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続折々の記 2019⑥
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「金融世界大戦」 第三次大戦はすでに始まっている
【 07 】07/10~
07 10 (水) 「金融世界大戦」第三次大戦はすでに始まっている
田中宇の著書の解説です。
本のカバー
表紙 リーマン危機をはるかに凌ぐ クラッシュの予兆
表紙裏 世界大戦とは覇権(赤字語句は11頁以降に解説してある)の争奪を懸けた世界規模の戦争である。
三度目の大戦は従来の軍事兵器ではなく、
金融や通貨を媒介にすでに水面下で勃発している。
それは、四半世紀にわたる米国覇権を支えたドルと
債券金融システムの運命を決する“金融”世界大戦である。
裏表紙 国際経済アナリストが世界情勢の真相を暴露する
禁断の書!
・原油安はサウジアラビアとロシアによる米国シェール革命
潰し!?
・アベノミクスは米国覇権の救済策にすぎない!
・粉飾された「好景気」の裏でマイナス成長を続ける米国経済
・高利回り債市場の金利上昇が、サブプライム危機直前を彷彿
させる
・ドルの価値が崩れ、金相場が上昇期に入っている。
・BRICSが貿易決済の非ドル化を進めている
まえがき
今、世界の金融分野で起きている大きな出来事の大半は、アメリカの当局が2008年のリーマン・ショック後の対策で失敗し、この失敗が金融危機の再発につながらないようにするための延命策の副作用として起きている。
その一つの象徴は、通貨を大量発行して国債や社債を買い支える「QE」(量的緩和策)だ。アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備銀行、連邦準備制度理事会)は、断続的に6年間QEを続けたが、ドルを発行しすぎてこれ以上やると財務体質に悪影響を及ぼすため、14年10月にQEをやめて、代わりに日本と欧州の中央銀行にQEを開始させた。
リーマン危機は、2007年のサブプライム住宅ローン債権危機から顕在化し、2008年のリーマン・ブラザーズ倒産で頂点に達した債権金融危機だ。世界の金融の中心は、米国債からジャンク債までの債権金融システムで、債券は金融システムの中で株式よりずっと重要だ。危機は、2000年代前半の金余り状態の中で起きた。投資家が高利回りの金融商品を、リスクを無視して買いあさる傾向が強まり、本来は高リスク(高利回り)であるはずの債権が低利回りで大量に売れてしまう現象(債券バブルの膨張)が拡大した。この現象が度を越したと一部の投資家が感じて債券の売りが広がり、債券の発行元の金融機関が破綻し、それが連鎖破綻を引き起こし、前代未聞の大きなバブル崩壊となった。
倒産したリーマン・ブラザーズだけでなく、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)などいくつかの金融機関が破綻に瀕したが、米政府は、金融システム全体の不可逆的な崩壊を恐れ、国債を大量発行して金融機関を救済した。米政府が国債を急激に発行したため、米国債に対する信用が揺らいで国債金利が上昇する事態になった(国債金利が高いほど国債の価値が低いことを意味する)。米国債は、世界の債権金融システムの頂点に位置する。米国債の金利上昇を放置すると、ジャンク債までのすべての債券の金利が上昇し、金融システムが崩壊してしまう。
米政府は、国債を発行して金融界を救うやり方をやめて、代わりにFRBがドルを大量増刷し、その資金で米国債と金融機関の債券を買い支え、債券を中心とする金融システムの崩壊を防ぐQEに転換した。QEは当初、2年以内に終わるはずだったが、QEは米金融界に救済的な大儲けをもたらし、QEによる金余り現象によって株価を上昇し、あたかも景気が回復しているかのような状態を演出できるため、米当局は「QE中毒」となり、FRBがこれ以上続けられない財務悪化の状況になるまでQEが続けられた。
FRBは、QEによって財務規模(勘定)が不健全に拡大しすぎたため、2014年秋にQEを終了した。その直後、日本銀行がFRBのQE終了を穴埋めするかたちでQEを拡大し、QEの主導役がアメリカから日本に移った。同時期に、FRBは欧州中央銀行(ECB)にも圧力をかけ、ECBはドイツの反対を押し切って2015年1月からQEを開始した。FRBは、自分たちがQEをやれないため、同盟国としてアメリカの言うことを聞く日本やEU(欧州連合)に、QEをやらせた。アメリカ自身はQEをやめただけでなく米国債の発行も縮小し、米国債の需要が供給をはるかに上回るようにして国債金利を低下させ、国債金利上昇から金融バブルが再崩壊するのを防いだ。
経済成長の度合い(GDP成長率)を超えて通貨を大量発行するとインフレ率が上昇するのが、従来の経済の常識だった。それは、中央銀行が増刷した通貨を、銀行が融資によって企業や個人に供給し、その資金を使って企業や個人の消費が増え、商品の供給量が変わらない中で需要量が増す理で価格が上がるからだ。
しかしQEは、金融機関が運用のために買った債券類の赤字を補填して救済することが目的なので、中央銀行が増刷した資金は銀行で止まりそこから企業や個人に融資が回っていかない。中小企業に対する貸し渋りは、アメリカでも日本でもひどいままだ。QEは中小企業や個人の消費増につながらないので、中央銀行が通貨を過剰発行してもインフレにならない。
QEは表向き「デフレ対策」として行われ、アメリカでも日本でも、インフレを2%にするのが目標だ。もし米FRBや日銀が、中小企業に対する銀行の貸し渋りを是正する行政指導を強めたり、国民に直接ゼロ金利で、大盤振る舞いで融資する新制度を作ったりしたら、必ず消費が増加してインフレになる。しかし、デフレ対策というQEの目標は、表向きの看板だけだ。QEの真の目標はデフレ対策でなく、債券金利の上昇を買い支えによって防ぐという金融救済だ。
デフレ対策と称してQEをやりつつ、銀行から中小企業や個人に資金が回らないようにして、銀行で資金が止まるように仕向けているのが日米のQEの実態だ。この方法なら、QEをいくらやっても永久にインフレにならないので、目標未達成ということでずっとQEを続けられ、債権金融システムの崩壊をずっと防ぐことができる。
景気が好転して雇用拡大(賃金上昇)するとインフレになる。日米の当局が本気で景気好転やインフレを容認すると、米国債からジャンク債までの債権の金利がインフレ分だけ上昇し、金利高が債権金融バブル再崩壊の引き金を引きかねない。だから、当局は表向きの発表と裏腹に、インフレや景気好転を起こしたくない。日米当局は、QEがデフレを解消し、景気をテコ入れすると喧伝しているが、実のところQEは米国中心の国際金融システムの延命を狙った債券金利の引き下げ策であり、デフレや不景気は、QEによってむしろ長期化する。
米政府は税制を改定し、企業が正社員でなくパートタイム従業員を雇うように仕向けている。米政府の発表では失業が減っていることになっているが、これは正社員を解雇して、それより多い人数のパートを雇ったからだ。長期の失業者が増えているが、米政府の統計では長期の失業者を「失業者」の枠から外して統計をとっている。これらのごまかしによって、アメリカは雇用が拡大しているかのように見せているが、実のところ雇用はむしろ縮小し、前代未聞の就職難が続いている。
1990年代以来、アメリカを中心に先進国の経済は、金融の債券化を原動力として成長してきた。それまで金融の中心は銀行が国民から集めた預金を企業に融資する仕組みだったが、この従来型金融とは別に、企業が債権を投資家に売って資金調達する債権金融が1985年の米英の金融自由化以降、世界的に拡大した。債券金融システムをうまく運用すると、倒産しそうな企業もジャンク債を発行して資金調達できて倒産せずにすみ、倒産が少ないと債券全体のリスクが低下して低金利で発行できるようになり、従来型金融に比べて資金調達のコスト(金利)が大幅に安くなる。企業はコストが低下し、業容拡大しやすくなって、雇用が拡大し、1990年代を通じて米英は長期の拡大を謳歌した(日本は1990年代初頭のバブル崩壊に懲りて債券化を進めなかったため、長期の不況を経験した)。
