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【心に浮かぶよしなしごと】

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特別編集 トランプ氏の波紋 その五 【 05 】01/25~
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No.1 2017年01月23日 の記事から その一
   (1) トランプ氏に抗議、80カ国470万人  主催団体集計
   (2) (トランプの時代)欧州覆うか「自国第一」  右翼ポピュリズム政党、相乗効果狙い結集
   (3) (トランプの時代)世界秩序、どうなる  各国の識者に聞く
   (4) 反トランプ、国境越え 女性権利団体ら各地でデモ 「抗議しないと間違った方向に」
   (5) (いちからわかる!)ポピュリズムって、どういう政治手法?
   (6) 就任式人数、報道を批判 トランプ氏「150万人いた」
   (7) (ニュースの顔)マイク・ペンスさん 米副大統領に就任した
   (8) 【余滴】米大統領選の教訓 グローバル化、変える時  ピケティ
   (9) 【余滴】米欧同盟を内側から壊す  国際ニュース解説



No.1 2017年01月23日 の記事から その一

(1) トランプ氏に抗議、80カ国470万人  主催団体集計
      一面
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12760692.html

 トランプ米大統領の就任から一夜明けた21日、トランプ氏に対する抗議デモが首都ワシントンや世界各都市で行われた。主催団体は世界約80カ国の670カ所で、約470万人が参加したと主張している。トランプ氏はメキシコとカナダの首脳と電話会談を行ったほか、27日に世界の首脳に先駆けて英国のメイ首相と初会談することも発表した。▼3面=欧州の右翼党首結集、6面=識者の見方、7面=女性ら各地でデモ

 ワシントンでは、トランプ氏の女性蔑視的な発言を批判する団体「ワシントン女性大行進」が主催。ピンクのニット帽をかぶるなどした参加者が連邦議会議事堂の近くに集合。歌手マドンナさんが「革命はここから始まる」と演説した後、2キロほど離れたホワイトハウス近くの広場まで練り歩いた。一部が予定されたコースを外れ、ホワイトハウスを取り囲むように行進。「トランプは出ていけ」とシュプレヒコールを上げた。

 主催側によると、ワシントンには約50万人が集結。全米ではニューヨークやロサンゼルスなどで、世界でもロンドンやパリなどで関連の抗議デモがあった。

 ■米英首脳、27日会談

 ホワイトハウスのスパイサー報道官は21日、トランプ氏が、カナダのトルドー首相とメキシコのペニャニエト大統領とそれぞれ電話会談したと発表した。ペニャニエト大統領とは31日にも会い、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉などについて話し合う見通し。また、27日にはワシントンを訪れる英国のメイ首相と、外国の首脳としては初めてとなる会談を行うことも明らかにした。(ワシントン=峯村健司、五十嵐大介)

(2) (トランプの時代)欧州覆うか「自国第一」  右翼ポピュリズム政党、相乗効果狙い結集
      三面
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12760754.html

 トランプ米大統領の就任による大波が、早くも欧州に及んでいる。今年、重要選挙を迎える欧州連合(EU)各国の右翼ポピュリズム政党が就任式翌日の21日、ドイツに集まり、「エリートでなく、民衆による政治が始まった」と気勢を上げた。掲げるのは、トランプ大統領と同じ「自国第一」だ。▼1面参照

 ■反移民掲げ「次は我々だ」

 21日、ドイツ西部の人口11万の町コブレンツに、欧州各国で「自国第一」を掲げる面々が勢ぞろいした。

 オランダのウィルダース自由党党首やフランスのルペン国民戦線(FN)党首、新興政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のペトリ党首らは、約千人の聴衆を前に「次は欧州の番だ」と言わんばかりだった。

 「エリートが、我々の自由を危険にさらしている」「我々は、我々の国を再び偉大にする」

 ウィルダース氏の発言は明らかにトランプ氏の就任演説を意識していた。ルペン氏は「最初のパンチは英国の民衆が選んだEU離脱。二つ目がトランプ政権。2017年は大陸欧州が目覚める」と宣言した。

 会合は、EU批判を繰り広げる右翼政党が結成した欧州議会の会派「国家と自由の欧州」の主催。相乗効果で支持拡大を図る狙いがあるのは明らかだ。

 各党とも移民制限を主張し、中東やアジアからの難民受け入れへの反対で一致している。ペトリ氏は「政治家やメディアは寛容を口にするが、なぜ普通の人々に聞かないのか。彼らは不安だらけだ」と話した。

 3月に総選挙を迎えるオランダでは、イスラム教への敵意をむき出しにする自由党が、世論調査で支持率トップを走る。フランスでも4月の大統領選第1回投票でルペン氏が首位に躍り出る可能性がある。9月に連邦議会選が予定されるドイツでも、支持率が12~15%のAfDは初の連邦議会入りが確実視される。

 ■メルケル氏批判

 批判の矛先は、欧州の統合を重んじ、難民受け入れに寛容なドイツのメルケル首相に向かう。会場では、党首らの演説に、聴衆がしばしば「メルケルは去れ」と連呼して応えた。

 トランプ政権の発足と右翼政党の高揚で、欧州でも分断と緊張が広がる。

 会場付近では、開催に抗議する約3千人が「開かれた欧州を」と訴えてデモ行進した。ドイツのガブリエル副首相や、ユンケル欧州委員長の出身国ルクセンブルクのアッセルボーン外相ら、いま政治を動かしている側の姿もあった。

 ■政策はそろわず

 「自国第一」や「愛国心」を唱える各党。EUやエリート層への批判で一致はしているが、具体的な政策で足並みをそろえているわけではない。

 訴えも日和見主義的だ。例えばAfDは、ギリシャ危機後の13年に共通通貨ユーロへの反対を掲げて誕生した。だが15年にペトリ氏が実権を握ると、難民危機を受けて反難民、反イスラム色を強めた。

