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続折々の記 2019⑧
【心に浮かぶよしなしごと】

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           Something greatの願い<6>    命のすべて
              6 種(=命)の残し方 ; 赤ちゃんの育て方
              細胞の不思議な能力
              ・人間の性別は、細胞の戦略
              ・単一神経細胞による記憶を世界で初めて発見
              ・記憶や学習の能力にグリア細胞が直接関与
              ・「記憶のメカニズム」の詳細
              ・ミトコンドリアと細胞の不思議な関係
              ・遺伝子の発現と生命現象
              ・遺伝子ってなんだろう?

【 09 】11/21~

 11 21 (木) Something greatの願い<6>  命のすべて

細胞の能力ということについて調べていると、いろいろ知らないことに出会います。 今までとダブっているところもあると思いますが、なかなか面白い能力に驚くのです。 ここに取り上げているのよりもっと優れた記事があるかもしれません。

人類の出現は世界史用語解説の人類の出現年代によると、分子生物学による化石人骨の研究の進展によって、約700万年前とされるようになっている(2018年現在)と言われています。 そうしますと、一人の人の生命が授けられてからの細胞の能力は、この約700万年にわたる進化の過程を、出産までの過程とそのあとの5~6年の間に、すべて大脳をはじめとするすべての身体能力を細胞が取り仕切ってき作り上げてきたことになります。
この事実を思い浮かべると、細胞のものすごい Something great という素晴らしい能力素晴らしいエネルギーによって、私たちは生まれてきたことがわかります。 ですから、簡単に細胞の能力などという言葉の中身は、とてつもない未知の能力を秘めていることを理解しておかなければならないのです。

その意味において、ここに取り上げる記事にしても細胞が秘めている能力の一端にすぎないかもしれません。 ですから調べたりないところや新しい記事に出会うことと思います。 そしたらそれらを受け入れるようにしたいのです。

まずは面白そうな記事を取り上げます。

独立して生きる意志を持った
人間の性別は、細胞の戦略
クリックする いろいろ出てくる
   生物学者団まりなさんへのインタビュー
私達は、多くの動物に「性別」があることを特に疑うでもなく当たり前のように考えている。 しかしこれは、元はと言えば細胞、つまり生物が生き残るために選んだ手段だとかいう。 そうなると、男性や女性といった区別に、ちょっと違った視点が見えてくる。
細胞レベルで性別について研究している生物学者の団まりなさんにお話を伺った。
―― これまで生物の性別については、その意味を考えたことはなかったのですが、これは元もと生物の生き残りの方法だったとのこと。まずはこれについて伺えますか。

団  生物学の視点からすると「性」というのは生殖、つまり、自分と全く同じものを作り出すというメカニズムを指します。こう言うと、一から何かを作り上げる印象を受けるかもしれませんが、そうではありません。例えば、一番原始的な生物であるバクテリア(細菌類)が自分の体をぶちっと二つに割ること、これを生物学の世界では生殖と言います。細菌類の体は仕組みが単純ですから、生きていくために必要なタンパク質を作る情報、つまり「DNA」さえきちんと分かれていれば、こうして適当に分かれても、活動のためのシステムに矛盾が生じることがありません。例えて言うなら、あんこ餅をふたつに引き千切ったようなもの。両方にお餅もあんこも付いてくるでしょ?これが単細胞が自分と同じものを作る仕組み、つまり生殖の基本です。しかし言わずもがなですが、人間の構造は複雑だから、細菌類のようにばっと割って作ることはできません。その仕組みを理解するためにも、まず細胞のメカニズムについてお話しなければなりませんね。
細胞には「原核細胞」と「真核細胞」の2種類があります。ご存知ですか?

-- 染色体が核膜に包まれていないのが原核細胞、染色体が核膜に包まれたものが真核細胞。真核細胞の方が構造も複雑で大きいのでしたね。

団  原核細胞は、現在のバクテリア(細菌類)に似て、細胞膜の内側に、核やその他の構造を持たない、地球上最も単純な生物です。それに対して、真核細胞は、体の中にミトコンドリアなどの細胞内小器官を作って体内をいくつかの区画に切り分けることで、体を能率良く使うことができます。この区画の一つが、遺伝情報を保管、修理、コピーするためのDNAやRNAを収納する「核」です。

-- 私達の体は、その真核細胞からできているのですね。

団  そうなのですが、実は真核細胞にも2種類あるんです。DNAのセットを1セットしか持っていない「ハプロイド細胞」と2セット持っている「ディプロイド細胞」です。進化の階層で見ると、ハプロイド細胞が先にあり、その後ディプロイド細胞が出現しました。

-- 何がきっかけなのでしょう。

団  「飢餓」の状態が、ハプロイド細胞をディプロイド細胞へと変身させました。この場合の細胞にとっての「飢餓」とは、タンパク質を作り出すために必要なチッ素が周囲からなくなること。細胞の中のタンパク質は、DNAに負けず劣らず重要な役割を果たしているのですが、何かのきっかけで周囲のチッ素が減少することがあります。そうした時に2匹のハプロイド細胞が合体することでチッ素飢餓に対して立ち向かうことにしたのです。その状態が、DNAを2セット持ったディプロイド細胞へのきっかけになったのです。

