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続折々の記 2019⑥
【心に浮かぶよしなしごと】

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            はっきりしてきたトランプ」
              ドルを破壊するトランプたち
              ユーラシアの非米化
            可愛い10歳仲邑初段
            問う 2019参院選
              1 「嘲笑する政治」続けるのか
              2 非正規の女性、置き去りか
              3 くすぶる不安、「未来」に責任を
              4 首相の密談外交、見えぬ将来像
              5 憲法、議論迫る矛盾と危うさ
              
【 06 】07/08~

 07 08 (月) はっきりしてきたトランプ  ドル制度破壊とユーラシアの非米化

田中宇のニュースが緊急化してきた。 表記の二つを取り上げる。

まずは概要

ドルを破壊するトランプたち
 【2019年7月5日】 覇権放棄屋のトランプは、ドルの覇権を終わらせてSDRなど別の基軸通貨体制に置き換えることを提唱する金本位制論者のシェルトンを米連銀に送り込み、すでに限界に達しているQEを米連銀に再開させたり、ドルの信用失墜につながるゼロ金利策を再来させようとしている。

ユーラシアの非米化
 【2019年7月8日】 トランプから貿易戦争をふっかけられて非米傾向を強め、ロシアと結束して上海機構を率いる習近平の中国は、長期国際戦略として「一帯一路」を進めている。アフガニスタンは一帯一路の中心的な対象地域だ。中国は必然的に、アフガニスタンの安定と経済発展の主導役になる。トランプが今後進めそうなアフガン撤兵は、まさに習近平を助ける策だ。習近平は、米国が手を引いた後のアフガニスタンやパキスタン、イランなどの安定と成長を引き受けることで、トランプの覇権放棄を助けている。トランプと中露イランは敵対を演じつつ、裏でこっそり連携して多極化を進めている。

ドルを破壊するトランプたち
   2019年7月5日   田中 宇

7月2日、米トランプ大統領が、米連銀(FRB)の理事に、金本位制論者で利下げの提唱者、トランプの経済顧問であるジュディ・シェルトンを指名することをツイッターで発表した。定員7人の連銀理事は、地方連銀総裁5人とともに、短期金利などの米国の金融政策を決定する役目だ。定員7人のうち2人が空席で、トランプは今春以来、金本位制論者を連銀理事に送り込もうとしてきたが「専門家でない」などの理由で議会上院の承認を得られず次々と退けられてきた(これは5月19日の記事に書いた)。シェルトンは、トランプが連銀理事に押し込もうとした金本位制論者の3人目だ。トランプが正式に指名すると発表したので、議会の承認を得て就任する可能性が高いとみられている。(トランプは同時にもう一人、利下げ論者でセントルイス連銀の研究者であるクリストファー・ウォラーを連銀理事に指名した) (I am pleased to announce that it is my intention to nominate Judy Shelton) (Trump’s Fed pick Judy Shelton is a fan of the gold standard and other unusual economic policies) (「ドル後」の金本位制を意識し始めた米国と世界←青字はすべてURLに直結

トランプがシェルトンを連銀理事に指名した直後、金地金の相場が急騰した。シェルトンは金相場を押し上げる存在だが、それは彼女が金地金を重視しているからでなく、金地金のライバルである米ドルの覇権を潰そうとしているからだ。彼女は、既存のドルと債券の金融システムにとって脅威となる人物だ。 (Gold Christopher Waller, Judy Shelton Are Trump’s Latest Picks for Fed Board) (Gold Surges After Trump Nominates Gold Standard Advocate Judy Shelton To Fed Board) (Trump’s potential Fed pick Judy Shelton wants to see lower rates ‘as expeditiously as possible’)

金相場について私は、6月20日の急騰以降の状況を分析して6月27日に「金相場抑圧の終わり」と題する記事を配信したが、その記事を書いた直後、7月1日に相場がまた急落した。急落の理由は、金先物市場に相場を下げる「売り先物」が大量に積み上げられ、、その一部が放出されたからだった先物が現物の需給を押しのける金相場では、以前から相場が上がってくると「銀行界(Banks)」が売り先物、「ヘッジファンド(Funds)」が買い先物を積み上げて決闘し、銀行界の側が買って暴落することが繰り返されてきた。今回の上昇時も、昨年春に暴落した時以来の巨額の先物契約が積み上がっており、これから急落がありえるという予測記事が6月27日に出た。 (Gold At Risk Of A Sharp Pullback Before Higher Again) (Gold At Risk Of A Sharp Pullback Before Higher Again) (金相場抑圧の終わり

私は、自分の記事を配信した翌日(土曜日)、急落の予測記事を見つけた。翌週明け、相場が急落した。しかし、それ以上の急落は起こらず、シェルトンが連銀理事に指名されたことで相場が反騰した。まだ、売り先物はかなり残っているだろうから、今後、再び下落していく可能性が大きい(これを執筆中も下落している)。しかし、以下に書くように、シェルトンの連銀理事指名だけでなく、トランプとその「(隠れ)仲間」たちによる「ドル潰し」「覇権放棄」の動きがしだいに拡大・顕在化しており、ドルのライバルである金地金のちからが大きくなっている。下落幅はしだいに小さいものになっていく。 ("Somebody" Finally Cares About Gold) (Gold Buyers Are “Having Difficulty Getting Their Gold and Their Cash”) (Bullion Closes Above $1400 After an Impressive Month of Trading Action)

米先物取引委員会(CFTC)は6月26日、メリルリンチなどの米銀行が08年以来、金先物市場において先物売りを発注した後、決済される直前にキャンセルするやり方で、金先物の相場を不正に操作して儲けてきたことを発表した。メリルは2500万ドルの罰金を支払う。米当局は、米銀行界がドル延命策の一環として、ドルの究極のライバルである金地金の相場を先物を使って不正に引き下げてきた手口の一つを暴露し、取り締まった。これもトランプ政権によるドル潰し(ドルの延命策を潰す策)の一つだろう。米銀行界は、先物を使って金相場を引き下げるのが難しくなっていく。これも、金相場が上昇していきそうな要素だ。金相場は以前、米国の取引時間帯に激動したが、CFTCの取り締まりの結果なのか、最近はアジア(中国)の取引時間帯に激動するようになっている。 (Six-Years Of Gold Market Spoofing Results In $25 Million Fine) (Merrill Lynch Caught Criminally Manipulating Precious Metals Market "Thousands Of Times" Over 6 Years)

