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中央銀行の仲間割れ 08/28
ロシアの中東覇権を好むイスラエル 08/25
2018年秋の世界情勢を展望する 08/22 以上【05】
ドル覇権を壊すトランプの経済制裁と貿易戦争 08/18
中国包囲網はもう不可能 08/15
米国から露中への中東覇権の移転が加速 08/12
軍産複合体を歴史から解析する 08/08 以上【06】
米国の破綻は不可避 08/05
最期までQEを続ける日本 08/01
トランプはイランとも首脳会談するかも 07/29
軍産の世界支配を壊すトランプ 07/24 以上【07】
金相場の引き下げ役を代行する中国 07/18
中東の転換点になる米露首脳会談 07/15
意外にしぶとい米朝和解 07/11
ポスト真実の覇権暗闘 07/08 以上【08】
【08】
金相場の引き下げ役を代行する中国 (07/18記事)
中国が、金地金の国際相場を人民元に固定(ペッグ)しているという指摘を、米国の金融分析者(David Brady)らが発表している。中国人民元建てで見た場合の金地金の国際価格の変動幅が、この1年間、しだいに狭くなってきている。昨年3-5月ごろには、1オンス8300-8900元という600元の範囲で上下していたものが、最近では1オンス8200-8400元という200元の範囲へとせばまっている。下値が、1オンス8200-8300元の水準へと収斂している。 (CHINA takes control of GOLD from the COMEX - David Brady, CFA)
中国が人民元を金相場にペッグしているとの指摘は、中国が人民元を非米的(非ドル的)な諸国の国際通貨(きたるべき多極型世界における基軸通貨の一つ)にしようとしていることから考えて、納得できる話だ。意外な点は、中国が、金相場を引き上げる方向で人民元とペッグしているのでなく、金相場を引き下げる方向で人民元とペッグしていることだ。今春以来、元と地金の両方が、ドルに対して下落している(中国との貿易関係が大きい日本も、人民元の下落を意識し、円をドル安にしている)。中国が、ドル(債券金融システム)の究極のライバルである金地金を引き連れて、米国覇権に対抗する「非米諸国の雄」を目指すなら、元と地金の対ドル相場を引き上げる形で元の金ペッグをやりそうなものだが、現実は逆方向だ。 (金本位制の基軸通貨をめざす中国) (CHINA takes control of GOLD from the COMEX)
この謎に対する私なりの解答は「中国は、これまで金相場を先物で引き下げてきた米国金融勢力(米日欧の中央銀行+金融界)と正面切って戦うと勝てないので、まずは金相場を引き下げる方向で人民元の金ペッグを定着させ、いずれ米国金融がバブル崩壊してもっと弱体化してから元と金を上昇させる戦略だろう」というものだ。71年のニクソンショック(金ドル交換停止)以来、米金融勢力は、ドル(米国覇権)を延命させるために、金地金の価格をできるだけ引き下げておく(金がドルに対抗してくることを防ぐ)ことが必須だ。 (暴かれる金相場の不正操作)
日欧中銀は、QE(造幣による債券の買い支え)が限界に達して終わりに向かっている。すでに米国の社債の担保はリーマン前よりさらに薄い。米国の株価は自社株買い、日本株は日銀による買い支えしか上昇するちからがない。全般的にバブル崩壊が近い感じだ。しかし、これらの米金融勢力はヘロヘロの状態ながら、まだ通貨や債券の発行による紙切れパワーの強大な資金力を持っている。紙切れパワーを自己規制している中国が戦いを挑んでも、まだ勝てる相手でない。そこで中国が今年の年初からやり出したのが「米金融勢力に代わって、金相場を引き下げる役を中国が代行する」戦略だ。 (A Problem Emerges For Japanese Stocks: The Biggest Market "Whale" Can't Buy Any More) (Stock Buybacks Hit Record $680 Billion In The First Half)
輸出大国である中国は、ドル(や円ユーロ)に対する人民元の為替が低い方が輸出品の価格競争力が増して好都合だ。トランプが、世界的な貿易戦争を引き起こしているので、なおさら元安が望ましい。中国が、米金融勢力から金相場を引き下げる役目を代行するという名目で、人民元の為替を引き下げるなら、米国は元安を容認してくれる。米金融勢力は、金相場を引き下げる手間が省ける。中国にとって、日本を含む米金融勢力は、いずれバブル崩壊して自滅する存在だ。急いで対抗する必要はない。中国はまず、米金融勢力が容認してくれる下落方向で、元と金のペッグを確立することにしたというのが、年初来の元と金の相場の意味でないかと私は考えている。 (金地金の反撃) (万策尽き始めた中央銀行)
いずれ起きる米金融勢力のバブル崩壊は、いつ起きるのか。可能性が高いのは、トランプ政権の2期目の後半、2023-24年だ。トランプはおそらく、自分が政権を去った後(去る直前)に米国覇権が確実に崩壊しているようにしたい。任期中は、自分の人気を保持するためと、最終的な金融崩壊をできるだけ不可逆的かつ確実なものにするため、米国の金融界の規制をできるだけ緩和し、金融界に危ない投資をどんどんやらせ、短期的な金融相場の上昇を維持しつつ、バブルをできるだけ急拡大させたい。積極的に減税して財政赤字を急拡大させ、最終的な財政破綻の被害を大きくしたい。このシナリオがうまくいくと、米国のバブルは、あと何年か膨張し続ける。その間にトランプは再選を果たす。トランプは、バブル崩壊の金融危機が再燃した時に、被害を意図的に大きくする策(リーマンの時にも行われた)を隠然とやりたいので、自分の任期中にバブル崩壊を起こしたい。これらを勘案すると、シナリオ的には、トランプの2期目の後半に大きな金融崩壊が起きる。 (トランプの相場テコ入れ策) (米国民を裏切るが世界を転換するトランプ)
2023年というと、あと5年もある。すでにQEが限界なのに、規制緩和だけで5年も持つのか?、といぶかる読者もいるだろう。私も、そう思う。このシナリオは前倒しになる可能性がある。その一方で、数年後に崩壊させるつもりで金融システムの安全装置を外していくなら、バブル扇動に関してまだやれることが多いだろうから、それを考えると5年持つ感じもする。 (金融を破綻させ世界システムを入れ替える)
いずれ米国の金融バブルが崩壊すると、米国の世界覇権を支えてきたレバレッジの効いた債券金融システムが不可逆的に機能不全に陥る。世界的な資金難・経済難(レバレッジの解消)が長く続く。この状態はすでに、新興市場諸国(米金融システムの周縁部)での、ドル高を受けたドル資金不足のかたちで起き始めている。この資金難が最終的に米本国まで到達する。中国や一帯一路は従来、米国の金融システムの一部として資金調達してきたので、レバレッジの解消が一段落するまで、ドルの資金難が続く。だが、ドルの資金難は、人民元の資金で代替されていき、米国型の金融主導の成長(のふりをした相場上昇)でなく、(一帯一路の戦略が成功するなら)実需主導の成長になっていく。 (Fears Debt Crisis Could Spread Through Emerging Economies)
バブル崩壊で米金融システムに対する信用が失墜すると、金地金が資産備蓄の道具として見直され、金相場が大きく上昇する。金地金を現物でなく証書で持っている人の多くが、証書を持ち込んでも現物を受け取れなくなり、地金の取り付け騒ぎが起きる。金相場を下落させていた米金融勢力による金先物売りも行われなくなる。このとき、おそらく人民元の相場も、金地金に連動して(ある程度)上昇する。 (金地金の売り切れが起きる?) (米国覇権が崩れ、多極型の世界体制ができる)
▼人民元備蓄が金地金備蓄と似た意味を持つようになるので非米諸国が歓迎する
話を人民元と金地金に戻す。08年のリーマン危機から16年ごろまで、元建ての金地金価格は、元ドルの為替相場に連動する形で、1オンス4500-12000元の範囲で大きく上下していた。当時は、世界の金市場の中心が米ドル建ての米国市場(先物主導)で、米国で決まったドル建て金価格に元ドルの為替相場を加味したものが、元建ての金価格だった。しかし16年10月、人民元がIMFのSDR(世界の主要通貨を加重平均したもの。特別引き出し権)に招き入れられた後、元建ての金価格が、しだいに一定になる動きとなった。 (XE: 金オンスから中国人民元のレート)
SDRは従来、国家間でしか取引されていないが、リーマン危機当時、ドルが世界の基軸通貨としての地位を失った場合、その後の基軸通貨になりうるものとして注目された。リーマン危機後、ドルを支える米国の金融システムは、米日欧の中央銀行によるQEによる「官製バブルの膨張」によって支えられてきた。バブルはいずれ破綻する。ドルのバブル崩壊後の世界の多極型の新たな基軸通貨体制の準備として、IMFは人民元をSDRに組み入れた。これと並行して中国政府が、ドルのライバルである金地金の価格を人民元に連動させるようになった。 (As The Currency Reset Begins – Get Gold As It Is “Where The Whole World Is Heading”)
