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続折々の記 2020①
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】12/30~     【 02 】01/01~     【 03 】01/03~
【 04 】01/05~     【 05 】01/07~     【 06 】01/08~
【 07 】01/12~     【 08 】01/19~     【 09 】01/20~
――――――――――――――――――――――――――――――
【 01 】12/30~
    社会が失う国語力  
              ・異論のススメ 

    カナリアの歌  
              ・就活で急に個性問われても「脅し」みたい
              ・自由に選んだ道、大人を気にせず自分の「正解」に
              ・吹き飛ぶ屋根、「数十年に一度」何かがおかしい
              ・元に戻れない、地球の分かれ道、若者は動く
              ・これからの10年、極めて重要だ アル・ゴアさんに聞く

    2019年 あの日 1月~12月
    キッシンジャーが米中均衡を宣言  
              ・田中宇 世界ニュースの解説


 12 30 (月) 昨年暮れのニュースなど     民衆と政治家・ジャーナリスト

暮になって

(異論のススメ スペシャル)
社会が失う国語力 佐伯啓思
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14310684.html?ref=pcviewer
     2019年12月28日05時00分

 関西のある研究機関が、毎年2回、関西圏の高校生を集めたセミナーを主催している。講師は理系、文系の大学教師で、20人ほどの高校生たちと2泊3日の合宿を行い、講義をし、語り合ったりする。私も2回ほど講師を務めたが、高校生たちの意欲や能力やさらには自己表現力にはしばしば驚かされた。西田幾多郎の「善の研究」なども取り上げたが、高校生たちはこの難解な本をともかくも読んできて、何やかやと議論している。しかも、将来についての展望をかなり明確にもっている者も結構いる。日本の大学はつまらないから米英の大学へ行きたいなどという者もいる。学力の低下や若者の内向き志向が指摘される中、これはたいしたものだと思った。

 しかし、そう思いつつも、少し複雑な気持ちにもなる。私自身のことをつい振り返ってしまうからだ。私は高校生の頃、とてもではないが、彼らのような強い意欲も能力も表現力ももっていなかった。こんなセミナーがあっても参加しただろうか、と思う。将来の明確な展望もなく、他人に対して自己を主張するほどの表現力も表現内容もなかった。ただあれこれ小説を読んだり、鬱々(うつうつ)と迷ったりしていただけであった。

 そもそも文章を書くことは大嫌いだったし、現代文、古典、漢文といった国語教科はまったく好きにはなれなかった。こころの支えは、ロマン・ロランのジャン・クリストフや、ドストエフスキー「罪と罰」のラスコーリニコフや、マルタン・デュ・ガール「チボー家の人々」のジャックや小林秀雄の描くゴッホたちであった。えらく暗い青春前期だったと思う。ところが、似たような仲間がそれなりにいて、いつもボソボソ、グダグダとしゃべっていた。

     *

 人は何かを語るとき、どうしても自分の経験を参照する。だから、私の場合、昨今の高校における学習指導要領の改変、大学入試の改革等も、この私のような高校生がいるとして、その目線から論じてみたくなるのだが、ここで書いてみたいのは、国語教育改革についてだ。

 しばしば論じられるのが、「現代の国語」を「論理国語」と「文学国語」に分割するという「改革」だ。どこからこのような発想がでてきたのか理解に苦しむが、多くの人が指摘しているように、文学的な感性や想像力をもたない論理はないし、また、それなりの内的な論理をもたない文学もない。この原則の一事に立つだけでも、これがほとんど無意味な「改革」であることは論をまたないであろう。この30年、われわれは、いったいどれだけの「改革」を見てきたのだろう。そしてそのほとんどが「改悪」であった。

 しかし、ここで気になるのは、その背景的な事情である。それは世界の15歳の生徒を対象にしたOECD(経済協力開発機構)の国際学習到達度調査(PISA)における日本の地位の低下だ。2003年に読解力低下のPISAショックが生じた後、多少の紆余(うよ)曲折の後に、この12月に公表された読解力において日本の地位は再び15位と過去最低になった。

 この事情が国語能力への危機感を高めたことは想像に難くない。とりわけ実用文の読み取り能力が低下している、という。したがって、論理国語を重視し、実用主義の方向で学力を向上させる、という。もっと有り体にいえば、PISAで恥ずかしくないように学力を向上させる、ということだ。

 PISAを指標とした名誉挽回(ばんかい)とばかりの読解力の向上など無意味だとしか思えないが、それは別としても、確かに、若者の読解力や表現力が著しく低下しているという印象はぬぐえない。いや、若者だけではない。大人も大差ない。居酒屋で近辺から聞こえてくる大人の会話の、概略、内容と表現力の欠如を大声やカラオケでカバーするという、もうおなじみになった光景をあえて論じるまでもなかろう。電車やバスに乗れば、大人も若者も、ひたすらスマホに見入っている。子供のうちから、スマホとゲーム漬けになり、降り注ぐような情報にさらされ、万事を情報処理として受けとめる若者たちから読解力も表現力も失われてゆくのは当然のことであろう。大人とて同じことである。われわれは、この20年ほどで、まさにそういう種類の社会を意図して作りだしてきたのだ。過度な情報化と競争社会が、社交というものの作法を失わせたのである。

     *

 しかしここにもうひとつの要因がある。先日、あるレストラン経営者と話をしていたら、次のようなことをいっていた。若い者が修業にきても、簡単に叱れない。また、「君はどうしてそれをやりたいのか、ちゃんと説明してくれ」ともなかなかいえない。少し強くいうと、パワハラだといわれかねないからである。その種のことがネットで拡散すると仕事に差し支えるからだ、という。

 確かにこうした風潮が社会を覆っている。明らかにPC(ポリティカル・コレクトネス)が行き過ぎているのである。もちろん、とんでもないパワハラが現実に教師の間でさえも生じているのだから、パワハラの告発そのものが悪いわけではない。だが、あまりに単純化された正義が絶対化されてしまい、反論を許さない、という風潮ができてしまった。戦後日本社会では、平和主義や民主主義、平等主義や人権主義などは憲法で保障された絶対的な正義とされ、その憲法そのものがあたかも聖典であるかのように祭り上げられた。その結果、これらの正義に対する疑義はあらかじめ正当性を剥奪(はくだつ)されてしまった。逆にまた、それに反発する側も敵対的な論難をしかけるだけという傾向が強い。

 学校という場にあてはめれば、みんな仲良く、平和が大事、誰もが平等、他人にやさしく、などといった耳当たりのよい概念があらかじめ思考の着地点になってしまった。そこで、この着地点に納得のいかない者は、陰で暴力をふるうか、学校からドロップアウトすることになる。これでは思考も貧困になるだろう。

 さらに、漢字の使用が制限され、難解な文章の読解が忌避され(これもあたかも暗黙のパワハラであるかに感じられたのだ)、できるだけ身近な読みやすい教材が選ばれる、ということになる。そこにツイッターなどの「いいね」式の文章やLINEの短いメッセージが横行すれば、読解力も表現力も低下しない方が不思議だ。

     *

 読解力とは、著者の意図を正確に読み、かつそれを自分なりに解釈することである。著者の意図を正確に読み取るには、著者の立場や気持ちがわからなければならない。そのためには、それなりの経験と想像力がいる。経験と想像力を養うには、様々な障害とぶつかり、自明とされていることに疑問をもち、それらを自分の頭で考えてみなければならない。正しい結論などどこにもない。誰もそれを教えてはくれない。ものを考えるには時間がかかる。試行錯誤を繰り返すしかない。これは、孤独で面倒でいやな作業であろう。だから、この孤独でいやな作業の手助けをする者が必要なのであって、それこそが学校であり、教師であり、家庭であり、場合によっては友人や知人であり、時には、読書なのである。

 国語の読解力が大事なのは、翻訳も含めて、国語で書かれた文章のなかに、先人たちの経験やそれをもとにした思索の跡が刻印されており、それを知ることがわれわれの想像力をかき立て、また鍛えるからである。それを鍛えることによって、大人になって社会にでてからの他者との社交もよりよきものとなろう。

 ただそのためには、古典とされる文学も、少々難解とされる思想書も読まなければならない。その程度の難解さに直面し、答えの見えない中を試行錯誤することが、現実の人生における難問を前にして多少は役に立つこともあるだろう。そして、そのためには、先人の残した古典や文学や思想への敬意がなければならない。

 かつては、社会全体にそのような敬意があった。権威もあった。しかし、戦後の日本では、先人の残した経験や古典への敬意は低く見積もられ、社会でも学校でもあらゆる次元で権威が破壊されていった。その上に、フェイクも駄弁も中傷も平等にふりまかれるこの情報化社会がやってきた。このなかで古典や思想や偉大な文学への敬意を回復するのは容易なことではなかろう。今日、われわれを取り囲んでいる、この過剰なまでの情報と競争の社会、短期的な成果主義や万事における革新主義(改革論)、それに行き過ぎたPC、という時代風潮こそが、読解力への障害となっていることを肝に銘じなければなるまい。

