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中央銀行の仲間割れ 08/28
ロシアの中東覇権を好むイスラエル 08/25
2018年秋の世界情勢を展望する 08/22 以上【05】
ドル覇権を壊すトランプの経済制裁と貿易戦争 08/18
中国包囲網はもう不可能 08/15
米国から露中への中東覇権の移転が加速 08/12
軍産複合体を歴史から解析する 08/08 以上【06】
米国の破綻は不可避 08/05
最期までQEを続ける日本 08/01
トランプはイランとも首脳会談するかも 07/29
軍産の世界支配を壊すトランプ 07/24 以上【07】
金相場の引き下げ役を代行する中国 07/18
中東の転換点になる米露首脳会談 07/15
意外にしぶとい米朝和解 07/11
ポスト真実の覇権暗闘 07/08 以上【08】
【07】
米国の破綻は不可避 (08/05記事)
米国が中国などに輸入関税引き上げの貿易戦争を仕掛けるなか、7月末にBRICS諸国(中露印ブラジル南ア)の年次サミットが南アフリカで開かれた。中国は、BRICSの5か国の中で最も経済力があり、BRICSを隠然と主導している。今回のサミットで中国の習均平は、中国など世界に貿易戦争を仕掛けて保護貿易(=悪)の姿勢を強めるトランプの米国を間接批判し、BRICSは自由貿易(=正義)を信奉する機関であるとぶち上げた。トランプの就任以来、米国は保護主義で、トランプに敵視される中国やドイツが自由貿易主義という構図が定着している。善悪関係から見て、これは中国に有利だ。 (China builds a wall of BRICS to help counter US trade war barrier) (BRICS nations pledge unity in face of US-China trade war )
BRICSは今回のサミットで、自由貿易の理念に基づきつつ、5か国相互間の貿易関係を強化することを決めた。新興市場諸国である5カ国は従来(冷戦後)、世界最大の輸入消費国(経済覇権国)である米国に輸出して経済成長するモデルに沿ってきたが、トランプによる米国の保護主義化に伴ってこの従来モデルをあきらめて離脱し、5か国合計で世界の総人口の4割を占めるBRICSの消費市場としての潜在的な力を利用し、BRICS内部や他の新興市場諸国との貿易で経済成長していくモデルに移行していくことにした。その主導役は中国だ。 (BRICS Nations Call for Strengthening Multilateral Trading System Amid Rising Trade Disputes) (BRICS to seek unity on trade)
今後の世界経済は、牽引役が、高度成長期を終えて少子高齢化も進む先進諸国から、BRICSなどの新興市場諸国に転換していく。トランプの保護主義は、この転換を加速している。中国は、この転換の中心にいる。トランプの貿易戦争は、中国を弱体化するどころか逆に、中国を今後の世界経済の主導役へと押し出している。南アでのBRICSサミットは、中国主導のBRICSがこの転換を積極推進していくことを宣言した点で画期的だ。 (Brics on right track to the future) (Has BRICS lived up to expectations?)
今後、米国の経済覇権の根幹にある債券金融システムがいずれ(前回の記事に書いたように2020-24年ごろか??)バブル崩壊し、それが米国覇権の終わりにつながると予測される。リーマン危機後にQEなどによって再膨張した米国中心の金融システムのバブル は巨大で、ひどい金融危機を起こさずに軟着陸することが不可能だ。米国の政府と金融界は、バブルを縮小する気が全くない(日本政府も)。バブルの危険性を無視して、どんどん膨張させている。政治的にも、トランプは、いずれバブル崩壊を引き起こして米国覇権の解体につなぐべく、高リスク投資に対する銀行規制を緩和し、バブルを意図的に膨張させている。米国のバブル崩壊はもはや回避不能であり、いずれ必ず起きる。この大きなバブル崩壊が起きると、世界経済の中心が、米国など先進諸国から中国などBRICS・新興市場諸国に転換する流れが一気に進む。 (最期までQEを続ける日本) ('Trump's Trade Wars Could Be Beneficial to BRICS' – IR Specialist)
BRICSは、今回のサミットで、この転換の準備を進めていく態勢づくりを加速することを決めた。BRICSは、加盟諸国間の貿易で使う通貨を、米ドルから、人民元など加盟諸国の5つの通貨に替えていく動きを続けている。いずれ米国が金融崩壊したら、従来の米ドルの貿易決済システムへの信用が低下し、各国が外貨備蓄を米国債の形で持つことも減る。戦後の世界経済の根幹が崩れる。BRICS、その後のことを考えている。 (To strengthen Brics, the bloc first has to improve trade and investment between its members)
米国が金融崩壊すると、その後、ドルの究極のライバルである金地金が、富の備蓄や国際決済の手段として見直されるだろうが、金地金の国際的な価格管理の主役は、今年初め、それまでの米英金融界から、中国政府へと、ほとんど知られぬまま、交代している。国際金相場は現在、人民元の為替と連動している。人民元の為替は、金の価格にペッグしている。米国が中国の対米輸出品に高い関税をかける貿易戦争を仕掛けたのに対抗し、中国は、人民元の対ドル為替を意図的に下落(元安ドル高)させ、対米輸出品の価格を下げることで、関税の引き上げを穴埋めする策をとっているが、この元安の影響で、ドル建ての金相場が下落を続けている。 (金相場の引き下げ役を代行する中国) (金本位制の基軸通貨をめざす中国)
