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続折々の記 ①
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】02/11~
【 02 】02/13~
【 03 】02/15~
【 04 】02/16~
【 05 】02/17~
【 06 】02/21~
【 07 】02/23~
【 08 】02/28~
【 09 】03/01~
【 04 】02/16
02/16 14日のニュース
(1) 活動家ら、反対連盟 中国、人権派弁護士拷問問題
(2) 北朝鮮国民、逃げ場なく困窮 食糧難「300人の餓死者出た」 核開発、生活に影響
(3) 不協和音:上 鈍る成長、改革は「リスク」 名物閣僚、早すぎる退任
02/16 15日のニュース
(1) 受精卵などゲノム編集、臨床容認 遺伝疾患予防に限定 米科学アカデミー
(2) 不協和音:下 反腐敗に「軟らかな抵抗」
02/16 16日のニュース
(1) 天声人語:名門企業の巨額損失
(2) 時時刻刻:狙われ続けた兄 韓国「執拗に排除、性格反映」金正男氏暗殺
(3) 参院本会議答弁:「バイ・アメリカン」 米から防衛装備品購入「雇用にも貢献」
(4) インタビュー:北朝鮮、強硬の足元で 環日本海経済研究所主任研究員・三村光
(5) トランプ時代のアジア:発展のため知恵と連携を
日米の政治にかかわるニュースはできる限り取りあげないで進めました。 コメントするにしても、一応ごたごたニュースが収束してからまとめる考えで省くのです。 東アジアについては省きたくない。
1面 日米共同声明は当日合意 国際会議で必ず首脳会談 首相説明
首相「米の姿勢、厳しくなる」 北朝鮮、日本海に弾道ミサイル
2面 (時時刻刻)不意打ち発射、日米「結束」 米大統領、対北朝鮮「日本を100%支援」
3面 親密11時間、成果は 首相、一緒に食事4度・ゴルフ27ホール 日米首脳会談
経済問題は「同床異夢」 二国間交渉、焦点 日米首脳会談
7面 滞るスーチー和平 軍制御できず、少数民族反発
(1) 活動家ら、反対連盟 中国、人権派弁護士拷問問題
(2) 北朝鮮国民、逃げ場なく困窮 食糧難「300人の餓死者出た」 核開発、生活に影響
9面
(3) (核心の中国)不協和音:上 鈍る成長、改革は「リスク」 名物閣僚、早すぎる退任
尖閣に安保適用、中国反発 韓国、評価の一方焦りも 日米首脳会談
安倍首相のNHK報道番組での発言(要旨)
北朝鮮ミサイル発射後、日米首脳緊急共同記者発表
11面 実感乏しいアベノミクス GDP、年1.0%成長 16年10~12月期
OPEC、90万バレル減産 IEA「スタート堅調」 1月
16面 (社説)北朝鮮の挑発 日米韓のゆるみを正せ
17面 (ネット点描)BBC「スローニュース」 検証・分析でウソに対抗
2017年2月14日05時00分
◆(1)活動家ら、反対連盟 中国、人権派弁護士拷問問題
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12794652.html
拘束されている人権派弁護士らへの拷問や虐待が相次いで指摘されている中国で、仲間の弁護士や民主活動家が今月、政府に拷問をやめさせようと「中国反拷問連盟」を結成した。当局の締め付けが強まるなか、400人以上が実名で名を連ね、13日からネット上で参加を呼びかけ始めた。
発起人は、2015年の弁護士ら一斉拘束事件で起訴された謝陽弁護士への拷問・虐待の詳細を先月告発した陳建剛弁護士や、「盲目の人権活動家」として知られ、12年に渡米した陳光誠氏、ノーベル平和賞候補にも名前が挙がる人権活動家の胡佳氏ら12人。
呼びかけ文では、拷問は中国の司法にずっと続く病理であり、言論や思想を理由にした「良心の囚人」に集中していると指摘。特に一斉拘束事件以降、場所を明らかにしないまま拘束を続け、弁護人に面会させない状況の中で多発していると批判した。「むき出しの拷問を前にして、黙っていられない。我々は立ち上がり、恐怖を乗り越えて人間の尊厳を守らなければならない」と訴えている。
中国では組織や団体をつくることも反政府活動だとして捕まりかねないため、連盟は「組織ではなく、理念の共同体」と位置づけ、参加も脱退も自由にしてネット上で呼びかけを続ける。
陳弁護士は「人権派の事件では拷問が非常に多いが、釈放時に当局に口止めされてしまう。この国で民間の力は極めて弱いが、多くの真相を表に出し、現状を変えたい。海外の人にも関心を持ってほしい」と話している。(北京=延与光貞
2017年2月14日05時00分
◆(2)北朝鮮国民、逃げ場なく困窮 食糧難「300人の餓死者出た」 核開発、生活に影響
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12794653.html
北朝鮮がトランプ米政権の発足後、初めて弾道ミサイルを発射した。国際社会からの非難を顧みずに核開発を進める北朝鮮だが、地方では最近も人々の生活が厳しさを増しているとの話が伝わってくる。▼1面参照
「隣人の高齢女性がこの冬、餓死した」
北朝鮮東北部の羅先(ラソン)に今月行ったという中国の旅行業関係者は、北朝鮮の知人から食糧難の状況を聞いた。「今冬は羅先だけで300人の餓死者が出た」という話も出ているという。
北朝鮮では昨年は豊作だったとされるが、羅先の住民が現在配給で受け取るのは1人1日300グラムほどの穀類だけ。ヤミ市場には中国産米が出回るが、価格は高騰しており、国際社会からの食糧援助は核実験などの影響で減少したという。
この関係者は「国境付近で脱北を図ろうと茂みに潜む住民を見かけたことがあるが、国境警備が強化されて脱北は困難だ。国民は逃げ場がない」と話す。
ただ、北朝鮮は核開発と経済改革を同時に進める「並進路線」を掲げ、首都の平壌では開発が進む。輸入品の酒や化粧品を使う富裕層もおり、格差は歴然だ。故金日成(キムイルソン)国家主席の生誕105周年となる4月15日ごろには、さらなる弾道ミサイル発射もあるという見方も出ており、絶望した地方住民の脱北者が増える可能性もある。 (瀋陽=平賀拓哉)
2017年2月14日05時00分
◆(3)不協和音:上 鈍る成長、改革は「リスク」 名物閣僚、早すぎる退任
(核心の中国)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12794561.html
