【目次へ】
  続折々の記へ

続折々の記 2019⑧
【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】09/29~     【 02 】10/09~     【 03 】10/11~
【 04 】10/16~     【 05 】10/31~     【 06 】11/10~
【 07 】11/16~     【 08 】11/21~     【 09 】11/26~

【 01 】へ戻る

            地球温暖化の被害の現状  現状を知るために
            ①国連 気候変動スピーチでグレタ・トゥーンベリさんに知ってほしい5つ
            ②2019年、気候変動問題に「希望」はあるのか?
            ③2018年08月02日から⑰2019年2月7日までのURL
            国連気候変動問題 目次 目次は自分がまとめた冊子の目次

【 01 】09/29~

 09 29 (日) 地球温暖化の被害の現状     現状を知るために

25日に、<09 25(水)今こそ若い力・21世紀のジャンヌダーク>として「折々の記」にニュースとして取り入れた。

この驚きは今でも続いている。

その後検索を調べていろいろの記事に目を通した。 ①から⑰のサイトだ。

そのなかで①と②は、江守正多(EMORI Seita)の記事でした。 ニュースとしてではなく一つの立派な評論でした。

検索で「江守正多 プロフィール」を開くといろいろ出てくるが、そのなかの『江守正多の記事一覧 - 個人 - Yahoo!ニュース』をみる。 そこには記事で取り上げた①と②を始めとして記事44本がずらーと出ています。

これらに目を通してみると彼の広い視野と深い洞察は、それまでの学び研修の結果であると感じました。

江守正多の記事44本……要点のみチェック
No.年月日      内      容
012019
09/28
国連 気候変動スピーチで注目のグレタ・トゥーンベリ
0205/06【気候変動】パリ協定に基づく日本の成長戦略の「本気度」
0304/14[気候変動] 抗議する若者たちの懸念は正当
0401/0815歳の少女に叱られて考えた―2019年、気候変動問題に「希望」はあるのか?
052018
11/49
地球温暖化対策 なぜ1.5℃未満を目指すのか
0609/27「太陽光発電、10年で投資回収は大ウソ」記事への、すごい違和感
0708/13地球温暖化はもう手遅れか?
0808/06豪雨も猛暑も、地球温暖化が進む限り増え続けるという現実(続編)
0907/24豪雨も猛暑も、地球温暖化が進む限り増え続けるという現実
1006/03今の人類が大寒冷期とニアミスしていたことを知ってましたか?
1105/21米国の気候変動懐疑派は陰謀論や保守主義と結びつきが強い
122017
11/17
映画「不都合な真実2」公開によせて
1310/10小池百合子氏の環境政策を契機に考えたい
142016
12/18
南北両半球で海氷面積の減少がすごいことになっている件
1511/25温暖化「2℃目標」の生みの親 シェルンフーバー博士に聞く
1603/21大気中CO2濃度が去年は飛躍的に増加
1703/15温暖化対策計画 2050年80%削減は可能?
1801/24地球温暖化の意外なリスク 「世界一受けたい授業」
1901/19国連の環境報告書「GEO-5」の日本語訳リリース
2001/19COP21パリ協定の「今世紀後半に人為的な温室効果ガス排出を実質ゼロ」
212015
12/13
【COP21閉幕】温暖化への対処をみんなで議論する時代
2212/07それでも寒冷化が正しいと思っている方へ
2312/02いまさら温暖化論争? 温暖化はウソだと思っている方へ
2412/01【COP21開会!】本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第4回)国会議員編(2/2)
2512/01【COP21開会!】本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第4回)国会議員編(1/2)
2611/28世界平均気温は上昇を続け「+1℃」到達:COP21の背景にある「+2℃」目標の意味とは?
2711/26【COP21直前】本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第3回)エネルギー編(2/2)
2811/26【COP21直前】本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第3回)エネルギー編(1/2)
2911/18「温暖化なのに南極の氷が増えている」
3010/12地球温暖化リターンズ 世界平均気温が再び顕著な上昇傾向に突入
3106/10本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第2回)企業とNPO・NGO(2/2)
3206/10本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第2回)企業とNPO・NGO(1/2)
3304/03気候変動問題の価値依存性と専門家の役割気候変動問題
3403/03米ドキュメンタリー番組「危険な時代に生きる」が描く気候変動と社会
3501/26地球温暖化影響の政府報告書、パブコメ始まる
3601/20日経新聞論説「温暖化めぐる2つの裂け目 『可能性の窓』開く対策を」
372014
12/15
二酸化炭素など温室効果ガス対策の今後(「環境ビジネス」自論・公論)
3812/11本音トーク:地球規模の気候変動リスク管理を、どう考えるか(2/2)
3912/11本音トーク:地球規模の気候変動リスク管理を、どう考えるか(1/2)
4012/05今年の世界平均気温が観測史上最高となる見通し
4108/11気候変動に立ち向かう 異なる「文明観」との対話を(日経新聞「今を読み解く」より)
4205/20研究者の科学的発信に客観中立はあるのか?
4304/01地球温暖化問題と社会の意思決定
4403/31「IPCC報告書」の信頼性は?第5次評価報告書(第2作業部会)