金融の債券化はアジアなど新興市場諸国でも進んだが、1998年のアジア通貨危機で新興市場の債券化は崩れ、米金融界は海外で儲けることをあきらめて国内の金融サービスの債券化を積極的に進めた。特に住宅ローンは、債券化を前提に、これまでローンを組めなかった低所得者層への融資が急拡大した。当然ながら、返済不能な債務者が急増して巨大な金融バブルとなり、2007年のサブプライム危機から2008年のリーマン危機につながるバブル崩壊、史上最大の債券金融危機が発生した。
リーマン危機後、現在に至るまで、債券金融システムのかなりの部分は、取引を停止したまま蘇生していない。米金融界はFRBのQEなどによって救済的な資金供給を受けつつ、何とか延命している状態だ。リーマン危機前の世界は、債券金融が金利安、企業の業容拡大、雇用拡大、消費増、景気拡大の継続という良い循環をもたらしていた。対照的にリーマン危機後の世界では、金融界に余力が失われて自分たちの延命だけに注力せざるを得ず、QEは債券金融の延命や株高を引き起こすものの、金融以外の実体経済の拡大につながらず、雇用は増えず、消費が拡大せず、景気が伸びずデフレ傾向が続く事態になっている。
加えて1990年代後半から始まったIT(情報技術)化による産業の効率化(人員削減化)の効果が近年になってしだいに出てきて、構造的に雇用が拡大しにくくなっている。2015年1月のダボス会議では、出席した世界の大企業経営者の多くが、コンピューターやネットワーク、ロボットなどITによる効率化で、今後さらに雇用が増えにくくなると考えていることが明らかになった。リーマン危機を機に債券金融が経済に良い効果をもたらすものから悪い効果をもたらすものへと転換したことに加え、ITによる産業効率化で雇用が世界的に縮小傾向になっているため、世界的に雇用減、消費減、デフレ、不景気が続いている。
2015年1月、ECB(欧州中央銀行)がQEの開始(国債買い支えへの拡大)を決定し、アメリカ中心の債券金融システムの崩壊を防ぐためアメリカに代わって日欧がQEを行う新状況が始まった。日欧の国債金利は低下し、日本はほとんどゼロ、EUはマイナス金利のところが多い。半面、アメリカは1%台(10年もの)で日欧よりも国債金利が高く、日欧がQEで作った資金が米債券市場に流れる仕掛けが維持されている。
QEによって日欧の国債金利が低下(国債価格が上昇)し、スイス、デンマーク、カナダなど、日米欧(円ドルユーロ)以外の国債に安値感が出て、日欧のQEで作られた資金がこれらの国々に流入し、為替高と債券高をもたらした。各国は、利下げや国債発行の停止を行って為替を維持するか、スイスのように為替の急上昇を容認するかの選択を迫られた。世界は、アメリカの債券延命策からの悪影響として、各国が金利や為替を競って低下させる事態が激化している。アメリカは自国の債券を延命(金利高騰を抑止)させるため、世界の金利を引き下げている。こうした現象は、世界の金融関係者やマスコミによって「通貨戦争(currency war)」と呼ばれている。この名称は、2010年にブラジルのマンテガ前財務相が、アメリカが引き起こした悪い事態を示すものとして初めて使った。
金利が高騰したら、米債券金融システムのバブルが再崩壊するだろう。崩壊はおそらく大規模で不可逆的なものになり、アメリカの覇権(世界に対する影響力、支配力)が崩れることにつながる。人類が引き起こす戦争のうち、勝敗によって覇権が転換するものを「世界大戦」と呼ぶ。過去の二度の世界大戦は、それまでの覇権国だったイギリスに対しドイツが挑んで覇権を奪おうとしたことから起きた。結果的に、二度の大戦を経て覇権がイギリスからアメリカに移っている。米覇権が崩れるかもしれないという点で、今世紀で起きている通貨戦争は「世界大戦」である。今起きている事態は、この四半世紀、米覇権の根幹に位置してきた債券金融システムを守るための金融戦争であり、私は「金融世界大戦」と呼んでいる。
金融や通貨の戦いを「戦争」と呼ぶのは、単なる比喩ではない。金融戦争は、軍事の戦争よりも効率的な破壊行為だ。当局の意を受けた米英投機筋が相手国の債券を先物市場で崩落させて破壊するといった目立たないかたちで攻撃が行われ、被害を受ける側が攻撃されたことに気づかない場合も多い。加害者が人道上の罪に問われることもない。金融戦争は攻撃側にとって、戦争のあり方として「理想的」だ。
英独の覇権争奪戦だった従来の二度の大戦に比べ、今回の金融世界大戦は、敵味方の関係が不明確だ。アメリカの覇権をかけた戦いであるのは確かだが、アメリカが自国の覇権を守るため、同盟国である日本やEUに自滅的なQEを強要したことが世界大戦の主要部分になっている。1998年のアジア通貨危機や、2010年からのギリシャ国債危機(ユーロ危機)は、米英投機筋が(おそらく当局の承認を受けて)各国の金融システムを破壊した金融戦争だったが、攻撃された東南アジアやギリシャ(EU)は、アメリカの同盟国だ。金融戦争で破壊された国を助けると言ってアメリカの意を受けたIMF(国際通貨基金)が入り込み、厳しい緊縮財政や民営化(米企業に安値で国有資産を奪われる)をやり、さらなる破壊行為をやる。アメリカが、自国の覇権を守るため同盟国を痛めつけるのが金融世界大戦の実態だ。 【下平注】これが将 に「死の商人」なのである。 ウィキペディアの検索URLをすべて見ることを勧 める。
過去の二度の大戦に際し、アメリカの投資家はドイツに融資していた。イギリスとドイツに戦わせてアメリカが漁夫の利を得たのが二度の大戦の本質ということもできる。そのように見ると、そもそも敵味方が明確であるかのように見える過去の世界大戦でも、実のところ敵味方は不透明だった。
今回の世界大戦で漁夫の利を得るかもしれない国は中国だ。中国は、ロシアやブラジルなどBRICS諸国と組み、貿易決済をドル建てから人民元など各国通貨建てに替えたり、自国の債券格付け機関を作って、米英による債券格付け機能独占の破壊を試みたりしている。アメリカの債券金融システムが可逆的に破壊し、米覇権が崩れると、その後の世界体制としてBRICSが運営するシステムが優勢になる。
アメリカは、中国を味方としてみていない。2014年春のウクライナ危機以降、アメリカがロシアを敵視するほど、ロシアは中国に接近し、中露は結束して米中心の金融システムからの離脱を図っている。アメリカはロシアへの敵視を強めており、いずれ米欧と中露との軍事戦争に発展するかもしれない。そのような戦争は従来型の軍事世界大戦であるが、人類のすべてを破壊する核戦争になる。世界を動かす賢い資本家たちは、そのような戦争を望んでいない(望んでいなくても多くの戦争が起きたと考える人が多いが、その歴史観は浅薄だ)。
ウクライナ東部は、もともとロシアの一部であり、ソ連崩壊とともにウクライナに組み込まれたものの、ロシアの影響圏である。アメリカが2014年初めにウクライナの反政府運動を扇動して反露的な新政権の設立を支援したことは不当な内政干渉であり、ロシアが激怒するのは当然だ。ウクライナ危機で悪いのはロシアでなくアメリカだ。
米欧がロシアを敵視するほど、ロシアは中国をそそのかし、米中心の債券金融システムが崩壊した後の世界経済のシステム作りをBRICSでやる動きが強まっている。ロシアや中国やブラジルは、アメリカの覇権が人類にとって有害なものであるとの考えを強めている。米覇権を潰すなら軍事でなく債券金融システムの崩壊を誘導するのが得策だということも、中露などはすでにしっているはずだ。
ロシアとサウジアラビアなどの産油国が組んで原油の超安値状態を続け、原油高を前提に、巨額のジャンク債を発行しながら運営されているアメリカのシェール石油産業を破綻に誘導し、米石油産業のジャンク債から債券金融システムを崩壊させようとする動きもある。これはロシアによる、アメリカに対する金融戦争の攻撃の一つだ。金融世界大戦は、様相を変えつつしだいに激化している。
本書は第1章で米金融システムとその中心に位置するドルと米国債の危機の構造について述べる。第2章では、金融世界大戦の背景にある覇権の転換(米国覇権から多極型覇権への転換。多極化)について説明する。第3章では、冷戦後に米覇権による繁栄を築いたもののリーマン危機で潰 えた米国覇権体制について解説する。そして第4章では、リーマン危機後の金融世界大戦の実態について詳述する。
目次概要
まえがき
第1章 ドル崩壊が近い!
