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続折々の記 ⑥
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】07/24~健康長寿 【 02 】07/25~健康長寿 【 03 】07/26~トインビー
【 04 】07/26~マハティール 【 05 】不死食事 【 06 】不死食事
【 07 】不死食事 【 08 】09/07~大腸がん闘病記 その一 【 09 】09/09~大腸がん闘病記 その二
【 02 】07/25
07/25 面舵いっぱい「健康長寿」へ No.3 年寄の軌道修正
07 25 (火) 面舵いっぱい「健康長寿」へ 年寄の軌道修正
ニュースされている新聞紙上の言葉も放送界のいろいろのニュースも事実のことでしょう。 社会生活それ自身は玉石混交善悪入り乱れた事実が展開されているのだから、全体の動静を判断して自分の認識をもとうとしても判断の流れも常に軌道修正をしなくてはならない。
流れに掉させば流されると「草枕」に出ていたが、水の流れもいろいろとあるに違いはない。 棹さしたところの流れだけでは全体の流れを判断できないのは当然の論理である。 ことに政治の動きには飽きあきしてきている。 戦争を卒業しようとする根本の心掛けが全く見えてこない。 家庭の平和を実現する大前提なくして、地域の人々の生活も、村や県の人々の生活も、国や世界の人々の生活も、議論の方向が決まるはずがない。
しばらくは、この方面への意識を離れ「一人ひとりの健康長寿のためにはなにをしていったらいいか」へ意識を集中していきたい。
◆◆ No.59 かえるの会 2017/7/4 7:30(あれあいセンター) 資料
No.1
1 資料の はじめに 1枚 (3p)
2 大隅典子の仙台通信
井村先生の『健康長寿のための医学』 3枚 (4p)
3 ライフコース・ヘルスケア(検索名) 2枚 (7p)
4 特集 先制医療が目指すもの 井村裕夫氏 7枚 (9p)
5 胎生期から乳幼児期における栄養環境と
成長後の生活習慣病発症のリスク 8枚 (16p)
6 人口構造の変化(日本の人口ビラミッドの変遷) 2枚 (24p)
7 都道府県の平均寿命ランキング 3枚 (26p)
8 都道府県別の健康寿命ランキング 3枚 (29p)
9 都道府県の死亡率ランキング 3枚 (32p)
No.2
10 内閣府
少子化の現状
1 出生数、出生率の推移 2枚 (35p)
2 総人口の減少と人口構造の変化 1枚 (37p)
3 婚姻・出産等の現状 2枚 (38p)
4 結婚、出産、子育てをめぐる状況 6枚 (40p)
5 諸外国との国際比較 3枚 (46p)
11 『健康長寿のための医学』終章
健康長寿社会を実現するために
一人ひとりが主役の未来 2枚 (49p)
12 健康長寿ネット フレイルとは 2枚 (51p)
13 健康長寿ネット フレイルの原因 4枚 (53p)
14 健康長寿ネット フレイルの診断 7枚 (57p)
15 健康長寿ネット フレイルの治療 5枚 (64p)
No.3
16 健康長寿ネット フレイルのケア 5枚 (64p)
17 健康長寿ネット フレイルの予防 3枚 (69p)
18 大隅典子の仙台通信
脳と脂質:母親の偏った多価不飽和脂肪酸摂取は
仔マウスの脳形成不全と過剰な不安を引き起こす 5枚 (72〜76p)
16 健康長寿ネット フレイルのケア 3枚 (69p)
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/care.html
フレイルのケア
フレイルが重症化しないための生活習慣
フレイルの予防にはバランスの良い食事と適度な運動が基本となりますが、食事の摂り方、運動の行い方を工夫することでフレイルが重症化することを予防できます。
孤食よりも共食を
日本の65歳以上の家族形態はグラフおよび表1が示すとおり、平成27年現在、65歳以上の高齢者は3465万8千人であり、そのうち、一人暮らし世帯は624万3千世帯となっており、年々増加傾向にあります1)。
グラフ:65歳以上の者の家族形態の年次推移を表したグラフ。65歳以上の者と、そのうちの単独世帯ともに年々増加傾向にあることがわかる。