江守正多の記事44そのほかの記事から合わせて17の記事を赤丸印をして取り上げる。



①国連 気候変動スピーチで注目のグレタ・トゥーンベリさんについて知ってほしい5つのこと
   9/28(土) 11:10 江守正多 国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長
   https://news.yahoo.co.jp/byline/emoriseita/20190928-00144493/

 気候変動。大人たちが子供の将来に危機をもたらしていること。世界のCO2排出量をあと10年で半分にすべきこと。牛肉の生産が大きな環境負荷をもたらすこと。日本の石炭火力発電の新設が世界から批判されていること。

これまで一部の関心がある人たちの話題でしかなかったこれらのことが、今週、一気に日本全国の「お茶の間」に届いたことに、筆者は興奮を隠せない。

9月23日にニューヨークで行われた国連の気候行動サミットは、小泉環境大臣効果により、日本のメディアから例外的な注目を浴びた。そして、日本のお茶の間に映し出されたのは、16歳のスウェーデン人少女の怒りのスピーチだった。

ほとんどの日本人にとって目の前に唐突に現れたこの少女、グレタ・トゥーンベリさんに対して、共感と反感の両面から、多くの反響が寄せられている。

今回初めてグレタさんを知った多くの人たちに対して、昨年からグレタさんに注目していた筆者が知ってほしいと思うことを5点述べたい。

1.本人の意思で行動を始めた

 グレタさんを見て、親や左翼の活動家に操られていると思う人がいるようだが、筆者が知る限り、それは違う。

彼女が去年の8月に、学校を休んで議会前での座り込みを一人で始めたとき、両親は心配して止めたそうだ。飛行機に乗らず、肉を食べないことを決めたのも彼女自身だ。両親は結果的にそれに付き合うことになり、オペラ歌手である母親は、海外での公演活動を休止することになった。

彼女の「ストライキ」が世界に広まり始めるとき、影響力のある環境メディアの起業家イングマール・レンツホグが彼女に手を貸した。しかし、レンツホグがグレタさんの名前を使って資金集めをしていることを知ると、彼女はレンツホグと縁を切った。

現在、これだけ有名になったグレタさんが、多くの大人から支援やアドバイスを受けていることは想像に難くない。しかし、大人の影響を受けることのリスクに対して彼女が敏感であろうことも、この例から、想像に難くないのだ。

2.感じ方、表現の仕方が、「ふつう」と少し違う

 グレタさんは、アスペルガー症候群などの診断を受けていることを自ら公表している。ものの感じ方や表現の仕方が、「ふつう」の人と少し違うのだ。

筆者はこのことを知って、ネットを調べているうちに、「ニューロ・ダイバーシティ」という言葉に出会った。彼女がふつうと違うのは、いわゆる「障がい」というよりも、「脳の多様性」だとみることができる。

筆者は次のように解釈している。

我々のように「ふつう」の脳の持ち主(ニューロ・ティピカル)は、地球の危機の話を聞いて、そのときはとても心配になったとしても、日常生活を送るうちに気をまぎらすことができる。おそらく人間の脳はそのように進化してきたのではないか。人がみな抽象的な危機を心配し続けていたら、社会が成り立たなくなるからだ。

しかし、グレタさんは違う。彼女には地球の危機を心配し続けることができる「才能」がある。11歳のときに彼女は地球環境について心配するあまり、2か月もの間、ほとんど会話も食事もできなかったそうだ。

