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続折々の記 ①
【心に浮かぶよしなしごと】

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  02/21 田中宇がみたトランプの国際ニュース解説(2月中旬)    自国主義の不安定
        (1) 米国を孤立させるトランプのイラン敵視策(2/11)    
        (2) 従属先を軍産からトランプに替えた日本(2/14)    
        (3) フリン辞任めぐるトランプの深謀(2/16)

 02 21 (火) 田中宇がみたトランプの国際ニュース解説(2月中旬)     自国主義の不安定

 世界中がトランプ新大統領にかき回されている。 そこで思う ………

 新渡戸稲造の扁額に「學如登山」の意味は、読んで意の如しという解釈にはじまって微視的な視野から巨視的な視野という判断のレベルにも解釈されたり、いろいろの思いが浮かぶ。

 「世情の変態雲の如し」という言葉もある。 2~3年の地域や国や世界の政治や経済の変容をとらえていう場合、或いは長いスパンでの歴史的な変容をとらえる場合もあろう。

 「温故知新」という立場で見る場合もある。 この場合は地域の広がりや時系列の広がりの条件のもと、過去の変化の塊をとらえてその経過因果を検討してその学べることを現在から将来を望むときに活用しようとする思いが主となろう。

 登山の言葉から時間的なマクロの立場で物事を判断することは、年齢を重ねてきたときにも感ずる言葉である。

 世の変態への対応はそれとして、自己内部への対応については次のような言葉もまた思想の根源になる。

  而今しこん
  「指触れる ことのみばかり思えただ 返らぬ昔 知らぬ行く末」
  「渓声山色これわが師」
  「峯の色 谷のひびきもみなながら わが釈迦牟尼の 声と姿と」


 (ひるがえ)って、田中宇のニュースの解説を見てくるとトランプさんは時間的な長いスパン(span=ある時間の幅)で世情に対応しているのかなと思われる節もある。 目指す方向がどうなるかは判らないが、唯一案じられるのは “人の生活の平和を願っているか否か” の一点である。

親子の根底になっている黄金律に基づいているか否かの一転にある。 従って目先の細かいことにとらわれないで、2~3年見ていくようにしたい。 いまの日本もそのような立場を承知しながらトランプに対処する必要がある。

田中宇の国際ニュース解説

   米国を孤立させるトランプのイラン敵視策
   従属先を軍産からトランプに替えた日本
   フリン辞任めぐるトランプの深謀




(1) 米国を孤立させるトランプのイラン敵視策
      http://tanakanews.com/170211iran.htm

2017年2月11日   田中 宇

 まず要約。トランプは、オバマがイランと結んだ核協定を破棄(再交渉)し、イランのミサイル試射を機に、イラン制裁を強化すると言っている。だが世界各国は、それについてこない姿勢を強めている。トランプが和解するはずのロシアは、イランの肩を持った。中国もイラン制裁に反対している。サウジアラビアなどGCCは逆に、イランとの対話を開始することにした。トランプからイラン制裁強化の宣伝役を任されたイスラエルのネタニヤフは、英国に行ってメイに圧力をかけたが、結局メイはイランとの既存の核協定を堅持した。エアバス機を売り込んだフランスも核協定支持を表明。米国内でも、与党共和党の議会筆頭のライアンが、核協定の破棄は簡単でないと言っている。 (UK defies Israeli pressure on Iran nuclear agreement) (Ryan admits Iran deal cannot be simply undone)

 だがトランプはむしろ、孤立するほど過激になる。トランプは共和党のイラン敵視議員と結託し、イラン政府の軍隊である「革命防衛隊」をテロ支援組織に指定して制裁する法案を議会で通そうとしている。防衛隊は中東最強の軍隊のひとつで、イラク、シリア、レバノンといったシーア派系諸国でも大きな影響力を持っている。米国が防衛隊をテロ指定すると、イラン国内やシーア系諸国で反米ナショナリズムが扇動されて強硬派が台頭し、親欧米的な穏健派が力を失う。防衛隊は、制裁されるとむしろ影響力が増して得をする。イランはトランプと張り合う姿勢を見せ、2度目のミサイル試射を挙行した(イラン政府は2度目の試射の実施を否定)。 (Iran Launches Another Ballistic Missile) (Trump’s Reckless New Iran Provocation: Designating the IRGC)

 米議会では、シーア派のイラン革命防衛隊だけでなく、スンニ派の世界的な政治組織である「ムスリム同胞団」をもテロ支援組織に指定して制裁する法案を検討している。同胞団は穏健派であり、テロ支援などしておらず、制裁は逆効果だ。米国内外の政府機関や専門家がそう言って同胞団制裁に反対しているが、トランプは無視している。米国のイスラム教徒の主要な合法団体は同胞団系で、それらが閉鎖されると、米国のイスラム教徒の政治活動は地下化し、テロがむしろ起こりやすくなる。トランプは、米国の孤立化や、中東から米国自身を締め出す流れを扇動している。要約ここまで。 (If you thought Trump's travel ban was bad, what he has planned next for American Muslims could be devastating)

   下平・記  何故和平協定が結ばれようとしているのに、かき回すのか? 「死の商人」の目論見なのか?
           国際紛争の鎮静化の動きを見せないではないか !!