-- ハプロイド細胞2匹が合体してディプロイド細胞になる。これも生殖にあたるのですね。

団  そうです。この飢餓と合体(生殖)の状況は、植物を見るとイメージが沸くでしょう。花を良く咲かせたかったら、水や栄養をやり過ぎるなと言うでしょう? この花を咲かすというのはめしべと花粉を作る生殖なんですよ。栄養たっぷり、水たっぷりなら、花など咲かす必要がないけれど、水や栄養が不足した状態になると花を咲かせて、実を成らせて次の世代を作る。つまり、細胞レベルのメカニズムと同じことなんです。

-- 細胞のレベルで、ハプロイドからディプロイドという変化をすることによって、環境の変化に対応したということですね。私達がいわゆる「動物」と思っている生物の細胞は、皆、ディプロイドだということを考えれば、これは生物の進化において非常に大きなステップですね。

団  ディプロイド細胞とハプロイド細胞の大きな違いの一つは、自分の中にある相同のDNA分子を見分けることができるかどうか、ということ。単純に言うと、DNAの2本セットを正しく認識して分け合い保持できるかどうか、ということです。もし、これができていなければ、未だに地球はどこまでいっても、ハプロイド細胞ばかりで単細胞生物レベルで終わっていたでしょうね。しかし2匹の細胞が寄ったままで暮らし始めて更に分裂の方法を工夫し、ディプロイド細胞の仕組みを得て、ここまで進化できたという点では、ひとつの大きなステップです。ただ、生物の進化について言うと、全ての段階が重要なんです。だってハプロイド細胞がなければ、ディプロイド細胞はできないわけですから。私は「階層性」と言っていますが、下のレベルがなければ、上のレベルは存在し得ません。どの階層が抜けてもそれより先の生き物は存在しないのです。バクテリアなんて些末なものに思えるかもしれないけれど、それがいなければ、そこから派生する生物はいないのです。 例えば無生物から生物への発生の仕方なんて、未だに誰も机上の答えすら出せずにいるんです。無生物から生物が誕生するためには、ものすごい数のファクターが同時に起こる必要があります。すごいことなんです。

-- どれ一つが欠けても、現在の私達は存在しなかったわけですね。

団  そうなんです。進化の各過程では、何か困った状態が起きた時に、その状態を解消しようと、それまでとはちょっと違うことをする者が出てきて、次の階層に進むんです。新しく出てきた悪条件を逆にテコにしながら、うまく工夫して生き延びる者が出て、更にまた困った状態が起きて…というのを積み上げながら、生物は進化してきているのです。今、現在だって、私達はこうした進化の過程にいるんですよ。
しかし、どんな生物であれ、もともと人間になろうと思って進化してきたわけではないはずです。たまたまその時代を生きた細胞たちが困難に対して工夫を重ねてきた結果が今の私達なんです。

性別の成り立ちは寿命を乗り越える仕組み

団  細胞というレベルで、前提となるお話をしたので、いよいよなぜ「性」があるかということをお話しましょうね。 ハプロイド細胞が2匹寄り集まった状態では、まだ「性」とは言えません。性のひな型みたいなものと言ったらいいでしょう。ただ飢餓に陥りそうだったから集まっただけ。次の状態として、ディプロイド細胞として、うまく生きられるようになった…つまり、ディプロイド細胞の状態で分裂が出来るようになったわけです。ところがここが未だに理由は不明なのですが、どういうわけか足かせというか、バグができてしまって、ディプロイド細胞は、ハプロイド細胞と違って、ある程度分裂すると、細胞全体がぼろぼろになってしまって無限に分裂を続けられないんです。

-- ハプロイドは不死なのに、私達の体を作っているディプロイド細胞には寿命があるのですね。

団  そうです。老化の原因にはものすごく多くのファクターがあるのですが、いずれにしても今、私達の目に触れる全ての生物は死を避けることができません。その理由の一つが、ディプロイド細胞にあるんです。私たちの体の細胞は、ディプロイド細胞であるがゆえに無限には分裂できない。それでは、どうやってその死を避けるのか。どうすれば種として絶滅せずに生き延びているかというと、いったん「バグ」のない、ハプロイド細胞の状態に戻って新しい「分裂回数券」を手に入れることなのです。これが減数分裂、そしてこの減数分裂と合体とを合わせたものがいわゆる有性生殖なのです。
生物の卵子と精子は、実はハプロイド細胞…つまりDNAを1セットしか持っていない細胞なのですが、その持ち主であるこの「体」、つまり人間はいつか必ず死んでしまうから、種としてつなげるために、卵子と精子というハプロイド細胞を持ち寄って、新しい体を作って、それを大事に育てていく。そしてまた、その新しい体の中にまた生殖細胞ができるというメカニズムを持つことで、種をつなげていくことにしたのですね 。

-- メカニズムとしては、ちょっと面倒ですね。

団  確かに人間の体は60兆もの細胞でできているんだから、そんな複雑なものをわざわざハプロイド細胞の卵と精子から作らなくたって、例えば体の一部分をぽいっと切って、ミルクで湿ったガーゼに入れて、暖かい所に置いておくだけで大きくなっても良さそうなものでしょ?(笑)。