社会の中に、このような特別な脳を持った人が少数いて、ふつうの脳を持つ大多数の人たちに対して危機に際して警告を発することは、人類種の進化の過程で遺伝的な多様性として埋め込まれた、種の存続のためのメカニズムではないかと筆者には思えるのである。

(ただし、筆者はこの分野にはまったくの素人なので、ぜひ専門の方に教えて頂きたい)

3.特定政策ではなく、科学者の声を聞くことを訴えている

 グレタさんが具体的にどういう対策を求めているかわからないという人がいるようだが、そんなのは当たり前だ。彼女はまだ16歳なのだから、問題解決の処方箋を彼女に求めるのは無理筋である。

その代わりに彼女が主張しているのは、科学者の声を聞くことだ。とりわけ、昨年10月に発表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1.5℃の温暖化についての特別報告書」は彼女の持っていた危機感と共鳴した。

加えて、彼女がニューヨークのスピーチで強調したのは、気温上昇がある臨界点を超えると、フィードバックの連鎖反応が起きて、人間がどんなに対策をしても、気温上昇が止まらなくなる可能性についてだ。

ただし、この点について、今回の彼女のスピーチは誤解を招くと筆者には思われたので、補足しておきたい。筆者の理解する限り、「1.5℃」を超えると必ずその連鎖反応が起きるとはいえない。現在の科学では、そのような連鎖反応が本当に起きるかも十分に理解されていないし、起きるとしても、何℃でそれが始まるかはわかっていない。

しかし、「最悪の場合」それが1.5℃付近で始まってもおかしくはないし、彼女が「最悪の場合」を心配するのであれば、それはよく理解できる。

それに、彼女がスピーチで指摘したように、あと10年で世界のCO2排出量を半減できたとしても、気温上昇を「1.5℃」で抑えられる可能性は五分五分なのだ。「五分五分の賭け」に彼女が安心できないことは、極めてよく理解できる。

このようにみて、グレタさんの主張する危機感は、大筋において最新の科学を踏まえたものだといえるだろう。

日本の科学者コミュニティーとしても、9月19日に、日本学術会議の会長談話として、同様な趣旨の緊急メッセージを発信している。

なお、「そもそも気候変動は本当に人間活動のせいなの?」という方もまだいらっしゃると思うので、これやこれやこれをご一読頂きたい。

4.個人の変化だけでなく社会システムの変化を求めている

 グレタさんが飛行機に乗らず、肉を食べないことから、他人にもそれを要求していると思う人がいたら、それは違う。

彼女は、個人の変化だけでなく、社会システムの変化が大事だと主張している。人々に「我慢」や「不便」を強いることは、彼女が特に求めていることではないと思われる。

飛行機に乗らないことなどは、彼女自身のこだわりの面が強いと想像される。もちろん、気候の危機を認識するならば、グレタさんほど徹底しなくても、飛行機には必要最小限しか乗らない、肉はほどほどに食べる、くらいの意識の変化は個々人にあってしかるべきだろう。

筆者の解釈になるが、たとえば、飛行機がすべてバイオジェット燃料や水素燃料で飛ぶようになれば(そしてそれらの燃料をCO2を出さずに作るならば)、人々は気兼ねなく必要な飛行機旅行をすることができる。あるいはテレプレゼンス技術によって、実際に移動せずとも海外に「居る」のと同じ感覚を味わえるようになるかもしれない。

肉にしても、代替肉はすでにできているし、みんなが食べるようになれば、安く、おいしく改良されていくだろう。

「技術でなんとかなる」という楽観論をグレタさんが喜ぶはずはないが、筆者の考えでは、彼女が求める社会システムの変化のための行動には、こうしたイノベーションを含めた社会や常識の大転換や、それを促進するための制度整備や投資を急速に進めることが含まれると思う。

5.大人に怒っているが、大人を憎んではいない(たぶん、まだ)

 ニューヨークでのグレタさんのスピーチが怒りに満ちていたことに、面食らった方も多いだろう。実は、筆者もその一人だ。

今回初めてグレタさんを知った人は、ぜひ、以前のスピーチも見てみてほしい。たとえばこれ。

これまでの彼女のスピーチは、冷静で、淡々としており、そのトーンから繰り出される辛辣な表現が胸に刺さる、というのが筆者の印象だった。しかし、今回のスピーチは違った。用意した原稿にも、話し方にも、怒りがむき出しだった。

