【目次へ】
  続折々の記へ

【心に浮かぶよしなしごと】

【習近平検索 01】     【日中韓一覧 02】     【習近平検索 03】
【夏の中国 04】     【日中折衝開始 05】     【日中折衝開始 06】
【日中折衝開始 07】     【日中折衝開始 08】     【日中折衝開始 09】

~【01】続折々の記 2018④ 総検索へ戻る~
【 04 】


           中国事情と米中攻め合い
            親中政権の連敗 「一帯一路」の沿線国
            国営メディア、米国から発信 国際世論の形成狙う
            米、対中関税第3弾発動22兆円分 中国は報復措置
            ニュース競争、習氏「主導権を」 格安テレビ契約
            冷え込む米中、日本にも寒風 家電・雑貨、生産移転
            米中貿易戦争 これから本当に起きること
            中国に「3つの不利」 習近平「徹底抗戦」

 09 25 (火) 中国事情と米中攻め合い     トランプと習近平

しばらく中国関連ニュースに遠ざかっていた。 朝日デジタルのニュースに驚いて、この記事を残すことにした。

 親中政権の連敗 「一帯一路」の沿線国
     2018年9月24日22時52分
     https://digital.asahi.com/articles/ASL9S4PQHL9SUHBI00J.html?iref=comtop_8_04

写真・図版  アジアで中国寄りの政権が選挙で相次ぎ敗れている。スリランカ(2015年)やマレーシア(今年5月)に続き、モルディブでも親中派の大統領が敗北した。いずれも中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」の沿線国で、大規模開発が続くさなかの動きだ。

 モルディブの場合、首都がある島から空港や住宅地がある島々に通じる橋を、中国が総工費2億ドル余りの大半を贈与と融資でまかない大統領選の直前に完成させた。船でしか移動できなかった市民にとって画期的だが、「実際の値段は3分の1。大金が誰かの懐に入った」と疑う市民が多い。

 橋には1キロ以上にわたって中国国旗がはためく。空港の拡張や8千戸のアパートも中国が手掛ける。観光客のトップは8年連続で中国人で、人口40万人余りの国に年間30万人が訪れる。存在の大きさは脅威にもなり、「地元で中国人気は意外と高くない」(外交関係者)との見方がある。

 一帯一路の沿線で歓迎ムードの潮目が変わったのは15年、スリランカの政権交代だ。親中派の前政権が中国の融資で大規模港を造ったものの利益を生めず、新政権は追加の開発計画の凍結を決めた。すると中国側は損害賠償を要求。返済免除と引き換えに、港の管理を99年間差し出すことになった。債務と汚職の問題は、マレーシアやモルディブで野党側が親中政権を批判する材料になった。

 人権問題に口出ししない中国の支援を背に、親中派政権は反対派を弾圧し独裁化した点で共通する。ただ、選挙前に最大野党を解党し事実上の一党支配になったカンボジアを除き、民主的な体裁を気にしない極端な独裁には至っていない。モルディブでは今回を含め過去3回の大統領選の投票率が9割近く、民主制度への信頼が社会の底流にあることをうかがわせる。

 複数の市民は「替え玉投票を持ちかけられた」と証言するが、別の現地の外交関係者は、「仮に政権が何かしようとしても、やりきれなかった」と指摘。中国にとって今回の政権交代は「独裁政権との不透明な関係による大きすぎる代償になる」と語った。(マレ=武石英史郎)

国営メディア、米国から発信
国際世論の形成狙う
     2018年9月25日
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S13694513.html?ref=pcviewer

 米国で7月、「大豆の独白」という短いアニメが放送された。「私、大豆だよ」。自己紹介を始めた「大豆」はその後、米中貿易摩擦でのトランプ政権の対応を鋭く批判する。

 「中国が報復関税をかけたことで米国産大豆の輸出量が減り、農家に被害が出ています。それでも有権者はトランプ大統領や共和党を支持するでしょうか」

 制作したのは中国国営の中国国際テレビ(CGTN)。2016年末、中国政府が海外発信強化のため、中国国営中央テレビ(CCTV)から、英語やフランス語など六つの外国語放送を移管して発足させた。各国の衛星放送やケーブルテレビ向けにニュースなどを24時間放送する。

 その海外最大拠点CGTNアメリカの本部はワシントンの全面ガラス張りのビルに入る。幹部によると、約240人の記者やアナウンサーのうち約200人が英語を母語とし、米CNNやFOXニュースなどから引き抜いた。

