミット」がロンドンで開かれ、日本から柴山昌彦首相補佐官が参加する。同サミットでの議論も参考にする。

 (小林豪)


2016年5月11日 パナマ文書
国会で追及へ 民進がチーム
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12349950.html

 民進党は10日、タックスヘイブン(租税回避地)に設立された法人に関する「パナマ文書」について、調査チーム(座長・緒方林太郎衆院議員)を設置した。日本企業や経営者らによる租税回避の実態を調べ、国会などで追及していく構えだ。

 初会合では調査チームの議員が国税庁に対し、公開された文書のリストに記載されていた企業や個人について、税務調査の対象になるかを質問。国税庁の担当者は「一般論として問題があれば対応する」と述べた。

 調査チームは11日にも会合を開いて担当省庁から聞き取りを続けるほか、チームで文書の解明を進めるという。安住淳国会対策委員長は10日の会見で「安倍政権は法人税減税を行ったが、恩恵を受けた企業が租税回避をしていれば、国民にとって割り切れない話だ」と述べ、アベノミクスで恩恵を受けた企業と税の公平性の問題を追及していく考えを示した。