 数値的に示され、成績で評価される学力を向上させたければ、わかりやすい実用的文章を読ませ、難解で主観的な思想や文学は避ければよいだろう。しかし、それが本当の意味での読解力にもならなければ、文章から何かをえるという人生経験にもならないことは明らかである。

 だが、だからこそ、われわれはひとつの大きな岐路に立たされ、決定的な選択に直面している。高度な情報化とグローバリズムのなかで世界的な競争に勝ち抜く人材を育成し、あらゆる分野で学力の向上を目指すべく教育改革を断行するという方向が一方にある。今日の英会話能力の向上などもその方向を向いている。他方には、国語力を、生の経験の基礎的な訓練とみなして、国際競争力などに振り回されることなく、思想や文学の基礎的な読解を時間をかけて訓練する、という方向である。私は躊躇(ちゅうちょ)なく後者こそが必要だと言いたい。

 今日、学力向上が至上命令になり、学力低下が起きるとすぐに「改革」が行われ、ただただ学校教育現場の負担が増える。これでは、まったく逆効果である。問題があることは事実だが、その解決のために、負担を付加するのではなく、余計なものをできるだけ減らして、もっとも根本的なところへと立ち返るべきなのである。

     ◇

 さえきけいし 1949年生まれ。京都大学名誉教授。保守の立場から様々な事象を論じる。著書に「死と生」など。思想誌「ひらく」の監修も務める。

 ◇佐伯さんの「異論のススメ スペシャル」は随時、掲載します。



カナリアの歌 (プロローグ)
就活で急に個性問われても「脅し」みたい
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14311998.html?ref=pcviewer
     2019年12月29日05時00分

 年末の東京・表参道。都内の私立大3年の女子大学生(21)は、イルミネーションの中、黒いリクルートスーツ姿で歩いていた。

 夕飯代わりの黒糖タピオカ入りのミルクティーが温かい。志望企業でのインターンシップを終え、向かうのは就職活動の「塾」だ。

 就活塾「就活コーチ」は、表参道近くのワンルームマンションにある。慶応など有名大学の男女計6人が、グループディスカッションの講座に集まっていた。「OB訪問と傾聴力」の回では、疲労からか、ほとんど発言できなかった。

 議論の後、学生は手元に配られた1~6のトランプのカードを互いに手渡し合った。最も影響力があった人に「1」、なかった人に「6」。女子大学生の評価は自己評価も含めて最低の「36」。悔しさも、本番への不安ものみ込んで、「自分のせい」と受け入れた。

 広瀬泰幸代表によると、毎年80人ほどの学生が通う。技術革新とグローバル化で不透明な時代に、こうした就活塾は増えているという。背景には採用方法の複線化もある。1次選考を、コピペが簡単な書類選考から「ビデオ面接」に切り替える企業もある。

 今年は、「インターンの選考に落ちた」と、例年より2カ月ほど早い7月ごろから学生が集まったという。インターンは単なる職業体験にとどまらず、内定につながるとして重要になっている。焦りは切実だ。

     *

 「売り手市場」といわれる世代だ。だがリクルートワークス研究所によると従業員5千人以上の企業の求人倍率は0・42倍(2020年大卒)。安定を求めて大企業を目指す人は多い。

 女子大学生も「スキルアップを考えるなら大企業。親も望んでいる」と話す。

 一対一での自己分析と、グループディスカッションの対策講座があり、内定を得られなければ全額返金をうたう「就活万全コース」。約30万円の受講料は、親が払ってくれた。

 中学受験のため、小学校から塾に通っていた。テストや大学の偏差値で自分の立ち位置が数値化され、それが指標だった。就活で急に「やりたいこと」や「個性」を問われ、戸惑った。

 「AIに奪われない仕事を」「終身雇用は昔の話」「ベンチャーはリスクが高い」  矛盾だらけの大人たちの言葉は、まるで「脅し」のようだ。正直、「え?」と思う。でも、就活セミナーで聞いた言葉が耳に残る。「大人に反抗したら、それはダメです」

 大好きな絵もしばらく描けていない。焦りと不安の中、インターンの応募を続けている。(石川瀬里)

 ◇かつて炭鉱で異変を知らせたカナリア。歌が途切れるのが、危機のシグナルだった。いま、カナリアの歌は聞こえているか。まず、大人社会からのプレッシャーに立ちすくむ若者たちの声なき声に耳を澄ます。
(2面に続く)

自由に選んだ道、大人を気にせず自分の「正解」に
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14311967.html?ref=pcviewer

(1面から続く)
写真・図版  変化のめまぐるしい時代。若者の自由な発想を縛っているのは、右肩上がりだった時代の価値観を引きずる大人の側ではないか。(石川瀬里、三島あずさ)

     ◇

 都内の私立大4年の男子大学生(22)は、今年9月にシステムエンジニア職で内定を得た。待っていたのは、大手商社に勤める父親の反対だった。

 「将来子どもが中学受験するとき、40代で年収800万円以上は必要。その会社でその年収は見込めない」

 男子大学生は内定を辞退し、就活を再開した。1年余計にかかる学費は親が負担するという。

 内定を得た就活生が、周囲の大人から「せっかく有名大に入ったのに」「聞いたこともないような会社はやめなさい」と反対されることは、珍しくない。企業がわざわざ親の同意を確認する「親カク」もある。

     *

 「英語やプログラミングができないと、将来社会で通用しない」「20代から資産形成を始めないと苦労する」。時代の変化に対する不安感を、そんな若者へのプレッシャーにすりかえ、挑戦を彼らにばかり求めていないか。

 「変わるべきは、若者よりも、私たち大人じゃないか、と思った」

 東京を拠点に、ミドル・シニア層のキャリア形成を支援してきた木下紫乃さん(51)は、そう話す。

 会社勤務などを経て、45歳で大学院に入学した。若い同窓生から、志望先のベンチャー企業に内定したのに、将来を不安視する親に反対される「親ブロック」にあって入社先を変えた、という話を何度か聞いた。

 変貌(へんぼう)する社会に不安を感じながら、どうしたらいいか分からない大人たちの伴走者になりたい。3年前、ミドル・シニア層の相談に乗ったり企業研修を手がけたりする会社「ヒキダシ」をつくった。

 12月半ばの昼すぎ。東京・麻布十番のバーに、朝日新聞DIALOGのメンバーの大学3年、間宮秀人さん(21)と出向いた。全12席の店内は、会社員や初老の男性、赤ちゃん連れの女性で満席だった。木下さんが、知人の経営するバーを借りて、週1回お昼に開く「昼スナックひきだし」だ。「ママ」として2年間で112回開き、のべ1千人ほどの話に耳を傾けてきた。初対面の客同士も、話に花が咲く。

 間宮さんは就活中。「インターン先の社員から、目先の興味ではなく将来ありたい姿から逆算し、何歳までに何をするかを明確にするよう言われた。大学の3年間でも興味の対象は変わったのに、明確な将来像が描けるのかと戸惑った」と打ち明けた。

 木下さんは「変化が激しい時代。飛び込んでみて『違う』と思えば方向転換すればいい。将来の不安がない人はいないし、特効薬もない。自分で選んだ道を、自分の『正解』にしていけばいい」と話した。

 年代も経歴も異なる人たちと言葉を交わした約2時間。「自分がたどってきた道にストーリーが作れる人、プラスの意味づけができる人は、失敗も実りあるものに変えていける」。間宮さんは、そんな話が特に心に響いたという。

 ■バービーさん「好きなこと、隠さない」

 正解のない時代をどう生きるか。朝日新聞DIALOGのメンバーたちの対話の相手を担ってくれたのは、芸人のバービーさん(35)。芸人として活躍しながら、「自分らしさ」も発信している人だ。学生たちは、ヒントを見つけられるだろうか。

   就活では将来像を具体的に描くことが求められる。一方、バービーさんは、もともと芸人志望だったわけではないという。

 バービー(以下、バ):物書きになりたかったけど「芸人やってみない?」と誘われて。かちかちに決めず、運が動く隙を残していくと、良い方向に転がることが多かった気がする。

 20代の頃は「求められる芸人像」に120%応えてきた。ところが、30歳を過ぎたころ変化が起きた。

 バ:ササモリカナちゃんが寂しがったんです。私の本名なんですけど。私生活も仕事もバービーで、ないがしろにしてきたカナちゃんを、かわいそうだったと思うようになりました。お花が好きだから、1週間仕事を休んでイギリスのガーデニングの世界大会に飛んだんですよ。そこから「自分の好きなことを隠さないでいいかな」と。

 山を買い、理想の庭を造って散歩するのが夢です。地元の北海道で拠点となる古民家を2軒買いました。山もいくつか見ています。他人の評価を気にしない「カナちゃん活動」があることで、すごく楽になりました。