-- うーん、確かに(笑)

団  ヒドラやクラゲなど原始的な多細胞生物は、我々と同じような細胞でできているけれども、そういうことができるんです。でも、高等な生物になればなるほど、全ての個体を必ず卵と精子から作っているんです。

-- 私達人間を含め高等な生物の場合は、ディプロイドでできているがゆえに限界がある。それでハプロイドの卵子と精子を作って、次の世代へとつなごうとしているわけですね。

団  ディプロイドからハプロイドになり直して暮らさなければいけない。それが性別の始まりであり、性の根源的な理由です。我々は、それ以外には、もう一人人間を作る方法を持っていないのです。自分と同じ体を作る、その方法として、いったんハプロイドに戻って組み立て直しているわけです。2匹のハプロイド細胞からまた真新しいディプロイド細胞、つまり1個の受精卵ができて、それが分裂し分化して、爪になったり、皮膚になったり、神経になったりと何段階かのシステムを組み上げ、最終的にカエルになったり、人間になったり、犬になったりしていくんです。

-- 細胞ってすごく、かしこいのですね。しかしそこでもう一つ疑問が沸いてきます。卵と精子を作る個体が分かれたのはなぜでしょう。

団  非常に早い時期に、そうなったんです。原始的なものをみると、卵も精子も同じ形をしているのですが、ある時期にそれが役割分担をすることにしました。
つまり卵子は、たくさんの栄養分を蓄えて生存の可能性を高める。そして、精子は、その卵に出会うために運動能力を持つ、ということです。
この時点で、卵はそのほかの細胞に比べて非常に大きくなってしまい、自分で身動きが取れなくなってしまいました。なので、大きな卵子というものを作る傍ら、それと出会える、そこまで辿り着けるハプロイド細胞を作らなければならなくなった。必要な栄養素などは、全部卵に入れてあるので、出会いに行く精子は、DNAを1セットと運動能力を持っていれば良い…実際精子を見ると、DNAをがっちがちに「梱包」した包みと、モーターと泳ぐためのべん毛しか持っていません 。

-- 精子と卵子を別々に持つというのも理由があるのですか?

団  2つの個体からの遺伝子をミックスすることで、強い遺伝子が残せるという考え方は、良く言われていますね。それに加えてディプロイド細胞がハプロイド細胞と違っているもう一つの大きな点は、細胞に個々の役割を持たせることができるようになったこと。だから卵と精子という別の性質を持つ細胞を作り出したのです。そこで話をもう一歩進めて、卵と精子を作る個体を別にしたほうが、効率が良いということになったんですね。栄養をいっぱい持った卵を作るのと、命からがら走り回ろうという精子を作ろうと言うのでは思想が全く違うじゃないですか。それを、個体レベルで分業しようという工夫があった結果、雄と雌の分化が生まれたのです。その先に人間の場合は男と女という性別があるということになります。 多くの生物がそうですが、雌の方が大きい体をしているでしょう? 人間がたまたま違うから、ちょっと分からないかもしれませんが、雌の方が大きいのも、こうした理由からです。そのためか、雌の方がどっしりした感じがしませんか?

-- そういう一面があるかもしれません(笑)。細胞から見ていくことで、性について、人間について、これまでとは全く違う見方をすることができました。もっともっと、色々なものが見えてきそうです。  (インタビュア 飯塚りえ)

団まりな(だん・まりな)
1940年東京生まれ。階層生物学研究ラボ責任者。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。大阪市立大学理学部助手、同大学教授を経て退官後現職。著書に『生物のからだはどう複雑化したか』(岩波書店刊)、『動物の系統と個体発生』(東京大学出版会刊)、『生物の複雑さを読む?階層性の生物学』(平凡社刊)、他。

●取材後記
房総半島の突端で、晴耕雨読の優雅な生活を送られている団さんのご自宅にお邪魔してお話を伺った。取材後、団さんが耕す畑で取れた菜の花と金柑をお土産にいただき、すっかりリフレッシュして帰路に着いた。細胞もリフレッシュして分裂の限界回数が少し増えたようだ。



記憶のメカニズムについての研究の紹介

「一つの細胞にも記憶が宿る」
単一神経細胞による記憶を世界で初めて発見
上記をクリックする 図版が多いので、開いて理解したい

名古屋大学大学院理学研究科(研究科長:松本 邦弘)の森 郁恵(もり いくえ)教授と貝淵 弘三(かいぶち こうぞう)教授(同大学院医学系研究科)らの共同研究チームは、線虫をモデル系とする大規模リン酸化プロテオミクス解析を、世界に先駆けて成功させることにより、新規の記憶メカニズムを同定することに成功しました。

古くから記憶・学習の成立機構には様々な仮説が提案されてきましたが、現在のところシナプス説が最も有力です。シナプス説とは、記憶や学習が多細胞間の相互作用によって支えられており、特に神経回路網内でのシナプス伝達効率が変化する「シナプスの可塑的変化」によって成り立つとする説です。現在までこの説は多くの実験的、理論的な支持を得ています。