話をシェルトンに戻す。彼女は連銀理事に就任しても、おそらく「金本位制を再び採用すべきだ」と主張しない。「ゼロ金利とQEの大緩和策を再開すべきだ」と主張するだろう。彼女自身が、連銀の理事会でそのように言うつもりだと表明している。主張の根拠は表向き、景気対策と、民間銀行が連銀に預けている資金に利払いすべきでないというテクニカルな理由からだが、これらは目くらましだ。シェルトンは、米連銀と日欧中銀がこれから大緩和策を再開するとドルと米日欧中銀に対する信用が失墜すると知ったうえで、大緩和策をやるべきだと言っている。 (Gold Donald Trump to nominate Fed critic to the central bank’s board)

シェルトンは以前、連銀がゼロ金利とQEの大緩和策をやっていた時には、それらを不健全だからやめるべきだと主張していた。当時、連銀はまだ余力があり、大緩和を続けても信用不安を引き起こさなかった。だが今はもう米日欧中銀に余力がなく、今後再び大緩和をやるとバブル崩壊するという段になって、シェルトンは大緩和をやるべきだと言い出している。WSJは、こうしたシェルトンの主張の不一貫を批判して理事就任を阻止しようとする社説が出た。だが、米政界では最近トランプ的なポピュリズムへの反対が弱まっており、たぶんシェルトンは連銀理事になる。シェルトンは、トランプが連銀に送り込むドルのターミネーターだ。 (Judy Shelton, a Goldbug Who Bends to Fit Trump) (Judy Shelton’s potential nomination to a Federal Reserve Board seat, explained)

シェルトンは「1945年のブレトンウッズ会議のやり直し会議をやって、現在の変動相場制のシステムを廃止し、世界の通貨の覇権体制を固定相場制に戻すのが良い」とも言っている。1971年のニクソンショック以降、ドルが変動相場制と、債券金融バブル膨張の「プロパガンダ本位制」になっているのを、元に戻すのが良いということだ。 (多極型世界の始まり

そんな中で覇権放棄屋のトランプは、ドルの覇権を終わらせてSDRなど別の基軸通貨体制に置き換えることを提唱する金本位制論者のシェルトンを米連銀に送り込み、すでに限界に達しているQEを米連銀に再開させたり、ドルの信用失墜につながるゼロ金利策の再来をやらせようとしている。先日フェイスブックが発表した暗号通貨リブラもSDRとの連動を意識しており、ドルに代わる次の基軸通貨体制の試みになっている。 (Trump Wants the Fed to Weaken the Dollar. Powell Says That’s Not His Job) ("Game Changer" - Is Libra The Trojan Horse For An SDR-Backed Redesign Of The Global Financial System?)

7月3日にはトランプが「EUや中国はユーロや元の対ドル為替を不正に低くしている。米国も対抗して通貨戦争に参戦し、ドルの為替を安値に(不正)誘導すべきだ。連銀は、ドル安にするために利下げしろ」と言い出した。これまで、米国の公式な立場は「強いドルが米国の国益になる」という姿勢だったが、トランプはそれをかなぐり捨てている。米財務省は、EUや中国の為替政策で不正をしていない言ってきたが、トランプはそれも無視して貿易戦争を通貨戦争に発展させようとしている。ドルの覇権がぐらつく中でのドル安は、ドルと米国債に対する信用を落とす覇権放棄策だ。 (Trump Says US Should Join "Great Currency Manipulation Game" By Devaluing Dollar) (US should start manipulating the dollar, Donald Trump says, accusing China and Europe of playing ‘big currency manipulation game’)

最近、トランプの対極にいる諸勢力も、ドルの基軸性や米国の覇権を潰す方向の動きを始めている。米民主党では、有力な大統領候補であるエリザベス・ウォーレンが「米連銀は、米国の輸出産業の振興のために利下げすべきだ」と言っている(実のところ米国の製造業は国際競争力が低下し、利下げしても輸出があまり増えない)。トランプは右派のポピュリスト、ウォーレンは左派のポピュリストとして米連銀に利下げを要求し、ドルの覇権を壊そうとしている(米連銀理事に指名されたシェルトンも、自分はポピュリストであると言っている)。ポピュリストが敵視する左右両党のエリート支配層(エスタブ)は、ドルや米国覇権を擁護しているが、彼らは政治力が弱まっている。 (Currency wars: Trump and Warren push hard for weaker dollar) (トランプと米民主党

与党の共和党では、昨秋の中間選挙まで主流派(軍産や金融界の傀儡)がトランプを批判していたが、中間選挙の健闘やロシアゲートの終わりを経て、今や共和党はすっかり「トランプ党」になった。共和党の下院議員でただ一人トランプを弾劾すべきだと明確に発現していたジャスティン・アマシュ議員は7月4日に、2大政党制を批判しつつ、共和党を離党すると発表した。今後、共和党内でトランプに公然と反旗を翻す動きはなくなるだろう。(Trump critic Amash quits Republican Party, slams US political system) (ロシアゲートで軍産に反撃するトランプ共和党

トランプは右からのポピュリズムだが、民主党は左からのポピュリズムに席巻されている。安全保障の分野では、トランプが世界中から米軍撤兵を進めているが、民主党でも先日の大統領候補たちの討論会で、トゥルシ・ガバード下院議員が、世界からの米軍総撤退を主張し、他のすべての候補を圧倒する人気を得た(支持率35%。ウォーレンが2番で14%)。「テロ退治のために世界への米軍駐留が必要だ」と反論する穏健派リベラル(=うっかり軍産傀儡)候補たちの人気は落ちた。 (The Tulsi Effect: Forcing War Onto The Democratic Agenda) (Tulsi Gabbard is only true peace candidate in presidential debates: Scholar) (Drudge poll shock: Tulsi Gabbard runaway winner of first Democratic debate)

20年の大統領選挙はトランプの勝ちになりそうだが、選挙結果に関係なく、米政界は覇権放棄を進める左右のポピュリストたちに席巻されていく。彼らは、世界から米軍を撤退すること、米国の覇権を放棄すること、同盟諸国の面倒を見るのをやめること、中国やロシアに世界運営の一部を任せること(多極化容認)、ドルの覇権を崩していくことなどを希求していく。米国でポピュリズムが台頭するほど、ドルの覇権が揺らぎ、最終的な米国のバブル崩壊が近づく。 (Between Fed rate cuts and the dominant US dollar, Donald Trump can’t have it all)

