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特別編集 トランプ氏の波紋 その八 【 08 】01/27~
就任後 【 06 】
No.4 2017年01月24~25日 の記事から (その四)
(5) トランプ革命の檄文としての就任演説 国際ニュース解説
⑦(911十周年で再考するテロ戦争の意味)
⑧(トランプのポピュリズム経済戦略)
⑨(米英覇権を自滅させるシリア空爆騒動)
⑩(アメリカの戦略を誤解している日本人)
⑪(ますます好戦的になる米政界)
⑫(潜水艦とともに消えた日豪亜同盟)
⑬(覇権の起源)
⑭(ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
⑮(トランプと諜報機関の戦い)
⑯(得体が知れないトランプ)
⑰(偽ニュース攻撃で自滅する米マスコミ)
⑱(まだ続く地球温暖化の歪曲)
再掲
(5) トランプ革命の檄文としての就任演説 国際ニュース解説
田中 宇 1月24日
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12763586.html
まず書こうとすることの概要。トランプは米国と世界に巨大な転換を引き起こそうとしている。全体像が膨大で分析が間に合わないので、とりあえず今回はトランプの大統領就任演説を分析する。演説は、米国を支配してきたワシントンDCのエリート層による支配構造をぶちこわせと米国民をけしかけている。トランプは米大統領という、支配層のトップに入り込んだのに、その地位を使って支配層を壊そうとしている。これは革命、クーデターだ。支配層の一員であるマスコミは、就任演説を否定的にとらえ、趣旨をきちんと報じない。リベラル派は反トランプ運動を強めている。おそらくトランプ陣営は、意図的に対立構造の出現を誘発している。概要ここまで。以下本文。 ①(Donald Trump inauguration speech: Read the full transcript)
ドナルド・トランプが米大統領に就任した。彼は、米国と世界の政治・経済・社会状況に、大きな転換をもたらしそうだ。昨春に彼が有力候補になって以来、私は彼について何本も記事を書いてきた。最近の私は「トランプ情勢分析者」になっている。それほどに、彼は国際情勢の巨大な転換役となる感じがする。米大統領という、人類の覇権体制の中枢を占めた彼が、どんな戦略に基づいて、何をどこまでやれそうか、何を破壊して何を創設するのか、どこからどんな敵対・妨害・支援を受けるのか、全体像が膨大だし、曖昧・未確定・未言及な部分が多いので、読み込みや分析が追いつかない。とりあえず今回は、トランプが1月20日に発した大統領就任演説の分析をする。 ②(トランプの経済ナショナリズム) ③(米国民を裏切るが世界を転換するトランプ) ④(世界と日本を変えるトランプ)
就任演説を読んでまず驚くのは「ずっと前から、ワシントンDCの小集団・エスタブリッシュメントだけが儲け、あなたたち米国民は失業や貧困にあえいでいる。だが今日からは違う。米政府はあなたたち米国民のものだ。(トランプが主導する)この運動は、米国の国家を(エスタブ小集団の支配から解放し)、米国民のための存在に変えるためにある」と明言し、米国民に対し、エスタブ小集団を権力の座から追い出すトランプの運動に参加するよう呼びかけていることだ。 (The Following Words Had Never Appeared In An Inaugural Address, Until Today) (Donald J. Trump takes the helm. What happens now?)
For too long a small group in our nation's capital has reaped the rewards of government while the people have borne the cost. Washington flourished but the people did not share in its wealth. Politicians prospered but the jobs left and the factories closed. The establishment protected itself but not the citizens of our country. That all changes starting right here and right now because this moment is your moment. It belongs to you. At the centre of this movement is a crucial conviction – that a nation exists to serve its citizens. (Donald Trump’s full inauguration speech transcript, annotated)
米大統領は、米国を支配するワシントンDCのエスタブ小集団のトップに立つ地位だ。トランプは、自分がその地位に就いたのに、就任式の演説で、自分がトップに立つ支配体制をぶち壊したいので協力してくれと、国民に呼びかけている。しかもトランプは、これと同趣旨の演説を、共和党の候補の一人だった昨年初めから、何度も繰り返している。トランプは思いつきの出まかせばかり言う人だとマスコミは報じてきたが、全くの間違いだ。トランプは一貫して同じことを言い続けている。確信犯だ。 (Trump's Declaration Of War: 12 Things He Must Do For America To Be Great Again) ⑤(米大統領選挙の異様さ)
ふつうの人は、大統領になったら、エスタブ小集団に迎合してうまくやろうとする。民主主義や人権といった建国以来の米国の理念を賛美し、世界の「悪」(独裁国家や社会主義)に立ち向かう決意を表明するのが、従来ありがちな大統領の就任演説だった。しかし、トランプは、そういうことを全く演説に盛り込まないどころか「中身のない話をする時は終わった。実行の時がきたのだ」(The time for empty talk is over, now arrives the hour of action.)と明言している。 (Donald Trump meant everything he said)
トランプは、大統領になって米国の政権(エスタブ小集団)を握ったとたん、米国の政権を破壊し転覆する政治運動を、大統領として開始し、国民に参加を呼びかけている。これは革命だ。就任演説は、トランプ革命への参加を国民に呼びかける「檄文(召集命令)」となっている。演説は「私たち、あなた方(we, you)」といった米国民全体をさす呼称が多用され、「私(I)」がほとんど出てこない。トランプ自身が英雄になるつもりはないようだ。悪い権力構造を破壊して最後は自分も消される運命を予期しているのか。 ("We Are Transferring Power Back To The People" - Trump's Full Inaugural Speech) (Trump’s Declaration of War - Paul Craig Roberts)
米支配層(エスタブ小集団)の一員であり、支配層による支配体制を「いいこと」として報じることが不文律的な義務となっているマスコミは、当然ながら、トランプ革命の檄文という就任演説の主旨を報じず、トンデモ屋のトランプがまたおかしな、危険なことを言っているという感じで報じている。米国民の中でも、大統領選挙でクリントンに入れ、トランプを嫌い続けているリベラル派の人々は、トンデモ演説とみなしているかもしれない。だがトランプ支持者は、よくぞ言ったと評価し、鼓舞されているだろう。米国は、トランプ支持者と、リベラル派(と軍産マスコミなど支配層)とが対峙する傾向を増している。 (Viewers SAVAGE BBC Newsnight for Obama BIAS as Donald Trump described as 'JOKE') ⑥(マスコミを無力化するトランプ)
▼トランプの魅力は、決して屈服しない強固な喧嘩腰
トランプは選挙戦中から、中露イランや欧州、日韓など、同盟国や非米反米諸国との関係をいろいろ表明してきたが、それらは就任演説にあまり盛り込まれていない。政治面の個別具体策としては「古くからの同盟を強化しつつ、新しい同盟を作る。過激なイスラムのテロリズムをこの世から根絶するために世界を団結させる」という一文のみだ。
このトランプの「テロ戦争」は、おそらく911以来の米国のテロ戦争と全く似て非なるものだ。従来のテロ戦争は、米支配層の一部である軍産複合体が、アルカイダやISといったテロリストを裏でこっそり支援しつつ表向きの戦いをやる、軍産エスタブ支配の永続を狙った恒久戦争の戦略だった。トランプのテロ戦争は対照的に、軍産が敵視するがゆえに軍産の傀儡でないロシアなどと協力し、米政府内の軍産(国防総省やCIAなど)に裏のテロ支援をやめさせつつ、アルカイダやISを本気で全滅する計画だろう。トランプ革命(エスタブ潰し)には、テロリスト(テロの脅威)を使って軍産エスタブが米国を支配する911以来の構造を壊すことが必要だ。 (Trump Inauguration Address Centers on Fighting Islamic Terror) ⑦(911十周年で再考するテロ戦争の意味)
トランプは就任演説で「これまでわれわれ(米国)は、自国の国境を守ることを拒否する一方で、諸外国の国境を守ってやること(愚策)を続けてきた」(We've defended other nations' borders while refusing to defend our own.)とも言っている。「米政府は従来、米墨国境を抜け穴だらけに放置し、メキシコから違法移民が大量流入して米国民の雇用を奪うことを黙認する一方で、日韓やイラクの駐留米軍やNATOなどによって、大して米国の国益にならないのに諸外国の国境や領海を守ってやってきた。こんな悪い政策はもうやめる」という意味だ。トランプは「貿易、税制、移民、外交に関するすべての決定は、米国の労働者と家族の利益になるものにする」とも言っている。いずれも、選挙戦中から彼が言ってきたことだ。 (Why Donald Trump's Inaugural Address Matters)
貿易政策で度肝を抜かれる一文は「保護(主義、Protection)は、大きな繁栄と(国家や経済の)強さにつながる」というくだりだ。世界的に「極悪」とされてきた保護主義をみごとに肯定している。「これまで何十年も、われわれ(米国)は、自国の産業を犠牲にして外国の産業を儲けさせてきた。自国の軍隊をすたれるままにしつつ他国の軍隊に資金援助してきた。米国のインフラを整備をしない一方で外国に何兆ドルも支援してきた(今後これらのことを全部やめる)」とも言っている。 (New President, New World Patrick Buchanan)
For many decades, we've enriched foreign industry at the expense of American industry, subsidised the armies of other countries, while allowing the sad depletion of our own military. And spent trillions and trillions of dollars overseas while America's infrastructure has fallen into disrepair and decay.
これらもすべて選挙戦中からトランプが言っていたことだが、意味するところは「覇権の放棄」である。戦後の米国は、世界の単独覇権国として、基軸通貨と基軸貯蓄ツールであるドルと米国債を世界に持ってもらうことで無限発行できる利得の見返りとして、自国の製造業をないがしろにしつつ世界から商品を旺盛に買い続け、世界の消費を底上げして世界経済の成長を維持する役目を担ってきた。この経済覇権の構造が、同盟諸国の軍隊を支援する軍事覇権の構造と合わせ、覇権国である米国が維持すべき義務だった。米国の覇権的な義務を放棄することで、米国の産業や雇用を一時的に再生しようとするのがトランプの経済戦略の要諦だ。 ⑧(トランプのポピュリズム経済戦略)
覇権の利得で儲けてきた米国の支配層は、当然ながらトランプを敵視している。もしくは、トランプは支配層の一員になったのだから、儲かる覇権構造を意図して破壊・放棄したがるはずがないと考え、そのうちトランプは姿勢を転換するはずだと考えている。投資家の多くは、金儲けの視点しかないので、トランプが姿勢転換すると予測している。日本政府も、トランプの姿勢転換を予測してTPPに固執している。 ("It Remains A Mystery Why So Many Continue To Anticipate A Change In Trump's Behavior")
だが実際には、トランプが姿勢を変えることはない。私が以前から何度も分析してきたことだが、米国の支配層の中には、ずっと前(第二次大戦で英国が米国に覇権を譲渡した直後)から、自国の覇権を意図的に放棄して多極型・分散型の覇権構造に転換しようとこっそり努力し続けてきた勢力(隠れ多極主義者)がいる。キッシンジャーやCFRつまりロックフェラーは、その一味だ。彼らは、多極分散型に転換した方が、世界は政治的、経済的に安定する(大戦争やバブル膨張・崩壊しにくい)と考えている。トランプは隠れ多極主義者だ。トランプは昔からでなく、大統領に立候補するに際して隠れ他極主義者になった。おそらく、隠れ多極主義者たちの方からトランプに立候補を持ちかけた。トランプが姿勢を変えることはない。 (Reagan And Trump: American Nationalists - Patrick Buchanan)
多極主義者たちが感じたトランプの魅力は「決して屈服しない喧嘩腰」だろう。オバマもCFRに評価されて大統領になったが、オバマは沈着冷静で喧嘩しない。とりあえず軍産エスタブの覇権勢力の言いなりになり、その上で微妙な転換や歪曲策をやる。たとえばオバマは、シリアに濡れ衣戦争を仕掛けて途中でやめて意図的に混乱を招き、仕方がないといってロシアに軍事介入を頼み、シリアなど中東の支配権をロシアに移譲していくという、回りくどいことをやった。オバマの下ごしらえのおかげで、今やロシアや中国は、米国が捨てる覇権の一部を拾って自分のものにしてもいいと考えている(この数十年の世界において、覇権は奪い合うものでなく押し付けあうものだ)。 ⑨(米英覇権を自滅させるシリア空爆騒動) ⑩(アメリカの戦略を誤解している日本人)
ビルクリントンは、覇権を軍事主導から経済主導に変えた。次のブッシュ政権は911とともに覇権を軍事側に戻したが、イラクで過激に(故意に)大失敗し、リーマン危機の対策(QE=ドルパワーの浪費)を含め、覇権を盛大に無駄遣いした。オバマもシリアやリビアやQEで覇権の浪費を続け、いまや米国の覇権は経済外交の両面で崩壊感が強い。ここで新大統領として、米中枢の覇権勢力(軍産エスタブ)に喧嘩を売り、覇権戦略の一方的な放棄、もしくは覇権運営どころでない米国内の内戦・内乱状態を作る無茶苦茶野郎が出てくれば、米国が放棄した覇権を、中露などBRICSやドイツ(いずれきたる再生EU)、イラン、トルコなど(日本=日豪亜も??)が分割するかたちで継承し、自然と多極化が進む。 ⑪(ますます好戦的になる米政界) ⑫(潜水艦とともに消えた日豪亜同盟)
トランプは、こうした隠れ多極主義者のシナリオを引き受けることにして、大統領選に出馬して勝った、というのが私の見立てだ。トランプは、米国を主権在民に戻すと言っているが、それが最大の目標でない。最大の目標は、米国民を政治運動に駆り立て、米単独覇権を運営する軍産エスタブ、政界やマスコミの支配構造をぶち壊すことだ。近代資本主義の前提となる国民国家体制を作るためにフランス革命があったように、きたるべき時代の世界の基盤となる多極分散型の覇権体制を作るためにトランプ革命がある。 ⑬(覇権の起源)
