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            田中宇の国際ニュース解説  15回
             中央銀行の仲間割れ 08/28
             ロシアの中東覇権を好むイスラエル 08/25
             2018年秋の世界情勢を展望する 08/22   以上【05】

             ドル覇権を壊すトランプの経済制裁と貿易戦争 08/18
             中国包囲網はもう不可能 08/15
             米国から露中への中東覇権の移転が加速 08/12
             軍産複合体を歴史から解析する 08/08   以上【06】

             米国の破綻は不可避 08/05
             最期までQEを続ける日本 08/01
             トランプはイランとも首脳会談するかも 07/29
             軍産の世界支配を壊すトランプ 07/24   以上【07】

             金相場の引き下げ役を代行する中国 07/18
             中東の転換点になる米露首脳会談 07/15
             意外にしぶとい米朝和解 07/11
             ポスト真実の覇権暗闘 07/08   以上【08】

【05】

 08 28 (火) 田中宇の国際ニュース解説     08/28 ➡ 07/08の15回分

田中宇の◆最期までQEを続ける日本【2018年07月08日】から、中央銀行の仲間割れ【2018年8月28日】までのアウトラインだけを目を通しているだけでも、朝日新聞の政治に関する記事には少しも触れない感じがする。

従って、国内発行の新聞だけで世界の政治の流れを読み取ることは不可能だと思う。 そうだとすれば、「井の蛙大海を知らず」ということになる。

私が入手する国際情勢についての理解は、地球上を絶え間なく電波が飛び回っているニュースを効率よくとらえて解説している田中宇さんの 『国際ニュース解説』 が何より頼りになっている。

08/28から07/08までの記事概要だけ読んでみてもその様子が分かります。 まず概要を取り上げ、その後ニュース記事を取り上げていきます。




田中宇の国際ニュース解説 田中宇の解説(1)  http://tanakanews.com

中央銀行の仲間割れ
 【2018年8月28日】 欧日英の同盟諸国は、米国の覇権放棄に反対している。米国は覇権国として、世界から米国への輸入を旺盛に受け入れ、世界経済の成長を米国の消費が牽引し続けてほしい。世界に低利のドル資金をばらまき続けてほしい。ドルの国際決済を制限しないでほしい。かっぷくの良い覇権国に戻ってほしい。同盟諸国はそう考えているが、トランプに拒否されている。同盟諸国の中銀群は、米国の覇権放棄に抗議してジャクソンホール会議をボイコットした。

ロシアの中東覇権を好むイスラエル
 【2018年8月25日】 イスラエルは3方向に敵対問題を抱えてきた。南方戦線のガザのハマス、北方戦線のシリアとレバノンのアサドとヒズボラ、東方の西岸のファタハ(PA)との中東和平の3つである。この3つのうち、北方と南方を、すでにプーチンのロシアが解決している。イスラエルはすでに北方において、アサド、ヒズボラ、イランとの間で「冷たい和平」の停戦に入っている。そして今回、南方のガザでも停戦が発行した。速いテンポで安定化が進んでいる。プーチンの采配をトランプが支持する米露協調なので、イスラエル右派も和平を潰せない。いずれ何らかの形で西岸でも動きがある。

2018年秋の世界情勢を展望する
 【2018年8月22日】 今年はまだ決定的なバブル崩壊にならない。トランプの戦略は、金融システムの構造的な健全性を積極的に破壊しながら、大統領を2期8年やるために短期的なバブルの延命を実現することだ。金融の健全性を重視するとバブル崩壊が早まるが、トランプは逆に、金融の不健全を拡大して自分の任期が終わるころに金融崩壊(米金融覇権の瓦解)させようとしている。システムを潰すつもりなら、何年かの金融バブルの維持は可能だ。

ドル覇権を壊すトランプの経済制裁と貿易戦争
 【2018年8月18日】 トルコや中国など新興市場と、トランプの米国との経済戦争は、序盤である今のところ、新興市場の側は資金不足・ドル不足にあえぎ、苦戦している。だが、この戦争が長く続くほど、新興市場の諸国は、ドルでなく自分たちの通貨を使って貿易・投資する体制を整えていく。いずれ、ドルと米国債が敬遠される傾向が増し、米国債金利の大幅上昇が不可避になり、ドルが基軸通貨としての機能を喪失する。トランプは、この流れを意図的に作っている。

中国包囲網はもう不可能
 【2018年8月15日】 中国自身、トランプ政権のインド太平洋戦略を、中国包囲網策だと見なさなくなっている。ポンペオが今回インド太平洋の投資戦略を発表した後、中国共産党の機関紙である人民日報(英語版、環球時報)は「米国主導のインド太平洋の戦略は、政治(地政学)的にみると中国包囲網だが、経済(経済地理学)的に見ると、米国側(米日豪)が中国の一帯一路戦略を補完・協力してくれることを意味する。だから、米国のインド太平洋戦略を、中国は歓迎する」という趣旨の論文を載せている。

米国から露中への中東覇権の移転が加速
 【2018年8月12日】 米国はシリア内戦の平定をロシアに任せてきた。中国は、米国が豹変する可能性を勘案し、中東での覇権拡大をゆっくり目立たないようにやってきた。しかし今回、シリアの内戦終結と同期する形で開かれた7月の米露首脳会談で、内戦後のシリアと周辺地域の運営がロシアに任されることになり、中東で米国の影響力が大きく低下することが確定的になった。中国は以前に比べ、米国を恐れずに中東の覇権を拡大できるようになった。

軍産複合体を歴史から解析する
 【2018年8月8日】 19世紀に世界の覇権を握った英国が、覇権運営のコストを下げるため、諜報界を使った傀儡化戦略を多用した関係で、英国とその同盟諸国の諜報界のネットワークが、覇権運営を担当した。その体制は現在まで変わっていない。「軍産複合体」は、英国中心の諜報界の一つの姿だ。軍産は、第2次大戦後、英国から米国に覇権が移転した後も、米国覇権の運営を英国が隠然と牛耳るために作り出された諜報ネットワークの特殊な状態だ。

米国の破綻は不可避
 【2018年8月5日】 米国の経済覇権の根幹にある債券金融システムがいずれ(2020-2025??)バブル崩壊し、それが米国覇権の終わりになる。このとき、日銀のQEによって米金融をテコ入れしている日本は大打撃を受ける。対照的に、中国やBRICSは、米金融崩壊に備えてドルの使用を減らし、金地金を備蓄しており、金融崩壊からの打撃も少なくなる。先日、中国がBRICSサミットでドル崩壊への準備の加速を決めたのと同時期に、日銀がQEを2020年まで続けることを決め、崩壊が不可避なドルの延命に邁進することにした。中国は賢い。日本は馬鹿だ。

最期までQEを続ける日本
 【2018年8月1日】 7月31日、日銀が政策決定会合で、QEを今後も長期にわたって続けることを決めた。今回の政策決定は「次回大統領選挙でトランプが再選を果たす2020年まではQEを続ける。QEの資金によって、日本だけでなく米国の金利安(債券高)や株高を維持し、米国中心の債券金融システムの破綻を先送りすることで、トランプ再選に貢献する」という意味だ。対米自立を加速する欧州(ECB)は今年末でQEをやめるが、国が破綻しても対米従属を続けたい日本政府はまだまだQEを続ける。

トランプはイランとも首脳会談するかも
 【2018年7月29日】 トランプはこれまでイラン敵視一辺倒だったが、今回初めて、イランとの対話の可能性に言及し始め、敵視と対話の両方が交互に出てくる渦巻き型の姿勢に変化した。この変化は画期的だ。トランプはもしかすると、北朝鮮、ロシアに続き、イランとも首脳会談をやって首脳間の信頼関係を築き、軍産が長年続けてきたイラン敵視策を破壊する和解への転換をやるつもりかもしれない。