アメリカ 虚像の好景気
元FRB議長が「QE3は失敗だった」と発言
「幽霊通貨」ドルは金地金にかなわない
世界がドルを捨てるプロセスに入った日
住宅ローン債券を買っているのは金融機関
米国債は世界最大のネズミ講
ドル崩壊の兆候
リーマン・ショック前のバブル状態に戻っている
株価高は企業の自社株買い
暴露される米英の不正操作
米国実体経済はマイナス成長
シェール石油産業界から金融破綻か
第2章 覇権の世界史と「多極化」
世界史の根幹にある覇権の変動
米国覇権の崩壊から「多極化」へ
多極主義vs米英中心主義
アメリカ内部にも多極主義
覇権の起源:バックス・ブリタニカ
武力を使わずに世界を支配する
最初の世界的覇権国はイギリス
「均衡戦略」の発明
覇権の裏にユダヤ・ネットワーク
中枢はロンドンからニューヨークへ
「多極化」で読み解く政治史:1914~
資本の論理と帝国の論理
アメリカ中心の大均衡戦略
ロシア革命も覇権戦略だった
冷戦に阻まれたアメリカの多極化構想
ニクソンは多極主義者だった
ウォーゲート事件と「隠れ多極主義」
9.11はイスラエルが仕掛けた第2冷戦
第3章 米国金融覇権の時代
レバレッジ型金融革命
2008年に終わったもの
金融自由化・金融グローバリゼーション・金融兵器
「幽霊通貨」となったドルの復活劇
金融覇権の仕組み
影の銀行システム 「信用格付け」が支える世界金融
アメリカの金融自由化がもたらしたもの
タックスヘイブンは金融兵器
金融覇権の崩壊そして金融大戦へ
第4章 第三次世界大戦はすでに始まっている
「世界大戦」とは覇権をめぐる戦い
米ロ対立の主戦場は金融
金塊と債券の戦い
上昇期に入った金相場
信頼性ゆらぐ債券金融界
米国から金地金を取り戻す
中国と手を結ぶロシア
ウクライナで金融代理戦争
ロシアと中国の天然ガス長期契約
SWIFTから離脱するロシア
BRICSの覇権戦略
ブレトンウッズ体制に対抗するBRICS
アジアインフラ投資銀行vsアジア開発銀行
韓国を対米従属から引き剥がす
BRICSと協調するEU
対米従属に固執する日本
アベノミクスは米金融界の救済策
日本の失業率も粉飾されている?
実体経済は回復しない
黒田日銀の「バンザイノミクス」
日本には信用できる経済分析者がいない
金融世界大戦の新局面
原油安をめぐる米露の攻防
米国の金融兵器でルーブルが暴落
ロシアが意図的にデフォルトする?
米覇権脱却策が推し進める多極化
あとがき
あとがき
本書は著者が個人のウエブサイト「田中宇の国際ニュース解説」で毎週1~3本ずつ発表している国際情勢の分析記事をまとめたものだ。2015年1月末までの情勢が反映されているが、その後も状況は速いテンポで変化している。15年に入って、米FRB(連邦準備制度理事会、連邦準備銀行)がドルと米国債を守るため、日欧や他の諸国の中央銀行がQEなどの緩和策をとらざるを得ない状況を作り出した結果、中央銀行に対する信頼が世界的に崩れていきかねない新事態が始まっている。
先進諸国の中央銀行は、それぞれが単独で自立している建前だが、現実はそうでなく、世界の為替を安定化する目的で、FRBが主導する世界的なネットワークを形成している。為替安定化を目的(口実)とする中央銀行ネットワーク(FRBの世界支配、覇権体制)は、1944年のブレトンウッズ体制で始まり、85年のプラザ合意で自由市場体制に転換した。FRBは、このネットワークを通じ、世界を緩和策へと誘導している。
世界的緩和策によって米国の債券金融システムや金融界が蘇生して健全な状態に戻り、米国覇権が世界経済の安定や発展に寄与する状況が再生するなら、FRBが世界に緩和策を強要して各国の市場が混乱しても、やむを得ないことと考えられなくもない。しかし緩和策は、米国の金融システムを延命するだけで、蘇生させない。FRB自身が6年間QEの緩和策をやったが金融システムは蘇生しなかった。FRBがこれ以上QEをやれなくなり、同じことを日欧などにやらせても、米金融システムが健全な状態に戻るわけではない。QEは不健全な政策だ。
FRBは、自国の金融システムと通貨を守るため、不健全な政策を世界に採らせている。だからドイツは欧州中央銀行(ECB)のQEに反対し続けたし、スイスの中央銀行はQEに参加せず為替の急上昇を承認した。スイス中銀は、米主導の中銀ネットワークから離脱した第1号となった。各国の金融当局者の間で、米国のやり方に対する懸念が強まっている。この事態が続くと、今の緩和策が世界経済に悪影響を及ぼしていることがしだいに判明する中で、FRBに対する国際信用が失われ、中銀ネットワークから静かに離脱しようとする諸国があらわれ、米国の金融覇権体制が崩れていくだろう。すでに米ドルを貿易決済通貨として使わないようにする国が、中露をはじめとして増えている。
中国は、新興諸国の一つなので中銀ネットワークに参加しておらず、先進諸国の集団緩和策の外側にいて、この策の危険性を指摘している。中国の債券格付け機関「大公」は、緩和策が世界の負債を急増させているので、数年以内にリーマン危機よりもひどい金融危機が再発するとの予測を、2015年2月初めに発表した。危機がいつ起こるかわからないが、危機が起きる条件がすでにそろっているとも指摘している。
08年のリーマン危機の直後、米国の経済覇権の終焉が各国指導者の間で指摘され、新たに世界の経済政策を決定する最高機関としてG20サミットが招集され、多極型の新たな基軸通貨体制を創設することが検討された。その後、QEなど米当局による金融延命策によってドルや債券の破綻が先送りされ、基軸通貨体制の転換は棚上げされた。しかし、「大公」が予測するとおり、今後リーマン危機より大きな金融危機が起きたら、再びG20サミットが招集され、米国覇権の終焉の準備が再開されるだろう。
ドルや米国債に代わる新たな経済覇権体制や基軸通貨体制の定着には、時間がかかる可能性が高い。過渡期として、金地金を基軸通貨として使わざるを得なくなり、金本位制が復活するかもしれない。必然的に、金地金は高騰するだろう。それと前後して、今回の巨大なバブル膨張とその崩壊の元凶となった、デリバティブなどの金融取引の多くが廃止されるだろう。紙(債券)と金地金の戦いは、最終的に紙の敗退で終わる。
そうなる前に、債券金融システムが崩れ、多くの債券など金融商品がデフォルトし、銀行の中にも倒産するところが多数出てくる。銀行救済の方法は、すでに公的資金をつぎ込む「ベイルアウト」でなく、大口預金者や株主の債権を没収して使う「ペイルイン」方式に転換することを14年にG20が正式決定している。銀行預金は今後、次第に安全なものでなくなっていき、たんす預金が復活しそうだ。
世界が再び大きな金融危機に近づいていることは、日本を含む先進諸国のマスコミで全く報じられていない。金融危機と逆方向の、米国や日本の「景気回復」が喧伝されている。本書で説明したように、景気回復報道は意図的なウソである。マスコミや「金融専門家」たちは国際金融界の意を受け、金融システムを延命させるため、人々に実体経済の悪化を教えないようにしている。多くの人々は何も知らないので、QEなど有害な政策を批判せず、来るべき巨大な危機に対して何の準備もしていない。
先進諸国の中で、EUは主導国のドイツが有害な緩和策に反対しているので、大危機における破綻の度合いが少なくてすむかもしれない。対照的に、米国に気に入られよとして積極的にQEの自滅策を採ったのが、わが日本だ。日本は、米国より先に、国債金利の高騰による財政破綻が起きるかもしれない。年金の給付減や支払い停止も起きるだろう。日本はすでに不況だが、今後さらに事態が大幅に悪化することが不可避だ。残念なことに、今後数年から20年後ぐらいにかけての日本の将来は非常に暗い。