トランプが就任して米国の新たな混乱が始まったとたん、中国政府(人民日報など)は「米国の事態は、欧米型の民主主義の限界を示している。中国の社会主義の方が安定している」と豪語し、落ち目な米欧に代わって中国が世界に影響力を行使するという言説を発し始めている。ドイツの左派のシュタインマイヤー外相は「トランプの出現は、20世紀の古い世界秩序の終わりと、厄介な新たな事態の始まりを示している」と指摘している。 (China Says It Is Ready To Assume "World Leadership", Slams Western Democracy As "Flawed") (Trump’s presidency harbinger of troubled times ahead: German FM)
▼CIAを脅して味方につけ、マスコミを潰しにかかる
戦後、覇権を牛耳る軍産支配を壊そうとした大統領はみんなひどい目にあっている。若気のいたりで冷戦を終わらせようとしたケネディは暗殺された。中国和解やドル潰しをやったニクソンは弾劾された(これらの教訓から、レーガンは目くらまし的な裏表のある政策をとって成功した)。トランプも、殺されたり弾劾されたりするかもしれない。しかし、軍産支配を壊そうとする黒幕のCFRなども、この間、知恵をつけてきている。黒幕に守られ、トランプは意外としぶといだろう。 ⑭(ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
トランプの目的は、米国の既存の支配層を潰して自分が独裁支配することでない。米国の支配層を潰し、その果実をBRICSなど他の諸大国が分散して受け取る新たな世界体制を作ることだ。トランプは、勝たなくても目的を達せられる。ただ喧嘩して壊すだけでいい。代わりの政体を作る必要がない。次の世界システムは、米国の覇権のしかばねの上に自然に生えてくる。 (The Trump Speech That No One Heard)
大統領就任後、トランプの喧嘩の矛先はまずマスコミに向いている。就任式に集まった人々の数をマスコミが過小に報じたかどうかをめぐり、さっそく大統領府とマスコミが相互批判している。トランプ陣営は、マスコミと折り合っていく常識的な道筋をとっていない。 (White House Spokesman Slams Media Over "Crowd Size Comparisons" In Bizarre First Briefing)
トランプは就任の翌日、CIA本部を訪れて職員を前に演説し、テレビ中継された。演説でトランプは、マスコミを「世界でもっともウソつきな人々」と非難しつつ「私はマスコミと戦争している。マスコミは、私が諜報界と喧嘩しているかのように報じているが、そんなことはない。私は就任後、真っ先にここに来た。私はみなさんを1000%支持する。マスコミは私を酷評するが、多くの人々が私の就任演説を支持してくれている。みなさんも支持してくれるよね」と述べた。 (Watch Donald Trump give first CIA speech and his 1,000% backing - full transcript)
私から見ると、この演説が意味するところは、トランプがCIAに向かって「マスコミとの戦争で俺を支持しろ。これまでのように俺を不利にすることをマスコミにリークするをやめて、逆にマスコミを不利にすることを俺に教えろ。トランプ革命に協力しろ。そうすればお前らを優遇してやる。従来のように、俺を潰そうとするマスコミを支援し続けるなら、俺は逆にお前たちを潰すぞ」という二者択一を、テレビの前で迫ったことだ。 ⑮(トランプと諜報機関の戦い) (Why Trump's CIA speech was simply inappropriate)
トランプはこの演説でもう一つ「われわれはISISを倒すしかない。他に選択肢はない」とCIAに通告している。CIAは軍産複合体の一部として、イラクやシリアなどでISISをこっそり支援してきた。それはトルコ政府も指摘する「事実」だ。トランプはCIAに行って「もうISISを支援するな。そうすればCIAを厚遇する。(逆に、こっそりISISを支援し続けるなら、お前たちもマスコミ同様、俺の敵だ)」と啖呵を切り、それをテレビで米国民にも知らせた。 (Trump's CIA speech reveals a challenge to America's 'deep state')
これまでの、独自の諜報網がない米大統領なら、CIAは、大統領に知られないようにこっそりISISを支援し続けられたかもしれない。だがトランプにはプーチンのロシアがついている。露軍はシリアに駐留し、トルコやイランの当局とも通じているので、CIAなど米国勢がISISをこっそり支援し続けていたら、すぐ察知してトランプに通報する。トランプが就任前からプーチンと仲良くしてきたのは、米露関係自体のためだけでなく、米国内の軍産エスタブ潰しのためともいえる。 (Lifting of anti-Moscow sanctions an illusion: Russian PM)
米諜報界では、オバマ政権で1月20日までCIA長官だったジョン・ブレナンが、現役時代から、トランプへの激しい敵視を続けている。ブレナンのトランプ敵視は、オバマや米民主党、リベラル派、軍産エスタブのトランプ敵視とつながっている。CIAなど米諜報界は今後、親トランプ派と反トランプに分裂する傾向を強めるだろう。国防総省とその傘下の業界も、軍事費の急増を約束しているトランプになびく勢力と、旧来のトランプ敵視を維持する勢力に分裂・内紛しそうだ。軍産内部を分裂させるのがトランプ陣営の作戦と感じられる。この分裂にオバマも一役買っている。 (Plan of neocon axis in Senate to spend $5 trillion on military could destroy US: Ron Paul) ⑯(得体が知れないトランプ)
▼軍産に取りつかれたマスコミやリベラルとトランプの長い対立になる
トランプは、大統領就任後もツイッターの書き込みをさかんに続け、マスコミを迂回する情報発信をしている。FTなのに気骨ある分析を書き続けるテットは、トランプのツイートをルーズベルトの炉辺談話になぞらえて評価している。トランプ政権は、大統領府(ホワイトハウス)の大統領執務室の近くにあった50人収容の記者会見室を撤去し、代わりにとなりの建物に400人収容の記者会見場を設ける計画を進めている。従来の、大手マスコミだけが大統領の近くにいられる記者クラブ的な癒着状況を廃止し、大手以外のオルトメディアなども入れる大きな会見場を作る。 (Twitter: Trump’s take on the ‘fireside chat’ Gillian Tett) (Trump Team Responds: May Move White House Briefings To Accommodate More Than Just "Media Elite") ("They Are The Opposition Party" - Trump May Evict Press From The White House)
トランプは、マスコミの特権を剥奪する一方で、イラク大量破壊兵器に象徴される軍産プロパガンダを「事実」として報じてきたマスコミへの敵視を続けている。米(欧)国民のマスコミへの信頼は低下し続けている。共和党系のFOXなど一部のマスコミは、トランプ擁護の姿勢に転じている。米国のメディア機能はすっかりインターネットが中心になり、ネット上ではマスコミもオルトメディアも個人ブログも大差ない。トランプの喧嘩腰は、軍産の一部であるマスコミを弱め、軍産と関係ないオルトメディアを強める。 ⑰(偽ニュース攻撃で自滅する米マスコミ) (The ‘Post-Truth’ Mainstream Media)
マスコミや軍産と並んでトランプを敵視するもうひとつの勢力は、民主党系の市民運動などのリベラル派だ。この戦いは、大統領選挙のクリントン対トランプの構造の延長として存在し、トランプの大統領就任とともに、リベラル派の方から仕掛けられている。負けたクリントン、大統領を終えたオバマ、世界的に民主化を口実とした政権転覆を手がけてきたジョージソロスなどが、指導ないし黒幕的な面々だ。ソロスはダボス会議での公式演説で、トランプを倒すと宣戦布告している。 (George Soros Vows To ‘Take Down President Trump’) (Putin Warns Of "Maidan-Style" Attempt To Delegitimize Trump)
草の根の右からのポピュリズムを動員して軍産エスタブを潰しにかかるトランプに対抗し、軍産エスタブの側は左(リベラル)の市民運動を動員している。もともと軍産は冷戦時代から、強制民主化、人権侵害の独裁政権の軍事転覆など、民主主義や人権擁護といったリベラルな理想主義を口実として戦争することを得意としてきた。イラク戦争を起こした共和党のネオコンは、民主党のリベラルから転じた勢力だ。リベラル派のお人好し(=人道重視)の理想主義が軍産に悪用されてきたが、今回また何十万人ものリベラル派が、トランプとの戦いに、軍産の傀儡にされていることも気づかずに結集し「トランプを強姦罪で弾劾しよう」と叫んでいる。トランプに反対するワシントンでの女性らの「自発的」な50万人集会を率いた人々のうち56人がソロスとつながりのある人だった。 (Ex-WSJ Reporter Finds George Soros Has Ties To More Than 50 "Partners" Of The Women’s March) (Beware the Rise of Left-Wing Authoritarianism)
女性や有色人種、貧困層、都会の知識人を束ねているリベラルの運動を敵に回すのは、トランプにとってマイナスとも考えられる。だがリベラルと仲良くすると、軍産エスタブがリベラルのふりを展開してきた強制民主化・独裁転覆の戦争や、人権を口実にした格安労働者の導入である違法移民放置策、覇権とカネ儲けの策である地球温暖化対策などを否定しにくくなる。喧嘩好きのトランプは、リベラル全体を敵に回す荒っぽい策をとることで、むしろリベラルが不用意に軍産の傀儡になってしまっていることを浮き彫りにしている。 (Trump responds to protesters: Why didn’t you vote?) ⑱(まだ続く地球温暖化の歪曲)
トランプと、リベラル派やマスコミ、諜報界、軍産エスタブとの戦いは、まだ始まったばかりだ。今後、延々と続く。すでに述べたように、この長い戦いは、トランプ陣営が好んで始めた計算づくのことだろう。対立が続くほど、トランプ側の草の根からの支持者の動きも活発になる。これぞ米国の民主主義のダイナミズムだ。誰もトランプ革命について語らず、自国のひどい官僚独裁政治にすらほとんど誰も気づいていない浅薄な日本から見ると、米国はラディカルで強烈ですごいと改めて思う。
⑦(911十周年で再考するテロ戦争の意味)
2011年9月14日 田中 宇
http://tanakanews.com/110914WTC.htm
2001年の911テロ事件から10周年目の節目が、たいした出来事も起こらずに過ぎた。米当局は例によって「10周年めざしてテロが起きるかもしれない」と喧伝していたが、何も起こらなかった。
911は私にとっても特別な出来事だった。私は当時から、世界で起きた出来事の構図や意味づけを考え、自分なりに納得できる解説を書こうとしていた。911に対する私の分析は、自作自演説の結論に行き着いたが、最初から自作自演に違いないと考えていたわけでない。事件後、私は「主犯」とされたエジプト人、モハマド・アッタの人となりを調べて書いたりしていた。しかし同時に、何がおきたのかを自分なりに調べて考えていくうちに、犯人側より防御側(米当局)の方に、異様さを多く感じるようになった。 (テロリストの肖像)
ハイジャックされた(とされる)旅客機を追跡するための米戦闘機は、わざわざ遠く離れた基地から発進し、激突に間に合わない状況が作られていた。貿易センタービルの倒壊は、旅客機の衝突による鉄骨の溶解の結果でなく、旅客機とは全く別に、あらかじめビルの内部に仕掛けられていた爆弾が爆発して「制御崩壊」を起こしたと考えた方がはるかに妥当だった。 (テロの進行を防がなかった米軍) (テロ戦争の終わり)
国防総省にも旅客機が突っ込んだとされるが、激突でできたというビルの穴は、旅客機の幅よりずっと小さかった。ビルの周辺に散乱しているべき旅客機の残骸がほとんど何もなく、監視カメラにも激突の瞬間が映っていなかった。国防総省の近くの街灯は、旅客機が突っ込んだ際に通ったと考えられる幅30メートルの軌跡に沿って倒れており、その点からは、何らかの飛行物体が国防総省に突っ込んだのだろうと考えられた。
しかしよく見ると、倒れた街灯群はすべて根元から引っこ抜かれていた。高速の飛行機の翼がぶつかったのなら、途中からぽっきり折れるはずだ。街灯群は、あとから証拠捏造のために、重機で引っこ抜いた可能性が強くなった。私は、911の国防総省の破壊は、飛行物体の激突によるものでなく、ビルの壁の内側か外側にあらかじめ仕掛けられていた爆弾が爆発した結果と推測している。
テロリストが爆弾を仕掛けてテロをやることは、よくある。貿易センタービルと国防総省の両方とも、爆弾で破壊されたのだとしても、それがテロ組織の犯行である可能性は十分にあった。異様なのは、状況から見ると爆弾テロの可能性が高いのに、米当局がそれを一貫して強く否定し、そちらの可能性に対する捜査も、合理的な説明もせず、マスコミもそれを書くのがタブーになり、米議会の「真相究明委員会」も、爆弾テロの可能性をほとんど考慮しなかった。911の真相究明を求める米欧日などの市民運動は、主にこの点の異様性を指摘し、米当局が真相を隠蔽していると主張してきた。だが、彼らは当局やマスコミ、軽信的な人々から敵視・嘲笑されている。
▼911は軍産複合体による経済覇権体制への反撃
私の疑問は、911の真相そのものよりも、米当局が真相を隠すことによって何がしたかったのかという点に向かった。真相が隠された事件は、歴史上、たくさんある。それらの真相を探るより、隠蔽する意図の方が、事態の意味を知るために重要だ(私は、真相を究明すべきだと主張するだけで終わっている市民運動に関心がない)。
911の当日のうちに、米政府は「犯人はオサマ・ビンラディンが主導するアルカイダだ」と決めつけ、ビンラディンらの一味をかくまっているアフガニスタン政府(タリバン)に対する敵視が始まった。その後の短期間のうちに、イスラム・テロリストとの長期戦争「テロ戦争」が、米政府の外交・軍事面の世界戦略の大部分を占めるようになった。CIAのウールジー元長官は「テロ戦争は40年間続くだろう」との予測を発した。米政府内で国防総省の影響力が急速に拡大し、軍事費が急増し、国務省の力が相対的に低下した。
こうした事態から私は、911を「国防総省や軍産複合体が、米政府内での影響力を爆発的に拡大するために誘発したクーデター的な事件」と見なすようになった。ウールジーが言った「40年間」は、米政府内で軍産複合体の力が強かった冷戦時代の長さと一致する。冷戦は、終戦直後の米政府が、国連安保理の常任理事会などにおいて、ソ連や中国、欧州などと対等な立場で世界を運営していく多極型の世界体制を目指していたのを、米ソ対立を扇動することでぶち壊し、米英が欧州を傘下に置き、中ソと敵対する米英中心主義の世界体制に転換し、米国の世界戦略を長期的に軍事中心に傾けた。911で始まった長期のテロ戦争は、軍産複合体が仕掛けた「第二冷戦」といえた。