米民主党は従来、主流派がリベラル(軍事力で世界をリベラル化すべきと主張する軍産傀儡・エスタブとしてのネオリベラル)で、草の根左派(ポピュリスト)は傍流であり弱かった。マスコミ(軍産・諜報界の一部)も、リベラルを標榜してきた。だが今やリベラルが傍流に追いやられ、左派のポピュリストが台頭して民主党の主流派になっている。欧州でも、一足先にポピュリストが台頭している。ロシアのプーチン大統領は先日、FTのインタビューでこの流れを指摘し「リベラルはもう時代遅れだ」と宣言した。リベラル(軍産)であるFT自身がプーチンを批判する論調を出したが、客観的に見るとプーチンが正しく、FTはプロパガンダである。ロシアや中国は、米国の左右のポピュリストが放棄した覇権を拾い集めて自分たちのものにして、世界を多極化する。ポピュリストとプーチンは、時に顕在的に(欧州)、時にこっそりと(トランプ)仲良しだ。 (Putin Eviscerates Liberalism, Calling It "Obsolete", In Wide-Ranging Interview Ahead Of G-20) (Vladimir Putin says liberalism has ‘become obsolete’)

08年のリーマン危機は、信用不安が債券市場での資金の需給バランスの崩壊(債券に対する需要の急減)につながってリーマンなど金融機関の倒産、バブル崩壊に発展したが、次の金融危機へのこれからの道筋は、需給の激変より先に、政治運動としての「ドル潰し」の動きが拡大しそうだ。トランプや民主党左派(主流派)といった米国の左右のポピュリズムによる「ドル安圧力」「(自滅的な)緩和策の要求」、米国の不当なイラン制裁(ドル決済禁止)に対抗する中国やロシア、EUによる「ドル迂回策」「非ドル化」「ドルを基軸通貨の座から引きずり下ろす策」、それからフェイスブックによる暗号通貨リブラを作る運動などがそれにあたる。 (米国の覇権を抑止し始める中露) (フェイスブックの通貨リブラ:ドル崩壊への道筋の解禁

米政界が覇権放棄・隠れ多極主義的なポピュリズムに席巻されていく流れは、もう止められない不可逆なものだ。そう思える理由は、これまでリベラルや軍産を支援してきたジョージ・ソロスら、米国の2大政党の旧主流派を支援してきたエスタブの大金持ちたちが最近、世界からの米軍撤退や政権転覆戦略の終わり、米軍事費の急縮小、中露敵視の終了(多極化容認)などを掲げる、孤立主義的・リアリスト的な戦略を掲げるシンクタンク「クインシー研究所」(Quincy Institute)を創設したからだ。この研究所は事実上「トランプ応援団」である。 (Realism Resurgent: The Rise of the Quincy Institute) (New Soros/Koch-Funded Think Tank Claims To Oppose US Forever War)

クインシー研には、民主党支持のソロスと、共和党支持の資本家チャールズ・コーク(Charles Koch)半分ずつ資金を出し合っており、超党派を強調している。ソロスはこれまでトランプの敵であり、ロシアや欧州ポピュリストと敵対する軍産リベラル・米単独覇権主義系の政権転覆の運動を東欧ウクライナなどで展開してきた。コークもイラク戦争を起こすため濡れ衣を作ったネオコンの巣窟AEIなどにカネを出してきた筋金入りの戦争資本家だ。 (George Soros and Charles Koch team up for a common cause: an end to “endless war”)

そんな2人が、いきなり正反対の戦争反対・米軍撤退・親トランプ・覇権放棄・ポピュリスト・リアリスト・多極主義・孤立主義的なシンクタンクを立ち上げたのだから驚きだ。これはソロスらが思想を変えたからでなく、軍産の凋落とポピュリストの台頭が今後の米国で不可避であり決定的なので、ポピュリストを支持せざるを得なくなり、転換するなら早い方が良いと考えた結果だろう。クインシー研究所については今後も分析が必要だ。

ユーラシアの非米化
   2019年7月8日   田中 宇

アフガニスタンから米軍(NATO軍)が撤退する交渉が進んでいる。米政府は6月29日から、アフガニスタンの国土の過半を実効支配している武装勢力タリバンと7回目の停戦交渉をカタールで行い、米軍が撤退するにあたっての条件などを詰めた。タリバンによると、停戦に必要な条件のうち、すでに80-90%が合意されたという。アフガンでは9月28日に大統領選挙を予定しており、米国としてはその前にタリバンとの停戦を合意しておきたいのだと報じられている。 (Taliban: Afghan peace talks with U.S. '80-90 percent finished') (US-Taliban Talks Are ‘Critical,’ Focused on a Deal for US to Leave Afghanistan)

米国とタリバンはこれまで交渉が進展するたびに、その後行き詰まって破談することを繰り返してきた。従来(911以来)の米国は、覇権維持のためユーラシアの内陸にあるアフガニスタンへの恒久的な軍事駐留を望んでおり(地政学的に、ユーラシアを制するものが世界を制する)、タリバンがアフガン政府軍(米軍傀儡)よりずっと強く、米軍がタリバンと戦うために永久にアフガン駐留せねばならない構図が好都合だった。米国はタリバンと交渉するふりだけして、決して合意に至らないというのが、テロ組織根絶、パレスチナ問題、イラン核問題、北朝鮮問題などと同様の(笑)的な「悲願の和平」のひとつだった。今回も米欧マスコミは、どうせダメだろう的な感じで小さくしか報じていない。 (Timetable For Troop Withdrawal ‘Key To Progress In Peace Talks’) (US, Taliban Aim to Firm Up Date for Foreign Force Exit from Afghanistan)

だが報道や分析を総合すると、トランプ政権は今回、アフガニスタンから米軍を撤退させるつもりだ。軍産の妨害で遅延させられるかもしれないが、トランプ自身は覇権放棄屋なので撤兵をやりたい。ポンペオ国務長官は6月25日、米政府はアフガン撤兵の準備をしていると発表した。それまで米政府は、一方でタリバンと撤兵交渉を続けながら、他方でマスコミ向けには撤兵などするつもりはないと目くらましを言っていた。今、目くらましの時期が終わりつつあるようだ。 (Pompeo: US Prepared to Remove Troops From Afghanistan) (US Envoy Says US Not Seeking ‘Withdrawal Agreement’ in Afghanistan)

タリバンの指導部は01年の911後に米国のテロ戦争の「敵」に指定されて以来、外国の首脳から一度も会いたいと言われてこなかった。だが今回、米国がタリバンと停戦してアフガン撤兵しそうな流れの中で、もともとタリバンを擁立していたパキスタンのカーン首相が、近いうちにタリバンと会うことを表明した。タリバンとパキスタンの首脳会談は今年2月にも構想されたが、タリバンと敵対するアフガン政府(米傀儡)の猛反対を受けてキャンセルされた。今回はアフガン政府も容認している。タリバンとパキスタンの首脳会談が実現すると、それは米軍撤退につながるアフガン和平の具体的な一歩になる。 (Pakistan PM to Be First Head of State to Meet Taliban) (Pakistan PM to soon meet Afghan Taliban leaders to push forward Afghan peace process: Naeem-ul-Haq)