 ルペン氏は「違いを探すことに意味はない」と意に介さなかった。「大義のために集まったのだ。国境を管理して国民を守る。国を愛し、主権を取り返す」

 この日の会合には、ドイツの公共放送など、一部メディアの取材登録が認められなかった。その一人、フランクフルター・アルゲマイネ紙のユストゥス・ベンダー記者は「主催者から『うそを書くのをやめろ。フェアな記事を書け』とのメールが来た」と話した。「彼らは批判的な記事を書くジャーナリストを受けつけない。これも米国と同じだ」 (コブレンツ=高野弦、青田秀樹、吉田美智子)

 ■分断の背景、各国で相似

 トランプ氏は、就任演説で「ピープル」という単語を10回繰り返した。

 「2017年1月20日は、民衆(ピープル)が再び、この国の支配者になった日として記憶される」

 19世紀末の米国で、既成政党に属さない農民運動として「ピープルズ・パーティー(人民党)」が台頭。「ポピュリスト党」とも呼ばれたことからポピュリズムという言葉が生まれた。

 そして今、「ピープル」を強調し、「自国第一」を主張する政治家が、各国で支持を集める。

 トランプ氏らへの支持が広がる背景や世論の動向も、各国で相似形を描く。

 きっかけは2008年のリーマン・ショック後の世界不況だと米ジョージタウン大学のマイケル・カジン教授は説く。不況とともに、大量の移民、格差の拡大、ITによる省力化などで、「自分たちは見捨てられた」と考える人が急増した。

 「政府は経済を統制できず、救済を必要としている国民を助けようともしないと、人々は悟った。既成政治への不安と怒り、叫びこそが、米欧で起きている現象の理由です」

 従来の政党が効果的な回答を見いだせない限り、反既成政治の運動は成長する。一方で、怒りや反発だけで国家を治めることはできない。「ポピュリズム運動が政権を取っても、効果的に統治を行うのが難しい」とカジン教授は言う。

 トランプ氏は、欧州の政治家に先駆けて、現実という試練に向き合うことになる。(ワシントン=真鍋弘樹)

(3) (トランプの時代)世界秩序、どうなる  各国の識者に聞く
      六面
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12760677.html

 「トランプの時代」をどう見るのか。各国の識者に聞いた。▼1面参照

   ■韓国、米中間で難しい選択も 魏聖洛(ウィソンラク)氏(6者協議元韓国首席代表)

 トランプ政権は、同盟を米国の政策目標により強く合わせて運用し、同盟国に以前より多くの貢献を求めるだろう。防衛費の分担金が議論され、在韓米軍の削減や再編が取り上げられる可能性も排除できない。

 南シナ海を巡る対応も以前よりもやや強くなり、同盟国に対する注文も積極的になる素地がある。韓国は難しい選択に直面するかもしれない。韓国は、米国の同盟国として機能すると同時に米中関係が悪化しないようにする役割も果たし、身動きできる空間を探さなければならない。

 韓国でトランプ政権と理念が違う政権が誕生すれば、摩擦が起きる要因が増える。ただ(過去に衝突した)盧武鉉(ノムヒョン)・ブッシュ両政権時代の経験が学習効果として残っており、深く憂慮する必要はないと思う。

 核不拡散問題については伝統的な政策を継承すると思う。韓日の核保有を容認する発言は、大統領選の遊説過程でのハプニングだ。北朝鮮核問題で強力な制裁と圧力を試みるだろうが、交渉による取引の可能性も排除できない。圧力と対話をどう配分するかは、北朝鮮の態度にもよる。

 北朝鮮がトランプ政権初期に挑発する可能性は半々だ。最近、北朝鮮は挑発に傾いている様子を見せているが、トランプ政権の予測不可能性を念頭に当面、見守るかもしれない。挑発すれば、強力な対応が予想されるからだ。

 韓米日の強い協力は、北朝鮮核問題への対応の基本だ。3カ国の協力を基礎に中ロを引っ張り込む努力を同時並行で行うべきだ。

 米国の国益を重視した経済政策は、韓米の経済通商関係に新たな懸案を作り出すことになる。米中間の経済貿易摩擦による余波で、韓国経済が影響を受けるかもしれない。(聞き手・牧野愛博)

 ■南シナ海、米比の協力がカギ ラモン・カシプル氏(政治評論家〈フィリピン〉)

 トランプ氏は歴代の米大統領とは異なり、同盟国の責任を担おうとはしないだろう。「世界の警察」はいなくなった。懸案の南シナ海問題について、もしトランプ氏がこれまで発言してきた通りにことを進めるなら、緊張はさらに増す。

 ただ、必ずしも、発言した通りの行動はしないと思う。トランプ氏は数々の困難な取引を成立させてきたビジネスマンだ。南シナ海問題や「一つの中国」政策などへの強烈な発言は、中国との交渉で強い立場に立つための戦略ではないか。

 一方で、トランプ氏の台湾への対応などを嫌う中国は、そもそも米国と交渉のテーブルにつかない恐れも残る。先行きは不透明だ。

 オバマ前大統領の「麻薬戦争」への批判などをきっかけにぎくしゃくしていた米比関係は、これから順調にいくと期待したい。ドゥテルテ比大統領は、中国やロシアも含めた各国と友好関係を築く「米国から独立した独自の外交方針」を進めると同時に、米国が上位に立つ不平等な関係を改めたいと強調している。問題は、トランプ氏がこれを受け入れるかどうかだ。

 もし米比が対等な関係で議論できれば、ギブ・アンド・テイクの話ができるだろう。フィリピンは南シナ海を含む安全保障面で米国と引き続き手を組むが、その代わりに、米国がフィリピンからの多くの移民に対する圧力を控えめにするなどの交渉ができるはずだ。