軍産の世界支配を壊すトランプ
 【2018年7月24日】 軍産複合体の一部であるマスコミは、軍産の正体を隠すため、トランプが軍産と戦っている構図を報じない。大半の人々は、マスコミ報道を鵜呑みするしかないので軍産の存在を知らず、素人のトランプが専門家(実は軍産)の助言を無視し、有害で不可解なことを続けていると勘違いしている。実際には、人類の未来を賭けた、トランプと軍産との激しい暗闘が続いている。

金相場の引き下げ役を代行する中国
 【2018年7月18日】 中国は、金相場を先物で引き下げてきた米国金融勢力と正面切って戦うと勝てないので、まずは金相場を引き下げる方向で人民元の金ペッグを定着させ、いずれ米金融がバブル崩壊して弱体化してから元と金を上昇させる戦略だ。中国が、金相場を引き下げる役目を代行する名目で、人民元の為替を引き下げるなら、米国は元安を容認する。米金融勢力は、金相場を引き下げる手間が省ける。日本を含む米金融勢力は、いずれバブル崩壊して自滅する。中国が急いで対抗する必要はない。

中東の転換点になる米露首脳会談
 【2018年7月15日】 7月16日のヘルシンキ米露首脳会談を前に、内戦後のシリアの安定化や、米国が抜けた後のイラン核協定、パレスチナ問題など、中東の諸問題の解決役をプーチンのロシアが引き受ける状況が加速している。米露会談は、従来の覇権国だった米国から、シリア内戦を解決したロシアへと、中東地域の覇権を移譲する「移譲式」のような位置づけになることが見えてきた。

意外にしぶとい米朝和解
 【2018年7月11日】 米朝首脳会談後、北朝鮮が核開発を続けていると米国で報じられ、トランプは、北朝鮮と軍産複合体の両方から反逆・妨害・試練を受けて窮している。だが、今のようにトランプが米国の北敵視策の再来を防いでいる限り、北は米国からの脅威を感じず、韓国と和解していける。南北の和解は急進展している。この状態が2年も続けば、南北和解が定着し、在韓米軍の撤退や韓国の対米自立が可能になっていく。これがトランプの目標だ。トランプが作った米朝和解の構図は、意外としぶとい。

ポスト真実の覇権暗闘
 【2018年7月8日】権威ある学者など「専門家」は、ポスト真実の戦略に楯突くと、権威や職を失うことになりかねないので、権威ある人々は楯突かず、むしろ自らの権威を維持増強するために積極的にポスト真実の戦略に乗って軍産的な歪曲解説を声高に言う人が出てくる。それにより、大学や学術界の知的な価値が大きく下がった。マスコミの多くは、軍産傀儡の「専門家」ばかりを使うようになり、そういった専門家の権威が上昇し、反逆者の権威が剥奪され、軍産による事実歪曲はますます強固になった。

米露首脳会談の最重要議題はシリア
 【2018年7月3日】 ヘルシンキで行われる米露首脳会談の隠れた立役者はイスラエルでないかと、私は勘ぐっている。イスラエルは、米国とロシアに別々に頼んでもらちが明かないので、米露に首脳会談させてシリアの今後のあり方を決めてもらい、その中に、イランやヒズボラの追い出しを盛り込ませたい。ネタニヤフが米露首脳会談の実現を望めば、軍産との闘い上、トランプも喜ぶ。

【下平注記】

もし田中宇の国際ニュース解説をずっと読みたいという希望があれば、会員制の配信記事「田中宇プラス」(購読料は6カ月で3000円)をパソコンで申し込めば、1995年あたりからニュース記事を読むことができます。

私はそんなに古いものから読んではいません。 ことに日本の将来でアメリカの変化と中国の変化の中で外交を進めるのに、戦争拒否要するに人を殺す考えを皆無にした外交、言い換えれば本当の人々の平和を築くための外交をどう進めていけばいいのか、その一点に集中した視点でものの考え方を心に据えたいことが、私の最終的な願いなのです。

そのために周辺国と仲良く暮らせるようにすることが私たちの願いでなくてはならないと思っています。 政治家の一人ひとりも私たちの心の声をわきまえて活動できるようになってほしいのです。 ですから、国益のためという言葉を使うような考えは捨て、すべての人が隣人になれる考え方を持つことが大事だと思います。

具体的に言えば韓国と北朝鮮が統一され、中国の人たちや東アジアの人たちが日本を含めて仲よくなることが近間の願いなのです。 私たち日本人の一人ひとりが「ボヤッ」としていてはいけないのです。韓国と仲良くしていく対策をどう進めたらいいのか、中国と仲良くしていく対策をどう進めたらいいのかについて、よい方法とか知恵を出し合うことが必要なのです。

そのために、国際間の動きをニュースとして正しく理解することが必要になる。 常に手前勝手な情報操作に気をつけなくてはならないのです。



中央銀行の仲間割れ   (08/28記事)

8月23-25日、米国ロッキー山脈の避暑地であるワイオミング州ジャクソンホールに米欧日などの中央銀行の当局者や経済学者らが集まり、今年も米連銀(カンザスシティ連銀)主催の「経済政策シンポジウム」が開かれた。この会議は近年、米連銀(FRB)と欧州中銀(ECB)、日銀、英中銀など、先進諸国の中央銀行の総裁たちが集まって仲良く団結している様子を世界に示すとともに、先進諸国の中央銀行が米国主導で政策協調する場だった。だが今年は異様なことに、ECBのドラギ総裁も、日銀の黒田総裁も、英中銀のカーニー総裁も、この会議を欠席した。日銀からは、若田部副総裁が出席したが、ECBは総裁・副総裁だけでなく、役員会の他の4人の役員も全員欠席した。 (Here Comes Powell But Draghi And Kuroda Strangely Absent From Jackson Hole)

ECBは「役員らの欠席に、特に理由はない」と発表している。だが昨年まで、ジャクソンホールは、先進諸国の中銀総裁たちが米国主導で団結している様子を示す会合だった。その意味づけからすると、欧英日の総裁が全員欠席し、ECBからは役員すら誰も来なかったことは「米国主導の中央銀行群の団結が、何らかの理由で損なわれている」ことを意味する。金融市場は、中央銀行のわずかな言動に大騒ぎすることがよくある。中銀側はそれを自覚している。特に理由なくECBの総裁ら役員全員がジャクソンホールを欠席することなど、ありえない。これはECBが意図してやったことだ。日英の総裁欠席も同様だ。すべて米国に警告を発するための意図的な欠席、集団的なボイコットだろう。 (3 of the world's most important central bankers are skipping this year's 'summer camp for economists' in Jackson Hole)

米欧日英の中銀群はこれまで、米国中心の国際金融システムの延命のためにQE(造幣による債券買い支え)など超緩和策を協力して続けてきた。その協力体制が壊れ、米国と、欧日英の中央銀行の間に、非公開の仲間割れが発生している観がある。QEをやっていないカナダ中銀のポロズ総裁は今年のジャクソンホール会議に出席しており、仲間割れに関係なさそうだ。仲間割れは、QEをめぐって起きているように見える。英中銀も09年から16年までQEをやっていた。英国はもともと米国覇権の黒幕・お目付け役でもある。米国覇権の維持のためにQEをやった日欧英が、トランプの覇権放棄策に対して集団で抗議の意を表明した感じだ。 (Federal Reserve Bank of Kansas City - Wikipedia)

1978年から毎年開かれているジャクソンホール会議は、かつて農業経済を議論する地味で学術的な会議だった。08年のリーマン危機後、この会議は表向きの学術色の裏で政治色が増し、米連銀(FRB)の議長が、など、対米従属的な先進諸国の中央銀行の総裁たちを説得したり圧力をかけて、米国中心の国際金融システムを延命させるためのQEやマイナス金利などの緩和策をやらせるための場となった。 (The Key Part Of Mario Draghi's Jackson Hole Speech - Business Insider)

