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折々の記 2016 ⑧
【心に浮かぶよしなしごと】

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特別編集 田中宇の国際ニュース解説
世界はどう動いているか

【 03 】
2017/1月~6月


 01 08 (日) 国際ニュース解説         一月から六月まで

今までいろいろと報道データを見てきたが、田中宇の国際ニュース解説は世界のマクロニュースをつかんでいくのに一番安心を置いていいと思う。

それゆえ、一か所にデータを集中することとした。 このサイトは自動継続としてあるのでいつでも「お気に入り」サイトから「ニュース」続いて「田中宇の国際ニュース解説」をクリックし、読みたいタイトルの年月日を探して接続すれば、細かい解説が読めます。

或いはまた、このサイトの中で各解説概要の終りに「折々の記」とあるものは、それをクリックすると詳細解説が載せられています。

この「折々の記」へはデータの所在と主要記事を含めた感想が載せたりしてあります。

田中宇の国際ニュース解説


6月

◆イランを共通の敵としてアラブとイスラエルを和解させる
 【2017年6月28日】 トランプの中東戦略は2段階になっている。1段階目は、イランを敵視するかたちでサウジアラビア中心のアラブ諸国と、イスラエルを結束させ、この結束を実現するために不可欠な中東和平(パレスチナ国家の蘇生)を実現することだ。2段階目は、中東和平が実現し、アラブやイスラム諸国とイスラエルとの敵対構造を消した後、イラン陣営とサウジ・イスラエル陣営が対立を解いて和解していくよう仕向ける。イラン陣営に対するトランプの敵視策は露骨な濡れ衣策で、稚拙で脆弱な構造を持つので、いずれ崩壊する。サウジ・イスラエル陣営は、イランと和解せざるを得なくなる。

◆サウジの新事態はトランプの中東和平策
 【2017年6月25日】 サウジアラビアの皇太子に昇格した若く乱暴で無鉄砲な改革者ムハンマド・サルマンは、サウジの全権を握っている。彼は今後、トランプに引っ張られ、新たな方向に進んでいく可能性がある。トランプは、サウジとイスラエルを、両国が共有している「イラン敵視」の面を使って結束・和解させようとしている。もしアラブの盟主であるサウジが公式にイスラエル敵視をやめて和解するなら、アラブ全体の敵視解消につながり、イスラエルにとって大きな安全保障となる。パレスチナ国家の蘇生容認が、十分に大きな見返りを得られるものになる。

揺れる米欧同盟とロシア敵視
 【2017年6月18日】 欧州諸国が、自国の安全を米国に守ってもらうのでなく、EU軍事統合によって自立的な安保戦略を持つようになると、隣人であるロシアとの関係は、不当に敵視するのでなく、現実を踏まえて協調した方が良いものになる。いずれ、分水嶺的な時期がくる。それを越えると、EUはポロシェンコに対し、ドンバスやクリミアを再獲得するのは無理だから分離を黙認し、現実的な対露関係を築けと要請するようになる。この姿勢は、今回のトランプのウクライナ仲裁の姿勢と同じだ。プーチンの希望とも合致する。いずれトランプは、ウクライナ仲裁に関してEUの協力が得られるようになる。

◆EU統合の再加速、英国の離脱戦略の大敗
 【2017年6月16日】 マクロン圧勝と、ルペンのユーロ離脱策の放棄により、フランスは、EU・ユーロ・独仏同盟に対し、離脱する方向から、再強化する方向に大転換した。EUとユーロは、縮小再均衡によって再強化する道をたどり始めた。独仏の同盟状態が壊れない限り、EUは壊れない。英国は、いまさらEUに戻っても小国扱いされるので無意味だし、単一市場なと経済面だけEUに残る策も対価が高すぎる。英国のEU離脱は、すでに逆戻りできない形で大失敗している。