【写真・図版】 中国の共産党と国家機関の関係/習近平氏は減速する経済へのメッセージ発信を強めてきた
拍手はしばらく、鳴りやまなかったという。
昨年11月10日、北京市西部にある中国財務省の講堂で開かれた楼継偉(ロウチーウェイ)財務相の退任セレモニー。堅苦しい雰囲気が続く中国の役所の式典で、社交辞令ではなく、出席者が時間を忘れて拍手をするのは珍しい。
改革派で、名物閣僚といわれた楼氏の退任は、想定よりも早かった。11月末には京都を訪れ、麻生太郎財務相と対談することまで内定しており、「寝耳に水」(外交筋)の交代劇だった。拍手は、楼氏を惜しむ気持ちだけでなく、「(出席した)幹部にだって覚悟がある」と同省関係者が言うように、無言の抗議の意もあったのかもしれない。
楼氏は、朱鎔基元首相が国有企業改革などで剛腕を振るった時代、次官級で改革を進めた「チルドレン」の一人。財務次官を9年も務め、中央での経験は習近平(シーチンピン)国家主席や李克強(リーコーチアン)首相をしのぐ。2013年の財務相への起用は、経済改革を進める決意を習指導部が示した、と受け止められた。
15年6月、北京の釣魚台国賓館で開かれた日中財務対話。事情に詳しい日中関係筋によると、麻生財務相がたばこを吸いに建物の外へ出たら、ホスト役の楼氏がそばにやってきた。
「来年は、構造改革でいこうと思っている」
楼氏は、白い煙を吐き出しながらこう言った。中国が初めて主催する主要20カ国・地域(G20)会合で、楼氏は財務相・中央銀行総裁会議の議長になる。構造改革をテーマにするとの決意だった。同時に国内でも改革を進める強い意志を示したのだ。2人の思いは一致し、その夜はマオタイ酒で親交を温めた。
その言葉の通り、楼氏は国内では地方政府が不透明な手法で借金をするのをやめさせるなど、改革に腕をふるった。習氏が唱えたアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、「実動部隊」として設立にこぎ着けた。
ただ、富裕層に重く課税する不動産税など抵抗の大きい改革は進まなかった。「(労働者を簡単に解雇できない)硬直した雇用制度を柔軟にすべき」「農産物への補助金が手厚すぎる」などと、組織をまたいだ改革にまで踏み込み、既得権益層から反発も買った。
ただでさえ経済成長が鈍っている中国。さらなる景気の悪化は社会不安を生み、体制が揺らぎかねない。習指導部は、経済を失速させかねない積極的な改革路線は、「リスク」と意識するようになっていた。
最高指導部人事がある今秋の党大会を控え、ミスが許されない習氏。現体制が選んだ結論は、改革を貫く楼氏を支えるのではなく、名物閣僚の退場だった。
■習氏ブレーン、李氏政策批判
リーコノミクス(李克強経済学)――。習体制が始動した約4年前、この言葉は国内外でもてはやされた。しかし、北京の企業幹部はいう。「(中国共産党の中枢が集まる)中南海で明確なタブーになった」
当時、経済学博士号をもつ李氏が目指したのは、政府の干渉をなくし、経済を市場に任せて民間活力を引き出そうとすることだった。資本主義諸国にもなじみの深い「小さな政府」路線を中国がいよいよ目指すのかと、話題になった。
だが、習氏が党を通じて経済運営も主導するようになり、リーコノミクスは忘れられていった。
14年6月、「中央財経指導小組」という、国民には耳慣れない会議が開かれた。党が経済方針を決める場だ。中国では、党が政府を指導する仕組みだが、これまで経済運営では、政府のトップである首相が主導する体制が取られていた。
ところが、国営新華社通信は、誰がその小組を仕切っているかを詳細に報じた。習氏がトップの組長、李氏は副組長。胡錦濤(フーチンタオ)体制まではほとんど公表されなかった「舞台裏」(中国紙)が明かされた。
さらにリーコノミクスの存在を上書きするようなことが起きた。李氏と似た改革の考えが、14年末、習氏主導のもとで「新常態(ニュー・ノーマル)」という言葉で書き換えられた。成長率の低下を受け入れるもので、文案を起草したのも、この小組だった。
李氏への牽制(けんせい)とみられる動きは、まだ続いた。
昨年5月9日、「権威ある人士」と名を伏せた人物が、党機関紙・人民日報の1、2面に登場。国の経済政策を語ったのだ。
成長が鈍った経済は容易には回復せず、成長率は「V字型」ではなく、「L字型」のグラフを描いて進むと指摘した。不動産の高騰や過度の投資に頼った経済運営を戒める内容で、李氏のもとでの経済運営への批判とも受け取れる内容だった。
「権威ある人士」とは誰か。国内の見方はほぼ一致する。習氏の経済ブレーンで、この小組を実質的に仕切る劉鶴・弁公室主任だ。
大規模な公共工事や無理な借金に頼らないという改革の発想は、李氏が示していたものだ。同じような考えを、党の別の人物が打ち出すちぐはぐさ。政権に近い金融関係者はいう。「理論闘争というより、政治的な個人攻撃に近い」。中国メディア関係者は「習氏が李氏の手腕を信用していない証し」とも語る。
昨年7月末の党中央政治局会議は、「資産バブルを抑えるべきだ」として、初めてバブルに触れた。市場を冷ましかねないバブルへの言及はこれまで、「政府が慎重に見送っていた」(清華大学教授)。
その後、20あまりの主要地方政府が申し合わせたように突如、住宅の購入制限策を打ち出した。「政府ではなく、党の水面下での指導だ」との見方が強い。
党が経済を仕切る構図に、共産党関係者は「中国は一極集中の方が効率が良い」とその理由を話す。その一方で、党の動きは見えにくいだけに、政策決定の不透明感は増している。
■株安、力ずくの安定路線
「上海から北京(中央)には100も提案しているのに……」
昨年秋、外資系企業の意見を聞く会議で、上海市首脳が苦しい表情を見せた。13年秋に始まった上海自由貿易試験区について、「使い勝手が悪い」と企業側が注文したことに対し、中央から改革をストップされている実情をにじませた。
規制緩和や外資開放を大胆に進める特区として始まった試験区は、「李首相肝いり」の政策だった。だが、「市場に任せる」のかけ声は、中国の経済がその市場に揺さぶられることが続くうちに、色あせた。
13年夏に短期金利が高騰し、経済が一時、資金を求めてパニックに陥った。右肩上がりの上昇を続けてきた人民元相場は14年から下落に転じた。