グラフ:65 歳以上の者の家族形態の年次推移
表1:65 歳以上の者の家族形態の年次推移 単位:(千人)
一人暮らしの高齢者は、一人で食事を摂る孤食となりがちです。孤食では食事の品数も減り、食べる食材も偏りがちとなります。食欲が低下すると食べる量も減り、低栄養状態に陥りやすくなります。
一方、家族や友人と一緒に食事を摂る(共食)と、コミュニケーションをとりながら食事ができ、「楽しく食べられて食欲が高まる」、「品数も増えて多様な食材を食べられる」ことにつながり、低栄養になることを避けることができます2)。
積極的に友人や家族、地域の人などと共食の機会をつくり、低栄養を防いで心身の健康維持を保ちましょう。
口腔機能のケアを
加齢とともに噛むことや飲み込むことなど、口腔機能が低下すると、硬い食材が食べられなくなったり、むせたりすることがみられます。
歯や歯茎が弱くなり、噛む機能が低下すると、肉や繊維質の野菜など、硬めの食材が食べにくくなります。柔らかいものばかりを選んで食べていると、ますます噛む機能が低下して食事の質が低下してしまいます。
定期的に歯科検診を受けて口腔機能の低下を予防すること、噛みごたえのある食材を選んで良く噛んで食べることを意識し、食事の質を維持するようにしましょう。
飲み込みに関する筋肉の筋力低下が起こると、飲み込む機能が低下して食べたものや飲んだものが気管に入り、ムセたり、詰まったりする誤嚥を起こすこともあります。特にお餅やこんにゃくゼリーなどを喉に詰まらせると、死亡原因ともなり大変危険です。
以上のように、噛む機能や飲み込む機能、そして滑舌が低下してきたり、食べこぼしが増えてくるなど、口腔機能がささいなレベルで色々と低下してきた状態を「オーラルフレイル」という概念で報告されております3)。この新しい概念は東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授らによって提唱され、より早期から口腔機能の機能を維持向上させることが重要とされております。
定期的に歯科検診を受けて口腔機能の低下を予防すること、噛みごたえのある食材を選んで良く噛んで食べることを意識し、食事の質を維持するようにしましょう。
ムセがみられたら、口腔機能の維持のために「口腔の体操」(図1)や「唾液を出しやすくするマッサージ」(図2)、「歌を歌う」、「早口言葉を言う」、「友人や家族とおしゃべりする」、「姿勢を正して顎を引き、良く噛んで食べる」ことを行って、口腔機能をケアしましょう。2)
図1:口腔の体操により口腔まわりの筋肉を鍛え口腔機能や嚥下機能の維持・向上を図ることができる
口を閉じたままほおをふくらましたり、すぼめたり、口を大きく開けて、下を出したり引っ込めたり、舌を出して上下に動かしたり、左右に動かしたり、口を閉じて、口の中で舌を上下したり、ぐるりと回したりする体操。
図1: 口腔の体操(摂食機能訓練) 4)一部改変
図2:唾液腺マッサージのイラスト図 耳下腺・舌下腺・顎下腺をマッサージすることで唾液を出やすくする
図2:唾液 腺マッサージ
唾液腺マッサージ
唾液腺マッサージは唾液を出しやすくマッサージです。
耳下腺マッサージ
親指以外の4本を耳の下に当てて、後ろから前へと押さえながら回します。
舌下腺マッサージ
両手の手の平を合わせるような形にして、両手の親指で顎の下を突き上げるように押します。
顎下腺マッサージ
親指以外の4本の指の腹で、耳の下から顎にかけて、押さえながら移動していきます。
日常生活に運動の要素を
厚生労働省は「健康づくりのための身体活動指針」として、今より10分多く体を動かすプラス・テンの呼びかけを行っています5)。
日常生活にプラス運動となると、運動習慣のない人にとってはなかなか実行することが難しく、実行したとしても長続きしないこともあるでしょう。しかし、日常生活そのものに運動の要素を取り入れることでプラス10分の運動も達成することができます。
例えば、「出かける時はなるべく徒歩で出かける」、「階段を積極的に上り下りしてみる」ことや、「テレビを見ながら足の運動をしてみる」、「家族や友人に会いに行ったり、催し物に行ったりなど、外に出掛けるきっかけをつくる」ことなどを行い、運動する時間を増やしていきましょう。