◆トランプの相場テコ入れ策
 【2017年6月11日】 著名な投資家たちが最近、巨大な金融危機が近いという警告を相次いで発している。これらの警告を見ると、数週間内に大暴落が起きても不思議でない。とてつもないバブル状態だ。だが、トランプの相場テコ入れ策が生きてくると、意外にこのバブル状態が崩壊せず保持されていくのでないかとも思える。非常に高リスクな状態であるのは確かだ。バブルは保持されるほど拡大し、その後の最終的な金融崩壊がひどいものになる。

カタールを制裁する馬鹿なサウジ
 【2017年6月9日】 サウジアラビアは今回、イランの国際影響力を削ぐために、自国傘下のGCCにおいてイランと比較的親密だったカタールを制裁し、親イランな姿勢をやめさせようとした。だがその結果、カタールはむしろサウジの傘下から出てイランの傘下に入っていこうとしている。イランの影響力を削ぎ、サウジの影響力を拡大するための策略が、逆に、イランの影響力を拡大し、サウジの影響力を削ぐ結果となる。

◆米金融覇権の粉飾と限界
 【2017年6月8日】 米国など先進諸国の株価や債券価格は、日本とEUの中央銀行が続けているQE策によって吊り上げられている。米国の雇用が拡大して景気が良いから株が上がると報じられているが、雇用統計の改善は当局の捏造だ。景気が回復しているのだから株価の上昇は当然で、だから投資家は先行きを懸念しておらずVIXは史上最低まで下がったとも喧伝されているが、VIX指標も不自然に引き下げられている。歪曲体制が何年も続いている。ウソもつき通せば信用される、みたいな感じで、人々の多くが、本当に景気が回復しているのだと勘違いしている。

◆米国消費バブルの崩壊
 【2017年6月4日】 米国の大多数の人々は、報じられる好景気と対照的に所得が減って生活が落ち込み、中産階級のための店で買い物をする人が減り、代わりに貧困層向けの安売り店舗に行くようになっている。米経済の7割は消費であり、消費の大部分は従来、中産階級による購入だった。中産階級が貧困層に転落し、小売店の未曾有の閉店や倒産が起きている。閉店や倒産の増加は、失業を増やし、人々の所得が減り、消費が減退し、さらなる閉店や倒産につながる。この事態は、米国の経済覇権国としての機能を消失させている。

仕組まれた欧州難民危機
 【2017年6月1日】 違法移民の流入扇動策には、経済だけでなく、政治や軍事の面もある。米欧の為政者たちは以前から、リベラルな政治信条(人権重視、民主主義重視)と、覇権的な世界支配を組み合わせた「人権外交」策を展開してきた。この人権外交策を発展させ(国内に展開す)ると、米国が911以来やってきた「テロ戦争」の戦略になる。自分たちの国内に、人道上の理由や、財界からの圧力という口実をつけて、難民を自称する違法移民やテロ集団をどんどん受け入れ、その結果、911やその他のテロ事件が頻発すると、国内の治安強化や、軍産複合体による隠然独裁を強化できる。

5月

◆中国の意図的なバブル崩壊
 【2017年5月31日】 中国で起きているバブル崩壊は、中国政府の政策として行われている。政府が積極的にバブルを潰そうとしている結果として、バブルが崩壊している。政府が金融を救済しようとしているのにバブルが崩壊している事態なら非常に危険だが、政府がバブルを潰そうと動いた結果、バブルが潰れているなら、意図した政策の具現化にすぎず、大して危険でない。むしろ金融システムの近代化や健全化にあたる。

◆トランプ外交の特異性
 【2017年5月29日】 G7に象徴されるリベラル主義の国際政界や、NATOに象徴される軍産支配体制(両者は同じもの)と、トランプとの対立は、今後もずっと続く。今回の外遊で見えたトランプの外交戦略の特異性は、このリベラル国際政界や軍産との徹底対決・果し合いにある。

よみがえる中東和平<3>
 【2017年5月24日】 昨年の米大統領選挙で、米国の有権者たちの「米国第一主義」への政治覚醒を扇動し、自らを大統領職に押し上げたトランプが、今度はイスラエルの有権者の「中東和平」への政治覚醒を扇動するために中東を歴訪し、それに対して早速ハアレツに象徴されるイスラエルの中道・左派の勢力が呼応して、トランプ支持、西岸併合主義反対の動きを開始している。トランプは、中東和平をあきらめてしまっていた人々に活を入れるためにイスラエルに来た。