きたるべき大危機の中で、人々は、なんで危機が起きたのかもわからず右往左往しそうだ。少なくとも、大きな危機がどうして再発するのかを事前に考えて発表しておくことが必要と考え、本書をまとめることにした。
手元の本は 2015年3月30日 第1刷発行、今から4年前の出版です。 朝日新聞出版となっています。
今度の参議院選挙が迫り、マスコミもこのことには触れず、評論家もこのことに触れていないし、第一 野党でさえ日本の将来に全く触れていない。 こんなことでいい筈はない。
いつまで米国追従を続けるのでしょうか? 今の政権担当議員は国を守ると言いますが、国を守るということはどういう意味なのか、私にはわかりません。
日本は、第一にも、第二にも、第三にも,平和を求める国であってほしい。 それが根底にないような考え方はしてほしくない。
教育にしても、学問にしても、政治にしても、国際問題にしても、またどんな職業についている人にしても、自分の心の奥底に、平和を求める願いが育っていなければならないのです。 そう願うのです。 そうした生活を求めたいのです。
赤文字の解説
覇権
世界に対する影響力、支配力
BRICS
Brazil Russia India China South Africa
検索→BRICSはもう古い!次にくるのは意外な主役
QE
Quantitative=数量の Easing=緩和、ゆるめる
QEとはQuantitative Easingの略で、量的緩和(政策)を指します。量的緩和は各国の中央銀行が市場に大量に資金を供給することで、デフレの脱却や景気を刺激することを目的として行うものです。米国で行われているQEのうち、2008年11月~2010年6月までが「QE1」、2010年11月~2011年6月までが「QE2」、2012年9月~2014年10月は「QE3」と呼ばれています。
エフ‐アール‐ビー【FRB】
Federal=連邦の Reserve=準備 Board=(行政上の役所)省庁や理事会
《Federal Reserve Board》米国の連邦準備制度理事会。大統領が任命する7人の理事で構成され、うち一人が議長として統括する。中央銀行として公定歩合・FFレートの変更などを行うが、実際の中央銀行業務は下部組織である全米12の連邦準備銀行(FRB;Federal Reserve Bank)が担当する。→FOMC
[補説]連邦準備銀行と略称が同じだが、一般的に報道などで「FRB」とよばれるのは連邦準備制度理事会。
《Federal Reserve Bank》連邦準備銀行。米国の連邦準備制度において、全国12の連邦準備区に1行ずつ設けられており、連邦準備制度理事会(FRB;Federal Reserve Board)の統括のもと、紙幣の発行などを行う。各区の市中銀行に対して地区ごとの中央銀行としての役割を果たす。1913年設置。連銀。地区連銀。
[補説]地区連銀がある都市:ボストン・ニューヨーク・フィラデルフィア・クリーブランド・リッチモンド・アトランタ・シカゴ・セントルイス・ミネアポリス・カンザスシティー・ダラス・サンフランシスコ
ジャンク債
ジャンク債(junk=廃品,がらくた;bonds=債券)は、格付けが低くデフォルト(債務不履行)の可能性が比較的高い債券のことです。信用リスクが高いため、利回りが高く、ハイリスクハイリターンの金融商品です。
一般的にMoody'sやS&Pといった格付け会社の格付けが債務不履行の可能性を示している債券がジャンク債と呼ばれます。
「死の商人」 検索→死の商人 すべて見ることを勧(すす)める。
vs ➡ vs=versus(ヴァーサス=対 → ○○対△△)
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ブレトン・ウッズ体制
ブレトン・ウッズ協定(ブレトン・ウッズきょうてい、英語: Bretton Woods Agreements)とは、第二次世界大戦後半の1944年7月、アメリカ合衆国のニューハンプシャー州ブレトン・ウッズで開かれた連合国通貨金融会議(45ヵ国参加)で締結され、1945年に発効した国際金融機構についての協定である。「アメリカ合衆国ドルを基軸とした固定為替相場制」であり、1オンス35USドルと金兌換によってアメリカのドルと各国の通貨の交換比率(為替相場)を一定に保つことによって自由貿易を発展させ、世界経済を安定させる仕組みであった。この体制は1971年のニクソンショックまで続き、戦後の西側諸国の経済の復興を支えた。この協定に基づいて確立した体制のことをブレトン・ウッズ体制という。
① 展開
国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD)の設立を決定したこれらの組織を中心とする体制である。 この協定が出来た理由は大きく分けて2つ。1929年の世界大恐慌により1930年代に各国がブロック経済圏をつくって二度目の世界大戦をまねいた反省によるもの。 第二次世界大戦で疲弊・混乱した世界経済を安定化させるため。 という上記の2つの理由から作られた。 そのため具体的には国際的協力による通貨価値の安定、貿易振興、開発途上国の開発を行い自由で多角的な世界貿易体制をつくるため為替相場の安定が計られた。IMFについては、イギリスのケインズ案とアメリカのハリー・ホワイト案が英米両国の間で討議され、ホワイト案に近いものとなった。その際、ドルを世界の基軸通貨として、金1オンスを35USドルと定め、そのドルに対し各国通貨の交換比率を定めた(金本位制)。この固定相場制のもとで、日本円はGHQ統治体制初期の輸出・輸入通貨レート等が異なる複数レートから、円外国為替政策に関する特別使節団 (ヤング使節団)の提案する単一1米ドル=330円レート案(ヤングレポート 1948年6月)を元に、その後の日本の物価上昇を反映しつつも、何故か英ポンド約30%切り下げ及びその連鎖切り下げを反映することなく定められた単一1米ドル=360円レート制(1949年4月25日施行)がそのまま、占領終了(1952年4月28日)後の、1952年の日本のIMFおよび世銀へ加盟に伴う、翌年のIMF平価申請になってIMFに採用され、この1米ドル=360円(変動幅±1%)[1]に固定された。 この体制下で西側諸国は、史上類を見ない高度成長を実現。特に、日本は1950年代から1970年代初めにかけて高度経済成長を実現し「東洋の奇跡」とよばれた。
②この体制の問題点
このブレトン・ウッズ体制は確かに世界的な金融市場の安定に寄与する側面はあったが、対外為替が金1オンス=35USドルという固定相場制であり、基準を設けたことで安定獲得には寄与したものの、その後の1972年に起こったニクソンショックなどに代表される「お金とは何かという本質を見えなくさせてしまう問題」が起こった。 そもそも、どの国も内国に限れば自国産業を守り発展させるための技術開発による生産性向上によるGDP(国内総生産)の拡大と福祉向上や教育などのために自国通貨建ての国債を発行し、需要と供給を喚起することができ、それは金兌換とは無関係なものなのだが、それすらも金兌換が必要だと思い込ませてしまう誤解が世界中に浸透する結果となった。
③結末
しかしその後、アメリカ合衆国と世界の諸国の経済や貿易や財政の規模が著しく増大し、金の産出量や保有量が、経済や貿易や財政の規模の増大に対応することが困難になった。これこそが金を担保にしないと貨幣を発行出来ないと思い込ませてしまうことで起こる弊害である。 また、この弊害で経済学自体も古代ギリシャ時代から続く誤解を引きずってしまい、政府の負債(自国通貨建て国債)と国の借金(他国からの借入れ負債)を混同させるという問題が現在も起こっている。
1971年8月に ※ ニクソンショックによりアメリカはドルと金の交換を停止し、ブレトンウッズ体制は終了した。