 世界約170カ国で放送され、約3億8千万人の視聴者がいるとされる。モデルは、07年から国際放送を展開しているロシア政府系テレビ局ロシア・トゥデー(RT)だ。この幹部は「受け入れられやすいよう、RTよりプロパガンダ色を薄めている」と話す。

 だが、CGTNは最近、米国をはじめ世界中に取材拠点を置く中国国営通信社の新華社とともに、米司法省に「外国代理人」として登録するよう命じられたと米メディアに報じられた。

 「中国共産党のプロパガンダ」(米議会の諮問機関)との指摘を受けたもので、外国の利益になる不当な情報操作などを防ぐ外国代理人登録法(FARA)に基づく措置。CGTN関係者は朝日新聞の取材に「通知があったのは事実」と明かした。登録団体は予算や支出の報告が義務づけられ、米議会などで取材できなくなる可能性がある。

 司法省は昨年、RTにも同じ措置をとった。米国では16年の大統領選に介入したロシアとともに、膨張する中国メディアへの警戒感が強まっている。

 中国は新聞でも世論への浸透を図る。ワシントン中心部では、政府機関や大使館などの前に置かれた新聞の束が目につく。大使館などには無料で配達されている中国の英字紙チャイナ・デイリーだ。  1981年に創刊された国営紙で発行部数は約90万部。うち約60万部が海外向けだ。同紙関係者によると、約150カ国で展開し、34の印刷拠点がある。活動を支えるのは巨大な資金力。中国の対外宣伝費は年間2兆円超との見方もある。

 「影響力を持つ対外宣伝メディアを作る」との国家主席習近平(シーチンピン)の号令の下、欧米が主導権を握ってきた国際世論の形成に、中国が挑んでいる。欧米メディアの優位を揺るがすには至っていないが、経済力を背景に、アフリカなどの途上国で浸透し始めている。=敬称略(ワシントン=峯村健司)

米、対中関税第3弾発動 22兆円分
中国は報復措置
     2018年9月25日
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S13694514.html?ref=pcviewer

 米トランプ政権は24日、知的財産の侵害などを理由とした中国への制裁関税の「第3弾」を発動した。中国からの輸入品計2千億ドル(約22兆円)分が対象で、中国も600億ドル分の米国産品に関税を上乗せする報復措置を実施した。これで米国が輸入品の半分に、中国が7割に高関税対象を一気に広げる異例の事態になった。▼3面=日本にも影響

 米側は「第4弾」の発動にも踏み切る構えで、中国からの全輸入品が高関税の対象になることも現実味を帯びてきた。米中の通商紛争に収束の兆しは見えず、日本企業への影響を懸念する声も高まりつつある。

 米側の第3弾は日用品などの消費財を幅広く含む。年内の追加関税は10%で、来年から25%に引き上げる。米アップルの腕時計型端末「アップルウォッチ」など、当初公表していた案から一部商品を除外した。追加税率を25%から当面は10%に引き下げたのも、年末にかけての商戦を控え、消費への悪影響を和らげる配慮とみられる。

 一方、中国側の報復関税の対象になるのは、食品や医療器具、生活用品、液化天然ガスなど5207品目。税率は5~25%の4段階を想定していたが、米国側の引き下げとあわせて5%と10%の2段階にする。

 高関税措置の対象は、米側が第1~3弾をあわせて2500億ドル分で、中国からの年間輸入額のほぼ半分となった。中国側が計1100億ドルで、米国からの年間輸入額の7割に上る。トランプ大統領は2670億ドル分の第4弾を準備しており、中国が報復すれば「ほかに選択肢はない」と明言してきた。実施されれば中国からの全輸入品に高関税がかかることになる。

 第4弾まで紛争がエスカレートすれば、世界の製品供給網がさらに大きく混乱する。中国から米国に輸出している電子製品の部品をつくる日本企業などにも打撃となる。また、高関税による価格上昇のしわ寄せが次第に米消費者にいくのは避けられず、消費が低迷して売り上げの減少を招く恐れもある。(ニューヨーク=青山直篤、北京=福田直之)

ニュース競争、習氏「主導権を」
アフリカ、格安テレビ契約(チャイナスタンダード)
     2018年9月25日
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S13694436.html?ref=pcviewer