今回の研究チームの解析から、神経細胞の中には、シナプス結合による他の細胞との相互作用を断絶した状態でも、単一細胞として記憶を形成できる能力を持つものが存在することが示されました。この研究成果は、神経細胞間の相互作用を基盤とする神経回路レベルでの記憶以外にも、単独の神経細胞レベルでの記憶(単一神経細胞記憶)が存在することを実証するものです。

………………………………………(中略)……………………………………………

古くから“記憶の座“としてシナプスが注目され、複数の細胞が協調して機能することで記憶を蓄えると考えられてきました。しかしながら、本研究により、一部の神経細胞は、細胞単独で物事を記憶するということが初めて示されました。この研究成果は、将来の神経科学研究に対し、神経ネットワークだけなく、個々の細胞1つ1つにも記憶が宿り得るという新概念を与えるものであり、長年にわたり生物学の課題とされてきた脳神経系における記憶メカニズムの完全解明に大きく寄与できるものと考えられます。また、リン酸化プロテオミクス解析により、単一神経細胞記憶の分子実体として、CaMKI/IV-Raf-MEK-ERK-MED23という分子経路が明らかになりました。これらの記憶制御分子を治療ターゲットとすることで、神経疾患や精神疾患に対して、新たな創薬開発に展開させることが、将来的に可能となるかもしれません。


次の記事はアルツハイマー病の治療法に関するものです。
・大脳皮質でのシナプス可塑性の誘導中に、グリア細胞のカルシウム濃度が上昇
・グリア細胞の活動に伴って、長期記憶に必須のアミノ酸(D-セリン)が上昇
・グリア細胞を標的にしたアルツハイマー病の新しい治療法開拓に期待
認知症の治療に期待
記憶や学習の能力にグリア細胞が直接関与
クリックする
   生きたマウスでグリア細胞がシナプス可塑性に影響を与えることを初めて確認
…………………………………(前の部分を省略)………………………………………
研究手法と成果
まず研究グループは、生きたままのマウスの大脳皮質に、シナプス可塑性を誘導する手法の確立に成功しました。具体的には、ラットやネコでの報告を参考に、麻酔したマウスのヒゲには圧縮空気を、マイネルト基底核には電気刺激を、5分間100回“同時刺激”しました。その結果、同時刺激後には、脳波の応答の大きさが平均24%増大し、大脳皮質でのシナプス可塑性の誘導に成功しました(図1)。次に、“同時刺激”でシナプス可塑性を誘導している最中に、アストロサイトが活動しているかどうかを検証しました。麻酔したマウスの大脳皮質にあるアストロサイトのカルシウム応答を、2光子顕微鏡で観察しながら“同時刺激”を行ったところ、観察視野に存在するアストロサイトの半数以上で細胞内カルシウムの濃度が上昇することを発見しました。

このカルシウム濃度の上昇がシナプス可塑性に関与しているのか、または単なる副産物であるのか検証するために、アストロサイトのカルシウム応答を消失させた遺伝子改変マウス(IP3R2-KOマウス※9)に“同時刺激”を行いました。すると、マイネルト基底核を刺激した時の脳波の応答は正常でしたが、シナプス可塑性が生じないことを見いだしました。これらの結果から、アストロサイト内のカルシウム濃度の上昇がシナプス可塑性に重要な働きをしていることが分かりました。

さらに、このカルシウム濃度上昇によるシナプス可塑性誘導の分子機構を解明するため、半透膜のついた微小管を麻酔したマウスの大脳皮質へ挿入して、細胞外のアミノ酸の量を計測しました(微小透析法)。その結果、マイネルト基底核の電気刺激によって、アミノ酸の一種であるD-セリンの量が5%上昇しました。一方、IP3R2-KOマウスではD-セリン量は増加しないことを確認しました。D-セリンは記憶形成に必須とされているNMDA受容体※10へ結合し、シナプス可塑性を誘導することが知られています。このことから、アストロサイト内のカルシウム濃度の上昇に伴って、細胞外D-セリン濃度が上昇するというメカニズムが、シナプス可塑性誘導の分子機構であると示唆されました。
………………………………………(中略)……………………………………………
補足説明
1.グリア細胞
神経系を構築する細胞のうち、神経細胞ではない細胞の総称。アストロサイトやオリゴデンドロサイト、ミクログリアなどの細胞に分類される。

2.アストロサイト
中枢神経系に存在するグリア細胞の1つ。多数の微小突起を持ち、形態が星状(アストロ)に見えることからアストロサイトの名称を持つ。ヒトの脳では神経細胞の1.4倍の数のアストロサイトが存在する。アストロサイトの微小突起は、神経細胞同士の接点であるシナプスに接触している。1つのアストロサイトは10万以上のシナプスと接触しており、ラットの大脳皮質では9割以上のシナプスがアストロサイトと接触している。

3.シナプス可塑性
神経細胞間の接点(シナプス)での情報伝達効率が長期的に変化する能力のこと。シナプスにおいて、情報を伝達する側の神経細胞の構造物を前シナプスと呼び、情報を受容する側の神経細胞の構造物を後シナプスと呼ぶ。