冷戦終結後、米英は、金融自由化(債券金融システムの拡大)による経済主導の覇権体制下にあった。冷戦時代に軍産複合体と組んで米国の世界戦略を牛耳っていた英国は、85年の米英同時の金融自由化の開始以来、経済覇権戦略に乗り換えて軍産複合体を見捨て、米国が冷戦を終結するのを容認した。冷戦後の92年に選挙戦で「大事なのは経済だよ、ばーか」(It's economy, stupid!)と言い放って当選したクリントンの政権下で、軍事費は削られ、米軍事産業は縮小・合理化されていた。 (テロ戦争の終わり(2))
911は、冷や飯を食わされていた米軍産複合体による、経済覇権体制への反撃だった。それは、1998年に起きた国際通貨危機後、米国の経済覇権体制が揺らぎだしたタイミングを狙って行われた。「イスラムのテロ組織や人権無視の過激派と、米国が軍事的に戦う」という考え方は、911で突然に出てきたものでなく、98年ごろに米政府がタリバン政権を敵視し始めた時から始まった。
911後、イラク・イラン・北朝鮮の3カ国が「悪の枢軸」に指定された。このうち北朝鮮は、イスラムと関係ない。北朝鮮が悪の枢軸に入れられたのは、北朝鮮に脅威を感じさせて核兵器開発に走らせ、韓国と北朝鮮の対立が解けない状況にもっていき、東アジアの冷戦体制を解消させず、在韓・在日米軍を温存するための、軍産複合体の策略だったと考えられる。
▼アルカイダは歴史的に米当局の仲間
アルカイダやビンラディンは米国の仇敵とされたが、両者の関係を歴史的に見ると敵対でなく、むしろ仲間だ。アルカイダは911前に「イスラム聖戦士(ムジャヘディン)」と呼ばれたアラブ人の勢力で、冷戦中にソ連とアフガンで戦うために米国CIAが支援して訓練した。「アルカイダ」はアラビア語で「データベース」の意味があり、CIAが聖戦士たちを管理するために作ったデータベースが名前の起源だとすら言われている。
CIAはアルカイダの幹部や兵士の動向をずっと把握してきた。911を、米当局が育てたテロリスト集団に反乱的に反撃された「ブローバック」と見る向きがあるが、アルカイダは米当局にずっと監視されており、911がブローバックだとしたら、それは米当局が容認ないし誘発したものだ。米当局による自作自演の構図がここにある。
アフガンでソ連と戦ったアラブ人やアフガン難民の聖戦士たちは、いくつものグループに分かれ、統一された指揮系統がなかった。米CIAと、その傘下で聖戦士やアフガン難民を管理していたパキスタン軍の諜報機関(ISI)が聖戦士を分断管理し、彼らが団結して米パキスタン側の言うことを聞かなくなることを防いでいた。911前にこのような状態だったので、アルカイダは911後も統一的な実体がない組織だった。米当局がアルカイダと40年間も戦い続けるテロ戦争の構図を構築するには、アルカイダを強化する必要があった。
そのために米当局は、テロ戦争の隠れた戦略として、世界のイスラム教徒を意図的に怒らせて反米感情を高め、アルカイダの支持者を増やそうとした。01年10月の米軍アフガニスタン侵攻、03年3月のイラク侵攻、それらの戦争での度重なる誤爆や、米軍による市民に対する手荒な扱い、キューバ島のグアンタナモ米軍基地やイラクのアブグレイブ監獄などでの無実のイスラム教徒に対する拷問や無期限拘束など、いずれもあえてイスラム世界を激怒させる意図が感じられる。
これらの件について「米国の当局者らはイスラム世界のことに無知なので、間違った戦略がとられた」とする説明がなされる時があるが、それは間違いだ。国務省をはじめとする米国の外交関係の公的、私的な機関には、イスラム世界に詳しい人が無数にいる。外交専門家の中にはユダヤ人が多く、彼らはイスラエルとのつながりが深い。イスラエルは、イスラム世界に対する監視分析をずっと続けてきた。米国がイスラム世界に無知だという説明は全くの間違いだ。
911から2か月後、米軍はタリバン政権を潰すためアフガニスタンに侵攻し、タリバンを蹴散らして、代わりに米国傀儡のカルザイ政権を据えたが、タリバンは、アフガン国家の統一と安定化をめざすナショナリストの勢力であり、米国を攻撃するつもりがなく、むしろ米国と国交を結びたがっていた。タリバンは反ロシア的であり、米国のロシア包囲網の一部として、米国の同盟勢力になりたがっていた。
米国は、味方につけた方が得策のタリバンを、あえて敵に回した。テロ戦争を長く続けるため、タリバンとアルカイダを一体化させようとしたのだろう。米軍はタリバンをカブールから追い出して蹴散らしただけで、後でタリバンがじわじわと反撃して長期戦になる素地を作った。
イラク侵攻も、侵攻理由として米政府が表明した「フセインが開発した大量破壊兵器」は、存在しなかった。大量破壊兵器の不存在は、侵攻前からわかっていた。米政権内の「ネオコン」が、捏造された証拠を本物だと騙されたふりをして、イラクに侵攻する大義として発表していた。英国のシンクタンクによると、米軍はイラクで100万人の市民を殺したと概算される。イラク戦争は、近現代史上まれに見る大規模で悪質な侵略行為であり、戦争犯罪である。この件で米国が国際的に大して非難されないのは、米国の覇権体制の維持を望んでいるのが、米国自身よりも、欧日など同盟諸国の側であるからだ。イラク侵攻は、911の数日後にブッシュ政権内のネオコンが提案し、その後2年かけて米政府内外の反対を押しのけて挙行した、テロ戦争の一部である。
テロ戦争は、過剰にやって失敗する傾向を構造的に抱えていた。軍産複合体は、米軍に大きな戦争をいくつもやらせるほど軍事費が増えて儲かる。だが戦争をやりすぎると、米国の側が財政的、世論的に疲弊し、テロ戦争の構図を長期的に維持することが難しくなる。外交面でも、イスラム教徒を怒らせた結果、アルカイダに対する支持が増えるのでなく、トルコやエジプトといった親米だった国々が反米に転じ、米国の中東支配を崩壊させている。
テロ戦争がモデルとした冷戦は、英国が米国の世界戦略を、自国好みのユーラシア包囲戦略に転換させるために、米国の軍産複合体を誘って起こしたもので、英国は冷戦体制をできるだけ長く維持しようと米国を操り、冷戦を40年以上も続けることに成功した。だが、テロ戦争は軍産複合体が主導しており、テロ戦争の体制を長く続けることよりも、戦争をいくつもやって手っ取り早く儲けることの方が重視され、過剰な状態に陥った。10年目の今日、すでに米国は疲弊し、テロ戦争は失敗している。過剰な状態に陥ったのは、テロ戦争を遂行したネオコンが、意図的に過剰にやって米英覇権体制を崩壊させて世界体制を多極化しようとする資本家の手先(隠れ多極主義者)だったと考えられることも一因だ。
近年の米国が仕掛ける戦争は、アフガニスタン、イラク、ソマリアなど、すでに内戦や経済制裁によって国家が崩壊に瀕し、米軍が戦場にしても事態の悪化が少ない地域を選んで行われている。軍産複合体の儲けが主目的である最近の戦争を繁栄している国で行うと、その国を破壊することの経済的・政治的な悪影響が大きすぎる。すでに国が崩壊している場所で繰り返し戦争をやった方が、悪影響が少ない。この点では、米国の近年の戦争は巧妙だ。だが、米国自身の財政余力、国際信用、国内世論の点では、過剰な戦争が大きな悪影響をもたらしている。
▼テロ戦争を静かに終わらせたいオバマ
今年5月、米軍特殊部隊がビンラディンを「殺害」した。米政府は、殺害対象が本当にビンラディンだったという確定的な証拠を何も発表しておらず、殺害は大きな疑問が残ったままだ。しかし、この件も911と同様、現場で何が起きていたかという真相より、この件によって米政府が何を狙っているのかという意図や意味の方が重要だ(2つの件とも、真相が公式・確定的に判明することは、たぶん永久にない)。
ビンラディン「殺害」の意味は、オバマ政権が、ビンラディンが死んだことにしたいと考えていることだ。オバマは、テロ戦争を軟着陸的に終了させたいのだろう。オバマ政権は、アフガンでタリバンと秘密裏に交渉していることを認めたし、イラクからの米軍撤退を予定通り今年末に完了させようとしている。オバマは、共和党や軍産複合体、イスラエル右派といった、テロ戦争を推進してきた勢力と対立すると、スキャンダルなどの嫌がらせをされるので、対立を避け、目立たないようにテロ戦争を終了の方向に持っていこうとしている。 (◆ビンラディン殺害の意味)
しかし、オバマの戦略がうまくいくかどうか、まだわからない。米議会の財政緊縮議論では、軍事費の削減を絶対に許さないと表明する議員が多く、軍産複合体の政治力の強さを物語っている。テロ戦争の構図が終わることを阻止するため、中東で次の戦争が起こされるかもしれない。リビアは、米軍が地上戦を派遣して長期の泥沼にはまり込む前にカダフィ政権が崩れたが、イスラエル近傍のガザやレバノン、イランとの戦争は、まだありうる。
軍産複合体がテロ戦争の構図が長引かせるほど、財政面から米国の軍事力が空洞化し、東アジアや欧州など、中東以外の地域で、隠然とした米軍の撤退状況が加速する。東アジアでは米国が中国の台頭を容認する傾向が強まり、中国が朝鮮半島やパキスタン・アフガンの安定化を図ることが黙認される。EUはNATOから自立する傾向を許され、欧露関係の改善も容認される。
最近、ロシア軍が日本近海で軍事演習などの挑発的な行為を行い、北からロシアが、南から中国が日本の領土間近に軍隊を繰り出したりしている。こうした中露の行為は、東アジアでの米国の軍事力が空洞化していきそうな中で、日本自身がどう対処しようとしているのかを見るための挑発でないかと考えられる。米国の存在感が薄れたら、日本はやられっぱなしを容認するのか、それとも自立的な防衛力を強めようとするのか、それによって中露は今後の日本への対応を変える必要があるからだ。911から10年たち、テロ戦争は終わっていないものの、米国の覇権が崩れるという終わり方に向かっている。
(911事件関係の記事)
⑧(トランプのポピュリズム経済戦略)
2016年12月17日 田中 宇
http://tanakanews.com/161217trump.htm
これは 「トランプの経済ナショナリズム」の続きです
経済学者のスティーブン・ムーアは、米国で最も権威ある右派(共和党系、レーガン主義)のシンクタンクであるヘリテージ財団の筆頭エコノミストだ。ヘリテージ財団は、今年の大統領選挙に際しムーアを、ドナルド・トランプを支援するため経済顧問として送り込んでいた。このことは、米国の右派エスタブリッシュメントが早くからトランプを支持していたことを示している。そのムーアが最近、驚くべき提案(予測)を発した。それは「トランプが率いる今後の共和党は、ポピュリズム(庶民重視)の『トランプ労働者党』になる」というものだ。 (Welcome to the party of Trump) (How Trump will double growth and jobs)
トランプは、これまで20年ほどの米国の、金融主導、金持ち重視の政策を批判し、製造業の復活や雇用増重視の政策を打ち出し、これまでの政策によって失業して貧困層に転落していたラストベルト(五大湖周辺のすたれた製造業地域)の庶民層に支持を呼びかけ、公共事業などによる雇用の創設や、労働者が雇用を剥奪される原因になるNAFTAやTPP自由貿易圏に反対する庶民重視(ポピュリズム)の政策を掲げて大統領選に勝った。ラストベルトの多くの州は1984年のレーガン以来、共和党が勝てず、民主党の牙城になっていたのをトランプが奪還した。トランプが、選挙戦で掲げた政策をそのまま大統領として実行し、共和党がそれを党の長期政策として受け入れると、今後の共和党が「ポピュリズムのトランプ労働者党」になる。 (Reagan was great, but it's now Trump's turn Steve Moore) (米大統領選と濡れ衣戦争)
従来の共和党の主流は1980年からの「レーガンの保守主義」だ。レーガンが大統領になった時も、今回のトランプのように、共和党内の当時の主流派から反対されたが、その後の共和党はレーガン主義が主流となった。レーガン主義は、小さな政府(財政不拡大)、規制緩和、自由貿易重視、減税(低税率)、個人の自由重視、強い軍隊などを掲げてきた。このうち、規制緩和、減税、強い軍隊については、トランプも掲げている。だがトランプは、レーガン保守主義が持っていなかったポピュリズムの傾向(保守主義はポピュリズムを、個人の自由を制限する大衆扇動の道具とみなす傾向が強い)を持ち、ポピュリズムであるがゆえにトランプは、小さな政府の反対とみなされる公共投資拡大(1兆ドルのインフラ整備)や、貿易政策の保護主義的な傾向(中国などからの製品に高関税をかけるなど)を持っている。この点でトランプはレーガンが異なっており、レーガン主義を信奉する共和党主流派の多くがトランプを嫌ってきた。 (得体が知れないトランプ)
この構図の中で、スティーブン・ムーアは非常に興味深い存在だ。ムーアは、レーガン政権の経済政策立案者の一人で、「サプライサイド経済学」をレーガンの経済政策を支える理論に使うことで、レーガンの経済政策を権威づけて強化した功労者だ。そんなレーガン主義の元祖のようなムーアが、「共和党がレーガン主義の党だった時代は終わりつつある」「これからの共和党は、レーガンの保守主義でなく、労働者を重視するトランプのポピュリズムの政党にならねばならない」と主張している。元祖レーガン主義のムーアがそう言うのだから、従わざるを得ないとWSJ紙が書いている。WSJはレーガン主義を信奉してきた新聞だ。ムーアは長くWSJの編集委員(社説決定委員)もつとめていた。ムーアの宣言は、共和党にとって大きな重みがある。 (Ronald and Donald) (Stephen Moore: Good Bye, Reagan GOP; Hello, Trump Populist Party)
ムーアは「(小さな政府主義、民間活力を信奉するレーガン主義の)私自身、政府主導の大規模な公共事業には反対だ。公共工事などやってもうまくいくはずがない。だが、今年の選挙で共和党を勝たせた有権者(庶民)がそれを望んでいるのだから、公共事業をやらざるを得ない」「(大統領と議会多数派の両方を共和党が握った)今年の選挙の結果を長く維持したいと思うなら、共和党は、不本意であっても、トランプのポピュリズムを党是に掲げねばならない」と言っている。 (Welcome to the party of Trump)
トランプは、外国に出て行った米国企業の生産拠点を米国内に戻しつつ、米政府がないがしろにしてきた国内インフラの整備を1兆ドルの公共投資によって進めれば、米国のGDPを毎年4%ずつ成長させられると言っている。前回の記事に書いたように、トランプは、これまでの米国が覇権維持策の一環として、米企業が生産拠点を海外に移すことを隠然奨励してきたのをやめて、経済の利得を米国に戻すことで、4%の経済成長を成し遂げようとしている。 (トランプの経済ナショナリズム)
粉飾しても2%成長がやっとな従来の状況からすると、4%成長は大ボラ吹きに見えるが、これまでの覇権維持策と異なり、覇権を取り崩しての成長なら、不可能でない。トランプは、ポピュリストかつナショナリスト的な経済成長策を成功させることで、自分の再選と、共和党の与党維持を実現しようとしている。ムーアが支持するトランプの戦略は、このようなものだ。ムーアが言うとおり、共和党が政権党の座に長くとどまろうとするなら、トランプのポピュリズムを主流に据える必要がある。共和党は、ムーアの主張に従うだろう。 (How Trump will double growth and jobs)
ポピュリズム、庶民重視というと、企業への課税を増やしてそのカネを国民にばらまいて人気をとる策になりがちだが、トランプのポピュリズムは、前回の記事に書いたように、覇権の経済負担をやめて、そのカネで企業と国民の両方の所得を増やそうとしている。トランプは企業重視でもある。企業重視だが、企業が政府よりも大きな力を持つ「企業覇権体制」を構築するTPPを敵視して潰してしまった。トランプは、ナショナリズム重視(米国第一主義)なので、企業は政府より下位になければならない(従属する相手が米政府だろうが米企業だろうが大差ないので、日本はTPPを対米従属の強化策として強く推進した)。 (大企業覇権としてのTPP)
▼トランプは金利上昇を止めるため連銀イエレンをたらしこむ?