中国はすでに世界の金地金取引の中心にいる。そしてBRICSは今回、5か国の金鉱山の協力関係を強化し、BRICS内の金取引の制度を整えることにした。世界最大級の金地金の消費国である中国やインドと、地金の大きな生産国である南アやロシアとの結束が強まる。BRICSの金地金流通の新体制が、金本位制を意識して金相場にペッグする人民元を裏打ちするようになる。当面、米中貿易戦争の絡みで、人民元も金地金も安いままだろうが、いずれ米国がバブル崩壊するとともに、人民元と金地金の国際地位が上昇する。この上昇は、中国やBRICS、非米諸国の、国際政治における地位の上昇や、覇権の多極化につながる。いずれ米国のバブル崩壊とともに「金地金の取り付け騒ぎ」が起きるだろうが、その時、金の現物の国際管理権は、中国が握っている。 (BRICS Gold: A new model for multilateral cooperation) (金地金の売り切れ)
米国の経済覇権の根幹にある債券金融システムがいずれバブル崩壊し、それが米国覇権の終わりになる。このとき、日銀のQE(量的緩和策)によって米金融システムをテコ入れしている日本は、米国のバブル崩壊によって大打撃を受ける。中国やBRICSは、米国の金融崩壊後に備え、ドルの使用を減らし、金地金を備蓄しており、きたるべき米金融崩壊から受ける打撃も少なくなる。中国やBRICSは「ノアの方舟」を建造し始めている。日本は、米国とともに溺れる運命にある。先日、中国がBRICSサミットでドル崩壊への準備加速をを決めたのと同時期に、日銀がQEを2020年まで続けることを決め、崩壊が不可避なドルの延命に邁進することにした。中国は賢い。日本は馬鹿だ。 (最期までQEを続ける日本)
日本はほかにも、米国崩壊と中国BRICS台頭という、きたるべき転換への流れの中で、何重もの意味で「負け組」に入っている。その一つは、日本が「高度成長期を終え、少子高齢化が進む先進諸国」の範疇のまっただ中にいること。もう一つは、戦後の日本が、圧倒的な単独覇権国である米国に対して頑強に従属する対米従属策で発展してきたこと。日本は、対米従属以外の国策が(ほとんど)ない。トランプの覇権放棄策は、米国の覇権を自滅させ、日本を無策で弱い国に変える(もうなってるって??)。3つ目は、中国が台頭してきたこの四半世紀、日本が中国敵視策を続けてきたことだ。これは対米従属の維持のために必要とされた。中国と仲良くすると米国(軍産)からにらまれ、対米従属が難しくなる。米中の両方とうまくやるバランス策は(小沢鳩山とともに)排除された。日本は、中国と一緒に発展していく機会を失い、米国覇権の消失とともに孤立し弱体化する道に入った。 (日本から中国に交代するアジアの盟主) (中国敵視を変えたくない日本)
米国の上層部は、覇権を維持したい軍産複合体と、放棄破壊したいトランプとの激しい暗闘が続いている(暗闘はケネディ以来70年間、断続的に続いてきた)。今のところトランプが優勢で、軍産は劣勢が加速している。今後、米国の中間選挙や大統領選挙でトランプ側が負け、軍産傀儡的な民主党側が盛り返せば、米国の覇権が維持再生し、日本も対米従属を続けられるかもしれない。だが、米民主党内では、上層部の軍産傀儡勢力(エスタブ、ネオリベ)を批判する草の根の左翼勢力が強くなり、こんご内部紛争が激化しそうだ。草の根左翼が勝つと、軍産は民主党内でも傍流になり下がる。トランプは負けにくく、米国の覇権は復活しにくく、日本は負け組から脱しにくい。 (軍産の世界支配を壊すトランプ)
「軍産は、完敗する前に大きな戦争を起こして米国の政権を事実上乗っ取るはずだ」という考え方がある。しかしこの道は、すでにトランプによってふさがれている。トランプが(70年代のカーター流に)平和主義者として振る舞って覇権を放棄していこうとしたのなら、戦争を起こして妨害できる。だがトランプは逆だ。軍産以上に好戦的なことを言いつつ、北朝鮮やロシアといった大規模戦争の敵になりそうな諸国と首脳会談して個人的な和解ルートを築き、軍産の戦争戦略を無効化している。トランプは、イランのロウハニ大統領とも首脳会談しそうな流れを作っており、イランとも会談してしまうと、軍産が戦争を起こせる敵が世界にいなくなる。トランプは巧妙だ。 (トランプはイランとも首脳会談するかも) (意外にしぶとい米朝和解)
軍産は、自作自演的な911テロ事件でブッシュ政権を見事に乗っ取ったが、トランプとその背後の勢力(米諜報外交界の中に混じっている隠れ多極主義者たち)は、911の教訓を踏まえて今の戦略を練ったのだろう。(すでに何度も書いたので隠れ多極主義については今回説明しない。「トランプ対軍産」は、正確に言うと「軍産・米諜報外交界の内部の多極主義と米覇権主義との暗闘」である) (世界帝国から多極化へ)
▼米国を内戦にして覇権を完全喪失させたいトランプたち
米国が覇権を喪失して世界が多極化しても、米国が軟着陸的に覇権を縮小し、西半球と太平洋の地域覇権国として残り、米国の覇権領域が「英国以西、日本(シンガポール豪州)以東」になるなら、日本、英国、カナダ、豪州、NZといった同盟諸国(ファイブアイズ+1)は引き続き、縮小した米国覇権の傘下に残れる。この場合、縮小した米国の覇権は、NAFTAと米英同盟と「トランプ就任前のTPP」が合体したものになる。だが、トランプは、この地政学的な線引きも破壊してしまった。トランプは、大統領就任と同時にTPPから離脱し、NAFTAも解体しようとしている。英国との関係も疎遠だ。
どうやらトランプ(ら多極主義者たち)は、米国を世界的な単独覇権国から地域覇権国に格下げして残りの地域の覇権を中国やロシアやEUなどに分散するシナリオだと、米国が担当する地域の覇権運営を手がける勢力が依然として軍産(単独覇権主義者たち)のままで、彼らはいずれ機会を見て中国やロシアと恒久対立する冷戦体制を復活し、元の木阿弥になると考えているようだ。多極化は、極となる地域覇権諸国どうしがずっと仲良くないと成り立たない。
BRICSを見ると、軍産に牛耳られた米国など同盟諸国以外の諸大国は、戦争より協調を好み、最も仲が悪いインドと中国の間すら、何とか一緒にやっていける。軍産以外の人類は、戦争を好まない。軍産を覇権運営から外せば、世界は平和になり、多極化を推進しやすい。