14年のジャクソンホール会議では、米連銀がQEをやめて、代わりにECBと日銀がQEを開始する「ドル延命のためのQEの肩代わり」が決定・計画された。ドイツなどEUの上層部には、ユーロを過剰発行して米国のバブル膨張を支える不健全なQEへの強い反対があったが、ECBのドラギ総裁は、14年8月のジャクソンホールでの記者会見で突然の即興で、QEをやらねばならないと予定外の表明をした。ドイツなどはQEに反対し続けたが、結局ECBは15年1月にQEの開始(急拡大)を決めた。ECBは現在までQEを続けているが、不健全な資産の膨張が限界に達したため、今年いっぱいでQEをやめると決めている。 (欧州中央銀行の反乱) (ユーロもQEで自滅への道)

14年のジャクソンホール会議では、日銀の黒田総裁にもQEを急拡大せよと圧力がかかり、日銀は14年11月、米連銀がQEを終了した2日後からQEを急拡大した。日銀には、それ以前からQEなど緩和策をやれと米連銀から圧力をかけられており、10年8月のジャクソンホール会議で圧力をかけられた当時の日銀の白川総裁は、予定を早めて帰国して日銀の政策決定会合を臨時で開き、緩和策の拡大を決めている(白川は、嫌々ながらの緩和拡大だったので13年に米国の差し金でクビにされた)。日欧の中銀総裁にとってジャクソンホールは、不合理でも絶対服従の裁判所「閻魔様のお白州」だった。 (米国と心中したい日本のQE拡大)

各国の中央銀行は、自国の政府から独立して政策決定している(ことになっている)。これが「中央銀行の独立」だ。だが実のところ、各国の中央銀行は、自国の政府から独立する一方で、米連銀に対して従属している。米国はブレトンウッズ合意に基づく戦後の覇権国であり、同盟諸国の中銀群に対して必要に応じて覇権を行使する。中央銀行の独立が必要なのは、自国政府でなく米連銀への従属が必要だからだ。 (崩れ出す中央銀行ネットワーク) (中央銀行の独立を奪う米英)

QEは、債券を買い支える中央銀行の(不良)資産を急速に肥大化させるので、数年しか続けられない。08年のリーマン危機後、14年まで米連銀がQEをやり、その後、今年まで日欧中銀がQEをやっている。日欧中銀が、米国の金融政策の失敗の尻ぬぐいで不健全なQEを米連銀から肩代わりしたのは、そうしないと延命策が尽き、米国中心の世界の債券金融システムが再崩壊し、リーマンよりはるかにひどいドル崩壊的な「最期の危機」が起きてしまうからだ。だがその一方で、日欧中銀がQEを肩代わりしても数年しかもたず、いずれ延命策が尽きて大崩壊になる。日欧中銀の上層部で、米国のバブル延命に協力するのを辞退して、自分たちの中央銀行としての余力を温存した方が良いという意見が強いのは当然だった。 (日銀QE破綻への道) (万策尽き始めた中央銀行)

日欧中銀が14年にQEの肩代わりを断っていたら、世界の金融システムはすでに延命策が尽きて大きな危機が再燃していただろう。それは、戦後世界の根幹にあるドルの基軸通貨体制(米金融覇権)の喪失になる。覇権国である米国の理屈としては「円やユーロより、基軸通貨であるドルの方が大事だ。日欧に全力で圧力をかけてQEを肩代わりさせ、米連銀自身は余力を拡大するためにQE停止や利上げ、資産縮小をするのが良い」という理屈になる。この理屈に沿って、14年のジャクソンホール会議で(もしくはその前から)日銀とECBに圧力をかける「覇権の行使」が行われ、日欧に無理やりQEを肩代わりさせた。 (Merkel unhappy with Draghi's apparent new fiscal focus) (ECB: Draghi’s eurozone deal)

その後、15、16、17年のジャクソンホール会議には、日欧中銀の総裁や幹部たちが積極参加し、米国中心の国際金融を守るため、米国が引き締め策、日欧が緩和策を続ける体制がうまく機能していることが演じられた。日欧の中銀幹部たちは毎年ジャクソンホールの「お白州」に出廷し、閻魔様=米連銀の幹部と一緒に作り笑いしながら歓談してみせていた。ところが、今年は一転して、全員が一致団結したかのように「出廷拒否」である。 (Euro surges as ECB's Draghi does not mention currency strength)

▼QEでドルを延命させたのにトランプに覇権放棄され馬鹿を見る日欧、今さら抗議してもねえ・・・

今年の欧日英の「出廷拒否」の理由は何か。マスコミは今回も、何も解説していない。欧日英の集団欠席の事実すら、ほとんど流れていない。ブルームバーグは、集団欠席を報じた数少ないマスコミで、それを報じた記事は当初、題名に集団欠席のことが入っていたが、あとで題名から集団欠席の部分が削除され、本文の後半で指摘されるだけになった。上層部が、この件を報じたくない感じだ。この件は独自の分析が必要だ。まずは、中央銀行をめぐる状況で、昨年と今年の違いは何かを考えてみる。 (Powell Takes Stage as Draghi, Kuroda Sit It Out: Jackson Hole) (Fed's Mester Sees ‘Compelling’ Case for Rate Hikes: Jackson Hole)

(1)トランプの貿易戦争。トランプは今春以来、先進諸国や新興諸国など全世界からの鉄鋼アルミ、自動車などの輸入に関して高い関税をかけ、世界から米国への輸出を減らす策を展開している。これは「米国が世界から旺盛に輸入して世界にドルを注入し、世界はそのドルで米国債を買って米国の金融安定に貢献する」という戦後の米国の経済覇権体制を放棄する策だ。米国の経済覇権体制は、日欧にとっても繁栄の源泉だった。日欧中銀は、米国の経済覇権を維持するためにQEを肩代わりしたのに、そのQEが限界に達して終わる今になって、米国は経済覇権を放棄する策を展開している。これは日欧にとって受け入れられない。日欧英などG7諸国は、すでに6月のG7サミットで、トランプの貿易戦争に集団で抗議している。今回のジャクソンホール集団欠席は、このG7での抗議の延長にあると考えられる。 (貿易戦争で世界を非米・多極化に押しやるトランプ)

(2)貿易戦争に絡んだ、新興市場から米国にドル資金を還流させて米国の金融を延命する動き。中国など新興市場諸国は、対米輸出を増やすことでしかドルを獲得できない。トランプの貿易戦争は最近、トルコなど新興市場をドル不足の経済危機に陥らせ、それが新興市場から米国への資金還流となり、米金融の新たな延命策になっている。これがトランプと米連銀にとって、終わりゆく日欧QEに代わる米金融の延命策だ。今後、ドル資金の米国への逃避が、新興市場だけでなく欧州に波及すると、欧州の銀行はドル建ての米国の債券をしこたま買ってしまっているので、欧州の金融危機には発展する。また、先進諸国が成熟化する中、新興市場は今後の世界経済の牽引役だ。覇権国のくせに世界経済の発展を考えず、自国の金融延命しか重視しないトランプと米連銀に対する抗議の意味が、集団欠席の裏にありそうだ。 (Turkey's Crisis And The Dollar's Future) (ドル覇権を壊すトランプの経済制裁と貿易戦争)

(3)イランやロシアに対する濡れ衣に基づく経済制裁の道具としてドルを使いすぎるトランプや米連銀に対する警告。トランプは、イランやロシアの企業にドル建て決済を禁じるだけでなく、イランやロシアと取引する欧米などの企業をもドル建て決済から締め出す制裁を科そうとしている。これは、イランやロシアと取引する企業が多いEUを怒らせている。ECBがジャクソンホールに誰も派遣しなかったのは、トランプ政権が11月からイランと取引する欧州などの企業にドル決済を禁じると決めたことへの抗議だろう。EUは、イランが核兵器開発しているという無根拠な濡れ衣に基づくイラン制裁に、もう協力できない。ドイツの財務相は先日、米国を迂回する国際資金決済の仕組み(ドル送金のSWIFTの代替システム。ユーロ建て?)が必要だと宣言した。ECB(に日銀)がドル延命のためにQEを肩代わりしたのは馬鹿だった。 (Is Europe Making Plans For A New World Order?) (Europe, Japan, China, Russia Increasingly Cutting US Out of Economic and Trade Deals)