人民元がSDRに入った16年10月ごろまで、人民元の対ドル為替は元安ドル高だったが、その後は元高ドル安に転じ、金地金のドル建て価格も上昇傾向となった。人民元の国際的な地位上昇と連動した元高にも見えた。しかし今年の初めから、元の為替は再びドルに対して下落傾向となり、ドル建て金価格も下落した。対照的に、元建ての金価格は17年春以降、すでに書いたように、しだいに変動幅が小さくなる傾向が続いている。 (XE: アメリカドルから中国人民元のグラフ)
中国政府やIMFが、人民元を多極型の基軸通貨の一つにしようとしていることから考えて、人民元建ての金相場の変動率が下がっているのは、中国政府の意図的な戦略であると考えられる。人民元建ての金価格を一定に保つことは「準金本位制」と呼ぶべき政策だ。一定比率の交換を法定的に保証した完全な金本位制(ブレトンウッズ型)でなく、市場介入によって価格を一定に保つ点が「準」の理由だ。これにより中国は、ドルと金地金という究極の基軸通貨の対立の中で、金地金の側に加勢して基軸通貨の仲間入りすることになった。 (中国を世界経済の主導役に擁立したIMF)
1971年のニクソンショック(金ドル交換停止)以来、金地金は、ドルや米金融界や対米従属諸国にとって「価値を永久に引き下げておくべき究極のライバル」もしくは(金融プロパガンダ的には)「みすぼらしい時代遅れの備蓄道具」「ゴミ」である。中国は、その「ゴミ」を拾い上げ、自分たちの通貨の国際性・備蓄性・基軸性を増加させるための象徴物として使い始めた。中国政府は、人民元のSDR入りを念頭に、14年から上海金取引所を国際化し、外国勢が人民元建てで金地金を売買できるようにした。 (金地金の反撃)
中国政府の準金本位制の戦略は、習近平が13年から始めたアジア地域覇権的な国際経済開発の「一帯一路(新シルクロード)」戦略と連動している。中央アジアから南アジア、中東、アフリカ諸国のインフラ整備やエネルギー開発を請け負い、これらの諸国を中国の影響下に入れていくこの覇権戦略は、対象地域の基軸通貨を人民元にしていくことにつながる。中国が諸国に投資融資する資金の多くは人民元建てだし、各国が経済成長した場合に備蓄する外貨の多くも人民元になる(特にいずれドルの覇権が低下した後に)。このような新事態のもとで、人民元がドルと一定の交換比率を維持していると、諸国は、備蓄を人民元建てにしておくことの不安が低下する。人民元の保有が、金地金を備蓄するのと近いことになるからだ。 (Everyone Is Hoarding Gold)
一帯一路の対象地域には、イランやロシア、シリア、ジンバブエなど、米国に敵視されている国がいくつもある。それ以外の国々も、人権問題などで内政干渉してくる米国を敬遠している。これらの国々は、外貨をドルで備蓄せず、金地金で持ちたがる(ドルの国際使用は米国務省に監視されている)。一帯一路は「宗主国」の中国を筆頭に「非米諸国」の集合体だ。金地金は、非米的な価値備蓄の道具(通貨)だ。人民元の金地金との交換比率が一定なら、これらの諸国にとって、人民元で備蓄することが、金地金で備蓄することに準じる。 (中国の一帯一路と中東) (世界資本家とコラボする習近平の中国)
一帯一路の地域には、イラン、ロシア、カタール、アンゴラなど産油国が多い。世界最大の石油輸入国である中国は今後、これらの地域からの人民元建ての石油ガス輸入を増やす。人民元建ての石油ガス取引が増えるほど、世界で最も重要なコモディティである石油の決済通貨がドルの独占状態を崩され、「ペトロダラー」の地位に「ペトロユアン」が入り込んでくる。これは米国の経済覇権の低下となる。 (米国を見限ったサウジアラビア)
今のところ、世界最大の産油国であるサウジアラビアは、まだ米国の覇権維持に協力し、ペトロダラー体制(産油国が石油収入で米国債を買い、米国に資金還流する)を支えている。しかし、サウジ王政が強く希望している巨大な国営石油アラムコの米国での株式上場が、世界的な株バブル崩壊の引き金を引きかねないため無理だとする最近の報道どおりの展開になると、サウジはアラムコ株を使った資金の調達先を米国から中国に変える可能性が出てくる。そうなるとサウジは、米国覇権下から出て中国と組んでいく方向性となり、ペトロユアンの台頭に拍車がかかる。 (Doubts Grow Aramco IPO Will Ever Happen)
中東の転換点になる米露首脳会談 (07/15記事)
7月16日にヘルシンキで行われる米露首脳会談を前に、内戦後のシリアの安定化や、米国が抜けた後のイラン核協定、パレスチナ問題など、中東の諸問題の解決役をプーチンのロシアが引き受ける状況が加速している。米露首脳会談の直前のタイミングで、イスラエルのネタニヤフ首相やイランの高官、パレスチナのアッバース議長らが、次々とロシアを訪問してプーチンと会っている。米露首脳会談は、従来の覇権国だった米国から、シリア内戦を解決したロシアへと、中東地域の覇権を移譲する「移譲式」のような位置づけになることが見えてきた。 (The art of the deal in Helsinki)
特にシリアに関しては、イスラエルがアサド政権の続投を容認する見返りに、シリアにおけるイラン系軍事勢力の行動がイスラエルの脅威にならないようロシアが采配するという交渉が非公式に進んでいる。米国でもトランプ重臣のボルトンが「もはやアサドは問題でない」と言い出した。イランとシリアは、米軍がシリアから撤退することを条件に、イスラエルの要求を受け入れる見通しだ。トランプは米露首脳会談後、シリアから米軍を撤退させる傾向になりそうだ。内戦後のシリアをめぐる国際関係の仲裁役はプーチンのロシアとなる。このことを決めるのが米露首脳会談の大きな議題となる。 (The Trump-Putin Meeting Will Mean a Great Deal for Syria, But Little For Any Other Country) (Putin Prepares To Make Major Concessions During Trump Summit)
アッバースが米露会談直前に訪露したことから考えて、トランプは米露会談で、パレスチナ問題に関しても仲裁役としてプーチンの協力を求めそうだ。イスラエル寄りのトランプのパレスチナ和平案に、ロシアがどう関わるのかは見えていない。トランプの米国よりも、ややパレスチナ寄り、ぐらいの感じか。中国は、ロシアよりさらにパレスチナ寄りだ。イスラム諸国は、米国より露中を頼る傾向が強まる。 (Abbas meets Putin, voices concern over US policy) (Trump Is Working on an Israel-Palestine 'Deal of the Century' and Needs Putin's Cooperation)
中国は先日、パレスチナやイエメン、シリア、ヨルダンなどアラブ諸国に対し、総額1億ドルの経済支援を行うと発表した。中東に対し、ロシアが軍事・安保・停戦交渉の分野で関与し、中国が停戦後の経済再建を担当する構図が見える。中東各地で内戦や政権転覆を引き起こした米国と対照的に、露中は今後、米国が破壊した中東各地の安定化や経済再建を、米国抜きで手がけていく。 (China offers $105m to Arab countries, political support to Palestine)
米露首脳会談のテーマは中東関係以外に、ウクライナ問題や、米露相互の軍縮の話などもある。だが中東、特にシリア問題が大きな具体的かつ喫緊の課題であるため、その他の問題はかすんでいる。イランを敵視するイスラエルとサウジアラビアは、トランプに対し、首脳会談でプーチンと良い関係を作って喜ばせ、プーチンがイランに圧力をかけてシリアから追い出してくれと強く要望してきた。「プーチンを喜ばせるため、トランプは、対露制裁を解除したり、ウクライナ問題をロシア好みの条件での解決を提案したり、ロシアのクリミア併合を容認したりすべきだ」とイスラエルやサウジが言い出している。 (Israel, Saudi and UAE suggested Trump-Putin deal: Report)
イスラエルやサウジにとって、中東でイランの台頭が野放しにされることに比べたら、ウクライナ問題などどうでも良い話になっている。米政界に影響力を持つイスラエルやサウジの、この転換が持つ意味は大きい。トランプは6月のG7サミットで、対露制裁の根拠となっているロシアのクリミア併合を合法と認める姿勢を表明したが、この背後に、イスラエルやサウジからの要請があった感じだ。 (米露首脳会談で何がどうなる?)