 アフリカ・ケニア南部のカジアド。8月、トタン張りの民家の中から歓声が聞こえてきた。子どもたちが中国のカンフー番組に夢中になっていた。

 ヘナリー・ムンディア(10)は拳を突き出すポーズをまねて、「中国に行って、カンフーの試合を見てみたい」と目を輝かせた。

 地区では数年前までテレビが見られなかった。状況を変えたのが中国国家主席の習近平(シーチンピン)だった。2015年に南アフリカで開かれた国際会議、中国アフリカ協力フォーラムで、「アフリカの1万村にデジタルテレビを届ける」と約束した。

 まもなく「スタータイムス」と書かれたパラボラアンテナが地区の100世帯に無料で取り付けられた。同じことが、ギニアやモザンビークなどでも起きた。

 スタータイムス社は中国・北京に本社を持つ有料デジタル放送事業者。02年にアフリカに進出し、低価格で攻勢をかけた。現在約30カ国で事業を展開。契約者は約1千万世帯に上る。

 ケニアでは月259シリング(約260円)から加入でき、約40チャンネルが見られる。中国の番組も多く、カンフー番組や現地語吹き替えの中国ドラマに加え、中国国際テレビ(CGTN)のニュースが入る。

 富裕層や知識人が見てきた米CNNは番組リストになく、英BBCは、より高いプランを契約しないと見られない。

 カジアドの主婦パメラ・ムワンガラ(27)は2年間、毎月の契約料を免除された。子どもがカンフーにはまる一方、CGTNのニュースを時々見るという。

 CGTNは、中国がアフリカで進めるインフラ整備事業の紹介や中国の先端技術の特集を放送。アフリカ各国政府の批判などは流さない傾向があると指摘されるが、「アフリカの発展ぶりを肯定的に放送してくれている」と評価する。

 アフリカ南部ザンビアでは、デジタル放送への切り替えを担う目的で16年、スタータイムスが国営放送と合弁企業を設立した。中国輸出入銀行が約2億7千万ドル(約300億円)を融資。スタータイムスが株式の60%を取得し、国営放送の広告収入などを25年間にわたって受け取るとされ、「国営放送が中国に売られる」と物議を醸した。

 9月3日、北京で開かれた中国アフリカ協力フォーラムで、習は総額600億ドル(約6兆6千億円)の資金協力を表明。中国企業の進出や国際社会での影響力の拡大を狙う。その様子は、CGTNを通じて放送された。中継を見たケニア人記者はつぶやいた。「アフリカ53カ国の首脳らが笑顔で習氏に拍手をしていた。中国の影響力はあまりにも大きい」(カジアド=石原孝)

 ■巨額資金で欧米に対抗

 「大国外交」を唱える習近平指導部は、対外宣伝に力を入れている。

 「中国の声をしっかりと伝えなければならない」。習は8月下旬に北京で開いた「全国宣伝思想工作会議」でそう強調した。

 根底にあるのは欧米メディアへの不信感だ。08年の北京五輪で人権問題が注目を集めたり、14年の香港の民主化デモ「雨傘運動」や南シナ海問題で中国の強硬姿勢が問題にされたりしたことが苦い記憶として残る。

 16年2月、習は「ニュース世論工作座談会」を開き、国営メディア幹部らに「国際的影響力を持つ対外宣伝メディアを作らねばならない」と号令をかけた。

 その年の末、国営中国中央テレビ(CCTV)の外国語放送を独立させて設立されたのがCGTNだ。同じく党宣伝部の傘下にある国営通信社の新華社、英字新聞のチャイナ・デイリーとともに対外宣伝の中核を担う。国内では規制されるフェイスブック(FB)やツイッターでも発信する。CGTNのFBフォロワー数は6700万を超え、数の上では英BBCニュース(約4700万)や米CNN(約3千万)を上回る。

 支えるのは圧倒的な資金力だ。米ジョージ・ワシントン大教授のデイビッド・シャンボーが10年に試算した中国政府の対外宣伝費は年間約100億ドル(約1兆1千億円)で米政府の広報関連費の十数倍。シャンボーは「今は200億ドル以上費やしている」とみる。

 今年6月に出版された「習近平ニュース思想講義」は「世界のニュース競争で主導権を握らなければならない」と訴えている。=敬称略(北京=延与光貞)

 ■外国メディア招待、研修にも力 13年間で146カ国・3600人以上

 中国政府は近年、外国のメディア関係者を招いた研修にも積極的に取り組む。担当部門によると、05年から17年までの13年間で、146カ国から3600人以上が参加した。

 ミャンマーのネットメディア「ミジマニュース」の記者トゥンリンテッ(38)は16年、中国側が費用負担する11日間の研修に参加した。教えられたのはメディアの「チャイニーズドリーム」。「科学技術を用い、100年かけて中国にしかできないジャーナリズムを作る」と説明された。