 両国の歩み寄りで、南シナ海の危機を緩和できるかもしれない。実はドゥテルテ氏は、トランプ氏に早々に当選を祝う電話をした首脳の一人だ。トランプ氏の悪口も言っていない。オバマ氏に対して吐かれた数々の暴言について、トランプ氏はまったく気にしていないだろう。やり方によって両政権は友人になりうる。(聞き手・鈴木暁子)

 ■親ロシアで反イラン、矛盾 マハ・ヤヒヤ氏(カーネギー中東センター〈ベイルート〉所長)

 トランプ政権が実際にどんな政策をとるのか、慎重に見極める必要がある。言動に矛盾が多く、政策との間に大きな溝が生まれる可能性が高いからだ。

 米国とロシアの協力関係が深まれば、ロシアはシリアだけでなく中東でより大きな影響力を手にする。オバマ政権の時から始まっていたことだが、問題はそれがどう変わるかだ。

 トランプ氏が選んだ政権幹部には、ロシアとの関係強化に懐疑的な人物も複数いる。また彼自身は、ロシアと関係が深いイランに敵対的な態度をとり続けている。親ロシアで反イランという矛盾を、新政権がどう解くのか。

 イランとの核合意は、欧州を含む複数の国の枠組みで実現したものだ。トランプ政権といえども、破棄するのは難しい。むしろ、米国独自の対イラン制裁を継続、強化することの方が現実的なのではないか。

 サウジアラビアなど湾岸諸国との関係も不透明だ。戦略的な同盟関係の再強化が既定路線とみられるが、彼の反イスラム的な言動はこの路線と一貫性がない。

 米国の国益が脅かされかねない時に、トランプ政権がどんな政策を実行するのかという疑問は、中東和平についても言える。トランプ氏はイスラエルの米国大使館をエルサレムに移すと主張する。娘婿で上級顧問となるクシュナー氏や、駐イスラエル大使に指名された人物は親イスラエルの急進派だ。

 だが、エルサレムはイスラム教徒にとって重要な聖地でもある。大使館の移転は、これまで議論されてきた「2国家共存」の枠組みの崩壊を意味するだけでなく、全世界のイスラム教徒を敵に回すことになる。

 トランプ政権で誰が政策決定に影響力を持つのか。共和党などからの「アドバイス」をはねのけられるのか。予断を許さない。(聞き手・渡辺淳基)

 ■NATO批判、欧州への脅し レスリー・ベンジャムリ氏(英王立国際問題研究所研究員)

 トランプ氏の重要政策は多くが一貫していない。英国との二国間関係の強化を掲げる一方で、北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」と批判した。

 だが、欧州連合(EU)から離脱する英国にとってNATOの重要性はこれまで以上に高まっている。欧州の安全保障は米国の役割に依存しており、NATOはそのよりどころだ。

 歴代の米大統領でNATOを軽視した人はいなかった。米国は今後もNATOにとどまるだろうが、トランプ氏の言葉遣いからは、安全保障と引き換えに欧州により多くの貢献を求める言外の脅しが感じられる。

 英国は欧州と米国をつなぐ要になり、影響力を増幅させてきた。米英の「特別な関係」は今後も続くだろうが、その土台や価値観、方向性は今後、変わる恐れがある。

 今後、米英がリーダーシップを発揮することは可能だろうか。不幸なことに、現在の米英はどちらも主権国家としての国益に重きを置き、世界を率いるリーダーシップを欠いている。

 メイ首相も「グローバルな英国」を旗印にするが、世界と貿易をしたいという以上には受け取れない。人権問題や難民危機など、世界的な問題解決に影響を与える役割を果たそうという戦略が感じられない。

 トランプ氏の関心の的はロシアのプーチン大統領だ。米ロ関係を変えられれば、核軍縮にもつながると考えている。トランプ氏にとっては、英国よりもロシアの方が有益な結果をもたらす存在なのだ。

 英国は、もはや米国だけに世界の安定を頼ることはできない。今後、英国が世界に存在感を示すには、離脱後もEUと可能な限り緊密な関係を保ち、中国やインドなど新興国との戦略的関係を重視すべきだ。(聞き手・渡辺志帆)

 ■西側分裂なら中国の時代に ノルベルト・レットゲン氏(ドイツ連邦議会外交委員長)

 トランプ氏の世界観は米国の経済的利益にのみ焦点が置かれ、他国はすべて競争相手だ。欧州連合(EU)が崩壊しても構わないというのも、欧州各国に対して経済交渉を有利に運べるという極めて短絡的な視野に立っている。EUが戦後、平和と安全保障に寄与してきたという事実には関心がないようだ。

 ドイツ人として、欧州人として受け入れられない。私たちは西側の結束のために闘わなければならない。さもなければ、グローバル化時代の世界を形成する役割をやがて、中国に明け渡すことになる。

 トランプ氏は、欧州に流入する難民に「不法」とレッテルをはり、ドイツの難民政策を「壊滅的な過ち」と批判する。だが、彼らは生き延びるために保護を求めてやってきた。見て見ぬふりはできない。困難も伴うが、この問題で私たちが信じる価値観を世界に示せなくなった時、本当に「壊滅的」な状況が生まれる。

 トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」と批判する。だがNATOなしには、欧州の平和と安全はなかった。トランプ氏が後ろ向きの態度を示すのは、ドイツにもっと軍事費を負担させるための戦略だろう。

 ロシアのクリミア半島併合とウクライナへの軍事的関与は国際法に違反し、受け入れられない。トランプ氏は制裁解除も検討しているようだが、私たちはウクライナ問題にこだわる。米国が制裁を解除すれば西側は分裂し、弱体化する。