今回のスピーチが違った理由は筆者にはわからない。しかし、スピーチをよく聞くと、気になる表現があった。

「もしあなたたちが状況を理解していながら行動を起こしていないのであれば、それはあなたたちが邪悪な人間ということになる。私はそれを信じたくはない」という意味のくだりだ。

グレタさんはこれまで、人々が行動を起こさないのは、危機が訪れていることを理解していないからだろう、と言っていた。だから、若者の学校ストライキで意識を喚起し、人々が目を覚ます、つまり、危機を本当に危機として理解することを求めていたのだ。そして、人々が目を覚ませば行動(つまり、本当に気候変動を止めるための対策)が起きると考えていた。

しかし、今回、彼女の中に、この考え方に対する疑念が生じたのではないか。サミットに集まっている首脳たちは、「理解しているのに行動していない人たち」、つまり、若者の未来を奪いながら、そのことをはっきりと自覚して平気でいる「邪悪な」人たちではないか、という疑念だ。

この疑念が確信に変わるとき、グレタさんの大人への怒りは、大人への憎しみに変わるのかもしれない。

彼女は現時点ではまだ「そう信じたくはない」と言っている。筆者には、彼女が疑念と確信の間を揺れているようにみえた。これが、今回のグレタさんの怒りと関係しているように筆者には思えてならない。

******

以上が、グレタさんについて筆者が知っていることや、考えてきたことだ。

グレタさんや、彼女と共に立ち上がった世界中の若者たちは、大人が上から目線で褒めたり貶したりしていい対象であるようには、筆者には思えない。

筆者は、今後も彼らを尊敬し、見守り、機会があれば支援し、操らず、邪魔をせず、そして彼らと共に考え、共に行動したい

江守正多
   国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に入所。2018年より地球環境研究センター 副センター長。社会対話・協働推進オフィス(Twitter @taiwa_kankyo)代表。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?-不確かな未来に科学が挑む」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?温暖化リスクの全体像を探る」「温暖化論のホンネ -『脅威論』と『懐疑論』を超えて」等。

江守正多の最近の記事

  【気候変動】パリ協定に基づく日本の成長戦略の「本気度」 5/6(月) 18:25
  [気候変動] 抗議する若者たちの懸念は正当である:世界の科学者が支持声明を発表 4/14(日) 13:34
  15歳の少女に叱られて考えた―2019年、気候変動問題に「希望」はあるのか? 1/8(火) 11:00
  地球温暖化対策 なぜ1.5℃未満を目指すのか -IPCC特別報告書を読む 2018/11/4(日) 8:00
  江守正多の記事一覧へ(44)

②2019年、気候変動問題に「希望」はあるのか?
   15歳の少女に叱られて考えた、脱炭素化する世界の総括と展望
   2019年01月01日 江守正多 国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長
   https://webronza.asahi.com/science/articles/2018122600004.html

 ポーランドのカトヴィツェで行われていた国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP24)がパリ協定の運用ルールをなんとか合意して昨年12月に閉幕した。気候変動問題をめぐってもいろいろなことがあった2018年が過ぎ去り、2019年が始まる。

 昨年、筆者の心を大きく揺さぶったのは、COP24の直前に、オーストラリアで数千人の子供たちが学校を休んで、政府に気候変動対策を求める抗議行動を行っているというニュースだった。さらに、それに先立ち、スウェーデンの15歳の少女、グレタ・トゥーンベリさんが、夏に議会前で2週間の座り込みをして、世界の子供たちに影響を与えたことを知った。12月にはスイスでも千人の子供たちが立ち上がった。

【画像】COP24でスピーチをするグレタ・トゥーンベリさん

 グレタさんは、CO2による地球温暖化を初めて指摘した科学者、アレニウスの血を引くそうである。グレタさんはCOP24の会場に現れ、スピーチを行った。1992年の地球サミットでカナダ人少女、セヴァン・スズキさんが放った伝説のスピーチと同様に、行動しない大人たちが子供たちの未来を奪っているという事実について、グレタさんは容赦なく糾弾した。COP24でのスピーチも印象的なものだったが、さらに、それに先立って収録されたグレタさんのプレゼンテーションの映像(TEDxStockholm)を見たとき、筆者は深く考え込まざるをえなくなった。