タリバンは、米軍のアフガン侵攻の「原因(というより口実)」となった01年の911事件の前後、米諜報界が支援していたイスラム原理主義(サウジ系、ワハビズム)のテロ組織であるアルカイダと協力関係にあったが、その後の米軍のアフガン占領期間に、タリバンはイスラム原理主義(ワハビズム)の組織から、アフガンナショナリズムの組織へと衣替えした(イスラム教を信奉することは変わらないが、殺戮を推奨するサウジのワハビズムと決別)。 (パキスタンの不遇と野心

アフガンではその後、下火になったアルカイダに替わってIS(イスラム国。これも米諜報界が育てたイスラム原理主義=ワハビズムのテロ組織)が台頭しており、タリバンはアフガンに巣食う米軍だけでなくISとも戦争している。タリバンはISをアフガン南部などで追い詰めて包囲しているが、アフガン駐留米軍は、タリバンに包囲されているISにヘリコプタで救援物資を送り込んでいる。米国は、トランプ政権がタリバンと停戦して撤兵したり、こっそりイスラムテロを支援するのをやめたいのに、トランプと暗闘する軍産=米軍の一部は、大統領の意向を無視してISを支援している。これは、冷戦時代からの米国の傾向だ。 (Taliban accuse US troops of helping Daesh fighters) (敵としてイスラム国を作って戦争する米国👈 USAの卑劣なやり方の一つ

タリバンは90年代末、米諜報界(CIAなど)の傘下にあったパキスタン軍の諜報機関(ISI)が、パキスタンにいたアフガン難民の若者たちを集めて作り、97-98年にアフガニスタンの他の武装勢力(戦国大名)たちを蹴散らして首都カブールを陥落させ、政権をとった。タリバンはもともと米軍産の傀儡勢力だった。だから、同じく軍産の傀儡勢力だったビンラディン(サウジ人)のアルカイダと親しいのは当然だった。サウジは米諜報界に依頼され、タリバンに資金援助していた。だが米諜報界・軍産は、自作自演的な911事件を起こし、アルカイダが犯人だという「話」をでっち上げてブッシュ政権に無期限の「テロ戦争(有事体制)」を発動させた(軍産が米国を乗っ取った事実上のクーデター)後、アルカイダの頭目であるビンラディンをかくまっていたタリバンを「敵」とみなし、米軍をアフガニスタンに侵攻させた。見えてきた911事件の深層👈 USAの卑劣なやり方の一つパキスタンの裏側

タリバンは、それまでの「上司」だった米諜報界から、いきなり「敵」にされてしまった。タリバンは、米諜報界から頼まれてビンラディンをかくまっていたのだから、米軍アフガン侵攻はまさに「濡れ衣戦争」の一つだ。タリバンが「敵」にされるなら、過激なワハビズムを流布したサウジアラビアもテロ戦争の「敵」にされるべきだったが、サウジは石油成金で大金持ちなので、今に至るまで米国の同盟国だ。下っ端のタリバンだけ、軍産の都合に合わせて「敵」にされた。 (Gabbard: US needs to 'stop pretending' Saudi Arabia is an ally)

その後、アルカイダは下火になり、タリバンはワハビズムと決別してアフガンナショナリズムの組織になった。この時点で米軍はアフガン駐留を続ける大義(テロ組織根絶)が失われたが、そのころにはアフガン駐留の大義など忘れ去られており、ユーラシア支配(米覇権維持)のための米軍駐留という本音に沿って、現在も駐留が続いている。 (仕組まれた9・11:オサマ・ビンラディンとCIAの愛憎関係

01年の911後、濡れ衣の米軍駐留によるアフガニスタンの戦争と不安定な状態が長期化するほど、ユーラシア大陸の安定を望む中国やロシアなどは迷惑し、アフガンの状況を何とかして変えたいと考えるようになった。中露は中央アジア5か国と一緒に、ユーラシアを安定させる安保機構として「上海協力機構」を作り、そこにアフガニスタンのほか、インドとパキスタン、イラン、トルコなども徐々に加盟してもらい、いずれ米軍が撤退した後のアフガニスタンを上海機構が安定させていけるようにした。だが、かんじんの米軍がアフガン占領を続けている限り、中露が力づくで米軍を追い出すことはできず、事態は変わらなかった。 (オバマ政権は軍産に勝てず、アフガンの状況を変えられなかった) (軍産複合体と闘うオバマ

このマンネリ状態を打破したのが、16年に当選したトランプ大統領だった。覇権放棄屋のトランプは、選挙期間中からアフガン撤兵を公約にしていたが、17年1月の大統領就任後、米覇権を維持したい諜報界・軍産との戦いを強いられ、当初はオバマ同様、アフガンの状況を変えられなかった。だがトランプは今春以降、濡れ衣のロシアゲートを終わりにするなど軍産を打破している。 (スパイゲートで軍産を潰すトランプ) (軍産の世界支配を壊すトランプ

トランプが米軍のアフガン撤退を決めても、その後のアフガニスタンの面倒を見る外部勢力がいなければ、再びひどい内戦になるだけだ。アフガニスタンは山岳地帯の多民族国家で、タリバンは国民の4割ほどを占めるパシュトン人(東部と南部に居住)を代表している。アフガンにはこのほかにイラン系やトルコ系などの諸民族がいくつもいて、彼らは以前の内戦でロシアやイランなどに支援されて「北部同盟」を結成し、パキスタンに支援されたタリバンと戦ってきた。今後、米国が不用意に撤兵すると、この内戦の構図が復活し、米国の軍産(マスコミや米議会など)が、米軍をアフガンに再駐留させるべきだと騒ぎ出す。 (よみがえるパシュトニスタンの亡霊) (アフガニスタン紀行:禁断の音楽

そのためトランプは、就任前から言っていたアフガン撤兵に踏み切る前に、国際社会に対する無茶苦茶な仕打ち(貿易戦争、イラン核問題、中東和平など)を繰り返し、上海協力機構(露中イラン印パ)とEUなどを「非米同盟」的に結束させ、彼らが米軍撤退後のアフガニスタンの安定を引き受けられるよう強化してやった上で、これから米軍撤退に踏み切る。米国は今年4月、タリバンと交渉してアフガン撤兵の枠組みを決めていく前に、この件を露中に通告して了解を得ている。非米同盟がイランを救う?) (イラン救援に乗り出す非米同盟) (US Agrees With Russia, China on Framework for Afghanistan Pullout)