4.大脳皮質
大脳の表面を覆う、神経細胞の細胞体が多く存在している灰白色をした層(灰白質)のこと。ヒトの場合は厚さ数ミリメートル。これとは別に、神経線維(軸索)が密に存在する脳の部位を白質という。

5.脳切片
動物の脳を摘出して薄く切ったもの。厚さは0.3~0.4mmが一般的。酸素や栄養素を含 んだ人工脳脊髄液に浸しておくことで、脳細胞の活動を数時間以上維持できる。ただし多数の神経繊維が切断されており、血流も消失しているため、生体内の環境を保った観察が困難である。

6.2光子励起顕微鏡
励起光の波長が長く(近赤外光)散乱しにくいので、生体試料の深い部位にある蛍光分子を励起できる。さらに、蛍光分子から放射される蛍光を効率よく回収する仕組みになっており、生体試料の深部観察に適している。

7.D-セリン
アミノ酸の一種。長期記憶の形成に必須とされているNMDA受容体の活性化には、D-セリンの結合が不可欠であることが知られている。NMDA受容体は神経細胞の後シナプスなどに存在する。

8.マイネルト基底核
脳底部(前脳基底部)に存在する神経核で、神経情報伝達物質の一種であるアセチルコリンを含む神経細胞が散在している。この神経核の神経細胞は大脳皮質の広範囲に投射繊維を送っている。ラットでは大脳皮質におけるアセチルコリンの8割はマイネルト基底核の神経細胞由来とされている。
………………………………………(後略)……………………………………………
図版もあり、開いて理解したい

次の記事は記憶そのものを詳しくしています。…
脳とは「記憶そのもの」だった
「記憶のメカニズム」の詳細
クリックする

あなたのとっておきの記憶を思い浮かべてみてほしい。大事な試合での勝利、子どもの顔を初めて見た瞬間、恋に落ちたと気づいたあの日。その記憶は、ひとつの事象ではないはずだ。記憶を再構成する際、人は匂いや色彩、だれかのおかしな発言を思い出し、それらに対して抱いたあらゆる感情を追体験する。

脳は、こうしたミリ秒単位の印象をかき集め、つなぎ合わせて、モザイクをつくりだす。その能力が、あらゆる記憶の基礎だ。延長して考えると、「あなた自身」の基礎でもある。

これは、単なる形而上学的ポエムではない。どんな知覚経験も、ニューロンの分子に変化を生じさせ、ニューロン同士の接続を再編する。つまり、脳は文字通り記憶でできていて、記憶はつねに脳をつくり替えているのだ。

脳内の細胞やシナプスは「時間を理解」している

記憶と脳の関係についてのこうした理論的枠組みの歴史は古い。そして、2017年7月19日付けで『Neuron』誌に掲載された広範な最新のレヴュー論文では、さらに詳細なメカニズムが論じられている。記憶が存在できるのは、脳内の分子、細胞、シナプスが「時間を理解している」からなのだ。

記憶を定義するのは、時間を定義するのと同じくらい難しい。広義では、記憶とはシステムに起こった変化であり、そのシステムの将来の働きを変化させるものと定義される。「典型的な記憶とは、過去のある時点で活発だった脳の複数の部位のつながりが、再び活性化することでしかないのです」と語るのは、論文共著者のひとり、神経科学者のニコライ・ククシュキンだ。そして、すべての動物のみならず多くの単細胞生物でさえも、なんらかのかたちで過去から学ぶ能力をもつ。

たとえばアメフラシ(海に棲む軟体生物)だ。進化の観点からいえば、アメフラシとヒトは途方もなくかけ離れている。しかしどちらもニューロンをもち、アメフラシも、ヒトと同様に記憶のようなものを形成することができる。アメフラシのエラを刺激すると、アメフラシは次に恐ろしい指が近づいてくるのを見た場合、最初よりも早くエラを引っ込めるようになる。

研究者たちは、アメフラシがエラを引っこめることを学習した際に、シナプス結合が強化されることを発見し、さらにこの変化をもたらす分子も発見した。驚くべきことに、ヒトのニューロンにも、これに似た分子がある。

一体これが、あなたのとっておきの思い出とどう関係するというのだろう。「ニューロンのユニークなところは、何千というほかのニューロンと、それぞれが非常に特異的なつながりを築くことができることです」と、ククシュキンは言う。こうしたつながりをネットワークにするのは、これらの特異的なつながり、すなわちシナプス(ニューロン同士の接合部)が、信号の強弱によって調整されるためだ。つまり、あらゆる経験(エラをつつかれる経験も含む)には、ニューロンのつながりの相対強度を変化させる力があるのだ。

記憶とは「システムそのもの」

だが、こうした分子や、分子が制御するシナプスが記憶である、という考えは誤りだ。「分子、イオンチャンネルの状態、酵素、転写プログラム、細胞、シナプス、それにニューロンのネットワーク全体をほじくり返してみると、記憶が蓄えられている場所など、脳内のどこにもないとわかります」と、ククシュキンは言う。

これは、記憶にかかわるニューロンの可塑性(外界の刺激などによって常に機能的・構造的な変化を起こすこと)と呼ばれる特性のためだ。言い換えると、記憶とは「システムそのもの」なのだ。