3カ月間で上海市場の時価総額が一時、40%以上吹き飛んだ15年の株安では、中央銀行までが無制限に資金を出して株を買い支え、なりふり構わぬ手段で食い止めに動いた。「悪意のある空売りを取り締まる」と司法介入にも踏みきった。
「市場は力ずくで抑え込める」と、各機関のルールを無視するなりふり構わぬやり方に、市場関係者は「習氏への忠誠合戦」(金融大手首脳)と嘆いた。
市場にゆだねるとの路線は、弱肉強食による淘汰(とうた)によって国内経済が長期的に効率的になることを目指すものだ。だが、その「痛み」が激しければ、社会からは不満も出る。反腐敗を最優先させる習氏にとって、経済での「失点」で政権基盤が不安定になることは許されないことだった。
習氏の「安定」路線は、経済改革の本丸とみられた国有企業問題でも鮮明となった。15年に公表された国有企業改革の基本方針では、想定された大胆な民営化は姿を消した。逆に「国有企業を強く、大きく」とうたわれ、各企業に「党の関与を強める」とも明記された。
企業の経済研究者はこう話す。「経済でリスクを最小限にしたい習政権の特徴が随所に表れている。本質的に習氏は、民間企業家を信頼していない」
政府系シンクタンク研究者は「現行の経済政策を批判する意見を書けなくなった」と声を潜める。政府系シンクタンクや北京大などの有力大は重点的に「監視」にさらされている。
いま中国政府は、人民元安を不安に感じ、企業や個人が資産を国外に移す「資本流出」に神経をとがらせる。銀行幹部は日常的に中央銀行や為替監督当局に呼び出されるようになった。
「企業による外貨の売りと買いが同じになるように保て」
「大口の外貨買いは事前に届け出を」
「人民元の海外送金も増やさないように」
自由化とは逆行する、なりふり構わぬ水面下の指導が乱発され、「厳しく口止めされている」という。
昨年12月中旬、北京で17年の経済方針を決める党と政府の「中央経済工作会議」の文書は、安定を意味する「穏」という字が24回も用いられた。今年秋に最高指導部の顔ぶれが変わる党大会を控え、経済でも「改革より安定」という明確なメッセージだった。 (北京=斎藤徳彦)
◇
昨年12月にスタートした連載「核心の中国」の2回目は、習近平体制内の微妙なあつれきを取り上げます。本日の経済政策を巡る動きに続き、明日は地方政府や軍部で起きている「不協和音」に迫ります。
1面 東芝、半導体の過半売却も 原子力損失7125億円 社長表明紙面にプラス
小3から英語、授業時間増 「質も量も」鮮明 竹島・尖閣「領土」明記 新指導要領案
金正男氏殺害か 北朝鮮関与の情報も マレーシア
2面 (トランプの時代)安保の要、痛い辞任 フリン米大統領補佐官
3面
(1) 受精卵などゲノム編集、臨床容認 遺伝疾患予防に限定 米科学アカデミー
11面
(2) (核心の中国)不協和音:下 反腐敗に「軟らかな抵抗」
37面 民進2会派が合流、小池氏の支持表明 都議会
2017年2月15日05時00分
◆(1)受精卵などゲノム編集、臨床容認 遺伝疾患予防に限定 米科学アカデミー
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12796327.html
有力な科学者らでつくる米科学アカデミー(NAS)などは、遺伝子を狙った通りに改変できる「ゲノム編集」の技術を利用して遺伝性疾患の患者の受精卵や生殖細胞(卵子、精子)の遺伝子異常を修復し、子どもに病気が伝わるのを防ぐ治療を認める方針を決めた。子孫に受け継がれる受精卵や生殖細胞の遺伝子改変は安全性や倫理面から認めてこなかったが、技術の進歩などを受けて将来の導入に道を開くよう提言する。14日に報告書を公表する。
NASを含めた米英中3カ国の科学者団体は2015年、妊娠させないことを前提にした基礎研究に限り受精卵や生殖細胞のゲノム編集を容認する声明を発表したが、今回は条件付きながら臨床応用に踏み込んだ。20年以上の歴史がある遺伝子治療では、安全性や子孫に与える未知の影響、倫理面などを考慮して、次世代に影響を残さない体細胞でのみ臨床応用が認められてきたが、その一線を越えることになる。ただ、現時点で具体的な計画はなく、実施に当たっては米連邦政府の承認が必要となる。
報告書では、受精卵や生殖細胞のゲノム編集は「研究が必要で時期尚早」としながらも、「真剣に考慮する現実的な可能性になりうる」とした。臨床応用の前には国民による活発な議論が必要とした上で、合理的な治療法がない▽病気の原因遺伝子に限る▽数世代にわたる長期的な影響の評価、などを条件に挙げた。
一方、親が望んだ能力や容姿を持った「デザイナーベビー」誕生への懸念も考慮して、体細胞であっても、身長や容姿など身体の特徴や知能を操作する目的での利用は禁止した。
今回認めた臨床応用が実現すれば、人為的に遺伝子が操作された子どもが生まれてくることになる。
報告書によると、臨床応用の対象は、原因となる遺伝子異常がはっきりしている病気や障害に限られる。ただ、条件次第で対象となりうる病気には遺伝性の乳がんなども含まれる。様々な病気や障害の原因となる遺伝子の研究が進めば対象が拡大する可能性がある。
北海道大の石井哲也教授(生命倫理)は、法規制や市民との対話などが臨床応用の前提条件として報告書に盛り込まれたことを挙げ、「ゲノム編集の可能性に期待しつつ、厳しい条件で抑制効果を狙ったものだ」と話す。
日本では受精卵のゲノム編集について、政府の生命倫理専門調査会が昨年、「子宮に戻さないことを条件に、極めて限定的に容認する」とした中間報告をまとめた。ただ、法規制や指針の議論は進まず、現在、日本産科婦人科学会など4学会が共同で倫理審査委員会を運営する案が検討されている。 (小林哲=ワシントン、瀬川茂子、竹石涼子)
2017年2月15日05時00分
◆(2)不協和音:下 反腐敗に「軟らかな抵抗」
(核心の中国)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12796313.html
■違反扱い警戒「何もしない」 江蘇省泰州の官僚
長江のほとり、胡錦濤(フーチンタオ)・前国家主席が生まれ育った街として知られる江蘇省泰州。昨年12月下旬、郊外の工業団地に行くと、不思議な光景が広がっていた。
新しい衣料品工場はできている。なのに、そこへ行く道路がない――。
「工場の建物は9月には完成していたんだけど、なぜか周囲の道路はまったく手つかずだった。電気もまだ通ってないよ」