▼ロシアとの和解を棚上げして世界にイランを敵視させる

 1月29日にイランがミサイル発射実験を行ったのを機に、米国のトランプ政権が、イラン制裁の再強化と、オバマ政権が結んだイランとの核協定を破棄(表向きは、いったん破棄して再交渉)する姿勢を強めている。先週の記事では、トランプの米国がイランを敵視するのと同期して、シリアに進出しているロシア軍が、シリアからイランやヒズボラを追い出す動きを強めており、イラン敵視でトランプとプーチンが協調するような流れになっていることを指摘した。 (ロシアのシリア調停策の裏の裏)

 だがその後、ロシアのチュルキン国連大使は2月7日、イランのミサイル試射は法的に国連の取り決めに違反しておらず、米国がイランが違法行為をしたと言っているのは驚きだと表明した。イランが試射したミサイルは核弾頭を搭載できるもので、同種のミサイル開発を禁止した国連決議に違反していると米国は言っているが、その条項がある国連決議は15年7月、オバマが作って可決された新たな国連決議(いわゆるイランとの核協定)によって上書きされた。新決議は、イランが核弾頭ミサイルの開発をしないことを望むと書いてあるが、明確な禁止事項として規定していないので、今回のミサイル試射は合法行為の範囲だとチュルキンは言っている。 (Iran missile work not violating UN bans: Russia’s Churkin)

 ロシアのラブロフ外相は、イランが中東でのテロ退治に必須な勢力だと評価し、制裁に反対する姿勢を見せた。ロシアの外務次官も、米国のイラン再制裁(イラン核協定の再交渉)は中東を不安定な状態に引き戻すので危険だと警告している。 (Iran must be part of universal front against terrorism: Russia) (Russia says US idea of revising Iranian nuclear deal too risky)

 やや脱線するが、国連安保理での最近の米露のやり取りからは、トランプが当初述べていた対露和解が棚上げされている感じが強まっている。米国の新任のヘイリー国連大使は2月2日、ロシアが併合したクリミアをウクライナ領に戻さない限り米国はロシア制裁を解除しないと宣言し、ウクライナ東部の混乱は(ウクライナでなく)ロシアのせいだと批判した。これは、これまでのトランプの親露姿勢から離れるものであり、ロシアのチュルキン大使は、米国はロシアに対する態度を変えたと指摘している。トランプ政権が対露姿勢を敵対方向に変えたことと、ロシアがイランの肩を持つようになったことは、連動している可能性がある。 (Donald Trump's ambassador to the UN condemns RUSSIA for 'AGGRESSIVE action' in Ukraine) (Churkin Detects 'Change of Tone' by US Envoy at UN Security Council Meeting) (Steering Trump Back to Endless War)

 ロシアは、トランプのイラン制裁につき合わない態度を表明した後、イランに戦闘機を売ることを表明し、イランの空軍基地をロシア軍が使う話を蒸し返して、イランと軍事関係の強化に動いている。米国がイラン敵視を強めてもロシアがそれに乗らなければ、シリアやイラクでのIS退治は従前どおり露イランの主導で続き、何も変わらない。 (A warning to Trump? Russia floats return to Iran’s Hamadan air base)

 トランプはイラン敵視を強めると同時に、サウジアラビアに対し、オバマ時代の米国が人権侵害を理由に輸出を停止していた武器を売る決定をするなど、イランを敵視するサウジへのテコ入れを強めている観がある。だがこれも、サウジの方が歓喜一辺倒かというとそうでもない。 (Trump set to approve blocked arms sales to S Arabia, Bahrain: Report)

   下平・記  何故和平協定が結ばれようとしているのに、かき回すのか?  「死の商人」の目論見なのか?
           国際紛争の鎮静化の動きを見せないではないか !!


 サウジは最近、イランを敵視するだけだったこれまでの姿勢をやや転換し、中東におけるイランの台頭を容認しているふしがある。たとえばレバノンでは、政治台頭するシーア派のヒズボラとの敵対を緩和し、サウジは、ヒズボラが提案してきた和解策を受け入れ、召喚したままにしてあった駐レバノン大使を再任して戻した。レバノンは、かつてサウジの影響下にあったが、11年のシリア内戦勃発後、ヒズボラが台頭してサウジが追い出された。最近、シリア内戦がアサド・ヒズボラ側の勝利で終わりつつあり、ヒズボラはかつてサウジの傀儡として首相をしていたサード・ハリリを首相職に戻すことでサウジに和解を提案し、サウジはヒズボラが支配するレバノンとの関係再構築に同意した。 (Saudi Arabia to appoint ambassador to Lebanon: president's office)

 サウジはペルシャ湾岸のアラブ産油国(GCC)を率いる国だが、GCCに加盟するクウェートの外相は1月末、GCCとイランを和解させるためイランを訪問した。イラン側が和解に前向きな姿勢をみせたため、まず石油の価格政策で協調していくことから話し合いを始めることが決まった。こうした動きの最中に、トランプがイラン敵視を強めている。対米従属色が濃いサウジやGCCは今後、米国に配慮してイランとの和解を進めるのを棚上げするかもしれない。だが、いずれ中東での米国の影響力がまた低下したら、サウジやGCCは再びイランに接近することになる。 (Saudi GCC to offer Iran ‘strategic dialogue’) (Iran minister: No problem for oil talks with Saudis)

▼トランプがまっとうな中東戦略をやらないのは意図的?