しかも、記憶形成の証拠は、生命の系統樹のどこからでも見つかる。神経系をもたない生物ですら例外ではなく、研究者たちはバクテリアに光の点滅を予測させることに成功している。アメフラシの反応のような原始的な記憶であっても、進化的観点からは有利になると、ククシュキンは説明する。彼の言葉を借りれば、「生物が過去の一部を未来と統合し、新たな課題に挑戦できるようになる」のだ。

ヒトの記憶は、どんなに大切な記憶であっても、粒子のレヴェルからスタートする。あなたの母親の顔は、最初は大量の光子(フォトン)としてあなたの網膜に降りそそぎ、網膜が視覚野にシグナルを送る。声を聞けば、聴覚野が音波を電気信号に変換する。ホルモンは、「この人といるといい気分」というように、経験に文脈を添える。

これら以外にも、無限と言っていいほど膨大な数のインプットが、連鎖的に脳内を駆け巡る。ニューロン、制御分子、それによって生じたシナプスには、関連するすべての副次的事象が、その発生の時系列とともにエンコードされていると、ククシュキンは言う。しかも、経験全体がひとまとまりとして、いわゆるタイムウィンドウのなかに収められているのだ。

記憶は複数の時間スケールに分解される

もちろん、どんな記憶も単独で存在しているわけではない。脳は経験を、同時に経験する複数の時間スケールに分解する。ちょうど音が、同時に聞こえる異なる周波数のそれぞれに分解されるように、ある経験においても複数の時間スケールが同時に経験されている。

ある体験の記憶とは、詳細な個々の記憶が、長さの異なる複数のタイムウィンドウのなかに存在する、入れ子構造のシステムなのだ。こうしたタイムウィンドウには、記憶を構成するすべてのパーツが収められている。ヒトが実際に出来事を知覚するスケールではすくい取れない、分子による情報のやりとりも含めて、だ。

このメカニズムを理解するのは、神経科学者であっても極めて難しい。記憶形成のしくみの詳細がわかるには、まだまだ時間がかかるだろう。「理想的な世界においてなら、ニューロンひとつひとつの挙動をリアルタイムで追跡できるのですが」と、ククシュキンは言う。

現在のところ、ヒトの神経回路マップの製作に取り組む「ヒト・コネクトームプロジェクト」などの最先端のプロジェクトでも、まだ静止状態の脳の全体像を捉えようとしている段階だ。その研究プロジェクト自身に動きを与えるには、時間が問題になるだろう。ちょうど、記憶そのものと同様に。


次の記事はミトコンドリアと細胞について詳しくしています。…

ミトコンドリアと細胞の不思議な関係
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初めは接点なんて何もなかったのに、気づいたら一緒に過ごしている。もう君なしでは生きられない......今回はそんな不思議な運命のお話です。

というわけで、みなさんこんにちは!科学コミュニケーターの田中です。みなさんは、こんな運命的な恋に落ちたことがあるでしょうか?(田中は残念ながらありません......)しかし今回は恋のお話ではなく、みなさんの体の中のお話です。

主役は私たちの体をつくる細胞、そして細胞の中にいるミトコンドリア。前回の田中のブログでは、ミトコンドリアのちょっと意外な見た目についてご紹介しました(「ミトコンドリアのほんとの姿は"あの形"とちょっと違う?!」https://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20181109-4-gfprfp-mito-gfpmito-rfp.html)。その続報である今回は、細胞内で働く他の小器官(オルガネラ)とは違った、ミトコンドリアの特徴についてご紹介していきます。

20181220_tanakas_01.jpg
生物の教科書に載っているミトコンドリアの絵(イメージ)

本当はこの絵とは少し異なる姿をしている(詳しくは前回の記事「ミトコンドリアのほんとの姿は"あの形"とちょっと違う?!」をご覧ください)。

別々の細胞がひとつに!

ミトコンドリアが他のオルガネラと大きく異なる特徴、それはもともとは別の生き物だったこと。好気性細菌という、酸素を使ってたくさんのエネルギーをつくりだすことができる生き物が、細胞に取り込まれ、細胞内に住み着いてミトコンドリアになったと考えられているのです。これを細胞内共生説といいます。生物を勉強したことがある方なら、もしかするとご存知かもしれませんね。

20181220_tanakas_02.jpg
細胞内共生説
好気性細菌が細胞の中に取り込まれてミトコンドリアになった

もう少し詳しく説明しましょう。まず生き物は細胞の中に核があるかないかで大きく2つに分類をすることができます。核がないのが原核生物、核があるのが真核生物です(下図)。ではその核ってどんなものなのかというと、私たちの体の設計図であるDNAをしまっておく部屋です。核がない原核生物の細胞も設計図であるDNAを持っていますが、核のようにDNAの周りを隔てる仕切りはありません。DNAがある程度まとまって細胞の中にあり、これは核様体と呼ばれます。そしてミトコンドリアは、そんな原核生物のひとつである好気性細菌が、真核生物の細胞に取り込まれてできあがったと考えられているのです。したがって、ミトコンドリアを持つのは、真核生物の細胞のみです。

20181220_tanakas_03.jpg この細胞内共生説はその名の通り、ミトコンドリアが細胞の中で細胞と共に生きていくようになったという「説」ですが、この説はおそらく正しいだろうと考えられています。でも、ミトコンドリアが細胞の中に入っていったその様子を見ていたわけでもないのに、なぜ正しいなんて言えるのでしょうか?