工場の建設作業員はあきれ顔で話した。昨年末時点でも、道路は舗装されていない。砂利の路面は、砂ぼこりをかぶった黒いビニールで覆われていた。「あの賞をとるまでは、工事はまったく手つかずだったよ」
あの賞とは、泰州市が昨年から始めた「カタツムリ賞」のことだ。のろのろして進まない行政の怠慢を市民から電話やメールで募り、「賞」と皮肉って批判する。担当する市の「効能建設領導小組弁公室」(効能弁)が10月下旬に発表した3回目の「受賞者」の一つがこの場所だった。
受賞理由はこうだ。
▽行政が道路や水道、電気を整備すると契約書で約束したのに、工場の建設が終わっても工事を始めていなかった▽企業は何度も陳情していたのに、工事の申請すら効能弁が調査を始めてからだった。
進出する衣料品メーカーの社長は「もう解決したことだから」と言葉を濁すが、工事の遅れで操業開始が遅れれば、企業の経営はそれだけ損をする。
工事をしたくても、資金が足りなかったのか。遅れた理由を問いただした関係者に、地元政府の幹部はこう答えたという。「今の政府に金がないはずはないだろう。ただやらないだけだよ。一部の幹部が仕事をしたがらないんだ」
こうした「不作為」が、静かに広がっている。
かつては企業を誘致さえできれば、手段はなんでもありだった。だが、今は違う。2015年5月、共産党機関紙・人民日報は地方官僚たちの本音をこう伝えた。
「(習近平〈シーチンピン〉指導部の)反腐敗が厳しく、無理をすれば規則違反に問われる。何もしなければ、違反に問われることはない」
習国家主席も、手を焼いている。「不作為の問題を重視し、解決しなければならない」。昨年1月に地方の幹部を集めた党の会議でも、強調してみせた。だが、自らが旗を振る反腐敗が国中に行き渡るにつれて、皮肉にも手足が動かなくなり始めているのだ。
昨夏、一つの言葉が中国のネット上で瞬く間に広がった。「軟らかな抵抗」。中国人民大学
の金燦栄教授が広東省広州での講演で語った言葉だ。金教授の専門は国際関係だが、国内政治の現状をこう論じた。
「15年ごろから、習主席は全国で軟らかな抵抗に遭っている」。地方のエリートや政府幹部の不作為は普遍的な現象だという。「彼らは守れと言われた規定は非常にまじめに守る。上に反対はしない。だが、誰も仕事をしないから、あらゆる政策は無意味になる」
広まった講演内容はすぐにネット上から削除された。だが、金教授は取材に「事実を言ったまで」と話し、背景には習氏の路線変更があると解説した。
トウ小平が始めた改革開放路線は、社会にある程度の自由を認め、条件の整った地域や一部の人から先に豊かになることを認めた。いわゆる「先富論」だ。以来、40年近く、経営者となったエリート層や地元政府の幹部らは大もうけしてきた。ところが、習氏は反腐敗や党内の規律強化により、この既得権益にメスを入れようとしているため、抵抗に遭うのだと。
「これは正面から反対する硬い抵抗ではない。表面的には習氏や中央の言うことを聞くが、実際には何もしない、隠れた軟らかい抵抗だ」
中国の経済は、市場と政府という二つのエンジンが牽引(けんいん)してきた。地方ではその一つが消えてしまった、と金教授はみる。
「人事が固まる次の党大会まではこの状態は変わらないだろう」(北京=延与光貞)
■低成長、責任押しつけに疑問 遼寧省の政府関係者
中国東北部にある遼寧省の省都・瀋陽。その中心部にある繁華街「太原北街」の店舗に、バツ印の貼り紙が次々と貼られたのは昨年初夏から冬にかけてのことだった。
通りに面したレストランや商店の入り口は、ベニヤ板で覆われた。高級な海鮮レストランも立ち並び、にぎやかだった全長約200メートルの通りはほとんどが閉店。夜の明かりは消えた。一斉に閉店に追い込まれた店舗は、約30にのぼった。
貼り紙には、「瀋陽軍区機関幼稚園封」などと書かれている。店舗は通り近くにある軍の幼稚園などが民間の飲食店などにテナント貸しして家賃を取っていたとみられるが、急に賃貸契約を打ち切ったようだ。
「軍側から『もう貸せなくなった』と言われた。賠償金ももらっていない」。閉店した飲食店関係者はあきらめ顔でそう語った。
きっかけは、習体制が進める軍改革だった。
習体制は16年2月、それまで陸軍を中心に全土を七つに分けて管轄していた「軍区」を、五つの「戦区」に再編成。陸海空軍などでばらばらだった指揮系統も一本化が図られた。
改革のメスは、遼寧、吉林、黒竜江の3省と内モンゴル自治区の一部を管轄し、精鋭部隊が配置されていたことで知られる旧瀋陽軍区にも入った。その一つが、繁華街でのテナント貸しといった軍の副業の禁止だった。
この旧軍区は、胡錦濤体制で軍制服組トップの党中央軍事委員会副主席を務め、14年に汚職で摘発された徐才厚(シュイツァイホウ)氏(15年に死去、不起訴処分)が長く勤務した場所。徐氏の影響力が強く、江沢民体制の98年に原則として全面禁止された不動産賃貸業などの軍の副業が一部で残っていた。軍区幹部はこうした利権を握り、腐敗の温床となっているといわれていた。
こうした改革は、軍内部を大きく揺るがしている。軍改革は表向きは作戦遂行能力を高めることが目的だが、旧瀋陽軍区に詳しい関係筋は「習氏が徐氏の影響力を取り除いて軍を掌握しようとする動きで、既得権を奪われた現場の不満は根強い」と話す。
遼寧省の混乱は、習指導部が進める腐敗摘発の大なたが、波紋を広げていることも背景にある。
省トップだった王ミン・前省党委書記を始め、省高官が相次いで汚職容疑で摘発された。昨年9月には、省の議会に相当する省人民代表大会(省人代)の代表454人が買収行為に関与したなどとして一斉に失職。実に約75%の代表が資格を失う異常事態となった。
地元では、習氏が権力闘争の一環として、遼寧省を標的にしているとの疑心暗鬼も広がる。
遼寧省は李克強(リーコーチアン)首相がトップを務めた場所であり、王前書記は江氏と関係が深いとされる人物だった。王氏の後任で、現トップの李希・省党委書記は習氏に近いとされる。李氏は昨年末、省党代表大会で「王ミンらの腐敗案件の悪劣な影響を一掃しよう」と訴え、一連の不祥事や経済の低迷は王氏の責任だとレッテルを貼り、批判を続けている。
省の経済成長率は昨年、全国の省レベルで唯一、マイナス成長に落ち込んだ。重厚長大型の産業構造や国営企業の整理が進まないことが大きな原因だが、ある省政府関係者は「経済低迷の責任も、王氏一人に押しつけている」と憤る。