(4)QEの終わりで用済みにされる日欧。日欧中銀は今年、QEを終わりにすることを顕在化した。昨年は、日欧中銀のQEの終わりがまだ見えていなかった。今年、米連銀にとって日欧中銀が「用済み」となった。だから日欧英が米国に忠告しても、米国は無視している。それに対する抗議としての集団欠席。 (The 2008 financial crisis never really ended)

全体として、トランプの米国が、覇権国としての責務を放棄し、自国の短期的な延命だけを重視する身勝手な策をとっていることに、米国の覇権維持に協力してQEを肩代わりした日欧中銀が抗議している感じを受ける。新興市場諸国の諸中銀は、米連銀に、ドル資金を吸い上げる利上げと連銀資産の圧縮(勘定縮小)をやめてくれと相次いで懇願しているが、全て無視されている。米連銀は、9月に予定通り利上げする流れだ。 (Big Questions on Global Economy Hang Over Jackson Hole Gathering)

トランプは7月以来、連銀の利上げに反対を表明している。8月20日にも表明した。だが、連銀のパウエル議長は、トランプ自らが選んで就任させた子飼いの勢力だ。トランプが本当に利上げに反対なら「中央銀行の独立」に抵触する反対表明などせず、非公式にパウエルと会って圧力をかければ良い。トランプが声高に利上げ反対を繰り返し表明しているのは、大統領として景気浮揚を重視して低金利を好んでいるというイメージを世間に定着させるための演技だけだ。実質的に、トランプは連銀の利上げに賛成していると考えられる。利上げは、世界から米国へのドルの還流を生み、世界経済を犠牲にして米国の金融を延命させる。 (Trump demands Fed help on economy, complains about interest rate rises)

米国は覇権国として、世界経済を成長させる責務がある。トランプは大統領就任以来、自国の成長を優先するあまり(それも演技で、実のところは軍産支配を壊して覇権構造を多極型に転換するために)覇権国の責務を次々と放棄している。(1)米国市場を世界に対して閉ざす世界との貿易戦争(輸入関税の引き上げ)。(2)世界からドルを還流させる米連銀の利上げと資産圧縮、財政赤字の拡大。(3)イラン制裁を口実とした、ドル建て貿易決済の制限。いずれも覇権国の責務の放棄、覇権放棄の策だ。これらが続くと、いずれドルは基軸通貨の地位が低下する。米国覇権の喪失になる。 (米国の破綻は不可避)

欧日英の同盟諸国は、こうした米国の覇権放棄に反対している。米国は覇権国として、世界から米国への輸入を旺盛に受け入れ、世界経済の成長を米国の消費が牽引し続けてほしい。世界に低利のドル資金をばらまき続けてほしい。ドルの国際決済を制限しないでほしい。昔のようにかっぷくの良い覇権国に戻ってほしい。同盟諸国はそう考えているが、トランプに拒否されている。今回、同盟諸国の中銀群は、米国の覇権放棄に抗議してジャクソンホール会議をボイコットしたと考えられる。 (中央銀行がふくらませた巨大バブル)

同盟諸国の抗議活動は、米国の姿勢に影響を与えそうもない。日欧はQEでドル基軸の延命に協力したのに、今や米国自身がドル基軸を粗末にしている。QEをやめると、日欧の株や債券が下落する。日銀のQE資金が今の日本の株高の唯一の支えだ。米国は、世界からのドル還流誘発など次の延命策に移っているので下がりにくく、日欧だけが新興市場と並んで下落する。日銀は、以前のように株価が少し下がっただけでETFを買って株価を買い支えることを最近やらなくなっている。 (BOJ Issues "Red Hot" Warning: Stocks May Drop And We Won't Be There)

新興市場と並んで日欧の金融市場が悪化すると、世界から米国への資金還流に拍車がかかり、米国だけが延命する。米国はひどいバブル膨張だが、まだ最期の暴落にならない。先に日欧が暴落する。中国政府は何年も前から株の大幅下落を容認しているが、日本も似たような姿勢になる。 (金融バブルと闘う習近平)

同盟諸国は長期的に、米国に頼るのをやめていくしかない。この点において、欧州と日本、英国で、置かれている状況に違いがある。欧州はEUとしてすでに国家統合を進め、地域覇権国となる体制を持っているので対米自立しやすいが、日本と英国は、米国の覇権が低下すると国力が大幅に落ちる。 (Macron: EU's security must no longer depend on US)

今後は米国も日欧も、金融システムの健全性を全く無視して、金融危機の再発を防ぐための近視眼的な延命策を続ける。バブルを収縮して軟着陸させるという健全な政策は行われず、逆に、バブルを膨張させて延命をはかる傾向が増す。米国では、利上げと減税によって銀行の収益を急増させ、その儲けで銀行が危険な投資を拡大するよう仕向けている(日本ではこれが行われず、代わりに日銀自身がETFを買って株価を高止まりさせている)。 (トランプのバブル膨張策) (QEやめたらバブル大崩壊)

金融システムで何が起きているか、マスコミや権威筋に全く報じさせない、解説させない政策が、今よりさらに徹底される。権威ある筋からは「危険なことなど何も起きていない」という説明しか出てこない状態が続く。そして、バブル膨張によるすべての延命策が限界に達した後、誰も止められない巨大な金融崩壊が起きる。 (最期までQEを続ける日本)

ロシアの中東覇権を好むイスラエル  (08/25記事)

イスラエルが8月15日、ガザのハマスと、史上初の本格的な停戦・和平の協定を結んだ。イスラエルは、これまで閉鎖されてきたガザとイスラエル、ガザとエジプトの国境を再開し、ガザの住民が前面の地中海で漁業をすることも認める。今後、イスラエルとハマスの間で、5年から10年の長期的な停戦、捕虜囚人の交換、戦死者の遺品の交換が予定され、ガザの港湾と空港の再建・再開、人道支援の再開、外国からの支援金によるインフラ整備の再開が予定されている。これほど包括的・本格的な和平がガザで締結されたのは93年のオスロ合意以来だ。12年と14年に似たような協定が交渉されたが、対立が再燃し履行されなかった。 (Gaza cease-fire, prisoner swap and seaport: Details of Israel-Hamas deal emerge) (Israel offers Gaza a sea passage if border attacks stop)

イスラエルは今回、ずっと敵視してきたハマスと唐突に和解した。なぜなのか。マスコミはいつものとおり納得できる説明をしていない。私なりに分析していくしかない。ハマスをめぐる話には、長い前段がある(いつもながら中東情勢は延々と複雑だ)。 (Israel-Hamas cease-fire deal has wide-ranging implications)

イスラエルはこれまでハマスを敵視していた。ハマスは、パレスチナのガザを実効支配するスンニ派イスラム主義の武装政党だ。パレスチナは、ガザとヨルダン川西岸の2地域にわかれており、ガザはハマス、西岸はファタハ(非イスラム的な元左翼の世俗政党)が統治して分裂している。06年のパレスチナ議会選挙でハマスが勝ったのに、ファタハがパレスチナ自治政府(PA)をハマスに明け渡すのを拒否して以来、対立が続いている。今から思うと、パレスチナ内部を分裂させるため、米国が無理やり選挙をやらせた感じだ。それ以来、米イスラエルは、ハマスをイスラム過激派の「テロ組織」として敵視する一方、ファタハが牛耳るPAと和平交渉するも意図的に頓挫させ、中東和平を「やっているふり」をしてきた。 (ハマスを勝たせたアメリカの「故意の失策」)