 教壇に立ったCCTVの幹部らは、ネットでの批判をテレビが報じ、地方幹部を辞任に追い込んだ例を挙げ、「メディアは国民のためのものだ」と強調した。

 トゥンリンテッは中国側の説明をうのみにはしていない。だが、「前に思っていたより中国政府はメディアの役割を理解していると感じた」と振り返る。

 研修で教えた経験のある中国の関係者は「中国をほめなくていい。帰国後、客観的に中国報道をしてもらえれば、十分だ」と話す。(ヤンゴン=染田屋竜太)

冷え込む米中、日本にも寒風
家電・雑貨、生産移転の動き 米、対中関税第3弾発動
     2018年9月25日
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S13694482.html?ref=pcviewer

 米国が中国への高関税措置の「第3弾」を発動し、中国からの輸入品の半分にまで追加関税の対象を拡大した。家電製品から雑貨まで幅広く、日本企業にも影響への懸念が広がりだした。販売の落ち込みにつながりかねないとの不安も強まるが、米中紛争の解決への糸口は見えていない。▼1面参照

 エアコンメーカーの富士通ゼネラルは、中国・上海の工場で生産する家庭用の製品を米国に輸出している。米国の制裁第3弾を発動する方針が示されて影響を調べたところ、このエアコンが対象に含まれる可能性があることが判明。主にオフィスや店舗向けの大型エアコンをつくるタイの工場に生産を移す方針を決めた。すでに部品の確保などの準備を進めている。

 中国に拠点を持つ各社は、制裁関税の影響の把握を急ぐ。トヨタ自動車グループの部品メーカーのデンソーは、一部の電子部品などを中国で集中的に調達しており、米国へも輸出している。同社は「なんらかの影響が出てくる」(広報担当者)とみて、具体的な金額などを精査するという。

 米国内で「無印良品」を15店舗運営している良品計画は、雑貨が制裁対象に含まれた可能性があるという。広報担当者は「生産地変更も含めて検討する必要があるかもしれない」と説明する。

 ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは、第1~2弾の関税では、日本企業は中国で生産していた製品の一部を他国でつくるなど、既存の設備の運用で対応できたと指摘。その上で「第3弾で日用品に対象が拡大され、影響する額も一気に増えた。既存の設備での対応が苦しくなると、素材の質を落としたり、製品を値上げしたりすると予想される」と分析する。

 高関税が商品の値段に跳ね返り、巨大市場の米中の消費が冷え込めばより広く影響が及ぶ可能性がある。

 花王は中国に工場を持つが、米国には製品を輸出しておらず、制裁の直接的な影響はない。だが、中国向けの事業を強化しているため、広報担当者は「貿易戦争が長引いて中国経済が失速し、消費が冷え込むことを懸念している」とする。

 ■中国、「トランプ氏への打撃」優先

 トランプ大統領が高関税措置をエスカレートさせている背景には、11月の中間選挙を見据え、対中強硬姿勢が支持層に強く訴えるとみていることがある。

 「関税合戦」を続ければ中国が折れるとの「読み」もうかがえる。米国の中国からの輸入に比べ、中国の米国からの輸入は金額ベースで3割ほど。このため中国は「第4弾」の関税措置を発動されると関税による同規模の報復はできない。

 ただ、中国は通関や許認可の手続きを遅らせるなどの非関税措置で対抗するとみられ、トランプ氏の思惑通り譲歩する保証はない。米中ビジネス協議会が6月に行った調査では、回答した約100の米企業のうち、米中の通商摩擦で中国の規制当局からの調査が増えたとの回答が28%、米中いずれかでの投資を取りやめたり、延期したりしたとの回答も15%に及んだ。

 中国は報復関税に工夫を凝らす。第1弾では大豆を制裁対象に組み込んだ。中国で米国産大豆が値上がりすれば、米中西部の穀倉地帯にいるトランプ氏の有力な支持層の収入に打撃を与えられるため、中間選挙への影響を狙ったとみられる。

 そうした手法は第3弾でも健在だ。今回の対象には、トランプ政権が中国に輸入増を約束させた液化天然ガス(LNG)を含めた。米国が対中交渉で得た成果を台無しにする狙いがありそうだ。

 一方、中国側には局面転換を目指す姿勢も垣間見える。中国政府は24日午後、「中米貿易摩擦の事実と中国側の立場について」と題する白書を発表。米国を批判するかたわら、「平等で相互を利する条件のもとで、米国との二国間投資協定を再開し、適切な時期に二国間自由貿易協定の協議を始めることを望む」と提案した。

