故 郷(ふるさと)---文部省唱歌
作詞:高野辰之 作曲:岡野貞一
(大正3年6月)
昨年11月、私は久しぶりに岐阜を訪れた。小学校の後半から中学時代にかけて住み育った
岐阜は、そしてそこで両親が生まれ没した岐阜は、私にとって大事な故郷である。
かつて私が住んでいた家の跡を訪ねたが、すでに住む人もなく、廃屋が残っているだけであっ
た。小学校へ脚を伸ばした。元気な小学生の歓声が聞こえたが、木造の校舎は鉄筋校舎に替
わっていた。さらに脚を伸ばして、戦争ごっこで駆けまわった加納城跡を訪ねたが、頭を覆うば
かりに繁っていた笹藪はなく、こぢんまりとした運動公園に変わっていた。
兎追いしかの山、
小鮒釣りしかの川、
夢は今もめぐりて、
忘れがたき故郷(ふるさと)。
小学校時代に仲のよかった友達を訪ねたが、半年前に亡くなったとのこと。思わず声を失った。
ただ、その後に開催された中学の同窓会に出席して、五十年ぶりに二十数人の同級生に会え
た。かつての紅顔の美少年はすでに白髪の老人であり、顔を見定めるのに時間がかかった。
いかにいます父母、
恙(つつが)なきや友がき、
雨に風につけても、
思いいづる故郷。
訪ねる故郷のある人、訪ねる父母や友人のある人、是非故郷に帰ろう。歳月は人を待たない。
両親を失い、昔を語るべき友が一人・二人と減った今、私はなぜもっとしばしば故郷に帰らなかっ
たかと、悔やまれてならない。
こころざしをはたして、
いつの日にか帰らん、
山は青き故郷。
水は清き故郷。
日常の仕事に追われ、志を果たしたとの満足感もなく、時はむなしく流れる。
しかし、青い山、清い川を故郷に持つ人は故郷に帰ろう。故郷は君を待っている。
早く帰らないと故郷は君を待ってくれないかもしれない。
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