◆よみがえる中東和平<2>
 【2017年5月22日】 米国のトランプ大統領は、初の外遊としてサウジアラビアの訪問を終え、次の目的地であるイスラエルに向かっている。この記事の配信が終わるころにはテルアビブの空港に着く。私は、5月22-23日のイスラエル訪問中に、トランプが、イスラエルのネタニヤフ首相と、パレスチナのアッバス大統領の8年ぶりの会合を仲裁し、中東和平交渉を再開する可能性があると考えている。

◆潰されそうで潰れないトランプ
 【2017年5月18日】 米国の金融界や財界は、トランプの続投を望んでいる。その理由は、トランプが、米国内産業の保護や、金融やエネルギーの大胆な規制緩和、気前の良い法人減税などを進め、財界や金融界が喜ぶ政策を続けているからだ。米国(や世界)の株価が最高値を更新し続けている一因は、このトランプ効果にある。トランプは、財界や金融界に対する気前の良い(腐敗的、近視眼的な)政策を「贈賄」として使い、経済界がトランプを支持してトランプ敵視の軍産に対抗するよう仕向けている。だからトランプはしぶとい。

◆混乱と転換が激しくなる世界<2>
 【2017年5月15日】・・・今回の3つのテーマ(欧州政治、北朝鮮、米国の財政)に共通しているのは、既存の世界体制(米国覇権、軍産エスタブ支配)と、新たに立ち上がってきた世界体制(多極化、ポピュリズム的ナショナリズム)との間のせめぎ合いだ。このほか、最近書いた、露イラン主導のシリア内戦の終結への流れ、トランプがアラブやロシアと組んで進め出したパレスチナ問題、ロシアによるウクライナ東部の事実上の併合によるウクライナ内戦の解決、日本が米国抜きのTPP11を推進している話なども、新たな世界体制の立ち上がりを意味する動きになっている。

よみがえる中東和平
 【2017年5月13日】 アラブ諸国は、イランとの和解を先送りすることで、イスラエルに対し、パレスチナ国家への妨害をやめてアラブと和解し、アラブ・イスラエル連合でイランの台頭に対抗する新体制を作ろうと提案した。この提案は期限つきだ。イスラエルが5月末の訪問でトランプが発する提案に乗って中東和平への道を再び歩み出さない場合、アラブ諸国はイスラエルとの関係改善をあきらめ、おそらく年内に、アサドをアラブサミットに再招待し、イランとの和解を開始する。アラブ諸国とトランプは、イスラエルに対し、それでも良いのか、これが最後のチャンスだぞと言っている。

◆露イランのシリア安全地帯策
 【2017年5月8日】 5月6日、ロシアが主導し、イランとトルコも誘って策定した、シリアの安全地帯策が発効した。シリアの内戦が下火になり、終結に向かっているため、停戦状態を維持する監視団をロシアとイランとトルコで結成する。内戦が再発しかねないシリア国内の4つの地域を安全地帯として設定し、監視団が現場の事態を監視する。米国が敵視する露イランが手がける策なので、米欧日のマスコミは、この安全地帯策を愚策と批判する傾向が強いが、それらは偏向報道だ。今回の安全地帯は、シリア内戦終結への大きな一歩になる。

◆北朝鮮問題の解決に本腰を入れる韓国
 【2017年5月1日】 以前の太陽政策の際には、韓国と北との経済関係と、中国と北との経済関係が、別々に存在していた。だから北は、中国との経済関係をあてにして、韓国との関係をないがしろにして好戦姿勢をとっていた。だが、今は状況が違う。中国と韓国は、対北政策で強く連携している。北が韓国を怒らせたら、同時に中国やロシアや米国も、連携して怒り、北に「韓国の言うことを聞け」と言うようになる。