 トランプ氏の就任で、自国のアイデンティティーのためにEUを離脱するべきだという欧州の右翼は勢いづくかもしれない。しかし、グローバル化の時代に世界で重要な存在であり続けるためには、西側は結束しなければならない。(聞き手・高野弦)

(4) 反トランプ、国境越え 女性権利団体ら各地でデモ 「抗議しないと間違った方向に」
      七面
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12760719.html

 米国の首都ワシントン中心部が21日、ピンク色のニット帽などを身につけた人々で埋め尽くされた。トランプ大統領の就任に抗議を示すデモは首都から全米、世界へと広がった。▼1面参照

 今回のデモは女性の権利を訴える団体が呼びかけ、性的少数者、障害者の権利向上、人種差別撤廃、環境保護などに取り組む人々も加わり、想定を上回る50万人規模に膨れあがった。

 全米各地でもデモが開かれたが、「首都で抗議の姿を示したい」として、わざわざ地方から駆け付けた人が目立った。

 元小学校教諭ローレイン・ベネットさん(60)は米北東部バーモント州から車で9時間かけて来た。

 「幼少期、私は声をあげることができなかった」と自らの体験を書いたプラカードを掲げた。虐待で心を病み、酒や薬物をやめられなくなったが、子どもを授かり、やっと暮らしを立て直すことができたという。

 大統領選中に暴露された、トランプ氏が女性への性的行為を自慢する言葉が脳裏を離れない。「女性は権利を少しずつ獲得してきた。暴力を言いふらす人物が大統領になったことが恐ろしい。抗議の声をあげないと国が間違った方向に進む」と涙を流して語った。

 建設業界で男性の半分の給料で同じ仕事をしていたというエミリー・パットナムさん(42)=サウスカロライナ州=は米国が歴史を逆向きに歩み出すことへの懸念を口にした。「ますます男性優先の社会になるのではないか。2人の娘のためにも妥協できない」

 ■社会の「分断」象徴

 社会保障政策の行方を懸念する人も目立った。医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃に向けた大統領令に署名しながら、具体的な代替案を示していないことが原因だ。

 ニューヨーク州のコンサルタント、スティーブ・ディーンさん(28)は「トランプ氏の行動は私と家族を苦しめる」。

 デモで目立ったのが、公民権運動への貢献で知られる黒人女性の詩人マヤ・アンジェロウの詩だった。

 あなたの言葉で私を撃ちなさい(You may shoot me with your words,)
 視線で私を切りつけなさい(You may cut me with your eyes,)
 憎しみで私を殺しなさい(You may kill me with your hatefulness,)
 それでも空気のように私は立ち上がる(But still,like air,I'll rise.)

 トランプ氏は選挙後、かつて盛んだった製造業がさびれてしまった「ラストベルト」(さび付いた地帯)の白人労働者からの絶大な支持を受けて勝利したことなどを念頭に「ムーブメントは続く」と胸を張った。一方、今回の抗議デモの広がりで、社会の「分断」を象徴するかのように別のムーブメントも動き出した。

 主催団体はウェブサイトで、関連の抗議デモは、世界約80カ国の約670カ所で、約470万人が参加した(日本時間22日午後8時現在)と集計している。(ワシントン=金成隆一)

(5) (いちからわかる!)ポピュリズムって、どういう政治手法?
      二面
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12760722.html

 ■願望・不満…感情に訴え体制批判(ひはん)。政策実現性に疑問も

 コブク郎 米大統領になったトランプ氏の言動が「ポピュリズム」と言われているね。どういう意味?

 A 人々の願望や不安、不満に働きかけて人気を集め、これまでの体制を変えようとする政治思想や運動だ。20世紀には、貧富(ひんぷ)の格差が大きい中南米諸国(ちゅうなんべいしょこく)などで広がった。それが21世紀の今、成熟(せいじゅく)した民主主義(みんしゅしゅぎ)国家とされてきた先進国でも広がっている。英国が国民投票(こくみんとうひょう)で欧州連合(おうしゅうれんごう)(EU)離脱(りだつ)を選んだのもポピュリズムの表れだとされている。

 コ どうして先進国で広がっているの。

 A グローバル化や技術の進歩で中間層(ちゅうかんそう)が減り、一握りの富裕層(ふゆうそう)とそれ以外で格差が広がっていることが大きい。2008年のリーマン・ショックの後、その流れが強まった。また、インターネットの普及(ふきゅう)で、指導者と人々が直接つながれるようになった。

 コ でも、みんなの声に応えて、政治に反映させるのが民主主義でしょ。

 A グローバル化の中、主要政党(しゅようせいとう)は、右派も左派も、経済(けいざい)や社会福祉(しゃかいふくし)の政策の幅が狭まっている。ポピュリズム政党は、それを「少数のエリートのための政治だ」と批判(ひはん)して支持を伸ばした。とはいえ、これまでの政治が、人々の不安や不満に十分対応できていなかったことは確かだ。それに気づかせ、政治に緊張感(きんちょうかん)をもたらしたという点では、民主主義が機能(きのう)したとも言える。

 コ だったら、ポピュリズムの何が問題なの。

 A 感情に訴える手法なので急進的(きゅうしんてき)な訴えが多く、政策が実現できるか疑わしい。指導者個人の人気を背景にしていて、議会など三権分立(さんけんぶんりつ)を軽視しがちだ。

 コ 危なっかしいね。

 A 誰かを「敵」とみなして、対話より対決を選ぶスタイルなので、社会に分断(ぶんだん)を生みかねない。自らに批判的なメディアを敵視(てきし)する姿勢も共通している。(江渕崇)

(6) 就任式人数、報道を批判 トランプ氏「150万人いた」
      七面
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12760715.html