従来の共和党主流派のレーガン主義者たちは、小さな政府を信奉し、財政赤字の拡大を好まない。彼らと折り合いをつけるため、トランプは財政赤字を増やさず、企業が生産拠点を外国から米国に戻した分の法人税率を、従来の35%から6%台に大幅減免する代わりに、その企業にインフラ事業への投資を義務づけ、それらの民間からの投資金によって1兆ドルのインフラ事業をやろうとしている。加えてトランプは、財政赤字を増やさずに5兆ドルの減税を同時にやろうとしている。しかし、本当にそれらがうまく行くかどうかはわからない。 (Rand Paul meets with Steve Mnuchin to discuss monetary policy)
もし財政赤字が急増すると、長期金利が上昇し、インフレもひどくなる。金利が上がると、企業の資金調達のコストが増え、経済や雇用が成長しにくくなる。米政府の国債利払い額が増えて財政の足を引っ張る。金利やインフレの上昇は、トランプの経済戦略の成功を困難にする。オバマ政権は静かにどんどん財政赤字を増やしている。11月の赤字額は史上最大だ。それらの赤字はすべてトランプに引き継がれる。 (US Budget Deficit Doubles As November Spending Hits All Time Monthly High) (Freddie Mac Issues Warning As Mortgage Rates Soar)
11月8日のトランプの当選以来、米国債の長期金利が上昇し続けている。長期金利の上昇を受けて、米連銀は、短期金利の利上げがやりやすくなり、今年は1回だけだった利上げを、来年は3回か4回やると言い出している。トランプのインフラ投資策で財政赤字が増えそうだから、というのが長期金利の上昇理由であるとされる。しかし、金利上昇の理由はこれだけでない。トランプが米国の覇権を放棄しようとしている反動で、米国やサウジアラビアなど、これまで巨額の米国債を買ってくれていた対米貿易黒字諸国が、米国債を手放す傾向を強め、米国債が売れなくなって金利が上がっている。基準指標である10年もの米国債の金利は、トランプ当選前の1・8%台から、2・6%まで上がっている。いずれ3%を超え、危険水域に入っていく。 (Rates Are Rising Because Of China, Not Inflation)
これまで、米国は中国からの輸入製品や、サウジなど産油国からの輸入石油を旺盛に消費し、世界の消費主導役になることで、世界経済の成長に貢献する覇権国の役割を果たしてきた。中国やサウジなどは、米国に輸出して得た巨額資金で米国債を買い支え、これが米国債の金利を低く保ってきた。だがトランプは、中国などからの輸入品でなく米国製品の売れ行きを高め、米国内のシェール油田などの石油開発を規制緩和によって奨励し、サウジなどからの石油輸入を減らすことで、米国の経済成長の加速や雇用増を実現しようとしている。中国は人民元の対米為替の異様な低下を穴埋めするため、サウジは石油輸出収入の減少を穴埋めするため、米国債を買いから売りに転じており、これが米国債金利の上昇を招いている。 (Donald Trump may Make Inflation Great Again)
今後、トランプが覇権放棄的な経済ナショナリズム策を推進するほど、中国やサウジは米国債を買わなくなり、米国債金利の上昇とインフレの悪化が進む。先日、中国は米国債の最大の保有国でなくなり、その座を日本に譲った。金利上昇は、為替市場におけるドル高の傾向につながる。米国は今後、金利高とドル高が悩みの種になる。金利高は企業の資金調達コストを引き上げるし、ドル高は企業の輸出競争力を阻害する。金利高とドル高は、トランプが解決せねばならない大きな経済問題になる。 (China cedes status as largest US creditor to Japan)
08年のリーマン危機以来、米国債(やジャンク債)の金利上昇を防ぐための策として、米連銀(FRB)は、ドルを大量発行して債券を買い支えるQE(量的緩和策)を行なった。QEは、中央銀行の(不良)債権を不健全に急増させ、米連銀がQEをやりすぎると人類の基軸通貨であるドルが危険になるので、米連銀は14年秋にQEをやめて、日欧の中央銀行にQEを肩代わりさせた。だが、それから2年たち、日欧とも中央銀行の不健全さがひどくなり、QEを縮小する時期に入っている。欧州中銀は先日、来春からQEを縮小すると発表した。日欧のQE縮小は、世界的な債券の下落(金利の上昇)を引き起こす。トランプの覇権放棄と1兆ドルのインフラ整備策(財政出動)だけでなく、日欧中銀のQE縮小も、米国(と世界)の金利高に拍車をかけている。 (行き詰る米日欧の金融政策)
このような中、トランプが金利高を緩和しようと思ったら、何をすれば良いか。答えは明白だ。米連銀のイエレン議長に圧力をかけ、14年以来のQE停止と短期金利の利上げの傾向に終止符を打ち、利上げ姿勢をやめてQEを再開させれば良い。今のところ連銀は、14年来の姿勢を変えたがらず、日欧にQEを肩代わりさせたまま、自分だけ短期金利を少しずつ上げていこうとしている。だがトランプ当選以来の長期金利の危険な上昇傾向の中で、連銀の利上げは、長期金利の危険な上昇に拍車をかけ、悪影響が大きくなっている。日欧のQEがもう限界なのだから、まだ余力がある米連銀自身がQEを再開するしかない。そうすれば長期金利が上がりにくくなり、トランプの経済成長策にもプラスだ。 (China Dumps Treasuries: Foreign Central Banks Liquidate A Record $403 Billion In US Paper) (How Donald Trump and the Fed might go to war)
(公共投資を増やして実体経済が拡大する中でQEをやると、インフレが扇動されるかもしれない。公共投資を増やしても経済が成長しないとインフレになる。だがその一方で、賃金からのインフレにはなりにくい。雇用統計の粉飾を引き剥がした下にある米国の実態は、完全雇用から程遠い大量失業状態なので、雇用が逼迫し賃金が上がってインフレになる心配はない。トランプは雇用をめぐる規制、つまり労働者保護政策を緩和=企業による従業員搾取を看過する方針で、この要素も賃金上昇に歯止めをかける) (雇用統計の粉飾) (ひどくなる経済粉飾) (Trump's dilemma: slower job growth or rising rates and inflation?)
トランプは選挙戦中に、イエレンを嫌う発言を発している。イエレンは、来年末の任期終了とともに辞めさせられることを恐れている。トランプは「利上げをやめてQEを再開してくれるなら続投させてやるよ」ともちかけることで、連銀にQEを再開させ、金利上昇に歯止めをかけられる。もちろん、連銀のQE再開は、米国の金融バブルをひどくさせ、QEを再開しても2-3年後にはそれ以上続けると危ない事態になり、QE縮小が金融危機の再来を招く。 (QEの限界で再出するドル崩壊予測)
このシナリオだと、トランプ政権は1期目に経済政策が成功して2020年に再選されるが、2期目の途中でQEが行き詰まって金融危機が起こり、米国覇権の瓦解につながる。この通りになるかわからないが、短期的に、トランプとイエレンが談合し、イエレンはトランプのポピュリズム・ナショナリズム的な経済政策に協力することで延命する可能性が高い。金融危機が早く起きると、トランプは批判される傾向が増し、英雄になったレーガンの再来でなく、蹴落とされたニクソンの再来になる。 (ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
⑨(米英覇権を自滅させるシリア空爆騒動)
2013年9月3日 田中 宇
http://tanakanews.com/130903syria.php
米国が8月31日にシリアを空爆するとの予測が、その2日ほど前に米英のメディアから流れ、いよいよ空爆かと思われた。だが当日、オバマ大統領が発表したのは、予測されていた、米議会にも国連にもNATOにも諮らずシリアを空爆することなく、それと正反対の方向の、シリアを空爆すべきかどうか米議会に諮ることだった。 (In Reversal, Obama Will Seek Congress' OK to Use Force on Syria) (Obama stuck with grenade in hand that he doesn't want to throw)
米国は、憲法に連邦議会に戦争開始の決定権があると明記されているが、憲法外の法制で、テロ対策としての先制攻撃など、急いで対応せねばならず、議会に諮っていたら間に合わない有事の際に、大統領が議会に諮らず90日間までの戦争を開始できる。だからオバマは、8月21日にシリアで化学兵器の使用が報じられた後、化学兵器を使ったのは反政府勢力でなくシリア政府軍だと決めつけ、制裁として、議会や国連に諮らず急いでシリアを空爆すると表明した。 (無実のシリアを空爆する)
英国のキャメロン首相は8月24日にオバマと電話で話し、シリア空爆に参加したいと表明したが、英国は米国と異なり、外国との戦争に例外なしに議会の承認が必要だった。シリア空爆は1週間以内に行わねばならないと言うオバマに対し、英国のキャメロン首相は、それまでに議会の承認を得るので待ってくれと答えた。当初、英国の与野党は空爆に賛成だったが、国連での議論で、米国が主張するシリア政府軍犯人説の根拠が薄いとわかり、国連の化学兵器調査団の結論が出るまで待つべきという意見が強まり、英議会は8月29日にキャメロンのシリア空爆案を否決した。英国で、戦争開始の可否を首相が議会に諮って否決されたのは1782年以来、231年ぶりだった。 (シリア空爆騒動:イラク侵攻の下手な繰り返し) (Miscalculations over Syria raise questions over Britain's appetite to continue punching above its weight)
英国の展開を見てフランス政界でも空爆への抵抗が強まり、同日、フランスのオランド大統領は「議会が了承するまで空爆に参加しない」と表明した。ドイツ、イタリア、オーストリアなどは、国連決議なしのシリア空爆に反対している。米国は国際的に孤立した。 (France's Hollande facing pressure for deputies to vote on Syria)
冷戦終結から四半世紀、国際政治は多くの局面で、単独覇権もしくは孤立主義的な態度をとる覇権国の米国を、覇権黒幕国の英国がなだめすかし、米英主導で行動する体制を何とか形成し、それが「国際社会」として機能してきた。だが今回、米国のシリア空爆案に英国が議会の否決で乗れなくなった。英国が国際政治を誘導する力が劇的に低下するとの予測が、米政界などから出ている。今後、米英の覇権体制の崩壊が加速するかもしれない。「いまや『国際社会』は、シリア空爆に賛成している米国、フランス、トルコの3カ国のみで、世界の残りの国々は国際社会に属さなくなった」と反戦系分析者から皮肉られている(日本も、米国がやる無鉄砲にすべて賛成だが、数の中に入れてもらえてない)。 (Syria crisis: 'Britain is no longer a world power') (The "International Community" is shrinking)
シリア空爆に反対する市民運動も、各国で日に日に強くなっている。8月31日、オバマが大統領府(ホワイトハウス)で演説し、議会に諮ることを表明した時、大統領府の前の道では、シリア空爆に反対する市民がさかんに声を上げており、その声がオバマの演説を中継するテレビの音声に入り、全世界に伝えられるという、象徴的な状況も起きている。米国の外交政策を決定する「奥の院」であるCFR(外交問題評議会。共和党系)の論文雑誌「フォーリン・アフェアーズ」も、国連の承認を受けないシリア空爆は国際法違反だと明言している(同誌はかつて国連の承認を得ないイラク侵攻を絶賛した)。 (Anti-war chants heard in the Rose Garden during Obama's speech) (The Legal Consequences of Illegal Wars)
米議会の180人の議員は、連名でオバマに書簡を出し「シリア軍は米国まで届くミサイルを持たず、米国にとって脅威でないので、大統領が議会に諮らず空爆できる状況でない。議会を無視したシリア空爆は違法であり、それが行われた場合、議会はオバマの弾劾を検討する」と表明した。国際的な孤立や、市民の反戦運動だけなら、オバマは無視したかもしれない。だが加えて、弾劾される危険が増すとなると、無視していられない。 (Obama Has Decided That It Is Safer To Buy Congress Than To Go It Alone)
911事件以来の10年あまり、米大統領はブッシュもオバマも大統領の有事権を乱用し、議会を無視して次々と戦争してきた。今回、オバマが議会に諮るだけで、議会は喜んでいる。オバマは2大政党の主要議員に「シリア空爆を承認してくれるなら、議会に諮ってあげるよ」と持ちかけ、おおむね了承を得たので、空爆案が可決されると予測し、議会に諮ることにしたようだ。 (The 5 ways that Congress is splitting on Syria)
オバマは、政敵の共和党の多数派が好む好戦的(あるいはイスラエル右派的)な策をとることで共和党を取り込み、超党派での意志決定をめざす策をとってきた。今回も、オバマが議会に提出するシリア空爆案は、シリアに味方するイランやヒズボラ(レバノン)に対しても空爆できる広範な内容になっている。シリアだけでなくイランと戦争したい共和党の好戦派を取り込もうとしている。 (Former Bush official: Syria resolution could authorize attack on Iran and Lebanon)
オバマは議会でシリア空爆案を可決できると考えているようだが、本当に可決されるかどうかわからない。シリア空爆案が米議会で可決される可能性は今のところ50%と見られている。国連調査団がシリアから米国に戻り、今後、誰が化学兵器を使ったかの分析が、新たな証拠とともに明らかになるだろう。これまで数回、シリアで化学兵器が使われたが、いずれもシリア軍でなく反政府勢力が使った可能性が高いと、国連の前回の報告書が書いている。今回も反政府勢力のしわざである可能性が高く、それが明らかになるにつれ、米議会でシリア空爆に反対する勢力が増えるに違いない。 (Rand Paul: 50/50 chance House will vote down strike on Syria Paul Lawrance)
米当局は議員に対し、シリア政府軍の化学兵器使用に関する秘密の証拠を見せたと報じられている。これは911やイラクをめぐる「秘密の証拠」と同様、賛成してくれる人にインチキな証拠を見せる策略だろう(かつて小泉首相が911に関するブッシュのインチキ話に積極的に乗ったことを思い出す)。 (White House Claims Evidence of Syrian Gov't Using Sarin Gas Pushes Congress to approve strike)
米当局は「シリア軍は化学兵器を持っている。だから使ったに違いない」といった、弱い状況証拠しか持っていないと、専門家が指摘している。今後3週間ほどかけて、国連の調査団が、誰が化学兵器を使ったか、証拠つきで結論を出す。国連が出す「反政府派がやった」という証拠は、オバマが出す「アサドがやった」という薄弱な証拠よりずっと強いだろう。今後、米議会の議論が長引くほど、オバマにとって不利になる。すぐに空爆せず時間をかけてしまったのは、オバマの大失策である。 (Experts: US Evidence Against Syria Extremely Weak) (Three-week wait for UN's Syria analysis)
米国は建前的に911以来「アルカイダ」と戦い続けており、米議会はアルカイダを敵視しているが、今やシリア反政府派の主力はアルカイダだ。オバマがシリア政府軍の施設を空爆したら、それは米国がアルカイダを支援することになる。これまで米議会はこの点を曖昧にしてきたが、今回はそれも議論されるだろう。 (Does Obama Know He's Fighting on al-Qa'ida's Side?)