つまり、世界を多極化するには、米国を中心とする同盟関係をすべて破壊し、米国の覇権をゼロにする必要がある。最も確実な方法は、米国民の内部対立を扇動し、米国を内戦状態にして20年ぐらい「失敗国家」の状態を維持し、その間に米国以外の諸大国がそれぞれの地域覇権体制を確立して多極化を定着させる「米国リビア化」のシナリオだ。トランプになってから、米国では貧富格差の拡大に拍車がかかっている。中産階級から貧困層に転落した人々が、金持ちを憎む傾向が増している。トランプを支持する人々と、トランプを敵視する人々の対立も激しくなっている。これらが意図的な謀略の結果であるなら、その謀略の目的は、米国を失敗国家の状態に陥らせ、米国を覇権から切り離すことにある。今はまだ妄想と笑われるだろうが、いずれ米国の金融が再破綻すると、米国のリビア化が現実味を帯びる。 (The Number Of Americans Living In Their Vehicles "Explodes" As The Middle Class Collapses) (Researchers Warn Income Inequality In US Getting Worse, It Was "Intentional")
今後、米国(と日本)の金融バブルの崩壊は不可避だが、その後、米国の国家的なちからがどこまで落ちるかによって、日本が対米従属を続けられるかどうかも変わってくる。米国が軟着陸的に覇権縮小していくなら、米国は引き続き太平洋地域の覇権国として残り、いずれTPPにも再加盟し、日本が対米従属を続けられる可能性が強くなる。
半面、米国が内戦になって「失敗国家」に成り下がる場合、米国は外交どころでなくなり、日本は対米従属できなくなる。この場合、日本は、豪州や東南アジアの海洋側の諸国、カナダなど米州の太平洋諸国との連携(日豪亜同盟)が、外交戦略の基盤となる。この領域は、現在の米国抜きのTPPと同じであり、その意味でTPPが日本にとって重要な存在だ。日豪亜やTPPは従来「中国包囲網」として語られてきたが、今後、米国覇権が失われると、もう米国覇権の維持のために中国敵視が必要だという軍産の論理も消失し、日本や豪州は中国を敵視する必要がなくなり、日豪亜やTPPは中国とも協調するようになる。すでに安倍晋三は、その手の親中国的なことを何度も表明している。 (中国と和解して日豪亜を進める安倍の日本)
米国が地域覇権国として軟着陸したとしても、その前に起きる金融バブル崩壊によって、米国も日本も財政難がひどくなり、日本は思いやり予算を出せなくなるし、米国も海外派兵を続ける余力がなくなる。在日米軍は、2020-25年の金融危機後、大幅縮小もしくは総撤退する可能性が高い。
最期までQEを続ける日本 (08/01記事)
7月31日、日銀が政策決定会合で、QEを今後も長期にわたって続けることを決めた。今回の政策決定は「次回大統領選挙でトランプが再選を果たす2020年まではQEを続ける。QEの資金によって、日本だけでなく米国の金利安(債券高)や株高を維持し、米国中心の債券金融システムの破綻を先送りすることで、トランプ再選に貢献する」という意味だ。貿易戦争や米露接近を機に対米自立を加速する欧州勢(ECB)は今年末でQEをやめるが、国が破綻しても対米従属を続けたい日本はまだまだQEを続ける。 (BoJ View: super easy policy until 2020 – ING) (トランプのバブル膨張策)
以前、日銀の政策発表は10月だと言われていた。日銀が10月でなく今回のタイミングでQEの長期化を表明したことは、11月の米国の中間選挙(議会選挙)との絡みを感じさせる。中間選挙でトランプの共和党が議会上下院とも勝利して多数派を維持できるよう、日本が日銀QEによる資金注入をして協力する構図だ。見返りにトランプは、覇権放棄策の日本への適用をゆるめ、日本政府が望む在日米軍の駐留継続を認めてくれるだろう。日本の官僚機構は、対米従属できる限り、隠然独裁を続けられる。 (Donald Trump’s Approval Rating Inches Higher, Buoyed by Republican Support)
その代わり、いずれ(2021-25年ごろ??)QEの継続が困難になると、日本は、国債金利の上昇や株価の大幅下落、不況の顕在化などにみまわれ、経済が破綻する(すでに行き詰まっている経済が、資金収縮によって顕在化する)。QEは、長く続けるほど維持が難しくなり、最期の破綻もひどいものになる。日銀はQEの運営を、これまでより柔軟にやる方針を発表したが、これは今後、QEの管理が難しくなって金利が上がる場合、それを容認せざるを得ないかもしれないという意味だ。 (BOJ to Allow Flexibility in Bond Operations, Adjusts ETF Buying) (QEやめたらバブル大崩壊)
今春以来「トランプはドル高・円安を演出する日銀のQEに反対し、日本にQEをやめろと圧力をかけている」という指摘が出ていた。だが、トランプにとって日銀のQEは、為替をドル高にして米国の輸出産業を打撃するというマイナス面より、巨額資金が米国に流入し続けて米国の債券高・株高の維持に貢献し、トランプが米政界における自分の政治的優位を維持するための「好景気の演出」に使えるというプラス面の方が大きい。トランプは、QEに対する反対を引っ込めたか、もしくは最初から反対していなかった可能性が高い。 (BOJ Bid to Taper by Stealth Made Tougher by Supercharged Yen) (Trump, Breaking With Tradition, Talks Up GDP Report Before Release)
▼日本のQEは経済政策でなく外交政策
日銀のQE(量的緩和策)は、円を増刷して日本国債や日本株ETFなどの金融商品を買い込み、カネ余り状態を作って金利をゼロ前後に下げておく政策だ。これは表向き「デフレ傾向をなくすための策」とされているが、日本のデフレ傾向は、製造業の国際構造や日本の社会構造の変化による商品の値下がりによって起きているもので、通貨を過剰発行してもなくならない。それは、QEに反対して13年に日本政府(財務省、安倍晋三)からクビを切られた日銀の白川方明前総裁が主張していたことだ。 (米国と心中したい日本のQE拡大)