 トランプ大統領は21日、米中央情報局(CIA)本部を訪れ、職員を前に演説した。就任前にささくれ立ったCIAとの関係修復が狙いとみられるが、本題から外れ、メディアが前日の就任式の聴衆規模を小さく見せたと執拗(しつよう)に批判した。

 トランプ氏は「超満員だったのに、あるテレビは人がいない場所を映した。『ドナルド・トランプがあまり人を集めなかった』と言った」と批判。「大きな代償を払うことになるだろう」と威嚇した。

 トランプ氏は、就任演説をした連邦議会から約2キロ離れたワシントン記念塔まで聴衆で埋まったとし、「150万人いたように見えた」と主張した。米当局が事前に推定した来訪者は最大90万人で、2009年のオバマ前大統領就任時の180万人の半分だった。複数の米メディアが、オバマ氏の時と今回の就任式を同じ角度から撮影した写真を並べて報道。今回は明らかに人が少なく、トランプ氏は気に入らなかったとみられる。

 また、トランプ氏はCIAについて「全面的に支援する」と歩み寄る姿勢を強調。トランプ氏はこれまで、ロシアによる大統領選の介入問題でCIAなどの分析に疑問を呈し、批判。自身の「不名誉情報」疑惑を巡っては米情報機関を「ナチス・ドイツ」呼ばわりした。この日は「今、私はメディアと戦争をしている。彼らは私が情報機関と不仲に見えるようにした。全く逆だ」とここでも矛先をメディアに向けた。(ワシントン=杉山正)

 ■報道官は会見打ち切る

 ホワイトハウスのスパイサー報道官は21日、初の記者会見を開き、「就任式の熱狂を減少させようとの試みは恥ずべきで、間違っている」とかみついた。「虚偽」と決めつけながら、その根拠も示さぬまま、記者の質問にも答えず一方的に打ち切った。(ワシントン=佐藤武嗣)

(7) (ニュースの顔)マイク・ペンスさん 米副大統領に就任した
      七面
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12760713.html

 ■マイク・ペンスさん(57歳)

 下院議員やインディアナ州知事を務めたベテランで、政策に精通している。政治経験がないトランプ大統領に代わり、政策のとりまとめをしていく。経営者から軍人まで多彩な顔ぶれの閣僚を調整する手腕も問われそうだ。

 「まずキリスト教徒であり、次に保守であり、共和党員だ」。ペンス氏は自らをこう紹介するように、熱心なキリスト教徒で、福音派(エバンジェリカル)と呼ばれる宗教右派からの信頼が厚い。インディアナ州知事時代、同性愛者らを事実上差別する条項を盛り込んだ法律を成立させた。

 弁護士出身で、地元でラジオ番組の司会者などを経て、2001年から下院議員を6期12年務めた。13年から知事に転じ、来日して日系企業の誘致に力を入れた。副大統領就任が決まってからは、トランプ氏と共和党内主流派との亀裂の修復に腐心した。政権移行チームの執行委員長として、幹部人事選びや政策の立案を取りまとめた。保守系シンクタンク幹部は「ペンス氏は特に外交・安全保障の分野に詳しく、実質的な責任者の役割を担う」とみる。

 カレン夫人との間に3人の子どもがいる。(ワシントン=峯村健司)

(8) 【余滴】米大統領選の教訓 グローバル化、変える時  ピケティ
      ピケティコラム@ルモンド 2016年11月23日
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12671539.html

 まずはっきりさせておこう。ドナルド・トランプ氏が勝った要因は、何をおいても経済格差と地域格差が爆発的に拡大したことにある。何十年も前から米国で進むこの事態に、歴代の政権はしっかり対処してこなかった。市場を自由化、神聖化する動きはレーガン政権で始まり、ブッシュ親子に引き継がれた。クリントン政権、そしてオバマ政権も、ともすればこの流れに身を任せることしかできなかった。それどころか、クリントン政権下の金融と貿易の規制緩和は、事態を悪化させる結果となった。

 さらに、金融業界との親密ぶりでヒラリー・クリントン氏に向けられた疑惑のまなざし、民主党とメディアのエリートたちの無能ぶりがダメ押しとなった。民主党執行部は予備選でバーニー・サンダース氏に投じられた票から教訓を引き出せなかった。本選の得票数はクリントン氏が辛うじて上回っている(有権者約2億4千万人に対し、クリントン氏6231万票、トランプ氏6116万票=11月15日現在)。しかし最若年層と低所得層の投票率が低すぎ、勝敗を左右する州を制するに至らなかった。

 何より悲惨なのは、トランプ氏の政策によって、不平等が生じる傾向がひたすら強まることだ。現政権が苦労して低所得層にあてがったオバマケア(皆保険制度)を廃止し、企業の利益にかかる連邦法人税率を35%から15%に引き下げるという。米国はこれまで、欧州で始まった、企業を国内につなぎ留めるための際限なき減税合戦に持ちこたえてきたのに、財政上のダンピングに巻き込もうとしているのだ。

 米国内の政治的対立はいよいよ民族問題の色を濃くし、新たな妥協点が見いだされない限り未来は見通せなくなっている。多数派である白人の6割がある政党(共和党)に投票し、黒人やヒスパニックといった少数派の7割超が別の党(民主党)を支持する構造の国なのだ。しかも、多数派の数的優位は失われつつある。2000年に投票総数の8割を占めていた白人は今回7割、2040年までに5割になる見通しだ。

    *

 欧州が、そして世界が、今回の米大統領選の結果から学ぶべき最大の教訓は明らかだろう。一刻も早く、グローバリゼーションの方向性を根本的に変えることだ。今そこにある最大の脅威は、格差の増大と地球温暖化である。この二つを迎え撃ち、公正で持続可能な発展モデルを打ち立てる国際協定を実現しなければならない。こうした新たな形の合意でも、必要なら貿易促進につながる措置をとることはできる。ただこれまでのように、取り決めの中心が貿易自由化であってはならない。貿易は本来あるべき姿、つまりより高次の目的を達成するための手段でなければいけない。