 トランプのイラン敵視策を積極的に支持しているのは、世界中でネタニヤフのイスラエルだけだ。イスラエルでさえ、軍やモサドといった諜報界が「今あるイラン核協定を壊すのはイランを強化してしまう」と猛反対するのを、ネタニヤフが無視してトランプとの同盟関係に賭けている状態だ。他の国々はみな、トランプのイラン核協約破棄(再交渉)に反対するか、懸念している。 (Israeli security establishment to Netanyahu: Don't touch Iran deal) (Israel’s inaction in Syria may open Golan to Iran)

 トランプは、大統領就任来のやり方から考えて、世界中から反対されてもイラン敵視を引っ込めず貫くだろう。トランプのイラン敵視策は、世界的な策にならない。米国はいずれ国連安保理で、今のイラン核協定を破棄してイランにとってもっと厳しい別の協定の交渉を始める決議案を提案するかもしれないだが、各国の現在の態度から考えて、中国(とロシア?)が反対して拒否権を発動し、否決される。国連で否決された後、米国だけが勝手にイラン核協定を破棄して離脱する。トランプは国連を非難し、前回の記事で紹介した、国連に運営費を出さない大統領令を発動する可能性が強まる。 (米国に愛想をつかせない世界)

 トランプは、当初予定していたロシアとの和解も棚上げし、イランに寛容でイスラエルに厳しい国連など国際社会を批判し、実質的に離脱していく傾向を強める。トランプは、サウジを誘ってイラン敵視を強めようとするかもしれないが、誘われてホイホイついていくとトランプと一緒に国際的に孤立するはめになる。しだいに、トランプの米国とまっとうにつき合う国が減っていく。米国抜きの、中露イランなどが影響力を行使する多極型の世界が形成されていく。多くの人々は、これを「トランプの失策」と呼ぶだろうが、私から見ると、トランプは意図的にこれをやろうとしている。トランプは、多極化をこっそり扇動している。今後の多極化の進行速度は、中露イランなど多極化を指向する国々がどれだけ思い切りやるか、それから、日本やイスラエル、英国、サウジといった対米従属の国々(JIBS)が、どこまでトランプについていくかによる。    (米国を覇権国からふつうの国に戻すトランプ(2017/01/28)

   下平・記  (米国を覇権国からふつうの国に戻すトランプ(2017/01/28)) と共に (トランプ革命の檄文としての就任演説)
           も読み直すとよい。 よほどの変化以上のことが起きてくるかもしれない。
           日本の将来については、しっかりした平和論理を志向することが肝要。


 要約に書いたように、米議会はトランプに扇動され、イラン革命防衛隊とムスリム同胞団という、シーアとスンニを代表する強い国際組織を、テロ支援組織に指定して制裁する新法案を検討している。これも、国際社会がつき合いきれない策だ。防衛隊は、シーア派主導の国になったイラクに入り込み、イラクの治安面を牛耳っているし、内戦のシリアでアサドの政府軍を助けてISアルカイダと戦い、今ではシリアをも牛耳っている。防衛隊の協力なしに、シリアやイラクでISアルカイダを退治できない。中東の安定を考えるなら、防衛隊の制裁はあまりに愚策だ。ロシアもEUもトルコも支持できない。 (A terrorism label that would hurt more than help) (Warnings for White House on terror designation for Iran Revolutionary Guard)

 ムスリム同胞団は、アラブ諸国で圧倒的な最大野党だ。百年の歴史を持つ同胞団は、かつて暴力革命を追求していたが、1980年代以降は選挙でアラブ諸国の政権をとることを狙っており、テロ支援はやっていないと、米欧の中東専門家の多くが認定している。同胞団の発祥地であるエジプトでは、アラブの春の後の選挙で勝った同胞団政権を軍部がクーデターで倒したが、アラブ諸国が民主化するなら、同胞団は与党になれる存在だ。米国のイスラム教徒の最大コミュニティであるCairも同胞団の系列だ。同胞団をテロ支援組織に指定するのは、まっとうな策でない。 (If you thought Trump's travel ban was bad, what he has planned next for American Muslims could be devastating)

 トランプは、まっとうな中東戦略をやろうとしていない。私の以前からの分析は、トランプが米国の覇権を崩すことを隠れた最重要の目標としている、というものだ。この分析に沿って考えるなら、トランプがまっとうな中東戦略(国際、国内政策全般)をやらないのは、意図的なものだ。米国がまっとうな国際戦略をやらないほど、国際社会は米国に見切りをつけ、覇権体制が脱米国・多極化していく。トランプは無茶苦茶をやりつつも、米政界を牛耳るイスラエルと良い関係を結び、米議会の反逆を抑えている。 (Trump might designate IRGC, Muslim Brotherhood terror groups)

 トランプは最近、ネオコンの一人であるエリオット・アブラムスを国務副長官にしようとしている。好戦的な政権転覆策をやりたがるネオコンを国務省に入れるなと、米国のリベラル派から草の根右派までが反対している。だが見方を変えると、世界が米国に見切りをつける中で、ネオコンが国務省を牛耳って好戦策をやろうとするほど、世界が米国を敬遠することに拍車がかかり、多極化が進む国務省は、ブッシュ政権時代にパウエルが国務長官を辞めたあたりからどんどん好戦的になり、ろくな政策をやれなくなっている。トランプは、それにとどめを刺そうとしている。 (Rand Paul: Do not let Elliott Abrams anywhere near the State Department)

   下平・記  上記の   「ネオコンの一人である … 多極化が進む」   は、逆効果を想定した布石といえばそうとれる。
           それまでして脱覇権の体制にしようとしているのか、疑念が残る。
           国連組織がこうして補正されていくだろうか。 フンドシをしめて対策を立てなければならない。