 トランプ氏も17日の声明で中国を非難しつつ、「最終的には私が大きな敬意と愛情を寄せる習近平(シーチンピン)国家主席と解決できることを願う」とも述べた。通商紛争が長期化する懸念がぬぐえないなか、11月末の20カ国・地域(G20)首脳会議などの機会を捉えたトップ会談で打開を図れるかがカギを握ることになりそうだ。(ニューヨーク=青山直篤、北京=福田直之)

米中貿易戦争
日本人が気づいていない「これから本当に起きること」
     唐鎌 大輔 みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト
     2018/07.11
     https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56467

A 米中「開戦」の時

7月6日、「どうせ口だけだろう」と多くの人が高をくくっていた米中貿易戦争が実質的に「開戦」した。

正確には6月15日、米国は知的財産権侵害の制裁として中国からの輸入品500億ドルに25%の追加関税を課す方針を決めていた。7月6日に決まったのは、その第一次リスト(the first set)に対する課税であり、金額にして340億ドル相当である。

この問題に係る重要な論点は「課税金額の多寡」ではなく、「課税対象の品目」と言われる。

下の図表に示されるように、第一次リストの多くは資本財や中間財で構成されており、具体的には航空や産業用ロボット、半導体など、中国が強化を目指しているハイテク分野の製品を含む818品目である。

【図版】https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56467 で見ること

B 中国が邪魔だ

これらの品目は、中国政府が世界有数の製造業大国になることを企図して発表した産業政策「中国製造2025」における重点産業を意図的に狙ったものと言われている。

要するに、関税における「制裁金の大小」ではなく、ハイテク分野における「米中の覇権争い」が米中貿易摩擦の本質であり、「370億ドルではGDPに与える影響は軽微」といった表面的な理解では十分ではないという解釈が多々見られる。

これまでアナウンスされた各種措置の根拠法も多岐にわたっており、諸々の理由を付けてこの動きを続けようとする意思が透けて見える。その都度、安全保障や知的財産権侵害、国内産業保護といった大義を掲げているが、詰まるところ、「米国第一主義」を完遂するために色々な法律が援用されているだけというのが実情に近そうである。

「製造業大国としてハイテク分野での覇権を握ろうとする中国の存在がまずは邪魔」というのがトランプ政権の胸中であり、理由は後付けなのだろう。

なお、トランプ大統領は今回の340億ドルの残額(160億ドル)はもちろん、中国の出方次第では最大4000億ドルの輸入品に対し10%の追加関税を発動する用意があることも表明している。

C 最初に弾切れするのは中国?

もちろん、こうした措置を受けて中国も黙ってはいない。

中国国務院(政府)は同じく先週6日、米国からの輸入品340億ドルに25%の追加関税を課す方針を発動している。

具体的には545品目(米国と同じく340億ドル相当)を対象とし、米国産の牛肉、豚肉、大豆、小麦などの農産物、エビ、ウナギ、タラなどの水産物そして自動車などが含まれる。

トランプ大統領と与党・共和党の支持基盤である主要産業を狙い撃ちにする意図があるのは明らかだろう。これは中間選挙まで4ヵ月を切ったトランプ政権に対しては有効打となりそうである。

とはいえ、絶対額で比較すれば「米国が課税できる中国からの輸入額(2017年で5063億ドル)」よりも「中国が課税できる米国からの輸入額(2017年で1304億ドル、※米国の対中輸出額)」は圧倒的に小さい。ゆえに、同額・同率の関税を掛け合っていれば必ず中国が最初に弾切れに至る。

6月19日、中国が「(米国に対して)質と量を組み合わせた総合的な措置」と宣言したのは、そうした財貿易に限定されない手段(通貨安誘導や対中投資規制の厳格化など)を使って、一切退くつもりは無いという意思表示である。

鉄鋼・アルミニウムへの追加関税が決定された3月頃を境として人民元相場の上昇が止まり、今回の課税に繋がる通商法301条を理由にした500 億ドル課税決定の6月15日を境に急落し始めたのは偶然ではない(以下、図)。

「総合的な措置」はまず通貨政策からのアプローチが始まっている。

【図版】https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56467 で見ること

D この戦いは2020年までは続く

今のところ米中一歩も譲らずという構図であり、これが変わる気配も特に感じられない。だが、トランプ政権のやっていることが仮に中間選挙対策なのであれば、残り4ヵ月間で選挙民にアピールする「何か」を得なければならない。

短期間で中国から「何か」を引き出すには極力高い球を投げておく必要があるため、今年に入ってからの矢継ぎ早な動きは首肯できる。だが、仮に中間選挙前に何らかの手打ちに至ったとしても、トランプ大統領の本当の狙いは自身の再選であろうから2020年まではこの種の動きは続く可能性が高い。

E 「親・中国」ドイツの動きに要注目!