複数の省政府関係筋によれば、省幹部たちは反腐敗キャンペーンでの摘発を恐れて企業との接触を避けたり、開発事業の決裁が滞ったりするようになった。取り締まり当局にマークされることを避けるための不作為だという。権力闘争の巻き添えになりたくない、という意識は強まっている。
省の経済が落ち込んでいるなか、省政府関係者は嘆く。「目立てば失脚させられると恐れ、誰も動こうとしない。逆効果だ」(瀋陽=平賀拓哉)
(1) 天声人語:名門企業の巨額損失
(2) 時時刻刻:狙われ続けた兄 韓国「執拗に排除、性格反映」金正男氏暗殺
(3) 参院本会議答弁:「バイ・アメリカン」 米から防衛装備品購入「雇用にも貢献」
(4) インタビュー:北朝鮮、強硬の足元で 環日本海経済研究所主任研究員・三村光
(5) トランプ時代のアジア:発展のため知恵と連携を
2017年2月16日
◆(1)名門企業の巨額損失
天声人語
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12798218.html
▼先月末に公開された福島第一原発2号機内部の写真には、溶け落ちた核燃料とみられる塊があった。きわめて高い放射線量のために人は近づけない。きょうから小型ロボットが調査に入る予定で、その機体には「TOSHIBA」のマークがある
▼東芝は廃炉作業の最先端を担う一方で、米国の子会社を通じて海外の原発建設も進めてきた。その原子力事業で7125億円の損失が出そうだとの発表が一昨日あった。生き残るためには利益を生む事業を切り売りするしかなく、会社の形は大きく変わりそうだ
▼損失の遠因は、福島の事故である。より安全性を追求しなければと、世界で原発の規制が強まった。東芝が米国で手がける4基の原発の工事も、予想よりはるかにお金がかかることになった。事故の影響を甘く見たと言われても仕方なかろう
▼川崎市の東芝未来科学館をのぞくと、日本初の電気冷蔵庫や洗濯機、掃除機などがずらりと並んでいた。世界初という携帯型パソコンもあった。高い技術を誇った名門企業の凋落(ちょうらく)はいつまで続くのか
▼海外メーカーを見ると、独シーメンスは福島の事故後に原発事業から撤退し、仏アレバは不調が伝えられる。東芝の巨額損失は、原発ビジネスがもうかる時代は終わりつつあることを改めて示した
▼廃炉への道のりは険しい。会社に逆風が吹くなか、現場で取り組む人びとの胸中を想像する。事故から間もなく6年。起きてしまったことの重さと向きあわねばならない日々が続いている。
2017年2月16日
◆(2)正恩時代、狙われ続けた兄 韓国「執拗に排除、性格反映」 金正男氏暗殺
(時時刻刻)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12798168.html
韓国の情報機関・国家情報院は15日、金正男(キムジョンナム)氏の死亡原因は「毒劇物によるテロ」との見方を示した。公衆の面前で事件が起き、専門家も驚きを隠さない。すでに権力から遠ざかっていた最高指導者の異母兄は、なぜ狙われ続けたのか。▼1面参照
国情院の国会報告によれば、事件が起きたのは13日午前9時ごろ。直後に空港カウンターに助けを求めた正男氏は、口から泡やつばを大量に出す状態だったという。
複数のマレーシア紙が警察幹部の話として伝えたところでは、空港の監視カメラには出発ホールにいた正男氏に不審な女2人が近づく様子が映っていた。1人がハンカチで正男氏の顔を10秒ほど覆う間にもう1人が正男氏の顔にスプレーをふきかけて立ち去ったという。監視カメラの分析から、実行犯とみられる女2人は現場からタクシーで逃走したことが確認されている。
正男氏は故金正日(キムジョンイル)総書記と故成恵琳(ソンヘリム)夫人との間に生まれ、一時は有力な後継者候補と目された。だが、2001年5月に偽造旅券を使って日本入国をはかり、強制退去処分を受けた。その後、後継者争いから脱落した。
国情院は5年前から、北朝鮮が正男氏の殺害を計画しているという情報を入手していた。
国情院の国会報告によると、正男氏が亡命する動きはなかった。北朝鮮では金正恩(キムジョンウン)委員長の独裁体制がほぼ完成。韓国政府は、正恩氏に対して権力闘争を挑む力は、正男氏にはないと分析。一方で正男氏は中国による警告もあり、身辺の安全に気を配っていた。
正男氏は12年4月に正恩氏に宛てた手紙で「私と家族に対する懲罰の命令を撤回してほしい。私たちは行く場所も逃げる場所もない。逃亡する道は自殺だけだ」と語っていた。
国情院は、正男氏が強引な格好で殺害されたと判断。背景について、自らを脅かす可能性が少しでもある人間を執拗(しつよう)に排除する正恩氏の性格を反映した犯行との見方を示した。「殺害は、必ず達成しなければいけないスタンディングオーダー(継続的な指示)だった」と指摘した。
■中国、国内では身辺保護
北朝鮮当局が絡んだとみられる暗殺や暗殺未遂事件は、1983年にミャンマー・ヤンゴンで韓国の全斗煥(チョンドゥファン)大統領(当時)一行を狙った爆弾テロなどがある。最近も起きており、懐中電灯や万年筆などの形をした小型の殺傷兵器が使われることが知られている。
旧韓国中央情報部(KCIA)で北朝鮮分析に携わった康仁徳(カンインドク)・元韓国統一相によれば、北朝鮮は70年代から毒針や毒薬を使った暗殺道具を用いていた。康氏は「毒物なら銃と違って音がしない。死亡原因もすぐわからないし、空港の保安検査も通りやすい」と語る。
正男氏は6日にマレーシアに入国した後、13日に家族が住む中国・マカオに向けて出発する直前に殺害されたとみられる。康氏は「マカオに行かれては殺害が困難になると判断したのだろう」と語る。情報関係筋によれば、マレーシアは公安当局の監視が比較的緩く、東南アジアでは最も北朝鮮の工作活動が盛んだ。一方で中国は国内で正男氏の身辺を保護していたとみられる。
中国は従来、北朝鮮の経済改革を推進した張成沢(チャンソンテク)元国防副委員長との関係が深かった。張氏は2013年12月に処刑されるまで、正男氏の後見人的な役割を果たしていた。韓国政府元当局者は「中国は張成沢氏との関係から金正男氏も助けるようになった」と語る。中国の思惑について「正男氏が復活して北の指導者に就く可能性は極めて低いが、可能性がある以上、保護して損はないとも考えたのだろう」とみる。
北朝鮮関係筋によれば、正恩氏は14年7月、北朝鮮より先に訪韓した習近平(シーチンピン)中国国家主席の行動に激怒。中朝関係は冷却した状態が続いている。正恩氏には、国際社会で「後ろ盾」になってきた中国の立場に配慮する考えはなかったとの見方を示した。