(2) 従属先を軍産からトランプに替えた日本
      http://tanakanews.com/170214abe.php

2017年2月14日   田中 宇

 まず本文執筆前の予定要約。トランプ政権の最大の目標は、軍産複合体による世界支配(米単独覇権)を終わらせることだ。 目標達成のため、有権者からの支持を維持し、再選を果たして8年やりたい。 それには雇用拡大経済成長貿易赤字の低減金融危機再発の先送りが必要だ。トランプは、NAFTAやTPPを潰して2国間貿易体制に替えることで、貿易相手国が軍産でなくトランプ自身に対して貢献するよう、構造転換した。トランプは、英国のメイ、日本の安倍、カナダのトルドーの順に招待して首脳会談し、軍産とトランプとの戦争で軍産でなくトランプの味方になると約束させる見返りに、同盟国として大事にするという言質を与えた。(対照的に、トランプの味方をしたがらない豪州やドイツは敵視されている) (ニクソン、レーガン、そしてトランプ) (米国に愛想をつかせない世界) (Why Abe Is So Nervous Ahead Of His Meeting With Trump)

 戦後ずっと「対軍産従属」だった日本政府(官僚独裁+自民党)は、トランプ当選までクリントン=軍産だけを応援していた。トランプ当選後、急いで方向転換してすり寄ってきた安倍に、トランプが提案したのは「俺が再選して軍産潰しを続けられるよう、経済で協力しろ、そうすれば日本が切望する対米従属を続けさせてやる」ということだ。安倍は、この提案を了承した。今後、米国の対日貿易赤字を減らすため、円高ドル安が容認されていく。日銀は、米金融システムを支えるQEを続けつつ、これまでQEの副産物としてあった円安効果を殺していくことを迫られている。実体経済面では、日本車の米国内での生産比率の引き上げが求められそうだ。TPPより日本に不利な2国間貿易協定も提案されてくる。日本がこれらを拒否すると、トランプのツイートに日本への非難が再び交じるようになる。 (Can Japan Get A Better Deal Than The TPP?) (Here's who's counting on Trump to make Japan trade deals)

 トランプの目標は米単独覇権の解体なので、最終的には、対米従属(=官僚独裁、日本官僚機構が、米覇権の傀儡として振る舞うことで、日本の国会より上位にある状非民主的な体制)の大黒柱たる在日米軍もいなくなる。だが、それまでの軍産とトランプの戦いが続く最大8年間、日本は、経済でトランプを支援する見返りに、在日米軍に駐留し続けてもらえる。 (トランプ革命の檄文としての就任演説) (Why dealmaker Trump won’t get one up on Abe’s yen policy)

 トランプは、東アジアより先に中東や欧州での覇権転換を進め東アジアには貿易面でトランプの加勢をしてもらう策を優先することにしたようで、安倍訪米の直前にトランプは、習近平と電話して「一つの中国」を承認し、米中間の対立を緩和した。トランプは以前「中国が対米貿易を均衡させる気がないなら、一つの中国を承認しない」という趣旨を言っていた。トランプが一つの中国を承認したことは、中国がトランプの提案を受ける形で米国との貿易交渉に入ることを了承したという意味が感じられる。要約ここまで。以下本文。 (米欧同盟を内側から壊す) (Why Shinzo Abe Is Banking on a Bromance with Trump)

▼在日米軍をそのままにしてやるから、俺と軍産との戦いで俺に味方しろ。円高を甘受しろ

 トランプは選挙戦以来、日本の米軍駐留費の負担不足、日本当局による円ドル為替の不正操作、日米間の貿易不均衡、日本車メーカーが米国内で十分な製造をせずメキシコなどからの部品輸入が多すぎること、などを批判してきた。トランプが、2月10日に訪米した安倍に対し、これらの不満を表明して対立するのでないかと予測されていたが、実際には何の対立もなく首脳会談が終わった。円ドル相場をめぐる対立は先送りが表明され、貿易不均衡の是正のため日本側が譲歩して円高が容認される先行きが見えてきた。経済は日本が譲歩させられる。だが、日本政府が最も懸念した安保面は全く問題にされなかった。 ("No News Is Good News") (Japan's trade mission: Get through to Trump)

 トランプの、選挙戦から今までの言動を見ると、彼の最大の目標は、米国の権力を握ってきた軍産複合体を潰し、世界を米国の覇権から解放することだ。日本の権力構造は、官僚が軍産複合体の傀儡として機能することで国会(政治権力)よりも上位に立つ官僚独裁機構であり、日本の権力機構はトランプが潰そうとしている軍産複合体の一部だ。トランプが安保面で日本に厳しい姿勢をとるのは納得できる。この見方に立つと、トランプが安倍との会談において安保面で日本に満額回答を与えたのは意外なことになる。 (世界と日本を変えるトランプ) (Golfing With Abe Was Easy; Now Comes The Hard Part)

 しかし、少し見方を変えて、日本側が、トランプと軍産の戦いにおいて、選挙戦中のように軍産(=クリントン)に味方するのでなく、トランプの味方をしますと宣言したらどうだろう。トランプは喜び「わかった。それなら当面、在日米軍はそのままにしてやる。その代わり、安倍君は僕に何をしてくれるかな」という話になる。安倍がトランプに対して与えられるものは、米国の雇用増や、米企業の儲けなど、経済面でトランプを優勢にすることだ。こういう筋で日米が話を進め、安保面が先送りされ、まず経済の話になり、日本が経済でトランプに無限の譲歩をする姿勢をとったのが、今回の安倍訪米だろう。 (Trump says U.S. committed to Japan security, in change from campaign rhetoric) (米国を覇権国からふつうの国に戻すトランプ)

 トランプ(やその後継政権)がいずれ軍産を潰した後、在日米軍の撤退など、日本が対米従属できない新世界秩序が立ち上がる。対米従属によって権力を維持してきた日本の官僚機構は(かつて鳩山小沢が試みたように)権力を日本国会に奪われる可能性が高まる(311以後の「防災独裁」=国民の役所依存体質の強化など、官僚が対米従属以外の権力構造を構築し、間抜けな国民や政治家を出し抜いて権力を維持する可能性も高い。政界も官僚あがりに席巻されており、日本の民主化はたぶん永久に無理だが)。 (民主化するタイ、しない日本)