 その話をする前に、気候変動問題において2018年がどんな年であったか、少し振り返ってみたい。

気象災害が強く印象に残った一年

 自然科学的な側面からいうと、2018年の世界平均気温は観測史上4位を記録した。これは、弱いラニーニャが起こり、世界平均気温が低くなりやすかったことを考えると順当な結果だろう。世界平均気温は自然変動の影響を受けながらも高止まりが続いている。

 日本においては、西日本を襲った7月豪雨、引き続く災害級の猛暑、非常に強い勢力で上陸した台風21号、24号といった気象災害が強く印象に残る年となった。東日本の気温は、夏季はもちろん年平均でも過去最高を記録した。年々不規則に変動する気圧パターンにより、これらの「異常気象」が昨年もたらされたことは、いわば偶然だ。しかし、これらが「記録的な異常気象」になった背景には、地球温暖化の長期傾向による気温のかさ上げと水蒸気量の増加があったといえる。そして今後も同様の現象が増え続ける傾向にあることは、もはや必然だ。

【画像】拡大住宅街のすぐ近くで発生した山火事=2018年11月9日、米カリフォルニア州シミバレー、竹花徹朗撮影

 海外でも、カリフォルニアの山火事をはじめとして、多くの記録的な自然災害が発生し、気候変動対策の議論に影響を与えたとみられる。国内の報道でも異常気象が注目を集めたが、筆者の印象では、その文脈は概ね「防災」に留まった。昨年法制化された「気候変動適応」の観点からも、防災の強化自体は重要なことだ。しかし、異常気象の増加を食い止めるための気候変動緩和(温室効果ガス排出削減)に多くの人の意識が向く機会になったと言い難いのは残念だった。

非国家アクターのうねり

 対策の進捗に目を向けると、パリ協定にあたり各国が提出した国別目標は、すべて達成しても気温が3℃前後上昇するようなペースであり、2℃や1.5℃未満というパリ協定の長期目標を達成する削減ペースとは大きなギャップがある。これはパリ協定の合意時点でわかっていたことだ。

 しかし、パリ協定の合意以降、世界からは再生可能エネルギー(再エネ)の価格低下と導入拡大、電気自動車の普及促進、機関投資家や金融機関による石炭への投融資の撤退、再エネ100%(RE100)等を掲げる企業の増加、野心的な排出ゼロ目標を掲げる自治体の増加といったニュースが相次いでいる。このような「非国家アクター」によるボトムアップの行動が、技術と社会のイノベーションの志向を伴って、大きなうねりを生み出しているようにみえる。

【画像】拡大COP24の会場周辺で訴える国際NGOのメンバーら=2018年12月8日、ポーランド南部カトビツェ、神田明美撮影

 特に、連邦政府がパリ協定に背を向けている米国においては、非国家アクターの連合である〝We are still in”が本質的に重要な役割を持つ。昨年は、日本でもJapan Climate Initiativeが発足し、多くの企業や自治体が名を連ねた。10月にはカリフォルニアでGlobal Climate Action Summitが開催され、日米をはじめ、世界の非国家アクターが連携を深めた。

 このような行動から、政府が計画できなかったような大幅な対策の実現可能性が実証され、政府もその拡大を後押しするように新たな制度や目標を導入し、その相乗効果で当初目標以上の対策が進んでいくというのが理想であろう。

世界のCO2排出量は再び増加

 では現状でその効果はいかほどか。世界全体のCO2排出量の推移をみると、2014-2016年は排出量が横ばいで、ついに世界はCO2排出を増やさずに経済成長できるフェイズに入ったか、という期待が垣間見えた。引き続く2017年は排出量が若干増加したが、中国の景気の上振れなど変動要因があると思い、筆者は経過を見守った。

 そうして注目していた2018年の排出量であるが、結果は残念ながら引き続き増加となった。インドをはじめとする発展途上国で人口増加と工業化が続いており、そこに必要なエネルギー需要の増加を満たすために、現状ではまだ化石燃料需要が増加せざるを得ないのが世界の実態だということだろう。減少基調に入っていた中国の石炭利用も去年は増加した。再エネは世界で加速度的に増加しているが、絶対量はもちろんのこと、その増加速度も未だ十分ではないようだ。