米議会では、米国が持つ覇権を好む方向より、覇権を嫌う方向が強まっている。米政府の信号盗聴機関であるNSA(国家安全保障局)が米国内の電話通信や、世界中のインターネット通信を盗み見し続けていることが、NSAのスノーデンの暴露で発覚した時、米議会でNSAの権限を予算面から剥奪しようとする法案が上程され、わずか12票差でぎりぎり否決された。議会がNSAの権限を削るという、覇権放棄の法律が可決されかねない、画期的な状況だった。議会で覇権放棄の方向が強まっていることから考えて、シリア空爆の法案が否決される可能性は十分にある。 (◆テロ対策への不信) (Obama faces challenges convincing Congress)
米議会がシリア空爆を承認するか、否決するかは、世界に対する米国の今後の姿勢を決定する、米国と世界にとって非常に重要なものになるだろう。米議会がシリア空爆案を可決した場合、議会の信任を得たオバマは、米国単独でシリアを空爆するだろう。この選択肢が持つ問題は、米国が選んだ標的の確度に疑問があり、2-3日以内の短期的な空爆でシリア軍の弱体化という目的が達せられる可能性が低いことだ。米軍の幹部自身が、軍の機関紙にそう語っている。 (Limiting action to missile strikes in Syria could prove difficult, analysts say - Stars and Stripes)
短期の空爆で効果が上がらない場合、そのまま放置するとアサド政権が軍事的、国際政治的に息を吹き返し、内戦に勝ってしまう。それを防ぐために米国が深入りすると、米地上軍を派遣するとか、イランも空爆するという話になり、米軍がイラクで懲りて最も嫌がる中東での戦争の泥沼に再びはまり、米イスラエルとイランが本格戦争になる中東大戦争になりかねない。単独でシリアに侵攻する米国は、泥沼化の後始末を単独でやらねばならない。オバマは、せっかくブッシュが無茶苦茶をやった泥沼占領のイラクから何とか撤退したのに、またシリアの泥沼占領にはまり、米国は過剰派兵による軍事破綻に再直面する。 (Barack Obama's dramatic gamble on Syria)
逆に、米議会がシリア空爆案を否決した場合、オバマ政権の国際・国内的な政治信用が大きく崩れる。米政界で孤立主義が強まり、特に孤立主義と単独覇権主義の相克が強い共和党で、覇権を希求する方向が弱まり、覇権を放棄する方向が強まる。オバマはシリア空爆をしないだけでなく、シリア内戦やその他の中東の問題に対する関与の全体を低下させる可能性がある。共和党では、リバタリアンで覇権放棄(孤立主義)の傾向を持つランド・ポール上院議員が人気を獲得し、次期大統領候補として英雄視されるかもしれない。FTは早々と「いずれ世界は、米国が世界の警察官をやめたことを惜しむだろう」と題する記事を出した。 (The world would miss the American policeman) (Rand Paul Suspects Chemical Attacks `Launched by Rebels, Not Syrian Army')
すでにオバマ政権は、シリアを空爆できない場合の次善の策として、シリア政府軍が化学兵器を勝手に使えないよう、ロシアが国連を代表してシリア政府軍の化学兵器を管理する案を検討している。「シリア政府が保有する化学兵器が危険だ」という点だけを見るなら、米国が空爆でシリア政府を制裁できないなら、シリアと親しいロシアに頼んでシリア政府の化学兵器を管理してもらうのが次善の策になる。しかし、化学兵器を使ったのが政府軍でなく反政府勢力だとなると、話がまったく頓珍漢になる。 (Obama stuck with grenade in hand that he doesn't want to throw)
頓珍漢な話なのだが、ロシアやシリア政府は、米国が提案するなら、米国が二度とシリアを空爆すると言わないと約束することを条件に、この話に喜んで乗り、国連調査の結論を曖昧化し、誰が化学兵器を使ったか曖昧にする(シリア政府軍が使ったんだと米国や親米諸国が言い続けることを黙認する)ことを了承しそうだ。米政府や米英マスコミは権威を保てるし、シリア政府は政権を維持でき、ロシアはシリアに対する自国の利権が認められる。国際政治では、ときどきこの手の頓珍漢なことが「現実策」と称して起きる(頓珍漢さを指摘する人の方が、頓珍漢なやつだと言われてしまう)。
9月5日からロシアでオバマも出席してG20サミットが行われる。シリア問題は主題の一つだ。シリアの化学兵器をロシアが管理する案は、表面化せずに終わるかもしれないが、ロシアのプーチンがシリア問題で、アサドに化学兵器の濡れ衣をかけたオバマやキャメロンを非難するだろう。シリア問題は3カ月前の北アイルランドでのG8サミットでも話し合われ、そこではアサドを一人で擁護するプーチンが悪役だったが、今回のG20サミットでは、プーチンが善玉で米英が悪役だ。シリア問題が覇権の多極化とつながっていることを感じさせる。プーチンは「米国はこの10年、国際問題を解決するためと称して、いくつもの国に侵攻したが、それによって問題が解決された国は一つもなかった」と明言している。そのとおりだ。 (Putin sees chance to turn tables on Obama at G-20)
米議会がシリア空爆案を可決すれば、米国は再び中東の戦争にはまり込み、軍事力を浪費し、何十(百)万人もの人々を殺しつつ、軍事面から信用を失墜していく。空爆案が否決されれば、米国は国際政治の面から信用を失墜していく。オバマの今回のシリア空爆策は、米国史上最大の外交的な失敗であると、すでに指摘されている。 (America Totally Discredited Paul Craig Roberts)
米政府はなぜ、このような下手くそな策を展開してしまったのか。米国が、過剰に下手くそな国際戦略によって、自滅的に覇権を失墜し、横から立て直し策を試みる英国を邪険にしたり、引っかけて失敗させたりして、返す刀でロシアや中国といった反米非米的な大国の台頭を誘発するのは、ベトナム戦争、イラク侵攻、アフガニスタン占領など、戦後の米国の多くの策に共通している。 (世界多極化:ニクソン戦略の完成)
今回も、オバマはキャメロンに「急いで議会に空爆を承認させてくれ」と要求し、キャメロンに危ない橋を渡らせて、失敗・落伍させている。もともとオバマは先代のブッシュと同様、英国に対して邪険で冷淡だった。それが急に「一緒にシリアを空爆しよう」と持ちかけた時点で、英国を引っかけて潰そうとする策だと、キャメロンは気づいたかもしれないが、英米同盟を復活させるまたとない機会であるだけに、断れなかったのだろう。
⑩(アメリカの戦略を誤解している日本人)
2005年11月29日 田中 宇
http://tanakanews.com/f1129japan.htm
前回の記事では「米軍は日本から撤退している」「米軍の撤退に対応するため、小泉政権は、憲法を改定し、自衛隊を強化しようとしている」「日本国内に憲法を改定できる雰囲気を作るため、小泉首相は靖国神社に参拝している」といった分析を展開した。私は、ふだんは日本の政界の動きをウォッチしていないのだが、前回の記事を書いたので、政界での憲法改定の動きを少し調べてみた。すると、興味深いことに気づいた。小泉政権は、憲法改定のプロセスを進めることに対し、ものすごく急いでいる、ということである。
象徴的なことの一つは、自民党で憲法改定の作業を進めている憲法起草委員会が、中曽根康弘元首相がとりまとめた憲法前文の草案を、全く採用しなかったことである。中曽根氏は、憲法起草委員会のメンバーで、前文について議論する小委員会の委員長をしていた。中曽根前文は「日本国民はアジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島々に、天皇を国民統合の象徴としていただき、和を尊び・・・」といった、日本人の愛国心や郷土愛を喚起するもので、自民党内の保守派が好む言い回しを集約した文章になっている。
自民党内からは、この前文に対する異論もあり、中曽根案をたたき台として、ある程度の時間をかけた議論が行われるものと予測されていた。ところが小泉首相の意を受けて動いていた憲法起草委員会の中心メンバー(事務局次長)である舛添要一参議院議員らは、中曽根前文をほとんど採用しない憲法草案を作り、10月28日に起草委員会として決定・発表してしまった。(関連記事)
舛添氏は「中曽根前文は復古的な内容で、公明党や民主党が憲法改定に賛成できなくなってしまうから削除した」という主旨の説明をしている。公明党と民主党が賛成すれば、憲法改定を発議するのに必要だと憲法96条で定められた国会の「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」が得られる。一方、中曽根氏は、議論が全く行われなかったと怒っている。小泉氏は、自民党内である程度の議論を行ってから公明・民主を抱き込む、というプロセスを経るだけの余裕がなかったことになる。(関連記事)
▼性急な在日米軍撤退に待ったなしの憲法改定
憲法草案は、前文以外の部分でも、公明・民主を抱き込めるようになっている。草案は9条について「戦争放棄」を定めた9条1項を現行憲法どおりに残す一方、「戦力の不保持」と「交戦権の不認」を定めた9条2項のみを改定し「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」を「内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する」と改定することにしている。
「戦争放棄」を削除すると、多くの国民の支持が得られなくなり、公明・民主も同意しにくいが、2項の変更だけの場合、交渉の余地が大幅に広がる。この点についても舛添氏らは、自民党内に9条1項の削除や改定を求める声があったのを無視して草案を決めている。
また自衛隊が昇格させて作る正規軍の名称も、党内には「国防軍」にしたいという主張があったが、公明・民主を抱き込めるよう「自衛軍」とした。
舛添氏は、党の会合で「今回の憲法改定は、9条2項を変えることに尽きると言っても良い」と説明している。つまり、自衛隊の存在を正規軍として憲法に明記することが今回の憲法改定の目的であり、それを実現するためには、自民党内のいろいろな主張につき合うことより、公明・民主を抱き込んで国会の3分の2の賛成を得ることの方がはるかに重要だ、というわけである。
憲法とは、国のかたちを言葉にしたものである。本来なら、新しい憲法を作る際には、前文をどうするかとか、戦争に対する考え方をどうするか、といった「精神論」や「あるべきだ論」の議論が重要になる。その意味で「精神論が抜け落ちている」という中曽根氏の小泉批判は正しい。
なぜ小泉政権は、与党内の反対を独裁的に抑圧し、急いで自衛隊を正規軍に格上げせねばならないのか。私なりの答えは、先週すでに書いた。「米軍が日本から撤退するから」である。
イラクが泥沼化するまで、日本からの米軍の撤退は、もう少し時間をかけて行われる予定だったのかもしれないが、今の米軍は、予算面でも人員面でも、全く余裕がない。アメリカ国防総省は議会から予算削減を求められているし、全米で行っている新兵募集も、必要数に満たない応募しか得られない状態が続いている。そのため世界的な米軍の再編(効率化)は待ったなしの状態だ。
10月には、性急な軍事再編に協力できない日本政府の姿勢に苛立つラムズフェルド国防長官が、東アジア歴訪の際、日本政府を牽制する意味を込め、予定を変更して、日本だけ立ち寄らなかった。米軍が一方的に在日米軍の空洞化を進め出している中で、小泉政権としては、早く自衛隊を正規軍に昇格させる憲法改定を実現せねばならない状態に追い込まれている。中曽根氏らの悠長な精神論議につき合っている暇はないというわけだ。(関連記事)
▼対米従属ではなく裁量増大を目指したアーミテージ・レポート
米軍が日本から出ていくという表明はすでに、日本の官僚や専門家らの間で、ブッシュ政権の対日政策の要諦とみなされている2000年の論文「アーミテージ・レポート」に書かれている。この論文には「アメリカは、戦力を低下させない範囲で、日本における米軍の駐留を削減していくことを目指すべきである」と書かれている。(レポートはこちら)
この論文は、ブッシュ政権が誕生した2000年の大統領選挙を前に、共和党のリチャード・アーミテージ(前国防次官)と、民主党のジョセフ・ナイ(元国防次官補、ハーバード大教授)らが中心となり、次の政権の対日政策の草案として超党派でまとめたもので、アメリカでは「アーミテージ・ナイ・レポート」(Armitage-Nye Report)と呼ばれている。
この報告書は、アメリカを転換させた911やイラク戦争の前に書かれたものだ。911後、米政権内では「タカ派」が強くなり「国際協調派」であるアーミテージやナイの影響力は低下した観がある。それを考えると、911前に作られたアーミテージ・レポートは、もはや過去の文書とも思える。
ところが日米の間で実際に起きていることを見ると、軍事問題に限るなら、このレポートで提案されている「沖縄の在日米軍を縮小すべき」「日米は、軍事施設の共用化や、訓練の合同化を進めるべき」「日米は、ミサイル防衛の分野で協力を深めるべき」といった事項は、今も貫かれ、実現されている。
(この論文の提案の中でも「日米共同でロシアの極東開発を支援すべきだ」といった外交面の提案などは、実現していない)
日本人の多くは、このレポートに込められた戦略は「アメリカが日本を、従来の経済面だけでなく、軍事面でも、アメリカの好きなように使える下請け的存在に変え、アメリカのために日本が派兵する状態を作ろうとしている」というもので、日本に対米従属の永続を強いるものだと考えている。ところが私が読み解くところでは、この理解は間違いである。この論文には「日本はアメリカに従属するのではなく、対等な同盟関係に近づくべきだ」と書かれている。
国際社会から「危険な国」とみなされていた敗戦後の日本は、軍事・外交の権限を持たせてもらえず、代わりにアメリカが日本に軍事駐留し、安全を保障してやっていた。しかし、この状態はアメリカの負担が大きい。もう日本を信頼しても良い時期に来ているので、アメリカは日本に軍事的・外交的な自由裁量を与え、防衛技能を日本に教えるための施設共用のプロセスを経たうえで、米軍は出ていくべきだ、というのがアーミテージ・レポートの精神であると読みとれる。
▼アメリカの外交負担軽減のための多極化
「しかし、それはあくまでも、日本が対米従属の態度を崩さない限り、という制限がついているのではないか」と考える人もいるかもしれない。ところがアーミテージの論文では、日本政府が1997年のアジア通貨危機の際、アメリカを含まない「アジア版IMF」を作る構想を打ち出したことを例に挙げつつ「アメリカは、日本が(日米2国間ではなく)多国間協調的な外交を展開することを、自国のアイデンティティとして重視していることを、理解し認めてやるべきだ」と書いている。
論文執筆の中心人物の一人であるジョセフ・ナイは最近、アメリカ抜きの東アジア共同体を作ることを目指した、今年12月に開かれる「東アジア・サミット」について「アメリカの外交負担を軽減するために役立つので、アメリカは自国抜きのアジア共同体の出現を容認すべきだ」と書いている。(関連記事)
アーミテージ・レポートの精神は「日本に対する対米従属の強化」「アメリカによる世界支配の強化」とは逆方向で、むしろ「アメリカだけが背負ってきた外交負担を分散できるバーデンシェアリングの利点があるので、ある程度、世界が多極化した方が良い」「アメリカの意向を気にせず、日本も自由に国際影響力を拡大してかまわない」という姿勢だと感じられる。
冷戦後、アメリカは日本だけでなく、西欧諸国に対しても、大幅な自由裁量の拡大を認め、東西ドイツが統一してドイツが強国になることを容認し、西欧諸国が市場統合や通貨統合を進め、EUがアメリカに対抗できる勢力になることを黙認した。これらはいずれも、アメリカにとって自国の覇権の負担を軽減する意味があったと感じられる。EUはアメリカの容認を受けて覇権を拡大したが、対米従属の方が心地よい日本は、ほとんど姿勢を変えなかった。
▼日本の反中国は黙認しつつ米は親中国
「アジア版IMF」は日本の提唱である一方、「東アジア共同体」は中国が主導である。「アメリカは日本のことは信頼しているが、中国のことは信頼していないはずだ」と考える人が多いかもしれない。