 だから日本の官僚機構は、軍産でなくトランプの味方をすることに不満だろう。だが、米国で軍産が「野党」になってしまっている以上、日本が軍産と組み続けることは「対米反逆」になる。官僚たちは、安倍がトランプにすり寄るのを看過せざるを得ない。この点で安倍と官僚、特に外務省は一枚岩でない。トランプが、ニクソンのように軍産に弾劾されると、安倍も田中角栄のように引きずり降ろされるかもしれない。官僚は、この先何十年も日本の権力を握るつもりだが、安倍はあと数年の権力維持が目標だ。トランプが権力を握る限り、安倍は日本官僚を迂回できる環境にいる。 (American cars have a hard time in Japan)

 ミスター円の榊原英資やJPモルガンなどは、トランプの要求を受けて今年末までに1ドル100円を切る円高になると予測している。アメ車の魅力を高めて日本人が買いたくなるようにするには(もし可能だとしても)十年以上かかる。日米の貿易不均衡を是正するには、為替をいじるのが手っ取り早い。米国の食肉業界などは、大いに期待している。 (Japan's Mr Yen says dollar could fall below 100 yen by end-2017) (Trump-Abe Rapport Won’t Stop Yen From Passing 100, JPMorgan Says) (Meat groups urge Trump to push for trade deal with Japan)

 日銀が14年末から急拡大して続けているQE(債券買い支え)は、リーマン危機後、延命しているだけで蘇生していない米国の金融システムの再崩壊を防ぐために必要不可欠だ。「債券の神様」ビルグロスは最近、日欧の中銀によるQEがないと米経済は不況に再突入すると指摘している。日銀のQEは円売りドル買いを誘発し、日本政府が希求する円安を実現する手段でもあった。だが今後はトランプの意向を受け、日銀はQEをやりつつ円安にしないような動きを強いられる。大規模なQEは日銀のほか、ユーロ圏のECB(欧州中央銀行)もやっているが、ユーロ圏は今年、崩壊感を強める。 (US would sink into recession without ECB and BOJ QE says Gross) (米国と心中したい日本のQE拡大)

 フランスは、5月の大統領選挙でルペンが勝ったら、ユーロを離脱してフランに戻る国民投票をやる可能性が高まる。ユーロ離脱後に作るフランは為替が急落し、フラン建ての仏国債は実質的な価値が急縮小し、フランスは財政赤字を減らせるが、同時に仏国債は債務不履行(デフォルト)とみなされ、これが世界の債券金利を上昇させ、リーマン危機再来の懸念が強まる。すでに危険なギリシャやイタリアなども、ユーロ離脱や国債の債務不履行へと動きかねない。ルペンの優勢は、英国のユーロ離脱や米国のトランプ当選の影響を受けたものだ。トランプは、ルペン当選=ユーロ崩壊を煽っている。 (Economists: Le Pen Victory Would Lead To "Massive Sovereign Default", Global Financial Chaos) (President Le Pen – small risk, big shock) (Italy’s Banking Crisis Is Even Worse Than We Thought)

 ユーロ圏の金融が崩壊して金利が上がると、もはやECBに米国中心の世界金融システムの安定役を期待できない。米国の金融システムを延命させてくれる米国外の最大勢力は日銀になる。その意味でも、トランプは安倍を厚遇し、安保面で日本が望む現状維持を(当面)了承する代わりに、金融と経済の面で貢献させようとしている。(ユーロ崩壊という、これまでより一段と規模の大きな国際金融危機の前に、すでにQEが限界に達している日銀に、この先どこまで無理をさせられるか大きな疑問ではあるが) (Draghi Takes QE Case to Brussels as Politics Keeps Risk High) (米国の緩和圧力を退けた日本財務省)

東アジアはまず経済面でトランプに貢献させられる

 トランプは、安倍と会う直前に習近平と就任後初の電話会談を行い「一つの中国」(台湾を国家とみなさない姿勢)を承認した。安倍の訪米前に日本に来たマティス国防長官は「尖閣諸島は日米安保条約の範囲内だ」と宣言し、その宣言を出し渋ってきたオバマ前政権からの態度変更を行った。一つの中国承認と、尖閣の日米安保範囲内の宣言は、いずれも日本が米国にやってほしいことだ。 (Trump embraces Abe after moving to heal rift with Beijing) (Trump opposes undermining Japan's control of disputed islands: U.S. official)

 日本は、米国が台湾問題で中国と敵対するのを好まない。米国が日本に「台湾の面倒を日本が見ろ」と言いかねないからだ。いずれ米国の覇権崩壊と中国の台頭が進み、日本が米国の後ろ盾なしに中国と対峙した時に、日本が台湾を抱えていると、中国との協調関係(対中従属)に移行できない。日本の中国敵視は、あくまでも対米従属のためのものだ。日本は中国と本気で対決する気などない。だから日本は米国に、台湾でなく尖閣で中国と対峙してほしい。理想主義的なオバマは、日本の対米従属根性が嫌いだったが、トランプは、対米従属させてやるから俺を応援しろという現実主義で動いている。一つの中国も尖閣も、米国側は、口を動かすだけですむ。 (Are the Senkaku Islands Worth War Between China, Japan and America?) (Trump Will Use Abe Visit to Soothe Worried Asia-Pacific Allies)