 バービーさんは12月から、受験生を応援するラジオ番組でMCを務める。「古い価値観」に縛られている人が多いことに、驚いたという。

 藤崎:「いい会社に」「そのためにいい大学に」というイメージは、まだ残っている。一方で、「個性を出していこう」というプレッシャーも大きい。

 古野:変な校則があっても「ルールだから」「先生に言っても意味がない」と諦めてしまう。学校でも主体性を育む場が限られていると感じます。

 受験の低年齢化、就活の前倒し、急速に進む少子化……。諸外国と比べて自己肯定感が低いとされる日本の若者の「しんどさ」を、どう和らげていくのか。鍵は、大人たちにありそうだ。

 間宮:小さな頃から色々なことを求められてきて、応えられないことが恐怖、みたいなところがある。

 バ:プレッシャーをかけられて育った人ほど自尊心が低い気がする。私は4人きょうだいの末っ子で、ほっとかれたのが良かった。自分で選んで失敗や成功をした体験が、今の自分を支えていると思う。

 大谷津:大学でも保護者会があり、企業説明会にも親が参加する。どう自立すればいいのでしょうか。

 バ:親の世代も、今の社会の流れについて行くのが必死で不安なのかも。でも、子離れしないと。社会的評価ではなく、「自分を満たしてくれること」を大人も若者もそれぞれが持ち、自立できれば、「息苦しい社会」が少しは変わるかもしれませんね。

     ◇

 バービー(本名・笹森花菜) 北海道出身、ワタナベエンターテインメント所属。東洋大学文学部印度哲学科を卒業後、2008年にお笑いコンビ「フォーリンラブ」結成。

     ◇

 社会部 三島あずさ 1976年生まれ。第1子妊娠中の06年、経産省が、考え抜く力、課題発見力、発信力など、三つの能力と12の能力要素からなる「社会人基礎力」を提唱。そんな人、育てられる?と、ぞわっとした。「○○力」を求めすぎる風潮を変えたい。

     ◇

 社会部 石川瀬里 1984年生まれ。栃木県出身。事件や裁判の取材を担当してきた。第1子の出産と夫の海外赴任が重なり、3年間の育休でメキシコへ。4月に復職。様々な肌の色、言語、文化が交ざり合う暮らしに、何かヒントがある気がしている。

 <朝日新聞DIALOG> 「日本の未来を語ろう」をコンセプトに、大人と若者が世代を超えて対話する場をめざす。様々な問題意識で集まった学生メンバーが取材や記事執筆、イベントを手掛ける。

 ◇2020年を目前にしたいま、私たちの社会は、未来を大きく左右する岐路に立っています。各分野を追ってきた記者が、いま一番伝えたい現場を訪ね、人々の思いをルポする連載を始めます。次回は気候危機の最前線から。

カナリアの歌 1
吹き飛ぶ屋根、「数十年に一度」何かがおかしい
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14312158.html?ref=pcviewer
     2019年12月30日05時00分

 3カ月以上たっても、災害の爪痕はくっきりと残っていた。「数十年に一度」が頻発するのは日本だけではない。

 カリブ海のリゾート国、バハマ。首都ナッソーから北へ飛行機で40分のアバコ島。道の両脇に折れ曲がった木が何キロも続き、繁華街のレストランや商店は壊れたままだった。

 ハリケーンは珍しくない地域だが、9月の「ドリアン」はいつもと違った。上陸時の最大風速毎秒82メートル、中心気圧910ヘクトパスカル。勢力は最強のカテゴリー5だ。

 海辺に住むギャリー・スミスさん(70)は税関を退職した15年前に高床式の家を建てた。「ほかのやつらが避難しても、俺はしたことがない」が自慢だった。だが今回は、6メートル以上という高潮にのまれ、柱と階段だけが残った。

 そこから内陸に約8キロ。野ざらしの浴室の壁を両手でひきちぎるとパラパラと白い粉が舞う。シャバーノ・ストラップさん(27)は「まだ半年しか住んでないのに」と嘆いた。屋根と外壁は強風に巻き上げられ、どこかに消えた。この一帯はそんな家ばかりだった。

 長年、島で暮らす父ショーンさん(52)は「地球温暖化が進んでいるからだ。これまでこんな被害はなかったんだから」と言った。港近くで家を片付けていた男性は「日本には今年、二つも来たね」と知っていた。

     *

 9月に強い台風15号が上陸した千葉県。房総半島の南端に近い海沿いの館山市布良(めら)地区は、年の瀬のいまもブルーシートがかかった屋根が目立つ。2階がなくなった家もある。勢見伸郎さん(71)は瓦が吹き飛び、天井の一部が抜け落ちた家で新年を迎える。もともと風は強いというが、ここまでの被害はなかった。

 「海があったけえから、あの時期でも大きな台風がここまで来たんじゃねえか」。昔いた魚をみなくなり、とれる数も減った。海のそばで長年暮らしてきたからこそわかる。「学者じゃねえからうまく説明できないが、『何か変だ』っていうのはみんなある」

 10月の台風19号が追い打ちをかけた。首都圏の鉄道は計画運休し、横浜などでラグビー・ワールドカップの試合が中止に。海外メディアは国際名で呼び、「カテゴリー5級のハギビスが東京に接近」と報じた。

 今年の日本の平均気温は過去最高を更新する見通しだ。日々の暮らしで感じる「おかしい」が、地球のあちこちで共有されている。だれがいつ被害にあっても不思議じゃない。(戸田政考)

 ◇かつて炭鉱で異変を知らせたカナリア。歌が途切れるのがそのシグナルだった。いま、カナリアの歌は聞こえているか。各分野を追ってきた記者が、いま一番伝えたい時代の転換点や危機の現場をルポする。
(2面に続く)

元に戻れない、地球の分かれ道、若者は動く
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14312134.html?ref=pcviewer

(1面から続く)
写真・図版  世界中が気候危機を実感している。ドミノ倒しのような悪循環に陥り、生存の基盤を失うかもしれない。岐路となる10年が始まる。(石井徹、戸田政考)

     ◇

 わずかな温暖化でも、気温や海面の上昇などが連鎖的に起こるスイッチが入り、不可逆的な段階に移行するという説がある。英科学誌ネイチャーは11月、「転換点は近い」という論評を載せた。引き金になるのは「特に北極域の氷床だ」と独ポツダム気候影響研究所理事のヨハン・ロックストローム氏から教わった。最前線を訪ねた。

 12月に入ったというのにその滝は凍りついていなかった。8割以上が氷で覆われるグリーンランド。中心都市ヌークからボートで1時間ほど東にある高さ40メートルほどの滝は、通常なら10月中には完全に凍るという。

 船長のユナス・エリクソンさん(38)は「温暖化のせいと言われるが暖かいのは歓迎だ」と屈託がない。

 だが、笑ってもいられない。デンマーク気象機関によると、この1年に解けた氷床は平年を2割上回る約3300億トン。7月31日から3日で310億トンが解けた。世界の海面を0・1ミリ押し上げる規模だ。

 夏には北極圏でも山火事が相次いだ。雪が少なく、乾燥が続いた。犬ぞり用の犬30匹を飼い、島の中西部のカンガルスアックで働くフランシスカ・オルセンさん(21)は「山火事の煙は町の近くまでやってきた。夏が早く始まり、なかなか終わらないので、長い期間犬ぞりを出せない。だれも気候危機から逃れることはできない」。

 北極圏は温暖化を先取りしている。世界の平均気温は産業革命前から約1度上昇したが、北極域では約3度に達する。白い氷や雪が解けて黒っぽい陸や海が顔を出すと、太陽光の反射率が減って熱がこもり、氷の融解が加速する。そんな増幅効果が働く。

 極域の氷と、足元の異常気象はつながっている。

 地球上の熱エネルギーの9割以上は海に蓄積される。この100年間で世界の平均海面水温の上昇は0・54度、日本近海は1・12度。台風19号は本州の近くまで広がった27度以上の海面水温の海域を進み、強大化したとされる。科学者らでつくる国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、温暖化が進めばハリケーンや台風の数は減る一方、非常に勢力が強いものが発生しやすくなると予測する。

 温暖化は私たちの家計をも脅かす。西日本豪雨などが相次いだ昨年度、気象災害による損害保険会社の保険金支払額は1兆5千億円を超えて過去最大に。今年度もこれに次ぐ1兆円規模になりそうだ。損保各社は今年10月、火災保険料を5~6%程度上げた。2021年1月にも再値上げの予定だ。

     *

 スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(16)に触発された若者主催で、9月に世界で760万人が参加した「グローバル気候マーチ」。11月29日、国内では25都府県で約2千人が行進した。東京・新宿の都庁近く。「地球は暑くなり過ぎている」などと書いたプラカードを持ち、生まれて初めてデモ行進に加わった学習院大3年の栗林燦(あきら)さん(22)の姿があった。

