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夢想の研究 ―活字と映像の想像力―

創元ライブラリ(早川) 1999(1997) 瀬戸川猛資


マニアとは陰湿なもの、という誰もが多少は持っている(たぶん)思い込みを払拭してくれる本。一つのことに打ち込むということは、もっと硬質で美しく純粋なことなのだ。そう語っている。そして、この本の中でミステリは、悪魔的なまでに魅惑的なものとして描かれている。

ミステリだけでなく映画についても語っている本だから、でもあるだろう。華やかな映画は常に魅惑の宝庫だ。だが、その背景には常に時代性が息づいている。映画は感性で観ることができる代わり、知性を働かせなければ背後にあるものが見えてこない。そういうふうに考えると、小説とは正反対の性質を持つもの、という気もする。

とにかく、この本において、瀬戸川氏はこれでもかと言わんばかりに“知の翼”を広げている。

夢想の研究

目次

  • 謎解き――男だけの世界
  • わたしは悪魔
  • 帝王伝説
  • 聖域へ
  • ビデオ雑記帳から
  • 獅子王変化
  • 大君の都
  • 夢のなかの生涯
  • 異なる文化
  • センス・オブ・ワンダー
  • 破滅の愉しみ
  • 天空の人びと
  • からくり兎
  • 些細な事柄
  • 硝子玉とコルク玉
  • もうひとつの顔
  • 月の山脈
  • 裏切る現実
  • 或るコンプレックス
  • 幻の国
  • 太古の祭り
  • 彼方の物語
  • 灯台もと暗し
  • 霧のなかの群衆
  • 問題作の作り方
  • 東の風
  • 地球をめぐる風
  • 本の燃える日

センス・オブ・ワンダー

SFとミステリが渾然一体となっていた時代を振り返った、ノスタルジックで感動的なエッセイ。アシモフ本人による少年時代のエピソードなども載っていて、SFにまつわる原体験を持つ人は一気に“タイムマシンに乗って”過去へ運ばれてしまうのではないか。そして、生き生きとした少年時代のイマジネーションに浸り、ふと我に返って自分の周りを見渡すと、このエッセイの中のH・G・ウェルズの言葉にもあるように“陳腐で、空想性を欠き、混乱し”た印象を持つかもしれない。

からくり兎

映画『ロジャー・ラビット』について。あの映画をのほほんと笑いながら観たわたしには、衝撃的な内容だった。確かに、どこか興趣に満ちた内容だな、とは思ったが、それが実際どういうものか、はなから分析する気もなければ、そんな知識もなかったのだ。(お菓子を食べながら観てた気がする)これを読んで、「ああ、そうか!」と何回も叫びたい気分に駆られてしまった。いや、ミステリ・ファンなら叫んで当然。

ファンならこれを読むべし。いや、『ロジャー・ラビット』を観てから、読むべし。だ。

硝子玉とコルク玉

これも、ミステリ・ファンならば読むべし。映画『市民ケーン』について、これ以上ないくらい斬新な切り口で書かれた論評だ。特に、黄金期ミステリファンは必読。


途中、「入院して、これ幸いと病院のベッドで本を読み漁った」というくだりがあるけど、一体何冊読破したのか、とにかくこの本に収められている情報量たるや膨大。しかし何より呆れさせられるのは、一を聞いて十を知る、ならぬ、一を聞いて百にも千にも及びそうな、その想像力。いや、正確にいえば、それは想像力ではなく、上で述べたような、映画を読み解くための知性の翼なのだ。

もし現代の人々にそういう力のかけらでもあったとしたら、世の中はもっと多くの美しい創造物で溢れていたかも、と思う。