4月

◆ウクライナ東部を事実上併合するロシア
 【2017年4月26日】 ロシアのラブロフ外相は、ロシアが東部2州の後ろ盾となり、EUがウクライナ政府の後ろ盾となって、双方にミンスク合意に基づく停戦を守らせ、内戦を終わらせていくのが良いと、EUのモゲリニ外相との会談で提案した。欧露会談の翌日、ウクライナが送電を停止して東部との経済関係を完全に断絶し、東部2州を分離してロシアに与える過程が完成した。ウクライナの事実上の二分割が確定し、ロシアが東部自治政府の面倒を見て、EUがキエフのウクライナ政府の面倒を見る新体制が始まったと考えられる。

日豪亜同盟としてのTPP11:対米従属より対中競争の安倍政権
 【2017年4月24日】 対米従属なはずの安倍政権が、それまで拒否していた米国抜きのTPP11を急に推進し始めたのは、トランプが最近の北朝鮮核問題を契機として中国に寛容な態度をとり始め、中国がアジアの覇権国として、中国主導の東アジア貿易圏であるRCEPを急いで結成しようとしていることに対し、日本が豪州などと組んで対抗する必要があるからだろう。

◆混乱と転換が激しくなる世界
 【2017年4月22日】 4月23-29日には、世界的に3つの大事件が起こるかもしれない。一つは4月23日、フランス大統領選挙の一回目の投票。2つ目は、北朝鮮が4月25日に核実験するかもしれないこと。3つ目は、4月28日までに米国政府の暫定予算が連邦議会を通過できない場合、29日から米政府の一部が閉鎖されることだ。3つの問題はいずれも、米国の覇権失墜と多極化を加速する。

◆トランプの東アジア新秩序と日本
 【2017年4月18日】 北核問題を好機としてトランプが作った米中協調体制は、アジアの多極化を加速する。日本や豪州が何もしなければ、中国は「日豪亜同盟」の予定海域をすべて影響圏として併呑し、米国圏と中国圏が隣接する世界構造にする。その場合、日本や豪州は国際的に窒息させられ、影響力が低下し、今よりもっと台頭する中国に、好き勝手にしてやられる。対米従属一本槍は、日本や豪州にとって、自滅的、売国奴的な戦略になっている。中国と敵対するのでなく、こちら側も海洋アジア諸国で結束したうえで、中国と仲良くするのがよい。

◇トランプの見事な米中協調の北朝鮮抑止策
 【2017年4月16日】 今回初めて米国は、中国を誘い、米中協調で北に最大の圧力をかけ、北に言うことを聞かせる策をとった。4月6の米中首脳会談の意味は、トランプがその策を一緒にやろうと習近平を説得することだった。習近平はトランプの誘いに乗り、米中が協調して北に圧力をかける初の作戦が展開され、その結果、北は4月15日の核実験を見送った。

◇新刊本 「トランプ革命の始動 覇権の再編」花伝社刊。税込1512円。

◆中国に北朝鮮核を抑止させるトランプの好戦策
 【2017年4月14日】 トランプは北朝鮮に対し、非現実的に好戦的な態度をとっている。それは、中国に北を抑止させるためだ。トランプは習近平に対し、北核問題の解決策として馬鹿げた軍事的な好戦策しか示さず、その好戦策が北の核開発に拍車をかけている。習近平は、米国に頼れず、中国主導で北を威圧・制裁・説得して核開発をやめさせるしかない。

◆ミサイル発射は軍産に見せるトランプの演技かも
 【2017年4月11日】 財政面の難題を解くには、議会にトランプ敵視を和らげてもらう必要がある。共和党内の茶会派が反対し続けても、ミサイル発射により、民主党の好戦派がトランプに少し協力してれば、トランプの経済政策が議会で通りやすくなる。それをやるために、トランプ政権は、内部抗争で軍産が勝ってバノンがNSCから外され、ミサイルを発射して露アサド敵視の好戦策を開始したかのような演技をしたのでないか。バノンは、今後もトランプの側近から外れない可能性が高まっている。バノンのポピュリズムは、トランプの2020年の再選に不可欠だ。