 日本においては、CO2排出量は緩やかな減少傾向が続く。これは固定価格買取制度(FIT)により再エネが増加したことに加え、いくつかの原発の再稼働の効果とみられる。しかし、日本も優等生からは程遠い。太陽光発電の乱暴な増加をもたらしたFIT制度はその歪みの見直しを迫られた。九州ではピーク時に太陽光発電が抑制を余儀なくされ、電力系統の柔軟性整備の遅れが露わになった。また、国内で多くの石炭火力発電の新設計画があり、海外の石炭にも日本企業の関与が大きいとされる。

必要なのは「希望」か「行動」か

 このようにして振り返ると、2018年は非国家アクターの行動などで希望も多く感じられたが、そのうねりの勢いが世界の排出量を減少に転じさせるにはまだ足りていないことを直視させられ、焦燥を感じざるを得ない年となった。

【画像】プレゼンテーションするグレタ・トゥーンベリさん

 冒頭で紹介した15歳の少女、グレタさんの訴えに話を戻そう。彼女のプレゼンテーションで最も筆者の胸に突き刺さったのは、「『希望』は必要です。でも、希望よりもっと必要なのは、『行動』です」というくだりだ。希望をもって頑張ろうと人々は言ってきたが、排出量は減らなかったじゃないか、行動することによってのみ希望が生まれる、と彼女は指摘する。

 パリ協定の合意以降、その合意が成立したという事実と、その背景にあるイノベーションの展望やボトムアップの行動のうねりに自分自身が希望を見いだし、以降、その希望を強調してこの問題を語ろうと努めてきた筆者にとって、この指摘は胸にグサグサと刺さった。希望が未だ不十分だという焦燥を感じながらその指摘を聞いたのであるから、なおさらだ。

 ボトムアップの行動を起こしている非国家アクターは、グレタさんの期待に部分的にせよ応えているだろう。だが、おそらく大部分の政治家をはじめ、行動に大きな影響を持ちうるにもかかわらず、問題に関心を持たないか、むしろ現状維持に加担する結果をもたらしている多くの大人たちに対して、「希望」とか生易しいことを言っている場合ではないのかもしれない。グレタさんの言葉を聞いていると、ひしひしとそういう気がしてくる。

【画像】拡大パリ協定の運用ルールの採択したCOP24=2018年12月15日、ポーランド南部カトビツェ、香取啓介撮影

 しかし、よく考えると、筆者たち大人が彼女の主張を真似するのは難しい。その主張はグレタさんというピュアな主体の実存的な叫びであるから人々の心に届くのだ。手垢のついた大人が似たようなことを言っても、人々は「またか」と言って顔をそむけるか、反発してくるだけだろう。

 実際、危機を強調する気候問題のコミュニケーションは以前からあったが、それを繰り返しても人々は心配することに疲れ、危機について聞くことに麻痺してしまうことが、心理学的にわかっている。また、「希望」の無いところに「行動」を強いても、フランスの「黄色いベスト」運動(燃料税値上げに抗議する暴動)に象徴されるように、大きな反発が生じてしまう。

2019年の希望に向けて

 今年は日本でG20会合が開催され、6月には長野で「持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合」がある。それに向けて、2050年までの日本の低炭素長期戦略がとりまとめられる。それらの場で決まることが、十分な行動を促すと同時に希望をもたらすものになり、遠からぬうちに世界の焦燥を拭いさるものになるためには、何を考えるべきか。

 筆者は依然として、「希望」は「行動」と同じくらい必要だと思っている。たとえば、昨年10月に発表されたIPCCの1.5℃特別報告書から、1.5℃温暖化の悪影響の深刻さや、温暖化を1.5℃で止めることの困難さのみを読み取り、その危機感のみから行動を要請すべきではないと思う。

 1.5℃報告書で筆者が重要だと思うのは、「1.5℃未満を目指すこと」は「持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指すこと」と、win-winの関係にできることを示した点だ。つまり、何かを犠牲にして排出削減をするのではなく、世界を良くする(SDGsを目指す)と同時に排出削減ができると考えることによって、希望が生まれると同時に、主体的な行動が促される。