 きっかけは台風19号だ。

 首都圏に迫っていた10月12日。東京都昭島市の自宅で目の前の多摩川がみるみる増水するのを見た。食料や身の回りのものをリュックに詰め、家族と車で家を出た。「異常気象は来るところまで来ている」。マーチには一人で参加した。「こんなに多くの人が気候危機に関心を持っている。大学生でもできることはあると感じた」という。

 グリーンランドのヌークの高校生、サッシャ・ビルドルフさん(19)は今年3月、グリーンランドで初めて若者による気候危機を訴えるデモ行進を企画した。約200人が、石油やプラスチックの使用削減などを求めて行進した。

 6月にはデンマークの国会議員選挙に立候補した。「自分や子供の将来が心配で、何もしないよりはいいと思った」。気候変動対策を訴えたが、当選はできなかった。「若者は自分の教育を犠牲にして世界を変えようとしている。私たちの声を聞いて、リーダーは行動を起こし始めないといけない」

 「科学から離れている暇はない」。12月にスペイン・マドリードで開かれた気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)で、グレタさんは訴えた。世界各地から集まった若者たちも連日、温暖化の原因をつくった先進国やこれまでの世代に責任ある行動を求める「気候正義」の実現を迫った。日本から参加した約20人の若者は、世界の若者たちの行動力に目を見張った。日本大3年の太田紘生(ひろき)さん(22)は「どうしたら活動が広がるのか、まず自分自身が勉強したい」と話した。

 若者たちは動き出した。次は私たち大人の番だ。

 ■排出上限は目前

 地球温暖化が重要課題になったのは1980年代後半。国際社会はまず、大気中の温室効果ガス濃度を安全な水準で安定させるとした気候変動枠組み条約を発効させ、97年に採択した「京都議定書」で先進国に排出削減を法的に義務づけた。その後、すべての国が参加する「パリ協定」が15年に合意され、20年から本格的に動き出す。

 パリ協定は、産業革命前からの世界平均気温の上昇を2度未満、できれば1・5度に抑えることを目指し、今世紀後半に排出を実質ゼロにすると定めた。ただ、各国が今の削減目標を実現しても3度程度に達してしまう。

 IPCCが示すカーボンバジェット(炭素予算)という考え方によると、1・5度に抑えるには産業革命以降の累積排出量を2・6兆トン(二酸化炭素換算)程度にとどめなければならない。だが、排出は増え続けており、30年前に1兆トン程度だったのが17年に2・2兆トンに達した。このペースだと、10年もたたずに上限を超える。

     ◇

 編集委員 石井徹 1960年生まれ。97年の温暖化防止京都会議(COP3)から環境・エネルギー問題を取材。国際交渉の歩みはあまりに遅く、まだ時間があると思っていたが、世界が変わるより地球が変わる方が速かった。ただ、希望はまだある。

     ◇

 科学医療部 戸田政考 1985年生まれ。世界の環境問題を伝えたくて電機メーカーから記者に転職。取材の翌週、小学生に温暖化の授業をした。2100年の地球がリアルな世代だ。「どうすればいいですか」と質問され、先送りはできないと強く思った。

 ◇2020年を目前にしたいま、私たちの社会は、未来を大きく左右する岐路に立っています。様々な現場から人々の思いを伝えます。次回は、戦争の歴史を紡いだ記録が失われてはいないか、資料の山に囲まれながら考えます。
(3面に続く)

これからの10年、極めて重要だ アル・ゴアさんに聞く
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14312147.html?ref=pcviewer

(2面から続く)
 《アル・ゴア元米副大統領は、気候危機に立ち向かうリーダーを育てる「クライメート・リアリティー・プロジェクト」を主催し、10月に日本で初めて研修を開いた。東京・お台場の会場には約800人が参加、高校生を始めとする若者も大勢加わった。》

 「若者が気候危機に対して声を上げている。私は、若者が非常に重要な役割を果たし、政治的変化をもたらしたのを過去に何度も見てきた。同じことが、いま世界中で起きている」

 「数百万人がデモ行進に参加する海外に比べ、日本ではデモに参加する若者が少ない。このことを心配する声があるが、私は日本の政治文化がほかの国と違うのを知っている。日本の若者たちは、コンセンサスを変えていくという日本のやり方で変革をもたらすと決意している。変化には時間がかかるが、いったん合意されれば瞬く間に実施に移されるだろう」

     *

 《日本での研修は、世界14カ国44カ所目だった。》

 「京都議定書の時に日本がリーダーシップを発揮した印象が強かったので、開催の必要を感じなかった。だが、日本は変わってしまった。インドネシアやベトナムなどの石炭火力発電所の建設に多額の助成をしている。気候危機に取り組むリーダーのコミュニティーづくりが急務と考えた」

 「石炭政策を進める政権や経済界の人たちには、気候危機の真実と置かれている状況を理解して、自ら考えを変えることを望む」

 《台風などの気象災害の増加、熱波による健康被害、海面上昇による住居被害など、温暖化の影響はすでに顕在化している。》

 「サンゴ礁などいくつかの温暖化によるダメージには、回復できないものもある。しかし、絶望したり、まひしたりしている暇はない」

 「我々は、文明を終わらせるような壊滅的な損失を避ける能力はまだある。救えるものを救う決心をすべきだ。これは人間性を試すためのテストだ」

 「これからの10年が極めて重要だ。可能性は高くはないが、気温上昇を1・5度に抑えることは可能だ。我々は達成のためにできる限りの努力をすべきだ」(聞き手・石井徹)

     ◇

 アル・ゴア 1948年生まれ、米副大統領から2000年の大統領選に立候補したが落選。政界引退後は環境活動に専念し、ドキュメンタリー映画「不都合な真実」などで知られる。07年にノーベル平和賞を受賞した。

2019年一覧
2019年 あの日 1月~12月
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14312177.html?ref=pcviewer
     (年齢・肩書などは、原則として当時。海外の出来事は現地時間)
     2019年12月30日05時00分
 ■1月

 1日 原宿・竹下通りで車暴走 21歳の男が軽乗用車で通行人をはね、8人が重軽傷。明治神宮の初詣客狙う
 2日 平成最後の一般参賀 新年恒例の一般参賀が皇居で開かれ、平成で最多の15万4800人が訪れた
 5日 史上最年少、10歳の囲碁棋士誕生へ 大阪の小学生、仲邑菫(なかむらすみれ)さんを4月にプロ採用すると日本棋院が発表
14日 市川海老蔵さん、團十郎襲名を発表 歌舞伎の大名跡「市川團十郎」の十三代目を20年5月に襲名すると明らかに
15日 EU離脱協定案を英議会が否決 メイ英政権がEUと合意した離脱協定案。与党・保守党から118人が造反
17日 日立が英原発計画を凍結 想定した収益が見込めなくなり、事業を停止。3千億円の損失を計上
21・22日 コンビニでの成人向け雑誌販売の原則中止を発表 大手3社が8月末までに。訪日外国人客らに配慮
22日 日ロ首脳会談で平和条約交渉 日本政府は事実上2島に絞り返還交渉する方針で臨んだが、進展せず
25日 千葉県野田市で長女を虐待した疑いで父を逮捕 傷害致死などの罪で起訴。母は傷害幇助(ほうじょ)の罪で、懲役2年6カ月保護観察付き執行猶予5年の一審判決
26日 大坂なおみが全豪テニス優勝 18年全米に続き、4大大会2連勝。大会後にアジア勢初のシングルス世界1位に
27日 「嵐」が活動休止を発表 人気アイドルグループが、20年末で。リーダーの大野智さんが提起
28日 第198回通常国会が召集 安倍晋三首相が施政方針演説で厚生労働省の毎月勤労統計の不正調査問題を陳謝

 ■2月

 1日 米国が中距離核戦力(INF)全廃条約離脱を正式宣言 87年に米ソが結んだ条約。米国はロシアの違反を主張
 1日 警視庁が俳優の新井浩文容疑者を強制性交容疑で逮捕 東京地裁は求刑通り懲役5年の有罪判決
 7日 レオパレス21の1324物件に法令違反 天井の耐火性能を満たしていないなどとして住民に引っ越しを要請
 7日 北方領土返還要求全国大会の採択文で「四島不法占拠」消える 例年使っていたが、ロシアを刺激しない狙い
12日 池江璃花子が白血病公表 競泳女子エースがSNSにつづる。12月には退院を報告
16日 将棋の朝日杯で藤井聡太七段が2連覇 第12回朝日杯将棋オープン戦で優勝。連覇は羽生善治九段に続く2人目
19日 ホンダが英工場撤退表明 21年中に欧州の四輪生産から撤退すると発表。「英EU離脱問題は関係ない」と説明
22日 探査機はやぶさ2が小惑星着陸 砂や石を採取できたとみられ、7月には人工クレーターの近くに再着陸した
24日 県民投票で辺野古埋め立て「反対」7割超 沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡り、「反対」が72%を占めた
27日 毎月勤労統計の不正調査めぐり追加報告書 厚生労働省の特別監察委員会が、組織的な隠蔽(いんぺい)は認められないと結論