ウクライナのキエフには11万人のユダヤ人が住み、経済政治の影響力を持っている。イスラエルは従来、米国の軍産複合体に協力し、地元のユダヤ人を通じて、ウクライナの政府をロシア寄りからロシア敵視の極右政権に転覆・維持することに貢献してきた。ウクライナの極右に、ロシア系と内戦するための武器や資金をわたしてきた。イスラエルのマスコミは最近、このことを批判的に暴露報道するようになり、反ロシアなウクライナ極右の政権・民兵団に対する支援を打ち切り始めている。これは、シリアを牛耳っているロシアに、イラン系軍勢の抑止など、イスラエルを利する行動をしてもらうための「みつぎもの」であろう。ウクライナの反露勢力は、国際的に見捨てられる方向だ。 (Major Israeli Daily: Our Government Is "Arming Neo-Nazis In Ukraine")
▼米露首脳会談はシリア内戦の終結に合わせてイスラエルが要請?
米露首脳会談はタイミング的に、シリア内戦の終結に合わせて開催される。シリア政府軍は6月初めから、ISやアルカイダの反政府勢力が最後まで残っているシリア南部のイスラエル・ヨルダンとの国境地帯を攻略し、7月12日に南部のヨルダン国境沿いの町ダラアを奪還した。ダラアは、11年のシリア内戦開始時に、最初に反政府な武装蜂起が行われた場所だ。武装蜂起は、ヨルダンから越境してきたアルカイダ系の軍勢によって開始された。ヨルダンでは、米軍やCIAがアルカイダ系の軍勢を(取り締まるふりをして)育ててきた。シリア内戦は勃発時から「地元の人々の決起」でなく、米国の軍産による政権転覆作戦・やらせのテロ戦争だった。 (Assad, aided by Russia, poised to snuff out 'cradle' of revolt) (Pause in Syria’s Daraa Offensive amid Putin-Trump impasse on its goals. Putin seeks Israeli flexibility)
7年後の今、そのダラアを、露イラン軍勢の支援を受けたシリア政府軍が奪還し、シリア内戦が終結した。それと同時に、軍産敵視なトランプが米露首脳会談を行い、ロシアがシリア再建をやりやすいようにしてやる。ISカイダを支援してきた軍産(米軍)はシリアから出て行く。ゴラン高原の占領地でシリアと接するイスラエルも、国境沿いのアルカイダを支援してきたが、それも終わり、イスラエルはアルカイダを見捨て、アサド敵視をやめることにした。 (The Battle in the South of Syria is Coming to an End: Israel Bowed To Russia’s Will) (Israel prepares for Assad’s return to the border)
アフガニスタンでも昨年から、中国やその傘下のパキスタン、ロシアなどが動いてタリバンと政府の和解交渉が進み、米国も最近、正式にこれを支持すると発表した。軍産敵視のトランプと、露中の台頭の中で、軍産イスラエル自作自演の911以来の「(やらせの)テロ戦争」が終わりつつある。(オバマもテロ戦争を終わらせる動きをしたが、軍産が対抗し、ISを創設育成したりした結果、テロ戦争はずるずる続いた) (Pompeo Offers Support for Taliban Talks in Surprise Afghan Visit)
今回の米露首脳会談で話されるシリア内戦後の国際関係の調整の必要性を最初に感じて動いたのはイスラエルだ。シリアで内戦状態が残っているのがイスラエル近傍のダマスカス周辺や南部だけになった今年初めから、イスラエルは、シリアに居座るイラン系の軍勢(イラン革命防衛隊やイラクのシーア派民兵団、レバノンのヒズボラ)を越境攻撃で壊滅させると言い出し、何度かシリアを越境攻撃した。これに対しロシアは当初、イスラエルの要求を聞き入れ、シリア政府に圧力をかけ、イラン系をシリアから撤退させていく道を模索した。だが、シリア政府軍は内戦で疲弊して弱く、イラン系の援軍がないと反政府勢力に勝てない。ロシアは、空軍を使ってシリア政府軍を支援してきただけで、地上軍の支援をイラン系に任せてきたので、シリア政府が「イラン系からの支援が内戦後も必要だ」と言えば、受け入れざるを得ない。 (Iran's Revolutionary Guard Says "Awaiting Orders" To Attack Israel Ahead Of Putin-Netanyahu Summit) (Russia resumes Daraa air strikes, calls Iran’s exit from Syria “absolutely unrealistic”)
6月後半にロシアは態度を変え「イラン系にシリア撤退を迫ることは、内政干渉になるのでできない。その代わり、シリア駐留のイラン系軍勢が、イスラエル国境から80キロ以内の地域に立ち入らないよう、ロシアが規制をかける。それで我慢してくれ」とイスラエルに伝えた。イスラエルは拒否する姿勢を見せ、一時はシリアを舞台にイスラエルとイランが本格戦争するかもしれないと言われた。だが結局イスラエルはシリアに侵攻せず、ロシア提案の緩衝地帯の幅を「80キロ」から「100キロ」に広げさせただけで受け入れた。同時期にイスラエルは「イラン系のシリア駐留は許せないが、シリアのアサド政権はもはや敵でない」と言い出した。イスラエルは、アサドと和解して味方につけ、アサドと直接交渉してイラン系を撤退させる戦略に転換した。 (Netanyahu to Putin: Assad's safe from us, but Iran must leave Syria) (Russia rejects Israeli call to keep Iranian advisors away from Golan)
イスラエルがロシア提案を受け入れた時点で、イスラエルの国家安全をロシアが保障してやる体制が立ち上がった。イスラエルはこれまで国家安全を米国だけに頼ってきたが、それがロシアに移り始めた。イスラエルは、中東の国際関係のなかで最も御しがたい国だ。そのイスラエルを何とか納得させたロシアは、他の中東諸国にとっても、仲裁を頼んだり国家安全を保障してもらったりできる国になっている。サウジやトルコ、イラン、イラク、エジプト、パレスチナなどが、ロシアに頼みに来ている。イスラエルがシリアに関するロシア提案を受け入れた時点で、ロシアは中東の覇権国になった。 (After Netanyahu-Putin summit, Israel must decide on a war with Iran in Syria)
トランプは、これと同じタイミングで、プーチンと首脳会談することを発表している。このことから、今回の米露首脳会談は、イスラエルからトランプへの依頼・提案によって実現したのでないかと推察できる。イスラエルの言うことを聞くトランプなら、プーチンにイスラエルが望む頼み事をしてくれる。ネタニヤフが頼むより、すっと効果がある。トランプは就任当初からプーチンと首脳会談したいと考えてきたが、軍産が起こした濡れ衣のロシアゲートのスキャンダルに阻まれ、実現できなかった。今回は、イスラエルが軍産の呪縛を破壊し、米露首脳会談が実現した。プーチンは、米軍にシリアから撤退してほしい。トランプも、シリアから米軍を撤退させたいが、これまでは軍産とイスラエルが反対していた。今回イスラエルは、米露に頼み事(イラン追い出し)を聞いてもらう代わりに、米軍のシリア撤退を受容する可能性が高い。 (米露首脳会談の最重要課題はシリア)