歩く時は、お尻と背筋を伸ばして腕を振り、歩幅を大きくして少し速く歩いてみましょう。身体をしっかり伸ばして大きく足を動かすと、全身の筋肉を効率よく使うことができます。
社会活動への参加を
高齢者は加齢による身体的な衰えに加えて、定年退職、収入の低下、子供の独立、親しい人との死別など、社会的な役割の変化が訪れます。社会的地位や親としての役割、家族や友人を喪失する経験は、気力や活気を失うきっかけともなります。
社会とのつながりを持つことが億劫となり、家に閉じこもりがちとなると、生活面や精神面など他の側面までもが低下をきたし、フレイルが重症化していきます(図3)2)。
自分が得意なこと、できることを見つけて地域のボランティアなどに社会参加することは、生きがい、やりがいを見出すことや社会的な役割を再び取り戻して自信をつけることにもつながります。活気や気力も湧き、いきいきと生活することで心も体も元気になります。
図3:社会とのつながりを失うことがフレイルの最初の入り口であることを示すイラスト
社会とのつながりを失うと生活範囲が狭くなり、こころ、お口、栄養、からだへとドミノ倒しのようにフレイルが進行することを表現している。
図3 :ドミノ倒しにならないように
参考文献
1. 平成27年 国民生活基礎調査の概況 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
2. 平成27年度 口腔機能・栄養・運動・社会参加を総合化した複合型健康増進プログラムを用いての新たな健康づくり市民サポーター養成研修マニュアルの考案と検証(地域サロンを活用したモデル構築)を目的とした研究事業事業実施報告書 主任研究者:飯島勝矢 IOG 東京大学高齢社会総合研究機構(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
3. 平成25年度 老人保健健康増進等事業「食(栄養)および口腔機能に着目した加齢症候群の概念の確立と介護予防(虚弱化予防)から要介護状態に至る口腔ケアの包括的対策の構築に関する研究」報告書 主任研究者:飯島勝矢 IOG 東京大学高齢社会総合研究機構(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
4. 介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月) 参考資料5-3 説明用資料(例)口腔の体操(摂食機能訓練)厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
5. 「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」について 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
17 健康長寿ネット フレイルの予防 3枚 (69p)
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/yobou.html
フレイルの予防
高齢者に発生しやすいフレイルは、適切に予防すれば日頃の生活にサポートが必要な要介護状態に進まずにすむ可能性があります。そのため、フレイルの予防にはフレイルのメカニズム(フレイルサイクル)を良く理解し、正しい介入方法を行う必要があります。今回はフレイルサイクルやフレイルへの介入方法についてわかりやすくまとめます。
フレイルを予防することの意味
フレイルを予防することの意味は、2つあります。1つはフレイルに陥らないようにすること、もう1つはフレイルが進行するのを防ぐことです。対応方法はどちらも似ているので、フレイルの予防としてまとめて説明します。
フレイルサイクルとは
フレイルの基準を提唱したFriedらは、フレイルサイクル1)についても提示しています。図は、論文を元にわかりやすいように簡略化しています。
図:フレイルサイクルは疾患や加齢に伴う筋力低下(サルコペニア)により全体の活動量が低下、食事量低下につながり、両者が重なることで慢性的な低栄養状態に至ることでサルコペニアが進行し、筋力低下が進むという悪循環を来します。この悪循環によってフレイルが進行し、要介護にいたります。