QEはデフレ対策でなく、リーマン危機後に蘇生しない米国中心の債券金融システムを、官製相場にして蘇生したかのように見せかけて延命するための対策だ。通貨の過剰発行であるQEは、不健全な政策だ。米連銀(FRB)は、QEを続けるとドルの信用が落ちるので、米政府から日本政府にQEを肩代わりしろと政治圧力がかかり、対米従属一本槍の日本政府(官僚機構)は対米関係を重視するあまり、QEの不健全さを無視し、反対する白川を辞めさせ、官僚機構の代理人として財務省から送り込まれた黒田東彦が日銀総裁になり、14年末にQEを開始(急拡大)した。日本のQEは、経済政策でなく外交政策である。そのため、QEを経済政策として「解説」するマスコミの記事を読んでも、QEが何なのか理解できない(金融専門家、金融関係者は、それを「理解」したふりをすることを求められる。王様の新しい服はとても美しい!!)。 (Bank of Japan, caught between Trump and a hard place, must also confront ghosts of its past)
日銀は14年末以来、QEによって、日本政府が発行する国債の大半を買い占め続けており、今や日本の国債総残高の約半分を日銀が保有している。民間金融機関は国債を買えなくなり、代わりに米国債など米国の金融商品を買わざるを得なくなり、日本の資金が米国に流入して、米連銀がQEを続けているのと同じ効果を保持した。国債で利益を確保できなくなった日本の中小銀行は、高リスクの危ない投資を増やして潰れていくか、業容を縮小して潰れていくかの二者択一となっている。 (日銀マイナス金利はドル支援策) (加速する日本の経済難)
日銀のQEは、日本の民間金融機関にとって過酷なものだが、日本政府にとっては短期的においしい話になっている。日本国債の利回りはゼロ前後に下がり、巨額の財政赤字を抱える日本政府は、国債の利払い額が急減した(長期的にはいずれ迫られるQEの終了後、国債金利が大幅上昇して下がらなくなり、日本政府が財政破綻に瀕する)。 (One Trader Explains Why Japanese Tightening Is A Pipe Dream) (An Optimist's View Of The End Of America)
日銀のQEは、無から生み出した円資金で日本株のETFをも買い込み、いまや日本株ETFの80%を日銀が保有している。日本の上場企業の4割において、日銀が10大株主の中に入っていることになる。日銀が株を買い支え続けるので株価は下がらず上昇傾向を維持し、株高が続くので景気が良いとマスコミ(金融専門家)が喧伝し、安倍政権の経済政策が称賛されて支持率を押し上げている。実のところ、日本(や米国)の景気は回復しておらず、貧富格差の急拡大(中産階級の貧困層への下落)によって消費は減退傾向だが、株価と、経済指標の粉飾により、景気が回復しているかのような印象が流布している。(王様の新しい服の美しさが見えない者は、経済の「素人」だ。「素人の妄想」でなく「専門家の解説」が「真実」ですよぉ!!) (BOJ Is Now A Top-10 Shareholder In 40% Of All Japanese Companies; Owns 42% Of All Government Bonds) (New Report Warns Of "Unprecedented Wage Stagnation" In OECD Countries)
日銀のQE資金は、日本株の最大の買い手になっている。日銀は今回、QEで買う株式ETFの対象を日経225からTOPIXの方に移していくと発表し、金融マスコミは、この変更でどの株が上下するかと騒いでいる。これ自体、日銀の株買い支えの微妙なバランスが株価に大きな影響を与えることを示している。日銀が株を買うのをやめたら、日本の株価は確実に大幅下落する。もし本当に日本が好景気で、日銀がETFのかたちで株を大量に買い支えなくても株価が上がるのなら、日銀は株のETFなど買い込まない。QEは、債券金融システムの延命が目的であり、QEをやってきた中央銀行群の中で、株を大量に買っているのは日銀だけだ。米国と欧州の中銀は、債券を買い支えてきただけで、株を買っていない。 (Fed Could Avert an Inverted Yield Curve. But It Won’t.)
米国は、企業が社債を発行して自社株買いすることを奨励し、自社株買いが株価上昇の唯一最大の要因だ(自社株買い以外の全ての勢力は、株を売る傾向だ)。トランプは、従業員(=有権者)の給料を増やすためと言って法人に減税したが、その分の資金の多くは給与増でなく自社株買いに使われ、米国の株価を押し上げている。このため米国では、当局が株を買い支えなくても良い。 (The Only Stock Buyers In The First Half Were Buybacks: BofA) (Researchers Warn Income Inequality In US Getting Worse, It Was "Intentional")
米国も日本も、景気が悪いままなのに、資金注入によって株価が上がっていることが、好況の象徴だと歪曲喧伝されている。好景気だから日本の株価が上がっていると信じ込んでいる人が私の周囲にもいて、とくに日本経済新聞などを熱心に読み、自分は経済に詳しいと思っている人が頑迷だ。経済の歪曲報道は、ねずみ講的な話なので、政治の歪曲報道よりはるかにバレにくい。 (Ron Paul Warns When The "Biggest Bubble In History" Bursts, It'll "Cut The Stock Market In Half")
トランプはイランとも首脳会談するかも (07/29記事)