 ■3月

 5日 建築家磯崎新さんにプリツカー賞 「建築のノーベル賞」と言われ、日本人の受賞は8人目
10日 小林陵侑が総合優勝 ノルディックスキーのW杯ジャンプ男子で、日本勢初の快挙。ジャンプ週間では全勝だった
12日 麻薬取締法違反容疑でミュージシャンのピエール瀧容疑者逮捕 東京地裁は懲役1年6カ月執行猶予3年の判決
13日 新型ボーイング機が運航停止 新型の主力小型機737MAX8型の墜落事故が相次ぎ、米当局が運航停止に
13日 「アポ電」強盗事件で警視庁が男3人を逮捕 東京都江東区のマンションで80代女性が死亡。強盗致死の罪で起訴
15日 ニュージーランドのモスクで銃乱射 男がイスラム教徒を狙って銃撃し、その様子をネット配信。51人死亡
21日 イチロー引退 45歳まで日米のプロ球界で通算28年プレーし4367安打。「後悔などあろうはずがありません」
21日 統一地方選始まる 4年に1度。41道府県議選で無投票が最多となるなど、なり手不足が深刻に
27日 101兆円予算成立 消費増税の対策費が膨らみ、19年度予算は当初予算として初めて100兆円超え
28日 85年の松橋(まつばせ)事件で再審無罪 殺人罪で約10年間服役した宮田浩喜さんに熊本地裁判決。「犯罪の証明ない」
29日 中高年ひきこもり61万人 内閣府が40~64歳を対象にした初の調査による推計結果を公表

 ■4月

 1日 新元号「令和」発表 万葉集が典拠。皇太子さま(当時)が新天皇に即位した5月1日に施行された
 3日 選抜高校野球大会で東邦が優勝 89年以来5度目。平成の最初と最後の大会で頂点に立った
 5日 塚田一郎国土交通副大臣が辞任 道路事業の調査で首相と麻生太郎副総理の意向を「忖度(そんたく)した」と発言
 8日 日産自動車、カルロス・ゴーン取締役を解任 臨時株主総会で承認。日産でのすべての役職が解かれる
 9日 紙幣、24年度に刷新へ 政府が発表。1万円札は渋沢栄一、5千円札は津田梅子、千円札は北里柴三郎に
11日 WTOで日本、誤算の「敗訴」 韓国による震災被災地からの水産物輸入の禁止をめぐり、WTO上級委で日本が事実上の敗訴
15日 福島第一原発3号機使用済み燃料プール内の燃料取り出し開始 事故で炉心溶融した1~3号機で初
15日 ノートルダム大聖堂の火災 パリの世界文化遺産が燃え、尖塔(せんとう)や屋根が焼け落ちた。原因は特定できず
18日 ロシア疑惑の捜査報告書公表 トランプ陣営とロシアの共謀は「証拠不十分」、司法妨害は「潔白ではない」
19日 アイヌ新法が成立 アイヌ民族を法律上初めて「先住民族」と位置づけ、差別禁止などを明記
19日 池袋で車が暴走して母子が死亡、10人が重軽傷 運転していた旧通産省工業技術院の元院長(87)は書類送検
21日 衆院大阪12区、沖縄3区補選で自民敗北 大阪では維新新顔、沖縄では野党系新顔が初当選
21日 スリランカで爆破テロ 3都市で教会など8施設が爆発。イスラム過激派組織の犯行。250人以上死亡
24日 強制不妊被害者への一時金支給法成立・施行 反省とおわびを明記。一時金は一律320万円
24日 テロ対策施設の設置期限超過で原発停止方針 原子力規制委員会が決定。九州電力川内原発が20年に停止へ
25日 「遺伝子組換(くみか)えでない」表示の基準改正 23年から厳格化。混入5%以下から、「不検出」の場合のみに
26日 日米首脳会談 日米貿易交渉をめぐり、トランプ大統領が早期合意に意欲

 ■5月

 1日 新天皇即位、令和始まる 即位後朝見の儀で「憲法にのっとり、象徴としての責務を果たす」とのおことば
 4日 民間ロケットが宇宙到達 堀江貴文さんらが出資するベンチャー、民間単独で日本初の上空100キロ超を飛行
 4日 北朝鮮が飛翔(ひしょう)体発射 日本海に向けて。弾道ミサイルとみられ、発射はその後も繰り返された
 9日 トヨタ自動車とパナソニックが住宅事業統合 街づくりを担う共同出資の新会社をつくると発表。人口減に対応
 9日 東京五輪チケットの受け付け開始 抽選販売の受け付けが専用サイトで始まり、初日はアクセス集中で大混雑に
10日 米国が対中制裁関税第3弾発動 知的財産侵害を理由に5700超の輸入品目の関税を25%に。中国も報復
10日 汚れた廃プラ輸出入規制決定 バーゼル条約付属書が改正。再利用資源の汚れた廃プラは輸入国の同意必要に
10日 東洋英和女学院長を懲戒解雇 著書や論考で捏造(ねつぞう)や盗用があったと学内の調査委員会が認定
14日 日本維新の会が丸山穂高衆院議員を除名 北方領土返還に関連して、元島民に対し「戦争」に言及
15日 スルガ銀行の不正融資、総額1兆円超に 調査結果発表。シェアハウスなど不動産投資向け融資で通帳改ざんも
17日 将棋の豊島将之二冠が新名人に 3連覇中の佐藤天彦名人に4連勝。平成生まれの棋士が名人になるのは初めて
24日 英国のメイ首相が辞意 EU離脱を決めた国民投票後に就任して3年。離脱の道筋をつけられず
25日 大相撲夏場所で朝乃山が初優勝 三役未経験力士の優勝は58年ぶり。翌日の千秋楽にトランプ米大統領からも表彰
27日 天皇、皇后両陛下が米大統領夫妻と会見 トランプ氏夫妻は令和初の国賓として来日。日米首脳会談も開催
28日 川崎で児童ら刺され女児ら2人死亡 川崎市多摩区の路上で、男が登校中の小学生を刃物で襲う。男は直後に自殺
29日 パワハラ防止法成立 相談窓口の設置など防止策を企業に義務づけ。大企業は20年6月、中小は22年から

 ■6月

 1日 引きこもり状態の長男(44)を刺殺した疑いで元農林水産事務次官の男(76)を逮捕 東京地裁は12月、懲役6年(求刑懲役8年)の実刑判決
 4日 将棋の羽生善治九段、史上最多の通算1434勝 故大山康晴十五世名人の記録を27年ぶりに更新
 7日 サニブラウン・ハキームが9秒97 陸上男子100メートルで20歳が日本新記録
 9日 香港で大規模デモ 逃亡犯条例改正案に反対する市民が行進。一部が警察と衝突した
12日 改正動物愛護法が成立 生後56日以下の子犬・子猫の販売禁止や販売用犬猫へのマイクロチップ装着義務化が柱
13日 安倍首相がイラン最高指導者と会談 日本の首相として41年ぶりのイラン訪問で、ハメネイ師と初会談
14日 チケット不正転売禁止法施行 ネットでの高額転売の対策。座席指定などの要件を満たしたチケットが対象
16日 大阪の交番前で警察官襲撃 吹田市で男性巡査が刺され、拳銃を奪われる。容疑者の男は1日逃走した後に逮捕
17日 岩屋毅防衛相がイージス・アショアのずさん調査で謝罪 秋田市への配備計画めぐり
18日 政府が認知症施策推進大綱を決定 共生と予防を両輪に。70歳代での発症を10年間で1歳遅らせるとの記載も
19日 児童虐待の防止強化へ改正児童福祉法など成立 親らが「しつけ」で体罰を行うことを禁止。20年4月施行
20日 中国の習近平(シーチンピン)国家主席が訪朝 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談。中国最高指導者の訪朝は14年ぶり
20日 八村塁がNBAドラフトで指名 1巡目は日本選手として初めて。10月の今季開幕戦でウィザーズの先発で出場
24日 闇営業で芸人処分 振り込め詐欺集団の宴会で金銭を受け取り、雨上がり決死隊の宮迫博之さんらが謹慎処分に
25日 リクシル騒動が決着 首脳人事をめぐる混乱が株主総会で決着。瀬戸欣哉氏が最高経営責任者(CEO)に復帰
28日 ハンセン病、家族にも賠償 隔離政策を巡り、熊本地裁が初めて元患者家族の被害に対して国の賠償を命じた
28日 主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)開幕 大阪市で国内初開催。首脳宣言を採択
30日 トランプ氏が北朝鮮入境 現職米大統領では初。板門店で金正恩朝鮮労働党委員長と3回目の会談