◇軍産複合体と正攻法で戦うのをやめたトランプのシリア攻撃
 【2017年4月8日】 トランプは、軍産の傀儡になってみせて、シリアを濡れ衣ミサイル攻撃したが、その結果見えてきたのは、ロシアと戦争できない以上、シリアをますます露イランアサドに任せるしかないという現実だった。アサドを武力で倒すと激怒して息巻くトランプに対し、軍人や諜報界の人々は、ロシアと戦争することになるのでダメだと言い出している。トランプが軍産傀儡っぽく戦争したがるほど、軍産の人々は戦争したがらなくなる。

◆米連銀の健全化計画にひそむ危険性
 【2017年4月6日】 バーナンキの過ちを、イエレンが目立たないように修正しようとして、QEの日欧への押し付け、ゼロ金利是正としての利上げ、連銀の保有債券を放出する資産健全化が試みられている。だが、債券金融システムは活性化に向かっていない。逆に、危機が増している。そんな時に米連銀は、債券システムの活気が戻ったことを前提とした債券の放出を進めて大丈夫なのか。連銀は、債券の放出をやらざるを得ない。だが、そこには大きな危険がある。

3月

◇台湾に接近し日豪亜同盟を指向する日本
 【2017年3月29日】 日本は、台湾の防衛力を強化し、民進党が希求する台湾独立をそっと認めるような交流協会の名称変更を行い、日豪亜の経済関係強化の中に台湾を入れようとしている。これらの動きによって、日本が、台湾の隠然とした後ろ盾になれば、中国が今後さらに国際台頭しても、台湾が中国からかなり自立している現状を維持できる。

◆内戦後のシリアを策定するロシア
 【2017年3月24日】 従来のスンニ派懐柔策を放棄し、逆に厳しい「スンニ外し」「シャリア排除」を目指しているのが、ロシアの憲法草案やクルド支持から類推できる、米露が内戦後のシリアのために用意している政治体制だ。テロ戦争の構図を根絶するには、このような非民主的なやり方をとらざるを得ないと考えたのだろう。トルコが求める、クルドとアサドの影響圏の間のユーフラテス流域の従来のISカイダ地域に、ISカイダを排除した後に「穏健なスンニ派アラブ(実はISカイダの焼き直し)」の地域を挟み込むのは、プーチンやトランプが望まないことだった。

◇金融界がトランプ政権を乗っ取り米国をTPPに戻す??
 【2017年3月21日】 トランプ政権内で、貿易戦略のあり方をめぐって内紛が起きている。TPPやNAFTAから離脱し、WTOも無視して米国一国の利益を増大させたい経済ナショナリストの勢力と、ナショナリストを潰して米国をTPPなど自由貿易重視の以前の姿に戻そうとするゴールドマンサックス出身のグローバリストの勢力が、激しく対立している。グローバリストが勝つと、米国がTPPに戻る可能性が増す。

◆欧州の自立と分裂
 【2017年3月16日】 EUの上層部(既存エリート層)としては、極右や極左に選挙でEU各国の権力を奪われてEUがいったん解体・リセットされてしまう前に、今の混乱のどさくさに紛れて、軍事統合や2段階統合体制への転換を急ぎ、EUを強化し、対米自立もさせていきたい。もしかすると対露和解もやりたいかもしれない。それらがEU各国の選挙での政権転覆より先に行えるのかどうかあやしいが、EUが解体と再編、自立と分裂の間で激しく動いていることは確かだ。

◆核ミサイルで米国を狙う北朝鮮をテコに政治するトランプ
 【2017年3月14日】 米国の迎撃ミサイルは当たらない。だから軍産複合体はトランプに北と交渉させ、核問題を軍事でなく政治で解決したい。トランプはそれを承知の上で、政治交渉につながる非公式交渉をドタキャンし、さらには軍産が顔をしかめるような、昔の過激な対北好戦策をあえて次々と引っ張り出して今にもやりそうな感じで喧伝リークしている。軍産が「頼むから好戦策を引っ込めて、北と交渉してくれ」と言ってきたら、トランプは交渉に持ち込み、対露和解などにつなげるつもりだろう。韓国の大統領交代も、この線で見るとタイムリーだ。