7月24日、トランプ大統領が演説の中で「イランは以前と違う感じの国になった。われわれはイランと(オバマ前政権が結んだ良くない核協定に代わる)本物の協定を結ぶ準備ができた」と表明した。トランプはその2日前、イランのロウハニ大統領からイラン敵視政策を批判されたため反撃し「イランが再び米国を脅したら、イランを、歴史上かつてないようなひどい目にあわせてやる」と好戦的なツイートを発し、米マスコミが「いよいよイランに戦争を仕掛けるか」と騒いだばかりだった。 (Trump says U.S. ready to make 'real deal' with Iran) (Trump, the Great Disruptor by Justin Raimondo)
トランプはそれより前、7月12日のNATOサミットの記者会見で「イランは多くの問題を抱え、(米国主導の経済制裁によって)経済も崩壊して困っている。イランは(制裁に困った挙句)以前よりはるかに米国を尊重する態度をとっている。いずれイランの方から電話があり、協定を結ぼうと持ちかけてくるはずだ」と述べている。トランプは最近イランに対し、交渉して和解する方向の発言と、敵視して攻撃・戦争する方向の発言との間を行ったり来たりしている。 (Trump Says Tehran Now Treating U.S. With 'More Respect') ('Do not play with lion's tail': Rouhani warns Trump)
7月26日には、豪州のABC放送が、豪州軍の高官の話として「米国が、早ければ来月にもイランの核施設を空爆する。豪政府はすでに、米国のイランへの先制攻撃に協力することを決めた」と報じた。米国のマティス防衛長官は、この報道を「つくり話だ」と強く否定した。だが、米大統領府では同日、ボルトン安保補佐官がイラン問題に関する閣僚会議を招集している。そこで何が話されたか不明だが、イランへの軍事行動に反対するマティス(やその配下の米軍全体)と、イラン攻撃すべきだと主張するボルトンやポンペオ国務長官が対立した可能性がある。トランプが今春、北朝鮮を攻撃すべきだと言った時も、同様の対立があった。当時は、安保補佐官だったマクマスターが(軍産無力化の一環として)辞めさせられた。今回はマティスが辞めさせられるかもしれない。 (Donald Trump could be ready to order a strike against Iran, Australian Government figures say) (After Trading Threats, White House Convenes Policy Meeting on Iran) (中東大戦争を演じるボルトン)
こうしたイランに対する、過激な敵対姿勢と対話示唆が繰り返される渦巻き型の展開は、トランプ政権が6月に北朝鮮のキムジョンウンと首脳会談する前にやったことと似ている。トランプは、ロシアのプーチンと首脳会談する前にも、ロシアと和解を進めたい姿勢と、ロシアに厳しい態度をとる姿勢を混在させる策をやっている。 (軍産の世界支配を壊すトランプ) (シリアで「北朝鮮方式」を試みるトランプ)
トランプは、北やロシアと首脳どうしの和解的な関係を築くに際し、軍産複合体(諜報界、議会、軍部、マスコミなど)による敵視策の恒久化をめざす策を無効化するため、今にも先制攻撃を挙行しそうな、軍産が望まないほどの強さの敵対策をやった。軍産(マティスら)が先制攻撃や敵視策に反対したら、「それなら」という感じで今度は一転して対話姿勢に大転換して首脳会談を実現した(米朝の場合)。米露の場合、敵視策と融和策を両方発する目くらましを続け、軍産がトランプを一定以上批判できないようにしつつ、首脳会談を実現した。 (Mattis: US Not Seeking Regime Change in Iran)
トランプはこれまでイラン敵視一辺倒だったが、今回初めて、イランとの対話の可能性に言及し始め、敵視と対話の両方が交互に出てくる渦巻き型の姿勢に変化した。この変化は画期的だ。トランプはもしかすると、北朝鮮、ロシアに続き、イランとも首脳会談をやって首脳間の信頼関係を築き、軍産が長年続けてきたイラン敵視策を破壊する和解への転換をやるつもりかもしれない。これまでの経緯を見ると、トランプがいったん口にしたことは、その後立ち消えたように見えても、実際には消えておらず、何か月もたってから再浮上し、最終的に実現されることが多い。トランプの政策は短期的に見ると朝令暮改だが、中長期的に見ると覇権放棄・多極化の方向で一貫している。トランプの今回の転換からは、すぐに実現しなくても、イランとの対話がいずれ実現する可能性が高まったことが感じられる。 (Trump Says Ready to Make ‘A Real Deal’ With Iran) (Trump: I could make a ‘real deal’ with Iran)
トランプがイランに対する姿勢を敵視から対話に変えても不思議でないと思えるもうひとつの理由は、シリア内戦終結にともなうイスラエルの変化だ。シリア内戦は、ロシアの空軍支援とイランの地上軍支援を受けたアサド政権の政府軍が反政府勢力(ISアルカイダ)を倒して終結した(まだいくつかの小地域にISカイダがいる)。シリア政府軍は内戦で疲弊し、内戦終結後の治安維持のために、ロシアとイランからの支援が不可欠だ。シリアとイスラエルはゴラン高原で国境を接している(イスラエルは1967年以来ゴラン高原の大半をシリアから奪って占領している)。 (Moscow steadily promoting its 'Helsinki agenda' in Syria)
これまでの内戦期、シリアのイスラエル国境沿いはISとアルカイダの反政府勢力が占領し、イスラエルが彼らを支援していた。しかし6月以降の内戦の最終段階で、これらのISカイダは駆逐され(降参し、トルコ国境沿いのトルコ監視下のイドリブなどに移動)、イスラエルは、イランに支援されたシリア政府の地上軍と直接に対峙することになった。イスラエルは、ロシアと良い関係だがイランは仇敵だ(イスラエルは今回、現実策をとり、アサドへの敵視をやめたが、イランは強いので敵視をやめられない)。 (Syria moves to retake control over Golan Heights from terrorists)