トランプは本質的に、米国を中東から撤退させる方向だ。これまでの中東政治の「常識」が今後、次々と崩れていくことになる。パレスチナ問題の位相も根本から変わる。イスラエルもアラブ・イスラム側も、今より現実的になる。シリアが安定し、パレスチナ問題が何らかの現実的な「解決」に至ると、イランとイスラエルが敵対する必要もなくなる。 (What Putin Wants From Trump)
中東の覇権がロシアに移り、米国が中東から出て行くと、イスラエルが米国の外交戦略を牛耳り続ける必要もなくなる。イスラエルにとって、ロシアや中国の外交戦略に影響を与えることが重要になる。米政界は、半世紀にわたるイスラエル支配から「解放」される(同時に、世界覇権を失う)。いずれ画期的な動きが出てくる。 (田中宇史観:覇権ころがし)
トランプを支援して当選させたイスラエル系の米財界人(カジノ王)のシェルドン・アデルソンは、ネタニヤフの後見人でもあるが、彼は北朝鮮にカジノを作りたいと言って、米朝首脳会談を積極支持した。これはイスラエルがトランプを動かして朝鮮戦争を終わらせ、朝鮮半島を中国の傘下に入れてやることで、中国に恩を売る行動だった、とも勘ぐれる(そのわりに、中国はいまだにパレスチナ国家をロシアより強く支持しているが)。
視点をトランプに移す。軍産支配を潰そうとするトランプの戦略は2方面にわたっており、その一つが軍産米諜報界による「敵を育てる戦略」の構図を潰すことだ。中東の覇権をロシアや中国に渡すことや、北朝鮮と和解して在韓・在日米軍が存在する口実を潰すことがこれにあたる。もう一つは、7月11-12日のNATOサミットや、その前の6月のG7サミットでトランプが見せた、同盟諸国との関係を意図的に悪化させ、同盟諸国が米国覇権にぶら下がれないようにする策略だ。米国への輸出を高関税によって制限し、輸出立国が米国債を買ってドルの基軸性を維持してきた米国の経済覇権を破壊する策も、同盟破壊の一つだ。 (貿易戦争で世界を非米・多極化に押しやるトランプ)
先日のNATOサミットで、トランプは、NATO諸国の防衛費のGDP比を、これまでの目標の2%から、2倍の4%に引き上げるべきだと言ったり、各国が防衛費を増やさないなら米国がNATOを撤退するかもしれないと示唆したりして、同盟諸国を困らせた。またトランプは、自分自身が軍産の反対を押し切ってプーチンと首脳会談するくせに、欧露合弁の天然ガス海底パイプライン「ノルドストリーム2」を建設しているドイツに対し、(ロシア敵視機関である)NATO加盟国のくせにロシアにおもねっていると非難した。論理性が無茶苦茶で、しかも主張をころころ変えるのがトランプの戦略だ。 (Donald Trump accuses Germany of being ‘a captive of Russia’)
米国と同盟諸国の軍産・諜報界・政界のネットワークは強く、トランプがいくら攻撃しても、NATOは解体しないし、トランプの一存でNATOを離脱することも(今のところ)不可能だ(同様に、在韓・在日米軍の撤退も、トランプの一存でやれない)。だが、欧州諸国に嫌がらせを言って怒らせるほど、欧州諸国はEUの国家統合の一環としての軍事統合を進め、事実上NATOを不要にしていく。プーチンと首脳会談し、中東を露中の傘下に押しやることで、欧米が同盟を組んでロシアと敵対し、中東を支配する構造が崩れ、いずれ欧州諸国の方からNATO不要論を高めてくる。トランプが売った喧嘩を欧州勢が本気で買うと、それがNATOの終わりになる。アジアでも、米朝和解によって南北和解が進み、いずれ韓国の方から在韓米軍を終わりにする話が正式に出てくる。その後、在日米軍がトランプによってどう「始末」されるかが見ものだ。
意外にしぶとい米朝和解 (07/11記事)
6月中旬のシンガポールでの米朝首脳会談のあと、2週間後ぐらいから「北朝鮮が核兵器開発を再び加速している」「ミサイル工場も拡張している」といった報道が、米国で相次いで出てきた。北朝鮮を上空から撮影した人工衛星写真を解析して北の軍事情勢などを分析する米国のシンクタンク「38ノース」が6月末、北のヨンビョンの核施設で増設工事らしき動きがあると結論づけ、これをWSJが報じた。38ノースは、6月21日に民間人工衛星が撮影した写真を分析し、寧辺のプルトニウムを製造していた原子炉の冷却装置に改良工事が加えられており、同じ敷地内の軽水炉でも建設工事が行われていると結論づけた。 (North Korea Still Building at Nuclear Research Facility Despite Summit Diplomacy) (North Korea Keeps Enriching Uranium)
WSJはその後、別の分析機関(Middlebury Institute of International Studies)が、北朝鮮の弾道ミサイル製造工場でも、シンガポール会談と同時期に建設工事が行われていたと衛星写真解析から結論づけたことも報じている。 (North Korea Expands Key Missile-Manufacturing Plant) (N Korea boosting weapon-grade uranium enrichment at secret sites: US report)
ほぼ同時期に、米国防総省の諜報機関であるDIAが、これまでの米朝交渉で北朝鮮が米国に、北が持っている核弾頭やミサイルの総数や性能について間違った情報を伝えていたとする秘密の報告書を作成したと、NBCとワシントンポストが報じた。NBCは、北が秘密の場所で核兵器開発を続けているとする米諜報界の匿名情報もあわせて報じている。 (North Korea has increased nuclear production at secret sites, say U.S. officials) (North Korea working to conceal key aspects of its nuclear program, U.S. officials say)
これらの記事が出たあと「それみろ」「やはり北朝鮮は信用できない」「トランプは金正恩にだまされた」「トランプ外交は失敗した」「外交専門家がみんな反対したのに米朝首脳会談を強行したトランプが間違っていた」といった論調が米言論界に広がり始めた。 (America’s Moment of Truth With North Korea Is Coming)
7月11日には、ポンペオ国務長官が訪朝したが金正恩に会わせてもらえなかった。この時の米朝交渉で何が話されたか定かでないが、交渉後、北朝鮮の国営通信社が「米国がヤクザな要求をしてきた」「米朝和解を決めた首脳会談の精神に反している」と米国を非難する論評を流した。ポンペオが北に、核ミサイルの開発中止を要求し、北がそれを強く拒否したとの見方が流布している。 (Trump’s North Korea Policy: Treating Reality Like Reality Television) (KRN North Korean Denuclearization Talks Uncertain After Pompeo Visit)
シンガポール会談の直前、トランプは「北の核廃絶を速攻でやる」と宣言していたが、会談直後には「北の核廃絶は時間がかかる」と態度を転換した。ポンペオらトランプ側近は「年内に北核廃絶にめどをつける」と言っていたのが「次の大統領選挙(2020年)までにやる」に変わり、今回ポンペオは訪朝後に「北の核廃絶は何十年もかかる」と発言し、期間的に大幅後退した。核廃絶をめぐる米朝の交渉が難渋していることがうかがえる。北が「経済制裁解除など、米国が北敵視をやめたと判断されるまで核廃絶を進めない」と言い出したことが難渋の原因と言われている。 (Pompeo says North Korea denuclearization "decades long" challenge) (North Korea Slams "Extremely Troubling" US Attitude, Says "Resolve For Denuclearization" May Falter)