トランプから貿易戦争をふっかけられて非米的な傾向を強め、ロシアと結束して上海機構を率いている習近平の中国は、今後の長期国際戦略としてシルクロード開発計画である「一帯一路」を進めているが、アフガニスタンは、この戦略の中心的な対象地域に入っている。非米化した中国は必然的に、今後のアフガニスタンを安定と経済発展に誘導する主導役になっていく。トランプが今後進めそうなアフガン撤兵は、まさに習近平を助ける策になっている。習近平は、米国が手を引いた後のアフガニスタン(やパキスタンやイラン、中東など)の安定と成長を引き受けることで、トランプの覇権放棄策を助けている。トランプと中国(やロシア、イラン)は、敵対しているように見せかけて、裏でこっそり連携して多極化を進めている。 (中国がアフガニスタンを安定させる) (ユーラシアの逆転) (Taliban to hold talks with Russian officials, Afghan politicians in Moscow)

中国とインドは従来、ヒマラヤの国境紛争や、中国がインドの仇敵パキスタンを支援していることから仲が悪く、米国(軍産)はインドを軍事経済的に取り込んで中印対立を扇動してきた。だが、中露が望むアフガニスタンなどユーラシアの非米的・多極型な安定には、中印が対立をやめて仲良く(その上で印パも和解)することが必要だ。そのため中国は、2017夏の国境地帯でのインドとの対立激化後、一転してインドを宥和する姿勢に転換した。G20など中露インドの首脳が集まる国際会議のたびに、中露はインドを誘って3か国首脳会談を開いてきた。6月末の大阪でのG20サミットのかたわらでも中露印の会談が開かれた。次は9月のウラジオストクでの東方経済フォーラムで3か国首脳が集まる。 (Escobar: Contrast Between Russia-India-China & Trump Could Not Be Starker)

このような中露のインド取り込みを支援するかのように、トランプはインドに対し、対米貿易で不公正をやっているので懲罰関税をかけると脅し、インドの政府や財界を怒らせ、米国を見限って中露と親密にする方向にインドを押しやっている。中露は、インドを取り込むことを国際戦略の最優先課題の一つと考えるようになり、最近は「BRICS(中露印ブラジル南ア)よりまずRIC(中露印)だ」と言われている(ブラジルは新大統領がトランプ好きの親米派なので、しばらくは中露やBRICSを重視しなくなる。南ア政府は、今の世界的な転換にあまりピンときていない)。RIC重視は、アフガンやイラン、印パの問題を先に解決しようとする中露の姿勢を表している。 (South African Leaders Clueless As Multipolar New World Order Looms) (Trump's Relationship To Russia & China: A Revival Of The Henry Wallace Doctrine?)

アフガニスタンでは米国が静かに撤兵していく流れだが、となりのイランでは対照的に、今にも米国が核問題(の濡れ衣)にかこつけてイランを空爆しそうな騒動が続いている。イランは、EUが米国の脅しに屈して石油取引の非ドル化(INSTEXを使ったユーロ化、SWIFT迂回)をなかなか進めないため(INSTEXは石油でなく人道物資の取引のみで先日始動した)、イラン自身も核協定(JCPOA)の順守を一時停止すると宣言し、ウラン濃縮の度合いや備蓄量を核協定の上限を破って増やしている。マスコミ(軍産傘下)はここぞとばかりに「イランが核協定を破って核兵器開発に踏み切りそうだ。トランプがイランと戦争するかも」と騒いでいる。ジブラルタルでは英軍が(おそらく米国の司令で)イランのタンカーを拿捕して国際問題になっている。 (Goodbye Dollar, It Was Nice Knowing You!) (Europe trade channel with Iran about to operate in coming days: French minister) (Iran set to breach limit on enriched uranium within ‘hours’)

しかし実は、これらのイランの騒動も、ユーラシア(中東)での米国の覇権縮小につながっていく。イランが核協定の上限を超えてウラン濃縮を拡大しても、米国はイランを脅すだけで、それ以上のことができない。米国がイランを脅し続けると、ロシアがイランに最新鋭の防空ミサイルS400を配備し、米軍がイランを空爆できなくなる。トランプがイランを攻撃しようとすると、米諜報界など軍産がやめてくれ(米軍の犠牲が大きくなりすぎる)と頼み、トランプは一転して「ならばロシアなどに頼んで外交で解決するしかない」と言い出す(トランプはすでに6月に一回この揺さぶりをやっている)。トランプは直接イランと交渉したいとも言い続けてきたが、これは口だけで、実際にはロシア(露中EU)がイランと国際社会との再協調を主導し、米国は覇権が低下する。ジブラルタルで英軍が拿捕したタンカーも、いわれているようなシリアへの石油供給用でなく、結局「冤罪」のようだ(拿捕の根拠となったシリア制裁自体が濡れ衣のものだが)。イラン問題は騒々しく、アフガン問題は静かに、国際体制を非米化していく。 (S400迎撃ミサイル:米は中露イランと戦争できない))👈 このことは認識の基本になる重要事項 (Getting out of Afghanistan, with Russia’s Help) (Iranian Oil-Laden Tanker Seized by UK Marines Off Gibraltar Was Not Bound for Syria - Tehran)

アフガンやイランの問題に対しては、EUも影響力を持ちたがっている。EUは従来、対米従属のロシア敵視・NATO重視で、ドイツ軍などが米軍と一緒にアフガン駐留してきた。イラン問題(これも濡れ衣)でも、トランプが核協定(JCPOA)を離脱するまで、EUは米国と一緒にイランに厳しい態度をとってきた(イランの肩を持つ露中と対照的)だが今後米国は覇権放棄(露中などに任せきり)の方向なので、アフガニスタンで米軍撤兵後の国家再建に米国があまり参加せず、EUが米国と同一歩調を続けると、アフガン国家再建の国際的な主導権を露中など非米側(上海機構)に奪われて孤立してしまう。孤立を避けるには、EUが露中敵視の米国と離反し、EU独自に露中と結束していくしかない。イランでも同様の傾向だ。戦争するふりを続けるトランプとイラン) (Iran’s uranium enrichment isn’t about building a weapon. It’s about diplomacy. Here’s why)

そのためEUは最近、これまでの対米従属的なロシア敵視をかなり緩和している。西欧がロシア東欧と話し合う機関である「欧州評議会」は、2014年にロシアがウクライナ内戦でクリミア半島をウクライナから奪って自国に併合したことを制裁する意味でロシアを追放していたが、先日の会合で、ロシアを再び評議会に招待することを決議した。これは、独仏がロシアとの対話を再開する新戦略をとり始めたことと同期している。欧州評議会のロシア再招致の決定に対し、ウクライナは憤慨して退席した。 (Russia's undiplomatic return to the Council of Europe) (Ukraine Protests as Russia Returns to the Council of Europe)