ロシアが仲裁し、イラン系の軍事勢力(イラン革命防衛隊の軍事顧問団、レバノンのヒズボラ、イラクのシーア派民兵団)が、シリアの対イスラエル国境から百キロのところまで退却する(国境に近づかない)ことを決め、イスラエルをなだめようとした。イスラエルはこの仲裁策を受け入れそうだったが、シリア政府軍の部隊の中に、政府軍の制服を着たイラン系の民兵がたくさん入っており(イラン系民兵団の国境地帯への侵入も発覚し)、これではイラン系が退却したことにならないため、イスラエルはロシアの仲裁策を拒否した。イスラエルは依然、シリアのイラン系の軍事拠点を空爆し続けると言っている(これまで何度も空爆してきた)。 (米露首脳会談の最重要議題はシリア)
イスラエルは、イランがシリアから軍事的に退却することを強く望んでいる。だが、ロシアはその要望に応えられない。アサド政権は、イラン系からの軍事支援の続行を望んでおり、それを無理やりやめさせることは内政干渉になるのでできない。覇権国である米国は平気で他国に内政干渉し続けてきたが、ロシアはそれをやらない(米国ほど強くない、もしくは米国ほど悪くないので)。イスラエルは、ロシアに仲裁役として一定以上の期待ができない。
ここで出てくるのがトランプだ。もしトランプがイランの指導者と首脳会談して、米国がシリアから完全撤退し、イランとアサドへの敵視もやめるから、代わりにイランもシリアから完全撤退しろと要求すれば、それはイランにとって受け入れられる話になる。イスラエルにとっても、シリアにおけるイランの脅威を減じられる。トランプにとっては、中東の覇権を放棄する策になる(イスラエルは昨年来、米国がシリアにおける影響力を失ったと言っており、米国の中東覇権放棄はすでに織り込み済みだ)。トランプが会う相手は、革命防衛隊と敵対する穏健派のロウハニ大統領でなく、もっと格上の、革命防衛隊の親玉でもある最高指導者で強硬派のハメネイが望ましい。 (イラン・シリア・イスラエル問題の連動)
この場合、トランプが5月に離脱したばかりのイラン核協定との関係がどうなるかが疑問だ。トランプは、イラン核協定の主導役を放棄して露中とEUに押しつける覇権放棄策として協定を離脱した。今後あるかもしれない米イラン首脳会談で、米国がイランと和解して核協定に戻ってしまうことは、トランプの覇権放棄策の後退になる。もともとイランは核兵器開発しておらず、軍産がイランに濡れ衣をかけていただけだった。イラン核協定は、軍産の濡れ衣策が戦争につながらないようにするための、オバマなりの策だった。イランは、米国抜きの核協定でかまわない(その方がやりやすい)と考えている。トランプがイランと首脳会談するなら、核協定の議題を避けるかもしれない。 (トランプがイラン核協定を離脱する意味)
トランプは先日、サウジアラビアなどGCC諸国やエジプト、ヨルダンといったアラブ諸国に、イランと敵対するための「アラブ版NATO」を作らせる計画を発表した。10月にアラブ諸国を米国に呼んで話し合う。これも一見するとイラン敵視策だが、長期的にはアラブ諸国を安保面で対米自立させる覇権放棄的な話だ。 (Trump seeks to revive 'Arab NATO' to confront Iran)
トランプは、北朝鮮やロシア、イランなど「敵国」に指定された国々だけでなく、EUやカナダなど、同盟諸国との間でも、同盟関係を強化する親密化の姿勢と、貿易戦争やNATOの軍事費負担問題で敵視する姿勢の間を行き来する渦巻き型の戦略をとっている。トランプの戦略は、敵国と同盟国の両方に、渦巻き型の戦略を適用し、敵国に接近しつつ同盟国を突き放し、覇権放棄や孤立主義を強める流れになっている。米イラン首脳会談は実現しない可能性も大きいが、トランプがこうした渦巻き型の覇権放棄の策をとっていることは、ほぼ確実になっている。
軍産の世界支配を壊すトランプ (07/24記事)
昨今の国際情勢は、「軍産複合体」(深奥国家、軍産)の存在が見えていないと理解できない。軍産は、米国の諜報界を中心とする「スパイ網」で、第2次大戦後、米政界やマスコミ、学術界、同盟諸国の上層部に根を張り、冷戦構造やテロ戦争(第2冷戦)の世界体制を作って米国の覇権体制を維持してきた。米国の諜報界は、第2次大戦中に英国(MI6)の肝いりで創設され、当初から英国に傀儡化・入り込まれている。英国は冷戦終結まで、英米間の諜報界の相互乗り入れ体制を使い、軍産の黒幕として機能し、英国が間接的に米国覇権を動かしてきた。911後、英国の代わりに、中東情勢に詳しいイスラエルが軍産の黒幕となった。 (覇権の起源)
トランプは、軍産の支配構造・覇権体制を壊す戦略を、相次いで展開している。首脳会談による北朝鮮やロシアとの敵対の解消、同盟諸国の少ない軍事費負担を口実にNATOを脱退しようとする動き、関税引き上げの貿易戦争によって同盟諸国との関係を意図的に悪くする策、NAFTAやTPPからの離脱など、トランプの軍産破壊・覇権放棄戦略は、安保と経済の両面にわたっている。米国の上層部には軍産支配を好まない勢力も冷戦時代からいたようで、これまで軍産の戦略が失敗するたびに、失敗からの回復を口実に、軍産の支配体制を壊そうとする動きが起きた。ベトナム戦争後の米中和解、その後の米ソ和解(冷戦終結)などがそうだ。911以来のテロ戦争が失敗した後に出てきた今のトランプも、その流れの中にいる。 (ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
軍産の一部であるマスコミは、自分たちの正体を隠すため、トランプが軍産と戦っている構図を報じない。大半の人々は、マスコミ報道を鵜呑みするしかないので軍産の存在を知らない(または、空想の陰謀論として否定している)。多くの人々は、素人のトランプが専門家(実は軍産)の助言を無視し、有害で不可解なことを続けているとしか思っていない。しかし実際には、人類の未来を賭けた、トランプと軍産との激しい暗闘が続いている。 (米大統領選挙の異様さ)