 一つの中国から尖閣への対立点の移動は、中国にとっても利得がある。中国は、台湾問題を国際紛争にするのを認められない。対照的に、尖閣(や南シナ海)は、中国も認める昔からの国際紛争だ。トランプが台湾問題で折れたのは、中国側とのこれまでのやり取りで、貿易紛争である程度以上の譲歩を引き出せる感触を得たからだろう。それと、北朝鮮問題もある。 (Trump And Abe Joint Press Conference: Highlights And Live Feed) (Mattis visit unlikely to calm Trump-rattled allies)

 北は最近、トランプと新たな交渉をしたいと考えて、世界を慌てさせるため、原子炉の再稼働やミサイルの試射を繰り返している。北を何とかするには、まず中国に動いてもらう必要がある。トランプは以前から「北の問題は中国に責任がある」と言っている。中国は「いやいや、北の若大将は、うちでなくトランプさんと会いたくてミサイル撃ってるみたいですよ」と言ってくる。東アジアより先に中東や欧州の問題を片付けたいトランプは「そんなこと言わずに中国が動いてくれ。一つの中国を承認してやるから。いいだろ?」と習近平に持ちかけた感じだ。北朝鮮をめぐる外交が動き出す気配はまだないが、北の問題がトランプにとって東アジアの安保問題での最優先課題である感じはする。 (US launches review of North Korea policy) (North Korea restarts nuclear reactor used to fuel weapons program)



(3) フリン辞任めぐるトランプの深謀
      http://tanakanews.com/170217flynn.php

2017年2月16日   田中 宇

 まず本文執筆前の予定的要約。トランプ大統領の安保担当補佐官で、ロシアとの和解を主導していたマイケル・フリンが、就任前に駐米ロシア大使と電話で他愛ない話をしたことを理由に辞めさせられた。更迭理由は、許可なく民間人が対立的な外国と交渉することを禁止した有名無実な18世紀の「ローガン法」に違反した疑いだ。フリンが有罪なら、ヒラリークリントンや、ワシントンの国際ロビイストの多くが有罪になりうる。対露和解を強行するトランプを阻止したい軍産複合体が、いよいよ反撃してきたか 。プリーバスやコンウェイといった他の側近の地位も揺らぎ出し、最後はトランプ自身の弾劾までいくかもと報じられている。 (Did The CIA Just Stage A Micro-Coup Against Trump Administration?) (Dan Rather: "Trump's Russia Scandal Could Be Bigger Than Watergate")

 とはいえ、この話は何かおかしい。選挙戦中から軍産マスコミと対立し続けてきたトランプは喧嘩に強く、こんな微罪で側近を辞めさせる必要などない。フリン更迭の原動力は、軍産の圧力よりもトランプの意志ということになる。トランプは最近、フリン辞任話の高まりと同期して、ロシアとの和解の延期と、イラン核協定を破棄する決意の棚上げを静かに進めている。対露和解は軍産が反対し、イラン核協定の維持は米民主党やイスラエル中道派が望んでいた。フリンは、対露和解とイラン核協定の破棄を、トランプ政権中枢で最も強く推進していた。フリンの後任は、イランと前向きな関係を持つハーワードだ。 (Justice Department warned White House that Flynn could be ulnerable to Russian blackmail, officials say) (The Media’s War against Michael Flynn)

 フリンの辞任はネタニヤフ訪米の直前だった。訪米したネタニヤフとトランプは、パレスチナとの和平交渉(2国式)より先に、サウジなどアラブ諸国とイスラエルの和解を進めることで合意した。ネタニヤフは、サウジと和解してヨルダンに圧力をかけてもらい、パレスチナ自治政府(西岸)とヨルダンの合邦を進めたい。これはトランプから見ると、米国抜きの中東の安定を実現するものだ。アラブとイスラエルの和解の後、アラブとイラン、イランとイスラエルが和解すると、中東の根本的な安定になる。このシナリオに沿うなら、イランの核武装を抑止できる核協定は破棄せず温存した方が良い。 (トランプの中東和平) (The Flynn resignation throws NSA into upheaal) (US-Russian steps s Iran await new NSC chief)

 フリンは14年、オバマにDIA長官を更迭された後、オバマ敵視が高じてイラン核協定に声高に反対し続けた。トランプは、オバマに挑戦する奇人のフリンを評価して安保担当の高官にした。トランプは、対露和解とイラン核協定破棄という、軍産ユダヤ2大政党といった米国のエリート層が許容できない2つの姿勢の主導役としてフリンを高位に据えた。そしてトランプは今、フリンの追放と同時に、対露和解とイラン核協定破棄の両方を棚上げする方に動いている。トランプは、TPPの破棄や規制緩和は就任後すぐに手掛けたが、ロシアとイランに関する政策は、すぐやるといいながらやってない。トランプ流の目くらましかもしれない。 (Ignore the Tough Talk – Trump’s Iran Policy Will Be Much Like Obama’s) (Inside The Secret Campaign To Oust Flynn)

 私のこの見方が正しい場合、今後、トランプと軍産の関係は、対立激化でなく安定化する。トランプがフリン更迭のカードを切るのは、軍産とトランプが何らかの折り合いをつけた結果と考えられるからだ。逆に今後、辞任圧力がプリーバスやコンウェイに広がるなら、私の今回の説が間違っており、トランプが軍産に負けており、あっけなく弾劾されて終わるかもしれないことを意味している。要約ここまで。以下本文。 (Critics Already Talking Trump Impeachment After Flynn) (Pressure builds for probe into Trump-Russia ties)