ハマスは1987年に創設された。当時、米国が、イスラエルの傍らにパレスチナ国家を創設する1948年以来の国連の「2国式」構想を推進すべく、パレスチナ和平(中東和平)の仲裁を開始し、イスラエルに負けてチュニジアに亡命していたファタハのアラファトをパレスチナに連れ戻し、パレスチナ国家の政府の準備段階であるPAを創設させた。米イスラエル上層部(諜報界)の「2国式推進派」(左派など)がアラファトにPAを作らせたのに対抗し、米イスラエル上層部の「2国式反対派」(右派など)は、パレスチナのイスラム主義者たちをけしかけてハマスを作らせた。(パレスチナ国家が創設後、イスラエルを敵視しそうなので2国式に賛成できない、という右派の主張は一理ある) (没原稿:新たな交渉に向かうパレスチナ)

ハマスは「イスラエルとパレスチナが平和共存するのでなく、パレスチナがイスラエルを潰して全部をとる解放戦争が必要だ」と主張して2国式に反対してきた。イスラエルは、自分たちを敵視する機関としてハマスを作らせた。イスラエルを潰そうとするイスラム組織が多いほど「米国がイスラエルを守るためにイスラム組織と戦わねばならない。イスラエルに軍事支援せねばならない」という、イスラエルが米軍を衛兵としてタダ働きさせる構図になる。 (Israel-Hamas talks isolate Abbas) (世界に嫌われたいイスラエル)

米国仲裁の2国式の中東和平は93年にオスロ合意としていったん実現したが、その後イスラエルが右傾化してパレスチナ国家の創設に反対して頓挫させた(95年のラビン暗殺など)。右傾化したイスラエルは、イスラム過激派を扇動する策略を引っさげて米国の軍産複合体を加勢して01年の911テロ事件を引き起こし、その後の「テロ戦争」の体制で、米国がイスラエルを守るために中東のイスラム過激派と永久に戦う構図が作られた。 (中東問題「最終解決」の深奥)

しかしテロ戦争の体制は、03年のイラク侵攻後、失敗がひどくなった。ネオコンなど、テロ戦争を(わざと)過激に稚拙に展開する勢力が戦略を立案推進したせいだ。2011年からのシリア内戦は、米国(軍産)がシリアにISアルカイダを送り込んで引き起こしたものだが、内戦でアサド政権が倒されていたら、その後のシリアはリビアに似た長期の無政府状態の内戦になり、再び安定化することが非常に難しくなっていたはずだ。イスラエルと国境を接するシリアの長期混乱は、イスラエルにとって大きな脅威だ。シリアが無政府状態で長期内戦になったまま、米国が金融破綻などによって覇権を失ってイスラエルを支援できなくなると、イスラエルの国家存続が危うくなる。米国が覇権を失うなら、その前にテロ戦争を終結し、中東を安定化しておくことがイスラエルにとって必要になる。 (足抜けを許されないイスラエル)

この点を踏まえた上で、オバマ政権下の2015年以来米国がやっている、シリア内戦の終結とその後の国家再建をロシアに任せる戦略を見ると、これはイスラエルの国益に合致していることがわかる。もしかすると、イスラエルが米国を誘導して、シリアの問題をロシアに任せるようにしたのでないかとすら思えてくる。今夏、シリア内戦がアサド政権の勝ちで終わるやいなや、イスラエル(安保戦略を担当するリーベルマン国防相)が「アサドはイスラエルの敵でない。アサドと交渉しても良い」と言い出し、シリア政府軍が対イスラエル国境(ゴラン高原占領地との国境)に駐留することを容認した。 (Hamas courtship of Russia could lead to win-win romance) (米国に頼れずロシアと組むイスラエル)

ロシアがシリア内戦を終わらせたことは、中東の覇権が米国からロシアに移っていくことを引き起こしている。米国の覇権を放棄してロシアや中国に分け与え、世界の覇権構造を米単独から多極型に転換することは、トランプ政権が目立たないよう全力で進めている戦略でもある。トランプはイラン核協定を離脱し、表向き(濡れ衣に基づく)イラン敵視を強めているが、これは実質的にイランと露中BRICSとEUが米国抜きで仲良くなる「多極化」「中東覇権の放棄」の戦略だ。トランプの米国は、経済難が続くエジプトの面倒を見ることも放棄し、ロシアと中国(安保がロシア、経済が中国)に任せている。 (Russian diplomat, Hamas leader discuss situation in Gaza Strip)

中東の覇権が米国からロシアに移ることは、米国覇権(テロ戦争の体制)にぶらさがって繁栄を維持するイスラエルの戦略にとって大打撃だが、米国のテロ戦争の体制自体が失敗し、中東が不安定なまま米国の覇権が低下するという、イスラエルにとって危険な流れになっている。イスラエルと組んでいた米国の軍産複合体は、テロ戦争と米国の覇権を立て直そうとしてきたが、立て直しの試みは逆に、中東の混乱増加、テロ戦争の濡れ衣的な構造の露呈、米国の信用低下になっている。むしろ米国が中東の覇権をロシアと中国の連合体に移譲し、露中が中東を安定させる道の方が、成功する確率が高い。そのような傾向は、オバマ政権時代から見えていた。当時、リビアもシリアもアフガニスタンも悪化していた。 (中東の覇権国になったロシア)

そう考えると、2016年の大統領選挙で、イスラエルのネタニヤフ首相の盟友である米国のユダヤ人カジノ王のシェルドン・アデルソンが、当初のトランプ敵視を翻して16年春からトランプを強く支持し始め、これがトランプの当選につながったことが、非常に興味深いものに見えてくる。アデルソンや、その周囲の、イスラエルの主流派(親イスラエルのふりをした反イスラエルである極右の入植者たちでない人々)が、トランプを大統領にして、米国が中東覇権をロシアに移譲する流れを加速させたのでないか、という読みが浮上してくる。米国の軍産は、米国覇権の維持をめざすロシア敵視のクリントンを支援した。だがイスラエルは、多極化をめざす親露的なトランプに鞍替えし、その結果トランプ政権が生まれたのでないか。 (トランプ台頭と軍産イスラエル瓦解)

私が「イスラエルがロシアに頼る?」と題する記事を書いたのは14年末のことだ。当時から、イスラエルが米国覇権の退潮や多極化を見据えてロシアに接近する動きがあった。イスラエルとかユダヤと一口に言っても、全く一枚岩でなく、常に隠然と分裂しているのだろうが、イスラエルやユダヤ世界の中にトランプを支持する強い勢力がいたので彼が大統領になったという見立ては有効だと思う。当時から、イスラエル外交の正面を担当していたのがネタニヤフで、裏面を担当していたのがリーベルマンだった。当時は正面が米国で裏面がロシアだったが、その後、ネタニヤフ自身が足しげくプーチンに会いに行くようになり、リーベルマンはカタールやシリア、イランとの関係をこっそり担当している。イスラエルの外交は、正面がロシアで、裏がカタールやシリア(アサド)、イランになっている。 (イスラエルがロシアに頼る?)