その後、1971年12月にスミソニアン協定でブレトンウッズ体制の骨格を維持しようとするも、1973年には本格的に ※ 変動相場制に移行し、ブレトン・ウッズ体制は完全に終結した。
※ ニクソンショック
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%82%AF
ニクソンショックとは、1971年にニクソン大統領が金とドルの交換停止を含む一連の経済政策を発表した出来事です。
アメリカは金とドルとの交換をいつでも保証していましたが、ベトナム戦争による軍事費拡大などが原因で財政が悪化。金が国外へ流出し、交換ができなくなったのです。
またニクソンショックにより1ドル=360円という固定相場制は終了。
日本の経済成長を支えた輸出産業が縮小するのではないかという懸念が広がりました。実際14年後に締結されたプラザ合意で円高ドル安傾向が進み、日本の輸出産業は停滞。バブル経済への道を進むことになります。
このURLを開いてみると、詳細な解説がのっており歴史の勉強にはもってこいの内容です。
※ 変動相場制
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%89%E5%8B%95%E7%9B%B8%E5%A0%B4%E5%88%B6
変動相場制は1976年1月ジャマイカのキングストンで開催されたIMF暫定委員会で承認された。これをキングストン体制という。
閉鎖経済体制の国が国民所得を改善しようと財政支出を増加させた場合、国民所得が増加すると同時に金利が上昇する。しかし、開放経済体制の場合は、小国の金利が世界基準金利を上回るために、国際資本が小国の通貨を買うことになる。
変動相場制においては、国際資本の流入は国内のマネーサプライの増加をもたらさず、通貨高をもたらすのみである。国際資本の流入によってバブルが発生するという通説のイメージからは違和感を受けるが、マネーサプライも増加せずかつ通貨高によって景気に減速圧力が掛かるのである。この通貨高により純輸出(総輸出-総輸入)が減少し国民所得が減少し、金利が低下する。金利は世界基準金利に一致するまで低下し、財政支出の効果を100%相殺する。
なお、この財政政策が相殺され無効となるプロセスにおいては、金利上昇を打ち消すように海外からの国際資本の流入が起こるため、金利上昇自体は観察されないことに注意が必要である(観察されるのは通貨高である)。すなわち、金利上昇が見られないことを以てして、財政政策は無効でなかった、あるいは国際マクロ経済学のモデルは成立していない、と言うことは誤りである。
④学者と単行本の見解
【学者の見解】
経済学者のジョセフ・E・スティグリッツは「第二次世界大戦後から1973年まで続いたブレトン・ウッズ体制の下では固定相場制だったので、現在(2013年)のグローバル経済よりも安定していたことは確かであり、最近のアメリカの経済学者の中からブレトン・ウッズ体制を再評価する声も出ている。しかし、ブレトン・ウッズ体制は、各国の生産性にばらつきが出てきたときに、対応できなくなってしまった。その結果、ブレトン・ウッズ体制は崩壊し、変動相場制に移行した」と指摘している。
【単行本の見解】
「1985年の無条件降伏(プラザ合意とバブル)」 岡本勉著
《書評》小川 裕夫2018/05/31
https://zuuonline.com/archives/185498
① プラザ合意が産業界に落とした影
日本は2度「敗戦」した? 『1985年の無条件降伏』
第2次安倍政権が発足して以来、続いているアベノミクス。3本の矢で構成される経済対策。その第1の矢とされるのが、金融緩和だ。通貨発行量を増やすことで市中に大量の「円」をバラ撒く。市中に「円」が溢れれば、人の心理として景況感は増す。そうした気持ちが実際の消費に結びつく。
アベノミクス第1の矢である金融緩和には、そうした“気分”による景気刺激といった面も含まれているが、最大の狙いは何と言っても円安誘導であることは言うまでもない。
戦後の日本経済は内需を拡大させながら世界最大のマーケットであるアメリカにモノを売るというモデルで急激な経済成長を果たした。敗戦後、焼け野原から立ち上がった日本が奇跡的に急成長した理由は、アメリカ依存の経済モデルが基盤にある。
② 日本経済の転換点 「プラザ合意」は第2の敗戦?
アメリカにモノを売る、つまり対米輸出が日本経済再生の第一歩であり、それがすべてでもあった。しかし、高度経済成長を経て世界第2の経済大国になった日本に待ち受けていたのが“国際協調”という名の、欧米各国による円高圧力だった。
1985年、日米英仏独(当時は、西ドイツ)の先進5か国の蔵相と中央銀行総裁が極秘にアメリカ・ニューヨークに集まり、会談。この時に交わされた為替レート安定化の合意は、ホテル名から「プラザ合意」と呼ばれる。
プラザ合意の内容を平たく言えば、米英仏独が日本に円高を迫ったというだけの話に過ぎない。日本の円は安すぎる。だから、日本製品が世界に安く出回る。その結果、欧米諸国は自国の製品を売れない。欧米諸国は円安のせいで自国の産業が弱体化し、それが経済に悪影響を及ぼしていると主張する。
経済大国と化した日本にとって、欧米諸国とイスを並べて話ができることは光栄の至りだった。先進4か国から「円は安すぎる。高くしろ」と要請されれば、世界のトップの一員として協力したい――そんな考えから日本は円高政策に舵を切る。
日本銀行を焚きつけて、がむしゃらに日本銀行券を刷らせている今の日本政府からは想像できない対応だといえるだろう。しかし、当時は世界各国の言い分を受け入れなければ、日本は世界から取り残されるという空気がそこには存在した。
プラザ合意によって、各国の思惑通り円高は一気に進行した。1ドル235円前後で推移していた為替レートは、翌日から急落。わずか一年で1ドル150円前後になった。円高になろうが円安になろうが、日本国内でモノを売り買いする分にはまったく関係がない。
円高になっても、国内での売価に変化はない。だが、海外で日本製品は高くなる。対米輸出で経済を急伸させた日本にとって、急激な円高は産業界を震撼させた。アメリカに輸出するモノが、為替によって急激に高くなってしまったのだ。これでは売れ行きが鈍り、日本企業の成長が止まってしまうと危惧する声も出始める。
急激な円高を招いたプラザ合意は、後から見れば日本経済崩壊の序章でしかなかった。プラザ合意こそが、日本経済史の転換点になった。プラザ合意を“第2の敗戦”となぞらえる。それほど、日本経済と産業界に大きな影を落とす失政だった。
③ バブル崩壊 失われた10年。そして20年。さらに30年が始まろうとしている
経済は魔物であり、人智を超えた動きを見せる。プラザ合意後に始まった急激な円高は、その後に鈍化する。それでも、円高が止まることはなかった。輸出に頼り切っていた日本の製造業にとって円高は回避したい危機だった。しかし、石油や鉄鉱石などの原料は輸入に頼っていたため、当初は原料を安く仕入れることができるという円高メリットもあった。急激な円高にも関わらず、日本経済が好調だった。
その理由は、政府が急激な円高に危機を感じ、それを食い止めるために金融緩和を実施したことが一因にある。日本政府は円高を憂慮し、通貨量を増大させた。通貨発行量を増やしても円安にはできなかったが、円高を食い止めることはできた。そして、通貨発行量が増大したことで、お金が行き場を失う。それが、バブル景気を招くことにつながった。
1988年から、日経平均はみるみるうちに上昇。翌年末には、いまだ破られていない3万8915円という金字塔を打ち立てた。バブルは、国全体を狂わせた。このままバブルはつづき、日本経済は右肩上がりを続ける。誰もが、そんな熱狂に冒されていた。
プラザ合意とは?