ミトコンドリアが別の生き物だった証拠

もちろん、細胞内共生説が正しいと考えられているのにはちゃんとした理由があります。主に以下の3つの理由から、細胞内共生説は正しいだろうと支持されています。

・性質の異なる二重膜で囲まれている!
細胞の中に存在するそれぞれのオルガネラは、膜に囲まれて形作られています。この膜、普通のオルガネラは1枚の膜なのですが、ミトコンドリアは内膜・外膜の2枚の膜(二重膜)から成ります。特徴的なひだを作っているのが内膜で、外側を囲っているのが外膜です。さらに、この内膜と外膜はその性質が少し異なっています。また好気性細菌にも内膜と外膜を持つ種類がいて、その2枚の膜も性質は異なっています。ミトコンドリアの内膜は、その主成分である脂質や膜の中で働くタンパク質などが、細菌の内膜と良く似ています。このことからミトコンドリアの内膜は、細菌の内膜がもとになっていると考えられます。(*)

・独自のDNAを持つ!
私たちの体の設計図であるDNA。実は核の中だけでなく、ミトコンドリアの中にも存在しています。しかもミトコンドリアのDNAは、核のDNAとは違った特徴を持っていて、こちらも細菌の特徴に近いのです。さらにミトコンドリア内にはこのDNAの情報からタンパク質をつくる装置が備わっていますが、それらも細菌の装置に近い特徴を持っています。

・半自律的に増える!
細胞は細胞分裂によって2つに分かれることで増えます。このとき、たとえば核は、分かれた2つの細胞のどちらにもないといけません。そのため、細胞分裂をするときは、核も2つに分裂をします。逆に、細胞が分裂するとき以外には、核は分裂しません。一方ミトコンドリアはというと、細胞分裂をしないときにも、細胞が必要だと判断したときにはどんどん分裂して増殖することができます。これを「半自律的な増殖」といい、もともと細胞とは別の生き物であったからこその特徴と考えられています。

以上の3つのことから、細胞内共生説はほぼ間違いなく正しいだろう、ミトコンドリアはもともとは別の細胞(細菌)だったのだろう、とされています。

真核生物は、ミトコンドリアでエネルギーをたくさん作れる

このように細胞の中にやってきて、今も私たちの細胞の中で働いているミトコンドリアですが、ではどんな役目を果たしてくれているのでしょうか。ミトコンドリアの主な働きは酸素を使ってエネルギーをたくさんつくること。ミトコンドリアは細胞の中の発電所、とたとえられたりします。私たちは、体を動かしたり食べ物を消化したり、いろんなことにエネルギーを使っていますが、そのエネルギーを生み出しているのが、ミトコンドリアなのです。私たちヒトを含む真核生物は、ミトコンドリアを持つことでたくさんのエネルギーを生み出せるようになり、発展してきました。

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ミトコンドリアは細胞の中の発電所にたとえられる

そしてミトコンドリアは、たくさんのエネルギーを必要とする真核生物にとって、なくてはならないものとなりました。ではミトコンドリアの側は、細胞を必要としているのでしょうか?その答えは、YES。ミトコンドリアを細胞の外に取り出したら、ミトコンドリアはもう生きてはいけません(しばらくはタンパク質を作ったりエネルギーを産生したりできますが......)。ミトコンドリアがお仕事をして生きていくためには、ミトコンドリアの外で作られたものがミトコンドリアの中にやってくることが必要なのです。元々は単独で生きられていたはずのミトコンドリアの祖先ですが、細胞と一緒に過ごしている間に、細胞なしでは生きていけなくなってしまったのです。つまり細胞にとってミトコンドリアはなくてはならない存在であり、かつ、ミトコンドリアにとって細胞はなくてはならない存在といえます。

......と、ここまでが高校の生物の教科書にも出てくる共生説の話でした。

ミトコンドリアと細胞の関係は、想像以上に深い

今回はもう少し探ってみることにしましょう。ミトコンドリアを持たない真核生物って本当にいないのでしょうか?ミトコンドリアの主な働きは、酸素を使ってたくさんのエネルギーを作り出すことでした。たとえば、他の生き物に寄生する生物であれば、寄生した先でエネルギーを奪ってしまえばミトコンドリアがなくても生きていけそうな気もします。

実際はどうなのかというと、酸素を使ってたくさんのエネルギーをつくり出すことを必要としない真核細胞たちも、ミトコンドリアの残存のようなオルガネラを持つことがわかっています1-3)。このことから、細胞はエネルギーを作り出すこと以外のミトコンドリアの機能を必要としているといえます。では、細胞にとってなくてはならないミトコンドリアの機能とはいったい何なのでしょうか?

