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海外ミステリ探偵ベスト100

現代教養文庫 仁賀克雄


海外ミステリ探偵ベスト100

『幻想と怪奇』やスタンリイ・エリン『最後の一壜』などを翻訳した仁賀克雄による、ミステリの紹介本。その切り口はもちろんタイトルどおり、探偵100人のリストアップというもの。それぞれの探偵のプロフィールや代表作などを、ほぼ1人につき2ページの割り振りで紹介していて、その細かい作業もさることながら、紹介文の簡潔にして的を得た内容にも感心させられる。

100人というからにはもちろん100人の名探偵が名をつらねているわけで、目次に並ぶそうそうたる名前を眺めているだけでも、わくわくしてくる。全部を紹介することはとてもできないので、一部を取り上げてみよう。あいうえお順で索引が構成されているのだが、あ、つまり一番最初に載っている探偵は誰か? ――答えはチャールズ・アダムス。リック・ボイヤーの冒険小説の主人公だそうだ。では、最後に載っている探偵は誰か? ――答えはモウゼズ・ワイン。『大いなる賭け』などを書いたロジャー・L・サイモンの作り出した探偵だ。

索引からエラリイ・クイーンを選び出して、ページを開いてみよう。

エラリイ・クイーンはニューヨーク西八七丁目のアパートで、父リチャードとその養子ジューナと共に暮らしていた。彼はビブリオマニアと呼ばれるほどの本マニアであり、若い頃にはしばしば文献からの引用を持ち出して周囲を困惑させる癖があった。一八〇センチを超える長身で、身体はよく引き締まっている。鎖でつないだ鼻眼鏡をかけており、考え込む時にはそれを弄ぶ癖がある。かなりのヘビースモーカーでもあり、考えが煮詰まってくると、休みなしに煙草をふかし始める。ニューヨーク市の外へ出る時には、一九二四年型のデューセンバーグを運転するが、これは後部座席にガタがきた代物である。

こんな出だしではじまる。まさに、ああ、そうそう!と手を叩きたくなるようなツボを押さえた説明だ。やはり、さすがは仁賀氏というところで、生半可なファンなんかとは、知識量やこだわり方がちがうのだ。

というわけで、この本はデータ好きのミステリ・ファンにはいちおしと言えるのだが、そうでない方にも、ミステリのガイド本としておすすめできる。とにかく、仁賀氏の作品への愛着が行間から伝わってきて、“読みたい”という気にさせてくれるのだ。

探偵ごとに索引を作る、という趣向もとても面白い。仁賀氏はこれをシリーズで出していて、ほかに『現代海外ミステリ・ベスト100』、『海外ミステリ・ジャンルベスト100』などもあるらしい。残念ながらわたしは持っていない。買いそびれてうかうかしているうちに、ご存知のように現代教養文庫を発刊していた社会思想社が廃業してしまったのだ。けれど、2002年の事業停止からまだそれほど経っていないので、古本屋を当たれば見つかりそうな気がする。

まだお持ちでない方は、この本を含め、このシリーズを見つけたらぜひお手にとっていただきたい。