概要を簡単に解説
https://honcierge.jp/articles/shelf_story/5686
① プラザ合意とはなにか
1985年9月22日、いきすぎたドル高を是正するために、アメリカ、イギリス、西ドイツ、フランス、そして日本の先進5ヶ国が外国為替市場に協調介入することが合意されました。
蔵相・中央銀行総裁会議がニューヨークの「プラザホテル」で開かれたことから、こう呼ばれています。出席したのは、アメリカ財務長官ジェイムズ・ベイカー、イギリス蔵相ナイジェル・ローソン、西ドイツ財務相ゲルハルト・シュトルテンベルク、フランス経済財政相ピエール・ベレゴヴォワ、そして日本は竹下登蔵相です。
(下平注 : 時のアメリカ大統領はレーガン、日本の総理大臣は中曽根康弘 = ロン・ヤス時代 ⇒ エライことを決めてしまった)
合意に基づき、各国はドル売りに乗り出します。ドル円レートは、合意前は1ドル240円台だったのに対し、年末には1ドル200円台へ。さらに1987年末には1ドル120円台となり、日本経済は一時的に円高不況に陥りました。
日銀が低金利政策などの金融緩和を打ち出したため、投機が加速し空前の財テクブームとなります。プラザ合意は、1980年代後半のバブル経済や、その後の長期間におよぶ景気低迷のきっかけともいわれているのです。
世界経済に多大な影響をおよぼす歴史的なものでしたが、事前に各国の実務者間で協議がおこなわれていたため、会議そのものはわずか20分程度で終了するという形式なものでした。
② プラザ合意の背景と目的は?
背景には、1981年にアメリカ大統領に就任したロナルド・レーガンの、「小さな政府」「強いドル」の政策があります。
インフレを抑制するためにおこなった厳しい金融引き締めにより、ドル金利は20%に到達し、世界中の投機マネーがアメリカに集中しました。高金利によって民間投資は抑制され、インフレからの脱出には成功したものの、財政赤字が累積するとともに貿易収支の赤字も増加。国際収支の不均衡が拡大していきます。
「双子の赤字」と呼ばれる財政赤字と貿易赤字は、アメリカ国内で保護主義の動きを強めました。ドルショックの再発を恐れた先進各国は、自由貿易を守るためにドル安路線にはしることに合意したのです。
③ プラザ合意、日本政府はなぜ参加した?
日本経済にとって、ドル高を背景としたアメリカとの貿易は、経済発展のための重要なファクター。為替レートを円高ドル安基調に誘導することは、大きなリスクをともないます。輸出産業の競争力を相対的に弱め、経済成長に歯止めがかかる懸念がありました。
そんな日本が協調介入に合意した背景には、アメリカとの貿易摩擦が過熱していたことがあげられます。実はアメリカが抱えていた貿易赤字額の大半は、対日本によるもの。アメリカ国内で反発が強まっており、日本産の自動車が破壊されるデモンストレーションなどがくり広げられていました。
アメリカとの関係を良好に保つことは、日本政府にとって最重要課題。貿易摩擦を解消するためにはやむなし、という判断でした。
④ プラザ合意の影響は?ルーブル合意、日本はバブル景気へ
ドル安へと誘導する協調介入は、国際収支の是正にある程度役立ちました。その一方でアメリカ国内にはインフレの懸念が生まれるなどの弊害があり、1987年にはドル安に歯止めをかける「ルーブル合意」が結ばれます。
ただこれは各国の協調介入が不十分だったため効果が薄く、ドルの下落を止めることはできませんでした。
一方日本経済にとってプラザ合意は、それまでアメリカ貿易で多大な黒字を生み出していたため、大打撃でした。不況の逆風が町工場を襲い、倒産する企業が続出します。
これに対し政府は、内需主導型の経済成長を促そうと、公共投資を拡大するなどの積極財政を展開。さらに日銀は長期的に金融緩和を実施します。
この結果景気拡大がもたらされ、バブル景気に繋がっていきました。
また急速な円高は、海外旅行ブームや輸入産業の拡大を導きます。賃金の安い国に工場を移転する企業が増加し、東南アジアの経済発展を促すことにもなりました。
「大公」
検索→根本的なアメリカ経済批判
デリバティブ
derivative=派生物
金融商品には株式、債券、預貯金・ローン、外国為替などがありますが、これら金融商品のリスクを低下させたり、リスクを覚悟して高い収益性を追及する手法として考案されたのがデリバティブです。
こうしたリスク管理や収益追及を企図したデリバティブの取引には、基本的なものとして、その元になる金融商品について、将来売買を行なうことをあらかじめ約束する取引(これを先物取引といいます)や将来売買する権利をあらかじめ売買する取引(これをオプション取引といいます)などがあり、さらにこれらを組合わせた多種多様な取引があります。
デフォルト
default=債務不履行
ベイルアウト
bail-out=経済において、企業の倒産を避けるため、資本を貸すもしくは無償供与することを指す。倒産による悪影響が甚だしい場合に行われる。
ベイルイン
bail-in=とは、銀行が経営に行き詰まったり、破たんした際、救済にかかる費用を株主などに負担させることです。 このベイル(bail)の語源は、「負担がかかる」です。 一般的には、保釈のために支払うお金(保釈金)などを指します。 ... つまり銀行の内部(in)に損失を吸収させるのです。
この大公を載せているURLは、哲野イサクはペンネーム、本名伊奈道明で筆者自己紹介を見ると、独特の風格を持つ70台を過ぎた初老の方でした。
田中宇と違い独力で情報収集しているようです。 隠し立てや粉飾はないと本文を見ていて感じました。
ゆっくり考えながら読むようにしたい解説です。
大公 アメリカ政策を批判
【世界各国の基礎データ】および【アメリカ経済】 (2010.11.12)
<参考資料>中国格付け会社「大公国際信用評価」、アメリカを2ランク下げる アメリカ経済に対する「臨終宣告」にも等しい報告書 第1回
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/dagong_20101110.html
根本的なアメリカ経済批判
2010年11月10付けの外交問題評議会からのメールマガジンを見ていたら、「環太平洋」地域のニュースとして「中国格付け機関、アメリカ負債格付けを下げる」(PACIFIC RIM: Chinese Credit Agency Cuts U.S. Debt Rating)という記事が出ていて、11月9日付けの新華社電(北京発)が引用してあった。 (<http://news.xinhuanet.com/english2010/business/2010-11/09/c_13599002.htm>)。
私はやっぱりそうかと思った。この中国格付け機関というのは大公国際信用評価有限公司で、この7月に世界50カ国を選んで、国家信用(国債)の格付けを発表したばかりだが、その中でアメリカの格付けは、「AANegative」(私はAA弱含み、とした。「中国、各国国債を格付け」 <http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/china2010_1010.html>を参照の事。)となっており、私は随分甘い評価だな、と思っていたからだ。2ランクぐらい下げても当然と思いつつ、今度は「大公国際信用評価」のサイトに飛んで確認してみた。 (<http://www.dagongcredit.com/dagongweb/index.php>) 再格付けの理由についても知りたかった。
そこに掲載されている格付け報告 (<http://www.dagongcredit.com/dagongweb/english/index.php>からPDFファイルでダウンロードできる。) を一読して驚いた。
格付け報告というよりも、根本的なアメリカ経済批判になっており、本当は中国はアメリカ経済をこのように見てたんだな、世界経済の混乱を恐れて言わなかっただけなんだな、と思った。そしてこの11月初旬のアメリカ連邦準備制度(以下Fed。日本でいうFRB)のいわゆる「量的緩和政策」(それは事実上、ドル大量発行によるドル借金踏み倒し政策である。)に堪忍袋の緒が切れて、この発表になったのだ、と思った。また2009年にこの会社が設立されたいきさつから見て、ここでの見解は中国の公式見解とみなしていいのだと観じた。
そこでこの報告書をしっかり読んで見ようと思った次第。(文中『 』は報告書の引用である。)
この報告書はまず、2010年11月付けでアメリカの国家信用(Sovereign Credit。要するに国債のこと。)を現地通貨においても外国通貨においても「AA弱含み」から「A+弱含み」に格下げすることを宣言する。