 ■7月

 1日 商業捕鯨、31年ぶり再開 国際捕鯨委員会(IWC)を脱退して再開。捕獲枠は調査捕鯨時より4割減に
 1日 韓国向け半導体材料に輸出規制 政府が輸出優遇国からの除外方針を発表。元徴用工問題への事実上の対抗措置
 5日 「イッテQ」放送倫理違反 日テレ系人気バラエティー番組の祭り企画を巡る問題で、BPOが意見書を公表
 6日 「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」世界遺産に ユネスコの世界文化遺産に大山古墳(伝仁徳天皇陵)など49基を登録
 9日 首相が元ハンセン病家族訴訟で控訴断念 家族への人権侵害を考慮し、「異例」の判断
18日 「京都アニメーション」第1スタジオが放火され36人死亡 青葉真司容疑者は全身やけどを負って身柄確保される
21日 参院選で自公が改選過半数 野党は1人区で共闘し10議席確保、れいわ新選組とNHKから国民を守る党が初議席
22日 吉本興業社長が謝罪会見 所属芸人の「闇営業」問題を謝罪。芸人への「パワハラ発言」の釈明に追われた
24日 東京五輪メダルのデザインを発表 開会前1年で大会組織委員会が発表。金銀のメダルは夏季大会で最も重い
24日 英首相、ジョンソン氏に メイ氏の後任を選ぶ与党・保守党の党首選で勝利した前外相が就任
30日 メルカリがJ1鹿島アントラーズ買収 鹿島の株式の62%を日本製鉄から取得し、経営権を握ると発表
31日 かんぽ生命契約、顧客に不利益の疑い18万件超に 全契約3千万件を確認する方針も表明
31日 米連邦準備制度理事会(FRB)が10年半ぶり利下げを決定 景気悪化予防が理由

 ■8月

 1日 セブンペイ廃止に セブン―イレブンのスマホ決済、不正アクセス問題が響き、開始3カ月で廃止すると発表
 2日 中距離核戦力(INF)全廃条約が失効 米ロのINF全廃条約が失効。中国を加えた新たな軍拡競争の恐れ
 3日 あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」中止 テロ予告や、大量の抗議電話を受け。10月8日に再開
 3日 米で銃乱射、22人死亡 メキシコ国境に近いテキサス州エルパソの大型小売店で男が発砲。移民を敵視か
 4日 渋野日向子がゴルフ全英女子オープン優勝 日本勢のメジャー制覇は、77年全米女子プロ選手権の樋口久子以来
 4日 リクナビ、内定辞退予測サービス廃止 就活生約2.6万人の同意を得ず内定辞退率の予測を企業に売っていた
 9日 森友学園問題の捜査終結 検察審査会の不起訴不当議決を受けて10人を再捜査した大阪地検が、再び不起訴とした
14日 ココカラファイン、マツモトキヨシと経営統合へ 実現すれば業界首位に
18日 常磐道のあおり運転で宮崎文夫容疑者を逮捕 あおり運転の後、停車させて男性会社員を殴った疑い。同乗の交際相手も犯人隠避容疑で逮捕された
20日 立憲民主党と国民民主党などが衆参の統一会派結成で合意 現在の衆院120人は12年末に民主党が政権を失ってから最大となる野党会派
22日 夏の甲子園で履正社が初優勝 第101回全国高校野球選手権大会決勝で星稜(石川)を破った。大阪勢は2連覇
22日 AIロボット兵器のみの攻撃判断は禁止 国際会議で指針採択。拘束力はないものの、事実上の国際基本ルールに
22日 「天気の子」が100億円突破 新海誠監督のアニメ映画の興行収入が公開から34日目で大台を突破したと発表
23日 韓国が軍事情報包括保護協定の破棄を日本に通告 日韓関係の悪化で。米国は「失望」を表明。11月に一転継続
27日 政府が5年に1度の年金財政検証を公表 厚生年金の将来水準は今より約2割、国民年金は約3割低くなる見通し
28日 トヨタ自動車とスズキが資本提携発表 自動運転技術の開発を加速へ

 ■9月

 4日 香港政府がデモの引き金になった逃亡犯条例改正案を正式撤回 中国政府の意向も踏まえ異例の譲歩
 9日 日産自動車の西川広人社長の辞任発表 不正に上乗せされた報酬を受け取っていたことが発覚
 9日 台風15号が上陸 成田空港で多数が足止め。千葉県や伊豆諸島で停電、断水が長引く。熱中症で死者も
11日 内閣改造。小泉進次郎氏ら13人が初入閣 首相や菅義偉官房長官の側近重用も目立った
12日 ヤフーがZOZO買収を発表 ヤフーのネット通販事業拡大が狙い。ZOZOの前沢友作社長は退任
19日 シベリア抑留者の遺骨597柱が日本人でない可能性を発表 厚生労働省が検証。05年から指摘を放置
19日 東京電力の旧経営陣3被告に無罪判決 福島第一原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で強制起訴されていた
20日 ラグビーW杯開幕 初の日本開催で、日本代表は初の8強入りを果たした。11月の決勝は南アフリカが制した
23日 囲碁の一般棋戦で女性棋士初の準V 男女競合「竜星戦」で上野愛咲美(あさみ)女流棋聖が準優勝。女性最高位となる記録
23日 国連気候行動サミット 環境活動家グレタ・トゥンベリさん(16)が温暖化対策について怒りの演説
25日 日米貿易協定に日米首脳が最終合意 日本が輸入する米農産物などの関税を引き下げ。日本車への関税削減は先送り
26日 「あいちトリエンナーレ」への補助金不交付決定 文化庁は展示内容ではなく「手続き上の不備」が理由と説明
26日 NHK会長への注意が発覚 かんぽ報道に絡み、NHK経営委員会が昨秋、異例の厳重注意をしていた
27日 関西電力幹部20人の金品受領が発覚 福井県高浜町元助役から約3.2億円分
  (12面に続く)
  https://digital.asahi.com/articles/DA3S14312194.html?ref=pcviewer

 ■10月

 1日 食品ロス削減推進法を施行 国、自治体、事業者、消費者が連携し食品ロス削減に取り組む。フードバンク支援も
 1日 幼児教育・保育の無償化スタート すべての3~5歳児と住民税非課税世帯の0~2歳児が対象
 1日 消費税率が10%に 5年半ぶりの増税。食品などへの軽減税率、キャッシュレス決済でのポイント還元も
 1日 携帯電話の販売ルールが変更 改正電気通信事業法施行。端末代と通信料を切り分け。乗り換えはしやすく
 8日 囲碁で史上初の10代名人誕生 名人戦で19歳の芝野虎丸挑戦者がプロ入り最速、最年少名人に
 9日 ノーベル化学賞に吉野彰・旭化成名誉フェローら3人 リチウムイオン電池の開発に貢献
10日 セブン&アイHDが大型リストラ発表 セブン―イレブン約1千店を閉鎖・移転。スーパーや百貨店もスリム化
10日 大川小の津波訴訟で遺族の勝訴確定 最高裁が学校側の防災対策の不備を認定した二審を支持
12日 台風19号が上陸 関東や甲信、東北地方に広く記録的な大雨をもたらし、多くの死傷者が出た
14日 韓国のチョ国(チョグク)法相が辞任 文在寅(ムンジェイン)大統領の側近。娘の大学院への不正進学疑惑などで家族が検察の捜査を受けた
18日 月探査計画、日本も参加 半世紀ぶりの有人月着陸をめざす米主導の計画で、日本人飛行士が月に行く可能性も
18日 中東海域への自衛隊派遣検討を発表 ホルムズ海峡周辺などの日本関係船舶の安全確保が目的。12月に閣議決定
22日 天皇陛下が即位を宣言する「即位礼正殿の儀」 「日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たす」
23日 ソフトバンクが3年連続日本一 プロ野球日本シリーズで巨人に4連勝
25日 菅原一秀経済産業相が辞任 公設秘書が地元有権者に香典を渡していたなどの疑惑で
27日 バグダディ容疑者死亡と米国が発表 過激派組織「イスラム国」(IS)最高指導者。「カリフ」を名乗り、イスラム教徒に忠誠を求めた
28日 タイガー・ウッズが米ツアー通算82勝目 千葉開催のZOZOチャンピオンシップ制覇で、優勝回数が最多タイに
31日 河井克行法相が辞任 参院選で妻案里氏の陣営が公職選挙法の規定を超える報酬を運動員に払った疑惑で
31日 首里城で火災 玉座のあった正殿や北殿、南殿・番所が全焼。出火から11時間後に鎮火。計約4200平方メートルが焼けた