図:フレイルサイクル 1)より改変
フレイルサイクルにあるサルコペニアとは、筋肉量が減少し、歩行速度が低下しているような状態を指します。フレイルの状態の中でも、筋肉に注目した概念です。
サルコペニアには、加齢によるサルコペニアと病気に伴って起きるサルコペニアがあります。サルコペニアを出発点としてフレイルサイクルを説明すると、まず加齢や病気で筋肉量が低下しサルコペニアを起こすと身体の機能が低下します。具体的には足の筋肉量低下により歩行速度が落ちたり、疲れやすくなるため全体の活動量が減少します。全体の活動量が減少すると、エネルギー消費量が減り、必要とするエネルギー量も減少します。わかりやすくいうと、動かないとお腹が空かないので食欲もなくなります。
加齢による食事量の低下に加えて、食欲低下もあると慢性的に栄養不足の状態になります。慢性的な低栄養の状態は、サルコペニアをさらに進行させ、筋力低下が進むという悪循環へ陥ります。この悪循環を適切な介入によって断ち切らないと、フレイルサイクルを繰り返し要介護状態になる可能性が高くなります。
では、フレイルサイクルを断ち切る、またはフレイルサイクルのスピードを遅くするための介入方法はどのようなものがあるか次に説明します。
フレイルへの介入方法
フレイルの介入方法には、持病のコントロール、運動療法、栄養療法、感染症の予防などが挙げられます。
1.持病のコントロール
糖尿病や高血圧、腎臓病、心臓病、呼吸器疾患、整形外科的疾患などの慢性疾患がある場合には、まず持病のコントロールをすることが必要です。フレイルの筋力低下には、この後に説明する運動療法が有効ですが、持病のコントロールがされていないと高齢の方は体を動かすという気持ちになれないこともあります。また、持病の治療がうまくいっていないとフレイルを悪化させてしまう可能性もあります。
2.運動療法と栄養療法
高齢者に対し適切な運動療法を行うと、サルコペニア、筋力低下に対しては、高齢者であっても運動療法によって筋力が維持される、ということが一部研究で報告されています2)。運動療法は個人に合ったものから始めることが大切です。ベッドの上で足の運動を行うことから始まり、椅子に座ったり立ち上がったりを繰り返したり、歩行距離を徐々に延ばしていくように運動強度を調整します。筋力が低下している状態で、いきなり立ち上がったり、無理に歩行しようとすると転倒や骨折を起こす危険があります。
また運動療法は栄養療法とセットで行う必要があります。低栄養状態で運動を行っても筋肉がつかないどころか、低栄養状態を助長してしまいます。筋肉をつけるために必要な良質なタンパク質を摂れるような食事指導をします。
3.感染症の予防
高齢者の場合は、免疫力が低下していることが多いためインフルエンザや肺炎にかかりやすいといわれています。インフルエンザや肺炎をきっかけに、重症化して入院、そして寝たきりになってしまうこともあります。日頃から適度な運動やバランスのよい食事などにより感染症に強い体作りをするだけでなく、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種しておくのもフレイルを予防する1つの方法といえます。
参考文献
1.Fried L.P et al; Frailty in Older Adults Evidence for a Phenotype. J Gerontology, 56: M146-157 2001
2.Cruz-Jentoft AJ et al.; Prevalence of and interventions for sarcopenia in ageing adults: a systematic review. Report of the International Sarcopenia Initiative (EWGSOP and IWGS). Age Ageing;43(6):748-59,2014
18 大隅典子の仙台通信
脳と脂質:母親の偏った多価不飽和脂肪酸摂取は
仔マウスの脳形成不全と過剰な不安を引き起こす 5枚 (72〜76p)