もともとウクライナ内戦は、米諜報界(軍産)がウクライナの親露政権を転覆してロシア敵視の極右政権に差し替えたために起きており、クリミア併合も、ロシアがウクライナ政府を信用できなくなった当然の帰結で、歴史的に見るとロシアは悪くないウクライナ内戦も、ロシア敵視のための濡れ衣戦争である。独仏の対露対話の再開は、米国の濡れ衣に基づくロシア敵視策から離脱するという対米従属の終わりを示している(英国はEUにロシア敵視を続けさせたいだろうが、EUからの離脱騒動でそれどころでない)。 (揺れる米欧同盟とロシア敵視) (露クリミア併合の意味

EU(独仏)は、欧州評議会にロシアを再招待する直前に、クリミア併合を理由とするEUとしてのロシア制裁を半年間延長することを決めた。EUのロシア制裁は、対米(軍産)従属やNATO重視を象徴するものだ。EUは、欧州評議会へのロシア再招待という対露和解(対米自立)姿勢と、ロシア制裁の延長という対露敵視(対米従属)姿勢を混合させる曖昧なバランス戦略を意図的にやっている。対米自立的だったユンケル欧州委員長の後任に、対米従属的・対露敵視的なドイツのフォンデアライエン国防相が就任することも、目くらまし的な曖昧戦略だろう(ユンケルは後任人事に怒ってみせた)。フォンデアライエンが就任後も対米従属と対露敵視を続けるかどうか、対米従属を続けるふりしてやめていかないのかどうか、良く見ていく必要がある。 (Meet The New European Union, Same As The Old One) (Can Ursula von der Leyen save the transatlantic relationship?)

全体として、アフガニスタン、イラン、ウクライナなどユーラシアの各地で、非米的な上海機構の関係諸国やEUが、米国が抜けた後の地域の問題解決や安定化を手がける傾向が増している。トランプの覇権放棄策が成功しつつある。 (Syria & Iran To Defy Sanctions By Building Railway From Tehran To Mediterranean)

【下平】

覇権放棄のトランプが(軍産)との駆け引きを通しながらも、その狙いの実現に近づいていることがよくわかる。 中ソに続いてEUが多極容認へ移行していく様子が理解できる。 こうした世界の動きが目指すのは、経済関係にとどまることなくやがては共存の道へ進むことになる。 変化の様相は単純ではなくても、共存平和の移行は間違いない。 みじめな殺戮へ進むことはない。

とすれば、日本の米国従属は、どの時期がいいのか? 日米安保の改定が話に上がっているが、何を目当ての改定なのか。 本来の目的がなくなってくるという情勢の中で改定ということ自体矛盾している。 敵味方という考え方を今まで同様に使うのは、国際間では認められない。 911のように濡れ衣を演出しても、メッキがはがれるようにやがて暴露される。 そんな時代を考えるべきではない。

米国従属の時期は既に過ぎ去っている。 安保を必要とする時代は過ぎ去っている。 だから、日米安全保障は過去のものとして解消しなければならない。 第10条にも明記されている。

国会審議において、世界情勢に関する日本の進むべき方向を国民にも公開して審議してほしい。

 07 09 (火) 可愛い10歳仲邑初段  最年少勝利 囲碁

写真・図版 【写真・図版】公式戦初勝利を挙げ、感想戦に臨む仲邑菫初段=8日、柴田悠貴撮影

 今春、囲碁の史上最年少プロ棋士としてデビューしたばかりの仲邑菫(なかむらすみれ)初段(10)の公式戦第2戦が8日、大阪市北区の日本棋院関西総本部であり、田中智恵子四段(67)を破り、公式戦で初勝利をあげた。10歳4カ月での初勝利は最年少記録。

 第23期ドコモ杯女流棋聖戦の予選Bで、白番の仲邑初段は中盤まで不利な展開だったが、相手のミスから逆転に成功。146手で中押し勝ちした。記者会見で仲邑初段は「勝ててうれしい」と話し、笑顔を見せた。

 仲邑初段は、今回の勝利で藤沢里菜女流三冠(20)が持っていた最年少勝利記録(11歳8カ月)を9年ぶりに更新した。(渡義人)

【下平】

愛らしい目! 豊かな心の中から、外の様子をチャンと取り入れている。 この愛らしい目は、私にはそう見える。

どんな学びによってこの子は成長したのだろうか? 私の心をつつくのです。

検索語「仲邑菫の育て方」に出てくるサイト ‘韓国の囲碁・仲邑菫ちゃんフィーバーに見る、“天才の育て方”日韓の違い ...’ によると、

「まるで祖父と孫の対決のような光景ですね」

 解説者の韓国の女流棋士からは「かわいいですね」という声が対局中、何度もこぼれた。

 2月3日、旧正月の特番(「K囲碁」)で韓国の伝説といわれる名棋士、曺薫鉉(65歳)九段と今年4月1日からプロ棋士としてデビューする仲邑菫さん(9歳)の対局が放映された。

続いて新聞記事は続いている。 ぜひ開いてほしい



プロ世界の子育ては、その得失が大きいことがよくわかる。 生活の一場面を見たり聞いたりしただけで自分の考えや生涯を決めることはない。 そのことが実感として残ったのです。

こうしてみると、学びの姿も千差万別、いろいろとある。 子育てと学びについては、やはり「胎児はみんな天才だ」を標準的な基本として考えたほうがいいように思う。


問う 2019参院選:1・2・3・4・5

 「嘲笑する政治」続けるのか
   政治部次長・松田京平
   https://digital.asahi.com/articles/DA3S14085791.html?iref=pc_ss_date

 笑いは人間関係の潤滑油だ。ただし、他人を見下す笑いとなれば話は違う。

 安倍晋三首相は2月の自民党大会以降、民主党政権を「悪夢」と言って会場の笑いを誘うあいさつを十八番(おはこ)にしてきた。5月には、自民党の二階、麻生、細田の主流各派のパーティーに顔を出し、「悪夢」発言を繰り返した。笑いや拍手は確かに起きた。それは、さげすみの笑いだった。

 「政治の混乱と停滞に終止符を打つ」。2012年末、民主党に代わって政権に復帰したころ繰り返した首相の言葉だ。あれから6年半。今年6月、通常国会閉幕後の記者会見では「再びあの混迷の時代へと逆戻りするのか」を参院選の「最大の争点」とした。