同社の格付けヒエラルキーは、最高が「AAA」、それから「AA+」、「AA」、「AA-」、「A+」、「A」、「A-」、「BBB」・・・のランクとなり、それぞれのランクが「安定」「弱含み」の評価があるから、「AA」から「A+」への評価替えは2ランク格下げとなる。あるいは「安定」「弱含み」も一種のランクだと考えれば、「AA-安定」、「AA-弱含み」「A+安定」を飛ばしているので4ランク格下げという見方も出来よう。
格付け表をご覧いただければわかるが、「A+弱含み」といえば、エストニア「A+安定」、ロシア「A+安定」、ポーランド「A+安定」などよりも下にランクされることになる。
アメリカは負債返済の意図があるのか
さてその理由である。前文的パラグラフでいきなり次のようにいう。
『 この格下げは、悪化する負債返済能力とアメリカ政府の負債を返済していこうとする意図のドラスティックな低下を反映したものである。(drastic decline of the government’s intention of debt repayment.)』返すつもりがあるが返せない、返す能力がない、というのはやむを得ないとしても、この報告書は、アメリカ政府には負債を返済する意志がそもそもない、その意図をドラスティックになくしている、と断じている。
なぜ、この報告書はアメリカに借金を返すつもりがなくなりつつある、と断ずるのか?(実はもう2年も前からインターネットの世界では公然とこの議論がなされていた。)
『 アメリカの経済発展モデルおよび経済運営モデルにおける深刻な欠陥は、アメリカの国家経済を長期にわたる不況に至らせ、基本的にアメリカの国家信用を下げるに至らしめている。元が論文調なので私もついそれに引きずられているのだが、要するに、ドルを過剰発行してしまっていることが、ドルの価値を下げているばかりでなく、アメリカで一向に解消しない「信用危機」を長引かせているばかりか、さらに深刻化させている、といっているのだ。
アメリカ連邦準備制度による一連の「量的緩和」(quantitative easing)政策はアメリカドル切り下げの明らかな傾向をもたらし、アメリカにおける信用危機の深化と継続をもたらしている。』
それは、基本的にはアメリカの「経済発展モデル」とそれを支える「経済運営モデル」に根本的な問題があるといっているのだが、それではアメリカの「経済発展モデル」とは一体何か?という事になる。それは後で具体的に分析され、手厳しく批判されているのだ、ともかく―。
『 そのような動きは、完全に貸し手(the creditors)の利益を侵害しており、アメリカ政府の負債返済の意図の低下を示している。』借金を解消するには基本的に2つの方法のどちらかしかない。
1. 一生懸命働いて稼いで収入を増やし、出費を抑えて手元に余剰金を残し、そこから返済すること。アメリカが今行おうとしている「ドル安政策」を「通貨戦争」だと捉えている人には、この報告書が述べていることは到底理解できないだろう。現在発生していることは「通貨戦争」ではない。アメリカ政府による「ドル借金踏み倒し」だ。
2. どんな手段をとってもいいから、踏み倒すこと。
通貨切り下げでは危機は解消できない
この報告書は、アメリカ政府は「踏み倒し」を行おうとしている、と述べている。しかしどんな手段を使って「踏み倒し」をしようとしているのであろうか?
『 分析は、アメリカが現在直面している危機は、究極的には通貨切り下げでは解消できないことを示している。それどころか、全般的な危機が、「貸し手」の意志に反するアメリカ・ドルを継続的に切り下げようとするアメリカ政府の政策によって、その引き金を引かれるかも知れない。』ここで言う全般的な危機とは何を指しているのか?それは言うまでもなく、現在好調な新興国(中国、ロシア、インド、ブラジルなどのBRICs諸国、成長著しいインドネシアなどの東南アジア諸国、イラン・トルコなどのイスラム諸国)や次世代の世界経済を担うとみなされるアフリカ諸国までも巻き込んだ世界的な経済の大混乱を指しているだろう。
そしてこの報告書は自身の立論の正しさを大きく4つの視点から眺めて立証しようとする。その第1点目が次の視点である。
「1.アメリカ政府は、グルーバルな戦略的視点から、自身の国家経済発展モデルおよび経済運営モデルを今もって反省していない。そのことは経済発展における受動的な状況を根本的に変えることを極めて難しくしている。」
『 金融危機発生の後、アメリカ政府は危機救済と経済回復の目的をもった一連の政策を採用した。念のため、ここで云う「信用危機」と「金融危機」とは似ているように見えるが、違う。金融危機とは、誤解を恐れずに言えば、金融機関が危機に直面することである。信用危機とは、お互いに相手を信用できずに「信用」(credit)を与え合わないことである。実体経済社会における信用創造ができないことである。この報告書の書き手は“信用危機”(The credit crunchまたはThe credit crisis)をそのような意味で厳密に使っている。金融の立場から言えば金融危機の方が深刻かも知れないが、家計経済の立場から言えば「信用危機」の方がはるかに深刻である。
例えば、政府は不良資産を直接購入し、金融機関や危機に手ひどくやられた実体的な企業に資本を注入した。社会保障、教育、エネルギー分野に対する投資を増やした。低所得層や中間階層家庭に対する税率を下げた。金融監督の仕組みを調整した。等々である。
その効果を振り返ってみると、政府の努力はほとんど成功していない。初期の期待からすると失敗である。“信用危機”(The credit crunch)は依然として進行しており、さらに深まってすらいる。』
通貨危機の段階に来ている 『 信用危機のたどる進展過程は、負債危機(金が借りられなくなること)、経済危機、通貨危機、全般的危機であることを示してきた。現在のところ、アメリカの信用危機は、通貨危機の段階に発展している。アメリカの「経済発展モデル」、「経済運営モデル」とは何かという問題は、今おくとして、これらに対する深刻な反省と克服がない限り、アメリカ経済の真の問題は発見できないし、アメリカ政府(オバマ政権)は、アメリカ経済再生の径を見いだすことはむつかしい、とこの報告書は指摘している。その具体的中身はこれからおいおい触れることにして、私の興味は、これがアメリカ経済を誰が支配しているのかという問題とその支配者が没落して別な支配者(これはアメリカ国民、と考えてもいい。)が登場すれば、解決できる問題なのか、と言う点である。いや、話を混ぜ返すのは、今、よそう。
国家危機を救済するため、アメリカ政府は、あらゆる犠牲を払ってドルの切り下げを行うという極端な経済政策に救いをもとめた。そしてこのことは、国家経済における発展モデルおよび運営モデルの中に深く根差した問題を露呈することになった。
アメリカ政府は、“信用危機”の淵源、そして近代信用経済における発展的法則を理解することに失敗している。そして伝統的な経済運営方法の思考態度に拘泥している。そのことで。アメリカの経済発展、社会発展は長期の景気後退の段階に入るだろう。アメリカ経済が復活する適切な径をアメリカが見つけるのはむつかしいだろう。』
『 この判断を裏付ける主要な証拠は以下である。アメリカはもう産業国家ではない、金融国家だ、それがアメリカの基本的国家政策だ、とこの報告書は云っている。それはいつ頃からなのか?2007年アメリカの総労働力人口は1億5500万人だった。この年、アメリカの平均失業者数は700万人だった。従って就業者人口は約1億4800万人だった。その時すでにその就業者の内訳は、【経営・専門職(35.5%)】、【技術・販売・管理補助職(24.8%)】、【サービス業従事者(16.5%)】、【製造業・鉱業・運輸業・手技職従事者(24%)】、【農業・林業・漁業従事者(0.6%)】だった。
第一に。
信用拡大政策(より具体的には、量的緩和政策に代表される厖大なドル通貨市場供給政策など)は、アメリカの経済的ファンダメンタルズ(経済基盤といってもいいだろう)と経済的メカニズムの両方を変えてしまった。アメリカにとって「信用拡大」は経済発展のエンジンとして、基本的国家政策である。』
2010年公式統計による失業者は、6月度で1460万人に達している。しかし就業者の構成に大きな変化があるとは思えない。
2007年アメリカのGDPは、13.64兆ドルだった。その産業別内訳は 【農業(0.9%)】、【工業(20.6%)】、【サービス分野(78.5%)】だった。
この報告書の云う「アメリカの経済的ファンダメンタルズ」・「経済的メカニズム」が劇的に変化したのはいつなのだろう?逆にいうと「信用拡大政策」がアメリカの基本的国家政策になったのはいつ頃なのか?