◇不透明な表層下で進む中東の安定化<2>
 【2017年3月12日】 イランは、いずれサウジアラビアなどGCCと和解するだろう。だがその前に、サウジが弱体化し、米国が中東での影響力を低下させ、ロシアも強硬策をやりたがらない中で、イランは、中東での影響力を全力で拡大したい。イエメン内戦をシーア派の勝利で終わらせたいし、バーレーンの「民主化」も完遂したい。サウジ東部のシーア派住民にも、最大限の自治権を取らせてやりたい。サウジとイランの和解話は、イランの覇権拡大欲によって先延ばしにされている。

◆トランプ政権の本質
 【2017年3月7日】 トランプは、軍産と戦うことを宣言しつつ選挙戦を勝ち抜いて大統領になり、就任後も明示的に軍産と戦い続けている、異色の存在だ。トランプは、民主主義にのっとって大統領になり、民意を無視して米国と世界を牛耳る軍産との果し合いを(たぶん命をかけて)始めている。トランプを酷評するマスコミが軍産のプロパガンダ機関であることに気づけば、トランプが大統領になったことが、米国の民主主義の底力を示す素晴らしいストーリーであることが見えてくる。トランプは大統領になり、米国の「表の権力」を握った。だが、米国の「裏の権力」は、まだ軍産に握られたままだ。トランプの大統領就任後、表と裏の激しい権力闘争が始まっている。

◆軍産に勝てないが粘り腰のトランプ
 【2017年3月2日】 独特なやり方と言い回しで民意の支持拡大に努める共和党のトランプと対照的に、米民主党は、ロシアが不正介入したので米大統領選に負けたんだという、軍産謹製のロシア敵視の濡れ衣戦略に便乗してしまい、トランプ陣営はロシアのスパイだと無根拠に叫ぶばかりで、なぜ自分たちが民意の十分な支持を得られなかったかを考察反省せず、今後の選挙に備えていない。トランプは、米連銀を巻き込んでバブルを維持して金融危機再発を先延ばししつつ、WTOを無視して国内の雇用拡大にいそしみ、共和党を垂らし込んで弾劾を防ぎ、身辺警備を徹底して暗殺を防げば、民主党を再度破って再選し、軍産支配を潰す暗闘を続けられる。

2月

◆不透明な表層下で進む中東の安定化
 【2017年2月27日】 中東では、米国が具体策を出さない不透明感の下で、各国が、米国抜きの新秩序を作る動きを進めている。イラクの空軍は、アサド政権やロシアと連絡を取り、初めてシリア国内のIS拠点を越境空爆した。米軍傀儡のはずのイラク軍が、米軍の敵である露アサドイランの連合体に入っている。シリアをめぐっては、米国が敵視してきたアサド政権が安定に不可欠という見方が国際社会で広がっている。各所に目くらましが入りつつ、目立たないかたちで中東の非米化が進んでいる。

◆中国の協力で北朝鮮との交渉に入るトランプ
 【2017年2月23日】 北朝鮮は、米中との交渉への準備として、軍事力誇示のミサイル試射や1月末の原子炉再稼働、中国による政権転覆を抑止するための金正男殺害を挙行した。トランプの対北戦略は、オバマ時代の昨年初めに発表された「ペリー案」に沿っている。核兵器を完全廃棄させるのは無理なので、核を輸出しない、これ以上作らない、実験しないといった「3つのノー」を北に飲ませる。中国も、北も、この線で基本的に不満はない。米朝対話が始まれば6カ国協議が再開され、それらが全部成功すると、朝鮮戦争の正式終戦、在韓米軍の撤退まで進む。だが、軍産の妨害が予測される。