http://nosumi.exblog.jp/22538666/
脳と脂質:母親の偏った多価不飽和脂肪酸摂取は
仔マウスの脳形成不全と過剰な不安を引き起こす
10月10日にアクセプトされた論文がStem Cell誌にオンライン掲載されるのに合わせて、大学からプレスリリースして頂きました。脂質脳科学、妊娠期の栄養の重要性などの観点から、拙ブログにも紹介しておきます。
妊娠中の脂質摂取が仔マウスの脳形成と
情動に与える影響 ‐母親の偏った多価不
飽和脂肪酸摂取は仔マウスの脳形成不全
と過剰な不安を引き起こす‐
Maternal dietary imbalance between omega-6 and omega-3 polyunsaturated fatty acids impairs neocortical development via epoxy metabolites
過日も紹介したDOHaD仮説ですが、病気の原因が胎児期に遡るということが最初に気づかれたのは、第二次世界大戦中のオランダの大飢饉の後に生まれた30万人の追跡調査によります。胎児の時期に極端な低栄養で育った方が、成人になってから肥満が多いという疫学的なデータが得られたのです。別のイギリスの結果からは、新生児死亡率の高い地域では、その数十年後の心臓病患者数が有意に多いということもわかり、これらがDevelopmental Origin of Health and Disease(DOHaD)仮説の根拠となりました。オランダのコホート研究ではさらに、胎児期に低栄養だった集団では、統合失調症の発症率が2倍程度に上昇していることが示され、同様の結果は中国の事例でも認められました。つまり、DOHaD仮説は成人病だけでなく、精神疾患にも当てはまるということになります。
脳は脂っぽい組織です。乾燥重量の約65%が脂質です。これは脳の細胞に突起が多いことや、さらに髄鞘形成などが生じているからであり、リン脂質二重層から成る細胞膜成分が多いことに起因します。中でも、ドコサヘキサエン酸(DHA)やアラキドン酸(ARA)などの高度不飽和脂肪酸が多いことが知られています。私たちはこれまでより、神経幹細胞の増殖や分化に、DHAやARAが重要な働きをしていることを見出してきました。また、これらの脂肪酸と細胞内で結合する脂肪酸結合タンパク質の重要性についても報告しています。
今回は、特定の脂肪酸の効果という観点ではなく、DHAの元になるオメガ3系とARAの元になるオメガ6系の脂肪酸の「バランス」に着目し、マウス胎仔の脳の発生発達や、その後、成体になってからの不安行動について調べることになりました。というのは、現在、オメガ3系の脂質を含む青魚などの摂取がどんどん低下し、一方でオメガ6系の植物油を使うことの多い揚げ物やマヨネーズなどの摂取は増加しているために、オメガ6過多/オメガ3不足の状態が懸念されるからです。
母マウスの妊娠1週間前から、普通餌もしくはオメガ6過多/オメガ3不足餌を与え、仔マウスの脳構築を調べると、ニューロンの産生が盛んな胎生中期からグリア細胞の産生が前倒しに始まってしまい、結果としてニューロンの産生が減少してしまうことがわかりました。この効果は、確かにオメガ6とオメガ3脂肪酸のバランスによるものであることを、オメガ6系の脂肪酸をオメガ3系の脂肪酸に変換できるFat-1トランスジェニックマウスを用いて確認しました。ニューロンの中でもとくに、精緻な神経機能に重要と考えられる、遅生まれの浅層ニューロン数が減っていました。
この原因について、理化学研究所の有田誠先生との共同研究によりリピドミクス解析をして頂き、オメガ6系のエポキシ代謝物が増加し、逆にオメガ3系のエポキシ代謝物が減少していることがわかったので、in vitroで神経幹細胞を用いて、これらのエポキシ代謝物の影響を調べると、確かに、増加していたオメガ6系のエポキシ代謝物はグリア細胞の分化を誘導し、減少していたオメガ3系のエポキシ代謝物はニューロンの分化を誘導することがわかりました。