トランプと軍産複合体との暗闘構造が見えている分析者の間では、「北が核開発を再開した」「北は自国の核能力について米国にウソをついた」という38ノースやDIAの分析結果を「トランプの米朝和解を潰そうとする軍産の情報歪曲の策略」だと見る向きがある。DIAは軍産そのものだし、38ノースは、軍産ネオコン的なSAISやスティムソンセンターの傘下にあり、最近文在寅の韓国政府からもらっていた資金を絶たれ、財政的に軍産依存が強まっている。DIAの報告書なるものが本当に存在しているかどうかも不確定だ。軍産が米朝和解に猛反対なのは確かだ。 (Despite Anonymous Carpingあら探し, US–North Korea Talks Continue) (CIA Teams Up With Defense Industry To Undermine Korea Negotiations)
しかし、その一方で北朝鮮が、人工衛星から見えると知りつつ核開発施設を増強したり、保有核弾頭数をごまかして米国に伝えるといったことを、交渉術として平気でやりかねないのも事実だ。北は、米国がどう反応するかを見るために、意図的に施設増強っぽい工事を進めている可能性がある(建屋だけ増築し、中身は空っぽといったこともありうる)。米国は北に核廃絶を求めているが、中露はもっと寛容な「核ミサイル開発の凍結(すでに作った核兵器は隠し持っても良い)」を求めている。最終的な落とし所は中露主張のダブル凍結案だろうが、北の核施設増強は、このダブル凍結案にすら違反している。北は、わざと違反してみせることで、米中露の反応をうかがっている。 ("They're Trying To Deceive Us" - North Korea Adding To Nuclear Stockpiles, Satellite Photos Reveal) (北朝鮮を中韓露に任せるトランプ)
そもそもDIAなど米諜報界は、北が核弾頭を何発持っているか確定的な数字をおそらく持っていない。確定的な保有弾頭数を知らない以上、DIAが「北は保有核弾頭数についてウソを言っている」と確定的に言うこともできない。同時に、米国が北の弾頭数を知らないなら、北が適当なウソの数字しか言わないことがほぼ確実だ。 (No One Knows What Kim Jong Un Promised Trump)
このようにトランプ政権は、軍産と北朝鮮の両方から反逆・妨害・試練付与され、窮した感じになっている。政権入りの前は北の政権転覆を主張していたネオコン出身のボルトン安保補佐官が、北の核開発再開について記者団から問われて「大した問題でない」と苦しい返答をしているのは「奇妙」を通り越して「お笑い」だ。以前は北を先制攻撃すると脅していたトランプが、今では「北は間違いなく核廃絶をやり遂げる」と言っているのもお笑いだ。 (Bolton undermines alleged attempts by N Korea to hide nuclear activities) (Trump ‘Confident’ North Korea’s Kim Will Honor Commitment to Denuclearize)
▼トランプが米国の北敵視を抑えている限り南北和解と極東の非米化が進む
とはいえ、トランプ政権が北と軍産からやり込められて「失敗」しているのかというと、そうではない。トランプたちは北と軍産からやり込められているが、これはトランプらがやりたくてやっている、意図的な戦略の結果である。 (トランプのイランと北朝鮮への戦略は同根)
トランプ政権の目標は、米国の覇権体制の解体だ。前回の記事「ポスト真実の覇権暗闘」でも少し説明したが、第2次大戦後に米国が覇権国になって以来、米覇権の運営は英国イスラエルG7など同盟諸国と米国の軍産に牛耳られ、同盟国や軍産が好む世界的な対立構造(東西冷戦、米欧イスラエル対イスラム世界)に恒久的に陥れられ、対立構造の敵にされた諸国(露中BRICイスラム)の経済発展が長期に妨害され、世界経済の全体的な成長が阻害されてきた。 (ポスト真実の覇権暗闘)
冷戦下、世界経済の成長は西側だけになったが、それも米欧日の経済成熟化で成長が低下し、80年代の米ソ和解・冷戦終結が必要になった。冷戦終結で、世界的な対立構造の終焉と、旧東側や途上国(のちのBRICSや新興諸国)の発展が始まると思いきやそうならず、米国(米英)金融界が、長期的な債券金融システムの(バブル)膨張の仕組みを使った金融覇権の新体制を考案し、米国の覇権が延命した。01年の911テロ事件で、米国対イスラムの第2冷戦構造を引っさげて軍産が覇権運営権を奪回する展開も起きた。
金融覇権体制は、米国が無限の債券発行によって作った資金で世界から製品を輸入し、輸出国は輸出品の代金収入で、米国債など米国の債券を買い、資金を米国に還流させる仕組みだ。世界的な米金融覇権体制は1985年から20年あまり続いたが、バブル膨張が限界に達して08年のリーマン危機が起こり、その後は米日欧の中央銀行群が造幣して債券を買い支えるQE策で米覇権を延命させている。そのQEも、もう限界だ。バブル依存の米覇権体制とは別の世界体制を作って移行しないと、いずれ来るリーマン型の危機再来とともに、世界経済全体が長期に破綻してしまう。 (貿易戦争で世界を非米・多極化に押しやるトランプ)
ドイツや日本は戦後、米傀儡国になって対米従属なので覇権転換の主導役になれない(トランプはメルケルをわざと怒らせ、ドイツやEUの対米自立を扇動しているが)。最も期待できるのは中国やロシアなどBRICSであり、米上層部で米覇権の限界性を把握している人々(隠れ多極主義者たち)は、911後、米国が中露をことさら敵視する傾向を煽ることで中露やBRICSを団結させ、中露が多極化の準備をするようしむけた。こうした隠れ多極主義の流れをさらに一歩進めるために出てきたのがトランプ政権だ。中国は発展して経済大国になったが、いまだに中国経済は、対米輸出の見返りに米国債を買い支える米金融覇権の体制下にある。トランプは、中国を米覇権体制下から追い出し、中国中心の多極型の経済体制(一帯一路)への移行を加速させるために、中国にしつこく貿易戦争を挑んでいる。 (Paul Craig Roberts: "How Long Can The Federal Reserve Stave Off The Inevitable?")
トランプは「北朝鮮が米国の言うことを聞かずに核開発を再開しているのは、米朝和解を好まない中国が黒幕になって北を動かしているからだ」と言っている。実際には、中国も北に核開発をやめさせたい(北の核開発を煽ってきたのは、中国でなく米国の軍産だ)。トランプは、中国を怒らせ、米軍産のトランプ批判をかわすために、こんな歪曲分析を発している。中国は米朝会談後、対北制裁を事実上大幅緩和して北の経済を傘下に入れる傾向を復活しており、最終的には北朝鮮も韓国も中国の経済圏になる。それがトランプの目標でもある。 (Trump Suggests China May Be "Exerting Negative Pressure" On North Korea Deal)
トランプはNAFTAやTPPを離脱し、同盟諸国が米金融覇権に依存する体制を破壊している。彼はまた、7月11日からのNATOサミットで欧州諸国の軍事費の対米依存を批判し、欧州から米軍を撤退すると息巻いている。その一方で、多極化の雄であるロシアのプーチンと首脳会談し、プーチンへの支援を強めようとしている。トランプは、世界的な次の金融危機が起きる前に、覇権構造の多極化を加速しようと動き回っている。その一つが、シンガポール会談以来の米朝和解である。 (米露首脳会談で何がどうなる?)