▼プーチンのロシアがカタールとエジプトをまとめ、イスラエルとハマスの和解を仲裁した

ガザにおけるイスラエルとハマスの和解についての分析に話を戻す。上記の説明をふまえると、今回のイスラエルとハマスの和解は、背後にロシアがいる可能性が高い(ロシアは今回の件で仲裁役として表に出てきていない)。イスラエルが米国のテロ戦争の体制に取り付いて繁栄しようとする限り、ハマス(やその他のイスラム主義勢力)を敵視し続ける必要があった。対照的にロシアは、できるだけ少ないコストで中東を運営しようとするので、中東での敵対関係をできるだけ減らして安定させることを目指している。ロシアの覇権策に乗るのなら、イスラエルはハマスと和解していく方向になる。 (With Abbas sidelined, Israeli-Palestinian conflict enters new territory)

ハマスがイスラエルと和解しようとする動きは、昨年5-6月にもあった。当時は、カタールの筋と、エジプトの筋が仲裁役として別々に対立して動いた結果、話がまとまらずに流れてしまった。カタールは、昔からムスリム同胞団を支援してきた。ハマスは昨春まで、ムスリム同胞団のパレスチナ支部だったので、カタールから支援を受けてきた。イスラエルに追放されてガザにいられなくなったハマスの幹部の多くがカタールに住んでいた。中東ではトルコも同胞団を支持してきた。カタールはイランとも親しく、カタール、イラン、トルコ、同胞団が、中東政治の一つのまとまりになっている。 (As ringmaster, Russia runs Israel-Iran balancing act in Syria)

加えて、米国の民主党オバマ政権は、2012年の「カイロの春」でムバラク政権が倒れてムスリム同胞団の政権ができることを容認しているほか、核協定の締結によってイランへの敵視を解いており「隠れ親同胞団・隠れ親イラン・隠れ反イスラエル」だ。オバマだけでなく米民主党がすべて同胞団カタール系であるとは言い切れないが、米民主党(もしくはその背後の米諜報界)の中にカタール、イラン、トルコ、同胞団の筋を擁立する傾向がありそうだ。 (イスラム民主主義が始まるエジプト)

昨年5月、ハマスは結党以来の政治要綱を改定(加筆)し、イスラエル敵視を引っ込め、ファタハと和解する姿勢を表明し、同胞団と距離を置くことを宣言した。ハマスは方針転換をカタールで発表した。これは、カタールがハマスに働きかけて従来の強硬姿勢を放棄させ、ハマスとファタハ、ハマスとイスラエル、ハマスとエジプト軍事政権との和解をめざすものだった。ムスリム同胞団はエジプトで力を失っており、ハマスがいつまでも同胞団に拘泥するのは得策でなかった。この新要綱により、ハマスがイスラエルやファタハ、エジプト政府と和解してガザの正当な統治者として認められていく道が開けた。ハマスとファタハの和解は、成就していたらパレスチナ人の10年ぶりの団結になるはずだった。 (How deep is Dahlan involved in Israel-Hamas talks?)

だがその後、この流れを猛烈に邪魔する動きが発生した。サウジアラビアの権力者であるMbS皇太子が6月、カタールをとつぜん仲間内(GCC)から排除して制裁し始めた。MbSはトランプにそそのかされてカタールを制裁したも言われた。カタールが仲裁するハマスの和解策は、中東の永遠の敵対状況を希求するイスラエル右派や米国の軍産にとって猛反対すべきことなので、サウジやトランプを巻き込んでカタール制裁が行われたようだ。トランプは、敵対策を過激に稚拙にやって失敗させて多極化につなげる隠れ多極主義なので、サウジの若気の至り皇太子による過激で稚拙なカタール制裁を推進したと考えられる。ハマスの上層部も、カタール支持のハニヤと、エジプト支持のシンワルが対立してしまい、ハマスの軟化策による和解は不発に終わった。 (カタールを制裁する馬鹿なサウジ)

中東では、カタール、イラン、トルコ、同胞団、(米民主党)の筋と対峙(ときに協力)するかたちで、サウジ、UAE、エジプト軍事政権、イスラエル、(米共和党)の筋がある。昨年5月は、この2つの筋が対決し、カタールが画策したハマスの和解策が潰れた。 (Why is Israel propping up Hamas in Gaza?)

それから1年あまり、今回のハマスとイスラエルの和解は、エジプトの仲裁ということになっている。イスラエルが、エジプトのシシ軍事政権に頼んでハマスとの間を仲裁してもらった感じだ。イスラエルのネタニヤフ首相は、5月に秘密裏にエジプトを訪問していた。それだけでなく、イスラエルのリーベルマン国防相が、6月に秘密裏にカタールの外相とキプロスで会っていた。8月に入っては、イスラエルとハマスの代表がカタールで交渉していた。今回のハマスとイスラエルの和解構想の中で、カタールはハマスに資金を出し、パレスチナ自治政府のガザの役人たちの未払い賃金を払ってやることになっている。エジプトとカタールは昨年、対立してハマスの和解策を潰したが、今年は逆に間接的に協力し合い、ハマスの和解策をうまいこと実現にこぎつけている。 (Netanyahu secretly met Sisi in May to discuss Gaza) (Report: Hamas Accepts Long-Term Gaza Ceasefire Deal)

この成功は、誰の仕業なのか。イスラエル自身がこんなバランスのとれた安定策をやれるようになったのか??。それは考えにくい。イスラエル政界内は、自国にとってプラスになるあらゆる安定策を潰し続ける右派の入植者集団が、まだ非常に強い力を持っている。今回のハマスとの和解も、ネタニヤフの連立政権内の右派の閣僚2人が、声高に反対を表明している。だが、右派は反対を表明するだけで、ハマスとの和解を潰すことまではできない。なぜできないのか。おそらく、今回の和解策の背後に、ネタニヤフやエジプト、カタールよりも強い勢力が、仲介役として座っているからだ。それは誰か。ロシアのプーチン以外に、それができる者はいない。ロシアは今や、カタール・イランと、エジプトの両方から頼られる存在だ。昨年は対立したカタールとエジプトだが、ロシアの仲介があるなら協調できる。今回のイスラエルとハマスの和解は、プーチンの采配に違いない。おそらく、7月中旬の米露首脳会談で、プーチンの采配をトランプが支持している。 (What Israel wants from Qatar) (Trump Is Working on an Israel-Palestine 'Deal of the Century' and Needs Putin's Cooperation)

イスラエルは地理的に、3方向に敵対問題を抱えてきた。南方戦線のガザのハマス、北方戦線のシリアとレバノンのアサドとヒズボラ、東方の西岸のファタハ(PA)との中東和平の3つである。この3つのうち、北方と南方を、すでにプーチンのロシアが解決してやっている。イスラエルはすでに北方戦線において、アサド、ヒズボラ、イランとの間で「冷たい和平」の停戦に入っている。イスラエルは「停戦などしていない。イランを許さない」とわめいているが、これは口だけの目くらましだ。すでに停戦が発効している。そして今回、南方のガザでも停戦が発行した。速いテンポで安定化が進んでいる。プーチンの采配をトランプが支持する米露協調なので、イスラエル右派もそれを潰せない。いずれ、何らかの形で西岸の安定化も発効するだろう。(ヨルダンがカギかも) (Abbas to dissolve Palestinian Authority, revoke recognition of Israel – urges Hamas to join harsh new line) (Israel DM Declares Syria War ‘Effectively Over’)

イスラエルは、米国からの支援金を減らされていく傾向だ。そのため、イスラエルは7月に基本法を改定して「ユダヤ人だけがイスラエル国民である」と定め、これまで国民として扱ってきたドルーズ派やアラブ系を国民から外し、彼らのところに回っていた財政資金を削減することにした。これまでがんばってイスラエル国家に貢献してきたドルーズ派は馬鹿を見ている。イスラエル政府は、米国からの無償支援が減り、軍事費の急増も余儀なくされている。財政的に余裕がなくなるイスラエルは、軍事行動も減らさざるを得ない。このことも、イスラエルが、ハマスやアサドやヒズボラとの和解を急いでいる背景にある。 (Israel’s ‘loyal’ Druze move into open revolt) (Israel Announces Plans for Massive Military Spending Hikes)

2018年秋の世界情勢を展望する   (08/22記事)

米国のトランプ政権は就任から1年半がすぎ、しだいに戦略の中心である覇権放棄策についての手口が見えてきた。トランプの戦略については、これまで何本も記事を書いてきた。彼の手口をひとことで言うと「米国の覇権運営を手がけてきた軍産複合体や金融界(軍産エスタブ)の戦略に6-7割まで(もしくは見かけ上)沿って動くが、最後のところで戦略を過激に稚拙にやって失敗したり、戦略をねじ曲げたりして、米国の覇権を衰退させ、覇権の多極化を誘発する」という感じだ。 (軍産の世界支配を壊すトランプ) (トランプワールドの1年)