 関税その他の通商障壁を軽減するような国際合意は、もうやめにしないか。法人減税などによる財政ダンピングや、環境基準を甘くして生産コストを下げる環境ダンピングに対抗すべく、強制力のある数値規定をあらかじめ協定に盛り込んでおくべきだ。例えば法人税率の下限や、罰則を伴う二酸化炭素(CO2)排出量の確固たる目標値を定めよう。なんの対価もない貿易自由化交渉など、もはやあってはならない。

 この観点からは、10月末に調印された欧州連合(EU)とカナダの包括的経済・貿易協定(CETA)は時代遅れで、破棄すべきだ。内容が貿易に限られ、財政面でも環境面でも拘束力を伴った方策はない。そのくせ「投資家の保護」のためにはあらゆる手立てが講じられ、多国籍企業は国家を民間の仲裁機関に訴えられるようになる。開かれた公の法廷を回避できるわけだ。

 中でも調停員の報酬という重大な問題はこのままでは制御不能となろう。法的手続きにおける米国の帝国主義がますます強まり、米国のルールと義務を欧州企業に押しつけることになる。このタイミングで司法を弱体化させるなど常軌を逸している。優先すべきはその逆で、強力な公的機関を立ち上げ、その決定を守らせる力を持つ欧州検察庁のような組織を創設することだ。

    *

 地球温暖化をめぐるパリ協定の締結で、平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるという建前的な目標に署名したことにどれほどの意味があろう。これでは土壌中の温室効果ガスは放置される。例えば、カナダはアルバータ州のオイルサンド採掘を再開したところだが、石油を抽出する過程で温室効果ガスが放出される。カナダはパリ協定に署名した数カ月後に貿易協定(CETA)を結んだが、温暖化対策にまったく触れない協定に意味はない。カナダと欧州が、バランスのとれた、公正で持続可能な発展に基づくパートナーシップを推進すると言うなら、双方のCO2削減目標と、達成する具体策をはっきりさせるべきだ。

 EUは、共通の財政政策を持たない自由貿易圏として作り上げられており、財政ダンピングへの対処と、法人税率の下限設定は、パラダイムの完全な転換になるだろう。しかしこの変化は避けて通れない。課税については若干前進しているが、課税の共通基盤に合意できても、各国がゼロに等しい法人税率であらゆる企業の本社を誘致するのなら、合意の意味はないに等しい。

 今こそ、グローバリゼーションの議論を政治が変えるべき時なのだ。貿易は善であろう。しかし、公正で持続可能な発展のためには、公共事業や社会基盤、教育や医療の制度もまた必要なので、公正な税制が欠かせない。それなしでは、トランピズム(トランプ主義)がいたるところで勝利するだろう。

(9) 【余滴】米欧同盟を内側から壊す  国際ニュース解説
      田中 宇 2017年1月20日
      http://tanakanews.com/170120useuuk.php

 今回も拙速なので要約なしです。最近まで、米国と、英独仏などの欧州諸国は、リベラルな社会体制と民主主義の政治体制、自由貿易の経済体制を共通の理念として持つ米欧同盟であり、この同盟体が、世界で最も豊かで強い集団であり、人類を主導してきた。NATOやG7は、米欧同盟を体現する国際組織だった。テロ戦争に名を借りたリベラル体制の規制や中東での相次ぐ濡れ衣戦争、自由貿易の世界体制を維持するための機関だったWTOに対する軽視など、米国が米欧同盟をゆるがす動きがあったものの、欧州諸国は米国に従属する関係を重視し続け、同盟が維持されてきた。 (Donald Trump: I’ll do a deal with Britain) (トランプの経済ナショナリズム)

 しかし、11月の米大統領選挙でのトランプの当選で、事態は一気に不透明になった。そしてトランプは、大統領就任が近づいた今週、英国のサンデータイムスと、ドイツのビルトという2つの新聞に書かせたインタビュー記事で、欧州諸国を相互に分断する方向の発言をさかんに行い、米欧同盟を内側から壊す策を強めている。2つのインタビューで顕著なことは、ドイツのメルケル政権に対する酷評と、それと対照的に、英国に対する経済面の厚遇(米英2国間の貿易協定の締結)という、独英への態度の大きな違いだ。トランプは、選挙期間中にも発していた、NATOを「時代遅れ」と批判する発言も繰り返している。 (NATO, Russia, Merkel, Brexit: Trump unleashes broadsides on Europe

 トランプは、EUを「ドイツのための組織」と言い切り、英国がドイツのための組織であるEUから離脱したことは、国家主権を守る良い選択だと、昨年6月の国民投票で決まった英国のEU離脱を称賛している。今後、EUに加盟する他の諸国も、国家主権の維持のため、相次いでEUから離脱するだろうとの予測も発している。 (Trump interviews: what he said about Brexit, Putin, Israel, Syria ... and Twitter

 EUがドイツが主導して他の加盟諸国の国権を剥奪する組織であるのは事実だ。だが同時に、冷戦後のドイツにEUを作らせたのは米国だ。米国の指導者が、EUをドイツのための組織だと暴露発言してしまうのは画期的だ。トランプは、英国を筆頭とした加盟諸国のEU離脱を鼓舞し、かつて米国自身が後押ししたEUを壊そうとしている(表向き、EUがどうなるか、崩壊するか延命するかに関心がないと言いながら)。 (Trump Slams NATO, Floats Russia Nuke Deal in European Interview) (Donald Trump takes swipe at EU as ‘vehicle for Germany’