 もちろん、我々大人は、グレタさんや世界で立ち上がった数千人の子供たちの叫びを少しも過小評価すべきでない。彼らの叫びをグサグサと胸に刺しながら、これらの議論に取り組んでいこう。何よりも増して、彼らの行動こそが我々にとって眩しいほどの希望なのだから。



関連記事

  経済・雇用 温暖化対策は「負担」ではない。「ビジネス」だ 山口智久 2018年12月20日
  科学・環境 地球はカタストロフィーに向かうのか 西村六善 2018年12月17日
  科学・環境 沖縄の未来を奪うサンゴ礁の消失 桜井国俊 2018年12月07日
  科学・環境 想定内だが、想定外だった1.5度特別報告書 石井徹 2018年10月19日
  科学・環境 猛暑と太陽活動の関係は? 柴田一成 2018年08月10日


筆者 江守正多(えもり・せいた) 国立環境研究所 地球環境研究センター副センター長

1970年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。1997年に国立環境研究所に入所し、気候変動リスク評価研究室長などを経て現職。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書主執筆者。2012年に日本気象学会堀内賞受賞。著書に「異常気象と人類の選択」等。

江守正多の記事

  2019年、気候変動問題に「希望」はあるのか? 2019年01月01日
  京都議定書からパリ協定へ——アル・ゴアの20年 2017年11月10日
  「とうとう見るときがきちゃったのか」 2017年02月02日
  「脱炭素」は、産業革命か、共産主義革命か 2016年12月07日
  温暖化懐疑論とぼちぼちつきあう 2016年02月15日

「地球温暖化と激化する気象災害」(時論公論) - NHK
   2018年08月02日 (木). 土屋 敏之 解説委員
地球温暖化の影響(頻発する異常気象)
地球温暖化から想定される被害 ~災害・水不足の問題について考える~
地球温暖化で自然災害の深刻さは増すばかり 2018年、記録 ...
   2018年12月10日
コラム・事例 地球温暖化と大雨、台風の関係 - 国土交通省
地球温暖化は多様な災害の増加と同時発生をもたらし世界の多く ...
   2018年11月20日
「観測史上●●記録」を量産する時代~人類の生存を脅かす気候変動~
   2016年9月9日 伊与田
地球温暖化が進むとどうなる?その影響は?  WWFジャパン
   2015年8月26日
CDP21で「パリ協定」が成立!
   2015/12/13 国際的な気候変動対策にとっての歴史的な合意
WWFについて
   人と自然が調和して生きられる未来を目指して
地球温暖化の影響予測(世界) - JCCCA 全国地球温暖化防止活動 ...
地球温暖化の影響 - Wikipedia
地球温暖化の現状と原因、環境への影響|COOL CHOICE 未来 ...
気候変動の被害者たち(21)
   2019年2月7日
気候変動の被害者たち - エコロジーオンライン
   2019年2月7日

つぎのタイトル目次は自分がまとめた冊子の目次です。
      国連気候変動問題  目  次
  00 下平の感想               a1 ~ a4頁
  01 国連 気候変動スピーチで注目のグレタ   01頁
     さんについて知ってほしい5つのこと
  02 気候変動問題に「希望」はあるのか?   13頁
  03 「地球温暖化と激化する気象災害」    23頁
  04 地球温暖化の影響(頻発する異常気象)   29頁
  05 地球温暖化から想定される被害 ~災害・   31頁
     水不足の問題について考える~
  06 地球温暖化で自然災害の深刻さは増すばかり   36頁
  07 コラム・事例 地球温暖化と大雨、台風の関係   47頁
  08 地球温暖化は多様な災害の増加と同時発生を   50頁
     世界の多く ...
  09 「観測史上○○記録」を量産する時代~人類の   58頁
     生存を脅かす気候変動~
  10 地球温暖化が進むとどうなる?その影響は?   67頁
  11 CDP21で「パリ協定」が成立! 国際的な   81頁
     気候変動対策にとっての歴史的な合意
  12 WWFについて 人と自然が調和して生きられる   87頁
     未来を目指して
  13 地球温暖化の影響予測(世界)          91頁
      JCCCA 全国地球温暖化防止活動 ...
  14 地球温暖化の影響 - Wikipedia         93頁
  15 地球温暖化の現状と原因、環境への影響   110頁
  16 気候変動の被害者たち(21)           116頁
  17 気候変動の被害者たち            118 ~ 144頁