トランプの米朝和解の意図を説明するために延々と書いてしまった。私の解説は、根本的な覇権体制の説明から始まるので長くなってしまう。北朝鮮問題におけるトランプの目標は、米朝が本格的に仲良くなることでない。トランプと金正恩の首脳間の個人的なつながりを創設することで、北朝鮮が米国からの脅威を感じない状態を作ってやり、北朝鮮が韓国と不可逆的に和解するように仕向けるのがトランプの目標だ。従来、北は米国から敵視されていたので、米国の傀儡国だった韓国と和解して軍縮してしまうことに懸念が残り、南北が和解できず、在韓米軍も撤退できなかった。トランプは北との首脳会談後、北から試されたりウソをつかれたりしているが、それでも北を擁護し、米国の北敵視への逆戻りを防いでいる。北も、米国をヤクザ呼ばわりして非難するが、米朝対話はやめないと宣言している。 (北朝鮮に甘くなったトランプ)
今のように、トランプが米国の北敵視策の再来を防いでいる限り、北は米国からの脅威を感じず、韓国と和解していける。南北の軍事連絡通信線の再開、38度線からの大砲の撤去、開城工業団地の再開、離散家族会合の再開、文化交流など、南北の和解が急進展している。この状態がこのまま2年も続けば、南北和解が定着し、韓国軍の米軍からの指揮権移譲の準備も進み、在韓米軍の撤退が可能になっていく。これがトランプの目標だと考えられる。 (Here's How North Korea Will Keep Some Nukes and Get Sanctions Relief)
7月16日の米露首脳会談では、トランプがプーチンに、北の核開発再開(の濡れ衣?)をやめさせてくれと頼むかもしれない。この依頼は、今後の北朝鮮問題におけるロシアの立場を強化する。北が本当に核開発を再開しているのなら、米露中が北に圧力をかける展開になるだろうし、米の軍産が情報歪曲をやっているのなら、露中が情報を修正し、軍産の歪曲が暴露されるかもしれない。トランプが北や軍産の妨害策に悩まされるほど、トランプは、プーチンや習近平に支援を頼み、トランプが露中の立場を強化する口実ができる。 (As Donald Trump’s North Korea Deal Collapses, Vladimir Putin Awaits)
ロシアにとって北朝鮮問題の次の節目は、9月上旬の東方経済フォーラムのサミットに金正恩を招待することだ。そこでは北各問題が話に出ず、北の経済開発に周辺諸国がどう関与するかという話になる。プーチン提案から1周年になる。そこには日本の安倍首相も参加し、日朝首脳会談が行われるかもしれない。 (プーチンが北朝鮮問題を解決する)
日本政府は、トランプからさらなる貿易戦争(関税引き上げ)を吹きかけられることを恐れている。そのため日本政府は、本心と裏腹に、トランプの対北和解に賛意を表明せざるを得ない。日本の本心は、北を敵視し続け、北を仮想敵とする在日米軍の駐留を恒久化し、対米従属を続けることだ。トランプの目標は、米朝和解を維持し、在韓米軍を撤退させた後、在日米軍も撤退させることだ。日本がトランプの関税引き上げを恐れ、トランプの機嫌をとるために米朝和解を礼賛し続けることは、在日米軍の撤退と、日本(官僚独裁機構)にとって不本意な対米従属の終わりにつながる。
ポスト真実の覇権暗闘 (07/08記事)
「ポスト真実(Post-truth)」という言葉がある。辞書的には「事実が重視されなくなっている政治状況」といった解釈になっている。私の解釈は「情報の発信者であるマスコミや権威筋、ネット上で影響力を持つ勢力が、事実や善悪の価値観を歪曲する度合いが増し、受け手である人々が騙されている状況」だ。情報の受け手が事実を重視しなくなったのでなく、発信者が意図的に事実を歪曲している。私はこれまでの記事で、マスコミや権威筋による善悪観や価値観の歪曲について、何度も書いている。「ポスト真実」とは、権威筋による価値観歪曲策のことだ。
(日本の権威筋による訳語は「ポスト真実」だが「真実」は「物事の本質」という思想・価値判断的な意味が含まれてしまい不適切だ。事実性のみを問う「ポスト事実」の方がしっくりくる。言葉の訳し方についてばかり議論するのも間抜けなので、今回は「ポスト真実」のまま使う) (Post-truth politics Wikipedia)
「Post-truth」は古くからあった言葉のようだが、米英などでこの言葉が頻出し始めたのは2016年からだ。この年、6月に英国が国民投票でEUからの離脱を決め、11月に米国の大統領選挙でトランプが当選した。英米のマスコミや諜報界の主流派を握る軍産複合体・エスタブリッシュメントは英離脱とトランプに反対していた(英EU残留とクリントン当選を望んでいた)。英国民投票も米大統領選挙も、直前まで、残留派とクリントンが圧勝するに決まっていると喧伝されていた。だが、これは軍産エスタブの非主流派による歪曲戦法だったようで、実際には残留派もクリントンも僅差で負けた。このあと、軍産エスタブ内の主流派(残留・クリントン支持)が、非主流派(離脱・トランプ支持)を非難酷評(誹謗中傷)する言葉として「離脱トランプ支持派は、事実をねじ曲げて人々を信じ込ませ、投票結果を操作した」という意味で「ポスト真実」や「偽(フェイク)ニュース」の概念を流布した。 (Hypocrisy? Experts slam Tories fake news security unit as govt ‘peddles misinformation’)
英離脱派とトランプの勝利は連動した動きだ。英離脱派とトランプは、米英の軍産エスタブ主流派が戦後ずっと維持してきた米英覇権体制(米単独覇権体制の黒幕を英国がつとめる)を壊すために出てきた。トランプの前には、レーガンやニクソンがいて、それぞれ米ソ冷戦終結と、米中和解・金ドル交換停止によって、トランプと同様に、米覇権体制を壊す動きをした。戦後の米英覇権体制の最上層部では、覇権を維持しようとする主流派(軍産)と、壊そうとする非主流派(ニクソンレーガントランプなど多極主義者。CFRやネオコンも?)との暗闘・内戦が、断続的に続いてきた(多極化した方が世界の実体経済の長期的な成長につながる)。 (トランプ政権の本質)
英国は、米国が覇権体制の上手な運営から(多極主義者がわざと)逸脱するたびに、英米同盟やG7などの構図を使って米国の政策を立て直してきた。ニクソンがドルを壊した後、英国主導でG5やG7が作られ、日独にドルを下支えさせた。ブッシュ政権(ネオコン)がイラク侵攻で濡れ衣戦争を稚拙に展開して米国の信用を(わざと)落とした時は、終始英国が米国についていき、米国の軌道修正を試みた(英国は失敗し、ブレア首相が悪者にされた)。16年に、トランプが当選して覇権放棄策を始める前に、英国はEU離脱を決めてしまい、英国が欧州勢を率いて米国覇権体制(G7的な米同盟諸国の国際協調体制)を維持することを先制的に不可能にした。英国がEU離脱で国際政治的に自滅していなかったら、英国は、トランプと軍産の闘いで軍産に加勢し、トランプを今よりもっと不利にしていたはずだ。英国が自滅しているので、トランプは軍産に勝っている。その意味で、英EU離脱とトランプ当選は連動している。 (英国の離脱はトランプ人気に連動)
ポスト真実や偽ニュースは、米覇権主義者(主流派、軍産)と多極主義者(非主流派、トランプ)との、覇権体制をめぐる暗闘の中で、英離脱決定とトランプの勝利によって台頭してきた多極派に対する、米覇権派からの攻撃策の一つである。「ポスト真実」は、軍産がトランプを非難する際に使う用語だが、もともと「ポスト真実」的な善悪歪曲・事実歪曲の策略を、戦後ずっとガンガンやり続けてきたのは軍産の方だ。 (The "Fake News" Story Is Fake News)
冷戦時代から続くロシアや中国に対する敵視策は、露中が本当に極悪だから敵視しているのでなく、露中への敵視を通じて親米諸国の対米従属の結束が強まり、米英覇権が強化されるからだ。米欧日の露中敵視は70年前から続く「ポスト真実」的な事実歪曲だ。同様に、イラクのフセイン、シリアのアサド、イランの聖職者政権、リビアのカダフィなどを極悪に描写し、米軍による政権転覆を正当化してきたのもポスト真実的な善悪歪曲策だ。これらの中東イスラム敵視策の出発点となった01年の911事件も、アルカイダを犯人とみなすには無理な状況が多数あり、恒久的・第2冷戦的なテロ戦争の体制を作ることを目的にした、軍産による犯人捏造・自作自演的な事実歪曲だ。 (911事件関係の記事集)
これらの軍産によるポスト真実の戦略は、これらを事実として軽信せず疑問を呈する人々に対し、誹謗中傷的な悪しざまなレッテルを貼る点でも共通している。911事件を米当局の謀略だと言う人は「陰謀論者」だし、露中敵視を歪曲だと言う人は「アカ」だし、イラクやイラン敵視を事実の歪曲だという人は「反米論者」として攻撃される。権威ある学者など「専門家」は、軍産によるポスト真実の戦略に楯突くと、権威や職を失うことになりかねないので、権威ある人々は楯突かず(善意ある人は黙る)、むしろ自らの権威を維持増強するために積極的にポスト真実の戦略に乗って軍産的な歪曲解説を声高に言う人が目立つようになる。大学や学術界の知的な価値が大きく下がった。マスコミの多くは、軍産傀儡の「専門家」ばかりを使うようになり、そういった専門家の権威が上昇し、反逆者の権威が剥奪され、軍産による事実歪曲はますます強固になった。
▼史上最も成功したポスト真実策は日独戦犯、2番目は温暖化人為説、3番目は911テロ戦争?