いや、そもそもトランプ大統領でなくとも米国が中国を見る目は猜疑心に満ちている。

基本的には安全保障や技術競争といった側面から警戒の対象だとすれば、保護主義の先鋭化は当分、不可逆的なものかもしれない。

先週3日はトランプ大統領が世界貿易機関(WTO)脱退の可能性を示唆したことが話題になった。近い将来の話ではなく、米議会も絡むため容易な話ではないが、そのような動きが実現すれば一政権だけの話には止まらなくなる。

少なくとも「貿易戦争など至るはずがない。全てブラフ(はったり)だ」という従前の観測は今のところ外れていると言って良いだろう(実際に課税され始めているのだから実害は出ている)。

ちなみに、7月3日には、王毅外相を含む中国高官が7月16~17日にかけて開催される中国・EU首脳会議を前に、米国の先鋭化する保護主義に対して力強い共同声明を採択するように圧力を掛けたという事実が報じられた。

EUとて領海問題などで中国との間に差異を抱えていることから、簡単に応じる構えを公式には見せていないが、トランプ政権と対峙するにあたって何とかしなければならないという気持ちは中国と同じだろう。

親・中国で鳴らすドイツが主導してEUが中国になびくような展開は今後十二分に考えられ、仮にそのようなことになればブラフどころかもはや貿易世界大戦である。

F 日本への影響は?

ところで日本への影響はどう考えるべきか。

世界3位の対米貿易黒字を稼ぎ、その8割を自動車で稼ぐ以上、日本も大いに貿易世界大戦の当事者になり得る国である。

現時点で目立った衝突はないが、今月下旬にはいよいよワシントンで新たな2国間交渉のプラットフォームが動き出す。これが日米FTA交渉を意図したものであることは間違いなく、そこで槍玉に上がるのは日本の対米自動車輸出と考えるのが自然だろう。

G トランプの「難癖」が一番怖い

既報の通り、トランプ政権は自動車・同部品の輸入増加が安全保障上の脅威になるかどうか調査を開始しており、輸入車に25%の追加関税を課すことを検討している段階にある。

6月29日、日本政府は公式にこうした措置は世界経済にとって「破壊的な影響を及ぼし得る」と表明し、米国内の業界団体なども同様の表明をしている。また、日本自動車工業会は仮に追加関税が実施されれば、米国内における自動車生産の落ち込みを通じて現地雇用が減少する可能性も指摘している。

日本の製造業は米国内の外国企業の中でもとりわけ雇用増加に寄与しており、こうした指摘の説得力は高いと考えるべきだろう。ちなみに米商務省の統計によれば、外国企業による米国内での雇用者数(2015年)を見ると、全産業ベースで日本は12.6%を占め英国に次ぐ第2位、製造業に限れば16.3%で第1位(ちなみに2位はドイツで12.7%)である。評価こそされ、批判される筋合いには基本的には無い。

とはいえ、貿易に関して異様に被害妄想の強いトランプ大統領である。日本の対米自動車輸出はやはり叩き甲斐のあるトピックに映っている可能性はやはり高い。

下記の図表に示されるように、日本の世界向け輸出全体に占める米国の割合は過去30年余りで明確に低下しているが、その米国向け輸出に占める自動車の大きな割合はほとんど変わっていない。

【図版】https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56467 で見ること

2017年の財貿易に関し米国の対日赤字は▲699億ドルだが、このうち80%弱が自動車・同部品の赤字である。結果、米国の自動車市場における日本車の割合は40%弱に至っているという現状がある。

こうして見ると、日本にとって米国向け輸出の存在感が落ちているとは言っても、米国が体感する日本車輸入の存在感は依然大きなものと推測される。貿易赤字を忌み嫌うトランプ政権が日本の自動車輸出に目を付けるのは自然だろう。

もっとも、米国の自動車企業は既に本邦市場から撤退しているため、関税を調整したところで彼らの販売が増えるという話にはなりそうにない。とすれば、「難癖」をつけてくるとすれば「日本の自動車企業(に限らず製造業全般)は過剰な円安で利益を貪っている」といった類の論陣だろうか。その場合、日銀の金融政策運営が槍玉に上がる可能性も視野に入ってしまう。