トランプは、中露やイランなど新興市場に対する経済制裁・貿易戦争を過激に展開し、新興市場を非ドル化・米経済覇権体制からの脱却に追いやっている。北朝鮮を思い切り敵視した後に米朝首脳会談で敵視を放棄し、中露や韓国が米国を軽視して北を支援する新状況を作った。ドイツやカナダに貿易戦争をふっかけ、米同盟体制を自壊している。などなど、トランプの目標が「覇権放棄・多極化」であることが見えてくると、彼の動きのダイナミズムが理解できる。 (軍産複合体を歴史から解析する) (理不尽な敵視策で覇権放棄を狙うトランプ)

トランプと軍産エスタブの戦いは継続中で、まだトランプは決勝していない。だが、トランプは表向き軍産エスタブの戦略に沿っているので、軍産がトランプを面と向かって潰すのは困難だ。軍産に正面から立ち向かって殺されたケネディから60年。軍産と戦う米上層部の勢力(彼ら自身、エスタブの一部)の戦い方はかなり洗練されている。ニクソンは弾劾され、クリントンもやばかったが、トランプはたぶん弾劾されない。トランプが強いので、トランプが軍産に勝ち続ける方向での予測が可能になっている。この線に沿って、今秋の国際政治経済を展望してみる。まずは米覇権にとって最重要な金融分野から。

▼米国の金融覇権体制を壊しながらバブルの延命が続く

米国の金融バブルは異様に膨張しており、それを指摘する分析が、オルトメディアのあちかこちから出ている。だが最近の私の予測では、今年はまだ決定的なバブル崩壊にならない。トランプの戦略は、金融システムの構造的な健全性を積極的に破壊しながら、大統領を2期8年やるために短期的なバブルの延命を実現することだ。金融の健全性を重視するとバブル崩壊が早まるが、トランプは逆に、金融の不健全を拡大して自分の任期が終わるころに金融崩壊(米金融覇権の瓦解)させようとしている。システムを潰すつもりなら、何年かの金融バブルの維持は可能だ。米金融界とトランプは、短期的なバブルの延命で合意しており、この点で対立がない。 (米国の破綻は不可避)

長期策について、トランプは金融界の規制緩和を拡大して腐敗を扇動し、金融界がシステムの健全性を軽視するよう誘導している。トランプは、これまで4半期ごとだった米上場企業の決算期を、半年ごとに変更する(昔に戻す)ことを画策し始め、米財界を喜ばせている。この策は、企業経営の公開度を引き下げ、企業の腐敗やバブル膨張を増長させ、短期的な米金融の好調と、長期的な不健全性の増大につながる。世界的に企業の自社株買いが新株発行よりも多額になり、株価の下落を食い止めている。株価上昇は景気と関係ない。 (Global equity market shrinks as buybacks surge) (Trump Calls For End To Quarterly Earnings Reporting)

トランプと米金融界にとって、米金融の延命策として、日銀がQE(大造幣、超緩和、ゼロ金利策)を維持することが重要だ。欧州中銀は対米自立の一環としてQEをやめていくが、日本は引き続き対米従属だ。トランプは、日銀QEの継続を条件に、安倍晋三を支持している。QEは、最終的に日本の金融財政を破綻させるため、日本国内の金融界や財界はQEに反対している。だが安倍は、トランプの支持が政権維持の要諦であるため、国内の反対を無視してQEを続けている。9月の自民党総裁選挙に際し、安倍の対抗馬として出馬した石破茂は、金融界や財界から頼まれ、日銀のQEをやめていく方針を持っている。だが、米国の傀儡国である日本において、現時点で、QEに反対する者が首相になることはない。安倍が総裁選に勝って続投する。 (最期までQEを続ける日本) (Might a post-Abe Bank of Japan go rogue? )

米金融の延命策の一つとして、新興市場諸国の危機が引き続き演出され、新興市場からから米国への資金逃避が続く。トランプは、米財界の共和党支持を保つため、11月初旬の中間選挙まで、中国やEUと交渉して貿易戦争を緩和するそぶりを続けるが、その後は再び貿易戦争がひどくなる。トランプが世界を相手に貿易戦争を続け、新興市場から資金が逃避して危機になるほど、米国に対する世界からの信頼が低下し、世界各国が中国と経済協力を強めたがる。この傾向は中国にとって好都合なので、中国政府はトランプや米金融界の動きに対抗しない。新興市場がへこまされている間に多極化への準備が進む。 (ドル覇権を壊すトランプの経済制裁と貿易戦争)

▼北の核廃棄が進まないのはトランプの意図的な戦略

東アジアの国際政治の分野では、9月に北朝鮮と周辺諸国との和解が進みそうだ。9月には、日朝首脳会談、中朝首脳会談、南北首脳会談が立て続けに行われる可能性がある。9月9日に中国の習近平が平壌を訪問する計画があるとされるほか、9月11-13日にロシアのプーチンが主催してウラジオストクで開かれる東方経済フォーラムに北の金正恩と日本の安倍首相の両方が出席し、初の日朝首脳会談が行われる可能性がある。同時期に、韓国の文在寅大統領が平壌を訪問して南北会談する構想も報じられている。 (Xi Jinping Looks Set to Visit Kim Jong-un) (Korean Leaders Agree to New September Summit in Pyongyang)

日朝和解は在日米軍の存在基盤を揺るがす。対米従属の構図を使って隠然独裁を維持してきた日本の官僚機構は北との和解に反対だが、トランプは安倍に北と和解しろと勧めているので、安倍は目立たないように北との和解を進めようとしている。今年じゅうに日朝が和解していく可能性は、意外と高い。 (Japan desires to talk with North Korea: Kono to Pompeo)

米朝が6月の史上初の首脳会談で決めた北の核廃棄はその後、北が核実験場を壊しているものの、核兵器の廃棄にめどが立っていない。だが、周辺国の日本や中国、韓国、ロシアは、北の核廃棄の進展に関係なく、北との関係改善を進めようとしている。こうした流れを起こすこと自体が、トランプが米朝首脳会談を挙行した理由だったと考えられる。マスコミは、北の核廃棄が進まないことをトランプの「失策」と報じるが、実のところ、それは失策でなく意図的な戦略だ。 (北朝鮮を中韓露に任せるトランプ)

トランプは、米国が持っていた朝鮮半島の覇権を中国に渡したいが、北の核開発を理由に米国が北を敵視している限り、中国は北を自国の覇権下に入れたがらず、対米従属の韓国も北と和解できない。米国の軍産は、北が核保有している可能性が少しでもある限り北を許さない。米国が許さない限り、北は核の開発や保有をやめない。これが従来の行き詰まりだった。トランプはこの難題を解く策として、北の金正恩と首脳会談してあいまいな条件で首脳間の和解を実現した。条件があいまいなので、当然ながら具体的な北の核廃棄が進まないが、トランプはこの状態のまま、今後できるだけ長く米朝首脳間の和解を維持する。 (意外にしぶとい米朝和解)

中露と韓国は、以前から、北が核保有を誇示しないなら、北が核を隠し持つことを黙認しつつ、北と周辺諸国との和解を進めたいと考えてきた。米朝首脳間の和解状態が続く限り、これまで米朝の対立が原因で進まなかった、中国が北を経済覇権下に入れる動きや、北と韓国が和解する動きが進められるようになる。それが、6月の米朝首脳会談後の、中国や韓国による急速な対北融和策の背景だ。9月の中朝や南北の首脳会談も、その延長線上にある。 (プーチンが北朝鮮問題を解決する)

日本はもともと、米国の軍産と同様、北が核廃絶しないまま米朝が和解することに反対していた。だが、安倍の従属先であるトランプが軍産を無視して金正恩と個人的に和解してしまい、それを受けて中露や韓国などが北との和解をどんどん進め、それをトランプが黙認する事態が続くなか、日本だけが北を敵視しても、それは北を困らせることにならず、日本が孤立して負け組に入り、北が日本を馬鹿にすることになる。仕方がないので、日本も北と和解せざるを得なくなっている。