■追及強める国際社会
今月7、8の両日、中国・瀋陽で北朝鮮関係者と接触した韓国の市民団体関係者は15日、「事件で国際的な信頼が落ちる。金正男氏は体制の脅威でもない。長年、北と接触してきた我々でも理解できない行為だ」と語った。
韓国政府は15日の国家安全保障会議(NSC)常任委員会で、事件を金正恩政権による深刻な人権侵害のひとつとして、国際社会にさらに強い制裁を呼びかける方針を確認した。
韓国陸軍に勤務した韓国・国民大の朴輝洛(パクヒラク)政治大学院長は「事件の異常性は、金正恩氏の予想不能な性格を表している。同じような(予測不能な)ことが、核・ミサイル開発で起きないとは言えない」と語る。
北朝鮮に対しては、核・ミサイルだけでなく、人権侵害を追及する動きが、国連を舞台に強まっている。
北朝鮮の人権状況を調べるキンタナ国連特別報告者は3月、北朝鮮当局者の責任を追及する具体策を盛り込んだ報告書を、国連人権理事会に提出する方針だ。専門家の間では、今回の事件についても報告書に盛り込むべきだという声が出ている。(ソウル=牧野愛博、クアラルンプール=古谷祐伸)
◆(3)「バイ・アメリカン」首相協調 米から防衛装備品購入「雇用にも貢献」
参院本会議答弁
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12798117.html
各国の国防費/共同声明
安倍晋三首相は15日の参院本会議で、米国製の防衛装備品の購入は米国の雇用創出に貢献する、という見解を示した。トランプ大統領がスローガンに掲げる「バイ・アメリカン(米国製品を買おう)」にも一役買うことをアピールし、日米関係をより緊密化しようという狙いが見え隠れする。首相の足元でも、防衛費増を見据えた動きが加速している。
首相は答弁で「我が国は最先端の技術を用いた米国の装備品を導入しているが、これらは我が国の防衛に不可欠なもの」と指摘。「安全保障と経済は当然分けて考えるべきだが、これらは結果として、米国の経済や雇用にも貢献するものと考えている」と続けた。
質問者は、自民党の西田昌司氏。西田氏は「防衛力の増強は米国の負担軽減のみならず、米国の主要産業の一つである軍事産業の輸出増、対日貿易赤字の縮小につながる」と指摘。首相に見解を尋ねた。
首相の答弁の背景には、10日にワシントンで行ったトランプ氏との首脳会談がある。会談後の共同記者会見でトランプ氏は「両国が継続して同盟関係にさらなる投資を行い、私たちの防衛力をさらに高めていくことが大切だ」と強調。日本側は「役割強化のために、必要な防衛装備品は買わなければいけない」(外務省幹部)と受け止めた。
トランプ政権は、大統領選中に約束した「米国内の雇用創出」を最優先課題に据えている。日本は2012年の第2次安倍政権発足以来防衛費を増やし続け、米国の軍需産業にとって大きな得意先と言える。
政府関係者によると、今回の首相訪米でトランプ氏から防衛装備品をめぐる具体的な要求はなかった。だが、防衛省幹部は「日本が防衛費を増やしていく分、米国製の装備品のさらなる購入を求められる可能性は高いだろう」とみる。
どのような防衛装備品が導入対象となるのか。議論の舞台になるのが、安全保障政策に詳しい自民党国防族による会合だ。同党は今月に入り、新たな中期防=キーワード=の策定に向け、党内議論をスタートさせた。
焦点になりそうなのが、弾道ミサイル防衛システムだ。ロッキード・マーチン社製の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD=サード)は、40~150キロの高度で弾道ミサイルを捉えることができる。導入に数千億円が必要とみられる。
ほかに陸上配備型イージスシステム(イージス・アショア)も候補に挙げられる。ただし、「バイ・アメリカン」への偏重は、国内の防衛産業から反発は根強い。防衛省関係者は「日本の直面する脅威をきちんと分析したうえで、米国製だとか国産だとか関係なく、優れた装備品を費用対効果で選ぶべきだ」と指摘する。(相原亮、園田耕司)
◆キーワード
<中期防衛力整備計画(中期防)> 5年間の防衛力整備のあり方を示した計画で、自衛隊がどのような防衛装備品を持つか決めるうえで重要な意味を持つ。現在の中期防は2014~18年度の計画で、新型輸送機オスプレイや無人偵察機グローバルホーク(いずれも米国メーカー)の導入を決めた。
◆(4)北朝鮮、強硬の足元で
(インタビュー)
環日本海経済研究所主任研究員・三村光弘さん
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12798069.html
北朝鮮がからむニュースが相次いでいる。最高権力者となって5年が過ぎた金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長は、日米首脳会談の時期を狙うかのようにミサイルを発射した。さらに、故金正日(キムジョンイル)総書記の長男、金正男(キムジョンナム)氏が殺害された。北朝鮮の内部はどうなっているのか。動き出したトランプ米政権と共に世界はどう対応したらよいのか。
――北朝鮮が12日、弾道ミサイルを発射しました。このタイミングをどう見ていますか。
「日米首脳会談に合わせて打ったのかどうかはわかりませんが、挑発と言うよりは、北朝鮮の存在を忘れないでくれという気持ちの表れのように見えます。北朝鮮は米国との関係改善を心底望んでいるのです。ただ今回の発射では、注入に時間のかかる液体燃料ではなく、発射の兆候をつかまれにくい固体燃料が使われており、ミサイル技術は確実に進歩しているのでしょう」
――北朝鮮の今後の出方をどう予測しますか。
「このまま米国と対決を続けて、米本土への攻撃能力を持つまでチキンレースを続けるというのが考えられる一つのシナリオです。資金がいつまでも持つとは思えませんが、長距離ミサイルの性能向上と増産を行うでしょう。核兵器に使えるウランもあります。グアムより先まで飛ぶミサイルの脅威が実際に迫れば、米国も本気にならざるを得ません」
「そうなった場合、米国はソウルを犠牲にしても戦争をするのか。まさにチキンレースです。米国は戦争にかかるあらゆるコストと損害を計算します。そこに至ってから本当に戦争をするのか、それとも北朝鮮と交渉するのか」
――北朝鮮側はそこまでのチキンレースを続けるでしょうか?