ここで、私が日本人の2つ目の誤解だと思っていることが表れてくる。日本人の多くは「アメリカは中国の台頭を許さないはずだ」と考えているが、私から見ると、それは間違いである。アメリカは、中国の台頭を黙認している。米政界に、反中国派が存在しているのは確かだが、レーガン、パパブッシュ、クリントン、息子ブッシュと、歴代の米政権は、中国の大国化を容認する方向に動き続けている。
それなら、アメリカは小泉首相の靖国神社参拝に反対なのか、というと、そうでもない。アメリカは、自国は親中国の傾向を強める一方で、日本が反中国の姿勢をとることは容認している。アーミテージ・レポートでは、この件に関してただ一点「日本が尖閣諸島を含む自国領土を防衛することに、アメリカは協力することを再宣言すべきだ」と書いている。
私はこの部分に「日本が尖閣諸島を自国領だと主張して中国との対立を激化させることを、アメリカは容認する」という意図があるのではないかと感じた。日本がアメリカに頼らない防衛力を持つために国内のナショナリズムを扇動する必要があるなら、尖閣でも靖国でも、何でも使って良いとアメリカは認めますよ、ということではないかと思う。
日本では、今年2月の日米の「2+2協議」で、台湾海峡の問題を平和的に解決することが日米の共通目標であると初めて両国が表明したことをもって、日米が共同で中国を封じ込める姿勢を強めたと解釈されている。しかし2+2協議後、ライス国務長官が、台中対立の問題に対してアメリカは立場を変えていないと強調し、中国を刺激せぬよう配慮する姿勢を見せるなど、米側は「日本と組んで中国を封じ込める」という動きを採りたがっていないというメッセージを発した。(関連記事)
「日米が協力して中国を封じ込める」という構図作りは、憲法改定など米軍撤退に応じた新しい措置を行う必要がある日本政府が、日本国民を好戦的な方向に引っ張っていくために発したイメージ戦略(プロパガンダ)であろう。日本人の大多数は、これに乗せられている。台湾でも「独立派」の人々は、この新構図の登場に歓喜したが、その後、台湾上層部の人々は、この構図は幻影であって本物ではないと分かったらしく、陳水扁政権は、独立派からも統一派からも距離を置く中間路線を維持している。
「日米で中国と敵対する」というのと同様に「アメリカは日本に従属を求め続けている」というプロパガンダを発しているのも日本政府、特に外務省である。外務省は戦後、一貫して対米従属の外交だけをやってきたので、対米従属以外の国是に対応できない。「鎖国」だけをやってきたので、黒船が来ても「外交」ができなかった江戸幕府の家臣たちと同じである。
▼911で方針の大転換
アーミテージ・レポートは日本に対米従属を要求していないが、日本が親米を貫く続く前提で書かれていることは確かである。レポートは「日米関係を米英関係のようにすることが目標だ」と書かれている。
冷戦後のアメリカは、日本や西欧が親米国であり続けることを前提に、親米の先進国がG7などの場に集まり、集団的に世界を統治し、外交や軍事の負担も分散するという「国際協調戦略」を採っていた。アメリカは「人権」「民主」「環境」など、人類にとって普遍的な権利とされるキーワードを使い、それを守るといううたい文句で、日欧など先進諸国を束ねようとした。
だがこの方針は、2001年の911事件から03年のイラク侵攻にかけて、ブッシュ政権が掲げた「単独覇権主義」に取って代わられた。「アメリカは世界最強なのだから、単独で世界を動かせる。どこの国とも同盟関係を結ぶ必要はない。反逆する国は、アメリカ単独で先制攻撃して潰す」というのが新方針となった。
この新方針は世界を驚かせ、独仏などは反米傾向を強めたが、外務省など日本政府は「対米従属でない国は潰される時代が来たのだ」「われわれの方針に間違いはなかった」と考えたようだ。ところがその後アメリカは、短期間に快勝できるはずのイラク侵攻が泥沼化し、軍事力と財政力を浪費したうえ、開戦事由としたイラクの大量破壊兵器について米高官たちがウソをついていたことが明らかになり、国際的な信用も失ってしまった。
さらに奇怪なことに、ブッシュ政権は、イラク戦争の失敗が露呈した後も単独覇権主義的な態度を変えず、イランやシリア、キューバなどを攻撃する姿勢をとり続けた。その結果、欧州諸国との関係は回復せず、国際協調体制は失われたままとなっている。
その一方でアメリカは、中国やロシアといった、アメリカが親しみを感じないはずの国々が台頭することを容認した。北朝鮮問題を中国に任せた結果、朝鮮半島はアメリカの覇権下から中国の覇権下に移った。アメリカは、中央アジアで人権問題を振りかざしすぎた結果、ウズベキスタンなどが親ロシアに寝返り、米軍基地を追い出した。アメリカは、ロシアでエリツィン時代に強かった親米のオリガルヒ(新興大資本家)が、プーチンの時代になって潰されるのを黙認した。(関連記事)
中国やロシアは、イランやベネズエラといった反米の国々とも親交を深め、アメリカ抜きの緩やかな世界同盟体(非米同盟)ができ、アメリカから覇権を奪っている。
▼先進国に失望し反米諸国に覇権を分散する
ブッシュ政権は、非米同盟の勃興を黙認しており、政権中枢のネオコンの人々らは、泥沼化すると分かっていてイラクに侵攻し、侵攻後もわざとイラク人を怒らせる戦略が採られていた。このことから私は、米中枢には、イラクをわざと失敗させ、従来はアメリカだけが持っていた覇権を世界に分散させるという秘密の作戦を行った人々(多極主義者)がいるのではないか、と考えるようになった。アメリカは「単独覇権主義」を掲げたことによって、多極主義を実現したのである。
911以前の国際協調主義と、イラク泥沼化後の隠然的な多極主義とは、実は似ているところがある。国際協調主義は、冷戦終結直後にアメリカが単独で持っていた世界覇権を、西欧などの親米の先進諸国に分散させるものだった。一方、多極主義は、覇権を反米(非米)の諸大国に分散させるものである。
国際協調主義の限界は、日本の存在に象徴的に表れている。アメリカから「覇権をあげよう」と誘われても「要りません」という国が多いのである。これでは、覇権分散の見返りとして負担の分散を実現しようとしていたアメリカは、困ってしまう。このことは、以前の記事「行き詰まる覇権のババ抜き」と「アジアでも米中の覇権のババ抜き」に書いた。
日欧やカナダ、オーストラリアなどの先進国は、いずれも親米なのでアメリカに頼る傾向が強いのに対し、ロシア、中国、ブラジル、イラン、ベネズエラといった、反米の立場に置かれている国々は、各時代の政権によって差はあるものの「アメリカには頼れない」「頼りたくない」と考える傾向が強い。これらの国々は、アメリカと対峙してきただけに、アメリカが退却したらその分、前に出ることが必要だと考えている。
国際協調主義によって、先進国の間で覇権を分散しようとした米中枢の人々は、これがうまくいかないと判断した結果、911からイラク戦争にかけての一連の出来事を活用し、反米諸国の間に覇権を分散させることにしたのではないか、もしくは独仏やサウジアラビアなどの親米国を怒らせて反米に転じさせ、それらの国々が覇権を求めるように仕掛けたのではないか、というのが私の推論である。
そして、アメリカが覇権を分散したかった理由は、1980年代以来の世界的な経済民営化の結果、覇権が経済利益に結びつかなくなったからであると考える。(関連記事)
▼黒幕は誰か
この考えに基づくと、アメリカ中枢の国際協調主義者と多極主義者、単独覇権主義者は、対立し合っているのではなく、同じ勢力が方針を転換したり、作戦の一部として演技をしていたのではないかと思われてくる。国際協調主義者だった人々は、戦略がうまく行かないと判断し、多極主義に移行し、その際の戦術として「単独覇権主義」を振りかざしたのではないか、と思われる。
この勢力は、アメリカを中枢で動かしている人々であるが、ブッシュ大統領が自覚的にこの戦略転換に参加していたとは考えにくい。彼は、使われて踊らされているだけだろう。ネオコン諸氏の中にも、意識的な参加者と、「イスラエルのために」などと信じて参加して騙された人の両方がいそうだ。チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官は、軍事産業などの利益代理人の色彩が強く、これまた業界のために動いたつもりが、多極主義者の自滅作戦に使われる結果になったのではないか。
真の黒幕が誰か、というのはまだ確定しにくいが、一つの推測としては、キッシンジャー元国務長官らの一派、ロックフェラー財閥、そしてイギリスのロスチャイルド財閥などという、ひとかたまりの勢力が、欧米の大資本家たちの利益を代弁するかたちで、この転換を思いついたのではないか、と考えることができる。
あまり推論を広げると「貴殿こそアメリカの戦略を誤解している」というメールが意地悪な読者から届きそうなのでこのへんで止めるが、ほぼ間違いなく言えることは、今のアメリカは、日本に従属を求めていないし、中国包囲網を強化する方向にもないということだ。これらは、多くの日本人が思い込んでいる誤解である。
⑪(ますます好戦的になる米政界)
2014年11月27日 田中 宇
http://tanakanews.com/141127hawk.htm
2016年の米大統領選挙に出馬すべく、民主党のヒラリー・クリントン(元国務長官、元上院議員、元大統領夫人)が動いている。ヒラリー陣営は、911後の大統領候補の中で最も好戦的な姿勢をとっている。米議会は、10月の中間選挙で上下院とも共和党が多数派を取り、好戦的な議員たちが席巻している。共和党に負けないよう、ヒラリーは好戦的な政策を以前より明確に強調している。ヒラリーは昨年までオバマ政権で国務長官をつとめ、最も好戦的な閣僚の一人だった。 (Hillary Clinton Joins Republicans in Call for War)
ヒラリーは大統領選挙に勝つために、できるだけ好戦的にならねばらないと考えているようだ。彼女は今夏、同じ民主党のオバマ大統領を、敵に宥和しすぎる(好戦性が足りない)と批判し始めた。彼女は国務長官時代、シリア反政府勢力に大々的に武器支援してアサド政権を倒すべきだと主張していたが、オバマがそれを拒否しているうちに、アサド政権の政府軍が反政府勢力を掃討し、最近では反政府勢力がISISに合流して反米に転じた。自分の主張通り反政府派に武器支援していたら、こんな失敗にならなかったと、ヒラリーはオバマを批判した。彼女は親イスラエルでもあるので中東和平問題でパレスチナ人だけを非難するし、イランに核兵器開発の濡れ衣を着せて非難するのも得意だ。 (Hillary Clinton takes swipe at Obama over Syria)
ヒラリーの政策参謀の多くは、夫のビル・クリントン政権で国際戦略を練った人々だ。彼らは「ビーコン戦略社(Beacon Strategies)」という会社に集まり、選挙戦略を練っている。その中のひとりであるレオン・パネッタは、オバマ政権でCIA長官をつとめ、当時はオバマが決めたイラクからの米軍総撤退に賛成する穏健派だった。しかし今では、ヒラリーの参謀として「オバマはイラクから総撤退せず1万人ぐらい米兵を残すべきだった」と、昔と正反対のことを言っている。 (Hillary Clinton prepares to launch the most formidable hawkish presidential campaign in a generation)
共和党から大統領選に出馬しそうなランド・ポール上院議員も、無理矢理に好戦的な姿勢をとっている。彼は、連邦政府の肥大化や覇権、国際介入を嫌い、他国に介入しない(孤立主義の)小さな政府を希求し、草の根運動から広範に支援されたリバタリアンのロン・ポール元下院議員の息子だ。軍事介入を嫌うリバタリアンは右からの反戦運動で、米国を中東の戦争に引っぱり込むイスラエルにも批判的だ。ランドも上院議員になったころは、海外の米軍基地の縮小や、米政府による対外支援の縮小を提唱していた。「イスラエルへの経済支援を減らすべき」とも言っていた。 (Rand Paul tries to peel away isolationist label)
しかし彼は、大統領をめざすようになった後「米国は世界に関与(介入)し続けるべきだ。やるに値する戦争は遂行すべきだ」とタカ派的な発言に転じた。イスラエルを支持する発言も繰り返し、対外支援を減らすリバタリアンの姿勢を残すふりをして「イスラエルを攻撃するパレスチナに対する支援を減らすべきだ」と表明し、イスラエル支援の法案も提出して、草の根の活動家たちを失望させている。父のロンポールはイラン核問題が米国の濡れ衣だと喝破しているが、息子のランドは大統領を狙うようになった後「イランは核武装しようとしている」と発言し、濡れ衣をかける好戦派の姿勢に転じた。 (Rand Paul, Israeli Slave, Proposes Cutting Aid to Palestine) (Rand Paul Plays the Israel Card) (Unlike Obama, Rand Paul and Congress have Israel's back)
ポールは最近、ISISと戦うためにイラクに米地上軍を再侵攻する法案を議会に提出している。米憲法では議会が戦争開始の権限を持つが、議会は真珠湾攻撃後の第二次大戦開戦以来、戦争開始の権限を行使しておらず、常に大統領が開戦してきた。リバタリアンはもともと戦争反対の意味で「大統領が勝手に戦争せぬよう、議会が開戦権限を取り戻すべきだ」と主張してきた。ランドはそれを逆手に取り「議会がISISとの地上軍戦争を開始すべきだ」と言って、好戦的な法案を提出した。 (Rand Paul Demands Declaration of War Against ISIS) (Rand Paul Suddenly Goes Very Silent On U.S. Airstrikes In Iraq)
ランドは、今年初めに米国のタカ派がウクライナの政権転覆を支援した時に批判していたが、その後、オバマがロシアに融和的すぎると批判してタカ派に転じている。 (Rand Paul's Wild Flip-Flopping On Russia And Ukraine)
ランドは今夏、ヒラリーを好戦派と非難したが、ランド自身、ヒラリーに劣らず好戦派になっている。ここから読みとれることは、米大統領になりたければ、地上軍侵攻をやりたがり、軍産複合体にすりより、イスラエルを偏愛してパレスチナやイランを濡れ衣的に非難し、ロシアを敵視せねばならないということだ。 (Rand Paul: Hillary Clinton Is A 'War Hawk')
オバマ自身、かつて軍事より外交を好む穏健派を自称していたが、最近はタカ派に転じている。彼は、駐留軍を一部残すべきだという軍(産複合体)の主張を無視してイラクとアフガニスタンから総撤退した。しかしオバマは中間選挙後、共和党穏健派出身で、イラクとアフガンからの米軍撤退や、防衛費の縮小を担当したヘーゲル国防長官を辞任させた(オバマは超党派的姿勢の象徴としてヘーゲルを共和党から迎え入れていた)。 (A Wartime President: Obama Moves More Hawkish)
後任に誰がなるにせよ、次の国防長官はヘーゲルよりも好戦的になり、米国の防衛予算もこれまでの減少傾向から増加に転じるだろうと英ガーディアン紙が書いている。 (Obama's new leader at the Pentagon will mean more war - not less)
オバマはこれまで、アフガン駐留米軍の撤退を続けてきたが、最近政策を転換し、来年駐留米軍を予定どおり減らさず、むしろ駐留米軍の戦闘の範囲を拡大すると秘密裏に決めたと報じられている。 (In a Shift, Obama Extends U.S. Role in Afghan Combat)
なぜ、911以来の米国の好戦策がイラクやアフガンで失敗したことが確定した今になって、オバマや両党の大統領候補が競うように好戦性を強め、米議会でもマケイン上院議員のようなゴリゴリの好戦派が席巻する事態が起きるのだろうか。