◇崩壊に向かうEU
 【2017年2月21日】 今回の欧米全体でのナショナリズムの勃興は、米国でトランプ革命を引き起こしており、トランプは米国覇権の放棄による多極化を進めている。EUのナショナリズム超越による国家統合が成功していたら、アフリカや中南米でもEU型の国家統合が進み、それによって世界の多極化が進展する可能性があった。だが、このシナリオは、トランプが進めるナショナリズムによる、逆方向からの多極化によって打ち負かされている。EUのシナリオでなく、トランプのシナリオに沿って多極化が進んでいる。この流れの中で「古いバージョン

◆フリン辞任めぐるトランプの深謀
 【2017年2月16日】 軍産マスコミと対立し続けてきたトランプは喧嘩に強く、微罪で側近を辞めさせる必要などない。フリン更迭の原動力は、軍産の圧力よりもトランプの意志だ。トランプは、対露和解とイラン核協定破棄という、米エリート層が許容できない2つの姿勢の主導役としてフリンを高位に据えた。そしてトランプは今、フリンの追放と同時に、対露和解とイラン核協定破棄の両方を棚上げする方に動いている。

◆従属先を軍産からトランプに替えた日本
 【2017年2月14日】 「対軍産従属」の日本政府は、トランプ当選までクリントン=軍産複合体だけを応援していた。トランプ当選後、急いで方向転換してすり寄ってきた安倍に、トランプが提案したのは「俺が再選して軍産潰しを続けられるよう、経済で協力しろ、そうすれば対米従属を続けさせてやる」ということだ。安倍は、この提案を了承した。今後、米国の対日貿易赤字を減らすため、円高ドル安が容認される。日銀は、米金融システムを支えるQEを続けつつ、これまでQEの副産物としてあった円安効果を殺していく。日本車の米国内での生産比率の引き上げも求められる。TPPより日本に不利な2国間貿易協定も提案されてくる。日本がこれらを拒否すると、やくざなトランプが再び日本を脅す。

◇米国を孤立させるトランプのイラン敵視策
 【2017年2月11日】 トランプは、オバマがイランと結んだ核協定を破棄し、イランのミサイル試射を機に、イラン制裁を強化すると言っている。だが世界各国は、それについてこない姿勢を強めている。トランプは、当初予定していたロシアとの和解も棚上げし、イランに寛容でイスラエルに厳しい国連など国際社会を批判し、実質的に離脱していく傾向を強める。しだいに、トランプの米国とまっとうにつき合う国が減っていく。トランプは意図的にこれをやろうとしている。

◆米国に愛想をつかせない世界
 【2017年2月7日】 欧州は、リベラル民主主義への政治的なこだわりがあり、トランプからそこをないがしろにされると、対米従属をやめて自立を検討していかざるを得ない。だが日本など東アジア、アラブなど西アジアは、リベラル民主を重要と思っていない。トランプから欧州への嫌がらせは政治分野で行われるが、アジアへの嫌がらせはそこでなく、巨額のカネを出させる経済面で行われる。身代金を払える間は、対米従属できる。払えなくなった国には財政破綻が待っている。

◇ロシアのシリア調停策の裏の裏
 【2017年2月3日】 イランのミサイル試射を機に、イラン敵視を強めるトランプ政権。イラン敵視の主導役をネタニヤフに丸投げして押しつけるトランプ。それらにつきあうロシア。しかしロシアは裏で露軍基地の百年租借をアサドと契約。テヘランでは露イラン外交515周年の友好。ロシアは、アフガン、コーカサス、天然ガスでもイランと談合。露イランは齟齬するが敵対せず。米イスラエルにつきあうロシアの演技、現実主義。

1月

◆トランプの「文化大革命」
 【2017年1月31日】 米国の分析者が「トランプは、文化大革命の時の毛沢東のようだ」「トランプのツイッターは、毛沢東の壁新聞と同じだ。司令部を砲撃せよと書いた壁新聞を貼り出して文化大革命を引き起こした毛沢東は、米政府のエリート支配を潰せと大統領就任演説で呼びかけたトランプと同じだ」と書いている。毛沢東の文化大革命が、中国の伝統文化を破壊したように、トランプの革命には、米国の伝統文化であるリベラルな社会風土を破壊しようとしている。