そのひとつが「鉄-硫黄クラスター」をつくること。鉄-硫黄クラスターというのは、細胞の中で働くいろいろなタンパク質に必要なものです。これがないとそうしたタンパク質がうまく働けず、細胞も生きていくことができません。そんな鉄-硫黄クラスターをつくる装置がミトコンドリアの中にしか存在しません。したがって、ミトコンドリアがたくさんのエネルギーをつくる必要がなくなった細胞でも、鉄-硫黄クラスターをつくるために、ミトコンドリア(もしくは退化したミトコンドリアの残存のようなオルガネラ)が必要なのです。

「ミトコンドリアは細胞の中の発電所にたとえられる」と先述しましたが、実はミトコンドリアはエネルギーをつくる発電所としてだけでなく、ほかにも細胞にとって必須の働きをしていることがおわかりいただけましたか?ミトコンドリアと細胞の関係は想像以上に深いようです。

20181220_tanakas_05.jpg ミトコンドリアは細胞の中の発電所にたとえられるが、そのほかにも鉄-硫黄クラスターの工場としての役割も担う。細胞は、ミトコンドリアが作り出したエネルギーや鉄-硫黄クラスターを利用することで、生きられる。

ミトコンドリアがまったくない!!と思ったら......

しかし、2016年に業界を震撼させる驚きの発見が報告されます。ミトコンドリアもなければミトコンドリアの残存のようなものもない、真核生物が見つかったのです!これまでの常識が覆されるような大発見でした。論文のタイトルもズバリ、「ミトコンドリアを持たない真核生物(A Eukaryote without a Mitochondrial Organelle)4)」!

この世界を驚かせた真核生物は、鉄-硫黄クラスターが不要な特殊な細胞だったのでしょうか?いいえ、そうではありませんでした。ミトコンドリア内で鉄-硫黄クラスターをつくる代わりに、細胞内の別の場所で鉄-硫黄クラスターをつくれるようになっていたのです。そのために必要なDNAは、ミトコンドリアのもとになったような細菌のDNAが核の中に入って定着したものと考えられています。ミトコンドリアはないけれど、ミトコンドリアの代わりの働きができるように変化した生き物だったのです。やはり、ミトコンドリアの働きは真核生物にとって欠かせないものだったのですね。

いかがでしたか?今回は「鉄-硫黄クラスター」というマニアックなところまでお伝えしました。少し難しい話だったかもしれません。ですが、ミトコンドリアと細胞が切っても切れない深い関係だということがおわかりいただけたでしょうか?人と人とのつながりや、生き物と生き物のつながりも、複雑でおもしろいものが多かったりするように思いますが、実はみなさんの体の中である細胞内にも、不思議な深いつながりがあったのですね。

(*)ミトコンドリアの外膜について
高校の生物で「ミトコンドリアの外膜は、ミトコンドリアを取り込んだ細胞の膜の性質に近い。したがって、外膜は細胞の膜が起源である」と習うことがあります。田中もそう習ったと記憶していますし、同僚の科学コミュニケーターに聞いてみてもそうでした。たしかに、ミトコンドリアの元となった好気性細菌を細胞膜で包み込んで取り込んだと考えれば、それが自然です。ですが、現在は「ミトコンドリアの外膜は好気性細菌の外膜が起源である」と考えられているそうです。その証拠として、細菌の外膜にしか含まれない特徴的な構造のタンパク質(βバレル型膜タンパク質)が、ミトコンドリア外膜にもあることが挙げられます。

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ミトコンドリアの外膜は、取り込んだ側の細胞の膜が起源ではない

【関連記事】
  ・ミトコンドリアのほんとの姿は"あの形"とちょっと違う?!
   https://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20181109-4-gfprfp-mito-gfpmito-rfp.html
  ・高級ブランドにも負けない価値?!細胞の中のエルメス    https://blog.miraikan.jst.go.jp/other/20190301post-842.html

【参考文献】
  1. Alina V. G. et al., Nature, 452 (7187),624-628 (2008)
  2. 和田 啓, 日本結晶学会誌 , 52, 174-183 (2010)
  3. 平林 佳, 日本結晶学会誌 , 60, 165-166 (2018)
  4. Karnkowska A. et al., Curr. Biol., 26, 1274-1284 (2016)

【謝辞】
  本記事を執筆するにあたり、取材にご協力くださった京都産業大学総合生命科学部の
  遠藤斗志也先生に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

田中 沙紀
  子生徒も先生もみんな自由でキャラが濃い。そんな充実した高校生活を送り、いろんな
  人と出会う楽しさを知りました。その後、興味をもった理系の道に進み、大学院修了。
  企業で働く中で、科学の情報をなかなか知ってもらえない壁に直面。いろんな人と出会い、
  科学のおもしろさを共有したいと思い、2018年より未来館へ。
  田中 沙紀子の投稿

遺伝子の発現と生命現象
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※ 生物基礎監修:東京都立西高等学校指導教諭渡邊正治先生の講座内容です。 URLで読める。 ここでは省略します。

バイオ基礎講座 DNAから応用まで
遺伝子ってなんだろう?
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※ 大事な話です。 コピーして参考にすること
   第一話 私たちの体と遺伝子
   第二話 遺伝子の働き (1)
   第三話 遺伝子の働き (2)
   第四話 遺伝子型と体質
   第五話 遺伝子診断
   第六話 テーラーメード医療