経済分野では、リーマン危機後の中央銀行群による、通貨発行で債券を買い支えるQEの金融延命策と、それによる株価の上昇を正当化するため、景気が良くなっていないのに良くなっているのが「事実」だと歪曲する体制の維持が、米覇権勢力(軍産というより金融界)によるポスト真実の策略だ。経済分野は、政治分野よりもさらに権威主義が強く、QEを批判したり、景気が良くなっていないと言う者たちは「無知な素人」のレッテルを貼られる。経済新聞など権威筋は歪曲報道を永続し、それらの歪曲報道しか情報源がないほとんどの人々は、報道がいくら実態からかけ離れても簡単に軽信させられ、歪曲に全く気づかない。バブル膨張が続き、いずれこの体制は破綻する(その意味でQEは隠れ多極主義的な策だ)が、破綻回避に必要な関係者の警告も非常に少ない。 (米国の金融システムはすでに崩壊している)
地球温暖化人為説も、ポスト真実の一つだ。ウィキペディアにもそう書いてある。だが、私の見立てはウィキペディアと逆方向だ。リベラル(米民主党)系の米マスコミなど言論界の主流では、トランプや米共和党筋が地球人為説を否定していることを「ポスト真実」の象徴の一つに挙げている。日本などでは、温暖化人為説の否定が、知識界のタブーになっている。「地球が人為によって温暖化していることが専門家のコンセンサスになっているのに、トランプや共和党筋は、石油会社などと結託し、歪曲的な理屈を展開し、人為説や温暖化傾向を否定している」という説が権威を持っている。しかし、すでに述べたように「専門家のコンセンサス」というのは、誰に権威を付与するかを決めている軍産エスタブ・マスコミによる策略の結果であり、温暖化人為説を信奉する学者に優先的に権威・地位・資金を与える策を20年以上続けたからにすぎない。温暖化人為説は、考え方の説得性でなく、恫喝による権威筋のコンセンサス形成と、懐疑論者への攻撃によって政治力を獲得している。 (Post-truth politics Wikipedia)
人為説は、いまだに説得力が弱いままなのに、それを指摘することは「禁止」されている。議論はすでに、人為説が決定的に正しいということで確定的な結論が出ていることになっており、いまさら議論したがる奴らの方が間違っているというのが、権威ある「事実」になっている。だが、この「事実」自体が間違いであり、間違いだと指摘する者は「トンデモ」扱いされる。こうした言論独裁的な状況が「自由世界(笑)」の「ポスト真実」の政治体制である。マスコミが流布するトランプらによる「人為説の否定」でなく、正反対に、マスコミ自身による「人為説を事実として定着させたこと」の方が「悪しきポスト真実」の象徴である。「悪しきポスト真実」を言い出した軍産側は、これをトランプ攻撃の言葉として使い出したが、実際には、マスコミなど軍産側自身の方が「悪しきポスト真実」をやりまくっている。 (まだ続く地球温暖化の歪曲)
地球温暖化人為説はもともと、工業化の段階を終えて二酸化炭素を排出しなくなった先進諸国が、これから工業化して二酸化炭素を排出する中国など新興諸国から、炭素税などの名目で巨額の資金をピンはねするために捏造された、米国覇権維持・多極化妨害のための理論戦略である。中国が主導する新興諸国は、この構図にはめられることを拒否し続けた。オバマは09年のCOP15で中国側に大譲歩し、中国側が温暖化人為説を「確立した結論」として受け入れる代わりに、先進国が新興国からピンはねするのでなく、正反対に、先進国が新興国に温暖化対策の費用を支援する体制へとすり替えた。金を出す側に転換させられた先進諸国は黙った。それ以来、温暖化問題の議論は終息し、人為説が政治的な最終結論となっている。 (新興諸国に乗っ取られた地球温暖化問題)
人は皆、世界(や国内)の状況を把握しようと思ったら、ネットやマスコミ報道など間接情報に頼るしかない。それらは、さまざまな歪曲度合いのものが、歪曲を見分けにくい形で流入してくる。歪曲度合いの判別が困難な中で私が見てきたことは、その情報の価値観(善悪観)に異論を呈している人々の言論が、どんな扱いを受けているか、だった。異論が事実上全く許されていない場合は、歪曲度合いが高いのでないかと疑われる。 (戦争とマスコミ)
今が「ポスト真実」の時代なら、昔はもっと理想的な「真実」の時代だったのかというと、全くそうでない。ポスト真実的な、マスコミを使った価値観歪曲の体制は、マスコミの発祥とともに古い。米国で最も古い濡れ衣戦争は、1898年のメーン号の犯人歪曲を開戦事由とした米西戦争だ。人類史上、善悪歪曲が最も成功したのは、第2次世界大戦の戦勝国が、英国の発案で、敗戦諸国、とくにドイツに対して貼った「恒久極悪」のレッテルだ。地球温暖化人為説に疑問を呈しても(今のところ)投獄させられないが、ホロコーストに疑問を呈すると投獄されたり、モサドに人さらいされて気がつくとイスラエルの法廷に立たされていたりする。まさに命がけだ。最近のイスラエルによる人殺しこそ「人道上の犯罪」そのものなのに。ヒステリックな温暖化人為説信奉者は少し前まで「人為説否定論者を、ホロコースト否定論者と同じ目にあわせるべきだ」と、勝ち誇った感じで言いまくっていた。これが、終戦以来続く「ポスト真実」の真実である。 (ホロコーストをめぐる戦い) (イスラエルとの闘いの熾烈化)
ジョージ・オーウェルのデストピアな小説「1984」は、いまから70年前の1948年に書かれたが、当時すでに、英軍産による巨大かつ恒久的な善悪歪曲策である「冷戦」が始まろうとしており、今と変わらぬ「ポスト真実」の状況が見えていた。今や市街地のいたるところにある監視カメラや、グーグルアップルNSAによる全人類のスマホに対する検閲など、1984年的なデストピアが現実化している。いずれ世界が多極化しても、中国は米欧日以上の露骨で強固な検閲監視・言論統制の独裁体制であり、他の非米的な諸国の政府は中国の統制システムを喜んで取り入れつつある。抜け道や希望はない。
とはいえ、グーグルアップルNSAが全人類を検閲してきたのに対し、中国共産党が検閲しているのは中国人民だけだ。中国は最近、グーグルアップルNSAの検閲をシステム的に拒絶している。覇権の多極化は、デストピア運営者の多極化でもある(日本官僚機構も、ドコモのスマホ独自OSだったタイゼンなどを潰さず育てていたら、いずれ世界が多極化した時に、独自のデストピアを作れたのだが)。
▼ポスト真実の歪曲策の基本目的は米英覇権強化だが、稚拙にやって覇権を自滅させる隠れ多極主義者もいる