「別のシナリオは、米国との戦争が現実のものとして迫ってくるより前に、北朝鮮がもう少し早く非核化に乗り出す。実際はその気がなくても、そういうフリをする可能性があります。非核化を言わないと中国の習近平(シーチンピン)国家主席にも会えませんし。そうなると、目に見える形で実験はできなくなる。ミサイル実験の凍結や、燃料棒の取り出しや封印などの段階に進むでしょう。金正恩委員長は『朝鮮半島の非核化は金日成(キムイルソン)主席、金正日総書記の遺訓』と言い続けています。実際に非核化をするつもりはなくても、するフリはできる」
――とすると、いずれにせよ北朝鮮は水面下で核開発を続けるように思えます。三村さんは北朝鮮に定期的に入り、足元の経済状況の観察を通じ、国の状態を分析しています。制裁下の北朝鮮がなぜ核開発を続けられるのでしょう?
「実は北朝鮮の経済は一定程度は安定しているのです。北朝鮮ではここ2年ほど、1ドル(約114円)=8千ウォンというレートが続いていることが証左です。北朝鮮は1998年ごろから『人民が給料で食べられるようにする』ことを目指してきましたが、徐々に実現しつつあると見ていいでしょう」
「首都の平壌では今、市民の平均月収に企業によってばらつきがあります。40万ウォン(約5700円)程度もらっている人もいれば、給料が高くない場合には、米を安く買える権利などがついていたりします。米は1キロで5千ウォン(約70円)、冷凍イワシは1キロで4千数百ウォン(60円前後)ほど。世帯収入で40万~50万ウォン(約5700~7100円)ぐらいもらえば、給料だけでそれなりに食べていける状況でしょう」
■ ■
――移動が制限される北朝鮮でどう調査しているのですか。
「スーパーを見て回ったり、食堂に入ったりし、消費の動向を見ます。両替所にも足を運び、日本であらかじめ集めておいた情報とも突き合わせる。政府系研究機関である社会科学院の研究者たちとの意見交換からも、北朝鮮の考え方や変化を知ることができます。北朝鮮の国民には今、現政権への期待があると感じます。国民に、経済が向上している実感があるのでしょう」
――それは現政権の統治スタイルが奏功している部分もあるのでしょうか。
「金正恩委員長はプロパガンダにたけています。プロパガンダ重視とは悪く言えばごまかしが得意ということでもある。彼はとにかく国民を鼓舞し、高層マンション群やスキー場など、目に見える形の新たなシンボルを造っている。『社会主義文明国』になるというスローガンでかっこいいもの、世界の趨勢(すうせい)について行くもの、他の国と遜色ないものを造る意識が強く、国民にアピールしています」
――現政権は経済発展だけでなく、核開発も進める「並進路線」を掲げています。実際は、どちらに重きがあるのでしょうか。
「金正恩委員長が打ち出した並進路線には、限られたリソースを経済開発に振り向ける、予算も人的資源も軍事から引きはがしてくるという含意があると見ています。それだけ経済を重視している。国の守りは核抑止力に頼り、軍人という人的資源は経済のために使えるという意味合いもある」
「軍事を最優先する金正日総書記の先軍政治は、軍に頼らざるを得ない非常時の体制でした。現在は、非常時から通常時の政治に戻す過程です。平壌や羅先を見る限り、街の建設を含めて以前よりよくなっているように見えます。ただしこれは危機から通常に戻りつつあるだけで、飛躍的な経済の向上ではありません。核・ミサイル開発をめぐる制裁のもとで、それは無理な話です」
――経済が大きく向上しないなかで、この状況を長く続けることはできないのではないですか。北朝鮮の体制が崩壊する可能性は?
「崩壊する前提で物事を考えると、国際社会は対処を誤るでしょう。崩壊の可能性がないとは言いません。崩壊に伴う様々な事態に備えることにも意味があるでしょう。ただ私は、経済的に立ちゆかなくなって体制が崩壊するというシナリオは現実的ではないと見ています。北朝鮮は国際社会からの制裁をかいくぐってどう生き延びるのかのいわばプロ、打たれ強いのです。とはいえ、核問題を解決しなければ経済は現状維持か、年数%の成長止まりでしょう」
■ ■
――厳しい経済下でも、なぜ核開発にこだわるのでしょうか。
「北朝鮮は、米国からの攻撃や韓国による吸収統一を防ぐためには、核兵器で自国を守るしかないと考えているのです。通常兵器で自国を守れるだけの資金も力もない。多数の軍人の生活を保障する必要がない核兵器は、通常兵器よりはるかに安上がりなのです」
「米国のオバマ政権がとった『戦略的忍耐』という政策は機能しませんでした。戦略的忍耐という名の無視は、8年経って北朝鮮の核・ミサイル能力が圧倒的に高まった現状を見れば大失敗だったように見えます。金日成主席の死去に際し、2代目の金正日政権はすぐに倒れるだろうという米国の見通しはまったく外れた。3代目の金正恩政権でも同じ態度で、無視を続けた結果が今の状況です」
「中国は米国に対して不満を持っています。口では忍耐と言いつつ8年間動かず、北朝鮮の核問題で中国の責任を問うのはおかしいと。北朝鮮は体制維持のために核開発に走っている、米国は北朝鮮の言い分に少しは耳を傾けたほうがいい、と考えているでしょう」
――トランプ大統領は日米首脳会談後の会見でも北朝鮮問題の優先順位が高いと公言しました。今後、どう向き合うでしょうか。
「これまでに米国が選択したことのない二つの選択肢がある。一つは戦争、もう一つは朝鮮戦争の休戦協定から平和条約への転換と体制存続の保証など、北朝鮮の不安を解消することです」
「トランプ大統領は民主主義や人権よりも、米国のためになるかや、米国にとっての損得を基準にする人のように見受けられます。今後、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験が続くような事態が米国の国益や安全保障を損なうと判断すれば、北朝鮮の要求を一定程度聞き入れて交渉を始めるという選択肢も出てくるのではないか。また、中国が自国の利益を守るために北朝鮮問題で米国と緊密に協力する道を選ぶ可能性もあると思います」
*
みむらみつひろ 69年生まれ。北朝鮮経済の専門家。北朝鮮法、北東アジアの経済協力も研究している。96年から約40回訪朝し、変化を見つめている。
■米は「力の外交」排除しない 防衛大学校教授・倉田秀也さん
北朝鮮による12日の弾道ミサイル発射では、固体燃料が使われました。従来のように液体燃料を機体に注入し、国際社会に対応の時間的余裕を与える段階は終わりつつあることを改めて示しました。