▼茶番に茶番を重ねたフリン更迭劇

 2月15日のフリン辞任は、茶番の上に茶番を重ねる政治劇だ。フリンの更迭理由は2つある。一つは要約に書いたローガン法違反。この法律は、18世紀末に制定されたが、いまだに誰もこの法律で起訴されていない。同法が禁じる「政府の許可なく敵性国家と交渉すること」は、中国や、911の「犯人」サウジアラビアなどの代理人をする、クリントン家やブッシュ家を筆頭とするワシントンDCのロビイストたちが常々やってきたことだ。フリンは、トランプ政権就任前の民間人だった昨年末に、駐米ロシア大使と電話し、オバマがやった追加のロシア制裁について話した。フリンは電話で「トランプ政権になったら、対露制裁を続けるかどうか再検討する」と述べた。社交辞令的な他愛ないこのやり取りが、ローガン法違反とみなされた。これ自体、すでに濡れ衣だ。 (Trump critics need to be careful what they cheer for)

 フリンの更迭理由の2つ目は、このロシア大使との電話で話した内容についてウソをついたこと。フリンは、問題の電話について後日ペンス副大統領に問われた際、対露制裁の話はしていないと返答したが、問題の電話をFBIが盗聴しており、制裁の話をしていたことが発覚し、それを知ったペンスがフリンをウソつきだと激怒した。実のところ、フリンは上記の社交辞令的なやり取りしかしていない。対露制裁について突っ込んだ話をロシア側としていない。軍産傘下のペンスがフリンを「ウソつき」扱いしたのも濡れ衣的だ。 (FBI needs to explain why Flynn was recorded, Intelligence Committee chairman says) (Flynn's talks with Russian ambassador point to larger problem)

 トランプ政権で対露和解を主導する「ロシアのスパイ」フリンが、駐米ロシア大使に、オバマがやった対露制裁の解除を約束した、というのが、フリン非難のマスコミ報道の骨子だ。FBIの電話盗聴で、フリンのスパイぶりが立証された、とも喧伝された。しかし実際は、フリンは社交辞令しか話していない。スパイでない。しかもFBIやNSAなど米当局は、裁判所の令状なしに米国民を盗聴することが禁じられている。FBIなど米当局は、違法な盗聴をしただけでなく、盗聴記録をワシポスやNYタイムスにリークして書かせた。フリンよりFBIが犯罪者だ、とトランプを擁護する共和党の上院議員(上院諜報委員長)が問題にしている。 (Will Trump Repeal Sanctions on Russia? A Conersation with an NSC Planner)

 これらの話の全体は、大統領選挙中からクリントン陣営や米マスコミが無根拠に言い続けてきた「ロシア政府は、ハッキングや偽ニュースなどによって米選挙を不正にねじ曲げ、ロシアのスパイであるトランプ政権を不正に勝たせた」という濡れ衣のシナリオに沿っている。オバマ政権は、このウソ話を根拠に昨年末、駐米ロシア大使館の要員を制裁対象に加えて強制帰国させた。この追加制裁に関する電話のやりとりを理由に、今回フリンが更迭された。 (A Win for the Deep State . The ousting of Mike Flynn takes us down the road to a police state)

 フリンへの圧力は、1月20日のトランプの就任直後から高まり続けてきた。その後、プリーバス主席補佐官やコンウェイ顧問、スパイサー報道官といった他のトランプ側近についても、トランプに評価されていないとか、失言や間違った行動が喧伝され、辞めさせられるかもと報じられている。 (Could Reince Be On His Way Out As Chief Of Staff?) (Trump reiews top White House staff after tumultuous start) (Kellyanne Conway faces Ethics Office inestigation, ‘retweets’ white nationalist same day)

ポイントは対ロシアでなく対イラン、イスラエル中東問題?

 近年の米国がロシアを敵視する根拠は、ウクライナ東部にロシア軍が侵攻したと喧伝されていることと、ウクライナ領だったクリミアをロシアが併合したことだが、前者は事実でない(ロシア人で個人的に義勇兵としてウクライナ東部に行った者は多数いるが、ロシアの政府や軍隊は関与していない)。後者は、重要な露軍港があって住民もロシア系ばかりのクリミアをウクライナに預けておく前提だったウクライナの親露性を、米国が扇動してウクライナの政権を転覆して喪失させた(反露な極右政権に差し替えた)からであり、併合はロシアの正当防衛といえる。米国(米欧日)のロシア敵視は、濡れ衣+自作自演のインチキで、その上に「トランプ政権はロシアのスパイ」という無根拠話が乗り、さらにその上に、今回の濡れ衣に基づくフリンの更迭話が乗っている。 (Trump will be extremely tough with Russia)

 トランプは、濡れ衣に基づくロシア敵視の構造を壊してロシアと和解する姿勢をとり、イラク侵攻以来の軍産マスコミの濡れ衣戦争にうんざりする米国民に支持されて当選した。だが、フリンに関してトランプは、マスコミを非難しつつも、軍産側が用意したウソの構図を否定せず、フリンを更迭した。すでに書いたフリン更迭の2番目の理由であるペンス副大統領の怒りは、トランプ政権内部の話であり、軍産と関係ない(ペンス自身は軍産系の人だが)。要約に書いたとおり、トランプ自身がフリンを更迭したいと考えていたはずだ。 (An insurgent in the White House)

 フリン更迭は、トランプのロシアとの関係の中でしか報じられていないが、フリンのもうひとつの特徴は、オバマが締結したイラン核協定に強く反対し、トランプ政権内で核協定の破棄(再交渉)を最も強く主張していたことだ。ネタニヤフ訪米で、トランプがイスラエルを中心とする新たな中東戦略(対アラブ和解の優先)を打ち出したこととのタイミングの一致から考えると、フリン更迭の裏側にある最大要因は、ロシアでなくイラン核協定だと考えられる。 (US not to kill nuclear deal between Iran, P5+1: Analyst)