米国が世界で唯一の覇権国である限り、米国上層部での、軍産派と反軍産派との暗闘が続き、軍産のふりをして戦略立案担当部局に入り込んだ反軍産派が、軍産による戦争戦略を過剰にやって失敗させ、ベトナムやイラクの失敗が繰り返され、何百万人もの人が死ぬ。軍産支配が続く限り、中国ロシアなど新興市場諸国の経済発展が、経済制裁によって抑止され、世界経済の発展を阻害し続ける。この悪しき状況を脱するには、米国が唯一の覇権国である戦後の世界体制を解体し、覇権の一部を米国以外の国々に持たせる「覇権の多極化」が必要だ。 (世界帝国から多極化へ)
米国の力が低下した70年代には、日独に覇権の一部を持たせる構想が出た。だが、戦後の日独は上層部が米国傀儡の軍産であり、日独は、米国からの覇権移譲を拒否した。日本への覇権移譲に前向きだった田中角栄は、日米の軍産からロッキード事件を起こされて無力化された。多極化は、同盟国以外の国々、つまり中露やBRICS、イランなど非米諸国を対象に行われる必要がある。非米諸国の中で、特にロシアは、米ソで世界を二分していたソ連時代の遺構があり、米国からの覇権移譲に積極的だ。それだけに、軍産はロシアを激しく敵視している。14年からのウクライナ危機は、ロシア敵視強化のために米諜報界が起こした。 (危ない米国のウクライナ地政学火遊び) (日本の権力構造と在日米軍)
軍産(米諜報界やマスコミ)は、中国やロシアがいかに悪い国であるか、多くの歪曲や誇張を含む形で延々と喧伝(諜報界からのリークとして特ダネ報道)し、米国が中露を敵視せねばならない構図が定着している。歴代の米大統領は、軍産の力を削ぐため中露に覇権の一部を譲渡したくても「敵に覇権を渡すなどとんでもない」という主張に阻まれて失敗する。米国が、覇権の一部を中露に渡すには、正攻法でなく、逆張り的な手法が必要だ。その手法は、少なくとも2種類ある。 (軍産複合体と正攻法で戦うのをやめたトランプのシリア攻撃)
逆張り手法のひとつは「過剰敵視策」で、中露イランなどの非米諸国をことさら敵視し、非米諸国が団結して自分たちを強化し、米国の覇権外に新たな国際秩序(地域覇権体制)を作るように仕向け、この新たな非米的国際体制の地域に対する覇権が、米国の手から離れていくようにするやり方だ。01年の911事件で軍産が米国の政権を再掌握したことを受け、中露の結束が強まり、上海協力機構やBRICSなどが、非米諸国のゆるやかな同盟体として立ち上がった。 (中露を強化し続ける米国の反中露策)
逆張り手法のもうひとつは「再建押し付け策」で、米国が中東などで間抜けな戦争を起こして泥沼化して失敗し、その後始末と国家再建をロシアやイランなど非米諸国に任せ、その地域をロシアやイランの覇権下に押しやる方法だ。この手法は、米国の軍事占領の失敗とともにイランの傘下に入ったイラク、軍産がISアルカイダにやらせた内戦が失敗した後でロシアとイランの傘下に入ったシリア、軍産が扇動して核武装させた後、中国の傘下に押しやられた「6か国協議」以来の北朝鮮などで行われてきた。最近では、軍事政権復活後に情勢不安定が続くエジプトや、その隣国で軍産に政権転覆させられ失敗国家になっているリビアも、ロシアに再建が任されている。イスラエルの安全保障もロシアに任された。ロシアは中東の覇権国になっている。 (北朝鮮を中韓露に任せるトランプ)
▼同盟諸国を怒らせて対米自立させるトランプ独自の新戦略
70年代の金ドル交換停止やベトナム戦争など、覇権放棄・多極化の逆張り手法は昔から行われてきた。トランプが初めて手がけた逆張り手法は、同盟諸国に対する過剰敵視策だ。これは、貿易と安保の両面にわたっている。トランプは「敵方」の中国だけでなく、同盟国であるEUやカナダ、日本にも懲罰関税の貿易戦争を仕掛け、同盟諸国を、米国に頼らない貿易体制を考えざるを得ない状況に追い込んでいる。TPPやNAFTAからの離脱も同様だ。同盟諸国は、米国に頼らない分、中国など非米諸国との貿易を強化せざるを得ない。 (軍産複合体と闘うオバマ)
安保面では、同盟諸国が軍事費を増やさない場合、NATOから離脱するとトランプが表明したのが、トランプ独自の逆張り策だ。同盟諸国に軍事費増加を強く求めるのは、軍産が以前からやってきたことだ。トランプは、この要求を過剰・過激に展開し、NATO離脱までつなげようとしている。今のところ共和党内の軍産の猛反対を受け、トランプはNATO離脱構想をすぐに引っ込めたが、もし11月の中間選挙で共和党が議会上下院の多数派を維持できたら、米政界でのトランプの力が強まり、トランプはNATOとWTOから離脱を決断するとの予測が出ている。 (The risk of calling Trump a traitor)
トランプは、日本やEUに対し、ドル高・円安ユーロ安を維持するQEなど緩和策をやめろと言い出している。また彼は最近、伝統的な米連銀の自立性(を口実にした大統領弱体化・軍産強化策)を破り、米連銀に、利上げしないでドル安・低金利を維持しろと加圧し始めている。これらは貿易戦争と相まって、短期的な対米輸出の抑制と、長期的な米国債券への信用低下をもたらす。米覇権に永久にぶら下がりたかった同盟諸国は今や、トランプ政権が続く限り、安保と金融貿易の両面で、対米自立・非米化の方向に追い立てられ続ける。日本の官僚機構は、自国を滅ぼしても、自分たちの隠然独裁を守るため対米従属に固執するだろう(日本人は誰もそれを止めない自業自得)。だが、ドイツなどEUは、EU軍事統合を進め、対米自立していく。 (Trump criticises Federal Reserve’s interest rate rises)
軍産は、16年のトランプ当選以来、トランプがロシアのスパイであるとする「ロシアゲート」の濡れ衣を誇張してスキャンダルに仕立て、軍産に敵対してくるトランプを無力化しようとした。このスキャンダルでトランプ側近が何人か辞任したり起訴されたが、結局、トランプ陣営入り以前の行動で微罪になった者がいただけで、トランプ政権としての犯罪行為は何も出てこなかった。今年初め以降、共和党のトランプ支持議員たちが、民主党オバマ政権がトランプを陥れるために(軍産の一部である)FBIなどを使って過剰な捜査や歪曲された報告書を作った容疑を問題にして反撃し始めた。ロシアゲートの中心部は、ミュラー特別検察官によるトランプ陣営に対する捜査だが、この捜査に対する米国民の支持は減り続けている。半面、トランプへの支持は増えている。ロシアゲートで軍産がトランプを弱体化するのは不可能になっている。 (Public Support For Mueller Investigation Waning) (ロシアゲートで軍産に反撃するトランプ共和党)