ポスト真実・善悪歪曲は基本的に(発祥時点で)、米英覇権体制を強化・永続化するための策である。敗戦した日独を極悪に描くことは、国際政治的に日独が再び力を持って英米に立ち向かうことを防ぐための策だった。(戦後の日本に米国傀儡の官僚機構の隠然独裁政権を作られたことも、日本を恒久的に対米従属の状態にしておく米英覇権維持策だ。日本の権力機構は、日本が米国より経済的に強くなりそうになると、90年代のバブル崩壊を引き起こして日本経済を自滅させたり、ゆとり教育など日本人の能力を意図的に下げる長期政策を展開した。その結果、日本人の能力は、今や中国韓国人より低くなる傾向だ) (日本の官僚支配と沖縄米軍)
しかし終戦後、ポスト真実・善悪歪曲をめぐる戦後の歴史は、複雑なものになった。それは、第2次大戦への参戦と引き換えに英国から覇権を移譲された米国が、単独覇権国となることを望んでいなかったからだ。米国は、英国から譲り受けた覇権を解体し、ソ連や中国などに分け与えて覇権構造を多極化しようとした。ソ連の影響圏を認めたヤルタ体制や、国連安保理常任理事国のP5体制が、米国が望んだ多極型世界を象徴している。英国は、米国の軍産複合体を引っ張り込んでソ連や中国を敵視する冷戦体制を作り、多極型の世界を西側と東側に二分し、米英が西側世界の覇権国となって東側(ソ連中国)と恒久対立することで、擬似的に単独覇権体制を再建した。米国は、冷戦開始とともに軍産に乗っ取られた。冷戦構造の維持のために、英軍産は、ソ連中国に対する過剰な、善悪歪曲・ポスト真実的な敵視策を続けた。 (田中宇史観:世界帝国から多極化へ)
米国のエスタブ内のもともとの主流派は、多極型の覇権構造を望んでいた多極主義の勢力(ロックフェラーなど)だったが、彼らは英軍産によって冷戦を起こされて覇権運営権を乗っ取られてしまった。戦後の米国は、英軍産の隠善独裁体制となった。多極主義の勢力は、表向き英軍産と同じ単独覇権主義者(冷戦派)に鞍替えしたように振る舞って米国エスタブ界で延命しつつ、多極化への転換をこっそり狙う「隠れ多極主義者」になった。彼らは、米国で覇権の戦略立案や運営を担う役割を続けつつ、米国覇権や冷戦体制の維持強化のための戦略を、運用段階で意図的に失敗させて、逆に覇権低下や冷戦体制解体につなげる策略を断続的に続けた。 (世界のデザインをめぐる200年の暗闘) (多極化の本質を考える)
その一つが、60-70年代のベトナム戦争の失敗だ。朝鮮戦争後のベトナム戦争は、中国の北側の朝鮮半島と、中国の南側のベトナムの両方に分断国家を作って南半分を米国傀儡国家にして、恒久的な中国包囲網にするための濡れ衣戦争だった。米国は、とても稚拙にこの戦争を展開して意図的に負けた。開戦時のトンキン湾事件は濡れ衣だったと暴露された。ベトナムは旧フランス領で、英国は泥沼化を恐れて参戦しなかった。英国が米国と一緒に参戦していたら、米国の意図的に稚拙な戦略を修正して軟着陸させていたはずだ。ベトナム戦争は、米国の覇権を浪費し、終戦時にはニクソンが中国訪問・米中和解までやって冷戦体制に風穴を開けた。ベトナム戦争は、ポスト真実的な米覇権維持のための戦争が、多極化のために使われる結果になった戦争のはしりである。03年のイラク戦争も、よく似た構造を持っている。 (歴史を繰り返させる人々)
その後、米国ではレーガン政権が出てきてソ連と和解し、冷戦を終わらせた。冷戦終結はソ連側(ゴルバチョフ)が望んだことだったが、隠れ多極主義的なレーガンは、それに便乗して米ソ首脳会談を繰り返し、ポスト真実的な価値歪曲・敵味方捏造の構造だった冷戦を終わらせた。相手方からの和解提案に便乗して、軍産が作った歪曲型の敵対構造を終わらせるやり方は、今年、トランプが踏襲して米朝首脳会談を実現した。ニクソン(対中国)、レーガン(対ソ連)、トランプ(対朝、対ロシア)は、いずれも軍産の価値歪曲型の敵対構造を、敵方との首脳会談で破壊した。 (ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
軍産(諜報界、マスコミ、議会主流の超党派)はこれに対抗し、ニクソンに対してウォーターゲート事件、レーガンにイラン・コントラ事件、トランプにロシアゲート事件を、いずれも針小棒大・誇大に大騒ぎして引き起こし、3人を弾劾しようとした。いずれも、軍産が多極派を潰そうとしたポスト真実・誇張的な策略だった。ニクソンは辞任したが、レーガンは軍産に勝ち、米政界の英雄になった。トランプも、ロシアゲートで軍産に勝っている。 (ロシアゲートで軍産に反撃するトランプ共和党)
90年にレーガンに冷戦構造を破壊された後、軍産はしばらく冷や飯を食わされ、米軍事産業は合理化させられた。英国は、米国から金融の利権(レーガンの金融自由化の一環として、ロンドンをNYと並ぶ世界の債券金融システムの国際的中心に据えてもらった)を与えられる見返りに、軍産を見放した。そんな軍産が劇的にカムバックして米政権を再奪取したのが、01年の米諜報界による自作自演的な911テロ事件だった。大したことないテロ組織だったアルカイダが911を起こしたという、まさにポスト真実的な作り話を軍産マスコミ諜報界が流布し、人類を軽信させた。911をめぐる公式説明に疑問を呈する者は陰謀論者扱いされ、言論界で無力化された。日独戦犯や地球温暖化人為説と同質の構図だ。 (米英金融革命の終わり)
隠然クーデターともいうべき911で、冷戦型の米国の軍産独裁が復活し、テロ戦争(=軍産支配)の世界体制が何十年も続くと軍産系勢力が豪語した。だがその後、軍産の中に入り込んでいた隠れ多極主義勢力のネオコンが、わざと稚拙に残虐なイラク戦争を引き起こし、意図的に米国の国際信用を低下させる自滅策を展開した。米国は、リビアやシリアでも、同様の形式の政権転覆戦争を展開して失敗し、米国と同盟諸国の両方の上層部でテロ戦争の体制への批判が強まった。
オバマ政権の時代から、米国は、シリア問題解決のロシアへの丸投げ、イラン核協定の締結、イラク駐留米軍の撤退など、テロ戦争の体制を解消する策を開始した。トランプはそれを加速し、イラン核協定から米国が離脱することで核協定(イランと仲良くする役)をロシアやEUに押し付けることや、北朝鮮やロシアとの首脳会談による敵対解消をやり、今後はシリアやリビアの再建の主導役をロシアに任せることもトランプの動きとして予測される。トランプは、サウジのMbS皇太子をけしかけて社会のリベラル化を進めさせことで、アルカイダやISの原動力になっていたサウジのイスラム主義の文化を薄めることもやり、ポスト真実的なテロ戦争の構造を破壊している。 (シリアをロシアに任せる米国)
・・などなど、911からトランプにかけてのポスト真実の策略をめぐる話は、たくさんある。ポスト真実の構造を増設する軍産と、自滅・破壊・棚上げするトランプやネオコンなどとの暗闘的な相互の動きが、この四半世紀の国際情勢の中心と言っても良い。今回、記事2本分の長さを書いてもまだ書ききれないので、続きは次回に書く。