借金関係が基本的経済関係 『 高度に発展した国内信用政策の結果、「貸し手」と「借り手」の信用関係は、社会構成員の間の基本的経済関係となった。』これは企業と金融機関、金融機関と金融機関との「信用関係」を思い浮かべるよりも、むしろクレジット・カード決済システム、住宅ローン、自動車ローンなどを思い浮かべる方が適切だろう。(クレジット・カードによる信用創出、住宅ローンによる信用創出、自動車ローンによる信用創出は一体どれくらいの額にのぼるのか?またこの信用政策はそのまま日本に当てはまりつつある。GEが金融会社に変身したのはいつ頃なのか?ソニーが金融業に進出したのは確か盛田昭夫が生きていた頃だ。)
『 これに加えて、国際的な信用システムは、これはアメリカを中核とするのだが、国際的な信用拡大を基礎において構築されていった。そして国際的な信用関係は、アメリカと他の国際社会のメンバーとの基本的な経済関係となった。』これは、とりもなおさず「信用関係」を中心とする「世界のアメリカ化」だ。これがアメリカによるグローバリゼーションの本質なのだろう。
『 このようにしてアメリカの経済基盤は変化していった。そして「信用関係」は経済発展および社会発展の支配的駆動力となっていった。信用関係のパラドキシカルな動向は、アメリカの経済的、社会的発展を決定した。』ここでいうパラドキシカル(逆説的)動向というのは、恐らく信用関係を駆動力に発展を見せれば見せるほど、経済を、社会を空洞化していく、破壊していく、という意味のことだろう。もし信用関係が真に発展の原動力になるなら、その信用関係は実体経済に基づいてなければならない。もし、アメリカの主要な「信用関係」が仮想経済(虚業)に基づくものならば、それは一種の「花見酒経済」とならざるをえない。真の付加価値創造が行われていないからだ。
『 「信用」の酷使のために、1985年にはアメリカは純負債国となった。以来、その経済および社会活動は、完全に厖大な量の負債を基礎としてきた。「貸し手対借り手」関係の地位は、アメリカ経済の発展モデルやその成果に影響を与えたばかりでなく、国が経済体制を選択する基盤を形作り、戦略的選択を決定する基盤を形作った。』かくて、アメリカは借金国家となり、「借金国家の、借金国家による借金国家のための政治」と国家戦略を展開することとなった。
倒錯した「信用市場」 『 信用拡大はまた、アメリカの「信用需要」(credit demand)のメカニズムを形成し、市場は信用需要を創出する支配的力となった。』つまり信用需要があって、それが信用拡大を実現するのではなく、全く逆に、信用拡大を実現するために信用需要を創出することになった。信用市場はそのための支配的力として働いた。これは「信用市場の倒錯」、あるいは逆立ちした「信用市場」と呼ぶべきだろう。(だんだん誰かさんの口調に似てきたなぁ。ヤバイなぁ。)
『 「社会的信用」(social credit)のアメリカによるグローバリゼーションは高いレベルに達した。その30%は国外資本からやってきている。それゆえ、通貨供給や利子率といった通貨政策的手段を通じての社会的信用需要を調整する国家的能力は大幅に弱体化している。』全く偶然だろうが、アメリカの財務省証券(国債)に占める国外保有者のシェアは、2009年6月末についに30%に達して、以来それを切ったことがない。(「財務省証券(アメリカ国債)の保有者」<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/Economy_of_the_US/05.htm>)
『 信用需要のメカニズムの形成における変化は、基本的に経済における市場の支配的役割を強化してきた。そのことは、社会的信用関係志向型の市場(これは先ほどの逆立ちした市場という意味に解釈していいだろう。)は、アメリカの経済的・社会的発展に100%の影響を与えるだろう。何ともわかりにくい言い回しだが、アメリカの大きな借金そのものが、アメリカの実体経済が産み出す新たな冨をはるかに越えてア、メリカの資本需要を満足させようという政策を、国家機関、この場合は連邦政府、もっとわかりやすく云えば、オバマ政権にとらせている、という事だ。(大統領オバマはアメリカの支配層に使い捨てにされるかも知れないな。)
アメリカにおける「信用関係」の地位(the status)は、その経済構造に影響を及ぼす実際価値(仮想価値でなく)を創造する、国の力を抑制する。大きな負債の重荷は、それは実際の負債を返済する能力をはるかに超えているのだが、国家機関(the state apparatus)をして、実体経済による価値創造の速度を越える形で国の資本需要を満たそうと強制する。』
いつまで「ニューノーマル」が続けられるか 『 仮想経済(!。virtual economy)の過剰拡大は、アメリカのおける「信用関係」のパラドキシカルな運動の結果である。』ここで「信用関係」といっているのは、「経済的信用」を媒介とした「人と人の関係」と解釈できるだろう。「パラドキシカルな運動」とは、前述の通り、拡大発展させようと運動体が動くと、主体そのものを破壊してしまう、そのような運動のことだ。つまり仮想経済(アメリカの金融経済は仮想経済そのものである。ニューヨーク証券市場の株価は投機を反映しているが、今や実体経済を反映するものではなくなった。先日テレビで寺島実郎が、アメリカ経済は回復基調にある、ニューヨークダウも上がっている、といっていたが、馬鹿げた話だ。)が自己増殖しようとすればするほど、実体経済を壊していく、そのような運動のことを指しているのだと思う。
数学の世界で虚数(imaginary number)という概念がある。「2乗した値がゼロを超えない実数になる複素数」と定義される。全く役に立たない想像上の概念かというとそうでもなく、信号処理、制御理論、電磁気学、量子力学、地図学等の分野を考えるには必要な概念なのだそうだ。虚数もまた必要だ。しかしこの虚数が「実数」づらをして、実数の世界にしゃしゃり出たら、どうだろうか?数学は大混乱に陥る。アメリカの仮想経済はちょうどこの実数の世界にしゃしゃり出た「虚数」に似ている。
『 このように、大公国際信用評価(以下大公)は、アメリカにおいて信用拡大政策が手つかずに残るままであるかぎり、国家経済の金融化発展モデルが変化しないであろうし、長期景気後退に導く鍵となる要素が重要な役割を演じるであろうと信じている。』アメリカの外交問題議会の理事長、リチャード・ハースによれば、「低経済成長」(これ自身上げ底だが)、「高止まりする失業者数」、「積み上がる負債」の三つを指して、「ニューノーマル」という言い方がニューヨークやワシントンDCで云われているそうだ。(「50年のアメリカと日本」の「ニューノーマルという言い方」の項参照の事。<http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/CFR/06.html>)
いつまでその「ニューノーマル」を続けられるのか、いや大量の失業者を前にして、いつまで「ニューノーマル」が許されるのか・・・。
(以下次回)