このような脳構築期の脂質栄養のアンバランスが、その後どのような影響をもたらすかについて、生後10日目以降は普通の餌で飼育して成体になってから解析を行うと、オメガ6過多/オメガ3不足餌で飼育された母獣から生まれた仔マウスでは、不安行動が増加していることが認められました。この結果は、胎児期の脂質栄養の偏りが情動に影響を与えるという点において、DOHaD仮説に合致したものと言えます。
かつて、動物性の脂はコレステロールが多いので良くないのに対して、植物性の油は健康に良いと見なされてきた時代があったと思いますが、揚げ物やマヨネーズに使われるコーン油、大豆油などは実はオメガ6系の脂質を多く含みます。三食、からあげクンとフライドポテトを食べる方はいないかもしれませんが、妊娠期には良い脂質を摂取することが子どものこころの発達にも大事であると思われます。
本研究には、上記に挙げたリピドミクスの有田先生以外にも、餌の供給に関して、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のSheila Innis先生、Fat-1マウスの提供として米国ハーバード大学のJing Kang先生、代謝状態の解析に東北大学糖尿病代謝科の片桐秀樹先生、脂肪酸分析に関してサントリーウエルネス(株)健康科学研究所の柴田浩志様など、国内外の多数の研究者にご協力を頂きました。この場を借りて感謝申し上げます。そして、何より、本研究の考案から遂行まで数年にわたって研究を続けてきた筆頭著者の酒寄信幸さん(現福島医科大学)、投稿先に合わせて何度も書き換えたり、リバイスのための実験も含め、大変な困難をよく乗り越えたと思います。おめでとう! また、協力して支えて下さったラボメンバーの皆さんと、本研究のために犠牲になった合計612匹のマウスに心から感謝致します。
【メディア記事】
日経バイオテク:国立大学法人 東北大学、妊娠中の脂質摂取が仔マウスの脳形成と情動に与える影響‐母親の偏った多価不飽和脂肪酸摂取は仔マウスの脳形成不全と過剰な不安を引き起こす‐
日経電子版:東北大、妊娠中の母マウスの脂質摂取が仔マウスの脳形成と情動に与える影響を解明
マイナビニュース:妊娠中のオメガ6過多/オメガ3欠乏が子供の脳形成不全を引き起こす - 東北大
2NN:
【神経発生学】妊娠マウスの偏った多価不飽和脂肪酸摂取は仔マウスの脳形成不全とと過剰な不安を引き起こす/東北大など[11/19]
2016.03.11 (金)
『健康長寿のための医学』とは?
「成人期だけでなく、胎生期や子どものときの環境が、その後の高齢期の健康に影響する」と説明している本があります。
本日紹介するのは、私が尊敬する元京都大学総長の井村裕夫さんが書いた、こちらの新刊新書です。
井村裕夫『健康長寿のための医学』(岩波新書)
健康長寿のための医学 (岩波新書)
著者井村 裕夫
価格¥ 821(2017/07/26 05:07時点)
出版日2016/02/20
商品ランキング55,559位
新書224ページ
ISBN-104004315883
ISBN-139784004315889
出版社岩波書店
この本は、以下のような最先端医学の考え方を紹介している点で、ぜひ若い人々にも読んだもらいたい名著です。
◆ ライフコース・ヘルスケア (人生の早い時期から自分の体について考える)
◆ 先制医療 (発症する前に予防する)
◆ サクセスフル・エージング (自立して生活する健康、社会へのコミットメント維持)
◆ 健康寿命 (第三者の助けを要せずに健康に生活)
◆ NCD (Non-Communicable Desease = 非感染性疾患)
本書は以下の10部構成から成っています。
1.少子高齢化とその社会への影響
2.高齢社会で問題となる疾患、NCD
3.環境の変化はNCDにどのように影響するか
5.早期の環境因子の影響と新しい学説、DOHaD説
6.人生の生活史の特徴と、それに基づくヘルスケア
7.高齢期の健康-サクセスフル・エージングのために
8.ライフコース・ヘルスケア-新しい健康管理
9.先制医療-医学の新しい挑戦
10.健康長寿社会を実現するために-一人ひとりが主役の未来
本書は中盤で専門的な記述が続いて、難しい部分もありますが、全体として、今後の世界的な少子高齢社会に向けての課題や解決のためのコンセプトが明確に提示されていて有益です。