すでに日本の製造業として出せるカードが無いのだとすれば、両国の金融政策格差やその結果としての円安に目をつけ、基軸通貨国として特権を行使してくる展開が最大のリスクかもしれない。

完全に言いがかりであり「難癖」だが、これまでのトランプ政権の挙動を見る限り、絶対に無いとは言えまい。

そもそも貿易交渉が拗れる中で為替相場に圧力をかけてくる手口はトランプ政権に限ったものではなく、1990年代後半の貿易摩擦時に嫌というほど見せつけられた米国の「お家芸」の1つでもある。

そうなった場合、日本側から抗う手段は乏しいゆえ、為替見通し上、最大のリスクと考えざるを得ない。いずれにせよこのあたりのトピックは本当に交渉が動き始めてから別途論じたいところである。


米中貿易戦争・開戦して分かった、中国には「3つの不利」がある
   習近平政権は「徹底抗戦」を選択
   近藤 大介

「米中貿易戦争は中国に不利」と断言できるこれだけの理由
   株安・元安から体制不安に陥るリスクも
   安達 誠司

ドイツの閣僚がどうしても許せなかったメルケル首相の「ある行動」
   あわや連立政権崩壊の危機に
   川口 マーン 惠美

習近平の金融ブレーンが告発!「中国発の金融恐慌は必ず起こる」
   当局に削除された「幻の論文」全訳掲載
   近藤 大介

凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題
   テロにも発展。その名は「インセル」
   八田 真行

日本がいつのまにか「世界第4位の移民大国」になっていた件
   安倍政権が認めない「不都合な現実」
   芹澤 健介

ウーマンラッシュアワー・村本大輔が語る「息苦しさからの脱出」(中原 一歩)
   干されたとかっていうけれど
   中原 一歩

部活を引退して20年・・・音沙汰なしだったけど差し入れひとつでチャラにできるか?
   PRデイリーポータルZ

国立大学の研究者が注目「年齢対策に手遅れはない」その理由
   PR山田養蜂場

【転職に2回失敗した体験談】転職に失敗しないためにやるべきことはコレでした・・・
   PR株式会社リクルートキャリア

米中貿易戦争のウラで、いま中国で起きている「ヤバすぎる現実」(週刊現代)
   もう限界…報道されない現場の悲鳴
   週刊現代

役所があえて教えない、申請すれば「もらえるお金・戻ってくるお金」(週刊現代)
   チャンスはこんなに眠っていた
   週刊現代

「アートで町おこし」には“無用なもの”を排除する欲望が潜んでいる(栗原 康)
   現代日本のアナキストかく語りき 後編
   栗原 康

「新潮45」が二度目の大炎上で大きく失ったもの(井戸 まさえ)
   まっとうな議論のきっかけどころか…
   井戸 まさえ

カサノヴァ「天才プレイボーイの生涯」を紐解く
   タリスカー・ゴールデンアワー第18回(前編)


米中貿易戦争・中国に「3つの不利」
習近平政権は「徹底抗戦」を選択
     近藤 大介 『週刊現代』特別編集委員
     2018/07.10
     https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56488

先週金曜日、7月6日は、いろんな事があった。西日本一帯に大雨特別警報が出され、数十年に一度の大災害に見舞われた。

東京では、オウム真理教の麻原彰晃教祖以下、計7名の死刑囚の死刑が執行された。さらに、文部省科学省の佐野太前科学技術・学術政策局長が、息子を東京医科大学に不正入学させた問題で、東京医科大が緊急記者会見を開き、臼井正彦理事長と鈴木衛学長の辞職を発表――。

このように、日本は大変慌ただしい一日だったが、この日の午後1時1分、世界でもう一つ、歴史に残るような一大事が起こった。米中貿易戦争の勃発である。

3月22日にトランプ大統領が中国製品への制裁を宣言して以降、世界ナンバー1とナンバー2の経済大国が角を向け合っていたが、とうとうルビコン河を渡ったのだ。

他の国なら、超大国のアメリカにここまで強硬に迫られたら怯むところだが、2期目の5年が始動した3月に「強国建設」を宣言した習近平政権は、後に引けない。そこで、「貿易覇権主義」という新語を米トランプ政権に被せて、まずは「徹底抗戦」を選択したのだ。