 ■11月

 1日 大学入学共通テストで英語民間試験の導入見送り 萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言で方針転換
 1日 東京五輪のマラソンが札幌開催に 暑さ対策のため、競歩とともに会場を移すことで、IOC、東京都などが合意
 1日 レジ袋有料化、来年7月 買い物で店が客に配るプラスチック製レジ袋について、来年7月からの有料化が決定
 4日 インド「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」からの撤退表明 参加国、20年の署名めざし交渉継続
 6日 ソフトバンクグループの中間決算、15年ぶり営業赤字 投資先の経営不振響き、巨額黒字から一転
 7日 井上尚弥がWBSS初制覇 プロボクシングの世界王者らが競う大会で、バンタム級の頂点に立った
10日 天皇陛下の即位に伴うパレード「祝賀御列の儀」 台風19号の被害を受け、延期されていた
13日 「桜を見る会」の来年度開催を中止 国の税金を使って開かれる会で、首相による「私物化」が批判される
15日 ハンセン病家族補償法成立 国会と政府の反省とおわびを明記。1人あたり最大180万円を支給する
18日 ヤフーとLINEが経営統合で基本合意 利用者合計1億人規模。国内最大のIT企業が誕生へ
20日 安倍首相の通算在職日数が憲政史上最長に 明治、大正期に首相を3回務めた桂太郎の2886日を超える
23日 ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇来日 教皇の来日は38年ぶり。長崎と広島で核廃絶などを訴えた
24日 香港区議選で民主派が圧勝 議席は8割超。投票率は返還後最高。香港政府や中国政府に民意が厳しい評価
26日 大河「麒麟(きりん)がくる」延期に 出演予定だった沢尻エリカ容疑者の逮捕を受け放送開始を2週間遅らすと発表

 ■12月

 2日 第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)始まる 15日閉幕。日本は具体的な温暖化対策出せず
 4日 中村哲(てつ)医師がアフガニスタンで銃撃され死去 NGO「ペシャワール会」現地代表として人道支援に取り組んだ
 6日 神奈川県が廃棄を依頼したハードディスク18個が流出 大量の個人情報を復元可能な状態で転売されたと発表
 7日 将棋の豊島将之名人が竜王奪取 広瀬章人竜王を破る。二大タイトル同時は史上4人目
 7日 横浜F・マリノスが優勝 明治安田生命J1で15年ぶり4度目のリーグ制覇
10日 セブン―イレブン、3万人に残業代未払い 加盟店のアルバイトらの残業代未払いが4億9千万円あったと発表
12日 英下院総選挙、保守党大勝 20年1月末に欧州連合(EU)離脱へ
12日 川崎市でヘイトスピーチに刑事罰を科す全国初の条例 最高50万円の罰金
17日 大学入学共通テストの国語と数学の記述式問題の導入見送り
18日 性被害訴えた伊藤詩織さんが勝訴 東京地裁は「合意がなかった」と認め、元TBS記者に330万円の賠償命令
18日 米下院がトランプ大統領を弾劾(だんがい)訴追 大統領の訴追は21年ぶり3例目。上院で弾劾裁判を受けることに
19日 政府の全世代型社会保障検討会議が中間報告 パートらへの厚生年金の適用拡大や、75歳以上の医療費の窓口負担割合に「2割」新設などを明記
20日 日本郵政への情報漏洩(ろうえい)で鈴木茂樹総務事務次官を更迭 かんぽ不正をめぐる行政処分の検討状況を元次官に漏らす
25日 東京地検特捜部が自民党の秋元司衆院議員を収賄容疑で逮捕 IRを巡って中国企業側から現金を受け取った疑い
27日 福島第一原発の廃炉工程表を改訂 溶け落ちた核燃料の取り出しは21年に2号機から。改訂は5回目




2019年12月4日   田中 宇
キッシンジャーが米中均衡を宣言

11月14日、米元国務長官のヘンリー・キッシンジャーが米国の「米中関係全国委員会」の年次会合で講演し「中国の台頭により、米国はもう中国を倒せない状態になっている。米国は世界的な単独覇権を維持できなくなった。米国と中国は競争しつつ共存していかざるを得ない。米中の完全な和解はないだろうが、決定的な対立もできない。米国が覇権維持のため中国を倒そうとすると、米中間が第二次大戦よりもひどい戦争になる。米国は単独覇権体制をあきらめねばならない。これは恒久的な状態だ」という趣旨を発言した。 (Henry Kissinger: A permanent U.S.-China conflict will be 'catastrophic')

キッシンジャーの指摘の要点は「米中の国力がすでに均衡しており、それが今後ずっと続く」と予言したことだ。キッシンジャーは「均衡」という言葉を使っていないが「中国が台頭し、米国に倒せないほどの大国になった。この状態はずっと続く」という言い方は「米中の均衡状態」を意味する。ここでいう「均衡」は、軍事力で相手を倒せない状態を指す「地政学的な均衡」だ。GDPの大小などの経済面ではない。世界において、諸大国が地政学的に均衡すると、多極型の世界体制になる。 (Henry Kissinger Gets It... US "Exceptionalism" Is Over)

米中の恒久均衡は、多極化でなく、米中が組んで世界を支配する「米中2極化」の宣言にも聞こえる。だが同時にキッシンジャーは、米中の完全な和解も難しいと言っている。ブッシュやオバマの時代に一時画策された、米中が和解談合して顕然もしくは隠然とした同盟関係(G2)になり、G2が世界を支配する体制は無理だ。米国はトランプになって、貿易戦争や香港民主化のなど分野で中国を怒らせ続け、米中協調が必須なG2の可能性を壊している。米国はまだ単独覇権にこだわっているが、中国は米国を押しのけて単独覇権国になりたいと全く思っていない。中国は、米国、ロシアやインド、EUなど、他の諸大国と対等な関係を維持し、諸大国が均衡する多極型の覇権体制を好んでいる。米国に愛想をつかした中国は、ロシアやイランなど非米反米諸国と協調し、そこにインドやEU、日豪なども取り込んで米国抜きの非米的な多極型世界を構築しようとしている。いずれ米国もそこに入らねばならなくなる。キッシンジャーは今回、米中関係だけを語ったが、彼が今回語らなかった米中以外の世界の状況を見ると、向かう先はG2でなく多極型だ。 (米国と肩を並べていく中国) (アメリカが中国を覇権国に仕立てる)

ニクソンの大統領補佐官だったキッシンジャーは1971年のニクソン訪中を演出し、今に続く中国の台頭を誘発した張本人の一人だ。キッシンジャーが今回講演した米中関係全国委員会は、まさにキッシンジャーとその背後のCFR(米国の世界戦略立案の奥の院)が米中和解と中国の成長開始を画策し始めた1966年に創設された(そのころキッシンジャーはCFRの研究員として米中和解を挙行できる大統領が出てくるのを待っていた)。キッシンジャーは今回の講演で、自分が50年前から手がけてきた中国を台頭させて米中の均衡状態と世界の多極化を実現する事業がようやく完成しつつあることを宣言したわけだ。 (米国覇権が崩れ、多極型の世界体制ができる) (Will America's Trade Policy End Up Destroying The Dollar?)

中国の台頭や米中均衡は目新しい話でない。中国が日本を抜いて世界第2位の経済大国になる前後の2005年から、米中協調のG2の必要性が提唱されていた。当時は、米国が金融(債券発行)と消費を担当し、中国が製造と債券購入を担当する米中の相互依存があった。だが17年にトランプが米大統領になって米中が相互の貿易に懲罰的な関税をかける米中貿易戦争が起こり、経済の相互依存が解除される「デカップリング(分離)」が起きている。米国が発行し続ける債券は、中国でなく中央銀行群のQE(造幣バブル)が買っている。トランプは、中国を怒らせて米国依存をやめさせ、中国が対米自立的な国際経済システム(一帯一路など)を作るようけしかけ、デカップリングを扇動している。米中の均衡は、協調的でなく対立的な形で定着しつつある。 (やはり世界経済はデカップリングする?) (US commerce secretary to vet imports of sensitive technology)

トランプは中国大手企業のホアウェイへの制裁を強めているが、ホアウェイの最新のスマートフォン(メイト30)には、米国製のチップが全く使われていない。以前はスマホに必須だった米国製のチップ類は、今や中国製のチップに取って代わられている。トランプが中国勢を制裁するほど、米中のデカップリングが進み、中国は米国抜きで経済を回せるようになり、非米化した中国のシステムが世界を席巻していく。 (China No Longer Needs US Parts In Its Phones) (Tech War: Trump Admin Considered Nuclear Option In Banning Huawei From US Banking System)

キッシンジャーの宣言は、こうした現状を追認するものだ。彼は米中の対立的均衡を懸念しているが、これは私から見ると「演技」だ。トランプは、ニクソンやレーガンの隠れ多極主義や軍産との暗闘を継承しているが、元々その方向性を作ったのはキッシンジャーだ。トランプはキッシンジャーの弟子だ。米中が今のような対立的な均衡を続けても、キッシンジャーが言うような戦争にはならない。 (世界経済を米中に2分し中国側を勝たせる) (Consciously decoupling the US economy)