トランプは政権の1年目、軍産からロシアゲートで攻撃されていたため、軍産(特に共和党内)からの反対が少ないNAFTAやTPPの離脱から、覇権放棄・同盟国の非米化追いやり策を開始した。トランプは今年5月、イラン核協定からの離脱も決行したが、これも、オバマが作ったイラン核協定の体制下でイランと経済関係を拡大していた欧州や中国が、米国抜きのイラン核協定を維持せざるを得ない状況を作り、世界体制の非米化(多極化)と米国の覇権放棄を進めようとする逆張り戦略だ。もともとイラン敵視は軍産の戦略だ。トランプはこれを過剰に進め、覇権を軍産の手から引き剥がす逆の効果を出している。トランプが昨年末に決定した、駐イスラエル米大使館のエルサレム移転も、軍産の「親イスラエル・反イスラム」の策を過剰にやり、米国がパレスチナ問題を放棄する覇権放棄の領域まで到達させる計略だ。イスラエルは昔から米国に大使館のエルサレム移転を頼んでいただけに、それが米国の中東覇権の放棄につながるものであっても断れない。 (米国を孤立させるトランプのイラン敵視策) (トランプのエルサレム首都宣言の意図)
トランプは、今年に入ってロシアゲートの濡れ衣を克服し始めた後、6-7月に北朝鮮やロシアとの首脳会談を相次いで挙行した。北朝鮮もロシアも、軍産の存在基盤ともいうべき敵視策の対象国だ。北やロシアが米国の敵でなくなると、軍産は、米国覇権を維持してきた世界的な敵対構造の重要部分を失う。韓・在日米軍の撤退や、NATOの解散ないし無意味化が引き起こされ、朝鮮半島は中国の覇権下に移り、欧州は対米自立して親露的になって、戦後の米国覇権が崩れて多極化が進む。北朝鮮が中国の覇権下に、中東がロシアの覇権下に入るのは数年前からの流れだが、トランプの首脳会談は、この流れを加速する効果がある。
トランプは、金正恩やプーチンとの首脳会談で、閣僚を同席させない1対1の会談を中心に据えた。これによりトランプは、金正恩やプーチンと個人的に親しい首脳間の関係を築き、首脳間で親しい関係がある限り、もう北もロシアも米国にとって脅威でないと言い始めた(同時にトランプは首脳会談の中心を1対1にすることで、軍産に会談内容が漏れるのを防いだ)。 (北朝鮮に甘くなったトランプ)
首脳会談は米朝も米露も、決定的なことが決まったわけでない。米朝首脳会談は史上初だったが、北朝鮮はその後、核廃絶の具体的な動きを加速しておらず、軍産傘下のマスコミは「米朝会談は失敗だった」と喧伝している。米諜報界は傘下のマスコミに「北朝鮮が核ミサイル開発を再開したようだ」とする根拠の薄い捏造誇張的な情報を流して報じさせ、トランプに対抗した。米露首脳会談は、事後の発表の中身が薄く、おそらく重要な決定(主に中東問題。シリア、イスラエル、イラン)が非公開のままになっている。会談後の米露並んでの記者会見でマスコミはロシアゲートばかり問題にし、首脳会談の見える部分がますます無意味になった。軍産側(元CIA長官ら)は「プーチン非難しなかったトランプを大逆罪で弾劾すべきだ」」とまで言っている。 (Trump Stands His Ground on Putin by Patrick J. Buchanan) (中東の転換点になる米露首脳会談)
米朝と米露の首脳会談は、軍産によって悪い印象を塗りたくられたが、トランプが北やロシアの首脳と個人的に親密な関係を構築して敵対を減らしたことは生きている。米朝関係の改善とともに、韓国が北との関係を強化し、中国は北への経済制裁を隠然と解除した。トランプがいる限り、軍産が邪魔しても、米朝関係は「味方でないが敵でもない」状態が続き、そのすきに韓国中国ロシアが、北を非米側の経済圏に取り込み、北が経済的に安定し、南北の和解が進んで、核問題を棚上げした状態で、実質的な朝鮮半島の和平が米国抜きで進む。日本は、北と和解しないなら、東アジアの新秩序の中で孤立していく。
米露関係についてトランプは、中東の覇権をプーチンに引き渡す動きと並んで、トランプが欧州との同盟を粗末に扱う一方でロシアと親しくするのを見て、欧州諸国が、自分たちも米国との同盟を軽視してロシアと親しくしようと考える新たな傾向を生んでいる。ポピュリスト政党出身のイタリアの内相は先日、14年のウクライナ政権転覆について「外国勢力(米諜報界)が発生を誘導したインチキなものだ」と正鵠を穿つ発言をテレビの取材で表明し、ウクライナの米傀儡政権を激怒させた(痛快)。ドイツでは主流派の中道左派のSPDは、対米自立と対露協調を望んでいる。 (Ukraine Furious After Italy's Salvini Calls 2014 Revolution "Fake" And "Foreign-Funded")
トランプの別働隊であるスティーブ・バノンは最近、欧州の親露・非米的なポピュリスト勢力の台頭を支援する政治運動をブリュッセルで立ち上げた。この運動は表向き「EUを壊す」のが目標だが、裏の実体的な目標は「EUを怒らせて対米自立させる」ことだろう。 (Former Trump aide Bannon sets up political group to ‘paralyze’ EU: Report)
マスコミを読んでいるだけだと、米国ではいまだにロシア敵視が強いと思いがちだが、米国の有権者、とくに共和党支持者は、79%がトランプの米露首脳会談を支持している。共和党の草の根におけるトランプの支持が増えている。トランプの戦略は、軍産マスコミを飛び越して、直接に米国民に伝わっている。対抗する米民主党は、草の根で反軍産的な左派が伸張して軍産傀儡の党主導部の議員たちへの反逆を強め、党内が分裂している。このまま行くと、中間選挙も次期大統領選挙も、トランプの共和党が優勢になる。不測の事態が起きない限り、トランプが軍産支配を破壊する流れは今後も続く。 (Republicans 'Overwhelmingly' Approve Of Trump's Helsinki Performance, Poll Shows)