 民主党政権の失敗と比較して野党を揶揄(やゆ)、こき下ろす。身内で固まってあざ笑う――。自分が相手より上位にあり、見下し、排除する意識がにじむ。首相も支える官邸スタッフも代わらず、国会では野党を圧倒する議席に支えられた強固な権力基盤の中で、「嘲笑する政治」が6年半、まかり通ってきたのではないか。

 笑われる野党にも責任がある。ただでさえ小口化したのに、いまだに主導権争いと離合集散を繰り返している。民主党政権の中枢にいた一部政治家に至っては、無節操に自民党の門をたたいている。

 有権者の選択は、相対的な評価によるものだ。本気で闘う気のない政党や政治家は、受け皿になりようがない。世論調査で内閣を支持する理由の最多が「他よりよさそう」で固定化する理由が、ここにある。

 長期政権下の国会は、官邸が成立させたい法案を通す場として下請け化した。霞が関では、首相答弁につじつまを合わせ、官僚が公文書改ざんに手を染めた。

 安倍政権が進める政策に異を唱える人を攻撃する風潮も社会に広がった。ネットには、沖縄の米軍施設建設への抗議活動に対する差別発言があふれる。「イージス・アショア」の配備問題では、防衛省のずさんな調査の発覚で白紙撤回を求める秋田県知事に、辞職あるいは「受け入れろ」と迫るメールや電話が多数届いているという。人をさげすむ政治が生んだ差別や同調圧力の根は深い。

 安倍首相が11月まで続投すれば、桂太郎を超えて歴代最長の名を刻む。自らを支持する人だけのために、首相という権力があるのではない。支持しない、異なる考えを包摂することなしに、残り2年余の自民党総裁任期を全うするつもりなのだろうか。  野党も国民の不安や不満を受け止める力、毅然(きぜん)と闘う姿勢を示さない限り、展望は開けない。このまま「嘲笑の政治」が続くなら、民主主義は機能しない。

    ◇

 安倍長期政権が何をもたらし、どんな社会の局面を迎えているのか。5回にわたって考えます。

 非正規の女性、置き去りか
   文化くらし報道部記者・高橋美佐子
   https://digital.asahi.com/articles/DA3S14087052.html?iref=pc_ss_date

     今50歳の私が社会へ出たのは1992年。女性は「結婚か、仕事か」の二者択一を迫られていた。友人の多くは、男性並みに働く狭き門の「総合職」でなく、補助的な「一般職」を志望した。数年経てば「寿退社」か、辞めるのが当然という空気だった。正社員で再就職しようにも就職氷河期で難しく、生き方が多様化して離婚も増えた。

 そんな状況下、シングル女性をひきつけたのが「派遣」という非正規の働き方だった。当時は、自由度が高い、様々な会社を経験できる、事務職の即戦力ともてはやされた。正規雇用へのステップとも言われた。

 神奈川県の派遣社員(48)も魅了された一人だ。短大卒業後に一般職で勤めた会社を辞めた2000年以降、企業を渡り歩く。正社員の夢はかなわず、今の時給は1500円。年金生活の母(73)と住む築40年近いマンションから、2時間かけて通う。

 いま非正規で働く人は7割が女性だ。だが、結婚せずに非正規で働き続ける女性たちを、これまで政治は直視してきただろうか。「老後に夫婦で2千万円不足」という金融庁審議会の報告書でも、彼女たちの不足額は示されていない。

 神奈川県の女性自身も自分の将来を考えてこなかった。だが、2千万円問題をきっかけに目を向けざるを得なくなった。率直に聞いた。将来どうするのか。

 「ボーナスも退職金も出ないのに、お金がたまるはずがない。70歳まで働くとして、私を雇ってくれる会社があるんでしょうか? 女は長寿だし、その先は一体どうすれば……」。顔が引きつっていた。移りゆく社会を、その時代のニーズに従い、真摯(しんし)に生きてきた結果、彼女はこうした状況に直面している。

 未婚、離婚を問わず親と同居する限り、親の年金もあるので、雇用が不安定で低賃金でも、伴侶がいなくても、何とかやっていける。自分の老後を直視しなくても毎日は過ぎていく。だが「親亡き後」はどうなるのか。国際医療福祉大の稲垣誠一教授は、「国が何も手を打たなければ、この10年で未婚・離婚の高齢女性の4割近くが貧困に陥る」と警鐘を鳴らす。

 安倍政権が掲げる「女性活躍推進」でも、正社員の管理職登用や、仕事と子育ての両立に光を当てる。子どもがいない非正規のシングル女性を後押しする政治の動きは、見えてこない。彼女たちも「置き去りにされている」と感じている。

 まず必要なのは、政治が彼女たちに目を向けることだ。彼女たちの生活実態さえ、知られていないのだから。そうすることが、社会に広がる老後不安に向き合う一歩にもなる。

 くすぶる不安、「未来」に責任を
   編集委員・原真人
   https://digital.asahi.com/articles/DA3S14088414.html?ref=pcviewer

 老後の生活費が2千万円不足するという金融庁審議会の報告書は、図らずも国民にくすぶる不安の根をあぶり出した。

 日本の財政と社会保障に「未来」はあるのか、という疑問である。

 国と地方をあわせた借金は約1100兆円。国内総生産の230%という借金依存度は先進国で最悪である。これは預金封鎖やハイパーインフレがあった第2次大戦に敗戦した時の数字にも匹敵する。

 にもかかわらず第2次安倍政権下の6年半に、この問題が国民的議論になったことはない。アベノミクスのもとで日本銀行が国債を買い支え、表面的には財政が維持されているからだ。

 円安の追い風を受けた大企業の業績は改善し、株価も上がった。政権は、企業や投資家が潤えば富が滴り落ちるように経済が良くなり、結果として財政も安定する、という楽観論をふりまいてきた。そんな「魔法のつえ」は、なかった。

 団塊の世代が全員75歳以上となり、社会保障費が急膨張する「2025年問題」まであと6年。その備えに、私たち自身の負担増は避けて通れない。

 ところが政権にも国会にも、この問題に本気で取り組む意欲が感じられない。

 もし財政を消費増税だけで安定させるなら税率20%以上が必要と専門家たちは主張する。

 現実は、安倍政権が2回延期した税率10%への増税をこの10月、4年遅れでようやく実施しようという段階だ。野党はこれにさえ反対している。

 さらに、安倍晋三首相は根拠もなく「今後10年間くらいは(10%超に)上げる必要はない」と言い切る。未来に目を背ける政治姿勢と言わざるをえない。

 外交や通商政策もそうだ。国際社会の反発を受けながら、国際捕鯨委員会から脱退し、商業捕鯨を31年ぶりに再開した。韓国向けの半導体材料などの輸出規制は、元徴用工問題でぎくしゃくする韓国への事実上の対抗措置だった。