 トランプは、英独紙へのインタビューで、ドイツとEUは、シリアなどからの移民を大量に受け入れたメルケル首相の政策の失敗のせいで、ひどいことになっているとメルケルを批判した。また、ドイツ車は高性能だが、ドイツが米国に自動車を売ることに関して米国側の利得が少なすぎる(だってドイツ人はGMシボレー買わないだろと発言)、メキシコや欧州から米国に完成車や部品を輸出するBMWに35%の関税をかけるかもしれない、と保護主義な発言も放った。 (In Stunning Pair Of Interviews, Trump Slams NATO And EU, Threatens BMW With Tax; Prepared To "Cut Ties" With Merkel

 これに対し、ドイツのガブリエル副首相は、もし米国がもっといい自動車を作れるようになったらドイツで売れるだろう(ひどい車しか作れないのに他国のせいにするな)とか、欧州の移民問題の原因は米国がシリア内戦やリビア破壊など中東政策で失敗し続けたからだ(まず米国自身のひどい中東戦略を自己批判しろ)と発言し、トランプを逆批判した(米国のトランプ支持のブログは、米国のひどい中東戦略はトランプの敵であるオバマやヒラリークリントンがやったことだと指摘)。 (Germany Slams Trump Criticism: Urges US To "Build Better Cars", Accuses Washington Of Causing Refugee Crisis

 ガブリエル(Sigmar Gabriel)は左派政党SPDの党首で、今は右派CDUのメルケルと連立政権を組んでいるが、今夏の独総選挙ではメルケルのライバルとなる。SPDは、ドイツ人の反米ナショナリズムを煽って選挙に勝とうとしているようだ。トランプは、ドイツの左派に喧嘩を売り、極右(AfDなど)にはEU離脱やリベラル社会を壊せと鼓舞し、ドイツ左右両極の反米ナショナリズムを扇動している。一方で中道右派のメルケルは、自由貿易とリベラル社会を守るための長い戦いをすると宣言したものの、トランプと同じレベルでの喧嘩を避けている。 (Merkel Says She Is Ready To "Fight A Generational Battle" With Trump To Preserve Liberal Democracy And Trade) (German vice-chancellor Sigmar Gabriel says break-up of EU no longer 'unthinkable')

 今夏の独選挙は、メルケルの勝算が意外と高いようだが、メルケルが勝ったとしても、ドイツ全体が対米自立していく傾向が加速する。トランプは、ドイツを対米従属から押し出し、米国のライバル国に押し上げようとしているかようだ。EUやユーロは今後しばらく破綻色が増すだろうが、ドイツが欧州最強の国であることは変わらないので、いずれドイツを中心にEUや通貨統合が縮小版として再生されていく。やがて生まれ変わるEUは、従前のEUと異なり対米従属でなく、自分らの国益を最優先にするだろう。ドイツは米英に気兼ねせず、勝手にやり出すようになる(今まで謙虚すぎた)。時代遅れなNATOを代替し、ドイツ中心の欧州軍事統合も進む。トランプは、ドイツやEUを多極化(対米自立)させている。 (How Angela Merkel divided Germany) (欧州の難民危機を煽るNGO) (英離脱で走り出すEU軍事統合)

▼米国との貿易協定で急に強気になった英国

 トランプは、ドイツを自国のライバルに仕立てる一方で、英国を自国の「裏返った同盟国」にしようとしている。従来の米英同盟は、戦後世界の米国覇権体制を運営する(英国が米覇権の黒幕になる)ためのものだったが、今後の「裏返し同盟」は、米国側が主導するこれからの覇権体制の転換に英国が協力して国益を得るためのものだ。従来の英米同盟は反ロシアだが、今後のは親ロシアになっていく。従来はエリート支配だったが、今後は草の根の政治力を動員するポピュリズムだ(メイ首相は昨年10月の演説で、保守党のくせにエリートを非難し、労働者や中産階級のための政権だと言って大転換した)。米国は911以来、英国と疎遠にする姿勢を強めていたが、トランプになって米英ともに裏返った状態で再同盟しようとしている。昨年6月の英離脱投票は、米国の反エリート運動に飛び火してトランプ当選につながり、さらに米英裏返し同盟として英国に影響している。英米はこの2百年間、異なる位相で相互に影響を与え続ける共振関係だった。 (Trump's (and Putin's) Plan to Dissolve the EU and NATO) (多極派に転換する英国)

 トランプは、就任後できるだけ早くメイ首相に訪米してもらい、米英2国間の貿易協定を結びたいと言っている。すでに露払いとしてジョンソン外相が訪米してトランプと会った。英国の事実上の駐米大使であるナイジェル・ファラージ(EU離脱運動の指導者)によると、貿易協定は3カ月以内に結ばれる。トランプは、急いで米英貿易協定を結ぶことで、フランスやイタリアなどEU加盟各国の離脱運動を加勢している(EUを離脱すると米国と2国間協定を結べるぞとけしかけている)。 (Trump says Brexit to be 'a great thing', wants quick trade deal with UK)

 メイ政権は、今年3月までに離脱を正式にEUに申請し、離脱後の英EU関係を決める交渉に入るが、米英協定の内定により、英国は米国を自国製品の特別な市場として持つ見通しが立ち、EUとの交渉におけるメイの立場が急に強くなった。メイは、1月17日の演説で「EUと交渉しても、中途半端な協定しか結べないなら(対欧輸出が高関税になる)無協定の方が良い」と宣言した。他の加盟国の離脱を防ぎたいEUが、英国を見せしめ懲罰するための厳しい交渉姿勢を変えないなら、英国は経済的にEUから締め出される。それでかまわないとメイは宣言した。 (Theresa May says UK to leave EU single market after Brexit)