今後、北と周辺諸国との和解が進むと、来年にかけて朝鮮半島の軍事対立がなくなり、米朝が正式な終戦・和平協定を結ばなくても、韓国にとって在韓米軍が要らなくなる。北が核廃絶を進めないので、軍産配下の米議会は北との和平条約に反対し続けるが、その反対を迂回して、トランプは、やりたかった在韓米軍の撤退を実現できる。米共和党系のシンクタンクは、沖縄駐留の海兵隊が撤退した方が日米にとって安全が増すと言い出している。 (Why America Should Pull Out of Okinawa)

▼ロシアゲートの濡れ衣を暴露する流れ

次に米国。11月初旬の米連邦議会の中間選挙は、プロパガンダの面で、16年の大統領選挙と似ている。民主党支持でトランプ敵視の権威ある米マスコミは、16年も今回も「70%ぐらいの確率で民主党が勝ちそうだ」との予測を発している。だが権威ある米マスコミ群は、間抜けなことに同じ過ちを繰り返そうとしている。貧富格差の増大によって中産階級から貧困層に転落した有権者の中にトランプの共和党を支持する人々が増え、16年はトランプの勝ちになった。今回の中間選挙も、私の予測では、議会の上下院とも引き続き共和党が多数派を維持する。 (Nate Silver At It Again; Predicts 75% Chance Dems Retake House)

トランプは、メキシコからの違法移民の流入を止めているが、これによって米国は人手不足がひどくなり、今まで失業が多かった黒人などが就職できるようになって、黒人の有権者の間でのトランプの支持率が19%から36%へと倍増している。また民主党内では、軍産エスタブの上層部と、軍産エスタブを嫌う左翼の市民運動で構成される草の根との対立が激しくなっている。内紛で団結できない分、民主党は不利になっている。 (African-American support of Trump at 36%, almost double from last year – poll)

米政界では来年にかけて、ロシアゲートの濡れ衣を共和党トランプ側が晴らし、軍産民主党側に反撃する動きになりそうな観もある。この分野では従来、共和党の米議会下院の諜報委員長であるデビン・ヌネス議員が活躍してきた。ヌネスは今年初め、トランプ陣営がロシアのスパイであるとFBIが疑う根拠となった「スティール報告書」が、あいまいな根拠に基づいたもので、しかも米民主党が資金を出して英諜報機関MI6に作らせたものである実態を暴露している。米国の選挙に介入していた外国勢は、ロシアでなく英国だった(その件と、今春から英国で起きている「スクリパリ事件」「ノビチョク」の話は、諜報界の暗闘を構成する事件として多分つながっている)。 (ロシアゲートで軍産に反撃するトランプ共和党) (英国の超お粗末な神経ガス攻撃ロシア犯人説)

最近はヌネスに加え、ランド・ポール上院議員が「トランプの別働隊」として活躍し始めている。ランドポールは、ずっと前から軍産やドルの覇権主義を批判・分析してきたリバタリアンのロン・ポール元下院議員の息子で、16年の大統領選挙に出馬し、がんばってイスラエルに擦り寄ったが、予備選挙でトランプに負けた。最近は、トランプの覇権放棄・隠れ多極主義に賛同しているらしく、ロシアを訪問して議員団どうしの交流を進め、その後はウィキリークスのジュリアン・アサンジに不逮捕特権を与えて米議会で証言させようとしている。 (Rand Paul’s Comeback) (Rand Paul Against The World)

ウィキリークスは、ロシアゲートの一部である「DNCメールリーク事件」に絡んでいる。DNCとは、米民主党本部のことだ。16年6-7月の選挙期間中にDNCのサーバーから民主党上層部の人々の間でやり取りしたメールの束が盗み出され、ウィキリークスなどを通じて公開・暴露された(DNC上層部がヒラリー・クリントンを勝たせるため、左翼の大統領候補だったバーニー・サンダースを不正なやり方で追い落としたりしたことが発覚)。DNCのサーバーに不正侵入してメールの束を盗み出したのはロシアの諜報機関であり、プーチン自身が犯行を命じたと、まことしやかに米マスコミが報じた。 (トランプと諜報機関の戦い)

だが、ロシアが犯人だという確たる根拠はどこにもない。むしろ、DNC内部の人間、とくに事件発覚直後に殺されたDNC要員だったセス・リッチが、メールの束を盗みだしてウィキリークスなどに送ったとの見方のほうが信憑性がある。DNCのメールの束をウィキリークスに送ってきたのは誰なのか。米議会は、それをアサンジに尋ねようとしている。ランドポールらが画策しているアサンジの議会証言が実現すると、ロシアゲートの濡れ衣性を暴露する転機になるかもしれない。 (Internet Buzzing After Julian Assange's Mother Implicates Seth Rich In DNC Leak) (Murder of Seth Rich - From Wikipedia)

アサンジは現在、米英などの当局による逮捕を逃れるため、ロンドンのエクアドル大使館に逃げ込んだまま6年間住んでいるが、米議会証言の見返りに不逮捕特権を得てアサンジが自由の身になると、それは機能停止していたウィキリークスの復活になり、諜報界の暗闘(軍産vsトランプとか)に再びウィキリークスの匿名暴露システムが活用されるようになるかもしれない。アサンジが、ランドポールらトランプの別働隊によって不逮捕特権を付与されるなら、トランプ陣営はアサンジの恩人になり、アサンジもトランプの別働隊の中に入るかもしれない。 (Paul suggests granting Assange immunity in exchange for congressional testimony: Report) (WikiLeaks says the Senate Intel Committee wants Assange to testify on Russia interference)

ランドポールは、2024年の大統領選に出てトランプの後継大統領を目指すつもりかもしれない。米国が覇権を放棄して小さな政府に戻り、米国が世界支配をやめて世界各国の自立をうながすことは、米国の伝統思想であるリバタリアンの基本に米国が戻ることだ。トランプの後にポールが大統領になると、軍産の敗北が決定する。 (Rand Paul And The New GOP)

これを書いている間に、トランプの側近(選対本部長)だったポール・マナフォートが、米地裁の陪審で有罪評決を受けた。米マスコミは「トランプに打撃」と報じているが、有罪になったのはマナフォートがトランプに協力する前の2010年代の初めに、トランプと無関係なロビー活動(外国政府が米政界に食い込めるようにする活動)で得た収入を申告しなかった、などという案件であり、トランプ陣営がロシアのスパイだったというロシアゲートの疑いとは何も関係ない。この評決はむしろ、ロシアゲートが濡れ衣であることを示したにすぎない。それなのにマスコミは、トランプの罪が確定したかのように喧伝している。マスコミの歪曲報道は、トランプと軍産の諜報界の暗闘の一部である。 (Paul Manafort Convicted of Eight Counts of Fraud)

今秋はこのほか、欧州で、トランプ別働隊の一人であるスティーブ・バノンが、欧州の対米従属的なエスタブ勢力に対抗する右翼ポピュリストの全欧的な連携を強める運動も続く。来年の欧州議会選挙で勢力を拡大し、ポピュリスト連合にEUを乗っ取らせて欧州を対米自立させようとしている。 (Bannon Sets Up For EU Showdown With George Soros)

中東では、撤退傾向の米国に頼れなくなっているイスラエルが、ガザのハマスがエジプト(とその背後のロシア)の仲裁を受けて停戦和解したり、財政的な余裕がなくなってユダヤ人優先の権利制度を強化(ドルーズやアラブ外し)している動きがある。今秋は、シリアの国家再建の動きも強まる。米軍はシリアから出て行く。トランプが濡れ衣に基づくイラン制裁を再強化し、米国による制裁を破ってイランと貿易し続けた方が「正しい」という国際政治のあり方も顕在化していく。これらは今回書ききれなかったので、あらためて詳述していく。 (Gaza cease-fire, prisoner swap and seaport: Details of Israel-Hamas deal emerge) (Pompeo names high-level Syria team as Trump looks for the exit)