 韓国政府の対応に問題があったとしても、これでは日本が掲げてきた「自由貿易」の看板に泥を塗りかねない。国際協調より、相手国との対立に持ち込む「自国ファースト」の米トランプ流にすらみえる。

 財政も外交も長い時間軸のなかで成否を判断すべき領域だ。まどろっこしくても地道に少しずつ物事を解決し、持続可能なものにすることが肝要ではないか。今の政権にはそこが決定的に欠けている。

 参院選で繰り広げられている与野党の論戦は「未来への責任」を果たしているとは思えない。政治の言葉が今の自分に心地良く響いたとしても「未来の自分」に対してはどうか。

 2千万円問題への反響の大きさは、未来への責任を放棄するそんな政治への、一種の抗議メッセージだったのではないか。

 首相の密談外交、見えぬ将来像
   編集委員・藤田直央
   https://digital.asahi.com/articles/DA3S14090000.html?ref=pcviewer

 ノーベル平和賞に安倍晋三首相から推薦された、日本との貿易交渉は参院選後に期待――。トランプ米大統領から際どい発信が続いていたが、先日、日米安全保障条約は「不平等だ」という発言が飛び出した。

 「我々(米国)が彼ら(日本)を助けているなら彼らは我々を助けねばならなくなる」。自衛隊の役割を広げた安保法制では不足だと言うなら、憲法改正が必要になるレベルの話だ。

 トランプ氏は「彼(安倍首相)にこの6カ月間伝えてきた」「彼はわかっている」と語る。こんなやり取りが一体どこであったのか。日本政府ではだれも明確に説明できていない。考えられるのはフランス語で「テタテ」と呼ばれる一対一の会談か、ゴルフの場だ。

 首相はテタテとゴルフにこだわってきた。中国の台頭や北朝鮮の挑発への対応で日米同盟の重みが増し、世界を振り回すトランプ氏の懐に飛び込むためだ。

 日米両首脳のテタテを振り返れば、長期政権で沖縄返還にかけた佐藤栄作は、米国が緊急時に沖縄へ核を持ち込める密約をニクソンと結んだ。関係者が明かすのは四半世紀後だ。政権基盤が不安定な中曽根康弘はレーガンと互いの選挙で勝つため貿易摩擦で妥協を探った。34年後に極秘指定が解かれた会談記録に残る。

 テタテは正式な会談の前後に別室などで忌憚(きたん)なく語り合う場で、内容はほとんど明かされない。同席した通訳が作る記録は日本政府では数人しか見られないが、将来に公開されれば検証はできる。

 一方、ゴルフ場での会話に至っては、正確な記録は残らないだろう。そこに安倍・トランプ間ならではの危うさも加わる。自衛隊に関し憲法解釈を大胆に変えて安保法制を作り、さらに改憲を唱える首相。「ディール(取引)」が信条で同盟について不案内な大統領。日米首脳間では異例な屈託のない会話が、安保条約は不平等というトランプ発言の土壌になっていないだろうか。

 ところが、外務省では幹部が「米大統領がこれほど外国首脳と親密になった例はない」と礼賛し、「ゴルフ中の話は知らない」と言う。首相の個人的な思いが先走らず国益に沿うよう方向づける姿勢に欠ける今の官僚組織を見る思いだ。

 ロシアとの関係も似ている。首相がプーチン大統領との間で北方領土問題を解決するとしてテタテを重ねるうち、政府は過去の合意の起点となる1956年の日ソ共同宣言だけを強調するようになった。それ以降に日本側が積み上げた成果についてはロシア側に配慮して口が重くなった。

 民主党政権を「外交敗北」と指弾し、政権を取り戻して6年半。外交を売りにする首相が各国首脳に語ってきたことを日本外交の大きな流れにどう位置づけるのか。密談で闇を広げるだけでは決して像を結ばない。

 憲法、議論迫る矛盾と危うさ
   編集委員・国分高史
   https://digital.asahi.com/articles/DA3S14091686.html?ref=pcviewer

 今回の選挙戦で憲法を語る時、安倍晋三首相はいら立ちを隠そうとしない。

 3年前の参院選で3分の2の「改憲勢力」を両院で確保したのに、改憲への議論がほとんど進まなかったからだ。与党が「1強」を占める数の力をもってしても、衆参両院の憲法審査会だけは、首相の意のままには動かせなかった。

 「憲法について議論をする政党を選ぶのか、しない政党を選ぶのか。それを決める選挙だ」。これまでの国政選ではなかった首相の言葉には、参院選で勝てば「国民は議論をする政党を選んだ」として、今度こそ野党を押し切ってでも憲法審での議論を進める強い意志があるのは明らかだ。

 安倍政権はこれまで、安全保障法制など野党が反対する法案審議を一方的に打ち切り、次々と成立させてきた。ただ、改憲案には国民投票での承認も必要なため、横暴さを印象づける数の力は使いにくい。

 だからこそ、憲法審は前身の憲法調査会の時代から、ほぼすべての党の合意を求める「与野党協調路線」をとってきた。

 これが、首相をはじめ改憲に前のめりな議員たちにはもどかしくて仕方がないようだ。この状況を打開するために首相が持ち出したのが「議論をするか、しないか」という論法だ。

 そこには、いくつもの矛盾やごまかしがある。

 議論をすること自体は、立法府の生命線だ。だが、野党からの憲法に基づく国会召集や議院規則に基づく予算委員会開催の要求に対し、政権側はことごとく無視してきた。ダブルスタンダードだとのそしりは免れない。

 首相の念頭にある「議論をしない党」の一つは立憲民主党だが、枝野幸男代表は憲法の議論をしないとは言っていない。

 確かにこの1年、衆院憲法審で憲法の中身の議論はなかった。それは、投票の利便を高める国民投票法改正案の採決にこだわった与党と、国民投票の際のテレビ広告規制の議論を求めた野党との間で、折り合いがつかなかったからだ。審査会運営のあり方を有権者に問うことに意味はない。

 何よりも、憲法論議に「イエスかノーか」を迫るのは、冷静に議論する場を壊す極めて危うい手法だ。3分の2の仲間内であるはずの公明党の山口那津男代表でさえ「争点として熟度が浅い」と突き放す。

 それでも自民党内外の改憲積極派の間では、憲法審の与野党協調路線への不満が沸点に達しつつある。この参院選で「改憲勢力」が3分の2を維持すれば、路線転換への圧力はさらに強まるだろう。

 採決の強行を重ねてきた国会運営を考えると、改憲の議論が憲法審で始まれば、首相は早々に言い出しかねない。「いつまでも議論ばかりを続けるわけにはいかない」と。

 =おわり