   下平註 ⇒ P5+1とは国連常任理事国(米英仏ソ中)の5ヶ国と独(1ヶ国)を意味している

 イラン核協定も、濡れ衣とウソ話の多重構造になっている。米政府はイラク侵攻後、イランが核兵器を開発しているので先制攻撃すると言い続けたが、イランは核兵器など開発していなかった。それは国連のIAEAが何度も出した報告書で立証されている(イランは、米国を交渉に引っ張り出すため、大量の遠心分離器を買うなど、疑われる行動はしていた)。オバマ政権は、イランの核兵器開発を抑止する核協定を国連(P5+1)の枠組みで15年夏に調印し、米議会を迂回するやり方で発効させた。ネオコンやイスラエル右派は「イランは協定をこっそり破って核兵器開発している(はずだ)。協定を破棄せよ」と無根拠に主張し続けている。 (イランとオバマとプーチンの勝利) (対米協調を画策したのに対露協調させられるイラン)

 トランプは、この右派のインチキ運動に乗り、イラン核協定を廃棄すると選挙戦で宣言し、オバマ憎しで核協定に反対するフリンを起用した。トランプのこの動きは、米政界に強い影響力を持つイスラエル右派を取り込んで当選するためだったと考えられる。トランプは、対ロシアで濡れ衣戦争の構図を打破してプーチンとの和解を打ち出す一方、対イランでは最もウソな濡れ衣戦争の構図に便乗して核協定破棄を打ち出してきた。 (The Neocons’ Back-Door to Trump)

 イスラエル政界は、右派(西岸の不正入植者集団)に牛耳られている。ネタニヤフは右派を代表する指導者として政権をとっているが、右派の言うとおりにやっていると、イスラエルはまわりが敵ばかりになって滅びる(米国でイスラエル右派を支持するキリスト教原理主義者たちは、イスラエルを滅亡に追い込んでキリストを再臨させようとしている)。右派はイラン核協定の破棄を叫ぶが、イスラエルの軍部や外交界は、イランの核兵器開発を抑止できる現協定の維持を希望している。 (入植地を撤去できないイスラエル)

 ネタニヤフは今回の訪米で、トランプの協力を得て、対サウジ和解、ヨルダンと西岸の合邦という、成功すれば中東の新たな安定につながる、従来の2国式とは異なる道を歩むことを発表した。右派が進めている西岸入植地の拡大は、2国式の推進を不可能にしているが、入植地以外の西岸をヨルダンに合邦する新政策を追求するなら、西岸に入植地があっても大した問題でなくなる。新政策を実現するため、トランプは娘婿のユダヤ人のクシュナーを中東特使として重用している。ネタニヤフの訪米と同期して、トランプはCIA長官を中東に派遣してトルコ、サウジ、パレスチナ(西岸)を回らせ、イスラエルとアラブ・イスラム側の和解を後押ししている。 (イスラエルのパレスチナ解体計画) (Trump & Netanyahu agree: Israel-Gulf peace first)

 これらの新たな動きが始まるのと同時に、トランプは、イスラエル右派の気を引くために採っていたイラン核協定破棄の姿勢を静かに取り下げ、核協定破棄を推進する担当者だったフリンを、濡れ衣の罪で辞めさせた。そのように私は分析している。フリンの後任の安保担当補佐官になると報じられているロバート・ハーウォードは、ロードアイランド州の実家がイラン系米国人の居住地区に隣接し、幼少時からイラン人(イラン系米国人)と接して生きてきた「知イラン派」だ。 (Trump Offers National Security Adisor Job To Lockheed Executie Robert Harward) (Flynn’s replacement plans housecleaning and other notable comments)

 話を対ロシアに戻す。フリンの辞任により、トランプ政権は今後、ロシアと和解する姿勢を棚上げしていく可能性が高い。トランプは「ロシアはクリミアをウクライナに返せ」と言い出している。前述したように、ウクライナが反露政権である限り、ロシアはクリミアを自国領にし続ける。前から書いているが、トランプの目標は覇権構造の転換(多極化)であり、米露が和解しなくても多極化が進むなら、対露和解は重要でなくなる。今年の欧州の選挙で、独仏が親露的な傾向の政権になれば(たとえば仏がルペン、独はSPD)、西欧はウクライナの反露政権を支持せず批判制裁するようになる。そうなると、いずれウクライナの政権は反露から親露に再び戻る。ウクライナが親露政権になると、ロシアはクリミアをウクライナに返還しやすくなる。ロシアがクリミアをウクライナに返すと、トランプか今出している条件が満たされ、米露和解が実現する。 (German leftists gain eough support to defeat Merkel in next poll: Survey) (The Knives Come Out: Schauble Says Martin Schulz Is The German Donald Trump) (Le Pen Kicks Off Presidential Campaign Echoing Trump: The Highlights From Her Manifesto)

 トランプは2月18日、就任後初の、2万人の支持者を集める予定の集会を、フロリダ州メルボルンの空港の大きな格納庫で開く。そこは昨年9月、トランプが会場に入りきらない数万人の支持者を集め、当選への道を開いた記念すべき場所だ。2020年の再選に向けた動きの始まりと報じられているが、タイミング的に、軍産リベラルマスコミとの闘いで負けないための、有権者からの支持を示すための闘争戦略にもみえる。トランプと軍産との戦いはまだまだ続く。 (Trump to take breather from White House, hold rally this weekend) (President Trump to Hold Mega Rally in Melbourne, Florida This Saturday)