 対EU輸出は、英国の輸出全体の半分を占めており、たとえ米国に無関税で輸出できるようになっても、それで代替しきれず、英経済は悪化する。だが、今後EUの解体色を増すほどEU側の混乱も大きくなる。もし英国がEUに残っていたら、EUからの悪影響を経済・政治・社会の全面で受け、もっとひどいことになっていたはずだ。EUの状況悪化によって、英国の離脱は「悪い判断」から「良い判断」へと変質している。これぞ国際政治のダイナミズムだ。今のEU崩壊は、昨夏の英国の離脱決定が引き起こした部分が大きく、今起きていることは英国の自作自演ともいえる。今回のメイの演説は、英国の支配層がEU離脱か残留かで内紛していた時期が終わって離脱でまとまったことを意味している感じだ。 (英国の投票とEUの解体) (英国が火をつけた「欧米の春」)

 英国のハモンド財務相は、EUが懲罰的な態度を改めず無協定になった場合、英国は、これまでの欧風な福祉社会の国家体制を放棄し、法人税などを大幅に引き下げて欧州沖の「タックスヘイブン(租税回避地)」に変身(シンガポール化)し、EUから企業立地や投資を横取りしてEUの税収を激減させてやると最近宣言した。タックスヘイブンは、大英帝国が発明した「国際闇金融システム」で、英国の影響圏や航路が他の大国と接する海域の英国支配地の島(英仏海峡のチャンネル諸島、地中海のマルタやキプロス、米国周辺のバミューダやケイマンなど)に作られてきた。それが今や、英国本体がタックスヘイブンになる構想を、英国の財務相が表明する事態となっている。この表明が、本気なのか脅し文句に過ぎないかはわからないが、英国の支配層が何を考えているか考えるうえで興味深い。 (タックスヘイブンを使った世界支配とその終焉) (タックスヘイブン潰しと多極化)

 トランプとドイツの強まる敵対の中で、揺れているのがフランスだ。今年5月の仏大統領選の有力候補の一人である「極右」のマリーヌ・ルペンは最近訪米し、トランプタワー内のアイスクリーム屋で男たちとお茶しているところを写真に撮られている。ルペンはトランプ陣営と会ったに違いないと報じられたが、トランプとルペンの両側が会合を否定した。お茶だけしに行ったのか??。そんなはずはない。 (Le Pen seen but not heard at Trump Tower) (Marine Le Pen In New York For Unexpected Visit, May Meet Trump)

 一方、仏大統領のもう一人の有力候補である中道右派のフランソワ・フィヨン(カトリックのナショナリズムを信奉)は、1月23日にドイツを訪問してメルケルと会い、経済や安保に関するEUの再編について話し合う予定と報じられている。フィヨンは、米英がEUから疎遠になった今こそ、EU(つまり独仏)が利害を再調整して強化する好機だと言っている。メルケルは、EUやユーロを離脱すると宣言しているルペンを敵視し、独仏でEUを再編しようと言っているフィヨンを応援し始めている。フランスは、5月の大統領選でルペンが勝つとトランプ陣営に、フィヨンが勝つとメルケル陣営(もしくはメルケルとトランプの橋渡し役)に入る。 (French presidential candidate Fillon says will outline EU plans to Merkel) (Fillon: The frontrunner for the French presidency's world view) (Is Liberal Democracy an Endangered Species?)

▼トランプが捨てた自由貿易世界体制の守護者になる習近平

 1月17日-20日にスイスでダボス会議が開かれたが、トランプ陣営は誰も参加しなかった。トランプは、ダボス会議に招待されるような国際エリートたちを敵視するポピュリズムを使って権力を得ており、不参加は自然な動きだ。オバマ政権からはバイデン副大統領が参加し、プーチンのロシアが自由主義の世界体制にとっての最大の脅威と非難し、ロシアの脅威から欧米を守るNATOが重要だと表明して、親プーチン・反NATOなトランプを攻撃する演説を行った。ダボス会議は、トランプを敵視する「自由主義」陣営の集まりと化している。 (Trump Team Will Not Attend Davos: "Would Betray Populist-Fueled Movement") (Biden Lashes Out at Trump Over Comments on NATO) (Biden calls Russia biggest threat to international order)

 そんな今年のダボス会議で最も注目を集めたのは、バイデンでなく、中国の習近平主席だった。中国首脳のダボス参加は初めてだ。習近平は演説で、自由貿易の世界体制や経済のグローバル化を守っていこうと世界に呼びかけ、保護貿易的な言動を繰り返して中国との貿易摩擦を煽るトランプを、名指ししないかたちで批判した。自由貿易やグローバリゼーションに対する支持を世界に呼びかけるのは、もともと覇権国である米国の首脳に期待されていた言動だ。それが今や、米国首脳になるトランプが、自由貿易をないがしろにして、自由主義経済を信奉するエリート会であるダボス会議にも出てこない。自由貿易や自由主義経済を賛美して支持を呼びかける世界的な主役は、ダボス初参加の習近平に取って代わられてしまった。 (Xi Jinping delivers robust defence of globalisation at Davos) (Trump could be the best thing that’s happened to China in a long time) (中国の台頭容認に転向する米国) (見えてきたトランプの対中国戦略)

 トランプは就任後にTPPを破棄しそうだが、TPPに代わってアジアの貿易体制として席巻しそうなのが、中国主導のRCEP(中日韓+ASEAN+印豪Nz)だ。ダボスの発言だけでなく、アジアの現場においても、貿易体制の守護者は米国から中国へと交代しつつある。この交代劇を引き起こしているのはトランプだ。中国が米国から覇権を強奪しているのでなく、米国が捨てた覇権を中国が拾っているだけだ。覇権は強奪されて遷移するものでなく、押し売りや廃品回収や「ババ抜き」によって遷移していくものになっている。 (アジアFTAの時代へ) (多極化とTPP) (行き詰まる覇権のババ抜き)