とくに重要なコンセプトは、従来、高齢期の健康は例えば40歳以上の成年期になってから注意すべきと一般に考えられていましたが、潜在的な病的状態は、実は胎生期からさらに少年期、青年期を通して徐々に進行する、ということです。
したがって、早い時期から、人生の全体を通して健康に注意する、いわゆる「ライフコース・アプローチ」が必要になってきます。
本書では、人生の生活史(=ライフヒストリー)と後年の健康への影響を、世界の豊富な臨床データや研究結果を踏まえて、方向性を打ち出している点が画期的です。
また、巻末には海外の書籍を中心に「参考文献」の一覧が掲載されていて役立ちます。とくに本書の最後の部分で紹介されているアメリカの国立衛生研究所(NIH)の長官であるF・S・コリンズの著書『遺伝子医療革命』(日本放送出版協会)は注目すべき文献です。
遺伝子医療革命 ゲノム科学がわたしたちを変える
著者フランシス・S・コリンズ
価格¥ 2,268(2017/07/26 05:07時点)
出版日2011/01/21
商品ランキング171,519位
単行本384ページ
ISBN-104140814551
ISBN-139784140814550
出版社NHK出版
遺伝子医療革命 ―ゲノム科学がわたしたちを変える
著者フランシス・S・コリンズ
出版日2011/01/21
商品ランキング57,141位
Kindle版384ページ
出版社NHK出版
そして締め括りとして、「健康長寿社会のためのパブリック・ヘルス」を本書は提唱し、一人ひとりが主役の時代が来たとしています。
ライフコース・ヘルスケアを実現するためには、医療提供者は従来のような受け身の姿勢ではなく、より積極的にコミュニティの中に入っていって、健康長寿の推進と先制医療の実践が求められるでしょう。
あなたも本書を読んで、健康のあり方に関する最先端の知見を手に入れませんか。
では、今日もハッピーな1日を
第27回日本疫学会学術総会開催にあたって
山縣然太朗 ライフコース・ヘルスケアを支える疫学
第27回日本疫学会学術総会会長
山梨大学大学院総合研究部医学域社会医学講座
教授 山縣 然太朗
第27回日本疫学会学術総会を2017年1月25日から27日に山梨県で開催させていただくことになりました。学会長として一言ご挨拶申し上げます。
本学術総会のテーマは「ライフコース・ヘルスケアを支える疫学」としました。「ゆりかごから墓場まで」は第二次大戦後の英国の社会保障政策のスローガンです。生涯を通じた福祉政策を象徴した言葉ですが、健康政策も同様に生涯を通じた健康を支援することが必要です。本学会ではライフコース・ヘルスケアの視点から、胎児期からはじまる疾病予防に、疫学がどのように貢献できるかを考えてみたいとの思いからのテーマです。特に、コホート研究の基礎から社会実装までをじっくりと議論したいと思います。
そこで、特別講演として、コホート研究の基盤となる健康情報の利活用について、お二人の先生に特別講演をお願いしました。国立社会保障・人口問題研究所所長の森田朗先生には「医療番号制度と医療ICTがもたらす可能性」と題して、マイナンバー法の時代、疫学研究にどのような可能性が出てくるのかをお話しいただき、デンマークの出生コホート研究の中心的役割を担っておられるMads Melbye先生(Professor, MD, DMSc; Executive Vice President, Statens Serum Institut, Denmark)には、デンマークの国民ID制度と疾病登録制度を用いた「デンマーク出生コホート研究の概観」をお話しいただく予定です。
疫学研究は人を対象とした医学研究です。研究にご協力いただいて健康情報などをご提供いただく市民の皆様と共に実施する研究です。市民の皆様に疫学研究をご理解いただき、ご協力、ご支援いただくために、信頼される研究を実施する必要があります。大規模多施設共同研究のあり方、研究における倫理的、法的、社会的諸課題、結果の返却や成果還元の際のサイエンス・コミュニケーションなどの「研究ガバナンス」についても議論したいと思います。
山梨の地で開催される初めての学術総会です。会場は利便性を考えて、甲府駅から歩いて3分の場所にいたしました。是非、多数の会員の皆様のご参加と活発なご議論をお願いいたします。