「中間選挙で、米国民がオバマの(穏健的、厭戦的な)政策に愛想を尽かしたことが明確になったからだ」という説明がマスコミなどでなされるが、そんなわけはない。米国民の大半は生活苦がひどくなり、中産階級が貧困層に転落する経済難だ。米国民の大半が政府の防衛費拡大、戦争拡大を支持することはない。米国民が戦争を支持しているという世論調査結果は、マスコミなど調査機関による歪曲が入っていると考えられる。米国では、選挙で不正が行われている疑いも以前からある。米国の政府やマスコミは、景況感や雇用統計、為替や株価の相場を操作する傾向が増している。世論調査や選挙で不正が行われていても不思議でない。 (アメリカで大規模な選挙不正が行われている?) (揺らぐ経済指標の信頼性)
歴史的に、マスコミは軍産複合体の傘下にある。戦争になると、マスコミは政府の戦争遂行者つまり軍産の言うことを聞かねばならない。第二次大戦後、40年間の冷戦時代や、その後の911以来の14年間、米国はずっと戦争状態だ。世論の歪曲は、軍産複合体が好む好戦派の政治家を有利にする。権力を持ちたい政治家ほど好戦的に振る舞い、軍産にすり寄る。ヒラリーやランドポールは、軍産が采配する選挙不正の構造を知りつつ、その体制下で当選を狙っているのでないか。
軍産傘下の好戦派が米政界で優勢なのは、今に始まったことでない。冷戦時代も、911後もそうだった。911後の好戦策の失敗が確定した今になって、好戦派が再び優勢になる理由は何か。私が提示できるのは「隠れ多極主義が、好戦策を過剰にやって失敗することで世界の覇権体制を多極化できると考えて軍産傘下の好戦派と合流し、米政界の全体が好戦派になったから」という説明だ。
これまで何度か書いたが、第二次大戦で覇権国となった米国には、覇権運営のやり方をめぐって2つの系統がある。一つは、国連の安保理常任理事国の5大国制度を作った多極主義で、南北米州は米国、欧州は英仏(独)、ユーラシアはロシア(ソ連)、東アジアは中国(日本)といったように、それぞれの地域の大国が自分の地域を影響圏として持ち、大国間の談合で世界を安定化する体制だ。国連を作ったロックフェラー家などが多極主義を推進してきた。
もう一つは米単独覇権主義で、米国が欧州を傘下に入れ、ソ連や中国を敵として恒久対立する冷戦構造がその具現化だった。戦後の国際政治体制は当初、多極主義で設計されたが、その後の冷戦開始でクーデター的(赤狩り、容共者たたき)に単独覇権主義に取って代わられた。冷戦を起こして単独覇権主義を推進したのは、軍産複合体(好戦派)と英国だった。
敵を必要とする単独覇権体制は、敵に仕立てられた地域(中露や途上諸国など)の経済発展を阻害するが、多極型体制にはそれがなく、世界中を経済発展させる利点がある。 (隠れ多極主義の歴史)
多極主義は潰えたかに見えたが、1972年の米中融和で復活し、1989年の冷戦終結につながった。多極主義者は好戦派のふりをして政権内に入り込み、過剰な好戦策をやってベトナム戦争を失敗に陥らせ、国内外で左派リベラルの反戦運動が激化するよう仕向けて軍産複合体を窮地に追い込み、ニクソンとキッシンジャー(隠れ多極主義者)が中国と和解して冷戦終結への道筋を開いた。負けていた多極主義者は、自分たちの真意を隠して好戦派の中に紛れ込み、好戦策を過激にやって劇的に失敗することで成功した(だから私は彼らを「隠れ多極主義」と呼んでいる)。 (世界多極化:ニクソン戦略の完成)
冷戦後10年ほど、政治より経済が重要な、例外的な時代が続いたが、911テロ事件という軍産複合体のクーデターを機に、米国はイスラム世界を恒久的な敵に仕立てる「テロ戦争」の体制に入り、単独覇権主義に戻った。しかし早速、隠れ多極主義者が「ネオコン」「タカ派」としてブッシュ政権の上層部に入り込み、彼らは大量破壊兵器の濡れ衣が後でばれる構図を持たせつつ無謀なイラク侵攻を挙行し、軍事と外交の両面で米国の覇権を劇的に浪費させた。 (911事件関連の記事)
09年から大統領になったオバマは、自滅的に好戦策をやめて外交重視の国際協調策に転換し、イラクとアフガンから米軍を撤退して米国覇権を守ろうとする策を採った。しかし、軍産の側は、アルカイダ系のイスラム過激派勢力を扇動してリビアのカダフィ政権を転覆したり、シリアで内戦を起こしたりして、米軍がリビアやシリアに軍事介入せねばならなくなる状況を作り出した。リビアやシリアの内戦が悪化する中、オバマは両国への本格的な軍事介入(地上軍派兵)を拒否し続けるのが困難になった。そこでオバマが昨夏に採ったのは、シリア問題の解決をロシアに丸投げし、ロシアの監督下でシリア政府が化学兵器を廃棄する多極主義的なシナリオだった。ロシアは最近、シリアのアサド政権を正式に支持する表明を放っている。ロシアの支持を得たので、アサドが転覆される可能性は大幅に減った。 (シリア空爆策の崩壊) (Russia backs Assad in Syria crisis)
オバマは、イラン核問題についても、イランの濃縮ウランを核燃料化し、兵器としての使用を困難にする工程をロシアが受注し、イランの原子力産業をロシアの傘下に入れることで核問題を解決する多極主義的な策を進めている。イラン核問題の交渉は先日6カ月延長されたが、いずれロシアに任せる形で解決するだろう。オバマは、軍産(好戦派)がシリアのアサドを敵視し、イランに核兵器開発の濡れ衣を着せている構図を受け入れて好戦派に同調しつつ、当然の帰結として事態がうまくいかなくなると、解決策としてロシアに丸投げし、シリアやイランをロシアの傘下に押しやってしまう多極主義をやっている。 (◆イランと和解しそうなオバマ) (プーチンが米国とイランを和解させる?)
今年6月には、軍産が敵として育てたISISがイラクの大都市モスルを陥落して台頭し、米地上軍がイラクに再介入すべきだとの主張が米政界で増えた。しかしオバマは地上軍の本格侵攻をせず、イランに「ISISとの戦いを拡大してくれるなら核問題を解決してやる」と持ちかけ、イランがイラクを傘下に入れることを容認する多極主義的なやり方で、ISISと戦おうとしている。 (◆敵としてイスラム国を作って戦争する米国)
軍産(国防総省)は、ISISを中東への恒久軍事駐留の道具(理由)として維持しておきたいので、ISISと本気で戦う気がない。オバマは、自分で直接現場の米軍司令官に命じてISISを本気で潰す空爆を続けている。国防総省の幹部たち(軍産)とオバマとの対立が激化し、ヘーゲル国防長官が辞任に追い込まれた。後任には、元国防次官のミシェル・フルールノアの名前が取り沙汰された。フルールノアは軍事産業とのつながりが深い好戦派で、彼女が国防長官になれば、オバマに対する軍産の圧力が強まりそうだった。しかし下馬評に挙がって数日後、フルールノアは国防長官にならないと表明した。リード上院議員ら他の候補も、国防長官にならないと言っている。 (With Hagel Gone, Does Anyone Really Want to Be Defense Secretary?)
これが意味するところは、たとえフルールノアが国防長官になっても、彼女や軍産がやりたいように(ISISの温存)はやれず、オバマの命令に従ってISISと本気で戦わねばならず、就任する利得がない、ということだ。ISISを本気で潰す戦いをやるオバマは「好戦的」に見えるが、実のところ逆で、ISISを本気で潰さずのさばらせることが好戦派(軍産)のやりたいことだ。 (◆イスラム国はアルカイダのブランド再編)
好戦派は今春来のウクライナ危機でロシアへの敵視も強めている。ロシアを敵視し制裁するほど、プーチンは中国との結束を強めて米国の覇権を引き倒そうとする動きを積極化する。中国が外貨備蓄として持っている米国債を売り放つと、米国の覇権は崩壊する。米政界で好戦派が席巻し、米国がロシアや中国を敵視するほど、中露は結束し、ブラジルや南アなども米国に愛想を尽かし、EUを率いるドイツも米国の言うことを聞かなくなり、静かに露中と協調するようになる。 (Merkel offers Russia trade talks olive branch)
911やイラク戦争のころは、国際的にロシアの影響力は今より少なく、露中の結束もそれほど強くなく、経済面でも中国より米国の方が優勢だった。しかしリーマン危機やオバマのロシア依存の中東政策などを経た今、ロシアの国際政治力と中露結束が強まり、中国は購買力平価でGDPが米国を超えている。米国は、国際政治力が落ち、経済も金融バブル膨張のひどさが顕著になっている。 (◆金融危機を予測するざわめき)
このように中露と米国の優劣が逆転している中で、米国が以前に増して好戦的になり、中露への敵視を強めると、中露は米国の覇権を崩して多極型の覇権に転換する試みを増強し、今後いずれかの時点でその転換が具現化し、米国で金融危機とドル・米国債の崩壊が起こり、覇権体制の多極化が実現する。これは、米国の多極主義者たちの目標の達成でもある。
もとから好戦的な軍産(単独覇権主義者)と、好戦策をやることで多極化を達成できる(隠れ)多極主義者という、米国を動かしてきた2つの勢力の両方が、好戦策をやることを望んでいるので、米政界はますます好戦派に席巻されている。イラク占領の失敗以来、一時低調になっていた好戦派が、今また再び台頭してきたのは、中露が結束して強くなり、この局面で米国が中露敵視の好戦策を過激にやれば、中露が本気で米国に対抗し、米国覇権を崩して世界を多極化できるからだろう。米国は今後、単独覇権が崩れるまで好戦的な姿勢をやめないだろう。
⑫(潜水艦とともに消えた日豪亜同盟)
2016年5月6日 田中 宇
http://tanakanews.com/160506submarine.php
4月26日、オーストラリア政府が、同国史上最大の軍事事業となる12隻の海軍潜水艦の建造を、以前に予測されていた日本勢(三菱と川重)でなく、フランス勢(国営造船所、DCNS)に発注すると発表した。豪州のテレビ局がその数日前に、豪政府が閣議(安全保障会議)を開き、日本に発注しないことを決めたと報じており、先に(米国が推していた)日本を外すことを決めてから、最終的な発注先を決めた感じだ。 (It's Official: France's DCNS Wins Australia's $50 Billion Future Submarine Contract) (Submarine deal: Successful bid for new Royal Australian Navy boats to be announced next week)
4月に入り、豪州沖で日豪合同軍事演習が行われたり、日本自衛隊の潜水艦が戦後初めてシドニーに寄港したりして、日豪の軍事協調が喧伝され、日本が豪州の潜水艦を受注する下地が整えられていたかに見えた。それだけに、フランスへの発注は驚きをもって報じられた。豪ターンブル政権は、豪国内での建造に消極的だった日本勢を外し、豪国内で建造する度合いの高い仏勢に発注することで、豪州南部のアデレードの国営造船所の雇用を増やしてやり、7月の選挙に勝つための策としたのだとか、フランスのDCNSの豪州法人の代表が豪防衛省の元高官で政治力が強く、海外での受注経験がない日本勢を出しぬいたのだとか言われている。 (Japanese unlikely to supply our submarines) (How France Sank Japan to Win Australia's $40 Billion Submarine Deal) (Thousands of jobs promised in a $50b billion dollar contract to build submarines in Adelaide) (Japan Falls Behind in Race for Australian Submarine Contract)
私は、豪州が日本に発注したくなかった、もっと大きな地政学的な理由があると考えている。それは、潜水艦を日本に発注すると、今後20年以上にわたって日本との同盟関係を強めざるを得ないが、米国の覇権が衰退していきそうな今後の10-20年間に日本が国際的にどんな姿勢をとっていくか見極められない流動的な現状の中で、豪州が、日本との同盟強化に踏み切れなかったことだ。 (D-day approaches for vital submarine choice)
豪政府が潜水艦の発注先を検討していたこの半年ほどの期間は、米国の覇権のゆらぎが大きくなった時期でもあった。米国はこの半年に、シリアやイランといった中東の覇権をロシアに譲渡したし、米連銀が日銀や欧州中銀を巻き込んで続けてきたドル延命策(QEやマイナス金利)の失敗感が強まったのもこの半年だ。次期米大統領の可能性が高まる共和党のトランプ候補が、財政負担が大きすぎるとして日本や韓国に駐留している米軍の撤退を選択肢として表明したのも今年だ。それまで、米国の覇権がずっと続くことだけを前提に国際戦略を立てられたのが、この半年で、米国が(意図的に)覇権を減退するかもしれないことを前提の中に加味せねばならなくなった。 (Abysmal submarine process a slap in the face to Japan)
潜水艦は、兵器の中でも機密が多い分野だ。今回の建造は、豪海軍の潜水艦のすべてを新型と入れ替え、現行のコリンズ級の潜水艦(6隻)をすべて退役させる大規模な計画だ。新型潜水艦は30年使う予定で、その間に、豪州と発注先の国の関係が大きく変化するとまずい。日本と豪州は従来、両国とも米国の同盟国として親密な関係にあった。だが今後、米国の覇権が低下し、それと反比例して中国の台頭が顕著になった場合、日本と豪州の国際戦略が相互に協調できるものであり続けるとは限らない。 (日豪は太平洋の第3極になるか)
豪州は、数年前から、衰退する米国と台頭する中国という2大国の両方との距離感のバランスをうまく取ることを国家戦略としている。豪州の政府内や政界には、対米同盟重視派(対米従属派)とバランス重視派がおり、アボット前首相は対米重視派で、ターンブル現首相はバランス重視派のようだ。ターンブルがアボットを自由党の党首選挙で破って首相の座を奪った昨秋が、バランス派が強くなる転換点だった。米中間のバランス重視に傾く豪州と対照的に、日本は、米国の衰退傾向を全く無視して米国との同盟関係のみを重視し、対米従属を続けるため米国の中国包囲網策に乗って中国敵視を続けている。米国の衰退を全く無視する日本に対し、豪州が懸念を抱くのは当然だ。 (Why Japan Lost the Bid to Build Australia's New Subs)
豪州の権威ある外交問題のシンクタンクであるローウィ国際問題研究所では、この件についてウェブ上で議論が交わされてきた。論点の一つは、米国が中国敵視を今より強め、日本が追随して中国敵視を強めた場合、豪州も日米に追随して中国敵視を強めるということでいいのかどうか、という点だった。このシナリオが現実になった場合、豪州が米中バランス外交を続ける(中国と戦争したくない)なら、日米から距離を置く必要がある。潜水艦を日本に発注しない方がいいことになる。 (Japanese subs: A once-in-a-generation opportunity) (What the submarine contract means to Japan) (The case for Japanese subs is based on dangerous assumptions about Asia)
もう一つの論点は、もし米国が軍事政治力の低下によって中国敵視をやめた場合、日本はどうするだろうかというものだ。日本は米国抜きで(核武装して)中国敵視を続けるか、もしくは中国との敵対を避けて対中従属に動くか(特に中国が日本のプライドを傷つけないように配慮した場合)という話になり、どちらの場合でも、敵対と従属という両極端のどちらかしかない日本の硬直した(もしくは浅薄な)姿勢は、中国との関係について慎重にバランスをとってきた豪州にとって受け入れられず、日本と同盟関係を強めることになる日本への潜水艦発注はやめた方がいいという意見が出ていた。 (With this ring...: Japan's sub bid is more than a first date) (Japan's submarine bid is a first date, not a marriage proposal) (Does Japan expect an alliance with Australia as part of a submarine deal?) (What sort of power does Japan want to be?)