朝鮮中央通信は今回、「地対地中長距離戦略弾道ミサイル『北極星2』型の試射が成功裏に行われた」と伝えました。「北極星」は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を指します。SLBMにはミサイルが高圧ガスなどで海面に押し出されたあと、自ら着火して飛翔(ひしょう)する「コールド・ローンチ」の技術が必要です。動画を見ましたが、発射時の推進力を得たあと自ら着火して飛翔しています。
今回の実験はSLBMの発射時の技術向上を念頭に置いて、それを地上で行ったようです。しかも使ったのは液体燃料ではなく、作業時間を短縮できる固体燃料でした。固体燃料の燃焼実験から1年足らずの間に、昨年の潜水艦と今回の地上発射の双方に転用されており、技術的進展は明らかです。
米国のトランプ新政権は、オバマ前政権とは逆に「戦略的不忍耐」に向かうのではないでしょうか。オバマ氏の「戦略的忍耐」の要素の一つは、北朝鮮の核ミサイルに対して軍事的な選択肢はとらないということ。もう一つは、国連の制裁を通じて中国が北朝鮮の態度変化を促し、北朝鮮が非核化の用意を示したら米国も対話に応じるという「戦略的アウトソース(外部委託)」でした。
トランプ政権は、軍事的な選択肢を排除する姿勢はとらないでしょう。外交政策の成否を判断するタイムスパンは短いように見えます。6者協議のような多国間協議を何年も続けるとは思えません。
一方、近く行われるであろう韓国大統領選で、保守派の大統領が誕生する可能性は低いでしょう。進歩派の新大統領と、トランプ大統領との共同歩調は考えにくい状況です。日米が共同歩調をとりつつ米韓が摩擦を抱える日米韓3カ国関係になるかもしれません。
ここで、ブッシュ(子)政権の一部で主張された先制攻撃論が北朝鮮の軟化を促し、日朝首脳会談につながったことを忘れてはなりません。北朝鮮を追い詰めた「力の外交」の結果です。トランプ氏の北朝鮮との対話も、それが非核化に向けた結果をもたらすのは相当の緊張の後と考えています。(聞き手はいずれも金順姫)
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くらたひでや 61年生まれ。杏林大学教授などを経て現職。安全保障論が専門で、朝鮮半島の軍事、外交に詳しい。
「インタビュー」一覧
(インタビュー)北朝鮮、強硬の足元で 環日本海経済研究所主任研究員・三村光弘さん(2017/02/16)
(インタビュー)乱気流のトランプ時代 歴史家、ジョージ・ナッシュさん(2017/02/08)
(インタビュー)日ロ首脳会談の舞台裏 国際協力銀行副総裁・前田匡史さん(2017/02/03)
(インタビュー)音のない世界に生きて ろうの子どもたちに手話で教えるろう者・早瀬憲太郎さん(2017/02/02)
(インタビュー)外国人に国をひらく 元警察庁長官・国松孝次さん(2017/02/01)
(インタビュー)トランプ政権への期待 映画監督、オリバー・ストーンさん(2017/01/24)
(インタビュー)退位のルール 元最高裁判事、東北大学名誉教授・藤田宙靖さん(2017/01/18)
(インタビュー)若手政策の乱 小泉進次郎さん(2017/01/17)
(インタビュー)東京都は変わるのか 都政改革本部特別顧問・上山信一さん(2016/12/21)
(インタビュー)ルールなき臨床研究 生命倫理研究者・ぬで島次郎さん(2016/12/16)
◆(5)トランプ時代のアジア 発展のため知恵と連携を
(私の視点)
ゼティ・アクタル・アジズ
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12798070.html
米国でトランプ政権が始動した。彼の当選は世界に衝撃を与えたかもしれないが、中央銀行で35年働いた私が、「驚いた」という表現を用いることには抵抗感がある。誰が選挙で勝とうと、どうアジア地域に影響を与えるかを考え、事態に備えようと仕事をしてきたからだろう。アジア各国は、トランプ氏が率いる米国という環境下で生きていくことを前向きに考えなければならない。
トランプ氏が掲げたインフラ開発は間違っていない。なぜなら、米国には金融・財政のマクロ政策で景気浮揚する余地があまりないからだ。米国が活気づけば、アジアにとってもプラスになるだろう。
米国が投資を引き戻すことでアジアへの投資が鈍るとの懸念があるが、私は楽観的だ。たとえばマレーシア。1990年代にアジア通貨危機にも直面したが、それでも外国直接投資は100年以上続いている。それはこの地が利益を生む源泉だったからだ。マレーシアでは債券市場参加者の4割は外国人投資家だ。高品質で高利回りが保証された債券を彼らが手放せば、代わりに国内外の別の投資家が市場に入ってくる。
1人当たりの所得が増えるアジアは、世界の生産者から、グローバル市場の重要な顧客である消費者へと変わってきた。もし米国が現実に目を背けて保護主義をとれば、米国自身が損をする。もし米国が競争力を持たないところに投資すれば、中期的に米国は不利な状況に置かれる。
トランプ時代にあっても、アジアが留意すべき基本は、自らの成長をより持続可能なものにすることだ。道路や電力、水道、通信といったインフラ開発が欠かせない。インフラ需要は年間8千億ドル(約90兆円)と膨大だ。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)はこの需要への対処を補完する役割を果たす。
そんなAIIBの運営を監視・助言する諮問委員会(11人)のメンバーの一人に昨年選ばれた。財政運営の監視だけでなく、民間企業や国際金融機関の橋渡し役も果たしたい。
米国や日本は、AIIBに参加していない。日米はアジア開発銀行(ADB)を主導している。中国主導のAIIBが他の国際機関の脅威になると思う人がいるのかもしれない。しかし、これは誤解だ。日本には金融や環境保護など多くの分野の専門性があり、AIIBにはこうした知見が必要だ。中国だけでなく、アジア各国が日本のAIIB参加を望んでいる。アジアの発展に必要なのは協調と協力であり、競争ではない。トランプ氏の新政策にアジアも様々な影響を受けるだろう。どんな困難も相違もアジアの知恵と連携で乗り切りたい。(構成・都留悦史)
(Zeti Akhtar Aziz マレーシア前中央銀行総裁)
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