「米国が中国を敵視し続けると世界大戦になる」というキッシンジャーの指摘は、軍産複合体への警告でもある。しかし実のところ、軍産の目標は米国覇権を維持することであり、中国と戦争して世界を潰すのは軍産の戦略でない。軍産は、同盟諸国を対米従属させておくために中国敵視の演技をしたいだけだ。しかも軍産はトランプとの権力闘争に負けて弱くなっている。トランプは就任以来、一度も新たな戦争をしていない。彼は演技として中東などへの「米軍増派」をたびたび宣言するが、それは数百人とか千人という小さな規模だ。今のようなデカップリングの状況下では、米国が中国を敵視するほど、中国は一帯一路など「米国抜きの世界経済システム」や「非ドル決済体制」を強化し、米国と付き合わなくて良いように多極化を推進する。米中は戦争にならない。それどころか逆に、たとえばトランプが10月に起こしたシリア撤兵騒動は、シリアやイラク、レバノンの経済復興利権をごっそり中国に持って行かれる事態を引き起こしている。 (中国が好む多極・多重型覇権)

中国はすでにAIや電気自動車(バッテリー)、5G通信などの次世代の先端技術の多くを世界的に主導している。ホアウェイはその一例だ。米国は、これらの中国の先端技術が「米国に対するスパイ活動」に使われると言って制裁対象にしつつある。EUなど米同盟諸国が中国の先端技術を使おうとすると、米国は「中国の先端技術を使う国は、たとえ同盟国であっても、米国に脅威を与える存在とみなし、制裁対象にする」と言い始めている。米国との同盟か、中国の先端技術の利用かの二者択一を迫られる同盟諸国は、しだいに「中国」を選ぶようになっていく。中国を捨てて対米同盟を維持しても、トランプは同盟国に意地悪なので、他のイチャモンをつけて同盟を切っていく。EUも日豪も、しだいに米国を離れて中国に寄っていく。 (世界資本家とコラボする習近平の中国)

最近では国連が、今後の「監視システム」の世界標準として中国の技術を選ぼうとしている。中国は、米国に比べてはるかに少ない金額しか国連に上納していないが、米国が国連を敵視する穴埋めを中国が進めた結果、米国よりはるかに強い影響力を、中国が国連に対して持つようになっている。 (Chinese tech groups shaping UN facial recognition standards)

米国は、中露イランと同盟諸国とのドル決済を監視して制裁する姿勢をとっている。世界の諸国は、米国に睨まれたくないので貿易でドル決済を使いたくなくなっている。中露イランやEUは、非ドル的な国際決済システムの整備を急いでおり、先日はEUとイランとの決済システムINSTEXへの加盟国が急増した。こうしたドルに代わる決済機構が整備されていく流れが続くと、米国の経済覇権の根幹であるドルの基軸性が失墜していき、米国の覇権喪失、ドルや米国債の最終的な価値の下落につながる。米中の対立的な均衡が続くと、戦争ではなく、米国の覇権低下と多極化が起きる。 (US Enraged After 6 More EU Nations Join INSTEX To Bypass Iran Sanctions)

キッシンジャーやトランプは、それを意図的に引き起こそうとしている。彼らの背後にいるCFRは、ロックフェラーやJPモルガンなど資本家の集まりで、軍産が世界的な経済成長を阻害して米国覇権に固執してきたのをやめさせたい。米国覇権下では、金融バブルが膨張するものの、世界の実体経済の長期的な成長が少ない。バブルはいずれ収縮する幻影だ。米国覇権を解体し、多極型に転換した方が、新興市場諸国が伸び伸びと発展でき、世界経済が長期で成長する。戦後の米国の実体経済が行き詰まった1970年代から続いている「隠れ多極主義」は、世界大戦を起こさずに覇権の型を転換する絶妙な戦略である。(それに対抗して、軍産が金融界と結託して80年代以降の債券金融バブルの30年間の拡大をやってきた) ("US Is The Biggest Source Of Instability In The World," Says Senior Chinese Diplomat) (Don’t Fuel China's Paranoia in Hong Kong)

キッシンジャーが米中の恒久均衡を宣言した後、中国の香港では11月24日、区議会レベルの選挙で中共敵視の民主派が圧勝し、中共の傀儡勢力が急減した。その直後、米議会で、香港の民主化を支援する中国敵視の法案が圧倒的多数で可決され、トランプの署名で発効した。米国(国務省、諜報界)は、中国敵視策の一環として香港民主派の運動を支持してきた。香港の民主派は、米国の代理勢力である。一連の動きは、香港における中国と米国の代理戦争における、米国の勝利、中国の敗北を意味している。「中国が負けたぞ、ざまあみろ」という論調が日本でも広がった。 (Time for Beijing to rethink Hong Kong script after pan-democrat landslide, Chinese analysts say) (Furious China Warns "The US Plot Is Doomed", Threatens Retaliation After Trump Signs Hong Kong Democracy Bill)

しかし中長期的に見ると、香港の選挙で民主派が圧勝して中共が屈辱を受けたことは、香港にとって大きなマイナスになる。中共は仕返しとして、深センなど近隣の他の地域を重視して、香港の経済的な重要性を低下させていくだろう。香港の民主化運動は、米国旗(英国や台湾の旗も)を掲げ、自ら米国の傀儡であることを表示しており、中国大陸の人々の支持を得られない構造にされている(黒幕の米諜報界がそうさせたのだろう)。中共が最も懸念するのは香港の運動が大陸に波及することだが、その可能性は低い。中共としては、香港の運動を勝手に続けさせ、時間をかけて香港経済を衰退させていく方向だろう。米国は、中共が香港民主派の要求を容れないことを理由に中国への経済制裁を強めているが、すでに米中貿易戦争で米国から経済制裁(懲罰課税)されている中国としては打撃でない。最終的に米国の覇権低下につながる米中デカップリングを強めるだけだ。 (Hong Kong act complicates world’s most important relationship) (US’ Hong Kong democracy act slanders China to a level close to madness, Foreign Minister Wang Yi says)

米議会では、香港支援法に続き、台湾支援の新法も共和党主導で審議されている。米国の役所が台湾(中華民国)の国旗を掲げることを認める(奨励する?)法律だ。これは、国旗という象徴的な意味で「台湾を国家として認める」ことだ。中国は「ニクソン訪中時に米国が約束した『一つの中国の原則』に違反している」と怒っている。これも、中国を怒らせて世界の非米化・多極化に拍車をかけようとするトランプとCFRの一味が進めていることだろう。この流れは最終的に中国を強化するので、長期的に台湾にとってマイナスだ。台湾は、トランプの隠れ多極主義の道具に使われている。 (US to introduce bill allowing display of Taiwan flag at government agencies) (China Slams Ted Cruz's "Bare Provocation" In Taiwan Act, Threatens Disastrous War)

米国はこれまで、中ソとの冷戦やテロ戦争、中国包囲網など「敵視」によって単独覇権を維持してきたが、中国は対照的に「協調」によって多極型覇権を維持したい。たとえば中国は、今の非米世界の多極型体制の始まりとなった2000年のロシアとの協調強化の時に、アムール川など中露の国境紛争をすべて解決し、まず最初にロシアとの紛争の火種を消した。その後、中国人がロシア極東の経済利権を買い占める迷惑行為の頻発など、中露関係は齟齬もあるが、根本的な対立になっていない。米中の均衡が続くほど、世界は、米国の敵対式より中国の協調式の方がましだと思うようになる。中国人は、買い占めや高利貸しの迷惑行為を世界中でやるが、侵略戦争や濡れ衣的な経済制裁、やらせのテロ(軍産によるISアルカイダの育成)などを世界中でやってきた米国よりはましだ。今はまだ軍産マスコミのプロパガンダの効果で、米国=善、中国=悪の構図が席巻しているが、それもしだいに下火になる。 (結束して国際問題の解決に乗り出す中露) (American Exceptionalism Driving World to War – John Pilger)

中国で中小銀行の破綻が相次いでおり、米国より先に中国が金融破綻しそうだという話がでている。中国はたしかに金融がバブル状態だ。しかし中共は何年も前から金融バブル潰しを進めており、バブルの膨張をあおっている米国(や日本)と逆方向だ。長期的には、先にバブル崩壊している中国の方が先に復活する。 (A $20 Trillion Problem: More Than Half Of China's Banks Fail Central Bank Stress Test) (中国の意図的なバブル崩壊)

これを書いている間に、トランプが米中貿易交渉の妥結を来秋の選挙後まで延期し、12月15日に中国への懲罰関税を実施するかもしれないという話が出てきた。懲罰関税が実施されると、米国発の世界的な株の急落が起きるとも予測され、12月3日から世界の株価が下落している。米中のデカップリングは米国の巨大なバブルを崩壊させる。それを防ぐために、米連銀や日銀が自滅的なQEを加速せざるを得なくなる。 ("It Would Be A Huge Shock To The Market" - What Happens If The Dec 15 Tariffs Kick In)