経済史上最大規模の貿易戦争が発動

日本時間の午後1時5分、中国商務部の報道官は、「アメリカの340億ドル分の中国産品に追加関税をかけたことに対する談話」を発表した。全文は以下の通りである。

〈 アメリカは7月6日、340億ドル分の中国産品に対する25%の追加関税措置を開始した。アメリカはWTO(世界貿易機関)の規則に違反し、今日まで経済史上最大規模の貿易戦争を発動した。

この種の追加関税行為は典型的な貿易覇権主義であり、まさに全世界の産業チェーンと価値のチェーンの安全を著しく脅かすものである。また、世界経済の復興の足踏みを阻害するものであり、世界の市場に動揺を引き起こすものであり、世界のさらに多くの無辜の多国籍企業と一般企業、消費者に波及するものであり、アメリカの企業と国民の助けにならないばかりか、彼らの利益を損なうものだ。

中国側は先制攻撃はしないとした。だが国家の核心的利益と国民の利益を断固として守るため、必要な反撃に動き出さざるを得ない。われわれは今後、時を見てWTO及び世界各国に、関連する状況を通報し、自由貿易とグローバリズムを共同で維持し、保護していく。

同時に、中国は重ねて申し上げるが、確固として改革を深化させ、開放を拡大していく。企業家精神を保護し、産業の権利保護を強化していく。中国に進出している世界各国の企業に良好な営業・商業環境を提供していく。われわれは今後、関係する企業が受ける影響を計竿くして評価し、効果的な措置を取るよう努力し、企業を助けていく。

それから3時間後、中国外交部の定例記者会見で、陸慷報道官も厳しい表情で、アメリカを批判した。強調したのは、WTO規約違反を犯したのはアメリカの方であり、中国は自由貿易とグローバリズムを守っていくということだった。

「アメリカ側の誤ったやり方は、WTOの規則に公然と違反するものだ。かつ全世界の貿易秩序に打撃を与え、世界市場に混乱を起こし、世界経済の復興を阻害し、世界の多くの多国籍企業、中小企業、及び一般消費者たちすべてに被害を与えるものだ。また、アメリカの多くの業界と国民も、すでに日を追って自身が被る被害の大きさを意識するようになってきている。

事実、アメリカ政府が最近取っている一連の一国主義と貿易や投資面での保護主義の措置は、すでに世界の広範で懸念と批判を呼んでいる。そして少なからぬ国家の反対と報復を招いている。

中国側は終始、一国主義の行動に反対し、貿易投資面での保護主義に反対してきた。われわれは常に、関係部門がグローバリズムの進捗を客観的に認識するよう、かつ貿易関係において表れる意見の違いや問題を理性的に処理するよう、最大限の努力を尽くしてきた。しかしそれは関係部門が相互に行えばよいことだ。

いかなる一方的な圧力を試みようとも、それはすべて徒労に終わるし、何人ともそうしたことに幻想を抱くべきではない。中国自身の正当な利益が不公平な扱いを受けている状況のもとで、中国側は当然ながら必要な反撃に打って出る。

商務部の報道官が今日すでに述べたように、われわれは時を見てWTOに関係状況を通報し、世界各国と一体となって、共同で自由貿易と多国間の貿易体制を維持し保護する決意である」

同日の中国時間夜7時、中国中央テレビ(CCTV)のメインニュース『新聞聯播』では、トップニュースではなく、後半部分でこのニュースを報道した。前述の商務部と外交部の報道官の発言を紹介した後、アナウンサーが、昨今の中国経済がいかに好調かを強調したのだった。

「世界銀行の最新の発表によれば、今年第1四半期(1月~3月)の中国のGDPの伸びは6.8%で、中国経済の強靭さは変わっていない。国際通貨基金(IMF)も中国の消費は伸びていて中国経済の伸びは年初の予測通りだとしている。

実際、GDPは連続11四半期で6.7%~6.9%を保持している。供給側構造改革は不断に深化し、5月の全国都市部の失業率は4.8%と過去最低ラインだ。1月から5月までの電力使用量、鉄道貨物輸送量など実体的な指標も右肩上がりを保持しており、全国新規企業登録社数も12.3%増加した。一定規模以上の企業の収入100元あたりのコストは0.31元下降し、利益総額は16.5%増加した。

中国人民銀行が発表した第2四半期の企業調査によれば、企業経営者の先行き見通しを示す指数は75.8%で前年同期比10.4ポイントの上昇。6月までPMI(工業購買者担当景気指数)は、連続23ヵ月50%ラインを上回っており、5月の消費者収入景気指数、就業景気指数、消費意欲指数なども、かなり高い数値を示している。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。