◆米国を覇権国からふつうの国に戻すトランプ
 【2017年1月28日】 トランプは、第二次大戦以来の世界的な単独覇権国である米国を「ふつうの大国」(西半球の地域覇権国)に戻そうとしている。これは米国を、覇権国になる前の戦前の状態に戻すことでもある。これまでの米国は、覇権国の義務である世界経済の牽引役として、自国の製造業を意図的にないがしろにして、世界から無関税で旺盛に輸入して消費する役目を果たしてきた。トランプは、この役目を放棄し、米国の製造業を蘇生し、輸入や消費をがんばる単独覇権国でなく、製造や輸出で儲ける「ふつうの国」に戻そうとしている。

◇トランプ革命の檄文としての就任演説
 【2017年1月24日】 トランプは大統領就任演説で、エリート層による支配構造をぶちこわせと米国民をけしかけている。トランプは米大統領という、支配層のトップに入り込んだのに、その地位を使って支配層を壊そうとしている。これは革命、クーデターだ。支配層の一員であるマスコミは、就任演説を否定的にとらえ、趣旨をきちんと報じない。リベラル派は反トランプ運動を強めている。トランプ陣営は、意図的に対立構造の出現を誘発している。

折々の記 2017 トランプ氏の波紋【 07 】01/26~ 【 08 】01/27~ 【 09 】01/27~

◆米欧同盟を内側から壊す
 【2017年1月20日】 トランプは、大統領就任が近づいた今週、欧州諸国を相互に分断する方向の発言をさかんに行い、米欧同盟を内側から壊す策を強めている。トランプが独英の新聞に書かせたインタビューで顕著だったのは、ドイツのメルケルに対する酷評と、それと対照的な、英国に対する経済面の厚遇(米英2国間の貿易協定の締結)だ。トランプは、ドイツをライバルに仕立てて対米自立に追い込んで強化してやる一方で、英国を自国の「裏返った同盟国」にしようとしている。

◆まもなく米露が戦争する???
 【2017年1月15日】 トランプ就任前後の米露開戦の可能性について、両極な2つの可能性がある。1)何も起こらない。政権交代後、米露和解が進み、米軍がしずかに東欧から米本土に撤退していく。2)戦争発生。トランプにも統制不能になる。下手をすると核戦争・・・の2つだ。しかし、可能性はこれだけでなく、3つ目がある。

◇トランプの中東和平
 【2017年1月11日】 パレスチナ国家創設の2国式の不能性が広く認知され、パレスチナ人の多くがヨルダンとの合邦でも良いから平和になってほしいと思うようになると、西岸とヨルダンの合邦が具現化する。ヨルダンが、国王を戴くパレスチナ国家になる(建前は暫定として、現実は恒久的に)。パレスチナ人がある程度満足するなら、これがパレスチナ問題の解決になり、イスラム世界がイスラエルと和解するプロセスに入れる。これぐらいしか解決に至りうる方法はない。パレスチナ問題が解決されないと、中東は安定しない。ロシアと協力して合邦を推進しそうなトランプは、中東と世界を安定させうる可能性を持っている。

◆トランプと諜報機関の戦い
 【2017年1月8日】オバマは下野した後もトランプ敵視の主導役を引き受けることで、軍産(諜報マスコミ)を自分のまわりに引きつけ、軍産が下手くそな戦い方をするよう仕向け、トランプと軍産の今後の戦いで軍産が負け、トランプが勝つよう「表向き敵視の隠れ後方支援」をやろうとしている。この手の後方支援がない場合、トランプが諜報機関を解体した後、失業させられトランプを敵視する諜報界の残党が、米政府内に残っている残党と結託し、トランプの警備情報を入手して弱点を探り、トランプを暗殺しかねない。

ラジオデイズ・田中宇「ニュースの裏側」・・・トランプ外交と世界の動き