敵対関係の中で、形成が不利になっても早めに柔軟にうまく転換する道を模索せずに敵対一本槍をやめず、敗北が決定的になると一転して相手国に対する従属と追従の態度に一気に転換する。これは日本が第二次大戦で敵だった米英豪に対してとった態度だ。豪州は対日戦の当事者だったので、日本のそうした(間抜けな)特質をよく覚えているはずだ。その上で今の日本を豪州から見ると、中国に対し、かつて米英豪にやったように硬直した下手くそな一本槍の敵対策をやっている。日本の公的な言論の場では、米国が覇権を後退させる可能性について全く語られていないし、日本は中国に負けるかもしれないので敵対を緩和した方がいいと提案する者は「非国民」扱いされる。国民の多くは、この件について考えないようにしている。昭和19年と何も変わっていない。豪州が、日本と組むことを躊躇するのは当然だ。 (Mugabe in Tokyo: The warping of Japanese foreign policy)
もととも豪州に対し、潜水艦を日本に発注するのが良いと勧めてきたのは米国だ。米政府は、独仏に対する不信感を表向きの理由に、独仏が作った潜水艦に米国製の新型兵器を搭載したくないので日本に発注するのが良いと豪州に圧力をかけた。豪州のアボット前首相は、この米国の勧めにしたがい2014年、安倍首相に対し日本への発注を約束した。日本としては、米国の後押し(七光り)を受けて豪州から潜水艦を受注することで、対米従属の強化と、自国の軍事産業の育成の両方がかなえられる。安倍政権は、製造機密の海外移転をいやがる三菱など業界側を説得し(叱りつけ)、豪州からの潜水艦受注に乗り出した。 (CSIS report argues for strong US-Japan-Australia alliance against China)
米国は同時期に、日豪に対し、中国が軍事行動を拡大する南シナ海の警備や対中威嚇を、米国から肩代わりする形で日豪がやってくれと求めた。豪州に対し、潜水艦を日本に発注しろと米国が勧めた真の理由は、軍事機密のかたまりである潜水艦の受発注を通じて日豪に軍事同盟をさせつつ、日豪が米国に代わって中国包囲網の維持強化をやる態勢を作ることだったと考えられる。日本政府は、豪州と組んで中国を敵視するという、米国から与えられた新たな任務をこなすことで、日本の対米従属を何十年か延長できると考え、豪州に対し、米国との同盟強化のために潜水艦を日本に発注し、対中包囲網としての日豪米軍事協調を強めようと売り込んだ。 (Japan sees Chinese hand in decision to overlook Soryu)
豪州に対する日本の売り込み方は、潜水艦を機に日米豪の同盟を強化し、中国への敵視を強めようという一本調子だった。日本外務省は近年、省をあげて「ネトウヨ」化しており、対中敵視と対米従属のみに固執している。外務省で米中バランス策を語る者は出世できない状態だろうから、省内でこっそり米中バランス策が検討されているとは考えにくい。日本政府が、国内で全く検討されていない米中バランス策に立った日豪同盟を豪州に提案していたはずがない。ローウィ研究所での議論から考えて、潜水艦の発注先を決めるに際し、豪政府側は日本に対し、対米従属以外の国策があるのかどうか、対米従属できなくなったらどうするつもりか、といった日本の基本戦略について尋ねたはずだ。これらの基本戦略について、日本では公式にも非公式にもまったく議論がない。だから日本は、豪州に対しても十分な答えができなかったと考えられる。豪州は日本に見切りをつけ、フランスに潜水艦を発注した。 (Japan's submarine bid looks sunk)
豪国防省の戦略立案担当の元高官で今は大学教授のヒュー・ホワイト(Hugh White)は、以前から「豪州が潜水艦を日本に発注することは、日豪が軍事同盟を強めることを意味する」と言い続けてきた。同時に「日本は、同盟強化と潜水艦を絡めて売り込んでいるが、フランスやドイツはそれがないので独仏にすべきだ」とも主張していた。彼は、豪州内の対米従属派(対日発注派)から批判されていたが、ターンブル政権はホワイトの主張を採用し、フランスに発注した。 (If we strike a deal with Japan, we're buying more than submarines) (Hugh White on `The China Choice')
今回の日本の不成功は、日本側が引き起こした面もある。日本では、安倍首相の周辺が、潜水艦を受注して豪州と同盟を強化することを強く望んでいたが、外務省や防衛省、防衛産業界には、潜水艦の受注に消極的な勢力がかなりいた。日本の高度な軍事技術を、まだ同盟国でない豪州に教えたくないというのが理由と報じられてきたが、国際政治的に見ると、要点はそこでない。潜水艦を機に豪州と同盟を組んでしまうと、米国が「日本は豪州と組んだので米軍がいなくても大丈夫だ」と言い出し、日本の対米従属を難しくしてしまうという懸念が、外務省など官僚側にある。米政府から直接に勧められて潜水艦の売り込みを続けた安倍首相に、官僚が正面から反対することはできなかったが、戦略をめぐる日豪の問答で、豪州が満足しない答えしか出さないことで、外務省は潜水艦受注をつぶすことができた。 (Goodbye Option J: The view in Japan) (Japan considers direct call with Malcolm Turnbull in last-ditch option for $50 billion submarine project)
昨秋、豪潜水艦を日本が受注する可能性が高まった時、私は、日豪が同盟しない限り潜水艦技術を共有できないと豪州側で指摘されていたことをもとに、潜水艦を皮切りに日豪が同盟を強化し、日豪の間の海域にあるフィリピンやベトナム、インドネシアなども巻き込んで「日豪亜同盟」形成していく可能性について書いた。今回の豪州の決定の周辺にある、ロウィ研究所の議論などを見ていくと、日本との関係を同盟へと強化しない方がいいと考えて豪州が潜水艦発注をやめたことがうかがえるので、これは「日豪亜同盟」の創設を豪州が断ったことを意味すると考えられる。 (見えてきた日本の新たな姿)
潜水艦の機密を共有したら始まっていたであろう「日豪亜同盟」について、日本は、中国敵視と対米従属の機構としてのみ考えていたのに対し、豪州は米中間のバランスをとった上での、対中協調・対米自立も含めた機構と考える傾向があり、この点の食い違いが埋まらなかった。日本ではこの間、豪州との戦略関係について、中国敵視・対米従属以外の方向の議論が全く出てこなかったし、近年の日本では、対中協調や対米自立の国家戦略が公的な場で語られることすら全くないので、今後も豪州を納得させられる同盟論が日本から出てくる可能性はほとんどない。「日豪亜同盟」のシナリオは、日本の豪潜水艦の受注失敗とともに消えたといえる。日豪同盟はまだこれからだという指摘も(軍産系から)出ているが、目くらまし的な楽観論に感じられる。 (Australia-Japan Defense Ties Are Deeper Than a Sunken Submarine Bid) (Respect must be shown to Japan)
米政府は、最近まで豪州に対し、独仏でなく日本に潜水艦を発注しろと圧力をかけていたが、豪州が潜水艦の発注先を決めねばならない今春の期限ぎりぎりになって、発注先決定は豪州の内政問題なので米国は介入しないと通告し、豪州が自由に発注先を選べるようにしてやった。米オバマ政権は日本に対し、最後のところではしごを外したことになる。 (Canberra all but rules out Japan sub bid: report)
米国は最近、ロシアや中国への敵対を強めている。欧州側の対露国境近くでは、連日のように米軍(NATO)の偵察機や戦闘機がロシアを威嚇するように国境すれすれに飛び回り、米露間の緊張関係を増大させている(米国が威嚇しているのに、米欧日のマスコミではロシアが悪いことになっている)。中露と組むBRICSのブラジルや南アフリカでは、米国の差し金で検察が大統領の汚職疑惑(ブラジルのは多分濡れ衣、南アのは昔の事件の蒸し返し)を執拗に捜査してスキャンダルが誘発され続け、米国による政権不安定化策が続けられている。また米国はインドに対し、軍事関係を強める動きを続け、インドを親中国から反中国に転換させようとしている。米国は今後、米国の覇権が崩壊するほど台頭するBRICSを解体させることで、自国の覇権を維持しようとする策を強めるだろう。 (Washington Launches Its Attack Against BRICS - Paul Craig Roberts) (Brazil, Europe, Iran, US, Saudi Arabia - The return of national sovereignty: heading toward one ultimate stand?) (Lula and the BRICS in a fight to the death - Pepe Escobar)
米国に介入されるほどBRICSは結束を強め、米国の策は逆効果になっていずれ失敗する可能性が高い。だが今後しばらくは、米国が日本や豪州に対し、中国との敵対を強めるから一緒にやろうと圧力をかけ続けるだろう。米国のこの動きに対し、日本は喜んで乗り続ける。だが豪州は、しだいに米国についていかなくなる。今回、豪州が日本でなくフランスに潜水艦を発注したのは、その動きの一つだ。フランスなどEU諸国は、米国が中露敵視を強めるほど、米国についていきたくない姿勢をとっており、この点で豪州と気が合う。フランスは豪州から遠いように見えるが、実は違う。フランスは南太平洋にニューカレドニアなどの海外領土を持ち、豪軍と仏軍はこれまでも一緒に南太平洋に展開してきた。 (In French-Australian submarine deal, broader political and strategic context mattered)
長期的に見ると、米国から距離を置く傾向を強め、同じく米国から距離を置く中国やフランスなどとの関係を強めようとしている豪州の方が戦略として正しく、最後まで米国との一心同体をやめたがらない日本は失敗していくだろう。金融面でも、ドルを防衛するためのQEやマイナス金利策が世界的に行き詰まり、米国覇権の喪失感が強まっている。米国の覇権が減衰したらどうするか、日本は、豪州に問われる前に考えねばならないはずなのだが、国内の議論はまったくない。馬鹿げた無条件降伏が、再び繰り返されようとしている。これは政府やマスコミだけの責任ではない。自分の頭で考えようとしない日本人全体に責任がある。
⑬(覇権の起源)
⑭(ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
⑮(トランプと諜報機関の戦い)
⑯(得体が知れないトランプ)
⑰(偽ニュース攻撃で自滅する米マスコミ)
⑱(まだ続く地球温暖化の歪曲)
◆ 枠組
◆ 月日
11 08 (◆)
◆ 区切りの線
◆ フリガナの方法
漢字
漢 字
月
◆ 枠なしの色地に文章を入れる方法
文章や単語
◆ 行間の調節方法(1) - HTMLタグボード
http://www.dspt.net/seo/001/005.html
具体的にはHTML構文の間に以下を挿入するか、外部CSSで読み込みます。
1. ヘッダー内に直接書く方法(ページ全体に適用)
◆ 黒地枠に白字を出す方法
黒地枠に白字